説明

固体高分子電解質膜及びその製造方法

【課題】燃料電池等に使用するのに実用上必要な膜強度を持ち、含水状態において高い導電性を有するとともに、低湿度状態においても高い導電性を有し、かつ環境上安全な溶媒を用いて安価に製造できる固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供する。
【解決手段】(A)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合を有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(B)分子内に1個以上のケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と1個以上のケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合を有するアルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、(C)分子内に1個以上の酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合を有する酸基含有不飽和モノマーとを含むモノマーを共重合してなるイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体と、オルガノポリシロキサンとを含むシリコーン組成物を製膜、硬化してなる固体高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池、二次電池、燃料電池等の電解質膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜等に好適な固体高分子電解質膜に関し、特に広い湿度範囲にわたり高いプロトン伝導性を示す固体高分子電解質膜に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン伝導性高分子として、いわゆる陽イオン交換樹脂に属するポリマーは、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、パーフルオロスルホン酸ポリマー等が報告されている。こうしたスルホン酸基を有する高分子材料は、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過したりする性質を有しているので、燃料電池電解質膜、電気透析膜、拡散透析膜、電池隔膜等、各種の用途に利用されている。
【0003】
Nafion(DuPont社製)の商標で知られるパーフルオロ骨格の側鎖にスルホン酸基を有するフッ素系高分子は、耐熱性及び耐薬品性に優れ、苛酷な条件下での使用に耐えるため、燃料電池用電解質膜として実用化されている。しかし、こうしたフッ素系電解質膜は、フッ素系高分子の製造が困難であるため、非常に高価であるという問題を抱えている。
【0004】
また、Nafionは、イオン交換容量が1.0meq/g程度と低いため、プロトン伝達の役割を担う物質として水の存在が必須であり、含水状態においては室温でも10-4〜10-2S/cmという高い導電性を示すものの、水のない状態においては低い導電性しか示さず、また、そのプロトン伝導性能が膜中の水の含有量により大きく左右されるという問題点も持っている。
【0005】
常時水を存在させるためには、例えば水素等の燃料を加湿状態にして送り込む必要があるため、こうした加湿による膜中の厳密かつ複雑な水分量管理が必要なこと自体が、燃料電池の構造を複雑化させ、故障等の原因となっている。このため、含水状態において高い導電性を有するとともに、低湿度状態においても高い導電性を有する、低コストで製造できる高分子を用いた電解質膜が望まれている。
【0006】
特開2003−86021号公報(特許文献1)は、リン酸基含有不飽和モノマーと、スルホン酸基含有不飽和モノマーとの共重合体からなるイオン伝導性高分子膜を提案している。この高分子からなる電解質膜は、導電性が高く耐熱性及び耐薬品性にも優れているものの、膜強度の点で問題が多く、補強性繊維を使用しても十分な強度の電解質膜は得られていない。つまり、電解質膜の膜強度について一層の向上が求められている。
【0007】
特開2006−351448号公報(特許文献2)は、リン酸基含有不飽和モノマーと、不飽和結合を有するケイ素化合物との共重合体からなる電解質膜を提案している。また、特開2005−132996号公報(特許文献3)は、スルホン酸基含有不飽和モノマー重合の水分散体と、不飽和結合を有するアルコキシシラン化合物重合の水分散体を混合したものから得られる乾燥膜が、固体高分子電解質膜として使用できることを提案している。これらの電解質膜は、シリコーン樹脂とアクリルポリマーの間で実質的にシロキサン架橋をしていないものであり、比較的安価に製造することができるものの、膜として十分な強度が得られておらず、また、導電性が低く、Nafionにはるかに及ばない。
【0008】
特開2006−100241号公報(特許文献4)は、分子内にスルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基を有するモノマーと分子内にアミド基等の塩基性を有するモノマーとの共重合体とポリイミドからなる固体高分子電解質膜を提案している。この固体高分子電解質膜は、ポリイミド樹脂を使用するものであるため高価格であり、かつ、導電性についても不十分な特性である。
【0009】
【特許文献1】特開2003−86021号公報
【特許文献2】特開2006−351448号公報
【特許文献3】特開2005−132996号公報
【特許文献4】特開2006−100241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、燃料電池等に使用するのに実用上必要な膜強度を持ち、含水状態において高い導電性を有するとともに、低湿度状態においても高い導電性を有し、かつ環境上安全な溶媒を用いて安価に製造できる固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、(A)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(B)分子内に1個以上のケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と1個以上のケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合とを有するアルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、(C)分子内に1個以上の酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有する酸基含有不飽和モノマーとを含む不飽和モノマーを共重合してなるイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体と、オルガノポリシロキサンとを含むシリコーン組成物を製膜、硬化して得られる膜が、固体高分子電解質膜として有効であることを知見した。更に、得られた固体高分子電解質膜は、プロトン伝導性が高く、低湿度状態においても高い導電性を有するゴム弾性膜であり、環境上安全な溶媒を用いて製造できることを知見した。
【0012】
即ち、このイオン伝導性高分子物質のアルコキシシリル基を(部分)加水分解・縮合することにより生成した誘導体は、水不溶性で膜からの水溶出性を防ぐことができ、またアルケニルシリル基を有しているため、該イオン伝導性高分子物質の誘導体とオルガノポリシロキサンとの均一組成物を架橋剤で共架橋することで、ゴム弾性を持つ電解質膜にできる。このため、この固体高分子電解質膜は、実用上十分な膜強度を持ち、引張歪に対する弾性変形領域が際立って大きいため、燃料電池用電解質膜として利用した場合に、変形応力を受けても元の形状に復元することができ、長期間のストレスに対する耐久性に優れることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
なお、(部分)加水分解・縮合とは、アルコキシシリル基の一部又は全部が加水分解・縮合されたことを示す。
【0013】
従って、本発明は、下記に示す固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供する。
〔1〕 (A)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(B)分子内に1個以上のケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と1個以上のケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合とを有するアルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、(C)分子内に1個以上の酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有する酸基含有不飽和モノマーとを含む不飽和モノマーを共重合してなるイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体と、オルガノポリシロキサンとを含むシリコーン組成物を製膜、硬化してなることを特徴とする固体高分子電解質膜。
〔2〕 イオン伝導性高分子物質の誘導体が、イオン伝導性高分子物質のアルコキシシリル基の一部又は全部を加水分解・縮合することにより得られた水不溶性のものであることを特徴とする〔1〕の固体高分子電解質膜。
〔3〕 イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体の酸基が、アミン塩、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を形成していることを特徴とする〔1〕又は〔2〕の固体高分子電解質膜。
〔4〕 (A)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーが、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする〔1〕〜〔3〕いずれかの固体高分子電解質膜。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2,R3及びR4は水素原子又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、mは1〜3の整数、nは1〜3の整数である。)
〔5〕 (B)アルケニルシリル基含有不飽和モノマーが、下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする〔1〕〜〔4〕いずれかの固体高分子電解質膜。
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R5,R6,R7は水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基又はアルケニル基であり、そのうち少なくとも1つはアルケニル基である。)
〔6〕 (C)酸基含有不飽和モノマーが、スルホン酸基含有不飽和モノマー及び/又はホスホン酸基含有不飽和モノマーであることを特徴とする〔1〕〜〔5〕いずれかの固体高分子電解質膜。
〔7〕 スルホン酸基含有不飽和モノマーとホスホン酸基含有不飽和モノマーが、モル比で(ホスホン酸基含有不飽和モノマー)/(スルホン酸基含有不飽和モノマー)=0/100〜90/10の割合で使用されてなることを特徴とする〔6〕の固体高分子電解質膜。
〔8〕 ホスホン酸基含有不飽和モノマーが、下記一般式(3)で表されるものであることを特徴とする〔6〕又は〔7〕の固体高分子電解質膜。
【化3】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、Xは水素原子又はPO32で、少なくとも1つはPO32である。)
〔9〕 シリコーン組成物が、
(a)下記平均組成式
aSiO(4-a)/2
(式中、Rは炭素数1〜10の同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基である。ただし1分子中にアルケニル基を2個以上含む。aは1.95〜2.05の正数を表す。)
で示されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)〔1〕〜〔8〕いずれかのイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体:20〜400質量部、
(c)架橋剤:0.1〜10質量部
を含有してなるものであることを特徴とする〔1〕〜〔8〕いずれかの固体高分子電解質膜。
〔10〕 シリコーン組成物が、更に(d)補強性シリカ粉末を(a)成分100質量部に対して3〜70質量部配合してなることを特徴とする〔9〕の固体高分子電解質膜。
〔11〕 〔9〕又は〔10〕のシリコーン組成物を、120℃〜180℃の温度の熱プレスにより架橋・製膜した後、酸基がアミン塩、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を形成している場合は酸処理することで酸型にもどすことにより、プロトン伝導性とゴム弾性を有する膜にすることを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。
【0014】
従来、酸基含有不飽和モノマーを主成分として重合して得られる酸基を含む重合体は、水溶性になるため、水に浸漬した場合、溶出を起こし経時で導電性が劣化する技術的問題があった。
本発明のイオン伝導を担う高分子物質は、シリコーンゴムとの共架橋のためにアルケニルシリル基を有するモノマーを、また、水への溶け出し防止のためにアルコキシシリル基を含有するモノマーを、酸基含有不飽和モノマーと共重合した、脂肪族低級アルコールに可溶な酸基含有共重合体である。この共重合体は、重合時は脂肪族低級アルコール等の適当な溶剤に溶解させることができ、シリコーンゴムと共架橋・製膜した後は水に不溶化し、電解質膜として使用でき、経時で導電性が劣化する不都合がない。また溶媒として脂肪族低級アルコールを用いることができるので、環境上安全に製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体を含有したシリコーン組成物を架橋したゴム弾性を有するプロトン伝導性の固体高分子電解質膜は、安価な溶剤を用いるため製造が容易で低コストであり、高弾性のためシール性に優れ、実用上十分な強度を持つ。また、相対湿度30〜100%という広い湿度範囲において導電率が10-3〜10-1S/cmレベルの優れたプロトン伝導性を有し、湿度変化によるプロトン伝導性能の変動が小さい膜を得ることができる。
そのため、燃料電池用電解質膜、一次電池用電解質膜、二次電池用電解質膜、表示素子、各種センサー、信号伝達媒体、固体コンデンサー、イオン交換膜などに好適に利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の固体高分子電解質膜は、アルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、アルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、酸基含有不飽和モノマーとを含む不飽和モノマーを共重合してなるイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体と、オルガノポリシロキサンを含有してなるシリコーン組成物を製膜、硬化してなるものである。
【0017】
まず、イオン伝導性高分子物質とその誘導体及びその製造方法について説明する。次に、このイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体とオルガノポリシロキサンを含有するシリコーン組成物、並びにこの組成物を架橋して製膜した固体高分子電解質膜及びその製造方法について説明する。
【0018】
[1]イオン伝導性高分子物質とその誘導体
(1)イオン伝導性高分子物質の原料
本発明のイオン伝導性高分子物質は、(A)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(B)分子内に1個以上のケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と1個以上のケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合とを有するアルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、(C)分子内に1個以上の酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有する酸基含有不飽和モノマーとを含む不飽和モノマーを共重合した高分子物質である。
(A)成分の導入は、アルコキシシリル基を(部分)加水分解・縮合させた誘導体にすることにより水に対する不溶化・耐水性向上を、(B)成分の導入は、オルガノポリシロキサンとの共架橋によるゴム弾性、強度、耐熱性の向上を目的とする。また、(C)成分の導入は、イオン伝導性の発現を行うためのものである。
【0019】
(A)アルコキシシリル基含有不飽和モノマー
(A)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーは、以後アルコキシシリル基含有不飽和モノマーと略記する。
【0020】
アルコキシシリル基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基を1,2又は3個有するものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基を有するトリアルコキシシリル基、ジアルコキシアルキルシリル基、モノアルコキシジアルキルシリル基が挙げられる。なお、アルキル基としては、炭素数1〜6のものが挙げられる。
エチレン性不飽和結合としては、メタクリロキシ基やアクリロキシ基などがある。アルコキシシリル基含有不飽和モノマーとしては、こうした基を持つエステルやアミドが挙げられ、(メタ)アクリロキシ基あるいは(メタ)アクリルアミド基などを含有するシラン化合物が望ましい。
【0021】
メタクリロキシ基あるいはアクリロキシ基を含有するシラン化合物としては、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0022】
メタクリルアミド基あるいはアクリルアミド基を含有するシラン化合物としては、γ−メタクリルアミドプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルアミドプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリルアミドプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリルアミドプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アクリルアミドプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリルアミドプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリルアミドプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0023】
アルコキシシリル基含有不飽和モノマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、酸基含有不飽和モノマーと共重合するため、加水分解に対し抵抗のある(メタ)アクリルアミド基などを含有するシラン化合物が最も望ましい。
【0024】
とりわけ、(A)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーの望ましい構造は、下記一般式(1)により表されるものである。
【化4】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2,R3及びR4は水素原子又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、mは1〜6の整数、nは1〜3の整数である。)
【0025】
上記式中、R2〜R4の置換もしくは非置換のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のものが挙げられる。
【0026】
(B)アルケニルシリル基含有不飽和モノマー
(B)分子内に1個以上のケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と1個以上のケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合とを有するアルケニルシリル基含有不飽和モノマーは、以後アルケニルシリル基含有不飽和モノマーと略記する。
【0027】
ケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と、ケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合は、ラジカル反応性が異なるため、イオン伝導性高分子物質を製造するときには、ケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合が使用され、イオン伝導性高分子物質中にオルガノポリシロキサンに共架橋のためのアルケニルシリル基を導入することができる。従って、このイオン伝導性高分子物質とオルガノポリシロキサンとを含有したシリコーン組成物、並びにそれを架橋して製膜した高分子電解質膜を製造するときに、イオン伝導性高分子物質がポリマーの側鎖基としてアルケニルシリル基成分を含むことにより、イオン伝導性高分子物質がアルケニルシリル基からなる架橋部を持ち、オルガノポリシロキサンと結合され、電解質膜に強度と耐久性を与えるものである。
【0028】
この反応性の異なる不飽和基を持つアルケニルシリル基含有不飽和モノマーとして、(i)少なくとも1個のアルケニルシリル基を含有する(メタ)アクリル酸エステル類、(ii)少なくとも1個のアルケニルシリル基を含有する(メタ)アクリルアミド類、(iii)少なくとも1個のアルケニルシリル基を含有するオレフィン系不飽和モノマー及び(iv)少なくとも1個のアルケニルシリル基を含有するジエン系不飽和モノマーからなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。ここで、アルケニル基としてはビニル基が好ましい。
【0029】
中でもビニルシリル基を含有するスチレンが容易に利用できる。この具体例としては、各々m−、p−、o−位のジメチルビニルシリルスチレン、トリビニルシリルスチレン、ビストリメチルシロキシジメチルビニルシロキシシリルスチレン、トリスジメチルビニルシロキシシリルスチレン、ビス(ジメチルビニルシロキシ)ジメチルシリルスチレン、ビスジメチルビニルシロキシトリメチルシロキシシリルスチレン等のシロキシシリルスチレン類等が挙げられる。
【0030】
とりわけ、(B)アルケニルシリル基含有不飽和モノマーの望ましい構造は、下記一般式(2)により表されるシロキシ基を含んでなる置換基を有するスチレンモノマーである。
【0031】
【化5】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R5〜R7は水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基又はアルケニル基であり、そのうち少なくとも1つはアルケニル基、特に好ましくはビニル基である。)
【0032】
上記一般式(2)において、R5〜R7の炭素数は1〜10であるのが好ましく、1〜5であるのがより好ましい。R5〜R7としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等のアルキル基、これらアルキル基の水素原子の1個以上がフッ素原子等のハロゲン原子にて置換されたハロアルキル基、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基が挙げられ、R5〜R7の望ましいものとして、メチル基、エチル基、プロピル基、ビニル基が挙げられ、直鎖構造であっても分岐構造であってもよい。
【0033】
アルケニルシリル基含有不飽和モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(C)酸基含有不飽和モノマー
(C)分子内に1個以上の酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有する酸基含有不飽和モノマーは、以後酸基含有不飽和モノマーと略記する。
イオン伝導性高分子物質は、この酸基含有不飽和モノマーを共重合して生まれるものであり、酸基としては、(C−1)ホスホン酸(リン酸)基と、(C−2)スルホン酸基と、(C−3)その他の酸基に大別できる。
【0035】
(C−1)ホスホン酸基含有不飽和モノマーは、イオン交換容量を多くできるため、低湿度での導電性向上に寄与し、(C−2)スルホン酸基含有不飽和モノマーは、高いイオン解離性であるため、イオン伝導率の絶対値を上げることができる。また、これらに(C−3)その他の酸基含有不飽和モノマーを含んでもよい。
【0036】
なお、酸基は、オルガノポリシロキサンと混合し、プレスにより製膜加工する時に、フリーのプロトンがシロキサン結合を切断するのを防ぐため塩を形成していることが望ましく、膜に成形した後は、イオン伝導性を発現するために解離していることが望ましい。塩を形成する場合、アンモニウムイオンもしくはアミン残基又はアルカリ金属と塩を形成するのが好ましい。
【0037】
(C−1)ホスホン酸基含有不飽和モノマー
ホスホン酸基を含有する不飽和モノマーとしては、メタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するホスホン酸エステル、あるいはメタクリロキシ基又はアクリロキシ基を含有するホスホン酸アミド及びその誘導体が挙げられる。ホスホン酸基含有不飽和モノマーは、リン酸が三価の酸であることを反映してイオン交換容量の大きいものが多く、例えばユニケミカル社製のホスマーシリーズを挙げることができる。
【0038】
ホスホン酸エステルとしては、アシッドホスホキシエチルメタクリレート(商品名:ホスマーM)、3−クロロ−2−アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーCL)、アシッドホスホキシプロピルメタクリレート(商品名:ホスマーP)、アシッドホスホキシエチルアクリレート(商品名:ホスマーA)、アシッドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPE)、アシッドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ホスマーPP)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートモノエタノールアミンハーフソルト(商品名:ホスマーMH)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートジメチルアミノエチルメタクリレートハーフソルト(商品名:ホスマーDM)、メタクロイルオキシエチルアシッドホスヘートジエチルアミノエチルメタクリレートハーフソルト(商品名:ホスマーDE)などが挙げられる。この具体例としては、CH2=CHCOOCH2CH2OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)COOCH2CH2OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)COOCH2CH(CH2Cl)OP(O)(OH)2、(CH2=CHCOOCH2CH2O)2P(O)OH、(CH2=C(CH3)COOCH2CH2O)2P(O)OH、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH24OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH25OP(O)(OH)2、CH2=C(CH3)CO(OCH2CH(CH3))5OP(O)(OH)2及びCH2=C(CH3)CO(OCH2CH(CH3))6OP(O)(OH)2等が挙げられる。
【0039】
ホスホン酸アミドとしては、(メタ)アクリルアミド系モノマーと、リン酸源化合物とを反応させて得られた反応生成物である。具体例として、メタクリルアミドホスホン酸、アクリルアミドホスホン酸、メタクリルアミドジホスホン酸、アクリルアミドジホスホン酸等が挙げられる。
【0040】
これらは所望により1種単独で、又は2種類以上用いることができる。
とりわけ、(C−1)ホスホン酸基含有不飽和モノマーの望ましい構造は、下記一般式(3)により表されるものである。
【0041】
【化6】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、Xは水素原子又はPO32で少なくとも1つはPO32である。)
【0042】
上記モノマーは、ユニケミカル(株)から商品名:ホスマーN2P(登録商標)として販売されている。ただし、本発明に使用できるホスホン酸基含有不飽和モノマーはこれに限定されるものではない。
【0043】
(C−2)スルホン酸基含有不飽和モノマー
スルホン酸基を含有する不飽和モノマーとしては、不飽和基として、ビニル基、スチリル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、メタクリルアミド基又はアクリルアミド基を含有するスルホン酸基含有モノマー又はその誘導体が挙げられる。
【0044】
スルホン酸基を含有する不飽和モノマーの例示化合物としては、ビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸ブチル−4−スルホン酸、(メタ)アクリロオキシベンゼンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(別名:ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸)等が挙げられる。好ましくはビニルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸であり、特に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましいが、本発明に使用できるスルホン酸基含有不飽和モノマーはこれらに限定されるものではない。
【0045】
(C−3)その他の酸基含有不飽和モノマー
上記ホスホン酸基、スルホン酸基以外の他の酸基を含有する不飽和モノマーとしては、カルボキシル基を含む不飽和モノマーがあり、この例示化合物としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸無水物等が挙げられる。
【0046】
(D)共重合し得る他の不飽和モノマー
本発明のイオン伝導性高分子物質は、その他の不飽和モノマーを共重合成分として含んでもよい。その他の不飽和モノマーとしては、酸基を含有しない不飽和モノマーが挙げられ、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、(メタ)アクリロニトリル、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリル酸アミド類;置換又は非置換のスチレン類;塩化ビニル、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン等のビニル類等が挙げられる。
【0047】
配合割合
アルコキシシリル基含有不飽和モノマー(A)と、アルケニルシリル基含有不飽和モノマー(B)との使用割合は、モル比で(アルコキシシリル基含有不飽和モノマー)/(アルケニルシリル基含有不飽和モノマー)=90/10〜10/90で、好ましくは75/25〜25/75、最も好ましくはほぼ等モルに設定することができる。アルコキシシリル基含有不飽和モノマーがこれよりも多い場合、重合中にゲル化を起こしやすくなり、オルガノポリシロキサンとの配合時に分散性が悪くなるため膜強度が低下するおそれがあり、これよりも少ない場合、水溶性になり、ゴム膜の耐水性が悪くなるおそれがある。
【0048】
酸基含有不飽和モノマー(C)と、シリル基含有不飽和モノマー(アルコキシシリル基含有不飽和モノマー(A)及びアルケニルシリル基含有不飽和モノマー(B))との使用割合は、モル比で(酸基含有不飽和モノマー)/(シリル基含有不飽和モノマー)=100/0.1〜100/50であるのが好ましく、より望ましくは100/1〜100/10である。シリル基含有不飽和モノマーがこれよりも多い場合、重合中にゲル化を起こしやすくなったり、導電性が不十分になるおそれがある。シリル基含有不飽和モノマーがこれよりも少ない場合、耐水性が悪くなったり、ゴム膜強度が低下するおそれがある。
【0049】
また、酸基含有不飽和モノマー(C)において、(C−1)ホスホン酸基含有不飽和モノマーと(C−2)スルホン酸基含有不飽和モノマーの配合割合については特に制限はなく、任意に設定することができる。このホスホン酸基含有不飽和モノマーはイオン交換容量の向上による低湿度下の導電性向上を優位に進めうる。スルホン酸基含有不飽和モノマーは、強酸ゆえに導電性の向上効果を優位に進めうる。
共重合体における(C−1)ホスホン酸基含有不飽和モノマーと、(C−2)スルホン酸基含有不飽和モノマーとの使用割合は、モル比で(ホスホン酸基含有不飽和モノマー)/(スルホン酸基含有不飽和モノマー)=0/100〜90/10とすることが好ましく、より好ましくは1/99〜90/10、更に好ましくは20/80〜80/20、最も好ましくはほぼ等モルに設定することができる。
【0050】
なお、(C−3)その他の酸基含有不飽和モノマーを用いる場合、(C−1)ホスホン酸基含有不飽和モノマー及び/又は(C−2)スルホン酸基含有不飽和モノマーと、(C−3)他の酸基含有不飽和モノマーとの使用割合は、[(C−1)及び(C−2)]:(C−3)=100:0〜80:20(質量比)の範囲とすることが好ましい。
【0051】
更に、上記他の不飽和モノマー(D)を用いる場合、その配合量は、不飽和モノマーの全体量の10質量%以下とすることが望ましい。あまり多くなると導電性が低下する場合がある。
【0052】
(2)イオン伝導性高分子物質の製造方法
本発明のイオン伝導性高分子物質は、上述した各種の不飽和モノマーの混合物をラジカル重合により共重合させることによって製造できる。
【0053】
1)重合触媒と重合の組成
アルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、アルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、酸基含有不飽和モノマーを含有する不飽和モノマーの共重合体は、アルコキシシリル基含有不飽和モノマー及びアルケニルシリル基含有不飽和モノマーが親油性であり、酸基含有不飽和モノマーが親水性であるため、この違いにより共重合化が難しく、とりわけアルコキシシリル基含有不飽和モノマーは、重合する際にゲル化を起こし易く、溶媒不溶となってしまい、工業的に製造することが困難であった。本発明においては、親水性重合触媒と親油性重合触媒を併用する重合方法をとることにより、ゲルの生成を伴わずに共重合することが可能となる。
【0054】
親油性重合触媒(親油性重合開始剤)としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート等のアゾ系開始剤、あるいはラウリルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシ・ピバレート等の過酸化エーテル又は過酸化エステル化合物からなる開始剤等が挙げられる。
【0055】
親水性重合触媒(親水性重合開始剤)としては、アンモニウムパーオキシジサルフェイト等のパーオキシジサルフェート塩のような過酸化塩類、過酢酸のような過酸類、tert−ブチルヒドロパーオキシドなどの過アルコール類の重合開始剤等が挙げられる。
【0056】
上記開始剤が固体で添加しにくい場合は、不飽和モノマー及び重合開始剤の双方が溶解する共通溶媒中で溶解・希釈させた溶液を用いるのがよいが、安価で毒性が少なく環境負荷の少ないメタノール、エタノール、プロパノールのようなアルコール類やDMF(ジメチルホルムアミド)のようなアミド類を用いるのが望ましい。
【0057】
親水性重合触媒と親油性重合触媒の配合割合について特に制限はなく、任意に設定することができ、親水性重合触媒/親油性重合触媒=90/10〜10/90(質量比)とすることができるが、通常、等質量を用いて、ラジカル重合を行う。
【0058】
重合開始剤(親水性重合触媒及び親油性重合触媒)のトータル使用量は、モノマー成分100質量部に対して0.5〜5質量部であるのが好ましく、1〜3質量部であるのがより好ましい。重合開始剤の使用量が上記の好ましい範囲にないと、共重合体がゲル化して様々な溶媒に不溶となることがあり、ポリシロキサンとの均一な組成物を形成できなくなる等の問題を起こすことがある。
【0059】
2)共重合体の重合方法
重合手順について述べる。まず撹拌器、還流冷却器付き反応器に、上記各種不飽和モノマー及び溶媒からなる溶液を投入し、40℃〜90℃、好ましくは50℃〜80℃に昇温する。所定温度到達直後に重合開始剤(親水性重合触媒及び親油性重合触媒)を添加する。このとき若干の発熱があり、重合開始を確認することができる。所定温度に到達してから1〜10時間程度重合反応を継続する。反応温度は最初から最後まで一定である必要はなく、重合末期に温度を上げて未反応モノマーを極力少なくする方法をとってもよい。
【0060】
溶媒としては脂肪族低級アルコールやアミド類を使用する。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類や、ジメチルホルムアミドやジメチルアセトアミド等のアミド類が挙げられる。好ましくはエタノールである。これらは2種以上併用してもよい。また併用できる場合はエステル等の溶媒を共存させてもよい。溶媒として脂肪族低級アルコールを用いるので、環境上安全に製造することができる。
【0061】
重合溶液は不飽和モノマー成分の初期濃度が5〜50質量%であるのが好ましく、10〜35質量%であるのがより好ましい。重合溶液中の不飽和モノマー成分の初期濃度が上記の好ましい範囲にないと、共重合体がゲル化して様々な溶媒に不溶となることがあり、ポリシロキサンとの均一な組成物を形成できなくなる等の問題を起こすことがある。
得られた共重合体の分子量は、1質量%ジメチルホルムアミド(DMF)溶液のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量が10,000〜1,000,000、特に10,000〜100,000であることが好ましい。
【0062】
なお、得られた重合溶液は、未反応のモノマー等を除去するために精製を行うことが好ましい。精製は重合溶液の固形分濃度が10〜80質量%になるまで濃縮し、次いでその濃縮溶液を貧溶媒中に投入することにより固体を析出させ、貧溶媒をデカンテーション法により除去することにより行う。貧溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン類が好ましい。貧溶媒は、反応生成物の有姿の2倍容積〜15倍容積と大過剰量使用することが好ましい。貧溶媒による粘性固体の洗浄操作は必要に応じて繰り返せばよい。
【0063】
3)イオン伝導性高分子誘導体の製造方法
本発明は、更に上記イオン伝導性高分子物質を(部分)加水分解・縮合して得られるイオン伝導性高分子誘導体を提供する。ここで、イオン伝導性高分子誘導体とは、イオン伝導性高分子物質のアルコキシシリル基の一部又は全部を加水分解・縮合することにより得られるもので、該イオン伝導性高分子物質の(部分)加水分解・縮合物からなる水不溶性のものである。
【0064】
即ち、本発明のイオン伝導性高分子物質は、アルコキシシリル基の一部又は全部を加水分解・縮合することにより、水不溶性とすることができる。アルコキシシリル基の加水分解・縮合は一部でも全部でもよいが、一部の場合は、その加水分解・縮合されたイオン伝導性高分子物質が水不溶性となる程度であることが必要である。
【0065】
ここで、イオン伝導性高分子物質の(部分)加水分解・縮合は、公知の方法に従い、トリアルコキシシリル基を(部分)加水分解・縮合する常法によって行うことができ、水の存在下に酸性又は塩基性条件にて行うことができる。この場合、上記イオン伝導性高分子物質は、スルホン酸基を有するので、それ自体酸性であり、このため水の存在下で容易に加水分解・縮合するが、その加水分解・縮合の速度を速め、あるいは加水分解・縮合の程度を促進するため、硫酸等の酸を加えてもよく、また、アンモニア、アミン、更には水酸化アルカリ等を加えてスルホン酸のアンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩等を形成し、塩基性条件下に加水分解・縮合を行うようにしてもよい。
【0066】
更に、必要に応じ、公知の縮合反応触媒、例えば、スズジオクトエート、ジメチルスズジバーサテート、ジブチルジメトキシスズ、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジオクトエート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジベンジルマレート、ジオクチルスズジラウレート、スズキレート等のスズ触媒、グアニジン、DBU(1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン)等の強塩基化合物及びそれらの基を有するアルコキシシラン、テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナ)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル又はチタンキレート化合物等を触媒量(例えば、イオン伝導性高分子物質100質量部に対して0.01〜10質量部)を添加することができる。
【0067】
特に、(部分)加水分解・縮合方法として好適な方法としては、上で得られた重合溶液を、氷の入った水浴で5℃〜20℃の冷却下にアンモニアの水溶液を激しく撹拌下に滴下し、中性から塩基性の状態になるまで行う。重合溶液は、アンモニアの水溶液と混合された時点でアルコキシシリル基の一部又は全部が加水分解・縮合され、ヒドロキシシリル基(シラノール基)を経てSiOSiになる。
【0068】
なお、上記(部分)加水分解・縮合により、水に不溶のイオン伝導性高分子物質の誘導体から得られる膜は、導電率が10-7〜10-4S/cmのプロトン伝導性を示す。しかし、膜強度・導電性は、電解質膜として使用するには不満足な値であるので、以下のオルガノポリシロキサンとの共架橋膜化を行い、高分子電解質膜とする。なお、本発明において、導電率はインピーダンスアナライザーを用いて交流インピーダンス法により測定できる。
【0069】
[2]固体高分子電解質膜
本発明の電解質膜は、特に、(a)オルガノポリシロキサンと、(b)イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体と、(c)硬化させるに十分な量である架橋剤を含むシリコーン組成物を製膜・硬化してなるものとすることができる。
【0070】
(1)電解質膜の原料成分
(b)イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体
イオン伝導性高分子物質又はその誘導体は、アンモニアのような塩基性化合物により中和して酸基を塩としてあることが好ましく、かかる場合、中性−弱塩基性の固体又はその溶液である。なお、水の存在下でアンモニア等の塩基性化合物によりイオン伝導性高分子物質を中和すると、アルコキシシリル基の一部又は全部は加水分解・縮合し、誘導体に変化しているものである。
【0071】
(a)オルガノポリシロキサン
本発明で用いられる(a)オルガノポリシロキサンは、アルケニル基を有するものを用い、組成物の主剤であり、強度に大きな影響を与えるものである。
これは、平均組成式RaSiO(4-a)/2で示され、末端がトリオルガノシロキシ基又はジオルガノヒドロキシシロキシ基で封鎖されたものであることが好ましく、式中のRは炭素数1〜10の同一又は異種の非置換又は置換の一価炭化水素基、aは1.95〜2.05の正数である。
【0072】
Rは、同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1〜10、好ましくは1〜8の一価炭化水素基であるが、このような一価炭化水素基としては、メチル基,エチル基,プロピル基,ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基等のアルキル基;ビニル基,アリル基,ブテニル基,ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基,トリル基,キシリル基等のアリール基;ベンジル基,フェネチル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基,3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロ置換アルキル基等の一価炭化水素基が例示され、好ましくはメチル基,フェニル基である。
【0073】
Rは、一分子中に少なくとも2個のアルケニル基、好ましくはビニル基を有することが必要で、R中のアルケニル基の含有量は、0.01〜10モル%、特に0.05〜5モル%であることが好ましい。該アルケニル基の結合位置は特に限定されず、例えば、分子鎖末端、分子鎖側鎖、分子鎖末端と分子鎖側鎖が挙げられる。
【0074】
このような(a)成分は、具体的には、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルビニルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖メチルフェニルポリシロキサン,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端ジメチルビニルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体,分子鎖両末端シラノール基封鎖メチルビニルポリシロキサン,分子鎖両末端シラノール基封鎖ジメチルシロキサン・メチルビニルシロキサン・メチルフェニルシロキサン共重合体が例示される。
【0075】
(a)成分のオルガノポリシロキサンの分子構造は、直鎖状、又は一部分岐を有する直鎖状が好ましい。なお、この成分のオルガノポリシロキサンは、1種を単独で、又は重合度や分子構造の異なる2種以上を混合して用いてよい。
【0076】
(a)成分のオルガノポリシロキサンの重合度は、R2SiO単位として100以上の整数であり、好ましくは200〜100,000である。この単位が100未満ではゴム強度特性が悪く本発明の目的を達しえない場合がある。(a)成分の25℃における粘度としては2,000mPa・s以上、特に10,000mPa・s以上が好ましく、具体的には通常シリコーン生ゴムと呼ばれる形態のオルガノポリシロキサンが好ましい。なお、本発明において、粘度はトルエンに10質量%で溶解させた溶液を回転粘度計により測定した値である。
【0077】
(c)架橋剤
(c)成分は、本組成物を硬化させるための架橋剤である。シリコーンゴム組成物の架橋に使用されるラジカル反応等を利用して架橋、硬化させるものであれば、その硬化機構に制限はなく、従来公知の種々の硬化剤を用いることができる。とりわけラジカル反応では有機過酸化物が使用される。
【0078】
より具体的には、有機過酸化物硬化剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、p−メチルベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーベンゾエート等が挙げられる。
【0079】
(d)その他の成分
本発明に係るシリコーン組成物には、上記必須成分に加え、任意成分として本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じ、他の導電剤、補強剤、発泡剤、難燃剤、耐熱性向上剤などの各種添加剤や反応制御剤、離型剤あるいは充填剤用分散剤を加えることができる。
【0080】
補強剤は、補強性シリカ粉末を好適に用いうる。このシリカ粉末は、機械的強度を得るために添加されるものであるが、この目的のためには、BET法による比表面積が50m2/g以上、好ましくは100〜380m2/gであることが好ましい。比表面積が50m2/gに満たないと硬化物の機械的強度が低くなってしまう場合がある。このような補強性シリカとしては、例えば煙霧質シリカ、沈降シリカ等が挙げられ、またこれらの表面をクロロシランやヘキサメチルジシラザンなどで疎水化したものも好適に用いられる。
補強性シリカ粉末の添加量は、(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して0〜70質量部、特に3〜50質量部とすることが好ましい。
【0081】
また、ベンガラ等の着色剤、粉砕石英、炭酸カルシウムなどの増量剤を添加してもよい。難燃剤は、本発明のシリコーン組成物を難燃性、耐火性にするために、白金含有材料、白金化合物と二酸化チタン、白金と炭酸マンガン、白金とγ−Fe23、フェライト、マイカ、ガラス繊維、ガラスフレークなどの公知の添加剤を添加してもよい。
【0082】
分散剤としては、ジフェニルシランジオール、各種アルコキシシラン、カーボンファンクショナルシラン、シラノール基含有低分子量シロキサンなど、通常のものを用いうるが、量は本発明の効果を損なわないように最小限の添加量に止めることが好ましい。
【0083】
(2)電解質膜の組成
本発明のシリコーン組成物において、成分の配合量は(a)オルガノポリシロキサン100質量部に対して(b)イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体が20〜400質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは50〜200質量部の範囲である。(b)成分の配合量が20質量部未満であると、得られた膜の導電性が著しく低下する場合があり、また400質量部を超えると、得られた組成物の流動性が著しく低下し、その組成物の取り扱い作業性が著しく困難となる場合がある。
【0084】
(c)成分の配合量は、(a),(b)成分の合計100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.2〜5質量部の範囲である。0.1質量部未満の添加量では架橋密度が低くゴム強度が低下する傾向があり、10質量部を超えると過酸化物の分解残渣が残存しやすくなる場合がある。
【0085】
(3)電解質膜の製造方法
(a)〜(c)成分を含有するシリコーン組成物を製造するに当たり、(a)オルガノポリシロキサンに、(b)イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体を混合させた後、(b)イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体が含有している水やアルコールのような溶剤を除去する。この場合、上記した成分を2本ロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練り機を用いて均一に混合することができる。
【0086】
混合後、加熱・乾燥させる。この乾燥は、好ましくは60℃以上150℃以下の温度で、より好ましくは80℃以上120℃以下の温度で加熱する。乾燥の際には自然乾燥、加熱乾燥、オートクレーブによる加圧加熱等、公知の方法を使用してもよい。これにより、(a)成分中に(b)成分が均一に分散する。
【0087】
これに(c)成分を混合させる。この場合、上記した成分を2本ロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練り機を用いて均一に混合する。このときは、(c)成分が分解しないように必要に応じ冷却処理を施すことにより得ることができる。
【0088】
次いで、(a),(b),(c)成分を含有してなるシリコーン組成物を、120℃〜180℃の温度の熱プレスにより架橋・製膜することができる。更に、酸基がアミン塩、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を形成している場合は、この膜を、酸性水溶液中に浸漬することにより、ポリマー中の酸基をプロトン型に変換させ、イオン伝導性の発現した膜が得られる。この工程は、膜内で酸基を再生する工程である。
【0089】
この場合、酸性溶液としては、例えば、リン酸、塩酸、硫酸等の強酸の水溶液が挙げられる。酸性溶液の濃度は、好ましくは0.05〜5Nである。浸漬温度は、好ましくは15℃〜35℃であり、浸漬時間は、好ましくは1分〜24時間である。
【0090】
本発明の高分子電解質膜の厚さは特に制限されないが、好ましくは1〜1,000μm、より好ましくは10〜500μmである。
【0091】
製膜したフィルム(皮膜)は、更に常圧又は減圧下で加熱するのが好ましく、これによりアルコキシシリル基が膜中に残存している場合、その加水分解・縮合が起こり、機械的強度及び耐溶剤性が向上する。具体的には30℃〜120℃で1分〜3時間程度加熱処理するのが好ましい。
【0092】
(4)電解質膜の特性
本発明の高分子電解質膜の強度は高いものであるが、それはオルガノポリシロキサンのアルケニル基やイオン伝導性高分子誘導体のアルケニルシリル基の架橋と、オルガノポリシロキサン中に残存するシラノール基、イオン伝導性高分子誘導体のアルコキシシリル基に由来するシラノール基や未反応の加水分解によってなくなっていないアルコキシシリル基の加水分解・縮合反応による架橋に主に起因するものと考えられ、その他に、特にシリコーン組成物としてシリカを配合した場合は、シリカのシラノール基と、イオン伝導性高分子誘導体のアルコキシシリル基由来のシラノール基や未反応の加水分解によってなくなっていないアルコキシシリル基の加水分解・縮合反応による架橋に主に起因するものと考えられる。そのイオン伝導性高分子誘導体の酸基が、アルコキシシリル基やシラノール基の架橋触媒として作用し、アルコキシシリル基、シラノール基が架橋することも寄与しているものと考えられ、これが耐水性の向上に寄与する面もあると考えられる。
【0093】
本発明の高分子電解質膜は、相対湿度100%において導電率が10-3〜10-1S/cmの優れたプロトン伝導性を有し、しかもかかるプロトン伝導性の湿度依存性が小さい。中でもスルホン酸基、ホスホン酸基を共に含有する膜の導電率は、相対湿度30%において10-3S/cmのオーダーにあり、低湿度でのプロトン伝導性に優れている。
【0094】
本発明の高分子電解質膜は、イオン伝導性を担うホスホン酸基、スルホン酸基等の酸基からなる親水部と膜の強度とゴム弾性を担うオルガノポリシロキサン部からなり、アルケニルシリル基やアルコキシシリル基由来のシラノール基の働きでこの2つの部分が結合された構造をしていると考えられる。
特にスルホン酸基含有不飽和モノマーとホスホン酸基含有不飽和モノマーを用いた場合、ナフィオン膜の4倍以上という非常に高いイオン交換容量をもち、低湿度条件下でもプロトンは、ポリマー中の酸基からなる親水部に沿って効率的に伝導できると考えられる。
【実施例】
【0095】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0096】
〔原料ポリマーの合成〕
表1に示す配合組成に従い、シリル基含有不飽和モノマー(アルコキシシリル基含有不飽和モノマー(KBE−AA)、ビニルシリル基含有不飽和モノマー(Sty−ViSi))と酸基含有不飽和モノマー(ホスホン酸基含有不飽和モノマー(ホスマーN2P)、スルホン酸基含有不飽和モノマー(AASO3H))を、重合触媒を用いて重合を行い、得られたイオン伝導性高分子物質の物性を評価した。また、その誘導体(ポリマーと略記)を調製した。
【0097】
(1)イオン伝導性高分子物質の重合とその物性
[合成例1]
還流冷却管、滴下漏斗、温度計及び窒素ガス導入管を接続した反応装置に、トリエトキシプロピルアクリルアミド(KBE−AA)22g(2mol%)と、トリス(ジメチルビニルシロキシ)スチリルシラン(Sty−ViSi)18g(1mol%)と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AASO3H)392g(48.5mol%)と、アクリルアミドビスホスフェート(ユニケミカル社製、ホスマーN2P)444g(48.5mol%)と、エタノール(EtOH)4,500gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌し、オイルバスの温度を重合温度となる80℃まで昇温した。
【0098】
内温がエタノール還流温度の78℃に到達したことを確認後、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(V−59)の10質量%EtOH溶液と、アンモニウムパーオキシジサルフェイト((NH4228)の10質量%DMF溶液を、モノマーの総質量に対して各0.5質量%ずつ、総量で1質量%となるように投入した。この時若干の重合発熱が起こり、重合開始が確認された。6時間重合させて、共重合体を含むEtOH溶液を得た。
【0099】
得られたEtOH溶液をアルミシャーレに入れ、105℃のオーブンに3時間入れ、不揮発分測定、1質量%DMF溶液にしてGPCによる分子量分布測定、オストワルド法による溶液粘度測定(25℃)を行ったところ、残留モノマーの少ない高分子量体が得られた。この測定値は、表1に示した。
この溶液は、1質量%DMF溶液 GPCでのポリスチレン換算重量平均分子量68,000で、重合しなかった残留モノマーと考えられる分子量が300以下のエリア面積は3%であり重合は良好に進行したと考えられる。
【0100】
この溶液を、フェノールフタレインを指示薬として0.1N水酸化ナトリウム(f=0.999)で中和滴定することでイオン交換容量を測定した。この滴定値と不揮発分の値から、イオン交換容量=8.7meq/gの値が得られた。この値はナフィオン膜の8倍以上の値である。
【0101】
この溶液は、ポリテトラフルオロエチレンシートに流延し、これらを空気流通式乾燥器に入れ、常温から80℃まで昇温して溶剤を完全に除いた後、湿度43%の室内で24時間放置して、膜厚135μmのイオン伝導性高分子誘導体からなる膜を作製した。この膜を、金メッキを施したステンレス電極に挟むことにより評価用セルを作製し、交流インピーダンス法(日置電機製LCRハイテスタ、測定周波数0.1Hz〜5MHz)により、イオン導電率の測定を行ったところ、10-4S/cmオーダーの値が得られた。
【0102】
[合成例2]
還流冷却管、滴下漏斗、温度計及び窒素ガス導入管を接続した反応装置に、トリエトキシプロピルアクリルアミド(KBE−AA)11g(2mol%)と、トリス(ジメチルビニルシロキシ)スチリルシラン(Sty−ViSi)9g(1mol%)と、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AASO3H)385g(97mol%)と、エタノール(EtOH)4,500gを入れ、窒素ガスを導入しながら撹拌し、オイルバスの温度を重合温度となる80℃まで昇温した。
【0103】
内温がエタノール還流温度の78℃に到達したことを確認後、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(V−59)の10質量%EtOH溶液と、アンモニウムパーオキシジサルフェイト((NH4228)の10質量%DMF溶液を、モノマーの総質量に対して各0.5質量%ずつ、総量で1質量%となるように投入した。この時若干の重合発熱が起こり、重合開始が確認された。6時間重合させて、共重合体を含むEtOH溶液を得た。
【0104】
この溶液は、重量平均分子量20,000で、重合しなかった残留モノマーと考えられる分子量が300以下のエリア面積は6%であり重合は良好に進行したと考えられる。
【0105】
この溶液を、フェノールフタレインを指示薬として0.1N水酸化ナトリウム(f=0.999)で中和滴定することでイオン交換容量を測定した。この滴定値と不揮発分の値から、イオン交換容量=4.2meq/gの値が得られた。この値はナフィオン膜の4倍以上の値である。
【0106】
この溶液をポリテトラフルオロエチレンシートに流延し、これらを空気流通式乾燥器に入れ、常温から80℃まで昇温して溶剤を完全に除いた後、湿度43%の室内で24時間放置して、膜厚255μmのイオン伝導性高分子膜を作製した。この膜は、イオン導電率の測定を行ったところ、10-7S/cmオーダーの値が得られた。
【0107】
[比較合成例1]
比較のために、実施例1と同様の実験条件で、トリエトキシプロピルアクリルアミド(KBE−AA)22g(2mol%)と、トリス(ジメチルビニルシロキシ)スチリルシラン(Sty−ViSi)18g(1mol%)だけを使用しないで、共重合体を合成した。この時も、重合開始が確認され、6時間重合させて、共重合体を含むEtOH溶液を得た。
このポリマーは水溶性のため、一旦溶媒を除いて製膜できても経時で環境の水分を吸収して溶解してしまうため、導電率の測定はできなかった。
【0108】
[比較合成例2]
比較のために、実施例1と同様の実験条件で、トリエトキシプロピルアクリルアミド(KBE−AA)22g(2mol%)だけを使用しないで、共重合体を合成した。この時も、重合開始が確認され、6時間重合させて、共重合体を含むEtOH溶液を得た。
このポリマーは水溶性のため、一旦溶媒を除いて製膜できても経時で環境の水分を吸収して溶解してしまうため、導電率の測定はできなかった。
【0109】
[比較合成例3]
比較のために、実施例1と同様の実験条件で、トリス(ジメチルビニルシロキシ)スチリルシラン(Sty−ViSi)18g(1mol%)だけを使用しないで、共重合体を合成した。この時も、重合開始が確認され、6時間重合させて、共重合体を含むEtOH溶液を得た。
この溶液からは、湿度43%の室内で24時間放置して、膜厚255μmのイオン伝導性高分子膜を作製した。この膜は、イオン導電性の測定を行ったところ、10-5S/cmオーダーの値が得られた。
【0110】
【表1】

【0111】
注: (1) KBE−AA:トリエトキシプロピルアクリルアミド。
(2) Sty−ViSi:トリス(ジメチルビニルシロキシ)スチリルシラン。
(3) AASO3H:2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸。
(4) ホスマーA:アクリルアミドビスホスフェート。
(5) (NH4228:アンモニウムパーオキシジサルフェイト。
(6) V−59:2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)。
(7) DMF:ジメチルホルムアミド。
【0112】
溶液粘度:
10〜23質量%(不揮発分の値)EtOH溶液のオストワルド粘度計による25℃の溶液粘度。
不揮発分:
アルミシャーレに一定量はかりとり、105℃のオーブンに3時間入れ、質量の減少から求めた。
膜厚:
ミツトヨ社製のシックネスゲージ(Model ID C112B)で測定。
【0113】
(2)イオン伝導性高分子誘導体の製造
還流冷却管、滴下漏斗、温度計及び窒素ガス導入管を接続した反応装置に、合成例1,2及び比較合成例3の溶液を仕込み、撹拌・冷却下に、アンモニア水溶液を滴下漏斗から滴下した。リトマス紙で中性〜弱塩基性を示すまで徐々に加えて中和したあと、全反応液と2倍容積のアセトンに撹拌下に加えることで、固体として析出させた。この固体は、オルガノポリシロキサン生ゴムに配合し、実施例1〜3、比較例2のプロトン伝導材料として使用した。
【0114】
〔シリコーン組成物の製造と電解質膜の物性〕
[実施例1〜3、比較例1,2]
(3)シリコーンゴム用コンパウンドの製造
(CH32SiO単位99.50モル%、(CH3)(CH2=CH)SiO単位0.475モル%及び(CH32(CH2=CH)SiO1/2単位0.025モル%からなるジオルガノポリシロキサン生ゴム100質量部、アエロジル R−972(フュームドシリカ、日本アエロジル社製)40質量部、末端水酸基ジメチルシリコーンオイル(重合度10、分散助剤)5質量部をニーダーにて配合し、160℃で2時間熱処理してコンパウンドとした。これは、シリカ含有量が、ポリシロキサンを含む全不揮発成分中27.5%であるシリカを含むシリコーンゴム用コンパウンド(以下KE−MUと略記する)である。
【0115】
このシリコーンゴムコンパウンドKE−MUをパーオキサイド架橋した膜は、比較例1に示した。
【0116】
このシリコーンゴムコンパウンドKE−MU 100質量部に、上記の合成例1,2で合成したポリマー(中和品)100〜200質量部(不揮発成分換算として)、あるいは比較合成例3で合成したポリマー(中和品)100質量部(不揮発成分換算として)を、二本ロールで混練して混合物を調製した。この混合物は、105℃の熱オーブン中で2時間熱処理し、溶媒を完全に除いてコンパウンドとした。
【0117】
(4)パーオキサイド架橋による製膜
このコンパウンドは、二本ロールで混練した後、コンパウンド100質量部に対してC−8B(信越化学工業株式会社製パーオキサイド)を3.0質量部添加し、パーオキサイド架橋用のコンパウンドを調製した。このコンパウンドは、165℃で10分間という条件でプレス成型(圧力70kgf/cm2)を行い、100〜300μm膜厚の電解質膜を得た。この電解質膜は、105℃のオーブンに2時間入れ、後架橋を行った。
【0118】
(5)酸処理
この電解質膜を1N硫酸水溶液に、室温下1日間浸漬処理後、水洗することによって、電解質膜中の酸基中のアンモニウムイオンをプロトンと交換させた。
【0119】
(6)電解質膜の評価方法
実施例1〜3で作製した電解質膜、比較例1,2で作製した電解質膜、及び比較例3のNafion117について、ゴム弾性、引っ張り強度、耐熱性、導電率(プロトン伝導性)を測定した。
【0120】
プロトン伝導性は複素インピーダンス法を用いて測定した。得られた薄膜状のゴムシートを、金メッキを施したステンレス電極に挟むことにより評価用セルを作製し、交流インピーダンス法(日置電機製LCRハイテスタ、測定周波数0.1Hz〜5MHz)により、プロトン伝導度を測定した。ゴム物性の膜強度は、JIS K 6251に準拠した引張強さ(kgf/cm2)として測定した。結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
(7)電解質膜の評価
表2の結果より、実施例1〜3の電解質膜は、いずれも相対湿度100%での導電率が10-2〜10-1S/cmのオーダーであり、相対湿度30%での導電率が10-5〜10-2S/cmのオーダーにある。とりわけ、リン酸基及びスルホン酸基を両方持つ高分子を含有する電解質膜の場合は、相対湿度30%での導電率が10-3〜10-2S/cmのオーダーと非常に良好な水準にあることがわかる。
【0123】
このように、比較例と実施例を対比することにより、本発明の高分子電解質膜は、低湿度の環境下においても強度の低下が少なく、優れたイオン伝導性を示すことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に1個以上のアルコキシシリル基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有するアルコキシシリル基含有不飽和モノマーと、(B)分子内に1個以上のケイ素原子と直接に結合したエチレン性不飽和結合と1個以上のケイ素原子と直接には結合しないエチレン性不飽和結合とを有するアルケニルシリル基含有不飽和モノマーと、(C)分子内に1個以上の酸基と1個以上のエチレン性不飽和結合とを有する酸基含有不飽和モノマーとを含む不飽和モノマーを共重合してなるイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体と、オルガノポリシロキサンとを含むシリコーン組成物を製膜、硬化してなることを特徴とする固体高分子電解質膜。
【請求項2】
イオン伝導性高分子物質の誘導体が、イオン伝導性高分子物質のアルコキシシリル基の一部又は全部を加水分解・縮合することにより得られた水不溶性のものであることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項3】
イオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体の酸基が、アミン塩、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を形成していることを特徴とする請求項1又は2に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項4】
(A)アルコキシシリル基含有不飽和モノマーが、下記一般式(1)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R2,R3及びR4は水素原子又は置換もしくは非置換のアルキル基であり、mは1〜3の整数、nは1〜3の整数である。)
【請求項5】
(B)アルケニルシリル基含有不飽和モノマーが、下記一般式(2)で表されるものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【化2】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、R5,R6,R7は水素原子、又は置換もしくは非置換のアルキル基又はアルケニル基であり、そのうち少なくとも1つはアルケニル基である。)
【請求項6】
(C)酸基含有不飽和モノマーが、スルホン酸基含有不飽和モノマー及び/又はホスホン酸基含有不飽和モノマーであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項7】
スルホン酸基含有不飽和モノマーとホスホン酸基含有不飽和モノマーが、モル比で(ホスホン酸基含有不飽和モノマー)/(スルホン酸基含有不飽和モノマー)=0/100〜90/10の割合で使用されてなることを特徴とする請求項6に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項8】
ホスホン酸基含有不飽和モノマーが、下記一般式(3)で表されるものであることを特徴とする請求項6又は7に記載の固体高分子電解質膜。
【化3】

(式中、R1は水素原子又はメチル基であり、Xは水素原子又はPO32で、少なくとも1つはPO32である。)
【請求項9】
シリコーン組成物が、
(a)下記平均組成式
aSiO(4-a)/2
(式中、Rは炭素数1〜10の同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基である。ただし1分子中にアルケニル基を2個以上含む。aは1.95〜2.05の正数を表す。)
で示されるアルケニル基含有オルガノポリシロキサン:100質量部、
(b)請求項1〜8のいずれか1項記載のイオン伝導性高分子物質及び/又はその誘導体:20〜400質量部、
(c)架橋剤:0.1〜10質量部
を含有してなるものであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜。
【請求項10】
シリコーン組成物が、更に(d)補強性シリカ粉末を(a)成分100質量部に対して3〜70質量部配合してなることを特徴とする請求項9記載の固体高分子電解質膜。
【請求項11】
請求項9又は10記載のシリコーン組成物を、120℃〜180℃の温度の熱プレスにより架橋・製膜した後、酸基がアミン塩、アンモニウム塩又はアルカリ金属塩を形成している場合は酸処理することで酸型にもどすことにより、プロトン伝導性とゴム弾性を有する膜にすることを特徴とする固体高分子電解質膜の製造方法。

【公開番号】特開2009−40807(P2009−40807A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−204183(P2007−204183)
【出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】