説明

固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置

【課題】固定屋根式の貯蔵タンク内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンク内で容易に展開して貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置により、予想を超えるような大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象により貯蔵タンク内の液面に著しく大きな波(液面の上下運動)が生じようとした場合であっても、その発生を抑制して、屋根部分を破損してしまう事態の発生を防止した、固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置を提供する。
【解決手段】本発明は、固定屋根式の貯蔵タンク内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンク内で容易に展開して貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置であり、基台に伸縮可能な主軸部材を固定し、この主軸部材における上部の周面に、複数のスロッシング抑制板を放射状に取り付けている。また、スロッシング抑制板は、長尺な水平板の下面に、長尺な垂下板を固定して形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石油等の種々の液体を収容している固定屋根式の貯蔵タンクにおいて、大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象により、貯蔵タンク内に収容している液体の一部が貯蔵タンクの屋根部分に当たって当該屋根部分を破損してしまうような事態の発生を防止した、固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石油等の種々の液体を収容する貯蔵タンクとしては、例えば、図8・図9に示すような、固定屋根式の貯蔵タンクTが存在する。この固定屋根式の貯蔵タンクTは、浮遊屋根式の貯蔵タンクに比較して、小容量の液体を収容するものとして利用されることが多い。
【0003】
この固定屋根式の貯蔵タンクTにおいては、比較的に軽微な地震を原因として生じるスロッシング現象により、貯蔵タンクT内の液体Wに小さな波が発生した場合であっても、発生した波により屋根部分が破損する等の事態の発生を防ぎ、これに充分に対応するために、液面と屋根部分の間に所定の間隔を保持している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特になし
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、固定屋根式の貯蔵タンクTにおいては、比較的に軽微な地震を原因として生じるスロッシング現象には対応できるものの、予想を超えるような大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象により、屋根部分を破損してしまう事態が発生していた。
【0006】
スロッシング現象は、大量の液体Wを収容している貯蔵タンクTが、地震による地震動を受けると、この地震動に共震して貯蔵タンクT内の液面がうねって揺れ動くような波(液面の上下運動)が発生する現象であるが、予想を超えるような大きな地震が起こると、貯蔵タンクTがこの地震動に共震して、貯蔵タンクT内の液面に著しく大きな波(液面の上下運動)が生じることがある。
【0007】
この様な大きな波(液面の上下運動)が貯蔵タンクTの内壁面に沿って生じると、図8に示すように、大量の液体Wが貯蔵タンクTの屋根部分に向けて勢い良く押し上げられたような状態となる。
【0008】
そして、上方に押し上げられた大量の液体Wが勢い良く屋根部分に衝突して、屋根部分を破損してしまう事態が発生するのである。
【0009】
この様なスロッシング現象による屋根部分の破損を防止する措置として、例えば、図9に示すように、屋根部分に近い貯蔵タンクTの上部に、所定の格子機構100を付設する措置がある。格子機構100は、所定の高さを有する横長形状の板部材を格子状に組み付けて、貯蔵タンクTの上部全体の空間を、小区画に分割したものである。
【0010】
この格子機構100は、地震によるスロッシング現象により、貯蔵タンクT内の液面に大きな波(液面の上下運動)が生じようとするときに、貯蔵タンクT内における液面を格子機構100に導き入れて、貯蔵タンクTの屋根部分に勢い良く衝突しようとする液体Wを複数の小区画全体で受け止め、液体W全体の運動エネルギーを小区画毎に分散させることにより、屋根部分に対する液体Wの衝突力を弱める機能を有している。
【0011】
しかし、この様な格子機構100を設ける措置は、新規のプラントのように建設の当初から講じていれば有効であるものの、既設のプラントにおいては、格子機構100を貯蔵タンクTの内部に新たに設置する追加の工事が必要となり、多額の建設費用を要する事になってしまう。
【0012】
また、固定屋根式の貯蔵タンクTにおいては、連絡口(出入り口)としてマンホール程度の小さな孔しか存在していないため、工事に使用する機材を搬入する際に大きな制約となっている。
【0013】
そこで、本発明は如上のような従来存した諸事情に鑑み創出されたもので、固定屋根式の貯蔵タンク内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンク内で容易に展開して貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置により、予想を超えるような大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象により貯蔵タンク内の液面に著しく大きな波(液面の上下運動)が生じようとした場合であっても、その発生を抑制して、屋根部分を破損してしまう事態の発生を防止した、固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、固定屋根式の貯蔵タンク内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンク内で容易に展開して貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置であり、基台に主軸部材を固定し、この主軸部材における上部の周面に、複数のスロッシング抑制板を放射状に取り付けていることで、上述した課題を解決した。
【0015】
また、スロッシング抑制板は、長尺な水平板の下面に、長尺な垂下板を固定して形成していることで、同じく上述した課題を解決した。
【0016】
さらに、スロッシング抑制板は、軸止機構を介して、主軸部材に沿うように配置された折り畳み状態と、主軸部材に対して直交するように水平方向に配置された展開状態となることで、同じく上述した課題を解決した。
【0017】
また、軸止機構は、スロッシング抑制板の固定板の基端部に設けた複数のリング部材と、主軸部材の周面に設けた複数のリング部材と、両リング部材を嵌合させた状態で、各リング部材を貫通するように挿入する軸部材により構成されていることで、同じく上述した課題を解決した。
【0018】
加えて、スロッシング抑制板は、展開固定部を介して、主軸部材に対して直交するように水平方向に配置された状態を維持することで、同じく上述した課題を解決した。
【0019】
また、展開固定部は、軸止機構の上方に位置しており、主軸部材の周面に設けたねじ孔と、スロッシング抑制板の固定板の先端部側に設けたねじ孔と、両ねじ孔を合致させた状態で、両ねじ孔部分を上方から被覆する、ねじ孔を有するカバー部材と、カバー部材のねじ孔・固定板のねじ孔・主軸部材に設けたねじ孔にねじ込むボルトにより構成されていることで、同じく上述した課題を解決した。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、固定屋根式の貯蔵タンク内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンク内で容易に展開して貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置であり、基台に主軸部材を固定し、この主軸部材における上部の周面に、複数のスロッシング抑制板を放射状に取り付けていることから、貯蔵タンク内にスロッシング抑制装置を設置して各スロッシング抑制板を展開したときには、予想を超えるような大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象により貯蔵タンク内の液面に著しく大きな波(液面の上下運動)が生じて屋根部分を破損してしまう事態の発生を防止することができる。
【0021】
具体的には、貯蔵タンク内にスロッシング抑制装置を設置して各スロッシング抑制板を展開すると、貯蔵タンク内の液面を、略三角形状の複数の区画に分割したような状態となる。
【0022】
その為、地震によるスロッシング現象により、貯蔵タンク内の液面に大きな波(液面の上下運動)が生じようとするときに、貯蔵タンク内における液面を各スロッシング抑制板により形成されている複数の区画に導き入れて、貯蔵タンクの屋根部分に勢い良く衝突しようとする液体を、略三角形状の複数の区画全体で受け止め、液体全体の運動エネルギーを区画毎に分散させることにより、屋根部分に対する液体の衝突力を弱めるのである。
【0023】
また、スロッシング抑制板は、長尺な水平板の下面に、長尺な垂下板を固定して形成していることから、略三角形状の複数の区画を形成する垂下板が、所定の深さで貯蔵タンク内の液体中に没することとなるため、貯蔵タンクの屋根部分に勢い良く衝突しようとする液体全体の運動エネルギーを、区画毎に効率良く分散させることができる。
【0024】
さらに、スロッシング抑制板は、軸止機構を介して、主軸部材に沿うように配置された折り畳み状態となることから、固定屋根式の貯蔵タンクに存在するマンホール程度の孔である連絡口(出入り口)を介して、スロッシング抑制装置を貯蔵タンク内に容易に搬入することができる。
【0025】
また、スロッシング抑制板は、軸止機構を介して、主軸部材に対して直交するように水平方向に配置された展開状態となることから、この展開したスロッシング抑制板により、貯蔵タンクの屋根部分に勢い良く衝突しようとする液体全体の運動エネルギーを、効率良く分散させることができる。
【0026】
加えて、貯蔵タンク内への搬入の手順、貯蔵タンク内における展開の手順も比較的に容易であることから、貯蔵タンク内にスロッシング抑制装置を設置する時間を短縮できる。
【0027】
また、スロッシング抑制装置全体を、安価に構築することもできる。
【0028】
この他、既設の貯蔵タンクに、大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象に対応した措置を、事後的に講じることができる。
【0029】
また、軸止機構は、スロッシング抑制板の固定板の基端部に設けた複数のリング部材と、主軸部材の周面に設けた複数のリング部材と、両リング部材を嵌合させた状態で、各リング部材を貫通するように挿入する軸部材により構成されていることから、スロッシング抑制板において、折り畳み状態から展開状態に、また、展開状態から折り畳み状態に、滑らかに移行できる。
【0030】
さらに、スロッシング抑制板は、展開固定部を介して、主軸部材に対して直交するように水平方向に配置された状態を維持することから、この水平方向に配置されたスロッシング抑制板により、貯蔵タンクの屋根部分に勢い良く衝突しようとする液体全体の運動エネルギーを、効率良く分散させることができる。
【0031】
また、展開固定部は、軸止機構の上方に位置しており、主軸部材の周面に設けたねじ孔と、スロッシング抑制板の固定板の先端部側に設けたねじ孔と、両ねじ孔を合致させた状態で、両ねじ孔部分を上方から被覆する、ねじ孔を有するカバー部材と、カバー部材のねじ孔・固定板のねじ孔・主軸部材に設けたねじ孔にねじ込むボルトにより構成されていることから、スロッシング抑制板が水平方向に配置された状態を確実に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】基台に主軸部材を固定し、この主軸部材における上部の周面に、8枚のスロッシング抑制板を放射状に取り付けているスロッシング抑制装置の構成を示す斜視図である。
【図2】スロッシング抑制板の基端部を主軸部材に軸止し、スロッシング抑制板を主軸部材に沿うように配置したスロッシング抑制装置の折り畳み状態を示す一部拡大の斜視図である。
【図3】スロッシング抑制板を主軸部材に対して直交するように水平方向に配置したスロッシング抑制装置の展開状態を示す側面図である。
【図4】スロッシング抑制板を展開している途中の状態を示すスロッシング抑制装置の斜視図である。
【図5】スロッシング抑制板を主軸部材に対して直交するように水平方向に配置した展開状態を示すスロッシング抑制装置の斜視図である。
【図6】スロッシング抑制板を主軸部材に対して直交するように水平方向に配置した展開状態を示すスロッシング抑制装置の一部拡大の断面図である。
【図7】スロッシング抑制板を水平方向に配置している状態において、貯蔵タンク内にスロッシング抑制装置を設置している状態を示す斜視図である。
【図8】貯蔵タンクの内壁面において、大量の液体が屋根部分に向けて勢い良く押し上げられている状態を示す概略の説明図である。
【図9】スロッシング現象による屋根部分の破損を防止する措置として、屋根部分に近い貯蔵タンクの上部に、所定の格子機構を付設している状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0034】
本発明は、固定屋根式の貯蔵タンクT内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンクT内で容易に展開して貯蔵タンクT内に設置されるスロッシング抑制装置1である。
【0035】
このスロッシング抑制装置1は、図1に示すように、基台2に伸縮可能な主軸部材3を固定し、この主軸部材3における上部の周面に、複数のスロッシング抑制板4を取り付けている。
【0036】
このスロッシング抑制板4は、図2に示すように、基端部を主軸部材3に軸止し、主軸部材3に沿うように配置された折り畳み状態と、図3に示すように、主軸部材3に対して直交するように水平方向に配置された展開状態を維持するものである。
【0037】
基台2は、図1に示すように、複数のスロッシング抑制板4を取り付けている主軸部材3が立っている状態を安定的に維持するものである。この基台2は、所定の厚みを有する円形盤5と、この円形盤5に取り付けた複数の安定板6により形成されている。
【0038】
安定板6は、矩形の板状に形成され、円形盤5の側面に、等間隔に4個取り付けられている。また、安定板6は、円形盤5に対して、進退自在となるよう取り付けられている。具体的には、図6に示すように、円形盤5に摺接穴7を設け、この摺接穴7に安定板6を収容している。
【0039】
摺接穴7は、円形盤5の側面部分から円形盤5の中心方向に向けて設けられている。また、摺接穴7は、安定板6を挿入して収容できる矩形の穴状に形成されている。
【0040】
この摺接穴7に安定板6の基端側部分を挿入すると、摺接穴7の内周面に、安定板6の外周面が滑るように接して、摺接穴7内において安定板6が移動できる状態となる。その為、安定板6は、図1に示すように、円形盤5から長く突出している状態と、図2に示すように、円形盤5から僅かに突出している状態を維持することができる。
【0041】
複数のスロッシング抑制板4を取り付けている主軸部材3は、図1・図3に示すように、基台2の中心部に固定した所定の長さを有する支持パイプ8と、この支持パイプ8に接続した移動パイプ9により形成されている。移動パイプ9は、支持パイプ8とほぼ同じ長さを有している。
【0042】
また、移動パイプ9は、図6に示すように、支持パイプ8の外周面を収容できる中空部10を備えている。そして、移動パイプ9は、下方の開口部を介して支持パイプ8を自身の中空部10に収容し、支持パイプ8の外周面と、移動パイプ9の中空部10の内周面が滑るように接している。その為、移動パイプ9は、支持パイプ8の長手方向に沿って移動でき、主軸部材3全体の長さを伸縮できるように形成されている。
【0043】
また、主軸部材3は、支持パイプ8と、支持パイプ8に接続している移動パイプ9において、主軸部材3を最も長くした状態を維持する長さ固定部11を備えている。
【0044】
この長さ固定部11は、図6に示すように、支持パイプ8のねじ孔8aと、移動パイプ9のねじ孔9aと、両ねじ孔8a・9aを合致させた状態で両ねじ孔8a・9aにねじ込むボルトBにより構成されている。
【0045】
具体的には、支持パイプ8の上部における周壁に、複数(例えば、4個)のねじ孔8aを設ける。これに対応して、移動パイプ9の下部における周壁にも、複数(例えば、4個)のねじ孔9aを設ける。
【0046】
そして、両ねじ孔8a・9aを合致させた状態で、支持パイプ8のねじ孔8aと移動パイプ9のねじ孔9aに、ボルトBの雄ねじ部材をねじ込んで、主軸部材3を最も長くした状態を維持するのである。
【0047】
尚、支持パイプ8に、複数段となるようにねじ孔(8a)を設けることにより、主軸部材3を長さ調節可能に形成しても良い。
【0048】
主軸部材3における上部の周面には、図1に示すように、ほぼ等間隔に8枚のスロッシング抑制板4を取り付けている。
【0049】
このスロッシング抑制板4は、長尺な水平板12の下面に、垂下板13を固定して形成している。垂下板13は、側面から見て水平板13とほぼ同じ長さを有する長方形の板状に形成されている。また、垂下板13は、その短手方向において所定の高さを有している。
【0050】
そして、水平板12の下面におけるほぼ中央に垂下板13を固定しており、スロッシング抑制板4を、その先端部側から見ると略T形となっている。
【0051】
さらに、水平板12と垂下板13の基端部には、図2に示すように、矩形の固定板14が連設されている。この固定板14は、基端部が垂下板13の下部の近傍に位置している。また、固定板14の先端部は、水平板12から若干突出するように形成されている。
【0052】
固定板14の基端部においては、図2に示すように、自身の短手方向の側面に沿って、軸止機構15としての3個のリング部材16を設けている。一方、主軸部材3を構成する移動パイプ9の上方部分における周面にも、軸止機構15としての2個のリング部材17を設けている。
【0053】
そして、移動パイプ9のリング部材17に、スロッシング抑制板4の固定板14に設けているリング部材16を嵌合させた状態で、頭部18を有する軸部材19を各リング部材16・17を貫通するように挿入し、軸部材19の先端部をリング部材16・17から突出させて固定ナット19aを取り付けることにより、スロッシング抑制板4の基端部を主軸部材3に取り付けるのである。
【0054】
この軸止機構15を介して、スロッシング抑制板4は、図2に示す主軸部材3に沿うように配置された折り畳み状態から、図3に示す主軸部材3に対して直交するように水平方向に配置された展開状態を維持するように、約90度の角度の範囲で移動できるようになっている。
【0055】
また、主軸部材3とスロッシング抑制板4においては、スロッシング抑制板4が主軸部材3に対して直交するように水平方向に配置された状態を維持するための、展開固定部20を備えている。
【0056】
この展開固定部20は、図6に示すように、移動パイプ9に設けたねじ孔9bと、スロッシング抑制板4の固定板14に設けたねじ孔14aと、両ねじ孔9b・14aを合致させた状態で、両ねじ孔9b・14a部分を上方から被覆するカバー部材21(ねじ孔21aを有する)と、カバー部材21のねじ孔21a・固定板14のねじ孔14a・移動パイプ9に設けたねじ孔9bにねじ込むボルトBにより構成されている。
【0057】
具体的には、図6に示すように、移動パイプ9の軸止機構15の上方において、移動パイプ9の上端開口部近傍の周壁に、複数(例えば、8個)のねじ孔9bを等間隔に設ける。このねじ孔9bは、スロッシング抑制板4の固定板14の先端部が当接する位置に存在している。
【0058】
また、スロッシング抑制板4の固定板14にも、ねじ孔14aを設ける。このねじ孔14aは、スロッシング抑制板4の固定板14において、水平板12から突出している部分22に存在している。スロッシング抑制板4のねじ孔14aは、スロッシング抑制板4が主軸部材3に対して直交するように水平方向に配置されたとき、移動パイプ9のねじ孔9bに合致する。
【0059】
カバー部材21は、図6に示すように、固定板14の水平板12から突出している部分22を収容できる高さを備えている円筒部材23と、円筒部材23の上端部を閉鎖するように固定している天板部材24により形成されている。このカバー部材21は、下端部が円筒の開口部により開放した状態となっている。また、円筒部材23の周壁には、複数(例えば、8個)のねじ孔21aを等間隔に設けている。
【0060】
そして、スロッシング抑制板4を水平方向に配置し、移動パイプ9のねじ孔9bとスロッシング抑制板4のねじ孔14aを合致させる。この状態において、移動パイプ9の上端開口部と、固定板14の水平板から突出している部分22にカバー部材21を被せる。このとき、カバー部材21のねじ孔21a、スロッシング抑制板4のねじ孔14a、移動パイプ9のねじ孔9bが合致している。
【0061】
そして、合致しているねじ孔21a、14a、9bに、ボルトBの雄ねじ部材をねじ込んで、主軸部材3において、スロッシング抑制板4を水平方向に配置している状態を維持するのである。
【0062】
尚、スロッシング抑制板4を水平方向に配置し、移動パイプ9のねじ孔9bとスロッシング抑制板4のねじ孔14aを合致させた状態で、ねじ孔14a、9bにボルトBの雄ねじ部材をねじ込むようにしても差し支えない。
【0063】
以下に、スロッシング抑制装置1を固定屋根式の貯蔵タンクT内に搬入する手順と、その後、貯蔵タンクT内でスロッシング抑制装置1を展開する手順を説明する。
【0064】
このスロッシング抑制装置1を固定屋根式の貯蔵タンクT内に搬入し、貯蔵タンクT内でスロッシング抑制装置1を展開する作業は、貯蔵タンクT内に液体Wが存在していない状況において実施する。
【0065】
まず、スロッシング抑制装置1を固定屋根式の貯蔵タンクT内に搬入するときは、図2に示すように、スロッシング抑制装置1を折り畳んだ状態とする。
【0066】
具体的には、基台2において、安定板6の大部分を摺接穴7に収容し、安定板6の先端部が円形盤5から僅かに突出している状態とする。
【0067】
また、主軸部材3において、支持パイプ8の全体を、移動パイプ9の中空部10内に収容して、主軸部材3の最も短くした状態を維持しておく。
【0068】
さらに、スロッシング抑制板4は、図2に示すように、主軸部材3に沿うように配置された折り畳み状態とする。このスロッシング抑制装置1の折り畳み状態において、固定屋根式の貯蔵タンクTに存在するマンホール程度の孔である連絡口(出入り口)を介して、スロッシング抑制装置1を貯蔵タンクT内に搬入するのである。
【0069】
次に、図4に示すように、貯蔵タンクT内で、円形盤5の摺接穴7に収容されている安定板6を引き出して、安定板6が円形盤5から長く突出している状態とする。
【0070】
また、主軸部材3において、移動パイプ9を上方に移動させて移動パイプ9のねじ孔9aと支持パイプ8のねじ孔8aを合致させ、両ねじ孔9a、8aにボルトBの雄ねじ部材をねじ込んで、主軸部材3の最も長くした状態を維持しておく。
【0071】
さらに、図4に示すように、スロッシング抑制板4を水平方向に向けて展開していく。
【0072】
そして、図5に示すように、スロッシング抑制板4を、主軸部材3に対して直交するような水平方向になるように移動させ、スロッシング抑制板4のねじ孔14aを移動パイプ9のねじ孔9bに合致させる。
【0073】
この状態で、図6に示すように、移動パイプ9の上端開口部と、固定板14の水平板12から突出している部分22にカバー部材21を被せて、カバー部材21のねじ孔21aを、スロッシング抑制板4のねじ孔14aに合致させる。
【0074】
最後に、図1・図6に示すように、合致しているねじ孔21a、14a、9bに、ボルトBの雄ねじ部材をねじ込んで、主軸部材3において、スロッシング抑制板を水平方向に配置している状態を維持させるのである。
【0075】
そして、図7に示すように、安定板6が円形盤5から長く突出している状態、また、主軸部材3を最も長くした状態、さらに、スロッシング抑制板4を水平方向に配置している状態において、貯蔵タンクT内にスロッシング抑制装置1を設置する。
【0076】
このとき、直線状に配置されている2枚のスロッシング抑制板4の全体の長さが、貯蔵タンクTの内径とほぼ一致している。
【0077】
このように、貯蔵タンクT内にスロッシング抑制装置1を設置した状態において、貯蔵タンクT内に液体Wを入れる。液体Wの量としては、貯蔵タンクT内において運用上許容されている最高位置に液面が到達するようにする。
【0078】
そして、貯蔵タンクT内に設置されているスロッシング抑制装置1において、スロッシング抑制板4の長尺な水平板12は、貯蔵タンクT内に収容されている液体Wの液面近傍に位置している。また、スロッシング抑制板4の垂下板13は、貯蔵タンクT内に収容されている液体Wにおいて、垂下板13の中ほどが液体W中に没っするようにする。
【0079】
このようにして、貯蔵タンクT内にスロッシング抑制装置1を設置することにより、図7に示すように、貯蔵タンクT内の液面を、略三角形状の8区画に分割したような状態となる。
【0080】
その為、地震によるスロッシング現象により、貯蔵タンクT内の液面に大きな波(液面の上下運動)が生じようとするときに、貯蔵タンクT内における液面を、各スロッシング抑制板4により形成されている8区画に導き入れて、貯蔵タンクTの屋根部分に勢い良く衝突しようとする液体Wを、略三角形状の8区画全体で受け止め、液体W全体の運動エネルギーを区画毎に分散させることにより、屋根部分に対する液体Wの衝突力を弱めるのである。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明に係る固定屋根式の貯蔵タンクにおけるスロッシング抑制装置は、様々な分野における貯蔵タンクにおいて、大きな地震を原因として生じる激しいスロッシング現象により貯蔵タンク内の液面に著しく大きな波(液面の上下運動)が生じようとした場合であってもその発生を抑制して、屋根部分を破損してしまう事態の発生を防止するものとして、幅広く利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
T…固定屋根式の貯蔵タンク
W…液体
B…ボルト
100…格子機構
1…スロッシング抑制装置
2…基台
3…主軸部材
4…スロッシング抑制板
5…円形盤
6…安定板
7…摺接穴
8…支持パイプ
8a…ねじ孔
9…移動パイプ
9a…ねじ孔
9b…ねじ孔
10…中空部
11…長さ固定部
12…水平板
13…垂下板
14…固定板
14a…ねじ孔
15…軸止機構
16…リング部材
17…リング部材
18…頭部
19…軸部材
19a…固定ナット
20…展開固定部
21…カバー部材
22…水平板から突出している部分
21a…ねじ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定屋根式の貯蔵タンク内に折り畳んだ状態で搬入し、その後、貯蔵タンク内で容易に展開して貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置であり、基台に主軸部材を固定し、この主軸部材における上部の周面に、複数のスロッシング抑制板を放射状に取り付けていることを特徴とする、固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置。
【請求項2】
スロッシング抑制板は、長尺な水平板の下面に、長尺な垂下板を固定して形成している請求項1に記載の固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置。
【請求項3】
スロッシング抑制板は、軸止機構を介して、主軸部材に沿うように配置された折り畳み状態と、主軸部材に対して直交するように水平方向に配置された展開状態となる請求項1または2に記載の固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置。
【請求項4】
軸止機構は、スロッシング抑制板の固定板の基端部に設けた複数のリング部材と、主軸部材の周面に設けた複数のリング部材と、両リング部材を嵌合させた状態で、各リング部材を貫通するように挿入する軸部材により構成されている請求項3に記載の固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置。
【請求項5】
スロッシング抑制板は、展開固定部を介して、主軸部材に対して直交するように水平方向に配置された状態を維持する請求項1または2に記載の固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置。
【請求項6】
展開固定部は、軸止機構の上方に位置しており、主軸部材の周面に設けたねじ孔と、スロッシング抑制板の固定板の先端部側に設けたねじ孔と、両ねじ孔を合致させた状態で、両ねじ孔部分を上方から被覆する、ねじ孔を有するカバー部材と、カバー部材のねじ孔・固定板のねじ孔・主軸部材に設けたねじ孔にねじ込むボルトにより構成されている請求項5に記載の固定屋根式の貯蔵タンク内に設置されるスロッシング抑制装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−184079(P2011−184079A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52415(P2010−52415)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】