説明

固体高分子電解質膜補強用積層フィルム

【課題】加工性、柔軟性、耐久性に優れた固体高分子電解質膜補強用フィルムを提供する。
【解決手段】固体高分子電解質膜の補強用に用いる積層フィルムであって、該積層フィルムが、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(A)とフッ素樹脂を含む層(B)とが積層されてなることを特徴とする固体高分子電解質膜補強用積層フィルム。該積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率が1.0GPa以上、2.5GPa以下であり、厚みが100μm以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる固体高分子電解質膜の補強用積層フィルムに関する。さらに詳しくは、加工性、柔軟性、耐久性に優れた固体高分子電解質膜補強用積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プロトン伝導性の固体高分子膜を電解質として用いる固体高分子形燃料電池の研究が進んでいる。この固体高分子形燃料電池は作動温度が低く、小型かつ軽量で、高効率で高出力密度を有するという特徴をもつため、車載用電源や家庭据置用のコジェネレーションシステム等として期待されている。
【0003】
この固体高分子形燃料電池に現在検討されている固体高分子膜は、厚さが50〜100μm程度のプロトン伝導性イオン交換膜であり、特に「ナフィオン」(デュポン社の登録商標)に代表さるスルホン酸基を含有するパーフルオロスルホン酸からなる陽イオン交換膜が広く検討されている。
【0004】
しかしながら、燃料電池を車載用電源やコジェネレーションシステム等の用途に使用するためには、スタック枚数の増加、固体高分子膜の膜抵抗の低減、膜の水分保持管理、低コスト化などの必要性から、固体高分子膜の薄膜化が要求されているが、薄い膜とすればコシが不足するために取り扱いが難しく、それぞれの電極との接合時、複数の単電池を積層してスタックとして組み合わせる組み立て作業時等の際に、その周縁部に皺が発生してしまうことがしばしば生じ、スタックの構成部材の中で最も機械的強度が低いことが生産性の点で問題となっている。
【0005】
そこで、特許文献1には、燃料電池セルの周縁部に、電解質膜を機械的に補強するとともに、電解質膜との境界面から燃料ガスや酸化剤ガスが漏れないように気密に接合された補強枠を備えること、また補強枠として、動作温度においても所要の機械的強度,耐食性等を有するものが好ましく、一例としてポリカーボネート、その他ポリエチレンテレフタレート、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の熱硬化性のプラスチック、チタン等の耐食性金属、あるいはカーボンを用いたものが記載されている。また、特許文献2には、固体高分子電解質膜の両面に固定された多孔質体の外周端部に、気密性を有した枠部材を用いることが開示されており、補強材の具体的な材料としては、ポリカーボネート、エチレンプロピレン共重合体、ポリエステル、変性ポリフェニレンオキサイド、ポリフェニレンサルファイド、またはアクリロニトリルスチレン等の熱可塑性樹脂を用いたものが挙げられている。
【0006】
一方、特許文献3には高い機械的強度および加工温度・使用温度域において優れた耐熱寸法安定性を有し、また高湿度の使用環境において優れた加水分解性を有する、固体高分子電解質膜の補強用フィルムとして、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを主たる成分とする二軸配向ポリエステルフィルムが開示されている。
【0007】
また、特許文献4には燃料電池に使用されるシール一体型膜電極接合体において、シール部材の内部にシール部材よりも剛性の高い補強部材を有すること、該補強部材を構成する樹脂としてポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリプロピレン、ポリイミドが例示されている。
【0008】
このように、固体高分子電解質補強部材として、主として機械的強度面から種々の樹脂が候補として挙げられているのが現状である。それらの中で、ポリエステル樹脂は、高温・高湿状態で使用されるため耐加水分解性が十分でないことがあり、一方、ポリフェニレンサルファイドは耐加水分解性に優れるものの、柔軟性、加工性に乏しい問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−65847号公報
【特許文献2】特開平10−199551号公報
【特許文献3】特開2007−103170号公報
【特許文献4】特開2007−250249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の目的は、前記のような種々の問題点を解決すること、すなわち、加工性、柔軟性、耐久性に優れた固体高分子電解質膜補強用積層フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムは、主として次の構成を有する。すなわち、
(1)固体高分子電解質膜の補強用に用いる積層フィルムであって、該積層フィルムが、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(A)とフッ素樹脂を含む層(B)とが積層されてなることを特徴とする固体高分子電解質膜補強用積層フィルム、
(2)フッ素樹脂がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体であることを特徴とする(1)に記載の固体高分子電解質膜補強フィルム、
(3)該積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率が1.0GPa以上、2.5GPa以下である(1)または(2)に記載の固体高分子電解質膜補強用積層フィルム、
(4)該積層フィルムの厚みが100μm以上であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の固体高分子電解質膜補強用積層フィルム、である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムは、加工性、柔軟性、耐久性に優れることから、固体高分子電解質膜補強用フィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムについて説明する。
【0014】
本発明に用いられる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(A)を構成するポリフェニレンスルフィド(以下PPSと略称する場合がある)樹脂は、p−フェニレンスルフィド単位が90モル%以上、好ましくは、95モル%以上含む樹脂である。成分が90モル%未満では、ポリマーの結晶性や熱転移温度などが低く、PPSの特徴である耐熱性、耐薬品性、機械特性などを損なうことがある。
【0015】
上記PPS樹脂において繰り返し単位の10モル%未満、好ましくは5モル%未満であれば、共重合可能な他のスルフィド結合を含有する単位が含まれていても差し支えない。繰り返し単位の10モル%未満、好ましくは5モル%未満の繰り返し単位としては、例えば、3官能単位、エーテル単位、スルホン単位、ケトン単位、メタ結合単位、アルキル基などの置換基を有するアリール単位、ビフェニル単位、ターフェニレン単位、ビニレン単位およびカーボネート単位などが例として挙げられ、具体例として、下記の構造単位を挙げることができる。これらのうち一つまたは二つ以上共存させて構成することができる。この場合、該構成単位は、ランダム型またはブロック型のいずれの共重合方法であってもよい。
【0016】
【化1】

【0017】
本発明に用いられる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(A)は、かかるPPS樹脂をA層を構成する樹脂に対して90重量%以上含むことが好ましい態様である。10重量%未満であれば、PPS以外の熱可塑性樹脂を含有することが可能であり、例えば、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂などの各種ポリマーおよびこれらのポリマーの少なくとも1種を含むブレンド物を挙げることができる。
【0018】
また、無機または有機フィラー、滑剤、着色剤、紫外線吸収剤、相溶化剤などの添加剤を含むこともできる。
【0019】
PPS樹脂の溶融粘度は、溶融混練が可能であれば特に限定されないが、温度315℃で剪断速度200(1/sec)のもとで、100〜2000Pa・sの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは200〜1,000Pa・sの範囲である。
【0020】
本発明で用いるPPS樹脂は種々の方法、例えば、特公昭45−3368号公報に記載される比較的分子量の小さな重合体を得る方法、あるいは、特公昭52−12240号公報や特開昭61−7332号公報に記載される比較的分子量の大きい重合体を得る方法などによって製造することができる。
【0021】
本発明において二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムとは、前記ポリフェニレンスルフィド樹脂を溶融成形してシート状とし、2軸延伸、熱処理して得ることができる。
【0022】
該フィルムの配向度は、広角X線回折で2θ=20〜21度の結晶ピークについて求めた配向度OFが、End方向およびEdge方向で0.07〜0.50、Through方向で0.60〜1.00の範囲にあることが好ましい。
【0023】
また、該フィルムの厚さは、25〜250μmの範囲が好ましく、より好ましくは、50〜125μmである。
【0024】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムに用いる上記二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムは、フィルムの長手方向および幅方向の破断伸度が60%以上、150%以下であることが柔軟性、シール性の観点から好ましい。ここでフィルムの長手方向とは、フィルム製膜時の連続製膜方向を指し、MD方向と称することもある。また、幅方向とは、フィルム連続製膜方向に直交する方向を指し、TD方向と称することもある。
【0025】
かかる破断伸度は、より好ましくは、100%以上、150%以下である。破断伸度が60%未満の場合、積層フィルムの柔軟性が低下し、シール性が低下する場合がある。破断伸度が150%を超えると、積層フィルムの腰が弱くなり、加工性が低下する場合がある。
【0026】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムのフッ素樹脂を含む層(B)を構成するフッ素樹脂は、フッ素を含有するモノマーを重合または他の適当なモノマーと共重合させたものであれば特に制限はない。具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン(FEP)、ポリビニリデンフルオライド共重合体(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン共重合体(PCFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)などから選ばれる少なくともいずれかを用いることができる。なお、本発明においては、PPSとの接着性の観点から、ETFEを用いるのが好ましい。
【0027】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムは、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(A)とフッ素樹脂を含む層(B)とが積層されたものである。A/Bの2層構成で用いることが可能であるが、B/A/Bの3層構成が、加工性、柔軟性、耐久性の観点から好ましい。
【0028】
本発明においては、本発明の目的を阻害しない範囲で他の樹脂を含む層(C)がさらに積層されていてもよい。
【0029】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムを構成する層(A)および層(B)の厚みの割合は、(B層を構成する厚みの合計)/(A層を構成する厚みの合計)が0.5以上、10以下であることが好ましく、より好ましくは、1以上、5以下である。0.5未満の場合、柔軟性が十分に保てない場合があり、10を超えると、積層フィルムの腰が弱くなり、加工性が低下する場合がある。
【0030】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムは、フィルムの長手方向および幅方向のヤング率が1.0GPa以上、2.5GPa以下であることが加工性の観点から好ましい。ここでフィルムの長手方向とは、フィルム製膜時の連続製膜方向を指し、MD方向と称することもある。また、幅方向とは、フィルム連続製膜方向に直交する方向を指し、TD方向と称することもある。
【0031】
かかるヤング率は、より好ましくは、1.5GPa以上、2.0GPa以下である。ヤング率が1.0GPa未満の場合、積層フィルムの腰が弱くなり、加工性が低下する場合がある。ヤング率が2.5GPaを超えると、柔軟性が十分に保てず、シール性が低下する場合がある。
【0032】
上述のヤング率は、A層およびB層を前記の層厚みの範囲で積層し、また更にA層を後述する製膜方法で二軸延伸することにより得ることが可能となる。
【0033】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムの厚みは、高分子電解質膜の補強の観点から100μm以上が好ましく、より好ましくは150μm以上である。
【0034】
本発明の二軸配向ポリアリーレンスルフィドフィルム層(A)およびフッ素樹脂を含む層(B)を積層する方法は、特に限定されないが、接着剤を介さずに積層する方法が耐久性の観点から好ましく用いられる。接着剤を介さずに積層する方法としては、高温高圧下で両者を熱圧着する方法や、A層および/またはB層のフィルム表面にコロナ処理、グロー放電処理、プラズマ処理などの化学的、物理的処理を施したのち熱圧着して積層する方法などを用いることができる。
【0035】
本願発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムは、固体高分子電解質型燃料電池の固体高分子電解質膜の補強用フィルムとして好適に用いられる。補強用フィルムは、電解質膜の周縁部と貼り合わせて使用することができる。
【0036】
次いで、本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムの製造方法をフッ素樹脂としてETFEを例にとって説明するが、本発明は、下記の記載に限定して解釈されるものではない。
【0037】
本発明に用いる二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造は、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN-メチル-2ーピロリドン(NMP)などのアミド系極性溶媒中で、高温高圧下で反応させる。必要に応じて、トリハロベンゼンなどの共重合成分を含ませることも可能である。重合度調整剤として苛性カリやカルボン酸アルカリ金属塩などを添加し230〜280℃で重合反応させる。重合後にポリマーを冷却し、ポリマーを水スラリーとしてフィルターで濾過後、粒状ポリマーを得る。これを酢酸塩などの水溶液中で30〜100℃、10〜60分攪拌処理し、イオン交換水にて30〜80℃で数回洗浄、乾燥してPPS粉末を得る。この粉末ポリマーを酸素分圧10トール以下、好ましくは5トール以下でNMPにて洗浄後、30〜80℃のイオン交換水で数回洗浄し、5トール以下の減圧下で乾燥する。かくして得られたポリマーは、実質的に線状のPPSポリマーであるので、安定した延伸・製膜が可能になる。
【0038】
かくして得られた粉状あるいは粒状ポリマーをペレット化し、180℃で3時間以上真空乾燥したのち、押出機の溶融部を300〜350℃の温度、好ましくは320〜340℃に加熱された押出機に投入する。その後、押出機を経た溶融ポリマーをフィルター内に通過させ、その溶融ポリマーをTダイの口金を用いてシート状に吐出する。このフィルター部分や口金の設定温度は、押出機の溶融部の温度より3〜20℃高い温度にすることが好ましく、より好ましくは5〜15℃高い温度にする。このシート状物を表面温度20〜70℃の冷却ドラム上に密着させて冷却固化し、実質的に無配向状態の未延伸PPSフィルムを得る。
【0039】
次に、該シートを長手方向に2倍〜4倍、好ましくは3〜4倍、さらに好ましくは3〜3.4倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(MD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+40)℃、好ましくは(Tg+5)〜(Tg+30)℃の範囲である。
【0040】
MD延伸に続き、テンターなどで幅方向(TD方向)に3〜4倍、好ましくは3〜3.5倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸する(TD延伸)。延伸温度は、Tg(PPSのガラス転移温度)〜(Tg+30)℃、好ましくは、(Tg+5)〜(Tg+20)℃の範囲である。
【0041】
本発明の二軸配向PPSフィルムは、柔軟性の観点から面積倍率(MD方向の倍率とTD方向の倍率の積)として13倍以下が好ましく、12倍以下がより好ましく、11.5倍以下が更に好ましい。
【0042】
次に、この延伸フィルムを緊張下で熱固定する。本発明においては、2段以上の異なる温度の工程で行う方法がフィルム幅方向の厚みムラ、配向ムラ、平面性の観点から好ましい態様である。1段目の熱固定の最高温度は160〜220℃、好ましくは180〜220℃であり、処理時間は1〜15秒、好ましくは1〜10秒である。続いて行う後段の熱固定の最高温度は240〜280℃、好ましくは、260〜280℃である。さらにこのフィルムを240〜280℃、より好ましく260〜280℃で幅方向に弛緩処理する。弛緩率は、0.1〜8%であることが好ましく、より好ましくは2〜5%の範囲である。
【0043】
本発明に用いるETFE層は、ETFEを320℃〜350℃で溶融押出し、冷却ドラム上にキャストして製造する周知の方法、もしくは市販のフィルムを用いて形成することができる。
【0044】
次に、二軸配向PPSフィルムとETFE層を積層するには、あらかじめPPSフィルムおよびETFEフィルムの接着面をプラズマ処理したのち、高温高圧下で両者を熱圧着する方法を用いることができる。この場合、温度150〜250℃、圧力5〜50kg/cmが好ましい。
【0045】
3層積層の場合は、二軸配向PPSフィルムとETFEフィルムを積層したのち、もう1層のETFEをPPS側に積層してもよいし、3層重ねて同時に積層してもよい。
【0046】
かくして得られた積層フィルムは、固体高分子電解質型燃料電池の固体高分子電解質膜の補強用フィルムとして好適に用いることができ、特に、加工性、柔軟性、耐久性が要求される電解質膜の周縁部の補強部材として適している。
【実施例】
【0047】
物性値あるいは性質の測定方法あるいは評価方法は次のとおりである。
(1)ヤング率
ASTM−D882(1999)に規定された次の方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック社製AMF/RTA-100)を用いて、幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mmとなるようにセットし、25℃の温度で、55%RHの雰囲気条件下で引張速度300mm/分で引張試験を行う。
【0048】
ヤング率は、フィルム長手方向および幅方向についてそれぞれ五回測定を行い、算術平均して求められる。
【0049】
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×長さ150mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:25℃、55%RH
(2)破断伸度
ASTM−D882(1999)に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機(オリエンテック社製AMF/RTA-100)を用いて、幅10mmのサンプルフィルムをチャック間長さ50mmとなるようにセットし、25℃の温度で、相対湿度55%(55%RH)の雰囲気条件下で引張速度300mm/分で引張試験を行う。
【0050】
破断伸度は、フィルムの長手方向および幅方向についてそれぞれ五回測定を行い、算術平均して求められる。
【0051】
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
試料サイズ:幅10mm×試長間150mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:25℃、55%RH
(3)加水分解性(耐久性)
サンプルフィルムを幅10mm×長さ150mmに切り出した短冊状の試料片を、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内にステンレス製のクリップで吊り下げる。その後、10時間ごとに試料片を取り出し、破断強度を測定する。フィルム長手方向および幅方向についてそれぞれの方向について、処理時間10時間ごとにn数=5で破断強度を測定して、各方向の平均値を求め、下記式(1)で表わされる破断強度保持率を算出した。さらに期間ごとの縦方向及び横方向の破断強度保持率の平均値を求め、破断強度保持率が初期値の50%になるまでの半減期時間を求めて、耐加水分解性を下記基準で評価した。
【0052】
○:破断強度保持率の半減期が300時間以上
×:破断強度保持率の半減期が300時間未満
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロンAMF/RTA−100”
引張り速度:300mm/分
測定環境:25℃、55%RH
破断強度保持率(%)=(破断強度X/初期の破断強度X0)×100 ・・・(1)
(式中、破断強度Xは、121℃、2atm、100%RHの条件で所定時間処理後の破断強度(単位:MPa)、破断強度X0は処理前の初期の破断強度(単位:MPa)をそれぞれ表す)
(4)積層フィルム厚み
電子マイクロメータ(アンリツ(株)製の商品名「K−312A型」)を用いて針圧30gにてフィルム厚みを測定した。
(5)各層厚み
積層フィルムの各層厚みは、フィルムの小片をエポキシ樹脂(リファインテック(株)製の商品名「エポマウント」)中に包埋し、Reichert−Jung社製Microtome2050を用いて包埋樹脂ごと50nm厚さにスライスし、透過型電子顕微鏡(LEM−2000)により加速電圧100KVで測定して求めた。
(6)加工性
電解質膜として100mm四方のパーフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社製:ナフィオン117)を用い、その両面に枠状の積層フィルム(外周100mm×100mm、内周80mm×80mm)を重ねて140℃で熱プレスにより接合し、以下の基準で加工性を評価した。
加工性
○: 電解質膜の部分にしわ、破れ、破損などの変化が観察されず、加圧により補強部材の変形、位置ずれなどなく補強性能に優れている
×: 電解質膜の部分にしわ、破れ、破損の少なくともいずれか1つが観察され、加圧による補強部材の変形、位置ずれの少なくとも1つが観察され、補強性能が十分ではない
(7)シール性(柔軟性)
電解質膜として100mm四方のパーフルオロスルホン酸樹脂(デュポン社製:ナフィオン117)を用い、その両面に枠状の積層フィルム(外周100mm×100mm、内周80mm×80mm)を重ねて140℃で熱プレスにより接合し、燃料電池セルに組み込み、これを水没させセルの片側に圧縮空気を送り、反対側から気泡が発生するようにした。その際、圧縮空気の圧力を0MPaから徐々に上昇させていった。
【0053】
気泡が発生した圧力を求め、比較例2のETFEフィルムを用いた場合に対する相対評価によりシール性を評価した。
【0054】
○: ETFEフィルム対比で1倍以上
△: ETFEフィルム対比で0.5倍以上1倍未満
×: ETFESフィルム対比で0.5倍未満。
【0055】
(参考例1)PPS樹脂の重合
撹拌機付きの70リットルオートクレーブに、47.5%水硫化ナトリウム8,267.37g(70.00モル)、96%水酸化ナトリウム2,957.21g(70.97モル)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)11,434.50g(115.50モル)、酢酸ナトリウム2,583.00g(31.50モル)、及びイオン交換水10,500gを仕込み、常圧で窒素を通じながら245℃まで約3時間かけて徐々に加熱し、水14,780.1gおよびNMP280gを留出した後、反応容器を160℃に冷却した。仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たりの系内残存水分量は、NMPの加水分解に消費された水分を含めて1.06モルであった。また、硫化水素の飛散量は、仕込みアルカリ金属硫化物1モル当たり0.02モルであった。
【0056】
次に、p−ジクロロベンゼン10,235.46g(69.63モル)、NMP9,009.00g(91.00モル)を加え、反応容器を窒素ガス下に密封し、240rpmで撹拌しながら、0.6℃/分の速度で238℃まで昇温した。238℃で95分反応を行った後、0.8℃/分の速度で270℃まで昇温した。270℃で100分反応を行った後、1,260g(70モル)の水を15分かけて圧入しながら250℃まで1.3℃/分の速度で冷却した。その後200℃まで1.0℃/分の速度で冷却してから、室温近傍まで急冷した。
【0057】
内容物を取り出し、26,300gのNMPで希釈後、溶剤と固形物をふるい(80mesh)で濾別し、得られた粒子を31,900gのNMPで洗浄、濾別した。これを、56,000gのイオン交換水で数回洗浄、濾別した後、0.05重量%酢酸カルシウム水溶液70,000gで洗浄、濾別した。70,000gのイオン交換水で洗浄、濾別した後、得られた含水PPS粒子を80℃で熱風乾燥し、120℃で減圧乾燥した。得られたPPS樹脂は、溶融粘度が200Pa・s(310℃、剪断速度200/s)であり、ガラス転移温度が90℃、融点が280℃であった。
【0058】
(実施例1)
参考例1で作製した100重量部、平均粒径1.2μmの炭酸カルシウム粉末0.3重量部を配合し、180℃で3時間減圧乾燥した後、溶融部が320℃に加熱されたフルフライトの単軸押出機に供給した。押出機で溶融したポリマーを温度330℃に設定したフィルターで濾過した後、温度310℃に設定したTダイの口金から溶融押出して表面温度25℃のキャストドラムに静電荷を印加させながら密着冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。
【0059】
この未延伸フィルムを、加熱された複数のロール群からなる縦延伸機を用い、ロールの周速差を利用して、101℃の温度でフィルムの縦方向に3.5倍の倍率で延伸した。その後、このフィルムの両端部をクリップで把持して、テンターに導き、延伸温度101℃、延伸倍率3.5倍でフィルムの幅方向に延伸を行い、引き続いて温度200℃で4秒間熱処理(1段目熱処理)を行い、続いて260℃4秒間熱処理(2段目熱処理)を行った。引き続き、260℃の弛緩処理ゾーンで4秒間横方向に5%弛緩処理を行った後、室温まで冷却した後、フィルムエッジを除去し、厚さ50μm、破断伸度100%の二軸配向PPSフィルムを作製した。
【0060】
得られた二軸配向PPSフィルムに市販の厚さ50μmのETFE(旭硝子社製“アフレックス”)を二軸配向PPSとETFEの接触する側にプラズマ処理を実施したのち、ETFE/二軸配向PPS/ETFEの順に重ねて、温度200℃、圧力20kg/cmで加熱プレスロールにかけ積層フィルムを得た。
【0061】
得られた積層フィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この積層フィルムは、耐久性、加工性、柔軟性に優れたものであった。
【0062】
(実施例2)
実施例1において二軸配向PPSフィルムの厚みを75μmとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0063】
得られた積層フィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この積層フィルムは、耐久性、加工性、柔軟性に優れたものであった。
【0064】
(実施例3)
実施例1において、二軸配向PPSフィルムの厚みを25μmとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0065】
得られた積層フィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この積層フィルムは、耐久性、加工性、柔軟性に優れたものであった。
【0066】
(実施例4)
実施例1において、厚さ125μmの二軸配向PPSフィルムの厚みを125μmとし、厚さ25μmのETFE層の厚みを25μmとした以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0067】
得られた積層フィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この積層フィルムは、耐久性、加工性、柔軟性に優れたものであった。
【0068】
(実施例5)
実施例1で得られたPPSの未延伸フィルムを、縦方向に4.0倍の倍率で延伸し、その後、延伸倍率3.7倍でフィルムの幅方向に延伸した以外は実施例1と同様にして、厚さ50μm、破断伸度60%の二軸配向PPSフィルムを作製した。
【0069】
上記で得られた二軸配向PPSフィルムを用いた以外は、実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0070】
得られた積層フィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この積層フィルムは、耐久性、加工性、柔軟性に優れたものであった。
【0071】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で厚さ100μmの二軸配向PPSフィルムを作製した。
【0072】
得られた二軸配向PPSフィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであった。ETFE層を設けず、この二軸配向PPSフィルムのみ用いて評価を行ったところ、耐久性、加工性に優れるが、柔軟性が悪化した。
【0073】
(比較例2)
厚さ100μmのETFEのみを用いた場合の特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、このETFEフィルムは、耐久性、柔軟性に優れるが、加工性が悪化した。
【0074】
(比較例3)
実施例1で厚さ50μm、二軸配向PPSフィルムに代えて破断伸度50%のポリイミドフィルム(デュポン社製“KAPTON”)をETFEと積層した以外は実施例1と同様にして積層フィルムを作製した。
【0075】
得られた積層フィルムの特性についての測定、評価結果は、表1に示したとおりであり、この積層フィルムは、加工性、柔軟性に優れるが、耐久性が悪化した。
【0076】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の固体高分子電解質膜補強用積層フィルムは、加工性、柔軟性、耐久性に優れることから、固体高分子電解質膜補強用フィルムとして好適に用いることができる。

警告 1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体高分子電解質膜の補強用に用いる積層フィルムであって、該積層フィルムが、二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルム(A)とフッ素樹脂を含む層(B)とが積層されてなることを特徴とする固体高分子電解質膜補強用積層フィルム。
【請求項2】
フッ素樹脂がエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載の固体高分子電解質膜補強フィルム。
【請求項3】
該積層フィルムの長手方向および幅方向のヤング率が1.0GPa以上、2.5GPa以下である請求項1または請求項2に記載の固体高分子電解質膜補強用積層フィルム。
【請求項4】
該積層フィルムの厚みが100μm以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の固体高分子電解質膜補強用積層フィルム。