説明

固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)のためのキレート基の固定

本発明は、ポリカルボン酸を固相に結合させるための方法に関する。さらに、本発明は、ポリカルボン酸が固定されている固相および、例えばHisタグ付き組換えポリペプチドを精製するための、該固相の使用方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボン酸を固相に結合させるための方法に関する。さらに、本発明は、ポリカルボン酸が固定されている固相および、例えば組換えポリペプチドを精製するための、該固相の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
組換えタンパク質を精製するための非常に強力なストラテジーは、典型的に6〜10個の連続したヒスチジンを含む「His-タグ」の使用である。His-タグはNi2+-イオンの遊離の配位部位にしっかり結合する。それらは、Ni2+上の配位部位に関して競合する高濃度のイミダゾールによって遊離させることができる。そのような特異的吸収および解離のサイクルは、所望のタンパク質の1ステップ精製に使用することができ、100以上の濃縮係数(enrichment factors)が得られる。
【0003】
最も広く使用されるこの技術の変法では、ε-アミノ基を介してアガロースビーズにカップリングされているNαNα-ビス(カルボキシメチル)-リシンを使用する。活性基は、Ni2+を保持するNTA (ニトリロ三酢酸)であり、スペーサーはアミノブチル基である。しかし、そのようなNi2+-NTA-マトリックスはいくつかの重大な不都合を有する。例えばNαNα-ビス(カルボキシメチル)-リシンのコストが高いことである。
【0004】
さらなる不都合は、固定されたNi2+-イオンの不安定性である。NTAはNi2+に関する4つの配位部位しか有さないため、Ni2+イオンはマトリックスから容易に漏出し、タンパク質サンプルを汚染する。これは少なくとも2つの理由で深刻な問題であり、その理由は、Ni2+がやや有毒な重金属であることおよびそれがタンパク質サンプルの望ましくない酸化を触媒することである。さらに、NTA-結合Ni2+はタンパク質保護剤、例えばDTT (ジチオスレイトール)によって容易に還元され、マトリックスから遊離する。最後に、金属キレート性プロテアーゼインヒビター、例えばEGTAまたはEDTAはNi2+-NTA-マトリックスと組み合わせることができない。その理由は、それらがこのマトリックスからNi2+-イオンを抽出するからである。
【0005】
US 6,670,159は、NTAに基づく金属キレートコンジュゲートを製造するための方法であって、少なくとも8のアルカリpHの水性媒体中でカルボジイミドの存在下で一級アミン基を含有するタンパク質性分子とNTAまたはその塩を反応させる方法を記載する。
【0006】
WO 2004/036189は、金属キレートで修飾された支持体を使用するポリペプチドの分離方法を開示する。この支持体は、カルボキサミド基を介してアミノ修飾された固相に結合しているNTAを含む。
【0007】
GB 2 067 203は、ポリマーキレート剤であって、それに結合している支持体、単一のカルボキサミド基または2つのカルボキサミド基を介して結合しているEDTAアミドの混合物を含むポリマーキレート剤を開示する。ポリペプチドの精製のためのこの支持体の使用は開示も示唆もされていない。
【0008】
US 2004/204569は、(His-Asn)6-タグを含むHis-タグタンパク質を開示する。
【0009】
US 2002/164718は、His、2個の脂肪族またはアミドアミノ酸、His、3個の塩基性または酸性アミノ酸、His、および脂肪族またはアミドアミノ酸からなるアミノ酸配列を有する、スペースを含む(spaced) His-タグを含む、固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)用の親和性ペプチドを開示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、先行技術に伴う問題を回避するための、固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)に好適な新規方法および組成物を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、Ni2+と錯体形成したEDTAに基づく固相、特にEDTAのカルボキシル基が固相上のアミノ基に結合している固相が、固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)適用において、特にポリ-ヒスチジンタグを含む組換えポリペプチドの精製のために、優れた特性を有することが見出された。この知見は完全に予想外であった: 既存の文献では、EDTAに基づく固相はニッケルキレートクロマトグラフィーに適さないはずである。その理由は、この六座配位(hexadentate)キレート剤は、Ni2+上の全6配位部位を占有し、恐らくヒスチジン残基の結合のための部位を残さないはずであるからである。この予測とは対照的に、EDTAに基づく固相は、遷移金属イオン、特にNi2+イオンの安定な結合を示すだけでなく、得られたNi2+、Zn2+、Co2+またはCu2+との錯体がヒスチジンタグ付きタンパク質に関する高い選択性を有することも見出された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、EDTAをアミン含有支持体にカップリングするためのスキームを示す。該反応はEDTAの単一のカルボキシル基と支持体上のアミノ基との間で選択的反応が生じる条件下で行われる。
【図2A】図2は、IMACにおける種々のNi2+-含有クロマトグラフィー用マトリックスのタンパク質結合特異性の比較を示す。種々のHis-タグ付きタンパク質、すなわち比較マトリックス(NTA-Qiagen)および3つの本発明のマトリックス(EDTA-アミドシリカI、EDTA-アミドシリカIIおよびEDTA-アミドセファロース)のタンパク質結合特性を示す(詳細に関しては実施例5を参照のこと)。
【図2B】図2Aの続きである。
【図2C】図2Bの続きである。
【図3】図3は、IMACのための種々のキレート剤および遷移金属イオンの組み合わせを示す。種々の遷移金属イオンの存在下での、異なるキレート剤を有する種々のマトリックス(本発明のEDTA、EGTAおよびTTHAマトリックスおよびNTAマトリックス)のタンパク質結合特性を示す(詳細に関しては実施例6を参照のこと)。
【図4】図4は、遊離キレート剤によるNi2+の抽出に対する、Ni-キレートマトリックスの抵抗性を示す。本発明のEDTA-アミドマトリックスおよび比較NTAマトリックスに対するNi2+結合の強度を示す(詳細に関しては実施例7を参照のこと)。
【図5】図5は、チオール含有還元剤に対する、種々のNi-キレートマトリックスの抵抗性を示す。種々のNi2+含有キレート剤マトリックス(本発明のEDTA-アミドマトリックスおよび比較NTAマトリックス)の、Ni2+抽出およびDTTの存在下での還元に対する抵抗性を示す(詳細に関しては実施例8を参照のこと)。
【図6】図6は、スペースを含む(spaced)ポリ-ヒスチジンタグの特徴評価を示す。(A) 本発明のスペースを含むポリ-Hisタグ(スペースを含むH14、スペースを含むH21およびスペースを含むH28)ならびに比較Hisタグ(MRGS6およびH10)の結合特性を示す。(B) 本発明のスペースを含むHis-タグおよび比較His-タグ(H10)を含有するタンパク質の発現を示す(詳細に関しては実施例9を参照のこと)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の態様は、固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)のための、特にポリ-ヒスチジン-タグ付きタンパク質の精製のための、6個以上の配位基を有する固定されたキレート剤の使用に関する。好ましくは、固定されたキレート剤は、特に、アミノ、カルボキシル、カルボキサミドおよびヒドロキサム酸(hydroxamate)基から選択される、6個以上の配位基を有するポリカルボン酸アミドまたはエステルである。
【0014】
さらに好ましくは、固定されたキレート剤は、式(Ia)または(Ib)の構造を有する、ポリカルボン酸が固定されている固相である:
【化1】

【化2】

【0015】
(式中、
SPは固相であり;
R1は水素または、固相の適用を妨げない有機残基、例えばC1-C3アルキル基であり、および
PCAはポリカルボン酸、特にアミノポリカルボン酸の残基、またはその塩である)。
【0016】
さらにより好ましくは、固相は式(II)の構造を有する:
【化3】

【0017】
(式中、
SPは固相であり; および
1個以上のカルボン酸基は脱プロトン化されていてよい)。
【0018】
固相に結合しているポリカルボン酸(Ia)、(Ib)または(II)は多価金属イオン、例えばNi2+イオンと錯体形成していてよい。
【0019】
本発明の別の態様は、6個以上の配位基を有するポリカルボン酸を固相に結合させるための方法であって、以下のステップ: (a) ポリカルボン酸とアミノ基を含む固相とを提供するステップ、(b) 縮合剤の存在下でアミノ基をポリカルボン酸と反応させるステップを含み、縮合剤はアミノ基よりモル過剰で存在し、かつポリカルボン酸は縮合剤およびアミノ基よりモル過剰で存在し、かつポリカルボン酸の単一のカルボキシル基がアミノ基と反応する方法に関する。
【0020】
本発明のさらに別の態様は、式(Ia)または(Ib):
【化4】

【化5】

【0021】
(式中、
SPは固相であり;
R1は水素または、固相の適用を妨げない有機残基、例えばC1-C3アルキル基であり、
PCAはポリカルボン酸、特にアミノポリカルボン酸の残基、またはその塩である)
の構造を有する、ポリカルボン酸が固定されている固相であって、
固定されたポリカルボン酸アミドまたはエステルは、特に、アミノ、カルボキシル、カルボキサミドおよびヒドロキサム酸基から選択される、少なくとも6個以上の配位基を有し、
かつ、固相の表面は、好ましくは実質的に、利用可能な(accessible)アミノ基を有さず、固相の表面上の例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の利用可能なアミノ基はブロックされている、
固相に関する。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態では、カルボキサミド基: -NR1-CO-は固相に直接結合している。他の実施形態では、カルボキサミド基はリンカーを介して固相に結合し、該リンカーは、炭素原子および場合によりヘテロ原子、例えばOおよび/またはNから選択することができる1原子〜20原子、好ましくは2〜12原子、例えば2〜6原子の長さを有してよい。
【0023】
本発明のさらに別の態様は、組換えポリペプチドの精製方法であって、以下のステップ: (a) 複数のヒスチジン残基、例えば複数の連続したヒスチジン残基を有するポリペプチドを含むサンプルを提供するステップ、(b) あらかじめ結合し、錯体形成している金属イオン、例えばNi2+イオンを含有する上記固相とサンプルを、組換えポリペプチドが該固相に選択的に結合する条件下で接触させるステップ、(c) 結合している組換えポリペプチドを他のサンプル成分から分離するステップ、および(d) 組換えポリペプチドを固相から溶出させるステップを含む方法である。
【0024】
本発明のさらに別の態様は、配列[HnSm]k (式中、Hはヒスチジンであり、Sはグリシンおよび/またはセリンおよび/またはスレオニンから選択される、ヒスチジンと異なるアミノ酸残基であり、nは各事例で独立して1〜4であり、mは各事例で独立して1〜6であり、およびkは2〜6であり、好ましくは2〜5である)中に少なくとも4個のヒスチジン残基を有する「スペースを含むヒスチジンタグ(spaced histidine tag)」を含む組換えポリペプチドである。スペースを含むヒスチジンタグは、規則的な配列を有し、すなわちnおよびmは各出現において同じ値を有するか、または不規則な配列を有し、すなわちnおよびmは異なる値を有してよい。ポリヒスチジン-タグ内のヒスチジンの数が多いほど、Ni2+キレートマトリックスに関する結合強度および特異性が増加する。しかし、連続ヒスチジンが多過ぎると、組換えタンパク質、例えば大腸菌(E. coli)で組換え発現されるタンパク質の発現レベルおよび溶解度が下がる。これらの問題は、グリシン、セリンおよび/またはスレオニンを含む短いスペーサーでヒスチジンの連続を分断することによって、すなわちスペースを含むヒスチジンタグで克服することができる。組換えタンパク質、例えば核輸送受容体またはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)は、本発明のスペースを含むヒスチジンタグでタグ付けされた場合、慣用のオリゴヒスチジンタグと比較して、大腸菌(Escherichia coli)での発現期間中に、より高い発現およびより良好な溶解度を示す。
【0025】
本発明にしたがって、ポリカルボン酸を固相に結合させるための方法が提供される。該ポリカルボン酸は6以上、例えば6、7または8個の配位基を有する。好ましくは、該ポリカルボン酸は4、5またはそれ以上のカルボン酸基を有する。該ポリカルボン酸はアミノ、ニトリロまたはエーテルポリカルボン酸であってよく、アミノポリカルボン酸、特に三級アミノ基を有するアミノポリカルボン酸が好ましい。ポリカルボン酸の具体例は、エチレンジアミノ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DTPA)およびトリエチレンテトラミン-N,N,N',N',N'',N''六酢酸(TTHA)である。EDTAが特に好ましい。
【0026】
該ポリカルボン酸は、好ましくは、一級または二級アミノ基を含む固相に結合している。該結合は、固相に対するポリカルボン酸の1個のカルボキシル基のみの選択的結合を可能にする条件下で行われ、ポリカルボン酸の活性化または誘導体化形態、例えば無水物、活性エステル、またはポリカルボン酸の一級または二級アミン基が後のカップリングステップに利用可能であるように維持されている形態を単離する必要はない。カルボキシル基とアミノ基の間の反応を用いて、カルボキサミド結合を形成させる。固相は、例えば、アミノ官能化クロマトグラフィー用支持体であってよい。例えば、固相は、アミノ官能化炭水化物、例えばアガロース、セファロース、またはセルロース、金属または半金属、例えばケイ素またはその酸化物、例えばシリカ、ガラス、プラスチック、例えばポリスチレンまたは脂質、例えばホスファチジルエタノールアミン-またはホスファチジルセリン-含有リン脂質から選択してよい。さらに、固相は、粒子、例えばベシクル、磁気ビーズ、量子ドット、ベシクル、またはタンパク質を含んでよい。固相上のアミノ基は、好ましくは、一級または二級アミノ基、例えば脂肪族一級アミノ基である。
【0027】
固相のアミノ官能化は、公知の方法によって、例えばアミノ基含有シラン、例えばアミノプロピルトリエトキシシランを固相、例えばシリカまたはガラスと反応させるか、またはアンモニアをエポキシ活性化固相と反応させることによって、行うことができる。好ましくは、シリカまたはガラスのアミノ官能化はアミノプロピルトリメトキシシランまたはアミノプロピルトリエトキシシランを用いて行う。炭水化物、例えばアガロース、セファロース、またはセルロースを、好ましくは、例えばエピクロロヒドリンまたはエピブロモヒドリンで最初にエポキシ活性化してエポキシ活性化マトリックスを得た後、過剰のアンモニア、一級アミン、またはヒドロキシルアミンで処理してアミノ修飾マトリックスを得る。
【0028】
固相上のアミノ基密度は、アミノ官能化の反応条件、例えば温度、期間および/または反応物の濃度によって変動させることができる。例えば、アミノ官能化剤をパッシベート剤(passivating agent)、例えばアミノ基を含有しないシランで希釈して、必要であれば、表面上のアミノ基密度を減少させることができる。アミノ基含有反応物をパッシベート剤、好ましくはグリシジルオキシプロピルトリメトキシシランと3-メルカプト1,2-プロパンジオール間の反応産物で例えば1〜50%の濃度に希釈してよい。あるいは、2個以上の一級または二級アミノ基を含有する二官能性または多官能性物質、例えば1,13-ジアミノ-4,7,10-トリオキサトリデキサンを使用することによってアミノ基密度を増加させてよい。それによって、His-タグ付きタンパク質に関するマトリックスの親和性を増加させることができる。ゆえに、所望の特性を有する最終産物を得るよう、例えばHis-タグ付きタンパク質は最終産物に特異的に結合するが、他のタンパク質のバックグラウンド結合は最小であるように、反応条件を選択してよい。最適なアミノ基密度は、実施例に記載の手順にしたがって、各固体支持体に関して経験的に決定することができる。
【0029】
例えば、長いヒスチジンタグ(例えば10個以上のヒスチジン残基を有する)を有するタンパク質の精製は、好ましくは、6ヒスチジン残基のタグを有するタンパク質の精製より低密度のNi2+-錯体形成ポリカルボン酸アミド基を有する表面を用いて行われる。逆に、例えばグアニジニウムクロライドの存在下での、変性条件下での精製は、好ましくは、ネイティブ条件下での精製より高密度のキレート基を用いて行われる。
【0030】
次のステップでは、ポリカルボン酸の1カルボキシル基と表面上のアミノ基の間の縮合反応が行われる。図1は、ポリカルボン酸としてEDTAを用いて例証されるこの反応の模式図を示す。
【0031】
該反応は縮合剤の存在下で行われ、該縮合剤は、カルボジイミド、カルボナート、例えばジ(N-スクシンイミジル)カルボナート、O-(N-スクシンイミジル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムテトラフルオロボラートまたは類似の化合物から選択してよい。カルボジイミド、例えば1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、またはN,N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)が好ましい。ポリカルボン酸がアミノ基および/または縮合剤より十分なモル過剰で存在する場合にポリカルボン酸の単一のカルボキシル基が固相上のアミノ基と反応する反応条件が見出された。好ましい実施形態では、IMACのための高度に特異的なマトリックスを得るために、アミノ基を実質的に定量的にポリカルボン酸と反応させる反応条件を選択する。したがって、アミノ基より、少なくとも2倍モル過剰、好ましくは少なくとも4倍モル過剰の縮合剤および少なくとも5倍過剰、好ましくは少なくとも10倍モル過剰、より好ましくは少なくとも25倍モル過剰のポリカルボン酸を使用すべきあろう(実施例を参照のこと)。
【0032】
該反応は好ましくは水相で行われる。反応条件は好ましくはpH 5〜9、より好ましくはpH 7〜8.5である。ポリカルボン酸を、好ましくは、飽和限界付近(例えばEDTAについての0.5 MおよびEGTAについての0.1 M)で使用し、ポリカルボン酸の1/10〜1/50の濃度の縮合剤を使用する。
【0033】
反応産物は安定なカルボン酸アミド結合を介してポリカルボン酸が固定されている固相である。好ましくは、該固相は上記の固定された式(Ia)の構造を有する。好ましくは、固定されたポリカルボン酸残基は、依然として、少なくとも3、4またはそれ以上のカルボキシル基および場合により追加のキレート基、例えばアミノまたはエーテル基を有する。
【0034】
ポリカルボン酸がEDTAである場合、固相は好ましくは式(II)の構造を有する:
【化6】

【0035】
(式中、SPは固相である)。
【0036】
本発明の固相、例えばEDTA-アミド固相は、多価金属イオン、例えば遷移金属イオン、例えばNi2+、Zn2+、Co2+、またはCu2+-イオンに関する高親和性を有する。本発明にしたがって固定されたキレート剤とこれらの金属イオンのいくつかの組み合わせは、従来の固定されたNTA基より低い非特異的結合しか伴わずにヒスチジンタグ付きタンパク質を結合させるための高度に選択的なマトリックスを提供する(図2および3を参照のこと)。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明の固相は、実質的に定量的に、利用可能なアミノ基、例えば一級アミノ基、および/またはヒドロキシ基を含まない。その理由は、未反応アミノ基は、低親和性Ni2+結合および、His-タグを有さないポリペプチドの高い非特異的バックグラウンド結合の原因であるからである。ゆえに、固相の表面上の90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の利用可能なアミノ基、特に一級アミノ基が、例えば縮合剤によって媒介されるポリカルボン酸との反応によってブロックされていることが望ましい。利用可能な未反応基、例えば一級アミノ基の量は、公知の方法にしたがって、例えばニンヒドリン試験またはOPA (オルト-フタルアルデヒド/メルカプタン)反応によって測定することができる。
【0038】
さらに、固相、例えばEDTA-アミド固相は、実質的に、ゆるく結合している多価金属イオン、例えばNi2+イオンを含まないことが好ましい。本発明者らは、最初にEDTA-アミドマトリックスをNi2+イオンで飽和させる場合、特に固体支持体が依然として未反応アミン基を含有する場合に、そのかなりの量はゆるく結合しているだけのままであることを見出している。このゆるく結合しているNi2+フラクションは好適な試薬、例えばジメチルグリオキシムで検出することができる。例えば、エタノール中に溶解された1% w/vジメチルグリオキシム0.2〜1容量をTrisバッファーpH7.5中のNi2+積載マトリックスに加え、混合物を60℃で15分振とうした後、任意のゆるく結合しているNi2+イオンをピンク色沈殿として検出することができる。ゆるく結合している金属イオンは、問題、すなわち毒性かつ酸化性のNi2+イオンでのタンパク質含有サンプルの汚染および非His-タグタンパク質の非特異的結合の増加を引き起こす。
【0039】
ゆえに、本発明の固相は、好ましくは実質的に、ゆるく結合している金属イオン、特にゆるく結合しているNi2+イオンを含まない。ゆるく結合している金属イオンは、例えば、固相を、好ましくは約pH 7.5の、遊離ポリカルボン酸キレート剤、例えばNTAまたはEGTAまたはEDTA、例えば40 mM NTAまたは10 mM EGTAまたは10 mM EDTAと接触させ、例えばマトリックスをそれぞれの金属イオンに好適な検出試薬、例えばNi2+イオンの検出のためのジメチルグリオキシムと接触させることによって、ゆるく結合している金属イオンが検出不可能になるまで接触させることによって固相から除去することができる。ゆるく結合している金属イオンを除去した後、残留するイオンは、等容量の0.5 M EDTA (pH 7.5)と室温で一晩インキュベートしても、EDTA-アミドマトリックスからの完全な遊離には不十分であるほど緊密に結合したままである。対照的に、市販のNi-NTA-アガロース(Qiagen)またはNi-NTA-アミドマトリックスを40 mM NTA、または10 mM EGTAまたは10 mM EDTAであらかじめ洗浄すると、ゆるく結合しているNi2+イオンだけでなく、恐らくすべての結合Ni2+イオンが除去されることに留意すべきである(図4)。
【0040】
驚くべきことに、EDTA中の1個のカルボキシル基のカルボキサミド基への変換が中性pHでのNi2+に関する親和性を弱める徴候は見出されなかった。その代わりに、カルボキサミドのカルボニル酸素またはアミノ基はNi2+に対する配位結合(coordinative bond)にたずさわることができるようであり、このことは、EDTA-アミドが真に六座配位キレート剤であることを示唆する。カルボキサミド基がNi2+と配位できることは、例えば、Ni2+に関する4個の配位部位が補酵素F430によって提供されかつ5番目の配位部位がグルタミン側鎖のカルボキサミドによって提供されるメチル補酵素M-レダクターゼから明らかである(Ermler et al, Science 278 (1997), 1457)。
【0041】
本発明の固相は、固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)に使用することができる。このクロマトグラフ法では、複数のヒスチジン残基、例えば連続したヒスチジン残基、例えば少なくとも6個の連続したヒスチジン残基を含むポリペプチドを本発明の金属錯体固相に選択的に結合させ、他の成分から分離する。好適な溶出剤、例えばイミダゾールを加えることによって、該ポリペプチドを固相から溶出させることができる。イミダゾール濃度は、好ましくは、固定された活性基の密度、ポリ-ヒスチジンタグの長さ、およびタグ付きタンパク質の多量体化状態に応じて、1〜1000 mMの範囲である。
【0042】
His-タグ付きタンパク質のIMAC精製を機能させるために、従来、固定されたキレート剤はNi2+の6個の配位部位のうち3〜5個しか占有すべきでないことが仮定されていた。したがって、固定された六座配位キレート剤、例えばEDTA-アミドまたはEDTA-ヒドロキサミドおよび、6個を超える配位基を有するキレート剤でさえ、この適用に非常に良好に機能することは、予測できない本発明の態様である。明らかに、ヒスチジン側鎖は所定のキレート剤内の弱く配位する基を一時的に置換することができる。ゆえに、本発明の実施形態では、固定されたキレート剤、すなわち固定されたポリカルボン酸アミドは6個以上の配位基を有し、該配位基は、特に、アミノ、カルボキシル、カルボキサミド、およびヒドロキサム酸基から選択される。
【0043】
本発明の固相、例えばEDTA-アミド上で、例えばNi2+との、動力学的に非常に安定な錯体が形成される。得られたマトリックスは例えばEGTAまたはNTAによるNi2+-抽出に非常に抵抗性である。0.5 M EDTAでさえ、非常にゆっくり、すなわち数時間〜数日の時間尺度でしかNi2+を抽出しない。Ni2+-抽出への抵抗性は、バッファーにイミダゾール、例えば1 mMイミダゾールを含ませることによってさらに増加する。したがって、本発明の固相、例えばEDTA-アミドマトリックスを用いるIMACは、1〜10 mM、例えば5 mMの濃度のキレート性メタロプロテアーゼ-インヒビター、例えばEDTAの存在下で実施することができる。
【0044】
従来のNi-キレートマトリックス、例えばNi-NTAアガロースは、タンパク質保護剤、例えばジチオスレイトール(DTT)によって容易に還元される。低ミリモル濃度のDTTでさえ、茶色っぽい還元産物の形態でニッケルを抽出する。対照的に、ゆるく結合しているNi2+が除去されているNi2+ EDTA-アミドマトリックスはこれらの問題を示さない。その代わりに、Ni2+ EDTA-アミドシリカ上では、本発明者らは、非常に高濃度のDTT、例えば0.5 Mまたは1 M DTTの存在下で、his-タグ付きタンパク質をうまく精製することができ(図5)、該濃度は、典型的タンパク質精製スキームで使用される濃度より100〜1000倍高いDTT濃度である。ゆえに、好ましい実施形態では、金属イオン、例えばNi2+イオンを含有する本発明の固相は、少なくとも10 mM、好ましくは少なくとも20 mM、より好ましくは少なくとも50 mM、さらにより好ましくは少なくとも100 mM、さらには少なくとも500 mM、および1000 mMまでまたはそれ以上の高濃度のチオール含有またはジチオール含有還元剤、例えばDTTの存在下で、好ましくは室温で少なくとも1時間、安定である。
【0045】
本発明の特に好ましい実施形態では、好ましくは配列[HnSm]k(式中、Hはヒスチジンであり、Sはグリシンおよび/またはセリンおよび/またはスレオニンから選択されるスペーサー残基であり、nは1〜4であり、mは1〜6であり、好ましくは1〜4であり、およびkは2〜8であり、好ましくは2〜6である)の「スペースを含むヒスチジンタグ」中に複数のヒスチジン残基を含む組換えポリペプチドを用いてクロマトグラフィーを行う。該タグの長さは、好ましくは、8〜50アミノ酸であり、より好ましくは12〜40アミノ酸である。本発明はまた、オリゴヒスチジンクラスターの長さおよびスペーサー領域の長さが所定のタグ配列内で変動する、不規則にスペースを含むヒスチジンタグを含む。スペースを含むヒスチジンタグは、好ましくは、組換えポリペプチドのN-および/またはC-末端に位置し、かつ/または組換えポリペプチドの配列内に挿入される。
【0046】
さらに、以下の図面および実施例によって本発明をより詳細に説明する。
【0047】
(実施例)
実施例1: Ni-EDTA-アミドセファロース4Bの製造
1リットルのセファロース4Bを、ガラスろうと上で、1リットルの(水中の) 0.1 M NaOHで前洗浄し、次いで1リットルの純水で5回で前洗浄し、5リットルフラスコに移し、水で満たして2リットルの容量にする。0.8 molのNaOHを加え、温度を25℃に調節し、次いで1.0 molのエピブロムヒドリン(epibromhydrine)を加える。次いで混合物を25℃で2時間振とうした後、氷上で冷却する。次いで、得られたエポキシ活性化セファロースをガラスろうとに通すろ過によって回収し、水で洗浄し、2 M NH4Cl (水中の終濃度、最終容量2リットル)に再懸濁する。25%水溶液から4 molのNH3を加え、混合物を室温で一晩振とうする。
【0048】
得られたNH2-セファロース4Bをろ過によって回収し、遊離NH3が検出不可能になるまで水で洗浄し、0.5 M EDTA/Na+ pH 8.0 (終濃度、最終容量2リットル)に再懸濁する。次いで、50 mmolのEDCを加え、混合物を室温で1時間振とうする。その後、さらに50 mmolのEDCアリコートを加え、反応を一晩進行させる。
【0049】
得られたEDTA-アミドセファロースをろ過によって回収し、遊離EDTA濃度が1 mM未満に下がるまで洗浄する。次いで、遊離Ni2+が未結合フラクションに現れるまで、セファロースにTrisバッファーpH 7.5中の20 mM NiCl2を負荷する。次いで、水、10 mM NTA pH 7.5、水で洗浄することによって遊離およびゆるく結合しているNi2+イオンを除去し、最後に長期保存のために30%エタノール+ 10 mMイミダゾール/HCl + 1 mM NTA pH 7.5に再懸濁する。
【0050】
エポキシ活性化ステップを変動させることによってNi2+ EDTA-アミドセファロースの特性を調節することができる。高い温度(40℃まで)でカップリングさせ、かつ高い濃度のエピクロルヒドリンおよびNaOH (それぞれ1.2 Mまでのエピクロルヒドリンおよび1.0 MまでのNaOH)を使用すると、カップリング密度が上がるが、バックグラウンド結合も上がる。低い温度(18℃まで)、低い濃度のエピクロルヒドリンおよびNaOH (それぞれ0.2 Mまでのエピクロルヒドリンおよび0.1 MまでのNaOH)を使用すると、カップリング密度が下がり、かつさらにバックグラウンド結合が下がるが、特に短いHis-タグを有するタンパク質の、特異的結合能も下がる。
【0051】
実施例2: EDTA-アミド磁気ビーズの製造
5 mlのアミン終結磁気ビーズ(Sigma # 17643-5ml)を水中で洗浄し、0.5 M EDTA/Na+ pH 8.0中で最終容量5 mlに再懸濁する。125μmolのEDCアリコートを加え、反応物を室温で1時間振とうする。その後、さらに125μmolのEDCアリコートを加え、反応を一晩継続する。
【0052】
得られたEDTA-アミド磁気ビーズを磁気分離によって回収し、水で洗浄し、実施例1と同様にNi2+または別の金属イオンを負荷する。
【0053】
実施例3: 高密度EDTA-アミドシリカの製造
100 gのDavisil XWP1000Å 90-130 (Grace)を500 mlの3% (v/v)アミノプロピルトリエトキシシラン、4%水、93%エタノール中に再懸濁し、40℃で2時間穏やかに振とうし、次いで室温で一晩穏やかに振とうする。アミノ修飾されたシリカをろ過によって回収し、純水での洗浄によって遊離のシランを除去する。セファロース4Bに関して記載されるようにEDTAへの共有結合によるカップリングおよびNi2+の負荷を実施する。長期保存のため、生成物を水またはイソプロパノールから乾燥させることができる。
【0054】
実施例4: パッシベート化された表面を有するEDTA-アミドシリカの製造
実施例3のNi2+ EDTA-アミドシリカは、IMACにおいて使用された場合に、依然として高いバックグラウンド結合を被る。このバックグラウンドは、おそらく、残留するシラノール基およびアミノ基(立体的理由で活性化EDTAと反応できない)および/またはEDTA-アミドの高い表面濃度に起因する。このバックグラウンド問題は、アミノプロピル-シランでのシリカの修飾期間中にパッシベート性シランを含ませることよって解決することができる。これまで最良のパッシベート性シランはグリシジルオキシプロピルトリメトキシシランと3-メルカプト1,2-プロパンジオールとの反応産物である。
【0055】
3 mlのグリシジルオキシプロピルトリメトキシシランを3 mlの2-メルカプト1,3-プロパンジオール、90 mlのメタノール、4 mlの水および10μlの4-メチルモルホリンと混合し、反応を25℃で30分間進行させる。150μlのアミノプロピルトリメトキシシランを加え、得られた混合物を使用して、上記のように30 gのDavisil XWP1000Å 90-130を修飾する。アミノシランとパッシベート性シランの間の割合は、この実施例では、5%と規定する。しかし、それは1%〜50%の範囲で変動させることができる。次いで、得られたパッシベート化アミノ-シリカをEDTAまたは別のキレート基と反応させ、金属イオンを負荷し、上記のように、ゆるく結合している金属イオンを除去するよう処理する。
【0056】
実施例5: IMACにおけるNi2+-含有クロマトグラフィー用支持体の比較
以下のクロマトグラフィー用支持体を試験した:

【0057】
大腸菌細胞をバッファー(50 mM Tris/ HCl pH 7.5, 2 mM酢酸マグネシウム, 50 mM NaCl, 5 mMメルカプトエタノール)中に再懸濁した。ライセートを調製し、超遠心によって清澄した。次いで、核外移行シグナル(NES)、黄色蛍光タンパク質(YFP)およびC末端デカHis-タグを含む1μMの融合タンパク質(「NES-YFP-H10」)、またはマルトース結合タンパク質(MBP)とC末端ヘキサHis-タグの間の1μMの融合物(「MBP-H6」)、またはデカHis-タグ、zz-タグおよびマウスエクスポーチン(exportin) CRM1を含有する0.5μMの融合タンパク質(「H10-zz-CRM1」)のいずれかを加え、結合実験の出発材料として使用した。デカ-His-タグ付きタンパク質の精製のために、出発材料に1 mMイミダゾールを補充した。
【0058】
10μlのクロマトグラフィー用支持体を用いて400μlの各出発材料を4℃で一晩回転させた。5 mlのバッファーで洗浄した後、0.4 MイミダゾールpH 7.5で結合タンパク質を溶出させた。12%アクリルアミドゲル上でのSDS-PAGEおよびその後のクーマシー染色によって分析した。積載量は0.5μlのマトリックスに相当する。
【0059】
図2は、NES-YFP-H10 (パネルA)、MBP-H6 (パネルB)およびH10-ZZ-CRM1 (パネルC)の結果を示す。すべての試験マトリックスはHis-タグ付きタンパク質の効率的結合を示す。しかし、本発明のマトリックスは、NTA-Qiagenマトリックスと比較して顕著に低いバックグラウンドを示す。
【0060】
実施例6: IMACのための種々のキレート剤および遷移金属イオンの試験
(実施例4に記載の)5 %カップリング密度を有するアミノ-シリカをEDTA、EGTA、NTA、またはTTHAのいずれかとコンジュゲートした。次いで、得られた各マトリックスにNi2+、Co2+、Zn2+、またはCu2+のいずれかを負荷した。実施例5に記載のようにNES-YFP-H10に関する結合アッセイを実施したが、100 mM NaClを洗浄バッファーに含めた。
【0061】
図3は、試験されたマトリックスと金属イオンの組み合わせがNES-YFP-H10の効率的結合を示すことを示す。
【0062】
実施例7: 遊離のキレート剤によるNi2+の抽出に対する、Ni-キレートマトリックスの抵抗性
各1 mlのNi2+-EDTA-アミドシリカ(50%カップリング密度; 実施例4にしたがって製造)、Ni2+-NTA-アミドシリカ(50%カップリング密度)、またはNi2+-NTA-アガロース(Qiagen)を、30 ml Tris-バッファー、または10 mM EDTA pH 7.6、または10 mM EGTA pH 7.6、または40 mM NTA pH 7.6のいずれかで45分かけて洗浄し、次いで結合バッファー(50 mM Tris/HCl pH 7.5, 500 mM NaCl, 5 mM MgCl2)中で平衡化した。次いで、10μlの前処理された各マトリックスを使用して、600μlの大腸菌ライセートからHis10-MBP-GFP融合物(10μM濃度)を結合させた。結合フラクションを75μlの1 Mイミダゾール/ HCl pH 7.5で溶出させた。次いで、1μlの各溶出物をSDS-PAGEおよびその後のクーマシー染色によって分析した。結果を図4Aに示す。本発明のNi2+-EDTA-アミドシリカマトリックスは、すべての試験キレート剤溶液に対して完全に抵抗性であった。比較マトリックスは抵抗性が顕著に低かった。Ni2+-NTA-アガロースは任意のキレート剤処理によって放出された。Ni2+-NTA-アミドシリカは10 mM EDTAおよび40 mM NTAによって完全に放出されたが、EGTAでの処理後に小さい活性を保持した。
【0063】
図4Aに示されるパネル由来の、キレート剤で洗浄されたマトリックスを、100 mM Tris/ HCl pH 7.5中で平衡化し、等容量の1%ジメチルグリオキシム(エタノール中に溶解されている)と混合し、60℃で15分間インキュベートし、次いで室温で一晩インキュベートした後、写真を撮影した。結果を図4Bに示す。未処理のNi2+-NTA-アミドシリカおよび未処理のNi2+-NTAアガロースの場合に、ゆるく結合しているNi2+を表すピンク色のジメチルグリオキシム-Ni2+沈殿が生じたが、本発明のNi2+-EDTA-アミドシリカの場合は生じなかった。Ni2+-NTA-アミドシリカまたはNi2+-NTAアガロースを前述のキレート剤で前洗浄すると、それがヒスチジンタグ付きタンパク質と結合する能力を低減するのと同程度に、ゆるく結合しているNi2+が除去された。
【0064】
ゆえに、本発明のEDTA-アミドマトリックスに対するNi2+イオンの結合は比較NTAマトリックスより顕著に強い。
【0065】
実施例8: チオール含有還元剤に対する、Ni-キレート剤マトリックスの抵抗性
チオール含有還元剤であるジチオスレイトール(DTT)に対する、種々のNi2+含有キレート剤マトリックスの抵抗性を試験した。
【0066】
NTA-アガロース(Qiagen)、NTA-アミドシリカおよびEDTA-アミドシリカを未処理のままにするか、または1 M Tris/HCl pH 7.5で緩衝化された1 M DTTと室温で一晩インキュベートした。結果を図5Aに示す。DTT処理はNTA-アガロース(Qiagen)およびNTA-アミドシリカ由来のNi2+を茶色っぽい還元産物に変換した。対照的に、Ni2+ EDTA-アミドシリカは完全に無影響のままであった。
【0067】
上記マトリックス(約50μl)を1mlの1 M Tris/HCl pH 7.5または1 M Tris/HCl pH 7.5 + 1 M DTTのいずれかに再懸濁した。5分後、His10-タグ付き赤色蛍光タンパク質を加え、結合反応を室温で一晩回転させた。マトリックスを重力によって沈降させ、写真を撮影した。結果を図5B(上パネル)に示す。ビーズ上の赤色は、his-タグ付きタンパク質の結合を示す。DTTの不存在下で、すべてのマトリックスはhis-タグ付きタンパク質に非常に良好に結合した。DTT-処理は、Ni2+ NTAアガロース(Qiagen)およびNi2+ NTA-アミドシリカへの結合を全廃した。未結合フラクションは、ビーズから遊離した茶色っぽいNi2+の還元産物を含有した。対照的に、本発明のNi2+ EDTAアミドシリカに対するHis-タグ付き赤色蛍光タンパク質の結合はDTT処理によって無影響のままであった。
【0068】
結合フラクションを1 MイミダゾールpH 7.3で溶出させ、SDS-PAGEおよびその後のクーマシー染色によって分析した。結果を図5B(下パネル)に示す。該分析では、1 M DTTによって、Ni2+ NTA-アガロースまたはNi2+ NTA-アミドシリカに対するhis-タグ付きタンパク質の結合が全廃されたが、本発明のNi2+ EDTA-アミドシリカに対する結合は全く無影響であったことが確認された。
【0069】
実施例9: スペースを含むポリ-ヒスチジンタグの特徴付け
種々のヒスチジンタグが付けられたDHFR誘導体の混合物をNi2+ EDTAアミドシリカに結合させ、増加イミダゾール濃度のグラジエントでゆっくり溶出させた。結果を図6Aに示す(実際の濃度をレーンの上に記載する)。パネルは、SDS-PAGE/クーマシー染色による溶出フラクションの分析を示す。より多数のヒスチジンを有するタグほど、マトリックスへの緊密な結合、高いイミダゾール濃度での溶出、およびゆえにポリ-ヒスチジンタグが付けられていない混入物からの良好な分離をもたらす。以下のタグが使用されている(1文字コードのアミノ酸):
MRGS6= MRGSHHHHHH (配列番号1)
H10= MHHHHHHHHHH (配列番号2)
スペースを含むH14= MSKHHHHSGHHHTGHHHHSGSHHH (配列番号3)
スペースを含むH21= MSKHHHHSGHHHTGHHHHSGSHHHTGHHHHSGSHHH (配列番号4)
スペースを含むH28= MSKHHHHSGHHHTGHHHHSGSHHHTGHHHHSGSHHHTGHHHHSGSHHH (配列番号5)
【0070】
多数のヒスチジンを有するHis-タグほど、Ni-キレートマトリックスに対する、より特異的な結合をもたらすが、それらは、あまりにも多数のヒスチジンの連続ストレッチが大腸菌での発現レベルおよび溶解度を損なう問題を提起する。連続ポリヒスチジンストレッチをGly、Ser、および/またはThr含有スペーサーで分断すると、これらの問題が修正される。示されている代表的な例では、DHFRにスペースを含むHis14タグを付けると、慣用の連続His10タグと比較して、大腸菌での組換え発現期間中の可溶性タンパク質収量が2倍になった(図6B)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金属イオンクロマトグラフィー(IMAC)のための、6個以上の配位基を有する固定されたキレート剤の使用。
【請求項2】
固定されたキレート剤が、特に、アミノ、カルボキシル、カルボキサミドおよびヒドロキサム酸(hydroxamate)基から選択される、6個以上の配位基を有するポリカルボン酸アミドまたはエステルである、請求項1記載の使用。
【請求項3】
固定されたキレート剤が、以下の式(Ia)または(Ib):
【化1】

【化2】

(式中、
SPは固相であり;
R1は水素または、固相の適用を妨げない有機残基であり、および
PCAはポリカルボン酸、特にアミノポリカルボン酸の残基、またはその塩である)
の構造を有する、ポリカルボン酸が固定されている固相である、請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
ポリカルボン酸が、エチレンジアミノ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DPTA)、およびトリエチレンテトラミン-N,N,N',N', N'',N''-六酢酸(TTHA)から、特にEDTAまたはその塩から選択される、請求項2または3記載の使用。
【請求項5】
固相が以下の式(II):
【化3】

(式中、
SPは固相であり、および
1個以上のカルボン酸基は脱プロトン化されていてよい)
の構造を有する、請求項3または4記載の使用。
【請求項6】
キレート剤が金属イオン、例えばNi2+イオン等の遷移金属イオンと錯体形成している、請求項1〜5のいずれか1項記載の使用。
【請求項7】
6個以上の配位基を有するポリカルボン酸を固相に結合させるための方法であって、以下のステップ:
(a) ポリカルボン酸とアミノ基を含む固相とを提供するステップ、
(b) 縮合剤の存在下で前記アミノ基を前記ポリカルボン酸と反応させ、該縮合剤は該アミノ基よりモル過剰で存在し、該ポリカルボン酸は該縮合剤および該アミノ基よりモル過剰で存在し、かつ該ポリカルボン酸の単一のカルボキシル基が該アミノ基と反応するステップ
を含む、前記方法。
【請求項8】
ポリカルボン酸がアミノポリカルボン酸であり、特にエチレンジアミノ四酢酸(EDTA)、エチレングリコール-ビス(2-アミノエチルエーテル)-N,N,N',N'-四酢酸(EGTA)、ジエチレントリアミノ五酢酸(DPTA)、およびトリエチレンテトラミン-N,N,N',N', N'',N''-六酢酸(TTHA)から選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
固相がアミノ官能化クロマトグラフィー用支持体であり、特にアミノ官能化炭水化物、例えばアガロース、セファロース、またはセルロース、金属または半金属、例えばケイ素、または金属酸化物または半金属酸化物、例えばシリカ、ガラス、プラスチック、例えばポリスチレンまたは脂質、例えばリン脂質から選択される、請求項7または8記載の方法。
【請求項10】
固相が粒子、例えばベシクル、磁気ビーズ、量子ドット、タンパク質、または、複数の一級または二級アミノ基を含む分子を含む、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
固相上のアミノ基が、一級または二級アミノ基、例えば脂肪族一級アミノ基である、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
縮合剤が、カルボジイミド、例えば1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、またはN, N'-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)から選択される、請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
縮合剤がアミノ基より、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも4倍モル過剰であり、かつ/またはポリカルボン酸がアミノ基より、少なくとも5倍、好ましくは少なくとも25倍モル過剰である、請求項7〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
以下の式(Ia)または(Ib):
【化4】

【化5】

(式中、
SPは固相であり;
R1は水素または、固相の適用を妨げない有機残基であり、および
PCAはポリカルボン酸、特にアミノポリカルボン酸の残基、またはその塩である)
の構造を有する、ポリカルボン酸が固定されている固相であって、
固定されたポリカルボン酸アミドまたはエステルは、特に、アミノ、カルボキシル、カルボキサミドおよびヒドロキサム酸基から選択される、少なくとも6個以上の配位基を有し、かつ、
固相の表面は、好ましくは実質的に、利用可能なアミノおよび/またはヒドロキシ基を有さず、固相の表面上の例えば90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の利用可能なアミノおよび/またはヒドロキシ基はブロックされている、
前記固相。
【請求項15】
PCAがEDTAの残基またはその塩である、請求項14記載の固相。
【請求項16】
以下の式(II):
【化6】

(式中、
SPは固相であり、かつ、
1個以上のカルボン酸基は脱プロトン化されていてよい)
の構造を有する、請求項14または15記載の固相。
【請求項17】
ポリカルボン酸残基が金属イオン、例えばNi2+イオン等の遷移金属イオンと錯体形成していて、かつ実質的にすべてのゆるく結合している金属イオンが好ましくは除去されている、請求項14〜16のいずれか1項記載の固相。
【請求項18】
チオール含有還元剤またはジチオール含有還元剤の存在下で安定である、請求項17記載の固相。
【請求項19】
組換えポリペプチドの精製方法であって、以下のステップ:
(a) 複数のヒスチジン残基を有するポリペプチドを含むサンプルを提供するステップ、
(b) あらかじめ結合し、錯体形成している金属イオン、例えばNi2+イオンを含有する、請求項14〜17のいずれか1項記載の固相と前記サンプルを、組換えポリペプチドが固相に選択的に結合する条件下で接触させるステップ、
(c) 結合した前記組換えポリペプチドを他のサンプル成分から分離するステップ、および
(d) 前記固相から前記組換えポリペプチドを溶出させるステップ
を含む、前記方法。
【請求項20】
ポリペプチドが少なくとも6個の連続したヒスチジン残基を含む、請求項18記載の方法。
【請求項21】
ポリペプチドが、配列[HnSm]k(式中、Hはヒスチジン残基であり、かつSはグリシンおよび/またはセリンおよび/またはスレオニンから選択されるスペーサーアミノ酸残基であり、nは各事例で独立して1〜4であり、mは各事例で独立して1〜6であり、かつkは2〜6である)において少なくとも4個のヒスチジン残基を含む、請求項18記載の方法。
【請求項22】
配列[HnSm]k(式中、Hはヒスチジン残基であり、かつSはグリシンおよび/またはセリンおよび/またはスレオニンから選択されるスペーサーアミノ酸残基であり、nは各事例で独立して1〜4であり、mは各事例で独立して1〜6であり、かつkは2〜8である)において少なくとも4個のヒスチジン残基を含む組換えポリペプチド。
【請求項23】
ポリヒスチジン配列がN末端および/またはC末端に位置するか、またはタグが付けられるタンパク質の配列内に挿入されている、請求項21記載のポリペプチド。

【図1】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公表番号】特表2010−535725(P2010−535725A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519377(P2010−519377)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【国際出願番号】PCT/EP2008/006485
【国際公開番号】WO2009/019012
【国際公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(596070445)マックス−プランク−ゲゼルシャフト ツール フォーデルング デル ヴィッセンシャフテン エー.ヴェー. (13)
【Fターム(参考)】