説明

固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム

【課題】固体高分子電解質膜との密着性に優れた膜補強用二軸延伸フィルムを提供する。
【解決手段】移動体用固体高分子形燃料電池に用いられる電解質膜の補強用二軸延伸フィルムであって、熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を主たる成分とし、厚み斑を10%以下、150℃で30分間熱処理後の縦横各方向の熱収縮率の絶対値が1%以下、縦方向及び横方向において、23℃におけるヤング率E23と90℃におけるヤング率E90との比E90/E23が0.85以上であり、少なくとも一方の面にアクリル樹脂を含有する易接着層が積層される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子形燃料電池における固体高分子電解質膜の補強材として用いられる二軸延伸フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点から燃料電池の開発が積極的に行われている。使用される電解質の種類により、固体高分子形、りん酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などの各種の燃料電池が知られている。これらの中でも、固体高分子形燃料電池は反応温度が比較的低く、かつ比較的低温でも高い出力密度か得られ、また電解質膜の固定が容易であることから、小型の家庭用電源等の定置用電源、ポータブル電源や自動車用電源等の移動体用電源としての用途が開かれつつあり、特に自動車移動体用途に積極的に開発が進められている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、分子中にプロトン(水素イオン)交換基を有する高分子樹脂膜を飽和状態にまで含水させた場合に、プロトン導電性電解質として機能することを利用した燃料電池である。固体高分子型燃料電池は、高分子イオン交換膜(陽イオン交換膜)からなる固体高分子電解質膜と、この電解質膜の両側にそれぞれ配置されるアノード側電極およびカソード側電極とを有した燃料電池構造体(燃料電池セル)を、セパレータによって挟持することにより構成されている(かかる構成体を単セルという)。アノード側電極に供給された燃料ガス(例えば水素)は、電極(触媒電極)上で水素イオン化され、適度に加湿された電解質膜を介してカソード側電極側へと移動する。その間に生じた電子が外部回路に取り出され、直流の電気エネルギーとして利用される。カソード側電極には、酸化剤ガス(例えば酸素ガスあるいは空気)が供給されているために、このカソード側電極において、前記水素イオン、前記電子および酸素が反応して水が生成される。
【0004】
固体高分子電解質膜としては、パーフルオロスルホン酸樹脂膜(例えば「Nafion」(デュポン社の登録商標))が使用されており、高分子イオン交換膜の抵抗率を小さくして高い発電効率が得られるようにするために、通常50〜100℃程度の温度条件で運転される。一方、固体高分子電解質膜には、導電率の向上や低コスト化が求められており、そのため極めて薄いフィルム状の素材であり、取り扱いが難しく、それぞれの電極との接合時や、複数の単セルを積層してスタックとする組み立て作業時等において、その周縁部にしわが発生してしまう等、スタックの構成部材の中で最も機械的強度が低いことが問題となっている。
【0005】
そこで、電解質膜を、補強材を用いて補強する検討が行われており、例えば特許文献1〜2がある。また、補強材としては、燃料電池のさらなるコストダウンのために薄膜化が要求されており、例えば特許文献3がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−65847号公報
【特許文献2】特開平10−199551号公報
【特許文献3】特開2008−234982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように固体高分子電解質膜には、しばしば補強材が用いられるが、近年新たに電解質膜との密着性のさらなる向上が要求されている。密着性の向上により、補強材と固体高分子電解質膜とが製造中や使用中に剥離して、これらの境界面からのガス(燃料ガスや酸化剤ガス)漏れを抑制することができる。また、燃料電池の耐久性そのものを向上することができる。
以上のような背景のもと、本発明の目的は、固体高分子電解質膜との密着性に優れた二軸延伸フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、主たる成分として熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を用いた二軸延伸フィルムにおいて、厚み斑を特定の数値範囲とすることによって、固体高分子電解質膜との密着性に優れた二軸延伸フィルムが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を主たる成分とし、厚み斑が10%以下である固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム
である。
【0010】
また、本発明の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルムは、
(2)温度150℃で30分間熱処理した後の縦方向および横方向の熱収縮率の絶対値がそれぞれ1.0%以下であること、
(3)縦方向および横方向において、23℃におけるヤング率E23と、90℃におけるヤング率E90との比E90/E23が0.85以上であること、
(4)少なくとも一方の面にアクリル樹脂を含有する易接着層が積層されてなること、
のうち、少なくともいずれか1つの態様を具備することによってさらに優れた固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0011】
また本発明は、
(5)移動体用固体高分子形燃料電池に用いられること、
の態様を具備するもの、好ましくは
(6)自動車移動体用固体高分子形燃料電池に用いられること、
の態様を具備するものを包含する。
【0012】
さらに本発明は、
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルムを含む固体高分子電解質膜、
および
(8)上記(7)に記載の固体高分子電解質膜を含む固体高分子形燃料電池、
を包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、固体高分子電解質膜との密着性に優れた二軸延伸フィルムを提供することができる。かかる二軸延伸フィルムにより補強された固体高分子膜を用いた燃料電池は、耐久性に優れるため、定置用燃料電池として好適に用いることができ、とりわけ移動体用燃料電池として好適に用いることができる。特に、自動車移動体に用いた際は、運転中に振動や衝撃が加わったとしても、安定して固体高分子電解質膜を固定することができ、かかる固体高分子電解質膜が損傷を受けにくいという作用効果を奏し、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳しく説明する。
[二軸延伸フィルム]
本発明の二軸延伸フィルムは、熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を主たる成分とするものである。ここで「主たる」とは、二軸延伸フィルムの質量を基準として、80質量%以上、好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%が熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂であることを表わす。
【0015】
<熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂>
本発明における熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂は、構成単位
【化1】

または
【化2】

を単独で、あるいは該単位と他の構成単位からなるポリマーである。かかる他の構成単位としては、例えば
【化3】

等が挙げられる。上記構成単位において、Aは直接結合、酸素、−CO−、−SO−または二価の低級脂肪族炭化水素基であり、Q及びQ’は同一であっても相違してもよく、−CO−または−SO−であり、nは0または1である。これらポリマーは、特公昭60−32642号公報、特公昭61−10486号公報、特開昭57−137116号公報等に記載されている。
【0016】
本発明においては、熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂としては、上記式[化2]を含む態様が好ましい(以下、かかる態様を、熱可塑性ポリエーテルエーテルケトン樹脂と呼称する。)。熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂が上記式[化2]を含む態様である場合は、上記式[化2]で表わされるユニットの含有量は、熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂の質量を基準として、好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上であり、このような態様とすることによって熱収縮率を本発明が好ましく規定する数値範囲としやすくなり、密着性により優れる。
【0017】
熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂は、上述の通り、それ自体公知であり、且つそれ自体公知の方法で製造することができる。
また、本発明における熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂は、温度380℃、見かけの剪断速度1000sec−1の条件における見かけの溶融粘度が500〜10000ポイズ、さらには1000〜5000ポイズの範囲にあるものが、製膜性に優れるため好ましい。
【0018】
<不活性粒子>
本発明の二軸延伸フィルムは、フィルムの取り扱い性を向上させるため、発明の効果を損なわない範囲で不活性粒子を含有することが好ましい。フィルムが不活性粒子を含有する態様とするためには、例えば熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂にあらかじめ不活性粒子を含有することが挙げられ、好ましい。その他、熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を溶融押出する工程において不活性粒子を添加するなど、公知の方法を採用することができる。
【0019】
かかる不活性粒子としては、例えば、周期律表第IIA、第IIB、第IVA、第IVBの元素を含有する無機粒子(例えば、カオリン、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、二酸化ケイ素(シリカ)など)や、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、架橋アクリル樹脂等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる有機粒子等を例示することができる。これらのうち、耐熱性が高い等の理由により無機粒子が好ましく、特にシリカ粒子が好ましい。
【0020】
かかる不活性粒子の平均粒径は、好ましくは0.01μm以上1μm以下、さらに好ましくは0.05μm以上2μm以下、特に好ましくは0.01μm以上0.05μm以下である。含有量は、二軸延伸フィルムの質量を基準として、好ましくは0.001質量%以上3.0質量%以下、より好ましくは0.002質量%以上1.0質量%以下、さらに好ましくは0.005質量%以上0.2質量%以下、特に好ましくは0.01質量%以上0.05質量%以下である。上記のような平均粒径および含有量の態様とすることによって、取り扱い性をより効率的に向上させることができ、また二軸延伸フィルムの機械特性(破断強度、破断伸度、ヤング率等)を低下させすぎることがない。
【0021】
また、本発明における不活性粒子は、その形状が球状であることが好ましく、不活性粒子の長径と短径との比(長径/短径)を粒径比としたときに、かかる粒径比は、好ましくは1.20以下、さらに好ましくは1.10以下、特に好ましくは1.05以下であり、取り扱い性をさらに優れたものとすることができる。
【0022】
<その他の添加剤>
本発明における熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂には、流動性改良などの目的でポリアリーレンポリエーテル、ポリスルホン、ポリアリレート、ポリエステル、ポリカーボネート等の樹脂をブレンドしても良く、また安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の如き添加剤を含有させても良い。
【0023】
[二軸延伸フィルムの製造方法]
本発明の二軸延伸フィルムは、機械軸方向(以下、縦方向またはMDと呼称する場合がある。)と、機械軸方向に垂直な方向(以下、横方向またはTDと呼称する場合がある。)の二軸方向に延伸されたものであるが、このように二軸延伸することにより機械特性(破断強度、破断伸度、ヤング率等)が向上し、固体高分子電解質膜の補強材としての補強効果を発現することができる。かかる二軸延伸は、同時二軸延伸、逐次二軸延伸の何れでも良いが、厚み斑をより良好にできるという観点から、逐次二軸延伸が好ましく、延伸の順序は、先に縦延伸を実施し、次いで横延伸を実施するのが、厚み斑をより良好にでき、また生産性の点からも好ましい。
【0024】
以下、本発明の二軸延伸フィルムの製造方法について説明する。
<押出工程>
熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂のペレットを押出機に投入し、(Tm+20)℃以上(Tm+90)℃以下の温度で加熱溶融し、シート状に押し出した後、冷却ロールに接触させる等により冷却固化して未延伸フィルムを得る。ここでTmは、示差走査熱量計(DSC)により求められる熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂の融点(単位:℃)を表わす。
【0025】
<延伸工程>
次いで、得られた未延伸フィルムを縦方向および横方向の二軸に延伸する。
縦方向の延伸(以下、縦延伸と呼称する場合がある。)は、温度(Tg−10)℃以上(Tg+45)℃以下、倍率1.5倍以上5.0倍以下で延伸する。延伸温度は、好ましくは(Tg)℃以上(Tg+30)℃以下であり、延伸倍率は、好ましくは2.0倍以上4.0倍以下、さらに好ましくは2.5倍以上3.5倍以下である。
【0026】
横方向の延伸(以下、横延伸と呼称する場合がある。)は、温度(Tg+10)℃以上(Tg+40)℃以下、倍率2.5倍以上5.0倍以下で延伸する。延伸温度は、好ましくは(Tg+15)℃以上(Tg+30)℃以下であり、延伸倍率は、好ましくは2.5倍以上3.5倍以下である。ここでTgは、DSCにより求められる熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂のガラス転移点温度(単位:℃)を表わす。
【0027】
縦方向および横方向の延伸条件(延伸温度および延伸倍率)を上記のような態様とすることによって、厚み斑をより良好な範囲とすることができる。延伸倍率を上げると、厚み斑は良化する傾向にある。また、同方向のヤング率が上昇する傾向にある。延伸温度が低すぎるとフィルム破断が生じ易くなる傾向にあり、また厚み斑が悪くなる傾向にあり、他方、延伸温度が高すぎると、いわゆるフロー延伸する傾向にあり、厚み斑が悪くなる傾向にある。
【0028】
ここで本発明においては、本発明の規定する厚み斑を達成するために、横延伸を複数の温度領域に分けて実施する必要が有り、この第1領域の温度と最終領域の温度とで、3℃以上60℃以下の温度差をつけることが必要である。温度差は大きすぎても小さすぎても厚み斑は劣る傾向にある。かかる温度差が小さすぎると、例えば横延伸温度が中程度にある場合は、延伸開始部で延伸応力が低く、延伸終了部(最終領域)で延伸応力が高くなる傾向であり、延伸応力の差が大きくなりバラツキが出やすくなるためか、厚み斑が悪くなる。他方、温度差が大きすぎる場合は、近接している領域で温度が大きく変化している為か、局所的な温度斑や温度のバラツキが生じやすくなるようであり、厚み斑が悪くなる。このような観点から、温度差の下限は、5℃以上が好ましく、10℃以上がさらに好ましく、17℃以上が特に好ましく、温度差の上限は、50℃以下が好ましく、40℃以下がさらに好ましく、30℃以下が特に好ましく、より好ましい厚み斑を達成することができる。
【0029】
横延伸工程において、第1領域と最終領域との温度差をつけるには、1の延伸ゾーンの中でゾーンの入口(第1領域)と出口(最終領域)とで温度差をつけてもよいし、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンを設けて最初の延伸ゾーン(第1領域)と最後の延伸ゾーン(最終領域)とで温度差をつけてもよい。ここでゾーンとは、テンター等においてシャッター等で区切られた1の領域を示す。いずれの場合も、第1領域と最終領域の間をさらに分割し、第1領域から最終領域に向かって温度を上昇させるのが好ましく、特に直線的に上昇させると良い。例えば、温度の異なる2以上の連続した延伸ゾーンの場合は、最初の延伸ゾーンと最後の延伸ゾーンの間に、さらに1以上の延伸ゾーンを設けることが好ましく、1以上10以下の延伸ゾーンを設けることがさらに好ましい。延伸ゾーンの合計を13以上とすることは、設備コストの面から不利である。
【0030】
延伸倍率は、最終領域を出た直後のフィルム幅を、第1領域に入る直前のフィルム幅で除した値が目標の延伸倍率となるようにすればよく、傾斜的にフィルム幅を増加させることが好ましく、特に直線的に増加させると良い。縦方向と横方向を同時に延伸する場合においても、同様に延伸の温度を複数段階に分け、この第1段階の温度と最終段階の温度とで温度差をつけるようにする。
【0031】
さらに本発明においては、上記のような延伸条件において、面積延伸倍率(縦延伸倍率×横延伸倍率)を5倍以上とすることが好ましく、7倍以上とすることがさらに好ましく、厚み斑をさらに良好にすることができる。面積延伸倍率が高すぎるとフィルムが破断しやすくなる傾向にあり、その上限は、好ましくは25倍以下、さらに好ましくは20倍以下、特に好ましくは15倍以下である。
【0032】
<熱固定工程>
次いで、上記にて二軸延伸されたフィルムに熱処理を施し、熱固定する。かかる熱固定は、(Tg+27)℃以上(Tm)℃以下、好ましくは(Tg+60)℃以上(Tm−30)℃以下、さらに好ましくは(Tg+90)℃以上(Tm−45)℃以下の温度で、1〜120秒、好ましくは2〜60秒の時間行う。
【0033】
熱固定条件(熱固定温度および熱固定時間)を上記のような態様とすることによって、厚み斑をより良好な範囲とすることができる。また、熱収縮率を本発明が好ましく規定する数値範囲とすることができる。熱固定温度が高すぎると厚み斑が悪くなる傾向にあり、他方、低すぎると熱収縮率が高くなる傾向にある。
【0034】
<熱弛緩処理>
次いで、上記にて熱固定されたフィルムについて、熱収縮率を調整するために幅方向に熱弛緩処理を行うことが好ましく、具体的には温度180℃以上320℃以下で、弛緩率1%以上7%以下の熱弛緩処理を行うことが好ましい。弛緩率が高すぎると、熱収縮率は低くなる傾向にあるが、フィルムの平面性に劣る傾向にある。他方、低すぎると、熱収縮率が高くなる傾向にある。このような観点から、弛緩率は、さらに好ましくは2%以上6%以下である。
かくして本発明の二軸延伸フィルムを得ることができる。
【0035】
[二軸延伸フィルムの特性]
<フィルム厚み>
本発明の二軸延伸フィルムのフィルム厚みは、好ましくは6μm以上125μm以下である。フィルム厚みが薄すぎる場合は、補強効果が低くなる傾向にある。他方、フィルム厚みが厚すぎる場合は、固体高分子燃料電池のサイズを小さくすることが難しくなる場合があり、またコストがかかるため好ましくない。このような観点から、フィルム厚みの下限は、さらに好ましくは18μm以上、特に好ましくは23μm以上である。他方、フィルム厚みの上限は、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下、特に好ましくは50μm以下である。
【0036】
<厚み斑>
本発明の二軸延伸フィルムは、厚み斑が10%以下である。厚み斑を上記数値範囲とすることによって、固体高分子電解質との密着性に優れたものとすることができる。厚み斑が大きすぎると密着性が劣る傾向にあり、このような観点から、厚み斑は、好ましくは5%以下、さらに好ましくは3%以下である。厚み斑の下限は小さいほど好ましく、理想的には厚み斑が0%であるが、実際には0.1%以上程度である。
厚み斑を上記数値範囲とするためには、延伸条件を前述した態様とすれば良い。とりわけ横延伸条件を上記した態様、すなわち複数の温度領域に分けて実施することが重要である。
【0037】
<ヤング率>
本発明の二軸延伸フィルムは、23℃において、縦方向および横方向のヤング率が3.0GPa以上であることが好ましい。23℃におけるヤング率が上記数値範囲にあると、固体高分子電解質膜の補強材としてより高い補強効果を発現することができる。このような観点から、ヤング率は、さらに好ましくは3.5GPa以上、特に好ましくは4.0GPa以上である。
【0038】
また、本発明の二軸延伸フィルムは、90℃において、縦方向および横方向のヤング率が3.0GPa以上であることが好ましい。90℃におけるヤング率が上記数値範囲にあると、固体高分子形燃料電池の動作温度(50〜100℃)において、より高い補強効果を発現することができる。このような観点から、ヤング率は、さらに好ましくは3.5GPa以上、特に好ましくは4.0GPa以上である。
【0039】
23℃におけるヤング率は、延伸条件(とりわけ延伸倍率)を調整することにより達成することができる。具体的には、ヤング率を上記数値範囲とするには、前述した延伸条件とすればよい。また、90℃におけるヤング率は、二軸延伸フィルムを構成する主たる成分として熱可塑性ポリエーテルケトンを用いた上で、前述の延伸条件を採用することにより達成することができる。
【0040】
また、本発明の二軸延伸フィルムは、常温付近と燃料電池の動作温度付近とでヤング率が変化しないことが好ましく、縦方向および横方向のそれぞれの方向において、23℃におけるヤング率E23と90℃におけるヤング率E90との比E90/E23が0.85以上であることが好ましい。かかる比はさらに好ましくは0.89以上、特に好ましくは0.93以上である。E90/E23の値が上記数値範囲にあると、密着性により優れる。これは、燃料電池が動作していないとき(温度は常温付近)と、動作しているとき(温度は動作温度付近)とでヤング率が大きく異なると、電池のオン/オフにより補強膜が徐々に劣化し、最終的には剥離してしまうためである。
【0041】
90/E23の値は、二軸延伸フィルムを構成する主たる成分として熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を用いた上で、延伸条件(とりわけ延伸倍率)および熱固定条件を前述した条件とすることによって達成することができる。
【0042】
<耐湿熱性(破断伸度保持率)>
本発明の二軸延伸フィルムは、含水状態にある電解質膜表面に接触しており、かつ50〜100℃程度の温度域で使用されることから、長時間そのような高温高湿度環境で使用しても破断伸度の低下が小さいことが好ましく、下記式(1)で表わされる破断伸度保持率が75%以上であることが好ましい。
破断伸度保持率(%)=(X/X)×100 ・・・(1)
(式(1)中、Xは、温度121℃、圧力2atm、湿度100%RHの条件で500時間処理後の破断伸度、Xは該処理前の破断伸度をそれぞれ表わす。)
【0043】
上記式(1)で表される破断伸度保持率が下限に満たない場合、高温高湿度の使用環境において長期に渡って補強材として充分な補強効果を保てなくなることがある。このような観点から、破断伸度保持率は、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。破断伸度保持率は高ければ高いほど好ましいが、本発明における二軸延伸フィルムは熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂が主たる成分であるため、通常100%以下である。
かかる耐湿熱性は熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を用いることにより達成され、かつ前述した延伸により分子を高配向させることによってさらに耐湿熱性に優れたものとすることができる。
【0044】
<熱収縮率>
本発明の二軸延伸フィルムは、温度150℃で30分間熱処理した後の縦方向および横方向の熱収縮率の絶対値がいずれも1.0%以下であることが好ましい。熱収縮率の絶対値は、さらに好ましくは0.7%以下、特に好ましくは0.5%以下である。すなわちかかる熱収縮率は、0に近い程好ましい。熱収縮率が上記数値範囲にあると、密着性に優れる。これは、燃料電池の動作温度においてフィルムが熱収縮してしまうと、電池のオン/オフの繰り返しにより徐々に剥離してしまうためである。熱収縮率が上記のような態様であると、かかる剥離を抑制することができ、結果として密着性に優れる。また、縦方向および横方向の熱収縮率が同時に上限を超える場合は、電解質膜との熱収縮率の差が大きくなりすぎ、固体高分子形燃料電池の製造時に電解質膜が破れる、あるいはしわが発生しやすくなる傾向にある。また、縦方向および横方向のいずれか一方が上限を超える場合は、かかる補強材を貼り合わせた電解質膜は、熱により歪みが生じやすく、電解質膜がカールし易くなる傾向にある。
【0045】
縦方向および横方向の熱収縮率の差は、0.6%以下であることが好ましく、0.2%以下であることがさらに好ましい。かかる熱収縮率差は0であることが理想的である。かかる熱収縮率差が上記数値範囲にあると、電解質膜に歪みが生じにくく、電解質膜の性能がより向上する。
【0046】
熱収縮率を上記のような態様とするには、二軸延伸フィルムを構成する主たる成分として熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を用い、前述した製造条件によりフィルムを製造すればよい。特に、延伸倍率を高くすると熱収縮率は高くなる傾向にあり、熱固定温度を高くすると熱収縮率は低くなる傾向にあり、弛緩率を高くすると熱収縮率は低くなる傾向にあり、これらを調整することが重要である。また、縦方向と横方向の熱収縮率差を上記数値範囲とするためには、主配向軸方向は比較的高延伸倍率とし、熱固定処理後、該方向に1〜7%の弛緩率で熱弛緩処理を行うことにより達成される。また主配向軸方向と直交する方向は、主配向軸方向よりも低延伸倍率とし、熱固定処理後、該方向には熱弛緩処理を行わないか、熱弛緩処理を行う場合は、主配向軸方向よりも弛緩率を低くするとよい。
【0047】
[易接着層]
本発明の二軸延伸フィルムは、少なくとも一方の面にアクリル樹脂を含有する易接着層が積層されていることが好ましい。これにより、固体高分子電解質膜との密着性をより高くすることができる。かかる易接着層は、両面に積層されてもよい。
【0048】
本発明の二軸延伸フィルムは、電解質膜の補強材として枠状の形状で電解質膜の周縁部と貼り合わせて使用される。固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両側に電極層が配置されており、電極層は電解質膜よりも寸法が小さく、本発明の二軸延伸フィルムからなる枠状の補強材は、通常触媒層の外縁を囲むように配置される。これらの電極層の外側にはさらに、電極層よりも寸法の大きい拡散層が配置されることから、二軸延伸フィルムからなる補強材の一方の面は電解質膜の周縁部と、もう一方の面は拡散層の周縁部とそれぞれ接する。本発明の二軸延伸フィルムが片面に易接着層を有する場合は、易接着層は電解質膜側にする。
【0049】
また、易接着層と電解質膜または拡散層とは、直接接合されても、接着剤層を介して接合されてもよい。本発明の二軸延伸フィルムが少なくとも電解質膜または拡散層のいずれかの層と強固に接合されることによって補強材としての性能がさらに高まる。接着剤層を介する場合、特に種類は限定されないが、電解質膜を構成するポリマー、具体的にはパーフルオロスルホン酸ポリマーを主成分とした接着剤が例示される。
【0050】
<アクリル樹脂>
易接着層に含有されるアクリル樹脂は、以下に例示するアクリルモノマーからなるアクリル樹脂を挙げることができる。すなわち、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等);2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のヒドロキシ含有モノマー;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート;アクリル酸、メタクリル酸等のモノマーを挙げることができる。これらモノマーは1種あるいは2種以上を共重合成分として用いることができる。特に好ましいアクリルモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0051】
かかるアクリル樹脂には、さらに共重合成分として、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸、スチレンスルホン酸及びその塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、第三級アミン塩等)等のカルボキシル基またはその塩を含有するモノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物のモノマー;ビニルイソシアネート、アリルイソシアネート、スチレン、αーメチルスチレン、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルトリアルコキシシラン、アルキルマレイン酸モノエステル、アルキルフマール酸モノエステル、アルキルイタコン酸モノエステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ブタジエン等を用いてもよい。かかる共重合成分の共重合割合は、0.1〜60モル%の範囲であることが好ましい。この共重合割合の上限は50モル%であることが更に好ましい。また、この共重合割合の下限は1モル%であることが更に好ましい。
【0052】
アクリル樹脂はアミド基を有することがさらに好ましい。アミド基を有するアクリル樹脂は、例えば以下のようなアミド基を有するアクリルモノマーを共重合成分としてアクリル樹脂中に導入することで得ることができる。
【0053】
アミド基を有するアクリルモノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N−アルキルメタクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリルアミド(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、N−アルコキシアクリルアミド、N−アルコキシメタクリルアミド、N,N−ジアルコキシアクリルアミド、N,N−ジアルコキシメタクリルアミド(アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基等)、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド、N−フェニルメタクリルアミド、アクリロイルモルホリン等を挙げることができる。
【0054】
アミド基を有するアクリル樹脂(以下、アクリル共重合体と呼称する場合がある。)には、少なくとも1種類の上記のアミド基を有するモノマーが含まれれば良い。アクリル共重合体中にアミド基が存在することで、電解質膜または拡散層、あるいは接着剤層との接着性がさらに良好となる。
【0055】
特に好ましいアミド基を有するアクリルモノマーとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−アルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルアクリルアミド、N,N−ジアルキルメタクリレート(アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロヘキシル基等)、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、アクリロイルモルホリンを挙げることができる。
【0056】
アクリル樹脂が、アミド基を有するアクリル共重合体である場合、アミド基を有するアクリル成分の共重合割合は、0.2〜20モル%の範囲であることが好ましい。この共重合割合の上限は10モル%であることが更に好ましく、5モル%であることが特に好ましい。また、この共重合割合の下限は1モル%であることが更に好ましく、2モル%であることが特に好ましい。アミド基を有するアクリル成分の共重合割合が上記範囲である場合、電解質膜または拡散層、あるいは接着剤層との接着性をさらに良好なものとすることができる。
【0057】
<その他のバインダー成分>
易接着は、上述のアクリル樹脂以外に、その他バインダー成分として、ポリエステル共重合体やウレタン樹脂等やそれらの変性体であるアクリル変性ポリエステル、アクリル変性ウレタン等が混合されても良い。好ましくはポリエステル共重合体との混合が挙げられる。ポリエステル共重合体との混合体である場合、混合割合はアクリル樹脂20〜80質量量%に対しポリエステル共重合体80〜20質量%であることが好ましい。
【0058】
易接着層には、耐熱性をより良好なものとするためにエポキシ、オキサゾリン、メラミン、イソシアネート、シランカップリング剤、ジルコ−アルミニウムカップリング剤等の架橋剤を添加しても良い。これらのうちエポキシが特に好ましい。
【0059】
[易接着層の形成方法]
易接着層の塗設に用いる塗布液は、水分散性または水性塗布液であることが好ましい。アクリル樹脂や他の添加物に影響を与えない限り、若干の有機溶剤を含んでいてもよい。この塗布液はアニオン型界面活性剤、カチオン型界面活性剤、ノニオン型界面活性剤等の界面活性剤を必要量添加して用いることができる。
【0060】
かかる界面活性剤としては水性塗布液の表面張力を40mN/m以下に低下でき、本発明のフィルムへの濡れを促進するものが好ましく、例えばポリオキシエチレン−脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸金属石鹸、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、第4級アンモニウムクロライド塩、アルキルアミン塩酸、ベタイン型界面活性剤等を挙げることができる。
【0061】
易接着層を形成する方法としては、例えば延伸可能な熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂フィルムの片面または両面に易接着層を形成する成分を含む水性塗布液を塗布した後、乾燥、延伸し必要に応じて熱処理することにより積層することができる。ここで延伸可能な熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂フィルムとは、結晶配向が完了する前の熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂フィルムと同義で使用され、未延伸フィルム、一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムを指す。これらの中でもフィルムの押出し方向(縦方向)に一軸延伸した縦延伸フィルムが特に好ましい。
【0062】
熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂フィルムへ塗布液を塗布する場合は、通常の塗工工程、すなわち二軸延伸後、熱固定したフィルムに該フィルムの製造工程と切り離した工程で行うと、埃、ちり等を巻き込み易い。かかる観点よりクリーンな雰囲気での塗布、すなわちフィルムの製造工程での塗布(いわゆるインラインコーティング)が好ましい。塗布方法としては、公知の任意の塗布方が適用できる。例えばロールコート法、グラビアコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、含浸法およびカーテンコート法などを単独または組み合わせて用いることが出来る。
【0063】
[用途]
本発明の二軸延伸フィルムは、動作温度が50〜100℃程度の固体高分子形燃料電池の固体高分子電解質膜の補強材(補強用フィルム)として用いられる。かかる固体高分子形燃料電池として、具体的には定置用燃料電池と移動体用燃料電池とを例示することができる。特に、本発明の二軸延伸フィルムは、電解質膜との密着性に優れることから、これを用いた固体高分子形燃料電池は耐久性に優れ、振動や衝撃が加わっても、補強材として十分な補強効果を発現することができ、移動体用燃料電池、例えば自動車移動体用燃料電池の固体高分子電解質膜の補強用フィルムとして好適に使用することができる。
【0064】
また、本発明の二軸延伸フィルムを固体高分子電解質膜の補強材として使用する場合は、2枚以上のフィルムを用いることができる。具体的には、電解質膜の周縁部を介した両面に、それぞれ1枚ずつフィルムを使用する態様が挙げられる。さらに、電解質膜の周縁部を介した両面に、それぞれ2枚以上のフィルムを重ね合わせて使用する態様が挙げられる。2枚以上のフィルムを重ね合わせる方向は、それぞれのフィルムのヤング率が高い方向を同じ方向に重ね合せてもよく、またランダムに重ね合せてもよいが、中でも、それぞれのフィルムのヤング率が高い方向を直交方向に重ね合わせることが好ましい。それぞれのフィルムのヤング率が高い方向を直交方向に重ね合わせることにより、いずれの方向から衝撃が加わっても、補強効果の高い補強材を提供することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を意味する。
【0066】
(1)ヤング率
フィルムを150mm長×10mm幅に切り出した試験片を用い、オリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用いて、温度23℃、湿度60%RHに調節された室内において、チャック間100mm、引張速度10mm/分、チャート速度500mm/分で引張試験を実施し、得られる荷重―伸び曲線の立ち上り部の接線よりヤング率を計算する。なお、縦方向のヤング率とはフィルムの縦方向(MD)を測定方向としたものであり、横方向のヤング率とはフィルムの横方向(TD)を測定方向としたものである。各ヤング率はそれぞれ10回測定し、その平均値を用いた。
また、90℃の温度雰囲気下におけるヤング率は、90℃の温度雰囲気に設定されたチャンバー内に試験片及びテンシロンのチャック部分をセットし、2分間静置後、上記の引張試験を行うことによって求めた。
【0067】
(2)耐湿熱性
フィルムを150mm長×10mm幅に切り出した短冊状の試料片を、温度121℃、圧力2atm、濡れ飽和モード、湿度100%RHに設定した環境試験機内に、500時間ステンレス製のクリップで吊り下げた。その後、試料片を取り出し、破断伸度を測定する。測定は5回行い、その平均値を求め、下記式(1)で表される破断伸度保持率を求めて、耐湿熱性を評価した。測定装置としてオリエンテック社製テンシロンUCT−100型を用い、ヤング率と同じ測定条件で行った。試験片の長片は、フィルムの主配向軸方向となるように切り出した。
破断伸度保持率(%)=(X/X)×100 ・・・(1)
(式(1)中、Xは、温度121℃、圧力2atm、湿度100%RHの条件で500時間処理後の破断伸度、Xは該処理前の破断伸度をそれぞれ表す)
【0068】
(3)熱収縮率
温度150℃に設定されたオーブン中に、フィルムの縦方向および横方向がマーキングされ、あらかじめ正確な長さを測定した長さ30cm四方のフィルムを無荷重で入れ、30分間保持処理した後取り出し、室温に戻してからその寸法の変化を読み取る。熱処理前の長さ(L)と熱処理による寸法変化量(ΔL)より、下記式(2)から縦方向および横方向の熱収縮率をそれぞれ求めた。
熱収縮率(%)=(ΔL/L)×100 ・・・(2)
【0069】
(4)接着性
電解質膜として50mm四方のパーフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社製:ナフィオン(登録商標)117)を用い、その片面に同サイズの本発明のフィルムを重ねて140℃で熱プレスにより接合した。フィルムが易接着層を有する場合は、易接着層が電解質膜と接するように重ねた。次いで、室温で1時間放置して、熱風乾燥機を用いて100℃で1時間放置するというサイクルを10回繰り返した後、得られた試験片の電解質膜側の面の角を指で10回こすり、電解質膜の剥離の有無を評価した。
◎:剥離なし。
○:微小な剥離が見られるも実用上問題ない。
×:剥離が見られ、実用上問題がある。
【0070】
(5)電解質膜の形状安定性
電解質膜として100mm四方のパーフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社製:ナフィオン117)を用い、その両面に枠状の本発明のフィルム(外周100mm×100mm、内周80mm×80mm)をそれぞれのフィルムの主配向軸方向が直交するように重ねて140℃で熱プレスにより接合した。次いで、室温で1時間放置して、熱風乾燥機を用いて100℃で1時間放置するというサイクルを10回繰り返した後、フィルム枠内の電解質膜のしわの状態を目視で観察し、形状安定性について以下の基準で評価した。
○:電解質膜の部分に目視で小さなしわ、波うち状の変形ともに観察されない。
△:電解質膜の部分に目視で波うち状の変形は見られないが、枠近辺に小さなしわが観察される。
×:電解質膜の部分に目視で波うち状の変形が観察される。
【0071】
(6)補強材の補強性能評価
(5)の電解質膜の形状安定性で作成した電解質膜及び補強材を振動試験機に固定し、90℃の雰囲気下で、振幅0.75mm(縦方向)、10Hz→55Hz→10Hzを60秒で掃引、これを1サイクルとして10サイクル行った後の、電解質膜のしわ、破れ、破損などの変化を目視で観察し、以下の基準で評価した。
○:電解質膜の部分にしわ、破れ、破損などの変化が観察されず、補強性能に優れている。
×:電解質膜の部分にしわ、破れ、破損の少なくともいずれか1つが観察され、補強性能が十分ではない。
【0072】
(7)フィルム厚みおよび厚み斑
フィルムの厚みを、縦方向および横方向に電子マイクロメーターを用いて0.5mの長さを測定し、かかる測定長のうち最高厚さ(単位:μm)と最低厚さ(単位:μm)との差と、平均厚み(単位:μm)との比(百分率)を求め、厚み斑(単位:%)として求めた。縦方向および横方向の厚み斑を測定値とした。
【0073】
[実施例1、2]
熱可塑性ポリエーテルエーテルケトン(ビクトレックス社製:ポリエーテルエーテルケトン381G)に、不活性粒子として平均粒径0.3μm、粒径比1.05の球状シリカ粒子を得られる二軸延伸フィルム質量に対して0.01質量%となるように添加し、160℃で4時間乾燥した後、押出機により380℃で溶融押出し、80℃に保持したキャスティングドラム上へキャストして、未延伸フィルムを作成した。次いで、表1に示す条件で縦方向、次いで横方向に逐次二軸延伸を行い、更に1表に示す条件で熱固定および熱弛緩処理することにより、厚さ38μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸延伸フィルムの特性を表1に示す。
【0074】
[実施例3]
一軸延伸されたフィルムの片面に、塗布液を塗布すること以外は実施例2と同様にして38μm厚みの二軸延伸フィルムを得た。
なお、塗布は以下の如くとした。すなわち、一軸延伸されたフィルムの片面に、固形分濃度3質量%の水性塗布液Aをキスコート法にて4g/mのウェット塗布量で塗布した。水性塗布液Aは、固形分としてメチルメタクリレート70モル%/エチルアクリレート22モル%/N−メチロールアクリルアミド4モル%/N,N−ジメチルアクリルアミド4モル%で構成されているアクリル共重合体90質量%に、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(n=7)10質量%を混合して、イオン交換水により所定の固形分濃度に調整したものである。
得られた二軸延伸フィルムの特性を表1に示す。
【0075】
[比較例1]
不活性粒子として平均粒径0.3μmの球状シリカ粒子(粒径比1.05)を0.10質量%含有する、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN、ガラス転移点温度(Tg)=121℃)を170℃で5時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度55℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
この未延伸フィルムを表1に示す条件で縦延伸し、一軸延伸フィルムを得た。一軸延伸されたフィルムの片面に、実施例3と同様の水性塗布液Aをキスコート法にて、ウェット塗布量が4g/mとなるように塗工した。その後、表1に記載の条件で横方向に延伸、熱固定、熱弛緩処理を行い、フィルム厚み38μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0076】
[比較例2、3]
製膜条件を表1に記載の条件とする以外は実施例2と同様にして、フィルム厚み38μmの二軸延伸ポリエステルフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【0077】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明の二軸延伸フィルムは、固体高分子電解質膜との密着性に優れるため、それを用いた固体高分子燃料電池は耐久性に優れ、移動体用燃料電池として好適に用いることができる。特に自動車移動体に搭載された場合は、運転中に振動や衝撃が加わったとしても、安定して固体高分子電解質膜を固定することができ、該電解質膜の損傷を抑制することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性ポリエーテルケトン樹脂を主たる成分とし、厚み斑が10%以下である固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム。
【請求項2】
温度150℃で30分間熱処理した後の縦方向および横方向の熱収縮率の絶対値がそれぞれ1.0%以下である請求項1に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム。
【請求項3】
縦方向および横方向において、23℃におけるヤング率E23と、90℃におけるヤング率E90との比E90/E23が0.85以上である請求項1または2に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム。
【請求項4】
少なくとも一方の面にアクリル樹脂を含有する易接着層が積層されてなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム。
【請求項5】
移動体用固体高分子形燃料電池に用いられる請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム。
【請求項6】
移動体が自動車移動体である請求項5に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の固体高分子電解質膜補強用二軸延伸フィルムを含む固体高分子電解質膜。
【請求項8】
請求項7に記載の固体高分子電解質膜を含む固体高分子形燃料電池。

【公開番号】特開2011−3289(P2011−3289A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143085(P2009−143085)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】