説明

固定解放装置

【課題】簡易な構造で浮力体と錘とを確実に固定し、且つ、容易に固定状態を解放することが可能な固定解放装置を提供する
【解決手段】本発明の固定解放装置(観測機器)1は、浮力体(観測機器本体)3と錘(アンカー)5と、これらを連結する連結装置7とからなる。連結装置7は、閉ループ部材17と、回動アーム19及び連結部材21からなる連結構造を有している。回動アーム19に連結部材21が係止され、閉ループ部材17が回動アーム19の回動を拘束することで、浮力体3が固定されている。浮力体3を解放する場合には、閉ループ部材17に備えられたトリガ機構9を作動させて閉ループ部材17を溶断する。すると、回動アーム19が回動し、連結部材21が抜けて浮力体3が解放される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切離機構によって浮力体と錘との連結を解除する固定解放装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、連結装置で連結された浮力体と錘とからなり、切離機構によって浮力体と錘との連結を解除する固定解放装置が知られている。例えば、海底に沈めて地震の調査を行うため、海底に設置して計測を行う海底地震計(OBS[Ocean Bottom Seismograph])がある。海底における地震の発生メカニズム等を調査するために行われる屈折法地震探査では、人工的な地震波を発生させ、海底下の各地層の境界面で屈折した音波を所定の距離をあけて海底に設置された多数の海底地震計で受振し、測定を行う。このようにして用いられる海底地震計は、センサ等を内蔵した浮力体である海底地震計本体と、海底地震計本体を海底に係留するために、浮力体の下側に配置されるアンカー(錘)とが連結されて水底に沈められており、測定後は、データの回収・機器の保守等の目的で、海底地震計の本体部分の回収作業が行われる。回収作業は、浮力体と錘とを連結している連結装置に備えられた切離機構を作動させて行う。
【0003】
切離機構としては、浮力体と錘とを連結するケーブルを切断刃によって切断するための動力を火薬の爆発を利用して発生する火薬方式[特開平8−271291号(特許文献1)]、浮力体と錘とを連結する金属板(例えば、ステンレス板)または金属線を強制的に電蝕させて切断することにより、浮力体と錘とを切り離す電蝕方式[特開2006−30124号(特許文献2)]等の方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−271291号公報
【特許文献2】特開2006−30124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、火薬方式の場合には、切離機構を動かすための構造が複雑で大掛かりとなるため、切離機構の重量が重く、また、容積も大きくなるという問題があった。
【0006】
また、電蝕方式の場合には、金属板または金属線を強制的に電蝕させて切断するまでに数分から十数分の時間を要するという問題があった。また、海底に長期間設置した場合には、金属板または金属線が自然腐蝕したり、皮膜を形成してしまうことがあり、正常に動作しなくなることがあった。さらに、強制的に電蝕させる方式は、淡水中では用いることができないという問題もあった。
【0007】
本発明の目的は、浮力体と錘とを確実に固定し、且つ、容易に固定状態を解放状態にすることが可能な固定解放装置を提供することにある。
【0008】
本発明の他の目的は、浮力体の頂部に他の部品の設置スペースを確保することが可能な固定解放装置を提供することにある。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、長期間、海底に設置しておいても動作可能な固定解放装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の固定解放装置は、浮力体と浮力体の下側に配置される錘とを切り離し可能に連結する連結装置を備えている。連結装置は、トリガ信号により動作状態になると、浮力体と錘との連結を解除するトリガ機構を備えている。連結装置は、熱可塑性材料によって形成された1以上の被溶断部分を備えた閉ループ部材と、閉ループ部材と錘との間に配置され、閉ループ部材が閉状態にあるときには、浮力体を拘束し、閉ループ部材が開状態になると浮力体の拘束を解除するように構成された連結構造とを備えている。そして、トリガ機構が、動作状態になると、閉ループ部材の被溶断部分を溶断して閉ループ部材を開状態にする1以上の溶断装置を含んでいる。
【0011】
このように、本発明の固定解放装置では、閉ループ部材を用いて連結構造を浮力体を拘束する状態と、浮力体の拘束を解除する状態とを作ることで、浮力体と錘の固定と解放を制御する。1以上の被溶断部を備えた閉ループ部材を連結装置に用いると、閉ループ部材と連結構造とを連結する際に、両者の連結位置が制限されないため、連結構造の構成を任意のものとすることが可能である。したがって、例えば、閉ループ部材と錘とを2本以上の紐状の連結部材を用いる連結構造で任意の箇所で連結したり、シート状または網状の連結部材を用いる連結構造で連結することもでき、浮力体を任意の連結構造を用いて簡単に且つ確実に拘束することができる。特に、閉ループ部材を錘とは逆側の浮力体の頂部を囲むように配置すると、浮力体の頂部の位置にスペースが空くことになるため、固定解放装置を構成する部品で、外部に設置する必要がある部品を配置する位置を浮力体の頂部に確保することが可能になる。例えば、固定解放装置が海底地震計の場合には、浮力体の頂部にトリガ信号を受信するための受信機(トランスデューサ)を配置することができる。さらに、トリガ機構によって閉ループ部材の1以上の被溶断部分を溶断することで閉ループ部材が開状態となることにより浮力体の拘束が解除されることから、拘束解除のために複雑な機構も必要なく、また、短時間(数秒)で浮力体と錘との切り離しが可能である。
【0012】
さらには、閉ループ部材は金属ではないことから、腐蝕が発生しないため、長期間、水中に設置しておいた後でも、確実に浮力体と錘との切り離しが可能である。
【0013】
なお、被溶断部分と溶断装置はそれぞれ1つでも十分であるが、被溶断部分と溶断装置をそれぞれ複数設けた場合には、少なくとも1つの溶断装置が動作して閉ループ部材の少なくとも1つの被溶断部分を溶断すれば、連結装置を確実に連結解除状態にすることができるので、固定解放装置の冗長性を担保することができる。例えば、固定解放装置が海底地震計に用いられる場合には、所定の期間における測定後にトリガ機構を動作させて浮力体に内蔵された測定機器を回収する際に、閉ループ部材に複数箇所の被溶断部分と複数個の溶断装置を設置しておけば、少なくとも1つの溶断装置が動作すれば、他の溶断装置が何らかの原因で動作しなかったとしても、浮力体を浮上させることができて、測定機器を確実に回収することが可能になる。
【0014】
閉ループ部材が、浮力体の頂部を囲むように配置される場合において、連結構造の構成は任意である。例えば、連結構造を複数の連結部材と、複数の係止機構とを備える構成としてもよい。この場合、複数の連結部材は、一端が錘に固定され他端に係止部を備えて浮力体の周方向に間隔を開けて配置する。そして複数の係止機構は、閉ループ部材が閉状態にあるときに複数の連結部材に加わる張力を利用して複数の連結部材の複数の係止部と閉ループ部材とを係止状態に保持し、閉ループ部材が開状態になると、浮力体から複数の連結部材に加わる力(浮力体が浮力により上昇する際に連結部材に加わる力)を利用して複数の連結部材の複数の係止部と閉ループ部材との係止状態を解除するように構成する。「複数の連結部材に加わる張力」は、連結部材の長さを適宜に設定することにより調整することができる。このように複数の連結部材に加わる力を利用して係止部と閉ループ部材との係止状態の保持と解除を行うと、閉ループ部材が開状態となるだけで、簡単且つ確実に係止部と閉ループ部材との係止状態の解除を実現して、浮力体を確実に解放することができる。
【0015】
具体的には、連結部材の係止部を係止リングとすることができる。係止機構は、回動中心を中心にして浮力体に近づく方向と離れる方向に回動する回動アームを備え、回動アームの浮力体側の側部には係止リングが係止される第1の被係止部が設けられ、回動アームの浮力体とは反対側の側部には回動中心から見て第1の被係止部よりも外側の位置に閉ループ部材が係止される第2の被係止部が設けられた構造を有するようにしてもよい。そして複数の連結部材は、係止リングが第1の被係止部に係止され且つ閉ループ部材が第2の被係止部に係止された状態で、回動アームを回動中心を中心して浮力体から離れる方向に回動させる力を発生するように寸法が定められている。このように構成すると、回動アームの第1の被係止部に係止リングが係止された状態では、回動アームには回動中心を中心にして浮力体から離れる方向に係止リングから力が加わっている。この状態で、回動アームの第2の被係止部に閉ループ部材が係止されると、閉ループ部材は回動アームが回動中心を中心して浮力体から離れる方向に回動することを阻止する。この状態は、閉ループ部材が閉状態を維持している限り継続する。溶断装置が動作して閉ループ部材の被溶断部が溶断されて閉ループ部材が開状態になると、閉ループ部材が回動アームの回動を阻止する機能を発揮できなくなる。その結果、連結部材から加わる張力が解放され且つ浮力体が浮力により上昇することにより、回動アームは浮力体から離れる方向に回動し、連結部材による浮力体の拘束が解除される。したがって、この構成を採用すれば、浮力体と錘との連結が容易で、且つ、簡単な構造で浮力体を容易に解放することができる。
【0016】
係止機構は、閉ループ部材よりも錘側に配置されて回動中心を構成する閉ループ状軸部材を備えているのが好ましい。この場合、回動アームには、閉ループ状軸部材が貫通する貫通孔が形成されている。係止機構がこのような構造を備えていると、連結部材の本数に応じた数の回動アームを簡単に準備できる上、連結部材の位置に応じて回動アームの位置を簡単に変えることができるので、連結構造の組み立て作業が容易になる。
【0017】
トリガ機構を構成する溶断装置は、閉ループ部材の被溶断部分に熱が伝達することを許容し且つ閉ループ部材の少なくとも一部をスライド可能に収納する閉ループ部材収納部と、閉ループ部材収納部の外側に配置されて閉ループ部材収納部を介して閉ループ部材の被溶断部分を加熱する電気ヒータ部と、電気ヒータ部に電流を供給するための電源と、トリガ機構が動作状態になると、電源から電気ヒータ部へ電流を流すスイッチ回路を含む通電制御部とから構成することができる。このような溶断装置を用いれば、閉ループ部材収納部が閉ループ部材をスライド可能な状態で収納しているため、浮力体と錘とを固定する際に、閉ループ部材の長さ調整やたるみが発生しないように調製が可能である。また、閉ループ部材の被溶断部分を溶断することによって、溶断した閉ループ部材が閉ループ部材収納部からスムーズに抜け出るため、閉ループ部材を確実に開状態とすることができる。さらに、前述のように、本発明では、溶断装置を1以上備えることが可能であり、この溶断装置を複数備えた場合でも、閉ループ部材を確実に開状態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の固定解放装置を実装した観測機器の全体図である。
【図2】第1の実施の形態の観測機器の内部構成を示すブロック図である。
【図3】図1の符号Aを付した領域を拡大して示した概略拡大図である。
【図4】本発明の固定解放装置が備えている溶断装置の例を概念的に示す図である。
【図5】図3に示した連結装置のトリガ機構を動作させた後の様子を示す図である。
【図6】トリガ機構を作動させた後の観測機器の状態を示す図である。
【図7】本発明の固定解放装置を実装した観測機器の第2の実施例の全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の固定解放装置の実施の形態について説明する。図1は、本発明の固定解放装置を実装した観測機器の実施の形態の一例の概略図であり、図2は、図1の実施の形態の観測機器の内部構成を示すブロック図であり、図3は、図1の符号Aを付した領域を拡大して示した概略拡大図であり、図4は、本実施の形態の観測機器のトリガ機構に備えられている溶断装置を概念的に示す図であり、図5は図3に示した連結装置のトリガ機構を動作させた後の様子を示す図であり、図6は、トリガ機構を作動させた後の本実施の形態の観測機器の状態を示す図である。
【0020】
<観測機器>
図1に示した観測機器1は、海底に設置して測定を行う海底地震計(OBS)である。観測機器1は、地震計等の測定装置等を内蔵し、浮力を有する観測機器本体3(浮力体)と、観測機器本体3を海底に沈めて係留するためのアンカー5(錘)と、観測機器本体3とアンカー5とを連結する連結装置7と、トリガ機構9と、トリガ機構9を動作状態にするためのトリガ信号を受信するためのトランスデューサ11(受信部)とから構成されている。
【0021】
観測機器本体3は、図2に示すように、水圧に耐え、内蔵する機器を浸水から守るためのガラス球13と、ガラス球13を保護するハードハット15とから構成されている。ガラス球13の内部には、図示しない測定装置に加えて、後述のトリガ機構9の溶断装置23を作動させるための構成要素が内蔵されている。ガラス球13を耐圧容器とする観測機器本体3は、排水体積相当の水の重量より軽く作られているため、観測機器本体3は水中において浮力を有している。アンカー5は、金属等により構成された重量物であり、図示していないが、アンカー5には、後述する連結部材21を取り付けるための複数の取付金具が固定されている。
【0022】
<連結装置>
図3は、図1の符号Aを付した領域を拡大して示した概略拡大図であり、観測機器本体3とアンカー5とを連結した状態の連結装置7の一部を示してある。ただし、観測機器本体3は省略してある。
【0023】
本実施の形態の連結装置7は、閉ループ部材17と、ハードハット15の外周に沿って設けられた閉ループ状軸部材20に取り付けられた3つの回動アーム19(係止機構)と、伸縮性を有する、または、長さを適宜に設定することにより調節し締め込み可能な紐状の部材からなる3本の連結部材21から構成されている。連結部材21は、一端に係止リング22を備え、他端がアンカー5に設けた図示しない取付金具に固定される構造になっている。3本の連結部材21は、ハードハット15の周囲に等間隔をあけて配置されている。なお、図1では、3本の連結部材21のうち、2本が見えるように配置されており、残りの1本は、観測機器本体3に隠れる位置に配置されている。
【0024】
閉ループ部材17は、観測機器本体3の頂部の周辺に周方向に間隔を置いて設置された複数の閉ループ部材取付部18を囲んで且つ複数の閉ループ部材取付部18を順番につなぐように複数の閉ループ部材取付部18に伸ばされた状態で係止されている。また、閉ループ部材17には、トリガ機構9を構成する後述の溶断装置23が1つ取り付けられている。なお、本実施の形態では、閉ループ部材17は、ナイロン等の熱可塑性材料によって形成されており、溶断装置23が設けられた部分が被溶断部分を構成することになる。
【0025】
3つの回動アーム19の下端部領域には、それぞれ閉ループ状軸部材20を通して、閉ループ状軸部材20を回動中心にして回動アーム19を観測機器本体3に近づく方向と離れる方向に回動可能に取り付けるための貫通孔19Aが形成されている。また、各回動アーム19には、観測機器本体3の側の側部に、係止リング22が係止される第1の被係止部19Bと、観測機器本体3とは反対側の側部に貫通孔19Aから見て第1の被係止部19Bよりも外側の位置に、閉ループ部材17が係止される第2の被係止部19Cとが形成されている。第1及び第2の被係止部19A及び19Bは、それぞれ、回動アーム19の厚み方向に開口し且つ回動アーム19の幅方向に開口する凹部によって構成されている。回動アーム19は、閉ループ状軸部材20の周方向に移動しないように取り付けられているが、少し遊びを有する状態で取り付けられており、左右方向にも少し動かすことができる状態になっている。
【0026】
3本の連結部材21の係止リング22を、それぞれ対応する3つの回動アーム19に嵌めて係止リング22を第1の被係止部19Aに係止した状態で、閉ループ部材17を第2の被係止部19Cにそれぞれ係止することで、回動アーム19が閉ループ状軸部材20を中心として回動しないように拘束され、連結部材21が固定される。
【0027】
なお、本実施の形態では、回動アーム19と閉ループ状軸部材20とにより連結構造が構成され、この連結構造と閉ループ部材17とにより連結装置7が構成されている。また、本実施の形態では、一例として3つの回動アーム19及び3本の連結部材21を用いて観測機器本体3をアンカー5に固定しているが、観測機器本体3をアンカー5に固定できれば個数・本数は任意であり、固定する強度や観測機器本体3の大きさにしたがって、変更することが可能である。例えば、5つの回動アーム19及び5本の連結部材21を用いてもよいのはもちろんである。さらに、3つの回動アーム19のそれぞれに対して、2本の連結部材21を用いる(すなわち、計6本の連結部材21を用いる)ように、異なる個数・本数を組み合わせることも可能である。
【0028】
<トリガ機構>
トリガ機構9は、主に1以上の溶断装置23から構成されており、トリガ機構9が動作すると、溶断装置23が閉ループ部材17を溶断し、回動アーム19の固定を解除する。溶断装置23の構成は、図4に概念的に示す通りである。また、図2には、本実施の形態の観測機器1に1つの溶断装置23が組み込まれている状態を示してある。
【0029】
図4に示すように、溶断装置23は、閉ループ部材17をスライド可能に通すためのチューブ状の閉ループ部材収納部25と、閉ループ部材収納部25の外側にコイル状に巻かれた電気ヒータ部27と、これらを収納するケース29とからなる溶断装置本体24と、電気ヒータ部27に電流を供給するための電源31と、電源31から電気ヒータ部27へ電流を流すスイッチ回路33とを備えている。電源31は電池により構成されている。電気ヒータ部27と電源31とは、リード線35で電気的に接続されている。図4において通電制御部は図示されていないが、図2に示すように、スイッチ回路33は、通電制御部の一部を構成している。本実施の形態では、閉ループ部材収納部25と電気ヒータ部27とがケース29の内部に収納されている。ケース29の内部には、シリコーンゴム37が充填されており、電気ヒータ部27にかかる水圧が均等になり、且つ、防水構造になるように加工されている。ただし、図4では、ケース29の内部構造を説明するために、シリコーンゴム37を透明なものとして描いている。ケース29には、対向する位置に孔39,41が設けられており、閉ループ部材収納部25の一端が孔39に、他端が孔41に合わせられて、閉ループ部材17が通る通路がケース29内に形成されている。電源31及びスイッチ回路33(通電制御部)は、ケース29の外に設けられており、本実施の形態では、図2に示すように、ガラス球13の内部に内蔵されている。
【0030】
閉ループ部材収納部25は、閉ループ部材17と同様、熱可塑性材料によって形成されており、電気ヒータ部27の発熱により溶融するようになっている。なお、閉ループ部材収納部25を、閉ループ部材17を構成する熱可塑性材料の融点以下の融点を有するポリプロピレン等の熱可塑性材料により形成すれば、電気ヒータ部27が発熱すると、まず閉ループ部材収納部25が溶融し、その後、またはほぼ同時に、閉ループ部材17が溶断することになる。
【0031】
ガラス球13の内部には、電源31並びにスイッチ回路33及び制御部34からなる通電制御部32が内蔵されており、ガラス球13に設けられた水中コネクタ43を介してリード線35で溶断装置本体24と接続されて、溶断装置23を構成している。
【0032】
トランスデューサ11がトリガ信号を受信すると、制御部34によってスイッチ回路33がオン状態になり、電源31から電気ヒータ部27に電流が流れ、電気ヒータ部27の発熱により溶断装置本体24内の閉ループ部材収納部25及び閉ループ部材収納部25を通る閉ループ部材17を溶断する構造になっている。
【0033】
<観測機器本体及びアンカーの固定>
観測機器本体3及びアンカー5を固定するまでの手順は次の通りである。
【0034】
(1)観測機器本体3をアンカー5に固定する位置に配置する(図1参照)。本実施の形態では、アンカー5の枠内に観測機器本体3を配置している。
【0035】
(2)閉ループを形成する前の開状態の閉ループ部材17を、観測機器本体3の外側に設置された閉ループ部材取付部18に沿って配置し、溶断装置本体24の閉ループ部材収納部25に通した状態にしてから、開状態の閉ループ部材17の端部同士を結合して閉ループを形成する。閉ループ部材17が閉ループ部材収納部25にスライド可能な状態で収納されているため、閉ループ部材17の長さ調整やたるみが発生しないような調整が可能である。
【0036】
(3)回動アーム19に、連結部材21の係止リング22を通す。
【0037】
(4)第1の被係止部19Bが観測機器本体3の側に位置するように回動アーム19を回動させ、遊びを利用して回動アーム19を閉ループ部材17の下に回り込ませてから、第2の被係止部19Cに閉ループ部材17を係止させる(図3に示す状態)。この状態で、係止リング22が第1の被係止部19Bに係止されており、連結部材21の張力によって、回動アーム19が回動する方向に力が加わっているが、閉ループ部材17によって回動アーム19が回動しないように拘束されている。この作業は、全ての回動アーム19及び連結部材21について同様に行う。
【0038】
上記手順によって、観測機器本体3をアンカー5に対して固定した状態にする。海底地震計の場合には、最終的に準備が整ったところで、船舶で計測地点まで運搬し、海面から海底地震計を投げ入れて海底に設置する。
【0039】
<トリガ機構を作動させた状態>
測定が終了した場合や、測定機器のメンテナンス等のために、観測機器本体3を回収する場合には、次の手順でトリガ機構9の溶断装置23を作動させ、観測機器本体3をアンカー5から解放する。
【0040】
(1)トリガ信号を発信する。トリガ信号は、例えば、海上や地上から、無線の発信器によって発信する。
【0041】
(2)トランスデューサ11がトリガ信号を受信すると、制御部34がスイッチ回路33をオン状態にする。
【0042】
(3)電源31から電気ヒータ部27に直流電流が流れて、発生する熱によって、閉ループ部材収納部25及び閉ループ部材17が溶断される。
【0043】
(4)閉ループ部材17が溶断されることによって、回動アーム19の拘束が解除され、回動アーム19が、連結部材21の張力によって観測機器本体3から離れる方向に回動する。そして、回動アーム19が回動することにより、係止リング22が回動アーム19から抜ける(図5)。
【0044】
(5)観測機器本体3がアンカー5から解放され、観測機器本体3が浮上する(図6)。
【0045】
(6)その後、観測機器本体3がアンカー5から解放されることにより起因する物理的な変化(たとえば、水圧、傾斜角度、加速度、経過時間などの変化)や、タイマの時限の計数の完了を基に通電制御部は、電源31から電気ヒータ部27へ電流を流すスイッチ回路33をオフ状態に戻す。
【0046】
上記手順によって、トリガ信号を発信することによって、観測機器本体3を短時間で且つ確実に回収することが可能になる。
【0047】
図7は、第2の実施の形態の観測機器の図である。図1乃至図4に示した実施の形態と同じ部材には、図1乃至図4に付した符号の数に100の数を加えた数の符号を付して説明を省略する。第2の実施の形態では、閉ループ部材117に備えられたトリガ機構109が2つの溶断装置123及び123’を備えている。なお、溶断装置123’は、溶断装置123の電源131及び通電制御部132を共用している。このように溶断装置を2つ以上備えていると、例えば、1つの溶断装置123の電気ヒータ部が断線等で故障してしまっても、別の溶断装置123’が作動すれば、閉ループ部材117を溶断することができ、観測機器本体103を確実に回収することができる。
【0048】
本発明の固定解放装置は、水中・海中以外でも使用可能である。例えば、気象調査用のラジオゾンデの場合、地上に設置した錘と、気球(浮力体)とを同様の連結装置で連結しておき、遠隔からトリガ信号を送信することで、気球を解放して飛ばすことが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上のように、本発明の固定解放装置は、閉ループ部材を含む連結装置により浮力体と錘とを連結しており、トリガ機構により、閉ループ部材を溶断することにより、浮力体を解放することができる。したがって、簡易な構造で浮力体と錘とを確実に固定し、且つ、容易に固定状態を解放することが可能である。また、閉ループ部材を用いていることから、浮力体の頂部に他の部品の設置スペースを確保することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 観測機器
3 観測機器本体
5 アンカー
7 連結装置
9 トリガ機構
11 トランスデューサ
13 ガラス球
15 ハードハット
17 閉ループ部材
18 閉ループ部材取付部
19 回動アーム
19A 孔
19B 第1の被係止部
19C 第2の被係止部
20 閉ループ状軸部材
21 連結部材
22 係止リング
23 溶断装置
24 溶断装置本体
25 閉ループ部材収納部
27 電気ヒータ部
29 ケース
31 電源
32 通電制御部
33 スイッチ回路
34 制御部
35 リード線
37 シリコーンゴム
39,41 孔
43 水中コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
浮力体と前記浮力体の下側に配置される錘とを切り離し可能に連結する連結装置を備え、前記連結装置が、トリガ信号により動作状態になると、前記浮力体と前記錘との連結を解除するトリガ機構を備えている固定解放装置であって、
前記連結装置は、熱可塑性材料によって形成された1以上の被溶断部分を備えた閉ループ部材と、前記閉ループ部材と前記錘との間に配置され、前記閉ループ部材が閉状態にあるときには、前記浮力体を拘束し、前記閉ループ部材が開状態になると前記浮力体の拘束を解除するように構成された連結構造とを備え、
前記トリガ機構は、前記動作状態になると、前記閉ループ部材の前記被溶断部分を溶断して前記閉ループ部材を前記開状態にする1以上の溶断装置を含んでいる固定解放装置。
【請求項2】
前記閉ループ部材は、前記浮力体の頂部を囲むように配置され、
前記連結構造は、一端が前記錘に固定され他端に係止部を備えて前記浮力体の周方向に間隔を開けて配置された複数の連結部材と、前記閉ループ部材が前記閉状態にあるときに前記複数の連結部材に加わる張力を利用して前記複数の連結部材の複数の前記係止部と前記閉ループ部材とを係止状態に保持し、前記閉ループ部材が前記開状態になると、前記浮力体から前記複数の連結部材に加わる力を利用して前記複数の連結部材の前記複数の係止部と前記閉ループ部材との係止状態を解除するように構成された複数の係止機構とを備えている請求項1に記載の固定解放装置。
【請求項3】
前記係止部は係止リングからなり、
前記係止機構は、回動中心を中心にして前記浮力体に近づく方向と離れる方向に回動する回動アームを備え、前記回動アームの前記浮力体側の側部には前記係止リングが係止される第1の被係止部が設けられ、前記回動アームの前記浮力体とは反対側の側部には前記回動中心から見て前記第1の被係止部よりも外側の位置に前記閉ループ部材が係止される第2の被係止部が設けられた構造を有し、
前記複数の連結部材は、前記係止リングが前記第1の被係止部に係止され且つ前記閉ループ部材が前記第2の被係止部に係止された状態で、前記回動アームを前記回動中心を中心として前記浮力体から離れる方向に回動させる力を発生するように寸法が定められている請求項2に記載の固定解放装置。
【請求項4】
前記係止機構は、前記閉ループ部材よりも前記錘側に配置されて前記回動中心を構成する閉ループ状軸部材を備えており、
前記回動アームには、前記閉ループ状軸部材が貫通する貫通孔が形成されている請求項3に記載の固定解放装置。
【請求項5】
前記溶断装置は、前記閉ループ部材の前記被溶断部分に熱が伝達することを許容し且つ前記閉ループ部材の少なくとも一部をスライド可能に収納する閉ループ部材収納部と、前記閉ループ部材収納部の外側に配置されて前記閉ループ部材収納部を介して前記閉ループ部材の前記被溶断部分を加熱する電気ヒータ部と、前記電気ヒータ部に電流を供給するための電源と、前記トリガ機構が前記動作状態になると、前記電源から前記電気ヒータ部へ電流を流すスイッチ回路を含む通電制御部とからなる請求項1に記載の固定解放装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−82251(P2013−82251A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221881(P2011−221881)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(504194878)独立行政法人海洋研究開発機構 (110)
【Fターム(参考)】