説明

固体高分子形燃料電池用膜−電極接合体の製造方法、該製造方法によって製造された膜−電極接合体、および該膜−電極接合体を用いた燃料電池。

【課題】 固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の構成材料として有用な、高いメタノール遮断性を有し、電極との接合性に優れた膜−電極接合体(MEA)を提供する。
【解決手段】 融点が220℃以上の高分子化合物(A)と、融点が220℃未満の高分子化合物(B)とを、必須成分として含み、該フィルムの電子顕微鏡による断面写真の観察において、前記高分子化合物(A)を主に含む相と、前記高分子化合物(B)を主に含む相とが存在し、前記高分子化合物(B)を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続していることを特徴とする、高分子フィルムを材料として製造される燃料電池用電解質膜を、前記高分子化合物(B)の弾性率が1.0×10Paとなる温度以下で、電極と熱プレスすることを特徴とする、膜−電極接合体の製造方法による。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池等に用いる膜−電極接合体およびそれらを用いた燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化等の環境問題等の観点から、高効率でクリーンなエネルギー源の開発が求められている。それに対する一つの候補として燃料電池が注目されている。燃料電池は、水素ガスやメタノール等の燃料と酸素等の酸化剤をそれぞれ電解質で隔てられた電極に供給し、一方で燃料の酸化を、他方で酸化剤の還元を行い、直接発電するものである。
【0003】
燃料電池の中でも、特に、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池は、新エネルギー技術の柱の一つとして期待されている。例えば、プロトン伝導性官能基を有する高分子化合物からなる電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池は、低温における作動、小型軽量化が可能などの特徴を有し、自動車などの移動体、家庭用コージェネレーションシステム、および民生用小型携帯機器などへの適用が検討されている。また、直接液体形燃料電池、特に、メタノールを直接燃料に使用する直接メタノール形燃料電池は、単純な構造と燃料供給やメンテナンスの容易であり、さらには高エネルギー密度化が可能であるなどの特徴を有し、リチウムイオン二次電池代替として、携帯電話やノート型パソコンなどの民生用小型携帯機器への応用が期待されている。
【0004】
上述した燃料電池の材料のなかで、最も重要な部材の一つが電解質である。このような燃料と酸化剤とを隔てる電解質としては、これまで様々なものが開発されているが、近年、特にスルホン酸基などのプロトン伝導性官能基を含有する高分子化合物から構成される高分子電解質の開発が盛んである。こうした高分子電解質は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の他にも、例えば、湿度センサー、ガスセンサー、エレクトロクロミック表示素子などの電気化学素子の原料としても使用される。
【0005】
また、電解質単体だけでなく、電解質を固体高分子形燃料電池に使用するため膜状にした電解質膜と、カソード、アノードそれぞれの電極とを接合した、膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)も燃料電池として重要な部材である。なぜならば、電解質膜と電極はそれらが直列にプロトンの移動体となっているため、良好に接着していないとその界面でプロトンの移動が困難となり、燃料電池としての本来の性能を発揮できないからである。言い換えれば、電解質膜と、カソード、アノードそれぞれの電極とが、良好に接合した膜−電極接合体があってはじめて電解質の性能が発揮できる。
【0006】
このような背景の中、芳香族炭化水素系のポリマーをベースとしたもので、例えば、非特許文献1には、スルホン化ポリフェニレンサルファイド、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリエーテルエーテルケトンなどが例示されている。このような芳香族炭化水素系の電解質は一般に、ナフィオン(登録商標)のようなパーフルオロカーボンスルホン酸膜のように明確な水クラスターが確認されず、メタノールなどの水素含有液体などの透過率が低く、またメタノールや水などに対する膨潤も小さいので、特にメタノールなどの液体燃料を直接利用する燃料電池に適用されている。
【0007】
しかしながら、これら芳香族炭化水素系のポリマーをベースとした電解質膜は、膜自身が柔軟になり異種材料と圧着された際に接着性を持つ融点が高いため、電解質膜と電極の接合体である膜−電極接合体を作製する際に熱プレスを行っても十分な接合力が得られず、たとえば水により膨潤した際に剥がれてしまい、燃料電池として機能しなくなるという問題がある。
【0008】
このような問題に対し、たとえば特許文献1には、ガラス転移温度が140℃以上の高分子と、140℃未満の高分子の混合物からなる電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池が開示されている。これは実質耐熱のある高ガラス転移点の高分子電解質中に、融着の機能を補助する低ガラス転移点の高分子を分散させるというものである。しかしこの方法では、融着を補助する高分子が対象となる電極と接触する面積はごくわずかであることから大きな効果は期待できず、長時間の信頼性においては懸念がある。またガラス転移点は、一般に高分子がガラス状態からゴム状態に転移する温度であり、この温度は必ずしも高分子がやわらかくなり、融着しやすくなる温度とは言いがたい。実際、ポリアセタールやポリブチレンテレフタレートのように、ガラス転移点は室温付近にあるが加工温度は200℃以上となる高分子も存在し、このような樹脂を融着の機能を補助する高分子として用いても、電解質膜と電極の接合性の向上は期待できない。
【0009】
他に、例えば特許文献2、3にはポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエチレンなどの多孔質基材中に電解質ポリマーを充填した構造の高分子電解質膜が開示されている。これらは多孔質基材によって膜中の高分子電解質のメタノールや水などに対する過度の膨潤を押さえ、ハンドリングの向上やメタノールなどの燃料透過性を小さくすることを目的としている。これらの方法により、たしかにメタノールや水などによる過度の膨潤を押さえる効果はあるが、依然電極との接合性には問題がある。例えばポリテトラフルオロエチレンは融点が高く、通常設定しうるプレス温度では電極との接合性は低い。またポリイミドは熱硬化性樹脂であり、融点を持たないために電極との接合そのものが難しい。また、多孔質膜にポリエチレンを例示したものについては、他の多孔質膜のものと同様に、充填する電解質について熱特性は不明であり、さらには、これらのような多孔質膜に高分子電解質を充填する工法であると、高分子電解質と支持体との界面の接着性、耐久性に懸念がある。
【0010】
また、特許文献4には、固体高分子形燃料電池用の高分子電解質膜の材料であって、芳香族単位を有する高分子化合物と、芳香族単位が無い高分子化合物とを、必須成分として含み、なおかつ該フィルムの電子顕微鏡による断面写真の観察において、前記芳香族単位が無い高分子化合物が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している高分子フィルムが例示されており、このような高分子フィルムから作製された電解質膜はメタノールや水などに対する過度の膨潤を押さえ、ハンドリングの向上やメタノールなどの燃料透過性を小さくすることができるとしている。この膜においては、融点の低い樹脂がマトリクスとなっている場合があり、接合性も期待できる場合もある。しかし、膜−電極接合体を作製する際の細かい条件には言及されておらず、実際、従来方法で膜−電極接合体を作製した場合、その膜−電極接合体を使用した燃料電池は良好な特性を示さなかった。
【0011】
電解質膜と電極との接着性を改善する方法としては、特許文献5、特許文献6などがあげられる。これらはいずれも電解質膜と電極の間に接着層を介在させるというものであるが、電解質膜、電極と接着層には材料によって接合性の相性があり、しかも電解質と触媒層の間に余分な層が介在するとその部分でプロトン伝導の抵抗が発生し、燃料電池としての特性の悪化を招く。
【非特許文献1】「固体高分子型燃料電池用イオン交換膜の開発」第4章(2000年5月31日株式会社CMC第1刷発行)
【特許文献1】特開2004−335270号公報
【特許文献2】特開2005−5171号公報
【特許文献3】国際公開WO00/54351号パンフレット
【特許文献4】国際公開WO06/019029号
【特許文献5】特開2004−253399号公報
【特許文献6】特開2005−285569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノ−ル形燃料電池の新規な膜−電極接合体の製造方法を提供することである。すなわち、プロトン伝導度を燃料電池用電解質膜として使用できるよう保ちつつ、メタノールなどの水素含有液体透過性(クロスオーバー)をできるだけ小さくした電解質膜を用い、かつ、優れた触媒層との接合性をもった膜−電極接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、電解質膜材料として、少なくとも特定の2種類の高分子化合物の相が特定の相状態を持って存在する高分子フィルムを原料としたものを用い、さらに特定の条件によって電極と接合することにより、高分子電解質膜のプロトン伝導性を充分に確保しつつ、メタノールなどの水素含有燃料成分の透過を抑制でき、しかも電極との接合性が良好である膜−電極接合体を得ることができることを見出し、本願発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち本発明は、下記(1)、(2)を共に満たす高分子フィルムにプロトン伝導性基を導入した高分子電解質膜を、下記(1)に記載の高分子化合物(A)の弾性率が1.0×10Paとなる温度以下で、電極と熱プレスして製造することを特徴とする膜−電極接合体の製造方法である。
(1)JIS K 7121法で測定した融点が220℃以上の高分子化合物(A)と、該融点が220℃未満の高分子化合物(B)とを必須成分として含む。
(2)電子顕微鏡による断面写真の観察において、前記高分子化合物(A)を主に含む相と、前記高分子化合物(B)を主に含む相とが存在し、前記高分子化合物(B)を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している。
【0015】
上記態様によれば、プロトン伝導性を充分に確保し、且つメタノールなどの水素含有液体の透過を抑制でき、触媒層との接合性が良好な膜−電極接合体を得ることができる。さらに、高分子化合物(A)を材料として含んでなることから、十分な耐熱性を得ることができる。
【0016】
また本発明にかかる膜−電極接合体の製造方法は、前記高分子化合物(B)を主に含む相が、電極とプレスされた後に厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している状態を保持するような方法であっても良い。
【0017】
このような態様を取ることによって、さらにメタノールなどの水素含有液体の透過を抑制でき、触媒層との接合性がさらに良好な膜−電極接合体を得ることができる。また本発明にかかる膜−電極接合体中の高分子電解質膜の材料となる高分子フィルムは、前記高分子化合物(A)が、芳香族単位を含む高分子であってもよい。
【0018】
また本発明にかかる膜−電極接合体中の高分子電解質膜の材料となる高分子フィルムは、前記高分子化合物(A)が、下記の(i)〜(iii)から選択される1種のポリマー、またはこれらポリマーの混合物である高分子フィルムであってもよい:
(i)ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリフェニレンサルファイドからなるポリマーの群より選択される、少なくとも1種のポリマー;
(ii)上記(i)に記載のポリマーを含む共重合体;
(iii)上記(i)および(ii)に記載のポリマーの誘導体。
【0019】
上記態様によれば、得られる高分子フィルムおよび高分子電解質膜の加工性や機械的特性が優れるとともに、プロトン伝導性基の導入が容易であるという効果を享受できる。また適当なブロック共重合体、グラフト共重合体、酸変性品などのいわゆる相溶化剤を用いれば、前記高分子化合物(B)との相溶性や分散状態を調節することも可能となる。
【0020】
また本発明にかかる高分子電解質膜の材料となる高分子フィルムは、前記高分子化合物(B)が、下記一般式(1)の繰り返し単位を有する高分子化合物から選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物である高分子フィルムであってもよい:
−(CX−CX)− ・・・(1)
(式中、X1〜4は、H、CH、Cl、F、OCOCH、CN、COOH、COOCH、およびOCからなる群から選択されるいずれかであって、X1〜4は互いに独立で、同一であっても異なっていてもよい。)。
【0021】
また本発明にかかる高分子電解質膜の材料となる高分子フィルムは、前記高分子化合物(B)が、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物である高分子フィルムであってもよい。
【0022】
上記態様によれば、化学的安定性が高くかつメタノール遮断性に優れた高分子電解質膜を含んだ膜−電極接合体が得られるとともに、当該膜−電極接合体が安価に得られるという効果を享受できる。また本発明にかかる膜−電極接合体中の高分子電解質膜の材料となる高分子フィルムは、溶融成形にて製造する工程を含んでよい。溶融成形によって加工する工程を含むことで、簡便な製造方法とすることができる。
【0023】
一方、本発明にかかる膜−電極接合体中の高分子電解質膜は、上記高分子電解質膜の材料となる高分子フィルムに、プロトン伝導性基を導入した高分子電解質膜である。また本発明にかかる高分子電解質膜は、前記プロトン伝導性基がスルホン酸基を含んでいてもよい。上記本発明にかかる膜−電極接合体の製造方法で得られた膜−電極接合体は、プロトン伝導度を燃料電池用電解質膜として使用できるよう保ちつつ、メタノールなどの水素含有液体の透過性が小さい高分子電解質膜を備えており、しかも電解質膜と電極との接合性に優れるため、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池などの膜−電極接合体として特に優れている。また本発明にかかる燃料電池は、上記本発明にかかる膜−電極接合体を用いてなるものである。よって、本発明にかかる燃料電池は、プロトン伝導度を燃料電池用電解質膜として使用できるよう保ちつつ、メタノールなどの水素含有液体の透過性が小さい高分子電解質膜を備えており、しかも電解質膜と電極との接着性に優れる膜−電極接合体を含むため、優れた性能を有する。特に本発明は、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池への利用が特に好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の膜−電極接合体の製造方法は、プロトン伝導度を燃料電池用電解質膜として使用できるよう保ちつつ、メタノールなどの水素含有液体の透過性が小さい高分子電解質膜を備えており、しかも電解質膜と電極との接合性に優れる膜−電極接合体の製造方法であり、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、直接メタノール形燃料電池の製造に特に好適に利用できる。また、本発明の方法によれば、上記好ましい物性に加え、さらに、加工性、機械的特性、および化学的安定性に優れた膜−電極接合体を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明の実施形態について以下に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
<1.本発明にかかる高分子フィルム>
すなわち本発明にかかる高分子フィルム(以下「本発明の高分子フィルム」という)は、上記課題を解決するためのフィルムであり、JIS K 7121法で測定される融点が220℃以上の高分子化合物(A)と該融点が220℃未満の高分子化合物(B)とを必須成分として含み、なおかつ該フィルムの電子顕微鏡による断面写真の観察において、前記高分子化合物(A)を主に含む相と、前記高分子化合物(B)を主に含む相とが存在し、前記高分子化合物(B)を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している高分子フィルムである。以下材料について説明する。
【0027】
本発明における融点とは、JIS K 7121法で定められる融解ピーク温度(Tpm)である。一般的に、高分子はこの温度以上で流動性を持ち、実質的に溶融加工が可能な範囲となる。非結晶樹脂は、結晶領域が非常に少ないため融点は特定が困難であるが、他の高分子も含めて非特許文献2〜6によって参照することができる。
【非特許文献2】「ビュッケ高分子の物性」p.76(1960年朝倉書店発行)
【非特許文献3】「高分子辞典」巻末付録(1971年朝倉書店発行)
【非特許文献4】「新高分子実験学8 高分子の物性(1)熱的・力学的性質」p.84(1997年共立出版株式会社発行)
【非特許文献5】「Polymer Handbook」p.III−1(1997年Interscience発行)
【非特許文献6】「Polymer Sigle Crystals」p.513(1963年Interscience発行) 本発明における該融点が220℃以上の高分子化合物中(A)でも、特に芳香族単位を有する高分子化合物が望ましい。このようなこのような高分子化合物としては、例えば、ポリアリールエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリスルホン、ポリパラフェニレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルホキシド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリベンズイミダゾール、ポリベンゾオキサゾール、ポリベンゾチアゾール、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリ1,4−ビフェニレンエーテルエーテルスルホン、ポリアリーレンエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、シアン酸エステル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエステル、またこれら高分子化合物の共重合体、さらにこれら高分子化合物の誘導体などが例示できる。特に、化学的・熱的安定性や、プロトン伝導性置換基の導入のし易さ、得られるプロトン伝導性高分子電解質のプロトン伝導性、さらに得られプロトン伝導性高分子電解質膜のメタノール遮断性、などを考慮すると、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトンの少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0028】
本発明における該融点が220℃未満の高分子化合物(B)としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘプテンなどのα−オレフィンの単独重合体または共重合体などのポリオレフィン樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−オレフィン共重合体などの塩化ビニル系樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド樹脂、またこれらの混合物などが例示できる。特に他の高分子化合物成分に対する相溶性や分散性、高分子フィルムを製造する際の加工性や得られる高分子フィルムのハンドリング性、さらにはそれから得られる高分子電解質のメタノール遮断性、化学的・熱的安定性、電極との接合性などを考慮すると、下記一般式(1)からなる高分子化合物を含むことが好ましい。
【0029】
−(CX−CX)− ・・・(1)
(式中、X1〜4は、H、CH、Cl、OCOCH、CN、COOH、COOCH、及びOC、からなる群から選択されるいずれかであって、X1〜4は互いに同一であっても異なっていてもよい)
さらに、工業的入手の容易さや得られる高分子フィルムの機械的特性やハンドリング性、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性やメタノール遮断性、化学的安定性、電極との接合性などを考慮すると、ポリエチレンおよび/またはポリプロピレンを含むことが好ましい。また通常用いられる各種添加剤、例えば相溶性向上のための相溶化剤、樹脂劣化防止のための酸化防止剤、フィルムとしての成型加工における取り扱いを向上するための帯電防止剤や滑剤などは、電解質膜としての加工や性能に影響を及ぼさない範囲で適宜用いることが可能である。
【0030】
上記のように、前記高分子化合物(A)と、前記高分子化合物(B)を混合して用いることにより、耐熱性の高い電解質成分を持ちながら、電極との接合性に優れた高分子電解質膜の材料となるフィルムが得られる。つまり、プロトン伝導機構を担う電解質成分であるために耐熱性が必要であるが、電極との接合性に乏しい前記高分子化合物(A)と、プロトン伝導機構に関与しないために耐熱性を必要とせず、触媒層との接合性に優れる前記高分子(B)を混合することによって本発明の効果が得られる。なお、本発明の効果は前記高分子化合物(A)を主に含む相と、前記高分子化合物(B)を主に含む相とが確認され、前記高分子化合物(B)を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している態様をとることが好ましい。これはつまり、前記高分子化合物(B)を主に含む相が海、前記高分子化合物(A)を主に含む相が島となった、いわゆる海島構造をとるということである。
【0031】
また、前記高分子化合物(A)と、前記高分子化合物(B)の配合比は、重量割合で前記高分子化合物(A)の割合が95%から15%(15重量%以上95重量%以下)であることが好ましい。前記高分子化合物(A)の配合比が95%より大きいと、このフィルムを用いて製造した高分子電解質膜と触媒層との良好な接合性が得られにくい傾向があり、15%より小さいと、このフィルムを用いて製造した電解質膜の十分なプロトン伝導性が得られない傾向がある。さらに、前記高分子化合物(A)と、前記高分子化合物(B)の配合比は、重量割合で前記高分子化合物(A)の割合が90%から20%(20重量%以上90重量%以下)であることが好ましい。この範囲であれば、電極との接合性と、プロトン伝導性とのバランスに優れ、高分子電解質膜を製造することが可能である。
【0032】
つぎに、本発明に記載の高分子フィルムの製造方法について説明する。本発明において、高分子フィルムを得るには公知の方法が使用できる。例えば、インフレーション法、Tダイ法などの溶融押出成形、カレンダー法、キャスト法、切削法、エマルション法、ホットプレス法、などが例示できる。さらに、高分子フィルムを得た後に、分子配向などを制御するため二軸延伸などの処理を施したり、結晶化度を制御するための熱処理を施しても構わない。さらに、フィルムの機械強度を上げるために各種フィラーを添加したり、ガラス不織布などの補強剤とプレスにより複合化させることも本発明の範囲である。
【0033】
上記方法の中でも生産性や得られる高分子フィルムの機械的特性、フィルム厚みの制御のし易さ、種々の樹脂への適用性、環境への負荷などを考慮すると、溶融押出成形で製造する方法が好ましい。具体的には、材料を例えばTダイ押出機に投入し、溶融混練しながらフィルム化を行う方法が適用できる。
【0034】
製造される高分子フィルムの厚さは、用途に応じて任意の厚さを選択することができる。例えば、高分子フィルムから得られる高分子電解質膜の内部抵抗を低減することを考慮した場合、高分子フィルムの厚みは薄い程よい。一方、得られた高分子電解質膜のメタノール遮断性やハンドリング性、電極との接合時の耐破れ性などを考慮すると、高分子フィルムの厚みは薄すぎると好ましくない場合がある。これらを考慮すると、高分子フィルムの厚みは、1.2μm以上350μm以下であることが好ましい。上記高分子フィルムの厚さが上記数値の範囲内であれば、フィルム化が容易であり、かつプロトン伝導性基を導入する際の加工時や乾燥時にもシワが発生しにくい。また、破損が生じ難いなどハンドリング性が向上する。また、得られた高分子電解質膜のプロトン伝導性も所望の範囲で発現させることができる。
【0035】
<2.本発明にかかる高分子電解質膜>
本発明にかかる高分子電解質膜(以下「本発明の高分子電解質膜」という)は、上記本発明の高分子フィルムにプロトン伝導性基を導入した高分子電解質膜である。
【0036】
プロトン伝導性基導入の方法としては、公知のプロトン伝導性基の導入方法を使用できる。特に、高分子フィルムを有機溶媒存在下でプロトン伝導性基導入剤と接触させる方法は、優れたプロトン伝導性及び高いメタノール遮断性を両立する高分子電解質膜が簡便かつ高い生産性で得られるため好ましい。
【0037】
ここで上記プロトン伝導性基としては、含水状態でプロトンを解離するものであれば使用可能である。例えば、スルホン酸基、リン酸基、カルボン酸基、フェノール性水酸基などが例示できるが、これらのみに限定されるものではない。特にプロトン伝導性基の導入のし易さや得られる高分子電解質のプロトン伝導性などを考慮すると、スルホン酸基であることが好ましい。上記プロトン伝導性基の含有量に由来する高分子電解質のイオン交換容量は、好ましくは0.3ミリ当量/g以上であり、より好ましくは0.5ミリ当量/g以上である。上記イオン交換容量が0.3ミリ当量/g以上であれば、高分子電解質膜が好ましいプロトン伝導性を発現し易くなる。
【0038】
プロトン伝導性基の導入に用いられるプロトン伝導性基導入剤としては、スルホン化剤が好ましく利用され得る。有機溶媒存在下で高分子フィルムとプロトン伝導性基導入剤(好ましくはスルホン化剤)とを接触させることで、プロトン伝導性基導入剤(好ましくはスルホン化剤)が高分子フィルムと直接接触し劣化するのを抑制しつつ、所望量のスルホン酸基を導入することが可能となる。
【0039】
本発明で使用可能なスルホン化剤としては、例えば、クロロスルホン酸、発煙硫酸、三酸化硫黄、三酸化硫黄−トリエチルフォスフェート、濃硫酸、トリメチルシリルクロロサルフェート等の公知のスルホン化剤を用いることが好ましい。工業的入手の容易さやスルホン酸基の導入の容易さや得られる高分子電解質膜の特性を考慮すると、クロロスルホン酸単体またはクロロスルホン酸を含む混合物を用いることが好ましい。つまり、本発明では、上記スルホン化剤は、クロロスルホン酸であることが好ましい。スルホン化剤がクロロスルホン酸であると、プロトン伝導性基であるスルホン酸基が導入しやすく、高いプロトン伝導性を有する高分子電解質膜を得やすくなるためである。
【0040】
前記工程に利用可能な有機溶媒は、スルホン化剤を分解することなく、スルホン酸基導入を阻害することなく、フィルム中の熱可塑性高分子や酸化防止剤の分解などの劣化を引き起こさないようなものであれば使用可能であり、特に限定されるものではない。このように有機溶媒を使用することによって、高分子フィルムが膨潤しやすくなり、フィルム内部までスルホン化剤を拡散させることができる。また、スルホン化剤と高分子フィルムとが直接接触することにより、過度の反応が生じてフィルムが劣化するのを抑制することができる。
【0041】
スルホン化剤の使用量としては、高分子フィルムに対して、0.1倍量以上100倍量以下(重量比)、さらには0.5重量以上50倍量以下(重量比)であることが好ましい。上記数値範囲内であれば、スルホン酸基の導入量が好適な範囲となり、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性などの特性が充分担保できる。また、高分子フィルムが化学的に劣化することを防止でき、得られる高分子電解質膜の機械的強度の低下も防げる。このため、ハンドリングが容易である。加えて、スルホン酸基を好適な範囲での導入でき、メタノール遮断性を維持しつつ、水溶性やメタノール水溶液に可溶になるなど、高分子電解質膜の実用的な特性の低下を防止できる。
【0042】
また、有機溶媒中のスルホン化剤の濃度は、スルホン酸基の目標とする導入量や反応条件(温度や時間等)を勘案して適宜設定すればよい。具体的には、0.05重量%以上20重量%以下であることが好ましく、より好ましい範囲は、0.2重量%以上10重量%以下である。0.05重量%以上20重量%以下の範囲内であれば、スルホン化剤と高分子フィルム中の芳香族単位とが接触しやすく、所望のスルホン酸基量を導入でき、また導入する時間も短時間でよい。また、スルホン酸基の導入も均一となり、得られた高分子電解質膜の機械的特性も十分担保できる。
【0043】
本発明においては、スルホン酸基の導入のしやすさや得られる高分子電解質膜の特性を考慮すると、特に、上記有機溶媒はハロゲン化炭化水素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素としては、例えば、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロフォルム、1−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1,4−ジクロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、1−クロロペンタン、1−クロロヘキサン、クロロシクロヘキサンなどを挙げることができる。特に、工業的入手の容易さやスルホン酸基の導入のしやすさ、得られる電解質膜の特性を考慮すると、ハロゲン化炭化水素は、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン及び1−クロロブタンからなる群から選択される少なくとも1種を含む有機溶媒であることが好ましい。すなわち、本発明では、上記有機溶媒が、ジクロロメタンまたは1−クロロブタンを含むものであることが好ましい。これらは工業的入手が容易であるとともに、プロトン伝導性基が導入しやすく、得られる高分子電解質膜のプロトン伝導性及びメタノール遮断性が両立できる。
【0044】
また、高分子フィルムとスルホン化剤とを接触させる際の反応温度については特に限定されるものではないが、0℃以上100℃以下が好ましく、10℃以上30℃以下がさらに好ましい。反応温度が、0℃以上であれば、設備上冷却等の措置が必要でなく、反応に必要以上の時間がかかることを防止できる。また100℃以下であれば、反応を適切に調節することができ、副反応の発生を防止でき、膜の特性を低下させる問題を回避できる。さらに、高分子フィルムとスルホン化剤とを接触させる際の反応温度は、使用する有機溶媒の沸点以下であることが、耐圧容器を用いる必要がないために好ましいといえる。
【0045】
また、高分子フィルムとスルホン化剤とを接触させる際の反応時間については特に限定されるものではないが、0.5時間以上が好ましく、2時間以上がさらに好ましい。一方、反応時間の上限としては100時間以下であること好ましい。反応時間が、0.5時間以上である場合は、スルホン化剤と高分子フィルム中の高分子との接触が充分であり、所望量のスルホン酸基を導入することができる。また、反応時間が100時間以下であれば、生産性を損なうことなく、高分子電解質膜の特性向上を図ることができる。なお実際には、使用するスルホン化剤や有機溶媒などの反応雰囲気、目標とする生産量などを考慮して、所望の特性を有する高分子電解質膜を効率的に製造できる反応条件を適宜設定すればよい。
【0046】
なお本発明の製造方法で製造された高分子電解質膜の特性をさらに向上させるために、電子線、γ線、イオンビーム等の放射線を照射させることも可能である。これらにより、高分子電解質膜中に架橋構造などが導入でき、さらにメタノール遮断性が向上する場合がある。
【0047】
<3.本発明にかかる膜−電極接合体>
本発明にかかる膜−電極接合体(以下「本発明の膜−電極接合体」という)は、上記本発明の高分子フィルムにプロトン伝導性基を導入した高分子電解質膜と、電極を接合したものである。
【0048】
膜−電極接合体とは、後の図で示されるように、電解質膜の両側、あるいは片側に電極を接合したものである。ここで電極とは、触媒層、もしくは拡散層などに触媒層を設けたものから構成される。よって、膜−電極接合体とは、拡散層−触媒層−電解質膜−触媒層−拡散層の5層構造からなるものや、触媒層−電解質膜−触媒層の3層構造からなるものがあり、他にはミクロポーラスレイヤーなどの機能付加層が加えられていたり、片側のみ拡散層が存在するものなどがあるが、本発明における膜−電極接合体とは、少なくとも1種類の電解質膜と、少なくとも1種類の触媒層を最小単位として持つものである。また、電極とは燃料電池における電気化学反応を起こす、白金といった貴金属などの触媒を含む部位のことであり、前述の電極との接合性とは、触媒層との接合性と言い換えることもできる。
【0049】
一般に高分子電解質膜と電極の接合は、後述のようにホットプレスによって行われる。この際の温度は、高分子電解質膜と電極とが良好に接合される温度を設定する。つまり、融点の高い材料を用いる場合はプレス温度を高く設定する必要があるが、高分子電解質膜および電極に含まれるプロトン伝導性基、特にスルホン酸基は220℃以上の温度になると分解の可能性が高くなり、220℃以上はプレス温度として好ましくない。したがって、高分子電解質膜中に前記融点が220℃未満の高分子が含まれる、特に厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している様態で含まれることにより、本発明の効果の一つである、電極との良好な接合性を得ることができる。
【0050】
本発明の高分子電解質膜は、前記高分子化合物(A)と、前記高分子化合物(B)とを必須成分として含み、該フィルムの電子顕微鏡による断面写真の観察において、前記融高分子化合物(A)を主に含む相と、前記高分子化合物(B)を主に含む相とが存在し、前記高分子化合物(B)を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続していることを特徴とする高分子フィルムを材料として製造されることから、前述のような燃料電池として好適な高い性能を持った電解質膜となり、また電極との接合性も高い。ただし、前述のような特別な構造を持っていることから、その構造に適した膜−電極接合体を製造する際のプレス条件が必要となる。これについて以下説明する。
【0051】
本発明の膜−電極接合体を製造する際のプレス温度は、前記高分子化合物(B)の弾性率が1.0×10Paとなる温度以下で行わなければならない。ここで弾性率とは、従来公知の方法で測定できることができる。たとえばJIS K 7244−4などを参考とすることができる。
【0052】
このような条件でプレスし、膜−電極接合体(MEA)を製造することによって、本発明の膜−電極接合体(MEA)を得ることができる。前記高分子化合物(B)の弾性率が1.0×10Paとなる温度以下でプレスすることにより、電解質膜の形状変化、特に破れや穴あきといった電解質膜としての性能低下の要因となる不具合を防ぐことができ、本発明の効果が発揮できる。またプレス温度については、前記高分子化合物(B)の弾性率が1.0×10Paとなる温度よりも30℃低い温度以上であることが好ましく、さらに好ましくは前記高分子化合物(B)の弾性率が1.0×10Paとなる温度よりも20℃低い温度以上であることが好ましい。この温度であれば、電解質膜の形状変化を防ぎつつ、電極との良好な接合が取れるので好ましい。
【0053】
また、本発明の膜−電極接合体は、前記高分子化合物(B)を主に含む相が、電極とプレスされた後に厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している状態を保持していることが好ましい。これはつまり前記プレス条件を、前記高分子化合物(B)の弾性率を考慮した条件にしている、ということであり、前記電解質膜の態様を保持していることによって本発明の膜−電極接合体の能力が発揮される。
【0054】
<4.本発明にかかる膜−電極接合体(MEA)の利用>
次に、本発明の高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。なお、本実施の形態では、固体高分子形燃料電池を例に挙げて説明するが、直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池についても、固体高分子形燃料電池と同様に実施可能である。
【0055】
図1は、本実施の形態にかかる高分子電解質膜を使用した固体高分子形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10は、高分子電解質膜1、触媒層2・2、拡散層3・3、セパレーター4・4を備えている。高分子電解質膜1は、固体高分子形燃料電池10のセルの略中心部に位置している。触媒層2は、高分子電解質膜1に接触するように設けられている。拡散層3は、触媒層2に隣接して設けられており、さらにその外側にセパレーター4が配置されている。セパレーター4には、燃料ガスまたは液体(メタノール水溶液など)、並びに、酸化剤を送り込むための流路5が形成されている。これらの部材は、固体高分子形燃料電池10のセルとして構成されていると換言できる。
【0056】
膜−電極接合体を作製する方法は、従来検討されている、パーフルオロカーボンスルホン酸からなる高分子電解質膜やその他の炭化水素系高分子電解質膜(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)で行われる公知の方法が適用可能である。
【0057】
膜−電極接合体の具体的作製方法の一例を下記に示すが、本発明はこれに限定されるものではない。触媒層2の形成は、高分子電解質の溶液あるいは分散液に、金属担持触媒を分散させて、触媒層形成用の分散溶液を調合する。この分散溶液をポリテトラフルオロエチレンなどの離型フィルム上にスプレーで塗布して分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、離型フィルム上に所定の触媒層2を形成させる。この離型フィルム上に形成した触媒層2を高分子電解質膜1の両面に配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスし、高分子電解質膜1と触媒層2を接合し、離型フィルムをはがすことによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2が形成された膜−電極接合体が作製できる。また、上記分散溶液を、コーターなどを用いて拡散層3上に塗工して、分散溶液中の溶媒を乾燥・除去し、拡散層3上に触媒層2が形成された触媒担持ガス拡散電極を作製し、高分子電解質膜1の両側にその触媒担持ガス拡散電極の触媒層2側を配置し、所定の加熱・加圧条件下でホットプレスすることによって、高分子電解質膜1の両面に触媒層2と拡散層3とが形成された膜−電極接合体が製造できる。なお、上記触媒担持ガス拡散電極には、市販のガス拡散電極(米国E−TEK社製、など)を使用しても構わない。
【0058】
上記高分子電解質の溶液としては、パーフルオロカーボンスルホン酸高分子化合物のアルコール溶液(アルドリッチ社製ナフィオン(登録商標)溶液など)やスルホン化された芳香族高分子化合物(例えば、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリスルホン、スルホン化ポリイミド、スルホン化ポリフェニレンサルファイドなど)の有機溶媒溶液などが使用できる。上記金属担持触媒としては、高比表面積の導電性粒子が担体として使用可能であり、例えば、活性炭、カーボンブラック、ケッチェンブラック、バルカン、カーボンナノホーン、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素材料が例示できる。
【0059】
金属触媒としては、燃料の酸化反応および酸素の還元反応を促進するものであれば使用可能であり、燃料極と酸化剤極で同じであっても異なっていても構わない。例えば、白金、ルテニウムなどの貴金属あるいはそれらの合金などが例示でき、それらの触媒活性の促進や、反応副生物による被毒を抑制するための助触媒を添加しても構わない。
【0060】
上記触媒層形成用の分散溶液は、スプレーで塗布したり、コーターで塗工したりしやすい粘度に調整されるべく、水や有機溶媒で適宜希釈されても構わない。また、必要に応じて触媒層2に撥水性を付与するため、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系化合物を混合してもよい。
【0061】
上記拡散層3としては、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの多孔質の導電性材料が使用可能である。これらは燃料や酸化剤の拡散性や反応副生物や未反応物質の排出性を促進するため、テトラフルオロエチレンなどで被覆して撥水性を付与したものを使用するのが好ましい。また、高分子電解質膜1と触媒層2との間に必要に応じて前述したような高分子電解質からなる接着層を設けてもよい。
【0062】
加圧条件としては、概ね0.1MPa以上20MPa以下の範囲であることが、高分子電解質膜1と触媒層2が充分に接触するとともに、使用材料の著しい変形にともなう特性低下がなく、前記融点が220℃未満の高分子化合物を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している状態を保持しやすく好ましい。特に膜−電極接合体が高分子電解質膜1と触媒層2とからのみ形成される場合は、拡散層3を触媒層2の外側に配置して特に接合することなく接触させるのみで使用しても構わない。
【0063】
上記のような方法で得られた膜−電極接合体を、燃料ガスまたは液体、並びに、酸化剤を送り込む流路5が形成された一対のセパレーター4などの間に挿入することにより、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10が得られる。
【0064】
上記セパレーター4としてはカーボングラファイトやステンレス鋼の導電性材料のものが使用できる。特にステンレス鋼などの金属製材料を使用する場合は、耐腐食性の処理を施していることが好ましい。
【0065】
上記の固体高分子形燃料電池10に対して、燃料ガスまたは液体として、水素を主たる成分とするガスや、メタノールを主たる成分とするガスまたは液体を、酸化剤として、酸素を含むガス(酸素あるいは空気)を、それぞれ別個の流路5より、拡散層3を経由して触媒層2に供給することにより、固体高分子形燃料電池は発電する。このとき燃料として、例えば、含水素液体を使用する場合には直接液体形燃料電池となるし、メタノールを使用する場合には直接メタノール液体形燃料電池となる。つまり、固体高分子形燃料電池10について例示した上記実施形態は、そのまま直接液体形燃料電池、直接メタノール液体形燃料電池についても適用可能といえる。なお、本実施の形態にかかる固体高分子形燃料電池10を単独で、あるいは複数積層して、スタックを形成して使用することや、それらを組み込んだ燃料電池システムとすることもできる。
【0066】
次いで、本発明の膜−電極接合体を使用した直接メタノール液体形燃料電池の一実施形態について、図面を用いて説明する。図2は、本実施の形態にかかる高分子電解質膜からなる直接メタノール液体形燃料電池の要部断面の構造を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施の形態にかかる直接メタノール液体形燃料電池20は、膜−電極接合体16、燃料タンク17、支持体19を備えている。燃料タンク17は、燃料(メタノールあるいはメタノール水溶液)充填部(供給部)18を備えており、支持体19には酸化剤流路15が形成されている。上述した方法で得られた膜−電極接合体16が、燃料充填部18を有する燃料タンク17の両側に必要数が平面状に配置されている。さらにその外側には、酸化剤流路15が形成された支持体19が配置されている。つまり、2つの支持体19・19に狭持されることによって、直接メタノール液体形燃料電池20のセル、スタックが構成される。
【0067】
なお、上述した例以外にも、本発明にかかる高分子電解質膜は、特許文献7〜17等で公知になっている固体高分子形燃料電池や直接メタノール液体形燃料電池の電解質膜として、使用可能である。これらの公知文献に基づけば、当業者であれば、本発明の高分子電解質膜を用いて容易に固体高分子形燃料電池や直接メタノール液体形燃料電池を構成することができる。
【特許文献7】特開2001−313046号公報
【特許文献8】特開2001−313047号公報
【特許文献9】特開2001−93551号公報
【特許文献10】特開2001−93558号公報
【特許文献11】特開2001−93561号公報
【特許文献12】特開2001−102069号公報
【特許文献13】特開2001−102070号公報
【特許文献14】特開2001−283888号公報
【特許文献15】特開2000−268835号公報
【特許文献16】特開2000−268836号公報
【特許文献17】特開2001−283892号公報 本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、例えば請求項に示される範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
<高分子電解質膜の調製>
融点が220℃以上の高分子化合物としてポリフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業株式会社製、LD10p11、融点285℃)、融点が220℃未満の高分子化合物として高密度ポリエチレン(三井化学株式会社製、HI−ZEX 3300F、融点130℃)を使用した。ポリフェニレンサルファイドのペレット50重量部、高密度ポリエチレンのペレット50重量部とをドライブレンドした。ドライブレンドしたペレット混合物を、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、Tダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た(高分子フィルム中に高密度ポリエチレンを50重量%含有する)。ガラス容器に、ジクロロメタン823g、クロロスルホン酸8.2gを秤量し、1.0重量%のクロロスルホン酸溶液を調製した。前記高分子フィルムを1.9g秤量し、前記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、25℃で20時間、放置した(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムの重量に対して4.3倍量)。その後、高分子フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、プロトン伝導性基としてスルホン酸基が導入された電解質膜を得た。
【0070】
<アノード電極の作製>
アノード電極は、次の手順にて製造した。最初に、純水(4.630g)に白金−ルテニウム担時カーボン触媒粉末(TEC61E54、田中貴金属工業株式会社、0.463g)、およびナフィオン溶液(5wt%、4.123g)を加えた後に、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌することによってアノード触媒インクを作製した。前記アノード触媒インクをエアブラシで、カーボンペーパー製拡散層(SGL24BA、SGLカーボンジャパン株式会社製、50mm×50mm)に白金担持量1.0mg/cmになるまで吹き付けた。最後に、150℃、1時間真空乾燥させたのちに、22mm×22mmの大きさに裁断することによって、白金担持量1.0mg/cmのガス拡散層つき電極(アノード側)を得た。
<カソード電極の作製>
カソード電極は、次の手順にて作製した。純水(2.500g)に白金担時カーボン触媒粉末(TEC10E50E、田中貴金属工業株式会社製、0.250g)、および電解質溶液としてナフィオン溶液(5wt%、1.840g)を加えた後に、マグネチックスターラーを用いて30分撹拌することによってカソード触媒インクを作製した。前記カソード触媒インクをエアブラシで、カーボンペーパー製拡散層(SGL24BA、SGLカーボンジャパン株式会社製、50mm×50mm)に白金担持量1.0mg/cmになるまで吹き付けた。最後に、それを50℃で乾燥させたのちに、22mm×22mmの大きさに裁断することによって、白金担持量1.0mg/cmのガス拡散層つき電極(カソード側)を得た。
<膜−電極接合体(MEA)の作製>
本発明の膜−電極接合体(MEA)は、加熱圧接機(テスター産業株式会社製)を用いて次の手順で作製した。まず、SUS板、ポリテトラフルオロエチレンシート(100mm×100mm×0.05mm)、前記アノード電極(22mm×22mm)、前記高分子電解質膜、前記カソード電極(22mm×22mm)、ポリテトラフルオロエチレンシート(100mm×100mm×0.05mm)およびSUS板の順に積層した。この積層物を110℃に加熱した加圧板に設置した後、9.8MPa、5分間保持の条件で加熱圧接し、本発明の燃料電池用膜電極接合体を得た。なお、このプレス温度は、前記融点が220℃未満の高分子化合物である、前記高密度ポリエチレンの弾性率が1.0×10Paとなる温度以下である。
【0071】
<高分子化合物の弾性率の測定>
前記融点が220℃未満の高分子化合物であるポリエチレンを、押出成型にて厚さ50ミクロンのフィルムに成型した。このフィルムを、幅5mm、長さ50mmに切り出し、弾性率測定用の試験片を作製した。この試験片を動的粘弾性測定装置(TAインスツルメント社製、RSA3)にて、昇温速度10.0℃毎分、周波数1.0Hz、チャック間距離20mm、ひずみ量0.15%、の条件で室温よりサンプルが破断するまで測定した。結果を図3にしめす。この図は温度に対する弾性率の変化を示しており、このサンプルでは116℃付近より急に弾性率が落ち始め、120℃付近で弾性率が1.0×10Paとなっていることがわかる。
【0072】
<高分子フィルムの分散状態、膜電極接合体(MEA)の断面状態の観察>
プロトン伝導性基を導入する前の状態である本発明の高分子フィルムを、超薄切片法にて処理することにより観察試料を調製した。日本電子製透過型電子顕微鏡(JEM−1200EX)を用いて、加速電圧80kV、10,000倍の条件で、前記高分子フィルムの厚さ方向の断面中央部を観察した。結果を図4に示す。本発明の膜−電極接合体(MEA)を、液体窒素に含浸させて凍結した後、剃刀刃で割り断面を出した。このサンプルの断面部を、日立ハイテクノロジーズ社製電子顕微鏡(S−4800)を用いて、加速電圧25kV、500〜600倍の条件で、観察した。結果を図5に示す。
【0073】
<電解質膜のイオン交換容量の測定方法>
電解質膜(約10mm×40mm)を25℃での塩化ナトリウム飽和水溶液20mLに浸漬し、ウォーターバス中で60℃、3時間イオン交換反応させた。その後25℃まで冷却し、次いで電解質膜をイオン交換水で充分に洗浄し、塩化ナトリウム飽和水溶液および洗浄水をすべて回収した。この回収した溶液に、指示薬としてフェノールフタレイン溶液を加え、0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液で中和滴定し、イオン交換容量を算出した。その結果を表1に示す。
【0074】
<電解質膜のプロトン伝導度の測定方法>
イオン交換水中に保管した高分子電解質膜(約10mm×40mm)を取り出し、高分子電解質膜表面の水をろ紙で拭き取った。2極非密閉系のポリテトラフルオロエチレン製のセルに高分子電解質膜を設置し、さらに白金電極を電極間距離30mmとなるように、膜表面(同一側)に設置した。23℃での膜抵抗を、交流インピーダンス法(周波数:42Hz〜5MHz、印可電圧:0.2V、日置電機製LCRメーター 3531Z HITESTER)により測定し、プロトン伝導度を算出した。結果を表1に示す。
【0075】
<電解質膜のメタノール遮断性の測定方法>
25℃の環境下で、ビードレックス社製膜透過実験装置(KH-5PS)を使用して、高分子電解質膜でイオン交換水と64重量%のメタノール水溶液を隔離した。所定時間(2時間)経過後にイオン交換水側に透過したメタノールを含む溶液を採取し、ガスクロマトグラフ(島津製作所製ガスクロマトグラフィーGC−201)で透過したメタノール量を定量した。この定量結果から、メタノール透過速度を求め、メタノール透過係数を算出した。メタノール透過係数は、以下の数式1にしたがって算出した。結果を表1に示す。
〔数式1〕
メタノール透過係数(μmol/(cm・日))
=メタノール透過量(μmol)×膜厚(cm)/(膜面積(cm)×透過時間(日))
<直接メタノール形燃料電池の発電試験>
本発明の直接メタノール形燃料電池は、市販のPEFC用単セル(エレクトロケム社製)に、前記膜−電極接合体を設置して組み立てた。まず、アノード側エンドプレート(集電体)、ガスフロープレート(カーボンセパレーター)、ポリテトラフルオロエチレンガスケット(0.2mm)、膜−電極接合体、ポリテトラフルオロエチレンガスケット(0.18mm)、ガスフロープレート(カーボンセパレーター)、カソード側エンドプレート(集電体)の順に積層した。次いで、M3のボルトを用いて2N・mで締め付けることによって、本発明の燃料電池を得た。このようにして作製した燃料電池の発電特性は、セル温度60℃、アノード側に5mol/L、10mol/Lのメタノール水溶液、カソード側に無加湿の空気を供給することによって測定した。このようにして測定した最高出力密度の結果を表1に示す。なお、表中の出力密度の欄において、測定不可とあるのは、まったく出力が取り出せない状態であったことを示している。
【0076】
(実施例2)
<高分子電解質膜の調製>
融点が220℃以上の高分子化合物としてポリフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業株式会社製、LD10p11、融点285℃)、融点が220℃未満の高分子化合物として高密度ポリエチレン(三井化学株式会社製、HI−ZEX 3300F、融点130℃)を使用した。ポリフェニレンサルファイドのペレット65重量部、高密度ポリエチレンのペレット35重量部とをドライブレンドした。ドライブレンドしたペレット混合物を、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、Tダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た(高分子フィルム中に高密度ポリエチレンを35重量%含有する)。ガラス容器に、ジクロロメタン702g、クロロスルホン酸7.0gを秤量し、重量1.0%のクロロスルホン酸溶液を調製した。前記高分子フィルムを1.6g秤量し、前記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、25℃で20時間、放置した(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムの重量に対して4.4倍量)。その後、高分子フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、プロトン伝導性基としてスルホン酸基が導入された電解質膜を得た。
【0077】
<膜−電極接合体の作製>
実施例1と同様の方法で作製したアノード電極、カソード電極を用いて、実施例1と同様の方法で膜−電極接合体を作製した。
【0078】
<高分子電解質膜の評価>
高分子電解質膜の評価方法(イオン交換容量、プロトン伝導度、メタノール遮断性)は実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0079】
<高分子フィルムの分散状態の観察>
プロトン伝導性基を導入する前の状態である高分子フィルムを、実施例1と同様の方法で、厚さ方向の断面中央部を観察した。結果を図6に示す。
【0080】
<直接メタノール形燃料電池の発電試験>
実施例1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例3)
<高分子電解質膜の調製>
融点が220℃以上の高分子化合物としてポリスチレン(ポリスチレンジャパン株式会社製、G8102 K27、融点230℃)、融点が220℃未満の高分子化合物として高密度ポリエチレン(三井化学株式会社製、HI−ZEX 3300F、融点130℃)、相溶化剤としてポリスチレン共重合体(株式会社クラレ製、セプトン2104)を使用した。ポリスチレンのペレット29重量部、高密度ポリエチレンのペレット67重量部、ポリスチレン共重合体のペレット5重量部とをドライブレンドした。ドライブレンドしたペレット混合物を、スクリュー温度250℃、Tダイ温度250℃の条件で、Tダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た(高分子フィルム中に高密度ポリエチレンを67重量%含有する)。ガラス容器に、1クロロブタン637g、クロロスルホン酸6.4gを秤量し、重量0.5%のクロロスルホン酸溶液を調製した。前記高分子フィルムを1.5g秤量し、前記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、25℃で20時間、放置した(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムの重量に対して4.3倍量)。その後、高分子フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、プロトン伝導性基としてスルホン酸基が導入された電解質膜を得た。
【0082】
<膜−電極接合体の作製>
実施例1と同様の方法で作製したアノード電極、カソード電極を用いて、実施例1と同様の方法で膜−電極接合体を作製した。
【0083】
<高分子電解質膜の評価>
高分子電解質膜の評価方法(イオン交換容量、プロトン伝導度、メタノール遮断性)は実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0084】
<高分子フィルムの分散状態の観察>
プロトン伝導性基を導入する前の状態である高分子フィルムを、実施例1と同様の方法で、厚さ方向の断面中央部を観察した。結果を図7に示す。
【0085】
<直接メタノール形燃料電池の発電試験>
実施例1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(比較例1)
<高分子電解質膜の調製>
ポリフェニレンサルファイド(大日本インキ工業株式会社製、DIC−PPS LD10p11)を使用した。前記ポリフェニレンサルファイドのペレットを、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、2軸混練押出し機にTダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た。上記方法で得られた高分子フィルムを使用した。1−クロロブタン70.9g、クロロスルホン酸1.1gを秤量し、1.5重量%のクロロスルホン酸溶液を調製し、高分子フィルムを0.16gとした以外は、実施例1と同様にして高分子電解質膜を得た(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムに対して6.9倍量)。
【0087】
<高分子電解質膜の評価>
高分子電解質膜の評価方法(イオン交換容量、プロトン伝導度、メタノール遮断性)は実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0088】
<膜−電極接合体(MEA)の作製>
実施例1と同様の方法で作製したアノード電極、カソード電極を用いて、プレス温度を150℃とした以外は実施例1と同様の方法で膜−電極接合体(MEA)を作製した。
【0089】
(比較例2)
<高分子電解質膜の調製>
実施例1で用いた電解質膜と同様の電解質膜を用いた。
【0090】
<膜−電極接合体(MEA)の作製>
実施例1と同様の方法で作製したアノード電極、カソード電極を用いて、プレス温度を150℃とした以外は実施例1と同様の方法で膜−電極接合体(MEA)を作製した。なお、このプレス温度は、前記融点が220℃未満の高分子化合物である、ポリエチレンの弾性率が1.0×10Paとなる温度より高い温度である。
【0091】
<膜−電極接合体(MEA)の断面状態の観察>
実施例1と同様の方法で、膜−電極接合体(MEA)の厚さ方向の断面中央部を観察した。結果を図8に示す。
【0092】
<直接メタノール形燃料電池の発電試験>
実施例1と同様の方法で発電試験を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例3)
<高分子電解質膜の調製>
融点が220℃以上の高分子化合物としてポリフェニレンサルファイド(大日本インキ化学工業株式会社製、ML320p、融点285℃)、ポリメチルペンテン(三井化学株式会社製、TPXMX004、融点235℃)を使用した。ポリフェニレンサルファイドのペレット50重量部、ポリメチルペンテンのペレット50重量部とをドライブレンドした。ドライブレンドしたペレット混合物を、スクリュー温度290℃、Tダイ温度290℃の条件で、Tダイをセットした二軸押出機により、溶融押出成形し、高分子フィルムを得た(高分子フィルム中にポリメチルペンテンを50重量%含有する)。ガラス容器に、ジクロロメタン790g、クロロスルホン酸10.0gを秤量し、重量1.25%のクロロスルホン酸溶液を調製した。前記高分子フィルムを2.0g秤量し、前記クロロスルホン酸溶液に浸漬し、25℃で20時間、放置した(クロロスルホン酸添加量は、高分子フィルムの重量に対して5.0倍量)。その後、高分子フィルムを回収し、イオン交換水で中性になるまで洗浄した。洗浄後の高分子フィルムを23℃に調温した恒温恒湿器内で、相対湿度98%、80%、60%および50%の湿度調節下で、それぞれ30分間放置してフィルムを乾燥し、プロトン伝導性基としてスルホン酸基が導入された電解質膜を得た。
【0094】
<高分子電解質膜の評価>
高分子電解質膜の評価方法(イオン交換容量、プロトン伝導度、メタノール遮断性)は実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0095】
<膜−電極接合体(MEA)の作製>
実施例1と同様の方法で作製したアノード電極、カソード電極を用いて、プレス温度を150℃とした以外は実施例1と同様の方法で膜−電極接合体(MEA)を作製した。
【0096】
【表1】

表1から、実施例1〜3は燃料のメタノール水溶液の濃度が比較的高いにもかかわらず、良好な最大出力密度を示していることがわかる。これは、燃料電池用の膜−電極接合体として、実施例の膜−電極接合体が優れているということである。それに対し、比較例1〜3は最大出力密度が低い、あるいは測定不可能であった。比較的高濃度のメタノール水溶液による発電試験においては、膜−電極接合体中の電解質膜のメタノール遮断性が優れるほうが、最大出力密度が大きくなる。比較例で用いられている電解質膜もメタノール遮断性が優れるが、本発明の要件を満たしていないため、このような結果になった。すなわち、比較例1はメタノール遮断性に優れた炭化水素系電解質膜を含むが、本発明の電解質膜の形態、つまり融点が220℃以上の高分子化合物を主に含む相と、融点が220℃未満の高分子化合物を主に含む相とが確認される形態でないため、電極との接合性が悪く、表1の結果となったと考えられる。特にメタノール濃度10mol/Lでの発電試験では、電解質膜と電極との剥離が起こり、測定不可となった。比較例2はメタノール遮断性が優れる電解質膜を含むが、プレス温度が高く本発明の要件を満たしていないため、図8で分かるように膜が元の形態を保持しておらず、電解質膜として適切に機能せずに表1の結果になったものと考えられる。また、比較例3は、融点が220℃未満の高分子化合物を含まないため、電解質膜と電極の接合性が不良であり、試験中に電解質膜と電極との剥離が起こり測定不可となった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明にかかる膜−電極接合体は、固体高分子形燃料電池、直接液体型燃料電池、直接メタノール形燃料電池等の燃料電池をはじめとして、様々な産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池(直接メタノール形燃料電池)の要部断面図である。
【図2】本発明の直接メタノール形燃料電池の要部断面図である。
【図3】実施例1における、融点220℃未満の高分子化合物である高密度ポリエチレンのフィルム状サンプルの動的粘弾性評価結果である、温度−弾性率のグラフである。
【図4】実施例1における高分子フィルムの、樹脂分散状態を示した透過型電子顕微鏡写真画像である。厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続しているのが前記融点が220℃未満の高分子化合物である。
【図5】実施例1における膜−電極接合体(MEA)の、断面の樹脂分散状態を示した電子顕微鏡写真画像である。画像中央部を横切るように電解質膜が確認され、膜中の厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続しているのが前記融点が220℃未満の高分子化合物である。
【図6】実施例2における高分子フィルムの、樹脂分散状態を示した透過型電子顕微鏡写真画像である。厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続しているのが前記融点が220℃未満の高分子化合物である。
【図7】実施例3における高分子フィルムの、樹脂分散状態を示した透過型電子顕微鏡写真画像である。厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続しているのが前記融点が220℃未満の高分子化合物である。
【図8】比較例2における膜−電極接合体(MEA)の、断面の電子顕微鏡写真画像である。実施例1にあるような電解質膜の保持はなく、つぶれていることが分かる。
【符号の説明】
【0099】
1 高分子電解質膜
2 触媒層
3 拡散層
4 セパレーター
5 流路
6 膜−電極接合体(MEA)
7 燃料タンク
8 燃料充填部
9 支持体
10 酸化剤流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)、(2)を共に満たす高分子フィルムにプロトン伝導性基を導入した電解質膜を、下記(1)に記載の高分子化合物(A)の弾性率が1.0×10Paとなる温度以下で、電極と熱プレスして製造することを特徴とする膜−電極接合体の製造方法。
(1)JIS K 7121法で測定した融点が220℃以上の高分子化合物(A)と、該融点が220℃未満の高分子化合物(B)とを必須成分として含む。
(2)電子顕微鏡による断面写真の観察において、前記高分子化合物(A)を主に含む相と、前記高分子化合物(B)を主に含む相とが存在し、前記高分子化合物(B)を主に含む相が厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している。
【請求項2】
前記高分子化合物(A)が、芳香族単位を含む高分子であることを特徴とする請求項1に記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項3】
前記高分子化合物(A)が、下記の(i)〜(iii)から選択される1種のポリマー、またはこれらポリマーの混合物であることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法:
(i)ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、およびポリフェニレンサルファイドからなるポリマーの群より選択される、少なくとも1種のポリマー;
(ii)上記(i)に記載のポリマーを含む共重合体;
(iii)上記(i)および(ii)に記載のポリマーの誘導体。
【請求項4】
前記高分子化合物(B)が、下記一般式(1)の繰り返し単位を有する高分子化合物から選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法:
−(CX−CX)− ・・・(1)
(式中、X1〜4は、H、CH、Cl、OCOCH、CN、COOH、COOCH、およびOCからなる群から選択されるいずれかであって、X1〜4は互いに独立で、同一であっても異なっていてもよい。)。
【請求項5】
前記高分子化合物(B)が、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびそれらの誘導体からなる群より選択される1種のポリマー、またはこれらの混合物であることを特徴とする請求項4に記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項6】
前記高分子フィルムを、溶融押出成形で製造する工程を含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項7】
前記プロトン伝導性基が、スルホン酸基を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の膜−電極接合体の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法によって製造されることを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項9】
前記高分子化合物(B)を主に含む相が、電極とプレスされた後に厚さ方向、幅方向いずれにおいても連続している状態を保持していることを特徴とする、請求項8に記載の膜−電極接合体。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法によって製造される膜−電極接合体、または、請求項8または9のいずれか1項に記載の膜−電極接合体を含むことを特徴とする、固体高分子形燃料電池、直接液体形燃料電池、または直接メタノール形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−243599(P2008−243599A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−82497(P2007−82497)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構固体高分子形燃料電池実用化戦略的技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】