説明

固体電解質型燃料電池セル

【課題】Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有するペロブスカイト型酸化物を空気極に用いた場合の反応劣化の問題を解決し、さらに熱膨張係数をある程度低減することで、SOFC用空気極の低温特性を向上させる。
【解決手段】燃料極と、固体電解質と、希土類添加セリアからなる中間層と、空気極とがこの順に積層されてなる固体電解質型燃料電池セルであって、前記空気極が、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有し、さらにBサイトにのみ2価の元素を有するペロブスカイト型酸化物(ABO3)を含有する固体電解質型燃料電池セルとし、その複数をインターコネクタにより電気的に接続する。中間層を設ける代わりに、希土類添加セリアと前記ペロブスカイト型酸化物とを含有する活性層と、前記活性層上に形成された集電層とを有する空気極を用いてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOFC(Solide Oxide Fuel Cell;固体酸化物燃料電池)に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、酸素イオン伝導体を用いたSOFCに関心が高まりつつある。特にエネルギーの有効利用という観点から、固体燃料電池はカルノー効率の制約を受けないため本質的に高いエネルギー変換効率を有し、さらに良好な環境保全が期待されるなどの優れた特長を持っている(非特許文献1参照)。
【0003】
このSOFC(固体電解質型燃料電池とも言う)は、当初、動作温度が900℃〜1000℃と高く、全ての部材がセラミックで構成されていた。そのため、セルスタックの製造コストの低減が難しかった。ここで、動作温度を800℃以下まで低減することができれば、インターコネクタに耐熱合金材料を用いることが可能となり、製造コストの低減が可能となる。しかしながら、動作温度の低減に伴い空気極における電気化学的な抵抗、即ち過電圧が、急激に増大し出力電圧の低下を招いてしまう。
【0004】
SOFCの空気極に使用されているペロブスカイト系酸化物は、ABO3の組成をとり、Aサイトはランタノイド系の金属元素、Bサイトは、Aサイトに比べイオン半径が小さい希土類金属元素が入る。La0.8Sr0.2Fe0.8Co0.23など鉄とコバルトをBサイトに含むペロブスカイト酸化物は、高い電極活性のために低温動作用空気極に適していることが知られている(非特許文献2参照)。しかし、鉄とコバルトをBサイトに含むペロブスカイト酸化物は、ジルコニア系固体電解質との反応劣化を起こし易く、空気極の焼成時にLa2Zr27や、SrZrO3などの不導体層をジルコニア系固体電解質との界面に形成する。そのため、希土類添加セリアの中間層を設けたり、希土類添加セリアとの混合体とした活性層を電解質に隣接して設けたりすることで、上記の不導体層の生成を抑制している。しかし、長期の運転を行うと、Aサイトに添加されているSrが徐々にセリアと反応して、SrCeO3を生成し、空気極特性の低下を引き起こす。ところが、AサイトにSrを添加しない場合には、電気伝導度が著しく低く、電極特性は低くなってしまう。
【0005】
ところで、La0.8Sr0.2CoO3などコバルトをBサイトに含むペロブスカイト酸化物は、鉄−コバルト系よりも活性が高いが、上記の材料よりも熱膨張係数が著しく高いため、ジルコニア系固体電解質との膨張差が大きく、空気極の剥離を生じやすい。そして、Srなどの添加をしない場合、電気伝導度はさほど低下しないが、熱膨張係数がさらに増加する。このため、信頼性がさらに低い。
【非特許文献1】N.Q.Minh,J.Am.Ceram.Soc.,76,563(1993)
【非特許文献2】田川博明、「固体酸化物燃料電池と地球環境」、アグネ承風社、1998年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有するペロブスカイト型酸化物を空気極に用いた場合の反応劣化の問題を解決し、さらに熱膨張係数をある程度低減することで、SOFC用空気極の低温特性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、燃料極と、固体電解質と、希土類添加セリアからなる中間層と、空気極とがこの順に積層されてなる固体電解質型燃料電池セルであって、
前記空気極が、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有し、さらにBサイトにのみ2価の金属元素を有するペロブスカイト型酸化物(ABO3)を含有することを特徴とする固体電解質型燃料電池セルである。
【0008】
また本発明は、燃料極と、固体電解質と、空気極とがこの順に積層されてなる固体電解質型燃料電池セルであって、
前記空気極が、希土類添加セリアとペロブスカイト型酸化物(ABO3)とを10wt%:90wt%〜60wt%:40wt%の割合で含有する活性層と、前記活性層上に形成された集電層とを有し、
前記活性層が前記集電層と前記固体電解質との間に配置されており、
前記ペロブスカイト型酸化物が、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有し、さらにBサイトにのみ2価の金属元素を有することを特徴とする固体電解質型燃料電池セルである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有するペロブスカイト型酸化物を空気極に用いた場合の反応劣化の問題を解決し、さらに熱膨張係数をある程度低減できるため、SOFC用空気極の低温特性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有するペロブスカイト型酸化物を用いた空気極において、ランタノイド系元素の一例であるLaは3価の状態をとるため、セリアなどに固溶はするものの特定の化合物を作ることはなく、またLaのセリアへの拡散は非常に遅い。これに対し、電気伝導度の観点からAサイトに添加されているSrは2価の状態をとり、4価のセリアと反応してペロブスカイト系酸化物であるSrCeO3を生成する。そして、この反応によりAサイトが欠損しBサイトが過剰になるため、Bサイトの遷移金属がセリアへ拡散し、さらにSrがセリアと反応しやすくなる。以上の反応は、運転温度である800℃において進行する。
【0011】
そこで、本発明では、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有し、さらにBサイトにのみ2価の金属元素を有するペロブスカイト型酸化物(ABO3)により空気極を形成する。AサイトにSrを添加する代わりにBサイトに2価の金属元素を添加することで、電気伝導度の観点から同様の効果が期待できる。また、これらの金属元素はセリアへある程度拡散していくが、特定の化合物を作ることはない。さらに、Bサイトの濃度が減少してもABO3のAサイトには変化がないので、Bサイトが過剰になることはない。したがって、Bサイトの元素が減少する反応は起きにくくなり、セリアとBサイト元素との反応の進行は妨げられる。以上のことから、セリアとBサイトの遷移金属との反応はほとんど進行しない。
【0012】
Aサイトのランタノイド系元素としては、通常はLaを用いる。Bサイトは、主としてコバルト元素、または鉄元素およびコバルト元素を用いる。そして、Bサイトに添加される2価の金属元素としては、イオン半径の小さい金属元素が好ましく、例えば、Ni、Cu、Mgが好適である。
【0013】
このようなペロブスカイト型酸化物としては、BサイトにNiを添加したLaFe1-Y-XCoYNiX3(0.05≦X≦0.22、0.10≦Y≦0.30)で表される鉄−コバルト−ニッケル系ペロブスカイト型酸化物、BサイトにCuを添加したLaFe1-Y-XCoYCuX3(0.05≦X≦0.20、0.15≦Y≦0.30)で表される鉄−コバルト−銅系ペロブスカイト型酸化物、BサイトにMgを添加したLaFe1-Y-XCoYMgX3(0.05≦X≦0.10、0.15≦Y≦0.30)で表される鉄−コバルト−マグネシウム系ペロブスカイト型酸化物、LaCo1-xNiX3(0.05≦X≦0.25)で表されるニッケル−コバルト系ペロブスカイト型酸化物が挙げられる。
【0014】
空気極は、上記ペロブスカイト型酸化物のみを用いて形成してもよいが、上記ペロブスカイト型酸化物とCe0.9Gd0.12(GDC)のような希土類添加セリアとの混合体で形成してもよい。固体電解質材料の一つでもある希土類添加セリアは上記ペロブスカイト型酸化物と反応しにくいことが知られており、焼成時に高温に曝されても不都合な生成物が形成されない。これは、Laがセリア中に拡散しても不導体となる化合物を形成しないためである。そこで、熱膨張係数が1.2×10-5(1/K)とあまり大きくない希土類添加セリアを上記ペロブスカイト型酸化物と混合することで、その混合量に応じて混合層の熱膨張係数を低減できる。混合量と熱膨張係数差はほぼ直線的な関係を示し、また両酸化物の比重はほぼ7g/cm3と等しいので、混合量を50wt%とした場合、熱膨張係数は希土類添加セリアと上記ペロブスカイト型酸化物との中間の値となる。希土類添加セリアと固体電解質との密着性は良好であるため、この混合層とすることで固体電解質との密着性も向上し、熱サイクルによる剥がれの抑制効果が期待できる。
【0015】
希土類添加セリアの混合量は、多い方が熱膨張係数の観点からは有利である。ただし、電気伝導性の観点から、希土類添加セリアの混合量は60wt%以下が好ましい。60wt%を超えると、上記ペロブスカイト型酸化物が希土類添加セリアに分断され孤立し、電気伝導度が低下する傾向がみられる。電気伝導性と熱膨張係数との兼ね合いから、希土類添加セリアと上記ペロブスカイト型酸化物との混合割合は、10wt%:90wt%〜60wt%:40wt%が好ましく、30wt%:70wt%〜50wt%:50wt%がより好ましい。
【0016】
このとき、空気極は、希土類添加セリアと上記ペロブスカイト型酸化物とを所望の割合で含有する活性層と、その活性層上に形成された集電層とを有することが好ましい。すなわち、上記ペロブスカイト型酸化物を含む層を活性層として固体電解質に近い部分にのみ配置し、その上に熱膨張係数が固体電解質と大きく異ならない集電層を設けることで、熱膨張係数の不一致から生じる応力を最小限に抑え、集電に伴うオーミック損を抑制することが可能である。
【0017】
したがって、活性層の厚さは薄い方が好ましく、例えば1〜15μmとすることが好ましい。活性層を形成する材料の粒径が通常0.5〜1.5μmであるため、活性層の厚さの下限は通常1μm程度となる。また、スクリーンプリント法などで塗布できる厚さも通常1μm以上である。活性層の厚さが、15μmを超えるとTECの差によって生じる応力により、固体電解質との界面における剥離が生じやすくなる。活性層の厚さは、1〜10μmがより好ましく、2〜5μmがさらに好ましい。
【0018】
集電層は、熱膨張係数が固体電解質と大きく異ならない材料で形成することが好ましい。固体電解質としてはジルコニア系固体電解質が好適に使用されることから、集電層の熱膨張係数は1.0〜1.3×10-5(1/K)であることが好ましい。例えば、LNF、(LaSr)MnO3(LSM)で集電層を形成することで、上記条件を満たすことができる。活性層に含まれる上記ペロブスカイト型酸化物で形成することもできる。集電層の厚さは、20〜100μmとすることが好ましく、30〜80μmがより好ましい。
【0019】
なお、ここで言う熱膨張係数とは、温度1Kの上昇により物体の体積が膨張する割合を言い、例えばディラトメータ(リガク電機製)により測定できる。
【0020】
以上のような構成の空気極は、固体電解質燃料電池セルにおいて、燃料極、固体電解質、中間層、空気極の順に積層される。すなわち、Bサイトに2価の金属元素を添加すると、ペロブスカイト系酸化物の安定性は低下する傾向にあり、ジルコニア系固体電解質と直接接触した場合、焼成時にLa2Zr27などの不導体層を形成してしまうため、固体電解質と空気極との間に中間層を設ける。中間層は、例えばGDCのような希土類添加セリアで形成することができる。
【0021】
中間層の厚さは1〜20μmが好ましい。中間層が1μm未満の場合、ジルコニア系固体電解質からのジルコニア原子の拡散を完全に防止することは難しい。また、中間層を厚くし過ぎると、オーミック損が大きくなる傾向がある。
【0022】
なお、前述した、上記ペロブスカイト型酸化物と希土類添加セリアとを含有する活性層と集電層とを有する構成の空気極を用いる方法でも、ほぼ同じ効果が期待できる。これは、希土類添加セリアがジルコニア系固体電解質と上記ペロブスカイト型酸化物との間に入り、中間層と同じ働きをするためである。したがって、この場合に中間層は不要であり、燃料極と、固体電解質と、この空気極とがこの順に積層され、前記活性層が前記集電層と前記固体電解質との間に配置される。
【0023】
燃料極および固体電解質は、通常の固体電解質型燃料電池セルで用いられるものを使用できる。固体電解質として、希土類添加ジルコニア系固体電解質またはランタンガレート系固体電解質を用いた固体電解質型燃料電池セルに、上記のような空気極は好適である。
【0024】
そして、この固体電解質型燃料電池セルの複数を、インターコネクタにより電気的に接続することで、固体電解質型燃料電池を構成することができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実験1〜6で作製した燃料電池セルのうち、セル#1−0−1〜#1−0−9、セル#2−0−1〜#2−0−5、セル#3−0−1〜#3−0−4、セル#4−0−1〜#4−0−5、セル#5−0−1〜#5−0−5および、セル#6−0−1〜#6−0−5が本発明の比較例であり、他のセルが本発明の実施例である。用いた粉末の平均粒径は、レーザー回折法または走査型電子顕微鏡により測定した。
【0026】
<実験1>
まず、ドクターブレード法で焼成したSc23、Al23添加ジルコニアSASZ(0.89ZrO2−0.10Sc23−0.01Al23)からなる厚さ0.2mmの固体電解質基板の片面に、NiO−8YSZ(0.92ZrO2−0.08Y23)のスラリ(平均粒径が約0.3μmの8mol%Y23添加ジルコニア粉末が40wt%、平均粒径が約0.8μmのNiO粉末が60wt%)をスクリーンプリント法で塗布し、さらにその上に白金メッシュ集電体を乗せて、1400℃、8時間空気中の条件で焼成することで、燃料極(焼成後の厚さ60μm)を形成した。次に、上記固体電解質基板の裏面に、中間層となる平均粒径0.1μmのCe0.9Gd0.12(GDC)粉末をスクリーンプリント法で塗布した。次に、中間層上に、平均粒径1.0μmのLa1-XSrXFe0.80Co0.203(X=0.05、0.10、0.15、0.20、0.22)(LSFC)粉末のスラリをスクリーンプリント法で塗布し、1100℃、2時間空気中の条件で焼成することで、中間層(焼成後の厚さが3μm)および空気極(焼成後の厚さが60μm)を形成した。最後に、鉄クロム系耐熱合金(ZMG232)製のメッシュの集電体に白金ペーストを付けて空気極上に乗せて、800℃、2時間空気中で焼成して、燃料電池セル(セル#1−0−1〜#1−0−5)を作製した。なお、燃料極、空気極ともに10mm径とした。
【0027】
得られた燃料電池セルにより発電する際の構造を図1に示し、固体電解質およびその上に形成された電極の状態を図2に示す。すなわち、固体電解質1の各面の中央部には燃料極2および空気極3が形成されている。燃料極2上には白金メッシュ集電体4が、空気極3上には鉄クロム系耐熱合金メッシュ集電体5が配置され、それぞれ白金端子6が接続されている。また、後述するように空気極の界面抵抗値を分離して測定するため、固体電解質1の外周には参照極7が形成されており、同様に白金端子が接続されている。そして、ガスシール8を介してアルミナ製のマニホールド9を配置して、燃料極2および空気極3にそれぞれガスを導入することで、発電することができる。
【0028】
次に、LSFCに代えて、LaFe0.80-XCo0.20NiX3(X=0.05、0.10、0.15、0.20、0.22)(LFCN)を空気極に用いたセル#1−1−1〜#1−1−5を作製した。なお、セル#1−1−1〜#1−1−5では、セル#1−0−1〜#1−0−5でAサイトに添加されているSrの代わりに、同じモル濃度のNiをBサイトに添加している。
【0029】
得られたセルを用いて発電試験を行った。この試験では、燃料極側ガスには室温加湿水素ガスを用い、空気極側ガスには酸素を用いた。いずれのセルにおいても開放起電力としては、800℃で1.13V以上の値が得られた。また、電極性能の指標である界面抵抗を交流インピーダンス法で測定した。ここでは、参照極を図1および2に示すように取ることで、空気極の界面抵抗値を分離して測定した。すなわち、5mV程度の電圧がかかるように、微少交流電流を燃料極と空気極間にかけ、空気極と参照極間に現れる電圧の応答をインピーダンス測定器に入力し、その周波数応答性から空気極の界面抵抗値を求めた。ここで、参照極の雰囲気は空気極側ガスと同じ酸素とした。なお、電流値を一定(200mA/cm2)として、24時間通電後および1000時間通電後の開放起電力条件における空気極の界面抵抗値をインピーダンス測定器によって計測した。そして、その界面抵抗値を比較して、空気極の経時変化を評価した。結果を表1に示す。セル#1−1−1〜#1−1−5は、セル#1−0−1〜#1−0−5に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0030】
次に、空気極の組成をLa0.80Sr0.20Fe1-XCoX3(X=0.10、0.15、0.25、0.30)に変更した燃料電池セル(セル#1−0−6〜#1−0−9)、およびLaFe0.80-XCoXNi0.203(X=0.10、0.15、0.25、0.30)に変更した燃料電池セル(セル#1−1−6〜#1−1−9)を作製した。そして、同様の方法で発電試験を行った。結果を表1に示す。セル#1−1−6〜#1−1−9は、セル#1−0−6〜#1−0−9に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0031】
次に、空気極の組成をLaFe0.80-XCo0.20CuX3(X=0.05、0.10、0.20)に変更した燃料電池セル(セル#1−2−1〜#1−2−3)、およびLaFe0.90-XCoXCu0.103(X=0.15、0.25、0.30)に変更した燃料電池セル(セル#1−2−4〜#1−2−6)を作製した。そして、同様の方法で発電試験を行った。結果を表1に示す。いずれも、セル#1−0−1〜#1−0−9に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0032】
次に、空気極の組成をLaFe0.80-XCo0.20MgX3(X=0.05、0.08、0.10)に変更した燃料電池セル(セル#1−3−1〜#1−3−3)、およびLaFe0.92-XCoXMg0.083(X=0.15、0.25、0.30)に変更した燃料電池セル(セル#1−2−4〜#1−2−6)を作製した。そして、同様の方法で発電試験を行った。結果を表1に示す。いずれも、セル#1−0−1〜#1−0−9に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0033】
<実験2>
実験1におけるGDCからなる中間層を設けず、代わりに空気極材料とGDCとを50wt%ずつ混合したスラリをスクリーンプリント法で塗布し、さらにその上に空気極材料からなるスラリをスクリーンプリント法で厚く塗布した。空気極材料としては、表2に示す組成のものを用いた。そして、1100℃、2時間空気中の条件で焼成することで、活性層(焼成後の厚さが3μm)および集電層(焼成後の厚さが30μm)を形成した燃料電池セル(セル#2−0−1〜#2−0−5、セル#2−1−1〜#2−1−5、セル#2−2−1〜#2−2−3、セル#2−3−1〜#2−3−3)を作製した。なお、セル#2−0−1〜#2−0−5は、AサイトにSrを含む組成の活性層を形成したセルであり、GDCを除いた部分については、セル#1−0−1〜#1−0−5の空気極と同じ組成である。
【0034】
得られたセルを用いて実験1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表2に示す。セル#2−1−1〜#2−1−5、セル#2−2−1〜#2−2−3およびセル#2−3−1〜#2−3−3は、セル#2−0−1〜#2−0−5に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0035】
<実験3>
実験2のセル#2−0−4および#2−1−4における活性層へのGDCの混合割合を、10wt%、20wt%、30wt%、60wt%に変更し、活性層とSASZ固体電解質基板の間に実験1におけるGDCからなる中間層を設けた燃料電池セル(セル#3−0−1〜#3−0−4、セル#3−1−1〜#3−1−4)を作製した。なお、セル#3−1−1〜#3−1−4は、セル#3−0−1〜#3−0−4でAサイトに添加されているSrの代わりに、同じモル濃度のNiをBサイトに添加している。
【0036】
得られたセルを用いて実験1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表3に示す。セル#3−1−1〜#2−1−4は、セル#3−0−1〜#2−0−4に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0037】
<実験4>
実験2における活性層へのGDCの混合割合を30wt%に変更し、活性層とSASZ固体電解質基板の間に実験1におけるGDCからなる中間層を設け、空気極材料としては表4に示す組成のものを用いた燃料電池セル(セル#4−0−1〜#4−0−5、セル#4−1−1〜#4−1−5、セル#4−2−1〜#4−2−3、セル#4−3−1〜#4−3−3)を作製した。
【0038】
得られたセルを用いて実験1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表4に示す。セル#4−1−1〜#4−1−5、セル#4−2−1〜#4−2−3およびセル#4−3−1〜#4−3−3は、セル#4−0−1〜#4−0−5に比べて、初期特性は同等であり、経時安定性が優れていた。
【0039】
<実験5>
実験4の#4−0−1〜#4−0−5およびセル#4−1−1〜#4−1−5におけるSASZ固体電解質基板を厚さ0.5mmのランタンガレート系(La0.8Sr0.2Ga0.8Mg0.23)固体電解質基板に変更し、燃料極の焼成温度を1250℃に変更した燃料電池セル(セル#5−0−1〜#5−0−5、セル#5−1−1〜#5−1−5を作製した。
【0040】
得られたセルを用いて実験1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表5に示す。セル#5−1−1〜#5−1−5は、セル#5−0−1〜#5−0−5に比べて、1000時間後の特性が良好であり、経時安定性が優れていた。
【0041】
<実験6>
実験4における空気極材料を表6に示す組成のものに変更し、集電層をLiNi0.60Fe0.403粉末を含むペーストを使用して形成した燃料電池セル(セル#6−0−1〜#6−0−5およびセル#6−1−1〜#6−1−5)を作製した。
【0042】
得られたセルを用いて実験1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表6に示す。セル#6−1−1〜#6−1−5は、セル#6−0−1〜#6−0−5に比べて、初期特性および経時安定性が優れていた。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
【表4】

【0047】
【表5】

【0048】
【表6】

【0049】
以上説明したように、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有するペロブスカイト型酸化物において、AサイトにSrなどイオン半径の大きな2価の金属元素を添加する代わりに、BサイトにNi、Cu、Mgなどのイオン半径の小さい2価の金属元素を添加し、それを空気極に用いることで、電気伝導性を高め、且つ希土類添加セリアとの反応劣化を低減することに成功した。本発明はSOFCの高信頼性、高効率化に大きな貢献をなすものである。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】実施例で作製した固体電解質型燃料電池セルにより発電する際の構造を示す模式的断面図である。
【図2】図1の固体電解質型燃料電池セルにおける固体電解質およびその上に形成された電極の状態を示す模式的斜視図である。
【符号の説明】
【0051】
1 固体電解質
2 燃料極
3 空気極
4 鉄クロム系耐熱合金メッシュ集電体
5 白金メッシュ集電体
6 白金端子
7 参照極
8 ガスシール
9 マニホールド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、固体電解質と、希土類添加セリアからなる中間層と、空気極とがこの順に積層されてなる固体電解質型燃料電池セルであって、
前記空気極が、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有し、さらにBサイトにのみ2価の金属元素を有するペロブスカイト型酸化物(ABO3)を含有することを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項2】
燃料極と、固体電解質と、空気極とがこの順に積層されてなる固体電解質型燃料電池セルであって、
前記空気極が、希土類添加セリアとペロブスカイト型酸化物(ABO3)とを10wt%:90wt%〜60wt%:40wt%の割合で含有する活性層と、前記活性層上に形成された集電層とを有し、
前記活性層が前記集電層と前記固体電解質との間に配置されており、
前記ペロブスカイト型酸化物が、Aサイトにランタノイド系元素、Bサイトにコバルト元素を有し、さらにBサイトにのみ2価の金属元素を有することを特徴とする固体電解質型燃料電池セル。
【請求項3】
前記ペロブスカイト型酸化物が、LaFe1-Y-XCoYNiX3(0.05≦X≦0.22、0.10≦Y≦0.30)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項4】
前記ペロブスカイト型酸化物が、LaFe1-Y-XCoYCuX3(0.05≦X≦0.20、0.15≦Y≦0.30)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項5】
前記ペロブスカイト型酸化物が、LaFe1-Y-XCoYMgX3(0.05≦X≦0.10、0.15≦Y≦0.30)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項6】
前記ペロブスカイト型酸化物が、LaCo1-xNiX3(0.05≦X≦0.25)で表されることを特徴とする請求項1または2に記載の固体電解質型燃料電池セル。
【請求項7】
前記固体電解質が、希土類添加ジルコニア系固体電解質またはランタンガレート系固体電解質であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の固体電解質型燃料電池セル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−305669(P2008−305669A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151780(P2007−151780)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】