説明

固体高分子形燃料電池用電極触媒およびそれを用いた固体高分子形燃料電池、電子機器、発電システム

【課題】触媒金属担持量を増加させることなく三相界面を増大させ、かつ反応物質の拡散を阻害させないことにより、固体高分子形燃料電池の発電効率を向上できる電極触媒、およびそれを用いた固体高分子形燃料電池、電子機器、発電システムを提供する。
【解決手段】電極触媒金属の担持体カーボン表面上に電気陰性度が2.0〜4.0の範囲内にある元素を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用の電極触媒、およびそれを用いた固体高分子形燃料電池、電子機器、発電システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池用電極触媒およびそれを用いた固体高分子形燃料電池、電子機器、発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性高分子電解質膜の両側に燃料極(アノード電極)と酸素極(カソード電極)が挟むかたちで形成されている。この電解質膜と両電極の一体化したものをMEA(Membrane Electrode Assembly)と呼んでいる。
【0003】
水素を燃料とした固体高分子形燃料電池では、アノード電極側に供給された水素から、電極を構成する電極触媒金属により水素が酸化されて水素イオン(プロトン)と電子を生成する。アノード電極で生成した電子は外部回路を経て、またプロトンは電解質膜を経てカソードに移動し、カソードでは供給される酸素が還元反応となり水を生成する。
【0004】
このときの反応式は以下のとおりである。
アノード:2H2→4H++4e-
カソード:O2+4H++4e-→2H2
また、固体高分子形燃料電池には、燃料としてアルコール類の燃料も使用可能である。その際はアノード電極側に燃料アルコールと水を供給し、電極触媒金属によりアルコールは酸化されてプロトンと電子と二酸化炭素を生成する。上記と同様にアノード電極で生成した電子は外部回路を経て、またプロトンは電解質膜を経てカソード電極側に移動し、カソード電極では供給される酸素が還元反応となる水を生成する。
【0005】
メタノールの場合、反応式は以下のとおりである。
アノード:CH3OH+H2O→CO2+6H++6e-
カソード:3/2O2+6H++6e-→3H2
上記固体高分子形燃料電池の電極反応は、電極触媒金属と反応物質供給相と電解質ポリマーとが同時に存在する三相界面において進行する。固体高分子形燃料電池の電解質ポリマーには、疎水性である主鎖部分とプロトン交換基を含む側鎖部分で構成されたものが一般的に使用されている。よって、さらに細かく見ると、三相界面は、電極触媒金属と反応物質供給相と電解質ポリマーのプロトン交換基とが接触している三相の界面部分を意味する。
【0006】
従来は、比表面積が高く電子伝導性の高いカーボンブラックやカーボンナノチューブなどの担持体カーボンに電極触媒金属を担持したものと、電解質ポリマーを混合し、インク状の電解質ポリマーに被覆された触媒担持カーボンである触媒ペーストを得る。この触媒ペーストを電解質膜に塗布してホットプレスにより固定化し、三相界面を有する電極触媒層を有するMEAを形成する。
【0007】
燃料電池電極反応は三相界面において進行することから、反応場である三相界面を増大させることで発電効率が向上する。しかしながら、従来の電極触媒金属は白金などの貴金属を使用するため、担持量を増加させると製造コストが高くなる問題がある。
【0008】
そこで、触媒金属担持量を増加させることなく三相界面を増大させる手法として、特開2004−22346号公報(特許文献1)では、カーボンブラックの一次粒子の表面にプロトン交換基であるスルホン基(SO3-)を有するポリマーグラフト重合したポリマーグラフトカーボンブラックを触媒金属の担持体として用いた構造が開示されている。
【特許文献1】特開2004−22346号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1では、触媒金属上にプロトン交換基だけでなく、三相界面形成に関与しないポリマーの主鎖部分も触媒金属に被覆されることで、プロトン交換基と接触している触媒金属面積が減少することで三相界面の面積が減少し、結果的に発電効率が向上しない問題があった。また、ポリマーのような体積の大きい官能基を触媒金属または触媒担持体に多数修飾させることで、電極触媒層中で反応物質の拡散を阻害し、高電流側では発電効率が低下する問題があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、触媒金属担持量を増加させることなく三相界面を増大させ、かつ反応物質の拡散を阻害させないことにより、固体高分子形燃料電池の発電効率を向上できる電極触媒、およびそれを用いた固体高分子形燃料電池、電子機器、発電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の固体高分子形燃料電池用の電極触媒は、電極触媒金属の担持体カーボン表面上に電気陰性度が2.0〜4.0の範囲内にある元素を含むことを特徴とする。
【0012】
ここにおいて、前記元素は、フッ素、塩素、酸素および窒素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
また本発明の電極触媒において、前記元素は、担持体カーボンの表面官能基となっていることが好ましい。
【0014】
また本発明は、上述した本発明の電極触媒を用いた固体高分子形燃料電池であって、前記電極触媒におけるカーボン表面上での電気陰性度が2.0〜4.0の範囲内にある元素と、電解質ポリマーのプロトン交換基の水素とが水素結合してなる固体高分子形燃料電池も提供する。
【0015】
本発明はさらに、上述した本発明の固体高分子形燃料電池を用いた電子機器または発電システムも提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電極触媒金属の担持量を増加させることなく三相界面を増大させ、かつ反応物質の拡散に悪影響を与えないことにより、発電効率が格段に向上された固体高分子形燃料電池、電子機器、発電システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、固体高分子形燃料電池に用いられる電極触媒であって、電極触媒金属の担持体カーボン表面上に電気陰性度が2.0〜4.0の範囲内にある元素を含むことを特徴とする。このような本発明の電極触媒によれば、これを固体高分子形燃料電池の電極として用いた場合に、電極触媒金属の担持量を増加させることなく、電極触媒金属と反応物質供給相と電解質ポリマーとが同時に存在する三相界面(より詳しくは、電極触媒金属と反応物質供給相と電解質ポリマーのプロトン交換基とが接触する三相界面)を増大させることができる。また本発明の電極触媒は、上記電気陰性度を有する元素を電極触媒金属の担持体カーボンの表面に含むことで、後述するように物理的な反応物質の供給の阻害を起こすことがないという利点も有する。このような電極触媒を用いることで、従来と比較して発電効率が格段に向上された固体高分子形燃料電池、およびそれを用いた電子機器、発電システムを実現することが可能である。
【0018】
本発明の電極触媒における電極触媒金属としては、固体高分子形燃料電池において従来より広く用いられている電極触媒金属を特に制限なく用いることができる。このような電極触媒金属としては、たとえば、白金、ルテニウム、スズ、イリジウムおよびそれらの合金から選ばれる1種以上を挙げることができる。中でも、触媒活性が高いことから、白金または白金系合金を好ましく用いることができる。白金系合金としては、たとえば、白金−ルテニウム合金などが例示される。
【0019】
本発明の電極触媒における電極触媒金属は、カーボンの表面に担持され、その担持量は特に制限されるものではないが、カーボンに対し好ましくは20〜80重量%、より好ましくは50〜70重量%の範囲内で担持される。電極触媒金属の担持量が20重量%未満であると、燃料電池の出力が低くなる傾向にあり、また、電極触媒金属の担持量が80重量%を超えると、触媒粒子自身が肥大化し、触媒の活性そのものが低くなる傾向にあるためである。なお、本発明の電極触媒において、カーボンに触媒金属が担持されてなること、ならびにその担持量は、たとえば熱天秤(Thermo plus TG8120、リガク社製)を用いて確認・測定することができる。
【0020】
本発明における電極触媒金属は、その粒径は特に制限されるものではないが、上述した好ましい範囲内の担持量にてカーボンに担持させ得る観点からは、1〜5mmであるのが好ましく、2〜3mmであるのがより好ましい。電極触媒金属の粒径は、たとえば、透過型電子顕微鏡を用いて、直接観察することで確認することができる。
【0021】
本発明の電極触媒におけるカーボンとしては、微粉末状で導電性を有し、燃料電池作動雰囲気下でも侵されないものであれば特に制限されるものではなく、たとえばカーボンブラック、黒鉛、グラファイト、活性炭、フラーレン、カーボンナノチューブの凝集体などを挙げることができる。比表面積が大きい材料の方が、触媒金属を多く担持させることができることから、カーボンブラックを用いることが好ましい。
【0022】
また、本発明におけるカーボンは、その粒径は特に制限されるものではないが、上述した好ましい範囲内の担持量にて電極触媒金属を担持させ得る観点からは、10〜50nmであるのが好ましく、20〜40nmであるのがより好ましい。カーボンの粒径は、たとえば、透過型電子顕微鏡を用いて、直接観察することで確認することができる。
【0023】
本発明の電極触媒は、上述のように電極触媒金属を担持したカーボンの表面に、電気陰性度が2.0〜4.0と比較的高い元素を含んでなることを大きな特徴とするものである。ここで、電気陰性度は、分子中の原子が電子を引き寄せる能力の尺度となる数値であり、各元素について固有のものである。なお、当該元素は、カーボン表面上の電極触媒金属を担持している領域以外の領域に吸着あるいは、化学結合させて表面修飾することで、電極触媒に含まれていると考えられる。本発明の電極触媒は、上記中でも電気陰性度が2.5以上である元素を含むことが好ましい。なお、本発明の電極触媒が上述したような電気陰性度の元素を含むことは、たとえばX線光電子分光分析法を用いることで、その元素が存在していること、ならびにどのような結合状態で結合しているかを分析して確認することができる。
【0024】
上述した電気陰性度を有する元素としては、たとえば、フッ素(電気陰性度:3.98)、塩素(電気陰性度:3.16)、酸素(電気陰性度:3.44)、窒素(電気陰性度:3.04)などを挙げることができる。担持体カーボンを触媒担持体として用いるのであれば、本発明の電極触媒に用いられる前記元素は、フッ素、塩素、酸素および窒素から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0025】
また本発明の電極触媒において、上述した電気陰性度を有する元素が、担持体カーボンの表面官能基となっていることが好ましい。ここで、「担持体カーボンの表面官能基となっている」とは、担持体カーボンと上述の電気陰性度を有する元素が吸着あるいは化学結合していることを指す。このように、上述した電気陰性度を有する元素が担持体カーボンの表面官能基となっていることは、たとえばX線光電子分光分析法を用いることで確認することができる。
【0026】
本発明の電極触媒は、その製造方法については特に制限されるものではないが、たとえば次のような方法によって好適に製造することができる。まず、カーボンを反応容器に入れて真空に保持し、100〜1000℃にて数分間〜数時間熱処理した後、当該カーボン表面に表面修飾させたい上述した電気陰性度を有する元素を含むガス(たとえばフッ素ガスなど)を流し、100〜1000℃で数分間〜10時間熱処理することによって、当該元素にて表面修飾されたカーボンを作製する。なお、酸素にて表面修飾を行う場合には、空気中で上記熱処理を行うようにしてもよい。その後、電極触媒金属を担持させることで、本発明の電極触媒を製造することができる。電極触媒金属は、たとえば電極触媒金属として白金を用いる場合には、白金コロイド溶液(たとえば、塩化白金酸にエチレングリコールを添加・攪拌後、水酸化ナトリウムエチレングリコール溶液を加え、昇温することで調製)を用い、これに上述したように作製した上記電気陰性度を有する元素にて表面修飾されたカーボンを混合し、硝酸水溶液を滴下することで行うことで、前記カーボンに担持させることができる。
【0027】
ここで、図1は、本発明の固体高分子形燃料電池における電極構造を概念的に示す図である。本発明は、上述した本発明の電極触媒を用いた電極を備える固体高分子形燃料電池をも提供するものである。本発明の固体高分子形燃料電池における電極(電極触媒層)は、電解質ポリマー1と、本発明の電極触媒とが混合されて層状に形成されてなる。本発明の電極触媒は、上述したように、カーボン4上に電極触媒金属3が担持され、さらにカーボン4の表面に上述した電気陰性度を有する元素2が結合している。
【0028】
固体高分子形燃料電池の電極に用いられる電解質ポリマー1は、通常、疎水性である主鎖部分とプロトン交換基を含む側鎖部分とで構成されたものが一般に用いられる。図1には、プロトン交換基としてSO3-を有する場合の電解質ポリマー1を用いた例を示している。本発明の固体高分子形燃料電池における電極は、図1に示すように、電極触媒の上述した電気陰性度を有する元素2が担持体カーボンの表面官能基となり、当該元素2と電解質ポリマー1のプロトン交換基の水素とが水素結合していることを特徴とする。このように本発明の電極触媒を用いることで、電極触媒金属と電解質ポリマーのプロトン交換基との接触が効果的に起こることで、電極触媒金属と反応物質供給相と電解質ポリマーとが同時に存在する三相界面(より詳しくは、電極触媒金属と反応物質供給相と電解質ポリマーのプロトン交換基とが接触する三相界面)を増加させることができる。また、上述した電気陰性度を有する元素が担持体カーボンの表面官能基となっている本発明の電極触媒を用いることで、カーボン表面上の当該表面官能基の体積は、従来のポリマーにてカーボン表面を修飾する場合と比較すると小さいため、当該表面官能基の存在により物理的な反応物質の供給の阻害が起こることがない。したがって、従来と比較して発電効率が格段に向上された固体高分子形燃料電池を実現することが可能となる。
【0029】
本発明の固体高分子形燃料電池において、図1に概念的に示したような電極構造は、アノード電極側、カソード電極側のいずれにおいても好適に実現することができる。特に好適には、アノード電極側、カソード電極側の両方を、上述した本発明の電極触媒を用いた電極構造を実現する。
【0030】
本発明の固体高分子形燃料電池の電極(電極触媒層)は、本発明の電極触媒と、電解質ポリマーの溶液とを混合・攪拌させることで触媒ペーストを調製し、この触媒ペーストを固体高分子電解質膜の表面に塗布し、ホットプレスなどを施すことによって層状に形成することで作製することができる。
【0031】
本発明の固体高分子形燃料電池の電極における本発明の電極触媒の含有量(含有率)は特に制限されるものではないが、30〜80重量%であるのが好ましく、40〜70重量%であるのがより好ましい。電極触媒の含有量が30重量%未満である場合には、触媒量が少ないため燃料電池の出力が低くなる傾向にあり、また電極触媒の含有量が80重量%を超えると、イオン伝導を十分に付与することが困難となり、燃料電池の出力が低くなる傾向にあるためである。なお、固体高分子形燃料電池の電極における本発明の電極触媒の含有量は、たとえば、一定の昇温速度で加熱し、電極触媒を熱分解させ、そのときの重量変化を測定することによって求めることができる。
【0032】
また本発明の固体高分子形燃料電池の電極における電解質ポリマーには、上述したように疎水性である主鎖部分とプロトン交換基を含む側鎖部分とで構成されたものが用いられるが、このような電解質ポリマーとしては、たとえばナフィオン(デュポン社製)、アシプレックス(旭化成社製)などを挙げることができる。
【0033】
本発明の固体高分子形燃料電池の電極における電解質ポリマーの含有量(含有率)は特に制限されるものではないが、20〜70重量%であるのが好ましく、40〜60重量%であるのがより好ましい。電解質ポリマーの含有量が20重量%未満である場合には、イオン伝導度を十分に付与することが困難であるため、燃料電池の出力が低くなる傾向にあり、また電解質ポリマーの含有量が70重量%を超えると、触媒そのものが少なくなるため、燃料電池の出力が低くなる傾向にあるためである。
【0034】
本発明の固体高分子形燃料電池は、固体高分子電解質膜を電極で挟んでなる一般的な構造にて実現される。本発明において用いられる電解質膜としては特に制限されるものではなく、当分野において従来より広く用いられている電解質膜を適宜用いることができる。また、本発明の固体高分子形燃料電池は、両電極の外側には、通常、たとえばカーボンペーパーなどを用いてガス拡散層が形成される。
【0035】
また、本発明は上述した本発明の固体高分子形燃料電池を用いた電子機器または発電システムも提供するものである。本発明の電子機器としては、たとえば携帯電話、通信機能を有するモバイル機器などを例示することができるが、これらに制限されるものではない。また本発明の発電システムとしては、たとえば携帯電話用の充電器などを例示することができるが、これらに制限されるものではない。
【0036】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
カーボンブラックにフッ素の表面修飾を行うために、カーボンブラックVulcanXC−72(Cabot社製)1.0gを反応容器に入れ真空にし、300℃で1時間熱処理後に、フッ素ガスを流し300℃で30分間フッ素化を行い、フッ化カーボンブラック(F−CB)を作製した。
【0038】
このフッ化カーボンブラックに触媒金属である白金を担持するために、白金コロイド溶液を調製した。白金コロイド溶液は、塩化白金酸(H2PtCl6・6H2O)1.0gとエチレングリコール50mLを添加・攪拌し、その後0.5mol/L水酸化ナトリウムエチレングリコール溶液50mLを加えた。これを160℃まで昇温して白金コロイド溶液を調製した。
【0039】
この白金コロイド溶液10mLと、上記フッ化カーボンブラック150mgを混合して、2.0mol/L硝酸水溶液を滴下してフッ化カーボンブラックに白金を担持させて、白金担持フッ化カーボンブラック(Pt/F−CB)を得た。熱天秤(Thermo plus TG8120、リガク社製)にてこの白金担持フッ化カーボンブラックの白金担持量を測定したところ20重量%/Pt/F−CBであった。
【0040】
20重量%Pt/F−CB12.5mgと、5重量%Nafion溶液(Ew=1000、Aldrich社製)0.5mLとを混合し、30分間超音波攪拌して触媒ペースト(20重量%Pt/F−CB+Nafion)を作製した。
【0041】
<実施例2>
カーボンブラックに酸素の表面修飾を行うために、カーボンブラックVulcanXC−72(Cabot社)1.0gを空気中300℃で3時間酸化した酸化カーボンブラック(O−CB)を作製した。白金を担持するために、実施例1と同様に、白金コロイド溶液を用いて酸化カーボンブラックに担持させて、Pt/O−CBを得た。実施例1と同様に熱天秤にてこの白金担持酸素化カーボンブラックの白金担持量を測定したところ20重量%Pt/O−CBであった。得られた20重量%Pt/O−CBを、実施例1と同様にNafion溶液に混合、攪拌して、触媒ペースト(20重量%Pt/O−CB+Nafion)を作製した。
【0042】
<比較例1>
従来の固体高分子形燃料電池電極触媒の担持体であるカーボンブラックVulcanXC−72(Cabot社)に、実施例1と同様にして白金コロイド溶液を用いてPt/CBを作製した。実施例1と同様に熱天秤にてこの白金担持酸素化カーボンブラックの白金担持量を測定したところ20重量%Pt/CBであった。得られた20重量%Pt/CBを、実施例1と同様にNafion溶液に混合、攪拌して、触媒ペースト(20重量%Pt/CB+Nafion)を作製した。
【0043】
<比較例2>
また、特開2004−22346号公報を参考にして、カーボンブラックVolcanXC−72(Cabot社)にポリスチレンをグラフト重合し、このグラフト鎖へスルホン基を導入したポリマーグラフトカーボンブラックを作製した。これに実施例1と同様にして白金コロイド溶液を用いてPt/G−CBを作製した。実施例1と同様に熱天秤にてこの白金担持酸素化カーボンブラックの白金担持量を測定したところ、20重量%Pt/G−CBであった。得られた20重量%Pt/G−CBを、実施例1と同様にNafion溶液に混合、攪拌して、触媒ペースト(20重量%Pt/G−CB+Nafion)を作製した。
【0044】
<評価試験>
実施例1、2、比較例1、2で得られた各触媒ペーストについて、3極式回転ディスク電極装置(RDE:Rotating Disk Electrode)装置を用いて電気化学評価を行った。まず、各触媒ペーストをマイクロシリンジにて1.0μL秤量してRDEの作用極となるグラッシーカーボン電極(直径:3mm)に塗布して、1晩乾燥させた。これを、0.1mol/Lの過塩素酸水溶液を十分に窒素パージしたものを電解液とし、対極に白金電極、参照極に可逆水素電極(RHE:Reversible Hydrogen Electrode)、作用極に上記作製した触媒ペーストを塗布した電極を用いて、電位走査速度50mV/s、走査電位幅50mV〜1300mVでサイクリックボルタンメトリー(CV:Cyclic Voltanmetry)を測定した。
【0045】
図2は、このようにして得られた各触媒ペーストのサイクリックボルタンメトリーを示しており、縦軸はI/mA、横軸はE/mV vs.RHE(電位)である。図2のサイクリックボルタンメトリーにおける水素脱着(70mV〜400mVでの酸化電流を示す)の電荷量から三相界面の面積を算出したところ、実施例1が5.5cm2、実施例2が5.0cm2、比較例1が3.4cm2、比較例2が4.6cm2であった。結果をまとめて表1に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
次に、電解液に酸素を十分にパージさせて、作用極の回転数を変化させてリニアスィープボルタンメトリー(LSV:Linear Sweep Voltanmetry)測定を行い、酸素還元反応の活性化支配電流の評価を行った。図3は、このようにして得られた各触媒ペーストについてのターフェルプロットを示しており、縦軸はE/V vs.RHE(電位)、横軸はlog(−Ik/A)(活性化支配電流値の対数)である。
【0048】
以上の評価試験の結果から明らかなように、本発明の電極触媒であるフッ化カーボンブラック(実施例1)および酸化カーボンブラック(実施例2)は、従来のカーボンブラック(比較例1)、ポリマーグラフトカーボンブラック(比較例2)と比較して、電極触媒ペースト中の電気陰性度が比較的高い元素と電解質ポリマーのプロトン交換基が効果的に触媒して三相界面の面積が大きくなっていることが示された。このことは、本発明の電極触媒であるカーボンブラック担持体を用いることで、発電効率が向上することを意味している。
【0049】
また図3のターフェルプロットから、本発明の電極触媒は、高電位側では、従来のPt/CB電極触媒(比較例1)よりも酸素還元電流が大きくなっており、三相界面の面積(反応有効面積)が大きくなっていることが確認できた。また低電位側においては、ポリマーグラフトカーボン担持体(比較例2)と比較して酸素還元電流が大きく、また表面修飾されていない従来のカーボンブラック担持体(比較例1)とほぼ同等の電流量を示していることから、電気陰性度が比較的高い元素がカーボンの表面官能基となっていると考えられ、酸素供給の阻害はほとんどなく、拡散にも良好な固体高分子形燃料電池の電極構造を実現できる。
【0050】
今回開示された実施の形態、実施例および比較例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の固体高分子形燃料電池における電極構造を概念的に示す図である。
【図2】実施例1、2、比較例1、2で得られた各触媒ペーストのサイクリックボルタンメトリーを示しており、縦軸はI/mA、横軸はE/mV vs.RHEである。
【図3】実施例1、2、比較例1、2で得られた各触媒ペーストのターフェルプロットを示しており、縦軸はE/V vs.RHE、横軸はlog(−Ik/A)である。
【符号の説明】
【0052】
1 電解質ポリマー、2 元素、3 電極触媒金属、4 カーボン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒金属の担持体カーボン表面上に電気陰性度が2.0〜4.0の範囲内にある元素を含むことを特徴とする固体高分子形燃料電池用の電極触媒。
【請求項2】
前記元素が、フッ素、塩素、酸素および窒素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の電極触媒。
【請求項3】
前記元素が、担持体カーボンの表面官能基となっていることを特徴とする請求項1または2に記載の電極触媒。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の電極触媒を用いた電極を備える固体高分子形燃料電池であって、
電極において、前記電極触媒におけるカーボン表面上での電気陰性度が2.0〜4.0の範囲内にある元素と、電解質ポリマーのプロトン交換基の水素とが水素結合してなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
請求項4に記載の固体高分子形燃料電池を用いた電子機器。
【請求項6】
請求項4に記載の固体高分子形燃料電池を用いた発電システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−78025(P2008−78025A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257239(P2006−257239)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】