説明

固形医薬製剤

【課題】 本発明は、安価で安全なデンプンを原料として使用し、製剤の物理的強度が高く、服用後の薬物放出特性が優れている固形医薬製剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 薬物とデンプンを含有する組成物をα化することにより、α化デンプンを含有する固形医薬製剤を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形医薬製剤に関する。更に詳しくは、製剤の物理的強度が高く、服用後の薬物放出特性や賦形剤の消化性の点において優れている固形医薬製剤に関する。また、本発明は、上記固形医薬製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固形医薬製剤には、通常、賦形剤が配合されており、これによって薬物の易服用性や製剤の成形性等の向上が図られている(例えば、特許文献1参照)。従来、固形製剤の賦形剤として、デンプンが広く使用されている。デンプンには、安定性や安全性に優れていることに加え、押出し造粒顆粒の賦形剤として使用されると、保水性により造粒物の可塑性を向上させ、押出し造粒機のスクリーンへの負荷を軽減し、造粒工程を容易にするという利点がある。
【0003】
その反面、デンプンは、乾燥状態では粒子が丸くて硬いという物理的特徴を有しているため、デンプンを固形製剤の賦形剤として使用すると、固形製剤の強度が低下するという欠点がある。固形製剤の製剤強度の低下は、製造工程中の製剤破損を起こし易くし、これが収率の低下や分包工程の効率低下の原因となるため、デンプンを賦形剤として配合した固形製剤には製剤強度の改善が必要とされている。
【0004】
また更に、デンプンを賦形剤として配合した固形製剤には、服用後の薬物放出特性の点においても十分でない場合があり、消化器官内でより速やかに薬物が放出されるように、製剤的工夫を施すことが求められている。
【0005】
ところで、α化デンプンは、水と混和すると糊状になる特性があり、かかる特性を利用して、固形製剤に結合剤として少量配合されて使用されている。このα化デンプンは、デンプンに比して消化器官内での消化性に優れており、消化器官内で消化されるため、医薬製剤に配合される好適な成分である。しかしながら、α化デンプンを固形製剤の賦形剤として多量に配合すると、湿式造粒時に混合物が糊状になるため、製剤化が困難である。また、たとえ、α化デンプンと薬物の糊状混合物を乾燥しても、硬い塊状物になってしまうため、この塊状物を粉砕して製剤化することも困難である。このように、α化デンプンを用いて製剤を加水造粒により製造する技術は知られておらず、α化デンプンを10重量%程度以上の割合で含み、所望の強度を備えた医薬製剤を製造する技術は確立されていないのが現状である。
【特許文献1】特開平11−286456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、デンプンを賦形剤として配合した医薬製剤の問題点を解決することである。詳細には、本発明は、安価で安全なデンプンを原料として使用し、製剤の物理的強度が高く、服用後の薬物放出特性が優れている固形医薬製剤を提供することを目的とする。また、本発明は、α化デンプンを賦形剤として配合した固形医薬製剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、薬物とデンプンを混合した後、または混合成型後にデンプンをα化することによって、得られる固形医薬製剤は、製剤の物理的強度が高く、服用後の薬物放出特性や賦形剤の消化性において優れていることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる固形医薬製剤である:
項1. (a)薬物及び(b)10〜90重量%のα化デンプンを含有することを特徴とする、固形医薬製剤。
項2. 下記工程(i)及び(ii)の工程を含む製造方法により得られる、項1に記載の固形医薬製剤:
(i)薬物及びデンプンを含有する原料組成物を調製する工程、及び
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。
項3. 工程(i)において調製される原料組成物が、更に結晶セルロースを含有し、且つ押出し造粒により成形されたものである、項2に記載の固形医薬製剤。
項4. デンプンがトウモロコシデンプンである、項1乃至3のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項5. 顆粒又は散剤である、項1乃至4のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項6. 徐放性製剤である、項1乃至5のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項7. 薬剤が水難溶性のものである、項1乃至6のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項8. 薬剤がバイオファーマシューティックスクラシフィケーションシステムでクラスIIに分類されるものである、項1乃至7のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項9. 薬剤がシロスタゾールである、項1乃至8のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項10. 下記工程(i)及び(ii)の工程を含む製造方法により得られる固形医薬製剤:
(i)薬物及びデンプンを含有する原料組成物を調製する工程、及び
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。
項11. α化デンプンを10〜90重量%の割合で含有する、項10に記載の固形医薬製剤。
項12. 工程(i)において調製される原料組成物が、更に結晶セルロースを含有し、且つ押出し造粒により成形されたものである、項10又は11に記載の固形医薬製剤。
項13. デンプンがトウモロコシデンプンである、項10乃至12のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項14. 顆粒又は散剤である、項10乃至13のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項15. 徐放性製剤である、項10乃至14のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項16. 薬剤が水難溶性のものである、項10乃至15のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項17. 薬剤がバイオファーマシューティックスクラシフィケーションシステムでクラスIIに分類されるものである、項10乃至16のいずれかに記載の固形医薬製剤。
項18. 薬剤がシロスタゾールである、項10乃至17のいずれかに記載の固形医薬製剤。
【0009】
更に、本発明は、下記に掲げる固形医薬製剤の製造方法である:
項19. 下記工程(i)及び(ii)を含む、固形医薬製剤の製造方法:
(i)薬物及びデンプンを含有する原料組成物を調製する工程、及び
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。
項20. 工程(ii)の後に、更に(iii)乾燥工程を含む、項19に記載の製造方法。
項21. 工程(i)が、薬物、デンプン及び結晶セルロースを含有し、押出し造粒により
成形された原料組成物を調製する工程である、項19又は20に記載の製造方法。
項22. 固形医薬製剤がα化デンプンを10〜90重量%の割合で含有するものである、項19乃至21のいずれに記載の製造方法。
項23. デンプンがトウモロコシデンプンである、項19乃至22のいずれに記載の製造方法。
項24. 固形医薬製剤が顆粒又は散剤である、項19乃至23のいずれかに記載の製造方法。
項25. 固形医薬製剤が徐放性製剤である、項19乃至24のいずれかに記載の製造方法。
項26. 薬剤が水難溶性のものである、項19乃至25のいずれかに記載の製造方法。
項27. 薬剤がバイオファーマシューティックスクラシフィケーションシステムでクラスIIに分類されるものである、項19乃至26のいずれかに記載の製造方法。
項28. 薬剤がシロスタゾールである、項19乃至27のいずれかに記載の製造方法。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
固形医薬製剤
本発明の固形医薬製剤は、(a)薬物及び(b)α化デンプンを含有することを特徴とするものである。
【0011】
本発明の固形医薬製剤は、該製剤の総重量に対して、α化デンプンを通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは30〜70重量%の割合で含むものである。このような割合でα化デンプンを含有することによって、固形医薬製剤は、製剤強度が高く、服用後に消化器官内で持続的・効率的に薬物を放出させるという特性を備えることができる。
【0012】
本発明に使用されるα化デンプンは、その起源については、特に制限されない。α化デンプンの一例として、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、キャッサバデンプン、タピオカデンプン等のデンプンをα化したものが挙げられる。これらのα化デンプンは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。なお、本発明で使用するα化デンプンは、部分α化デンプンであってもよい。
【0013】
これらのα化デンプンの中で、好ましくは、α化トウモロコシデンプン、α化バレイショデンプン、α化コムギデンプンが挙げられる。トウモロコシデンプンは、粒子径が10〜30μmと揃っているため成型し易く、α化後の取扱いが容易である、及び他のデンプンより吸湿性が低い等の利点があるので、α化トウモロコシデンプンは特に好適に使用されるα化デンプンである。
【0014】
また、本発明の固形医薬製剤に用いられる薬物は、経口投与可能なものであれば、その薬効やその種類については、特に制限されるものではなく、水易溶性薬物又は水難溶性薬物のいずれであてもよい。薬物の一例として、呼吸器官用製剤、消化器官用製剤、循環器官用製剤、中枢神経用製剤、末梢神経用製剤、抗生物質製剤、化学療法剤、抗腫瘍剤、血小板凝集抑制剤、抗アレルギー剤、ビタミン剤、栄養剤等の各種製剤に配合される通常の薬物を挙げることができる。薬物として、好ましくは水難溶性薬物である。また、該薬物として、「Waiver of in Vivo Bioavailability and Bioequivalents Studies for Immediate Release Solids Dosage Forms Containing Certain Active Moieties/Active Ingredients Based on Biopharmaceutics Classification System(FDAガイダンス)」(本明細書において「バイオファーマシューティックスクラシフィケーションシステム」と記すこともある)において、クラスII(High Permeability, Low Solubility)に分類される薬物を好適に使用できる。このように水に対して難溶性を示す薬物は、徐放性製剤として製剤化されると、消化器官内で持続的、効果的に薬物を放出するという特性を備えており、服用後十分に薬効を発揮できる。
【0015】
本発明において、薬物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0016】
本発明の固形医薬製剤に用いられる薬物の具体例としては、例えばテオフィリン、グレパフロキサシン、カルテオロール、プロカテロール、レバミピド、アリピプラゾール、シロスタゾール、アセトアミノフェン、ニフェジピン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナック、イトラコナゾール、ピロキシカム、フェニトイン、ベラパミル等が例示される。本発明において、これらの薬物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。これらの薬物の中で、好ましくは、シロスタゾール、ケトプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナック、イトラコナゾール、ピロキシカム、フェニトイン、ベラパミル、更に好ましくは、シロスタゾールが挙げられる。これらの薬物は徐放性製剤とする場合に、特に有用である。
【0017】
固形医薬製剤中の上記薬物の配合割合については、使用する薬物の種類や薬効、投与対象者の性別や年齢等に応じて異なるが、例えば、該組成物の総量(乾燥重量)に対して0.01〜60重量%、好ましくは0.1〜50重量%、更に好ましくは1〜50重量%が例示される。
【0018】
また、固形医薬製剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、その他の賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の固形医薬製剤に配合可能な各種添加剤を適当量含有することができる。
【0019】
かかる添加剤として、具体的には、乳糖、白糖、マンニトール、塩化ナトリウム、ブドウ糖、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸塩等の賦形剤;水、エタノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースNa、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、デキストリン、プルラン等の結合剤;クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のpH調整剤;カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン等の崩壊剤;ポリソルベート80等の可塑剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、ショ糖脂肪酸類等の滑沢剤;黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、βカロテン、酸化チタン、食用色素(例えば、食用青色1号等)、銅クロロフィル、リボフラビン等の着色剤;並びにアスコルビン酸、アスパルテーム、アマチャ、塩化ナトリウム、果糖、サッカリン、粉糖等の矯味剤等が例示できる。
【0020】
本発明の固形医薬製剤は、粉末状、散剤状、顆粒状、錠剤状等の任意の固形状形態をとることができる。また、本発明の固形医薬製剤は、コーティング製剤やカプセル剤の形態であってもよい。本発明の固形医薬製剤の上記各種形態の内、好ましい形態の一例として顆粒状及び散剤状が挙げられる。
【0021】
特に、顆粒状の形態にする場合、固形医薬製剤には、結晶セルロースを配合しておくことが望ましい。結晶セルロースを配合しておくことによって、球形整粒により球形化し易くなり、押出し造粒による顆粒状の製剤の成形を容易に行うことができるという利点が得られる。また、球形化によって、カプセル等への充填性が良好になり、またコーティング効率が高められるという利点も得られる。このように、結晶セルロースを固形医薬製剤に配合する場合、該結晶セルロースの配合割合としては、該医薬製剤の総重量に対して、例えば5〜90重量%、好ましくは10〜80重量%、更に好ましくは20〜70重量%が挙げられる。
【0022】
本発明の固形医薬製剤は、消化管内で薬物を徐々に溶出できることに加えて、小腸のアミラーゼで製剤自体が消化されて崩壊することにより薬剤を効率的に放出できるので、製剤中心部の薬物まで十分に消化管下部で放出できるという利点がある。このように、本発明の固形医薬製剤は、上記割合でα化デンプンを含有することにより、服用後に薬物を消化管内で持続的に放出するという特性と薬物を消化管内で効率的に放出させるという特性の双方を兼ね備えているので、徐放性製剤として有用である。つまり、本発明の固形医薬製剤は、通常の徐放性製剤の欠点、即ち、薬物が徐々に溶出するように設計されているため、溶解するための水(消化液)の少ない消化管下部(小腸以降)では薬剤が溶出し難いので、配合した薬物を十分に溶解・放出しないまま体外に排出されてしまうという欠点が、解消されている。
【0023】
製造方法
本発明の固形医薬製剤は、薬物とデンプンを含有する組成物(以下、これを原料組成物と記す)をα化することにより製造される。具体的には、下記(i)及び(ii)の工程を経て、上記固形医薬製剤は製造される。
(i)薬物及びデンプンを含有する原料組成物を調製する工程、及び
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。
【0024】
上記工程(i)で調製される原料組成物に含有される成分は、デンプンがα化デンプンに変換される以外は、そのまま本発明の固形医薬製剤の含有成分となる。故に、工程(i)において、本発明の固形医薬製剤に配合される薬物、α化デンプンの原料となるデンプン、及び任意成分(各種添加剤)を、固形医薬製剤における各含有比率と一致する割合で含むように混合して、原料組成物を調製する。
【0025】
上記原料組成物は、上記成分の他に、更に水を含んでいることが望ましい。水を含む場合、該原料組成物中の水の含有量については、特に制限されないが、例えば、該原料組成物の総量に対して、30〜80重量%、好ましくは40〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%が例示される。このような割合で水を含むことによって、該原料組成物の成形が容易になり、更には、次工程のデンプンのα化を効率的に行うことが可能になる。
【0026】
上記原料組成物の形態は、粉末状、散剤状、顆粒状、錠剤状等の任意の固形状形態であればよい。原料組成物の形態は、後述するα化を行った後も保持され、そのまま本発明の固形医薬製剤(α化デンプン含有固形医薬製剤)の形態になり得るので、本発明の固形医薬製剤において採用される形態に対応するように適宜調節(成形)されることが望ましい。
【0027】
上記原料組成物の形態を調製する方法については特に制限されない。前述するように、本発明の固形医薬製剤を顆粒状にする場合であれば、工程(i)において、前記割合となるように、原料組成物に結晶セルロースを配合し、押出し造粒により該原料組成物を顆粒状に成形することが望ましい。
【0028】
上記原料組成物は上記(ii)の工程に供されて、該原料組成物中のデンプンをα化される。当該α化は、デンプンのα化に使用されている通常の方法により行うことができる。例えば、上記原料組成物が水を含んでいる場合であれば、該原料組成物に対して、加熱処理を行えばよい。加熱処理は、例えば、蒸気加熱処理、乾熱処理、高周波誘電加熱処理、マイクロウェーブ加熱処理等の公知の加熱処理手段を使用できる。加熱温度は、加熱処理手段やデンプンの種類によって異なるが、通常、75〜100℃、好ましくは80〜100℃に設定することができる。また、加熱時間は加熱処理手段に応じて適宜設定することができる。また例えば、上記原料組成物が水を含んでいない場合であれば、該原料組成物に対して、蒸気加熱処理(例えば、霧吹きで水を散布してからスチームマイクロウェーブ処理、加熱水蒸気による加熱処理等)を行うことにより、該原料組成物中のデンプンをα化することができる。かかる蒸気加熱処理の条件については、上記と同様である。
【0029】
特に、結晶セルロースを含有し、押出し造粒により成形された顆粒状の原料組成物は、均一な(球形度が高い)球形の形状を備えているので、マイクロウェーブ加熱処理に好適に供せられる。通常、表面に凹凸がある球形の原料組成物に対して、マイクロウェーブ加熱処理を行うと、原料組成物の表面の凸部から加熱され、これによって表面から水分の蒸発が起き、α化効率が低下してしまう。これに対して、球形度の高い球状の原料組成物に対してマイクロウェーブ加熱処理を行うと、当該原料組成物は内部から加熱されるため、表面からの水分の蒸発が少なく、加熱処理中に水分が保持されるので、効率的なα化が可能になる。
【0030】
斯くして、上記原料組成物中のデンプンのα化を行うことにより、α化デンプンを含有する製剤が得られる。α化を行って得られた製剤は、水分を含んでいるので、乾燥工程に供して水分を除去することが望ましい。乾燥は常法に従って行うことができる。例えば、乾燥温度については、50〜90℃、好ましくは60〜80℃に設定すればよく、また、乾燥時間については製剤の剤形や乾燥温度等に応じて適宜設定すればよい。
【0031】
本発明の固形医薬製剤は、上記工程(i)、(ii)及び必要に応じて乾燥処理に供することにより得られる製剤(α化処理後の製剤)そのものであってもよいし、また必要に応じて、更に公知の製剤化工程に供することにより、α化処理後の製剤を更に成形加工したものであってもよい。
【0032】
例えば、α化処理して得られた顆粒状の製剤を更に打錠することにより、本発明の固形医薬製剤を錠剤の形態にすることができる。また、α化処理後の製剤又はこれを成形加工したものにコーティングを施すことにより、本発明の固形医薬製剤をコーティング製剤の形態にすることができる。また、α化処理後の製剤又はこれを成形加工したものをカプセルに収容することにより、本発明の固形医薬製剤をカプセル剤の形態にすることもできる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の固形医薬製剤は、製剤の物理的強度が高く、製造中に製剤が破損や崩壊を起こしにくいため、高い収率で簡便に製造できるという利点がある。
【0034】
また、本発明の固形医薬製剤は、製剤の物理的強度が高いにも拘わらず、服用されると消化器官内で持続的、効率的に薬物を放出するという特性を備えており、服用後十分に薬効作用を発揮できる点で優れている。
【0035】
更に、本発明の固形医薬製剤は、賦形剤として、消化器官内でアミラーゼの作用により分解されるα化デンプンを使用しているので、消化性の点においても優れている。
【0036】
また、本発明の製造方法によれば、簡便に、賦形剤としてα化デンプンを含有する固形製剤を調製でき、従来の製造方法では困難であった新規な固形医薬製剤を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0038】
実施例1
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)210g、結晶セルロース(商品名「アビセルPH301」、旭化成社製)30g、及びシロスタゾール(大塚製薬社製)60gを混合し、スピードニーダー(型番NSK-150、岡田精工社製)に投入後、撹拌しながら精製水160gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例1)を調製した。当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出造粒機(ドームグランDG-L1、不二パウダル社製)により押出造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ-400、不二パウダル社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物(原料組成物例1)を得た。この含水顆粒状の原料組成物に対してスチームオーブンレンジ(型番NE-J630、松下電器産業社製)を用いて、700Wで6分間、蒸気加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、蒸気加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、シロスタゾールを20重量%含有する顆粒状固形医薬製剤(実施例1)を得た。
【0039】
比較製造例1
α化トウモロコシデンプン(商品名「アミコール」、日澱化学社製)210g、結晶セルロース(商品名「アビセルPH301」、旭化成社製)30g、及びシロスタゾール(大塚製薬社製)60gを混合し、スピードニーダー(型番NSK-150、岡田精工社製)に投入後、撹拌しながら精製水160gを加えて混合したところ、ニーダー内で混合物が餅状になり、以降の製剤化作業ができなかった。
【0040】
比較例1
含水顆粒状の原料組成物(原料組成物例1)に対して、α化を行うことなく、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、シロスタゾールを20重量%含有する顆粒状固形医薬製剤(比較例1)を得た。
【0041】
実施例2−11
表1及び2に示すデンプン、結晶セルロース及び薬物を混合し、スピードニーダー(型番NSK-150、岡田精工社製)に投入後、撹拌しながら精製水150g〜220gを加えて混合し、各種原料組成物(原料組成物例2−11)を調製した。当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出造粒機(ドームグランDG-L1、不二パウダル社製)により押出造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ-400、不二パウダル社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物(原料組成物例2−11)を得た。この含水顆粒状の原料組成物に対してスチームオーブンレンジ(型番NE-J630、松下電器産業社製)を用いて、700Wで6分間、蒸気加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、蒸気加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例2−11)を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
比較例2−11
含水顆粒状の原料組成物(原料組成物例2−11)のそれぞれに対して、α化を行うことなく、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(比較例2−11)を得た。なお、ここで、比較例2−11の顆粒状固形医薬製剤は、それぞれ原料組成物例2−11から製されたものに対応する。
【0045】
実施例12
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)210g、結晶セルロース(商品名「アビセルPH301」、旭化成社製)30g、及びシロスタゾール(大塚製薬社製)60gを混合し、バーチカルグラニュレータ(型番FM-VG-05P、パウレック社製)に投入後、撹拌しながら精製水160gを加えて造粒し、含水顆粒(原料組成物例8)を得た。この含水顆粒に対してスチームオーブンレンジ(型番NE-J630、松下電器産業社製)を用いて、700Wで6分間、蒸気加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、蒸気加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、シロスタゾールを20重量%含有する顆粒状固形医薬製剤(実施例12)を得た。
【0046】
実施例13
比較例1で製した顆粒20gを取り、直径約11cmの水を含ませたろ紙の上に載せ、霧吹きで顆粒表面を濡らせた後、スチームオーブンレンジ(型番NE-J630、松下電器産業社製)を用いて、700Wで3分間、蒸気加熱処理を行い、顆粒中のトウモロコシデンプンをα化した。次いで、蒸気加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、シロスタゾールを20重量%含有する顆粒状固形医薬製剤(実施例13)を得た。
【0047】
実施例14及び15
比較例3及び7で製した顆粒20gを取り、実施例13と同様に処理してシロスタゾールを20重量%含有する顆粒状固形医薬製剤(実施例14及び15)を得た。
【0048】
実施例16−23
表3に示す各種成分を混合し、スピードニーダー(型番NSK-150、岡田精工社製)に投入後、撹拌しながら精製水150g〜220gを加えて混合し、各種原料組成物(原料組成物例16−23)を調製した。当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出造粒機(ドームグランDG-L1、不二パウダル社製)により押出造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ-400、不二パウダル社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物(原料組成物例16−23)を得た。この含水顆粒状の原料組成物に対してスチームオーブンレンジ(型番NE-J630、松下電器産業社製)を用いて、700Wで6分間、蒸気加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、蒸気加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例16−23)を得た。
【0049】
【表3】

【0050】
比較例16−23
含水顆粒状の原料組成物(原料組成物例16−23)のそれぞれに対して、α化を行うことなく、60℃に設定した送風乾燥器内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(比較例16−23)を得た。なお、ここで、比較例16−23の顆粒状固形医薬製剤は、それぞれ原料組成物例16−23から製されたものに対応する。
【0051】
試験例1 製剤強度の評価
実施例1―2及び比較例1−2の顆粒状固形医薬製剤の1粒子(粒径:約0.6mm)の製剤強度を島津オートグラフ(型番AG-I、島津製作所社製)により測定した(n=3)。結果を表4に示す。なお、表中の強度は、製剤1粒子に対して負荷を加えていき、製剤(粒子)が破断した際の負荷(N)である。この結果、実施例1及び2の固形医薬製剤は、比較例1及び2に比して2〜3倍程度も製剤強度が高いことが明らかとなり、デンプンをα化することによって製剤強度が顕著に向上することが分かった。
【0052】
【表4】

【0053】
試験例2 薬物放出特性の評価
実施例3、14及び比較例3の顆粒状固形医薬製剤を用いて、薬物放出特性について評価した。具体的には、500mgの顆粒状固形医薬製剤(実施例3、14及び比較例3)を用い、溶出液として0.3重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液900mLを用いて、日本薬局方溶出試験法第2法パドル法50rpmの方法で試験を行い、溶出液中に溶出したシロスタゾール量を経時的に測定して、製剤中から溶出したシロスタゾールの割合(溶出率)(%)を求めた。なお、本試験において、消化器管内を想定し、試験開始4時間後に溶出液中に0.18gのアミラーゼ(活性20 units/mg以上、商品名「α-アミラーゼ」、和光純薬社製)を添加した。
【0054】
得られた結果を図1に示す。実施例3、14及び比較例3の製剤は、アミラーゼを添加するまでは、同程度の薬物溶出挙動を示した。一方、アミラーゼ添加後では、実施例3及び14の製剤では薬物溶出速度が顕著に上昇した。これに対して、比較例3の製剤では、アミラーゼを添加しても、薬物溶出速度に変化は認められなかった。
【0055】
以上の結果から、本発明の固形医薬製剤は、投与されて消化器官内、特に小腸以降の消化器官内に達すると、アミラーゼの作用を受けて速やかに薬物を溶出(放出)する特性を有していることが確認された。
【0056】
試験例3 薬物放出特性の評価(2)
実施例9及び比較例9の顆粒状固形医薬製剤を用いて、薬物放出特性について評価した。具体的には、250mgの顆粒状固形医薬製剤(実施例9及び比較例9)を用い、溶出液として0.09gのアミラーゼ(活性20 units/mg以上、商品名「α-アミラーゼ」、和光純薬社製)を含む0.5重量%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液900mLを用いて、日本薬局方溶出試験法第2法パドル法50rpmの方法で試験を行い、試験開始4時間後に溶出液中に溶出したフェニトイン量を測定して、製剤中から溶出したフェニトインの割合(溶出率)(%)を求めた。また、比較として、アミラーゼを含まない溶出液を使用すること以外は、前記と同様に試験を行い、フェニトインの割合(溶出率)(%)を求めた。
【0057】
得られた結果を表5に示す。比較例9のフェニトイン溶出率は、溶出試験液へのアミラーゼ添加の有無に関わらず同様であったのに対し、実施例9では、アミラーゼなしの溶出試験液では比較例9と同様な値であるが、アミラーゼ添加した試験液では溶出率が顕著に高くなっており、本発明の固形医薬製剤は、投与されて消化器官内、特に小腸以降の消化器官内に達すると、アミラーゼの作用を受けて速やかに薬物を溶出(放出)する特性を有していることが確認された。
【0058】
【表5】

【0059】
試験例4 薬物動態評価(1)
実施例3または比較例3で製造したシロスタゾール20%含有顆粒の500mg(シロスタゾールとして100mg量)を4匹のビーグル犬に空腹下経口投与し、経時的に採血を行い血中シロスタゾール濃度を測定した。また、同様に市販プレタール錠(シロスタゾールとして100mg相当量、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、カルメロースカルシウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びステアリン酸マグネシウム含有)(比較例13)を経口投与し、経時的に採血を行い血中シロスタゾール濃度(n=4)を測定した。また、別途、実施例3で製造したシロスタゾール20%含有顆粒の500mg(シロスタゾールとして100mg量)をビーグル犬に食後投与を行い、同様に経時的採血を行い、血中シロスタゾール濃度(n=4)を測定した。得られた血中濃度推移の比較を図2に、また算出した薬物動態パラメータ(平均±SD)を表6に示す。
【0060】
【表6】

【0061】
表6より、比較例3では、比較例13(市販プレタール錠)と比べてCmaxは抑制するものの、同様にAUCも低下しており、ただ単に放出を低下させただけであるのに対して、実施例3では比較例13(市販プレタール錠)と比べてCmaxを57%まで抑制しながらAUC∞は94%を維持しており、良好な徐放性を示している。また、実施例3を食後投与した場合も、血中濃度は空腹下投与時と同様に推移し、薬物動態パラメーターに大きな変化は見られず、薬物動態への食事の影響が少ない製剤であると言える。
【0062】
また、図2から明らかなように、比較例3では2時間以降の血中シロスタゾール濃度は低下しており、明らかに消化管内での薬物放出が不充分であるといえるのに対し、実施例3では消化管内での持続的なシロスタゾール放出に起因して血中濃度が持続的に維持されている。
【0063】
以上のように、本発明の製剤は消化管内で十分に薬剤を放出でき、特に消化管下部の水の少ない部位での溶出が不充分である難溶性薬剤においては、徐放化して消化管内に移行した後も十分に薬剤を放出でき、徐放性製剤化に有用であることが確認された。
【0064】
試験例5 薬物動態評価(2)
実施例3または比較例3で製造したシロスタゾール20%含有顆粒の代わりに、実施例23または比較例23で製造したシロスタゾール50%含有顆粒を使用して、上記試験例5と同様の方法で、薬物動態を評価した。得られた血中濃度推移の比較を図3に、また算出した薬物動態パラメータ(平均±SD)を表7に示す。
【0065】
【表7】

【0066】
表7から分かるように、実施例23では、比較例13(市販プレタール錠)と比べてCmaxを66%まで抑制しながらAUC∞を高い割合で維持しており、優れた徐放特性を示した。また、図3から明らかなように、実施例23では消化管内での持続的なシロスタゾール放出に起因して血中濃度が持続的に維持されていた。以上の結果から、本試験においても、試験例4と同様、本発明の製剤は、持続的且つ効率的に薬物を放出できることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】試験例2において測定した固形医薬製剤(実施例3、14及び比較例3)の溶出特性を示す図である。
【図2】試験例4において測定した固形医薬製剤(実施例3、比較例3及び13)の平均血中シロスタゾール濃度の経時的変化を示す図である。
【図3】試験例5において測定した固形医薬製剤(実施例23、比較例13及び23)の平均血中シロスタゾール濃度の経時的変化を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)薬物及び(b)10〜90重量%のα化デンプンを含有することを特徴とする、固形医薬製剤。
【請求項2】
下記工程(i)及び(ii)の工程を含む製造方法により得られる固形医薬製剤:
(i)薬物及びデンプンを含有する原料組成物を調製する工程、及び
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。
【請求項3】
デンプンがトウモロコシデンプンである、請求項2に記載の固形医薬製剤。
【請求項4】
顆粒又は散剤である、請求項2又は3に記載の固形医薬製剤。
【請求項5】
徐放性製剤である、請求項2乃至4のいずれかに記載の固形医薬製剤。
【請求項6】
薬剤が水難溶性のものである、請求項2乃至5のいずれかに記載の固形医薬製剤。
【請求項7】
薬剤がシロスタゾールである、請求項2乃至6のいずれかに記載の固形医薬製剤。
【請求項8】
下記工程(i)及び(ii)を含む、固形医薬製剤の製造方法:
(i)薬物及びデンプンを含有する原料組成物を調製する工程、及び
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−1924(P2006−1924A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−134403(P2005−134403)
【出願日】平成17年5月2日(2005.5.2)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】