説明

固定化マンガンペルオキシダーゼ及びその製造方法

【課題】 長時間の反応や、繰り返し利用した場合でも、高い活性を維持できる、マンガンペルオキシダーゼとの結合力が強い担体に固定化された、固定化マンガンペルオキシダーゼ、その製法、それを用いた反応器、それを固定化するための担体の提供。
【解決手段】 エポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼが固定化されてなることを特徴とする固定化マンガンペルオキシダーゼ;かかる固定化マンガンペルオキシダーゼがカラムに充填されてなることを特徴とする反応器;エポキシ基を有する担体と、マンガンペルオキシダーゼを含む溶液とを接触させることを特徴とする固定化マンガンペルオキシダーゼの製造方法;エポキシ基を有することを特徴とするマンガンペルオキシダーゼ固定化用担体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定化マンガンペルオキシダーゼ及びその製造方法、該固定化マンガンペルオキシダーゼを有する反応器、並びにマンガンペルオキシダーゼ固定化用担体に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素を触媒として用いた反応は、温和な条件で行われ、副反応や反応対象物の熱によるダメージ等を起こすことがないため有用な方法である。一方で、酵素はコストが高いため、酵素を効率的に使用し、かつ回収効率を高める目的で、酵素を固定化するための技術開発が進んでいる。例えば、マンガンペルオキシダーゼをメソポーラスシリカ多孔質担体へ固定化する方法が知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、マンガンペルオキシダーゼのメソポーラスシリカ多孔質担体へ結合力は弱く、長時間の反応や繰り返し利用した際に、酵素が担体から剥がれてしまい、3価マンガンの生成量が低下してしまい、反応活性も低下していた。
【特許文献1】特開2001−128672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、長時間の反応や、繰り返し利用した場合でも、高い活性を維持できる、マンガンペルオキシダーゼとの結合力が強い担体に固定化された、固定化マンガンペルオキシダーゼを提供することを目的とする。
また、本発明は、かる固定化マンガンペルオキシダーゼを用いた反応器を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかる固定化マンガンペルオキシダーゼの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかるマンガンペルオキシダーゼとの結合力が強いマンガンペルオキシダーゼ固定化用担体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは上記課題を解決するため、鋭意努力した結果、エポキシ基を有する担体を用い、エポキシ基との結合によりマンガンペルオキシダーゼを固定化することによって、マンガンペルオキシダーゼの担体からの脱離を抑制することを見出し、さらに、長時間の反応や繰り返し利用に際しても、3価マンガンの生成量の低下を抑制し、かつ反応活性の低下も抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、エポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼが固定化されてなることを特徴とする固定化マンガンペルオキシダーゼを提供するものである。
また、本発明は、かかる固定化マンガンペルオキシダーゼがカラムに充填されてなることを特徴とする反応器を提供するものである。
また、本発明は、エポキシ基を有する担体と、マンガンペルオキシダーゼを含む溶液とを接触させることを特徴とする固定化マンガンペルオキシダーゼの製造方法を提供するものである。
また、本発明は、エポキシ基を有することを特徴とするマンガンペルオキシダーゼ固定化用担体を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、マンガンペルオキシダーゼの担体からの脱離を抑制することができる。さらに、本発明の固定化マンガンペルオキシダーゼ及び/又は該固定化マンガンペルオキシダーゼを充填したカラムを利用した酵素反応において、長時間の反応や繰り返し利用に際しても、3価マンガンの生成量の低下を抑制し、かつ反応活性の低下も抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(マンガンペルオキシダーゼ)
本発明で使用するマンガンペルオキシダーゼには、例えば、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)、ファネロカエテ・ソルディダ(Phanerochaete sordida)、カイガラタケ(Lenzites betulinus)、ヒラタケ(Pleurotus ostreatus)、シイタケ(Lentinus edodes)等の担子菌類が生産するリグニン分解酵素を挙げることができる。これらのマンガンペルオキシダーゼは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0008】
ペルオキシダーゼを固定化に供する際には、反応性が高くなることから、ペルオキシダーゼを溶解した状態で使うことが好ましい。この際、溶媒としては、ペルオキシダーゼを溶解し、可溶化後のペルオキシダーゼの活性が維持できるものであれば特にこだわるものではない。そのような溶媒としては水性溶媒が好ましい。
水性溶媒としては、例えば、水、緩衝液、水又は緩衝液と有機溶媒との混合液等が用いられる。
緩衝液としては、例えば、マロン酸緩衝液、シュウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、酢酸緩衝液、コハク酸緩衝液、クエン酸緩衝液及びリン酸緩衝液等が挙げられる。
水性溶媒が水と有機溶媒との混合液である場合は、有機溶媒の割合は10体積%以下とすることが好ましく、5体積%以下とすることがより好ましい。有機溶媒の割合が高くなり過ぎると、固定化したマンガンペルオキシダーゼが失活しやすくなる。
また、ここで、用いることのできる有機溶媒としては、例えば、ヘキサン、トリクロロメタン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ブタノール、エタノール、メタノール、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ギ酸、ジメチルホルムアミド、アセトン、n−プロパノール、イソプロパノール及びt−ブチルアルコール等が挙げられる。
【0009】
(担体)
本発明の担体は、エポキシ基を含有し、マンガンペルオキシダーゼを固定化するのに特に適した担体である。かかる担体としては、エポキシ基を有しているものであれば、市販のものや従来公知の方法で製造されたものなど、本発明の効果を呈するものであれば特に限定することなく用いることができる。例えば、エポキシ基を有するカオリナイト及びガラス等の無機物や、ポリアクリレート、ポリアクリルアミド及びポリスチレン等の有機物を用いることができる。表面にエポキシ基を有していない場合は、導入することが出来る。例えばガラス由来の担体に対しては、各種のシランカップリング剤を用いることにより、担体にエポキシ基を導入することが可能である。また、有機物由来の担体であれば、該有機物に存在する官能基を介する方法や、担体を合成する際にエポキシ基を持った化合物と共重合させることにより、担体にエポキシ基を導入することが可能となる。このうち、エポキシ基を有するポリマーが好ましい。また、該ポリマーはアクリル樹脂であることが特に好ましく、さらに、多孔質アクリル樹脂であることが最も好ましい。
【0010】
また、担体の形状は、単位体積当りのマンガンペルオキシダーゼ固定化量を増やすことによって、2価マンガンの酸化反応の反応性を高めることができることから、多孔質体であることが好ましく、その孔径はマンガンペルオキシダーゼの大きさよりも大きい方が好ましい。また、担体の形態としては、粉末状、顆粒状、シート状、膜状等があり、特に制限はないが、表面積の大きさを確保するという観点から粉末状、顆粒状が好ましい。
【0011】
(固定化反応)
エポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼを固定化するには、エポキシ基を有する担体と、ペルオキシダーゼを含む溶液とを接触させる。
活性の高い固定化マンガンペルオキシダーゼを得たい場合には、固定化に供するマンガンペルオキシダーゼの濃度を高くしてマンガンペルオキシダーゼを担体に対して過剰に供給し、担体使用量を少なくすることが好ましい。
固定化する際の温度は、高くなるほど担体表面のエポキシ基とマンガンペルオキシダーゼ中のアミノ基との反応が活性化される一方で、高くなるほどマンガンペルオキシダーゼの失活が起こりやすくなる。そのため固定化する際の温度範囲としては、4℃から37℃が好ましい。
【0012】
固定化する際には、固定化の効率を上げるために撹拌装置を使用して、前記エポキシ基を有する担体と、マンガンペルオキシダーゼを含む溶液とを攪拌しながら接触することが好ましい。ただし、激しく撹拌することは、固定化の効率を上げることにつながる一方、マンガンペルオキシダーゼの失活を招いてしまう。そのため、撹拌によりマンガンペルオキシダーゼを含む水性溶媒中にて担体が動き、且つマンガンペルオキシダーゼを含む水性溶媒が撹拌により泡立たない程度で撹拌することが好ましい。
【0013】
(回収)
さらに、固定化反応を行った後、マンガンペルオキシダーゼを固定化した固定化酵素を含む水性溶媒中から該固定化酵素を分離し、回収する。該分離及び回収方法としては、例えば遠心分離、ろ過などの方法が上げられる。
【0014】
(洗浄)
また、マンガンペルオキシダーゼを固定化させた後、共有結合で固定化されなかったマンガンペルオキシダーゼを該担体から除去するために、洗浄工程を行うことが好ましい。洗浄には、水性溶媒と同じものを用いることが好ましい。
本発明においては、前記洗浄と回収を数回繰り返すことが好ましい。
【0015】
(反応器)
さらに、本発明の反応器は、カラムに前記固定化マンガンペルオキシダーゼを充填したものである。その場合、予めエポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼを固定化してから、該担体をカラムに充填するか、もしくは、カラム中に担体を充填し、カラム内部の担体にマンガンペルオキシダーゼを含む水性溶媒を通過させることにより、マンガンペルオキシダーゼを固定化させることが出来る。後者の場合、一度通過したマンガンペルオキシダーゼを含む水性溶媒を再通過させることにより、無駄なくマンガンペルオキシダーゼを固定に供することが出来る。通過させる方向としては、カラムの上から下に向かって通過させる方法と、カラムの下から上へ通過させる方法があり、どちらも使用することが可能である。
【0016】
また、予めエポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼを固定化してから、該担体をカラムに充填した後、さらにカラム内部の担体にマンガンペルオキシダーゼを含む水性溶媒を通過させることにより、マンガンペルオキシダーゼを固定化した固定化酵素を得ることもできる。
【0017】
(固定化マンガンペルオキシダーゼの使用方法)
本発明の固定化マンガンペルオキシダーゼと酸化剤と2価マンガンとを含む水性溶媒を接触させることにより、水性溶媒中で2価マンガンから3価マンガンを生成することができ、該3価マンガンで基質を酸化させ、酸化反応生成物を製造することができる。この際、基質と3価マンガンを含む水性溶媒を効率よく混合することで、基質の酸化反応が効果的に進行し、高い効率で酸化反応生成物を得ることができる。上記接触反応は、本発明の反応器中で行うことがより好ましい。
水性溶媒中に含まれる2価マンガンとしては、マンガンの酸化数が+2であるマンガン化合物を用いればよく、特に限定されない。このようなものとして、例えば、硫酸マンガンを挙げることができる。
また、2価マンガンの配合量は、用いる基質の種類に応じて適宜調整すればよいが、水性溶媒として前記緩衝液を用いた場合等、水性溶媒中に有機酸を含有する場合には、有機酸の1/2の量よりも少ない方が好ましい。このような量とすることで、2価マンガンの酸化反応に伴って生成する3価マンガンが、これら有機酸と効率的に錯体を形成する。
【0018】
本発明の固定化マンガンペルオキシダーゼもしくは反応器を用いて基質の酸化反応を行う際の反応温度は、50℃以下であることが好ましく、25℃程度であることがより好ましい。温度が高すぎる場合は、3価マンガンが不安定となり、基質を酸化させる前に失活することがあり、温度が低すぎる場合は、3価マンガンと基質との反応が進行しにくくなることがある。
また、反応時間は、3価マンガン濃度と量、及び反応基質により適宜調整すればよく、例えば、3価マンガン濃度が1.0mM、液量が1mlであり、基質が0.5mMの2,6−ジメチルフェノールである場合には、基質を完全に反応させるために必要な時間は1〜10分程度である。
【0019】
本発明で用いる基質としては、3価マンガンによって酸化することができるすべての物質が対象となるが、特定の化学物質を効率よく製造するためには、該基質は、種々の物質の混合物ではなく、高純度の特定の化学物質であることが好ましい。このような基質としては、例えば、フェノール類やナフトール類などの芳香族ヒドロキシ化合物を挙げることができる。
本発明で用いる基質が芳香族ヒドロキシ化合物である場合、基質を3価マンガンの存在下で酸化すると、基質同士が重合して2量体もしくはポリマーが生成する。
【0020】
本発明における基質としてフェノール類を用いる場合、酸化反応生成物として特定の化学物質を高い収率で得るためには、該フェノール類は、芳香環の水素原子がアルキル基で置換されたアルキルフェノール類であることが好ましく、置換されたアルキル基の数が複数であるアルキルフェノール類であることがより好ましい。なかでも反応性の観点から、フェノール性水酸基から見て芳香環の2位と6位にアルキル基が置換されたアルキルフェノール類であることが特に好ましい。例えば、2,6−ジアルキル置換フェノールは、その反応特異性が高いことが知られており、本発明で用いる基質として、最も好ましいものとして挙げることができる。
【0021】
前記アルキル基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、特に限定されないが、炭素数が1〜4のアルキル基であるメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基及びtert−ブチル基であることが好ましく、メチル基であることがより好ましい。また、前記アルキルフェノール類が、芳香環上に複数のアルキル基が置換されたものである場合には、複数のアルキル基は、同じ種類あるいは異なる種類のいずれもよい。
【0022】
(酸化剤)
酸化剤としては、例えば、過酸化水素、メチル過酸化物、エチル過酸化物等の過酸化物等が挙げられるが、反応性、経済性の観点から過酸化水素が好ましい。
【0023】
本発明の固定化マンガンペルオキシダーゼを用いて安定的に3価マンガンを産生することが出来、産生した3価マンガンを用いて種々の分野、例えば、各種芳香族化合物のポリマー化や、難分解性物質の分解等の用途に広く使用することができる。
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。以下、単位「M」は「mol/L」を示す。
【0024】
以下実施例、比較例においては、酵素としてマンガンペルオキシダーゼ、固定化担体にはエポキシ基を有する多孔質アクリル樹脂系担体であるオイパーギットC250L(「Eupergit C250L」)(商品名;デグサジャパン(株)製))、多孔質セラミック球状担体であるトヨナイト200(「Toyonite−200」(商品名;東洋電化工業(株)製))、トヨナイト200にアミノ基を修飾した多孔質セラミック球状担体であるトヨナイト200A(「Toyonite−200A」(商品名;東洋電化工業(株)製))、トヨナイト200にメタクリル基を修飾した多孔質セラミック球状担体であるトヨナイト200M(「Toyonite−200M」(商品名;東洋電化工業(株)製))、トヨナイト200にフェノル基を修飾した多孔質セラミック球状担体であるトヨナイト200P(「Toyonite−200P」(商品名;東洋電化工業(株)製))、トヨナイト200Aのアミノ基をアルデヒド基に変更したトヨナイト200AGA、メタクリレート重合体であるレバチット1600(商品名;バイエル(株)製)、を使用した。pH緩衝液としては、マロン酸二ナトリウム(和光純薬工業(株)製「マロン酸二ナトリウム」)を用いたマロン酸緩衝液(pH4.5)を使用し、酸化数+2のマンガンを有するマンガン化合物として硫酸マンガン(MnSO:和光純薬工業(株)製「硫酸マンガン」)を用いた。
【0025】
マンガンペルオキシダーゼとしては、ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)の培養菌床から得られたマンガンペルオキシダーゼを用いた。このマンガンペルオキシダーゼの調製方法は以下の通りとした。
白色腐朽菌ファネロカエテ・クリソスポリウム(Phanerochaete chrysosporium)ATCC24725を、カーク液体培地(組成を表1に示す。)で37℃にて培養した。培養は2L三角フラスコ中で上記した培地1Lにて培養し、37℃で3日間培養後、100%酸素をパージし、その後毎日一回酸素パージを行った。所定時間培養した後、培養液を吸引濾過して培養濾液を得、得られた培養濾液を粗酵素溶液とした。粗酵素溶液のpHを7.2に調整後、pH7.2のリン酸緩衝液にて膨潤させた後カラムに充填したトヨパールDEAE650M(TOYOPEARL DEAE650M)(商品名;東ソー(株)製)にチャージした。カラム中に充填されたトヨパールDEAE650Mに吸着されたマンガンペルオキシダーゼを、pH 6.0のリン酸緩衝液にて流出させ、回収しマンガンペルオキシダーゼ溶液とした。
【0026】
【表1】

【0027】
上記物質を蒸留水に溶解しpHを4.5に調整した後、1000mLに定容したものをカーク液体培地とした。
【0028】
【表2】

【0029】
上記物質を蒸留水に溶解しpHを4.5に調整した後、1000mLに定容したものをカークトレースエレメンツとした。
【実施例1】
【0030】
得られたマンガンペルオキシダーゼ溶液を50mg/Lとなるように調製し、その35mlと、1.25gのオイパーギットC250Lとをチューブに入れ、4℃の冷蔵庫中で、振とう機(「ダブルシェーカーNR−30」(商品名;タイテック(株)製))を用いて120〜140min−1の速さで一昼夜撹拌することで固定化を行った。撹拌後のチューブを10分間4000rpmにて遠心し、オイパーギットC250Lを沈殿させ、上清を取り除いた。沈殿しているオイパーギットC250Lを洗浄するため、35mlの滅菌水を加え撹拌した後10分間4000rpmにて遠心し、オイパーギットC250Lを沈殿させ、上清を取り除いた。このオイパーギットC250Lの洗浄操作を合計3回行った。3回洗浄後得られたオイパーギットC250Lを、固定したマンガンペルオキシダーゼとした。
【0031】
(比較例1)
固定化に使用する担体をトヨナイト200としたこと以外は、担体の実施例中に記載の方法により、固定したマンガンペルオキシダーゼの比較例1とした。
【0032】
(比較例2)
固定化に使用する担体をトヨナイト200Aとしたこと以外は、担体の実施例中に記載の方法により、固定したマンガンペルオキシダーゼの比較例2とした。
【0033】
(比較例3)
固定化に使用する担体をトヨナイト200Mとしたこと以外は、担体の実施例中に記載の方法により、固定したマンガンペルオキシダーゼの比較例3とした。
【0034】
(比較例4)
固定化に使用する担体をトヨナイト200Pとしたこと以外は、担体の実施例中に記載の方法により、固定したマンガンペルオキシダーゼの比較例4とした。
【0035】
(比較例5)
固定化に使用する担体をレバチット1600としたこと以外は、担体の実施例中に記載の方法により、固定したマンガンペルオキシダーゼの比較例5とした。
【0036】
(比較例6)
16mlの5%グルタルアルデヒド溶液と、トヨナイト200Aを1.0gとをチューブに入れ、室温中で、前述の振とう機を用いて120〜140min−1の速さで一時間撹拌し、トヨナイト200A表面のアミノ基をアルデヒド化した。撹拌後のチューブを10分間4000rpmにて遠心し、トヨナイト200Aを沈殿させ、上清を取り除いた。沈殿しているトヨナイト200Aを洗浄するため、35mlの滅菌水を加え撹拌した後10分間4000rpmにて遠心し、トヨナイト200Aを沈殿させ、上清を取り除いた。このトヨナイト200Aの洗浄操作を合計3回行った。3回洗浄後得られたトヨナイト200Aを、トヨナイト200AGAとした。
固定化に使用する担体を前記手法により調整したトヨナイト200AGAとしたこと以外は、担体の実施例中に記載の方法により、固定したマンガンペルオキシダーゼの比較例6とした。
【0037】
(試験例1)
(担体の活性測定)
実施例1および比較例1〜6にて記載の方法で作製した7種の担体50mgをエッペンチューブに量り取り、これに50mMマロン酸、0.1mM過酸化水素水、2.0mM硫酸マンガンを含む緩衝液(pH4.5)を全量で0.8mlとなるように調製し、エッペンドルフチューブに加え、撹拌しながら1分間反応を行った。反応後のエッペンチューブを、15,000rpmにて1分間遠心分離し、3価マンガン濃度として上清の270nmにおける吸光度を測定し、担体活性の指標とした。測定はUV−1650PC(商品名;(株)島津製作所製)を用いて行った。測定値が分光光度計の測定限界を超える場合には、pH緩衝液にて3価マンガンを含む水性媒質を適宜希釈し、測定を行った。担体の活性と担体1g当たりのマンガンペルオキシダーゼの固定量を表3に示す。
実施例1の固定化マンガンペルオキシダーゼは、担体1g当たりのマンガンペルオキシダーゼの固定量としては、例えば比較例2、6よりも少ないが、担体活性は各比較例に比し高く、マンガンペルオキシダーゼ単位固定量当たりの活性がきわめて高いことがわかる。その理由は必ずしも明らかではないが、マンガンペルオキシダーゼのアミノ基が担体のエポキシ基と強固な共有結合を形成し、その結果、マンガンペルオキシダーゼの活性中心が基質と接触しやすい配向をとることも理由の1つではないか、と推測される。
【0038】
【表3】

【0039】
(試験例2)
(反復使用による担体活性(比活性)の測定)
(マンガンペルオキシダーゼを固定したカラムの作成)
オイパーギットC250Lに固定したマンガンペルオキシダーゼ(実施例1)0.7gを、50mMマロン酸を含むpH緩衝液(pH4.5)に懸濁し、懸濁液を低圧クロマトグラフィー用ガラスカラム(「エコノカラム」(底面積4.91cm)(商品名;日本バイオ・ラッドラボラトリーズ(株)製))に充填し、マロン酸緩衝液を排出することによりマンガンペルオキシダーゼを固定したカラムを得た。該緩衝液排出後に、固定したマンガンペルオキシダーゼの占める高さは約1cmとなり、体積にして約4.91cmであった。
【0040】
(水性媒質の調製)
50mMマロン酸、0.5mM過酸化水素水、2.0mM硫酸マンガンを含むpH緩衝液(pH4.5)を水性媒質として調製した。
【0041】
(2価マンガンの酸化反応)
調製した該水性媒質を、ペリスタルティックポンプを用い流速1ml/分にて送液し、前記固定カラムの入口から供給した。供給された該水性媒質は、前記固定カラムに充填されている固定したマンガンペルオキシダーゼ部分を通過することにより、硫酸マンガンの一部が3価に変換された3価マンガンを含む水性媒質へと変化し、前記固定カラムの出口より排出された。
【0042】
(3価マンガン濃度の検出)
固定カラムの出口より排出された3価マンガンを含む水性媒質をフラクションコレクター(商品名DC−1200;EYELA製)にて10分後毎に分画した。それぞれの画分について、変換された3価マンガンを含む水性媒質中の3価マンガン濃度を270nmにて測定した。
【0043】
最初に得られた画分の活性を100とした場合の各画分の比活性を、経時的に表した結果を表4に示す。比較例1〜5のマンガンペルオキシダーゼを用いて、上記と同様に非活性を測定した。結果を表4に示す。
表4から、本発明の固定化マンガンペルオキシダーゼは、反復使用による活性の低下がきわめて少ないことが明らかである。
【0044】
【表4】

【実施例2】
【0045】
(芳香族ヒドロキシ化合物のオリゴマー製造)
(マンガンペルオキシダーゼを固定したカラムの作成)
オイパーギットC250Lに固定化したマンガンペルオキシダーゼ5.0gを、50mMマロン酸を含むpH緩衝液(pH4.5)に懸濁し、懸濁液を低圧クロマトグラフィー用ガラスカラム(「エコノカラム」(底面積4.91cm)(商品名;日本バイオ・ラッドラボラトリーズ(株)製))に充填し、マロン酸緩衝液を排出することによりマンガンペルオキシダーゼを固定したカラムを得た。該緩衝液排出後に、固定したマンガンペルオキシダーゼの占める高さは約1cmとなり、体積にして約4.91cmであった。
【0046】
(水性媒質の調製)
50mMマロン酸、10mM過酸化水素水、20mM硫酸マンガンを含むpH緩衝液(pH4.5)を水性媒質として調製した。
【0047】
(2価マンガンの酸化反応)
調製した該水性媒質を、ペリスタルティックポンプを用い流速1ml/分にて送液し、前記固定カラムの入口から供給した。供給された該水性媒質は、前記固定カラムに充填されている固定したマンガンペルオキシダーゼ部分を通過することにより、硫酸マンガンの一部が3価に変換された3価マンガンを含む水性媒質へと変化し、前記固定カラムの出口より排出された。
【0048】
(3価マンガンを含む水性媒質の反応器への供給)
前記で得られた3価マンガンを含む水性媒質中のうち1.98mlをピペットにて分取し、反応器であるガラス製の蓋付試験管に供給し、芳香族ヒドロキシ化合物である基質として、50mMの2,6−ジメチルフェノールの20μlをピペットにて前記反応器へと供給した。室温にて1分間撹拌することによって、3価マンガンによる芳香族ヒドロキシ化合物の酸化を行った。
【0049】
反応終了後の反応器に、0.2gの亜ジチオン酸ナトリウムを加えた後、2mlの酢酸エチルを加え、基質ならびに2,6−ジメチルフェノール二量体を含む反応生成物の抽出を行った。
【0050】
前記抽出物中における2,6−ジメチルフェノール二量体濃度について、下記条件でHPLC(高速液体クロマトグラフィー)による測定を行った。
検出装置:SPDM10A(商品名;(株)島津製作所製)
カラム:イナートシルODS−3(商品名;ジーエルサイエンス(株))
溶出条件:水とアセトニトリルによるグラジエント溶出
0−5分:20% 水/80% アセトニトリル
5−21分:グラジエント
21−31分:0% 水/100% アセトニトリル
送液速度:1.0 mL/min
検出波長:270nm
【0051】
上記条件によるHPLC測定において検出された吸収ピークの強度から、抽出物に含まれる2,6‐ジメチルフェノールのモル濃度αを求めた。
前記モル濃度αと、供給した2,6‐ジメチルフェノールの濃度との比率によって表される値を、2,6−ジメチルフェノールの残存率(以下「残存率」)とし、下式により算出した。
(残存率)[%]=α/(供給した2,6‐ジメチルフェノールモル濃度)×100
本実施例において残存率は5%であった。
さらに、供給した2,6‐ジメチルフェノール全量を100とし、そこから残存率を引いた値をオリゴマー率とし、下式により算出した。
(オリゴマー率)[%]=100−(残存率)
本実施例においてオリゴマー率は95%であった。
【実施例3】
【0052】
供給する2,6‐ジメチルフェノールの濃度を1.0mMとしたこと以外は実施例2と同様に行った。その結果、2,6‐ジメチルフェノールの残存率は6%であり、オリゴマー率は94%であった。
【実施例4】
【0053】
供給する2,6‐ジメチルフェノールの濃度を1.5mMとしたこと以外は実施例2と同様に行った。その結果、2,6‐ジメチルフェノールの残存率は4%であり、オリゴマー率は96%であった。
実施例2〜4における残存率とオリゴマー率を表5に示す。
【0054】
【表5】

【0055】
以上結果から明らかなように、エポキシ基を有する担体に固定化したマンガンペルオキシダーゼを用いて、芳香族ヒドロキシ化合物のオリゴマーを安定した収率で、効率よく得ることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の固定化マンガンペルオキシダーゼは、担体活性及び反復使用による活性低下が少ないため、マンガンペルオキシダーゼを用いた酸化反応を行う技術分野で有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ基を有する担体にマンガンペルオキシダーゼが固定化されてなることを特徴とする固定化マンガンペルオキシダーゼ。
【請求項2】
前記エポキシ基を有する担体が、エポキシ基を有するポリマーである請求項1記載の固定化マンガンペルオキシダーゼ。
【請求項3】
前記ポリマーが多孔質体である請求項2記載の固定化マンガンペルオキシダーゼ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の固定化マンガンペルオキシダーゼがカラムに充填されてなることを特徴とする反応器。
【請求項5】
エポキシ基を有する担体と、マンガンペルオキシダーゼを含む溶液とを接触させることを特徴とする固定化マンガンペルオキシダーゼの製造方法。
【請求項6】
エポキシ基を有することを特徴とするマンガンペルオキシダーゼ固定化用担体。


【公開番号】特開2007−68518(P2007−68518A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262595(P2005−262595)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】