説明

固定子バー

【課題】
本発明は、織り合わされた複数のストランド(3)と、ほぼ四角形の導電要素(2)の周りに嵌合された電気絶縁体(4)とから構成された当該導電要素(2)を有する高電圧固定子バー(1)に関する。
【解決手段】
この課題は、前記電気絶縁体(4)の角部(5)の誘電率が前記導電要素(2)に面する内側絶縁領域(6)から外側絶縁領域(7)に向かって60%未満だけ減少することによって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機、特に100MWより大きい出力及び10kVACより大きい定格電圧の間接冷却発電機のような大型回転電気機械の固定子バーに関する。
【背景技術】
【0002】
固定子バーは、角胴形を有する導電要素(つまり、いわゆるグリーンバー)を画定する織り合わされた導電性の複数の銅ストランドを構成するもの(転位導体、扁平なRoebelバー)として知られている。
【0003】
この固定子バーは一般に、樹脂で含浸されたマイカテープから成る絶縁体で被覆されている(絶縁されたRoebelバー)。
【0004】
当該角胴形に起因して、4つの尖った角部が形成されている。これらの角部は、運転中に非常に高い電界ピークを発生させる;これらのピークは、固定子バーに印加され得る最大電圧を制限する。すなわち、これらのピークは、出力可能な電力を制限する。
【0005】
電界ピークを低減するため、一般に0.5〜2.5mmの半径が実現されるように、導電要素の角部を丸くすることが知られている。
【0006】
当該半径が小さい場合、導電要素の角部を丸くすることの有益な効果は確かに高いものの、当該半径を大きくすると、この有益な効果は減少し、約2.5mmの半径では、この有益な効果は、当該方法では事実上さらに向上され得ない。
【0007】
固定子バーの角部の電界ピークを低減するため、国際特許出願公開第2007/139,490号明細書は、絶縁体がより高い誘電率を固定子バーの角部で有するように、絶縁体誘電率を周囲方向に沿って変えることが開示されている。
【0008】
当該誘電率は、円周方向に沿って調整されるだけであるので、国際特許出願公開第2007/139,490号明細書に記載の絶縁体は、この絶縁体を構成する誘電体を効率よく使用しない。
【0009】
さらに、ドイツ連邦共和国特許出願公開第19811370号明細書は、絶縁体誘電率を半径方向に沿って変えることを開示する。
【0010】
当該絶縁体誘電率を参照すると、(導電要素に近い)角部の絶縁体誘電率と(半径方向に沿った)その他の場所の絶縁体誘電率との比
ε(corner)/ε(elswere)
が、最適値より大きい場合、一様な誘電率(つまり、単一の誘電率値)を呈する絶縁体を有する(導電要素に近い)角部の電界より高い電界が、遷移部分で誘導されることをモデル計算が示した。
【0011】
この場合、非常に高い電界が、当該絶縁体内に実際に存在するので、実際の改善が達成されないのが明らかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際特許出願公開第2007/139,490号明細書
【特許文献2】ドイツ連邦共和国特許出願公開第19811370号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、従来の技術の上述の課題が解決される固定子バーを提供することにある。
【0014】
この技術的な課題の範囲内では、本発明の側面は、(固定子バーの電気的に最もストレスのかかる領域がある)導電要素の角部の電界のピークが低減される固定子バーを提供することにある。
【0015】
本発明のその他の側面は、高い誘電率の絶縁体が必要な場合にだけ使用されるように、誘電体が効率よく使用される固定子バーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
当該側面を伴うこの技術的な課題は、本発明により、特許請求の範囲に記載の固定子バーによって解決される。
【0017】
本発明のさらなる特徴及び利点は、添付した図面の限定しない例によって示された、本発明の固定子バーの好適であるが限定されない実施の形態の説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態における固定子バーを概略的に示す。
【図2】2つの異なるマイカテープを有する本発明の実施の形態における固定子バーを示す。
【図3】図2の固定子バーに対応する最大電界の方向に沿った誘電率の変化を示す。
【図4】異なる量の誘電率粒子を含んでいる複数のマイカテープを有する本発明の実施の形態における固定子バーを示す。
【図5】図4の固定子バーに対応する最大電界の方向に沿った誘電率の変化を示す。
【図6】ラッピング中に変化するラッピング張力を呈するマイカテープを有する本発明の実施の形態における固定子バーを示す。
【図7】図6の固定子バーに対応する最大電界の方向に沿った誘電率の変化を示す。
【図8】導電要素又はグリーンバーの角部を示す。絶縁体は、この図では示されていない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図面を参照した場合、これらの図面は、総括して符合1によって示された固定子バー(特に、高電圧固定子バー)を示す。
【0020】
固定子バー1は、織り合わされた複数のストランド3(グリーンバー)と、ほぼ四角形の導電要素2の周りに嵌合されて当該固定子バーの主な絶縁を画定する電気絶縁体4とから構成された当該導電要素2を有する。
【0021】
電気絶縁体4は、導電要素2に面する内側絶縁領域6から外側絶縁領域7に向かって減少する誘電率をその角部5に有する。
【0022】
半径Rが、電界に影響するので、誘電率の変化は、角部5の半径Rにも依存する(図8参照)。
【0023】
有益的には、角部5の半径Rが、3mm未満の場合、誘電率は、60%未満だけ減少する。角部の半径Rが、1.5〜2.5mmに形成されている場合、誘電率は、好ましくは35〜45%だけ減少する。
【0024】
知られているように、誘電率が高いほど、誘電体内の電界は低い;したがって、固定子バー1の周りの電界は、角部5でより高く、特に導電要素2に近い角領域内でより高いので、全体の誘電率を低減させることなしに、したがって全体の電界を低減させることなしに、これらの導電要素2に近い角領域内だけの誘電率の増大が、電界ピークを低減させる;このことは、電力性能を向上させる。
【0025】
内側絶縁領域6の誘電率と外側絶縁領域7の誘電率との選択された差が、異なる誘電率を有する当該誘電体間の遷移領域で電界を発生させる。この電界は、一般に制限されていて、特に絶縁体4がただ1つの誘電率値を有する場合の電界ピークより小さい。
【0026】
しかしながら、誘電率の当該差が、上記の値の60%を超えた場合、電界中のピークが、内側絶縁領域6から外側絶縁領域7にかけた遷移部分に発生しうる。このピークは、ただ1つの誘電率値を有する絶縁体4内の電界を越える。
【0027】
一般に、絶縁体4は、樹脂で含浸されたマイカテープである。
【0028】
以下で、本発明の幾つかの好適な実施の形態を説明する;さらなる実施の形態も可能であることは明らかである。
【0029】
第1の実施の形態(図2)では、当該絶縁体は、導電要素2の周りに巻き付けられた第1マイカテープ4a及びこの第1マイカテープ4aの周りに巻き付けられた第2マイカテープ4bから構成される。
【0030】
この実施の形態では、第1マイカテープの誘電率εは、第2マイカテープの誘電率εより高い。
【0031】
特に、第1マイカテープ4a及び第2マイカテープ4bは、異なる誘電率を有する異なる種類の雲母から成る。
【0032】
例えば、第1マイカテープ4aは、白雲母から成り、第2マイカテープ4bは、金雲母から成る。
【0033】
図3は、絶縁体4の、(半径方向xである)最大電界の方向に沿った誘電率の変化を示す。
【0034】
この実施の形態では、絶縁体4は、導電要素2に近い絶縁体4の領域6に第1誘電率εを有する;当該絶縁体のこの部分は、第1マイカテープ4aから構成される。
【0035】
これに対して、絶縁体4の外側絶縁領域7は、第2マイカテープ4bから構成され且つより低い誘電率εを有する。
【0036】
誘電率の段差8が、当該誘電率値εとεとの間に画定されている。
【0037】
第2の実施の形態(図4)では、異なる雲母の代わりに、導電要素2に近い内側絶縁領域6の第1マイカテープ4aが、高い誘電率を呈する粒子9を有し、外側絶縁領域7の第2マイカテープ4bが、より少ない量の粒子9を有するか又は粒子9を有さない;図示された当該実施の形態では、第1マイカテープ4aだけが、粒子9を有する。
【0038】
例えば、これらの粒子9は、Alの粒子である。
【0039】
誘電率が、(半径方向xの最大電界の方向に沿った誘電率の変化を示す)図5中に示されたように変化する;図示されたように、誘電率が、絶縁体4を通じて一定ではないものの、当該誘電率は、徐々に減少する2つの領域を有し、これらの領域間に一種の段部8を有する。
【0040】
第3の実施の形態(図6)では、絶縁体4を通じて同じでない誘電率が、マイカテープ10の樹脂の含有量を変化させることによって実現される。
【0041】
実際に、樹脂は、雲母より大幅に低い誘電率を有するので、雲母の量を低減すると、絶縁体の誘電率が増大する。
【0042】
特に、導電要素2に近い内側絶縁領域6が、外側絶縁領域7の絶縁体より少ない樹脂含有量を有する。
【0043】
樹脂の異なる含有量を実現するため、絶縁体4を構成するマイカテープ10が、異なる巻付け張力によって巻き付けられる。
【0044】
実際には、当該巻付け張力は、巻き付けの開始時により高く、その終了時により低い場合、内側絶縁領域6のマイカテープが、外側絶縁領域7の追従するマイカテープより強く圧縮される。当該圧縮は、外側絶縁領域7のマイカテープからより多い量の樹脂を内側絶縁領域6のマイカテープから押し出させる;したがって、内側絶縁領域6内の量よりも多い樹脂が、外側絶縁領域7内に保持される。
【0045】
巻付け張力を最適に制御することによって、絶縁体内の誘電率が、1つ若しくはそれより多い段部を画定してもよいし又は少なくとも一部を連続して減少させてもよい(半径方向xの最大電界の方向に沿った誘電率の変化を示す図7参照)。
【0046】
この代わりに、絶縁体の誘電率を変えるために樹脂の含有量を変えることは、異なる圧縮率を有する複数のマイカテープを使用して実現されてもよい。
【0047】
さらに、樹脂の含有量を変えるため、したがって誘電率の変化を実現するため、巻き付けられていないものの、導電要素の角部に対して平行に整合されているマイカテープの複数のストリップ片が使用されてもよい。
【0048】
当然に、説明した特徴は、互いに独立して提供されてもよい。
【0049】
実際には、使用される材料及び寸法は、要求及び従来の技術に応じて任意に選択され得る。
【符号の説明】
【0050】
1 固定子バー
2 導電要素
3 ストランド
4 絶縁体
4a 第1マイカテープ
4b 第2マイカテープ
5 角部
6 内側絶縁領域
7 外側絶縁領域
8 段部
9 高誘電率粒子
10 マイカテープ
ε,ε,ε 誘電率
x 半径方向
R 半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織り合わされた複数のストランド(3)と、ほぼ四角形の導電要素(2)の周りに嵌合された電気絶縁体(4)とから構成された当該導電要素(2)を有する固定子バー(1)において、
前記電気絶縁体(4)の角部(5)の誘電率が、前記導電要素(2)に面する内側絶縁領域(6)から外側絶縁領域(7)に向かって60%未満だけ減少し、前記角部(5)の半径が、3mm未満であることを特徴とする固定子バー(1)。
【請求項2】
前記電気絶縁体の誘電率の減少率は、35%と45%との間の範囲にあり、前記角部(5)の半径は、1.5mmと2.5mmとの間にあることを特徴とする請求項1に記載の固定子バー(1)。
【請求項3】
前記絶縁体は、樹脂で含浸されたマイカテープ(4a,4b,10)から成ることを特徴とする請求項2に記載の固定子バー(1)。
【請求項4】
前記絶縁体(4)は、前記導電要素(2)の周りに巻き付けられた第1マイカテープ(4a)及びこの第1マイカテープ(4a)の周りに巻き付けられた第2マイカテープ(4b)から構成され、前記第1マイカテープの誘電率は、前記第2マイカテープの誘電率より高いことを特徴とする請求項3に記載の固定子バー(1)。
【請求項5】
前記第1マイカテープ(4a)及び前記第2マイカテープ(4b)は、異なる誘電率を有する異なる雲母から成ることを特徴とする請求項4に記載の固定子バー(1)。
【請求項6】
前記第1マイカテープ(4a)は、白雲母を含有し、前記第2マイカテープ(4b)は、金雲母を含有することを特徴とする請求項5に記載の固定子バー(1)。
【請求項7】
前記第1マイカテープ(4a)は、高い誘電率を呈する粒子(9)を有し、前記第2マイカテープ(4b)は、より少ない量の高い誘電率を呈する粒子(9)を有するか又は当該粒子(9)を有さないことを特徴とする請求項4に記載の固定子バー(1)。
【請求項8】
前記高い誘電率を呈する粒子(9)は、Alの粒子であることを特徴とする請求項7に記載の固定子バー(1)。
【請求項9】
前記内側絶縁領域(6)のマイカテープ(10)は、前記外側絶縁領域(7)のマイカテープ(10)より少ない樹脂含有量を有することを特徴とする請求項3に記載の固定子バー(1)。
【請求項10】
樹脂の異なる含有量を実現するため、前記マイカテープ(10)が、異なる巻付け張力によって巻き付けられ、当該巻付け張力は、巻き付けの開始時により高く、その終了時により低いことを特徴とする請求項9に記載の固定子バー(1)。
【請求項11】
樹脂の異なる含有量を実現するため、異なる圧縮率を有する複数のマイカテープが使用されることを特徴とする請求項9に記載の固定子バー(1)。
【請求項12】
樹脂の異なる含有量を実現するため、巻き付けられていないものの、前記導電要素(2)の前記角部(5)に対して平行に整合されているマイカテープの複数のストリップ片が使用されることを特徴とする請求項9に記載の固定子バー(1)。
【請求項13】
前記誘電率は、少なくとも1つの段部(8)を画定することを特徴とする請求項1又は2に記載の固定子バー(1)。
【請求項14】
前記誘電率の少なくとも一部が、半径方向に沿って連続して減少することを特徴とする請求項1又は2に記載の固定子バー(1)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−16273(P2012−16273A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147551(P2011−147551)
【出願日】平成23年7月1日(2011.7.1)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】