説明

固定床反応装置およびその使用方法

【課題】
気相接触酸化を行うにあたり、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする気相接触酸化方法、特に(メタ)アルリル酸の製造方法を提供すること。
【解決手段】
気相接触酸化反応を行うに際して、ガス流れ方向に対して気相酸化触媒層の上流側に有機物および/または炭化物を除去するためのクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上の処理剤を配置した固定床反応器を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定床反応器を用いた気相接触酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学工業の分野において、固定床反応器を用いた気相接触酸化反応が数多く実施されているが、これらの気相接触酸化反応に使用される原料は必ずしも高純度のものが使用されているわけではない。
【0003】
例えば、アクリル酸やメタクリル酸(以下、「(メタ)アクリル酸」という。)の製造においては、まず、第一段目の気相接触酸化工程で炭化水素類などの原料を不飽和アルデヒドとし、次に第二段目の気相接触酸化工程で得られた不飽和アルデヒドを(メタ)アクリル酸としているが、通常これらの反応は、途中で不飽和アルデヒドを分離・精製することなく、第一段目の気相接触酸化工程での反応生成ガスをそのまま、あるいは、必要により分子状酸素などを含有したガスを追加して第二段目の気相接触酸化工程に導入して(メタ)アクリル酸としている。したがって、これらの反応では、反応原料中に含まれる不純物に起因して発生する有機物や炭化物(以下、これらを「触媒阻害物質」という。)の第一段目の気相接触酸化用触媒(以下、「前段触媒」という。)への付着・蓄積や、第一段目の反応によって生じる副生物などに起因して発生する触媒阻害物質の第二段目の気相接触酸化用触媒(以下、「後段触媒」という。)への付着・蓄積により、これら触媒を一定期間連続して使用すれば、触媒活性の低下、触媒層での圧力損失の増大により、目的生成物の収率が経時的に低下する等の問題がある。
【0004】
このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献1および2には、定期的に触媒阻害物質を燃焼などの処理により触媒を再生する方法が開示されている。具体的には、定期的に反応を停止し、触媒を反応管に充填したままで、分子状酸素と水蒸気とを含有する混合ガスを流通させながら所定の温度で熱処理することにより、触媒を安全かつ効率よく再生する方法が開示されている。しかし、これらの方法は、確かに触媒を反応管から抜き出すことなく再生することができる利点はあるが、高温で処理を行うため触媒に熱負荷がかかるため使用する触媒によっては再生するたびに触媒寿命が低下することもある。このような触媒寿命の低下を引き起こす方法は経済的に満足できる解決策とは言えず、長期間にわたって触媒の劣化がなく安定的な連続操業を可能にする方法が求められている。
【0005】
【特許文献1】特開平6−262081号公報
【特許文献2】特開平6−263689号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、気相接触酸化を行うにあたり、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする気相接触酸化方法、特に(メタ)アクリル酸を長期間安定して高い収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、気相酸化触媒を充填した反応管を有する固定床反応器を用いて気相接触酸化を行うにあたり、触媒層の反応ガス上流側に、反応ガス中の触媒阻害物質を除去するための処理剤としてクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上のものを配置した固定床反応器を用いることにより、触媒の劣化がなく、高い収率を維持しながら、触媒層での圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業が可能になることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
ここでいう触媒阻害物質の除去とは、反応原料中に含まれる不純物に起因もしくは第一段目の反応によって生じる副生物などに起因して発生する有機物や炭化物を、当該処理剤によって効率よく吸着、吸収または付着させることで反応ガスから取り除き、触媒阻害物質と触媒との接触を防止することである。
【0009】
すなわち、本発明は、気相接触酸化反応を継続して行うに際して、ガス流れ方向に対して気相酸化触媒層の上流側にクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上の処理剤を配置した固定床反応器を用いることを特徴とする気相接触酸化方法を提供する。該処理剤は反応ガス流れ方向で触媒層の上流側であって、前記反応管内および/または反応器内の空隙に配置されていることが好ましい。また、該処理剤の少なくとも一部を年1回以上の頻度で交換するとさらに効果的に触媒阻害物質の除去ができる。
【0010】
さらに、本発明の気相接触酸化方法において、前記処理剤の少なくとも一部に再生品を用いれば製造コストの低減につながるため好ましい。
【0011】
本発明は、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール、メチル−t−ブチルエーテルなどの原料化合物を触媒の存在下、分子状酸素により二段階で気相接触酸化して(メタ)アクリル酸を製造する際に好適に用いられ、プロピレンの二段階酸化によるアクリル酸の製造に特に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の気相接触酸化方法を用いれば、触媒阻害物質の触媒への付着を抑制することができ、反応を頻繁に停止することなく、触媒自体の劣化がなく、高い収率を維持しながら、触媒層の圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたり連続して安定的な気相接触酸化を行うことができる。それゆえ、本発明の製造方法によれば、(メタ)アクリル酸の大幅な製造コスト低下が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の気相接触酸化方法は、気相酸化触媒(以下、単に「触媒」ということがある。)を充填した反応管を有する固定床反応器であって、原料化合物および/または生成化合物を含むガス流路に(以下、単に「反応器内に」ということがある。)触媒阻害物質を除去するための処理剤としてクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上の処理剤を配置した固定床反応器を用いること特徴とする気相接触酸化方法である。
【0014】
ここで、「固定床反応器」とは、反応管に静止充填された気相酸化触媒の存在下で、前記反応管のガス入口から供給された原料ガスを気相接触酸化して、前記反応管のガス出口から最終生成物含有ガスを排出する容器を意味し、それ自体が独立した容器であっても、あるいは、製造プラントに組み込まれた容器であってもよい。
【0015】
本発明で用いる固定床反応器は、反応器内に触媒阻害物質を除去するための処理剤としてクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上の処理剤が配置されていること以外は、一般的な気相接触酸化用の固定床反応器と実質的に同様の構成を有するものであり、特に限定されるものではない。それゆえ、本発明の固定床反応器は、例えば、触媒を多数の細径反応管に充填した多管式反応器や、触媒を1本の太径反応管に充填した断熱型反応器のいずれであってもよい。
【0016】
本発明に用いられる処理剤は、有機物および/または炭化物を効率よく除去する処理剤が好ましく、クロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上であればよく、好ましくは0.2質量%以上である。0.05質量%以下であれば、触媒阻害物質の除去が不十分となる。
【0017】
クロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量の測定は、次のような方法で測定することができるが、処理剤の実質的な吸着量を測定できればよく、類似の測定方法を用いることもできる。温度制御可能な固定床流通装置に所定量の処理剤を充填し、窒素または空気流通下、処理剤を350℃に保つ。クロトンアルデヒドはバブリング装置などで蒸気圧による気化あるいは蒸発器などを用いて所定濃度になるよう蒸気量・蒸発量を温度や注入量で調節して、処理剤の上流側から導入する。所定時間流通後、処理剤を取り出し、高温で加熱処理して、処理前後の質量変化を測定する、または熱分析計などを用いて質量変化を測定することにより求めることができる。
【0018】
本発明に用いられる処理剤の材質は、特に限定されるものではないが、例えば、アルミニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウムから選ばれる少なくとも1種の元素を含む酸化物、複合酸化物または混合物(以下「(複合)酸化物等」という)が例示され、具体的には、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、シリカ・アルミナ、シリカ・チタニア、シリカ・ジルコニア、アルミナ・チタニア、アルミナ・ジルコニア、チタニア・ジルコニア、ゼオライトなどが挙げられる。中でもアルミニウムとケイ素とを含む複合酸化物が特に好適である。さらに、この処理剤には、原料に含まれる不純物や結合剤、成形助剤などに由来する、ナトリウムやカリウムなどのアルカリ金属、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、鉄、ニオブ、亜鉛などを含有することができる。
【0019】
処理剤は、(複合)酸化物等の構成元素を含む原料から調製すればよい。例えば、上記(複合)酸化物等のうち、アルミニウムとシリカとを含む複合酸化物である処理剤は、例えば、アルミナ粉体と、コロイド状シリカとの混合物を所望の形状に成形した後、焼成することにより調製することができる。この場合、アルミナ粉体と、コロイド状シリカとの合計量100質量部(酸化物換算)に対して、アルミナ粉体の量は、30質量部以上、97質量部以下、好ましくは40質量部以上、95質量部以下、より好ましくは50質量部以上、90質量部以下であり、コロイド状シリカの配合量は、3質量部以上、70質量部以下、好ましくは5質量部以上、60質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。焼成温度は、好ましくは500℃以上、1300℃以下、より好ましくは600℃以上、1200℃以下、さらに好ましくは700℃以上、1100℃以下である。焼成時間は、好ましくは0.5時間以上、50時間以内、より好ましくは1時間以上、20時間以内である。
【0020】
また、処理剤は、上記(複合)酸化物等を2種以上含む混合物の形態や、上記(複合)酸化物等を異種の上記(複合)酸化物等に担持させた形態、あるいは、上記(複合)酸化物等とそれ以外の固体との混合物の形態や、上記(複合)酸化物等をそれ以外の固体に担持させた形態であってもよい。
【0021】
処理剤の形状は、特に限定されるものではなく、任意の形状を選択すればよいが、具体的は、例えば、球状、円柱状、円筒状、星形状、リング状、タブレット状、ペレット状など、通常の打錠成形機、押出成形機、造粒機などで成形されるものが挙げられる。処理剤の寸法は、小さすぎると、圧力損失が大きくなり、反応を効率的に行えないことがあり、逆に大きすぎると、触媒阻害物質の除去が不充分となることがある。それゆえ、その平均直径で、好ましくは1mm以上、15mm以下、より好ましくは2mm以上、12mm以下、さらに好ましくは3mm以上、10mm以下である。また、処理剤は、上記平均直径の範囲内であれば、2種類以上の寸法の処理剤を、複数段に積層して使用することができ、複数の寸法の処理剤を混合して使用することもできる。
【0022】
処理剤の使用量は、使用する処理剤の種類、比重および形状、ならびに、触媒の種類、比重、形状および使用量などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されるものではないが、少なすぎると、触媒阻害物質の除去が充分に行われないことがあり、逆に多すぎると、必要以上に処理剤を用いることになり、製造コストの上昇に繋がることがある。それゆえ、処理剤の使用量は、処理剤:触媒の比率(体積比)で、好ましくは1:0.5〜100、より好ましくは1:2〜50、さらに好ましくは1:3〜30である。
【0023】
本発明で用いる固定床反応器において、反応器内に処理剤を配置する箇所は、触媒阻害物質の触媒への付着を抑制するのに適した箇所であり、処理剤のみを抜き出し再充填し得る限り、特に限定されるものではない。好ましくは、反応管の上端部、具体的には反応管内の触媒層上流側または反応内の空隙に配置することができる。
【0024】
本発明においては、好ましくは上記処理剤を定期的に抜き出し交換する方がよい。その交換頻度は、少なくとも年1回以上交換するのが好ましく、より好ましくは年2回以上である。処理剤を長期間交換せずに連続使用した場合、触媒阻害物質の除去が不完全になり、触媒層にも触媒阻害物質が付着しやすくなるため、触媒自体の活性低下や触媒層圧力損失の増大などの不具合が生じやすい。また、1回の交換時の交換量は使用状況により適宜選択でき、処理剤の一部または全量を交換すればよい。
【0025】
処理剤の交換に際しては、新品もしくは再生品が使用できる。ここで、「再生品」とは、一度使用した処理剤を抜き出し後、熱処理や洗浄により処理剤に付着した触媒阻害物質を除去した物を意味し、熱処理や洗浄の条件は特に限定されるものではなく、触媒阻害物質の付着量に応じて適宜決めることができる。
【0026】
熱処理としては、処理剤に付着した触媒阻害物質が燃焼などで除去でき、かつ処理剤が変質しない雰囲気、温度、時間であればよく、通常分子状酸素含有ガスの雰囲気下、300〜700℃で2〜72時間程度行えばよく、好ましくは空気雰囲気下、350〜600℃で3〜24時間行えばよい。
【0027】
洗浄としては、処理剤に付着した触媒阻害物質が除去でき、かつ処理剤が変質しない条件であればよく、酸やアルカリ水溶液あるいは有機溶剤による洗浄が挙げられる。また、洗浄に際しては加熱することで洗浄効果が向上する。
【0028】
本発明の気相接触酸化としては、例えば、不飽和炭化水素などから不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化、不飽和アルデヒドから不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化、不飽和炭化水素とアンモニアとから不飽和ニトリルを製造する気相接触酸化、飽和炭化水素から不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化などが挙げられる。
【0029】
本発明はこれらの気相接触酸化のうち、不飽和炭化水素などから不飽和アルデヒドを経由して不飽和カルボン酸を製造する気相接触酸化反応に好適に使用され、中でも、プロピレンからアクロレインを経由してアクリル酸を製造する気相接触酸化が特に好適である。例えば、プロピレンからアクロレインを経由したアクリル酸の製造においては、前段触媒に対してはプロピレン中に含まれる不純物などに由来する触媒阻害物質または、反応ガスをリサイクルする場合、リサイクルガスに含まれる触媒阻害物質による劣化に対し有効であり、後段触媒に対しては、第一段目の反応によって生じる副生物などによる後段触媒に対する影響に対して有効である。さらには、プロパンを原料としたアクリル酸の製造方法においても有効である。
【0030】
気相接触酸化に用いる触媒としては、この種の反応に一般的に用いられている触媒である限り、特に限定されるものではないが、具体的には、例えば、プロピレンからアクロレインを経由してアクリル酸を製造する気相接触酸化の場合、前段触媒としては下記一般式(I):
MoBiFeX1X2X3X4 (I)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、X1はコバルトおよびニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素、X2はアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、X3はタングステン、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムおよびチタンから選ばれる少なくとも1種の元素、X4はリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、砒素および亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、またa、b、c、d、e、f、gおよびxはそれぞれMo、Bi、Fe、X1、X2、X3、X4およびOの原子比を表し、a=12のとき、b=0.1〜10、c=0.1〜20、d=2〜20、e=0.001〜10、f=0〜30、g=0〜4であり、xは各元素の酸化状態によって定まる数値である)で示される酸化物触媒を挙げることができる。
【0031】
また後段触媒としては、例えば、下記一般式(II):
MoY1Y2Y3Y4 (II)
(ここで、Moはモリブデン、Vはバナジウム、Wはタングステン、Y1はアンチモン、ビスマス、クロム、ニオブ、リン、鉛、亜鉛およびスズから選ばれる少なくとも1種の元素、Y2は銅および鉄から選ばれる少なくとも1種の元素、Y3はアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Y4はケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、イットリウム、ロジウムおよびセリウムから選ばれる少なくとも1種の元素、Oは酸素を表し、またh、i、j、k、l、m、nおよびyはそれぞれMo、V、W、Y1、Y2、Y3、Y4およびOの原子比を表し、h=12のとき、i=2〜14、j=0〜12、k=0〜5、l=0.01〜6、m=0〜5、n=0〜10であり、yは各元素の酸化状態によって定まる数値である)で示される酸化触媒を挙げることができる。
【0032】
本発明の製造方法において、目的生成物のアクリル酸は、原料化合物のプロピレンを分子状酸素で気相接触酸化して、主にアクロレインを生成させ、次いで、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化することにより製造される。
【0033】
この製造には、好ましくは、プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインを生成させる前段触媒を充填した反応管と、アクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を生成させる後段触媒を充填した反応管とを有する固定床反応器が用いられる。この固定床反応器において、処理剤は、ガス流通方向において、前段触媒あるいは後段触媒の上流側に配置することができる。
【0034】
気相接触酸化の反応条件としては、反応器内に処理剤を配置すること以外は、気相接触酸化において一般的に用いられている反応条件と実質的に同様の反応条件を採用すればよく、特に限定されるものではない。例えば、プロピレンやプロパンの気相接触酸化によるアクロレインやアクリル酸の製造においては原料ガスとして、1体積%以上、15体積%以下、好ましくは4体積%以上、12体積%以下のプロピレン、プロパン等の原料化合物と、この原料化合物に対する体積比で1倍以上、10倍以下、好ましくは1.5倍以上、8倍以下の分子状酸素と、希釈剤として、不活性ガス(例えば、窒素、二酸化炭素、水蒸気など)とからなる混合ガスを、250℃以上、450℃以下、好ましくは260℃以上、400℃以下の温度で、常圧以上、1MPa以下、好ましくは0.8MPa以下の圧力下、300h-1以上、5000h-1以下、好ましくは500h-1以上、4000h-1以下の空間速度(STP)で、触媒と接触させて反応させればよい。
【0035】
本発明によれば、下記実施例で示すように、気相接触酸化を行うにあたり、触媒の劣化がなく、高い収率を維持しながら、触媒層での圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業が可能である。それゆえ、本発明の製造方法によれば、アクロレインやアクリル酸を高い収率で効率的かつ安定的に得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
<気相酸化触媒の調製>
プロピレンを分子状酸素で気相接触酸化してアクロレインを生成させるのに用いるプロピレン酸化用触媒(以下「前段触媒」という。)およびアクロレインを分子状酸素で気相接触酸化してアクリル酸を生成させるのに用いるアクロレイン酸化用触媒(以下「後段触媒」という。)を特開昭64−63543号公報の実施例1に記載の方法に準じて調製した。これら触媒の担体を除き酸素以外の金属元素の組成は原子比で以下の通りであった。
【0037】
前段触媒 CoFe1.1Bi1.1Mo10Si0.07
後段触媒 Mo12CuCr0.5
<触媒性能>
下記式で定義されるアクリル酸収率により評価した。
アクリル酸収率(モル%)
=(生成したアクリル酸のモル数/供給したプロピレンのモル数)×100
<処理剤の調製>
−処理剤(A)−
平均粒子径15μmのアルミナ粉体70質量部と、バインダーとしでんぷん5質量部とをニーダーに投入し、十分混合した。次いで平均粒子50nmのコロイド状シリカをSiOとし30質量部とを添加し、さらに適量の水を添加、混合した。この混合物を押出成形し、乾燥させた後800℃で2時間焼成して、平均値とし外径7mm、長さ7mmの円柱状のアルミナ−シリカ処理剤(A)を得た。
−処理剤(B)〜(D)−
処理剤(A)の調製において、コロイド状シリカに代えて、それぞれチタニアゾル(処理剤(B))、ジルコニアゾル(処理剤(C))を用いて調製したものあるいはアルミナに代えて酸化チタン(処理剤(D))を用いて各々調製した。
−処理剤(E)−
処理剤(A)の調製において、アルミナ粉体の使用量を90質量部、コロイド状シリカの使用量をSiOとし10質量部、焼成温度を1000℃とした以外は、処理剤(A)と同様に処理剤(E)を調製した。
−処理剤(A2)、(A3)−
処理剤(A)の調製において、それぞれ平均値として外径と長さを、外径9mm×長さ9mm(処理剤(A2))、外径5mm×長さ5mm(処理剤(A3))とした以外は処理剤(A)と同様に調製した。
<有機物質吸着量の測定>
処理剤50gを秤量し、固定床流通装置に充填し、350℃で保持した。170ml/分の窒素ガスを、10℃に保持したクロトンアルデヒドにバブリングさせ、処理剤の上流側から1時間導入した。吸着処理後の処理剤全量を、空気中で500℃まで加熱処理し、加熱処理前後での質量変化を測定した。
【0038】
有機物質吸収量は、次式によって求めた。
【0039】
有機物質吸着量(質量%) = 減量(g)/処理剤量(g) ×100
<実施例1>
内径25mm、長さ3000mmで外部に熱媒の循環用のジャケット付き鋼鉄製反応管を2本用意し、一方の反応管に反応ガス入口側から空筒部300mm、前段触媒2450mmとなるように前段触媒を充填した(以下、<第1反応管>という)。別の反応管には反応ガス入口側から処理剤(A)500mm、後段触媒2200mmとなるように上記処理剤(A)および後段触媒を充填した(以下、<第2反応管>という)。2つの反応管について、第1反応管出口と第2反応管の入口を電熱ヒーターで外部から加熱できるようにした内径20mm、長さ4000mmの鋼鉄製パイプで連結した。
【0040】
次いで、第1反応管の入口側から、プロピレン5体積%、酸素10体積%、水蒸気15体積%および窒素70体積%からなる混合ガスを原料ガスとして、前段触媒に対する空間速度1200h-1(STP)で導入し、気相接触酸化を行った。このとき、第1反応管における反応温度(熱媒温度)を325℃、第2反応管における反応温度(熱媒温度)を260℃であり、連結管は170℃に保温した。
【0041】
4000時間経過毎に処理剤(A)を交換しながら、上記反応装置を用いてプロピレンの気相接触酸化反応を9600時間継続して行った。4000時間経過時点、8000時間経過時点、9600時間経過時点で、第2反応管出口ガスの分析を行い、次いで、処理剤(A)を抜き出し、後段触媒層の圧力損失の測定を行った後、新しい処理剤(A)を再度充填して連続して行った。その際のアクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失の変化を表1に示す。
<実施例2>
8000時間経過後にのみ処理剤を交換した以外は実施例1と同様にプロピレンの気相接触酸化反応を連続して行った。その際のアクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失を表1に示す。
<比較例1>
処理剤(A)に変え、クロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.01質量%であるセラミックボールを用いた以外は実施例1と同様にしてプロピレンの気相接触酸化反応を行い、4000時間経過時点および8000時間経過時点でセラミックボールを交換しながら9600時間継続して反応を行った。その際のアクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失の変化を表1に示す。
<比較例2>
8000時間経過後にのみセラミックボールを交換した以外は比較例1と同様にしてプロピレンの気相接触酸化反応を行った。その際のアクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失の変化を表1に示す。
<実施例3〜6>
実施例1において、処理剤(A)に変え、それぞれ処理剤(B)(実施例3)、処理剤(C)(実施例4)、処理剤(D)(実施例5)、処理剤(E)(実施例6)を用いた以外は実施例1と同様に試験を行った。各処理剤のクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量、アクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失の変化を表1に示す。
<実施例7>
実施例1において、4000時間継続して反応を行った後、処理剤(A)を抜き出し、この使用済み処理剤(A)を、空気雰囲気下、500℃で5時間焼成処理し再生した。この再生した処理剤(A)を、再度充填しプロピレンの気相接触酸化反応を継続した。その際のアクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失を表1に示す。
【0042】
<実施例8>
実施例1において、処理剤(A)500mmに代え、上流側に処理剤(F)250mm、その後流側に処理剤(G)250mmと2種の処理剤を積層した以外は実施例1と同様に反応を連続して行った。その際のアクリル酸収率、後段触媒層の圧力損失を表1に示す。
【0043】
<実施例9>
実施例1において、第1反応管の空塔部に層長200mmとなるように処理剤(A)を充填した。連結部および第2反応管は実施例1と同様に設置した。さらに、第2反応管出口にアクリル酸捕集器を接続してアクリル酸を捕集した。この時のアクリル酸捕集率は95%であった。そして、水蒸気を含む捕集器出口ガスの50%を第1反応管の入口にリサイクルし、そこにプロピレンと空気を追加して、反応ガスをプロピレン5体積%、酸素10体積%、水蒸気15体積%となるように濃度調節し実施例1と同様の実験を行った。その際のアクリル酸収率および前段触媒における圧力損失の変化を表1に示す。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の気相接触酸化は、触媒の劣化が大幅に抑制され、高い収率を維持しながら、圧力損失の増加を抑えて、長期間にわたる安定的な連続操業を可能にする。また、高価な触媒を交換する必要もない。それゆえ、本発明の方法によれば、例えば、アクリル酸など、気相接触酸化により得られる基礎化学品の製造コストを大幅に低下させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気相接触酸化反応を行うに際して、ガス流れ方向に対して気相酸化触媒層の上流側にクロトンアルデヒドを指標とした有機物質吸着量が0.05質量%以上の処理剤を配置した固定床反応器を用いることを特徴とする気相接触酸化方法。
【請求項2】
該処理剤をガス流れ方向に対して触媒層の上流側に位置する反応管内および/または反応器内の空隙に配置することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該処理剤の少なくとも一部を年1回以上の頻度で交換することを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
該処理剤の少なくとも一部が再生品である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
気相接触酸化反応が、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコール、メチル−t−ブチルアルコールの二段階の反応により(メタ)アクリル酸を製造する気相酸化反応である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。

【公開番号】特開2008−222598(P2008−222598A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−60460(P2007−60460)
【出願日】平成19年3月9日(2007.3.9)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】