説明

固定化された標的と直接結合する小分子を検出するためにバイオセンサーを使用する方法

固定化された標的と直接結合する小分子を検出するためにバイオセンサーを使用する方法。本発明は、小分子の、標的分子との相互作用を検出する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
優先権
本願は、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる、2007年4月19日に出願された米国特許第60/912,725号の利益を主張する。
【0002】
新薬の開発につながるようなタンパク質標的の高品質リード化合物の同定は複雑な作業である。新規であり最適化が可能なリードを作製することは、困難であり得る。最近、断片ベースのスクリーニングが、高品質のリードを作製する方法として検討された。約100Da〜約300Daの分子量を有する化合物(すなわち「断片」)は、歴史的にリード作製のために使用されてきた約300Da〜約600Daの分子量を有する化合物よりも良好なリードを提供し得ると思われる。断片は弱結合性分子であることが多いが、治療標的タンパク質と結合する低分子量の弱結合性分子のスクリーニングは、わずかに大きな分子量の、より堅く結合する化合物を提供するために化学的に組み合わせることができる小さい構成要素を決定するのに有用である。次いで、これらの分子は、標的タンパク質に対して治療効果を有し得る。低分子量化合物は有効な薬物の開発をもたらし得るが、弱結合性の、極めて低分子量の化合物の同定は、極端に時間がかかり、困難である。タンパク質または標的分子と結合する任意の大きさの化合物を発見する従前の方法は、化合物が、断片化合物によって通常得られない特定のエネルギーを用いて結合することを必要とする方法を含んでいた。タンパク質と結合する断片化合物を同定するための従前の同定方法は、相当な量のタンパク質を含み、労働集約的であり、高度な教育を受けた個人によって操作される高価な機器を必要とし、数種の小さな化合物をスクリーニングするのに何日も、または何週間もかかる。通常の方法は、多次元核磁気共鳴法(NMR)、X線結晶学または等温滴定熱量測定法などの従来の生物物理学的技術を用いる。当技術分野では、少量の試験化合物を使用するハイスループット法で、約100Da〜約300Daの断片ベースの化合物ライブラリーをスクリーニングする方法が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
一実施形態では、本発明は、標的分子に対する小分子の親和性を調べる方法を提供する。この方法は、標的分子を、比色共鳴反射(colorimetric resonant reflectance)バイオセンサーの表面に固定化するステップと、第1のピーク波長値を調べるステップとを含んでなる。小分子を、3以上の異なる濃度で比色共鳴反射バイオセンサーの表面に加え、3以上の異なる濃度でピーク波長値を調べる。ピーク波長を比較し、標的分子に対する小分子の親和性を求める。小分子は、約300Da未満であり得る。小分子の解離定数(Kd)を求めることができる。小分子の解離定数は、約2,000〜約750μMであり得る。小分子の濃度は、約0.5mM〜約0.01mMであり得る。
【0004】
別の実施形態では、本発明は、小分子サンプルの順位親和性を調べる方法を提供する。この方法は、比色共鳴反射バイオセンサーの表面の第1のピーク波長値を検出するステップを含んでなる。既知分子量を有する標的分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化し、第2のピーク波長値を調べる。第1および第2のピーク波長値を用いて、比色共鳴反射バイオセンサーに結合されている標的分子のモル量を求める。比色共鳴反射バイオセンサーに、特定の濃度の、既知分子量を有する小分子サンプルを加え、第3のピーク波長値を調べる。第2のピーク波長値と第3のピーク波長値間の相違が、比色共鳴反射バイオセンサー表面に結合されている小分子の量を提供する。第1のピーク波長値と第2のピーク波長値間の相違対第2のピーク波長値と第3のピーク波長値間の相違の比を用いて、小分子サンプルの順位親和性を求める。小分子サンプルは、約300Da未満である小分子を含んでなり得る。小分子サンプル中の小分子の解離定数は、約2,000〜約750μMであり得る。小分子サンプル中の小分子の濃度は、約0.5mM〜約0.01mMであり得る。
【0005】
本発明のさらに別の実施形態は、小分子が標的分子上の特定の部位と結合するかどうか、または標的結合について、標的分子上の標的部位の既知ブロッカーと競合するかどうかを調べる方法を提供する。この方法は、標的分子を、第1の比色共鳴反射バイオセンサーに固定化するステップを含んでなる。標的分子を、第2の比色共鳴反射バイオセンサーに固定化し、ここで、標的分子の標的部位は、標的部位の既知ブロッカーでブロックされる。小分子を、第1および第2両方の比色共鳴反射バイオセンサーに加え、第1および第2の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値を調べる。第1の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値が、第2の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値と比較してシフトされる場合は、小分子は、標的分子上の標的部位の既知ブロッカーと競合する、または標的分子上の特定の部位と結合する。小分子は約300Da未満であり得る。小分子の解離定数は、約2,000〜約750μMであり得る。小分子の濃度は、約0.5mM〜約0.01mMであり得る。
【0006】
本発明のさらに別の実施形態は、300Da未満の小分子が、標的分子と結合するかどうかを調べる方法を提供する。この方法は、標的分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化するステップと、第1のピーク波長値を調べるステップとを含んでなる。小分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に加え、第2のピーク波長値を調べる。第1および第2のピーク波長を比較し、第2のピーク波長値が、第1のピーク波長値と比較してシフトしている場合は、小分子は標的分子と結合する。小分子の解離定数(Kd)を求めることができる。小分子の解離定数は、約2,000〜約750μMであり得る。小分子の濃度は、約0.5mM〜約0.01mMであり得る。
【0007】
したがって、本発明は、標的生体分子と結合する、断片として当技術分野に精通している人に公知の、極めて低分子量の化合物の測定を提供する。本発明は、相互作用を定性および定量するための通常の生化学試験の厳密性を提供し、ならびに、断片分子のその他の特性の測定を提供する。この方法は、かなりより経済的であり、測定にかなり少ない時間しか必要でなく、NMR分光法、X線結晶学または熱量測定法などの従来の方法を使用する同様の測定に使用されると通常思われるものよりも、かなり少量の試薬しか必要でない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】標的表面と弱く会合する小分子を高感度に検出するためのバイオセンサーの再現性を示す図である。
【図2】凝集性化合物およびDMSOミスマッチ化合物が、両方に等濃度で加えた場合に、標的表面(y軸)と比較して、対照またはブロッキングされた表面(x軸)で大きく異なるシグナルを提供することを示す図である。
【図3】本発明の方法を使用して滴定し、その他の生物物理学的方法によって得られた既知結合性化合物の妥当な親和性結合曲線を得ることができることを示す図である。
【図4】本発明の方法が、種々の結合部位と弱く会合する断片の結合の測定を可能にすることを実証する図である。
【図5】特異性決定のための結合の経時変化アッセイを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態により、結合相互作用が極めて弱いものであっても、放射測定標識、比色分析標識または蛍光標識を組み込む必要なく、バイオセンサー、例えば、比色共鳴反射バイオセンサーを用いて、小分子(断片としても知られる)の標的分子との結合を直接検出することが可能となる。結合は、BIND Scanner(商標)(すなわち、比色共鳴反射バイオセンサーシステム)などの高速、高分解能機器およびデータを定量化するための対応するアルゴリズムを用いてリアルタイムで検出できる。例えば、米国特許第6,951,715号および米国特許公開第2004/0151626号参照のこと。この方法論、機器の使用およびコンピュータ分析を組み合わせることによって、小分子の標的分子との結合を結合が極めて弱い場合であっても、標識を含まない方法でリアルタイムで都合よくモニターできる。
【0010】
バイオセンサー
本発明のバイオセンサーは、比色共鳴反射バイオセンサーであり得る。例えば、Cunninghamら、「Colorimetric resonant reflection as a direct biochemical assay technique」、Sensors and Actuators B、第81巻、316〜328頁、2002年1月5日;米国特許公開第2004/0091397号参照のこと。比色共鳴バイオセンサーは、表面プラズモン共鳴(SPR)バイオセンサーではない。SPRバイオセンサーは、銀、金、銅、アルミニウム、ナトリウムおよびインジウムなどの薄い金属層を有する。金属は、適した波長で光と共鳴できる伝導帯電子を有するはずである。光に曝露されるSPRバイオセンサー表面は、純粋な金属でなければならない。酸化物、硫化物およびその他のフィルムは、SPRを妨害する。比色共鳴バイオセンサーは、金属層を有さず、むしろTiO2などの高屈折率物質の誘電体コーティングを有する。
【0011】
回折格子ベースの導波路バイオセンサーは、例えば、米国特許第5,738,825号に記載されている。回折格子ベースの導波路バイオセンサーは、導波路フィルムおよび入射光照射野を導波路フィルムにインカップルして(incouple)回折光照射野を生じる回折格子を含んでなる。導波路フィルムの有効屈折率の変化を検出する。回折格子ベースの導波路バイオセンサーなどの、波動が装置内の相当な距離を輸送されなくてはならない装置は、本発明の空間分解能を欠く。
【0012】
比色共鳴反射バイオセンサーによって、蛍光タグ、比色分析標識または任意のその他の種類の検出タグもしくは検出標識を使用することなく、バイオセンサーの表面上で生化学的相互作用が測定されることが可能となる。バイオセンサー表面は、コリメート光および/または白色光を照射された場合に、狭帯域の波長のみを反射する(「共鳴格子効果」)よう設計される光学構造を含む。狭い波長帯は、波長「ピーク」として記載される。「ピーク波長値」(PWV)は、生物学的物質などの物質がバイオセンサー表面に沈着されるか、または除去される際に変化する。読み出し機器を用いて、コリメート光および/または白色光でバイオセンサー表面上の個別の位置を照射し、反射光を集める。集められた光を、PWVの測定のために波長分光計に収集する。
【0013】
底のないマイクロタイタープレートカートリッジの底に構造を結合すること(バイオセンサー面を上にして)によって、マイクロタイタープレートなどの標準的な使い捨て実験室品目にバイオセンサーを組み込むことができる。普通の実験室形式のカートリッジにバイオセンサーを組み込むことが、既存のマイクロタイタープレート操作装置、例えば、ミキサー、インキュベーターおよび液体分配装置との互換性にとって望ましい。比色共鳴反射バイオセンサーはまた、例えば、マイクロ流体装置、マクロ流体装置またはマイクロアレイ装置に組み込むことができる(例えば、米国特許第7,033,819号、同7,033,821号参照のこと)。比色共鳴反射バイオセンサーは、当技術分野で周知の方法論(例えば、Methods of Molecular Biology、Jun−Lin Guan編、第294巻、Humana Press、Totowa、New Jersey参照のこと)とともに使用し、分子の、バイオセンサーの表面との共有結合または非共有結合をモニターすることができる。
【0014】
比色共鳴反射バイオセンサーは、サブ波長構造表面(SWS)を含んでなり、薄フィルムコーティングの効果を模倣し得る従来のものではない種類の回折格子素子である(Peng&Morris、「Resonant scattering from two−dimensional gratings」、J.Opt.Soc.Am.A、第13巻、第5号、993頁、1996年5月;Magnusson,&Wang、「New principle for optical filters」、Appl.Phys.Lett.、第61巻、第9号、1022頁、1992年8月;Peng&Morris、「Experimental demonstration of resonant anomalies in diffraction from two−dimensional gratings」、Optics Letters、第21巻、第8号、549頁、1996年4月)。SWS構造は、回折格子周期が、入射光の波長に対して比較して小さく、その結果、反射されるおよび透過されるゼロ次数以外の回折次数が伝播されることが可能とならない、一次元、二次元または三次元格子を含む。横方向の導波モードの伝播は、支持されない。むしろ、導波モード共鳴効果は、任意の光子がバイオセンサー構造に入る点から約3ミクロンの高度に局在化された領域中で生じる。
【0015】
比色共鳴反射バイオセンサーの反射光または透過光は、バイオセンサーの上面に、特異的に結合する物質、標的分子または小分子またはそれらの組み合わせなどの分子を加えることによって調節できる。加えられた分子は、構造を通る入射光照射の光路長を増大させ、したがって、最大反射率または透過率が生じる波長を改変する。
【0016】
一実施形態では、比色共鳴反射バイオセンサーは、白色光および/またはコリメート光で照射された場合に、単一波長または狭帯域の波長を反射する(「共鳴格子効果」)よう設計される。質量がバイオセンサーの表面に沈着されると、反射される波長は、バイオセンサー上に示される光の光路の変化によってシフトする。
【0017】
例えば、検出システムは、例えば、光ファイバープローブによって垂直入射でバイオセンサーの小さな点を照射する光源と、例えば、同様に垂直入射で第2の光ファイバープローブによって反射光を集める分光計とからなる。励起/検出システムとバイオセンサー表面間に物理的接触が生じないので、特定のカップリングプリズムは必要ではなく、バイオセンサーを、例えば、マイクロタイタープレートをはじめとする任意のよく用いられるアッセイプラットフォームに容易に適応させることができる。単一の分光計読み取りを、数ミリ秒で実施することができ、したがって、バイオセンサー表面上で並行して起こる多数の分子相互作用を迅速に測定し、反応動力学をリアルタイムでモニターすることが可能である。
【0018】
層厚(すなわち、カバー層、生物学的物質、または光回折格子)を、上面でさらなる分子に対する共鳴波長感度を達成するよう選択する。回折格子周期は、所望の波長で共鳴を達成するよう選択する。
【0019】
比色共鳴反射バイオセンサーは、例えば、高屈折率物質からなる光回折格子と、回折格子を支持する基板層と、場合により、基板層の反対側の回折格子の表面上に1種以上の特異的に結合する物質または固定されたリンカーとを含んでなる。高屈折率物質は、基板層よりも高い屈折率を有する。例えば、米国特許第7,094,595号;同7,070,987号を参照のこと。基板層は、ポリマー、プラスチック、ガラスまたはナノポーラス物質であり得る。米国特許公開第2007/0009380号参照のこと。所望により、カバー層は、回折格子表面をカバーする。光回折格子は、例えば、硫化亜鉛、二酸化チタン、酸化タンタル、窒化ケイ素および二酸化ケイ素からなるものであり得る高屈折率誘電体フィルムでコーティングされる。光学的特長を有する回折格子の断面プロフィールは、任意の周期的に反復する機能、例えば、「方形波」を含んでなり得る。光回折格子はまた、線(一次元)、四角形、円、楕円、三角形、台形、正弦波、卵形、矩形および六角形からなる群から選択される形の反復パターンを含んでなり得る。本発明の比色共鳴反射バイオセンサーはまた、例えば、高屈折率物質でコーティングされる、プラスチックまたはエポキシからなる光回折格子を含んでなり得る。
【0020】
線形格子(すなわち、一次元格子)は、照射光偏光が回折格子周期に対して垂直方向である共鳴特徴を有する。比色共鳴反射バイオセンサーはまた、例えば、二次元格子、例えば、六角形アレイのホールまたは四角形を含んでなる。その他の形も同様に使用してもよい。線形格子は、六角形アレイ格子と同一のピッチ(すなわち、高および低屈折率の領域間の距離)、周期、層厚および物質特性を有する。しかし、光は、光学構造に共鳴的に結合されるよう格子線に対して垂直に偏光するはずである。したがって、その偏光軸が線形格子に対して垂直に配向した偏光フィルターは、照射源とバイオセンサー表面の間に挿入されなければならない。照射光源の小さな部分のみが正しく偏光されるので、六角形格子と比較して同等の量の共鳴反射光を集めるには長い組み込み時間が必要である。
【0021】
光回折格子はまた、例えば、単一の固定された高さの高屈折率領域が低屈折率カバー層内に埋め込まれる「段階的」プロフィールを含んでなり得る。高および低屈折率の交互領域は、バイオセンサーの上面に対して平行な光学導波路を提供する。
【0022】
本発明の比色共鳴反射バイオセンサーは、基板層の反対の光回折格子の表面にカバー層をさらに含んでなり得る。カバー層が存在する場合には、1種以上の特異的に結合する物質が、回折格子の反対のカバー層の表面上に固定化される。カバー層は、回折格子を含んでなる物質よりも低い屈折率を有する物質を含んでなることが好ましい。カバー層は、例えば、ガラス(例えば、スピンオンガラス(SOG))、エポキシまたはプラスチックからなり得る。
【0023】
例えば、バイオセンサーの屈折率必要条件を満たす種々のポリマーをカバー層に使用してよい。SOGは、その好都合な屈折率、操作の容易さおよび豊富なガラス表面活性化技術を用いて特異的に結合する物質で活性化される容易性のために使用してもよい。バイオセンサー表面の平坦性が特定のシステム設定にとって問題でない場合には、SiN/ガラスの回折格子構造を、検知面として直接使用してもよく、その活性化は、ガラス表面上と同一の手段を用いて行ってもよい。
【0024】
共鳴反射はまた、光回折格子上の平坦化カバー層を伴わずに得ることもできる。例えば、バイオセンサーは、高屈折率物質の構造化された薄いフィルム層でコーティングされた物質のみを含む場合もある。平坦化カバー層を使用することなく、周囲の媒体(例えば、空気または水)が格子を満たす。したがって、特異的に結合する物質が、上面上だけでなく特異的に結合する物質に曝露された光回折格子のすべての表面上のバイオセンサーに固定化される。
【0025】
通常、本発明の比色共鳴反射バイオセンサーが、すべての偏光角の光を含む白色光および/またはコリメート光で照射される。バイオセンサー格子中の反復特徴に対する偏光角の方向が、共鳴波長を決定する。例えば、反復する線と空間のセットからなる「線形格子」(すなわち、一次元格子)バイオセンサーは、別個の共鳴反射を生じ得る2種の光学偏光を有する。線に対して垂直に偏光される光は、「s偏光される」と呼ばれ、線に対して平行に偏光される光は、「p偏光される」と呼ばれる。入射光のsおよびp成分は両方とも、フィルター処理されていない照射ビーム中に同時に存在し、各々別個の共鳴シグナルを生じる。バイオセンサーは、通常、一方のみの偏光(s偏光)の特性を最適化するよう設計することができ、最適化されない偏光は、偏光フィルターによって容易に除去される。
【0026】
すべての偏光角が同一の共鳴反射スペクトルを生じるよう偏光依存を除去するために、同心円状のリングのセットからなる交互バイオセンサー構造を使用できる。この構造では、各同心円状のリングの内径と外径の間の差が、回折格子周期の約1/2に等しい。連続するリングは各々、前のリングの内径よりも約1回折格子周期大きい内径を有する。同心円状のリングパターンは、単一のセンサー位置、例えば、アレイスポットまたはマイクロタイタープレートウェルを覆うように伸びる。別個のマイクロアレイスポットまたはマイクロタイタープレートウェルの各々は、その中を中心とする別個の同心円状のリングパターンを有する。このような構造のすべての偏光方向は、同一の断面プロフィールを有する。同心円状のリング構造は、偏光無依存を保つために正確に中心に照射されなければならない。同心円状のリング構造の回折格子周期は、共鳴反射光の波長未満である。回折格子周期は、約0.01ミクロン〜約1ミクロンである。回折格子深度は、約0.01〜約1ミクロンである。
【0027】
別の実施形態では、ホールまたはポストのアレイは、上記の同心円状の円構造を密接に接近させ、格子の任意の特定の位置上を中心とする照射ビームを必要としないよう配置される。このようなアレイパターンは、等角度で3方向から表面に入射する3つのレーザービームの光学干渉によって自動的に生じる。このパターンでは、ホール(またはポスト)は、密接に詰まっている六角形のアレイの角を中心とする。ホールまたはポストはまた、各六角形の中心に生じる。ホールまたはポストのこのような六角形の格子は、同一の断面プロフィールが「起こる」3つの偏光方向を有する。したがって、六角形の格子構造は、任意の偏光角の光を用いて同等な共鳴反射スペクトルを提供する。したがって、不要な反射シグナル成分を除去するための偏光フィルターは必要ではない。ホールまたはポストの周期は、約0.01ミクロン〜約1ミクロンであり得、深度または高さは約0.01ミクロン〜約1ミクロンであり得る。
【0028】
検出システムは、光を比色共鳴反射バイオセンサーに向ける比色共鳴反射バイオセンサー光源と、バイオセンサーから反射された光を検出する検出器とを含んでなり得る。一実施形態では、決定された閾値を超える陽性結果のみが検出を引き起こすようフィルターを適用することによって読み出し機器を簡素化することが可能である。
【0029】
本発明の比色共鳴反射バイオセンサー各個別の位置で共鳴波長のシフトを測定することによって、どの個別の位置が、例えば、そこに沈着された生物学的物質を有するかを調べることが可能である。シフトの程度を用いて、例えば、試験サンプル中の結合パートナーの量および1種以上の特異的に結合する物質と試験サンプルの結合パートナー間の化学親和性を決定することができる。
【0030】
比色共鳴反射バイオセンサーは、2回照射してもよい。最初の測定によって、例えば、バイオセンサー上に標的分子のない、バイオセンサーの1以上の個別の位置の反射スペクトルを求める。2回目の測定によって、例えば、バイオセンサーに1種以上の分子が適用された後の反射スペクトル求める。これら2回の測定間のピーク波長の相違が、バイオセンサー上の分子の存在または量の測定値である。この照射方法は、ピーク共鳴波長のわずかな変動を有する領域をもたらし得るバイオセンサーの表面中の小さな不完全性について制御できる。この方法はまた、バイオセンサー上の分子の変動する濃度または密度について制御できる。
【0031】
バイオセンサーの表面
1種以上の特異的に結合する物質または標的分子を、例えば、物理吸着によって、または化学結合によってバイオセンサー上に固定化できる。標的分子は、核酸、ペプチド、タンパク質溶液、ペプチド溶液、コンビナトリアルケミカルライブラリーに由来する化合物を含有する溶液、抗原、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体(scFv)、F(ab)断片、F(ab’)2断片、Fv断片、小さい有機分子、ウイルス、ポ
リマーまたは生物学的サンプルなどの特異的に結合する物質によってバイオセンサー表面と特異的に結合し得、ここでは、標的分子はバイオセンサーの表面に固定化される。標的分子は、バイオセンサーに非共有結合によって付着される場合もあるし、共有結合によって付着される場合もある。
【0032】
標的分子は、バイオセンサー表面上の1以上の個別の位置のアレイに配置してもよく、前記表面は、マルチウェルプレートの1以上のウェル内にあり、マルチウェルプレートまたはマイクロアレイの1以上の表面を含んでなる。標的分子のアレイは、表面が、各々、異なる標的分子を含むか、異なる量の標的分子を含む、1以上の個別の位置を含むように、マイクロウェルプレート内のバイオセンサー表面上に1以上の標的分子を含んでなる。例えば、アレイは、1、10、100、1,000、10,000または100,000の、またはそれを超える個別の位置を含んでなり得る。したがって、マルチウェルプレートまたはマイクロアレイの各ウェルは、その中にマルチウェルプレートのその他のウェルとは別個の1以上の個別の位置のアレイを有し得、これによって、複数の異なるサンプルが1つのマルチウェルプレート上で処理されることが可能となる。任意の1つのウェル内のアレイまたは複数のアレイは、同一のマイクロタイタープレートの任意のその他のマイクロタイターウェル中に見られるアレイまたは複数のアレイと、同一である場合もあり、異なる場合もある。
【0033】
標的分子をバイオセンサー表面に固定化することはまた、例えば、以下の官能性リンカーとの結合によって影響を受け得る:ニッケル基、アミン基、アルデヒド基、酸性基、アルカン基、アルケン基、アルキン基、芳香族基、アルコール基、エーテル基、ケトン基、エステル基、アミド基、アミノ酸基、ニトロ基、ニトリル基、炭水化物基、チオール基、有機リン酸基、脂質基、リン脂質基またはステロイド基。さらに、標的分子は、物理吸着、化学結合、電気化学結合、静電結合、疎水性結合または親水性結合および免疫捕捉法によってバイオセンサーの表面上に固定化され得る。
【0034】
本発明の一実施形態では、バイオセンサーは、例えば、ニッケル基、アミン基、アルデヒド基、酸性基、アルカン基、アルケン基、アルキン基、芳香族基、アルコール基、エーテル基、ケトン基、エステル基、アミド基、アミノ酸基、ニトロ基、ニトリル基、炭水化物基、チオール基、有機リン酸基、脂質基、リン脂質基またはステロイド基などのリンカーでコーティングすることができる。例えば、アミン表面を用いて、いくつかの種類のリンカー分子を付着することができ、他方、アルデヒド表面を用いて、さらなるリンカーを含まずにタンパク質を直接結合することができる。ニッケル表面を用いて、組み込まれたヒスチジン(「his」)タグを有する分子を結合することができる。ニッケルで活性化された表面を用いる「hisタグをつけた」分子の検出は、当技術分野で周知である(Whitesides、Anal.Chem.68、490、(1996年))。
【0035】
リンカーおよび特異的に結合する物質は、各ウェルが、それに固定化された同一のリンカーおよび/または特異的に結合する物質を有するようにバイオセンサーの表面上に固定化できる。あるいは、各ウェルは、リンカーおよび/または特異的に結合する物質の種々の組み合わせを含み得る。
【0036】
標的分子は、バイオセンサーの表面上に固定化されているリンカーまたは特異的に結合する物質と特異的に、または非特異的に結合し得る。あるいは、バイオセンサーの表面は、リンカーまたは特異的に結合する物質を有さない場合もあり、標的分子がバイオセンサー表面と非特異的に結合する場合もある。
【0037】
バイオセンサー上への1種以上の特異的に結合する物質またはリンカーの固定化は、特異的に結合する物質またはリンカーがすすぎ手順によって洗浄除去されないように、また、試験サンプル中の標的分子とのその結合がバイオセンサー表面によって妨げられないように実施する。特異的に結合する物質の、例えば、種々の種類のマイクロアレイおよびバイオセンサーにおいて使用するためのガラス、プラスチックまたはナノポーラス物質との共有結合のために、いくつかの異なる種類の表面化学戦略が実施されてきた。1種以上の特異的に結合する物質を結合するための正しい官能基を含むようなバイオセンサーの表面調製は、バイオセンサー製造法の不可欠な部分である。
【0038】
1種以上の特異的標的分子は、物理吸着によって(すなわち、化学リンカーを使用することなく)または化学結合によって(すなわち、化学リンカーを使用して)ならびに電気化学結合、静電結合、疎水性結合および親水性結合によってバイオセンサー表面に付着され得る。化学結合は、特異的に結合する物質のバイオセンサー表面上へのより強い付着を生じ、表面に結合された分子の規定の配向およびコンホメーションを規定し得る。
【0039】
プラスチック、エポキシまたは高屈折率物質への特異的に結合する物質の固定化は、本質的には、ガラスへの固定化について記載されたように実施できる。しかし、酸性洗浄ステップは、特異的に結合する物質が固定化される材料にかかる処理が損傷を与えるような場合には、省略することができる。
【0040】
バイオセンサーを使用する方法
本発明の一実施形態は、標的分子と結合する1種以上の「小分子」(すなわち、約300Da未満である分子)を同定する方法を提供する。標的分子は、例えば、核酸分子、ポリペプチド、タンパク質、抗原、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、一本鎖抗体(scFv)、F(ab)断片、F(ab’)2断片、Fv断片、小さい有機分子、小さ
い無機分子、細胞、ウイルス、細菌または生物学的サンプルであり得る。
【0041】
小分子は、例えば、核酸分子、ポリペプチド、抗原、抗体断片、小さい有機分子または小さい無機分子であり得る。小分子は、約1、5、10、50、75、100、125、150、175、200、225、250、275または300Da未満であり得る。小分子は、約0.1〜約500Da、約1〜約300Da、約1〜約200Da、約1〜約100Da、約1〜約50Da、約1〜約25Daまたは約0.1〜約500Da間の任意の範囲であり得る。適当な検出感度を有する、プレートベースの標識を含まない方法論によって、標的分子上のどこかと結合する極めて小さい(約300Da未満)化合物のライブラリー全体の迅速なスクリーニングが可能となる。小分子ライブラリーは、約5、10、25、50、100、500、1,000、5,000、10,000種またはそれを超える異なる小分子を含んでなり得る。あるいは、小分子ライブラリーは、1種のみの小分子を含んでなり得る。
【0042】
標的分子は、バイオセンサーの表面上の第1の位置に適用できる。第1の位置の比色共鳴反射光学第1ピーク波長値(PWV)または屈折率を求める。小分子サンプル(例えば、小分子ライブラリー)を、第1の位置に適用する。標的分子および小分子サンプルは、必要に応じて一定期間インキュベートしてもよい。第1の位置の第2のPWVまたは屈折率を求める。第1の値を算出し、ここで第1の値は、第1のPWVと第2のPWV(または第1の屈折率と第2の屈折率)間の相違である。第2のPWV(または屈折率)が、第1のPWVに比較してシフトしている場合には、小分子サンプルは標的分子と結合している。場合により、第1の値を対照試験と比較してもよい。対照試験は、標的分子をバイオセンサーの表面上の第2の位置に適用することを含んでなり得る。これらの標的分子は、標的分子の第1のセットを第1の位置に適用するのと同時に、またはその後に第2の位置に適用してよい。これらの標的分子は、第1の位置に適用される標的分子のセットと同じ種類の標的分子であってもよいし、異なる標的分子であってもよい。第2の位置の第3のPWV(または屈折率)を検出する。既知標的分子結合剤を第2の位置に適用する。標的分子は、必要に応じて一定期間インキュベートしてもよい。第2の位置の第4のPWV(または屈折率)を検出する。第2の値を求め、ここで、第2の値は、第2の位置の第3のPWV(または屈折率)と第4のPWV(屈折率)間の相違である。第1および第2の値が同一または同様である場合は、小分子サンプルは標的分子と結合する。第1および第2の値は、それらが互いに約1nm内にある場合に同一または同様である。標的分子を調べる標識を含まないバイオセンサー法は、標的分子にとって破壊的ではないので、標的分子を2回以上処理して経時的に相違を探してもよい。
【0043】
バイオセンサーの表面上の第1の位置および第2の位置は、マイクロタイターウェル、マイクロタイタープレート、試験管、ペトリ皿、マイクロ流体装置チャネルおよびマイクロアレイからなる群から選択される容器の内側面であり得る。本発明のアッセイでは、小分子サンプルおよび試験分子は、検出標識を含んでなる必要はないが、必要に応じて標識を含んでなる場合もある。
【0044】
1種以上の標的分子を、1つの位置、例えば、バイオセンサーの表面上のマイクロタイターウェルに適用してもよい。レセプタクルとは、一容器を指し、容器の収集物、例えば、マルチウェルプレートではない。位置の比色共鳴反射光学ピーク波長値(PWV)(または屈折率)を検出する。1種以上の標的分子を一定期間(例えば、1秒、30秒、1、2、5、10、20、30、45分、1、2、5、10時間またはそれを超える時間)インキュベートしてもよい。インキュベーションに先立って、またはインキュベーション後に、またはインキュベーションの前とインキュベーションの後に、1種以上の標的分子に1種以上の小分子を適用してもよい。位置の比色共鳴反射光学PWVは、2回検出してよい。1種以上の小分子が標的分子と結合する場合には、光の反射波長は、結合がない状況と比較してシフトされる。第1のPWVは、第2のPWVと比較できる。PWVの変化は、結合を示し得る。いくつかの期間にわたってPWVを調べ、比較することができる。結合はリアルタイムでモニターすることもできる(例えば、図5参照のこと)。
【0045】
本発明の一実施形態では、標的分子と結合する小分子の量または濃度を調べることができる。例えば、図1参照のこと。
【0046】
バイオセンサー位置での結合は、バイオセンサー表面のPWVによって検出でき、またはより一般的には、顕微鏡、デジタルカメラ、従来のカメラまたはレンズに基づく光学もしくはエレクトロニクスに基づく電荷結合素子(CCD)技術を利用する、拡大するか、拡大しないその他の可視化装置を用いてモニターできる。
【0047】
PWVを調べるスキャナーのレンズの解像度は、約2〜約200、約2〜約50または約2〜約15マイクロメートルピクセルサイズを有することが好ましい。本発明のアッセイは、約1、5、10、15、30、45または60分未満で完了できる。すなわち、結合を時間的に効率よく調べることができる。
【0048】
薬物の開発および設計では、標的分子上の標的部位と結合する第1の分子を、標的部位と結合する小分子と、または標的分子上の隣接する部位と連結することが有利であり得る。このようにして、標的部位と結合する第1の分子に特異性を加えることができる。例えば、多数の標的活性部位は、同様に課せられる標的分子にとってかなり似ている。しかし、標的分子は、独特である活性部位に隣接する部位を有する可能性が高い。隣接する分子の利点は、隣接される分子の一部分によって標的部位をブロックすることによって、およびより独特の隣接標的部位に対する隣接される分子の結合部分の特異性によって得られる。したがって、特異的標的部位の外側の標的分子と結合する小分子を同定することが有利であり得る。さらに、本発明は、複数の、連続的な相互作用を調べることができる静止系を提供するので、これを用いて、複数の小分子付着(同一標的分子内の異なる部位を含めた異なる部位での)事象を調べることができる。
【0049】
標的分子は、例えば、標的部位で標的分子と結合する(共有結合によってまたは非共有結合によってのいずれか)分子(「ブロッカー分子」)で「ブロッッキング」され得る。標的部位は、例えば、ブロッキングされると、標的分子を不活化するか、または活性化する部位であり得る。次いで、ブロッキングされた、およびブロッキングされていない標的分子センサー表面を、小分子ライブラリーを用いて探索し、ライブラリーから、標的分子のブロッキングされていない部位で標的分子と結合する小分子を見出すことができる。本発明の方法はまた、同一の結合部位で、またはその付近で標的と相互作用している/結合している分子を競合アッセイによって決定することを可能にする。
【0050】
本発明の方法はまた、滴定アッセイによる結合力および親和性測定値または平衡結合定数の決定を可能にする。結合力とは、複数の結合相互作用の組み合わせた力である。そのようなものとして、結合力は、結合の合計というよりも結合親和性の組み合わせた相乗的な力である。親和性とは、単一の結合の力を意味する。親和性測定値として、それだけには限らないが、平衡結合定数、解離定数、結合の速度および解離の速度が挙げられる。解離定数(Kd)は、小分子と標的分子間の親和性であり、したがって、小分子が特定の標的分子とどの程度堅く結合しているかを表す。親和性は、例えば、小分子および標的分子2者間の共有結合相互作用および非共有結合分子間相互作用、例えば、水素結合、静電相互作用、疎水性力およびファンデルワールス力によって影響され得る。本発明の方法は、その他の方法を用いては検出可能ではない、小分子と標的分子間の極めて弱い結合を検出し得る。例えば、小分子と標的分子間の結合は、約2,000、1,500、1,000、750、500、250、100、50、25、10、5、1μMを超えるKdで、またはそれ以上で検出され得る。小分子と標的分子間の結合は、約2,000〜約0.001μM;約2,000〜約0.01μM;約2,000〜約1,000μM;約2,000〜約1,500μM;約2,000〜約750μM約1,500〜約0.01μM;約1,000〜約0.01μM;約750〜約0.01μM;約500〜約0.01μM;約250〜約0.01μMまたは約2,000〜約0.001μM間の任意の範囲のKdで検出され得る。
【0051】
一実施形態では、本発明の方法を用いて、標的分子に対する小分子の親和性を調べることができる。標的分子は、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化できる。第1のピーク波長値を調べる。例えば、3、5、10、12、15、24または36またはそれを超える(または2から1,000の間の任意の範囲)種々の濃度で比色共鳴反射バイオセンサーの表面に小分子を加えることができる。実質的に、滴定曲線が作製される。種々の濃度の各々について、ピーク波長値を検出する。ピーク波長を比較して、標的分子に対する小分子の親和性を求める。一実施形態では、標的分子または小分子の分子量または両方がわかっている。
【0052】
本発明の別の実施形態は、小分子の順位親和性値を調べる方法を提供する。比色共鳴反射バイオセンサーの表面の第1のピーク波長値を調べる。既知分子量を有する標的分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化する。第2のピーク波長値を調べる。第1と第2のピーク波長値間の相違を用いて、比色共鳴反射バイオセンサーに結合している標的分子のモル量を求める。特定の濃度の、既知分子量を有する小分子を、比色共鳴反射バイオセンサーに加える。特定の分子量は必要ではない。例えば、およその分子量値を使用してもよい。例えば、30,000Da標的に対する300〜600分子量の範囲の小分子ライブラリーは、450Da結合を用いて近似させることができ、標的に対するレシオメトリックな300〜600の間の変動は無視できる。第3のピーク波長値を調べる。第2のピーク波長値と第3のピーク波長値間の相違は、比色共鳴反射バイオセンサー表面と結合している小分子の量を提供する。第2のピーク波長値と第3のピーク波長値間の相違対第1のピーク波長値と第2のピーク波長値間の相違の比を用いて小分子の順位親和性を求める。
【0053】
本発明はまた、小分子が標的分子上の特定の部位と結合するかどうか、または標的結合について標的分子上の標的部位の既知ブロッカーと競合するかどうかを調べる方法を提供する。標的分子は、第1の比色共鳴反射バイオセンサーに固定化できる。また、標的分子を、第2の比色共鳴反射バイオセンサーに固定化し、これでは、標的分子の標的部位は、標的部位の既知ブロッカーでブロッキングされる。小分子を第1および第2の比色共鳴反射バイオセンサー両方に加え、第1および第2の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値を調べる。第1の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値が、第2の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値と比較してシフトしている場合には、小分子は、標的分子上の標的部位の既知ブロッカーと競合するか、標的分子上の特定の部位と結合する。
【0054】
本発明はまた、固定化された標的分子対添加された小分子の化学量論的比を求めることができる。さらに、本発明を用いて化学量論を超える相互作用を測定し、小分子の相互作用の特異性または「粘性」を調べることができる。一般に、薬物設計では、化学量論を超える小分子または「粘性」の小分子、すなわち、標的分子上の2以上の結合部位と結合する小分子を避けることが望ましいが、これは、それらが特定の標的に対する特異性を欠き、最終的に望ましくない毒性につながる傾向があるからである。一実施例では、センサーに固定化される標的分子の量を経時的に定量化する。例えば、0.1分〜1時間(または間の任意の範囲)にPWVをとる。2、5、10、20、30、50、100、200またはそれより多い(または間の任意の範囲)時点をとってもよい。本発明の一形態が、約2ng/mm2のPWVシフトを提供するという事実を用いることによって、および固定化された標識の分子量の値を有することによって、センサー上に固定化される標的のモル数を算出することができる(2ng/mm2×mm2でのセンサー読み取り領域の大きさ×1モル/標的の分子量)。この値を用い、以下の方程式を使用して、標的と結合する小分子の対応する量を算出する:標的固定化PWVシフト×(リガンドの分子量/標的の分子量)。本発明を用い、上記のPWVシフト値を得ることによって、この数は、化学量論を超える結合を示す。値が2〜5倍の倍数である場合は、この値は、標的との実際の結合である可能性が高い。値がこれを超える倍数である場合は、これは、凝集性化合物を示す可能性がある。例えば、図5参照のこと。
【0055】
一般に、分子と標的分子間の解離定数を求める場合には、予想されるKdより約10倍高い、標的分子と結合するべき分子の濃度を有することが望ましい。しかし、高感度の生物学的系を用いて使用するであろうものなどの、少ない量の非水性溶媒における分子の固有の溶解度のために、このような高濃度で小分子をスクリーニングすることは困難であり得る。本発明は、低濃度の小分子で(例えば、約2mM、約1mM、約0.5mM、約0.25mMまたは約2mM〜約0.5mM、約2mM〜約0.25mM、約0.5mM〜約0.0ImMまたは2mMから0.01mM間の任意の範囲)、小分子および標的分子の親和性を調べる方法を提供する。Kdを下回る小分子の濃度で、ほとんどのアッセイの結合シグナルは、たとえ検出可能であったとしても大幅に小さくなる。結合シグナルは、Kdと等しい濃度点での最大の1/2である点へ濃度が高まるにつれて上がる。本発明は、最大シグナルの予測を可能にするので(上記参照のこと)、結合シグナルを示し始める任意の低濃度の小分子は、予測されるプラトーへつながる傾斜した線を開始する。当業者ならば、小分子の標的に対する親和性を前記の傾斜および前記の最大シグナルから確認できることは認識されよう。
【0056】
また、本発明の方法を用い、阻害型アッセイにおいて既知結合パートナーを置換することによって生物活性の低下を調べることができる。既知結合パートナーおよび1種以上の小分子の両方を、標的部位がブロックされているか、ブロッキングされていないバイオセンサー表面に加える。対照アッセイは、ブロッキングされたおよびブロッキングされていない表面に1種以上の小分子のみ、既知結合パートナーのみを加えることまたは分子を加えないことを含む。
【0057】
本発明の方法はまた、ブロッキングされている(標的分子への既知結合剤で)およびブロッキングされていない標的分子の試験間に生じ得る変動を同定し、補正できる。例えば、標的分子でコーティングされたバイオセンサー表面に既知強力結合分子を加える場合には、表面に小分子のライブラリー(DMSOバッファーまたは塩バッファー中)を加え、次いで、シグナルを検出すればよい。シグナルは結合を表し得る。あるいは、シグナルは、塩バッファーまたはDMSOバッファーによる偽シグナルを表す場合もある。例えば、小分子ライブラリー溶液中のDMSOは、25%以上もの高いシグナルの変動を引き起こし得る。本発明の一実施形態は、標的部位がブロッキングされた、およびブロッキングされていないバイオセンサー表面でのDMSOの滴定による「ミスマッチ」補正を提供する。標的部位がブロッキングされた表面とは、バイオセンサー表面に標的分子が固定化されている表面であり、バイオセンサー表面に、分子の標的部位と結合することがわかっている分子(すなわち、「ブロッカー分子」)を加える。ブロッキングされていない表面とは、バイオセンサー表面に標的分子が固定化されていない表面である。ブロッキングされた、およびブロッキングされていない表面に、1以上の種類の小分子を加える。ブロッキングされたバイオセンサー表面で陰性PWVシフトが観察される場合には、DMSOまたは塩バッファーが変動を引き起こしている。ブロッキングされた表面とブロッキングされていない表面の両方で陽性シフトが見られる場合には、小分子は、既知結合分子以外の部位で標的と結合している。ブロッキングされていない表面で陽性シフトが見られ、ブロッキングされた表面ではより少ない陽性シフトが見られる場合には、既知結合分子および小分子は、同一標的部位と結合している。例えば、図4参照のこと。DMSOまたは塩バッファーによって引き起こされる変動を補正するために、参照または対照表面で測定されるPWVにおける陰性シフトを、標的表面の結合シグナルに加えてもよい。
【0058】
本発明の方法が検出できる相互作用の種類の例が表1に示されている。
【0059】
【表1】

【0060】
本明細書中のいずれかに言及される、すべての特許、特許出願およびその他の化学的または技術的文書は、参照によりその全文が組み込まれる。本明細書に例示的に記載される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない、任意の要素または複数の要素、制限または複数の制限の不在下で適切に実施できる。したがって、例えば、本明細書における各場合において、用語「含んでなる」、「本質的にからなる」および「からなる」のいずれも、その通常の意味を保持しながら、他の2つの用語のいずれかで置き換えることができる。使用されている用語および表現は、説明の用語として用いられ、制限の用語ではなく、このような用語および表現の使用において、示され、記載される特徴またはその一部の任意の等価物を排除する意図はないが、特許請求される本発明の範囲内で種々の改変が可能であるということは認識される。したがって、本発明は実施形態によって具体的に開示されるが、本明細書に開示される概念の任意の特徴、改変および変化は、当業者によって用いることができるということ、およびこのような改変および変化は、この記述および添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲内であると考えられることは理解されなければならない。さらに、本発明の特徴または態様が、マーカッシュグループまたは代替のその他のグループ分けの用語で記載されている場合には、当業者ならば、それによって本発明もまた、マーカッシュグループまたはその他のグループの任意の個々のメンバーまたはメンバーの下位グループの用語で記載されるということは認識されよう。
【実施例】
【0061】
標的分子、ATPアーゼドメインを有するプロテインX(26kDa)を、比色共鳴反射バイオセンサーに固定化した。このバイオセンサーに、<300Daのライブラリーメンバーの平均分子量を有する化合物ライブラリーを加えた。ライブラリー構成要素の、バイオセンサーとの直接結合を検出した。化合物ライブラリーの結合データはまた、NMRおよびX線結晶学を含めた生物物理学的方法からも得た。
【0062】
2%DMSOバッファー中の約500種の分子をスクリーニングした。読み取り時間は10分未満であった。リガンドスクリーニング濃度は、250μMおよび1mMであった。結果を以下に示した:1:1化学量論での200Daリガンドのダイナミックレンジ、全結合60pm、S/N=12;陽性および陰性対照の適切な同定;検出/滴定される親和性の範囲1nM〜約1mM;および低スループット生物物理学的方法を用いた強力なヒット相関。
【0063】
以下の化合物を同定した(図2および3参照のこと):
・断片A:(Mr=265Da、Kd約0.01μM)
・断片B:(Mr=263Da、Kd約1μM)
・断片C:(Mr=249Da、Kd約1μM)
・断片D:(Mr=168Da、Kd約100μM)
・断片E:(Mr=215Da、Kd約10μM)
・断片F:(Mr=265Da、Kd約0.1μM)
・断片G:(Mr=283Da、Kd約0.001μM)
【0064】
図1は、センサーの表面上に固定化されたプロテインXと弱く会合する小分子を高感度検出するためのバイオセンサーの再現性を示す。小分子は、1mMまたは0.25mMの濃度でセンサープレートの表面に加えた。結果は、高度に再現性のある、定量的な結果を実証する。アッセイは、標準96および384ウェルプレートで実施した。
【0065】
図2は、凝集性化合物およびDMSOミスマッチ化合物が、両方に等濃度で加えられた場合に、標的表面(y軸)と比較して対照またはブロッキングされた表面(x軸)で大きく異なるシグナルを提供することを示す。図は丸く囲まれた領域で、アッセイのロバスト性の統計的評価を得るために用いた陽性対照(既知結合)化合物を強調する。このアッセイによって、凝集性分子による偽陽性(斜線の四角形の外側のもの)が同定された。このアッセイによって、その他の生物物理学的アッセイ:核磁気共鳴法、X線結晶学および等温滴定熱量測定法によって決定された結合性化合物が強い相関で確認された。図2は、5つの96ウェルセンサープレートのうちの1つに由来する代表的なデータを示す。
【0066】
図3「標準」グラフは、本発明の方法を使用して滴定し、その他の生物物理学的方法によって得られた既知結合性化合物の妥当な親和性結合曲線を得ることができることを示す。「BIND(登録商標)ヒット」グラフは、本発明の方法によって「発見された」化合物を、滴定曲線を実施し、これを親和性の順位付けのために平衡結合定数に合わせることによる本発明の方法によるさらなる生化学的特性決定によって結合性化合物と確認できることを示す。したがって、本発明の方法を用いて、各結合性化合物がどの程度堅く標的分子と結合するかを調べること、化学量論を調べること、および例えば、競合アッセイを用いて個々の結合部位を調べることができる。
【0067】
図4は、本発明の方法が、種々の結合部位と弱く会合する断片の結合の測定を可能にすることを実証する。ゼロより大きく、標的表面および同様にブロッキングされた標的表面で試験された場合の概算と等しいシグナルを与える化合物は、標的に対して特異性を有さず、標的上の単一部位と実際に結合している可能性が低い。強調された、円で囲んだ領域中の化合物は、ブロッキングされた標的表面上で示しているよりも、標的上で大幅に大きなシグナルを示しており、したがって、特異的に、PWVシフトシグナルによって提供されるモル計算から決定される適切な比で結合していると決定される。
【0068】
図5は、特異性決定のための結合の経時変化アッセイを示す。遅い結合ほど、特に、PWVシフトが1:1化学量論を上回る場合に、低い特異性を表し得る。化合物ウェルF11およびウェルF4は、「粘性」または化学量論を上回る化合物を表す。正常な1:1結合は、混合時間内に生じる安定なプラトーシグナルを実証する(化合物ウェルG7)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的分子に対する小分子の親和性を調べる方法であって、
(a)標的分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化するステップおよび第1のピーク波長値を調べるステップと;
(b)小分子を、3以上の異なる濃度で比色共鳴反射バイオセンサーの表面に加えるステップと、3以上の異なる濃度のピーク波長値を調べるステップと;
ピーク波長を比較して、標的分子に対する小分子の親和性を決定するステップと
を含んでなる方法。
【請求項2】
小分子が、約300Da未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
小分子の解離定数(Kd)を求める、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
小分子の解離定数が、約2,000〜約750μMである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
小分子の濃度が、約0.5mM〜約0.01mMである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
小分子サンプルの順位親和性を調べる方法であって、
(a)比色共鳴反射バイオセンサーの表面の第1のピーク波長値を検出するステップと;
(b)既知分子量を有する標的分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化するステップと、第2のピーク波長値を調べるステップと;
(c)第1および第2のピーク波長値を用いて、比色共鳴反射バイオセンサーと結合している標的分子のモル量を求めるステップと;
(d)比色共鳴反射バイオセンサーに、特定の濃度の、既知分子量の小分子サンプルを加えるステップと、第3のピーク波長値を調べ、ここで、第2のピーク波長値と第3のピーク波長値間の相違が比色共鳴反射バイオセンサー表面に結合している小分子の量を提供するステップと;
(e) 第1のピーク波長値と第2のピーク波長値間の相違対第2のピーク波長値と第3のピーク波長値間の相違の比を用いて小分子サンプルの順位親和性を調べるステップと
を含んでなる方法。
【請求項7】
小分子サンプルが、約300Da未満である小分子を含んでなる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
小分子サンプル中の小分子の解離定数が、約2,000〜約750μMである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
小分子サンプル中の小分子の濃度が、約0.5mM〜約0.01mMである、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
小分子が標的分子上の特定の部位と結合するかどうか、または標的結合について標的分子上の標的部位の既知ブロッカーと競合するかどうかを調べる方法であって、
(a)標的分子を、第1の比色共鳴反射バイオセンサーに固定化するステップと;
(b)標的分子を、第2の比色共鳴反射バイオセンサーに固定化し、ここで、標的分子の標的部位が、標的部位の既知ブロッカーでブロッキングされるステップと;
(c)第1および第2の比色共鳴反射バイオセンサーの両方に小分子を加えるステップ、および第1および第2の比色共鳴反射バイオセンサーの+++ピーク波長値を調べるステップと
を含んでなり、
ここで、第1の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値が、第2の比色共鳴反射バイオセンサーのピーク波長値と比較してシフトしている場合には、小分子が、標的分子上の標的部位の既知ブロッカーと競合するか、または標的分子上の特定の部位と結合する方法。
【請求項11】
小分子が約300Da未満である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
小分子の解離定数が、約2,000〜約750μMである、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
小分子の濃度が、約0.5mM〜約0.01mMである、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
300Da未満の小分子が標的分子と結合するかどうかを調べる方法であって、
(a)標的分子を、比色共鳴反射バイオセンサーの表面に固定化するステップおよび第1のピーク波長値を調べるステップと;
(b)比色共鳴反射バイオセンサーの表面に小分子を加えるステップおよび第2のピーク波長値を調べるステップと;
第1および第2のピーク波長を比較するステップと
を含んでなり、第2のピーク波長値が、第1のピーク波長値と比較してシフトしている場合、小分子は標的分子と結合する方法。
【請求項15】
小分子の解離定数(Kd)を求める、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
小分子の解離定数が、約2,000〜約750μMである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
小分子の濃度が、約0.5mM〜約0.0 1mMである、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2010−525334(P2010−525334A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504305(P2010−504305)
【出願日】平成20年4月19日(2008.4.19)
【国際出願番号】PCT/US2008/060951
【国際公開番号】WO2008/131314
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(503159210)エス アール ユー バイオシステムズ,インコーポレイテッド (24)
【Fターム(参考)】