説明

固定化トリコデルマの製造方法および木材保存方法

【課題】 収集したトリコデルマ属菌から優良菌株を確実に選抜すると共に、トリコデルマ属菌の性能を引き出し、かつ安価で入手しやすい担持材料に定着させることのできる実用性に優れた固定化トリコデルマの製造方法および木材保存方法を提供すること。
【解決手段】 木製土木資材の接地箇所に、アルカリ性の木炭に菌寄生菌のトリコデルマ属菌を生きた状態で固定化した固定化トリコデルマを配置することで、木材腐朽菌による同箇所の腐朽遅延を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツチアオカビと呼ばれるトリコデルマ属菌とアルカリ性を示す一般的な木炭を組み合わせて製造する固定化トリコデルマ(「固定化トリコデルマ」とは、生きた状態のまま担持材料に定着させたトリコデルマ属菌をいう。)を使用することで、防腐薬剤を用いることなく木製土木資材の接地箇所の腐朽を遅延させる木材保存技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の進行を防止・緩和するための方策の一つとして、現在消費している鉱物資源や化石資源の一部をバイオマス資源で置き換えることが提案されている。そのバイオマス資源の一つに木材があり、比重あたりの強度(比強度)が大きいことから土木・建築用資材として利用されてきた。加えて木材には、金属・無機材料と比較して生産や加工に要するエネルギー消費が少ないというメリットがあり、かつそれ自身も大気中の二酸化炭素を固定化した材料であることから今後において更なる利用拡大が期待される。
【0003】
一方、木材は木材腐朽菌(微生物の担子菌)やシロアリ等の生物による攻撃(生物劣化)を受けることがあり、その結果として木材自身が分解されることによる重量減少に端を発する強度低下(腐朽)が生じる。この被害を防ぐ方法として、種々の防腐・防蟻薬剤を木材に塗布・注入する技術が確立されている。しかし、近年社会問題化している化学物質過敏症やVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)の被害により、薬剤を使用しない木材利用が求められることが少なくない。具体例としては、幼児や子どもが利用する公園等の整備において、公園等の利用者から屋外に設置する木製遊具・木製遊歩道・木柵等(以下、木製土木資材)に防腐・防蟻薬剤処理することが嫌悪、敬遠されるケースがある。
【0004】
木材腐朽菌による木製土木資材の腐朽に注目すると、地面と木材が接する接地箇所で特に被害が出やすいことが知られている。それは、地面からの水分と栄養物質の供給、そして大気からの酸素供給が継続的に行われることで好気性微生物である木材腐朽菌、例えばオオウズラタケやカワラタケなどの担子菌の活動が活発化して木材を分解するからである。
【0005】
もしも無処理木材を木製土木資材として屋外で使用すると、使用する木材の樹種や太さ、使用する場所の水分や温度環境により異なるが、早ければ4〜5年程度で接地箇所が激しい腐朽状態となり部材の交換を行う必要が生じる。
【0006】
無処理木材の屋外での利用は、定期的な点検と腐朽した部材の交換をすることで対応が可能であるが、貴重な木材資源の浪費のみならず、点検と保守に多くの時間と多額のメンテナンス費用を投入することになる。木材の腐朽を遅らせ、屋外での寿命を10年程度まで延長することができればメンテナンスの時間と費用を削減することが可能となり、更なる木材利用市場の拡大が期待できる。
【0007】
木材が腐朽するのは、木材そのものが木材腐朽菌の栄養源になることによる。これを防ぐ一般的な方法としては、木材に防腐剤を塗布又は注入する技術が用いられる。すなわち木材腐朽菌にとっての毒物を染み込ませることで木材が栄養源としての機能を失うことを狙ったものである。近年汎用されている低毒性の有機合成化合物系木材防腐剤を所定量塗布又は注入した木材を接地箇所に用いると、一般的に15年程度以上に渡って部品交換をすることなく木製土木資材を利用することができるとされる。
【0008】
また、防腐剤の替わりに木材腐朽菌に寄生する微生物を木材に付着させて腐朽を防ぐことも考えられている。その具体例として、例えば非特許文献1では、保護したい木片そのものにトリコデルマ属菌を接種して培養することで、その木片はオオウズラタケやカワラタケなどの木材腐朽菌による腐朽を受けにくくなることを報告している。ただし、用いるトリコデルマ属菌の菌株によって腐朽防止効果が異なること、カワラタケに対する防腐阻止効果が弱いことが示されている。さらに、トリコデルマ属菌を接種した木片を加熱処理して同菌を殺菌してしまうと防腐阻止効果はほとんど期待できなくなるため、生菌状態のトリコデルマ属菌を木材に定着させておくことが不可欠であると結んでいる。しながら、現在までにその原理を活用する具体的かつ実用的な技術提案は行われていない。
【0009】
また特許文献1では、立ち枯れを起こす担子菌(カイメンダケ、ベッコウダケ、ナラタケなど)が樹木に感染するのを防ぐ方法として、トリコデルマ属菌の胞子を樹木根部や樹木地上部に散布することを提案している。しかし、この技術は生育中の樹木の病害を防ぐものであり、木材に対する木材腐朽菌の攻撃を防除しようとするものではない。
【0010】
オオウズラタケやカワラタケに攻撃性の高いトリコデルマ属菌を選抜し、それらを担持材料に接種、培養して製造した固定化トリコデルマで保護したい木片の周囲を覆うことで、その木片の腐朽遅延を図る検討はすでに試みられており、例えば非特許文献2と非特許文献3によって開示されている。これらの文献によれば、固定化トリコデルマの木片の腐朽阻止効果は、オオウズラタケに対しては安定した効果が得られているものの、非特許文献1と同様にカワラタケに対しては不安定な結果となっている。すなわち、木片をオオウズラタケに25℃、12週間に渡って暴露すると木片に約70%の重量減少率が生じ、固定化トリコデルマと木片を一緒にしてオオウズラタケに同様に暴露すると木片の重量減少率は約3%に抑えられている。一方、木片をカワラタケに25℃、12週間に渡って暴露すると木片に60〜70%の重量減少率が生じ、固定化トリコデルマと木片を一緒にしてカワラタケに同様に暴露すると木片の重量減少率は4〜16%となっている。
【0011】
加えて非特許文献2〜3では、トリコデルマ属菌を固定化するための担持材料として約240℃で熱処理したpHが4.3(酸性)の木材粉砕物を用いている。これは、トリコデルマ属菌を始めとする一般的なカビは酸性環境を好み、その担持材料上で旺盛に生育するからである。酸性のpHを持つ、この熱処理された木材粉砕物は、特許文献2でカビの仲間である外生菌根菌やVA菌根菌、およびエリコイド菌根菌を固定化した緑化資材の製造で用いるものと同じ市販品であり、特許第3057561号の製造方法に従って北海道上川管内東川町の竹内木材工業合資会社が美園なーれTMの商品名で販売していたものである。
【0012】
微生物が好むpHの材料に微生物を固定化しようとするのは合理的である。しかし、酸性の熱処理木材は特殊な製品であり、竹内木材工業合資会社が2008年に入ると生産活動および営業活動を停止したことで、現時点で美園なーれTMは市販されておらず入手は不可能な状況にある。一般的な木炭は400℃程度以上の温度で木材を炭化処理したものであり、そのpHは9程度以上のアルカリ性を示す。塩酸や硫酸などの強酸溶液を浸み込ませない限り、酸性の木炭を作ることはできない。
【0013】
特許文献3では、木材、籾殻、製紙スラッジなどの炭化物にバチルス属の細菌を生きた状態で固定化したものを農業用微生物資材や環境浄化用微生物資材に用いている。バチルス属を始めとする細菌は、一般的に中性から微アルカリ性を好む微生物であるにも拘わらず、使用する炭化物のpHについては7.45以下になるまで流水で洗う必要があることを明記している。
【0014】
特許文献4では、トリコデルマ属菌とその栄養源などを混合したものを植物栽培用の土壌病害防除剤として提案している。栄養源には籾殻、フスマ、米糠などに加えて炭、くん炭、バーク炭、籾殻くん炭、草炭、活性炭などの各種炭類を挙げている。そして、その土壌病害防除剤のpH調整剤として乳酸ナトリウム、乳酸、プロピオン酸、クエン酸、DL−リンゴ酸などが好適と明記している。pH調整剤はほとんどが有機酸類であり、トリコデルマ属菌のための栄養源として各種炭類を用いた場合における土壌病害防除剤の酸性化を図るものである。
【0015】
特許文献5では、酵素活性の高いβ−グルコシダーゼなどを製造するためにペニシリウム属菌の一種であるペニシリウム・ピノフィラムのY−02株やその変異株を粒状活性炭、木炭、ゼオライトなどの無機材料やポリウレタン、寒天などの樹脂(高分子)材料に固定化して利用することを提案している。固定化方法については具体的な手法を記載していないが、一般的な固定化方法である包括法、物理的吸着法、共有結合法のいずれでもよいことを述べている。固定化したY−02株などにβ−グルコシダーゼを生産させる培地については、各種の炭素源、窒素原、無機塩類に加え、ペプトンなどの天然栄養源、さらにはpH緩衝剤を含んだものが利用可能であるとし、特に組成を限定していない。しかしpHは0から7未満の酸性条件とすることを推奨、明記している。酸性条件を維持することでY−02株やその変異株の活性が保たれるため、目的生産物の生産性向上に加えて反応系に侵入する雑菌の繁殖を抑制する狙いがある。
【0016】
また特許文献5では、Y−02株をツァペックイースト寒天培地やマルトエキス寒天培地で培養してその菌叢形態を観察したことを記述している。これらの培地は、通常、形態観察に重点を置いた糸状菌の同定作業に用いられるものであり、本特許文献でもそれらの培地で生育したY−02株がペニシリウム属菌であることを確認し、さらにその分生子柄、フィアライド、分生子の詳細な特徴の観察結果を記述している。
【0017】
非特許文献4に示す株式会社アークネットのホームページでは、トウモロコシの芯で製造した活性炭にトリコデルマ属菌を混合した自社製品が、連作障害を防ぐなどの優れた特性を有する土壌改良剤として機能することを示している。併せて、pHが8.0以上ではトリコデルマ属菌の働きが鈍るため、トウモロコシの芯で製造した活性炭には木酢液の200倍液希釈液を5%混入している。木酢液は主成分が酢酸で、炭を製造する際に副生する酸性の液体である。同液を用いることでトウモノコシの芯で製造した活性炭のpHを酸性方向に調整し、トリコデルマ属菌の活性低下を防ぐものである。
【0018】
熱処理物や炭化物を微生物の担持材料に用いるのは、それらの材料が100℃を超える温度で加熱されて無菌状態になっていることに大きな価値を見出せるからである。トリコデルマ属菌の固定化を阻害する雑菌が皆無に近く、担持材料の殺菌処理をする手間やエネルギー消費を省くことが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開平9−249513号公報
【特許文献2】特開2007−74986号公報
【特許文献3】特開2002−360244号公報
【特許文献4】特開2004−137239号公報
【特許文献5】特開2010−187603号公報
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】土居修一、山田敦、Trichodermaによる木材腐朽防止、林産試験場報、1992年6巻2号、1〜5項
【非特許文献2】富樫巌、宮崎貞之、阿部和真、東真史、黒田裕一、固定化トリコデルマの木材腐朽に対する阻害活性と耐候性、日本木材学会北海道支部講演集、2009年第41号、11〜12項
【非特許文献3】小野寺 愛、木下俊祐、野生担子菌株の木材分解反応に対する固定化トリコデルマの阻害活性、2010年旭川高専物質化学工学科卒業論文(2009年度)、1〜16項
【非特許文献4】株式会社アークネット(岩手県盛岡市)のホームページURL、[online]、[平成22年10月28日検索]、インターネット<http://www.arknetjapan.co.jp/corncob/index.php>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記の如く、トリコデルマ属菌、または固定化トリコデルマを用いて木材の腐朽阻止や腐朽遅延を図る研究は従来から行われているが、実用化するためには、さらに以下の問題を解決する必要がある。
(1)オオウズラタケのみならずカワラタケに対しても阻害活性に優れるトリコデルマ属菌を選抜方法を確立すること。
(2)トリコデルマ属菌を固定化する場合においては、選抜したトリコデルマ属菌の生育が可能で、無菌状態または無菌に近い担持材料を用いる必要があること。
(3)望ましくは、担持材料は選抜したトリコデルマ属菌の能力をより高める働きがあり、かつどの地域にあっても容易、かつ安価に入手可能であること。
(4)固定化トリコデルマは、オオウズラタケとカワラタケにより引き起こされる木材の重量減少率を可能な限りゼロに近い値に抑える性能を有すること。
【0022】
本発明は、上述のかかる事情に鑑みてなされたものであり、収集したトリコデルマ属菌から優良菌株を確実に選抜することができ、さらに、トリコデルマ属菌の性能を引き出し、かつ安価で入手しやすい担持材料に定着させることのできる実用性に優れた固定化トリコデルマの製造方法および木材保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記の課題を解決するために、本発明は以下の方法で固定化トリコデルマを製造する。
(1)入手しやすく、かつ安価な担持材料としては、無菌または無菌に近いことを最重要点に考え、あえて一般的な木炭または木炭粉砕物を用いる。
(2)木炭はpH9程度以上のアルカリ性であるため、木炭にトリコデルマ属菌を接種した場合には、一般的に酸性を好む同菌の生育が貧弱となる。そこで、液体培地、例えば一例としてマルトエキスの2W/V%程度の培養液で前培養したトリコデルマ属菌液体種菌を調製し、それを木炭または木炭粉砕物全体に十分量散布した後に、再度培養してトリコデルマ属菌を木炭上の生活環境に慣れさせることで固定化の促進を図る。トリコデルマ属菌の培養液組成と前培養条件、木炭に散布するトリコデルマ属菌の培養液量、再培養条件などの具体的な数値は以下の実施例に示している。
(3)木炭または木炭粉砕物にトリコデルマ属菌を生きている状態のまま固定化することで、酸性の熱処理木材粉砕物を用いた固定化トリコデルマの木材腐朽阻害活性を超える性能を発揮するトリコデルマ属菌を選抜する。
【0024】
この(1)〜(3)の本発明の手法を用いることで、どこでも入手可能で、かつ生産コストを抑えた木材腐朽阻害性能の高い固定化トリコデルマの製造が可能となる。
【0025】
得られた固定化トリコデルマについては、保護したい木片を同トリコデルマで覆うことでオオウズラタケおよびカワラタケによる木材腐朽を強く阻害し、25℃、12週間暴露後の木片の重量減少率(曝露前の乾燥重量を100とした場合の曝露後の乾燥重量の減少率)をゼロまたはゼロに近い値に抑える性能を有することがきる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、選抜したトリコデルマ属菌の菌株を木炭または木炭粉砕物に接種、培養して調製した固定化トリコデルマを製造し、それらを保護したい木片や木材を取り囲むように配置することでオオウズラタケおよびカワラタケによる木材腐朽を強く阻害することが可能となる。これにより土木資材としての木材の利用拡大を図り、かつ防腐薬剤に頼らない木材保存技術へのニーズに応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態による木炭粉砕物に固定化されたトリコデルマ属菌の菌体の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態による固定化トリコデルマの性能評価方法の説明図である。
【図3】木製土木資材に対する固定化トリコデルマの利用方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態による固定化トリコデルマの製造方法および木材保存方法について説明する。
【0029】
まず、固定化トリコデルマの製造方法の実施例を説明する。
[実施例]
マルトエキス2W/V%溶液にて25℃で2日間攪拌前培養したトリコデルマ属菌A株の液体種菌を接種した。この液体種菌1ml中には、乾燥重量にすると約5mgのトリコデルマ属菌の菌体が含まれている。そして液体種菌のpHは約5.2となる。水分約10W/W%の市販の木炭粉砕物(pH=9.2)に対して体積比で0.4前後量の液体種菌を接種し、25℃で2週間培養して固定化トリコデルマを調製した。図1に固定化トリコデルマ表面の実体顕微鏡写真を示す。図1のA部の円内がトリコデルマ属菌の胞子である。担持材料である木炭粉砕物2にトリコデルマ属菌の菌体が定着している。
【0030】
図2に固定化トリコデルマの性能評価環境を示す。木材腐朽菌の菌叢4として、JIS K 1571の木材保存剤の性能試験及び性能基準で指定されるオオウズラタケFFPRI 0507およびカワラタケFFPRI 1030をポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)5上で生育させた。そして、コントロール区としてそれらの菌叢4上に4×5×25mmのシラカンバ木片3を25℃で12週間暴露させた。図2に示すように、コントロール区の木片3を木炭粉砕物2で覆ったものを木炭区とし、コントロール区の木片3を固定化トリコデルマ1で覆ったものを固定化トリコデルマ区とした。木炭粉砕物2と固定化トリコデルマ1の使用量はそれぞれ木片当たり約10mlとした。12週間の暴露後に、シラカンバ木片3を取り出して60℃で48時間乾燥して重量を測定した。曝露前の同木片の乾燥重量を100として12週間の腐朽により生じた重量減少率を求めて表1に示した。値はいずれも木片12本の平均値である。固定化トリコデルマ区については、同様に4回試験を繰り返してばらつきをみた。その結果、オオウズラタケとカワラタケによる腐朽が安定的に阻害されて木片の重量減少率は一桁台に減少した。
【0031】
固定化トリコデルマを用いていないコントロール区と木炭区の木片の重量減少率は50〜70%台と大きく、両試験区共に木片の腐朽が進行していた。コントロール区よりも木炭区で木片の重量減少率が低いのは、木炭による何らかの影響が両木材腐朽菌に対してあると思われるが、固定化トリコデルマレベルの腐朽阻害を引き起こしてはいない。
【0032】
【表1】

【0033】
[比較例]
参考までに非特許文献2と同3に開示されている、固定化トリコデルマを用いていないコントロール区のシラカンバ木片の重量減少率、および酸性の熱処理木材粉砕物とトリコデルマ属菌A株を用いた固定化トリコデルマ区のシラカンバ木片の重量減少率を表2に示した。いずれも両木材腐朽菌に25℃で12週間、同様の方法で暴露させた結果である。オオウズラタケに対する腐朽阻害効果が期待できるが、カワラタケに対する腐朽阻害効果が不安定であることが分かる。
【0034】
【表2】

【0035】
次に、固定化トリコデルマの利用した木材保存方法について説明する。
上記実施例の方法によりトリコデルマ属菌を生きた状態のまま担持材料に定着させた固定化トリコデルマ1を製造し、図3に示すように、それを屋外に設置された木製土木資材20の接地箇所Bに同資材20の地際周囲を隙間なく、5センチメートル程度以上の厚みと幅を持たせて配置する。これにより木製土木資材20の接地箇所に侵入して活動しようとする木材腐朽菌を、固定化トリコデルマ1のトリコデルマ属菌に攻撃させる。
【0036】
なお木材腐朽菌の木材への侵入方法としては、子実体から放たれた胞子、あるいは菌糸の一部が肥大して切り離された厚膜胞子が空中を飛来して木材等に付着し、そこに水分が十分量あると発芽して活動を開始するのが一般的である。木製土木資材の接地箇所およびその近傍に飛来、付着した木材腐朽菌の胞子の発芽や発芽後の菌糸の活動を阻害するには、固定化トリコデルマを同資材の地際周囲に隙間なく、かつある程度の厚みを持たせて配置する配慮が必要となる。
【0037】
木材腐朽菌に寄生する特性を持つトリコデルマ属菌は、木材腐朽菌の胞子の発芽を阻害し、かつ発芽した菌糸の生育を阻害する。その結果、木材腐朽菌による木材の分解活動にブレーキが掛かり、木材の腐朽は完全に停止することに至らなくとも大きく遅延させることができる。
【0038】
本実施の形態による固定化トリコデルマの製造方法によれば、25℃、12週間暴露後の木片や木材の重量減少率をいずれも数%に抑えることができる。木炭は、安価かつ入手が容易な一般的な材料であることからトリコデルマ属菌の担持材料として実用的であり、酸性の熱処理木材粉砕物を用いた固定化トリコデルマと比較してカワラタケに対して安定した木材腐朽阻害活性を発揮することが可能になる。
【符号の説明】
【0039】
1 固定化トリコデルマ
2 木炭粉砕物
3 シラカンバ木片
4 木材腐朽菌の菌叢
5 ポテトデキストロース寒天培地(PDA培地)
10 ガラス製培養ビン
20 木製土木資材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性の木炭または木炭粉砕物にトリコデルマ属菌の生菌を接種、培養して生きた状態のまま定着させることを特徴とする固定化トリコデルマの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の固定化トリコデルマの製造方法において、マルトエキスの略2W/V%の培養液で前培養したトリコデルマ属菌液体種菌を調製し、当該トリコデルマ属菌液体種菌を前記木炭または前記木炭粉砕物の全体に十分量散布した後に、再度培養することを特徴とする固定化トリコデルマの製造方法。
【請求項3】
前記トリコデルマ属菌として、ツチアオカビを用いたことを特徴とする請求項1または2に記載の固定化トリコデルマの製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法で製造した固定化トリコデルマを屋外に設置された木製土木資材の接地箇所に配置することにより、木製土木資材の接地箇所の腐朽を遅延させることを特徴とする木材保存方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−95570(P2012−95570A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244604(P2010−244604)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【Fターム(参考)】