説明

固形医薬製剤

本発明は、(a)薬物、(b)製剤の総重量に対して10〜90重量%のα化デンプンおよび(c)1種または2種以上の腸溶性成分を含有することを特徴とする、徐放性固形医薬製剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形医薬製剤に関する。更に詳しくは、(a)薬物、とりわけシロスタゾール、(b)製剤の総重量に対して10〜90重量%のα化デンプンおよび(c)1種または2種以上の腸溶性成分を含有することを特徴とする、徐放性固形医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
徐放性固形製剤は、活性成分の血中濃度をコントロールすることにより、投与条件の改善(すなわち、投与回数の減少)ができること、生体内の消失半減期の短い活性成分の持続性が改善できること、血中濃度と副作用発現濃度幅の狭い活性成分の副作用を低減できること等から有用性の高い製剤である。
【0003】
一方、シロスタゾールは、下記式(1)で示される6−[4−(1−シクロヘキシル−1H−テトラゾール−5−イル)ブトキシ]−3,4−ジヒドロカルボスチリルであって、高い血小板凝集抑制作用を示すほか、ホスホジエステラーゼ阻害作用、抗潰瘍作用、降圧作用、消炎作用などを有することから、抗血栓剤、脳循環改善剤、消炎剤、抗潰瘍剤、降圧剤、抗喘息剤、ホスホジエステラーゼ阻害剤等として広く用いられており、既にシロスタゾール錠であるプレタール錠50およびプレタール錠100(大塚製薬、いずれも登録商標)が販売されている(特許文献1参照)。また、シロスタゾールは、抹消血管拡張作用を併せ持つ点から、慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛および冷感等の虚血性諸症状の改善にも用いられている。
【化1】

【0004】
シロスタゾール錠は、通常成人には1日2回経口投与で用いられているが、特に高齢の患者が主な対象である本剤においては、服用回数の改善が望まれており、特に1日1回の経口投与が可能な徐放性製剤の開発が望まれていた。また、食後投与では空腹時投与に比べて、Cmaxが2.3倍、AUCが1.4倍と食事の影響を受けることが知られており、食事の影響の少ない製剤の開発が望まれていた。
更に、シロスタゾールの血管拡張作用は、血流量を増加させるなど有益な面がある一方、頭痛や動悸を起こす原因となる。シロスタゾール服用患者においては、副作用として頭痛の発現が見られる場合があり、頭痛の発現を減らすには、最高血漿中濃度を抑えるとともに、連続投与時において十分な有効血漿中濃度を維持できるような徐放性製剤が必要とされていた。
【0005】
通常経口医薬製剤は、強い酸性域にある胃を通り、腸内では中性からアルカリ性域に変わるなど大腸に達するまでには種々のpH域を通ることから、経口医薬製剤を徐放性製剤にするには、種々変動するpHの消化管内を通過して消化管下部(小腸下部および大腸)まで薬剤を到達せしめることが必要となる。さらに、1日1回投与とすることや副作用の軽減を目的としてCmaxを抑えながらも有効血中濃度を維持するような徐放性製剤にするには、消化管下部に到達してもなお、十分に徐々に薬物を放出せしめる必要がある。
【0006】
消化管下部における薬物放出を意図した徐放化技術としては、腸溶性被膜を被覆した腸溶性製剤が知られている。しかしながら、この技術では薬物の放出を被膜によって制御するため、フィルムコーティング操作を必要とし、医薬製剤の製造工程が煩雑となる。
【0007】
一方、メタクリル酸系の腸溶性高分子を用いて徐放性製剤化されたマトリックス製剤が知られており、腸溶性高分子化合物の鋭いpH応答性により、精緻な薬物放出制御の可能性が示唆されている。このような製剤としては、例えば、腸溶性高分子化合物及び薬物を混合した後、圧縮成型法(打錠)によって得られるマトリックス製剤が知られている(例えば特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかしながら、このような錠剤の製剤においては、表面積が小さいことから、溶解度が低く、溶解速度が遅い難溶性薬物の場合には、薬物放出に障害をきたすことにもなる。
【0008】
また、メタクリル酸コポリマーSを含む混合粉末をエタノールで湿式練合し、押出し造粒法によって得られる製剤が知られている(特許文献6)。この製剤は、粒状剤であり、消化管内で適度に分散されるので、錠剤よりも薬物吸収の個体間変動を小さく抑えることができる。しかしながら、薬物放出制御を十分なものにするためにマトリックス製剤中の腸溶性高分子化合物の配合比率を高めた場合には、製造工程が困難なものになるという問題点があった。
【0009】
このように薬物放出を制御する様々な方法が検討されているが、何れの方法においても、バースト現象や小腸内のpH変動により薬物放出速度が小腸内で変化してしまうおそれがあった。
【0010】
ところで、デンプンは賦形剤として広く使用されており、安定性や安全性に優れていることに加え、押出し造粒顆粒の賦形剤として使用した場合には、造粒工程を容易にするという利点がある。しかしその反面、固形製剤の強度が低下するという欠点があり、また服用後の薬物放出特性の点においても十分でない場合があった。
本発明者らは、上記デンプンを賦形剤として配合した医薬製剤の問題点を解決するべく種々の検討を行い、薬物とデンプンを混合した後、または混合成型後にデンプンをα化することによって、得られる固形医薬製剤は、製剤の物理的強度が高く、服用後の薬物放出特性や賦形剤の消化性において優れていることを既に見出している(特許文献7)。しかしながら、薬物によっては(例えば、シロスタゾールにおいては)その吸収を持続化させるため、アミラーゼ作用後の小腸から大腸にいたる部位での放出速度を更にコントロールする必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭63−20235号公報
【特許文献2】特公平4−43049号公報
【特許文献3】特開平6−199657号公報
【特許文献4】米国特許4,968,508号明細書
【特許文献5】米国特許公開2006/0159753号公報
【特許文献6】特開平6−24991号公報
【特許文献7】国際公開WO2005/113009号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、薬物、特に、シロスタゾールの、α化デンプンを賦形剤として配合した固形医薬製剤における上記の課題を解決することであり、すなわち、なお十分でなかった消化管下部での薬物放出特性を制御し、投与回数の軽減、Cmaxの抑制による副作用の軽減等を目的とした徐放性固形医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、マトリックスであるα化デンプン製剤に、腸溶性成分を配合することで、アミラーゼ作用後の薬物放出速度をコントロールする技術を見出した。また、腸溶性成分においては、一定の腸溶性成分を選択することで、より優れた製剤プロファイル示すことを見出し、更に、有機酸を配合することで、体内動態にも影響を及ぼすことも見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に検討を重ねることによって完成したものである。
【0014】
すなわち、本発明は以下の発明に関する。
【0015】
本発明は、(a)薬物、(b)製剤の総重量に対して10〜90重量%のα化デンプンおよび(c)1種または2種以上の腸溶性成分を含有することを特徴とする、固形医薬製剤を提供する。ここで、薬物は、特に、難溶性薬物を対象とし、例えば、シロスタゾールである。ここで固形医薬製剤は、望ましくは、徐放性固形医薬製剤である。
また、本発明は、上記固形医薬製剤で、(c)の腸溶性成分がメタクリル酸コポリマーLDのみからなるものを除く固形医薬製剤を提供する。
【0016】
また、本発明は、上記1種または2種以上の腸溶性成分に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、および/またはメタクリル酸コポリマーSが含まれる上記の固形医薬製剤を提供する。
好ましくは、本発明の1種または2種以上の腸溶性成分は、各腸溶性成分が溶解しうるpHの範囲が異なる2種以上の腸溶性成分であり、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS、およびメタクリル酸コポリマーLDからなる群から選択してもよい。更に、本発明の1種または2種以上の腸溶性成分は、以下の2種以上の腸溶性成分が好ましい。一方は溶解するpHが5以上で、他方は溶解するpHが6以上である、または一方は溶解するpHが6以上で、他方は溶解するpHが7以上である。
更に好ましくは、上記腸溶性成分には、メタクリル酸コポリマーLDのみからなるものを除くメタクリル酸コポリマーが含まれる。好ましくは、1種または2種以上の腸溶性成分は、メタクリル酸コポリマーLおよび/またはメタクリル酸コポリマーSを含み、より好ましくはメタクリル酸コポリマーLおよびメタクリル酸コポリマーSを含む。メタクリル酸コポリマーLとメタクリル酸コポリマーSの割合は、これらに限らないが、30:70から70:30、40:60から60:40、または約50:50が好ましい。
【0017】
更に、本発明は、有機酸を更に配合する上記の固形医薬製剤を提供する。ここで、有機酸の配合量は該製剤の総重量に対して0.5重量%〜5重量%、好ましくは1重量%〜3重量%、更に好ましくは約2重量%である。有機酸の例としてはクエン酸が好ましい。更に、腸溶性成分としてメタクリル酸コポリマーSと有機酸としてクエン酸の組み合わせが好ましい。
【0018】
本発明は、α化デンプンの原料がトウモロコシデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、キャッサバデンプン、およびタピオカデンプンから選択される1種または2種以上のデンプンである上記の固形医薬製剤を提供する。好ましいα化デンプンの原料はトウモロコシデンプンである。
【0019】
また、本発明は、形状が粒状である上記の固形医薬製剤を提供し、あるいは顆粒または細粒である上記の固形医薬製剤を提供する。ここで顆粒または細粒は、押し出しにより調製した顆粒または細粒が好ましい。また、本発明は、これら粒状の固形医薬製剤、あるいは顆粒または細粒の固形医薬製剤のいずれか、またはすべてを充填したカプセル剤を提供し、あるいは、これら粒状の固形医薬製剤、あるいは顆粒または細粒の固形医薬製剤のいずれか、またはすべてを含んだ錠剤を提供する。
【0020】
更に、本発明は、(i)薬物、デンプンおよび1種または2種以上の腸溶性成分を混合して、出発組成物を調製すること、および(ii)出発組成物のデンプンをα化することを含む上記の固形医薬製剤の製造方法を提供する。工程(i)中のデンプンには、デンプン、部分α化デンプン、および/またはα化デンプンの1つまたは混合物が含まれるが、ただし工程(i)中のデンプンがα化デンプンのみであることはない。本発明はまた、上記の製剤の製造方法であって、製造工程中で加熱することでデンプンをα化することを特徴とする方法を提供する。また、ここでの製造工程中での加熱が加湿しながら加熱することを特徴とする方法も提供する。更にこれらの方法により製造された固形医薬製剤を提供する。
【0021】
また、本発明は、薬物を含有する速放性の顆粒または細粒と、上記の徐放性顆粒または細粒を充填したカプセル剤を提供する。
【0022】
以下、本発明の固形医薬製剤およびその製造方法を詳細に説明する。
固形医薬製剤
本発明の固形医薬製剤は、(a)薬物、(b)α化デンプンおよび(c)1種または2種以上の腸溶性成分を含有することを特徴とするものである。
【0023】
本発明の固形医薬製剤は、該製剤の総重量に対して、α化デンプンを通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、更に好ましくは25〜70重量%の割合で含むものである。このような割合でα化デンプンを含有することによって、固形医薬製剤は、製剤強度が高く、服用後に消化器官内で持続的・効率的に薬物を放出させるという特性を備えることができる。
【0024】
本発明で用いられる原料のデンプンは、特に制限されないが、トウモロコシデンプン、コムギデンプン、バレイショデンプン、コメデンプン、キャッサバデンプン、タピオカデンプン等の通常のデンプンが挙げられ、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。なお、本発明で使用する原料のデンプンは、上記のデンプンの部分α化デンプンおよび/またはα化デンプンとの混合物であってもよい。デンプンのα化は固形製剤の製造工程中に行ってもよく、好ましくはデンプンを薬物および他の医薬担体と混合して得られる医薬組成物の形態で行ってもよい。デンプンのα化はデンプンの部分α化も包含する。
【0025】
これらのα化デンプンの中で、好ましくは、α化トウモロコシデンプン、α化バレイショデンプン、α化コムギデンプンが挙げられる。トウモロコシデンプンは、粒子径が10〜30μmと揃っているため成型し易く、α化後の取扱いが容易である、及び他のデンプンより吸湿性が低い等の利点があるので、α化トウモロコシデンプンは特に好適に使用されるα化デンプンである。
【0026】
本発明に使用される腸溶性成分は、胃内で溶解せず、腸内で溶解するような性質を有するものであれば、特に限定されることなく、一般的に使用されているものが使用できる。具体的には、例えば、セルロースアセテートフタレート、セルロースアセテートトリメリテート、セルロースアセテートサクシネート、メチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシメチルエチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエート、ヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテート、カルボキシメチルエチルセルロースなどの腸溶性セルロース誘導体、ポリビニルブチレートフタレート、ポリビニルアルコールアセテートフタレートなどのビニル誘導体、メタクリル酸とアクリル酸エチルの共重合体(例えばメタクリル酸/エチルアクリレート)、メタクリル酸とメタクリル酸メチルの共重合体(例えば、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS)などの腸溶性アクリル酸系共重合体等が挙げられる。これらの腸溶性成分は一種のみを用いることも、また2種以上を併用することも可能である。上記の中でも、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーSが好ましく、更には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーSが好ましい。2種以上の腸溶性成分を用いる場合には、溶解するpHの異なる2種以上を併用することが好ましい。この場合、腸溶性成分としてはヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS、メタクリル酸コポリマーLDなどが挙げられる。更には、溶解するpHが6以上である腸溶性成分(例えば、メタクリル酸コポリマーL)と、溶解するpHが7以上である腸溶性成分(例えば、メタクリル酸コポリマーS)の2種類を併用することが好ましい。また、溶解するpHが5以上である腸溶性成分と、溶解するpHが6以上である腸溶性成分の2種類を併用することも好ましい。更に好ましくは、腸溶性成分はメタクリル酸コポリマーLおよび/またはメタクリル酸コポリマーSであり、更に好ましくは、メタクリル酸コポリマーLおよびメタクリル酸コポリマーSである。また、腸溶性成分を1種単独で用いる場合には、有機酸と併用することが好ましい。中でも、腸溶性成分としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーSが好ましく、有機酸としてはクエン酸が好ましい。ここで、腸溶性成分の配合量は製剤の総重量に対して1重量%〜30重量%、好ましくは5重量%〜20重量%、更に好ましくは5重量%〜15重量%である。
【0027】
また、本発明の固形医薬製剤に用いられる薬物は、経口投与可能なものであれば、その薬効やその種類については、特に制限されるものではなく、水易溶性薬物又は水難溶性薬物のいずれであってもよい。薬物の一例として、呼吸器官用製剤、消化器官用製剤、循環器官用製剤、中枢神経用製剤、末梢神経用製剤、抗生物質製剤、化学療法剤、抗腫瘍剤、血小板凝集抑制剤、抗アレルギー剤、ビタミン剤、栄養剤等の各種製剤に配合される通常の薬物を挙げることができる。薬物として、好ましくは水難溶性薬物である。また、該薬物として、「Waiver of in Vivo Bioavailability and Bioequivalents Studies for Immediate Release Solids Dosage Forms Containing Certain Active Moieties/Active Ingredients Based on Biopharmaceutics Classification System(FDAガイダンス)」(本明細書において「バイオファーマシューティックスクラシフィケーションシステム」と記すこともある)において、クラスII(High Permeability, Low Solubility)に分類される薬物を好適に使用できる。このように水に対して難溶性を示す薬物は、徐放性製剤として製剤化されると、消化器官内で持続的、効果的に薬物を放出するという特性を備えており、服用後十分に薬効を発揮できる。
【0028】
本発明において、薬物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0029】
本発明の固形医薬製剤に用いられる薬物の具体例としては、例えばテオフィリン、グレパフロキサシン、カルテオロール、プロカテロール、レバミピド、アリピプラゾール、シロスタゾール、フィズリン、トルバプタン、アセトアミノフェン、ニフェジピン、ケトプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナック、イトラコナゾール、ピロキシカム、フェニトイン、ベラパミル等が例示される。これらの薬物の中で、好ましくは、シロスタゾール、ケトプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナック、イトラコナゾール、ピロキシカム、フェニトイン、ベラパミル、更に好ましくは、シロスタゾールが挙げられる。これらの薬物は徐放性製剤とする場合に、特に有用である。
【0030】
固形医薬製剤中の上記薬物の配合割合については、使用する薬物の種類や薬効、投与対象者の性別や年齢等に応じて異なるが、例えば、該組成物の総量(乾燥重量)に対して0.01〜70重量%、好ましくは0.1〜60重量%、更に好ましくは1〜60重量%が例示される。
【0031】
本発明の固形医薬製剤に用いられる有機酸としては、例えば、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられる。これらの有機酸は、1種単独でまたは2種以上混合して使用される。上記の中でも、クエン酸が好ましい。
【0032】
また、固形医薬製剤は、本発明の効果を妨げないことを限度として、その他の賦形剤、結合剤、pH調整剤、崩壊剤、吸収促進剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、香料等の固形医薬製剤に配合可能な各種添加剤を適当量含有することができる。
【0033】
かかる添加剤として、具体的には、乳糖、白糖、マンニトール、塩化ナトリウム、ブドウ糖、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸塩等の賦形剤;水、エタノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースNa、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ゼラチン、デキストリン、プルラン等の結合剤;クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム等のpH調整剤;カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン等の崩壊剤;ポリソルベート80等の可塑剤;第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、ショ糖脂肪酸類等の滑沢剤;黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、βカロテン、酸化チタン、食用色素(例えば、食用青色1号等)、銅クロロフィル、リボフラビン等の着色剤;並びにアスコルビン酸、アスパルテーム、アマチャ、塩化ナトリウム、果糖、サッカリン、粉糖等の矯味剤等が例示できる。
【0034】
本発明の固形医薬製剤は、粉末状、粒状、散剤状、顆粒状、錠剤状等の任意の固形状形態をとることができる。また、本発明の固形医薬製剤は、コーティング製剤やカプセル剤の形態であってもよい。本発明の固形医薬製剤の上記各種形態の内、好ましい形態の一例として顆粒状及び散剤状が挙げられる。
【0035】
特に、顆粒状の形態にする場合、固形医薬製剤には、結晶セルロースを配合しておくことが望ましい。結晶セルロースを配合しておくことによって、球形整粒により球形化し易くなり、押出し造粒による顆粒状の製剤の成形を容易に行うことができるという利点が得られる。また、球形化によって、カプセル等への充填性が良好になり、またコーティング効率が高められるという利点も得られる。このように、結晶セルロースを固形医薬製剤に配合する場合、該結晶セルロースの配合割合としては、該医薬製剤の総重量に対して、例えば2〜90重量%、好ましくは5〜80重量%、更に好ましくは5〜70重量%が挙げられる。
【0036】
また、本発明のカプセル剤においては、薬物を含有する速放性の顆粒または細粒と、徐放性顆粒または細粒を充填したカプセル剤として、薬物の血中濃度の一定化を図ることができる。
【0037】
製造方法
本発明の固形医薬製剤は、薬物、デンプンおよび腸溶性成分を含有する組成物(以下、これを原料組成物と記す)をα化することにより製造される。具体的には、下記(i)及び(ii)の工程を経て、上記固形医薬製剤は製造される。
(i)薬物、デンプンおよび腸溶性成分を含有する原料組成物を調製する工程、および
(ii)該原料組成物中のデンプンをα化する工程。
【0038】
上記工程(i)で調製される原料組成物に含有される成分は、工程(ii)でデンプンがα化デンプンに変換される以外は、そのまま本発明の固形医薬製剤の含有成分となる。故に、工程(i)において、本発明の固形医薬製剤に配合される薬物、α化デンプンの原料となるデンプン、及び任意成分(各種添加剤)を、固形医薬製剤における各含有比率と一致する割合で含むように混合して、原料組成物を調製する。
【0039】
上記原料組成物は、上記成分の他に、更に水を含んでいることが望ましい。水を含む場合、該原料組成物中の水の含有量については、特に制限されないが、例えば、該原料組成物の総量に対して、30〜80重量%、好ましくは40〜80重量%、更に好ましくは40〜70重量%が例示される。このような割合で水を含むことによって、該原料組成物の成形が容易になり、更には、次工程のデンプンのα化を効率的に行うことが可能になる。
【0040】
上記原料組成物の形態は、粉末状、散剤状、顆粒状、錠剤状等の任意の固形状形態であればよい。原料組成物の形態は、工程(ii)でα化を行った後も保持され、そのまま本発明の固形医薬製剤(α化デンプン含有固形医薬製剤)の形態になり得るので、本発明の固形医薬製剤において採用される形態に対応するように適宜調節(成形)されることが望ましい。
【0041】
上記原料組成物の形態を調製する方法については特に制限されず、通常の方法で行われる。本発明の固形医薬製剤を顆粒状にする場合であれば、工程(i)において、前記割合となるように、原料組成物に結晶セルロースを配合し、押出し造粒により該原料組成物を顆粒状に成形することが望ましい。
【0042】
上記原料組成物は上記(ii)の工程に供されて、該原料組成物中のデンプンをα化される。当該α化は、デンプンのα化に使用されている通常の方法により行うことができる。例えば、上記原料組成物が水を含んでいる場合であれば、該原料組成物に対して、加熱処理を行えばよい。加熱処理は、例えば、蒸気加熱処理、乾熱処理、高周波誘電加熱処理、マイクロウェーブ加熱処理等の公知の加熱処理手段を使用できる。加熱温度は、加熱処理手段やデンプンの種類によって異なるが、通常、75〜100℃、好ましくは80〜100℃に設定することができる。また、加熱時間は加熱処理手段に応じて当業者が適宜設定することができる。
また例えば、上記原料組成物が水を含んでいない場合であれば、該原料組成物に対して、蒸気加熱処理(例えば、水を噴霧してからスチームマイクロウェーブ処理等)を行うことにより、該原料組成物中のデンプンをα化することができる。かかる蒸気加熱処理の条件については、上記と同様である。
【0043】
特に、結晶セルロースを含有し、押出し造粒により成形された顆粒状の原料組成物は、均一な(球形度が高い)球形の形状を備えているので、マイクロウェーブ加熱処理に好適に供せられる。通常、表面に凹凸がある球形の原料組成物に対して、マイクロウェーブ加熱処理を行うと、原料組成物の表面の凸部から加熱され、これによって表面から水分の蒸発が起き、α化効率が低下してしまう。これに対して、球形度の高い球状の原料組成物に対してマイクロウェーブ加熱処理を行うと、当該原料組成物は内部から加熱されるため、表面からの水分の蒸発が少なく、加熱処理中に水分が保持されるので、効率的なα化が可能になる。
【0044】
斯くして、上記原料組成物中のデンプンのα化を行うことにより、α化デンプンを含有する製剤が得られる。α化を行って得られた製剤は、水分を含んでいるので、乾燥工程に供して水分を除去することが望ましい。乾燥は常法に従って行うことができる。例えば、乾燥温度については、50〜90℃、好ましくは60〜80℃に設定すればよく、また、乾燥時間については製剤の剤形や乾燥温度等に応じて当業者が適宜設定すればよい。
【0045】
本発明の固形医薬製剤は、上記工程(i)、(ii)及び必要に応じて乾燥処理に供することにより得られる製剤(α化処理後の製剤)そのものであってもよいし、また必要に応じて、更に公知の製剤化工程に供することにより、α化処理後の製剤を更に成形加工したものであってもよい。
例えば、α化処理して得られた顆粒状の製剤を更に打錠することにより、本発明の固形医薬製剤を錠剤の形態にすることができる。また、α化処理後の製剤又はこれを成形加工したものにコーティングを施すことにより、本発明の固形医薬製剤をコーティング製剤の形態にすることができる。また、α化処理後の製剤又はこれを成形加工したものをカプセルに収容することにより、本発明の固形医薬製剤をカプセル剤の形態にすることもできる。
【発明の効果】
【0046】
本発明の固形医薬製剤は、腸溶性成分をコーティングするのではなく、マトリックスとして配合するため、製剤の製造が容易であり、更に顆粒等ではコーティングに比べて短時間で処理できるため、製造コストの削減が図れるものである。
また、本発明の固形医薬製剤は、製剤の物理的強度が高く、服用後の賦形剤の消化性や薬物放出特性、特に小腸から大腸に至る部位での薬物放出特性の点において優れている。そして、小腸のアミラーゼで製剤自体が消化されて崩壊した後、任意の腸溶性成分さらには有機酸の作用により薬物放出速度がコントロールされるという特性を備えており、1日1回投与、副作用の軽減等、複数の徐放目的を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1と対照例1の固形医薬製剤の溶出挙動を示すグラフである。
【図2】実施例2と対照例2の固形医薬製剤の溶出挙動を示すグラフである。
【図3】実施例3と対照例3の固形医薬製剤の溶出挙動を示すグラフである。
【図4】実施例4と対照例4の固形医薬製剤の溶出挙動を示すグラフである。
【図5】実施例5と対照例5の固形医薬製剤の溶出挙動を示すグラフである。
【図6】実施例6と対照例6の固形医薬製剤の溶出挙動を示すグラフである。
【図7】実施例4〜6と対照例7を投与した場合の血漿中の平均シロスタゾール濃度の経時変化を示すグラフである(n=7、平均値±標準偏差)。
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、実施例、試験例等に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
実施例1
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)90g、結晶セルロース(商品名「セオラスPH301」、旭化成社製)30g、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(商品名「AS−HF」、信越化学工業社製)30g、およびシロスタゾール(大塚製薬社製)150gを混合し、スピードニーダー(型番NSK−150、岡田精工社製)に投入後、攪拌しながら4%ポリソルベート80水溶液37.5mL(ポリソルベート80として1.5g)および精製水92.5gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例1)を調製した。
当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出し造粒機(ドームグランDG−L1、ダルトン社製)により押出し造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ−400、ダルトン社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物を得た。
この含水顆粒状の原料組成物に対して、加湿加熱機(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、「あたためモード」で20分間、加湿加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、加湿加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例1)を得た。
【0050】
実施例2
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)90g、結晶セルロース(商品名「セオラスPH301」、旭化成社製)30g、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート(商品名「AS−HF」、信越化学工業社製)30g、およびシロスタゾール(大塚製薬社製)150gを混合し、スピードニーダー(型番NSK−150、岡田精工社製)に投入後、攪拌しながら4%ポリソルベート80水溶液37.5mL(ポリソルベート80として1.5g)および精製水67.5gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例2)を調製した。
当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出し造粒機(ドームグランDG−L1、ダルトン社製)により押出し造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ−400、ダルトン社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物を得た。
この含水顆粒状の原料組成物に対して、加湿加熱機(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、「あたためモード」で20分間、加湿加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、加湿加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例2)を得た。
【0051】
実施例3
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)69g、結晶セルロース(商品名「セオラスPH301」、旭化成社製)51g、メタクリル酸コポリマーL(商品名「Eudragit L100」、エボニック社製)30g、およびシロスタゾール(大塚製薬社製)150gを混合し、スピードニーダー(型番NSK−150、岡田精工社製)に投入後、攪拌しながら精製水130gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例3)を調製した。
当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出し造粒機(ドームグランDG−L1、ダルトン社製)により押出し造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ−400、ダルトン社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物を得た。
この含水顆粒状の原料組成物に対して、加湿加熱機(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、「あたためモード」で20分間、加湿加熱処理を行い、トウモロコシデンプンをα化した。次いで、加湿加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例3)を得た。
【0052】
実施例4
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)69g、結晶セルロース(商品名「セオラスPH301」、旭化成社製)21g、メタクリル酸コポリマーL(商品名「Eudragit L100」、エボニック社製)15g、メタクリル酸コポリマーS(商品名「Eudragit S100」、エボニック社製)15g、α化デンプン(商品名「アミコールC」、日澱化学社製)30g、およびシロスタゾール(大塚製薬社製)150gを混合し、スピードニーダー(型番NSK−150、岡田精工社製)に投入後、攪拌しながら4%ポリソルベート80水溶液75mL(ポリソルベート80として3g)および精製水20gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例4)を調製した。
当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出し造粒機(ドームグランDG−L1、ダルトン社製)により押出し造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ−400、ダルトン社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物を得た。
この含水顆粒状の原料組成物に対して、加湿加熱機(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、「あたためモード」で20分間、加湿加熱処理を行い、デンプンをα化した。次いで、加湿加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例4)を得た。
【0053】
実施例5
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)69g、結晶セルロース(商品名「セオラスPH301」、旭化成社製)21g、メタクリル酸コポリマーS(商品名「Eudragit S100」、エボニック社製)30g、α化デンプン(商品名「LYCATAB PGS」、ロケット社製)30g、およびシロスタゾール(大塚製薬社製)150gを混合し、スピードニーダー(型番NSK−150、岡田精工社製)に投入後、攪拌しながら4%ポリソルベート80水溶液75mL(ポリソルベート80として3g)および精製水20gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例5)を調製した。
当該原料組成物を直径0.6mm穴のドームダイを装着した押出し造粒機(ドームグランDG−L1、ダルトン社製)により押出し造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ−400、ダルトン社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物を得た。
この含水顆粒状の原料組成物に対して、加湿加熱機(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、「あたためモード」で20分間、加湿加熱処理を行い、デンプンをα化した。次いで、加湿加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例5)を得た。
【0054】
実施例6
トウモロコシデンプン(商品名「日食コーンスターチ」、日本食品化工社製)69g、結晶セルロース(商品名「セオラスPH301」、旭化成社製)21g、メタクリル酸コポリマーS(商品名「Eudragit S100」、エボニック社製)30g、α化デンプン(商品名「LYCATAB PGS」、ロケット社製)30g、クエン酸6g、およびシロスタゾール(大塚製薬社製)150gを混合し、スピードニーダー(型番NSK−150、岡田精工社製)に投入後、攪拌しながら4%ポリソルベート80水溶液75mL(ポリソルベート80として3g)および精製水20gを加えて混合し、原料組成物(原料組成物例6)を調製した。
当該原料組成物を直径0.5mm穴のドームダイを装着した押出し造粒機(ドームグランDG−L1、ダルトン社製)により押出し造粒を行い、含水造粒物を得、次いでこの含水造粒物を球形整粒機(マルメライザーQJ−400、ダルトン社製)で整粒して含水顆粒状の原料組成物を得た。
この含水顆粒状の原料組成物に対して、加湿加熱機(ヘルシオ、シャープ社製)を用いて、「あたためモード」で20分間、加湿加熱処理を行い、デンプンをα化した。次いで、加湿加熱処理後の顆粒を、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(実施例6)を得た。
【0055】
対照例1〜6
上記実施例1〜6での含水顆粒状の原料組成物を、加湿加熱処理せず、60℃に設定した送風乾燥機内で6時間乾燥することにより、顆粒状固形医薬製剤(対照例1〜6)を得た。
【0056】
試験例1
実施例1および対照例1の各顆粒状固形医薬製剤につき、シロスタゾールとして100mgに相当する量を量り取り、4%ポリソルベート80水溶液900mLを試験液とし、パドル法100rpmで溶出試験を行い、各時間の紫外吸収を測定し、薬物溶出率を測定した。試験開始後2時間でアミラーゼ(商品名:α−アミラーゼ、和光純薬)0.18gを添加し、次いで試験開始4時間後に緩衝液を添加して試験液のpHを7.0に調整した。
その結果を図1に示すが、対照例1では、溶出試験開始直後から薬物を溶出し、また、アミラーゼの添加及びpHの上昇の、薬物溶出速度への影響はほとんど無かった。しかしながら、実施例1では、4時間後のpH調整を境に薬物溶出速度が急激に上昇し、6時間後では対照例1を上回る薬物溶出率を示した。
【0057】
試験例2
実施例2および対照例2の各顆粒状固形医薬製剤につき、シロスタゾールとして100mgに相当する量を量り取り、試験液に0.3%ラウリル硫酸ナトリウム水溶液900mLを用いて、パドル法100rpmで溶出試験を行い、各時間の紫外吸収を測定し、薬物溶出率を測定した。試験開始後2時間でアミラーゼ(商品名:α−アミラーゼ、和光純薬)0.18gを添加し、次いで試験開始4時間後に緩衝液を添加して試験液のpHを7.1に調整した。
その結果を図2に示す。試験開始2時間後のアミラーゼ添加により、実施例2では急激に薬物を溶出し、デンプンのα化効果を維持していることが確認された。
【0058】
試験例3〜6
実施例3〜6および対照例3〜6を用いて、試験例2と同様の試験を行った(試験例3〜6)。但し、試験開始4時間後のpHは、試験例3、試験例4および5が7.1、試験例6が7.5となるように調整した。いずれも試験例2と同様、実施例3〜6では対照例3〜6よりも徐放した溶出が確認された(図3〜図6)。
【0059】
以上のように、試験例1〜6の結果から、本製剤は、工程中のデンプンα化によりアミラーゼ添加によってデンプンが消化されて薬物を放出するとともに、腸溶性成分の添加によりpH依存性の両面を持つことが確認された。
【0060】
体内動態試験
実施例4〜6で製造したシロスタゾール含有顆粒を用い、シロスタゾールとして100mg量を健常成人男子各7名に食後投与し、経時的に採血を行い、血漿中シロスタゾール濃度を測定した。
また、同様に市販プレタール錠(シロスタゾールとして50mg量)(対照例7)を健常成人男子7名に食後投与し、経時的に採血を行い、血漿中シロスタゾール濃度を測定した。結果を下表1および図7に示す。
対照例と比較して、いずれの実施例の結果においても、Cmaxの時期を遅らせることができた。そして、これらの結果の中で、有機酸を含有する実施例6においては、他の実施例4および5の結果より高いCmaxおよびAUCを示した。一方、実施例4および5においては(特に実施例4においては)、対照例よりもCmaxを抑え、且つ投与後長期にわたって薬効を維持できるような血中濃度を保つ薬物動態プロファイルを示した。
メタクリル酸コポリマーLはpH6以上で溶解し、メタクリル酸コポリマーSはpH7以上で溶解する腸溶性成分である。試験例3〜5における実施例3−5の薬物溶出率結果を見ると、含有する腸溶性成分の溶解するpHが高くなるにつれて、溶出速度は遅くなり、溶出が抑えられていることがわかる。
ところが、本発明のシロスタゾール含有顆粒を健常成人に投与した場合には、図7の実施例4および実施例5から示されるように、溶出試験の結果と反して、含有する腸溶性成分の溶解するpHが低い方(つまり実施例5よりも実施例4の方)が、緩やかな溶出と持続的な薬効を維持できるようなプロファイルであった。
実施例4のように、溶解するpHの異なる2種以上の腸溶性成分を組み合わせて含有する本発明の医薬固形製剤においては、腸溶性成分を単独で用いる場合よりも、Cmaxを抑え、且つ投与後長期にわたって薬効を維持できるような血中濃度を保つ薬物動態プロファイルが示される。
一方、実施例6のように溶解するpHの高い腸溶性成分を含有し、さらに有機酸を加えた場合には、薬剤の周囲のpHが上昇しても有機酸の存在により実際のpHの上昇には時間がかかることとなり、溶出はますます抑えられるものと考えられた。ところが、実施例6においては、試験例6の溶出試験、ここでの体内動態試験の結果ともに、腸溶性成分が溶解するpHに環境が達した後、若干の溶出の抑制は認められたが、その後急激に薬物は溶出した。実施例6のように、腸溶性成分にさらに有機酸(クエン酸)を含有する本発明の医薬固形製剤においては、初期の溶出をかなり抑えながらも、pHが変更された後短時間に十分な薬物の溶出を示すような薬物動態プロファイルが示された。
これらの得られた知見により、本願発明の製剤の処方を適宜選択することにより、目的に合わせた徐放性製剤設計が可能となり、また通常の非徐放性製剤との組合せを含めた、本発明の製剤の複数の組合せにより、長期にわたって一定の血中濃度を維持できるような製剤設計の可能性を示唆するものである。
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)薬物、(b)製剤の総重量に対して10〜90重量%のα化デンプンおよび(c)1種または2種以上の腸溶性成分を含有することを特徴とする、固形医薬製剤。
【請求項2】
薬物が難溶性薬物である請求項1の固形医薬製剤。
【請求項3】
薬物がシロスタゾールである請求項1の固形医薬製剤。
【請求項4】
1種または2種以上の腸溶性成分に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、および/またはメタクリル酸コポリマーSが含まれる請求項1〜3のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項5】
1種または2種以上の腸溶性成分として、溶解するpHの異なる2種以上の腸溶性成分である請求項1〜3のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項6】
2種以上の腸溶性成分がヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマーS、およびメタクリル酸コポリマーLDから選択される請求項5の固形医薬製剤。
【請求項7】
2種以上の腸溶性成分が、pH5以上で溶解する腸溶性成分と、pH6以上で溶解する腸溶性成分の2種類を含有する請求項5の固形医薬製剤。
【請求項8】
2種以上の腸溶性成分が、pH6以上で溶解する腸溶性成分と、pH7以上で溶解する腸溶性成分の2種類を含有する請求項5の固形医薬製剤。
【請求項9】
1種または2種以上の腸溶性成分が、メタクリル酸コポリマーLとメタクリル酸コポリマーSを含む請求項4の固形医薬製剤。
【請求項10】
メタクリル酸コポリマーLとメタクリル酸コポリマーSの割合が30:70から70:30である請求項9の固形医薬製剤。
【請求項11】
更に有機酸を配合する請求項1〜10のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項12】
有機酸の配合量が0.5重量%〜5重量%である請求項11の固形医薬製剤。
【請求項13】
有機酸がクエン酸である請求項11または12の固形医薬製剤。
【請求項14】
腸溶性成分がメタクリル酸コポリマーSである請求項13の固形医薬製剤。
【請求項15】
α化デンプンがα化トウモロコシデンプンである請求項1〜14のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項16】
(i)薬物、デンプンおよび1種または2種以上の腸溶性成分を混合して、出発組成物を調製すること、および(ii)出発組成物のデンプンをα化することによって製造される、請求項1〜15のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項17】
工程(i)中のデンプンに、デンプン、部分α化デンプン、および/またはα化デンプンの1つまたは混合物が含まれるが、ただし工程(i)中のデンプンがα化デンプンのみであることはない、請求項16の固形医薬製剤。
【請求項18】
形状が粒状である請求項1〜17のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項19】
形状が顆粒または細粒である請求項1〜17のいずれかの固形医薬製剤。
【請求項20】
押し出し造粒により調製した請求項19の固形医薬製剤。
【請求項21】
請求項18、19または/および20の固形医薬製剤を含むカプセル剤。
【請求項22】
請求項18、19または/および20の固形医薬製剤を含む錠剤。
【請求項23】
請求項1から請求項20のいずれかの製剤の製造方法であって、製造工程中で加熱することでデンプンをα化することを特徴とする方法。
【請求項24】
製造工程中での加熱が加湿しながら加熱することを特徴とする、請求項23の方法。
【請求項25】
請求項23または24の方法により製造された固形医薬製剤。
【請求項26】
薬物を含有する速放性の顆粒または細粒と、請求項18から20のいずれか1つまたは2つ以上の顆粒または細粒を充填したカプセル剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−520774(P2011−520774A)
【公表日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−545310(P2010−545310)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際出願番号】PCT/JP2009/059300
【国際公開番号】WO2009/139504
【国際公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【出願人】(000206956)大塚製薬株式会社 (230)
【Fターム(参考)】