説明

固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体

【課題】スルホン酸基の導入量を増加して高いプロトン伝導性を有しつつ、高温高湿条件下でも膨潤し難く、優れた寸法安定性を有するプロトン伝導膜を備える固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体を提供する。
【解決手段】分岐点を有し、スルホン酸基を有しない特定の構造ブロック、及びスルホン酸基を有する構造ブロックを有するポリアリーレン系共重合体をプロトン伝導膜として用いた膜−電極構造体によれば、高いプロトン伝導性を有しつつ、高温高湿条件下でも膨潤し難く、優れた寸法安定性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池に用いられるプロトン伝導膜を構成する固体高分子電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)に代表されるパーフルオロ系電解質が知られている。ところが、ナフィオンは非架橋であることから、耐熱性が低く、高温で使用できないといった問題がある。このため、これに替わる材料として、芳香族ポリアリーレンエーテルケトン類や芳香族ポリアリーレンエーテルスルホン類等の炭化水素系ポリマーに、スルホン酸基等を導入したポリアリーレン系高分子電解質が研究されている(例えば、特許文献1、及び非特許文献1〜3参照)。ポリアリーレン系高分子電解質は、その高温耐久性において優れている。
【0003】
一方、ポリマーの機械的強度を向上させて耐久性を改善する目的で重合体の分子量を増大させると、溶媒に対する溶解性が低下し、製膜性に難を生じる等の加工性の問題が生じることが知られていた。本願発明者らは、スルホン化ポリアリーレン系重合体に分岐点を導入した分岐状スルホン化ポリアリーレン系重合体を提案し、これによってフィルム加工時の問題点を改善するに至っている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
しかしながら、当該発明によれば、高分子量であっても溶媒に対する溶解性が改善されて優れた製膜性を得ることができるものの、スルホン酸当量を2.2meq/g以上に増大させた場合には、該重合体からなる固体高分子電解質膜の耐水性が低下し、高温高湿度環境下で固体高分子電解質膜が膨潤し、スルホン化ポリアリーレン系高分子の一部が溶出する等の問題が生じることが明らかとなった。これは、得られるポリマーの分岐点が、親水性ユニットとなるモノマーと、疎水性ユニットとなるモノマーとの間でランダムに挿入される合成方法のため、モノマーの比率が多い親水性ユニットの高密度化が逆に起こり易くなっているためと考えられる。
【特許文献1】米国特許第5,403,675号明細書
【特許文献2】特開2003−113226号公報
【非特許文献1】Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.3,p.730(1993)
【非特許文献2】Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.7,p.2490〜2492(1993)
【非特許文献3】Polymer Preprints,Japan,Vol.43,No.3,p.735〜736(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の課題は、スルホン酸基の導入量を増加して高いプロトン伝導性を有しつつ、高温高湿条件下でも膨潤し難く、優れた寸法安定性を有するプロトン伝導膜を備える固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体を提供することにある。
【0006】
なお、ここで、固体高分子型燃料電池とは、プロトン伝導性を有するプロトン伝導性を有する高分子電解質膜(プロトン伝導膜)の両面に電極を設け、改質ガス等の水素を含む燃料ガスを一方の電極(燃料極)へ供給し、空気等の酸素を含む酸化剤ガスを他方の電極(空気極)へ供給し、燃料が酸化する際に発生する化学エネルギーを、直接電気エネルギーとして取り出す電池である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた。その結果、分岐点を有し、スルホン酸基を有しない特定の構造ブロック(スルホン酸基を有するブロックとの比較において疎水的であるため、「疎水ブロック」ともいう。)、及びスルホン酸基を有する構造ブロック(「親水ブロック」ともいう。)からなるポリアリーレン系共重合体をプロトン伝導膜として用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0008】
請求項1記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体は、プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極、他方の面にカソード電極を設けた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、前記プロトン伝導膜は、下記式(1’)で表される繰り返し構成単位を有するポリアリーレン系共重合体であることを特徴とする。
【化1】

[式(1’)中、R01は、下記式(1a’)及び(1b’)で表される構造単位がそれぞれ独立に1〜40個結合してなる。下記式(1a’)及び(1b’)の構造単位は、規則的に結合していても、不規則に結合していてもよく、また、下記式(1a’)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックと、下記式(1b’)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックとが結合した構造を形成してもよい。
【化2】

式(1’)、(1a’)、及び(1b’)中、A及びDは、それぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、−(CH−(jは1〜10の整数である)、−CR’’−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、及びフルオレニリデン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Bは独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、Qは下記式(2’)〜(4’)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
【化3】

式(2’)〜(4’)中、A、D、及びBは上記式(1’)、(1a’)、及び(1b’)と同義であり、H01は下記式(2−a’)又は(2−b’)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
式(1’)〜(4’)、及び(1a’)中におけるR〜R36は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部又は全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子又は基を示す。式(1’)〜(4’)、及び(1a’)中におけるq及びrは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。
【化4】

式(2−a’)及び(2−b’)中、Wは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Zは直接結合、又は、−(CH−(iは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、R37〜R39は、前記式(1’)〜(4’)、及び(1a’)中におけるR〜R36と同義である。sは0〜4の整数を示す。各繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。]
【0009】
請求項2記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体は、前記ポリアリーレン系共重合体が、下記式(5)で表される繰り返し構成単位をさらに有することを特徴とする。
【化5】

[式(5)中、Vは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Z01は直接結合、又は、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Yは−CO−、SO−、又はSO−を示し、Arは−SOH、O(CHSOH、又はO(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示す(pは1〜12の整数である)。tは0〜2の整数を示し、uは0〜2の整数を示し、jは0〜2の整数を示す(ただし、uが1又は2の場合には、jは0であり、jが1又は2の場合には、uは0である)。l及びkは、1〜4の整数を示す。繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。]
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分岐状ポリアリーレン系重合体を用いることにより、高いスルホン酸当量のプロトン伝導膜として、高温高加湿条件下において優れた膨潤抑制効果を発揮し、寸法変化の小さい固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
<芳香族化合物>
本発明に係る固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体のプロトン伝導膜の形成に用いられるポリアリーレン系共重合体は、一定個所に特定した分岐点を有するポリアリーレン系共重合体(分岐状ポリアリーレン系共重合体)であり、下記式(1)で表される芳香族化合物(以下、「分岐点を有する芳香族化合物」という。)を用いて合成される、
【化6】

【0013】
Xはフッ素を除くハロゲン原子から選ばれる原子を示し、好ましくは塩素、臭素、及びヨウ素の内のいずれかであり、さらに好ましくは塩素である。
【0014】
A及びDはそれぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数であ)、−(CH−(jは1〜10の整数である)、−CR’’−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、及びフルオレニリデン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、好ましくは、−O−、−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、−(CH−(jは1〜10の整数である)、−CR’’−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、及びフルオレニリデン基からなる群より選ばれる少なくとも1種であり、さらに好ましくは、−CO−、−SO−、−CR’’−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、及びフルオレニリデン基からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0015】
〜Rは、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部又は全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子又は基であり、好ましくは水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部又は全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリール基、及びシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子又は基である。
【0016】
01は、下記式(1a)及び(1b)で表される構造単位が、それぞれ独立に1〜40個結合したものである。下記式(1a)及び(1b)の構造単位は、規則的に結合していても、不規則に結合していてもよく、また、下記式(1a)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックと、下記式(1b)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックとが結合した構造を形成してもよい。
【化7】

【0017】
A、Dは前記した通りである。Bは独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、好ましくは酸素原子である。Qは下記式(2)〜(4)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種であり、後述のポリアリーレン系高分子の高分子鎖の分岐点となる構造を与える。q及びrは、0〜4の整数を示す。また、式(1a)で表される構造単位の比率(n)及び式(1b)で表される構造単位の比率(m)は、各ユニットの組成比を示し、0から1の値をとり、n+m=1である。
【化8】

【0018】
X、A、D、及びBは、上記式(1)、(1a)、及び(1b)と同じ定義であり、H01は、下記式(2−a)又は(2−b)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。R〜Rは前記した通りであり、R〜R36は互いに同一でも異なっていてもよく、R〜Rと同じである。q及びrは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示す。
【化9】

【0019】
Xは前記した通りである。また、Wは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位であり、好ましくは−CO−、−SO−、−SO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位であり、さらに好ましくは−CO−、−SO−、及び−SO−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位である。
【0020】
Zは直接結合、又は、−(CH−(iは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位であり、好ましくは、−O−である。R37〜R39は、R〜R36と同じである。sは0〜4の整数を示す。sは0〜4の整数を示し、好ましくは0〜2の整数であり、さらに好ましくは0又は1である。また、各繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。
【0021】
分岐点を有する芳香族化合物の分子量は、通常、4000〜20000であることが好ましく、より好ましくは6000〜15000である。該分子量が20000以下であると、スルホン酸を有しない式(1’)の構造ユニットが過度に大きすぎず、分岐状スルホン化ポリアリーレン系重合体が大きな疎水的構造ユニットを有することなく、該重合体中の荷電分布における均一性を保持するため、スルホン酸当量を増大させた場合に該重合体からなる固体高分子電解質膜の耐水性の低下を抑制できる。他方、該分子量が4000以上であると、後述の式(5)で表されるスルホン酸を有する親水性ユニットが、式(1’)で表されるような小さな構造ユニットを介して集合することを抑制し、同じく該重合体中の荷電分布における均一性を保持するため、スルホン酸当量を増大させた場合に該重合体からなる固体高分子電解質膜の耐水性の低下を抑制できる。
【0022】
<芳香族化合物の合成方法>
分岐点を有する芳香族化合物は、下記式(6)で表されるモノマー及び下記式(7)で表されるモノマーと、ハロゲン化合物である下記式(8−a)、(8−b)、(8−c)、又は(9)で表されるモノマーの少なくとも1種と、を縮合させたものである。具体的には、(i)ハロゲン化合物であるモノマーと、(ii)フェノール性水酸基若しくはフェノール性チオール基を有するモノマーと、を縮合反応させて得られるものであるが、その際に、(i)ハロゲン化合物であるモノマーの一部又は(ii)フェノール性水酸基若しくはフェノール性チオール基を有するモノマーの一部に分岐点構造を有するモノマーを含めることにより合成される。
【0023】
分岐構造を有しないモノマーとしては、ハロゲン化合物である下記式(6)で表されるモノマー、及び、フェノール性水酸基又はフェノール性チオール基を有する化合物である下記式(7)で表されるモノマーを挙げることができる。一方、分岐構造を有するモノマーとしては、ハロゲン化合物である下記式(8−a)〜(8−c)で表されるモノマー、及びフェノール性水酸基又はフェノール性チオール基を有する化合物である下記式(9)で表されるモノマーを挙げることができる。
【0024】
以下、便宜的に、下記式(6)で表される化合物を「モノマー(A)」と、下記式(7)で表される化合物を「モノマー(B)」と、下記式(8−a)、(8−b)、若しくは(8−c)で表される化合物をそれぞれ「モノマー(C−a)」、「モノマー(C−b)」、「モノマー(C−c)」とする。また、式(8−a)、(8−b)又は(8−c)で表される化合物を総称して、「モノマー(C)」とし、下記式(9)で表される化合物を「モノマー(D)」とする。
【0025】
即ち、分岐構造を有しない構造単位は、モノマー(A)とモノマー(B)の結合により得られ、分岐構造を有する構造単位は、モノマー(C)とモノマー(B)の結合、又はモノマー(A)とモノマー(D)の結合により得られる。
【0026】
[分岐構造を有しないモノマー]
〔モノマー(A)〕
【化10】

X’はハロゲン原子を示し、フッ素、塩素、臭素、及びヨウ素の内のいずれかであり、好ましくはフッ素又は塩素であり、さらに好ましくはフッ素である。フッ素は、後述する重合体製造工程で反応選択性が高く、所望の重合体を効率よく調製することができる。また、A、R〜R、及びqは前記した通りである。
【0027】
〔モノマー(B)〕
【化11】

B’は、−OH基又は−SH基を示す。また、D、R〜R16、及びrは前記した通りである。
【0028】
[分岐構造を有するモノマー]
〔モノマー(C)〕
【化12】

X、X’、D、R17〜R24、及びrは、いずれも前記した通りである。
【化13】

X、X’、W、Z、R37〜R39、及びsは、前記した通りである。
【0029】
〔モノマー(D)〕
【化14】

X、B’、及びR24〜R36は、前記した通りである。
【0030】
上記モノマー(A)の具体例としては、下記の化学式で示されるような化合物が挙げられる。
【化15】

【0031】
また、上記の各化合物において、フッ素原子が塩素原子に置き換わった化合物、−CO−が−SO−に置き換わった化合物、−SO−が−CO−に置き換わった化合物、フッ素原子が塩素原子に置き換わり且つ−CO−が−SO−に置き換わった化合物、及び、フッ素原子が塩素原子に置き換わり且つ−SO−が−CO−に置き換わった化合物等も挙げられる。
【0032】
上記モノマー(B)の具体例としては、4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−2,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ジ(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン等のビスフェノール化合物、及びこれら化合物中の水酸基の酸素原子が硫黄原子に置き換わった化合物が挙げられる。
【0033】
上記モノマー(C)の具体例としては、下記化学式で示されるような化合物が挙げられる。
【化16】

【化17】

【0034】
また、上記例示した化合物に限られず、上記化合物において、フッ素原子又は塩素原子が塩素原子又はフッ素原子に置き換わった化合物、−CO−又は−SO−が−SO−又は−CO−に置き換わった化合物、及び、フッ素原子又は塩素原子が塩素原子又はフッ素原子に置き換わり且つ−CO−又は−SO−が−SO−又は−CO−に置き換わった化合物等も挙げられる。
【0035】
分岐点を有する芳香族化合物は、例えば、以下に示す求核置換反応により合成することができる。まず、フェノール性水酸基又はフェノール性チオール基を有する前記モノマー(B)又は(D)のアルカリ金属塩を調製する。具体的には、誘電率の高い極性溶媒中で、これらモノマー(B)又は(D)に、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、又は、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩等のアルカリ金属化合物を加える。上記誘電率の高い極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイド、N,N−ジメチルイミダゾリジノン等が挙げられる。上記アルカリ金属は、フェノール性水酸基又はフェノール性チオール基に対して、通常1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で用いる。
【0036】
次いで、水と共沸する溶媒、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等を共存させて、上記モノマー(B)又は(D)のアルカリ金属塩と、ハロゲン化物である前記モノマー(A)又は(C)とを反応させる。モノマー(A)及び(C)は、反応性の観点から、フッ素化合物又は塩素化合物であることが好ましい。反応条件のうち、上記モノマー類の比率は、以下の様に設定される。
【0037】
(a)分岐点を導入するモノマーとしてモノマー(C)を用いる場合
モノマー(C)の量は、モノマー(A)1モルに対し、0.01〜0.2モル、好ましくは0.01〜0.1モル、より好ましくは0.03〜0.1モルの範囲である。モノマー(B)の量は、モノマー(A)と(C)の合計1モルに対し、0.1〜4.0モル、好ましくは0.3〜2.8モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの範囲である。
【0038】
(b)分岐点を導入するモノマーとしてモノマー(D)を用いる場合
モノマー(D)の量は、モノマー(B)1モルに対し、0.01〜0.2モル、好ましくは0.01〜0.1モル、より好ましくは0.03〜0.1モルの範囲である。モノマー(B)と(D)の合計量は、モノマー(A)1モルに対し、0.1〜4.0モル、好ましくは0.3〜2.8モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの範囲である。
【0039】
(c)分岐点を導入するモノマーとしてモノマー(C)、(D)両方を用いる場合
モノマー(C)のモノマー(A)に対する量、及びモノマー(D)のモノマー(B)に対する量は、それぞれを単独で用いる場合(上記(a)及び(b))と同様で用いられる。それぞれの量は、モノマー(A)と(C)の合計1モルに対し、モノマー(B)と(D)の合計で0.1〜4.0モル、好ましくは0.3〜2.8モル、より好ましくは0.5〜2.0モルの範囲である。
【0040】
また、反応温度は60℃〜300℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。なお、次の共重合反応を考えると、分岐点を有する芳香族化合物の末端基がフッ素原子、塩素原子となるよう、モノマー(A)とモノマー(B)とのモル比を調節することが望ましい。また、必要に応じて、反応に用いたモノマー(A)1モルに対して、0.01〜1モルのモノマー(A)を末端キャップ剤として添加してもよい。
【0041】
以上に挙げたモノマー(A)〜(D)を用いて製造される芳香族化合物は、例えば、下記式で表される構造を有する。
【0042】
Cl−[分岐を有しない構造単位−O−分岐を有する構造単位−O]−[モノマー(A)]−Cl
ここで、[分岐を有しない構造単位−O−分岐を有する構造単位−O]は、1個又は複数の分岐を有しない構造単位と、1個又は複数の分岐を有する構造単位とが不規則にエーテル結合している構造を示す。[モノマー(A)]−Clの構造部分は、モノマー(A)に由来する。また、分岐を有しない構造単位は、[モノマー(A)]−O−[モノマー(B)]で表される構造を有する。分岐を有する構造単位は、[モノマー(C)]−O−[モノマー(B)]又は[モノマー(A)]−O−[モノマー(D)]のいずれかで表される構造を有する。[モノマー(A)]は、モノマー(A)に由来する構造部分を、[モノマー(B)]は、モノマー(B)に由来する構造部分を、[モノマー(C)]は、モノマー(C)に由来する構造部分を、[モノマー(D)]は、モノマー(D)に由来する構造部分をそれぞれ示す。
【0043】
芳香族化合物の具体例は、下表に示される通りであり、このような化合物として、例えば以下のものが例示される。
【0044】
【表1】

【0045】
【化18】


【化19】


【0046】
以上に挙げたモノマー(A)〜(D)を用いて製造される芳香族化合物として、例えば下記式(1A)で表されるものが挙げられる。
【化20】

【0047】
式中、Aは、互いに同一であっても異なっていてもよく、−CO−又はSO−であり、Bは酸素原子であり、Dは−C(CF−であり、Xは塩素原子である。l及びmは、l+m=100であり、l、m>0である。lとmは、用いるハロゲン化モノマーの量により調節可能である。mが多くなれば、より分岐構造の多い重合体が得られ、mが少なくなれば分岐構造の少ない重合体が得られる。
【0048】
<分岐状ポリアリーレン系共重合体>
分岐状ポリアリーレン系共重合体は、分岐点を有する芳香族化合物に由来する下記式(1’)で表される構造単位[1]を必須成分として含む。さらには、構造単位[1]とともに、式(5)で表されるスルホン酸基を有する構造単位[2]を有することが好ましい。より詳しくは、該重合体は、構造単位[1]同士が式(1’)の両末端の結合手を介して又は式(1’)の分岐点の結合手を介して結合するとともに、これらの結合手の少なくとも一部が構造単位[2]と結合した構造を有する。また、構造単位[2]は、構造単位[1]の末端の結合手に結合してもよいし、構造単位[1]の分岐点の結合手に結合してもよい。
【化21】

【0049】
01は、下記式(1a’)及び(1b’)で表される構造単位がそれぞれ独立に1〜40個結合してなる。式(1a’)及び(1b’)の構造単位は、規則的に結合していても、不規則に結合していてもよく、また、式(1a’)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックと、式(1b’)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックとが結合した構造を形成してもよい。
【化22】

【0050】
A及びDは、それぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、−(CH−(jは1〜10の整数である)、−CR’’−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、及びフルオレニリデン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Bは独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、Qは下記式(2’)〜(4’)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
【化23】


【0051】
式(2’)〜(4’)中、A、D、及びBは、上記式(1a’)及び(1b’)と同じ定義であり、H01は下記式(2−a’)又は(2−b’)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。上記各式中、R〜R36は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部又は全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子又は基を示す。上記各式中、q及びrは、それぞれ独立に、0〜4の整数を示す。
【化24】

【0052】
式(2−a’)及び(2−b’)中、Wは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Zは直接結合、又は、−(CH−(iは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、R37〜R39は、R〜R36と同じである。sは0〜4の整数を示す。各繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。
【0053】
前記スルホン酸基を有する構造単位[2]としては、下記式(5)で表される構造を有していることが好ましい。
【化25】

【0054】
式(5)中、Vは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CFl’−(l’は1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Z01は直接結合、又は、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Yは−CO−、SO−、又はSO−を示し、Arは−SOH、O(CHSOH、又はO(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示す(pは1〜12の整数である)。tは0〜2の整数を示し、uは0〜2の整数を示し、jは0〜2の整数を示す(ただし、uが1又は2の場合は、jは0であり、jが1又は2の場合は、uは0である)。l及びkは、1〜4の整数を示す。また、繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。
【0055】
分岐状ポリアリーレン系共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算で1万〜100万であることが好ましく、より好ましくは2万〜50万、さらに好ましくは10万〜40万である。
【0056】
分岐状ポリアリーレン系共重合体のイオン交換容量は、通常0.3〜5meq/gであることが好ましく、より好ましくは0.5〜4meq/g、さらに好ましくは0.8〜3.5meq/gである。イオン交換容量が0.3meq/g以上であると、プロトン伝導度が確保され、発電性能が向上し、5meq/g以下であると、耐水性の低下を抑制することができる。
【0057】
上記イオン交換容量は、例えば、構造単位[1]及び構造単位[2]の種類、使用割合、組み合わせ等を変えることにより、調整することができる。なお、分岐状ポリアリーレン系共重合体は、構造単位[1]を0.01〜100モル%の割合で含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜99.99モル%の割合で、さらに好ましくは1〜99.9モル%の割合で含有することが好ましい。また、構造単位[2]を99.99〜0モル%の割合で含有することが好ましく、より好ましくは99.9〜0.01モル%の割合で、さらに好ましくは99〜0.1モル%の割合で含有することが好ましい。
【0058】
<スルホン酸基を有する分岐状ポリアリーレン系共重合体の製造方法>
スルホン酸基を有する分岐状ポリアリーレン系共重合体は、前記式(6)で表されるモノマー及び式(7)で表されるモノマーと、前記式(8−a)〜(8−c)又は(9)で表されるモノマーの少なくとも1種とを縮合させた後、得られた前記式(1)で表される芳香族化合物と、下記式(10)で表されるスルホン酸化合物とを反応させ、さらにスルホン酸エステル基を加水分解又はエステル交換反応を行い、スルホン酸基としたものである。かかる重合体は、例えば、特開2004−137444号公報に記載の方法で合成することができる。
【0059】
具体的には、先ず、上記したように前記式(1)で表される分岐点を有する芳香族化合物を合成した後、かかる芳香族化合物と、前記式(5)で表される構造単位の前駆体となる下記式(10)で表される化合物を用い、触媒の存在下で共重合させる。次いで、スルホン酸エステル基を有する分岐状ポリアリーレンを製造し、該スルホン酸エステル基を脱エステル化して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【化26】

【0060】
X’、V、Z01、Y、Ar、t、u、j、l、及びkは前記した通りである。Rは炭素原子数4〜20の炭化水素基を示し、具体的にはtert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンチルメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基等の直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、5員の複素環を有する炭化水素基等が挙げられる。これらのうち、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチルメチル基が好ましく、さらにはネオペンチル基がより好ましい。
【0061】
上記重合の際に用いられる触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、このような触媒系としては、(i)遷移金属塩及び配位子となる化合物(以下、「配位子成分」という)、又は、配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)と、(ii)還元剤とを必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために「塩」を添加してもよい。
【0062】
これらの触媒成分の具体例、各成分の使用割合、反応溶媒、濃度、温度、時間等の重合条件等は、特開2001−342241号公報に記載されている化合物及び条件等を参考にして使用又は設定することができる。式(10)で表される化合物としては、以下のようなものが例示される。
【化27】


【0063】
上記例示された化合物の中でも、好ましくは下記式(5a)で表される化合物である。
【化28】

【0064】
このようなスルホン酸エステル化合物は、例えば特開2004−137444号公報に記載されているように、以下の工程により得ることができる。
【0065】
(1)スルホン化、スルホン酸ナトリウム塩化(例えば、アセチル硫酸、苛性ソーダ)
例えば、2,5−ジクロロベンゾフェノンの1,2−ジクロロメタン溶液に、5倍モルのアセチル硫酸の1,2−ジクロロメタン溶液を60℃で3〜5時間反応させる。反応後、1−プロパノールで反応を終結させ、3倍モルのNaOH水溶液に注ぐ。得られた溶液を濃縮することにより、微粉のスルホン酸ナトリウム塩が得られる。
【0066】
(2)スルホン酸クロライド化(例えば、塩化ホスホリル)
例えば、2,5−ジクロロベンゾフェノン−3’−スルホン酸ナトリウムに対し、約3〜4倍(重量/容積)の溶媒(スルホラン/アセトニトリル=4/6(容積比)の混合溶媒)に溶解させ、70℃に加温し、塩化ホスホリルを10℃付近で、5時間程度反応させる。反応後、大過剰の冷水で希釈し、生成物を沈殿させる。濾過後、トルエンで再結晶し、精製結晶を得る。
【0067】
なお、(1)で用いたアセチル硫酸の代わりに、5〜10倍モル量のクロロスルホン酸を用いれば、一挙にスルホン化クロリドに転換できる。
【0068】
(3)スルホン酸エステル化(例えば、i−ブチルアルコール)
例えば、2,5−ジクロロベンゾフェノン−3’−スルホン酸クロライドに対し、等量以上(通常1〜3倍モル)のi−ブチルアルコールとピリジンを冷却した混合溶液に、スルホン酸クロライドを滴下して反応させる。反応は20℃以下に抑える。反応時間は反応スケールにもよるが、10分〜5時間程度である。反応混合液を希塩酸処理、水洗した後、酢酸エチルで目的物を抽出する。抽出液を濃縮分離後、メタノールで再結晶する。
【0069】
共重合後、スルホン酸エステル基を加水分解するが、かかる加水分解の方法としては、(i)少量の塩酸を含む過剰量の水又はアルコールに、上記ポリアリーレンを投入し、5分間以上攪拌する方法、(ii)トリフルオロ酢酸中で上記ポリアリーレンを80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法、(iii)ポリアリーレン中のスルホン酸エステル基(−SOR)1モルに対して1〜3倍モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドン等の溶液中で上記ポリアリーレンを80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法、等を挙げることができる。
【0070】
<固体高分子電解質膜>
固体高分子電解質膜(以下、電解質膜)は、上記構造単位[1]及び構造単位[2]を有する分岐状ポリアリーレン系共重合体を溶剤中で溶解又は膨潤させ、それを基体上に流延してフィルム状に成膜するキャスティング法等により得ることができる。
【0071】
上記基体としては、通常の溶液キャスティング法に用いられる基体であれば特に限定されず、例えばプラスチック製、金属製等の基体が用いられ、好ましくは、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の熱可塑性樹脂からなる基体が用いられる。
【0072】
共重合体を溶解又は膨潤させる溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、γ−ブチロラクトン、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素、ジメチルイミダゾリジノン、アセトニトリル等の非プロトン系極性溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、iso−プロピルアルコール、sec−ブチアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、γ−ブチルラクトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン等のエーテル類等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、溶解性及び溶液粘度の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(以下「NMP」ともいう)が好ましい。
【0073】
また、上記溶媒として、非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との混合物を用いる場合、該混合物の組成は、非プロトン系極性溶剤が95〜25質量%、好ましくは90〜25質量%であり、他の溶剤が5〜75質量%、好ましくは10〜75質量%(ただし、合計を100質量%とする)である。他の溶剤の量が5〜75質量%の範囲内にあると、溶液粘度を下げる効果に優れる。このような非プロトン系極性溶剤と他の溶剤との組み合わせとしては、非プロトン系極性溶剤としてのNMPと、他の溶剤として幅広い組成範囲で溶液粘度を下げる効果があるメタノールとの組み合わせが好ましい。
【0074】
共重合体を溶解させた溶液のポリマー濃度は、共重合体の分子量にもよるが、通常、5〜40質量%、好ましくは7〜25質量%である。ポリマー濃度が5質量%以上であると、厚膜化し易く、また、ピンホールの生成を抑制できる。ポリマー濃度が40質量%以下であると、溶液粘度が過度に高すぎないため、フィルム化し易く、また、表面平滑性に優れたフィルムを得ることができる。
【0075】
なお、溶液粘度は、共重合体の分子量、ポリマー濃度、添加剤の濃度等によっても異なるが、通常、2,000〜100,000mPa・sであることが好ましく、より好ましくは3,000〜50,000mPa・sである。溶液粘度が2,000mPa・s以上であると、成膜中の溶液の滞留性が確保され、基体から流れてしまう不具合を抑制でき、100,000mPa・s以下であると、粘度が過度に高くなることを抑制できるため、ダイからの押し出しができ、流延法によるフィルム化を行うことができる。
【0076】
上記のようにして成膜した後、得られた未乾燥フィルムを水に浸漬すると、未乾燥フィルム中の有機溶媒を水と置換することができ、膜中の残留溶媒量を低減することができる。なお、成膜後、未乾燥フィルムを水に浸漬する前に、未乾燥フィルムを予備乾燥してもよい。予備乾燥は、未乾燥フィルムを通常50〜150℃の温度で、0.1〜10時間保持することにより行われる。
【0077】
未乾燥フィルム(予備乾燥後のフィルムも含む。以下同じ。)を水に浸漬する際は、枚葉を水に浸漬するバッチ方式でもよく、基板フィルム(例えば、PET)上に成膜された状態の積層フィルムのまま、又は基板から分離した膜を、水に浸漬させて巻き取っていく連続方式でもよい。また、バッチ方式の場合は、処理後のフィルム表面に皺が形成されることを抑制するために、未乾燥フィルムを枠にはめる等の方法で、水に浸漬させることが好ましい。
【0078】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の使用量は、未乾燥フィルム1質量部に対して、10質量部以上であることが好ましく、より好ましくは30質量部以上、さらに好ましくは50質量部以上である。水の使用量が10質量部以上であれば、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を少なくすることができる。また、浸漬に使用する水を交換したり、オーバーフローさせたりして、常に水中の有機溶媒濃度を一定濃度以下に維持しておくことも、得られるプロトン伝導膜の残存溶媒量を低減するうえで有効である。さらに、プロトン伝導膜中に残存する有機溶媒量の面内分布を小さく抑えるためには、水中の有機溶媒濃度を攪拌等によって均質化させることが効果的である。
【0079】
未乾燥フィルムを水に浸漬する際の水の温度は、置換速度及び取り扱い易さの点から、通常5〜80℃であることが好ましく、より好ましくは10〜60℃の範囲である。高温であるほど、有機溶媒と水との置換速度は速くなるが、フィルムの吸水量も多くなるので、乾燥後に得られるプロトン伝導膜の表面状態が悪化することがある。また、フィルムの浸漬時間は、初期の残存溶媒量、水の使用量及び処理温度にもよるが、通常10分〜240時間であることが好ましく、より好ましくは30分〜100時間の範囲である。
【0080】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後乾燥すると、残存溶媒量が低減された膜が得られるが、このようにして得られる膜の残存溶媒量は、通常5質量%以下である。また、浸漬条件によっては、得られる膜の残存溶媒量を1質量%以下とすることができる。このような条件としては、例えば、未乾燥フィルム1質量部に対する水の使用量が50質量部以上であり、浸漬する際の水の温度が10〜60℃、浸漬時間が10分〜10時間である。
【0081】
上記のように未乾燥フィルムを水に浸漬した後、フィルムを30〜100℃、好ましくは50〜80℃で、10〜180分、好ましくは15〜60分乾燥し、次いで、50〜150℃で、好ましくは500mmHg〜0.1mmHgの減圧下、0.5〜24時間真空乾燥することにより、膜を得ることができる。
【0082】
本発明で用いられるプロトン伝導膜は、その乾燥膜厚が、通常10〜100μmであることが好ましく、より好ましくは20〜80μmである。
【0083】
<電極>
本発明に係る固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体の電極は、触媒金属粒子又は触媒金属粒子を導電性担体に担持してなる電極触媒と、電極電解質とからなり、必要に応じて炭素繊維、分散剤、撥水剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0084】
触媒金属粒子としては、触媒活性を有するものであれば特に限定されないが、白金ブラック等の貴金属微粒子そのものからなるメタルブラックを使用することができる。触媒金属粒子を担持させる導電性担体としては、導電性と適度な耐食性を備えていれば特に限定されないが、触媒金属粒子を高分散させるための十分な比表面積を有し、且つ十分な電子伝導性を有することから、カーボン(炭素)を主成分とするものを使用することが望ましい。電極を構成する触媒担体は、触媒金属粒子を担持するだけではなく、電子を外部回路に取り出す、あるいは外部回路から取り入れるための集電体としての機能を果たさなければならない。触媒担体の電気抵抗が高いと電池の内部抵抗が高くなり、結果として電池の性能を低下させることになる。このため、電極に含まれる触媒担体の電子導電率は十分に高くなければならない。つまり、電極触媒担体として十分な電子導電性を持っていれば利用可能で、好適には細孔の発達したカーボン材料が用いられる。細孔の発達したカーボン材料としては、カーボンブラックや活性炭等が好ましく使用できる。カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック等が挙げられる。活性炭は、種々の炭素原子を含む材料を炭化、賦活処理して得られる。また、電子導電性を有する金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物や高分子化合物を含むことも可能である。なお、ここで言う主成分とは、60質量%以上の炭素質を含有することを意味する。
【0085】
また、導電性担体に担持させる触媒金属粒子としては、白金又は白金合金が用いられるが、白金合金を使用すると、電極触媒としての安定性や活性をさらに付与させることもできる。白金合金としては、白金以外の白金族の金属(ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム)、コバルト、鉄、チタン、金、銀、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素、レニウム、亜鉛、及びスズからなる群から選ばれる1種以上と白金との合金が好ましく、該白金合金には白金と合金化される金属との金属間化合物が含有されていてもよい。
【0086】
白金又は白金合金の担持率(担持触媒全質量に対する白金又は白金合金の質量の割合)は、20〜80質量%、特に30〜55質量%が好ましい。この範囲であれば、高い出力を得られる。担持率が20質量%以上であると、充分な出力が得られ、80質量%以下であると、白金又は白金合金の粒子を分散性よく担体となるカーボン材料に担持できる。
【0087】
また、白金又は白金合金の一次粒子径は、高活性なガス拡散電極を得るためには1〜20nmであることが好ましく、特に、反応活性の点で白金又は白金合金の表面積を大きく確保できる2〜5nmであることが好ましい。
【0088】
電極電解質としては、スルホン酸基を有するイオン伝導性高分子電解質(イオン伝導性バインダー)が好適に用いられる。通常、担持触媒は当該電解質により被覆されており、この電解質の繋がっている経路を通ってプロトン(H)が移動する。
【0089】
スルホン酸基を有するイオン伝導性高分子電解質としては、特に、Nafion(登録商標)やFlemion(登録商標)、Aciplex(登録商標)に代表されるパーフルオロカーボン重合体が好適に用いられる。なお、パーフルオロカーボン重合体だけでなく、ポリスチレンスルホン酸等のビニル系モノマーのスルホン化物、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン等の耐熱性高分子に、スルホン酸基又はリン酸基を導入したポリマーや、本明細書で記載されている、スルホン化ポリアリーレン等の芳香族系炭化水素化合物を主とするイオン伝導性高分子電解質を用いてもよい。
【0090】
また、上記イオン伝導性バインダーは、触媒粒子に対し、質量比で0.1〜3.0の割合で含有することが好ましく、特に0.3〜2.0の割合で含有することが好ましい。イオン伝導性バインダー比が0.1以上であると、プロトンを電解膜に伝達することができ、充分な出力が得られ、また、3.0以下であると、イオン伝導性バインダーが触媒粒子を完全に被覆されることがないため、ガスが白金に到達でき、充分な出力が得られる。
【0091】
必要に応じて添加することのできる炭素繊維としては、レーヨン系炭素繊維、PAN系炭素繊維、リグニンポバール系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維等を用いることができ、これらの中では気相成長炭素繊維が好ましい。炭素繊維を含んでいると、電極触媒層中の細孔容積が増加するため、燃料ガスや酸素ガスの拡散性が向上し、また、生成する水によるフラッディング等を改善でき、発電性能が向上する。なお、炭素繊維は、アノード側、カソード側の電極触媒層のいずれか一方又は双方に含まれていてもよい。
【0092】
分散剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤等を挙げることができる。上記分散剤は、1種単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、好ましくは塩基性基を有する界面活性剤であり、より好ましくはアニオン性又はカチオン性の界面活性剤であり、さらに好ましくは分子量5000〜30000の界面活性剤である。電極触媒層を形成する際に使用される電極用ペースト組成物に上記分散剤を添加すると、保存安定性及び流動性に優れ、塗工時の生産性が向上する。
【0093】
本発明における膜−電極構造体は、アノードの触媒層、プロトン伝導膜、及びカソードの触媒層のみからなってもよいが、アノード、カソードともに触媒層の外側にカーボンペーパーやカーボンクロスのような導電性多孔質基材からなるガス拡散層が配置されるとさらに好ましい。ガス拡散層は集電体としても機能するので、本明細書ではガス拡散層を有する場合はガス拡散層と触媒層とを合わせて電極というものとする。
【0094】
本発明の膜−電極構造体を備える固体高分子型燃料電池では、カソードには酸素を含むガス、アノードには水素を含むガスが供給される。具体的には、例えばガスの流路となる溝が形成されたセパレータを膜−電極構造体の両方の電極の外側に配置し、ガスの流路にガスを流すことにより膜−電極構造体に燃料となるガスを供給する。
【0095】
本発明の膜−電極構造体を製造する方法としては、イオン交換膜の上に触媒層を直接形成し必要に応じガス拡散層で挟み込む方法、カーボンペーパー等のガス拡散層となる基材上に触媒層を形成しこれをイオン交換膜と接合する方法、及び平板上に触媒層を形成しこれをイオン交換膜に転写した後平板を剥離し、さらに必要に応じガス拡散層で挟み込む方法等の各種の方法が採用できる。
【0096】
触媒層の形成方法としては、担持触媒とスルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体とを分散媒に分散させた分散液を用いて(必要に応じて撥水剤、造孔剤、増粘剤、希釈溶媒等を加え)、イオン交換膜、ガス拡散層、又は平板上に形成させる公知の方法が採用できる。
【0097】
上記電極ペースト組成物の形成方法としては、刷毛塗り、筆塗り、バーコーター塗布、ナイフコーター塗布、ドクターブレード法、スクリーン印刷、スプレー塗布等が挙げられる。
【0098】
触媒層をイオン交換膜上に直接形成しない場合は、触媒層とイオン交換膜とは、ホットプレス法、接着法(特開平7−220741号公報参照)等により接合することが好ましい。
【実施例】
【0099】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0100】
<合成例1>
攪拌機、温度計、Dean−stark管、窒素導入管、冷却管を取り付けた1Lの三口フラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン97.6g(290mmol;モノマー(B))、4,4’−ジクロロベンゾフェノン73.9g(294mmol;モノマー(A))、2,4,4’−トリクロロベンゾフェノン4.4g(15mmol;モノマー(C−a))、炭酸カリウム52.2g(377mmol)を量り取った。窒素置換後、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)436mL、トルエン218mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を130℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean−stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean−stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を190℃に上げ、2時間攪拌を続けた後、反応液を放冷後、テトラヒドロフラン(THF)300mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩をろ過し、ろ液をメタノール3Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物をろ過、乾燥後、THF600mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末をろ過、乾燥し、下記式(I)で表される目的物145gを得た。GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量は12,000であった。また、得られた化合物のH−NMRスペクトルを図1に示す。
【化29】

【0101】
<合成例2>
実施例1における、4,4’−ジクロロベンゾフェノンの代わりとして、4,4’−ジクロロジフェニルスルホン84.5g(294mmol;モノマー(A))を用いた以外は合成例1と同様に行い、下記式(II)で表される目的物153gを得た。GPCで測定したポリスチレン換算の数平均分子量は11,000であった。
【化30】

【0102】
<実施例1>
攪拌機、冷却管を備えた3Lの三口フラスコに、クロロスルホン酸(233.0g、2mol)を加え、続いて2,5−ジクロロベンゾフェノン(100.4g、400mmol)を加え、100℃のオイルバスで8時間反応させた。所定時間後、反応液を砕氷(1000g)にゆっくりと注ぎ、酢酸エチルで抽出した。有機層を食塩水で洗浄、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、淡黄色の粗結晶(3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸クロリド)を得た。粗結晶は精製することなく、そのまま次工程に用いた。
【0103】
2,2−ジメチル−1−プロパノール(ネオペンチルアルコール)(38.8g、440mmol)をピリジン300mlに加え、約10℃に冷却した。ここに、上記で得られた粗結晶を約30分かけて徐々に加えた。全量添加後、さらに30分攪拌し反応させた。反応後、反応液を塩酸水1000ml中に注ぎ、析出した固体を回収した。得られた固体を酢酸エチルに溶解させ、炭酸水素ナトリウム水溶液、食塩水で洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥後、酢酸エチルを留去し、粗結晶を得た。これをメタノールで再結晶し、下記式(III)で表される3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルの白色結晶を得た。得られた白色粉末のH−NMRスペクトルを図2に示す。
【化31】

【0104】
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル51.4g(128.1mmol)、合成例1で得られた上記式(I)で示されるMn12,000の疎水性ユニット(I)22.5g(1.9mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド3.4g(5.2mmol)、ヨウ化ナトリウム0.58g(3.9mmol)、トリフェニルホスフィン13.64g(52.0mmol)、亜鉛20.4g(312mmol)を量り取り、乾燥窒素置換した。
【0105】
ここに、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)265mlを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc480mlを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0106】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム31g(355mmol)を加えた。7時間攪拌後、イオン交換水7Lに注いで生成物を沈殿させた。次いで、アセトン、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体50gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は218,000、イオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0107】
<実施例2>
実施例1における疎水性ユニット(I)の代わりに、合成例2で得られた上記式(II)で示される疎水性ユニット(II)を用いた以外は、実施例1と同様に行い、目的の重合体50gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は201,000、イオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0108】
<比較例1>
攪拌機、温度計、冷却管、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックをとりつけた1Lの三つ口のフラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)67.3g(0.20mol)、4,4’−ジクロロベンゾフェノン(4,4’−DCBP)60.3g(0.24mol)、炭酸カリウム71.9g(0.52mol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)300ml、トルエン150mlをとり、オイルバス中、窒素雰囲気下で加熱攪拌下130℃で反応させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を130℃から徐々に150℃まで上げた。その後、反応温度を徐々に150℃まで上げながら大部分のトルエンを除去し、150℃で10時間反応を続けた後、4,4’−DCBP10.0g(0.40mol)を加え、さらに5時間反応させた。得られた反応液を放冷後、副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を4Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収して乾燥後、テトラヒドロフラン300mlに溶解した。これをメタノール4Lに再沈殿し、下記式(IV)で表される化合物95g(収率85%)を得た。
【化32】

【0109】
実施例1における疎水性ユニット(I)の代わりに、上記式(IV)で示されるMn12,000の疎水性ユニットを用いた以外は、実施例1と同様に行い、目的の重合体58gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は196,000、イオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0110】
<比較例2>
上記比較例1において、4,4’−ジクロロベンゾフェノンの代わりとして、ビス(4−クロロフェニル)スルホン(BCPS)を使用し、その最初の仕込量を53.5g(0.214mol)とし、後添加する仕込み量を3.3g(0.0133mol)としたこと、また、炭酸カリウムの使用量を58.0g(0.42mol)に変更した以外は、比較例1と同様にして重合を行った。その結果、下記式(V)で表される重合体が96%の収率で120g得られた。GPC(THF溶媒)で求めたポリスチレン換算の数平均分子量は4600、重量平均分子量は7600であった。また、得られた重合体は、THF、NMP、DMAc、スルホラン等に可溶で、Tgは158℃、熱分解温度は513℃であった。
【化33】

【0111】
実施例1における疎水性ユニット(I)の代わりに、上記式(V)で表されるMn11,000の疎水性ユニットを用いた以外は、実施例1と同様に行い、目的の重合体52gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は190,000、イオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0112】
<比較例3>
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、2,5−ジクロロベンゾフェノン−3’−スルホン酸ネオペンチル51.4g(128.1mmol)、比較例1で用いた上記式(IV)で表されるMn12,000の疎水性ユニット(IV)22.5g(1.9mmol)、2,4,4’−トリクロロベンゾフェノン4.4g(15mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド3.4g(5.2mmol)、ヨウ化ナトリウム0.58g(3.9mmol)、トリフェニルホスフィン13.64g(52.0mmol)、亜鉛20.4g(312mmol)を量り取り、乾燥窒素置換した。
【0113】
ここに、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)250mlを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc600mlを加えて希釈し、不溶物を濾過した。
【0114】
得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム30g(349mmol)を加えた。7時間攪拌後、イオン交換水7Lに注いで生成物を沈殿させた。次いで、アセトン、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体47gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は236,000、イオン交換容量は2.3meq/gであった。
【0115】
<評価方法>
[分子量]
重合体の分子量は、GPCによってポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。溶媒としては、比較例2を除き、臭化リチウムを添加したN−メチル−2−ピロリドンを用いた。
【0116】
[プロトン伝導膜の作製]
実施例1及び2、並びに比較例1〜3で得られたポリマーを、それぞれ濃度12〜16質量%でN−メチル−2−ピロリドンに溶解し、ガラス板上にキャストした後、乾燥して膜厚40μmのフィルム(プロトン伝導膜)を得た。
【0117】
[イオン交換容量]
得られたプロトン伝導膜を、水洗水がpH4〜6になるまで水洗浄し、フリーの残存している酸を除去して十分に洗浄し、乾燥した。その後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解させてフェノールフタレインを指示薬とし、NaOHの標準液にて滴定し、中和点からイオン交換容量を求めた。
【0118】
[耐水性試験]
先ず、2×3cmに切削したプロトン伝導膜を、23℃、50%RHの環境下で8時間以上静置して状態調節した後、重量、長辺と短辺の長さを精密に測定した。同プロトン伝導膜を耐熱性樹脂容器に入れ、十分な量の水を加えて密栓した後、オーブン又はプレッシャークッカー試験機を用い、それぞれ95℃、120℃で24時間加熱処理した。加熱終了後、室温まで放冷し、プロトン伝導膜を取出し、表面の水滴を軽く拭き取った後、各辺の長さ及び膜厚を測定した。さらに、プロトン伝導膜を23℃、50%RHの環境下で8時間以上静置して状態調節した後、プロトン伝導膜の重量を測定した。得られた数値を用い、プロトン伝導膜の耐水性について、以下の式に従って算出した。
【数1】

【0119】
[膜−電極構造体の作製]
平均径50nmのカーボンブラック(ファーネスブラック)に白金粒子を、カーボンブラック:白金=1:1の質量比で担持させ、触媒粒子を作製した。次に、イオン伝導性バインダーとしてのパーフルオロアルキレンスルホン酸高分子化合物(DuPont社製Nafion(登録商標))溶液に、上記触媒粒子を、イオン伝導性バインダー:触媒粒子=8:5の質量比で均一に分散させ、触媒ペーストを調製した。
【0120】
実施例1及び2、並びに比較例1〜3で得られたポリマーから作製されたプロトン伝導膜の両面に、上記触媒ペーストを、白金含有量が0.5mg/cmとなるようにバーコーター塗布し、乾燥させることにより電極塗布膜(Catalyst Coated Membrane、以下、CCMという)を得た。乾燥は、100℃で15分間の乾燥を行なった後、140℃で10分間の二次乾燥を行なった。
【0121】
カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子とを、カーボンブラック:PTFE粒子=4:6の質量比で混合し、得られた混合物をエチレングリコールに均一に分散させたスラリーを、カーボンペーパーの片面に塗布、乾燥させて下地層とし、該下地層とカーボンペーパーとからなるガス拡散層を2つ作製した。
【0122】
上記CCMを上記ガス拡散層の下地層側で狭持し、ホットプレスを行なって膜−電極構造体を得た。ホットプレスは、160℃、3MPaで5分間の条件で実施した。なお、本実施例で得られた膜−電極構造体は、ガス拡散層の上にさらにガス通路を兼ねるセパレーターを積層することにより、固体高分子型燃料電池を構成することができる。
【0123】
[発電特性の評価]
作製した膜−電極構造体を用いて、温度85℃、燃料極側/酸素極側の相対湿度を50%/50%、及び100%/100%、電流密度を1A/cmとした発電条件により、発電性能を評価した。燃料極側には純水素を、酸素極側には空気をそれぞれ供給した。さらに、発電耐久性の評価として、該膜−電極構造体を用い、温度85℃、OCVの条件下で、相対湿度100/100%RH〜0/0%RHの乾湿サイクルテストを実施し、クロスリークに至るまでの時間を計測した。クロスリークまでの時間が5000サイクル以上だったものを良として「○」で表示し、5000サイクル未満だったものを不良として「×」で表示した。
【0124】
<評価結果>
得られたプロトン伝導膜を用い、耐水性試験及びプロトン伝導度(イオン交換容量)の測定を実施した。また、得られたプロトン伝導膜を用いて膜−電極構造体を作製し、発電特性を評価した。評価結果を表2に示す。
【表2】

【0125】
表2に示される通り、本発明のポリアリーレン系共重合体を用いて作製されたプロトン伝導膜(実施例1及び2)は、高温高湿環境化において優れた膨潤抑制効果を発揮していることから、広範囲な加湿条件下での発電性能を維持したまま、膨潤・乾燥の繰り返しによる疲労破壊耐性に優れた膜−電極構造体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】合成例1で得られた化合物のH−NMRスペクトルである。
【図2】3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチルのH−NMRスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導膜の一方の面にアノード電極、他方の面にカソード電極を設けた固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体において、
前記プロトン伝導膜は、下記式(1’)で表される繰り返し構成単位を有するポリアリーレン系共重合体であることを特徴とする固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【化1】

[式(1’)中、R01は、下記式(1a’)及び(1b’)で表される構造単位がそれぞれ独立に1〜40個結合してなる。下記式(1a’)及び(1b’)の構造単位は、規則的に結合していても、不規則に結合していてもよく、また、下記式(1a’)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックと、下記式(1b’)で表される構造単位のみが互いに結合した構造ブロックとが結合した構造を形成してもよい。
【化2】

式(1’)、(1a’)、及び(1b’)中、A及びDは、それぞれ独立に直接結合、−O−、−S−、−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、−(CH−(jは1〜10の整数である)、−CR’’−(R’’は脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、及びハロゲン化炭化水素基を示す)、シクロヘキシリデン基、及びフルオレニリデン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Bは独立に酸素原子又は硫黄原子を示し、Qは下記式(2’)〜(4’)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
【化3】

式(2’)〜(4’)中、A、D、及びBは上記式(1’)、(1a’)、及び(1b’)と同義であり、H01は下記式(2−a’)又は(2−b’)で表される構造単位から選ばれる少なくとも一種の構造単位である。
式(1’)〜(4’)、及び(1a’)中におけるR〜R36は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、一部又は全てがハロゲン化されたハロゲン化アルキル基、アリル基、アリール基、ニトロ基、及びシアノ基からなる群より選ばれる少なくとも1種の原子又は基を示す。式(1’)〜(4’)、及び(1a’)中におけるq及びrは、それぞれ独立に0〜4の整数を示す。
【化4】

式(2−a’)及び(2−b’)中、Wは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(iは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Zは直接結合、又は、−(CH−(iは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、R37〜R39は、前記式(1’)〜(4’)、及び(1a’)中におけるR〜R36と同義である。sは0〜4の整数を示す。各繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。]
【請求項2】
前記ポリアリーレン系共重合体は、下記式(5)で表される繰り返し構成単位をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用膜−電極構造体。
【化5】

[式(5)中、Vは−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF−(lは1〜10の整数である)、及び−C(CF−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Z01は直接結合、又は、−(CH−(lは1〜10の整数である)、−C(CH−、−O−、及び−S−からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造単位を示し、Yは−CO−、SO−、又はSO−を示し、Arは−SOH、O(CHSOH、又はO(CFSOHで表される置換基を有する芳香族基を示す(pは1〜12の整数である)。tは0〜2の整数を示し、uは0〜2の整数を示し、jは0〜2の整数を示す(ただし、uが1又は2の場合には、jは0であり、jが1又は2の場合には、uは0である)。l及びkは、1〜4の整数を示す。繰り返し構成単位の端部における単線のうち、一方に置換基が表示されていないものについては、隣り合う構成単位との接続を意味する。]

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−238468(P2009−238468A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−80884(P2008−80884)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】