説明

固体電解質型燃料電池用複合酸化物、固体電解質型燃料電池セル用接合剤、固体電解質型燃料電池用電極、固体電解質型燃料電池用集電部材、固体電解質型燃料電池、固体電解質型燃料電池セルスタック、及び固体電解質型燃料電池用複合酸化物混合物の製造方法

【課題】電極構成材料として、ペロブスカイト型複合酸化物を使用しつつ、可能な限り低コストでありながら、三相界面を容易に形成しうる部材を提供することにより、電極効率に優れた燃料電池用電極を提供すること。
【解決手段】少なくとも二種のペロブスカイト型(ABO)複合粉末を混合して得られる複合酸化物混合粉末により構成される固体電解質型燃料電池用複合酸化物。ただし、第一の複合酸化物粉末が1〜10μmの範囲にのみ粒度分布を有し、かつその分布は変動係数(平均径(μm)/標準偏差(μm)×100で示される)が40%未満であるものと、第二の複合酸化物粉末として、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するような複合酸化物粉末、すなわち少なくともその粒度分布において、2つの頻度径を有する複合酸化物粉末を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質型燃料電池電極用ペロブスカイト型複合酸化物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、工業用機器・家庭用機器などに幅広く用いられている化石燃料の代替として、次世代エネルギーが広く検討され、そして提案されている。この次世代エネルギーの中でも燃料電池は、化学エネルギーを発生させ、この化学エネルギーを高変換効率で電気エネルギーに転換できる。化石燃料を用いた場合、二酸化炭素(CO)が排出されてしまう一方、この燃料電池ならば、理論的にはCO排出がなく、排出物としては単に水(HO)が発生するのみである。そのため、燃料電池に対して注目が広がっている。
【0003】
また、燃料電池は、スケールによる電気エネルギー転換効率への影響が小さいため、自動車駆動、各家庭での定置型といったような広い用途での検討が進んでいる。そのような応用用途に関する技術への期待も大きいものがある。
【0004】
とりわけ、固体電解質型燃料電池(SOFC=Solid Oxide Fuel Cell。以降、単にSOFCともいう)は発熱効率が高いだけでなく、高温で排出される廃熱もコージェネレーション等に利用できることから、エネルギーの総合効率が高くなる。さらには、SOFCは高温にて稼働するため、白金のような貴金属を使用せずとも電極反応を十分早くすることができる。以上のことに起因して、SOFCへの注目度は高い。
【0005】
ところで、一般的な構造のSOFCは、燃料極と酸素極の間に固体電解質を挟み込んで形成される複数のセルを、集電部材により電気的に接続する構造となっている(例えば、特許文献1参照)。このような複数のセルを重ねてセルスタックとする技術も知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
この酸素極の電極材料は、酸素分圧が10−15〜10−10気圧程度以上の高温雰囲気下で化学的に安定であり、しかも高い電気伝導率を示す材料で構成される必要がある。ところが、一般的な金属を用いると金属酸化に伴う電気伝導率の減少という問題が発生するおそれがある。そこで電極材料として、例えば導電性のペロブスカイト型複合酸化物が使用されている(例えば、特許文献3参照)。その結果、固体電解質型の燃料電池部材としての価値は増大している。
【0007】
なお、セル同士を接続する集電部材には金属または合金が使用されており、電極材料と同様の問題が発生するおそれがある。そのため集電部材においては、ペロブスカイト型複合酸化物を集電部材の表面に担持するような試みがなされている。
【0008】
以上のように、集電部材や電極材料にペロブスカイト型複合酸化物が用いられた燃料電池を設計する上で、高性能の燃料電池を作製するためには、電極反応がどの部分で、どのような経路を通って進行するのかということが極めて重要となる。ここでその経路について分析すると、ペロブスカイト型複合酸化物からなる電極材料を用いたSOFCにおいては、電極中や電解質中よりも空気中の方が、酸素イオン導電率が低くなる。そのため、電極・電解質・気体の三相界面(TPB=Triple Phase Boundary)が、電極反応の主な経路となる。その結果、電極反応の活性部位である三相界面をいかにして形成させるかが、燃料電池の活性を左右すると言って良い。
【0009】
この活性を高める方法として、種々の技術が提案されている。例えば、電極材料粉末と電解質材料を混合して焼結させることでサーメット電極とする方法が知られている。また、本出願人が開示した技術であるが、ペロブスカイト型複合酸化物の比表面積を大きくし、ガス−電極間の反応効率を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献4参照)。
【0010】
なお、関連技術であるが、特許文献1のように、電極と集電片との間の接合強度を増加させるために、電極材料と接合材料とを同一物質とする技術が知られている。また、電極自体の強度を高くする技術として、溶射法により粗膜部を形成した後、湿式法により粗膜部に対して小粒径膜部を形成する技術が知られている(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第2511121号
【特許文献2】特開2009−110739号公報
【特許文献3】特開2005−179168号公報
【特許文献4】特開2006−12764号公報
【特許文献5】特開平7−22033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述のように、ペロブスカイト型複合酸化物についての種々の改良がなされている一方、燃料電池そのものの性能に対する要請が日増しに強まっている。そのため、既存の燃料電池よりも高性能の燃料電池が必要となる可能性があり、そのためには、該電池を構成する部材、とりわけ特許文献4等に記載される電極構成物質に対して、より高い性能が要求されることが推測される。
【0013】
また簡便な操作により電極を構成することができれば、現在燃料電池普及の妨げともなっている、固体単価の低減化ができることが期待され、ひいては地球環境に優しいエネルギー資源を低廉に提供できることが可能になると考えられる。
【0014】
したがって、本発明の目的とするところは、可能な限り低コストでありながら、三相界面を容易に形成しうる部材を提供することにより、電極効率に優れた燃料電池用電極を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上述の課題を解決するための電極材料について検討を重ねた結果、特許文献4に記載の粉末では、三相界面を形成するには十分ではないという結論に到達した。そこで、該文献の記載にあるような高比表面積値を有する複合酸化物単独よりも、複数の粒子群が併存した状態で焼成し、電極を構成した方が、三相界面を形成するのに適した適度な空孔を有した電極表面を構成することができる可能性を見いだし、本願発明を完成させた。
【0016】
上記目的は下記のような態様による手段で解決できる。
すなわち、本発明は少なくとも二種のペロブスカイト型(ABO)複合粉末を混合して得られる複合酸化物混合粉末により構成され、第一の複合酸化物粉末が1〜10μmの範囲にのみ粒度分布を有し、かつその分布は変動係数(平均径(μm)/標準偏差(μm)×100で示される)が40%未満であるものと、第二の複合酸化物粉末として、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するような複合酸化物、すなわち少なくともその粒度分布において、2つの頻度径を有する複合酸化物粉末を混合したものにより構成される。
【0017】
特に、第一の複合酸化物粉末と第二の複合酸化物粉末の混合割合は、質量比で第一複合酸化物粉末よりも第二の複合酸化物粉末の方が高い割合とすることが好ましい。
【0018】
特に、第一および第二の複合酸化物粉末の構成物質の組成は同一であって、ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトは希土類元素およびアルカリ土類元素の少なくとも一種ずつからなるとともに、Bサイトは遷移元素の少なくとも二種から構成されることが好ましい。
【0019】
また、上述の第一の複合酸化物粉末は、ペレット状(直径15.0mmで200kgf/cmにて加圧し成形して得る)にして大気中で1000℃120分間熱処理した際における収縮率が5%以上である複合酸化物粉末である。
【0020】
そして、該性質を有する複合酸化物混合粉末は、燃料電池セルの接合剤として使用された電極、そして該粉末により表面が形成された集電部材、そしてそれらが使用されている燃料電池およびセルスタックを提供することができる。
【0021】
該物質は、ペロブスカイト型複合酸化物の原料溶液に炭酸アルカリ水溶液を添加し、炭酸塩である非晶質前駆体を形成する工程(a)と、前記非晶質前駆体に対して熱処理を行い、結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を形成する工程(b)と、前記結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を湿式粉砕し、1〜10μmの範囲にのみ粒度分布を有し、かつその分布の変動係数(平均径(μm)/標準偏差(μm)×100で示される)が40%未満である第一の複合酸化物粉末を形成する工程(c)と、前記工程(a)および(b)までを行い、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するような第二の複合酸化物粉末を形成する工程(d)、前記の第一の複合酸化物粉末と、前記第二の複合酸化物粉末とを混合する工程(e)により得ることができる。
【0022】
該ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法において、特に工程(b)の前駆体からペロブスカイト型結晶を析出させる前駆体の熱処理は900〜1500℃の温度範囲で行われることが好ましい。
【0023】
該ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法において、特に工程(c)における第一のペロブスカイト型複合酸化物粉末を得るために行う湿式粉砕処理は、サンドグラインダーにより行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明に従う複合酸化物混合物を使用することにより、焼結体形成時において、従来よりも三相界面を形成しやすい燃料電池電極を形成することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例における第一の複合酸化物粉末および比較例におけるペロブスカイト型複合酸化物の粒度分布を示す図である。
【図2】本発明の実施例における第一の複合酸化物粉末および比較例におけるペロブスカイト型複合酸化物の粒度分布の積算図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態に係る固体電解質型燃料電池用複合酸化物およびその製造方法、ならびにそれを用いた接合剤、電極、集電部材、燃料電池および燃料電池セルスタックについて詳述する。
【0027】
<粒子の組成>
まず、本実施形態に係るペロブスカイト型複合酸化物の組成について説明する。ペロブスカイト型複合酸化物は、構造としてABO3−δ型構造をとる。この時、δは0を含む酸素欠損量を示し、δの値の範囲は0≦δ<1であるのが好ましい。
【0028】
ここでいうAサイトはLaなどの希土類元素とBa、Sr等のアルカリ土類金属の少なくとも一種から構成されるのが好ましい。また、Bサイトは遷移金属から選ばれる少なくとも一種であるのが好ましい。
【0029】
具体的には、Aサイトは希土類元素から一種、そしてアルカリ土類金属元素から一種を選択するのが好ましい。ここでいう希土類元素としては、La、Pr、Nd、Sm、Eu、Gdのいずれかが好ましい。また、アルカリ土類金属元素としては、Ba、Sr、Caのいずれかを選択することが好ましい。ここで、組成比(希土類元素/アルカリ土類金属元素)は1.0以上、好ましくは1.2以上、一層好ましくは1.25以上の範囲とすることが好ましい。上記範囲内ならば、ペロブスカイト構造を好適に維持できるためである。
【0030】
また、Bサイトについては、上述の通り遷移金属から選択されるが、単一よりも複数種から構成されるのが適当である。とりわけ、2種類の遷移金属元素から構成されるのが好ましい。この2種類の遷移金属元素をそれぞれT1、T2とすると、元素番号がT1<T2の時、組成比(T1/T2)は1.0〜5.0、好ましくは1.0〜4.5、一層好ましくは2.0〜4.0の範囲とすることが好ましい。Aサイトの場合と同様、上記範囲内ならば、ペロブスカイト構造を好適に維持できるためである。
【0031】
AサイトとBサイトの組成比は構造上のバランスを考慮して、A/B=0.95〜1.05、好ましくは0.97〜1.03、一層好ましくは0.99〜1.01であるのがよい。上記範囲内ならば、ペロブスカイト構造を好適に維持できるためである。
【0032】
なお、上記のペロブスカイト型複合酸化物に関する組成は、下記に示す方法で評価できる。すなわち、遷移金属元素の1つである鉄以外の組成物の定量は、粉体を溶解させ、例えば、日本ジャーレルアッシュ株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(IRIS/AP)で定量できる。鉄については、試料を溶解させ、例えば、平沼産業株式会社製の平沼自動滴定装置(CONTIME−980型)で定量できる。
なお、上記のような組成評価方法に加え、以降の段落に記載されている各パラメータの測定方法は、本実施形態のみならず実施例においても適用されている測定方法である。
【0033】
<粒子径>
ここで、本発明の燃料電池用複合酸化物に含まれる第一の複合酸化物粉末と第二の複合酸化物粉末の混合割合は、質量比で第一複合酸化物粉末よりも第二の複合酸化物粉末の方が高い割合とすることが好ましい。以降、第一及び第二の複合酸化物粉末を、単に第一及び第二の複合酸化物とも言う。
【0034】
なお、本発明における「頻度径」とは、粒度分布を測定したときに、ある粒径にて体積基準で頻度が最も高い場所を指す。また、「粒子頻度領域」とは、粒径分布のグラフにおける、前記「頻度径」を頂点とした凸型領域である。なお、前記「粒子頻度領域」においては前記「頻度径」を頂点として頻度は減少していくが、本実施形態における「粒子頻度領域」となる部分とは、「頻度径」部分から、粒径分布のグラフ全体を見たときに粒径分布曲線が再び凸型領域を形成し始める部分まで、を「粒子頻度領域」とする。
【0035】
本実施形態のように第一複合酸化物の粒子と第二複合酸化物の粒子を混合して使用することにより、燃料電池における酸素極表面近傍に粗大粒子(いわゆる第二の複合酸化物粒子)が存在した上で、粗大粒子間に小径粒子(いわゆる第一の複合酸化物粒子)が入り込むことができる。平均粒子径の細かい粒子は粗大粒子と比較して、比較的低温で焼結することができるため、比較的低温の熱処理であっても、焼結により粗大粒子間の橋渡しをすることができるようになる。その結果、粗大粒子間に適度な空孔部分が存在するようになり、ひいては三相界面を好適に形成することができるようになる。
【0036】
ここで挙げた第一および第二の複合酸化物における「粒子頻度領域」について、レーザー散乱・回折式粒度分布測定装置にて測定した粒度分布によって具体的な数値で表すと以下の通りである。すなわち、第一の複合酸化物における粒子頻度領域が1〜10μmの範囲に頻度径を有する。第二の複合酸化物に終える粒子頻度領域が1〜10μm、粗大粒子頻径ピーク領域が10〜100μmの範囲に頻度径を有する。このとき、ペロブスカイト型複合酸化物総体積に対する体積比率について、第一の複合酸化物における頻度径における粒子の体積比率は、第二の複合酸化物における頻度径における粒子の体積比率に比べて1.3%以上高いことが好ましい。この範囲内ならば、粗大粒子が多すぎることなく、適度な量の粗大粒子間に小径粒子が入り込むことができることから、粒子間の結合を効果的に行うことができるようになる。
【0037】
なお、第一および第二の複合酸化物における「粒子頻度領域」以外にも、第一および第二の複合酸化物における「粒子頻度領域」の間に別の粒子頻度領域が存在してもよい。場合により、より平均粒子径の大きい粉末を添加することで、少なくとも大中小の三つの粒子頻度領域を有するようにしてもよい。
【0038】
なお、前記小径「粒子頻度領域」は一つのピークを基に構成されているのが好ましい。また、前記小径粒子「粒子頻度領域」の粒径範囲は先に述べたように1〜10μmであるが、より好ましくは1.5〜5.0μmの範囲である。この上限を超えなければ、粒子の焼結温度が過度に高くならず、粒子間の結合効果を有効に発揮することができる。逆に下限を下回らなければ、粗大粒子の界面部分に適度に小径粒子が残存することになり、粒子同士の良好な結合を得ることができる。
【0039】
また、この粒子径(場合によっては凝集径)の粒度分布を示す標準偏差は0.50〜1.50(μm)、好ましくは0.75〜1.25(μm)であるのが好ましい。この上限を超えなければ、粒子のばらつきが抑えることができる。その結果、焼結時における挙動が均一となり、粒子間の接着効果を有効に得ることができる。
【0040】
なお、粒子の平均粒子径は、ベックマン・コールター社製のレーザー散乱・回折式粒度分布測定装置で測定できる。なお、粒子の超音波による解砕を防止し、凝集径を算出するため、測定時には超音波は使用していない、光学モデルは実数部2.07、虚数部3を使用。測定における分散媒にはヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液を用いている。平均粒子径の測定にはD50値を用い、その標準偏差を算出した後、平均粒子径/標準偏差×100の値で、変動係数を算出している。
【0041】
<粒子の比表面積>
また、本実施形態にかかるペロブスカイト型複合酸化物粒子のBET一点法による比表面積値は、6.0〜11.0m/gであり、好ましいのは6.0〜8.0m/gである。この上限を超えなければ、粒子が適度に微細となる。そうなると、小径粒子頻径ピーク領域の粒径範囲の下限を下回らないときと同様の作用、すなわち粗大粒子の界面部分に適度に小径粒子が残存するという作用が発揮されることになり、粒子同士の良好な結合を得ることができる。それに加えて、ペロブスカイト型複合酸化物をスラリー化したときの粘度が高くならないという効果も期待できる。一方、前記比表面積値の下限を下回らないときは、粒子径が大きすぎず、または粒子表面に凹凸を適度に有していることを示す。この場合、スラリー化したとき、粗大粒子間に小径粒子が適度に入り込むことができ、粒径の違いによるスラリーのムラの発生を抑制することができる。
【0042】
なお、粒子の比表面積は、BET一点法を用いて測定し、測定装置は、例えばユアサイオニクス株式会社製の4ソーブUSで測定できる。
【0043】
<収縮率>
さらに、本実施形態にかかるペロブスカイト型複合酸化物粒子(第一の複合酸化物)の収縮率についてであるが、大気中1000℃に120分間おいて熱処理したときにおける粒子の収縮率は5%以上が好ましく、5〜20%であればさらに好ましい。この上限を超えなければ、単一の収縮率が大きすぎることなく、収縮が電極表面のクラックの発生原因となるのを抑制することができる。一方、この下限を下回らなければ小径粒子が適度に収縮するため、粗大粒子間の結合材として小径粒子を使用する際に、粗大粒子と小径粒子との接触を面接触に近づけることができる。このように接触面積を増加させることにより、結果として電極反応の活性部位である三相界面を増大させることができ、かつ電流を多く流すことができる。
【0044】
なお、収縮率の測定は、以下の条件で行っている。すなわち、ペロブスカイト型複合酸化物を焼成し粉末とする。そして、200kgf/cmの加圧条件にて、φ15.0mmのペレット形態に成形する。このペレットにおける粒子の直径(A)を算出した後、大気中1000℃120分間の環境下に放置する。これによりペレットの収縮を起こさせ、その焼成後の直径(B)を算出する。そして、(A−B)/A×100(%)の式により、収縮率を算出する。なお、熱処理条件を変化させることにより、温度変化当たりの収縮率を算出することも可能である。
【0045】
<嵩密度>
さらに、本実施形態にかかるペロブスカイト型複合酸化物粒子の嵩密度は、好ましくは1.25〜1.80g/cc、さらに好ましくは1.50〜1.80g/ccである。この範囲とすることで、粒子の空隙部分に本発明にかかる複合酸化物が配置するようになるので、効果的に粒子同士の結合を行うことができ、ひいてはペロブスカイト型複合酸化物が設けられた電極表面と電解質との接合性も改善することになる。
【0046】
なお、嵩密度は、JIS規格Z−2512:2006(金属粉−タップ密度測定方法)に準じて測定することもできるが、本実施形態においては、特開2007−263860号に記載の方法に準じて測定している。
【0047】
<ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法>
以下、ペロブスカイト型の固体電解質型燃料電池用複合酸化物の製造方法について説明する。本実施形態においては、ペロブスカイト型複合酸化物の原料溶液に炭酸アルカリ水溶液を添加し、炭酸塩である非晶質前駆体を形成する工程(a)と、該非晶質前駆体に対して熱処理を行い、結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を形成する工程(b)と、該結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を湿式粉砕し、均一の粒径を有する第一の複合酸化物を形成する工程(c)と、該工程(a)および(b)までを行い、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するような第二の複合酸化物を形成する工程(d)と、該均一粒径酸化物と、工程(d)により形成された結晶性ペロブスカイト型複合酸化物とを混合する工程(e)とを行っている。
【0048】
(非晶質前駆体形成工程[工程(a)])
まず非晶質前駆体形成工程(工程(a))についてであるが、ペロブスカイト型複合酸化物ABO3−δにおける、Aサイトの構成成分を含む物質と、Bサイトの構成成分を含む物質とを混合する。この時の各物質の濃度は0.01〜0.60mol/Lであるのが好ましく、さらに好ましくは0.01〜0.50mol/Lの範囲である。この上限を超えなければ、非晶質の物質を平易に得ることができる上、炭酸アルカリ水溶液による中和後に得られるスラリーの粘度が高くならない。そのため、後工程に付す場合、生産性を維持することができる。また、スラリーを熟成する際にも粘性が高くならないため、結晶性物質の析出するおそれを低減することができる。
【0049】
このAサイト及びBサイト構成成分含有物質を混合した後、この液から非晶質の沈殿を得るために、炭酸アルカリ水溶液を添加するのが好ましい。この炭酸アルカリ水溶液としては、例えば、炭酸アルカリまたはアンモニウムイオンを含む炭酸塩からなる沈殿剤を用いるのが好ましい。このような沈殿剤としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム等を使用することができる。また、必要に応じて、水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基を炭酸水素アンモニウム等に加えることもできる。また、水酸化ナトリウム、アンモニア等を用いて沈殿を形成した後、炭酸ガスを吹き込んでもよい。これにより、高比表面積ペロブスカイト型複合酸化物の前駆体である非晶質材料を得ることが可能となる。さらには、このような沈殿剤に加えて還元剤を添加すると、一層比表面積の高い非晶質の前駆体物質を得ることができる。この還元剤としては、ヒドラジンや水素化ホウ素ナトリウムなどの水素発生性化合物を使用するのが好ましい。
【0050】
なお、本実施形態の効果を妨げない範囲内であれば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニアなどの材料やこれらの複合酸化物といった耐熱性材料を前駆体物質に添加することも可能である。この場合、これらの耐熱性材料がペロブスカイト型複合酸化物に介在した状態の非晶質材料が得られる。
【0051】
このようにして形成される非晶質材料は、ペロブスカイト型複合酸化物を製造するための前駆体となる。また、この非晶質前駆体は、上述の通り、希土類元素、アルカリ土類金属元素、遷移金属元素を含む非晶質物質からなる。このような物質の混合水溶液に対してアルカリおよび炭酸ガスを含む炭酸塩を加え、中和生成物を生成させるといういわゆる湿式法によれば、この非晶質前駆体を大量に得ることができる。そのため、湿式法は工業的に適している。
【0052】
なお、本実施形態において、この非晶質前駆体を形成するには、反応時の液温は低温である必要がある。具体的には、反応の液中における過程において液温が60℃以下であるのが好ましく、45℃以下だと更に好ましく、30℃以下だと特に好ましい。液温がこの上限を超えなければ、よく知られている水酸化物等の結晶性物質になるおそれを抑制し、非晶質前駆体を形成することができる。なお、水溶液中での反応であるので、反応系の流動性を確保するため、水の凝固点以上、すなわち0℃以上で反応を行うのが好ましい。
【0053】
また、非晶質前駆体形成の際の反応液のpHは6以上が好ましく、より好ましくはアルカリ性で行う。なぜなら、本実施形態においては中和反応を用いて非晶質物質を得ているためである。逆を言えば、酸性であれば非晶質の物質を得難いので好ましくない。
【0054】
生成した沈殿は、濾過、遠心沈降、デカンテーション等により固液分離し、水洗を行って不純物イオンの残留を少なくするのが望ましい。得られた非晶質の沈殿物を自然乾燥、加熱乾燥、真空乾燥等の方法で乾燥させ、乾燥処理後に必要に応じて粉砕処理や分級処理を実施する。
【0055】
(非晶質前駆体熱処理工程[工程(b)])
次に、工程(b)についてであるが、工程(a)で形成した前駆体物質を熱処理することによって、結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を得る。この熱処理温度は、ペロブスカイト型複合酸化物を得られる限り特に限定されないが、900〜1500℃、好ましくは950〜1300℃程度とすれば良い。熱処理の雰囲気は、大気中または酸化性雰囲気中で行うのが良い。
【0056】
このように工程(a)および(b)を経ることにより、粒度分布が少なくとも1〜10μmの範囲と10〜100μmの範囲とに粒子頻径ピークを有する粗大粒子用ペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0057】
(湿式粉砕工程[工程(c)])
次に、工程(c)についてであるが、こうして得られたペロブスカイト型複合酸化物に対し、必要に応じ解砕した後、再度湿式粉砕を施すことで、本実施形態に用いられるペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0058】
本発明に従う粒子を得るために用いられる湿式粉砕法としては、湿式ボールミル、サンドグラインダー、アトライター、パールミル、超音波ホモジナイザー、圧力ホモジナイザー、アルティマイザーなどで湿式粉砕又は湿式破砕を行うことにより、上述の条件に沿ったペロブスカイト型複合酸化物を構成することができる。特に、サンドグラインダーを使用することが好ましい。
【0059】
湿式での粉砕を行うにあたりサンドグラインダーを選択するときには、知られている縦型流通管式ビ−ズミル、横型流通管式ビ−ズミル、強粉砕型突流式ビスコミルなどの既存のサンドグラインダーのいずれでも粉砕可能であるが、好ましくは横型サンドグラインダーを使用する。横型流通管式ビ−ズミルは縦型流通管式ビ−ズミルと比較してベッセル内に滞留している間は均一に粉砕が行われ、同一流量においてより均一な粉砕が可能となるため好適である。また、横型流通管式ビ−ズミルは強粉砕型突流式ビスコミルよりも処理流量が大きいため、経済的に好ましい。
【0060】
粉砕メディアとしてはガラス、セラミック、アルミナ、ジルコニア等の硬質原料で製造されたボールを使用すると良い。所望の粒子径を有したペロブスカイト型複合酸化物を得るためのボールの粒子径は0.1〜5.0mm程度が好ましく、0.5〜1.5mmがより好ましい。
【0061】
以上の工程(a)〜(c)を経ることにより、粒度分布が1〜10μmの範囲のみに粒度分布を有するとともに、粗大粒子用ペロブスカイト型複合酸化物(即ち第二の複合酸化物)よりも小さく、かつ変動係数が40%未満である、粗大粒子間を結合するためのペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。この複合酸化物が、第一の複合酸化物となる。
なお、変動係数が40%未満であれば、平均粒子径が充分に均一であり、第一の複合酸化物からなる微細粒子を粗大粒子間結合に使用することができる。
【0062】
(第二の複合酸化物準備工程[工程(d)])
本実施形態においては、第一の複合酸化物とは別に、前記工程(a)および(b)を行い、工程(c)については行わない第二の複合酸化物を準備する。この工程(d)により、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0063】
(混合工程[工程(e)])
本実施形態においては、前記粗大粒子間結合用となるペロブスカイト型複合酸化物(第一の複合酸化物)と、前記工程(d)で得た別の結晶性ペロブスカイト型複合酸化物(第二の複合酸化物)とを混合する。これにより、本実施形態に係るペロブスカイト型複合酸化物を得ることができる。
【0064】
<ペロブスカイト型複合酸化物の応用用途>
ここで作製したペロブスカイト型複合酸化物は、固体電解質型燃料電池(SOFC)に適用できる。具体的には、SOFCの電極、集電部材、燃料電池および燃料電池セルスタックなどに応用できる。その中でも本実施形態においては、燃料電池セルスタックについて説明する。
【0065】
燃料電池セルスタックは、その長さ方向にガス流路を有する板状で棒状(長尺状)の固体電解質形燃料電池セルを、燃料電池セルの長さ方向と直交する方向(セル厚み方向)に所定間隔を置いて複数配列して構成されている。
【0066】
この燃料電池セルには酸素極層と燃料極層が設けられ、それらの間には電解質層が設けられている。この電解質層としては、その内部でイオンが移動することができ、燃料ガスと酸素ガスとのリークを防止するためのガス遮断性を有していればよい。例えば高分子膜や希土類元素安定化ジルコニア、特にY+ZrOが挙げられる。これに加え、あるセルの酸素極層と隣接するセルの燃料極層の間にはインターコネクタが設けられている。
【0067】
本実施形態においては、酸素極層に対して本実施形態におけるペロブスカイト型複合酸化物を設けている。その構成の態様は適宜変更することができる。たとえば、該複合酸化物混合物を塗布し、焼結させてもよい。この処理は燃料極のみならず、酸素極側で行っても構わない。
【0068】
さらに、電極に白金を用いるのではなく、ペロブスカイト型複合酸化物ペーストを焼結したものそのものを電極としてもよい。この際、電極作製用として白金などの金属触媒や合金触媒を用いてもよい。また、金属の分散度を向上させるために、触媒担体としてカーボンブラックを用いても良い。
【0069】
また、隣り合う燃料電池セルの平坦面間には、燃料電池セル同士を直列に電気的に接続する集電部材が配置されている。この集電部材は、一方の燃料電池セルの酸素極(燃料電池用電極)に接合するとともに、他方の燃料電池セルのインターコネクタに接合している。
【0070】
本実施形態においては、この集電部材表面を、ペロブスカイト型複合酸化物にて構成している。さらに、集電部材の代わりに、一方の燃料電池セルの燃料電池用電極と、他方の燃料電池セルのインターコネクタを接合する接合剤を用いてもよい。この接合剤には、本実施形態におけるペロブスカイト型複合酸化物を使用することが好ましい。
【0071】
以上、本実施形態について詳述したが、本実施形態によれば以下の効果を奏する。
【0072】
すなわち、湿式粉砕処理を施して粒子が小さくとも均整となった酸化物と、湿式粉砕処理を施さずに粒子が大小不均整となった酸化物とを混合させて、小さい粒子径の体積比率を比較的増加させたペロブスカイト型複合酸化物を燃料電池用電極、集電部材などに用いる。そうすると、燃料電池における酸素極表面近傍に粗大粒子が存在した上で、粗大粒子間に小径粒子が入り込むことができる。しかも、その小径粒子は非常に均一であるため、粗大粒子と小径粒子とを良好に結合することができ、ひいては粗大粒子同士を良好に結合することができる。その結果、三相界面を安定して良好に形成することができ、電極反応を効率よく起こすことが可能となる。最終的には、電極効率に優れた燃料電池用電極、集電部材、燃料電池および燃料電池セルスタックが得られる。さらには、ペロブスカイト型複合酸化物を用いるだけで、複数の工程を行うことなく電極効率に優れた電極や集電部材等を形成することができ、コストの削減に寄与することができる。
【0073】
以上、本発明に係る実施の形態を挙げたが、上記の開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。本発明の範囲は、上記の例示的な実施形態に限定されるものではない。本明細書中に明示的に記載されている又は示唆されているか否かに関わらず、当業者であれば、本明細書の開示内容に基づいて本発明の実施形態に種々の改変を加えて実施し得る。
【実施例】
【0074】
以下、本発明に係る実施例について説明する。
<実施例1>
(非晶質前駆体形成工程[工程(a)])
まず、非晶質前駆体を形成するために、硝酸ランタン六水和物(La(NO3)3・6HO)4.47kg、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)1.61kg、硝酸鉄九水和物(Fe(NO・9HO)5.58kg、硝酸コバルト六水和物(Co(NO・6HO)1.12kgをそれぞれイオン交換水102.2kgに溶解させ、硝酸塩の混合溶液Aを作成した。このとき、これらの溶液濃度は溶解種の総合計で約0.20mol/Lとした。
【0075】
次に、イオン交換水36.6kgと炭酸アンモニウム8.33kgを溶解槽に挿入し、攪拌しながら水温を15℃になるよう調整した。
【0076】
その後、炭酸アンモニウム溶液を、溶液Aへ徐々に加えて中和反応を行い、ペロブスカイトの非晶質前駆体を析出させた。その後、非晶質前駆体を30分間熟成させ、反応を完了させた。得られた物質は常法により水洗、乾燥を行って、ペロブスカイト非晶質前駆体の乾燥粉を得た。
【0077】
(非晶質前駆体熱処理工程[工程(b)])
次に、非晶質前駆体を焼成して結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を得るために、得られた乾燥粉を1000℃にて2時間、大気中で焼成した。これにより、非晶質前駆体から、ペロブスカイト形態を有する結晶性複合酸化物が得られた。得られた複合酸化物は、ピンミルにて乾式解砕処理を行った。
【0078】
(湿式粉砕工程[工程(c)])
次に、結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を粉砕して均一粒径酸化物を得るために、工程(b)にて得られた焼成粉と純水とを混合した。そして、1/2ガロンのサンドグラインダーにメディアとしてφ1.0mmのジルコニアビーズを30%の充填率で装填したものの中に、この焼成粉と純水との混合物を入れた。その後、1500rpmで1時間の粉砕処理を行った。そして、得られた粒子を常法によりメディアの除去、水洗、乾燥を行うことで、ペロブスカイト型複合酸化物を得た。
【0079】
なお、工程(c)により得られた粒子は、BET法による比表面積測定では6.8m/gと算出された。また、嵩密度は1.62g/ccを示し、X線回折パターンからペロブスカイト構造を有する複合酸化物であることが確認された。
【0080】
また、工程(c)により得られた粒子に対して粒度分布解析(体積比率(容積%))を行ったところ、図1に示すような粒度分布が得られた。1〜10μmの範囲に粒子が存在しており、一山分布を構成することがわかる。平均粒子径(D50径)は2.9μmである。なお、標準偏差(σ)は1.19μm、変動係数は39.4%であった。粒子の収縮率(1000℃)は7.1%であった。なお、図1の粒度分布を積算図にしたものを図2に示す。
【0081】
(第二の複合酸化物準備工程[工程(d)])
そして、上述の第一の複合酸化物とは別に、前記工程(a)および(b)を行い、工程(c)については行わない第二の複合酸化物を準備した。この工程(d)により、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するペロブスカイト型複合酸化物を得ることができた。なお、この工程(d)で得た第二の複合酸化物の粒径等は、図1及び図2の比較例1に該当する。
【0082】
(混合工程[工程(e)])
そして、前記粗大粒子間結合用ペロブスカイト型複合酸化物(第一の複合酸化物)と、前記工程(d)で得た別の結晶性ペロブスカイト型複合酸化物(第二の複合酸化物)とを混合した。このように本実施例に係るペロブスカイト型複合酸化物を得た。
【0083】
この本実施例に係るペロブスカイト型複合酸化物を焼結した。この焼結体に対して電気電導率を測定した。その結果、良好な結果が得られた。
【0084】
<実施例2〜3>
工程(c)における結晶性ペロブスカイト型複合酸化物に対する粉砕時間を、実施例2においては2時間とし、実施例3においては3時間とした以外は、実施例1と同様にしてペロブスカイト型複合酸化物を形成した。いずれの実施例においても、工程(c)後の均一粒径酸化物は、実施例1と同様に、図1に示すように単一ピークを有する粒度分布を有していた。なお、図1の粒度分布を積算図にしたものを図2に示す。
また、実施例1〜3までの、工程(c)における粉砕条件をまとめたものを表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
また、実施例2,3に係るペロブスカイト型複合酸化物を焼結して焼結体を得た。この焼結体に対して電気電導率を測定した。その結果、実施例2,3ともに、良好な結果が得られた。
【0087】
<比較例1>
比較例1においては、実施例1の湿式粉砕処理(c)、混合工程(d)を行わなかったこと以外は実施例1と同様の手法を用いてペロブスカイト型複合酸化物を形成した。
【0088】
比較例1において得られた複合酸化物粒子は、BET法による比表面積測定では4.3m/gと算出された。また、嵩密度は1.92g/ccを示し、X線回折パターンからペロブスカイト構造を有する複合酸化物であることが確認された。
【0089】
また、第二の複合酸化物準備工程(d)においても述べたが、比較例において得られた複合酸化物粒子に対して粒度分布解析を行ったところ、図1に示すような粒度分布が得られた。0.5〜100μmの範囲に幅広く粒子が存在しており、少なくとも二山分布を構成することがわかる。平均粒子径(D50径)は17.63μmである。なお、標準偏差(σ)は17.04μm、変動係数は82.0%であった。また粒子の収縮率(1000℃)は3.2%であった。なお、図1の粒度分布を積算図にしたものを図2に示す。
【0090】
<比較例2>
比較例2においては、粉砕する手段を乾式の振動ボールミル(振幅±5.0mm・振動数1000rpm)で行った以外は実施例1と同様にして粉砕を施した。得られた結果を図1に示し、その粒度分布を積算図にしたものを図2に示す。図示したとおり、小粒径でかつ粒度分布が均整の粒子を得ることができなかった。なお、平均粒子径(D50径)は11.12μmである。
【0091】
実施例1と同様に比較例におけるペロブスカイト型複合酸化物を焼結した。この焼結体に対して電気電導率を測定した。その結果、実施例1〜3の結果よりも劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明に従う製造方法により得られる、上記物性を有するペロブスカイト型複合酸化物は、燃料電池用部材として適当な性質を有し、詳しくは燃料電池用電極、集電部材、燃料電池および燃料電池セルスタックを構成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも二種のペロブスカイト型(ABO)複合粉末を混合して得られる複合酸化物混合粉末により構成される固体電解質型燃料電池用複合酸化物。
ただし、前記複合酸化物混合粉末とは、第一の複合酸化物粉末が1〜10μmの範囲にのみ粒度分布を有し、かつその分布は変動係数(平均径(μm)/標準偏差(μm)×100で示される)が40%未満であるものと、第二の複合酸化物粉末として、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するような複合酸化物粉末、すなわち少なくともその粒度分布において、2つの頻度径を有する複合酸化物粉末である。
【請求項2】
前記第一の複合酸化物粉末と第二の複合酸化物粉末の混合割合は質量比で第一複合酸化物粉末よりも第二の複合酸化物粉末の方が高い割合とする、請求項1に記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物。
【請求項3】
前記第一および第二の複合酸化物粉末の構成物質の組成は同一であって、ペロブスカイト型複合酸化物のAサイトは希土類元素およびアルカリ土類元素の少なくとも一種ずつからなるとともに、Bサイトは遷移元素の少なくとも二種から構成される請求項1または2に記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物。
【請求項4】
前記第一の複合酸化物粉末は、ペレット状(直径15.0mmで200kgf/cmにて加圧し成形して得る)にし、大気中で1000℃120分間熱処理した際における収縮率が5%以上の複合酸化物粉末である請求項1ないし3のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物を用いる、固体電解質型燃料電池セル用接合剤。
【請求項6】
請求項1ないし4のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物を用いる、固体電解質型燃料電池用電極。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物を用いる、固体電解質型燃料電池用集電部材。
【請求項8】
請求項1ないし4のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物を用いる、固体電解質型燃料電池。
【請求項9】
請求項1ないし4のいずれかに記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物を用いる、固体電解質型燃料電池セルスタック。
【請求項10】
ペロブスカイト型複合酸化物の原料溶液に炭酸アルカリ水溶液を添加し、炭酸塩である非晶質前駆体を形成する工程(a)と、前記非晶質前駆体に対して熱処理を行い、結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を形成する工程(b)と、前記結晶性ペロブスカイト型複合酸化物を湿式粉砕し、1〜10μmの範囲にのみ粒度分布を有し、かつその分布の変動係数(平均径(μm)/標準偏差(μm)×100で示される)が40%未満である第一の複合酸化物粉末を形成する工程(c)と、前記工程(a)および(b)までを行い、少なくとも1〜10μmの間の領域に粒度分布(頻度径)を有し、また10〜100μmの範囲にも粒度分布(頻度径)を有するような第二の複合酸化物粉末を形成する工程(d)、前記第一の複合酸化物粉末と、前記第二の複合酸化物粉末とを混合する工程(e)を含む、固体電解質型燃料電池用複合酸化物混合物の製造方法。
【請求項11】
前記ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法において、特に工程(b)の前駆体からペロブスカイト型結晶を析出させる前駆体の熱処理は900〜1500℃の温度範囲で行われる請求項10に記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物混合物の製造方法。
【請求項12】
前記ペロブスカイト型複合酸化物の製造方法において、特に工程(c)における第一のペロブスカイト型複合酸化物粉末を得るために行う湿式粉砕処理は、サンドグラインダーにより行う請求項10または11に記載の固体電解質型燃料電池用複合酸化物混合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−228009(P2011−228009A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93909(P2010−93909)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】