説明

固体高分子電解質膜及びその製造方法

【課題】高い電気伝導度を有し、しかも反応の制御が比較的容易で、量産も可能な固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】プレポリマを溶媒に溶解若しくは分散させたプレポリマ溶液、又は、前記プレポリマを溶融させたプレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製する膜化工程と、前記前駆体膜内にある前記プレポリマ間を直接、又は、膜化と同時に若しくは膜化後に前記前駆体膜内に導入された架橋剤を介して架橋させる架橋工程とを備えた固体高分子電解質膜の製造方法、及び、このような方法により得られる固体高分子電解質膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子電解質膜及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる固体高分子電解質膜及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子電解質は、高分子鎖中にスルホン酸基等の酸基を有する固体高分子材料である。固体高分子電解質は、特定のイオンと強固に結合したり、陽イオン又は陰イオンを選択的に透過する性質を有していることから、粒子、繊維、あるいは膜状に成形し、電気透析、拡散透析、電池隔膜等、各種の用途に利用されている。
【0003】
例えば、固体高分子型燃料電池や水電解装置などの各種電気化学デバイスにおいて、固体高分子電解質は、膜状に成形され、その両面に電極を接合した膜電極接合体(MEA)の状態で使用される。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボン繊維、カーボンペーパー等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、電極触媒と固体高分子電解質との複合体からなる。
【0004】
このような各種電気化学デバイスに用いられる固体高分子電解質としては、デュポン社製ナフィオン(登録商標)に代表される各種のフッ素系電解質や、各種の炭化水素系電解質が知られている。電気化学デバイスの性能は、これに用いられる固体高分子電解質の性能に依存し、一般に、固体高分子電解質の電気伝導度が高くなるほど、電気化学デバイスの性能も向上する。
【0005】
固体高分子電解質の電気伝導度を高くする場合、通常は、固体高分子電解質内部の酸基(例えば、スルホン酸基)の量を増加させる方法が用いられる。しかしながら、一般に、固体高分子電解質中の酸基の量が多くなるほど、固体高分子電解質が水により膨潤し、あるいは水に溶解しやすくなる傾向がある。そのため、このような方法では、耐久性、及び耐熱性に優れた固体高分子電解質は得られない。
【0006】
また、例えば、固体高分子型燃料電池の場合、始動前の電解質膜は、乾燥した状態にある。一方、燃料電池が作動すると、反応ガスに含まれる加湿水や、電池反応により生成する生成水により膜が膨潤する。従って、固体高分子型燃料電池の始動・停止を繰り返すと、膜が膨潤・収縮を繰り返す。その結果、固体高分子電解質膜が裂けたり、あるいは、固体高分子電解質膜から電極が剥離し、性能低下の原因となっている。
【0007】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、
(1)−SO2F基及び−SO2NHR基(Rは、H、非置換炭化水素基、又は、置換炭化水素基)を有するパーフルオロ共重合体と、液状のフルオロオリゴエーテルの混合物をポリテトラフルオロエチレン多孔質フィルムに塗布し、
(2)多孔質フィルムを、加圧下、160〜340℃に加熱することにより、含浸フィルムとし、
(3)含浸フィルムをルイス塩基で処理し、加水分解及び酸処理する
架橋含浸フィルムの製造方法が開示されている。
同文献には、
(a)原料混合物は、フルオロオリゴエーテルの可塑化効果によって、優れた溶融成形加工性を示す点、
(b)加圧下で加熱することにより、多孔質フィルムの空隙にパーフルオロ共重合体を含む組成物が充填されると同時に、分離したフルオロオリゴエーテルが多孔質フィルムの外側に排出される点、及び、
(c)ルイス塩基で処理することにより、スルホンアミド基の一部がスルホンイミド架橋構造になる点、
が記載されている。
【0008】
また、特許文献2には、互いに反応することによってビススルホンイミド基、スルホンカルボンイミド基、ビスカルボンイミド基などのイミド基を生成可能な反応性官能基A及びBを備えた1種又は2種以上のモノマーを反応させることにより得られる固体高分子電解質が開示されている。
同文献には、このような方法により、高い電気伝導度を有する高分子電解質が得られる点が記載されている。
【0009】
さらに、特許文献3には、互いに反応することによってビススルホンイミド基、スルホンカルボンイミド基、ビスカルボンイミド基などのイミド基を生成可能な反応性官能基A及びBを備えた第1モノマー、第2モノマー及びフレーム高分子を反応させることにより得られる固体高分子電解質が開示されている。
同文献には、このような方法により、高い電気伝導度に加えて、機械的強度も高い高分子電解質が得られる点が記載されている。
【0010】
特許文献1に開示されているように、パーフルオロ共重合体を多孔膜に充填し、架橋させることにより得られる複合電解質膜は、電解質のみからなる膜に比べて、機械的強度が高い。しかしながら、この方法では、EWを600g/eq程度までしか下げられず、高い伝導度は得られない。
【0011】
これに対し、特許文献2、3に開示されているように、所定の条件を満たすモノマやフレーム高分子を反応させると、強酸基として機能する多量のイミド基を備え、かつ、イミド基を介して高分子鎖間が架橋された高分子電解質が得られる。このような方法により得られた高分子電解質は、従来の電解質に比べて格段に高い伝導度を持つ。また、化学架橋と、高分子鎖が物理的に絡み合うことにより形成される物理架橋を併せ持ち、架橋密度は、0.5mmol/g以上となる。
しかしながら、特許文献2、3に開示された方法では、ゲル化点を超えて無限網目が形成されるために、合成された電解質を溶媒に溶解又は分散させるのが困難となる。そのため、従来は、モノマ溶液ごとゲル化反応させるバッチ式作製方法が用いられており、反応の制御が難しく、膜の量産が困難であるという問題があった。
さらに、電解質膜の強度や耐熱性を向上させるために、固体高分子電解質を多孔膜に充填して複合化することも行われている。しかしながら、このような充填膜においては、膜表面に凹凸が形成されやすい。膜表面に凹凸が形成されると、触媒層との接触が不十分となり、あるいは、膜/触媒層界面に多孔膜の繊維が露出する。その結果、界面におけるプロトン移動が阻害され、電池性能が低下する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2003−272664号公報
【特許文献2】特開2005−174800号公報
【特許文献3】特開2009−238738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、高い電気伝導度を有し、しかも反応の制御が比較的容易で、量産も可能な固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
また、本発明が解決しようとする他の課題は、高い電気伝導度に加えて、機械的強度も高く、しかも反応の制御が比較的容易で、量産も可能な固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、高い電気伝導度や機械的強度に加えて、触媒層との接触が良好であり、高い電池性能を得ることが可能な固体高分子電解質膜及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る固体高分子電解質膜の製造方法は、以下の構成を備えていることを要旨とする。また、本発明に係る固体高分子電解質膜は、本発明に係る方法により得られたものからなる。
(1)前記固体高分子電解質膜の製造方法は、
プレポリマを溶媒に溶解若しくは分散させたプレポリマ溶液、又は、前記プレポリマを溶融させたプレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製する膜化工程と、
前記前駆体膜内にある前記プレポリマ間を直接、又は、膜化と同時に若しくは膜化後に前記前駆体膜内に導入された架橋剤を介して架橋させる架橋工程と
を備えている。
(2)前記プレポリマは、以下の条件(a)〜(c)を満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを、無限網目の形成が妨げられる条件下で反応させることにより得られる。
(a)前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、それぞれ、1分子内に2個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含み、
前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマの内の少なくとも1種は、1分子内に3個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含む。
(b)前記反応性末端基A及び前記反応性末端基Bは、これらの反応によって、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンカルボンイミド基(−SO2NHCO−)、又はビスカルボンイミド基(−CONHCO−)を形成するものからなる。
(c)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性末端基Aと、少なくとも2個の前記反応性末端基Bとを含む。
(3)前記プレポリマは、粒子サイズの平均値が1nm以上10μm以下である。
【0015】
前記膜化工程が、前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液を多孔膜に含浸させるものである場合、前記膜化工程の後、前記架橋工程の前に、
前記前駆体膜の表面に、前記プレポリマからなる表面層を形成する表面層形成工程をさらに備えていても良い。
【発明の効果】
【0016】
所定の条件を満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを反応させると、異なる原料モノマ又は原料ポリマに含まれる反応性末端基Aと反応性末端基Bとが反応し、異なる原料分子間の結合点には、ビススルホニルイミド基等の酸基が形成される。この時、無限網目が形成されにくい条件下で原料を反応させる(例えば、原料溶液に、せん断又は振動を加えながら反応させる)と、高い電気伝導度と、高い溶媒可溶性とを併せ持つプレポリマが得られる。
得られたプレポリマを溶媒に溶解若しくは分散させたプレポリマ溶液、又は、プレポリマを溶融させたプレポリマ融液は、原料モノマや原料ポリマを溶解又は分散させた原料溶液に比べて、固形分濃度を高くすることができる。そのため、このようなプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を用いて電解質膜をキャスト成膜し、あるいは、多孔膜に充填した後、プレポリマ間を架橋させると、従来のバッチ式作製方法に比べて、高密度な膜を作製できる。また、モノマ溶液ごとゲル化反応させていたバッチ式作製方法と異なり、膜化後はプレポリマ間の架橋反応のみを行うため、均一反応が可能であり、反応の制御が容易であり、量産にも適合する。
さらに、多孔膜にプレポリマを充填した充填膜を作製し、プレポリマ間を架橋させる場合において、架橋前に膜表面にプレポリマからなる表面層を形成すると、膜表面をさらに平坦化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
[1. プレポリマ]
本発明に係るプレポリマは、以下の構成を備えている。
(1)前記プレポリマは、以下の条件(a)〜(c)を満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを、無限網目の形成が妨げられる条件下で反応させることにより得られる。
(a)前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、それぞれ、1分子内に2個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含み、
前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマの内の少なくとも1種は、1分子内に3個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含む。
(b)前記反応性末端基A及び前記反応性末端基Bは、これらの反応によって、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンカルボンイミド基(−SO2NHCO−)、又はビスカルボンイミド基(−CONHCO−)を形成するものからなる。
(c)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性末端基Aと、少なくとも2個の前記反応性末端基Bとを含む。
(2)前記プレポリマは、粒子サイズの平均値が1nm以上10μm以下である。
原料モノマ及び/又は原料ポリマは、さらに以下の条件(d)を満たしていても良い。
(d)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマに含まれる前記反応性末端基Aのモル数aに対する、前記反応性末端基Bのモル数b(但し、a≦b)の比(=b/a)は、1以上4以下である。
【0018】
[1.1. 原料モノマ及び原料ポリマの定義]
本発明において、「原料モノマ」とは、プレポリマを製造するための原料として用いられるモノマであって、分子量が1万以下であり、1分子内にn個(n≧2)の反応性末端基A及び/又反応性末端基Bを含むものを言う。
「原料ポリマ」とは、プレポリマを製造するための原料として用いられるポリマであって、分子量が1万超であり、1分子内にn個(n≧2)の反応性末端基A及び/又反応性末端基Bを含むものを言う。
反応に用いられる原料モノマ及び原料ポリマの内の少なくとも1種は、1分子内に3個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含んでいる必要がある。これらの原料の内、少なくとも1つが3個以上の反応性末端基A及び/又はBを持つ場合、プレポリマ内に架橋構造を導入することができる。
【0019】
反応に用いられる原料の組み合わせは、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。
原料の組み合わせとしては、例えば、
(1)第1原料モノマ+第2原料モノマ(第1原料モノマとは異なるモノマ)、
(2)第1原料モノマ+第2原料モノマ+第1原料ポリマ、
(3)第1原料モノマ+第2原料ポリマ、
(4)第1原料ポリマ+第2原料ポリマ(第1原料ポリマとは異なる原料ポリマ)、
などがある。
一方、1分子内に4個以上の反応性末端基A及び/又はBを持つ原料モノマを用いる場合において、1種類の原料モノマが後述する反応性末端基A及びBの数の条件を満たす場合、1種類の原料モノマのみを用いてプレポリマを合成することができる。この点は、原料ポリマも同様である。
【0020】
反応に用いられる原料モノマは、分子内にC−H結合とC−F結合のいずれか一方を備えているものでも良く、あるいは、双方を備えているものでも良い。特に、分子内にC−F結合を含み、かつ、C−H結合を含まない原料モノマは、高分子鎖がパーフルオロ骨格からなり、耐熱性及び耐酸化性に優れたプレポリマ及び固体高分子電解質が得られるので、プレポリマの原料として特に好適である。
【0021】
同様に、反応に用いられる原料ポリマは、分子内にC−H結合とC−F結合のいずれか一方を備えているものでも良く、あるいは、双方を備えているものでも良い。特に、分子内にC−F結合を含み、かつ、C−H結合を含まない原料ポリマは、高分子鎖がパーフルオロ骨格となり、耐熱性及び耐酸化性に優れたプレポリマ及び固体高分子電解質が得られるので、プレポリマの原料として特に好適である。
原料ポリマの分子構造は、直鎖型、分岐型、架橋(ゲル)型のいずれであっても良い。一般に、直鎖型又は分岐型の原料ポリマを用いると、柔軟性のあるプレポリマ及び固体高分子電解質が得られる。一方、架橋型の原料ポリマを用いると、より高強度なプレポリマ及び固体高分子電解質が得られる。
【0022】
原料ポリマの分子量は、特に限定されるものではなく、プレポリマに要求される特性、用途等に応じて、最適な値を選択する。一般に、原料ポリマの分子量が大きくなるほど、高濃度のプレポリマ溶液及び高密度の固体高分子電解質膜が得られる。一方、原料ポリマの分子量が大きくなりすぎると、原料ポリマが不溶性となるためにプレポリマの製造が困難となったり、あるいは、プレポリマの溶媒可溶性が低下する場合がある。
粒子サイズの平均値が1nm以上10μm以下であるプレポリマを得るためには、原料ポリマの粒子サイズの平均値は、10μm未満であれば良い。原料ポリマの粒子サイズの平均値は、さらに好ましくは、1nm〜100nmである。なお、「粒子サイズ」については、後述する。
【0023】
[1.2. 反応性末端基の定義]
「反応性末端基A」及び「反応性末端基B」とは、これらの反応によって、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンカルボンイミド基(−SO2NHCO−)、又はビスカルボンイミド基(−CONHCO−)(以下、これらを総称して「イミド基」という)を形成することが可能な官能基を言う。
【0024】
原料に含まれる反応性末端基A及び反応性末端基Bは、これらを直接反応させることにより、又は、適当な官能基変換を加えた後に反応させることによって、結果的にイミド基を形成可能なものであれば良い。
【0025】
このような反応性末端基A及び反応性末端基Bとしては、種々の組み合わせがある。中でも、反応性末端基Aが、−SO2X、又は−COX(但し、Xは、F、Cl、Br、I、又はOH)(以下、これらを「ハライド系官能基」という)からなり、反応性末端基Bが、−SO2NZ12、又は−CONZ12(但し、Z1、Z2は、それぞれ、H、M、又はSiMe3。Mは、金属イオン。)(以下、これらを「イミド系官能基」という)からなる組み合わせ、又は、その逆が好ましい。また、金属イオンMは、Li、K、Na等の1価の金属イオンが好ましい。
【0026】
ハライド系官能基とイミド系官能基の組み合わせは、官能基変換を加えることなく、直接反応させることが容易である場合が多いので、反応性末端基A及び反応性末端基Bの組み合わせとして特に好適である。また、これらの官能基は、未反応のまま残った場合であっても、適当な処理を施すことによって、スルホン酸基又はカルボン酸基に変換できるので、高い電気伝導度を有するプレポリマ及び固体高分子電解質が得られる。
【0027】
また、ハライド系官能基の中でも、XがF、Cl、Br又はIからなるものは、高い反応性を有しているので、反応性末端基A又は反応性末端基Bとして好適である。さらに、イミド系官能基の中でも、(Z1、Z2)の組み合わせが、(H、H)、(H、M)、(SiMe3、M)、又は、(H、SiMe3)からなるものは、高い反応性を有しているので、反応性末端基A又は反応性末端基Bとして好適である。
【0028】
原料モノマは、反応性末端基A又は反応性末端基Bのいずれか一方のみが含まれるものであっても良く、あるいは、双方が含まれるものであっても良い。また、原料モノマに2個以上の反応性末端基A(又は、反応性末端基B)が含まれる場合、これらの反応性末端基A(又は、反応性末端基B)は、同一種類の官能基(例えば、−SO2Xのみ)であっても良く、あるいは、異なる種類の官能基(例えば、−SO2Xと−COXの組み合わせ)であっても良い。この点は、原料ポリマも同様である。
【0029】
[1.3. 原料モノマ及び原料ポリマの具体例]
このような原料モノマとしては、種々のモノマがある。中でも、次に示すモノマ(1)からモノマ(8)、及び、モノマ(9)からモノマ(18)は、原料モノマとして好適である。さらに、これらのモノマの内、その分子内にC−H結合を含まないものは、高分子鎖がパーフルオロ骨格となり、耐熱性及び耐酸化性に優れた固体高分子電解質が得られるので、原料モノマとして特に好適である。
【0030】
【化1】

【0031】
【化2】

【0032】
なお、モノマ(15)において、「Y1=Y2=Y3以外の組み合わせ」とは、Y1=Y2≠Y3である場合、Y1=Y3≠Y2である場合、Y1≠Y2=Y3である場合、Y1≠Y2≠Y3である場合等をいう。
また、モノマ(16)において、「P1=P2=P3=P4以外の組み合わせ」とは、P1=P2=P3≠P4である場合、P1=P2=P4≠P3である場合、P1=P3=P4≠P2である場合、P1≠P2=P3=P4である場合、P1=P2≠P3≠P4である場合、P1=P3≠P2≠P4である場合、P1=P4≠P2≠P3である場合、P1≠P2≠P3=P4である場合、P1≠P2≠P3≠P4である場合等をいう。
また、モノマ(17)において、中央部の繰り返し単位「−(CF2CFP2)B−」中のBが2以上であるときには、各官能基P2は、それぞれ、互いに同一の官能基であっても良く、あるいは、異なる官能基の組み合わせであっても良い。
【0033】
これ以外の原料モノマとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)モノマ、及び、次に示すモノマ(A)〜(F)から選ばれる2個〜15個の化合物からなる分子量が10000以下のオリゴマ、又はこれらの誘導体などがある。
また、原料モノマとしては、例えば、
(1)HC(SO2X)3、HC(SO212)3などの3官能メタンモノマ、
(2)FC(SO2X)3、FC(SO212)3などの3官能フルオロメタンモノマ、
なども用いることができる。
但し、X=ハロゲン、
1、Z2=H、M、又はSiMe3、M=金属イオン。
【0034】
【化3】

【0035】
原料ポリマとしては、具体的には、
(1)ポリスチレン(PS)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリサルホン(PSF)、ポリフェニレンサルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などに反応性末端基が導入されたもの、及び、これらの部分架橋体、
(2)エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、エチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体(EHFP)などに反応性末端基が導入されたもの、及び、これらの部分架橋体、
(3)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)などに反応性末端基が導入されたもの、及び、これらの部分架橋体、
(4)(A)〜(F)式に記載のモノマと、テトラフルオロエチレンあるいはヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、及び、これらの部分架橋体、
などがある。
【0036】
[1.4. 反応性末端基の数]
上述した原料モノマ及び/又は原料モノマを反応させた場合、反応性末端基A、Bの数に応じて、高分子鎖が放射状に伸びた「デンドリマ型」、又は、イミド基を介して高分子鎖が架橋している「架橋ネットワーク型」のプレポリマが得られる。
デンドリマ型又は架橋ネットワーク型のプレポリマを合成するためには、1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマは、これらのいずれかに、少なくとも1個の反応性末端基Aと、少なくとも1個の反応性末端基Bとを含む必要がある。
また、架橋ネットワーク型のプレポリマを合成するためには、1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の反応性末端基Aと、少なくとも2個の反応性末端基Bとを含む必要がある。高密度の電解質を得るためには、プレポリマは、架橋ネットワーク型が好ましい。
【0037】
[1.4.1. 具体例1]
例えば、第1原料モノマとして、2個のイミド系官能基(A)を有する2官能モノマ(以下、これを「AA」と略記する)を用い、第2原料モノマとして、3個のハライド系官能基(B)を有する3官能モノマ(以下、これを「BBB」と略記する)を用いた場合、これらを反応させると、「AA−BB(AA)B−AA」という構造を有するオリゴマが得られる。
【0038】
反応をさらに続行させると、オリゴマの端部にあるいずれかのイミド系官能基(A)に、3官能モノマBBB及び2官能モノマAAがこの順で結合し、結合点には、それぞれ、新たにイミド基(A−B)が形成される。以下、このような反応を順次繰り返すことにより、成長した高分子鎖が2官能モノマAAを介して相互に架橋された架橋ネットワーク型のプレポリマが得られる。
2官能モノマAAに代えて、2個以上のイミド系官能基(A)を備えた原料ポリマを用いた場合、あるいは、3官能モノマBBBに代えて、3個以上のハライド系官能基(B)を備えた原料ポリマを用いた場合も、同様である。
【0039】
[1.4.2. 具体例2]
例えば、第1原料モノマとして、2個のイミド系官能基(A)を有する2官能モノマAAを用い、第2原料モノマとして、1個のイミド系官能基(A)と2個のハライド系官能基(B)を有する3官能モノマ(以下、これを「BAB」と略記する)(例えば、上述したモノマ(15))を用いた場合、これらを反応させると、「AA−BAB−AA」という構造を有するオリゴマが得られる。
【0040】
反応をさらに続行させると、オリゴマの端部又は中央にあるいずれかのイミド系官能基(A)に、新たに3官能モノマBABのハライド系官能基(B)が結合し、結合点には、新たにイミド基(A−B)が形成される。さらに、オリゴマの端部に残ったハライド系官能基(B)には、さらに、新たな3官能モノマBAB又は2官能モノマAAのイミド系官能基(A)が結合し、結合点には、新たにイミド基(A−B)が形成される。以下、このような反応を順次繰り返すことにより、成長した高分子鎖が2官能モノマAAを介して相互に架橋された架橋ネットワーク型のプレポリマが得られる。
2官能モノマAAに代えて、2個以上のイミド系官能基(A)を備えた原料ポリマを用いた場合、あるいは、3官能モノマBABに代えて、2個以上のハライド系官能基(B)と1個以上のイミド系官能基(A)を備えた原料ポリマを用いた場合も、同様である。
【0041】
[1.4.3. 具体例3]
例えば、第1原料モノマとして、1個のイミド系官能基(A)と1個のハライド系官能基(B)を有する2官能モノマ(以下、これを「AB」と略記する)を用い、第2原料モノマとして、1個のイミド系官能基(A)と2個のハライド系官能基(B)を有する3官能モノマBABを用いた場合、これらを反応させると、「BA−BAB−AB」という構造を有するオリゴマが得られる。
【0042】
反応をさらに続行させると、オリゴマの端部にあるいずれかのハライド系官能基(B)には、2官能モノマAB又は3官能モノマBABのイミド系官能基(A)が結合し、結合点には、新たにイミド基(A−B)が形成される。また、オリゴマの端部にあるいずれかのイミド系官能基(A)には、2官能モノマAB又は3官能モノマBABのハライド系官能基(B)が結合し、結合点には、新たにイミド基(A−B)が形成される。以下、このような反応を順次繰り返すことにより、成長した高分子鎖が2官能モノマABによって相互に架橋された架橋ネットワーク型のプレポリマが得られる。
2官能モノマABに代えて、1個以上のイミド系官能基(A)と1個以上のハライド系官能基(B)を備えた原料ポリマを用いた場合、あるいは、3官能モノマBABに代えて、2個以上のハライド系官能基(B)と1個以上のイミド系官能基(A)を備えた原料ポリマを用いた場合も、同様である。
【0043】
[1.4.4. 具体例4]
例えば、第1原料モノマとして、1個のイミド系官能基(A)と1個のハライド系官能基(B)を有する2官能モノマABを用い、第2原料モノマとして、3個のイミド系官能基(A)を有する3官能モノマAAA(例えば、上述したモノマ(5))及び3個のハライド系官能基を有する3官能モノマBBBを用いた場合、これらを反応させると、まず、3官能モノマAAAと2官能モノマABが反応し、「AB−AA(BA)A−BA」という構造を有するオリゴマが得られる。
【0044】
反応をさらに続行させると、オリゴマの端部にあるいずれかのイミド系官能基(A)に、まず、3官能モノマBBB又は2官能モノマBAが結合し、結合点には、それぞれ、新たにイミド基(A−B)が形成される。次いで、その端部にあるハライド系官能基(B)には、さらに3官能モノマAAA又は2官能モノマABが結合し、また、イミド系官能基(A)には、さらに3官能モノマBBB又は2官能モノマBAが結合し、結合点には、それぞれ、新たにイミド基(A−B)が形成される。以下、このような反応を順次繰り返すことにより、成長した高分子鎖が相互に架橋された架橋ネットワーク型のプレポリマが得られる。
上述した原料モノマに代えて、対応する原料ポリマを用いた場合も、同様である。
【0045】
[1.4.5. 具体例5]
4個以上の反応性末端基を持つ原料モノマ又は原料ポリマをを用いて合成する場合も同様であり、原料モノマ又は原料ポリマのいずれかに、少なくとも2個の反応性末端基Aと、少なくとも2個の反応性末端基Bとを含む場合には、高分子鎖が相互に架橋された架橋ネットワーク型のプレポリマが得られる。
また、一分子内に2個以上の反応性末端基Aと2個以上の反応性末端基Bを持つ原料モノマ又は原料ポリマの場合、これらのいずれか1種を用いて架橋ネットワーク型のプレポリマを合成することができる。
【0046】
[1.5. b/a比]
1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを用いて高い溶媒可溶性を有する架橋ネットワーク型のプレポリマを合成するためには、これらの原料の配合比率を最適化する必要がある。
架橋ネットワーク型のポリマを合成する場合において、原料に含まれる反応性末端基Aのモル数と、反応性末端基Bのモル数とが同一であるときには、理想的には、すべての反応性末端基A及び反応性末端基Bからイミド基が生成する。すなわち、無限網目が形成され、溶媒に対して難溶又は不溶であるポリマが得られる。
また、反応性末端基Aのモル数aと、反応性末端基Bのモル数bが同一でない場合であっても、配合比が理論値から大きく乖離していないときには、無限網目が形成される場合がある。従って、溶媒可溶性のプレポリマを合成する場合において、配合比は、いわゆるゲル化理論に従うのが良い。
【0047】
枝分かれ単位が2官能性モノマを経てつぎの枝分かれモノマに結合する確率をαとすると、(1−α)は分枝から出たある鎖がその先さらに分枝を通って伸びていない確率である。したがって枝分かれ点が3官能ならα>1/2、もし枝分かれ点がf官能性ならα>1/(f−1)の場合、分子は無限に続く。ちょうど無限網目ができはじめたゲル化点でのαをα0とすると、
α0=1/(f−1)
である。いま一方がf官能性と2官能性モノマの混合物、他方が2官能性モノマのみとする。たとえば、f=3なら、AAAや、AA、BBの反応により両端が枝分かれした下記のような鎖、
【0048】
【化4】

【0049】
ができるが、その生成確率とモノマの反応率の関係を考えてみる。Aの初期濃度[A]0中のf官能性モノマに属するものの分率をρとする。AおよびBの官能基の反応率がpA、pBとなった段階では、上記のような両端がf官能性モノマに結合した鎖のできる確率は、
A{pB(1−ρ)pA}nBρ (n=0〜∞)
になり、したがってnに無関係に任意の鎖の両端が枝分かれ点につながった確率、すなわちαは、
【0050】
【数1】

【0051】
になる。反応系のはじめのAおよびBの官能基濃度比をγとすると、pB=γpAで、この式を上式に入れて、
α=γpA2ρ/{1−γpA2(1−ρ)}=pB2ρ/{γ−pB2(1−ρ)}
が誘導される。したがって、pA、pBを実測してαを求めることができるし、ゲル化点では、α0=1/(f−1)であるから、γ、ρが既知であればゲル化点のpAまたはpBが予測できる。(高分子学会編、「高分子科学の基礎」、p250〜251、東京化学同人(1978)参照。)
【0052】
例えば、3官能モノマAAAと、2官能モノマBBからプレポリマを合成する場合において、反応率を1と仮定する。この場合、1モルの反応性官能基Aに対して反応性官能基Bの比率が0.5モル以上2モル以下になるように原料を配合すると、無限網目が形成されやすくなる。また、1モルの反応性官能基Aに対する反応性官能基Bの比率が0.8モル以上1.2モル以下になるように原料を配合すると、さらに無限網目が形成されやすくなる。
【0053】
同様に、4官能モノマAAAAと、2官能モノマBBを用いてプレポリマを合成する場合において、反応率を1と仮定する。この場合、1モルの反応性官能基Aに対して反応性官能基Bの比率が0.3モル以上3モル以下となるように原料を配合すると、無限網目が形成されやすくなる。また、1モルの反応性官能基Aに対する反応性官能基Bの比率が0.6モル以上1.5モル以下になるように原料を配合すると、さらに無限網目が形成されやすくなる。
【0054】
しかしながら、ゲル化点を超える組成比(無限網目が形成されやすくなる組成比)であっても、組成比以外の反応条件を最適化すると、無限網目の形成が抑制され、高い溶媒可溶性を持つプレポリマが得られる。
組成比以外の無限網目の形成を妨げる方法としては、例えば、
(1)反応中に原料溶液にせん断(例えば、攪拌、振とうなど)又は振動(例えば、超音波やホモジナイザーなどによる振動)を加える方法、
(2)原料溶液中の原料濃度を低くする方法(原料濃度は、1〜60wt%が好ましい。原料濃度は、さらに好ましくは、1〜40wt%、さらに好ましくは1〜20wt%)、
(3)反応時間を短くする方法、
(4)(1)〜(3)の組み合わせ、
などがある。
【0055】
反応に用いられる原料モノマ及び原料ポリマに含まれる反応性末端基A、Bの内、いずれか少ない方を反応性末端基Aと定義する場合(すなわち、a≦bである場合)、反応性末端基Aのモル数aに対する、反応性末端基Bのモル数bの比(=b/a)が1に近づくほど、無限網目が形成されやすくなる。
b/a比が大きくなるほど、無限網目の形成が抑制され、合成されるポリマの溶媒可溶性が増大する。しかしながら、b/a比が大きくなりすぎると、ポリマ内の架橋密度が低下する。
【0056】
高い溶媒可溶性と、高い架橋密度を兼ね備えたプレポリマを合成するためには、b/a比は、1以上4以下が好ましい。b/a比は、特に、1.05以上4未満が好ましい。
b/a比をこのような範囲とする場合において、高濃度の原料溶液を静置しながら長時間反応させる(従来のバッチ式製造方法)と、無限網目が形成されやすい。一方、b/a比がこのような範囲であっても、無限網目の形成を妨げる処理をしながら(例えば、原料モノマ及び/又は原料ポリマを含む原料溶液を攪拌しながら)反応させると、高い溶媒可溶性と高い架橋密度を兼ね備えたプレポリマを合成することができる。
【0057】
例えば、原料モノマとして、1,3,5−ベンゼントリスルホニルアミド(BTSA)、ヘキサフルオロ1,3−プロピルジスルホニルアミド(C3A)、及び、ヘキサフルオロ1,3−プロピルスルホニルジスルホニルフロライド(C3F)を用いる場合において、スルホニルアミド末端リッチのプレポリマを合成するためには、原料配合比は、
(1)BTSA:C3A:C3F=1:3.15〜4.5:4.5、又は、
(2)BTSA:C3A:C3F=1:3.0:2.25〜4.27、
が好ましい。
また、これらの原料を用いてスルホニルフロライド末端リッチのプレポリマを合成するためには、原料配合比は、
(3)BTSA:C3A:C3F=1:1.5〜3.0:4.5、又は、
(4)BTSA:C3A:C3F=1:3.0:4.5〜6.75、
が好ましい。
【0058】
[1.6. 粒子サイズ]
通常、分子量数十万のポリマーが収縮して粒子状になった場合、おおよそ粒子径として30〜50nm位になると言われている。分子量数万の場合、粒子径は、数nm程度と推定される。「粒子サイズの平均値」とは、このようなポリマーが収縮して粒子状になった場合の粒子の大きさの平均値をいう。
粒子サイズの平均値は、以下の手順により測定することができる。
(1)測定しようとするポリマ(又は、プレポリマ。以下、同じ。)を10wt%以下、かつ粘度10mPa・s以下となるように溶媒に溶解させる。さらに、一晩以上、せん断又は振動を与えることによりポリマを分散させ、測定溶液を調製する。
(2)その測定溶液を動的光散乱式粒子径・粒度分布測定装置(溶媒中での粒子のブラウン運動の速度を測定し、その値から粒子サイズを算出する装置)を用いて粒子サイズの測定を行い、粒子分布の平均値(積算値50%の粒径d50)をポリマの粒子サイズの平均値とする。
【0059】
例えば、プレポリマを多孔膜に充填し、後架橋させる場合、一般に、プレポリマの粒子サイズが大きくなるほど、架橋密度が高くなる。このような効果を得るためには、プレポリマの粒子サイズの平均値は、1nm以上である必要がある。
一方、プレポリマの粒子サイズが大きくなるほど、プレポリマの溶媒可溶性が低下する。従って、プレポリマの粒子サイズの平均値は、10μm以下である必要がある。また、多孔膜に充填する際、多孔膜の孔径以下でないと充填が困難であるため、粒子サイズの平均値は、さらに好ましくは、1μm以下である。
【0060】
[1.7. 溶媒可溶性]
上述の条件下で合成されたプレポリマは、高い溶媒可溶性を持つ。具体的には、本発明に係るプレポリマは、極性溶媒に対し、室温で40wt%以上の濃度で溶解又は分散させることが可能な溶媒可溶性を持つ。また、反応条件を最適化すると、誘電率20以上の非プロトン性極性溶媒に対し、室温で0.1〜90wt%まで溶解可能なプレポリマが得られる。
【0061】
[1.8. 架橋密度]
本発明に係るプレポリマは、合成に使用される原料モノマ及び原料ポリマの種類、配合比率等の合成条件に応じて、その内部に架橋構造が導入される。
架橋密度は、合成条件を最適化することによって、調整することができる。一般に、プレポリマの架橋密度が高くなるほど、プレポリマの溶媒可溶性は低下する傾向にある。一方、プレポリマを用いて固体高分子電解質を合成する場合において、プレポリマの架橋密度が高くなるほど、合成される固体高分子電解質の架橋密度も高くなる。
プレポリマの架橋密度は、具体的には、0.1mmol/g以上が好ましく、さらに好ましくは、0.5mmol/g以上である。
【0062】
本発明に係るプレポリマは、架橋点がそのまま強酸基として機能するので、架橋密度の増加に伴い、電気伝導度も増加する。また、このようなプレポリマを用いて固体高分子電解質を合成する場合において、プレポリマの電気伝導度が高くなるほど、合成される固体高分子電解質の電気伝導度も高くなる。すなわち、従来の方法では困難であった、高い架橋密度と高い電気伝導度とを同時に達成することができる。電気伝導度は、合成条件を最適化することによって、調整することができる。
高い性能を有する固体高分子電解質を得るためには、プレポリマの電気伝導度は、具体的には、0.01S/cm以上が好ましく、さらに好ましくは、0.05S/cm以上である。
【0063】
[2. プレポリマの製造方法]
本発明に係るプレポリマは、1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを、無限網目の形成が妨げられる条件下で反応させることにより合成することができる。
【0064】
[2.1. 原料モノマの製造方法]
原料モノマは、市販されているか、あるいは、類似の分子構造を有する市販のモノマを出発原料に用い、これに対して公知の方法を用いて所定の官能基変換を行うことにより合成することができる。
【0065】
例えば、3個のスルホニルフロライド基(ハライド系官能基)を備えた3官能モノマ「FO2S−CF2−C(F)(SO2F)−CF2−SO2F」は、次の反応式(a)〜(d)に示す手順により合成することができる。
【0066】
【化5】

【0067】
すなわち、まず、市販のモノマ「Cl−CF2−C(F)(Cl)−CF2−Cl」1gを165gのジメチルアセトアミド(DMAC)に溶解させる。次に、硫化カリウム(K2S、6.6g)と、イオウ(S、3.6g)と、フッ化セシウム(CsF、0.6g)を加え、窒素雰囲気下、190℃で6時間撹拌する。これにより、クロライド基がイオウ(Sx)に置換されたモノマ「Sx−CF2−C(F)(Sx)−CF2−Sx」が得られる(反応式(a))。
【0068】
次に、このモノマを、30%過酸化水素水溶液に室温で72時間浸漬させる。次いで、1規定硫酸で100℃×1時間の処理を行い、イオン交換水で洗浄する。これにより、末端のイオウ(Sx)がスルホン酸基(SO3H基)に置換されたモノマ「HO3S−CF2−C(F)(SO3H)−CF2−SO3H」が得られる(反応式(b))。
【0069】
次に、このモノマを、五塩化リン(PCl5)100g、オキシ塩化リン(POCl3)250gを入れた溶液に溶解させ、90℃で12時間反応させる。反応後、溶媒を除去し、四塩化炭素(CCl4)で洗浄する(60℃、3時間、撹拌)。これにより、末端のスルホン酸基(SO3H基)がスルホニルクロライド基(SO2Cl基)に置換されたモノマ「ClO2S−CF2−C(F)(SO2Cl)−CF2−SO2Cl」が得られる(反応式(c))。
【0070】
さらに、このモノマを、乾燥テトラヒドロフラン(300ml)にジメチルアミノサルファトリフロライド((CH3)2NSF3)15gと一緒に溶解させ、45℃で48時間反応させると、目的のモノマ「FO2S−CF2−C(F)(SO2F)−CF2−SO2F」が得られる(反応式(d))。
【0071】
また、例えば、3個のスルホニルクロライド基(ハライド系官能基)を備えた3官能モノマ「1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド」は、次の反応式(e)〜(f)に示す手順により合成することができる。
【0072】
【化6】

【0073】
すなわち、まず、3Lの反応容器に、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩一水和物(C65SO3Na・H2O)495g(2.49mol)、濃硫酸(H2SO4)650g、硫酸ナトリウム(NaHSO4)370.5gを仕込み、300〜330℃で30分間反応させる。反応混合物を冷却後、水1.3L、水酸化ナトリウム(NaOH)310gを加え、アルカリ性とする。これを濃硫酸にてpH6に調整する。活性炭を加え、70℃で30分間撹拌し、熱時ろ過してろ液を5℃で一晩放置する。析出結晶をろ過し、ろ液を濃縮して結晶が析出し始めたところで止め、5℃で一晩放置する。析出した結晶をろ過、乾燥すると、1,3,5−ベンゼントリスルホン酸ナトリウム塩(収量576g、収率60.2%)が得られる(反応式(e))。
【0074】
次に、5Lの反応容器に、1,3,5−ベンゼントリスルホン酸ナトリウム550g(1.43mol)、塩化チオニル(SOCl2)2.5Lを仕込み、室温にてDMF330mlを30分かけて滴下する。滴下後、12時間加熱還流させる。反応混合物を冷却後、氷36kgに注加し、析出結晶をろ過し、水洗後乾燥する。得られた粗結晶を酢酸エチルにて再結晶させると、目的とするモノマ「1,3,5−ベンゼントリスルホニルクロライド(収量208g、収率37.8%)」が得られる(反応式(f))。
【0075】
ハライド系官能基を有する他のモノマも同様であり、上述と同一又は類似の手順により合成することができる。また、イミド系官能基を備えたモノマは、まず、上述と同一又は類似の手順によりハライド系官能基を備えたモノマを合成し、次いで、これをアンモニア、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)、ヘキサメチルジシラザンリチウム(LiHMDS)等と反応させ、ハライド系官能基の全部又は一部をイミド系官能基に変換することにより得られる。
【0076】
また、例えば、3官能メタンモノマ及び3官能フルオロメタンモノマの内、HC(SO2Cl)3、HC(SO2F)3、HC(SO2NH2)3、HC(SO2NHSiMe3)3、及びFC(SO2F)3の製造方法は、公知である(例えば、G.Kloter et al., Angew.Chem.Int.Ed.Engl., 19(11), 942(1980); Yagpol'ski et al., Z.Org.Farm.Khim., 1(3-4), 65(2003)等参照)。また、それ以外の3官能メタンモノマ及び3官能フルオロメタンモノマは、公知の方法と同様の方法で合成することができる。
【0077】
[2.2. 原料ポリマの製造方法]
原料ポリマは、市販されているか、あるいは、類似の分子構造を有する市販のポリマを出発原料に用い、これに対して公知の方法を用いて所定の官能基変換を行うことにより合成することができる。
例えば、PEEKにSO2Cl基を導入した直鎖型の原料ポリマは、
(1) PEEK10.6gをクロロ硫酸120mLに加えて、室温で2時間攪拌、反応させ、
(2) 反応物を氷水中にあけて中性になるまで水洗し、
(3) 少量のメタノールで洗った後、風乾する、
ことにより得られる(収量12.8g、収率80%、スルホン化率88%)。
次の(g)式に、合成スキームを示す。
【0078】
【化7】

【0079】
また、例えば、PEEKにSO2NH2基を導入した直鎖型の原料ポリマは、
(1) SO2Cl−PEEK:150mg(SO2Cl基0.375mmol相当)をテトラヒドロフラン(THF)30mLに加え、−100℃で液体アンモニア100mL中にゆっくり滴下し、
(2) そのまま3時間攪拌した後、室温で12時間攪拌、放置し、
(3) 溶媒を除き、1N塩酸水溶液を加えて析出した固体をろ過する、
ことにより得られる(収量140mg、収率90%)。
次の(h)式に、合成スキームを示す。
【0080】
【化8】

【0081】
また、例えば、PEEKにSO2NHSO2(CF2)3SO2NH2基を導入した直鎖型の原料ポリマ(PPDSA−PEEK)は、
(1) SO2Cl−PEEK:400mg(SO2Cl基1mmol相当)と大過剰のPPDSA:1.24g(4mmol)をDMAc:20mLに溶かし、
(2) これにTEA:2.5mLを加えて、80℃で24時間加熱、攪拌し、
(3) 放冷後、1N塩酸水溶液を加えて析出した固体をろ過する、
ことにより得られる(収量471mg、収率80%)。
次の(i)式に、合成スキームを示す。
【0082】
【化9】

【0083】
[2.3. 原料モノマ及び原料ポリマの反応]
原料モノマ及び原料ポリマは、そのまま反応させても良く、あるいは、適当な官能基変換を行った後に反応させても良い。
また、3種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを用いる場合、これらを同時に反応させても良い。あるいは、一部の原料を反応させ、得られた反応生成物と残りの原料を反応させても良い。
原料の配合比は、高い溶媒可溶性を有するプレポリマが得られるように、原料の種類に応じて最適な配合比を選択する。
【0084】
原料を溶解又は分散させるための溶媒は、原料の種類に応じて、最適なものを選択すれば良く、特に限定されるものではない。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル等の非プロトン性極性溶媒などがある。
また、溶液中に含まれる原料の濃度も特に限定されるものではなく、原料の種類に応じて最適なものを選択すればよい。
反応温度は、高い溶媒可溶性を有するプレポリマを効率よく合成可能な温度であればよい。反応温度は、具体的には、25〜90℃が好ましく、さらに好ましくは、40〜60℃である。
反応時間は、反応温度に応じて最適な時間を選択する。通常、反応時間は、1分〜500時間である。
【0085】
また、原料を反応させる際、これらに対し、反応性末端基Aと反応性末端基Bの反応速度を大きくする(すなわち、触媒作用を有する)試薬を加えても良い。このような試薬としては、具体的には、トリエチルアミン(TEA)、トリメチルアミン(TMA)、トリプロピルアミン(TPA)、トリブチルアミン(TBA)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(iPr2EtN)、ジアザバイシクロウンデセン(DBU)、カリウムt−ブトキシド等の塩基性化合物が好適である。触媒作用を有する試薬の量は、プレポリマの用途、要求特性等に応じて最適な量を選択する。試薬の量を最適化すると、混合液の粘度を調節することができる。
【0086】
反応は、原料モノマ及び原料ポリマの加水分解等の変質を防ぐために、Ar、N等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。また、反応温度、反応時間、及び反応時の圧力は、特に限定されるものではなく、原料の種類、混合液の濃度、触媒作用を有する試薬の種類及び量等に応じて最適な値を選択する。さらに、無限網目の形成を妨げるために必要であるときは、反応中に、原料溶液にせん断又は振動を加えるのが好ましい。
【0087】
反応が完了したところで、得られたプレポリマを取り出す。プレポリマには、未反応の反応性末端基A及び反応性末端基Bが含まれる。これらの末端基は、そのままの形で後述の架橋反応に用いられる。
なお、用途によっては、合成されたプレポリマの架橋点及び未反応の反応性官能基A及び反応性官能基Bの全部又は一部を酸基に変換しても良い。酸基に変換する方法としては、種々の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。具体的には、合成されたプレポリマを硝酸等の酸で処理してプロトン化する方法、合成されたプレポリマをアルカリ溶液でケン化し、次いで酸で処理してプロトン化する方法等が好適である。
【0088】
[3. プレポリマ溶液]
本発明に係るプレポリマ溶液は、本発明に係るプレポリマを溶媒に溶解又は分散させたものからなる。
プレポリマ溶液中には、1種類のプレポリマが含まれていても良く、あるいは、2種以上のプレポリマが含まれていても良い。
[3.1. プレポリマ]
プレポリマ及びその製造方法の詳細については、上述した通りであるので、説明を省略する。
【0089】
[3.2. 溶媒]
溶媒は、所定の条件下においてプレポリマを溶解又は分散可能なものであればよい。すなわち、溶媒は、極性溶媒であっても良く、あるいは、無極性溶媒であっても良い。また、溶媒が極性溶媒である場合、溶媒は、プロトン性極性溶媒であっても良く、或いは、非プロトン性極性溶媒であっても良い。
溶媒としては、具体的には、
(1)n−ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、四塩化炭素などの無極性溶媒、
(2)水、エタノール、プロパノール、酢酸などのプロトン性極性溶媒、
(3)アセトニトリル(MeCN)、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、ジクロロメタン、HCFC−225などの非プロトン性極性溶媒、
などがある。
これらの中でも、溶媒は、極性溶媒が好ましい。また、誘電率20以上(好ましくは、誘電率30以上)の非プロトン性極性溶媒は、室温におけるプレポリマの溶解度が大きいので、プレポリマ溶液の溶媒として特に好適である。
【0090】
プレポリマの溶解能が相対的に低い溶媒(例えば、水)の場合、均一なプレポリマ溶液を得るためには、溶媒にプレポリマを加えて超音波照射を行うのが好ましい。超音波照射後も均一なプレポリマ溶液が得られない場合には、オートクレーブを用いて加熱、攪拌するのが好ましい。
【0091】
[3.3. 濃度]
溶液中のプレポリマ濃度は、特に限定されるものではなく、目的に応じて任意に選択することができる。一般に、プレポリマの濃度が高くなるほど、合成される固体高分子電解質の密度が向上する。適切な条件下で合成されたプレポリマは、誘電率20以上の非プロトン性極性溶媒であれば、室温で90wt%まで溶解可能である。一方、プレポリマの濃度が高くなりすぎると粘度が増大し、溶液の取り扱いが煩雑となる。
【0092】
例えば、プレポリマ溶液を用いて充填膜を作製する場合において、高密度の充填膜を得るためには、プレポリマの濃度は、20wt%以上が好ましい。プレポリマの濃度は、さらに好ましくは、30wt%以上、さらに好ましくは、40wt%以上、さらに好ましくは、50wt%以上である。
一方、充填を容易化するためには、プレポリマの濃度は、80wt%以下が好ましい。プレポリマの濃度は、さらに好ましくは、70wt%以下、さらに好ましくは、60wt%以下である。
また、例えば、プレポリマ溶液を用いて触媒層を形成する場合、プレポリマの濃度は、1〜70wt%が好ましく、さらに好ましくは、5〜40wt%である。
なお、プレポリマ溶液を加熱して用いる場合、プレポリマの濃度は、90wt%以上100wt%未満でも良い。
【0093】
[3.4. 粘度]
プレポリマ溶液の粘度は、溶媒の種類や濃度、温度などを調節することにより、0.1〜200mPa・sの範囲で制御可能である。プレポリマ溶液の粘度は、用途に応じて、最適な値を選択するのが好ましい。
例えば、プレポリマ溶液を多孔膜へ充填する場合には、プレポリマ溶液の粘度は、100mPa・s以下が好ましい。一般に、濃度が同一である場合、溶媒の誘電率が高くなるほど、粘度が低くなる。また、濃度が70wt%を超えると、粘度が著しく増加する。
【0094】
[3.5. 架橋剤]
溶液中に含まれる1種又は2種以上のプレポリマが適量の反応性末端基Aと適量の反応性末端基Bの双方を備えている場合、架橋剤を用いることなく、プレポリマ間を直接、架橋することもできる。また、プレポリマが双方の末端基を備えている場合であっても、架橋剤を用いてプレポリマ間を架橋することもできる。
一方、例えば、反応性末端基Aが過剰となる条件下でプレポリマの合成が行われる場合、プレポリマの表面は、反応性末端基Aが過剰に結合している状態になっている。このようなプレポリマを用いて前駆体膜を形成した後、プレポリマ間を架橋させるためには、架橋剤を用いる必要がある。
架橋剤は、プレポリマの末端基と反応する反応性末端基を2個以上持つモノマ又はポリマであればよい。架橋剤としては、具体的には、
(1)C3Fなどのハライド系の原料モノマ、[n]−PC3FSI(−[(CF2)3SO2NHSO2]n−)(−SO2X末端)、ポリマ(−SO2X末端)、
(2)C3Aなどのイミド系の原料モノマ、[n]−PC3FSI(−[(CF2)3SO2NHSO2]n−)(−SO2NH2末端)、ポリマ(−SO2NH2末端)、
(3)イソシアネート、
などがある。
【0095】
架橋剤は、プレポリマと溶媒のみからなるプレポリマ溶液を用いて前駆体膜を作製した後、前駆体膜内に含浸若しくは拡散させても良く、あるいは、プレポリマ溶液中に予め添加されていても良い。
この点は、プレポリマ融液を用いる場合も同様であり、架橋剤は、プレポリマのみからなるプレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製した後、前駆体膜内に含浸若しくは拡散させても良く、あるいは、プレポリマ融液に予め添加されていても良い。
【0096】
[3.6. 用途]
本発明に係るプレポリマ溶液は、固体高分子電解質膜を製造するための原料、触媒層内電解質などに用いることができる。プレポリマ溶液又はプレポリマ融液を用いて電解質膜を製造する場合、製膜後にプレポリマの後架橋が行われる。プレポリマ溶液を用いた固体高分子電解質膜の製造方法については、後述する。
【0097】
[4. 固体高分子電解質膜]
[4.1. イミドネットワークポリマ(INP)]
本発明に係る固体高分子電解質膜は、後述する本発明に係る方法により得られる。
すなわち、本発明に係る固体高分子電解質膜は、プレポリマを後架橋することにより得られるイミドネットワークポリマ(INP)を含む。INPとは、高分子鎖間がイミド基を介して相互に架橋している架橋ネットワーク型の高分子電解質を言う。
本発明に係る固体高分子電解質膜は、
(1)このようなINPのみからなる膜、
(2)INPとフィブリル繊維等の補強材との複合膜、
(3)INPが多孔膜の空隙内に充填された充填膜、
のいずれであっても良い。
さらに、固体高分子電解質膜が充填膜である場合、充填膜の表面に、後述する方法により得られる表面層が形成されていても良い。
【0098】
高分子鎖間が相互にイミド基を介して架橋されたプレポリマを出発原料に用いてINPを製造する方法(プレポリマ法)は、モノマや架橋構造を持たないポリマを出発原料に用いてINPを製造する方法(従来法)に比べて、高密度な膜を作製できる。また、従来法に比べて架橋密度も高くなるので、膜の電気伝導度も向上する。
さらに、固体高分子電解質膜が充填膜である場合において、充填膜に表面層を形成すると、表面をさらに平坦化することができる。
【0099】
[4.2. 多孔膜]
固体高分子電解質膜が充填膜である場合、多孔膜の材料は、特に限定されるものではなく、目的に応じて種々の材料を用いることができる。
多孔膜の材料としては、具体的には、
(1)ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリイミド(PI)などの炭化水素系ポリマー、
(2)ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系ポリマー、
(3)多孔質シリカ、多孔質セラミックスなどの無機材料、
などがある。
【0100】
多孔膜の膜厚、気孔率、孔径等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な値を選択することができる。
例えば、多孔膜の膜厚が薄くなりすぎると、多孔膜の強度が不足し、膨潤・収縮に伴う電解質の寸法変化の抑制が不十分となる。また、多孔膜の膜厚が薄くなるほど、ハンドリングが困難となる。従って、多孔膜の膜厚は、5μm以上が好ましい。多孔膜の膜厚は、さらに好ましくは、10μm以上である。
一方、多孔膜の膜厚が厚くなりすぎると、電解質膜の抵抗が大きくなり、十分な性能が得られない。従って、多孔膜の膜厚は、500μm以下が好ましい。多孔膜の膜厚は、さらに好ましくは、100μm以下である。
【0101】
多孔膜の気孔率が低すぎると、膜全体に占める電解質の割合が低下し、抵抗が大きくなる。従って、多孔膜の気孔率は、30%以上が好ましい。多孔膜の気孔率は、さらに好ましくは、50%以上、さらに好ましくは、70%以上である。
一方、多孔膜の気孔率が大きくなりすぎると、多孔膜の強度が不足し、電解質膜の寸法安定性が低下する。従って、多孔膜の気孔率は、95%以下が好ましい。多孔膜の気孔率は、さらに好ましくは、90%以下である。
【0102】
多孔膜の孔径が小さくなりすぎると、プレポリマの充填が困難となる。従って、多孔膜の孔径は、0.1μm以上が好ましい。多孔膜の孔径は、さらに好ましくは、0.5μm以上である。
一方、多孔膜の孔径が大きくなりすぎると、充填したプレポリマや架橋後の電解質が気孔から脱落しやすくなる。従って、多孔膜の孔径は、5μm以下が好ましい。多孔膜の孔径は、さらに好ましくは、3μm以下である。
【0103】
多孔膜は、必要に応じて、表面処理を施しても良い。
例えば、プレポリマ溶液の溶媒として極性溶媒を用いる場合において、多孔膜が極性溶媒との馴染みが悪い場合には、多孔膜を親液化処理するのが好ましい。
親液化処理の方法としては、例えば、紫外線処理、プラズマ処理、コロナ処理、スパッタ処理など、一般的な樹脂の表面改質方法を適用することができる。
【0104】
[4.3. 表面層]
固体高分子電解質膜が充填膜である場合、充填膜の表面に、さらに表面層が形成されていても良い。
一般に、充填膜の表面に表面層を形成すると、充填膜の表面が平坦化され、触媒層との接触が良好となる。また、表面層を形成すると、多孔膜の繊維が膜表面に露出するのを抑制することができる。このような効果を得るためには、表面層の厚さは、0.01μm以上が好ましい。表面層の厚さは、さらに好ましくは、0.1μm以上である。
一方、表面層の厚さを必要以上に厚くしても効果が飽和し、実益がない。従って、表面層の厚さは、30μm以下が好ましい。表面層の厚さは、さらに好ましくは、5μm以下である。
【0105】
また、充填膜の膜厚Dに対する表面層の膜厚dの比(=d/D)が小さくなりすぎると、多孔膜表面の凹凸が残ったままとなり、界面抵抗が生じる。従って、d/D比は、2×10-5以上が好ましい。d/D比は、さらに好ましくは、3×10-3以上である。
一方、d/D比が大きくなりすぎると、効果が飽和し、実益がない。従って、d/Dは、6以下が好ましい。d/D比は、さらに好ましくは、2以下である。
【0106】
[5. 固体高分子電解質膜の製造方法]
本発明に係る固体高分子電解質膜の製造方法は、以下の構成を備えている。
(1)前記固体高分子電解質膜の製造方法は、
プレポリマを溶媒に溶解若しくは分散させたプレポリマ溶液、又は、前記プレポリマを溶融させたプレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製する膜化工程と、
前記前駆体膜内にある前記プレポリマ間を直接、又は、膜化と同時に若しくは膜化後に前記前駆体膜内に導入された架橋剤を介して架橋させる架橋工程と
を備えている。
(2)前記プレポリマは、以下の条件(a)〜(c)を満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを、無限網目の形成が妨げられる条件下で反応させることにより得られる。
(a)前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、それぞれ、1分子内に2個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含み、
前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマの内の少なくとも1種は、1分子内に3個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含む。
(b)前記反応性末端基A及び前記反応性末端基Bは、これらの反応によって、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンカルボンイミド基(−SO2NHCO−)、又はビスカルボンイミド基(−CONHCO−)を形成するものからなる。
(c)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性末端基Aと、少なくとも2個の前記反応性末端基Bとを含む。
(3)前記プレポリマは、粒子サイズの平均値が1nm以上10μm以下である。
原料モノマ及び/又は原料ポリマは、さらに以下の条件(d)を満たしていても良い。
(d)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマに含まれる前記反応性末端基Aのモル数aに対する、前記反応性末端基Bのモル数b(但し、a≦b)の比(=b/a)は、1以上4以下である。
【0107】
[5.1. 膜化工程]
膜化工程は、プレポリマ溶液又はプレポリマ融液を用いて、前駆体膜を作製する工程である。
【0108】
[5.1.1. プレポリマ、プレポリマ溶液、及び、プレポリマ融液]
プレポリマのみからなる前駆体膜を作製する場合、プレポリマの低粘度化は必ずしも必要ではない。一方、プレポリマが多孔膜の空隙内に充填された前駆体膜を作製する場合、まず、プレポリマを低粘度化する。次いで、低粘度化したプレポリマを多孔膜の空隙内に充填する。プレポリマを低粘度化する方法には、
(1)溶媒に溶解又は分散させてプレポリマ溶液とする方法、
(2)プレポリマを溶融させてプレポリマ融液とする方法、
(3)プレポリマ溶液を加熱する方法、
などがある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
また、プレポリマ溶液を用いて前駆体膜を作製する場合、プレポリマ溶液は、プレポリマと溶媒のみからなるものでも良く、あるいは、さらに架橋剤を含むものでも良い。
同様に、プレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製する場合、プレポリマ融液は、プレポリマのみからなるものでも良く、あるいは、さらに架橋剤を含むものでも良い。
プレポリマ、プレポリマ溶液及びプレポリマ融液に関するその他の点については、上述した通りであるので、詳細な説明を省略する。
【0109】
[5.1.2. 製膜方法]
プレポリマ溶液又はプレポリマ融液を用いた製膜方法には、以下のような方法がある。本発明においては、いずれの方法を用いても良い。
[5.1.2.1. INPのみからなる膜(塗布法)]
例えば、INPのみからなる膜を作製する場合、前駆体膜は、プレポリマ溶液又はプレポリマ融液を所定の厚さとなるように支持膜上に塗布することにより形成することができる。塗布方法は、特に限定されるものではなく、種々の方法を用いることができる。塗布方法としては、具体的には、ドクターブレード法、アプリケーター法、スプレー法、スピンコーター法などがある。
プレポリマ溶液の濃度は、特に限定されるものではなく、プレポリマ溶液の種類に応じて最適な濃度を選択することができる。
【0110】
[5.1.2.2. 充填膜]
多孔膜にプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を充填する方法には、以下のような方法がある。
(a)ディップ法:
ディップ法は、乾燥させた多孔膜をプレポリマ溶液に浸漬することにより、プレポリマ溶液を多孔膜に含浸させる方法である。空隙内にプレポリマ溶液を確実に充填するためには、多孔膜をプレポリマ溶液に浸漬した後、脱泡を行うのが好ましい。
プレポリマ溶液の濃度は、高密度の充填膜が容易に得られるように、プレポリマ溶液の種類に応じて最適な濃度を選択する。一般に、プレポリマ溶液の濃度が低すぎると、高密度の充填膜が得られない。一方、濃度が高すぎると、粘度が高くなり、プレポリマ溶液の空隙への充填が困難となる。従って、プレポリマ溶液の濃度は、20以上90wt%以下が好ましい。プレポリマ溶液の濃度は、さらに好ましくは、40wt%以上70wt%以下である。
【0111】
(b)溶媒置換法:
溶媒置換法は、置換溶媒を充填した多孔膜をプレポリマ溶液又はプレポリマ融液に浸漬し、置換溶媒と前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液とを置換する方法である。
多孔膜に充填する置換溶媒は、多孔膜と馴染みの良い溶媒であればよい。例えば、多孔膜がPTFEからなる場合、置換溶媒には、アセトン、エタノールなどを用いるのが好ましい。置換溶媒を確実に空隙内に充填するためには、多孔膜を置換溶媒に浸漬した後、真空脱泡を行うのが好ましい。
また、置換溶媒とプレポリマ溶液又はプレポリマ融液とを置換し、空隙内にプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を確実に充填するためには、置換溶媒が充填された多孔膜をプレポリマ溶液又はプレポリマ融液に浸漬した後、超音波と真空引きによって脱泡するのが好ましい。
プレポリマ溶液の濃度は、高密度の充填膜が容易に得られるように、プレポリマの種類に応じて最適な濃度を選択する。一般に、プレポリマ溶液の濃度が低すぎると、高密度の充填膜が得られない。一方、濃度が高すぎると、粘度が高くなり、置換溶媒とプレポリマ溶液との置換が困難となる。従って、プレポリマ溶液の濃度は、20wt%以上100%未満が好ましい。プレポリマ溶液の濃度は、さらに好ましくは、40wt%以上80wt%以下である。
【0112】
(c)加熱充填法:
加熱充填法は、40℃〜90℃の範囲で加熱することによって粘度を低下させたプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を多孔膜に含浸させる方法である。空隙内にプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を確実に充填するためには、多孔膜をプレポリマ溶液又はプレポリマ融液に浸漬した後、超音波と真空引きによって脱泡を行うのが好ましい。
プレポリマ溶液の濃度は、高密度の充填膜が容易に得られるように、プレポリマの種類に応じて最適な濃度を選択する。一般に、プレポリマ溶液の濃度が低すぎると、高密度の充填膜が得られない。一方、濃度が高すぎると、粘度が高くなり、プレポリマ溶液の空隙への充填が困難となる。従って、プレポリマ溶液の濃度は、20wt%以上100%未満が好ましい。プレポリマ溶液の濃度は、さらに好ましくは、40wt%以上90wt%以下である。
【0113】
(d)繰り返しディップ法:
繰り返しディップ法は、乾燥させた多孔膜をプレポリマ溶液に浸漬することにより、プレポリマ溶液を多孔膜に含浸させ、次いで、多孔膜を乾燥させ、プレポリマ溶液の溶媒を除する工程を複数回繰り返す方法である。ディップ法を2回以上繰り返すと、より高密度の充填膜が得られる。
【0114】
[5.2. 架橋工程]
架橋工程は、前駆体膜内にあるプレポリマ間を直接、又は、膜化と同時に若しくは膜化後に前駆体膜内に導入された架橋剤を介して架橋させる工程である。
【0115】
上述したように、プレポリマは、高分子鎖間がイミド基を介して互いに架橋されており、かつ、架橋反応に消費されなかった反応性末端基が表面に存在する。そのため、プレポリマの合成条件によっては、プレポリマの表面に、適量の反応性官能基Aと適量の反応性官能基Bとが存在している場合がある。このようなプレポリマを含む前駆体膜の場合、必ずしも架橋剤を用いる必要はなく、直接、プレポリマ間を架橋させることもできる。
【0116】
一方、いずれか一方の反応性末端基が過剰となる条件下でプレポリマの合成が行われる場合、プレポリマの表面は、一方の反応性末端基が過剰に結合している状態になっている。このようなプレポリマを用いて前駆体膜を形成した後、プレポリマ間を架橋させるためには、架橋剤が必要となる。
【0117】
架橋剤は、プレポリマ溶液又はプレポリマ融液に予め添加することによって、膜化と同時に前駆体膜に導入しても良い。あるいは、架橋剤を含まないプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製した後、前駆体膜に架橋剤を導入しても良い。
さらに、プレポリマと架橋剤との架橋反応を促進させるためには、塩基性化合物共存下で反応させるのが好ましい。
架橋剤及び塩基性化合物の詳細については、上述した通りであるので説明を省略する。
【0118】
プレポリマ間を架橋させる方法としては、以下のような方法がある。
気相を介して架橋剤や塩基を導入する方法としては、
(1)前駆体膜を所定の温度に加熱し、架橋剤を含まない前駆体膜と、架橋剤及び塩基(例えば、アミンガス)を含むガスとを接触させ、プレポリマ間を架橋させる方法、
(2)前駆体膜を所定の温度に加熱し、架橋剤を含む前駆体膜(架橋剤を用いることなく、直接架橋させることが可能なプレポリマを含む前駆体膜を含む。以下、同じ。)と、塩基を含むガスとを接触させ、プレポリマ間を架橋させる方法、
などがある。
【0119】
また、液相を介して架橋剤や塩基を導入する方法としては、
(1)架橋剤を含まない前駆体膜と、架橋剤及び塩基(例えば、アミン)を含む溶液とを接触させ、次いで、前駆体膜を所定の温度に加熱し、プレポリマ間を架橋させる方法、
(2)架橋剤を含む前駆体膜の表面に、塩基を含む溶液をスプレー、超音波発生器等を用いて噴霧し、次いで、前駆体膜を所定の温度に加熱し、プレポリマ間を架橋させる方法、
(3)架橋剤を含む前駆体膜と、塩基を含む溶液とを接触させ、次いで、前駆体膜を所定の温度に加熱し、プレポリマ間を架橋させる方法、
などがある。
架橋剤や塩基を溶解させた溶液を用いて架橋反応を行わせる場合、溶媒には、プレポリマの溶解度が低い溶媒を用いるのが好ましい。このような溶媒としては、例えば、THF(誘電率:7.5)などがある。
【0120】
反応は、プレポリマの加水分解等の変質を防ぐために、Ar、N等の不活性雰囲気下で行うのが好ましい。また、反応温度、反応時間、及び、反応時の圧力は、特に限定されるものではなく、プレポリマの種類、架橋剤や塩基の種類及び量等に応じて最適な値を選択する。
【0121】
反応が完了したところで、得られた膜を取り出し、架橋点及び未反応の反応性末端基A及び反応性末端基Bを酸基に変換する。酸基に変換する方法としては、種々の方法を用いることができ、特に限定されるものではない。具体的には、合成された膜を硝酸等の酸で処理してプロトン化する方法、合成された膜をアルカリ溶液でケン化し、次いで酸で処理してプロトン化する方法等が好適である。
【0122】
[5.3. 表面層形成工程]
表面層形成工程は、固体高分子電解質膜が充填膜である場合において、膜化工程の後、架橋工程の前に、前駆体膜の表面にプレポリマからなる表面層を形成する工程である。
表面層形成工程は必ずしも必要ではないが、固体高分子電解質膜が充填膜である場合において充填膜の表面に表面層を形成すると、膜表面をさらに平坦化することができる。
【0123】
表面層を形成する方法には、以下のような方法がある。
(a)スリット法:
スリット法は、前駆体膜を、所定の間隔を有するスリットに通し、前駆体膜の表面に付着している余分なプレポリマを除去することにより、均一な前記表面層を形成する方法である。
多孔膜にプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を充填した場合、通常、多孔膜の表面には、余分なプレポリマが付着している。このような前駆体膜をスリットに通すと、余分なプレポリマが除去され、多孔膜の表面に均一な厚さを有する表面層を形成することができる。平滑な表面を得るためには、間隔が段階的に狭くなっている複数のスリットに前駆体膜を通すのが好ましい。
また、多孔膜にプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を充填した後、さらに粘度を調整したプレポリマ溶液に充填膜を浸漬し、充填膜の表面にプレポリマを厚く付着させても良い。このような前駆体膜をスリットに通すと、余分なプレポリマが除去され、多孔膜の表面に均一な厚さを有する表面層を形成することができる。
【0124】
(b)スプレー法:
スプレー法は、前駆体膜の表面に、プレポリマ溶液をスプレー塗布することにより、均一な前記表面層を形成する方法である。プレポリマ溶液をスプレー塗布した後、プレスなどによって表面を平滑化するのが好ましい。
(c)ドクターブレード法:
ドクターブレード法は、前駆体膜の表面にプレポリマ溶液を滴下し、ドクターブレードを用いて均一な表面層を形成する方法である。
(d)ローラー法:
ローラー法は、前駆体膜を回転するローラー中に通し、前駆体膜の表面に付着している余分なプレポリマを除去することにより、均一な表面層を形成する方法である。
(e)ワイヤーバー法:
ワイヤーバー法は、前駆体膜の表面をワイヤーバーでしごくことにより、均一な表面層を形成する方法である。
(f)接合法:
接合法は、塗布法、ドクターブレード法等を用いて支持膜上にプレポリマのみからなる均一な表面層を形成し、前駆体膜の表面に表面層を接合する方法である。
(g)アプリケーター法:
アプリケーター法は、前駆体膜の表面にプレポリマ溶液を滴下し、アプリケーターを用いて均一な表面層を形成する方法である。
(h)スピンコート法:
スピンコート法は、基材にセットされた前駆体膜の表面にプレポリマ溶液を滴下し、基材を回転させることで均一な表面層を形成する方法である。
【0125】
[6. 固体高分子電解質膜及びその製造方法の作用]
所定の条件を満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを反応させると、異なる原料モノマ又は原料ポリマに含まれる反応性末端基Aと反応性末端基Bとが反応し、異なる原料分子間の結合点には、ビススルホニルイミド基等の酸基が形成される。この時、無限網目が形成されにくい条件下で原料を反応させる(例えば、原料溶液に、せん断又は振動を加えながら反応させる)と、高い電気伝導度と、高い溶媒可溶性とを併せ持つプレポリマが得られる。
【0126】
得られたプレポリマを溶媒に溶解若しくは分散させたプレポリマ溶液、又は、プレポリマを溶融させたプレポリマ融液は、原料モノマや原料ポリマを溶解又は分散させた原料溶液に比べて、固形分濃度を高くすることができ、50wt%以上の濃度とすることも可能である。そのため、このようなプレポリマ溶液又はプレポリマ融液を用いて電解質膜をキャスト成膜し、あるいは、多孔膜に充填して充填膜とした後、プレポリマ間を架橋させると、従来のバッチ式作製方法に比べて、高密度な膜を作製できる。
また、モノマ溶液ごとゲル化反応させていた従来のバッチ式作製方法は、均一反応が困難であり、反応の制御が難しく、歩留まりも悪い。これに対し、プレポリマ法は、膜化後にプレポリマ間の架橋反応のみを行うため、均一反応が可能であり、反応の制御も容易であり、量産にも適合する。
さらに、多孔膜にプレポリマを充填した充填膜を作製する場合、膜表面に表面層を形成すると、膜表面をさらに平坦化することができる。
【実施例】
【0127】
[実施例1.1〜1.10:プレポリマの作製]
(実施例1.1)
2下でBTSA:1.38mmolとC3A:4.84mmolとC3F:6.25mmolとTEA:28.9mmolとを含むMeCN溶液を攪拌しながら、50℃で366時間反応させ、粘度の高い褐色溶液を得た。溶液をTHF中に滴下して再沈殿を行った。得られた沈殿を真空乾燥して溶媒を除去し、褐色透明のプレポリマを得た。
両末端がイミド基のポリマ(スペクトル112〜113.2ppm)の積分値を1として、19F NMRスペクトルによりプレポリマの末端の比率を求めた。得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が3.8%、SO3H末端が4.61%であった。
【0128】
(実施例1.2)
2下でBTSA:1.38mmolとC3A:4.14mmolとC3F:5.22mmolとTEA:27.4mmolとを含むTHF溶液を攪拌しながら、50℃で還流を行いながら92時間反応させ、粘度の高い褐色沈殿と黄色透明の上澄み液とを得た。沈殿と上澄みとをデカントで分離後、THFによる沈殿の攪拌洗浄を数回繰り返し、未反応物を除去した。その後、真空乾燥して溶媒を除去し、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が4.5%、SO3H末端が5.12%であった。
【0129】
(実施例1.3)
BTSA:1.38mmolとC3A:4.84mmolとC3F:6.23mmolとTEA:28.9mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が4.8%、SO3H末端が3.9%であった。
【0130】
(実施例1.4)
BTSA:1.38mmolとC3A:5.54mmolとC3F:6.23mmolとTEA:30.4mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が6.7%、SO3H末端が2.9%であった。
【0131】
(実施例1.5)
BTSA:1.38mmolとC3A:4.15mmolとC3F:5.62mmolとTEA:26.8mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が7.45%、SO3H末端が4.93%であった。
【0132】
(実施例1.6)
BTSA:1.38mmolとC3A:5.54mmolとC3F:5.03mmolとTEA:25.3mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が9.51%、SO3H末端が4.13%であった。
【0133】
(実施例1.7)
BTSA:1.38mmolとC3A:5.54mmolとC3F:4.16mmolとTEA:23.4mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が13.5%、SO3H末端が3.4%であった。
【0134】
(実施例1.8)
BTSA:1.38mmolとC3A:3.18mmolとC3F:6.25mmolとTEA:24.0mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
【0135】
(実施例1.9)
BTSA:1.38mmolとC3A:5.54mmolとC3F:7.22mmolとTEA:30.7mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
【0136】
(実施例1.10)
BTSA:27.7mmolとC3A:83.1mmolとC3F:105.9mmolとTEA:54.8mmolとを含むTHF溶液を用いた以外は、実施例1.2と同一条件下で反応を行い、プレポリマを得た。
得られたプレポリマの未反応末端の比率は、NH2末端が6.12%、SO3H末端が1.28%であった。プレポリマの粒子サイズの平均値は、2.63nmであった。
【0137】
[実施例2.1〜2.23:プレポリマ溶液]
実施例1.1〜1.10で得られた各種プレポリマを種々の溶媒に種々の濃度で溶解し、プレポリマ溶液を得た。なお、溶媒として水を用いた場合のみ、1分間の超音波照射を行った。
表1に、各プレポリマ溶液の粘度及び色を示す。表1より、プレポリマの濃度が高くなるほど、溶液の粘度が高くなることがわかる。
【0138】
【表1】

【0139】
[実施例3.1〜3.7:前駆体膜の作製]
(実施例3.1:ディップ法)
プレポリマ溶液には、実施例1.10で得られたプレポリマを濃度70wt%となるように、MeCN又はアセトンに溶解したものを用いた。また、多孔膜には、PE、PTFE、又は、親液化処理を行ったPTFEを用いた。
プレポリマ溶液に多孔膜を3分以上浸漬し、超音波と真空引き(各1分)によって脱泡を行い、前駆体膜を得た。
【0140】
(実施例3.2:ディップ法)
プレポリマ溶液の濃度を50wt%とした以外は、実施例3.1と同様にして、前駆体膜を得た。
【0141】
(実施例3.3:溶媒置換法(EtOH))
PTFE多孔膜をEtOHに浸漬し、真空脱泡して溶媒を充填した。次に、多孔膜を実施例3.1で作製した濃度70wt%のプレポリマ溶液に一晩浸漬した。以下、実施例3.1と同様にして、前駆体膜を得た。
【0142】
(実施例3.4:溶媒置換法(アセトン))
置換溶媒としてEtOHに代えてアセトンを用いた以外は、実施例3.3と同様にして、前駆体膜を得た。
【0143】
(実施例3.5:溶媒置換法(アセトン))
置換溶媒としてアセトンを用い、プレポリマ溶液の濃度を60wt%とした以外は、実施例3.3と同様にして、前駆体膜を得た。
【0144】
(実施例3.6:溶媒置換法(アセトン))
置換溶媒としてアセトンを用い、プレポリマ溶液の濃度を50wt%とした以外は、実施例3.3と同様にして、前駆体膜を得た。
【0145】
(実施例3.7:加熱充填法)
50℃に加熱した濃度100wt%のプレポリマ融液に多孔膜を浸漬した。以下、実施例3.1と同様にして、前駆体膜を得た。
【0146】
[実施例4.1〜4.3:表面層の形成]
(実施例4.1:スリット法)
実施例3.1で得られた前駆体膜を、間隔が610、230、127、76、又は、38μmであるスリットに速度20mm/sで順次通し、余分なプレポリマを除去した。その後、表面層形成膜をPTFE枠で固定し、中空で水平にして乾燥を行った。
【0147】
(実施例4.2:スリット法)
実施例3.1で得られた前駆体膜を、さらに濃度60wt%のプレポリマ溶液(溶媒:MeCN)に浸漬した。以下、実施例4.1と同様にして、前駆体膜の表面に表面層を形成した。
【0148】
(実施例4.3:スリット法)
実施例3.1で得られた前駆体膜を、さらに濃度63wt%のプレポリマ溶液(溶媒:MeCN)に浸漬した。以下、実施例4.1と同様にして、前駆体膜の表面に表面層を形成した。
【0149】
[実施例5.1〜5.6:前駆体膜の後架橋]
(実施例5.1)
実施例1.2で得られたプレポリマをMeCNに溶解し、濃度50wt%のプレポリマ溶液を得た。実施例3.2の方法を用いて、このプレポリマ溶液をPE多孔膜solupor(登録商標)5P09B(DSM社製)に含浸させ、前駆体膜を作製した。
得られた前駆体膜を真空乾燥器で乾燥(60℃、3時間)した。その後、オートクレーブ容器(5L)内に前駆体膜を保持して密閉し、90℃に昇温して、C3F:30mLとTMAとをゲージ圧が0.1MPaとなるまで導入した。この状態(90℃、TMA加圧0.1MPa)で18時間放置した後、N2フローしながら降温し、膜を取り出した。
【0150】
取り出した膜を洗浄液に浸漬し、攪拌しながら洗浄した。洗浄は、H2SO4/EtOH(v/v=1/9)、H2SO4/EtOH/超純水(v/v/v=1/4.5/4.5)、NaOH/超純水(w/w=1/9)、H2SO4/超純水(v/v=1/9)の順で液組成を変えながら行った。最後に膜を超純水に浸漬し、攪拌しながら洗浄した。洗浄後、膜を風乾させた。
得られた充填膜の重量増加率(初期多孔膜の重量W0に対する充填膜の重量増分ΔWの割合)は、355%であった。また、平面方向伝導度(25℃、RH20%)は、1.20×10-2S/cmであった。
【0151】
(実施例5.2)
オートクレーブ内での反応時間を88時間とした以外は、実施例5.1と同様にして充填膜を作製した。
得られた充填膜の重量増加率は、465%であった。また、平面方向伝導度(25℃、RH20%)は、1.62×10-2S/cmであった。
【0152】
(実施例5.3)
オートクレーブ内に導入するTMAの圧力を常圧とした以外は、実施例5.1と同様にして充填膜を作製した。
得られた充填膜の重量増加率は、483%であった。また、平面方向伝導度(25℃、RH20%)は、1.60×10-2S/cmであった。
【0153】
(実施例5.4)
プレポリマ溶液の濃度を60wt%とし、多孔膜としてPE多孔膜solupor(登録商標)3P07A(DSM社製)を用いた以外は、実施例5.1と同様にして充填膜を作製した。
得られた充填膜の重量増加率は、650%であった。また、平面方向伝導度(25℃、RH20%)は、1.87×10-2S/cmであった。
【0154】
(実施例5.5)
プレポリマ溶液の濃度を60wt%とし、多孔膜としてPE多孔膜3P07Aを用いた以外は、実施例5.1と同様にして前駆体膜を作製した。次いで、実施例4.2と同様の手順に従い、前駆体膜の表面に表面層を形成した(スリット幅230μm)。以下、実施例5.1と同様にして充填膜を作製した。
得られた充填膜の重量増加率は、925%であった。また、平面方向伝導度(25℃、RH20%)は、2.04×10-2S/cmであった。
【0155】
(比較例1)
BTSA:18mmol、C3A:54mmolをN2下で秤量して反応容器に取り、MeCN:45.3g(モノマー濃度で37wt%に相当)を加えて攪拌した。その後、TEA:356.4mmolをゆっくり加えて、原料溶液を得た。原料溶液を、PE多孔膜3P07Aをセットした別の反応容器に加え、超音波照射しながら減圧脱泡を1分し、さらに減圧を1分行った。反応容器にC3F:81mmolを加えて、超音波照射を3分行った。さらに、振とうを100rpmで30分間行った。
反応容器内の原料を50℃で96時間以上反応させ、ゲル化させた後、90℃で24時間以上さらに静置した。
【0156】
取り出した膜を洗浄液に浸漬し、攪拌しながら洗浄した。洗浄は、H2SO4/EtOH(v/v=1/9)、H2SO4/EtOH/超純水(v/v/v=1/4.5/4.5)、NaOH/超純水(w/w=1/9)、H2SO4/超純水(v/v=1/9)の順で液組成を変えながら行った。最後に膜を超純水に浸漬し、攪拌しながら洗浄した。洗浄後、膜を風乾させた。
得られた充填膜の重量増加率は、300%前後であった。また、平面方向伝導度(25℃、RH20%)は、1.18×10-2S/cmであった。
比較例1に比べ、実施例5.1〜5.5は、重量増加率が高く、INPの充填量が多いため、平面方向伝導度が高くなった。
【0157】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明に係る固体高分子電解質膜及びその製造方法は、固体高分子型燃料電池用の電解質膜として特に好適であるが、本発明の用途はこれに限定されるものではなく、各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜及びその製造方法としても使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた固体高分子電解質膜の製造方法。
(1)前記固体高分子電解質膜の製造方法は、
プレポリマを溶媒に溶解若しくは分散させたプレポリマ溶液、又は、前記プレポリマを溶融させたプレポリマ融液を用いて前駆体膜を作製する膜化工程と、
前記前駆体膜内にある前記プレポリマ間を直接、又は、膜化と同時に若しくは膜化後に前記前駆体膜内に導入された架橋剤を介して架橋させる架橋工程と
を備えている。
(2)前記プレポリマは、以下の条件(a)〜(c)を満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを、無限網目の形成が妨げられる条件下で反応させることにより得られる。
(a)前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、それぞれ、1分子内に2個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含み、
前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマの内の少なくとも1種は、1分子内に3個以上の反応性末端基A及び/又は反応性末端基Bを含む。
(b)前記反応性末端基A及び前記反応性末端基Bは、これらの反応によって、ビススルホンイミド基(−SO2NHSO2−)、スルホンカルボンイミド基(−SO2NHCO−)、又はビスカルボンイミド基(−CONHCO−)を形成するものからなる。
(c)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマは、これらのいずれかに、少なくとも2個の前記反応性末端基Aと、少なくとも2個の前記反応性末端基Bとを含む。
(3)前記プレポリマは、粒子サイズの平均値が1nm以上10μm以下である。
【請求項2】
前記プレポリマは、以下の条件(d)をさらに満たす1種又は2種以上の原料モノマ及び/又は原料ポリマを反応させることにより得られるものである請求項1に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
(d)前記反応に用いられる前記原料モノマ及び前記原料ポリマに含まれる前記反応性末端基Aのモル数aに対する、前記反応性末端基Bのモル数b(但し、a≦b)の比(=b/a)は、1以上4以下である。
【請求項3】
前記プレポリマは、前記原料モノマ及び/又は前記原料ポリマを含む原料溶液に、せん断又は振動を加えながら反応させることにより得られるものである請求項1又は2に記載の固体高分子電解質の製造方法。
【請求項4】
前記反応性末端基A及び前記反応性末端基Bのいずれか一方は、−SO2X、又は−COX(但し、Xは、F、Cl、Br、I、又はOH)からなり、
他方は、−SO2NZ12、又は−CONZ12(但し、Z1、Z2は、それぞれ、H、M、又はSiMe3。Mは、金属イオン。)からなる
請求項1から3までのいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記プレポリマは、極性溶媒に対し、室温で40wt%以上の濃度で溶解又は分散させることが可能な溶媒可溶性を持つ請求項1から4までのいずれかに記載の固体高分子電解質の製造方法。
【請求項6】
前記膜化工程は、前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液を多孔膜に含浸させるものである請求項1から5までのいずれかに記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項7】
前記膜化工程は、
(a)乾燥させた前記多孔膜を前記プレポリマ溶液に浸漬することにより、前記プレポリマ溶液を前記多孔膜内に含浸させる方法(ディップ法)、
(b)置換溶媒を充填した前記多孔膜を前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液に浸漬し、前記置換溶媒と前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液とを置換する方法(溶媒置換法)、
(c)40℃〜90℃の範囲で加熱することによって粘度を低下させた前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液を多孔膜に含浸させる方法(加熱充填法)、又は、
(d)乾燥させた前記多孔膜を前記プレポリマ溶液に浸漬することにより、前記プレポリマ溶液を前記多孔膜に含浸させ、次いで、前記多孔膜を乾燥させ、前記プレポリマ溶液の溶媒を除する工程を複数回繰り返す方法(繰り返しディップ法)、
を用いて前記プレポリマ溶液又は前記プレポリマ融液を前記多孔膜に含浸させるものである請求項6に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項8】
前記膜化工程の後、前記架橋工程の前に、
前記前駆体膜の表面に、前記プレポリマからなる表面層を形成する表面層形成工程をさらに備えた請求項6又は7に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項9】
前記表面層形成工程は、
(a)前記前駆体膜を、所定の間隔を有するスリットに通し、前記前駆体膜の表面に付着している余分な前記プレポリマを除去することにより、均一な前記表面層を形成する方法(スリット法)、
(b)前記前駆体膜の表面に、前記プレポリマ溶液をスプレー塗布することにより、均一な前記表面層を形成する方法(スプレー法)、
(c)前記前駆体膜の表面に前記プレポリマ溶液を滴下し、ドクターブレードを用いて均一な前記表面層を形成する方法(ドクターブレード法)、
(d)前記前駆体膜を回転するローラー中に通し、前記前駆体膜の表面に付着している余分な前記プレポリマを除去することにより、均一な前記表面層を形成する方法(ローラー法)、
(e)前記前駆体膜の表面をワイヤーバーでしごくことにより、均一な前記表面層を形成する方法(ワイヤーバー法)、又は、
(f)支持膜上にプレポリマのみからなる均一な前記表面層を形成し、前記前駆体膜の表面に前記表面層を接合する方法(接合法)、
(g)前駆体膜の表面にプレポリマ溶液を滴下し、アプリケーターを用いて均一な表面層を形成する方法(アプリケーター法)、又は、
(h)基材にセットされた前駆体膜の表面にプレポリマ溶液を滴下し、基材を回転させることで均一な表面層を形成する方法(スピンコート法)
を用いて前記表面層を形成するものである請求項8に記載の固体高分子電解質膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1から9までのいずれかに記載の方法により得られる固体高分子電解質膜。

【公開番号】特開2012−158726(P2012−158726A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−21235(P2011−21235)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】