説明

固定化された環状オリゴ糖を有する分離剤及びその製造方法

【課題】クロマトグラフィーの分離剤として使用可能な、環状オリゴ糖を担持する新たな分離剤を提供する。
【解決手段】
D−グルコピラノシドの繰り返し単位からなる環状オリゴ糖であるか、又は前記環状オリゴ糖とD−グルコピラノシドに結合している官能基とを有する環状オリゴ糖の誘導体を担体に担持してなる分離剤であって、前記環状オリゴ糖に、9以上の前記繰り返し単位からなる環状オリゴ糖を用い、このような環状オリゴ糖又はその誘導体を担体に化学結合によって固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、担体に化学的に結合する比較的大きな環状オリゴ糖を有する分離剤に関する。
【背景技術】
【0002】
化学結合型光学異性体用分離剤として、シクロデキストリン(環状α−1,4−グルカン、以下「CD」と略すこともある)、又はこれをエーテル化、エステル化、カルバモイル化した誘導体をシリカゲル等の担体に化学結合によって固定化した分離剤が知られており、市販されている(例えば、特許文献1、2、及び非特許文献1参照。)。これらは、主に各種化合物に対するシクロデキストリンの包接作用の強弱を以って混合物(不純物)を分離する目的で用いられる。しかし、シクロデキストリンとして一般的に得られるものは、6,7又は8個のD−グルコピラノシドからなり、空孔の大きさのバリエーションに限りがあり、そのことが分離できる化合物の範囲に制約を与えていた。
【0003】
特許文献2には、D−グルコピラノシドを繰り返し単位とする環状少糖類化合物及びその誘導体を含む化学結合体が開示されているが、シクロデキストリン以外の環状少糖類化合物に対する言及はない。
【0004】
CD以外の環状オリゴ糖誘導体を担体に担持する分離剤としては、シクロソフォロースのアセテート誘導体やベンゾエート誘導体を担体に塗布して物理的に担持させた分離剤が知られている(例えば、非特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US 4,539,399
【特許文献2】特許第3,342,482
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Anal. Chem., 62, 1610 (1990)
【非特許文献2】H. Namikoshi, T. Shibata, H. Nakamura, I. Okamoto, K. Shimizu, and Y. Toga, J. F. Kennedy, G. O. Phillips, P. A.Williams, “Wood and Cellulosics”, Ellis Horwood, Chichester, U. K., 1987 p.611-617.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、クロマトグラフィーの分離剤として使用可能な、環状オリゴ糖を担持する新たな分離剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、環状オリゴ糖の分離剤としての使用を鋭意検討し、特定の環状オリゴ糖を担体(シリカゲル)に結合した固定相を調製し、そのクロマトグラフィーカラムとしての性能を測定したところ、CDとは異なった分離パターンを示すことを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、担体と、担体に担持される環状オリゴ糖又はその誘導体とを有する分離剤であって、前記環状オリゴ糖又はその誘導体が、D−グルコピラノシドの繰り返し単位からなる環状オリゴ糖であるか、又は前記環状オリゴ糖の水酸基の一部又は全部と置
き換えられた下記式(1)〜(3)のいずれかで表される官能基を有する前記環状オリゴ糖の誘導体である分離剤において、前記環状オリゴ糖が、9以上の前記繰り返し単位からなり、前記環状オリゴ糖又はその誘導体が前記担体に化学結合によって担持されている分離剤を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
前記式(1)及び(2)中、R1は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表し、前記式(3)中、R2は、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表す。前記フェニル基、ベンジル基、及びフェネチル基のベンゼン環の水素原子は炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0012】
また本発明は、前記環状オリゴ糖がシクロソフォロース又はシクロイソマルトオリゴ糖である前記の分離剤を提供する。
【0013】
また本発明は、シリカゲルの担体と担体に化学結合によって担持される環状オリゴ糖、又は前記環状オリゴ糖の水酸基の一部又は全部と置き換えられた前記式(1)〜(3)のいずれかで表される官能基を有する前記環状オリゴ糖の誘導体とを有する分離剤を製造する方法であって、エポキシ基を有するシランカップリング剤を担体の表面に化学結合させる工程と、担体に化学結合したシランカップリング剤のエポキシ基と環状オリゴ糖又はその誘導体の水酸基とを塩基の存在下で反応させてシランカップリング剤と環状オリゴ糖又はその誘導体とを化学結合させる工程とを含む方法において、前記環状オリゴ糖がD−グルコピラノシドの9以上の繰り返し単位からなり、環状オリゴ糖又はその誘導体を化学結合させる工程における塩基に、塩基性の有機金属化合物、或いは分岐アルキル及び芳香族環の一方又は両方を有するアミンを用いる分離剤の製造方法を提供する。
【0014】
また本発明は、担体に化学結合した環状オリゴ糖の残りの水酸基の一部又は全部を、前記式(1)〜(3)のいずれかで表される基に置き換える工程をさらに含む前記の製造方法を提供する。
【0015】
また本発明は、前記塩基に1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンを用いる前記の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、クロマトグラフィーの分離剤として使用可能な、環状オリゴ糖を担持する新たな分離剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1におけるシクロソフォロース結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られたカルバモイル化シクロソフォロース結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図3】実施例2におけるシクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図4】実施例2で得られたカルバモイル化シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図5】実施例3における1,1’−ビ(2−ナフトール)の光学分割のクロマトグラムを示す図である。
【図6】実施例4における1−(1−ナフチル)エタノールの光学分割のクロマトグラムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の分離剤は、担体と、担体に担持される環状オリゴ糖又はその誘導体とを有する。前記環状オリゴ糖又はその誘導体における環状オリゴ糖は、D−グルコピラノシドの9以上の繰り返し単位からなる。
【0019】
環状オリゴ糖には、先行技術で開示されているシクロデキストリンのほかにも、これとは異なった結合パターン、糖残基数を持つ環状オリゴ糖がある。本発明における環状オリゴ糖には、D−グルコピラノシドの9以上の繰り返し単位からなる種々の環状オリゴ糖を用いることができる。このような環状オリゴ糖としては、例えばシクロソフォロース及びシクロイソマルトオリゴ糖が挙げられる。
【0020】
シクロソフォロースは、β−1,2−結合によって60個程度以下、好ましくは10〜40個、さらに好ましくは15〜30個のグルコピラノースが脱水縮合した環状オリゴ糖である。シクロソフォロースには、起源によってCrowngall多糖とも呼ばれる。シクロソフォロースの環を形成するD−グルコピラノシドの数は、生産菌や生産条件にもより、9以上であれば本用途に関して特段の制限はない。シクロソフォロースとしては、例えばHisamatsuらによって報告されている、17から24に至る各数のD−グルコピラノシドからなる環状オリゴ糖(M. Hisamatsu et al., Carbohydrate Research, 121(1983) 31−40)が挙げられる。
【0021】
シクロイソマルトオリゴ糖は、9〜30個、好ましくは9〜15個のグルコピラノースがα−1,6−結合によって脱水縮合した環状オリゴ糖である。シクロイソマルトオリゴ糖は、シクロイソマルトース、シクロデキストラン等とも呼ばれる。シクロイソマルトオリゴ糖の環を形成するD−グルコピラノシドの数についても、上記と同じことが言える。シクロイソマルトオリゴ糖としては、例えばFunaneらによって報告されている、は7〜12個のD−グルコピラノシドからなる環状オリゴ糖(Funane et al., J. Biotechnology, 130 (2007) 188−192)が挙げられる。
【0022】
本発明の分離剤は、環状オリゴ糖が芳香族環等と相互作用するため、分離目的に利用できるが、分離の対象によっては、環状オリゴ糖にさらにエーテル化、エステル化、又はカルバモイル化を施すことによって、より好ましい分離機能を発現することも期待される。
【0023】
前記環状オリゴ糖の誘導体は、前記環状オリゴ糖の水酸基の一部又は全部と置き換えられた下記式(1)〜(3)のいずれかで表される官能基を有する。
【0024】
【化2】

【0025】
前記式(1)及び(2)中、R1は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表し、前記式(3)中、R2は、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表す。前記フェニル基、ベンジル基、及びフェネチル基のベンゼン環の水素原子の一部又は全部は炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。
【0026】
このような官能基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン基を置換基として有するフェニルエステル基、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン基を置換基として有するフェニルカルバモイル基、及び、炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン基を置換基として有するフェニルエーテル基が挙げられ、さらには、例えば4−メチルフェニルエステル基、3,5−ジメチルフェニルエステル基、4−クロロフェニルエステル基、4−メチルフェニルカルバモイル基、3,5−ジメチルフェニルカルバモイル基、及び4−クロロフェニルカルバモイル基が挙げられる。
【0027】
前記環状オリゴ糖誘導体における官能基の置換度は、官能基の導入による分離性能のさらなる向上の観点から、1〜3.0であることが好ましく、1.5〜3.0であることがより好ましい。官能基は環状オリゴ糖の環構造において、均等に配置されていてもよいし、偏って配置されていてもよい。
【0028】
前記担体には、本発明の分離剤の使用条件において不溶性を有する既存の担体を用いることができる。担体は、粒子状であってもよいし、カラム管に一体的に収容される成形体であってもよいし、電気泳動に用いることができる細管であってもよい。担体は、多孔質体であることが、分離性能を高める観点から好ましい。前記担体としては、例えば架橋ポリスチレン、架橋アクリル系ポリマー、エポキシ重合物等の合成高分子、セルロースやそれを架橋によって強化した架橋セルロース、架橋アガロース、架橋デキストラン、及び架橋マンナン架橋体等の多糖、及び、アルミナ、シリカゲル、メソポーラスシリカゲル、ゼオライト、珪藻土、溶融シリカ、粘度鉱物、ジルコニア、金属等の無機物、が挙げられる。前記担体は、性能、入手の容易さ、表面処理方法の多様さの観点から、シリカゲルであることが好ましい。
【0029】
前記環状オリゴ糖又はその誘導体は、化学結合によって担体に担持されている。このような化学結合による環状オリゴ糖又はその誘導体の固定化は、環状オリゴ糖を溶解する可能性のある、水やアルコール等の移動相を用いる条件においても、本発明の分離剤の使用を可能にすることから、本発明の分離剤の汎用性を高める観点から好ましい。このような化学結合では、一般的に共有結合が用いられる。また、このような固定化は、環状オリゴ糖又はその誘導体と担体とを直接化学結合させてもよいし、担体及び環状オリゴ糖の両方と反応し得る架橋剤を介して間接的に化学結合させてもよい。
【0030】
前記架橋剤は、担体と結合する基と、環状オリゴ糖と結合する基とを有し、必要に応じ
てこれらの基を結合するスペーサ基をさらに有していてもよい化合物を用いることができる。担体と結合する基には、担体の種類に応じた適当な基が用いられる。例えば担体がシリカゲルである場合では、担体と結合する基としては、例えば炭素数1又は2のアルコキシシランが挙げられる。環状オリゴ糖と結合する基としては、例えば環状オリゴ糖の水酸基と結合する基が挙げられ、例えばエポキシ基、アミノ基、スルフヒドリル基(−SH)、及びイソシアナート基が挙げられる。前記スペーサ基は特に限定されないが、スペーサ基には、炭素数3〜18の直鎖のアルキレン基、及びこのようなアルキレン基を含んでもよいエーテル基等の二価の基の一以上を好適に用いることができる。
【0031】
架橋剤を介する環状オリゴ糖の化学結合による担体への担持は、従来からの担体への分離剤成分の化学結合による固定化技術を利用して行うことができる。例えば特許文献1には、エポキシ基を含むカップリング剤をシリカゲルに結合し、しかる後に水素化ナトリウムの存在下でエポキシ基と多糖の水酸基との間でエーテル結合を形成させる技術が記載されている。
【0032】
また、より中性に近い条件下での架橋剤と環状オリゴ糖との化学結合方法としては、例えば、シリカゲルにスルフヒドリル基(−SH)を持つシランカップリング剤を結合する一方、環状オリゴ糖又はその誘導体には、不飽和基(特に末端ビニル基)を持つアルキル基を結合し、両者存在下にラジカル開始剤等でラジカルを発生させる方法もある。
【0033】
さらに前記化学結合方法としては、例えば、イソシアナート基を有するシランカップリング剤でシリカゲルを処理した後、環状オリゴ糖又はその誘導体の水酸基との間でカルバメート結合を形成させる方法もある。架橋剤を介する環状オリゴ糖の化学結合による担体への担持は、このような様々な方法を採用して行うことができる。
【0034】
本発明の分離剤は、担体の形態に応じて、混合物中から特定の化合物を分離するための種々の形態の分離、精製に適用することができる。例えば担体が粒子や、カラム管に収容される一体型成形体である場合には、カラム管に分離剤を充填することにより液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等のカラムクロマトグラフィーに用いることができる。また、例えば担体が粒子である場合には、溶液中でのバッチ吸脱着に用いることができる。また、例えば担体が細管である場合には、この細管の内壁面を環状オリゴ糖又はその誘導体で修飾したキャピラーを用いた電気泳動に用いることができる。
【0035】
本発明の分離剤は、様々な化合物の分離に用いることができる。本発明の分離剤が用いられる分離としては、例えば、疎水性と親水性又は極性と非極性のバランスが近いために分離が難しい化合物の分離、例えば位置異性体、立体異性体、幾何異性体、ホモローグ等の分離、更には該環状オリゴ糖構造が光学活性体であることを生かした光学異性体の分離等が挙げられる。本発明の分離剤を用いれば、従来から知られているシクロデキストリン固定化物に比べ、よりサイズの大きい分子の識別、分離が可能となることが期待される。
【0036】
本発明の分離剤の製造方法は、本発明の分離剤のうち、シリカゲルの担体に、環状オリゴ糖又はその誘導体が化学結合によって担持されてなる分離剤を好適に製造することができる。本発明の製造方法は、シリカゲルの担体と担体に化学結合によって担持される前記環状オリゴ糖又はその誘導体とを有する分離剤を製造する方法であって、エポキシ基を有するシランカップリング剤を担体の表面に化学結合させる工程と、担体に化学結合したシランカップリング剤のエポキシ基と環状オリゴ糖又はその誘導体の水酸基とを塩基の存在下で反応させてシランカップリング剤と環状オリゴ糖又はその誘導体とを化学結合させる工程とを少なくとも含む。
【0037】
エポキシ基を有するシランカップリング剤の担体への化学結合は、例えば下記式に示す
ように、シリカゲルをシランカップリング剤で表面処理する通常の方法によって行うことができる。
【0038】
【化3】

【0039】
担体上のシランカップリング剤と環状オリゴ糖又はその誘導体との化学結合は、下記式に示すように行われる。下記化学式中のRは環状オリゴ糖の環を表す。この化学結合は塩基の存在下で行われる。本発明では、この塩基に、塩基性の有機金属化合物、或いは分岐アルキル及び芳香族環の一方又は両方を有するアミンが用いられる。このような塩基を用いることは、塩基によるシリカゲルの溶解等のシリカゲルに対する悪影響を抑制する観点から好ましい。
【0040】
【化4】

【0041】
塩基性の有機金属化合物としては、例えば、ナトリウムやカリウムのターシャリーブトキシド、リチウムのジイソプロピルアミド、リチウムのテトラメチルピペリジド、及びカリウムヘキサメチルジシラジドが挙げられる。分岐アルキル及び芳香族環の一方又は両方を有するアミンとしては、例えば、ジイソプロピルエチルアミン及び1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンが挙げられる。シリカゲルに対する悪影響のさらなる抑制の観点から、前記塩基は分岐アルキル及び芳香族環の一方又は両方を有するアミンであることが好ましく、上記の観点から、立体的に嵩高く、求核性の低い、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンであることがより好ましい。このような塩基の使用量は、シランカップリング剤のエポキシ基に対するモル比で0.01〜100であることが好ましく、0.1〜50であることがより好ましい。
【0042】
本発明の製造方法は、担体に化学結合した環状オリゴ糖の残りの水酸基の一部又は全部を、前記式(1)〜(3)のいずれかで表される基に置き換える工程をさらに含むことが、得られる分離剤の分離性能をより一層高める観点から好ましい。前記式(1)のエステル化は、例えば、前記式(1)中のR1を有する酸クロリドと環状オリゴ糖の水酸基とを反応させることによって行うことができる。また前記式(2)のカルバモイル化は、例えば、下記式に示すように、前記式(2)中のR1を有するイソシアナートと環状オリゴ糖の水酸基とを反応させることによって行うことができる。さらに前記式(3)のエーテル化は、例えば、前記式(3)中のR2を有するハロゲン化物を塩基の存在下で反応させることによって行うことができる。なお、下記式中のR’は環状オリゴ糖におけるD−グルコピラノシドを表す。
【0043】
【化5】

【実施例】
【0044】
[エポキシ化シリカゲルの合成]
シリカゲル(Wakosil 5SIL−120)20gを6時間、170℃で乾燥した。これを300mLのトルエン中に分散し加熱、トルエン約50mLを水との共沸混合物として留去した。残ったシリカゲル懸濁液に、15mLのグリシドキシプロピルトリエトキシシランを加え、該懸濁液の温度を3時間、撹拌しながら92±2℃に保った。該懸濁液を放冷後、グラスフィルターにてシリカゲルを減圧ろ過、更にトルエン及びメタノールで洗浄後、60℃で4時間真空乾燥し、エポキシ化シリカゲルを得た。得られたエポキシ化シリカゲルの炭素の元素分析値は2.35%であった。
【0045】
[実施例1]
フラスコ中に、エポキシ化シリカゲル2.00gと、シクロソフォロース23量体0.401gを入れ、3時間、95℃にて乾燥した。ここに、乾燥DMF32mL、1,8−ビスジメチルアミノナフタレン1.03gを加え、マグネチックスターラーで撹拌しながら、2時間、135℃に保った。反応生成物を冷却後、吸引ろ過により分離し、フィルター上に残った反応生成物を、順次、各々50mLのDMF、トルエン、メタノール、水、メタノール、0.01N塩酸、メタノールの順で洗浄した後、3時間、62℃にて真空乾燥し、シクロソフォロース結合シリカゲルを得た。シクロソフォロース結合シリカゲルの収量は2.21gであり、元素分析値は、炭素が6.97%であり、水素が1.57%であり、窒素が0.08%であった。また、シクロソフォロース結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルをKBrディスク法で測定した。得られた赤外吸収スペクトルを図1に示す。
【0046】
シクロソフォロース結合シリカゲル1.21gを三つ口フラスコ中で乾燥ピリジン37.5mLに懸濁、加熱し、ピリジンの約7.5mLを留去した。適度に冷却した後、3,5−ジメチルフェニルイソシアナート3.69gを滴下し、120℃、4時間反応させた。冷却後、反応生成物をグラスフィルター上に濾別し、逐次、ピリジン50mL、及びメタノール50mLにて洗浄した。更に前記反応生成物をナスフラスコ中で12mLのDMFに分散させ、撹拌しながら1時間、80℃に保った後、熱時ろ過する操作を4回繰り返した。濾別した前記反応生成物を計100mLのメタノールで洗浄、3時間、60℃にて真空乾燥し、カルバモイル化シクロソフォロース結合シリカゲルを得た。カルバモイル化シクロソフォロース結合シリカゲルの収量は1.38gであり、元素分析値は、炭素が18.10%であり、水素が2.29%であり、窒素が1.61%であった。また、カルバモイル化シクロソフォロース結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルをKBrディスク法で測定した。得られた赤外吸収スペクトルを図2に示す。
【0047】
[実施例2]
実施例1と同様にして、シクロソフォロースに代えてシクロイソマルトオリゴ糖9量体((株)シー・アイ・バイオより購入)0.25gとエポキシ化シリカゲル2.03gとを、DMF32mL中、1,8−ビスジメチルアミノナフタレン1.04gの存在下に反
応させ、シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルを得た。シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルの収量は2.14gであり、元素分析値は、炭素が5.69%であり、水素が1.34%であり、窒素が0.06%であった。また、シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルをKBrディスク法で測定した。得られた赤外吸収スペクトルを図3に示す。
【0048】
シクロイソマルトース結合シリカゲル1.26gを三つ口フラスコ中で乾燥ピリジン37.5mLに懸濁、加熱し、ピリジンの約7.5mLを留去した。冷却した後、3,5−ジメチルフェニルイソシアナート1.22gを滴下し、120℃、4時間反応させた。冷却後、反応生成物をグラスフィルター上に濾別し、逐次、ピリジン50mL、メタノール50mLにて洗浄した。更に前記反応生成物をナスフラスコ中で12mLのDMFに分散させ、撹拌しながら1時間、80℃に保った後、熱時ろ過する操作を4回繰り返した。濾別した前記反応生成物を計100mLのメタノールで洗浄、3時間、60℃にて真空乾燥し、カルバモイル化シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルを得た。カルバモイル化シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルの収量は1.37gであり、元素分析値は、炭素が13.49%であり、水素が1.90%であり、窒素が1.20%であった。また、カルバモイル化シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルの赤外吸収スペクトルをKBrディスク法で測定した。得られた赤外吸収スペクトルを図4に示す。
【0049】
[実施例3]
実施例1で得たカルバモイル化シクロソフォロース結合シリカゲルを充填剤として、スラリー法によって内径4.6mm、長さ150mmのステンレス製カラムに充填した。本カラムを用い、1,1’−ビ(2−ナフトール)のラセミ体を試料として、以下の条件で液体クロマトグラフィーを行った。その結果、クロマトグラムにおいて、3.22分と5.02分にそれぞれピークが認められ、1,1’−ビ(2−ナフトール)のラセミ体からの、エナンチオマーの分離が示された。得られたクロマトグラムを図5に示す。
(条件)
移動相:ヘキサン−イソプロピルアルコール(体積比 9:1)
移動相の流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
試料濃度:1,000ppm
試料の打ち込み量:5μL
【0050】
[実施例4]
実施例2で得たカルバモイル化シクロイソマルトオリゴ糖結合シリカゲルを充填剤として、スラリー法によって内径4.6mm、長さ150mmのステンレス製カラムに充填した。本カラムを用い、1−(1−ナフチル)エタノールのラセミ体を試料として、以下の条件で液体クロマトグラフィーを行った。その結果、クロマトグラムにおいて、3.58分と4.46分にそれぞれピークが認められ、1−(1−ナフチル)エタノールのラセミ体からのエナンチオマーの良好な分離が示された。得られたクロマトグラムを図6に示す。
(条件)
移動相:ヘキサン−イソプロピルアルコール−テトラフルオロ酢酸(体積比 7:3:0.1)
移動相の流量:0.5mL/min
カラム温度:40℃
検出波長:254nm
試料濃度:1,000ppm
試料の打ち込み量:5μL
【産業上の利用可能性】
【0051】
環状オリゴ糖の包接能力は、それを構成する糖の数だけではなく、それらが最安定コンホメーションにおいてどのような形状を持つか、またそのコンホメーションがどれくらい硬い/柔らかいか、また空孔を形成する面が糖のα面かβ面か(それぞれの面は、疎水性が異なり、従って他分子との相互作用の仕方も異なる)等によって大きい影響を受けると考えられる。それゆえ、本発明の環状オリゴ糖固定化シリカゲルによって、従来のCD及びその誘導体を固定化した固定相によっては不可能であった分離、ことに、よりサイズの大きい分子の分離が可能となることが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、担体に担持される環状オリゴ糖又はその誘導体とを有する分離剤であって、前記環状オリゴ糖又はその誘導体が、D−グルコピラノシドの繰り返し単位からなる環状オリゴ糖であるか、又は前記環状オリゴ糖の水酸基の一部又は全部と置き換えられた下記式(1)〜(3)のいずれかで表される官能基を有する前記環状オリゴ糖の誘導体である分離剤において、
前記環状オリゴ糖が、9以上の前記繰り返し単位からなり、
前記環状オリゴ糖又はその誘導体が前記担体に化学結合によって担持されていることを特徴とする分離剤。
【化1】

(式(1)及び(2)中、R1は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表し、式(3)中、R2は、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表す。前記フェニル基、ベンジル基、及びフェネチル基のベンゼン環の水素原子は炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項2】
前記環状オリゴ糖がシクロソフォロース又はシクロイソマルトオリゴ糖であることを特徴とする請求項1に記載の分離剤。
【請求項3】
シリカゲルの担体と担体に化学結合によって担持される環状オリゴ糖、又は前記環状オリゴ糖の水酸基の一部又は全部と置き換えられた下記式(1)〜(3)のいずれかで表される官能基を有する前記環状オリゴ糖の誘導体とを有する分離剤を製造する方法であって、
エポキシ基を有するシランカップリング剤を担体の表面に化学結合させる工程と、
担体に化学結合したシランカップリング剤のエポキシ基と環状オリゴ糖又はその誘導体の水酸基とを塩基の存在下で反応させてシランカップリング剤と環状オリゴ糖又はその誘導体とを化学結合させる工程とを含む方法において、
前記環状オリゴ糖がD−グルコピラノシドの9以上の繰り返し単位からなり、
環状オリゴ糖又はその誘導体を化学結合させる工程における塩基に、塩基性の有機金属化合物、或いは分岐アルキル及び芳香族環の一方又は両方を有するアミンを用いることを特徴とする分離剤の製造方法。
【化2】

(式(1)及び(2)中、R1は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表し、式(3)中、R2は、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表す。前記フェニル基、ベンジル基、及びフェネチル基のベンゼン環の水素原子は炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項4】
担体に化学結合した環状オリゴ糖の残りの水酸基の一部又は全部を、下記式(1)〜(3)のいずれかで表される基に置き換える工程をさらに含むことを特徴とする請求項3に記載の分離剤の製造方法。
【化3】

(式(1)及び(2)中、R1は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表し、式(3)中、R2は、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基、ベンジル基、又はフェネチル基を表す。前記フェニル基、ベンジル基、及びフェネチル基のベンゼン環の水素原子は炭素数1〜4のアルキル基又はハロゲン原子で置換されていてもよい。)
【請求項5】
前記塩基に1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレンを用いることを特徴とする請求項3又は4に記載の分離剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−183361(P2011−183361A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54495(P2010−54495)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】