説明

固形医薬組成物

【課題】漢方エキス、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびにデンプンを含有する固形医薬組成物であって、該固形医薬組成物をパウチ型包装容器に充填した状態で保存しても、包装容器の膨張が抑制された固形医薬組成物を提供すること。
【解決手段】(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有し、かつ、パウチ型包装容器に充填されてなる固形医薬組成物であって、前記(A)漢方エキスの重量が(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して3.5倍以上である、固形医薬組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形医薬組成物に関する。さらに詳しくは、漢方エキス、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびにデンプンを含有する固形医薬組成物であって、パウチ型包装容器に充填されている固形医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸水素カリウムや炭酸カリウムなどの炭酸塩は、医薬品、食品、化粧品等の多分野で古くから汎用の成分であり、制酸剤又はアシドーシス抑制剤として医薬品中に配合されたり、経口の水分補給剤の成分として用いられたりする。また、組成物をアルカリ性にしたり、アルカリ性の状態を維持したりする緩衝剤としての機能や、崩壊剤としての機能等も有するため、賦形剤として医薬品等の組成物中に配合される。例えば、特許文献1には、炭酸水素ナトリウムを配合することにより、漢方エキスの溶出性を向上させた錠剤組成物が開示されている。
【0003】
デンプンは、安定性や安全性に優れ、結合剤、賦形剤、崩壊剤等として、主に固形医薬組成物等の添加剤として広く使用されている。例えば、特許文献2には、薬物及び10〜90重量%のα化デンプンを含有する固形医薬製剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4122544号公報
【特許文献2】特開2006−1924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の錠剤組成物は非発泡性であり、炭酸水素ナトリウムは崩壊補助剤としてではなく、溶出促進剤として使用されている。また、特許文献1の錠剤組成物には、漢方エキス、及び炭酸水素ナトリウム以外に、必要に応じ、適宜に賦形剤や滑沢剤等を添加できることが記載されており、その一例として、PCS等のデンプン類が挙げられている。しかしながら、特許文献1には、漢方エキス、炭酸水素ナトリウム、及びデンプンを含有する錠剤組成物は具体的に開示されておらず、該錠剤組成物をパウチ型の包装容器に充填するとの記載もない。
【0006】
また、特許文献2の固形医薬製剤においては、薬物及びα化デンプン以外に、添加剤を適当量含有できることが記載されており、その一例として、炭酸カルシウムが挙げられている。しかしながら、漢方エキス及びデンプンを含有する組成物はもとより、さらに炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムを含有する組成物は開示されておらず、該組成物をパウチ型の包装容器に充填するとの記載もない。
【0007】
本発明者らは、固形医薬組成物の常法に従い、漢方エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンを含有する固形医薬組成物を得た。この固形医薬組成物をパウチ型包装容器に充填して保存したところ、驚くべきことに、該包装容器が膨らんで形状が変化するとの課題を見出した。
【0008】
本発明の課題は、漢方エキス、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびにデンプンを含有する固形医薬組成物であって、該固形医薬組成物をパウチ型包装容器に充填した状態で保存しても、包装容器の膨張が抑制された固形医薬組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決する為に検討を重ねた結果、漢方エキス、炭酸水素カリ及び/又は炭酸カリウムウム、ならびにデンプンを含有する固形医薬組成物であっても、漢方エキスと、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量比が特定である固形医薬組成物は、パウチ型包装容器に充填して、常温下で長期あるいは高温条件下で保存した後にも、該包装容器の膨張が抑制され、形状変化が認められないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有し、かつ、パウチ型包装容器に充填されてなる固形医薬組成物であって、前記(A)漢方エキスの重量が(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して3.5倍以上である、固形医薬組成物、に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の固形医薬組成物は、漢方エキス、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに、デンプンを含有するものであるが、パウチ型包装容器に充填した状態で保存されても、該包装容器の膨張が抑制され、形状変化が少ないという効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、実施例1−1〜1−4、比較例1−1〜1−3、及び参考例1−1〜1−6が充填されたパウチ型包装容器の体積変化量を示す図(防風通聖散エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンの各種組合せ、と体積変化量の関係を示す図)である。
【図2】図2は、実施例1−5〜1−6、及び比較例1−4が充填されたパウチ型包装容器の体積変化量を示す図(防風通聖散エキスと炭酸水素カリウムの各種重量比と、体積変化量の関係を示す図)である。
【図3】図3は、比較例1−1、及び参考例1−7〜1−12が充填されたパウチ型包装容器の体積変化量を示す図(防風通聖散エキスと組み合わせた各種添加剤と体積変化量の関係を示す図)である。
【図4】図4は、漢方エキスと炭酸水素カリウムの各種重量比と、パウチ型包装容器の体積変化量の関係を示す図である
【図5】図5は、実施例2−1〜2−2、比較例2−1、及び参考例2−1〜2−6が充填されたパウチ型包装容器の体積変化量を示す図(温経湯エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンの各種組合せ、と体積変化量の関係を示す図)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の固形医薬組成物(単に、本発明の医薬組成物ともいう)は、(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有し、かつ、パウチ型包装容器に充填されるものであって、前記(A)漢方エキスの重量が(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して3.5倍以上であることに大きな特徴を有する。
【0014】
パウチ型包装容器とは、一般的に、合成樹脂やアルミ箔を積層加工したフィルムで出来ており、空気や水分、光を遮断して、内容物を密閉保存することができる容器である。例えば、ジッパー式パウチ型包装容器は、ジッパーによって開閉自在な取出口を有することから、サプリメント等の包装容器として好適である。しかしながら、容器内外の空気圧によって形状が変化するために、例えば、通常雰囲気下では容器内の空気圧を大気圧と同じに保つ必要がある。
【0015】
一方、医薬品の一般的な添加剤として知られている炭酸水素塩及び/又は炭酸塩は、水や酸との接触等により炭酸ガス(CO)を発生するという特性を有する。このCO発生(発泡ともいう)を利用して、錠剤や顆粒剤等の固形医薬組成物の崩壊特性を向上させる技術が使用されている。炭酸水素塩及び/又は炭酸塩を含有する製剤において、CO発生は、水等の溶媒や生体内分泌物(唾液、胃液等)に接触することで誘発される。
【0016】
しかし、漢方エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンの混合末を、通常雰囲気下で、パウチ型包装容器に充填して保存したところ、該包装容器が膨らんで形状が変化してしまうことが確認された。この現象は、漢方エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンを組み合わせた場合に認められ、同じ炭酸水素塩である炭酸水素ナトリウムや、デンプンに代えてその他の添加剤を用いた例では確認されなかった。このように特定の成分を配合した場合にのみ、前記現象が生じる詳細な理由については不明であるが、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムは、漢方エキスとデンプンの共存下では、分解が促進されてCOを発生するものの、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム重量の3.5倍量以上の漢方エキスが存在することにより、該分解が抑制されて、前記現象の発生が抑制されると推定される。
【0017】
本発明における(A)漢方エキスとしては、医薬上、薬理学的に又は生理学的に許容されるものであればよく、構成する生薬の組合せやその配合比率についても特に制限されないが、例えば、「一般用漢方処方の手引き」〔厚生省薬務局監修、日本製薬団体連合会漢方専門委員会編、薬業時報社(現じほう社)発行〕に記載されている漢方処方のエキスを用いることが出来る。漢方エキスは、漢方処方を原料として含むものであり、具体的には、水やエタノールなど公知の溶媒を用いて抽出したものが例示される。漢方処方の具体例としては、防風通聖散、安中散、安中散加茯苓、胃風湯、胃苓湯、茵チン蒿湯、茵チン五苓散、温経湯、温清飲、温胆湯、延年半夏湯、黄耆建中湯、黄ゴン湯、応鐘散、黄連阿膠湯、黄連解毒湯、黄連湯、乙字湯、乙字湯去大黄、化食養脾湯、カッ香正気散、葛根黄連黄ゴン湯、葛根紅花湯、葛根湯、葛根湯加川キュウ辛夷、加味温胆湯、加味帰脾湯、加味解毒湯、加味逍遙散、加味逍遙散加川キュウ地黄、加味平胃散、乾姜人参半夏丸、甘草瀉心湯、甘草湯、甘麦大棗湯、帰耆建中湯、桔梗湯、帰脾湯、キュウ帰膠艾湯、キュウ帰調血飲、キュウ帰調血飲第一加減、響声破笛丸、杏蘇散、苦参湯、駆風解毒散、荊芥連翹湯、鶏肝丸、桂枝湯、桂枝加黄耆湯、桂枝加葛根湯、桂枝加厚朴杏仁湯、桂枝加芍薬生姜人参湯、桂枝加芍薬大黄湯、桂枝加芍薬湯、桂枝加朮附湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、桂枝加苓朮附湯、桂枝人参湯、桂枝茯苓丸、桂枝茯苓丸料加ヨク苡仁、啓脾湯、荊防敗毒散、桂麻各半湯、鶏鳴散加茯苓、堅中湯、甲字湯、香砂平胃散、香砂養胃湯、香砂六君子湯、香蘇散、厚朴生姜半夏人参甘草湯、五虎湯、牛膝散、五積散、牛車腎気丸、呉茱萸湯、五物解毒散、五淋散、五苓散、柴陥湯、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、柴胡桂枝湯、柴胡清肝湯、柴芍六君子湯、柴朴湯、柴苓湯、左突膏、三黄散、三黄瀉心湯、酸棗仁湯、三物黄ゴン湯、滋陰降火湯、滋陰至宝湯、紫雲膏、四逆散、四君子湯、滋血潤腸湯、七物降下湯、柿蒂湯、四物湯、炙甘草湯、芍薬甘草湯、鷓鴣菜湯、蛇床子湯、十全大補湯、十味敗毒湯、潤腸湯、蒸眼一方、生姜瀉心湯、小建中湯、小柴胡湯、小柴胡湯加桔梗石膏、小承気湯、小青竜湯、小青竜湯加杏仁石膏、小青龍湯加石膏、椒梅湯、小半夏加茯苓湯、消風散、升麻葛根湯、逍遙散、四苓湯、辛夷清肺湯、秦キュウ姜活湯、秦キュウ防風湯、参蘇飲、神秘湯、参苓白朮散、清肌安蛔湯、清湿化痰湯、清暑益気湯、清上ケン痛湯、清上防風湯、清心蓮子飲、清肺湯、折衝飲、川キュウ茶調散、千金鶏鳴散、銭氏白朮散、疎経活血湯、蘇子降気湯、大黄甘草湯、大黄牡丹皮湯、大建中湯、大柴胡湯、大柴胡湯去大黄、大半夏湯、竹茹温胆湯、治打撲一方、治頭瘡一方、治頭瘡一方去大黄、中黄膏、調胃承気湯、丁香柿蒂湯、釣藤散、猪苓湯、猪苓湯合四物湯、通導散、桃核承気湯、当帰飲子、当帰建中湯、当帰散、当帰四逆湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯、当帰芍薬散、当帰湯、当帰貝母苦参丸、独活葛根湯、独活湯、二朮湯、二陳湯、女神散、人参養栄湯、人参湯、排膿散、排膿湯、麦門冬湯、八味地黄丸、半夏厚朴湯、半夏瀉心湯、半夏白朮天麻湯、白虎湯、白虎加桂枝湯、白虎加人参湯、不換金正気散、茯苓飲、茯苓飲加半夏、茯苓飲合半夏厚朴湯、茯苓沢瀉湯、伏竜肝湯、分消湯、平胃散、防已黄耆湯、防已茯苓湯、補気健中湯、補中益気湯、補肺湯、麻黄湯、麻黄附子細辛湯、麻杏甘石湯、麻杏ヨク甘湯、麻子仁丸、揚柏散、ヨク苡仁湯、抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、立効散、六君子湯、竜胆瀉肝湯、苓姜朮甘湯、苓桂甘棗湯、苓桂朮甘湯、六味丸等が例示される。
【0018】
これらの漢方エキスは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの漢方エキスの中でも、甘草、芍薬、川きゅう、及び当帰からなる群より選ばれる1以上の生薬を含有する漢方処方を原料として含むエキス、即ち、前記漢方処方から抽出されたエキスが好適例として挙げられる。さらに好適な例として、防風通聖散エキス、温経湯エキスが挙げられる。
【0019】
上記「一般用漢方処方の手引き」には、漢方エキスを構成する生薬の組合せやその配合量が記載されているが、構成する生薬やその配合比率を適宜変更して得られる漢方エキスであっても、本発明に使用することができる。例えば、防風通聖散エキスは、防風1.2重量部、黄ごん2.0重量部、大黄1.5重量部、芒硝1.5重量部、麻黄1.2重量部、石膏2〜3重量部、白朮2.0重量部、荊芥1.2重量部、連翹1.2重量部、桔梗2.0重量部、山梔子1.2重量部、芍薬1.2重量部、当帰1.2重量部、川きゅう1.2重量部、薄荷1.2重量部、滑石3〜5重量部、生姜1.2重量部、及び甘草2.0重量部からなる混合原料の抽出物として知られているが、黄ごんを含まないもの、白朮を含まないもの、配合比率を適宜変更したもの等であってもよい。また、温経湯エキスは、半夏3〜5重量部、麦門冬3〜10重量部、当帰2〜3重量部、川きゅう2.0重量部、芍薬2.0重量部、人参2.0重量部、桂枝2.0重量部、阿膠2.0重量部、牡丹皮2.0重量部、甘草2.0重量部、乾生姜1.0重量部(生姜1〜2重量部)、及び呉茱萸1〜3重量部からなる混合原料の抽出物として知られているが、各生薬の配合比率を適宜変更したもの等であってもよい。
【0020】
また、本発明の医薬組成物は、炭酸水素カリウム(KHCO)及び炭酸カリウム(KCO)の少なくとも1種を含有する。本発明における、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムは、本発明の医薬組成物が水等の溶媒や生体分泌物(唾液や胃液等)と接触することにより分解して、COを発生(発泡)し崩壊性を向上させる。炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムとしては、市販品を用いることができ、例えば、日本薬局方、European Pharmacopeia、United States Pharmacopeia等に適合するものが使用される。また、好適な市販品としては、旭硝子社製、東亜合成化学工業社製、東京応化社製、林純薬工業社製等が挙げられる。
【0021】
(C)デンプンとしては、バレイショデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、デキストラン等、当該分野で公知のデンプンを用いることができるが、なかでもバレイショデンプンが好ましい。デンプンは、公知の方法に従って調製してもよく、市販品を用いてもよい。好適な市販品としては、日澱化学社製、丸石製薬社製、松谷化学社製社製、日本食品加工社製等が挙げられる。
【0022】
本発明の固形医薬組成物における(A)漢方エキスの含有量は、該組成物の総量100重量%に対して、30〜90重量%が好ましく、50〜90重量%がより好ましく、60〜90重量%がさらに好ましい。
【0023】
本発明の固形医薬組成物における(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの含有量は、該組成物の総量100重量%に対して、1〜20重量%が好ましく、2〜15重量%がより好ましく、3〜10重量%がさらに好ましい。なお、本明細書において、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの、含有量又は重量とは、本発明の医薬組成物に含有される炭酸水素カリウム及び炭酸カリウムの合計重量のことを意味する。
【0024】
本発明の固形医薬組成物における(C)デンプンの含有量は、該組成物の総量100重量%に対して、3〜45重量%が好ましく、4〜40重量%がより好ましく、5〜35重量%がさらに好ましい。
【0025】
本発明の固形医薬組成物において、(A)漢方エキスの重量は、パウチ型包装容器の膨張抑制の観点から、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して3.5倍以上、好ましくは3.7倍以上、より好ましくは4.0倍以上、さらに好ましくは4.5倍以上、さらに好ましくは5.0倍以上である。また、崩壊性の観点から、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して、好ましくは20倍以下、より好ましくは15倍以下である。従って、(A)漢方エキスの重量は、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して、3.5倍以上であり、3.5〜20倍が好ましく、3.7〜20倍がより好ましく、4.0〜20倍がさらに好ましく、4.5〜20倍がさらに好ましく、5.0〜15倍がさらに好ましい。
【0026】
また、本発明の固形医薬組成物において、(C)デンプンの重量は、漢方エキス製剤化の観点から、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して、好ましくは0.5〜20倍、より好ましくは1.0〜10倍である。
【0027】
本発明の固形医薬組成物は、上記成分以外に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、甘味剤、矯味剤、防腐剤、キレート剤、抗酸化剤、清涼化剤、コーティング剤、安定化剤、流動化剤、粘稠剤、溶解補助剤、増粘剤、緩衝剤、香料、着色剤、吸着剤、湿潤剤、防湿剤、帯電防止剤、可塑剤、消泡剤、界面活性剤等の添加剤を含有することができる。添加剤の例としては、乳糖、白糖等の糖類;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース類;メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、夕ルク、酸化チタン等の無機物質が挙げられる。
【0028】
本発明の固形医薬組成物は、(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有し、かつ、漢方エキスと、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量比が前記割合である固形製剤であって、該固形製剤をパウチ型包装容器に充填しているのであれば特に限定はなく、当業者に公知の方法に従って、調製することができる。また、固形医薬組成物の形状や大きさも特に限定はなく錠剤、又は、散剤、顆粒剤、細粒剤等の造粒物が例示される。なお、錠剤や造粒物は、公知の方法に従って、コーティング処理がされてもよい。
【0029】
例えば、本発明における固形医薬組成物が造粒物である場合、漢方エキスに、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびにデンプン、必要により、添加剤を混合することにより得られた混合物を、ローラーコンパクター等で圧縮した後、ロールグラニュレーターで粉砕して篩過する方法により調製することができる。また、本発明における固形医薬組成物が錠剤である場合、漢方エキスに、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびにデンプン、必要により、添加剤を混合することにより得られた混合物を、そのまま、或いは前記方法に従って造粒後に、打錠機に投入して成型加工する方法により調製することができる。
【0030】
なお、本発明における固形医薬組成物は、パウチ型包装容器から取り出した後、そのまま口に含んで水や白湯等とともに服用することができる。また、同様にして取り出した後、水や白湯等にあらかじめ溶解又は懸濁してから服用してもよい。
【0031】
本発明においては、かくして得られた固形医薬組成物はパウチ型包装容器に充填される。パウチ型包装容器としては、特に限定はなく、平型パウチ、スタンディング型パウチ等が例示され、ジッパーがついていてもいなくても良い。パウチの大きさ(容量)も特に限定されない。
【0032】
また、充填後、密封されるのであれば、パウチ型包装容器への充填方法、及び、パウチ型包装容器の密封方法は問わない。
【0033】
本発明の医薬組成物のパウチ型包装容器への充填量は、特に限定されない。
【0034】
また、本発明は、別の態様として、(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有する固形製剤を充填してなるパウチ型包装容器の膨張抑制方法を提供する。
【0035】
具体的には、(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有する固形製剤をパウチ型包装容器に充填する際に、漢方エキスの重量を、炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して3.5倍以上、好ましくは3.5〜20倍、より好ましくは3.7〜20倍、さらに好ましくは4.0〜20倍、さらに好ましくは4.5〜20倍、さらに好ましくは5.0〜15倍にすることで、該パウチ型包装容器を通常条件下で長期保存、又は高温条件下で保存しても、パウチ型包装容器の膨張が抑制され、形状変化が少ないものとなる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【0037】
実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜1−4及び参考例1−1〜1−12(防風通聖散エキス)
表1、2、又は3に示す原料粉末を混合して、実施例1−1〜1−6、比較例1−1〜1−4及び参考例1−1〜1−12の固形医薬組成物(粉末)を得た。得られた固形医薬組成物(粉末)を、210mL容又は590mL容のパウチ型包装容器(生産日本社製、セイニチクリップラミジップAL10又はセイニチクリップラミジップAL14)に、通常雰囲気下(約25℃、RH約50%)で、充填して該容器を密封した。なお、参考例1−1〜1−6は、漢方エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンからなる群より選ばれるいずれか1成分、又は2成分からなる医薬組成物であり、参考例1−7〜1−12は、炭酸水素カリウム、又はデンプンの代わりに、異なる添加剤(炭酸水素ナトリウム、乳糖等)を配合した医薬組成物である。
【0038】
なお、表3で示す各成分は以下の通りである。
乳糖:「乳糖200M」、DMV-Fonterra Excipients社製
白糖:「グラニュー糖」、三井製糖社製
飴粉:「サンマルトミドリ」、林原商事社製
結晶セルロース:「セオラスPH101」、旭化成ケミカルズ社製
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC):「NISSO HPC−L」、日本曹達社製
【0039】
得られた医薬組成物について、以下の試験例1〜2を行って、各固形医薬組成物が充填されたパウチ型包装容器の体積変化量と性状を評価した。結果を表1〜3に示す。また、表1のデータを図1に、表2のデータを図2に、表3のデータを図3に、また、表1のデータから、漢方エキスと炭酸水素カリウムの重量比と、パウチの体積変化量の関係を示す結果を図4に示す。
【0040】
試験例1〔膨らみ(体積変化)〕
各医薬組成物を、パウチ型包装容器に密封充填された状態で、50℃の恒温槽内で1週間保存し、保存前後の包装容器毎の体積を以下の方法に従って測定し、膨らみ(体積変化)を評価する。
【0041】
具体的には、1000mLのメスシリンダーに、水500mLを量り入れた後、検体を沈め、完全に検体が沈んだ状態のメスシリンダーの目盛りを読み取って検体の体積(mL)を算出し、保存前後の検体について同様にして体積を求めることにより、差分(体積変化)を求める。
検体の体積(mL)=(メスシリンダーの読み取り値)−500
体積変化量(mL)=(50℃保存後の体積)−(50℃保存前の体積)
【0042】
試験例2〔膨らみ(外観)〕
試験例1で体積を測定する際に、あわせて外観を観察し、以下の評価基準に従って、保存開始前の状態に対する膨らみ(外観)を評価する。
【0043】
〔膨らみ(外観)の評価基準〕
◎:保存開始前より、容器は膨らんでいない
○:保存開始前より、容器はやや膨らんでいる
△:保存開始前より、容器は膨らんでいる
×:保存開始前より、容器は大きく膨らんでいる
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
表1及び2より、組成物における炭酸水素カリウム配合量が同じであっても、防風通聖散エキスと炭酸水素カリウムの重量比が1.1/1である比較例1−1や1−4は、体積変化が大きく、防風通聖散エキスと炭酸水素カリウムの重量比が、固体状態でのCO発生に影響することが示唆される。また、炭酸水素カリウム重量に対する防風通聖散エキス重量が大きくなるほど、体積変化が小さくなることが分かる。なお、パウチ型包装容器の大きさが異なるものであっても、同様の傾向が認められている。
【0048】
なお、表1より、防風通聖散エキス、炭酸水素カリウム、デンプンのそれぞれ単独で封入したもの(参考例1−1〜1−3)は、50℃保存後もパウチ型包装容器の膨らみは見られず、防風通聖散エキス、炭酸水素カリウム、デンプンのいずれか2成分を選択して組み合わせたもの(参考例1−4〜1−6)を封入しても、パウチ型包装容器の膨らみは見られなかった。また、表3より、炭酸水素カリウムの代わりに炭酸水素ナトリウムを用いた例(参考例1−7)や、デンプンの代わりにその他の添加剤等を用いた例(参考例1−8〜1−12)では、固体状態での保存中にパウチ型包装容器の膨らみは見られず、保存中のパウチ型包装容器の膨らみは、漢方エキス、炭酸水素カリウム、デンプンの3成分を組み合わせた場合に生じる特有の現象であることが示唆される。
【0049】
実施例2−1〜2−2、比較例2−1及び参考例2−1〜2−6(温経湯エキス)
表4に示す原料粉末を混合して、実施例2−1〜2−2、比較例2−1及び参考例2−1〜2−6の固形医薬組成物(粉末)を得た。得られた固形医薬組成物(粉末)は、210mL容のパウチ型包装容器(生産日本社製、セイニチクリップラミジップAL10)を通常雰囲気下(約25℃、RH約50%)で、充填して、該容器を密封した。なお、参考例2−1〜2−6は、漢方エキス、炭酸水素カリウム、及びデンプンからなる群より選ばれるいずれか1成分、又は2成分からなる医薬組成物である。
【0050】
得られた医薬組成物について、前記の試験例1〜2を行って、各固形医薬組成物が充填されたパウチ型包装容器の体積変化量と性状を評価した。結果を表4及び図5に示す。
【0051】
【表4】

【0052】
表4より、組成物における炭酸水素カリウム配合量が同じであっても、温経湯エキスと炭酸水素カリウムの重量比が1.2/1である比較例2−1は、体積変化が大きく、温経湯エキスと炭酸水素カリウムの重量比が、固体状態でのCO発生に影響することが示唆される。また、表1、2、4の結果より、漢方エキスの種類が異なる場合でも、漢方エキスと炭酸水素カリウムとデンプンを配合して、パウチ型包装容器に充填して保存する場合に、漢方エキスと炭酸水素カリウムの重量比によって前記容器の膨らみが調整されることが示唆される。
【0053】
以下に処方例を挙げるが、本発明はこれらの実施例に限られるものではない。
【0054】
処方例1
下記原料をそれぞれ篩を用いて篩過し、下記配合比に基づいて秤量した後混合したものを打錠用混合末とし、これを打錠機を用いて錠剤化することにより、錠剤(1錠当たり0.42g)が製造される。
防風通聖散エキス(エキス含量80.2重量%) 2600重量部
炭酸水素カリウム 180重量部
バレイショデンプン 300重量部
結晶セルロース 50重量部
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 70重量部
ステアリン酸マグネシウム 40重量部
合計 3240重量部
【0055】
処方例2
下記配合比の原料を使用して、上記処方例1と同様の方法で錠剤(1錠当たり0.48g)が製造される。
防風通聖散エキス(エキス含量69.4重量%) 3000重量部
炭酸水素カリウム 300重量部
バレイショデンプン 470重量部
乳糖 80重量部
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 100重量部
ステアリン酸マグネシウム 30重量部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 70重量部
マクロゴール 90重量部
タルク 100重量部
カルナウバロウ 30重量部
カラメル 50重量部
合計 4320重量部
【0056】
処方例3
下記配合比の原料を使用して、上記処方例1と同様の方法で錠剤(1錠当たり0.40g)が製造される。
温経湯エキス(エキス含量71.5重量%) 3520重量部
炭酸水素カリウム 280重量部
バレイショデンプン 340重量部
ラウリル硫酸ナトリウム 200重量部
乳糖 100重量部
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 100重量部
ステアリン酸マグネシウム 50重量部
ヒドロキシプロピルメチルセルロース 80重量部
マクロゴール 80重量部
タルク 100重量部
カルナウバロウ 20重量部
カラメル 50重量部
合計 4920重量部
【0057】
処方例4
下記配合比の原料を使用して、上記処方例1と同様の方法で錠剤(1錠当たり0.38g)が製造される。
温経湯エキス(エキス含量65.6重量%) 3000重量部
炭酸水素カリウム 450重量部
バレイショデンプン 630重量部
結晶セルロース 100重量部
乳糖 100重量部
クロスカルメロースナトリウム 150重量部
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 100重量部
ステアリン酸マグネシウム 40重量部
合計 4570重量部
【0058】
処方例5
下記配合比の原料を使用して、上記処方例1と同様の方法で錠剤(1錠当たり0.45g)が製造される。
小青竜湯エキス(エキス含量66.1重量%) 3000重量部
炭酸水素カリウム 320重量部
バレイショデンプン 650重量部
結晶セルロース 200重量部
カルメロースカルシウム 150重量部
メタケイ酸アルミン酸マグネシウム 120重量部
ステアリン酸マグネシウム 50重量部
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール 50重量部
合計 4540重量部
【0059】
処方例6
下記原料をそれぞれ篩を用いて篩過し、下記配合比に基づいて秤量した後混合したものを造粒することで顆粒剤(1包1.2g)が製造される。
小青竜湯エキス(エキス含量71.0重量%) 2500重量部
炭酸水素カリウム 220重量部
バレイショデンプン 400重量部
乳糖 250重量部
ヒドロキシプロピルセルロース 100重量部
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール 50重量部
合計 3520重量部
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の固形医薬組成物は、漢方エキスを配合したものであり、パウチ型包装容器に保存されても安定であることから、携帯性に優れ、簡便に摂取することができるため好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)漢方エキス、(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウム、ならびに(C)デンプンを含有し、かつ、パウチ型包装容器に充填されてなる固形医薬組成物であって、前記(A)漢方エキスの重量が(B)炭酸水素カリウム及び/又は炭酸カリウムの重量に対して3.5倍以上である、固形医薬組成物。
【請求項2】
(A)漢方エキスが、甘草、芍薬、川きゅう、及び当帰からなる群より選ばれる1以上の生薬を原料として含む漢方エキスである、請求項1記載の固形医薬組成物。
【請求項3】
(A)漢方エキスが、防風通聖散エキス又は温経湯エキスである、請求項1又は2記載の固形医薬組成物。
【請求項4】
(A)漢方エキスを30〜90重量%含有してなる、請求項1〜3いずれか記載の固形医薬組成物。
【請求項5】
固形医薬組成物が、錠剤、散剤、顆粒剤又は細粒剤である、請求項1〜4いずれか記載の固形医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−37734(P2011−37734A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184983(P2009−184983)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】