説明

固定化酵素あるいは防氷性を有するタンパク質を持った表面

本発明は、空気あるいは流体力学的に活発な表面を有する物であって、一つあるいはそれ以上の生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質がその表面に固定化される物に向けられる。本発明は、さらに、物の空気あるいは流体力学的に活発な表面に自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する被膜を提供する方法に向けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気あるいは流体力学的に活発な表面を有する物であって、一つあるいはそれ以上のタイプ(ファミリー)の生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質が、その表面に固定化される物に向けられる。本発明は、物の空気あるいは流体力学的に活発な表面に自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する被膜を提供する方法に更に向けられる。
【背景技術】
【0002】
従来技術において、“洗浄の容易さ”あるいは物の自己洗浄作用を有する表面の供給に利用できるいくつかの技術がある。
【0003】
エネルギーの付加を必要としない技術とエネルギーの使用に基づいた技術との間に、第一の区別をすることができる。
【0004】
第一のグループは、物の表面へ自己洗浄効果を提供する、物への人工表面構造の提供からなる。
【0005】
米国特許第6660363号明細書は、隆起及びくぼみからなる人工表面構造を有する、物の自己洗浄作用を有する表面に向けられており、前記隆起間の距離は所定の範囲にあり、少なくとも前記隆起は疎水性高分子あるいは恒久的に疎水化された材料から構成されており、前記隆起は水あるいは洗剤を含んだ水で濡れない。
【0006】
米国特許出願公開第2002/0016433号明細書は、その粒子が疎水性表面と多孔質構造とを有する微細に分割された粉末と、ある種の表面張力によって特徴付けられた単一の被膜形成結合剤からなる、濡れ難い表面を作り出すための塗料組成物を提供する。このプロセスは、濡れ難い表面を作り出すものであり、また、自己洗浄効果を有する表面を作り出すため、及びパイプ内の液体に関する流れ抵抗を減少させるための、前記塗料組成物の使用を規定している。
【0007】
米国特許出願公開第2004/0213904号明細書は、製品上に取り外し可能な防汚性及び撥水性表面被膜を作り出すためのプロセスを説明する。このプロセスは、シリコンワックスの高揮発性シロキサン溶液に疎水性粒子を懸濁することと、製品の少なくとも一つの表面にこの懸濁液を塗布することと、その後、前記高揮発性シロキサンを取り除くこととからなる。
【0008】
これらのプロセス及び被膜のすべては、有機材料の積極的な分解がもたらされないというデメリットを持ち、その上、氷の付着は減少するだけであり、より大きな範囲でこれを避けることはできない。
【0009】
第二の技術グループは、力学的エネルギーの利用及び/又は紫外線放射の利用を伴う。
【0010】
米国特許出願公開第2006/0177371号明細書は、可視光光触媒のためのナノメートル二酸化チタン粒子を含んだゲルを調製するための方法を開示している。この方法は、水酸化チタンを得ることと、酸化剤、改良剤、任意の酸及び任意の界面活性剤を添加することによって水酸化チタンを二酸化チタンに変化させて溶液を生成することと、加熱によって前記溶液を熟成して前記溶液をゲルにすることとからなる。このゲルは、可視光領域中で光触媒特性及び自己洗浄能力を持つ。この方法から得られたゲルは、基板の表面に塗布でき、且つ、可視光により照らされた時に自己洗浄特性、光触媒特性及び殺菌特性を持つ。
【0011】
米国特許出願公開第2004/0009119号明細書は、熱分解による二酸化チタンの調製を提供しており、製造の流れに投入されるエアロゾルを形成するために金属塩溶液が霧化される。この二酸化チタンは、光触媒としてあるいは紫外線吸収剤として使用されてもよく、且つ、硝子の被覆あるいはプラスチックに使用されてもよい。
【0012】
しかし、これらの手法は、付加的な構成成分及びエネルギーを供給しなければならい装置を必要とする。これは、維持にかかる大きな労力及びより一層の技術的複雑さをもたらす。光触媒の手法においては、分解プロセスが非常に遅く、また、分解は光欠乏下では機能しないだろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
引用された従来技術を考慮して、エネルギーの使用あるいは供給を必要としない自己洗浄活性を備えた、物、特に、空気あるいは流体力学的に活発な表面を有する物の自己洗浄作用を有する表面の提供が本発明の目的である。表面からタンパク質、糖類及び脂質のような有機汚染物質を除去あるいは少なくとも分解でき、その上、凍結防止特性あるいは防氷特性を有する自己洗浄作用を有する表面の提供が本発明のさらなる目的である。
【0014】
物の表面であって、継続的な再生が必要なく、また、自身の空気力学的あるいは流体力学的特性に悪影響を及ぼさず、最終的に、有機溶媒あるいは界面活性剤の使用を必要としない物の表面の提供が本発明のさらなる目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
これらの及びさらなる目的は、独立クレームの主題によって解決される。望ましい実施形態は、従属クレームに記載されている。
【0016】
本発明は、通常は基板(あるいはマトリックス)及び固定化された、タンパク質のような有機巨大分子の薄膜からなる、自己洗浄特性を持つ、層(表面)及び物を使用する。これらのタンパク質の機能は、有機材料を分解すること及びそれを除去すること、及び/又は表面への氷の形成を防ぐことである。
【0017】
この機能に関係するタンパク質がその生体触媒物質としての性質から分解プロセスの間に消費されるということがないことが、本発明の主要な利点の一つである。これは、タンパク質からなる表面層が、どんな種類の再生も必要とせず、且つ、ごく少量のタンパク質(例えば酵素)で十分であることを意味する。この点における更なる利点は、空気あるいは流体力学的に活発な表面が、前記タンパク質によって完全に覆われる必要がないだけでなく、本発明の効果を提供するために、部分被覆及びタンパク質島で十分であるということである。結果として、この機能性層は、すでに、その一部が腐食されているあるいは他のプロセスにより除去されているあるいは損なわれている場合にも機能するだろう。
【0018】
本発明の更なる利点の一つは、前記空気あるいは流体力学的に活発な表面に塗布する層の縮減した厚さにより、この層は、可視光の下で透明であり、それゆえ、フロントガラス、航空機の表面などの仕上げ塗布(即ち、環境にさらされる最上層)に完全に適しているという点である。本発明の修飾された表面の更なる重要な適用は、ウィンドマシンの回転部である。
【0019】
本発明によれば、生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質は、タンパク質コンフォメーションが維持され、立体障害が回避されることから本発明の効果に積極的に貢献するスペーサー(あるいはリンカー)によって物の表面に塗布される。これは、溶液中での活性に匹敵する酵素活性をもたらすかもしれない。
【0020】
本発明は、特に、以下の態様及び実施形態に向けられる。
【0021】
第1の態様によれば、本発明は、空気あるいは流体力学的に活発な表面を有する物であって、一つあるいはそれ以上の異なるタイプの生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質が、スペーサーを介して前記表面に固定化され、前記表面の少なくとも一部を被覆している物に向けられる。
【0022】
上記ですでに述べたように、本発明の手法は、空気あるいは流体力学的に活発な表面が、各々の特性において悪影響を受けないという大きな利点を持ち、それゆえ、航空機の翼、風力発電所の回転部、航空機、自動車、トラック及び列車のフロントガラス、センサ表面などのような空気あるいは流体力学的に活発な表面に完全に適している。前記物に塗布する機能性表面は、通常は薄く、それらの厚みの範囲はおよそ10nmから1000nmの間である。これは、一般に、可視光及び紫外線に対して透過的である。
【0023】
さらに注目すべきは、タンパク質(防氷作用及び生体触媒作用を有するタンパク質)群は、(例えば、航空機の翼の空気あるいは流体力学的に活発な表面において必要とされるような)苛酷な環境の中でその機能を果たすために結合できる点である。
【0024】
上記ですでに示したように、本発明の主要な利点の一つは、前記生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質による被覆は、必ずしも前記物の全表面を覆わなければならないわけではなく、本発明の効果を達成するためには、言い換えれば、空気あるいは流体力学的に活発な物に自己洗浄作用を有する表面を提供するためには、部分的な被膜(島あるいは点)が塗布されることで十分であるということである。例えば、翼型の前縁のみを被覆することが可能である。
【0025】
実施形態によれば、前記生体触媒作用を有するタンパク質は、アミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、ヌクレアーゼ、キチナーゼ及び好ましくはこれらの混合物から構成される群から選択された酵素である。このタンパク質は、天然由来のものあるいは、例えば、化学合成あるいは遺伝子工学により人工的に生成されたものである。
【0026】
本発明の通常の適用の一つは、物の表面に付着する昆虫の残骸の分解である。昆虫の体は、糖類、脂質、タンパク質などのようなほとんどすべての考えられる有機材料からなる。昆虫由来の残骸を除去及び/又は分解するために、例えばプロテアーゼ、リパーゼ及びキチナーゼの混合物が必要とされる。尚、上記酵素のリストは、当然のことながら、制限されず、前記物の用途により拡大され得る。
【0027】
スペーサーを介して物の表面に固定化された酵素層の構成に関する説明図は、図1に示される。
【0028】
更なる実施形態によれば、防氷作用を有するタンパク質は、人工のあるいは天然由来の不凍タンパク質(AFPs)から選択される。このような天然のAFPsは、魚、昆虫あるいは植物、特に、ボウズハゲギス(Pagothenia borchgrevinki)、コマイ(Eleginus gracilis)、ウィンター・フラウンダー(Pseudopleuronectes americanus)、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)あるいはトウヒシントメハマキ(Choristoneura fumiferana)に由来するものであり得る。この場合もまた、このリストは制限されず、新しい科学の発展及び適用の特定の要件に基づいて拡大され得る。加えて、これらのタンパク質は、天然由来のタンパク質に制限されず、組み換え技術により生成及び/又は修飾されたタンパク質のような人工タンパク質、融合タンパク質などからなる。
【0029】
更なる望ましい実施形態の中で、前記被覆される表面は、ミクロあるいはナノ構造化表面である。これらのミクロあるいはナノ構造化表面は、改善された空気あるいは流体力学的効果を示し、また、特有の形状を用いた流れ抵抗の減少に貢献してもよい。これらのミクロあるいはナノ構造化表面の空気あるいは流体力学的特性は、本発明のタンパク質の塗布により悪影響を受けないことが判明した。
【0030】
その上、前記ミクロあるいはナノ構造化表面は、前記タンパク質の前記表面への改善された接着を可能にする利点を持ち、このタンパク質は損なわれることが少なくなり得、その機能をよりよく維持するであろう。
【0031】
表面にタンパク質を接着させるために、多くの場合は、まず表面が活性化されなければならないだろう。望ましい実施形態において、この修飾は、シランの塗布によって行われるだろう。望ましい実施形態において、この修飾は、シランの塗布によって行われるだろう。
【0032】
シランが使用される場合、シランは、好ましくは一般式群

から選択され、
=有機官能基、好ましくは、アミノ基、カルボキシル基、スルフヒドリル基、ヒドロキシル基、シアノ基、エポキシ基あるいはアルデヒド基から選択される
n=1−20の整数
X=加水分解性基、好ましくは、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシあるいはメトキシエトキシ。尚、メトキシが望ましい。
【0033】
さらなるカップリング反応は、以下で説明される。
【0034】
第一段階:シランを物の表面と反応させる(“活性化”)

=有機官能基、好ましくは、アミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、ヒドロキシル、シアノ、エポキシあるいはアルデヒド基から選択される
n=1−20の整数
X=加水分解性基、好ましくは、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシあるいはメトキシエトキシ
と、
第二段階:タンパク質と前記物の活性化された表面とを架橋剤分子を介してカップリングさせる

反応基R1及びR2は、同一のもの(ホモ二官能性架橋剤)、あるいは異なるもの(ヘテロ二官能性架橋剤)であり、また、好ましくは、NHSエステル基、マレイミド基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヒドラジド基から独立的に選択される。
【0035】
尚、この反応においては、“双頭型(dipodal)”である、言い換えれば、2x3=6個のX基を持っており、それによって基板との6個の結合をもたらすことができるシランを用いることもできる。
【0036】
更に、前記第一段階において、以下のシランが好んで用いられ得る:
アミノプロピルトリエトキシシラン(Aminopropyltriethoxysilane(APTES))
アミノプロピルトリメトキシシラン(Aminopropyltrimethoxysilane)
アミノプロピルジメチルエトキシシラン(Aminopropyldimethylethoxysilane)
アミノヘキシルアミノメチルトリメトキシシラン(Aminohexylaminomethyltrimethoxysilane)
アミノヘキシルアミノプロピルトリメトキシシラン(Aminohexylaminopropyltrimethoxysilane)
トリエトキシシリルウンデカナール(Triethoxysilylundecanal)
ビス−2−ヒドロキシエチル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン(Bis-2-Hydroxyethyl-3-aminopropyltriethoxysilane)
シアノプロピルトリメトキシシラン(Cyanopropyltrimethoxysilane)
メルカプトプロピルトリメトキシシラン(Mercaptopropyltrimethoxysilane)
エポキシヘキシルトリエトキシシラン(Epoxyhexyltriethoxysilane)
エポキシプロポキシトリメトキシシラン(Epoxypropoxytrimethoxysilane)
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Glycidoxypropyltrimethoxysilane(GOPS))
オクタデシルトリメトキシシラン(Octadecyltrimethoxysilane)
アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Acryloxypropyltrimethoxysilane)
メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(Methacryloxypropyltrimethoxysilane)
【0037】
前記第一段階、即ち、物の表面の修飾は、ポリエチレンイミンあるいはアミノ−PCPを用いた物の被覆に置き換えてもよい。
【0038】
架橋剤分子を用いる前記第二段階(即ち、前記物の活性化された表面へのタンパク質の接着)においては、前記架橋剤に、以下の反応基R1及び/又はR2が使用されても好ましい。

【0039】
タンパク質側における反応相手Rは通常、アミノ基あるいはカルボキシル基であろう。
【0040】
カルボジイミドを介したカップリング反応に関する例

【0041】
シアナートを介したカップリング反応に関する例

【0042】
望ましい架橋剤の例は以下の通りである:
・エチルジメチルアミノプロピルカルボジイミド(Ethyldimethylaminopropylcarbodiimide)(ヘテロ二官能性、アミノ+カルボキシル基反応性)
・エチレンジイソシアネート(Ethylendiisocyanate)(ホモ二官能性、ヒドロキシル基反応性)
・ヘキサメチレンジイソシアネート(Hexamethylendiisocyanate)(ホモ二官能性、ヒドロキシル基反応性)
・グルタルアルデヒド(Glutaraldehyde)(ホモ二官能性、アミノ基反応性)
【0043】
望ましい実施形態において、架橋剤の反応基R1及びR2は、スペーサーにより分けられる。スペーサー部を持つ架橋剤の例:
・NHS−PEO−マレイミド(NHS-PEOn-maleimide)(ヘテロ二官能性、アミノ+スルフヒドリル基反応性)
・ビス−NHS−PEO(Bis-NHS-PEOn)(ホモ二官能性、アミノ基反応性)
・ビス−マレイミド−PEO(Bis-maleimide-PEOn)(ホモ二官能性、スルフヒドリル基反応性)
・ビス(スルホ(NHS))スベラート(Bis(sulfoNHS)suberate)(ホモ二官能性、アミノ基反応性)
・スクシンイミジル−マレイミドフェニル−ブチレート(Succinimidyl-maleimidophenyl-butyrate)(ホモ二官能性、アミノ基反応性)
(PEO=ポリエチレンオキシド(Polyethylenoxide);NHS=スクシンイミジル基(Succinimidyl-))
【0044】
前記物の表面は、更なる実施形態において、スペーサー及び忌避物質として働く高分子被膜により被覆されても好ましい。
【0045】
高分子は、一方では、有用な種類の表面修飾を提供し、他方では、より大量のタンパク質分子が結合できるよう拡大した表面を提供する。結合したタンパク質(酵素)の物の表面までの長い距離に起因して、正確なタンパク質の折りたたみ、及び、これによる、当該タンパク質の機能が維持されるだろう可能性が増加するであろう。
【0046】
また高分子は、タンパク質忌避物質の働きをしてもよく、これにより、所望のタンパク質のカップリングだけがもたらされ、“異質の”タンパク質のカップリングはもたらされない。最後ではあるが重要なこととして、高分子層は、水あるいは水溶液を受けて吸収することができる“ハイドロゲル”、即ち、三次元構造の形態をとっていてもよい。この手法によって、多くの酵素の機能に欠かせない水性環境が局所的に生じている。
【0047】
この場合、タンパク質は、このような高分子を介して物の表面に結合されることになり、前記高分子は、反応末端基(いわゆる“キャッピング”)、例えば、アミノ基(−NH)あるいはカルボキシル基(−COOH)、を備えていなければならない。これらの反応末端基に、タンパク質は、上述したような架橋結合によってカップリングされてもよい。
【0048】
望ましい実施形態においては、前記高分子は、以下の分類の一つあるいはそれ以上から選択される。
【0049】
1.自己組織化単分子膜(SAM;self-organizing monolayers)
自己組織化単分子膜は、界面活性物質あるいは有機物質を溶液あるいは懸濁液中に浸漬することによって自発的に形成される。適切な物質は、例えば、炭素原子11個以上の長さを持つクロロシラン及びアルキルシランである。これらは、高い内部秩序を持つ金、ガラス及びシリコン上に高度に秩序化された単分子膜を形成している。この種の処理表面は、空気中で数ヶ月間安定である。従来の表面被膜とは対照的に、自己組織化単分子膜(SAM’s)は、0.1から2nmの範囲の決められた厚さを備える。
自己組織化単分子膜(SAMs)の例:
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(Glycidoxypropyltrimethoxysilane)
トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(Trimethoxysilylpropylmethacrylate)
PEG-PPG-PEG(PEG=ポリエチレングリコール(polyethylenglycol)、PPG=ポリプロピレングリコール(polypropylenglycol))
【0050】
2.星型高分子
星型PEGは、PEGに基づく“アーム”を有する(多くの場合において6)星型の“プレポリマー”である。その末端(通常は−OH)は、例えば、イソシアネート基(−NCO)で修飾されてもよく、その後、このイソシアネート基が(タンパク質の)第一級アミンと反応してもよい。更なる末端修飾は、アクリレート基及びビニルスルホン末端基である。
タンパク質のカップリングに関する以下の選択肢が存在する。
a)層形成の前に、溶液中でイソシアネートを介して星型PEGにタンパク質を結合(一段階被覆);
b)形成後の層の中のイソシアネート基とカップリング;
c)架橋済みの層の中のアミノ基とカップリング
【0051】
3.デンドリマー
デンドリマーは、高度に分岐した“ツリー状”の高分子構造体である。直鎖状高分子のように、これらは、反応末端基(いわゆる“キャッピング”、上記参照)を備えていてもよい。これらの基を用いて、これらは、表面と共有結合し得る。また一方、フィルムの形成による表面への結合も実行可能である。
例:
PAMAM(ポリアミドアミン)−デントリマー(PAMAM(polyamidoamine)-Dendrimer)
ポリリシン−デンドリマー(Polylysine-Dendrimer)
【0052】
4.高分子ブラシ
高分子ブラシという語は、表面に取り込まれた高分子であって、個々の高分子鎖が基板から伸長しなければならないように密に詰め込まれた高分子に用いられる。この点で、末端官能性高分子を、(架橋剤を介した)タンパク質のカップリングに用いてもよい。
例:
ポリ(DMA−b−GMA)(Poly(DMA-b-GMA))(ジメチルアクリルアミド(dimethylacrylamide)とグリシジルメタクリレート(glycidyl methacrylate)のブロック共重合体)
ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)(Poly(hydroxyethylmethacrylate))
ポリ(PEG)メタクリレート(Poly(PEG)methacrylate)
【0053】
上記のように、望ましい実施形態によれば、本発明の前記物は、好ましくは輸送手段、とりわけ、自動車、トラック、列車、船舶あるいは航空機である。もっと正確に言えば、前記物の表面は、航空機の翼あるいは自動車、トラック、列車または航空機のフロントガラスの表面、センサ表面あるいは船殻等である。
【0054】
輸送手段とは別に、本発明の前記修飾した表面は、空気あるいは流体力学的に活発な表面が必要とされる風力発電プラント及び他の施設に適用される。例えば、これらは、ビルあるいは足場の表面の被覆に適用できる。その上、前記物は、タービン翼あるいは船舶のプロペラであってもよい。
【0055】
望ましい実施形態においては、前記タンパク質は、前記表面のおよそ20から100%を被覆している。すでに上で指摘しているように、多くの適用においては、本発明の効果、言い換えれば、有機材料の分解及び凍結防止特性を実現するためには、物の表面上に島あるいは点のような形状で前記タンパク質を固定化することで十分である。しかしながら、技術経験に基づいて、表面の少なくとも25%が生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質によって覆われているべきであると考えられる。
【0056】
第2の態様においては、本発明は、物の空気あるいは流体力学的に活発な表面に自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する被膜を提供する方法であって、
a)一つあるいはそれ以上の生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質を提供することと、
b)前記物の表面のすくなくとも一部に、スペーサーを介して前記タンパク質を固定化することと
からなる方法に向けられる。
【0057】
本発明の方法においては、前述したようなタンパク質を用いることができる。同様のもの、即ち、前述のようなスペーサー、表面等が適用されるだろう。タンパク質と物の表面とのカップリング反応に関しては、上記情報(第1の態様参照)が参照される。
【0058】
第3の態様においては、本発明は、物の表面へ自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する被膜を提供するための生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質の使用に向けられる。この被膜は、物の表面から有機材料、とりわけ、物の表面に付着した昆虫及び昆虫の残骸あるいは、船殻の水中表面に付着した藻類及び藻類の残骸を除去するのに適している。
【0059】
代わりにあるいは加えて、前記被膜は、前記物の表面上における氷の形成を防ぐのに適している。このように、本発明は、とりわけ、航空機に対して自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する表面を提供するのに適している。
【0060】
ここで、添付の図及び図面を参照する例を用いて本発明を更に説明する。
【0061】
図中には、以下が示される。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の実施形態を示し、タンパク質が航空機の翼の表面にカップリングされている。
【発明を実施するための形態】
【0063】
例:
以下は、酵素の固定化の具体的な例である。
・物の表面(ガラスあるいはチタン)の浄化
・アミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysilane)溶液の塗布
・余剰分のすすぎ
・表面へカップリング緩衝溶液(アミンを含まない)中のトリプシンの添加
・エチレンジメチルアミノプロピルカルボジイミド(ethyldimethylaminopropylcarbodiimid)溶液の添加
・常温における30分間のインキュベート
・すすぎ
・光度計における呈色反応を用いた、表面での酵素反応の測定
【0064】
本発明は例により説明されたが、これに制限されず、想定されるいかなる方法で当業者によって変更されても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気あるいは流体力学的に活発な表面を備え、一つあるいはそれ以上の生体触媒作用及び/又防氷作用を有するタンパク質がスペーサーを介して前記表面に固定化され、少なくとも前記表面の一部を被覆している物であって、
前記タンパク質は、前記スペーサーを含む架橋剤によって前記表面に固定化されたことを特徴とする物。
【請求項2】
前記生体触媒作用を有するタンパク質は、天然由来及び/又は人工由来のアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、ヌクレアーゼ、キチナーゼ及びこれらの混合物からなる群から選択された酵素、好ましくは特に操作されたタンパク質、である請求項1記載の物。
【請求項3】
前記防氷作用を有するタンパク質は、人工由来あるいは天然由来の不凍タンパク質(AFP’s)から選択される請求項1又は2記載の物。
【請求項4】
前記AFPは、魚、昆虫あるいは植物に由来する請求項3記載の物。
【請求項5】
前記AFPは、ボウズハゲギス(Pagothenia borchgrevinki)、コマイ(Eleginus gracilis)、ウィンター・フラウンダー(Pseudopleuronectes americanus)、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)あるいはトウヒシントメハマキ(Choristoneura fumiferana)に由来する請求項4記載の物。
【請求項6】
前記表面は、まず、シランの塗布によって活性化された請求項1記載の物。
【請求項7】
前記シランは、一般式群

から選択され、
=有機官能基、好ましくは、アミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、ヒドロキシル、シアノ、エポキシ、アルデヒドから選択
n=1−20の整数
X=加水分解性基、好ましくは、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、メトキシエトキシ
である請求項6記載の物。
【請求項8】
前記表面は、スペーサーとして及び忌避物質として働く高分子被膜により被覆される前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項9】
前記表面は、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(glycidoxypropyltrimethoxysilane)、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(trimethoxysilylpropylmethacrylate)、PEG-PPG-PEG(PEG=ポリエチレングリコール(polyethylenglycol)、PPG=ポリプロピレングリコール(polypropylenglycol))のような高分子の自己組織化単分子膜、星型高分子、デンドリマーあるいは高分子ブラシによって被覆される請求項8記載の物。
【請求項10】
輸送手段、とりわけ、自動車、トラック、列車、船舶あるいは航空機である前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項11】
前記表面は、航空機の翼の表面、あるいは自動車、トラック、列車あるいは航空機のフロントガラス、センサ表面等、あるいは風力発電所の回転部である前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項12】
前記表面は翼型の前縁である前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項13】
ビルあるいは足場である前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項14】
タービン翼あるいは船舶のプロペラである前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項15】
前記タンパク質は前記表面のおよそ25%を被覆している前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項16】
前記タンパク質は前記表面のおよそ50%を被覆している前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項17】
前記表面はミクロあるいはナノ構造化されている前記請求項の1つあるいはそれ以上に記載の物。
【請求項18】
物の空気あるいは流体力学的に活発な表面に自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する被膜を提供する方法であって、
a)1つあるいはそれ以上の生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質を提供することと、
b)少なくとも前記表面の一部に、スペーサーを含む架橋剤を用いて前記タンパク質を固定化することと
からなる方法。
【請求項19】
前記生体触媒作用を有するタンパク質は、天然由来あるいは人工由来の両方のアミラーゼ、プロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、ヌクレアーゼ、キチナーゼ及びこれらの混合物からなる群から選択された酵素である請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記防氷作用を有するタンパク質は、人工由来あるいは天然由来の不凍タンパク質(AFP’s)から選択される請求項18又は19記載の方法。
【請求項21】
前記AFPが、魚、昆虫あるいは植物に由来する請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記AFPは、ボウズハゲギス(Pagothenia borchgrevinki)、コマイ(Eleginus gracilis)、ウィンター・フラウンダー(Pseudopleuronectes americanus)、チャイロコメノゴミムシダマシ(Tenebrio molitor)あるいはトウヒシントメハマキ(Choristoneura fumiferana)に由来する請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記固定化は、
a)前記物の表面とシランを反応させること

=有機官能基、好ましくは、アミノ、カルボキシル、スルフヒドリル、ヒドロキシル、シアノ、エポキシ、アルデヒドから選択
n=1−20の整数
X=加水分解性基、好ましくは、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、メトキシエトキシ
と、
b)前記物の修飾された表面に架橋分子を介して前記タンパク質をカップリングさせること

反応基R1及びR2は、同じものあるいは異なるものであり、また、NHSエステル基、マレイミド基、イミドエステル基、カルボジイミド基、イソシアネート基、ヒドラジド基から独立的に選択される
とにより提供される請求項18乃至22の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項24】
前記表面は、スペーサーとして及び忌避物質として働く高分子被膜により被覆される請求項18乃至22の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項25】
前記表面は、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(glycidoxypropyltrimethoxysilan)、トリメトキシシリルプロピルメタクリレート(trimethoxysilylpropylmethacrylate)、PEG−PPG−PEG(PEG=ポリエチレングリコール(polyethylenglycole)、PPG=ポリプロピレングリコール(polypropylenglycole))のような高分子の自己組織化単分子膜、星型高分子、デンドリマーあるいは高分子ブラシによって被覆される請求項24記載の方法。
【請求項26】
前記表面は輸送手段、とりわけ、自動車、トラック、列車、船舶あるいは航空機である請求項18乃至25の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項27】
前記表面は、航空機の翼の表面、あるいは自動車、トラック、列車或いは航空機のフロントガラス、センサ表面等、あるいは風力発電所の回転部である請求項18乃至26の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項28】
前記表面は翼型の前縁である請求項18乃至27の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項29】
前記物はビルあるいは足場である請求項18乃至27の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項30】
前記物はタービン翼あるいは船舶のプロペラである請求項18乃至27の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項31】
前記タンパク質は、前記物の表面のおよそ25%を被覆するために、前記物の表面を被覆する請求項18乃至30の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項32】
前記タンパク質は、前記物の表面のおよそ50%を被覆するために、前記物の表面を被覆する請求項18乃至30の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項33】
前記タンパク質は、点状あるいは島状に前記物の表面に固定化される請求項18乃至32の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項34】
前記固定化されたタンパク質は、およそ10から1000nmの厚さを持って前記表面の表面上に層を形成する請求項18乃至33の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項35】
前記表面はミクロあるいはナノ構造化されている請求項18乃至34の1つあるいはそれ以上に記載の方法。
【請求項36】
物の表面へ自己洗浄作用及び/又は凍結防止作用を有する被膜を提供するための生体触媒作用及び/又は防氷作用を有するタンパク質の使用。
【請求項37】
前記被膜は、物の表面から有機材料を除去するのに適している請求項36記載の使用。
【請求項38】
前記有機材料は、前記物の表面に付着している昆虫に由来する請求項37記載の使用。
【請求項39】
前記被膜は、前記物の表面上の氷の形成を防止するのに適している請求項36記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2011−523356(P2011−523356A)
【公表日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507993(P2011−507993)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050425
【国際公開番号】WO2009/136186
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(510286488)エアバス オペレーションズ リミテッド (30)
【氏名又は名称原語表記】AIRBUS OPERATIONS LIMITED
【Fターム(参考)】