説明

固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂およびゴム組成物

【課題】高い植物由来率をもち、硬度、破断強度及び破断伸びに優れた加硫物を与え得る混練性良好なゴム組成物が得られる固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂を提供する。また、硬度、破断強度及び破断伸びに優れた加硫物が得られるゴム組成物を提供する。
【解決手段】本発明の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂は、植物由来率が30質量%以上、かつ重量平均分子量が10,000以上であることを特徴とする。本発明のゴム組成物は、上記レゾール型バイオマスフェノール樹脂と、ゴムとフィラーとを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂およびゴム組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の二酸化炭素量増加を抑制するため、植物由来の原料を使用した、いわゆるカーボンニュートラル材料であるバイオマスプラスチックが注目されている。
バイオマスプラスチックとしては、熱可塑性樹脂だけでなく、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂についても検討されており、フェノール類と糖類とを酸性触媒下で反応させて得たフェノール樹脂が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
また、植物由来アルキルフェノール類であるカシュー油を変性させて得たゴム補強用フェノール樹脂も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。しかし、これらの樹脂を硬化させるためには、ヘキサメチレンテトラミン等の化石資源由来の硬化剤を使用する必要がある。
硬化剤を使用せずに硬化するフェノール樹脂には、固形レゾール型フェノール樹脂(例えば、特許文献3参照。)や多糖類を原料としたフェノール樹脂(例えば、特許文献4参照。)が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−090297号公報
【特許文献2】特開2007−269843号公報
【特許文献3】特開2007−099789号公報
【特許文献4】特開2008−050543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、フェノール樹脂を配合してゴム組成物の特性改良をしようとする場合、特許文献1記載のフェノール樹脂では、ゴム補強効果が小さく、植物由来率も低い。
特許文献2では、フェノールおよびホルムアルデヒドを使用するために植物由来率が低く、補強効果は大きいが引張強度が低いという問題がある。
また、これらのフェノール樹脂はゴムに配合する際、ヘキサメチレンテトラミン等化石資源由来の硬化剤を使用する必要がある。
特許文献3記載の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂は、硬化剤を使用せずに硬化させることができるが、熱により短時間で硬化してしまうために加熱混練中に増粘するなどの問題が生じ、均一に混練することができない。そのため、ゴム配合や成形材料など、加熱混練を必要とする用途では使用が困難である。
本発明は、高い植物由来率をもち、硬度、破断強度及び破断伸びに優れた加硫物を与え得る混練性良好なゴム組成物が得られる固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂を提供することを目的とする。また、硬度、破断強度及び破断伸びに優れた加硫物が得られるゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]植物由来率が30質量%以上、かつ重量平均分子量が10,000以上であることを特徴とする固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂。
[2]植物由来フェノール類を含有するフェノール類と植物由来アルデヒド類を含有するアルデヒド類とを塩基性触媒下で反応させることを特徴とする[1]に記載の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂。
[3][1]または[2]記載の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂と、ゴムとフィラーとを含有することを特徴とするゴム組成物。
【発明の効果】
【0006】
本発明の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂は、高い植物由来率をもち、固形であるため扱いやすく、硬度、破断強度及び破断伸びに優れた加硫物を与え得る混練性良好なゴム組成物が得られる。また、本発明のゴム組成物は硬度、破断強度及び破断伸びに優れる加硫物が得られる。
なお、本明細書において、植物由来率とは、得られた固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂の植物由来成分の割合のことである。植物由来成分は、大気中の二酸化炭素を用いた光合成により得られる。そのため、植物由来成分の焼却時の二酸化炭素発生量は、光合成時の二酸化炭素吸収量に相殺され、大気中の二酸化炭素増加に影響を与えないと考えられる(いわゆるカーボンニュートラル)。したがって、植物由来率が高い程、大気中の二酸化炭素増加を抑制でき、地球温暖化防止効果が高くなる。また、重量平均分子量とは、得られたレゾール型バイオマスフェノール樹脂をテトラヒドロフランに溶解した溶液を測定試料とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により測定し、ポリスチレン標準物質による検量線から算出した数値である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂>
本発明の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂は、植物由来率が30質量%以上、かつ重量平均分子量が10,000以上であることを特徴とする。本発明の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂とは、植物由来原料を用いて得られる固形レゾール型フェノール樹脂を示す。つまり、フェノール類とアルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られ、かつ前記フェノール類およびアルデヒド類のいずれか一方または両方が植物由来原料を含む固形のフェノール樹脂を示す。また原料として、植物由来原料の他に化石資源由来等の非植物由来原料を含んでも良いが、得られる固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂の植物由来率が30質量%以上となるように、植物由来原料の使用量を適宜調製しなければならない。
植物由来率が30質量%以上であれば、カーボンニュートラルの概念より二酸化炭素排出量の増加を抑制できる。
【0008】
フェノール類としては、植物由来フェノール類、非植物由来フェノール類、それらの混合物等が挙げられる。
植物由来フェノール類としては、カシューナット殻液(CNSL)や、カシューオイル、カルダノール、ウルシオール、グルコース発酵物由来のカテコール、ハイドロキノンなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、不純物が少なく、入手容易な点でカルダノールが好ましい。
非植物由来フェノール類としては、化石資源由来フェノール類等があり、フェノール、レゾルシン、クレゾール、キシレノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどが挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
アルデヒド類が植物由来原料を含む場合、フェノール類としては、植物由来フェノール類のみを用いても、非植物由来フェノール類のみを用いても、それらの混合物を用いても良い。
アルデヒド類が植物由来原料を含まない場合、フェノール類としては、植物由来フェノール類または植物由来フェノール類と非植物由来フェノール類との混合物が用いられる。
フェノール類全体として、植物由来フェノール類が10質量%以上含まれることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましい。10質量%以上であれば、高い植物由来率を保持することができるため好ましい。
【0009】
アルデヒド類としては、植物由来アルデヒド類、非植物由来アルデヒド類、それらの混合物等が挙げられる。
植物由来アルデヒド類としては、フルフラール類等があり、例えば、フルフラール、5−メチルフルフラール、ヒドロキシメチルフルフラール等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
非植物由来アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
フェノール類が植物由来原料を含む場合、アルデヒド類としては、植物由来アルデヒド類のみを用いても、非植物由来アルデヒド類のみを用いても、それらの混合物を用いても良い。
フェノール類が植物由来原料を含まない場合、アルデヒド類としては、植物由来アルデヒド類または植物由来アルデヒド類と非植物由来アルデヒド類との混合物が用いられる。
アルデヒド類全体として、植物由来アルデヒド類が30質量%以上含まれることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。30質量%以上であれば高い植物由来率を保持することができるため好ましい。
【0010】
固形レゾール型バイオマス樹脂を得る際のフェノール類とアルデヒド類との質量比率は、アルデヒド類を1としたときに、フェノール類が1〜20倍であることが好ましく、1.5〜6倍であることがより好ましい。フェノール類が1倍以上であれば、ゲル化を抑制でき、20倍以下であれば、反応率を高くして分子量を大きくすることができる。
【0011】
フェノール類とアルデヒド類との反応の際には塩基性触媒が用いられる。塩基性触媒としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化リチウムなど)、アミン類(例えば、水酸化アンモニウム、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンテトラミンなど)が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
塩基性触媒の使用量は、フェノール類とアルデヒド類の合計質量に対して、0.1〜50質量%であることが好ましく、0.5〜5質量%であることがより好ましい。塩基性触媒の使用量が0.1質量%以上であれば、十分に反応を進行させることができ、50質量%以下であれば、ゲル化を抑制できる。
【0012】
反応温度は20〜200℃であることが好ましく、120〜160℃であることがより好ましい。反応温度が20℃以上であれば十分に反応を進行させることができ、200℃以下であれば、熱分解を抑制できる。
【0013】
反応時間は0.5〜20時間であることが好ましく、2〜10時間であることがより好ましい。反応時間が0.5時間以上であれば十分に反応を進行させることができ、20時間以下であれば生産性の低下を抑制できる。
【0014】
本発明のレゾール型バイオマスフェノール樹脂は、重量平均分子量が10,000以上であるため、得られるレゾール型バイオマスフェノール樹脂が固形となり扱いやすい。
本発明で得られた固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂は自硬性のため、ゴム組成物として配合する際に、硬化剤を低減もしくは不要化することが可能となり、硬化剤を使用しても、しなくても、硬度、破断強度、破断伸びに優れたゴム組成物が得られる。またゲルタイムが長いためゴムと混練しやすい。
上記固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂は、ゴム配合剤、鋳造用鋳型、自動車部品や電気部品等の成形品、エポキシ硬化剤、接着剤、塗料、砥石用樹脂等に用いることができる。
【0015】
<ゴム組成物>
本発明のゴム組成物は、上記固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂とゴムとフィラーを含有する。
【0016】
<ゴム>
本発明のゴム組成物に使用するゴムは、特に限定されないが、天然ゴム(NB)のほか、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等の合成ジエン系ゴムが挙げられ、これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、ゴム組成物における植物由来率を向上させ、環境調和性を高めるため、天然ゴムを用いることが好ましい。
本発明のゴム組成物に使用するゴムと固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂の配合比率は特に限定されないが、ゴム100質量部に対し固形レゾール型バイオマス、フェノール樹脂1〜50質量部、より好ましくは1〜30質量部である。ゴム100質量部に対し、フェノール樹脂が下限値以上であれば、ゴムに十分な硬さを付与でき、上限値以下であれば、高い破断伸びを発現させることができる。
【0017】
<フィラー>
本発明のゴム組成物に使用するフィラーは特に限定されないが、カーボンブラック、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、アルミナ、酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルク、クレー、マイカ、木粉などが挙げられるが、中でも加硫物に対する硬度付与の観点からカーボンブラックとシリカが好ましい。
ゴム組成物に使用するフィラーの配合比率は特に限定されないが、ゴム100質量部に対して10〜200質量部であることが好ましく、50〜100質量部であることがより好ましい。フィラーの含有量が下限値以上であれば、加硫物の機械的物性を高くでき、上限値以下であれば、流動性を高く出来る。
【0018】
<硬化剤>
本発明のゴム組成物は、硬化剤を使用しても良い。硬化剤は固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂を硬化させるものである。
硬化剤としては特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチルメラミン、パラホルムアルデヒド、グリオキザールなどが挙げられるが、中でもヘキサメチレンテトラミンが経済性、ゴムとの相溶性、ゴム組成物製造後の安定性の観点から好ましい。
硬化剤の配合量は、レゾール型バイオマスフェノール樹脂100質量部に対して30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。硬化剤の配合量が上限値以下であれば、ゴム混練時に発生するガスを抑制でき、加硫物に十分な硬さを持たせることができる。
【0019】
<その他の添加剤>
ゴム組成物には、例えば顔料、離型剤、酸化防止剤、シランカップリング剤、紫外線吸収剤、硬化促進剤、老化防止剤などの添加剤が含まれてもよい。
【0020】
<ゴム組成物の製造方法>
本発明のゴム組成物は一般的な方法、例えば前記固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂、ゴム、フィラーのほか、必要に応じて使用する添加剤をバンバリーミキサー、ロール、ニーダーなどで混練することにより製造することができる。
【0021】
<作用効果>
本発明のゴム組成物は、硬度、破断強度及び破断伸びに優れる加硫物を得ることができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0023】
(フェノール樹脂の製造)
[実施例1]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、カルダノール180g、30質量%水酸化ナトリウム水溶液12g、フルフラール100gを加え、昇温中に生成する水を除きながら、150℃で6時間反応した。メチルイソブチルケトン(以下「MIBK」)を300g加え希釈した後、pH5になるよう10質量%塩酸を加え、水洗にて脱塩した。その後、11kPaの減圧下で160℃まで昇温し、MIBKおよび水を留去し、230gのフェノール樹脂(A)を得た。
【0024】
[実施例2]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、カルダノール120g、フェノール385g、30質量%水酸化ナトリウム水溶液29g、フルフラール144gを加え、昇温中に生成する水を除きながら、150℃で6時間反応した。pH5になるよう10質量%塩酸を加え、11kPaの減圧下で150℃まで昇温し、未反応のフェノール286gを留去した。MIBKを300g加え希釈した後、水洗にて脱塩した。その後、11kPaの減圧下で160℃まで昇温し、MIBKおよび水を留去し、291gのフェノール樹脂(B)を得た。
【0025】
[実施例3]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、カルダノール180g、30質量%水酸化ナトリウム水溶液12g、フルフラール115g、92質量%パラホルムアルデヒド3.5gを加え、昇温中に生成する水を除きながら、150℃で6時間反応した。MIBKを300g加え希釈した後、pH5になるよう10質量%塩酸を加え、水洗にて脱塩した。その後、11kPaの減圧下で160℃まで昇温し、MIBKおよび水を留去し、251gのフェノール樹脂(C)を得た。
【0026】
[実施例4]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、カルダノール120g、フェノール456g、30質量%水酸化ナトリウム水溶液29g、フルフラール144g、92質量%パラホルムアルデヒド8.2gを加え、昇温中に生成する水を除きながら、150℃で6時間反応した。pH5になるよう10質量%塩酸を加え、11kPaの減圧下で150℃まで昇温し、未反応のフェノール266gを留去した。MIBKを300g加え希釈した後、水洗にて脱塩した。その後、11kPaの減圧下で160℃まで昇温し、MIBKおよび水を留去し、281gのフェノール樹脂(D)を得た。
【0027】
[比較例1]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、カルダノール180g、30質量%水酸化ナトリウム水溶液10g、フルフラール58gを加え、昇温中に生成する水を除きながら、150℃で6時間反応した。MIBKを300g加え希釈した後、pH5になるよう10質量%塩酸を加え、水洗にて脱塩した。その後、11kPaの減圧下で160℃まで昇温し、MIBKおよび水を留去し、188gのフェノール樹脂(E)を得た。
【0028】
[比較例2]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、CNSL56g、硫酸0.28gを加え、200℃で10時間反応させた。50℃に降温し、フェノール188g、50質量%ホルマリン78g、硫酸0.94gを添加し、100℃で5時間反応した。その後、11kPaの減圧下で180℃まで昇温し、未反応のフェノール70gを留去し、210gのフェノール樹脂(F)を得た。
【0029】
[比較例3]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、フェノール169g、群栄化学工業製異性化糖HF55(固形分75質量%)72g、硫酸1.1gを加え、昇温中に生成する水を除きながら、155℃で1時間反応した。その後、少量の水に懸濁させた水酸化カルシウム0.85gを加え中和した。200℃、11kPaで未反応のフェノール76gを留去し、119gのフェノール樹脂(G)を得た。
【0030】
[比較例4]
撹拌装置、冷却器、温度計を備えたフラスコに、フェノール300g、タピオカでんぷん100g、パラトルエンスルホン酸一水和物18.6gを加え、3時間還流反応を行った。その後、30質量%水酸化ナトリム水溶液7.1gを加え、5分間撹拌した。さらに、イオン交換水500g、50質量%ホルマリン74g、ヘキサメチレンテトラミン45gを加え、70℃にて6時間反応を行った。その後、11kPaの減圧下で90℃まで昇温し、未反応のフェノール139gおよび水を留去し、249gのフェノール樹脂(H)を得た。
【0031】
[比較例5]
原料として非植物由来原料であるフェノールとホルムアルデヒドとを使用した、植物由来率0質量%の固形レゾール型フェノール樹脂(PS−1180 群栄化学工業社製)をフェノール樹脂(I)とした。
【0032】
実施例1〜4及び比較例1〜5で得られたフェノール樹脂(A)〜(I)の軟化点、ゲルタイム、トルク発生時間、重量平均分子量を以下の方法で測定した。また、実施例1〜4及び比較例1〜4で得られたフェノール樹脂(A)〜(H)の植物由来率を以下の方法で算出した。これらの結果を表1に示す。
ただし、フェノール樹脂(E)についてはペースト状のためゲルタイム及びトルク発生時間は測定出来ず、フェノール樹脂(H)及びフェノール樹脂(I)については、自硬性樹脂のため硬化剤を使用した場合のゲルタイムは測定しなかった。
【0033】
[軟化点]
JIS K6910に従って測定した。
[ゲルタイム(硬化剤あり)]
得られたフェノール樹脂1.0gに0.1gのヘキサメチレンテトラミンを加え、180℃の熱板上で溶融し、撹拌しながらゲル化するまでの時間を測定した。
[ゲルタイム(硬化剤なし)]
得られたフェノール樹脂1.0gを180℃の熱板上で溶融し、撹拌しながらゲル化するまでの時間を測定した。
[トルク発生時間(硬化剤あり)]
得られたフェノール樹脂2.8g、ヘキサメチレンテトラミン(三菱ガス化学社製)0.4g、木粉3.2g(カネキ燃料社製)を粉砕混合し、直径約3cmのタブレット状に成形した。得られた成形物についてキュラストメーター(CURELASTOMETER JSR社製)を使用し、160℃にて60kgf・cmのトルクが発生するまでの時間を測定した。
[トルク発生時間(硬化剤なし)]
得られたフェノール樹脂2.8g、木粉3.2g(カネキ燃料社製)を粉砕混合し、直径約3cmのタブレット状に成形した。得られた成形物についてキュラストメーター(CURELASTOMETERJSR社製)を使用し、160℃にて60kgf・cmのトルクが発生するまでの時間を測定した。このトルク発生時間が遅いほど、加熱混練しやすくなる。
[重量平均分子量]
重量平均分子量とは、得られたレゾール型バイオマスフェノール樹脂をテトラヒドロフランに溶解した溶液を測定試料とし、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を下記条件により測定し、ポリスチレン標準物質による検量線から算出した。
GPC測定条件
装置:HLC−8120(東ソー社製)
カラム:TSK−GEL3000HXL、2000HXL、2000HXL(東ソー社製)
検出器:UV−8020(東ソー社製)
[植物由来率]
実施例1、2、3、4比較例1、2、4については式(A)、比較例3については式(B)をもとに植物由来率を算出した。
式(A):植物由来率[%]=100−{[(フェノール仕込み質量)−(留去した未反応フェノール質量)+〔(92質量%パラホルムアルデヒド仕込み質量)×0.92×0.47〕+〔(50質量%パラホルムアルデヒド仕込み質量)×0.5×0.47〕+〔(ヘキサメチレンテトラミン仕込み質量)×1.3×0.47〕+(中和塩の質量(理論値))]/(樹脂収量質量)×100}
ここで、0.47とは、樹脂骨格中のホルムアルデヒド由来の量を算出する係数である。すなわち、樹脂骨格中のホルムアルデヒド由来の架橋基(−CH−)の分子量(14)をホルムアルデヒド(HCHO)の分子量(30)で除した数値である。
また1.3とは、ヘキサメチレンテトラミンより生成したホルムアルデヒドの量を算出する係数である。すなわち、ヘキサメチレンテトラミン1molより6molのホルムアルデヒドが生成するため、ホルムアルデヒドの分子量(30)に6を掛けて、ヘキサメチレンテトラミンの分子量(140)で除した数値である。
式(B):植物由来率[%]=[(CNSL仕込み質量)/(樹脂収量質量)]×100
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果より、実施例1〜4で得られたフェノール樹脂(A)〜(D)は、重量平均分子量が10,000以上となり、固形で扱いやすく、植物由来率も高い。また、トルク発生時間も長いため混練しやすく、硬化剤を使用しなくても硬化することが確認できた。
比較例1で得られたフェノール樹脂(E)は植物由来率が高いものの、重量平均分子量が3,800と低いためペースト状となり混練時の取り扱いが困難のため、ゴム組成物としては使用できない。
比較例2及び3で得られたフェノール樹脂(F)及び(G)は、ノボラック型フェノール樹脂であるため、重量平均分子量が小さくても固形であるが、植物由来率が低い。また硬化剤不使用では1時間経過後も硬化しない。
比較例4で得られたフェノール樹脂(H)は、植物由来率が低く、トルク発生時間が短いため混練性が悪く、硬化剤を使用しない場合のゲルタイムが短い。
比較例5で得られたフェノール樹脂(I)は、すべて非植物由来率を原料として使用しているため植物由来率はゼロとなり、トルク発生時間が短いため混練性が悪く、硬化剤を使用しない場合のゲルタイムが短い。
【0036】
(ゴム材料の作製)
ゴム組成物の製造で使用した各種配合材料について、以下まとめて説明する。
天然ゴム(NR):RSS3号
カーボンブラック:HAF(三菱化学社製)
オイル:ダイアナプロセスAH40(出光興産社製)
老化防止剤:ノクラック6C(大内振興化学社製)
ステアリン酸:ステアリン酸さくら(日本油脂社製)
硫黄:硫黄(鶴見化学工業社製)
亜鉛華:酸化亜鉛(堺化学社製)
硬化剤:ヘキサメチレンテトラミン(三菱ガス化学社製)
加硫促進剤:ノクセラーNS−P(大内振興化学社製)
硬化助剤:水酸化カルシウム(北上石灰社製)
【0037】
(硬化剤を使用したゴム材料の作製)
[実施例5]
フェノール樹脂(A)10g、天然ゴム100g、カーボンブラック60g、ワックス2g、オイル4g、老化防止剤2g、滑剤としてステアリン酸4g、亜鉛華5gを加圧ニーダーにて、140℃5分間混練した。これに硫黄2.5g、硬化剤5g、加硫促進剤1.5gを添加し、2軸ロールにて100℃5分間混練し、シート状の未加硫ゴム組成物を得た。
【0038】
[実施例6〜8 比較例6、7]
フェノール樹脂(A)を表2に示すフェノール樹脂に変更した以外は、実施例5と同様にして、未加硫ゴム組成物を得た。
ただし、フェノール樹脂(E)については、ペースト状のため混練できず、フェノール樹脂(H)及びフェノール樹脂(I)については自硬性樹脂のため、それぞれ実施はしなかった。
【0039】
(硬化剤を使用しないゴム組成物の製造)
[実施例9]
フェノール樹脂(A)10g、天然ゴム100g、カーボンブラック60g、ワックス2g、オイル4g、老化防止剤2g、滑剤としてステアリン酸4g、亜鉛華5gを加圧ニーダーにて、140℃5分間混練した。これに硫黄2.5g、硬化助剤0.5g、加硫促進剤1.5gを添加し、2軸ロールにて100℃5分間混練し、シート状の未加硫ゴム組成物を得た。
【0040】
[実施例10〜12、比較例8〜11]
フェノール樹脂(A)を表3に示すフェノール樹脂に変更した以外は、実施例9と同様にして、未加硫ゴム組成物を得た。
ただし、フェノール樹脂(E)については、ペースト状のため混練できず実施はしなかった。また、比較例10及び11のフェノール樹脂(H)及びフェノール樹脂(I)は、混練中に硬化し、均一に混練することができず、未加硫のゴム組成物を得ることができなかった。
【0041】
(加硫物の製造)
[比較例12]
天然ゴム100g、カーボンブラック60g、ワックス2g、オイル4g、老化防止剤2g、滑剤としてステアリン酸4g、亜鉛華5gを加圧ニーダーにて、140℃5分間混練した。これに硫黄2.5g、加硫促進剤1.5gを添加し、2軸ロールにて100℃5分間混練し、シート状の未加硫ゴム組成物を得た。
【0042】
実施例5〜12及び比較例6〜9、12で得られた未加硫ゴム組成物を150mm×150mm×2mmの金型を用い、150℃にて30分間プレス加硫することで試験片を得た。得られた試験片について、硬さ、破断強度、破断伸びを以下の方法により測定した。硬化剤を使用した実施例5〜8及び比較例6〜7の測定結果を表2に、硬化剤を使用しなかった実施例9〜12及び比較例8〜12の測定結果を表3に示す。
【0043】
[硬さ]
JIS K6253に準じ、テクロック製タイプAデュロメーターGS−719Gを使用し、硬さ(ショアA)を測定した。この硬さの値が大きいほど硬い加硫物が得られ、補強性に優れている。
[破断強度・破断伸び]
JIS K6251に準じ、東洋精機製ストログラフV10−Cにて、ダンベル状3号とした試験片の破断強度及び破断伸びを測定した。破断強度及び破断伸びの値が高いほど引張り強度に優れている。
【0044】
【表2】

【0045】
【表3】

【0046】
硬化剤を使用した表2の結果より、実施例5〜8は比較例6〜7と比べて、硬く、ゴム補強効果が大きい。また破断強度、破断伸びにも優れることがわかった。
硬化剤を使用した表3の結果より、実施例9〜12は問題なく混練することができ、フェノール樹脂を含有しない比較例13と比較し、硬さ、破断強度、破断伸びのすべてが向上しており、ゴム補強効果に優れる。
一方、比較例8及び9では硬化せずに試験片を作製することができなかった。
また、比較例10及び11では混練中に硬化が進んでしまい、均一に混練することが出来なかった。
さらに実施例5〜12は植物由来率の高いフェノール樹脂を使用しているため、ゴム組成物全体でも植物由来率が高くなり、二酸化炭素量増加の抑制効果があると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物由来由来率が30質量%以上、かつ重量平均分子量が10,000以上であることを特徴とする固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂。
【請求項2】
植物由来フェノール類を含有するフェノール類と植物由来アルデヒド類を含有するアルデヒド類とを塩基性触媒下で反応させることを特徴とする請求項1に記載の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固形レゾール型バイオマスフェノール樹脂と、ゴムとフィラーとを含有することを特徴とするゴム組成物。

【公開番号】特開2013−23633(P2013−23633A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161475(P2011−161475)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】