説明

固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極及びその製造方法

【課題】 本発明の目的は、多孔質の膜を通してガス拡散性が良好で、それによって電池特性を良好に保ち、圧力損失が少なく均一なガス透過が可能で触媒層に均一に水素ガスや酸素ガスを供給することが可能なガス拡散電極及びその製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極は、2層以上の導電性不織布を積層してなる固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極であって、最上層の導電性不織布における平均繊維径と最下層の導電性不織布における平均繊維径が異なる。また、このようなガス拡散電極は、斜め上方に走行する抄紙ネットの傾斜走行部上に、第1のフローボックスから繊維スラリーを流し出すと共に、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍にフローボックスの下部が位置する第2のフローボックスから繊維スラリーを流し出すことにより得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極(以下、ガス拡散電極と略す)及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、燃料と酸化剤を連続的に供給し、これが電気化学反応したときの化学エネルギーを電力として取り出す発電システムである。この電気化学反応による発電方式を用いた燃料電池は、水の電気分解の逆反応、すなわち水素と酸素が結びついて電子と水が生成する仕組みを利用しており、高効率と優れた環境特性を有することから近年脚光を浴びている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、リン酸形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、アルカリ形燃料電池および固体高分子型燃料電池に分別される。近年、特に常温で起動し、かつ起動時間が極めて短い等の利点を有する固体高分子型燃料電池が注目されている。この固体高分子型燃料電池を構成する単セルの基本構造は、固体高分子電解質膜の両側に触媒層を有するガス拡散電極を接合し、その外側の両面にセパレータを配したものである。
【0004】
このような固体高分子型燃料電池では、まず、燃料極側に供給された水素がセパレータ内のガス流路を通ってガス拡散電極に導かれる。次いで、その水素は、ガス拡散電極にて均一に拡散された後に、燃料極側の触媒層に導かれ、白金などの触媒によって水素イオンと電子とに分離される。そして、水素イオンは電解質膜を通って電解質膜を挟んで反対側の酸素極における触媒層に導かれる。一方、燃料極側に発生した電子は、負荷を有する回路を通って、酸素極側のガス拡散電極に導かれ、更には酸素側の触媒層に導かれる。これと同時に、酸素極側のセパレータから導かれた酸素は、酸素極側のガス拡散電極を通って、酸素極側の触媒層に到達する。そして、酸素、電子、水素イオンとから水を生成して発電サイクルを完結する。なお、固体高分子型燃料電池に用いられる水素以外の燃料としては、メタノールおよびエタノール等のアルコールがあげられ、それらを直接燃料として用いることもできる。
【0005】
従来、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極としては、カーボン繊維からなるカーボンペーパーやカーボンクロスが用いられている。このカーボンペーパーやカーボンクロスにおいては、燃料電池運転時の加湿水やカソードでの電極反応で生成した水によるフラッディングを防止する目的で、表面またはその空隙内部に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の撥水性バインダーによって撥水処理が施されている。しかしながら、これらのカーボンペーパーやカーボンクロスは、空孔径が非常に大きいため、十分な撥水効果が得られずに空孔中に水が滞留することがあった。
【0006】
この点を改善するためのものとして、例えば、カーボンペーパーに炭素等からなる導電性フィラーを含む有孔性樹脂を含有させたガス拡散電極が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このようなガス拡散電極は、カーボンペーパー表面上に直接、炭素などからなる導電性フィラーを含む有孔性樹脂を構成する塗料を塗布し、微多孔質層を形成することが一般的に行われているが、含浸・溶媒抽出・乾燥して作製するために、カーボンペーパーの空隙を多く塞いでしまい、そのため、空隙内部のガス透過性が悪くなり、電池性能を低下させるという問題を有していた。
また、かかる微多孔質層は、カーボンペーパーの目開きや粗さ、膜厚などのバラツキによって、孔径や撥水性の制御が困難であるため、運転条件に応じた表面物性の設計自由度が低い他、表面の強度が低くカーボン粒子が脱落するなどの問題を有する場合がある。
【0007】
また、別の提案として、粒子径の分布中心の異なる少なくとも2種類の炭素粒子を混合したガス拡散電極を備えた固体高分子膜型燃料電池が記載され、粒子径の大きい方の炭素粒子として黒鉛を用いること、フッ素樹脂で被覆して撥水性を付与した炭素粒子を用いて拡散層を形成することが記載されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、この固体高分子膜型燃料電池は、形成された拡散層の強度が低く、ガス拡散電極を触媒相に圧着する際に多孔質が潰れやすいほか、拡散層の撥水性も十分でないという問題があった。
【0008】
一方、かかるガス拡散電極は、前記のように、一般的には流路を有するセパレータに接して配置される。カーボンペーパーは硬直な板状であるため、流路上に設置しても、流路の凹凸によって潰れることがなく、かかる流路との組み合わせにおいて好適に使用されているが、その一方で、セパレータの流路設計は水素や酸素などのガスを、ガス拡散電極に均一に供給する必要から、複雑な流路パターンを精密に形成する必要があり、高度な加工技術が必要である。よって、生産性が低く、従来の流路を有するセパレータの使用は、燃料電池の課題であるコスト低減の大きなネックとなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−303595号公報
【特許文献2】特開2001−57215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような問題点を改善することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、多孔質の膜を通してガス拡散性を良好に保ち、それによって電池特性を良好に保ち得るガス拡散電極を提供することにある。また、本発明の別の目的は、圧力損失が少なく均一なガス透過が可能で触媒層に均一に水素ガスや酸素ガスを供給することが可能なガス拡散電極を提供することにある。本発明の他の目的は、上記のガス拡散電極の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する本発明のガス拡散電極は、2層以上の導電性不織布を積層してなる固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極であって、最上層の導電性不織布における平均繊維径と最下層の導電性不織布における平均繊維径が異なることを特徴とする。
また、前記最上層の導電性不織布における平均繊維径が1μm以下であって、かつ、平均繊維長が10mm以下であることが好ましく、前記最下層の導電性不織布における平均繊維径が5μm〜5000μmであることが好ましい。
また、前記導電性不織布が、カーボン繊維からなり、該カーボン繊維が、ポリアクリロニトリル系カーボン繊維、フェノール系カーボン繊維、ピッチ系カーボン繊維、カーボンナノチューブの少なくとも1種類以上であることが好ましい。
また、前記導電性不織布が、樹脂繊維にカーボン粒子がコーティングされた導電性繊維からなり、該樹脂繊維の樹脂成分が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリアリレート、メラミン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニルサルホン、ポリアセタール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトンの少なくとも1種類以上からなることが好ましい。
【0012】
また、前記導電性不織布にフッ素系樹脂またはカーボン粒子とフッ素系樹脂の混合物を含み、該フッ素系樹脂がポリフッ化ビニリデン及び/またはその共重合体で、該フッ素系樹脂が、ビニリデンフロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体および/またはテトラフルオロエチレンとビニリデンフロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることが好ましい。
また、ガス拡散電極が、120℃、10MPa、5分の加圧による膜厚変化率が10%以内であることが好ましい。
また、本発明のガス拡散電極の製造方法は、斜め上方に走行する抄紙ネットの傾斜走行部上に、第1のフローボックスから繊維スラリーを流し出すと共に、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍にフローボックスの下部が位置する第2のフローボックスから繊維スラリーを流し出すことにより、複数層の不織布を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガス拡散電極は、ガス導入、ガス拡散およびガス微分散の機能を併せ持つものであり、圧力損失が少なく均一なガス透過が可能で触媒層に均一にガスを供給することが可能である。更に、他の機能として、機械的強度に優れるために耐久性が良好であり、また、撥水制御に優れるため、フラッディングやドライアップなどを起さないガス拡散電極である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極の断面層構成を示す説明図である。
【図2】本発明の他の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極の断面層構成を示す説明図である。
【図3】本発明にかかる多槽傾斜型湿式抄紙機の構成を示す断面図である。
【図4】本発明にかかる他の多槽傾斜型湿式抄紙機の構成を示す断面図である。
【図5】本発明にかかる他の多槽傾斜型湿式抄紙機の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
本発明のガス拡散電極Tは、図1の断面層構成に示すように少なくとも最上層の導電性不織布2と最下層の導電性不織布1からなる2層以上の導電性不織布からなるものである。また、本発明のガス拡散電極Tは、図2の断面層構成に示すように最上層の導電性不織布2と最下層の導電性不織布1との間に内層の導電性不織布3を有していてもよい。本発明のガス拡散電極は、図1又は図2の積層構成に限らない。
【0016】
本発明のガス拡散電極は、最上層の導電性不織布における平均繊維径と最下層の導電性不織布における平均繊維径が異なるものである。ここでいう平均繊維径とは、導電性不織布の繊維を電子顕微鏡で確認し、確認した視野内の繊維をサンプリングした100箇所の繊維における繊維径の平均をいうものである。また、下記で述べる導電性不織布における平均繊維長とは、導電性不織布の繊維を電子顕微鏡で確認し、確認した視野内の繊維をサンプリングした100箇所の繊維における繊維長さの平均をいうものである。
【0017】
最上層の導電性不織布における平均繊維径(以下、最上層の繊維径という)は、1μm以下であって、かつ、平均繊維長が10mm以下であることが望ましい。最上層の導電性不織布が形成する孔径は、フラッディングの防止から1〜10μm程度の場合が好適であり、最上層の繊維径が1μm以下の場合が、上記の孔径範囲に制御しやすい。
【0018】
一方、本発明では最上層の導電性不織布から最下層の導電性不織布の断面に向かってほぼ直角に、HやOガスを流入する。最下層の導電性不織布における平均繊維径は、5μm〜5000μmが望ましい。平均繊維径が5μm未満である場合は、繊維どうしの重なりあいが形成する間隙が狭くなり、HやOなどのガス流量が多い場合は、流入抵抗が大きくなり、面方向で圧力差が生ずることで、ガス流量の面内バラツキが大きくなる。一方、平均繊維径が5000μmより大きい場合は、ガス流量が多くても面方向での圧力損失が少なくなり、ガス拡散電極の面方向への気体流量のバラツキは小さくなる反面、繊維径が太くなることで表面の凹凸が過大となり内層部への圧力が不均一となり、その結果、最上層部への圧力も不均一となるために、膜−電極接合体(以下、MEAという)へのガス流入量が面方向で不均一となるほか、MEAを局所的に圧迫し、損壊する場合もあるため、発電性能に面内バラツキを発生する原因となるため好ましくない。
【0019】
以上記したように、本発明では、上記のように最下層部を形成する繊維を太くすることで空隙率を大きくし、しかも耐圧縮性が高い剛直な層を設けることで、ガス流入時の圧力損失が小さく、最下層部のいずれの部位においても、内圧が一定であることから、ガス拡散電極内のガス流量が面方向で均一となる。
【0020】
また、本発明のガス拡散電極では、最上層、最下層および内層などの各層を構成する導電性不織布が、カーボン繊維、または、樹脂繊維にカーボン粒子がコーティングされた導電性繊維により形成されていることが好ましい。本発明では、いずれも好適に使用することが可能であり、両者を混合して使用しても良い。カーボン繊維としては、ポリアクリロニトリル系カーボン繊維、フェノール系カーボン繊維、ピッチ系カーボン繊維、カーボンナノチューブの少なくとも1種類以上からなることが好ましいが、必ずしもこれらに限定されるものではない。また、カーボン粒子をコーティングする樹脂繊維の樹脂成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリアリレート、メラミン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニルサルホン、ポリアセタール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトンの少なくとも1種類以上が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0021】
また、本発明では、導電性不織布に、フッ素系樹脂や、カーボン粒子とフッ素系樹脂の混合物を塗布し、導電性や撥水性の制御を行うことが可能である。カーボン粒子としては、いわゆる導電性カーボンブラックと呼ばれる比較的比表面積が大きいものが初期性能を向上する上では好適であるが、適度な撥水性を付与したアセチレンブラックは、導電性と耐久性の両立から、より好適に用いられる。
【0022】
本発明で用いる上記フッ素系樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(以下、PVdFという)及び/またはその共重合体であることが好ましい、特にフッ素系樹脂が、ビニリデンフロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(以下、P(VdF−HFP)という)および/またはテトラフルオロエチレンとビニリデンフロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(以下、P(TFE−VdF−HFP)という)であることが好ましい。
本発明におけるフッ素系樹脂は、撥水性と接着性の両立が可能な上記にあげるものが好ましく使用されるが、アノード側のガス拡散電極と、カソード側のガス拡散電極において、撥水性を各種フッ素系樹脂の混合比率により調整することが可能である。即ち、カーボン粒子の樹脂繊維に対する固定化に関しては、PVdFやP(VdF−HFP)が好適であるが、撥水性の向上からは、P(TFE−VdF−HFP)が好適である。これら複数の樹脂の混合比率を最適化することで、カーボン粒子の樹脂繊維への定着や、アノードとカソードの撥水性をそれぞれ制御することが可能となる。また、上記フッ素系樹脂は、質量平均分子量が10万〜120万の範囲にあることが好ましい。質量平均分子量が10万未満の場合は、強度が低くなる場合があり、一方、120万を越えると、溶媒への溶解性が劣ることから、塗料化が困難となりやすく、塗料の粘度ムラが生じて、最終的なガス拡散電極の厚さ精度が低下し、触媒層との密着性が不均一となる場合がある。
【0023】
本発明においては、120℃、10MPa、5分の加圧による膜厚変化率が10%以内のガス拡散電極が好ましい。ここでいう膜厚変化率とは下記式(1)から得られる。
膜厚変化率(%)=1−加圧後膜厚/加圧前膜厚×100 (1)
燃料電池のアセンブリングにおいて、ガス拡散電極と触媒層とは、ガス供給や電熱、集電の目的から圧着させることが望ましい。また、ガス拡散電極は燃料電池を作動中の内圧変化にも耐えられる構造が求められる。本発明においては、上記の条件にて膜厚変化率は10%以内であることが望ましい。10%を超える範囲で膜厚が変化する場合は、ガス透過性や、排水性に問題を生ずる他、長期使用における耐久性に問題を生ずる場合がある。
【0024】
本発明のガス拡散電極においては、さらに上記の炭素材料以外のフィラーが含まれてもよい。このフィラーの添加によって、ガス・水の排出、多孔質膜の孔径および、炭素材料の分散をコントロールすることが可能になり、燃料電池性能に影響を及ぼすことになる。上記炭素材料以外のフィラーとしては、親水性を有するものが好ましく、無機微粒子または有機微粒子のいずれのものも用いることが可能であるが、燃料電池中のガス拡散電極内部の環境を考慮すると、無機微粒子の方が好ましい。撥水性を有するフッ素樹脂に、親水性のフィラーが添加されることによって、撥水部と親水部が微視的に入り組むことにより、および炭素材料と凝集体を形成して多孔質膜の孔径が拡大されることにより、ガス・水の排出が良好に行なわれるからである。その結果、フラッディング現象に起因する電池性能低下を防止することが可能となる。親水性のフィラーとしては、二酸化チタン及び二酸化ケイ素等の無機酸化物微粒子が好ましい。これらは、燃料電池中のガス拡散電極内部の環境に耐え、且つ、十分な親水性を持ち合わせているからである。上記フィラーの粒子径としては、いずれの大きさのものでも使用可能であるが、非常に微小の場合は、塗料中での分散が困難になり、また、非常に大きい場合は、多孔質の空孔を塞いでしまうという問題が発生する。したがって、一般には、粒子状の炭素材料の粒子径と同程度の粒径範囲、すなわち、10nm〜100nmの範囲のものが用いられる。
【0025】
また、本発明においては、極度の撥水性が求められる場合、上記炭素材料以外のフィラーとしてポリテトラフルオロエチレンの粒子を添加することがある。このとき、本発明のガス拡散電極は超撥水膜として働く。
また、上記フィラーとフッ素系樹脂の質量比は、フッ素系樹脂1質量部に対して、フィラー3質量部以下が好ましい。さらに好ましくは、1.5質量部以下である。上記フィラーの配合量が3質量部より多いと、ガス拡散電極の内部に充填され過ぎてしまい、ガス拡散能力の低下および導電性の低下の原因となる。結果的には、燃料電池性能の低下を引き起こしやすい。
【0026】
本発明において、ガス拡散電極の厚みとしては、5μm乃至5000μmであることが好ましく、より好ましくは10μm乃至4000μmであり、さらに好ましくは15μm乃至3000μmである。厚みが5μmより小さいと、保水効果が十分でなく、5000μmより大きいと、厚すぎてガス拡散能力、排水能力が低下し、電池性能低下を引き起こしやすい。
【0027】
本発明のガス拡散電極における空隙率は、60%〜95%の範囲が好適であり、より好ましくは70%以上、特に好ましくは80%以上の範囲である。空隙率が60%未満では、ガス拡散能および水の排出が不十分であり、95%を超えると、機械的強度が著しく低下し、燃料電池を組み上げるまでの工程で破損しやすくなる。
また、密度は、下記式(2)に示すように、ガス拡散電極の膜厚および単位面積当たりの質量で決定でき、0.10g/cm乃至0.65g/cmの範囲が上記と同様の理由で好適である。
密度(g/cm)=単位面積当たりの質量/(膜厚×単位面積) (2)
【0028】
また、孔径は、0.5μm〜10μmの範囲が好適であり、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上である。孔径が0.5μm以下であると、ガス拡散能および水の排出が不十分である。ここで、孔径とは、バブルポイント法による平均孔径をいう。
【0029】
次に本発明のガス拡散電極の製造方法について詳述する。
本発明のガス拡散電極の製造方法に関しては、各種の不織布製造方法が用いられるが、特に地合や膜厚制御等の均一性の確保から湿式抄造法が好適に用いられる。特に本発明で用いる導電性不織布の最上層と最下層などの各層が一体的に形成することが望ましい。このような各層を一体的に形成する製造方法として、本発明のガス拡散電極の製造方法は、斜め上方に走行する抄紙ネットの傾斜走行部上に、第1のフローボックスから繊維スラリーを流し出すと共に、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍にフローボックスの下部が位置する第2のフローボックスから繊維スラリーを流し出すことにより、複数層の不織布を形成する製造方法が好ましい。
【0030】
上記本発明のガス拡散電極の製造方法は、図3で示した多槽傾斜型湿式抄紙機を用いる。図3の多槽傾斜型湿式抄紙機においては、抄紙ネット10は、複数のガイドローラーによって矢印α方向に走行される。ガイドローラー11からガイドローラー12の間の傾斜した抄紙ネット10を傾斜走行部13という。本発明においては、第1のフローボックス14内の吃水線WLと傾斜走行部13との交差部近傍Aに第2のフローボックス15の下部が位置する。該交差部近傍Aでは、第1のフローボックス14内の繊維スラリー16と第2のフローボックス15内の繊維スラリー17が、隔壁18を隔てて隣接している。
交差部近傍Aにおける隔壁18と傾斜走行部13との間は、間隙を有し、抄紙ネット10の走行にともない第1のフローボックス14から流れ出された繊維スラリー16は、この間隙を通って第2のフローボックス15内の繊維スラリー17と混合される。
本発明において、図3の例ではフローボックスが2段となっているが、図4のように第3のフローボックス20を加えた3段以上の多数のフローボックスを有してもよい。
【0031】
本発明においては、上記の多槽傾斜型湿式抄紙機を用いてガス拡散電極を製造するものである。すなわち、図3において斜め上方に走行する抄紙ネット10の傾斜走行部13上に、第1のフローボックス14から繊維スラリー16を流し出すと共に、該第1のフローボックス14内の吃水線WLと傾斜走行部13との交差部近傍Aに、フローボックスの下部が位置する第2のフローボックス15から繊維スラリー17を流し出すことにより、複数層の不織布からなる抄紙シートを形成することができる。
交差部近傍Aで第1のフローボックス14の繊維スラリー16と第2のフローボックス15の繊維スラリー17とが湿潤状態で混合されるため、繊維どうしが絡み合い、得られた抄紙シートの積層間は、層間剥離がおこりにくい。交差部近傍Aにおける第1のフローボックス14内の吃水線WLは、抄紙ネット10の傾斜走行部13に接触させないことが好ましい。吃水線WLが、傾斜走行部13に接触させた場合は、繊維スラリー16が傾斜走行部13に流れ出された際に抄紙ネット内部に水分が吸収され、第2のフローボックス15の繊維スラリー17との繊維どうしの絡み合いが十分得られにくくなる。
【0032】
上記繊維スラリーは、前記導電性不織布を構成する繊維を水などの液体に混合したものである。具体的には、第1のフローボックス14の繊維スラリー16としては、カット繊維や低叩解繊維などを用いる。また、第2のフローボックス15の繊維スラリー17としては、ミクロフィブリル化繊維などを用いる。
次に、カーボン粒子に対してPVdF樹脂及びP(TFE−VdF−HFP)などを混合し溶解・分散した塗料を作成する。溶媒はアミド系溶媒を用いて、攪拌機で混合し塗料化する。該塗料をポリエチレンテレフタレートフィルム上にキャスティングし、乾燥工程に投入する前に上記の操作で得られた抄紙シートを該塗料上に敷き伏せて、抄紙シート全体に塗料が染み込むように塗料と抄紙シートを一体化後、オーブンで乾燥する。乾燥後に取り出して、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離後に得られるシートが、本発明のガス拡散電極となる。
【0033】
前記本発明のガス拡散電極の製造方法では、最下層から最上層に向かって繊維径が連続的に細くなることで、内径が最上層に向かって連続的に小さくなるように不織布を形成することが可能となる。このことによって、最下層から流入するガスは最上層にいたる経路を連続的に小さく均一にすることでガスの流動抵抗を小さくすることが可能となり、ガス拡散電極の最上層から、触媒相に向かって面方向のバラツキが少ない極めて均一なガスを供給することが可能となる。また、かかる製造方法を用いることで、最上層とその他の層の繊維が交絡することにより、両層の界面が実質上なくなるか、または、界面において最上層の繊維がその他の層の繊維に絡むことでアンカー効果により両層の界面をバインダーレスで結着することが可能となる。
【0034】
また、本発明のガス拡散電極の製造方法は、図5で示した多槽傾斜型湿式抄紙機を用いてもよい。図5の多槽傾斜型湿式抄紙機においては、複数のガイドローラーによって矢印α方向に走行される抄紙ネット10の傾斜走行部13上に、予め不織布を巻回された巻き出しロール30から不織布31を走行させる。そして、走行させた不織布31上には、第1のフローボックス14内の繊維スラリー16と第2のフローボックス15内の繊維スラリー17が流し出されて、2層の不織布からなる層が形成される。
以上にように本発明の製造方法によって、最下層から最上層まで、異なる材質からなる繊維や不織布を互いに交絡させることで、孔径の大きさが最下層から最上層に向かって連続的に小さくすることが可能となり、しかも、一工程で形成できることで、生産性に向上にも寄与することが可能となる。
【0035】
また、最下層とその直上に位置する内層部を両者とも既存の不織布で構成し、2つの巻き出しロールで上記と同様に湿式抄造すれば4層化も可能である。また、一旦抄造した3層の不織布を用いて、その上に同様に内層部と最上層部を形成し、より緩やかに孔径変化に傾斜構造を形成することも可能である。
本発明を実施例によってより具体的に説明する。以下のようにガス拡散電極を作製し、続いて該ガス拡散電極を燃料極側および酸素極側の何れにも配備した固体高分子型燃料電池を作製し評価した。
【実施例1】
【0036】
図5の多槽傾斜型湿式抄紙機において、最下層として巻き出しロール30に平均繊維径20μm(坪量50g/m)のポリアリレート不織布を配した。また、第1のフローボックス14内の繊維スラリー16として平均繊維径5μmのポリアリレート繊維のスラリーを導入し、第2のフローボックス15内の繊維スラリー17として平均繊維径0.3μm、平均繊維長3mmのMF化アラミド繊維のスラリーを導入した。そして、ポリアリレート繊維の不織布が坪量30g/m、MF化アラミド繊維の不織布が坪量10g/mとなるように3種類の繊維を一体化した抄紙シート1を得た。
【0037】
次に、PVdF30質量部及びP(TFE−VdF−HFP)10質量部を600質量部の1−メチル−2−ピロリドンに溶解し、平均一次粒子径40nmのアセチレンブラック100質量部を分散し、混合溶媒を得た。次いで、45質量部のジエチレングリコールを混合、撹拌して塗料1を得た。
【0038】
次に、塗料1をポリエチレンテレフタレートフィルム上にキャスティングし、乾燥工程に投入する前に上記の操作で得られた抄紙シート1を該塗料1上に敷き伏せて、抄紙シート全体に塗料1が染み込むように塗料1と抄紙シートを一体化後、オーブンで乾燥した。乾燥後に取り出して、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離後し本発明のガス拡散電極1を得た。
【実施例2】
【0039】
実施例1の塗料1において、PVdF20質量部及びP(TFE−VdF−HFP)20質量部にした以外は塗料1と同様にして塗料2を得た。
次に、実施例1において、塗料1の代わりに塗料2を用いた以外は同様にして本発明のガス拡散電極2を得た。
【実施例3】
【0040】
図5の多槽傾斜型湿式抄紙機において、最下層として巻き出しロール30に平均繊維径30μmのポリアクリロニトリル系炭素繊維と平均繊維径20μmのポリアリレート繊維を6:4の質量比で混合した不織布(坪量50g/m)を配した。また、第1のフローボックス14内の繊維スラリー16として平均繊維径5μmのポリアクリロニトリル系炭素繊維のスラリーを導入し、第2のフローボックス15内の繊維スラリー17として平均繊維径0.2μm、平均繊維長2mmのMF化アラミド繊維のスラリーを導入した。そして、ポリアクリロニトリル系炭素繊維の不織布が坪量30g/m、MF化アラミド繊維の不織布が坪量10g/mとなるように3種類の繊維を一体化した抄紙シート2を得た。
次に、実施例1で得た塗料1をポリエチレンテレフタレートフィルム上にキャスティングし、乾燥工程に投入する前に上記の操作で得られた抄紙シート2を該塗料1上に敷き伏せて、抄紙シート全体に塗料1が染み込むように塗料1と抄紙シートを一体化後、オーブンで乾燥した。乾燥後に取り出して、ポリエチレンテレフタレートフィルムを剥離後し本発明のガス拡散電極3を得た。
【実施例4】
【0041】
実施例3において、塗料1の代わりに実施例2で得た塗料2を用いた以外は同様にして本発明のガス拡散電極4を得た。
【0042】
[比較例1]
実施例1において、最下層として巻き出しロール30に配した平均繊維径20μm(坪量50g/m)のポリアリレート不織布の代わりに、平均繊維径0.3μm(坪量50g/m)のポリエチレン不織布とした以外は同様にして比較用のガス拡散電極5を得た。
【0043】
(膜厚変化率)
実施例1〜4及び比較例1で得られたガス拡散電極の単位面積当たり熱プレスによる、空隙潰れの程度を確認するため、熱プレス(120℃、10MPa、5分)を行い膜厚変化率(%)を測定した。その結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

【0045】
(固体高分子型燃料電池)
(1)固体高分子型燃料電池の作製
燃料電池1用のガス拡散電極として、前記で得られた本発明の50mm角のガス拡散電極1及びガス拡散電極2を各1枚用意した。また、燃料電池2用のガス拡散電極として、前記で得られた本発明の50mm角のガス拡散電極3及びガス拡散電極4を各1枚用意した。燃料電池3用のガス拡散電極として、前記で得られた比較用の50mm角のガス拡散電極5を2枚用意した。白金触媒を担持させたカーボンとイオン伝導性樹脂および水とエタノールの混合溶媒からなる触媒塗料を上記のガス拡散電極の最上層側の表面にそれぞれ塗布、乾燥し、触媒層を形成し、触媒層付きガス拡散電極を得た。それぞれの白金触媒の量は0.3mg/cmであった。次いで、触媒層付きガス拡散電極を、触媒層面が電解質膜(デュポン社製、商品名:ナフィオン117)と接するように配し、熱プレス(120℃、10MPa、10分)にて触媒層付きガス拡散電極と電解質膜とを接合し、膜−電極接合体を得た。得られた膜−電極接合体の両側に表面が平滑な黒鉛製セパレータを配し、単セルに組み込んで評価用の燃料電池1〜3を作製した。なお、燃料電池1ではガス拡散電極1を燃料極側に、またガス拡散電極2を空気極側に配した。また、燃料電池2では、ガス拡散電極3を燃料極に、またガス拡散電極4を空気極側に配した。燃料電池3では、燃料極側、空気極側ともにそれぞれガス拡散電極5を用いた。
【0046】
(2)固体高分子型燃料電池の評価
上記、燃料電池1〜3の発電特性を下記の要領で評価した。燃料電池の供給ガスとして、燃料極側に水素ガスおよび酸素極側に酸素ガスを用いた。水素ガスは85℃の加湿温度で500mL/min、0.1MPaとなるように供給し、酸素ガスは70℃の加湿温度で1000mL/min、0.1MPaとなるように供給した。この条件下で、電流密度1A/cmでの電圧を測定した。その結果を表2に示す。
【0047】
【表2】

【0048】
表2に示すように、実施例〜4で得られたガス拡散電極を備えた燃料電池1及び2は、比較例1で得られたガス拡散電極を備えた燃料電池3よりも、電流密度1A/cmにおける電圧は高く、発電特性が優れていた。燃料電池3は、最下層の不織布がポリエチレンであり圧縮による膜厚変化が大きいため、空隙率が低くなり、発電性能が低い結果であった。
【符号の説明】
【0049】
1 最下層の導電性不織布
2 最上層の導電性不織布
3 内層の導電性不織布
T 固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2層以上の導電性不織布を積層してなる固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極であって、最上層の導電性不織布における平均繊維径と最下層の導電性不織布における平均繊維径が異なることを特徴とする固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項2】
前記最上層の導電性不織布における平均繊維径が1μm以下であって、かつ、平均繊維長が10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項3】
前記最下層の導電性不織布における平均繊維径が5μm〜5000μmであることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項4】
前記導電性不織布が、カーボン繊維からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項5】
前記カーボン繊維が、ポリアクリロニトリル系カーボン繊維、フェノール系カーボン繊維、ピッチ系カーボン繊維、カーボンナノチューブの少なくとも1種類以上であることを特徴とする請求項4に記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項6】
前記導電性不織布が、樹脂繊維にカーボン粒子がコーティングされた導電性繊維からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項7】
前記樹脂繊維の樹脂成分が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、半芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミド、ポリエステル、ポリアリレート、メラミン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニルサルホン、ポリアセタール、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリケトンの少なくとも1種類以上からなることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項8】
前記導電性不織布にフッ素系樹脂またはカーボン粒子とフッ素系樹脂の混合物を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項9】
前記フッ素系樹脂がポリフッ化ビニリデン及び/またはその共重合体であることを特徴とする請求項8に記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項10】
前記フッ素系樹脂が、ビニリデンフロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体および/またはテトラフルオロエチレンとビニリデンフロライドとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体であることを特徴とする請求項8に記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項11】
120℃、10MPa、5分の加圧による膜厚変化率が10%以内であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極。
【請求項12】
斜め上方に走行する抄紙ネットの傾斜走行部上に、第1のフローボックスから繊維スラリーを流し出すと共に、該第1のフローボックス内の吃水線と傾斜走行部との交差部近傍にフローボックスの下部が位置する第2のフローボックスから繊維スラリーを流し出すことにより、複数層の不織布を形成することを特徴とする固体高分子型燃料電池用ガス拡散電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−28849(P2011−28849A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170041(P2009−170041)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【Fターム(参考)】