説明

固定リングの拡径工具

【課題】金属管の切断端面に防食シールを固定する際に用いられる固定リングを、その固定作業の際に拡径させる工具について、簡易な構造でその金属管の切断端面に固定できるようにする。
【解決手段】拡径工具10は、金属管21の切断端面を跨いだ状態に配置可能な台座11と、金属管21の内周に沿って揺動可能な一対のアーム12と、固定リング23に係合可能な係合突起13と、金属管21の外周面に当接するねじシャフト15を備える。ねじシャフト15を回転して台座11を下降させると、係合突起13と保護板15bに金属管21は挟み込まれ、拡径工具10は固定される。さらに台座11をねじ送りで下降させると、両アーム12が離反する向きに揺動し、固定リング23は拡径される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管の切断端面に防食シールを固定する際に用いられる固定リングを、その固定作業の際に拡径させる工具に関する。
【背景技術】
【0002】
水道などの管路を敷設する際に、鋳鉄菅などの金属管が汎用されているが、金属管は一般に耐食性に劣るため、外面に防食塗装を施すなどして耐食性を改善している。
【0003】
ところで、管路の敷設現場では、金属管を長さ調節のために中途で切断(切管)することがあるため、防食塗装等を施していても、その切断端面には金属自体が露出してしまう。
そこで、その切断端面に耐食補修をおこなう必要があり、図4に示すように、金属管21の切断端面に平面視が環状で断面がコの字型のゴム製の防食シール22を被せるのが一般的である。
【0004】
このような防食シール22を金属管21に固定する際には、同図に示すように、拡径可能な固定リング23が用いられる。
この固定リング23を防食シール22の内周にあてがい、専用の工具を用いて拡径すると、その固定リング23が防食シール22を金属管21の内面へと押し付けることで、固定作業が完了する。
【0005】
詳細には、固定リング23は、図5のように、一端にT字型の差込片23aが設けられ、他端に長孔である差込孔23bが設けられた帯体を、両端が重なり合うように環状に撓ませ、その差込孔23bに差込片23aを差し込んで結合することで作製されている。
差込孔23bは固定リング23の周方向に延びているため、差込片23aが差込孔23bに沿ってスライドすると、固定リング23の周長が変化するようになっている。これにより、固定リング23の拡径および縮径が可能となっている。
【0006】
また固定リング23の一端の差込片23aより内側にはストッパ孔23eが、他端の差込孔23bより外側にはストッパ片23dが、それぞれ設けられている。固定リング23が拡径した状態で、ストッパ孔23eを通じてストッパ片23dを折り返して(折り曲げて)おくと、縮径が防止されるようになっている。
さらに差込孔23bと差込片23aの近傍には、円孔である係合孔23cがそれぞれ設けられている。
【0007】
ところで、従来の固定リングの拡径工具は、特許文献1および2のように、いわゆる万力タイプのものが主流であり、金属管の切断端面に固定することはできなかった。
そのため、作業中に拡径工具がずれ動きやすく、このために拡径工具の拡径力が固定リングに対して正常に作用せず、固定リングが座屈等して変形してしまうことがあった。
【0008】
また、拡径工具を金属管の切断端面に固定できないことから、固定リングのストッパ片を折り曲げる作業をおこなう際には、片手で拡径工具を保持しつつ残る片手で折り曲げ作業をおこなうことになり、作業性が悪い問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−28875号公報
【特許文献2】特開2003−291075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の解決すべき課題は、固定リングを拡径させる工具を、簡易な構造で金属管の切断端面に固定できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の固定リングの拡径工具を以下のように構成したのである。
固定リング拡径工具は、金属管に対して、その切断端面を跨いで一端が前記金属管の内周面に対向し他端が前記金属管の外周面に対向した状態に配置可能な台座を備える。
また、前記台座の前記金属管の内周面に対向する箇所に連結され、前記金属管の周方向に沿って先端が互いに接近および離反する向きに揺動可能な一対のアームを備える。
さらに、前記各アームの先端に連結されて前記固定リングに係合可能な係合突起を備える。
そして、前記台座の金属管の外周面に対向する箇所を前記金属管の径方向に貫通し、その先端を前記金属管の外周面に当接させることで前記台座を前記金属管の切断端面上に固定可能であり、かつその回転により前記台座を前記金属管の径方向にねじ送りすることが可能なねじシャフトを備える。
【0012】
この拡径工具を前記金属管の切断端面上に固定し、前記各係合突起を前記固定リングに係合させた状態で、前記ねじシャフトの回転により前記台座を前記金属管の径方向外向きにねじ送りする。
すると、前記各アームの先端が前記係合突起を介して前記金属管の内周面に押し付けられることで、前記各アームが互いに離反する向きに揺動し、両係合突起の離反により固定リングが押し拡げられることになる。
【発明の効果】
【0013】
ねじシャフトでもって拡径工具を金属管の切断端面上に固定することができるため、固定リングの拡径作業時に拡径工具がずれ動くことがなく、固定リングの座屈変形等を防止することができる。
【0014】
拡径工具を固定した状態で、両手を用いて固定リングのストッパ片の折り曲げ作業等をおこなうことができるため、作業性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】拡径工具の(a)は正面からみた斜視図、(b)は背面からみた一部破断斜視図
【図2】拡径工具の分解斜視図
【図3】拡径工具を金属管の切断端面上に固定した状態を示す、(a)は側面図、(b)および(c)は正面図
【図4】金属管への防食シールの固定を示す、(a)は断面図、(b)は斜視図
【図5】固定リングの組立の前後を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1に示す第1実施形態の防食シール固定リングの拡径工具10は、金属管21の切断端面に防食シール22を固定する際に用いられる固定リング23を、その固定作業の際に拡径させるのに用いられる。
【0018】
図1から図3に示すように、実施形態の拡径工具10は、台座11と、一対のアーム12と、一対の係合突起13と、ガイド14と、ねじシャフト15と、を備える。
【0019】
図示のように、台座11は、互いに平行な角柱形の内ロッド11aおよび外ロッド11bと、これら内外ロッド11a、11bの対向する端部を接続する角柱形の接続ロッド11cとからなって、側面視がコの字型の外観を呈している。
内ロッド11aには、角柱の軸方向に貫通する軸孔11dが形成されており、外ロッド11bには、角柱の対向する側面間を接続ロッド11cと平行に貫通するねじ孔11eが形成されている。
接続ロッド11cの長さ等、台座11の寸法は、図3のように、金属管21の切断端面を跨いで内ロッド11aが金属管21の内周面に対向し、外ロッド11bが金属管21の外周面に対向した状態に配置できるような寸法となっている。
【0020】
台座11の内ロッド11aの先端(角柱の端面)には、軸孔11dに差し込まれた回転シャフト12aを介して、一対のアーム12が連結されている。
両アーム12は長円形のプレートからなり、その先端(図中下端)には、丸孔12bが形成されている。
両アーム12は、回転シャフト12aを中心に、丸孔12bが形成された先端が互いに接近および離反する方向に揺動可能となっている。その揺動の方向は、図3(a)のように台座11を金属管21の切断端面を跨いで配置した状態で、図3(b)および(c)のように、金属管21の周方向にほぼ沿った方向となる。
【0021】
両アーム12の先端には、ブラケット13aを介して係合突起13が連結されている。
ブラケット13aは、側面視でL字型に屈曲しており、台座11の接続ロッド11cとほぼ平行な面がアーム12と対向し、台座11の内外ロッド11a、11bとほぼ平行な面には、係合突起13としてのボルトが固定されている。係合突起13としてのボルトは、台座11の接続ロッド11cとほぼ平行をなしている。このようなボルトは、種々の径、長さのものと交換可能となっている。また、係合突起13としては、ボルトに代えて、ピン等としてもよい。
また、ブラケット13aの台座11の接続ロッド11cと平行な面の屈曲箇所の近傍には、ストッパ13bが溶接等の適宜手段によって取り付けられている。図示のように、矩形のプレートからなるストッパ13bは台座11の接続ロッド11cとほぼ平行をなして、ブラケット13aの屈曲箇所から垂下している(張り出している)。
さらにブラケット13aの、アーム12の丸孔12bと合致する箇所には、角孔13cが形成されている。
【0022】
さらに両アーム12の先端には、ガイド14が架け渡されている。このガイド14は矩形のプレートからなり、長手方向に並列する矩形の長孔14aが形成されている。
両アーム12、両係合突起13(ブラケット13a)およびガイド14は、その丸孔12b、角孔13cおよび長孔14aが合致した状態で、正面側から丸ピン14bを背面側から角ピン14cを挿通させることにより連結されている。
【0023】
丸ピン14bはほぼ全体が円柱部となっており、頭部のみが角柱部となっている。いっぽう角ピン14cはほぼ全体が角柱部となっている。これら丸ピン14bおよび角ピン14cはねじ結合等の適宜手段により一体に結合されて、両端が角柱部で中央が円柱部のピンを構成する。
両アーム12、両係合突起13(ブラケット13a)およびガイド14が連結された状態で、丸ピン14bの円柱部は両アーム12の丸孔12bに嵌合し、角柱部はガイド14の長孔14aに嵌合し、角ピン14cの角柱部はブラケット13aの角孔13cに嵌合する。
これにより、両アーム12は、係合突起13およびガイド14に対して回転可能であるが、係合突起13はガイド14に対して回り止めされることになる。
したがって、両アーム12が揺動した場合に、係合突起13はその向き(軸方向)が固定されたままガイド14の長孔14aに沿ってスライドすることになる。すなわち、ガイド14、丸ピン14b、角ピン14cは、アーム12揺動時に係合突起13の軸方向を保持する(固定する)機構として機能する。
【0024】
一方、台座11の外ロッド11bのねじ孔11eには、ねじシャフト15がねじ合わされている。ねじシャフト15の後端(図中下端)にはハンドル15aが設けられており、先端(図中上端)には合成樹脂などからなる比較的軟質の保護板15bが設けられている。
台座11を回り止めした状態で、ハンドル15aをグリップしてねじシャフト15を回転させると、台座11がねじ送りされることで、ねじシャフト15との相対位置が変化するようになっている。
【0025】
実施形態の拡径工具10の構成は以上のようであり、いま図3のように、金属管21の切断端面に防食シール22を被せ、防食シール22の内面に固定リング23をあてがった状態で、その台座11を切断端面に跨って配置する。このとき、固定リング23の係合孔23cに、係合突起13が対向するように位置を調整しておくものとする。
【0026】
ねじシャフト15をその保護板15bが金属管21の外面に当接した状態で回転させ、台座11を図3中で下降する向き(金属管21の径方向外向き)にねじ送りすると、台座11とともに下降する係合突起13が固定リング23の係合孔23cに入り込んで係合する。
こうして拡径工具10は、図3(a)および(b)のように、そのねじシャフト15の保護板15bと係合突起13により、金属管21を内周面と外周面から挟み込み、同時に金属管21の切断端面に固定されることになる。
【0027】
この状態からさらにねじシャフト15を回転させると、台座11がさらに下降し、これとともに下降する係合突起13を介して両アーム12が金属管21の内周面に押し付けられてゆく。この押圧力によって、両アーム12は、図3(b)から(c)のように、先端が互いに離反する向きに揺動する。
これとともに両係合突起13が離反し、図3(c)の矢印で示されるように、係合孔23cを介して固定リング23には、押し拡げられる向きの力が負荷されるため、徐々に拡径してゆくことになる。固定リング23の拡径により、防食シール22が金属管21の内周面に押し付けられ、固定作業が完了する。
【0028】
固定リング23の拡径が終了すると、その縮径防止のために、ストッパ片23dの折り曲げ作業がおこなわれるが、このときに拡径工具10は金属管21に固定されているため、両手を用いた折り曲げ作業が可能であり、作業性が良好である。
同じく拡径作業時に拡径工具10は金属管21に固定されているため、ずれ動くことがなく、固定リング23に異常な力が作用することもないため、その座屈変形等が防止されている。
拡径工具10は、全体がほぼボックス型をしていて形状のバランスがよく、その重心が比較的安定した位置にあるため、操作性に優れている。
【0029】
両アーム12の揺動離反時に、上述したように、また図3(b)から(c)に示すように、両係合突起13は垂直下向き(台座11の接続ロッド11cとほぼ平行な向き)に固定されたまま、離反する向きにスライドする。
そのため、拡径作業中に係合突起13が傾斜して固定リング23の係合孔23cから抜け出たりすることが防止され、その拡径力が固定リングにスムーズに伝達されるようになっている。
この拡径工具10はねじ送りにより、係合突起13間の間隔を自由に変更可能であるため、種々の管厚の金属管21に適用可能である。
【0030】
また、両アーム12が一定以上離反すると、ブラケット13aに取り付けられたストッパ13bが金属管21の内周面に当接するため、それ以上に台座11の下降およびこれにともなう両アーム12の離反(両係合突起13の離反)が不可能となっている。
このため、固定リング23の過剰押圧に伴う、防食シール22の破損が防止されている。
このような目的からストッパ13bは、金属管21の内周面を傷付けないように、合成樹脂等、比較的軟質の材料で形成するのが好ましい。
【0031】
上記実施形態では、拡径工具10の台座11を側面視コの字型としたが、台座11の形状は、金属管21の切断端面上に跨って配置できる限りは特に制限されない。例えば、側面視円弧形としてもよい。
また、拡径工具10の製造コストを削減するために、ストッパ13bを省略したり、係合突起13の向きを固定する機構14を省略したりしてもよい。係合突起13の向きを固定する機構14は、実施形態に限定されない。
【0032】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考慮されるべきである。本発明の範囲は以上の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての修正と変形を含むものであることが意図される。
【符号の説明】
【0033】
10 拡径工具
11 台座
11a 内ロッド
11b 外ロッド
11c 接続ロッド
11d 軸孔
11e ねじ孔
12 アーム
12a 回転シャフト
12b 丸孔
13 係合突起
13a ブラケット
13b ストッパ
13c 角孔
14 ガイド
14a 長孔
14b 丸ピン
14c 角ピン
15 ねじシャフト
15a ハンドル
15b 保護板
21 金属管
22 防食シール
23 固定リング
23a 差込片
23b 差込孔
23c 係合孔
23d ストッパ片
23e ストッパ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属管21の切断端面に防食シール22を固定する際に用いられる固定リング23を、その固定作業の際に拡径させる工具であって、
前記金属管21に対して、その切断端面を跨いで一端が前記金属管21の内周面に対向し他端が前記金属管21の外周面に対向した状態に配置可能な台座11と、
前記台座11の前記金属管21の内周面に対向する箇所に連結され、前記金属管21の周方向に沿って先端が互いに接近および離反する向きに揺動可能な一対のアーム12と、
前記各アーム12の先端に連結されて前記固定リング23に係合可能な係合突起13と、
前記台座11の金属管の外周面に対向する箇所を前記金属管21の径方向に貫通し、その先端を前記金属管21の外周面に当接させることで前記台座11を前記金属管21の切断端面上に固定可能であり、かつその回転により前記台座11を前記金属管21の径方向にねじ送りすることが可能なねじシャフト15と、を備え、
前記各係合突起13を前記固定リング23に係合させた状態で、前記ねじシャフト15の回転により前記台座11を前記金属管21の径方向外向きにねじ送りすると、前記各アーム12の先端が前記係合突起13を介して前記金属管21の内周面に押し付けられることで、前記各アーム12が互いに離反する向きに揺動し、両係合突起13の離反により固定リング23が押し拡げられる、固定リングの拡径工具。
【請求項2】
前記各アーム12の揺動時に、前記係合突起13の軸方向を保持する機構14をさらに備える請求項1に記載の固定リングの拡径工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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