説明

固定クリーム

本発明は、好ましくは植物性の少なくとも1つの油及び/又は脂肪、セルロース誘導体の群から選択される少なくとも1つの水溶性ポリマー、並びに少なくとも1つのアルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーを含有し、含有されている前記植物油又は脂肪の脂肪酸部分は、少なくとも20重量%不飽和脂肪酸を含む、特に歯科補綴用に改善された固定クリーム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定クリーム組成物に関する。
【従来技術】
【0002】
多数の市販されている補綴歯用の固定クリーム組成物は、精製パラフィン、水溶性セルロース誘導体ポリマーと、アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーの混合物をベースとする。従来から、鉱物油及び鉱物脂、特にワセリンが使用されている。鉱物油及び鉱物脂は、一般的に、固定クリーム組成物のおよそ40重量%以上を占める。
【0003】
固定クリームは使用中に口の中でゆっくりと溶けるため、一方では、クリームの成分が、口及び咽頭の粘膜を介して体内に進入する可能性があり、他方では、成分が、唾液及び食品と共に消化管に到達し、その後全身に行きわたる場合がある。直近の研究結果によると、ワセリン及び鉱物油の基本成分は、完全には無害ではない。例えば、ワセリンは、新生児のブラストミセス症状態を促進すると考えられている。結果として、成体における否定的悪影響を排除することはできない。特に粘膜に対する鉱物油の常用には、注意が必要であると考えられる。したがって、鉱物油及び鉱物脂を置換することが望ましいであろう。
【0004】
接着性を向上させるために、一般的には、亜鉛含有物質が付加される。そのような市販の固定クリーム製品は、自社分析によると、1.7〜3.4重量%の亜鉛含有量を有する。特許文献1では、亜鉛含有量は、固定クリーム組成物の総量の1〜2.4重量%が推奨されている。また、生物が相当量の亜鉛化合物を吸収することは、以前は無害であると考えられていたが、最近になって、不可逆的中毒症状を引き起こすことがあることが知られるようになった。したがって、固定クリーム中の亜鉛化合物を常用すると、同様の影響がある可能性がある。歯科補綴装具使用者による中毒症状を予防するために、亜鉛化合物の付加が低減されている又は不要となる、優れた耐摩耗性及び保管性を兼ね備えた固定クリーム配合物の必要性が存在する。
【0005】
更に、例えば、固定クリームの生成に使用されることが多いGantrez(登録商標)MS955、メチルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマー等の、固定クリームの生成に使用される市販の基本生成物は、いずれにせよ微量の亜鉛不純物を含有している。分析より、この基本生成物は、1キログラム当たり4.8mgの亜鉛を含有することが示されている。その結果、これを用いて生成した固定クリームは、およそ2ppmの亜鉛含有量、しかし最大で4.8ppmの亜鉛を含有し得る。しかしながら、そのような基本生成物が含有し得る亜鉛化合物の割合は、上記で言及したように、市販の固定クリームにおいて測定される割合よりもはるかに低く、また、選択的な付加に由来するものである。
【0006】
メチルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーを有する現在使用されている配合物を、鉱物油及び/又はワセリン並びに追加的に含有される亜鉛化合物を、部分的に又は完全に排除できるように改変することができれば、健康に無害であると見なすことができる製品がもたらされるだろう。特に、植物油脂の使用は、消費者の現在の健康意識と一致するだろう。
【0007】
含有量及び定量的関連性が、固定クリームの特性を決定する。特性は、例えば、接着強度、接着持続期間、装着快適性、風味、稠性、安定性等を含む。接着持続期間や接着強度等の接着パラメーターを調節するために、所与の割合のZn2+化合物が、鉱物油に基づく市販商品に付加されている。接着強度及び接着持続期間は、特許文献2による亜鉛化合物の付加によりプラスの影響を受けており、したがって、亜鉛化合物の付加は、固定クリームの有用性に非常に重要である。
【0008】
上記で言及したように、精製鉱物油脂(ワセリン)等のパラフィンは、多くの市販固定クリームに使用されている。これらのパラフィンは、一般的分子式Cn2n+2を有する飽和炭化水素の混合物であり、蒸留の度合いにより液体の製品(油)又は油脂状から固体の製品(脂肪)を含む化粧品及び医薬品に使用される鉱物油混合物及び脂肪も、事実上、ほぼに飽和炭化水素からなる。混合物の純度は、精製の度合いに依存する。化粧用及び医療用に使用する場合、精製の度合いは高い。これは、発癌作用を有する多環芳香族炭化水素を、できるだけ完全に、混合物から確実に除去することを意図してのことである。。
【0009】
鉱物油脂は、スキンクリームの基剤として使用されることが多く、この場合、その効果の分類は異なる。有識者の見解は、パラフィンが人体の天然調節機序を妨げる場合があるというものある。特に、パラフィンは、肝臓、腎臓、及びリンパ節に蓄積する場合がある。しかしながら、パラフィンが皮膚を透過することができるか否かは不確実である。一般的には、パラフィンは、局所塗布の場合、皮膚を浸透せず、したがって、それらの物質に由来するリスクもないとみなされている。油脂を有する化粧用スキンクリームは、長年市販されている。しかしながら、固定クリームとしての使用の場合には、パラフィン成分が、消化により体内に直接吸収される可能性が高い。
【0010】
特許文献3には、植物油に基づいて生成される固定クリーム配合物が開示されている。したがって、特に飽和脂肪酸のトリグリセリドを含有する油をうまく使用することができる。それらトリグリセリドは、植物油脂の典型的な脂肪酸範囲(C12〜C20)に相当しない中程度の長さの炭素鎖、すなわち8個又は10個の炭素原子を有する鎖を更に有する。不飽和脂肪酸を含有する油の使用は勧められない。特許文献3によると、不飽和脂肪酸エステルを含有する油は、高温で、又は所定の時間保管した後で不安定になるという欠点を有する。更に、そのような油を含有する固定クリームは、不飽和二重結合が存在するため、固体性が低く、すなわち、液体性が高すぎて、固定クリームとして使用することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,758,630号
【特許文献2】米国特許第4,758,630号
【特許文献3】米国特許第5,561,177号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、良好な接着強度を有し、長期間安定している固定クリーム組成物を提供することである。更に、固定クリーム組成物は、主に天然で生理学的に無害な基本生成物をベースとすることが意図される。特に、鉱油及び亜鉛含有化合物を含まない配合、又は鉱物油及び/若しくは亜鉛の含有量が低い良好な固定クリーム特性を示すことができる配合を見出すことが意図される。別の目的は、市販クリームと比較して、生理学的な点で向上し、その安定性特性及び接着特性の点で、特に接着持続期間及び接着強度に関して、少なくとも同等である、固定クリームを生成することである。更に、口の中で心地よい感覚を生み出す固定クリームを追求する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によると、請求項1に従って得られたこの固定クリーム組成物、特に歯科補綴用の固定クリームの組成物は、a)好ましくは植物性の少なくとも1つの油及び/又は脂肪、b)セルロース誘導体の群から選択される少なくとも1つの水溶性ポリマー、並びにc)少なくとも1つのアルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーを含有しており、また、含有している植物油又は脂肪の脂肪酸部分が、少なくとも20重量%の不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする。
【0014】
脂肪酸という用語は、この場合及び下記において、該当する場合、脂肪酸ラジカルの意味で使用される。植物油又は脂肪は、グリセロール有する高級脂肪酸のトリエステル、すなわち脂肪酸ラジカルとも呼ばれる3つの長鎖脂肪酸を有する脂肪酸グリセロールエステルである。脂肪酸内容物とは、以下、エステルとして結合された脂肪酸を指すことが意図される。
【0015】
本発明による組成物は、生理学的に完全に無害な成分を含み、したがって比較的長期間使用した際でも無害であるという利点を有する。驚くべきことに、不飽和脂肪酸の割合が高いにもかかわらず、非常に良好な接着を確実に長時間持続する組成物を見出すことができた。良好な保管安定性も達成することができた。
【0016】
植物油又は脂肪が、所与の最少の不飽和脂肪酸割合を含有することを特徴とする本発明のこの構成では、固定クリームの組成物が、二酸化ケイ素、タルカム、ステアラート、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ホスホグリセリド、ポリエチレングリコール(ポリオキシエチレンとも呼ばれる)、及びトリヒドロキシステアリンからなる群から選択される追加の物質を含有している場合、特に有利な接着特性が得られる。
【0017】
驚くべきことに、クリームの流動性及び稠度は、二酸化ケイ素の付加によりプラスの影響を受ける場合があることが見出された。液化に対する傾向は、二酸化ケイ素により有効に防止することができる。
【0018】
また、固定クリームの接着特性は、トリヒドロキシステアリンの付加により向上することも見出された。
【0019】
驚くべきことに、1つ又は複数の植物油及び/又は脂肪が同時に使用すると、接着パラメーターを調節するために通常付加される高い割合の亜鉛化合物を不要とすることができることが立証された。植物油脂は、含油植物の種子又は果物から得られる。化学的に言えば、植物油脂は、脂肪酸、多くの場合は3つの脂肪酸を有するグリセリンのエステル、いわゆるトリグリセリドである。多くの植物油は、ヒトにより食料品と共に普通に摂取されており、食品中に一般的に生じる量では生理学的に完全に無害である。本発明による固定クリーム組成物に使用することができる油脂の例には、以下のものが含まれる:オリーブ油、菜種油、落花生油、トウモロコシ油、麦芽油、胡桃油、ブドウ種油、ヒマワリ油、麦芽油、胡麻油、パーム油、パーム核油、ケシ油、あまに油、カボチャ種油、アザミ油、マツヨイグサ油、大麻油、及びヤシ油。この例ではオリーブ油を使用することが好ましい。なぜなら、これによって固定クリームが特に生理学的に許容されるものとなって、容認できる味となり、同時に亜鉛化合物の付加が不要となるからである。公知のように、精製オリーブ油は、比較的無味であり、容易に入手可能であり、一般的に健康に良く可消化性であることが知られている。また、特にオリーブ油の利点は、それが防腐及び抗菌効果を有するということである。驚くべきことに、オリーブ油が、ゴム及び補綴間の生物(細菌、真菌)増殖を実質的に阻害することが、試験により示されている。特に、オリーブ油を多く含む固定クリームにより、真菌カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)を阻害できることを立証することも可能だった。
【0020】
特に驚くべき結果は、固定クリーム中の植物油を二酸化ケイ素添加剤と組み合わせることで達成される。植物油脂は、二重結合の割合が高いため、液体であるか又は少なくとも高い流動性を有する。固定クリームが補綴の下から流れ出るのを防止するために、及び同時に接着特性に影響を及ぼすために、種々の安定化剤を、固定クリーム混合物に導入してもよい。二酸化ケイ素が、特に好適であることが見出された。特に、長期接着持続期間が、常に良好な接着強度で達成されるだけではなく、例えば航空機による、減圧下でのクリームの輸送中、又は高山地点での保管中等の悪環境条件下での安定性も提供される。種々の形態及び品質の二酸化ケイ素(SiO2)が、入手可能である。好ましくは、発熱性ケイ酸(Aerosil(登録商標))としても知られている、高度に分散された二酸化ケイ素の形態の(すなわち、フレーム法により生成される無定形ケイ酸粉末の形態の)二酸化ケイ素が使用される。
【0021】
したがって、本発明による固定クリームは、健康に無害であり、かつ、植物油及び/又は脂肪、特にオリーブ油をベースとする組成物として同定される。この場合、部分的に精製された状態及び未精製状態のオリーブ油を、等しく使用することができる。低温で圧搾されたオリーブ油、及びいかなる過剰な熱も用いずに最初の圧搾により、保護された様式で生産されたオリーブ油を使用するのが有利である(すなわち、天然エクストラバージンオリーブ油)。使用される植物油は、大部分がオリーブ油で構成されることが有利である。
【0022】
二酸化ケイ素に加えて、トリヒドロキシステアリン及びポリエチレングリコールも、安定した固定クリーム組成物をもたらす。これらの物質は、植物油に基づくクリーム及び鉱物油に基づくクリームの両方の場合で、良好な結果を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
固定クリームは、組成物の総量に対して以下のものを含有するのが有利である。
a)25〜60重量%の好ましくは植物性の少なくとも1つの油及び/又は脂肪、
b)10〜40重量%、好ましくは20〜40重量%の、セルロース誘導体の群から選択される少なくとも1つの水溶性ポリマー、並びに
c)25〜45重量%の少なくとも1つのアルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマー。
【0024】
この固定クリーム組成物は、更に以下のものを含有すると有利である。
d)0〜15重量%のポリエチレングリコール又は任意に最大15重量%のポリエチレングリコール、
e)0〜3重量%のホスホグリセリド又は任意に最大3重量%のホスホグリセリド、
f)0〜2.5重量%のトリヒドロキシステアリン又は任意に最大2.5重量%のトリヒドロキシステアリン、
g)0〜5重量%の二酸化ケイ素又は任意に最大5重量%の二酸化ケイ素、及び
h)0〜10重量%の他の添加剤。
【0025】
添加剤は、安定化剤、増粘剤、乳化剤、酸化防止剤、香味料、着色料、及びそれらの混合物の群から選択されるのが有利である。この場合、物質は、複数の有効な群に属していてもよく、又は複数の効果を示してもよい。
【0026】
安定化剤は、乳化、増粘様式で作用をもたらし、成分が分離するのを防止する。本発明によると、安定化剤は、二酸化ケイ素、トリヒドロキシステアリン、ホスホグリセリド、及びポリエチレングリコールを含む群から選択される。これらの物質は、複雑な作用機序を有しており、本発明者らの経験によると、互いに相乗的に影響を及ぼすことができる。保管及び維持中の、並びに使用中の固定クリームの安定性は、重要である。保管及び維持中、湿度、温度、及び圧力は、一般的に比較的一定である。しかしながら、使用中は、口腔唾液、食品、並びに圧力及び温度の変化が、固定クリームに更に作用する。このように条件が変化するため、環境影響が様々な場合に、全体で固定クリーム特性を向上及び特に安定化させる様々な安定化剤物質を付加することが有利である場合がある。増粘剤は、安定化剤として使用される。増粘安定化剤とも呼ばれる増粘剤は、好ましくは、組成物の総量に対して0.001〜3重量%の量で付加される。二酸化ケイ素の使用は、組成物の総量に対して0.001〜5重量%、好ましくは0.1〜4重量%、及びより好ましくは0.5〜3重量%の量が、適当である。植物油及び/又は脂肪をベースとするクリームにおいて、二酸化ケイ素を組み合わせて使用することに、特定の利点がある。トリヒドロキシステアリン及び/又は例えばレシチン等のホスホグリセリドを使用することは有利である。トリヒドロキシステアリンは、組成物の総量に対して0.001〜2.5重量%の量で使用することが有利であり、乳化及び増粘効果を示す。下限が0.001重量%、及びより好ましくは0.01重量%の量のトリヒドロキシステアリン、及び上限が2.0重量%、より好ましくは1.5重量%、及び更により好ましくは0.5重量%の量のトリヒドロキシステアリンを使用することが好ましく、上限及び下限は、自由に組み合わせることができる。ポリエチレングリコールは、組成物の総量に対して0.001〜15重量%、好ましくは3〜12重量%、及びより好ましくは5〜9重量%の量で付加されるのが有利である。特に好ましくは、100,000〜7,000,000g/mol、特に200,000〜400,000g/molのモル質量を有するポリエチレングリコールが使用される。ホスホグリセリドは、組成物の総量に対して0.001〜3重量%の量で使用することが有利であり、乳化及び軟化作用をもたらす。下限が0.001重量%、及びより好ましくは0.01重量%の量のホスホグリセリド、及び上限が2重量%、より好ましくは1重量%、及び更により好ましくは0.5重量%の量のホスホグリセリドを使用することが好ましく、上限及び下限は、自由に組み合わせることができる。例えばレシチン等のホスホグリセリド及びトリヒドロキシステアリンが、安定化剤として一緒に存在する場合、安定化剤添加剤の総量を驚くほど低減することができる。ホスホグリセリド及びトリヒドロキシステアリンが組み合わせで存在する場合、ホスホグリセリドは、0.001〜3重量%の量で、より好ましくは0.001〜2重量%の量で、特に好ましくは0.01〜1重量%の量で使用するのが有利であり、トリヒドロキシステアリンは、組成物の総量に対して0.001〜2.5重量%の量で、特に好ましくは0.001〜1重量%の量で、及び非常に特に好ましくは0.01〜0.5重量%の量で使用するのが有利である。ホスホグリセリド、特にレシチン、より具体的には大豆レシチンは、固定クリーム組成物に対して、主に安定化作用をもたらすと考えられる。ステアリン、特にトリヒドロキシステアリンは、クリームの接着強度を更に増大させる。
【0027】
二酸化ケイ素、トリヒドロキシステアリン、及びホスホグリセリドを含む群からの使用された安定化剤に加えて、例えばポリエチレングリコール又はタルカム等の、増粘作用をもたらす他の安定化剤又は充填物質を使用することができる。二酸化ケイ素又はトリヒドロキシステアリンは、増粘作用をもたらす安定化剤として好ましい。
【0028】
適当な態様は、2つの添加剤ホスホグリセリド及びトリヒドロキシステアリン、特にレシチン及びトリヒドロキシステアリンの組み合わせであり、少なくとも一方の添加剤又は両添加剤は、二酸化ケイ素及びポリエチレングリコールを含む群からである。
【0029】
少なくとも添加剤ホスホグリセリド、二酸化ケイ素、トリヒドロキシステアリン、及び任意にポリエチレングリコールが組み合わせで存在する固定クリーム組成物を有することが特に好ましい。特に好適なホスホグリセリドは、レシチンである。
【0030】
少なくとも添加剤レシチン、二酸化ケイ素、ポリエチレングリコール、及びトリヒドロキシステアリンが組み合わせで存在する固定クリーム組成物が、特に非常に好ましい。
【0031】
付加された植物油及び/又は脂肪の脂肪酸、すなわち脂肪酸の全体は、一般的に少なくとも20重量%の不飽和脂肪酸を含む。付加された植物油及び/又は脂肪の不飽和脂肪酸の内容物は、より好ましくは少なくとも40重量%、より好ましくは50重量%、好ましくは60重量%、より好ましくは70重量%、及び最も好ましくは80重量%の不飽和脂肪酸である。これににより、固定クリームが、嚥下中の補綴装着者にとって特に許容可能であるという利点が生まれる。
【0032】
植物油又は脂肪の脂肪酸部分は、好ましくは、少なくとも20重量%、好ましくは少なくとも30重量%、より好ましくは過半数、すなわち50重量%超、より好ましくは少なくとも65重量%、及びより好ましくは少なくとも80重量%の、12個以上のC原子、特に12〜26個のC原子の鎖長を有する脂肪酸を含む。植物油又は脂肪の脂肪酸部分は、より好ましくは、14〜24個のC原子、好ましくは14〜22個、及びより好ましくは16〜18個のC原子の鎖長を有する高級脂肪酸を含む。
【0033】
油及び/又は脂肪は、組成物の総量に対して少なくとも25重量%、好ましくは30重量%を超える、より好ましくは35重量%を超える量で、固定クリームに含有されている。有利には、好ましい植物油及び/又は脂肪は、組成物の総量に対して最大60重量%、好ましくは最大42重量%の量で存在する。これにより、組成物の総量に対して25〜42重量%の好ましい範囲がもたらされる。植物油又は脂肪の量は、組成物の稠度に影響を及ぼす。付加する量が少な過ぎると、クリームは、顆粒様式の乾燥した稠度を取る場合がある。二酸化ケイ素、トリヒドロキシステアリン、ホスホグリセリド、及びポリエチレングリコールの付加は、これを相殺することができる。
【0034】
植物油及び/又は脂肪は便宜上、未精製状態又は精製状態で提供されてもよい。
【0035】
言及された高級脂肪酸は、好ましくは50〜90重量%の割合のオレイン酸、及び残留割合の、16〜18個のC原子の鎖長を有する他の脂肪酸を含む。より好ましくは、高級脂肪酸は、50〜90重量%の割合のオレイン酸、5〜25重量%の割合のパルミチン酸、及び任意に残留割合の、16〜18個のC原子の鎖長を有する他の脂肪酸を含む。より好ましくは、高級脂肪酸は、50〜90重量%の割合のオレイン酸、5〜25重量%の割合のパルミチン酸、3〜25重量%の割合のリノール酸、及び任意に残留割合の、16〜18個のC原子の鎖長を有する他の脂肪酸を含む。オリーブ油及び菜種油等の油は、言及した群に含まれる。
【0036】
セルロース誘導体は、好ましくは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びそれらの混合物からなる群から選択される水溶性ポリマーである。カルボキシメチルセルロースは、特にカルボキシルメチルセルロースナトリウムを使用するのが好ましい。セルロース誘導体の群から選択される水溶性ポリマーは、組成物の総量に対して15〜45重量%の量で存在する。セルロース誘導体の群から選択される水溶性ポリマーは、好ましくは、組成物の総量に対して10〜40重量%、好ましくは20〜40重量%、及びより好ましくは25〜38重量%の量で存在する。
【0037】
アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーは、部分的に酸、エステル、及び/又は塩として存在するのが有利である。一般的に、塩の陽イオンは、カルシウム、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛塩、及びそれらの混合物からなる群、特にCa2+、K+、Na+、Mg2+、Al3+、及び/又はZn2+からなる群から選択される。特に、メチルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーは、アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーとして使用される。アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーは、例えば塩、エステル、及び/又は酸として、組成物の総量に対して20〜45重量%の量で存在する。有利には、アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーは、例えば塩及び/又は酸として、組成物の総量に対して25〜45重量%、より好ましくは20〜39.5重量%、及びより好ましくは28〜39重量%の量で存在する。
【0038】
亜鉛化合物は、存在しないことが有利であり、すなわち亜鉛化合物の付加は不要とされるのが有利である。特に、固定クリームに起因する亜鉛の高吸収による健康リスクを最小限に抑えるために、亜鉛含有量は、最大1重量%の上限に制限されるべきである。つまり、亜鉛は、組成物の総量に対して最大1重量%の量で含有されていてもよい。亜鉛含有量は、有利には、それぞれ、組成物の総量に対して1重量%、好ましくは0.5重量%、より好ましくは0.1重量%、及びより好ましくは0.06重量%の上限未満であるべきである。
【0039】
しかしながら、いかなる亜鉛又はいかなる亜鉛化合物も存在しないことが、最も好ましい。組成物の総量に対して少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.01重量%、より好ましくは少なくとも0.02重量%、より好ましくは少なくとも0.03重量%の下限を有する亜鉛化合物が、それぞれ任意に存在する。この場合、上限及び下限は、自由に組み合わせることができる。上記で言及した含油量と組み合わせで、亜鉛量を低く保つことができる。下限は、亜鉛含有量の結果としての測定可能な効果(すなわち、接着特性の影響)又は所望の有効強度に基づいて決定される。
【0040】
上記で言及した油又は脂肪の、特にオリーブ油の含有量が条件を満たす場合、非常に良好な装着特性及び長期安定性値を有する固定クリームが、特に達成される。その代わりに又はそれに加えて、好ましい特性は、記載されている安定化剤を使用及び最適化することにより調節することができる。
【0041】
例えば香味料、酸化防止剤、及び着色料等の他の添加剤は、組成物の総量に対して合計で最大10重量%、好ましくは最大2重量%、及び特に好ましくは最大1重量%の量で存在する。生理学的無害性に鑑みて、添加剤の付加量はできるだけ低く保たれる。
【0042】
例えば、香味料、酸化防止剤、及び着色料等の他の添加剤は、組成物の総量に対して合計で最大10重量%、好ましくは最大2重量%、及び特に好ましくは最大1重量%の量で存在する。生理学的無害性に鑑みて、添加剤の付加量はできるだけ低く保たれる。
【0043】
下記では例を参照しながら本発明について説明する。例には、特に減圧条件下でも良好な接着強度及び接着持続期間を保証する組成物が示されている。パーセントは小数点以下2桁の概数で表されている。
【0044】
実施例1
【表1】

実施例1による固定クリームは、少なくとも12時間持続する良好な接着強度を有する。この固定クリームは、新鮮な風味、及び良好で心地よい滑らかな感覚を口の中に残す。
【0045】
実施例2
【表2】

実施例2による固定クリームは、少なくとも12時間持続する良好な接着強度を有する。この固定クリームは、新鮮な風味、及び良好で心地よい滑らかな感覚を口の中に残す。
【0046】
実施例3
【表3】

【0047】
実施例3による固定クリームは、少なくとも12時間持続する良好な接着強度を有する。この固定クリームは、新鮮な風味、及び良好で心地よい滑らかな感覚を口の中に残す。この固定クリームは、数か月間にわたって良好な長期安定性を更に示し、したがって保管可能である。
【0048】
実施例4
【表4】

実施例4による固定クリームは、少なくとも12時間持続する良好な接着強度を有する。この固定クリームは、新鮮な風味、及び良好で心地よい滑らかな感覚を口の中に残す。更に、この固定クリームは、航空機における輸送区画及び高高度における住宅地区に存在する減圧条件下でも依然として安定している。
【0049】
実施例5
【表5】

実施例5による固定クリームは、少なくとも12時間持続する良好な接着強度を有する。この固定クリームは、新鮮な風味、及び良好で心地よい滑らかな感覚を口の中に残す。
【0050】
要約すると、植物油及び/又は脂肪は、組成物の総量に対して25〜60重量%、好ましくは30〜45重量%の量で存在するのが有利であり、セルロース誘導体の群から選択される水溶性ポリマーは、組成物の総量に対して10〜40重量%、好ましくは15〜38重量%、より好ましくは15〜25重量%の量で存在し、アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーは、組成物の総量に対して25〜45重量%及び好ましくは28〜39重量%の量で存在し、二酸化ケイ素は、組成物の総量に対して0〜2.5重量%、及び好ましくは0〜1.5重量%の量で存在し、ポリエチレングリコールは、組成物の総量に対して0〜15重量%、及び好ましくは0〜10重量%の量で存在し、トリヒドロキシステアリンは、組成物の総量に対して0〜2.5重量%、及び好ましくは2.1重量%の量で存在し、ホスホグリセリドは、組成物の総量に対して0〜3重量%、及び好ましくは0〜2重量%の量で存在することが立証された。トリヒドロキシステアリンは、組成物の総量に対して0〜2.5重量%、及び好ましくは0〜1重量%の量で、ホスホグリセリドとの組み合わせで存在することが特に立証された。含有されているトリヒドロキシステアリン、二酸化ケイ素、及びホスホグリセリドの総量は、好ましくは、合計で、組成物の総量に対して最大10重量%、好ましくは最大5重量%、より好ましくは最大4重量%を超過すべきではないことが更に立証された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科補綴用の固定クリームの組成物であって、
a)少なくとも1つの植物性の油及び/又は脂肪、並びに
b)セルロース誘導体の群から選択される少なくとも1つの水溶性ポリマー、
c)少なくとも1つのアルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーを含有し、含有されている前記植物油又は脂肪の脂肪酸部分は、少なくとも20重量%の不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする、組成物。
【請求項2】
前記油又は脂肪の脂肪酸部分は、少なくとも40重量%、より好ましくは50重量%、より好ましくは60重量%、より好ましくは70重量%、より好ましくは80重量%の不飽和脂肪酸を含むことを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記油又は脂肪の脂肪酸部分は、50重量%を超える、好ましくは少なくとも65重量%の、より好ましくは80重量%の、12個以上のC原子の鎖長を有する高級脂肪酸を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記油又は脂肪の脂肪酸部分は、12〜26個のC原子、好ましくは14〜24個のC原子、より好ましくは16〜18個のC原子の鎖長を有する高級脂肪酸を含むことを特徴とする、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記油又は脂肪は、前記組成物の総量に対して25重量%を超える、好ましくは30重量%を超える、より好ましくは35重量%を超える量で、含有していることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記油又は脂肪は、前記組成物の総量に対して、最大60重量%、好ましくは最大42重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記植物油は、主にオリーブ油であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
セルロース誘導体の群から選択される前記水溶性ポリマーは、前記組成物の総量に対して、10〜40重量%、好ましくは20〜40重量%、より好ましくは25〜38重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記アルキルビニルエーテル/マレイン酸無水コポリマーは、前記組成物の総量に対して、25〜39.5重量%、より好ましくは28〜39重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
二酸化ケイ素、タルカム、ステアラート、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ホスホグリセリド、ポリエチレングリコール、及びトリヒドロキシステアリンからなる群からの少なくとも1つの物質を含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物の総量に対して0.001%〜2.5重量%、好ましくは0.01〜0.5重量%の量の、ステアラート、トリヒドロキシステアリン、二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、タルカム、又はそれらの組み合わせは、その中に含有されている、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
ポリエチレングリコールは、前記組成物の総量に対して、0.001〜15重量%、好ましくは3〜12重量%、及びより好ましくは5〜9重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記ポリエチレングリコールは、100,000〜7,000,000g/mol、特に200,000〜400,000g/molの範囲のモル質量を有することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
二酸化ケイ素は、前記組成物の総量に対して、0.001〜5重量%、好ましくは0.1〜4重量%、及びより好ましくは0.5〜3重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
トリヒドロキシステアリンは、前記組成物の総量に対して、0.001〜2.5重量%、及び好ましくは0.01〜0.5重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
ホスホグリセリドは、前記組成物の総量に対して、0.001〜3重量%、好ましくは0.01〜2重量%、及びより好ましくは0.1〜1重量%の量で存在することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記存在するホスホグリセリドは、少なくともレシチン、特に大豆レシチンの群から選択されることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
安定化剤、酸化防止剤、香味料、着色料、及びそれらの混合物の群から選択される添加剤を含有することを特徴とする、請求項1〜17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
亜鉛を、組成物の総量に対して1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満、より好ましくは0.06重量%未満の量で含有することを特徴とする、請求項1〜18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
亜鉛を、それぞれ、前記組成物の総量に対して、0.01重量%、好ましくは0.02重量%、より好ましくは0.03重量%の下限を有し、1重量%未満、好ましくは0.5重量%、より好ましくは0.1重量%、より好ましくは0.06重量%の上限を有する量で含有することを特徴とする、請求項1〜19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記組成物の総量に対して、
a)25〜60重量%の好ましくは植物性の少なくとも1つの油及び/又は脂肪、
b)10〜40重量%の、セルロース誘導体の群から選択される少なくとも1つの水溶性ポリマー、並びに
c)25〜45重量%の少なくとも1つのアルキルビニルエーテル/マレイン酸無水物コポリマーを含有することを特徴とする、請求項1〜20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記組成物の総量に対して、
d)0〜15重量%のポリエチレングリコール、
e)0〜3重量%のホスホグリセリド、
f)0〜2.5重量%のトリヒドロキシステアリン、
g)0〜5重量%の二酸化ケイ素、及び
h)0〜10重量%の他の添加剤を含有することを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載の組成物。

【公表番号】特表2013−517075(P2013−517075A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549287(P2012−549287)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国際出願番号】PCT/EP2011/000195
【国際公開番号】WO2011/088988
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(512189152)
【Fターム(参考)】