固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体
【課題】電解質膜に発生する電位勾配の平均値を規定値以下に設定することにより、簡単な構成で、電解質膜等の劣化を有効に抑制することを可能にする。
【解決手段】電解質膜・電極構造体10は、固体高分子電解質膜18の両側にそれぞれアノード電極20及びカソード電極22を設ける。カソード電極22の外周端部は、アノード電極20の外周端部よりも外側に突出するとともに、固体高分子電解質膜18の外周を周回して樹脂製枠部材24が設けられる。カソード電極22の電極触媒層22aの外周端部22aeは、アノード電極20の電極触媒層20aの外周端部20aeよりも外側に距離Lだけ突出する。この距離Lの間、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定される。
【解決手段】電解質膜・電極構造体10は、固体高分子電解質膜18の両側にそれぞれアノード電極20及びカソード電極22を設ける。カソード電極22の外周端部は、アノード電極20の外周端部よりも外側に突出するとともに、固体高分子電解質膜18の外周を周回して樹脂製枠部材24が設けられる。カソード電極22の電極触媒層22aの外周端部22aeは、アノード電極20の電極触媒層20aの外周端部20aeよりも外側に距離Lだけ突出する。この距離Lの間、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層が設けられるとともに、一方の電極触媒層の外周端部は、他方の電極触媒層の外周端部よりも外側に突出する固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(ガス拡散層)からなるアノード電極及びカソード電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持する発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
電解質膜・電極構造体では、一方の電極触媒層の表面積が他方の電極触媒層の表面積よりも小さく設定される、所謂、段差型MEAを構成する場合がある。この種の段差型MEAとして、例えば、特許文献1に開示されている電解質膜−電極接合体が知られている。
【0004】
この電解質膜−電極接合体は、図12に示すように、電解質膜1のそれぞれの面にアノード触媒層2aとカソード触媒層2bとが設けられるとともに、前記アノード触媒層2aの表面積は、前記カソード触媒層2bの表面積よりも大きく構成されている。電解質膜1の両面には、それぞれ全面にわたってカーボン層基材3a、3bが設けられている。カーボン層基材3a、3b上には、それぞれアノード触媒層2aとカソード触媒層2bとを覆って、アノード側ガス拡散層4aとカソード側ガス拡散層4bとが設けられている。
【0005】
これにより、アノード下流の空気存在部に対向するカソード触媒層領域が低減され、カソード電位と電解質電位との差が大きい部分を低減できるため、カソード触媒層2bのカーボン腐食が抑制される、としている。さらに、カソード触媒層2bの端部でのカソードからアノードへの酸素のクロスリークが最小限に抑制され、電解質膜1の劣化が防止される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−66768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の電解質膜−電極接合体では、アノード触媒層2aの面積がカソード触媒層2bの面積よりも大きく構成されている。このため、図13に示すように、電解質膜1のカソード側には、カソード触媒層2bの端部位置とアノード触媒層2aの端部位置との面方向のずれである離間距離S内に、0V〜1Vの範囲で電位勾配が発生する。また、電極内に電位勾配が及ぶおそれがある。その際、離間距離Sが小さい程、電位勾配の各等電位線同士の間隔が密になっている。
【0008】
ここで、燃料電池の運転停止時に、又は運転中に、燃料ガスがアノード側からカソード側に電解質膜1を透過する一方、酸化剤ガスが前記カソード側から前記アノード側に前記電解質膜1を透過する場合がある。
【0009】
このため、アノード側及びカソード側では、水素と酸素とが反応して過酸化水素(H2O2)が発生し易い(H2+O2→H2O2)。この過酸化水素は、電極中のカーボン担体や白金(Pt)上で分解し、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)が発生する。これにより、電解質膜1及び電極を劣化させるという問題がある。
【0010】
その際、電解質膜−電極接合体で過酸化水素が発生する反応は、0.2V未満で促進される一方、ヒドロキシラジカルが発生する反応は、0.75Vを超えて促進されることが確認されている。従って、図13に示すように、電位勾配の各等電位線同士の間隔が密な状態では、上記の両反応が近接して惹起され、特に電解質膜1の端部にヒドロキシラジカルが発生し易い環境となるという問題がある。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、電解質膜に発生する電位勾配の平均値を規定値以下に設定することにより、簡単な構成で、電解質膜等の劣化を有効に抑制することが可能な固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層が設けられるとともに、一方の電極触媒層の外周端部は、他方の電極触媒層の外周端部よりも外側に突出する固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体に関するものである。
【0013】
この電解質膜・電極構造体では、他方の電極触媒層の外周端部位置から外方に、電解質膜の面方向に沿って一方の電極触媒層の外周端部位置に対応する位置までの間、前記電解質膜に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解質膜に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定されている。このため、特に電解質膜の端部近傍での等電位線の間隔が疎になり、過酸化水素及びヒドロキシラジカルが発生し難い環境を形成することができる。これにより、電解質膜に発生する電位勾配の平均値を規定値以下に設定するだけでよく、簡単な構成で、電解質膜等の劣化を有効に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部分解斜視図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面図である。
【図3】前記電解質膜・電極構造体に電位測定装置が取り付けられた状態の説明図である。
【図4】前記電位測定装置の要部説明図である。
【図5】アノード電極端部からの距離と電位との関係説明図である。
【図6】電極寸法差と膜耐久性との関係説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部分解斜視図である。
【図8】前記燃料電池の断面図である。
【図9】前記電解質膜・電極構造体に前記電位測定装置が取り付けられた状態の説明図である。
【図10】カソード電極端部からの距離と電位との関係説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部分解斜視図である。
【図12】特許文献1に開示されている電解質膜−電極接合体の説明図である。
【図13】前記電解質膜−電極接合体の電位勾配の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る電解質膜・電極構造体10が組み込まれる固体高分子型燃料電池12は、前記電解質膜・電極構造体10を第1セパレータ14及び第2セパレータ16で挟持する。
【0017】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板や、カーボン部材等で構成されている。
【0018】
図2に示すように、電解質膜・電極構造体10は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18と、前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード電極20及びカソード電極22とを備える。固体高分子電解質膜18は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用される。
【0019】
カソード電極22の外周端部は、全周にわたってアノード電極20の外周端部よりも外側に突出するとともに、前記アノード電極20は、固体高分子電解質膜18の一方の面18aに配置される。アノード電極20は、固体高分子電解質膜18の外周を額縁状に露呈させる。カソード電極22は、固体高分子電解質膜18の他方の面18bに配置され、前記固体高分子電解質膜18の外周端部18cは、前記カソード電極22の外周端部よりも外方に突出する。
【0020】
アノード電極20は、固体高分子電解質膜18の面18aに接合される電極触媒層20aと、前記電極触媒層20aに中間層(下地層)20bを介して積層されるガス拡散層20cとを設ける。電極触媒層20aの外周端部、中間層20bの外周端部及びガス拡散層20cの外周端部は、同一位置に設定される。カソード電極22は、固体高分子電解質膜18の面18bに接合される電極触媒層22aと、前記電極触媒層22aに中間層(下地層)22bを介して積層されるガス拡散層22cとを設ける。電極触媒層22aの外周端部、中間層22bの外周端部及びガス拡散層22cの外周端部は、同一位置に設定される。
【0021】
電極触媒層20a、22aは、カーボンブラックに白金粒子を担持した触媒粒子を形成し、イオン導伝性バインダーとして高分子電解質を使用し、この高分子電解質の溶液中に前記触媒粒子を均一に混合して作製された触媒ペーストを、固体高分子電解質膜18の両面に印刷、塗布又は転写することによって構成される。
【0022】
電極触媒層(一方の電極触媒層)22aの外周端部22aeは、電極触媒層(他方の電極触媒層)20aの外周端部20aeよりも全周にわたって外側に距離Lだけ突出する。なお、例えば、酸化剤ガス流路36(後述する)の出口側端部のように、最も劣化が激しい辺のみ電極触媒層22aの端部位置をずらしてもよい。電極触媒層20aの外周端部20aeの位置から外方に、固体高分子電解質膜18の面方向に沿って電極触媒層22aの外周端部22aeの位置に対応する位置までの間(距離Lの間)、前記固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下で且つ0.01V/mm以上に設定される(後述する)。電極触媒層20a、22aの外周端部20ae、22aeと中間層20b、22b又はガス拡散層20c、22cの外周端部との位置は、互いにずれていてもよい。
【0023】
中間層20b、22bは、カーボンブラック及びFEP(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体)粒子とカーボンナノチューブをペースト状にした後、ガス拡散層20c、22cに塗布される。ガス拡散層20c、22cは、カーボンペーパ等からなるとともに、前記ガス拡散層20cの平面は、前記ガス拡散層22cの平面よりも小さく設定される。
【0024】
電解質膜・電極構造体10は、固体高分子電解質膜18の外周を周回する樹脂製枠部材24を備える。樹脂製枠部材24は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)やPPA(ポリフタルアミド)等で構成される。
【0025】
図1に示すように、燃料電池12の矢印C方向(図1中、鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔26aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔28aとが、矢印B方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0026】
燃料電池12の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔28bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔26bとが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0027】
燃料電池12の矢印B方向の一端縁部には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔30aが設けられるとともに、前記燃料電池12の矢印B方向の他端縁部には、前記冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔30bが設けられる。
【0028】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体10に向かう面14aには、酸化剤ガス入口連通孔26aと酸化剤ガス出口連通孔26bとに連通する酸化剤ガス流路36が設けられる。第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体10に向かう面16aには、燃料ガス入口連通孔28aと燃料ガス出口連通孔28bとに連通する燃料ガス流路38が形成される。酸化剤ガス流路36及び燃料ガス流路38は、鉛直方向に向かって酸化剤ガス及び燃料ガスを流通させる。
【0029】
第1セパレータ14の面14aとは反対の面14bと、第2セパレータ16面16aとは反対の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔30aと冷却媒体出口連通孔30bとに連通する冷却媒体流路40が形成される。冷却媒体流路40は、水平方向に向かって冷却媒体を流通させる。
【0030】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材42が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材44が一体化される。
【0031】
第1シール部材42及び第2シール部材44は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0032】
図1に示すように、第2セパレータ16には、燃料ガス入口連通孔28aを燃料ガス流路38に連通する供給孔部46と、前記燃料ガス流路38を燃料ガス出口連通孔28bに連通する排出孔部48とが形成される。
【0033】
このように構成される燃料電池12の動作について、以下に説明する。
【0034】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔26aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔28aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔30aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0035】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔26aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路36に導入され、矢印C方向に移動して電解質膜・電極構造体10のカソード電極22に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔28aから供給孔部46を通って第2セパレータ16の燃料ガス流路38に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路38に沿って矢印C方向に移動し、電解質膜・電極構造体10のアノード電極20に供給される。
【0036】
従って、各電解質膜・電極構造体10では、カソード電極22に供給される酸化剤ガスと、アノード電極20に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0037】
次いで、カソード電極22に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔26bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード電極20に供給されて消費された燃料ガスは、排出孔部48を通り燃料ガス出口連通孔28bに沿って矢印A方向に排出される。
【0038】
また、冷却媒体入口連通孔30aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路40に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体10を冷却した後、冷却媒体出口連通孔30bから排出される。
【0039】
この場合、第1の実施形態では、図2に示すように、電極触媒層22aの外周端部22aeは、電極触媒層20aの外周端部20aeよりも外側に距離Lだけ突出しており、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下で且つ0.01V/mm以上に設定されている。電位勾配の平均値が、0.01V/mm未満では、一方の電極触媒層22aと他方の電極触媒層20aとの突出距離が大きくなり、発電面積が小さくなってしまう。
【0040】
具体的には、図3及び図4に示すように、固体高分子電解質膜18に発生する電位が、電位測定装置60により測定される。電位測定装置60は、アノード側に配置される参照電極62と、アノード側の電位測定電極64anと、カソード側の電位測定電極64caとを備える。
【0041】
図4に示すように、参照電極62には、導電ライン66が接続される一方、電位測定電極64an、64caには、それぞれ導電ライン68a、68bが接続される。電位測定装置60は、電位検出部72を備えるとともに、前記電位検出部72は、電位測定電極64an、64caにより検出される電位と参照電極62との電位差を検出するために、導電ライン68a、68bに接続されるアノード側電圧計72a及びカソード側電圧計72bを設ける。
【0042】
アノード側電圧計72aには、アノード側の導電ライン68aが接続され、カソード側電圧計72bには、カソード側の導電ライン68bが接続される。アノード側電圧計72a及びカソード側電圧計72bには、参照電極62の導電ライン66が連結される。
【0043】
図3に示すように、参照電極62は、アノード電極20の電極触媒層20aを切り欠いて固体高分子電解質膜18に直接接触する。電位測定電極64caは、電極触媒層22aに接触配置される一方、電位測定電極64anは、距離Lの間にわたってアノード電極20側で固体高分子電解質膜18に接触配置される。
【0044】
そこで、燃料電池12は、規定の発電条件に沿って発電を開始する。具体的には、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスのガス温度が−30℃〜150℃の範囲内であり、ガス湿度が30%〜100%の範囲内であり、ストイキが1.0〜1.5の範囲内である。
【0045】
その際、図4に示すように、電位測定装置60では、電位検出部72の作用下に、参照電極62及び電位測定電極64an、64caを介してアノード電極20の電位差及びカソード電極22の電位差が検出される。
【0046】
このため、図5に示すように、アノード電極20側の電極触媒層20aの外周端部20aeからの距離L(a<b)に対する電位が検出される。すなわち、固体高分子電解質膜18では、図3に示すように、距離Lの範囲内で等電位線が形成され、前記距離Lが長尺化される程、電位勾配の各等電位線同士の間隔が疎になる。
【0047】
従って、電極端近傍で、電位が0.2V以下になる領域(H2O2が急増する領域)と、電位が0.75Vを超える領域(ヒドロキシラジカルが発生し易い環境)とは、固体高分子電解質膜18の面方向に互いに十分に離間され、図6に示すような膜耐久性を示す。なお、固体高分子電解質膜18の厚さ減少量を指標として膜耐久性を判定している。
【0048】
これにより、第1の実施形態では、カソード側の電位(1V)とアノード側の電位(0V)との電位差(1V)と距離L(≧0.2mm)とから、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定される。さらに、電位勾配の平均値は、好ましくは、1.5V/mm以下、より好ましくは、0.2V/mm以下に設定される。
【0049】
このため、固体高分子電解質膜18の端部近傍での等電位線の間隔が疎になり、過酸化水素及びヒドロキシラジカルが発生し難い環境を形成することができる。これにより、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値を5V/mm以下に設定するだけでよく、簡単な構成で、前記固体高分子電解質膜18等の劣化を有効に抑制することが可能になるという効果が得られる。このため、燃料電池12の長寿命化が容易に図られる。
【0050】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る電解質膜・電極構造体80が組み込まれる固体高分子型燃料電池82の要部分解斜視図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池12と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0051】
図7及び図8に示すように、電解質膜・電極構造体80では、アノード電極20の外周端部は、全周にわたってカソード電極22の外周端部よりも外側に突出する。具体的には、電極触媒層(一方の電極触媒層)20aの外周端部20aeは、電極触媒層(他方の電極触媒層)22aの外周端部22aeよりも外側に距離Lだけ突出する。
【0052】
第2の実施形態では、電解質膜・電極構造体80を構成する固体高分子電解質膜18に発生する電位は、図9に示すように、電位測定装置60により測定される。参照電極62は、固体高分子電解質膜18のアノード側に接触する一方、電位測定電極64anは、電極触媒層20aに接触配置されるとともに、電位測定電極64caは、距離Lの間にわたってカソード電極22側で固体高分子電解質膜18に接触配置される。
【0053】
これにより、図10に示すように、カソード電極22側の電極触媒層22aの外周端部22aeからの距離L(a<b)に対する電位が検出される。このため、電極端近傍では、上記の第1の実施形態と同様に、図6に示すような膜特性が得られる。
【0054】
従って、第2の実施形態では、カソード側の電位(1V)とアノード側の電位(0V)との電位差(1V)と距離L(≧0.2mm)とから、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定される。
【0055】
これにより、簡単な構成で、固体高分子電解質膜18等の劣化を有効に抑制することができ、燃料電池82の長寿命化が容易に図られる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
図11は、本発明の第3の実施形態に係る電解質膜・電極構造体90が組み込まれる固体高分子型燃料電池92の要部分解斜視図である。
【0057】
電解質膜・電極構造体90では、アノード電極20の外周端部は、矢印B方向両端側でカソード電極22の外周端部よりも外側に突出する一方、前記カソード電極22の外周端部は、矢印C方向両端側で前アノード電極20の外周端部よりも外方に突出する。
【0058】
なお、上記の構成とは逆に、アノード電極20の矢印C方向両端側がカソード電極22の外周端部よりも外側に突出するとともに、前記カソード電極22の矢印B方向両端側が前記アノード電極20の外周端部よりも外方に突出するように構成してもよい。アノード電極20側の電極触媒層20aの端部とカソード電極22側の電極触媒層22aの端部とに、積層方向に段差が設けられていればよく、前記アノード電極20及び前記カソード電極22全体の寸法の大小には関係しない。
【0059】
このように構成される第3の実施形態では、簡単な構成で、固体高分子電解質膜18等の劣化を有効に抑制することができ、燃料電池92の長寿命化が容易に図られる等、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0060】
10、80、90…電解質膜・電極構造体 12、82、92…燃料電池
14、16…セパレータ 18…固体高分子電解質膜
20…アノード電極 20a、22a…電極触媒層
20ae、22ae…外周端部 22…カソード電極
26a…酸化剤ガス入口連通孔 26b…酸化剤ガス出口連通孔
28a…燃料ガス入口連通孔 28b…燃料ガス出口連通孔
30a…冷却媒体入口連通孔 30b…冷却媒体出口連通孔
36…酸化剤ガス流路 38…燃料ガス流路
40…冷却媒体流路 60…電位測定装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層が設けられるとともに、一方の電極触媒層の外周端部は、他方の電極触媒層の外周端部よりも外側に突出する固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜からなる固体高分子電解質膜を採用している。この燃料電池は、固体高分子電解質膜の両側に、それぞれ電極触媒(電極触媒層)と多孔質カーボン(ガス拡散層)からなるアノード電極及びカソード電極を配設した電解質膜・電極構造体(MEA)を、セパレータ(バイポーラ板)によって挟持する発電セルを構成している。通常、燃料電池では、発電セルを所定の数だけ積層した燃料電池スタックが、例えば、車載用燃料電池スタックとして使用されている。
【0003】
電解質膜・電極構造体では、一方の電極触媒層の表面積が他方の電極触媒層の表面積よりも小さく設定される、所謂、段差型MEAを構成する場合がある。この種の段差型MEAとして、例えば、特許文献1に開示されている電解質膜−電極接合体が知られている。
【0004】
この電解質膜−電極接合体は、図12に示すように、電解質膜1のそれぞれの面にアノード触媒層2aとカソード触媒層2bとが設けられるとともに、前記アノード触媒層2aの表面積は、前記カソード触媒層2bの表面積よりも大きく構成されている。電解質膜1の両面には、それぞれ全面にわたってカーボン層基材3a、3bが設けられている。カーボン層基材3a、3b上には、それぞれアノード触媒層2aとカソード触媒層2bとを覆って、アノード側ガス拡散層4aとカソード側ガス拡散層4bとが設けられている。
【0005】
これにより、アノード下流の空気存在部に対向するカソード触媒層領域が低減され、カソード電位と電解質電位との差が大きい部分を低減できるため、カソード触媒層2bのカーボン腐食が抑制される、としている。さらに、カソード触媒層2bの端部でのカソードからアノードへの酸素のクロスリークが最小限に抑制され、電解質膜1の劣化が防止される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−66768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上記の電解質膜−電極接合体では、アノード触媒層2aの面積がカソード触媒層2bの面積よりも大きく構成されている。このため、図13に示すように、電解質膜1のカソード側には、カソード触媒層2bの端部位置とアノード触媒層2aの端部位置との面方向のずれである離間距離S内に、0V〜1Vの範囲で電位勾配が発生する。また、電極内に電位勾配が及ぶおそれがある。その際、離間距離Sが小さい程、電位勾配の各等電位線同士の間隔が密になっている。
【0008】
ここで、燃料電池の運転停止時に、又は運転中に、燃料ガスがアノード側からカソード側に電解質膜1を透過する一方、酸化剤ガスが前記カソード側から前記アノード側に前記電解質膜1を透過する場合がある。
【0009】
このため、アノード側及びカソード側では、水素と酸素とが反応して過酸化水素(H2O2)が発生し易い(H2+O2→H2O2)。この過酸化水素は、電極中のカーボン担体や白金(Pt)上で分解し、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)が発生する。これにより、電解質膜1及び電極を劣化させるという問題がある。
【0010】
その際、電解質膜−電極接合体で過酸化水素が発生する反応は、0.2V未満で促進される一方、ヒドロキシラジカルが発生する反応は、0.75Vを超えて促進されることが確認されている。従って、図13に示すように、電位勾配の各等電位線同士の間隔が密な状態では、上記の両反応が近接して惹起され、特に電解質膜1の端部にヒドロキシラジカルが発生し易い環境となるという問題がある。
【0011】
本発明は、この種の問題を解決するものであり、電解質膜に発生する電位勾配の平均値を規定値以下に設定することにより、簡単な構成で、電解質膜等の劣化を有効に抑制することが可能な固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層が設けられるとともに、一方の電極触媒層の外周端部は、他方の電極触媒層の外周端部よりも外側に突出する固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体に関するものである。
【0013】
この電解質膜・電極構造体では、他方の電極触媒層の外周端部位置から外方に、電解質膜の面方向に沿って一方の電極触媒層の外周端部位置に対応する位置までの間、前記電解質膜に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定されている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解質膜に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定されている。このため、特に電解質膜の端部近傍での等電位線の間隔が疎になり、過酸化水素及びヒドロキシラジカルが発生し難い環境を形成することができる。これにより、電解質膜に発生する電位勾配の平均値を規定値以下に設定するだけでよく、簡単な構成で、電解質膜等の劣化を有効に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部分解斜視図である。
【図2】前記燃料電池の、図1中、II−II線断面図である。
【図3】前記電解質膜・電極構造体に電位測定装置が取り付けられた状態の説明図である。
【図4】前記電位測定装置の要部説明図である。
【図5】アノード電極端部からの距離と電位との関係説明図である。
【図6】電極寸法差と膜耐久性との関係説明図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部分解斜視図である。
【図8】前記燃料電池の断面図である。
【図9】前記電解質膜・電極構造体に前記電位測定装置が取り付けられた状態の説明図である。
【図10】カソード電極端部からの距離と電位との関係説明図である。
【図11】本発明の第3の実施形態に係る電解質膜・電極構造体が組み込まれる燃料電池の要部分解斜視図である。
【図12】特許文献1に開示されている電解質膜−電極接合体の説明図である。
【図13】前記電解質膜−電極接合体の電位勾配の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1及び図2に示すように、本発明の第1の実施形態に係る電解質膜・電極構造体10が組み込まれる固体高分子型燃料電池12は、前記電解質膜・電極構造体10を第1セパレータ14及び第2セパレータ16で挟持する。
【0017】
第1セパレータ14及び第2セパレータ16は、例えば、鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、めっき処理鋼板、あるいはその金属表面に防食用の表面処理を施した金属板や、カーボン部材等で構成されている。
【0018】
図2に示すように、電解質膜・電極構造体10は、例えば、パーフルオロスルホン酸の薄膜に水が含浸された固体高分子電解質膜18と、前記固体高分子電解質膜18を挟持するアノード電極20及びカソード電極22とを備える。固体高分子電解質膜18は、フッ素系電解質の他、HC(炭化水素)系電解質が使用される。
【0019】
カソード電極22の外周端部は、全周にわたってアノード電極20の外周端部よりも外側に突出するとともに、前記アノード電極20は、固体高分子電解質膜18の一方の面18aに配置される。アノード電極20は、固体高分子電解質膜18の外周を額縁状に露呈させる。カソード電極22は、固体高分子電解質膜18の他方の面18bに配置され、前記固体高分子電解質膜18の外周端部18cは、前記カソード電極22の外周端部よりも外方に突出する。
【0020】
アノード電極20は、固体高分子電解質膜18の面18aに接合される電極触媒層20aと、前記電極触媒層20aに中間層(下地層)20bを介して積層されるガス拡散層20cとを設ける。電極触媒層20aの外周端部、中間層20bの外周端部及びガス拡散層20cの外周端部は、同一位置に設定される。カソード電極22は、固体高分子電解質膜18の面18bに接合される電極触媒層22aと、前記電極触媒層22aに中間層(下地層)22bを介して積層されるガス拡散層22cとを設ける。電極触媒層22aの外周端部、中間層22bの外周端部及びガス拡散層22cの外周端部は、同一位置に設定される。
【0021】
電極触媒層20a、22aは、カーボンブラックに白金粒子を担持した触媒粒子を形成し、イオン導伝性バインダーとして高分子電解質を使用し、この高分子電解質の溶液中に前記触媒粒子を均一に混合して作製された触媒ペーストを、固体高分子電解質膜18の両面に印刷、塗布又は転写することによって構成される。
【0022】
電極触媒層(一方の電極触媒層)22aの外周端部22aeは、電極触媒層(他方の電極触媒層)20aの外周端部20aeよりも全周にわたって外側に距離Lだけ突出する。なお、例えば、酸化剤ガス流路36(後述する)の出口側端部のように、最も劣化が激しい辺のみ電極触媒層22aの端部位置をずらしてもよい。電極触媒層20aの外周端部20aeの位置から外方に、固体高分子電解質膜18の面方向に沿って電極触媒層22aの外周端部22aeの位置に対応する位置までの間(距離Lの間)、前記固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下で且つ0.01V/mm以上に設定される(後述する)。電極触媒層20a、22aの外周端部20ae、22aeと中間層20b、22b又はガス拡散層20c、22cの外周端部との位置は、互いにずれていてもよい。
【0023】
中間層20b、22bは、カーボンブラック及びFEP(四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体)粒子とカーボンナノチューブをペースト状にした後、ガス拡散層20c、22cに塗布される。ガス拡散層20c、22cは、カーボンペーパ等からなるとともに、前記ガス拡散層20cの平面は、前記ガス拡散層22cの平面よりも小さく設定される。
【0024】
電解質膜・電極構造体10は、固体高分子電解質膜18の外周を周回する樹脂製枠部材24を備える。樹脂製枠部材24は、例えば、PPS(ポリフェニレンサルファイド)やPPA(ポリフタルアミド)等で構成される。
【0025】
図1に示すように、燃料電池12の矢印C方向(図1中、鉛直方向)の上端縁部には、積層方向である矢印A方向に互いに連通して、酸化剤ガス、例えば、酸素含有ガスを供給するための酸化剤ガス入口連通孔26aと、燃料ガス、例えば、水素含有ガスを供給するための燃料ガス入口連通孔28aとが、矢印B方向(水平方向)に配列して設けられる。
【0026】
燃料電池12の矢印C方向の下端縁部には、矢印A方向に互いに連通して、燃料ガスを排出するための燃料ガス出口連通孔28bと、酸化剤ガスを排出するための酸化剤ガス出口連通孔26bとが、矢印B方向に配列して設けられる。
【0027】
燃料電池12の矢印B方向の一端縁部には、冷却媒体を供給するための冷却媒体入口連通孔30aが設けられるとともに、前記燃料電池12の矢印B方向の他端縁部には、前記冷却媒体を排出するための冷却媒体出口連通孔30bが設けられる。
【0028】
第1セパレータ14の電解質膜・電極構造体10に向かう面14aには、酸化剤ガス入口連通孔26aと酸化剤ガス出口連通孔26bとに連通する酸化剤ガス流路36が設けられる。第2セパレータ16の電解質膜・電極構造体10に向かう面16aには、燃料ガス入口連通孔28aと燃料ガス出口連通孔28bとに連通する燃料ガス流路38が形成される。酸化剤ガス流路36及び燃料ガス流路38は、鉛直方向に向かって酸化剤ガス及び燃料ガスを流通させる。
【0029】
第1セパレータ14の面14aとは反対の面14bと、第2セパレータ16面16aとは反対の面16bとの間には、冷却媒体入口連通孔30aと冷却媒体出口連通孔30bとに連通する冷却媒体流路40が形成される。冷却媒体流路40は、水平方向に向かって冷却媒体を流通させる。
【0030】
図1及び図2に示すように、第1セパレータ14の面14a、14bには、この第1セパレータ14の外周端部を周回して、第1シール部材42が一体化されるとともに、第2セパレータ16の面16a、16bには、この第2セパレータ16の外周端部を周回して、第2シール部材44が一体化される。
【0031】
第1シール部材42及び第2シール部材44は、例えば、EPDM、NBR、フッ素ゴム、シリコーンゴム、フロロシリコーンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、スチレンゴム、クロロプレーン又はアクリルゴム等のシール材、クッション材、あるいはパッキン材が用いられる。
【0032】
図1に示すように、第2セパレータ16には、燃料ガス入口連通孔28aを燃料ガス流路38に連通する供給孔部46と、前記燃料ガス流路38を燃料ガス出口連通孔28bに連通する排出孔部48とが形成される。
【0033】
このように構成される燃料電池12の動作について、以下に説明する。
【0034】
先ず、図1に示すように、酸化剤ガス入口連通孔26aに酸素含有ガス等の酸化剤ガスが供給されるとともに、燃料ガス入口連通孔28aに水素含有ガス等の燃料ガスが供給される。さらに、冷却媒体入口連通孔30aに純水やエチレングリコール、オイル等の冷却媒体が供給される。
【0035】
このため、酸化剤ガスは、酸化剤ガス入口連通孔26aから第1セパレータ14の酸化剤ガス流路36に導入され、矢印C方向に移動して電解質膜・電極構造体10のカソード電極22に供給される。一方、燃料ガスは、燃料ガス入口連通孔28aから供給孔部46を通って第2セパレータ16の燃料ガス流路38に導入される。燃料ガスは、燃料ガス流路38に沿って矢印C方向に移動し、電解質膜・電極構造体10のアノード電極20に供給される。
【0036】
従って、各電解質膜・電極構造体10では、カソード電極22に供給される酸化剤ガスと、アノード電極20に供給される燃料ガスとが、電極触媒層内で電気化学反応により消費されて発電が行われる。
【0037】
次いで、カソード電極22に供給されて消費された酸化剤ガスは、酸化剤ガス出口連通孔26bに沿って矢印A方向に排出される。同様に、アノード電極20に供給されて消費された燃料ガスは、排出孔部48を通り燃料ガス出口連通孔28bに沿って矢印A方向に排出される。
【0038】
また、冷却媒体入口連通孔30aに供給された冷却媒体は、第1セパレータ14と第2セパレータ16との間の冷却媒体流路40に導入された後、矢印B方向に流通する。この冷却媒体は、電解質膜・電極構造体10を冷却した後、冷却媒体出口連通孔30bから排出される。
【0039】
この場合、第1の実施形態では、図2に示すように、電極触媒層22aの外周端部22aeは、電極触媒層20aの外周端部20aeよりも外側に距離Lだけ突出しており、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下で且つ0.01V/mm以上に設定されている。電位勾配の平均値が、0.01V/mm未満では、一方の電極触媒層22aと他方の電極触媒層20aとの突出距離が大きくなり、発電面積が小さくなってしまう。
【0040】
具体的には、図3及び図4に示すように、固体高分子電解質膜18に発生する電位が、電位測定装置60により測定される。電位測定装置60は、アノード側に配置される参照電極62と、アノード側の電位測定電極64anと、カソード側の電位測定電極64caとを備える。
【0041】
図4に示すように、参照電極62には、導電ライン66が接続される一方、電位測定電極64an、64caには、それぞれ導電ライン68a、68bが接続される。電位測定装置60は、電位検出部72を備えるとともに、前記電位検出部72は、電位測定電極64an、64caにより検出される電位と参照電極62との電位差を検出するために、導電ライン68a、68bに接続されるアノード側電圧計72a及びカソード側電圧計72bを設ける。
【0042】
アノード側電圧計72aには、アノード側の導電ライン68aが接続され、カソード側電圧計72bには、カソード側の導電ライン68bが接続される。アノード側電圧計72a及びカソード側電圧計72bには、参照電極62の導電ライン66が連結される。
【0043】
図3に示すように、参照電極62は、アノード電極20の電極触媒層20aを切り欠いて固体高分子電解質膜18に直接接触する。電位測定電極64caは、電極触媒層22aに接触配置される一方、電位測定電極64anは、距離Lの間にわたってアノード電極20側で固体高分子電解質膜18に接触配置される。
【0044】
そこで、燃料電池12は、規定の発電条件に沿って発電を開始する。具体的には、供給される燃料ガス及び酸化剤ガスのガス温度が−30℃〜150℃の範囲内であり、ガス湿度が30%〜100%の範囲内であり、ストイキが1.0〜1.5の範囲内である。
【0045】
その際、図4に示すように、電位測定装置60では、電位検出部72の作用下に、参照電極62及び電位測定電極64an、64caを介してアノード電極20の電位差及びカソード電極22の電位差が検出される。
【0046】
このため、図5に示すように、アノード電極20側の電極触媒層20aの外周端部20aeからの距離L(a<b)に対する電位が検出される。すなわち、固体高分子電解質膜18では、図3に示すように、距離Lの範囲内で等電位線が形成され、前記距離Lが長尺化される程、電位勾配の各等電位線同士の間隔が疎になる。
【0047】
従って、電極端近傍で、電位が0.2V以下になる領域(H2O2が急増する領域)と、電位が0.75Vを超える領域(ヒドロキシラジカルが発生し易い環境)とは、固体高分子電解質膜18の面方向に互いに十分に離間され、図6に示すような膜耐久性を示す。なお、固体高分子電解質膜18の厚さ減少量を指標として膜耐久性を判定している。
【0048】
これにより、第1の実施形態では、カソード側の電位(1V)とアノード側の電位(0V)との電位差(1V)と距離L(≧0.2mm)とから、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定される。さらに、電位勾配の平均値は、好ましくは、1.5V/mm以下、より好ましくは、0.2V/mm以下に設定される。
【0049】
このため、固体高分子電解質膜18の端部近傍での等電位線の間隔が疎になり、過酸化水素及びヒドロキシラジカルが発生し難い環境を形成することができる。これにより、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値を5V/mm以下に設定するだけでよく、簡単な構成で、前記固体高分子電解質膜18等の劣化を有効に抑制することが可能になるという効果が得られる。このため、燃料電池12の長寿命化が容易に図られる。
【0050】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る電解質膜・電極構造体80が組み込まれる固体高分子型燃料電池82の要部分解斜視図である。なお、第1の実施形態に係る燃料電池12と同一の構成要素には、同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
【0051】
図7及び図8に示すように、電解質膜・電極構造体80では、アノード電極20の外周端部は、全周にわたってカソード電極22の外周端部よりも外側に突出する。具体的には、電極触媒層(一方の電極触媒層)20aの外周端部20aeは、電極触媒層(他方の電極触媒層)22aの外周端部22aeよりも外側に距離Lだけ突出する。
【0052】
第2の実施形態では、電解質膜・電極構造体80を構成する固体高分子電解質膜18に発生する電位は、図9に示すように、電位測定装置60により測定される。参照電極62は、固体高分子電解質膜18のアノード側に接触する一方、電位測定電極64anは、電極触媒層20aに接触配置されるとともに、電位測定電極64caは、距離Lの間にわたってカソード電極22側で固体高分子電解質膜18に接触配置される。
【0053】
これにより、図10に示すように、カソード電極22側の電極触媒層22aの外周端部22aeからの距離L(a<b)に対する電位が検出される。このため、電極端近傍では、上記の第1の実施形態と同様に、図6に示すような膜特性が得られる。
【0054】
従って、第2の実施形態では、カソード側の電位(1V)とアノード側の電位(0V)との電位差(1V)と距離L(≧0.2mm)とから、固体高分子電解質膜18に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定される。
【0055】
これにより、簡単な構成で、固体高分子電解質膜18等の劣化を有効に抑制することができ、燃料電池82の長寿命化が容易に図られる等、上記の第1の実施形態と同様の効果が得られる。
【0056】
図11は、本発明の第3の実施形態に係る電解質膜・電極構造体90が組み込まれる固体高分子型燃料電池92の要部分解斜視図である。
【0057】
電解質膜・電極構造体90では、アノード電極20の外周端部は、矢印B方向両端側でカソード電極22の外周端部よりも外側に突出する一方、前記カソード電極22の外周端部は、矢印C方向両端側で前アノード電極20の外周端部よりも外方に突出する。
【0058】
なお、上記の構成とは逆に、アノード電極20の矢印C方向両端側がカソード電極22の外周端部よりも外側に突出するとともに、前記カソード電極22の矢印B方向両端側が前記アノード電極20の外周端部よりも外方に突出するように構成してもよい。アノード電極20側の電極触媒層20aの端部とカソード電極22側の電極触媒層22aの端部とに、積層方向に段差が設けられていればよく、前記アノード電極20及び前記カソード電極22全体の寸法の大小には関係しない。
【0059】
このように構成される第3の実施形態では、簡単な構成で、固体高分子電解質膜18等の劣化を有効に抑制することができ、燃料電池92の長寿命化が容易に図られる等、上記の第1及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0060】
10、80、90…電解質膜・電極構造体 12、82、92…燃料電池
14、16…セパレータ 18…固体高分子電解質膜
20…アノード電極 20a、22a…電極触媒層
20ae、22ae…外周端部 22…カソード電極
26a…酸化剤ガス入口連通孔 26b…酸化剤ガス出口連通孔
28a…燃料ガス入口連通孔 28b…燃料ガス出口連通孔
30a…冷却媒体入口連通孔 30b…冷却媒体出口連通孔
36…酸化剤ガス流路 38…燃料ガス流路
40…冷却媒体流路 60…電位測定装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層が設けられるとともに、一方の電極触媒層の外周端部は、他方の電極触媒層の外周端部よりも外側に突出する固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体であって、
前記他方の電極触媒層の外周端部位置から外方に、前記電解質膜の面方向に沿って前記一方の電極触媒層の外周端部位置に対応する位置までの間、前記電解質膜に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定されることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体。
【請求項1】
電解質膜の両側にそれぞれ電極触媒層が設けられるとともに、一方の電極触媒層の外周端部は、他方の電極触媒層の外周端部よりも外側に突出する固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体であって、
前記他方の電極触媒層の外周端部位置から外方に、前記電解質膜の面方向に沿って前記一方の電極触媒層の外周端部位置に対応する位置までの間、前記電解質膜に発生する電位勾配の平均値が、5V/mm以下に設定されることを特徴とする固体高分子型燃料電池用電解質膜・電極構造体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−114931(P2013−114931A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260701(P2011−260701)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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