説明

固体高分子型燃料電池用触媒

【課題】触媒粒子全体のマクロ的な粒子径分布の幅が狭く、かつ、粒子径相当の触媒活性表面積を有する、従来の電極触媒に比べて触媒活性と耐久性に優れた固体高分子型燃料電池用触媒を提供する。
【解決手段】炭素担体に白金を含む触媒活性成分を担持した触媒であって、上記触媒活性成分に含まれる白金を含む金属が、触媒活性成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で10〜80質量%であり、X線回折測定から得られる触媒粒子全体の情報を含む回折パターンを使用して求めたマクロ的な粒子径分布の幅が所定の範囲であり、かつ、X線回折測定から見積もられた粒子径に相当する触媒活性表面積を電気化学測定によって測定した結果が所定に範囲である、高活性で耐久性に優れた固体高分子型燃料電池用触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、水素を燃料とするクリーンな電源として、電気自動車の駆動電源、また、発電と熱供給を併用する定置電源として開発が進められている。また、固体高分子型燃料電池は、リチウムイオン電池などの二次電池と比較して高いエネルギー密度が特徴であり、携帯用コンピュータ、あるいは、移動用通信機器の電源としても開発が進められている。
【0003】
固体高分子型燃料電池の電源部分は、アノード(燃料極)とカソード(空気極)、及び両極間に配したプロトン交換性(プロトン伝導性)の固体高分子電解質膜が基本構成となる。アノード及びカソードは、通常、白金などの貴金属を担持した触媒、フッ素樹脂紛などの造孔剤、及び固体高分子電解質等からなる薄膜電極である。
【0004】
固体高分子型燃料電池では、高エネルギー密度、すなわち、単位電極面積当たりの出力が高いことが求められる。そのためには、アノードとカソードを構成する電極触媒の電気化学反応の触媒活性を向上させることが有効な手段の一つである。
【0005】
ここで、電気化学反応の触媒活性とは、水素を燃料とするアノードでは、水素分子が水素カチオン(プロトン)に酸化する電気化学的反応における触媒活性である。一方、カソードでは、電気化学反応の触媒活性とは、固体高分子電解質から来るプロトンと酸素が反応して酸素が水に還元される電気化学反応における触媒活性である。
【0006】
固体高分子型燃料電池のアノードとカソードの電極触媒には、白金などの貴金属が用いられる。しかしながら、白金をはじめとして貴金属は高価なので、固体高分子型燃料電池の実用化や普及を加速するために、電極単位面積当たりの使用量の低減が求められ、そのためには触媒活性のさらなる向上が必要である。
【0007】
さらに、電極触媒を燃料電池に使用した場合には、起動停止や高負荷運転によって、触媒成分の白金が溶出したり、カーボン担体が腐食したりすることが知られており、白金の溶出やカーボン腐食を妨げる技術も非常に重要になっている。触媒粒子の触媒活性と耐久性については、これまで、合金化や粒子径のばらつきの制御によって改善が図られてきた。
【0008】
特許文献1には、白金を希土類元素と合金化し、さらにその20質量%以上を金属間化合物にした上で、電子顕微鏡で調べた触媒粒子の80質量%以上の粒子径が1〜20nmとなるように制御することで、白金と希土類元素との共有結合性の結合の形成により、溶解、再析出による触媒粒子の成長を著しく抑制できることが開示されている。
【0009】
特許文献2には、触媒粒子の平均粒子径をXとしたとき、ある任意の触媒粒子Aに対して、隣接する3つ以上の触媒粒子の重心が触媒粒子Aの重心と0.5X〜2Xの距離の範囲になるように触媒を担体に担持し、さらに、触媒粒子径のばらつきを0.75X〜1.5Xの範囲に制御することなどによる耐久性に優れた電極触媒が開示されている。
【0010】
特許文献2によれば、粒子間距離を制限する理由は、隣接する粒子間の距離が開きすぎると、導電性材料表面の暴露面積が大きくなりすぎ、導電性材料表面と水が接触する可能性が高くなるので、高電位での運転条件で導電性材料の腐食劣化が著しく生じ、逆に、隣接する粒子間の距離が短すぎると、触媒粒子同士の接触が増え、燃料又は酸化剤ガス、電極触媒、電解質との三相界面が小さくなるので、触媒活性が低下し好ましくないからである。
【0011】
また、粒子径のばらつきを制限する理由は、ばらつきが大きいと、小さい粒子が溶出し、電解質膜中や大きな粒子の表面に再析出し、膜の劣化を促進したり、触媒の比表面積を低下させ、比活性の低下を引き起こす原因になるからである。
【0012】
固体高分子型燃料電池用触媒の耐久性を向上させる試みの1つとして、粒子径分布の幅(粒子径のばらつきの幅)を狭くすることが挙げられる。粒子径の分布を測定する手段としては、透過型電子顕微鏡で得られた像から100〜1000個程度の粒子の粒子径を調べるのが一般的である。
【0013】
しかしながら、上記の方法で判断しながら、粒子径分布の幅が狭い触媒を作製しても、得られた触媒の耐久性が優れない場合があった。また、逆に、粒子径分布の幅が広い触媒であっても、耐久性が優れる場合が散見されていた。
【0014】
本発明者らは、この現象を詳細に検討した結果、触媒粒子全体に近いマクロ的な粒子径分布の幅が、透過型電子顕微鏡で判断される局所的な粒子径分布の幅と必ずしも一致していないことが原因であることを明らかにした。つまり、透過型電子顕微鏡像から得られる粒子径分布は、どのように多くの粒子径を測定したとしても、測定領域には限界があり触媒粒子全体に近いマクロ的な粒子径分布を表すことができないのが原因である。
【0015】
一方、触媒粒子全体に近いマクロ的な平均粒子径を測定できる方法として、粉末X線回折測定によって得られたピークの半価幅から見積もる手法がある。粉末X線回折測定による方法では、マクロ的な触媒粒子群の粒子径の平均値が得られ、さらに、特許文献3にあるように粒子径分布を表す指標を見積もることができ、触媒粒子全体に近いマクロ的な粒子径分布の幅の狭い触媒を作製することに成功していた。
【0016】
粉末X線回折測定によって見積もられる粒子径分布に関する指標は触媒の粒子径、正確には、結晶子径を反映した指標である。しかしながら、触媒粒子が凝集している場合や、触媒粒子が高分子保護剤等で覆われている場合には、必ずしも良い指標とはなっていなかった。つまり、粉末X線回折測定の結果から、触媒粒子径とその分布が適切であると判断されても、触媒粒子の凝集や、触媒粒子を覆っている高分子保護剤によって、触媒活性を有する表面積が小さくなっている場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平10−214630号公報
【特許文献2】特開2007−222732号公報
【特許文献3】特開2009−283254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、前記の事情に鑑みなされたものであって、触媒粒子全体の粒子径分布に近いマクロ的な粒子径分布の幅が狭く、かつ、粒子径相当の触媒活性表面積を有する、従来の電極触媒に比べて触媒活性と耐久性に優れた固体高分子型燃料電池用触媒の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らは、前記のように、透過型電子顕微鏡像から得られる粒子径分布は、触媒中の局所的な粒子径分布であり、必ずしも、触媒粒子全体に近いマクロ的な粒子径分布を表していないことを見出した。
【0020】
そして、むしろ、X線回折(以下、「XRD」とも記す)測定から得られる触媒粒子全体の情報を含む回折パターン(以下、「XRDパターン」とも記す)を使用して、マクロ的な粒子径分布の幅を特定の範囲にし、かつ、XRD測定から見積もられた粒子径に相当する触媒活性表面積が電気化学測定によっても得られる触媒が、高活性で、かつ、耐久性に優れることを見出した。
【0021】
さらに、このような触媒の合成は、金属塩化物、金属硝酸塩、金属錯体を水や有機溶媒などの溶媒に溶解した上で、還元剤で還元して、白金を含む触媒活性成分を炭素担体に担持する(液相吸着する)方法で製造することができるが、この方法において、溶媒、界面活性剤、還元剤の量が触媒の粒子径分布に大きく影響を与えることを見出した。
【0022】
本発明は、上記の知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0023】
(1)炭素担体に、白金を含む触媒活性成分を担持した触媒であって、
上記触媒活性成分に含まれる白金を含む金属が、触媒活性成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で10〜80質量%であり、
上記触媒のX線回折測定で得られた回折パターンからバックグラウンドを削除し、上記回折パターンにおける白金の面心立方格子の(111)ピークの高さに対する1/4高さでのピーク幅β1/4、及び、上記(111)ピークの高さに対する3/4高さでのピーク幅β3/4を求め、
上記(111)ピークをガウス関数とローレンツ関数の和と仮定して、上記β1/4、及び、β3/4からそれぞれ、上記(111)ピークの高さに対する1/2の高さでのピーク幅β'1/4、及び、β'3/4を算出し、
上記β'1/4、及び、β'3/4を用いて、Scherrerの式でそれぞれ算出した白金の粒子径D1/2(h/4)、及び、D1/2(3h/4)の比D1/2(h/4)/D1/2(3h/4)が、0.9以上、1.1以下であり、かつ、
上記(111)ピークの半値幅を用いて、Scherrerの式で算出した白金の粒子径Dxrdと、上記触媒の電気化学測定で得られた水素脱離波から見積もられる白金の粒子径Decの比Dxrd/Decが0.6以上、1.4以下である
ことを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。
【0024】
(2)前記Dxrdが、3.0〜6.0nmであることを特徴とする前記(1)の固体高分子型燃料電池用触媒。
【0025】
(3)前記触媒活性成分に含まれる白金を含む金属が、触媒活性成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で20〜80質量%であることを特徴とする前記(1)又は(2)の固体高分子型燃料電池用触媒。
【発明の効果】
【0026】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、従来の触媒に比べて、マクロ的に粒子径の揃った触媒粒子であり、かつ、触媒粒子の凝集や、高分子保護剤の被覆による触媒活性表面積の減少がない触媒である。その結果、高い触媒活性を持ち、さらに、特に耐久性に優れるという効果がある。
【0027】
上記の触媒を用いた電極を固体高分子型燃料電池に使用すると、エネルギー密度が高い、コンパクトな燃料電池セルスタックが達成でき、携帯用コンピュータ、あるいは、移動用通信機器の電源としても実用できるサイズになる。
【0028】
また、本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、高触媒活性であり、耐久性に優れるので、貴金属の使用量を低減でき、大幅な低コスト化を実現でき、固体高分子型燃料電池の商業的な市場普及を加速することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例に係る、触媒No.4のX線回折測定で得られた白金の面心立方格子の(111)ピークを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、XRD測定で得られる回折パターンから算出される、触媒粒子全体に近いマクロ的な粒子径分布の幅と、XRDパターンから得られた粒子径と、電気化学測定で得られる水素脱離波から見積もられる粒子径の比を特定の範囲にしたものである。
【0031】
XRDパターンから、マクロ的な触媒の粒子径分布の幅を表す指標を導出する手順を以下に記す。
【0032】
まず、XRDパターンのバックグラウンドを削除する。これは、特に、触媒担持量や触媒担体が異なる場合や、XRD測定用サンプルホルダーに入れた触媒量が異なる場合などに、バックグラウンドを削除しないと、金属由来のピークの幅を正確に定義することができなくなるからである。
【0033】
次に、XRDパターンの、白金の面心立方格子(fcc、face-centered cubic)の(111)ピークの頂点の高さに対する1/4高さでのピーク幅β1/4、及び、3/4高さでのピーク幅β3/4を求める。
【0034】
さらに、XRDパターンが、ガウス関数とローレンツ関数の和で表せると仮定して、上で求めたピーク幅β1/4、及び、ピーク幅β3/4から、それぞれ、ピークの頂点の高さに対する1/2高さに相当するピーク幅(半価幅)β'1/4、及び、β'3/4を求める。
【0035】
1/4高さでのピーク幅β1/4、及び、3/4高さでのピーク幅β3/4から、それぞれ、1/2高さでのピーク幅β'1/4、及び、β'3/4を求める式は、下記のとおりである。
【0036】
【数1】

【0037】
【数2】

【0038】
求められた1/2高さでのピーク幅β'1/4、及び、β'3/4から、下記Scherrerの式で、それぞれ粒子径D1/2(h/4)、及び、粒子径D1/2(3h/4)を求める。
【0039】
【数3】

D:結晶子の大きさ(Å)
K:Scherrer定数
λ:X線管球の波長(Å)
β:結晶子の大きさによる回折線の拡がりの半価幅(Radian)
θ:回折角 2θ/2 (degree)
【0040】
上で求めた2つの粒子径の比D1/2(h/4)/D1/2(3h/4)が、粒子径分布の幅を表す指標となる。式3で、それぞれ、粒子径を求めなくても、式1と式2をそれぞれ式3に代入して得られる式を用いて求められる下記式4から、D1/2(h/4)/D1/2(3h/4)が直接求められる。
【0041】
【数4】

【0042】
ここで、ピークの頂点での高さに対する1/4高さでのピーク幅β1/4、及び、3/4高さでのピーク幅β3/4から、粒子径D1/2(h/4)、及び、粒子径D1/2(3h/4)を、それぞれ見積もる理由は、以下のとおりである。
【0043】
2種類のピーク幅を決める2つの高さが1/2に近すぎると、好ましい粒子径分布を持っていない場合(粒子径分布の幅が広い場合)でも、2つの高さでのピーク幅から求めた粒子径がほとんど同じになってしまい、粒子径分布の幅を正確に求めることができない。
【0044】
逆に、2種類のピーク幅を決める2つの高さが1/2から離れすぎている場合、例えば、2種類のピーク幅を決める2つの高さを頂点近くと底辺近くとした場合には、測定や、バックグラウンド除去の誤差の影響で、2つのピーク幅から求められるそれぞれの粒子径の誤差が大きくなるので適切ではない。したがって、2種類のピーク幅を求めるピーク高さを、ピークの頂点での高さに対して、1/4と3/4とした。
【0045】
ピーク高さの1/4、及び、3/4におけるピーク幅から、それぞれ2つの半価幅を求め、2種類の粒子径D1/2(h/4)、及び、D1/2(3h/4)を算出して比較することが意味するのは、以下のとおりである。
【0046】
粒子径分布を持たない粒子群のXRDパターンは、理想的なピーク形状になる。その結果、ピーク高さ1/4、及び、3/4におけるピーク幅からそれぞれ求めた2つの半価幅より算出される粒子径D1/2(h/4)、及び、D1/2(3h/4)は、同じになる。すなわち、D1/2(h/4)/D1/2(3h/4)=1となる。
【0047】
しかしながら、粒子径の異なる粒子群によるXRDパターンでは、ピーク形状が理想的なピーク形状からずれる。その結果、ピーク高さの異なるピーク幅から2つの半価幅を求め、前記半価幅からそれぞれ求めた粒子径D1/2(h/4)、及び、D1/2(3h/4)に違いが生じる。したがって、粒子径の比D1/2(h/4)/D1/2(3h/4)を見ることによって、粒子径分布の幅が判断できる。
【0048】
触媒の粒子径分布の幅が狭くて、耐久性に優れた触媒として、好ましい粒子径分布を持つ場合に示すD1/2(h/4)/D1/2(3h/4)の値の範囲は、0.9以上、1.1以下である。すなわち、粒子径分布を持たない理想値1からのずれが、±0.1の範囲内である。
【0049】
さらに、本発明の触媒粒子の粒子径は、3.0〜6.0nmの範囲がより好ましい。上記粒子径は、XRDパターンにおける白金のfccの(111)ピークの半値幅(1/2高さでのピーク幅)を用いて、上記Scherrerの式で求めた粒子径Dxrdである。
【0050】
本発明の炭素担体に担持される白金を含む触媒活性成分は、白金のみからなる金属である必要はなく、白金の他にクロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、ルテニウムなどを合金元素として含む金属であっても構わない。
【0051】
電気化学測定には、三極式方式の電解セルを用いる。電解液には、窒素ガス又はアルゴンガス飽和した、硫酸又は過塩素酸を用いる。作用極電極に触媒を載せ、サイクリックボルタンメトリーによって水素脱離波の電気量を求め、平滑多結晶白金の値(210μC)で除することによって、作用極電極上に載せた触媒の白金表面積を得ることができる。
【0052】
さらに、白金表面積、及び、作用極電極上の白金重量から、白金粒子が球であるとの仮定の下、白金粒子径Decを求める。触媒粒子が凝集し、一部結合している部位があっても、結晶子として分離できれば、XRD測定では、1つの粒子として観測される。また、白金粒子表面が高分子保護剤に覆われていたり、酸素還元活性能の低い元素が表面に存在していたりしても、白金粒子の触媒活性は低下するが、XRD測定で見積もられる白金粒子径には影響しない。
【0053】
一方、電気化学測定によって求められる白金粒子径は、白金表面の水素吸着量から見積もるため、水素吸着を妨げる状態、つまり、触媒粒子の凝集、保護剤の吸着や低活性元素の存在などがある場合には、見積もられる白金表面積が小さくなり、結果として、白金粒子径は大きく見積もられる。
【0054】
そのため、XRD測定から見積もられる白金粒子径Dxrdと、電気化学測定で得られた水素脱離波から見積もられる白金粒子径Decの比Dxrd/Decは、白金表面が清浄で、かつ、凝集等がない場合には1に近い値となり、白金表面の活性を低下させる状態では1よりも小さな値となる。
【0055】
触媒活性に優れた触媒として、好ましい触媒表面性状を有する場合に示すDxrd/Decは、0.6以上、1.4以下である。白金表面が清浄である場合は、Dxrd/Decが1に近い値になり、1よりも大幅に大きくなることはない。
【0056】
本発明で使用する炭素担体は、特に限定されないが、微粒子を均一に分散させるために、BET法による窒素吸着比表面積が200m/g以上であることが好ましい。さらには、500m/g以上であることがより望ましい。
【0057】
BET法による窒素吸着比表面積が200m/g未満であると、特に触媒中に含まれる白金の担持量が50質量%以上になった場合に、金属元素として白金のみを含む触媒活性成分の炭素担体上での均一分散性が低下することがある。一方、2500m/gを超えると、炭素材料の電気伝導性が低下して、電極触媒としては不適当になる場合がある。
【0058】
また、本発明の炭素担体は、非晶質、黒鉛のどちらでもよく、結晶性や黒鉛化度にも限定されない。
【0059】
本発明において、白金を含む金属の担持量は、触媒活性成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で10〜80質量%である。
【0060】
白金を含む金属の担持量が10質量%未満では、担持される触媒成分が少なくなるので、触媒層の単位厚みでの出力が減少する。そのため、高出力を得るには触媒層を厚くする必要があり、その結果、生成水の除去が困難になり、電池性能が低下するだけでなく、運転時に触媒層に含まれる水分量が増加して耐久性も低下する。
【0061】
一方、白金を含む金属の担持量が80質量%を越えると、触媒活性成分を高密度に分散させることが困難で触媒活性が低下し、また、触媒粒子同士が凝集しやすくなって耐久性も低下する。
【0062】
より好ましい白金を含む金属の担持量は、20〜80質量%であり、さらに好ましくは、20〜70質量%である。
【0063】
白金の他に、触媒活性成分として、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ロジウム、パラジウム、銀、イリジウム、ルテニウムから選ばれる1種以上の金属元素を、さらに含有することができる。これらの金属は、白金との複合体であっても、合金であっても構わない。さらには、これらの金属と有機化合物や無機化合物との錯体であっても構わない。
【0064】
本発明の固体高分子型燃料電池用触媒は、塩化白金酸等の金属塩化物、金属硝酸塩、金属錯体を水や有機溶媒などの溶媒に溶解した上で、還元剤で還元して、白金を含む触媒活性成分を炭素担体に担持する(液相吸着する)方法で製造することができる。
【0065】
触媒の粒子径分布の幅は、還元剤を希釈して添加して反応容器全体に均一に拡散させる、溶媒の割合を多くする、界面活性剤を特定の範囲で添加する等によって、狭くすることが可能である。溶媒の割合と界面活性剤の添加量によって、触媒の粒子径分布の幅を狭くする方法が、より再現性よく制御しやすい。溶媒、界面活性剤、還元剤の量は、粒子径分布に大きく影響を与える。
【0066】
溶媒量が少なすぎると粒子径が大きくなるので、粒子径のばらつき幅を表す指標であるD1/2(h/4)/D1/2(3h/4)は小さくなり、さらに、触媒粒子の凝集や保護剤被覆の程度を表す指標であるDxrd/Decが低下し、電池性能、特に、耐久性能が著しく低下する。
【0067】
具体的には、溶媒中の金属前駆体のモル濃度が20mmol/L以下とするのが好ましい。
【0068】
還元剤としては、例えば、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、エーテル類などが挙げられる。その際に、水酸化ナトリウムや塩酸などを加えてpHを調節し、さらに、粒子の凝集を妨げるために、ポリビニルピロリドンなどの界面活性剤を添加するのが好ましい。
【0069】
還元剤の量が少なすぎると、還元の進行が遅れ、触媒が凝集しやすくなって、凝集の程度を表す指標であるDxrd/Decが低下して、電池性能と耐久性能が低下する。
【0070】
還元剤の量は、金属前駆体に対するモル比で2以上とするのが好ましい。
【0071】
界面活性剤の量が少なすぎると、粒子径分布の幅が大きくなり、電池性能、耐久性能ともに低下する。界面活性剤が多すぎると、粒子径が小さくなり、保護剤被覆の程度を表す指標であるDxrd/Decが低下して、電池性能と耐久性能が低下する。
【0072】
界面活性剤の量は、金属前駆体に対するモル比で0.25以上6以下とするのが好ましい。
【0073】
炭素担体に担持した触媒を、さらに、再還元処理してもよい。再還元処理の方法としては、還元雰囲気、又は、不活性雰囲気の中で、500℃以下の温度で熱処理を施す方法がある。また、蒸留水中に触媒を分散し、アルコール類、フェノール類、クエン酸類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類及びエーテル類から選ばれる還元剤で再還元することもできる。
【0074】
本発明の触媒は、電極の構成材料である電解質材料の種類や形態、電極構成に必要なバインダー材料の種類・構造がどのような場合であっても好適に使用でき、電極の構成材料を特に限定するものではない。
【0075】
本発明に使用される電解質膜や、触媒層中に使用される電解質材料は、リン酸基、スルホン酸基等を導入した高分子、例えば、パーフルオロスルホン酸ポリマーやベンゼンスルホン酸が導入されたポリマー等を挙げることができる。
【0076】
電解質材料は、高分子に限定するものではなく、無機系材料との複合化膜、無機−有機ハイブリッド系の電解質膜等を使用した燃料電池に使用しても差し支えない。特に好適な作動温度範囲を例示するならば、常温〜150℃の範囲内で作動する燃料電池が好ましい。
【0077】
本発明の触媒を用いた燃料電池用電極で、電解質膜を挟み、さらに、ガス拡散層、セパレーター、燃料ガス流路基板、酸素もしくは空気流路基板、ガスマニホールド等を組み合わせて固体高分子型燃料電池とすることができる。
【実施例】
【0078】
固体高分子型燃料電池用触媒を、以下の方法で作製した。
【0079】
蒸留水中に0.03mol/Lの塩化白金酸水溶液、0.03mol/Lの塩化コバルト水溶液、0.03mol/Lの塩化クロム水溶液とポリビニルピロリドンを入れ、90℃で攪拌しながら、水素化ホウ素ナトリウムを蒸留水10mLに溶かした上で注ぎ、上記金属塩を還元した。
【0080】
次いで、その水溶液に触媒担体炭素材料を添加して60分間撹拌し、その後、濾過、洗浄を行った。得られた固形物を90℃で真空乾燥した後、粉砕して、続いて、250℃の水素雰囲気中で1時間熱処理を施して、触媒を作製した。
【0081】
塩化白金酸量、塩化コバルト量、塩化クロム量、ポリビニルピロリドン量、水素化ホウ素ナトリウム量、触媒担体炭素材料量を表1のように変え、触媒No.1〜23を得た。
【0082】
得られた触媒No.1〜23について、ICP発光分析によって金属担持量を測定した結果と、XRD測定によって触媒粒子径(半価幅から求めたDxrd)と、XRD測定によって求めたD1/2(h/4)/D1/2(3h/4)、さらに、XRD測定と電気化学測定で求めた粒子径の比Dxrd/Decを、表2に示す。
【0083】
触媒No.1〜23を、それぞれ、アルゴン気流中で、5%ナフィオン溶液(アルドリッチ製)を触媒の質量に対してナフィオン固形分の質量が3倍になるように加え、軽く撹拌した後、超音波で触媒を粉砕し、白金触媒とナフィオンを合わせた固形分濃度が2質量%となるように撹拌しながら酢酸ブチルを加え、各触媒層スラリーを作製した。
【0084】
前記触媒層スラリーをそれぞれガス拡散層の片面にスプレー法で塗布し、80℃のアルゴン気流中で1時間乾燥し、触媒No.1〜23を触媒層に含有する固体高分子型燃料電池用電極を得た。
【0085】
それぞれの電極は、白金使用量が0.10mg/cmとなるようにスプレー等の条件を設定した。白金使用量は、スプレー塗布前後の電極の乾燥質量を測定し、その差から求めた。
【0086】
さらに、得られた固体高分子型燃料電池用電極から、2.5cm角の大きさで2枚ずつ電極を切り取り、触媒層が電解質膜と接触するように同じ種類の電極2枚で電解質膜(ナフィオン112)をはさみ、130℃、90kg/cmで10分間ホットプレスを施し、アノード及びカソードの触媒層をナフィオン膜に定着させた。
【0087】
さらに、市販のカーボンクロス(ElectroChem社製EC−CC1−060)を2.5cm角の大きさに2枚切り取って、ナフィオン膜に定着させたアノードとカソードを挟むようにして130℃、50kg/cmで10分間ホットプレスを施し、膜/電極接合体(Membrane Electrode Assembly,MEA)23種を作製した(表3のMEA No.1〜23)。
【0088】
作製した各MEAは、それぞれ燃料電池測定装置に組み込み、電池性能測定を行った。電池性能測定は、セル端子間電圧を開放電圧(通常0.9〜1.0V程度)から0.2Vまで段階的に変化させ、セル端子間電圧が0.8Vのときに流れる電流密度を測定した。
【0089】
また、耐久試験として、開放電圧に15秒間保持、セル端子間電圧を0.5Vに15秒間保持のサイクルを4000回実施し、その後、耐久試験前と同様に電池性能を測定した。
【0090】
ガスは、カソードに空気、アノードに純水素を、利用率がそれぞれ50%と80%となるように供給し、それぞれのガス圧は、セルの下流に設けられた背圧弁で0.1MPaに圧力調整した。セル温度は80℃に設定し、供給する空気と純水素は、それぞれ75℃と80℃に保温された蒸留水中でバブリングし、加湿した。
【0091】
表3に、各MEAの電池性能の測定結果と耐久試験後の電池性能を示す。本発明の触媒No.1〜9を用いたMEAは、比較例の触媒No.10〜23を用いたMEAに比べて優れた電池性能と耐久性を示した。実施例の中でも、触媒No.1〜4を用いたMEAは、特に優れた電池性能と高い耐久性を示した。
【0092】
このような優れた性能が発揮できるのは、本発明の製造方法によれば、触媒粒子の粒子径分布が狭く、均一分散しているためである。図1に、一例として、触媒No.4のX線回折測定で得られた白金の面心立方格子の(111)ピークを示す。
【0093】
本実施例の結果から、本発明の触媒合成法においては、溶媒、界面活性剤、還元剤の量が粒子径分布に大きく影響を与えることが確認できた。
【0094】
【表1】

【0095】
【表2】

【0096】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、従来の触媒に比べて、高い触媒活性を持ち、耐久性に優れた固体高分子型燃料電池用触を得ることができる。本発明の触媒を用いた電極を固体高分子型燃料電池に使用すると、エネルギー密度が高い、コンパクトな燃料電池セルスタックが達成でき、携帯用コンピュータ、あるいは、移動用通信機器の電源としても実用できるサイズになる。さらに、高触媒活性であり、耐久性に優れるので、貴金属の使用量を低減でき、大幅な低コスト化を実現できるので、固体高分子型燃料電池の商業的な市場普及を加速することができ、産業上の利用性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素担体に、白金を含む触媒活性成分を担持した触媒であって、
上記触媒活性成分に含まれる白金を含む金属が、触媒活性成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で10〜80質量%であり、
上記触媒のX線回折測定で得られた回折パターンからバックグラウンドを削除し、上記回折パターンにおける白金の面心立方格子の(111)ピークの高さに対する1/4高さでのピーク幅β1/4、及び、上記(111)ピークの高さに対する3/4高さでのピーク幅β3/4を求め、
上記(111)ピークをガウス関数とローレンツ関数の和と仮定して、上記β1/4、及び、β3/4からそれぞれ、上記(111)ピークの高さに対する1/2の高さでのピーク幅β'1/4、及び、β'3/4を算出し、
上記β'1/4、及び、β'3/4を用いて、Scherrerの式でそれぞれ算出した白金の粒子径D1/2(h/4)、及び、D1/2(3h/4)の比D1/2(h/4)/D1/2(3h/4)が、0.9以上、1.1以下であり、かつ、
上記(111)ピークの半値幅を用いて、Scherrerの式で算出した白金の粒子径Dxrdと、上記触媒の電気化学測定で得られた水素脱離波から見積もられる白金の粒子径Decの比Dxrd/Decが0.6以上、1.4以下である
ことを特徴とする固体高分子型燃料電池用触媒。
【請求項2】
前記Dxrdが、3.0〜6.0nmであることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子型燃料電池用触媒。
【請求項3】
前記触媒活性成分に含まれる白金を含む金属が、触媒活性成分を担持した炭素担体の全質量に対して、金属換算で、20〜80質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子型燃料電池用触媒。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2012−248365(P2012−248365A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117952(P2011−117952)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】