説明

固体高分子型燃料電池用セパレータおよびそれを用いた固体高分子型燃料電池用セル

【課題】膜/電極接合体(MEA)の表裏両面に第一セパレータと第二セパレータを重ね合わせて酸化ガス流路と燃料ガス流路を形成した固体高分子型燃料電池用のセルを、少ない部品点数で容易に製造可能な、新規な構造の固体高分子型燃料電池用セパレータと、少ない部品点数で容易に且つ低コストに製造可能な、新規な構造の固体高分子型燃料電池用のセルを提供する。
【解決手段】金属板に対して、一方向で対向位置する一対の対向辺部の各上部と各下部にそれぞれ貫通孔34a〜dを設けると共に、略対角方向で対向位置せしめられた一方の対向辺部の上部貫通孔34aと他方の対向辺部の下部貫通孔34bを相互に接続する凹溝48を形成することによって構成された単一種類の金属製セパレータを表裏反対にすることによって、膜/電極接合体14の両面にそれぞれ重ね合わせられる第一セパレータ20と第二セパレータ22を実現した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池用のセルおよびそれに用いられるセパレータに係り、特に部品点数を抑えることにより製造を容易とすることの出来る、新規な構造の固体高分子型燃料電池用のセルおよびそれに用いられるセパレータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、良く知られているように、固体のイオン交換膜等の固体高分子膜を電解質としてその両面に重ね合わせた一対の触媒電極の表面に対して、酸化剤としての酸素(空気)と燃料としての水素を供給し、電気化学的に反応させることによって電力を得るものである。
【0003】
ところで、固体高分子型燃料電池では、目的とする電圧を安定して効率的に得るために、各触媒電極の表面上に酸素や水素を安定して供給することが重要であると共に、適当な温度に維持することも重要となる。
【0004】
そこで、一般に、固体高分子電解質膜の両面に対してそれぞれ通気性を有する多孔質膜状の酸化電極と燃料電極を配設した膜/電極接合体(MEA)に対して、その酸化電極の表面に第一セパレータを重ね合わせると共に、燃料電極の表面に第二セパレータを重ね合わせた構造のセルが採用されている。この単セルを、複数段重ね合わせて電気的に直列接続することで、目的とする電圧を得るようにした構造とされている。
【0005】
そして、第一セパレータに設けた凹溝を酸化電極で覆蓋することによって酸化ガス流路が形成されると共に、第二セパレータに設けた凹溝を燃料電極で覆蓋することによって燃料ガス流路が形成されている。また、第一セパレータ又は第二セパレータの電極と重ね合わされる主面に対する裏側の副面には、第一セパレータ又は第二セパレータに設けた凹溝を隣接する別の単セルの副面で覆蓋することによって冷却流路が形成されている。
【0006】
また、相互に重ね合わされた各単セルの外周縁部には、重ね合わせ方向に貫通するようにして、酸化ガス供給孔および酸化ガス排出孔と、燃料ガス供給孔および燃料ガス排出孔、更に冷却水供給孔および冷却水排出孔が、それぞれ形成されている。そして、これらの給排孔を通じて給排される酸化ガス,燃料ガス,冷却水が、各単セルにおいて、それぞれ、上述の酸化ガス流路,燃料ガス流路,冷却水流路に流通せしめられて、各排出孔から排出されるようになっている。
【0007】
ここにおいて、これら酸化ガス流路,燃料ガス流路,冷却水流路の形態は、発電の効率や安定性に関して重要な影響を与えるものであると考えられており、従来から、各種の流路形態が提案されている。
【0008】
ところが、従来構造の単セルにおいては、例えば特開2002−83610号公報(特許文献1)に開示されているように、膜/電極接合体(MEA)の両側に重ね合わされる第一セパレータと第二セパレータは、互いに異なる構造のものが採用されている。具体的には、これら第一セパレータと第二セパレータには、MEAに重ね合わされるそれぞれの主面に対して各別に特定形態のガス流路を形成するための凹溝が形成されていると共に、第一セパレータと第二セパレータの何れか一方の副面には、冷却水流路を形成するための凹溝が形成されている。
【0009】
そのために、第一セパレータと第二セパレータを合成樹脂材料やカーボン材料,金属材料の何れで形成する場合であっても、それを製造するための金型等の成形型を各別に準備しなければならなかった。また、製造された第一セパレータと第二セパレータを、各別に数量管理して製造し、供給する必要かあることから、管理に多くの労力が必要とされた。更に、燃料電池セルの製造に際しても、第一のセパレータと第二のセパレータを区別して取り扱って、MEAにおける特定の側の面に重ね合わせる必要がある。従って、製造が面倒でコストも高くなるという問題があった。
【0010】
また、従来構造の単セルでは、一般に、互いに重ね合わされる部材間には、別体のシールゴムが介在するようにして配設されていた。しかしながら、上述の如く第一セパレータや第二セパレータの主面にガス通路用の凹溝が形成されいる場合には、第一セパレータや第二セパレータの外周縁部に貫設したガスの供給流路や排出流路に当該凹溝を接続する部分において、シールゴムに対する挟圧力が不足してガスシール性が低下するおそれがあった。なお、この問題に対処するために、前記特許文献には、ガスの供給流路や排出流路に凹溝を接続する部分の通路を、第一セパレータや第二セパレータの副面に形成した構造が開示されているが、このような連通構造では、第一セパレータや第二セパレータの構造が複雑となり、製造も難しく、コストが抑えられないという問題があったのである。
【0011】
【特許文献1】特開2002−83610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、MEAの表裏両面に第一セパレータと第二セパレータを重ね合わせて酸化ガス流路と燃料ガス流路を形成した固体高分子型燃料電池用のセルを、少ない部品点数で容易に製造することが出来る、新規な構造の固体高分子型燃料電池用セパレータを提供することにある。
【0013】
また、本発明は、少ない部品点数で容易に且つ低コストに製造することの出来る、新規な構造の固体高分子型燃料電池用のセルを提供することも、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0015】
(固体高分子型燃料電池用のセパレータに関する本発明の態様1)
すなわち、固体高分子型燃料電池用のセパレータに関する本発明の第1の態様は、固体高分子電解質膜の両面に酸化電極と燃料電極を配した膜/電極接合体に対して、該酸化電極に重ね合わされて該酸化電極の表面に酸化ガス流路を形成する第一セパレータと、該燃料電極に重ね合わされて該燃料電極の表面に燃料ガス流路を形成する第二セパレータとからなる、固体高分子型燃料電池用セパレータであって、矩形薄板状の金属板に対してプレス加工によって打抜き及び絞りを施して、一方向で対向位置する一対の対向辺部の各上部と各下部にそれぞれ貫通孔を設けると共に、略対角方向で対向位置せしめられた一方の対向辺部の上部貫通孔と他方の対向辺部の下部貫通孔を相互に接続する凹溝を略平行に延びるように複数条形成することによって金属製セパレータを構成し、この単一種類の金属製セパレータを表裏反対にすることによって前記第一セパレータおよび前記第二セパレータとして用いることが出来るようにした固体高分子型燃料電池用セパレータを、特徴とする。
【0016】
このような本態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータにおいては、金属板の一対の対向辺部の各上部と各下部にそれぞれ貫通孔を設けると共に、二枚の金属板を表裏反対とすることにより、一方の金属板の一方の対向辺部における上部貫通孔が、他方の金属板の他方の対向辺部における上部貫通孔又は一方の対向辺部における下部貫通孔とされると共に、一方の金属板の他方の対向辺部における下部貫通孔が、他方の金属板の一方の対向辺部における下部貫通孔又は他方の対向辺部における上部貫通孔とされる。その結果、一方の金属板において一方の対向辺部の上部貫通孔と他方の対向辺部の下部貫通孔を相互に接続するように形成された凹溝は、他方の金属板、即ち一方の金属板に対して表裏反対とされた金属板において、一方の対向辺部の下部貫通孔と他方の対向辺部の上部貫通孔を相互に接続するようになる。従って、同じ金属製セパレータを用いて、その凹溝が形成された方の面をMEA(膜/電極接合体)の酸化電極側と燃料電極側に重ね合わせることにより、酸化電極の表面においては、酸化ガスの供給孔と排出孔を相互に接続するように凹溝が延びることとなり酸化ガス流路が形成される。また、燃料電極の表面においては、燃料ガスの供給孔と排出孔を相互に接続するように凹溝が延びることとなり燃料ガス流路が形成される。それ故、第一セパレータと第二セパレータを表裏反対にするだけで実現できて、部品を共通化することが可能となり、部品の製造,管理及び組付けの各作業の効率化が実現される。
【0017】
更に、第一、第二のセパレータを金属製としたことにより、カーボン等を用いたセパレータに比して大きな強度を確保することが出来るため、第一,第二のセパレータを十分に薄肉としつつも必要な強度を確保することが出来る。しかも、カーボン等を用いたセパレータに比して金属製のセパレータは導電性に優れている。それ故、十分な強度を確保しつつ、よりコンパクトで高性能な燃料電池の実現が可能となる。
【0018】
加えて、金属のプレス加工で形成するようにしたから、非常に高い寸法精度で高い生産性が実現される。
【0019】
また、金属製のセパレータは、樹脂やカーボンに比して耐熱温度も極めて高く、熱による変形や収縮等の問題が回避される。
【0020】
更に、金属製としたことにより、リサイクル等による再利用も容易である。
【0021】
(固体高分子型燃料電池用のセパレータに関する本発明の態様2)
また、固体高分子型燃料電池用セパレータに関する本発明の第2の態様は、前記第1の態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、前記金属製セパレータにおいて、何れかの方向で互いに対向位置する対向辺部の各中央部分にそれぞれ中央貫通孔を設けて、それら中央貫通孔により冷却水の供給孔および排出孔が形成されるようにすると共に、かかる金属製セパレータの二枚を、前記凹溝の開口側とは反対の副面において互いに直接に重ね合わせることによって、それら凹溝の底部において互いに当接させて導通せしめるようにすると共に、互いに重ね合わせた二枚の該金属製セパレータの両副面間において、かかる対向辺部の各中央部分に設けた中央連通孔の間に跨がって延びる冷却水流路が形成されるようにしたことを特徴とする。
【0022】
このような本態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータでは、二枚の金属製セパレータを副面側で重ね合わせて、凹溝の底部において互いに当接させて導通せしめると共に、二枚の金属製セパレータの両副面間において、対向辺部の各中央部分に設けた中央連通孔の間に跨って延びる冷却水流路が形成されるようにした。従って、二枚の金属製セパレータの両副面間において、凹溝の底部を巧く使って導通状態を確保することが出来ると共に、両副面間のスペースを有効に利用して冷却水流路を形成することが出来る
【0023】
(固体高分子型燃料電池用のセパレータに関する本発明の態様3)
また、本発明の第3の態様は、前記第2の態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、互いの副面を重ね合わせた二枚の前記金属製セパレータの両副面間において、隣り合って略平行に延びる前記複数条の凹溝の間に現出する通路状の領域を利用して冷却水流路が形成されるようにしたことを特徴とする。
【0024】
このような本態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータでは、凹溝の間に現れる通路上の領域を巧く利用して、冷却水流路を形成するための特別な部品を必要とすることなく、冷却水流路を二枚の金属製セパレータの両副面間において形成することが出来る。それ故、部品点数を減らすことが可能となると共に、二枚の金属製セパレータの両副面間のスペースを巧く利用することで、よりコンパクトな固体高分子型燃料電池用セパレータを実現することが出来る。更に、凹溝の形状を適当に設定することにより、例えば蛇行した冷却水流路等、広い領域を効率的に冷却することの出来るものが実現可能となる。
【0025】
(固体高分子型燃料電池用のセパレータに関する本発明の態様4)
また、本発明の第4の態様は、前記第2又は第3の態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、前記金属製セパレータの副面に対して副面シールゴム層を固着形成すると共に、該副面シールゴム層を利用して、互いに重ね合わせた該金属製セパレータの副面間に形成される前記冷却水流路を部分的に形成するようにしたことを特徴とする。
【0026】
このような本態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータでは、二枚の金属製セパレータを重ね合わせる場合に、かかる二枚の金属製セパレータの両副面間の不要な対向面間の隙間を充填したり、或いは冷却水用凹溝を形成したり等することが出来る。これにより、冷却水流路の設計自由度が大きく確保できる。また、副面シールゴム層は、金属製セパレータの副面側において導通部分を除く領域に形成される。即ち、例えばセパレータの外周縁部の重ね合わせ部分を外部空間からシールするためや、或いは、MEAの配設領域の外周部分を環状にシールするために形成される。これにより、別部品としてシールゴムを形成するよりも、部品点数が少なくて済み、組付作業も容易で、組付け時のミスによる不具合発生も防止できる。更に、特に本発明では、セパレータとして金属製セパレータを採用したため、ゴムの加硫接着などによる被着形成が容易に実現可能となる。
【0027】
(固体高分子型燃料電池用のセパレータに関する本発明の態様5)
また、本発明の第5の態様は、前記第1乃至第4の何れかの態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータにおいて、前記金属製セパレータにおける前記凹溝が開口する主面に対して主面シールゴム層を固着形成して、該主面シールゴム層により、該凹溝の形成領域の周囲を囲むようにすると共に、該凹溝の両端部における前記上部及び下部の貫通孔との接続部位では、該凹溝の接続部位の開口部分を跨いで溝幅方向に連続して延びるように該主面シールゴム層を形成したことを特徴とする。
【0028】
このような本態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータでは、凹溝形成部位においても、例えば凹溝を蓋するプレート部材を別途に設けることなく、シールゴム層でシール性能を有利に確保できる。また、シールゴム層は金属製セパレータに対して固設されており、好適には金属製セパレータの主面に対して加硫接着される。従って、シールゴム層と金属製セパレータの隙間にガスが入り込むことに起因するリーク等の問題が防止される。なお、凹溝の開口部分を跨ぐシールゴム層は凹溝の両側で金属製セパレータに固着されているため、単純な剪断方向の弾性だけでなく、引張方向の弾性によっても、シール時の圧縮力が有利に確保され得る。
【0029】
(固体高分子型燃料電池用のセルに関する本発明の態様6)
また一方、固体高分子型燃料電池用セルに関する本発明の第6の態様は、請求項1乃至5の何れかに記載の金属製セパレータの一対を用い、該固体高分子電解質膜の両面に酸化電極と燃料電極を配した膜/電極接合体に対して、該金属製セパレータの一つを、その前記凹溝が形成された主面を該酸化電極に重ね合わせて酸化ガス流路を形成すると共に、該金属製セパレータの他の一つを、該燃料電極に重ね合わせて燃料ガス流路を形成したことを特徴とする。
【0030】
このような本態様に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セルでは、少ない部品の種類で製造が可能であるため、部品の製造,管理及び組付け等の効率向上が実現される。更に、金属製セパレータを採用することにより、導電樹脂等によるセパレータを使用する固体高分子型燃料電池に比して、剛性と電気的性能を高度に確保しつつコンパクト化を実現することが可能となる
【発明の効果】
【0031】
上述の説明から明らかなように、本発明に従う構造とされた金属製のセパレータにあっては、MEAの酸素側電極と燃料側電極の何れに重ね合わせられるセパレータとしても同一のものが採用され得る。従って、酸素流路を形成するセパレータと燃料流路を形成するセパレータを製造する金型が一つで済む。また、セパレータのスタック量の管理や、輸送時の数量管理,組立現場での数量管理が大幅に簡略化され得る。しかも、MEAに重ね合わせてセルを製造するに際しても、セパレータの組み付けの労力が軽減されると共に、セパレータの組付けの間違いによる不良発生が効果的に低減され得る。
【0032】
また、本発明に従う構造とされた単セルにおいては、上述の理由から、製造に際しての労力が大幅に軽減されると共に、不良品の発生も抑えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0034】
先ず、図1には、本発明に従う構造とされた単セル12を積層状態で多数組み付けることによって構成された固体高分子型燃料電池(PEFC)10の概略斜視図が示されている。なお、図1に示された固体高分子型燃料電池10は、図示された状態下での上下方向および左右方向が、鉛直方向および水平方向となるように設置されることとなる。以下の説明中、上下,左右方向および鉛直,水平方向は、原則として、この図1に示された設置状態下でのことを言うこととする。
【0035】
より詳細には、かかる固体高分子型燃料電池10を構成する単セル12は、図2に示されているように、固体のイオン交換膜等の固体高分子電解質膜としての固体高分子膜14を電解質としてその両面に一対の触媒電極としての燃料電極16aおよび酸化電極16bを重ね合わせて接合一体化した構造の膜/電極接合体(MEA)18を備えている。また、この膜/電極接合体18を両面からサンドイッチ状に挟むようにして、第一セパレータ20と第二セパレータ22が重ね合わされている。そして、かかる単セル12が、板厚方向で複数枚重ね合わされることにより、固体高分子型燃料電池10の主体を為すセルスタックを構成するようになっている。
【0036】
なお、燃料電極16aおよび酸化電極16bは、公知のように触媒としての白金を有しており、例えばカーボン等の導電性材料によって、ガスを透過する多孔質構造等をもって形成されている。しかし、固体高分子膜14の材質等を含めて、燃料電極16aと酸化電極16bを含んで構成される膜/電極接合体(MEA)18の材料やミクロ領域での構造等は、本発明において特徴的部分ではなく、従来から公知の技術が何れも適用可能であることから、ここでは、詳細な説明を省略する。
【0037】
そして、各単セル12には、膜/電極接合体18と第一セパレータ20の重ね合わせ面間において、燃料(水素)を供給する燃料ガス流路24が形成されている。また、膜/電極接合体18と第二セパレータ22の重ね合わせ面間には、空気(酸素)を供給する酸化ガス流路26が形成されている。更に、相互に重ね合わされることによってセルスタックを構成する、隣接する二つの単セル12,12の間には、一方の単セル12の第一セパレータ20と他方の単セル12の第二セパレータ22の重ね合わせ面間において、冷却水を流通せしめる冷却水流路28が形成されている。
【0038】
また、各単セル12には、固体高分子型燃料電池10の設置状態下において水平方向で対向位置する第一辺縁部30と第二辺縁部32の各上部と下部に位置して、燃料ガス供給孔34a,燃料ガス排出孔34b,酸化ガス供給孔34c,酸化ガス排出孔34dが、それぞれ、積層方向に貫通して形成されている。特に、燃料ガス供給孔34aと燃料ガス排出孔34bが、一つの対角方向で略対向位置して形成されていると共に、他方の対角方向で略対向位置するように、酸化ガス供給孔34cと酸化ガス排出孔34dが形成されている。
【0039】
また、各単セル12における第一辺縁部30と第二辺縁部32の各中央部分には、冷却水供給孔34eと冷却水排出孔34fが、水平方向で対向位置して、それぞれ、積層方向に貫通して形成されている。
【0040】
さらに、各単セル12では、膜/電極接合体18が、第一及び第二セパレータ20,22よりも一回り小さな矩形プレート形状とされている。
【0041】
これにより、燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔34a〜fは、膜/電極接合体18を外周側に外れた位置において、第一及び第二セパレータ20,22の各対応する部分にそれぞれ貫通孔として形成されている。そして、固体高分子型燃料電池10において、積層された複数枚の単セル12間でも相互に連通せしめられており、全体として、固体高分子型燃料電池10の主体を為すセルスタックを積層方向に貫通する形態をもって、それら燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔34a〜fが形成されている。
【0042】
なお、図面上に明示はされていないが、例えば特許文献1(特開2002−83610号公報)等に記載されているように、固体高分子型燃料電池10において、積層された複数の単セル12のうち、積層方向で一方の端部に位置せしめられた単セル12の第一セパレータ20と、積層方向で他方の端部に位置せしめられた単セル12の第二セパレータ22には、陽極側集電板と陰極側集電板が重ねられて、直列接続された複数枚の単セル12の総電力が、これら両集電板から外部に取り出されるようになっている。更に、陽極側集電板と陰極側集電板の各外面には、適当な絶縁スペーサ(図示せず)を介して、陽極側押え板36と陰極側押え板38が重ね合わされている。そして、図面上に明示はされていないが、これら複数の単セル12と両極の集電板や押え板36,38を含む全体が、四隅等において挿通された締付ボルトによって積層方向に締め付けられて一体的に固定されることにより、固体高分子型燃料電池10とされている。
【0043】
また、かかる固体高分子型燃料電池10において、陽極側押え板36と陰極側押え板38には、燃料ガス供給用ポート40a,燃料ガス排出用ポート40b,酸化ガス供給用ポート40c,酸化ガス排出用ポート40d,冷却水供給用ポート40e,冷却水排出用ポート40fの合計6個のポート40a〜fが形成されている。更に、これらそれぞれのポート40a〜fが、積層された複数の単セル12において相互に連通形成された上述の燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔34a〜fの各対応する孔に対して接続されている。そして、各ポート40a〜fに対して図示しない外部管路が接続されることにより、燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排孔34a〜fに対して、燃料ガス,酸化ガス,冷却水の給排が行われるようになっている。
【0044】
そして、これら各供給用ポート40a,c,eを通じて各供給孔34a,c,eに供給された燃料ガス,酸化ガス,冷却水が、上述の単セル12内に形成された燃料ガス流路24および酸化ガス流路26と、単セル12,12間に形成された冷却水流路28を流通せしめられた後、各排出孔34b,d,fを経て、各排出用ポート40b,d,fを通じて排出されるようになっているのである。
【0045】
これにより、公知の如く、固体高分子膜14の第一セパレータ20側に配設された燃料電極16aにおいて、供給される燃料ガスが触媒作用でイオン化して電子を供給する一方、固体高分子膜14の第二セパレータ22側に配設された酸化電極16bにおいて、固体高分子膜14を通じて送られた水素イオンが外部から供給される酸化ガス(空気)および外部の電気回路を経て帰還した電子と反応して水蒸気を生成することとなり、全体として発電作用を発揮する電池として機能する。
【0046】
ここにおいて、目的とする発電作用を効率的に且つ安定して発揮させるには、各単セル12の触媒電極16a,16bに対して燃料ガスと酸化ガスを連続的に供給すると共に、各単セル12に対して冷却水を連続的に供給して温度管理を実現することが必要となる。そこで、これら燃料ガス,酸化ガス,冷却水の各給排流路を形成する流路構造について、以下に説明を加える。
【0047】
先ず、本実施形態では、第一セパレータ20および第二セパレータ22として、図3〜6に示されている如き、同一の金属製セパレータ42が採用されている。
【0048】
この金属製セパレータ42は、良好な導電性に加えて、有効な剛性と酸化雰囲気下における耐蝕性を備えた金属材料によって形成されたものであり、例えばステンレス鋼を基本材料として、必要に応じて、表面処理を施したり、カーボン等との複合材料とすることによって、要求特性を高度に達成し得るようにしたもの等が、好適に採用される。この金属製セパレータ42は、要求される剛性と加工精度を満足し得るように、略一定の厚さ寸法(例えば0.1mm〜0.5mm程度の厚さ寸法)を有する平板形状の金属プレートを用いて、プレス加工によって成形されている。
【0049】
具体的には、金属製セパレータ42には、単セル12を構成する場合に同じ側に位置せしめられる第一辺縁部30と第二辺縁部32に位置して、各同一数(本実施形態では、各3個)の貫通孔44a,44b,44c,44d,44e,44fが打抜形成されている。これら第一辺縁部30における3個の貫通孔44a,e,dと、第二辺縁部32における3個の貫通孔44c,f,bは、互いに対称的な形状と位置をもって形成されている。即ち、金属製セパレータ42の高さ方向中央を水平に延びる水平中心軸と、幅方向中央を鉛直に延びる鉛直中心軸との、何れの中心軸回りで金属製セパレータ42を表裏反転した場合でも、左右両側の辺縁部の同じ位置に合計6個の貫通孔44a〜fが位置せしめられるようになっている。なお、第一辺縁部30には、上から順に貫通孔44a,e,dが形成されている一方、第二辺縁部32には、上から順に貫通孔44c,f,bが形成されている。
【0050】
これにより、2枚の金属製セパレータ42,42を、表裏反転して重ね合わせた場合に、左右両端縁部に形成された各3個の貫通孔が、何れも、重ね合わせ方向に合致して相互に連通せしめられるようになっている。なお、本実施形態では、各貫通孔44a,44b,44c,44d,44e,44fがそれぞれ燃料ガス供給孔34a,燃料ガス排出孔34b,酸化ガス供給孔34c,酸化ガス排出孔34d,冷却水供給孔34e,冷却水排出孔34fとされている。
【0051】
さらに、金属製セパレータ42において、燃料電極16aに重ね合わせられる主面46には、図3及び図4に示されているように、第一辺縁部30の左上部に形成された燃料ガス供給孔34aの近くから第二辺縁部32に向かって水平方向に延び出し、第二辺縁部32の近くで鉛直下方に屈曲して僅かに下方に延び、更にUターンして第一辺縁部30に向かって水平方向に延び出し、第一辺縁部30の近くで鉛直下方に屈曲して僅かに下方に延び、再びUターンして第二辺縁部32に向かって水平方向に延び出して、第二辺縁部32の右下部に形成された燃料ガス排出孔34bに至る葛折状の屈曲したガス流通用の凹溝48が、形成されている。この凹溝48は、一つの貫通孔44aを、略対角方向で対向位置する別の貫通孔44bに接続するものであり、特に本実施形態では、互いに略平行に延びるようにして複数本(本実施形態では5本)形成されている。特に、かかる凹溝48は、水平方向に延びる各直線部分が、主面46の上下方向で略一定の間隔で位置するように形成されることが望ましい。
【0052】
特に本実施形態において、凹溝48は、底面に向かって次第に溝幅が狭くなる略等脚台形形状の断面形状を有しており、全長に亘って略一定の断面形状とされている。なお、凹溝48は、好適には、溝幅が開口部で1.0mmから2.0mm、底部で0.5mmから1.5mmとされると共に、溝深さが0.3mmから1.2mm、とされ、より望ましくは、開口部の溝幅が1.6mm、底部の溝幅が1.0mmとされると共に、溝深さが0.7mmとされる。また、複数条形成される凹溝48において、隣り合う凹溝48の間隔は、好適には、開口部において0.2mmから1.2mmとされ、より好適には、0.7mmとされるのが望ましい。
【0053】
また、金属製セパレータ42の主面46において、凹溝48の各貫通孔44a〜dとの接続部分を除く部分を形成された領域が、膜/電極接合体18と重ね合わせられる、ガス拡散領域50とされている。かかるガス拡散領域50の周囲には、図5に示すように、ガス拡散領域50を囲むようにして主面シールゴム層52が加硫成形されて被着されている。なお、本実施形態において、加硫成形された主面シールゴム層52は、加硫接着によってその全面に亘って金属セパレータ42の主面46に接着されて、金属セパレータ42に対して流体密に密着せしめられている。そして、組付け状態下において第一,第二セパレータ20,22の各主面46に被着形成された主面シールゴム層52同士が圧接せしめられることによって、ガス拡散領域50が流体密にシールされている。また、主面シールゴム層52の内周面が燃料電極16a若しくは酸化電極16bの外周面に当接せしめられることにより、金属製セパレータ42に重ね合わせられる膜/電極接合体18が主面46上で位置決めされる。
【0054】
更に、金属製セパレータ42の主面46において、凹溝48の一部でガス拡散領域50の外部に形成された部分、即ち、凹溝48の各貫通孔44a,b,c,dへの接続部分である接続部54には、その開口部を覆蓋するように、主面シールゴム層52が橋渡し状に延びて形成されている。換言すれば、凹溝48の貫通孔44a〜dへの接続部分である接続部54は、主面シールゴム層52によって凹溝48の開口が覆蓋されることにより、略トンネル状の構造とされている。
【0055】
一方、金属製セパレータ42において、凹溝48が開口する主面46と反対側の副面56には、図5,6に示すように、凹状通路58が形成されている。凹状通路58は、主面46に形成された複数条の凹溝48の間で、副面56において形成されて、燃料ガス供給孔34aの近くから燃料ガス排出孔34bの近くまで延びている。即ち、主面46における凹溝48間の凸部を、その反対側の副面56において凹状通路58として利用しており、燃料ガス供給孔34a及び燃料ガス排出孔34bの手前まで凹溝48に沿って延びている。
【0056】
また、冷却水供給孔34e及び冷却水排出孔34fの近くには、接続凹所60が形成されている。接続凹所60は、一方の端部が冷却水供給孔34e又は冷却水排出孔34fに接続されている一方、他方の端部が酸化ガス供給孔34c又は酸化ガス排出孔34dの近くまで延びている。
【0057】
そして、図6に示すように、副面56において、金属製セパレータ42の外周部付近および凹溝48の底部を除く略全面には、副面シールゴム層62が形成されている。また、副面シールゴム層62は、凹状通路58の内面にも被着形成されており、凹状通路58内が略全長に亘って外部から電気的に絶縁されている。なお、特に本実施形態では、金属製セパレータ42に複数の接続孔64が貫設されており、金属製セパレータ42の主面46と副面56にそれぞれ固着された主面シールゴム層52,副面シールゴム層62が物理的に一体化せしめられて、シールゴム層66を形成している。これにより、シールゴム層66の被着強度の向上や、薄肉とされたシールゴム層66の成形時におけるゴム材料の充填不良防止を実現している。
【0058】
なお、本実施形態では、図7に示されているように、燃料電極16aに重ね合わせられる金属製セパレータ42に被着形成された副面シールゴム層62の一部に係合凹所68が設けられていると共に、酸化電極16bに重ね合わせられる金属製セパレータ42に被着形成された副面シールゴム層62の一部には、係合突起70が設けられている。かかる係合凹所68と係合突起70を係合せしめることにより、単セル12を重ね合わせてセルスタックを構成する際に、単セル12同士が互いに位置決めされるようになっている。
【0059】
更に、図7に示すように、シールゴム層66の外側、即ち金属製セパレータ42の外周縁部には、補助シールゴム72が略全周に亘って被着形成せしめられている。かかる補助シールゴム72によって、組付け状態下において金属製セパレータ42間がシールされており、万が一シールゴム層66を越えてリークが発生した場合においても、燃料ガスや酸化ガス、或いは冷却水が外部にリークすることを防止することができる。また、かかる補助シールゴム72における金属製セパレータ42の主面46側と副面56側の両面は、副面56側から主面46側に向かって傾斜する傾斜面とされており、かかる傾斜面がそれぞれガイド面74とされている。このガイド面74の主面46側と副面56側の傾斜角度は略同一とされており、金属製セパレータ42を重ね合わせる際に、かかる主面46側のガイド面74と副面56側のガイド面74を相互に重ね合わせることによって金属製セパレータ42同士を容易に位置決めすることが可能となっている。
【0060】
特に、本実施形態では、ガイド面74が潤滑面とされており、高いシール性能を確保すると共に、ガイド面74の重ね合わせによる位置決めをスムーズに行うことが可能とされている。なお、ガイド面74を潤滑面とする手段としては、具体的には、例えば、補助シールゴム72の材料として、油分などの混合により表面に潤滑材がブリードするようにした自己潤滑性ゴムを採用したり、或いは、表面にレーザー処理や低摩擦性樹脂コートを施して潤滑性を向上させるなどの手段を用いることが考えられる。
【0061】
また、図7に示されているように、補助シールゴム72が被着形成されている金属製セパレータ42の外周縁部は、凹溝48が開口形成された主面46側と反対の副面56に向けて傾斜せしめられて、補強リブ76が形成されている。かかる補強リブ76は、金属製セパレータ42の板面に対して略25〜65度程度の傾斜角度で端縁部の実質的に全周に亘って形成されており、金属製セパレータ42の強度を増すと共に、補助シールゴム72を一層強固に固定することが可能となっている。特に本実施形態では、略矩形平板形状とされた金属製セパレータ42の四隅に切欠部78が設けられている。この切欠部78によって、隣り合う各辺部の補強リブ76が互いに独立しており、金属製セパレータ42の外周縁部を屈曲せしめることによる、歪の発生を回避している。
【0062】
而して、このような構造とされた金属製セパレータ42は、膜/電極接合体18に対して、その両側から重ね合わせられて組み付けられている。膜/電極接合体18は、前述の如く固体高分子膜14を燃料電極16a及び酸化電極16bを重ね合わせて接合一体化して構成されている。本実施形態においては、固体高分子膜14が、金属製セパレータ42に比して一回り小さな矩形板形状とされていると共に、燃料電極16a及び酸化電極16bが、固体高分子膜14よりも更に一回り小さな矩形板形状とされている。そして、この突出した固体高分子膜14の外周縁部が、第一及び第二セパレータ20,22間において挟み込まれており、突出した固体高分子膜14の外周縁部が全周に亘ってガスケットとしての主面シールゴム層52を介して挟圧保持されて、主面シールゴム層52に圧接せしめられていることで、膜/電極接合体18を挟んで燃料電極16a側と酸化電極16b側の各ガス拡散領域がそれぞれ流体密にシールされている。特に本実施形態では、第一セパレータ20における主面シールゴム層52の厚さ寸法は、燃料電極16aの厚さ寸法よりも大きく、第二セパレータ22における主面シールゴム層52の厚さ寸法は、酸化電極16bの厚さ寸法よりも大きく設定されている。具体的には、例えば、燃料電極16a及び酸化電極16bの厚さ寸法を0.25mmとすると共に、各セパレータにおける主面シールゴム層52の厚さをそれぞれ0.275mmとするのが望ましい。また、それら第一及び第二のセパレータ20,22における両主面シールゴム層52,52の層厚寸法の合計値は、膜/電極接合体18の総厚寸法、即ち、固体高分子膜14の膜厚寸法と燃料/酸化の両電極16a,16bの厚さ寸法の合計と同じか僅かに大きく設定されることが望ましい。即ち、好適には、例えば、主面シールゴム層52の層厚の合計値を0.55mmとする一方、燃料電極16a及び酸化電極16bの厚さ寸法をそれぞれ0.25mmとすると共に、固体高分子膜14の厚さ寸法を0.05mmとすることが望ましい。
【0063】
なお、接続部54の開口部では、主面シールゴム層52が接続部54の存在によって第一,第二セパレータ20,22間で十分に挟圧されず、それに伴って、主面シールゴム層52間に挟圧保持されるべき固体高分子膜14も十分に挟圧保持されない。その結果、極めて薄肉とされた固体高分子膜14は、接続部54の開口部上において接続部54内への撓みを生じるおそれがある。そして、燃料ガス供給孔34a/酸化ガス供給孔34cから接続部54を介して燃料ガス流路24/酸化ガス流路26へ供給されるべき燃料ガス/酸化ガスが、かかる撓みを通じて膜/電極接合体18を挟んで反対側に形成された酸化ガス流路26/燃料ガス流路24、或いはガス拡散領域50に導かれることによってガスリークが発生する危険性がある。そこで、特に本実施形態では、図8に示すように、主面シールゴム層52が接続部54の開口部上に橋渡し状態で配設されている。これによって、固体高分子膜14に撓みが生じるのを防ぐことが出来て、上述の如きガスリークを防止することが出来るようなっている。
【0064】
そこにおいて、金属製セパレータ42は、各主面46,46を膜/電極接合体18に対して重ね合わせられている。すなわち、膜/電極接合体18の両側に重ね合わせられる二枚の金属製セパレータとしての第一,第二セパレータ20,22は、互いに表裏を反転した状態で組み付けられている。つまり、燃料電極16aに重ね合わせられる第一セパレータ20は、上述の如く、左上部に形成された燃料ガス供給孔34aと右下部に形成された燃料ガス排出孔34bが凹溝48によって接続されている。一方、この第一セパレータ20の表裏を反転せしめることにより、右上部に形成された酸化ガス供給孔34cと左下部に形成された酸化ガス排出孔34dが凹溝48によって接続されて、酸化電極16bに重ね合わせられる第二セパレータ22として使用することが出来るのである。
【0065】
このようにして、膜/電極接合体18に対して、その両側から第一セパレータ20と第二セパレータ22を重ね合わせることによって得られた単セル12においては、燃料電極16aに重ね合わせられる第一セパレータ20の主面46に開口形成された凹溝48の開口部が燃料電極16aによって覆蓋されることにより、燃料電極16aと第一セパレータ20の主面46の間に、燃料ガス流路24が形成されている。一方、酸化電極16bと重ね合わせられる第二セパレータ22の主面46に形成された凹溝48の開口部が酸化電極16bによって覆蓋されることにより、酸化電極16bと第二セパレータ22の主面46の間に、酸化ガス流路26が形成されている。なお、上述の如く、第一,第二セパレータ20,22にそれぞれ被着形成された主面シールゴム層52,52の間で固体高分子膜14が挟圧保持されてシールされていることにより、膜/電極接合体18を挟んで形成される燃料ガス流路24と酸化ガス流路26の間で膜/電極接合体18を越えて生じるガスリークが防止されている。
【0066】
更に、かかる単セル12は、互いに複数が重ね合わせられており、金属製セパレータ42の副面56同士が重ね合わせられることにより、一方の金属製セパレータ42の副面56に形成された凹状通路58の開口部が、他方の金属製セパレータ42によって覆蓋されることとなって、金属製セパレータ42の副面56間に冷却水流路28が形成されている。即ち、図9に示すように、互いに重ね合わせられる金属製セパレータ42の各副面56,56に形成された凹状通路58,58において、一部では、凹状通路58,58が互いに重ね合わせられて冷却水流路28が形成される一方、他の部分では、一方の金属製セパレータ42に形成されている凹状通路58の開口部が、他方の金属製セパレータ42の凹溝48の底部によって覆蓋されて冷却水流路28が形成されている。
【0067】
また、一方の金属製セパレータ42に形成された接続凹所60の一部が、他方の金属製セパレータ42に形成された凹状通路58の端部と重ね合わせられて、重ね合わせ方向で接続されている。これによって、金属製セパレータ42の副面56が重ね合わせられた状態で、一方の金属製セパレータ42に形成される冷却水流路28の両端が、他方の金属製セパレータ42の接続凹所60を介して冷却水供給孔34e及び冷却水排出孔34fにそれぞれ連通せしめられていると共に、他方の金属製セパレータ42に形成される冷却水流路28の両端が、一方の金属製セパレータ42の接続凹所60を介して冷却水供給孔34e及び冷却水排出孔34fにそれぞれ連通せしめられており、冷却水供給孔34eから供給された冷却水が、冷却水流路28を通過して、冷却水排出孔34fから排出されるようになっている。
【0068】
なお、冷却水流路28は、流路内面の全長に亘って副面シールゴム層62が被着形成されていると共に、凹溝48の底部においては、副面シールゴム層62が被覆されておらず、凹溝48の底部同士が直接当接せしめられる部分において第一セパレータ20と第二セパレータ22とが電気的に導通せしめられている。これによって、単セル12間が電気的に導通せしめられて、各単セル12が発生した総電力を図示しない陽極側集電板と陰極側集電板を介して外部に取り出すことができると共に、冷却水流路28が電気的に絶縁されて、各単セル12が発電した電気が冷却水を通して散逸することを防いでいる。
【0069】
ここにおいて、本実施形態に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータでは、第一セパレータ20と第二セパレータ22を、共通の金属製セパレータ42を表裏反転せしめることにより構成している。それ故、部品点数の削減が可能となり、それに伴って部品の製造や管理を容易にすることができると共に、製造設備の簡略化も実現できる。
【0070】
また、本実施形態では、第一,第二セパレータ20,22として金属製セパレータ42を採用している。これによって、第一,第二セパレータ20,22の強度を確保しつつ、十分に薄肉とすることが出来る。それ故、単セル12の厚みを減少させることが可能となり、単セル12の集合によって構成されるセルスタック、延いては固体高分子型燃料電池10のサイズのコンパクト化が実現される。しかも、金属製セパレータ42の外周縁部において補強リブ76を全周に亘って形成したことによって、金属製セパレータ42の強度を一層高めることが出来て、より有利に金属製セパレータ42の薄肉化を実現することができる。
【0071】
更に、導電樹脂やカーボンに比して優れた導電性を有する金属を用いて第一,第二セパレータ20,22を形成したことにより、高性能な固体高分子型燃料電池10が容易に実現され得る。また、金属は樹脂やカーボンに比して耐熱温度が極めて高いため、発熱反応を生じる固体高分子型燃料電池10内に配設しても、熱による変形や収縮などの問題が回避される。しかも、金属製セパレータ42は、リサイクル等の再利用も容易である。
【0072】
更にまた、第一,第二セパレータ20,22をプレス加工によって形成された金属製セパレータ42とすることにより、非常に高い寸法精度で第一,第二セパレータ20,22を形成することが出来ると共に、高い生産性をも実現できる。
【0073】
また、凹溝48を葛折状に延びる形状としたことにより、凹溝48によって形成される燃料ガス流路24及び酸化ガス流路26をガス拡散領域50の略全面に亘って形成することが出来て、燃料電極16a又は酸化電極16bに対して効率的に燃料ガス又は酸化ガスを接触させることが出来る。
【0074】
更に、凹溝48を形成することによって金属製セパレータ42の副面56側に生じる凹凸を巧く利用して凹状通路58を形成した。これにより、凹状通路58によって構成される冷却水流路28を燃料ガス流路24或いは酸化ガス流路26と同様に金属製セパレータ42上の広い範囲に形成することが出来て、効率的な冷却を実現することが出来る。
【0075】
また、本実施形態では、シールゴム層66が、金属製セパレータ42の主面46側においてガス拡散領域50の周りを囲むように被着形成されると共に、金属製セパレータ42の副面56側において、凹溝48の底部及び金属製セパレータ42の外周付近を除く部分に被着形成される。これによって、燃料ガス若しくは酸化ガスのリークが防止されている。
【0076】
さらに、それら主面46側の主面シールゴム層52と副面56側の副面シールゴム層62が接続孔64によって物理的に接続されて一体化されている。これにより、シールゴム層66の金属製セパレータ42に対する被着強度を高めることが出来ると共に、シールゴム層66の成形時にセパレータ表面に巧くゴム材料が廻るようにすることが出来て、不良品の発生を防止することが出来る。
【0077】
さらにまた、凹溝48と貫通孔44a〜dとの接続部54の開口を覆うようにして主面シールゴム層52を橋渡し状に延びて形成した。それ故、接続部54の開口部で固体高分子膜14に撓みが生じて、燃料ガスが酸化電極16b側に漏れたり、酸化ガスが燃料電極16a側に漏れたりすることを防ぐことが出来る。なお、接続部54の開口を覆うように形成された主面シールゴム層52は、凹溝48の幅方向両端で金属製セパレータ42に固着されていることから、剪断方向の弾性のみならず、引っ張り方向の弾性によってもシール時の圧縮力が有利に確保され得る。
【0078】
また、本実施形態に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用セパレータを用いた固体高分子型燃料電池10では、部品点数を少なくすることが出来ると共に、剛性や電気的性能を十分に確保しつつ、コンパクト化が可能となる。
【0079】
次に、図10には、本発明の第二の実施形態としての固体高分子型燃料電池用の金属製セパレータ80の組付け状態が示されている。なお、以下の説明において、前記第一の実施形態と実質的に同じ部材や部分については、図中に第一の実施形態と同一の符号を付すことによって、説明を省略する。
【0080】
すなわち、本発明の第二の実施形態では、複数の金属製セパレータ80に被着形成されたシールゴム層82及び補助シールゴム84が、略同一の形状とされている。具体的には、例えば、第一の実施形態において副面シールゴム層62に設けられていた係合凹所68および係合突起70が第二の実施形態では設けられていないと共に、補助シールゴム84が、傾斜面を持たない略直方体形状とされている。
【0081】
このような第二の実施形態に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用の金属製セパレータ80では、金属製セパレータ80にシールゴム層82及び補助シールゴム84を被着形成した状態であっても、表裏反転せしめることにより、第一セパレータ20又は第二セパレータ22のどちらとしても使用することが出来る。それ故、第一セパレータ20と第二セパレータ22の部品の共通化を一層有利に実現することが出来て、組付時の各作業がより効率的に達成され得る。
【0082】
また、本実施形態に従う構造とされた固体高分子型燃料電池用の金属製セパレータ80を採用することにより、単セルが、表裏を反転せしめても同一の形状となるため、単セルを重ね合わせて固体高分子型燃料電池を構成する作業においても、より効率的に作業を行うことが可能となる。
【0083】
以上、本発明の幾つかの実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0084】
具体的には、例えば、金属製セパレータ42,80に形成される凹溝48は、前記実施形態の如き葛折状に延びていることが望ましいが、必ずしもそのような形状である必要はない。
【0085】
更に、凹溝48の断面形状も実施形態に記載の形状に何等限定されない。具体的には、例えば、矩形断面を有する凹溝も採用され得る。
【0086】
また、前記実施形態では、冷却水流路28を凹溝48によって金属製セパレータ42,80の副面56に形成される凹凸を利用して形成したが、冷却水流路28は必ずしもそのような凹凸を利用して形成する必要はない。更に、略一定の断面積で延びる流路である必要もなく、副面56上で冷却水供給孔34eと冷却水排出孔34fを接続して、冷却水を流すことが出来ればよい。
【0087】
また、凹溝48が接続される燃料ガス供給孔34aと酸化ガス供給孔34c、或いは、凹状通路58が接続される冷却水供給孔34eと冷却水排出孔34fは、必ずしも各一つである必要はない。即ち、複数の各供給孔及び各排出孔が開口形成されていても良く、その場合には、それら各孔を接続するように複数の流路が形成されることとなる。
【0088】
また、前記実施形態では、膜/電極接合体18の外周縁部が、各供給孔34a,34c及び各排出孔34b,34dより内周側に位置せしめられているが、膜/電極接合体18は各供給孔34a,cや各排出孔34b,dの開口位置より外側まで延び出していても良い。その場合には、膜/電極接合体18の外周縁部が接続部54の途上に位置していないため、上述の如き膜/電極接合体18の外周縁部を回り込んで反対側の面へのガスリークのは生じ得ない。しかし、この場合、膜/電極接合体18には、両セパレータ20,22と同様に、ガスや冷却水を流路に給排する供給孔34a,c,e及び排出孔34b,d,fが形成されることになる。つまり、この給排孔34a〜fの形成部位において、膜/電極接合体18の端縁部が存在することとなり、給排孔34a〜dに開口する接続部54の形成部位において、上述の場合と同様に、挟圧力を十分に確保し難い問題が発生する。従って、給排孔34a〜dから供給/排出されるガスが、膜/電極接合体18の反対側の面に入り込んでリーク発生するおそれが同様にあるのである。ここにおいても、本実施形態では、接続部54全体の開口部を覆うようにして主面シールゴム層52が形成されていることから、この主面シールゴム層52によって、膜/電極接合体18の挟圧シール機能が有利に確保されることとなる。
【0089】
また、前記実施形態では、金属製セパレータ42,80の4角部に切欠部78を設けたが、このような切欠きは必ずしも設ける必要はない。更に、金属製セパレータ42,80の外周縁部に設けた補強リブ76は必ずしも必要ではない。更にまた、補強リブ76に被着形成される補助シールゴム72,84も必ずしも必要ではない。このように補助シールゴム72,84を被着形成しないと共に、副面シールゴム層62において係合凹所68及び係合突起70を形成しないことによって、第一,第二セパレータ20,22を略完全に同一形状とされたセパレータによって実現することが出来て、取扱い及び組付け作業をより効率的に行うことが出来る。
【0090】
さらに、本実施形態では、副面シールゴム層62を凹溝48の底部に被着形成しなかったが、凹溝48の底部同士が当接せしめられる部分を除いて、副面シールゴム層62を凹溝48の底部においても副面シールゴム層62を被着形成することも出来る。これにより、冷却水流路28が一層高度に絶縁されて、冷却水への電力の散逸を有効に防止でき、固体高分子型燃料電池の効率向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明の第一の実施形態としての固体高分子型燃料電池用セパレータを用いて構成された固体高分子型燃料電池を示す斜視図である。
【図2】図1に示す固体高分子型燃料電池を構成する単セルの構造を示す斜視図である。
【図3】図1に示された固体高分子型燃料電池を構成する固体高分子型燃料電池用セパレータの主面側を示す側面図である。
【図4】図3に示された固体高分子型燃料電池用セパレータの主面側においてシールゴムを被着形成した状態を示す側面図である。
【図5】図3に示された固体高分子型燃料電池用セパレータの副面側を示す側面図である。
【図6】図5に示された固体高分子型燃料電池用セパレータの副面側においてシールゴムを被着形成した状態を示す側面図である。
【図7】図1に示された固体高分子型燃料電池における単セルの組付け状態を示す断面図である。
【図8】図4に示された固体高分子型電池用セパレータの一部を拡大して示す斜視断面図である。
【図9】図4,図6に示された固体高分子型電池用セパレータの副面側の組付け状態を示す斜視断面図である。
【図10】本発明の第二の実施形態としての固体高分子型電池用セパレータを含んで構成された単セルの組付け状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0092】
10 固体高分子型燃料電池
14 固体高分子膜
16a 燃料電極
16b 酸化電極
18 膜/電極接合体
20 第一セパレータ
22 第二セパレータ
24 燃料ガス流路
26 酸化ガス流路
28 冷却水流路
30 第一辺縁部
32 第二辺縁部
34a 燃料ガス供給孔
34b 燃料ガス排出孔
34c 酸化ガス供給孔
34d 酸化ガス排出孔
34e 冷却水供給孔
34f 冷却水排出孔
42 金属製セパレータ
44a 貫通孔
44b 貫通孔
44c 貫通孔
44d 貫通孔
44e 貫通孔
44f 貫通孔
48 凹溝
50 ガス拡散領域
58 凹状通路
60 接続凹所
80 金属製セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の両面に酸化電極と燃料電極を配した膜/電極接合体に対して、該酸化電極に重ね合わされて該酸化電極の表面に酸化ガス流路を形成する第一セパレータと、該燃料電極に重ね合わせられて該燃料電極の表面に燃料ガス流路を形成する第二セパレータとからなる、固体高分子型燃料電池用セパレータであって、
矩形薄板状の金属板に対してプレス加工によって打抜き及び絞りを施して、一方向で対向位置する一対の対向辺部の各上部と各下部にそれぞれ貫通孔を設けると共に、略対角方向で対向位置せしめられた一方の対向辺部の上部貫通孔と他方の対向辺部の下部貫通孔を相互に接続する凹溝を略平行に延びるように複数条形成することによって金属製セパレータを構成し、この単一種類の金属製セパレータを表裏反対にすることによって前記第一セパレータおよび前記第二セパレータとして用いることが出来るようにしたことを特徴とする固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項2】
前記金属製セパレータにおいて、何れかの方向で互いに対向位置する対向辺部の各中央部分にそれぞれ中央貫通孔を設けて、それら中央貫通孔により冷却水の供給孔および排出孔が形成されるようにすると共に、かかる金属製セパレータの二枚を、前記凹溝の開口側とは反対の副面において互いに直接に重ね合わせることによって、それら凹溝の底部において互いに当接させて導通せしめるようにすると共に、互いに重ね合わせた二枚の該金属製セパレータの両副面間において、かかる対向辺部の各中央部分に設けた中央貫通孔の間に跨がって延びる冷却水流路が形成されるようにした請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項3】
互いの副面を重ね合わせた二枚の前記金属製セパレータの両副面間において、隣り合って略平行に延びる前記複数条の凹溝の間に現出する通路状の領域を利用して冷却水流路が形成されるようにした請求項2に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項4】
前記金属製セパレータの副面に対して副面シールゴム層を固着形成すると共に、該副面シールゴム層を利用して、互いに重ね合わせた該金属製セパレータの副面間に形成される前記冷却水流路を部分的に形成するようにした請求項2又は3に記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項5】
前記金属製セパレータにおける前記凹溝が開口する主面に対して主面シールゴム層を固着形成して、該主面シールゴム層により、該凹溝の形成領域の周囲を囲むようにすると共に、該凹溝の両端部における前記上部及び下部の貫通孔との接続部位では、該凹溝の接続部位の開口部分を跨いで溝幅方向に連続して延びるように該主面シールゴム層を形成した請求項1乃至4の何れかに記載の固体高分子型燃料電池用セパレータ。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れかに記載の金属製セパレータの一対を用い、前記固体高分子電解質膜の両面に前記酸化電極と前記燃料電極を配した前記膜/電極接合体に対して、該金属製セパレータの一つを、その前記凹溝が形成された主面を該酸化電極に重ね合わせて前記酸化ガス流路を形成すると共に、該金属製セパレータの他の一つを、該燃料電極に重ね合わせて前記燃料ガス流路を形成したことを特徴とする固体高分子型燃料電池用セル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate