説明

固形描画材およびそれを用いた描画方法

【課題】書き味が滑らかで、描画する際にマイクロカプセルを破壊することなく描画が可能であり、描画後にマイクロカプセル中に内包し固形描画材に付与した機能を発現および/または持続することが可能な、マイクロカプセルを含有した固形描画材および、それを用いた描画方法を提供すること。
【解決手段】ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、描画する際にチクソトロピック現象が発現すること等により、該マイクロカプセルを破壊することなく低い描画圧で描画が可能なマイクロカプセルを含有する固形描画材およびそれを用いた描画方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形描画材およびそれを用いた描画方法に関する。詳しくは、固形描画材中のマイクロカプセルを破壊することなく描画可能なマイクロカプセルを含有する固形描画材およびそれを用いた描画方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、固形描画材に、香料やフォトクロミック等の機能性の材料、温度により変色や発色する液晶等のサーモクロミック材料等の機能性の材料、等を保持させ、固形描画材に機能を付与することが行われている。しかしながら、前記機能性の材料を単純に混合するだけでは、例えば材料が揮発性であると機能性材料の保存安定性が悪く、機能を経時的に保持することができなかったり、例えば、固形描画材のワックス成分等が機能発現を阻害する等、付与された機能を発現させるのに、十分満足するものではなかった。
【0003】
これらの課題を解決するために、機能性の材料をマイクロカプセル中に内包し、固形描画材にこれらの機能を付与することが行われている(例えば特許文献1〜3)。しかしながら、固形描画材の賦形材にポリエチレン等の樹脂やパラフィンワックス等を主成分として用いるため、固形描画材中ではその機能は保持されるが、描画する際に、書き味が硬く、高い描画圧がかかり、マイクロカプセルがその描画圧により破壊されてしまう。このため、付与する機能によっては、単純に混合した固形描画材と同じ課題が生じたり、描画直後は付与した機能を発現させることができるが、所望の期間付与した機能を持続したり、一定期間後に付与した機能を発現させることができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭64−29478号公報
【特許文献2】特公昭64−4556号公報
【特許文献3】特許第2529317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、マイクロカプセルを含有した固形描画材を用い描画する際に、書き味が滑らかで、マイクロカプセルを破壊することなく描画が可能であり、描画後に、マイクロカプセル中に内包し固形描画材に付与した機能を発現および/または持続することが可能な、マイクロカプセルを含有した固形描画材およびそれを用いた描画方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ゲル状態の賦形材を形成し、描画する際にチクソトロピック現象が発現する固形描画材とすること等により、上記課題が解決され、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
「1.少なくともマイクロカプセルとゲル形成剤と溶媒からなる固形描画材であって、少なくとも該ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、前記マイクロカプセルが、前記賦形材中に分散され、かつ描画時の描画圧により破壊されることのない強度を有することを特徴とする固形描画材。
2.前記マイクロカプセルが、描画後、描画する際の描画圧より高い任意の圧力により破壊可能であることを特徴とする、第1項に記載の固形描画材。
3.ゲル形成剤が水性ゲル形成剤であり、溶媒が水であることを特徴とする、第1項または第2項のいずれかに記載の固形描画材。
4.マイクロカプセルとゲル形成剤と溶媒を含む固形描画材を用いた描画方法であって、少なくとも該ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルを分散した固形描画材を用いて描画する際に、固形描画材がチクソトロピック現象を発現することにより、前記マイクロカプセルが破壊を起こさずに描画可能となるよう、賦形材のゲル強度とマイクロカプセル強度を制御することを特徴とする、固形描画材を用いた描画方法。」に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ゲル形成剤と溶媒を用いゲル状態の賦形材を形成し固形描画材とすること等により、描画する際にチクソトロピック現象が発現し、書き味が滑らかで、低い描画圧での描画が可能となり、マイクロカプセルに過剰な描画圧がかからずに描画することができる。このため、描画後もマイクロカプセル中に内包した香り付け等の機能を持続することが可能となり、所望の期間または一定期間後に、必要な時に該機能を発現させることができる等、優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、描画する際にチクソトロピック現象を発現させることにより、マイクロカプセルを破壊することなく描画が可能となるが、チクソトロピック現象を発現させるには、固形描画材がゲル状態である必要があり、固形描画材が、ゲル状態の賦形材を形成するゲル形成剤と溶媒と、マイクロカプセルとを最小の構成材料として用いる。
【0009】
また、本発明のチクソトロピック現象とは、描画される媒体と固形描画材の接している部分が、描画圧、描画する際の摩擦等により、ゲル状態からゾル状態に変化することを現わしている。即ち、見かけ状の固体状態から液体状態への変化することを現している。
【0010】
本発明のゲル形成剤としては、溶媒とゲル状態の賦形材を形成できれば特に限定されないが、具体的には一般的に用いられている水性、油性のゲル形成剤を用いることができる。水性のゲル形成剤とは、溶媒に少なくとも水を含み、水とゲル状態の賦形材を形成することが可能な材料のことであり、油性のゲル形成剤とは、溶媒に少なくとも有機溶剤を含み、有機溶剤とゲル状態の賦形材を形成することが可能な材料のことである。
【0011】
具体的には、水性のゲル形成剤としては、高級脂肪酸の金属塩あるいはアンモニウム塩、親水性シリカ、クレイ類、スメクタイト類、ベントナイト類、ポリアクリル酸類、ポリウレタン類、アミド類、増粘性多糖類、タンパク質等が挙げられる。好ましく用いられるゲル形成剤としては、炭素原子8〜36個有する脂肪族カルボン酸の金属塩が挙げられる。炭素原子8〜36個有する脂肪族カルボン酸の金属塩を用いると、描画する際にゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成した固形描画材が、チクソトロピック現象を強く発現し、低い描画圧での描画が可能となり、マイクロカプセルにかかる描画圧が低くなるために好ましい。具体的には、ミリスチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0012】
油性のゲル形成剤としては、脂肪酸類、これらの金属塩、ベンジリデンソルビトール類、デキストリンエステル類、アミノ酸類、アミド類等が挙げられる。好ましく用いられるゲル形成剤としては、脂肪酸類が挙げられる。脂肪酸類を用いると、水性のゲル形成剤のときと同様に、低い描画圧での描画が可能となり、マイクロカプセルにかかる描画圧が低くなるために好ましい。具体的には、12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。
【0013】
本発明のゲル形成剤は、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができるが、その配合量を調整することで、賦形材のゲル強度を制御することが可能となり、チクソトロピック現象の発現度合いが調整できる。好ましくは、固形描画材全質量に対して5〜60質量%である。この範囲より小さいと得られる固形描画材の強度が低くなる傾向が見られ、この範囲より大きいと得られる固形描画材の描画する際の描画性が若干劣る傾向が見られ、チクソトロピック現象を十分に発現できなくなる恐れがあり、描画する際にマイクロカプセルが破壊される可能性がある。更に好ましくは、10〜40質量%である。
【0014】
本発明の溶媒は、ゲル形成剤とゲル状態の賦形材を形成できれば特に限定はないが、含有させるマイクロカプセルの機能を阻害しない必要がある。
【0015】
具体的に用いることができる溶媒としては、水、有機溶剤が挙げられ、これらを単独でまたは組み合わせて用いることができる。有機溶剤として具体的には、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコール類、グリコールエーテル類、ポリブテン、ジアルキルカーボネート等が挙げられる。
【0016】
また、溶媒の配合量を調整することで、賦形材のゲル強度を制御することが可能となり、チクソトロピック現象の発現度合いが調整できる。好ましくは、10〜90質量%である。この範囲より少ないと得られる固形描画材の描画する際の描画性が若干劣る傾向が見られ、チクソトロピック現象を十分に発現できなくなる恐れがあり、描画する際にマイクロカプセルが破壊される可能性がある。この範囲より多いと得られる固形描画材の強度が低くなる傾向が見られる。特に好ましくは、30〜80質量%である。
【0017】
以上のように賦形材のゲル強度は、ゲル形成剤と溶媒の配合割合により決まり、ゲル形成剤の配合量と溶媒の配合量とを調整することで、賦形材のゲル強度を制御することが可能となり、チクソトロピック現象の発現度合いが調整できる。
【0018】
本発明に用いるゲル形成剤と溶媒の組み合わせとしては、水性のゲル形成剤と水を用いることが特に好ましい。この組み合わせで賦形材とした場合、固形描画材を製造するときの作業環境をより安全に保てること等から好ましい。更に、描画後の描画物の乾燥性が速く、描画物の定着性が速くなること等からも好ましい。
【0019】
本発明に用いるマイクロカプセルの機能を発現させる方法としては、マイクロカプセル中にフォトクロミック材料やサーモクロミック材料等を内包し、当該マイクロカプセルをそのまま用いて機能を発現させる方法、マイクロカプセル中に香料や粘着剤、接着剤、感圧発色材料等を内包し、当該マイクロカプセルを破壊して機能を発現させる方法、マイクロカプセル中に農薬や芳香剤、忌避剤等の昇華性や揮発性等を有する材料を内包し、マイクロカプセルを構成する膜材料をポーラスにすることで、当該マイクロカプセルに徐放性の機能を発現させる方法、等が挙げられる。
【0020】
マイクロカプセル中に内包する材料としては、各種機能性材料を内包することができる。 機能を付与するためにマイクロカプセル中に内包する材料は、固体、液体、気体のどの様な状態のものでも良く、水性、油性のどちらの材料も用いることができる。
【0021】
具体的には、染料、顔料等の着色剤、フォトクロミック材料、液晶やロイコ染料等を機能性材料に用いたサーモクロミック材料、帯電防止剤、加熱等により発泡する機能を持たせるブタン等の気体、粘着剤、一液および/または二液硬化型の接着剤、香料、感圧発色材料、農薬、医薬品、防虫剤、防臭剤、忌避剤、磁性剤、磁気記録材料等、付与したい機能に応じて、適宜選択出来る。
【0022】
前記マイクロカプセルは、描画する際に破壊されない強度を有する必要がある。該マイクロカプセル強度は、描画する際に固形描画材がチクソトロピック現象を発現し、マイクロカプセルが破壊を起こさずに描画が可能となる強度を有している必要がある。また、マイクロカプセルを破壊して機能を発現させる場合、マイクロカプセルの強度としては、描画する際には破壊せず、描画後、描画する際の描画圧より高い任意の圧力で破壊することが好ましい。
【0023】
前記機能を発現させるためのマイクロカプセルの製造方法としては、一般的に知られている方法を用いることができる。具体的には、コアセルベート法、界面重合法、界面重縮合法、in−situ重合法、液中乾燥法、液中硬化法、気中懸濁被覆法、スプレードライ法等が挙げられ、機能を付与するために内包する材料や、機能を発現させる方法、マイクロカプセルの強度により、適宜選択される。
【0024】
従来の描画材は、賦形材がゲル状態の賦形材ではないため描画する際の描画圧が高くなる傾向にある。一般的に、マイクロカプセルの強度は、マイクロカプセルの平均粒径に依存するところが大きく、平均粒径が小さいほどその強度は高くなる。このため、マイクロカプセルを固形描画材に含有するためには、高い描画圧においても破壊しにくい、平均粒径の小さなマイクロカプセルを用いる必要がある。しかしながら、マイクロカプセルの平均粒径が小さくなると内包する材料の量が少なくなり、機能を十分に発現できなくなる可能性があり、マイクロカプセルに付与した機能を十分に発現させるには、マイクロカプセルの配合量を増やす必要がある。本発明の固形描画材は賦形材のゲル強度を任意に制御することが可能であり、描画する際の描画圧を低く抑えることができるため、強度の低い比較的平均粒径の大きいマイクロカプセルについても適用が可能となる。本発明に用いるマイクロカプセルの平均粒径としては、0.1μm〜1000μm程度のものを用いるのが好ましい。
【0025】
前記平均粒径の範囲より大きいと製造工程や描画する際に一部のマイクロカプセルが破壊される傾向があり、発現させる機能が十分でなくなる可能性がある。また、前記平均粒径の範囲より小さいと、マイクロカプセル中に内包する材料の量が少なくなるため、マイクロカプセルに十分な機能を付与することができなくなる傾向がある。マイクロカプセルの平均粒径は、好ましくは1μm〜800μm程度であり、更に好ましくは7μm〜500μmである。この範囲であると、用いるマイクロカプセルの強度が十分にあり、マイクロカプセル中に内包する材料の量が確保でき、十分な機能を付与することが出来る。
【0026】
前記の通り、本発明の固形描画材は従来の固形描画材よりも平均粒径の大きいマイクロカプセルの適用が可能である。本発明の固形描画材は賦形材のゲル強度を任意に制御することが可能であるため、強度の低い比較的大きい平均粒径のマイクロカプセルについても適用が可能となる。平均粒径の大きいマイクロカプセルは、より多量の材料をマイクロカプセル中に内包することが可能となるので、例えば、粘着や接着等の機能を付与するときや徐放性の機能をより長い期間発現させるとき等に好適に用いられる。
【0027】
なお、本発明でいうマイクロカプセルの平均粒径は、粒子の外径を測定したときのD50の値で表されるが、ここでは、粒度分布計(マルバーン社製 マスターサイザー2000 Hydro 2000μP)を用いて粒子の外径を測定したときの、D50の値を用いる。
【0028】
本発明のマイクロカプセルとゲル形成剤と溶媒の組み合わせにより、マイクロカプセルを破壊することなく描画することができるのであるが、描画物に機能を発現させるためには、マイクロカプセルが破壊されることなく描画されることが必要であり、特に、気体や液体を内包したマイクロカプセルをそのまま用いて機能を発現させる場合や徐放性の機能を付与したマイクロカプセルは、描画する際に破壊された場合、機能を付与することが出来なくなる。また、マイクロカプセルを破壊して、機能を付与する場合にも、機能を発現させたい時に機能を発現させるためには、描画する際にマイクロカプセルが破壊されてはいけないのである。これらのことから、描画する際にチクソトロピック現象を発現させなければならず、ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、マイクロカプセルが賦形材中に分散された固形描画材とすることが必要となるのである。
【0029】
本発明の固形描画材は、マイクロカプセルが賦形材中に分散されているが、油性の材料を内包したマイクロカプセルは、賦形材が水性のゲル形成剤と溶媒とで形成されたゲル状態の賦形材に分散されていることが好ましく、水性の材料を内包したマイクロカプセルは、賦形材が油性のゲル形成剤と溶媒とで形成されたゲル状態の賦形材に分散されていることが好ましい。
【0030】
油性の材料を内包したマイクロカプセルを、賦形材が油性のゲル形成剤と溶媒とで形成されたゲル状態の賦形材に分散した場合、マイクロカプセルが特に徐放性の機能を有しているとき、マイクロカプセルに内包した材料と溶媒が相溶し、該材料がマイクロカプセル外に流出したり、マイクロカプセルの形状変化等を起こす恐れがある。
【0031】
水性の材料を内包したマイクロカプセルを、賦形材が水性のゲル形成剤と溶媒とで形成されたゲル状態の賦形材に分散した場合も同様に、マイクロカプセルに内包した材料がマイクロカプセル外に流出したり、マイクロカプセルの形状変化等を起こす恐れがある。
【0032】
このため、マイクロカプセル中に内包する材料と該マイクロカプセルを分散するゲル状態の賦形材は互いに非相溶の関係にあることが保存安定性の観点等から好ましい。
【0033】
前記マイクロカプセルは、描画する際に破壊されない強度を有する必要があるが、該マイクロカプセル強度は、賦形材のゲル強度との関係が生じ、描画する際に固形描画材がチクソトロピック現象を発現し、マイクロカプセルを破壊することなく描画することができるように制御する必要がある。すなわち、賦形材のゲル強度が強くチクソトロピック現象の発現度合いが小さい場合、マイクロカプセルの破壊する強度を高くし、賦形材のゲル強度が低くチクソトロピック現象の発現度合いが大きい場合には、マイクロカプセルの破壊する強度を低くすることが出来るのである。マイクロカプセルの強度は、平均粒径の他に、マイクロカプセルの膜材料や膜厚依存するが、前記の通り、マイクロカプセルの破壊強度を高くするときは、平均粒径の小さいマイクロカプセルを用い、マイクロカプセルの破壊強度を低くするときは、平均粒径の大きいマイクロカプセルを用いることができる。
【0034】
上記成分以外に、界面活性剤、着色剤、ワックスや樹脂等の滑剤、粘着剤、防腐剤、防黴剤等を、ゲル形成剤と溶媒がゲル状態を形成することや描画する際にチクソトロピック現象を発現させる機能を阻害しない範囲で添加してもよい。
【0035】
本発明の固形描画材の製造方法としては溶媒にゲル形成剤を添加し、加熱混合し、マイクロカプセルと各種添加剤を加え攪拌後、所定の型内に充填、冷却し、型内より取り出すことにより得られる。
【0036】
本発明は、ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、マイクロカプセルを含有した固形描画材としたため、チクソトロピック現象を発現させ低い描画圧で描画できることから、マイクロカプセルを破壊することなく、描画することができる。このため、マイクロカプセル中に内包して固形描画材に付与した、香りをつける、接着、粘着、発色等の機能を、発現させたい時に必要に応じてマイクロカプセルを破壊する等により発現させたり、目的とする期間で農薬や忌避剤、脱臭等の徐放性等の機能を発現させることが可能となる。また、フォトクロミック性やサーモクロミック性等の、マイクロカプセルをそのまま用いて機能を発現させることも可能となるのである。
【0037】
この様に、固形描画材にマイクロカプセルを含有させる場合には、マイクロカプセルとゲル形成剤と溶媒を組み合わせ、描画する際にチクソトロピック現象を発現させ、低い描画圧で描画が可能であることが必要となるのである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
(マイクロカプセルの製造)
【0039】
本発明に用いるマイクロカプセルの製造方法と、マイクロカプセルを形成する膜材料、マイクロカプセルに内包する材料、マイクロカプセルの平均粒径を表1に示す。
【0040】
【表1】

グレープフルーツオイルNO.2452:三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製 油溶性香料
グレープフルーツフレーバーNO.2512:三栄源エフ・エフ・アイ(株)社製 水溶性香料
【0041】
(固形描画材の製造1)
実施例1
製造例1で製造したマイクロカプセル 6質量部
パルミチン酸ナトリウム(ゲル形成剤) 20質量部
グリセリン(保湿剤) 23質量部
イオン交換水(溶媒) 37質量部
上記成分を85℃にて加熱混合し、得られたゾル状の液状物を内径8mmの型に流し込んだ後、室温まで冷却し、ゲル状態の固形物を得た。この円筒状のゲル状態の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmのパルミチン酸ナトリウムとイオン交換水とでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散された固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、固形描画材中にマイクロカプセルが破壊されることなく分散されていることが確認できた。
【0042】
実施例2
製造例2で製造したマイクロカプセル 6質量部
ステアリン酸ナトリウム(ゲル形成剤) 18質量部
グリセリン(保湿剤) 23質量部
イオン交換水 (溶媒) 37質量部
上記成分を90℃にて加熱混合し、得られたゾル状の液状物を内径8mmの型に流し込んだ後、室温まで冷却し、ゲル状態の固形物を得た。この円筒状のゲル状態の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmのステアリン酸ナトリウムとイオン交換水とでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散された固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、固形描画材中にマイクロカプセルが破壊されることなく分散されていることが確認できた。
【0043】
実施例3
製造例3で製造したマイクロカプセル 6質量部
12−ヒドロキシステアリン酸(ゲル形成剤) 15質量部
カルバナワックス 15質量部
ポリプロピレングリコール 15質量部
(旭硝子(株)社製 エクセノール1020 溶媒)
上記成分を95℃にて加熱混合し、得られたゾル状の液状物を内径8mmの型に流し込んだ後、室温まで冷却し、ゲル状態の固形物を得た。この円筒状のゲル状態の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmの12−ヒドロキシステアリン酸とポリプロピレングリコールとでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散された固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、固形描画材中にマイクロカプセルが破壊されることなく分散されていることが確認できた。
【0044】
実施例4
製造例4で製造したマイクロカプセル 6質量部
N−ヒドロキシエチル−12−ヒドロキシステアリン酸アミド 15質量部
(伊藤製油(株)社製 ITOHWAXJ−420 ゲル形成剤)
カルバナワックス 15質量部
ポリブテン(新日本石油(株)製 日石ポリブテンLV−50 溶媒)15質量部
上記成分を90℃にて加熱混合し、得られたゾル状の液状物を内径8mmの型に流し込んだ後、室温まで冷却し、ゲル状態の固形物を得た。この円筒状のゲル状態の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmのN−ヒドロキシエチル−12−ヒドロキシステアリン酸アミドとポリブテンとでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルが分散された固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、固形描画材中にマイクロカプセルが破壊されることなく分散されていることが確認できた。
【0045】
(固形描画材を用いた描画方法1)
実施例1〜4で得た固形描画材を用い、上質紙に手書きによる描画を行った。その際、該固形描画材は、賦形材のゲル強度とマイクロカプセル強度を制御したものであり、固形描画材がチクソトロピック現象を発現し、マイクロカプセルを破壊しないように描画することができた。
また、描画後1週間経時した描画物に描画圧より高い擦過圧を指で加えてマイクロカプセルを破壊し、中の香料を出し、香料の香りを発現させることができた。
すなわち、ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルを分散した固形描画材を用いて描画する際に、固形描画材がチクソトロピック現象を発現することにより、前記マイクロカプセルが破壊を起こさずに描画可能となるよう、賦形材ゲル強度とマイクロカプセル強度を制御した、固形描画材を用いた描画方法を達成することができた。
【0046】
(固形描画材の製造2)
比較例1
製造例1で製造したマイクロカプセル 6質量部
パラフィンワックス 15質量部
(日本精蝋(株)社製 パラフィンワックス135°F 賦形材)
流動パラフィン 25質量部
上記成分を90℃にて加熱混合し、得られた液状物を内径8mmの型に流し込み、冷却固化をした。この円筒状の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmの固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、固形描画材中にマイクロカプセルが破壊されることなく分散されていることが確認できた。
【0047】
比較例2
製造例2で製造したマイクロカプセル 6質量部
パラフィンワックス 15質量部
(日本精蝋(株)社製 パラフィンワックス135°F 賦形材)
流動パラフィン 25質量部
上記成分を90℃にて加熱混合し、得られた液状物を内径8mmの型に流し込み、冷却固化をした。この円筒状の固形物を型より取り出し、外径8mmで長さ40mmの固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、固形描画材中でマイクロカプセルの形状を保っておらず、マイクロカプセル中の材料とパラフィンワックス、流動パラフィンが一部相溶状態にあり、マイクロカプセル材料がマイクロカプセル外に流出していることが確認された。
【0048】
比較例3
製造例3で製造したマイクロカプセル 6質量部
低密度ポリエチレン 10質量部
(住友化学(株)社製 スミカセンG801 賦形材)
パラフィンワックス 15質量部
(日本精蝋(株)社製 パラフィンワックス135°F 賦形材)
ポリエチレンワックス 15質量部
(三井化学(株)社製 ハイワックス420P 賦形材)
上記成分を100℃に加熱したニーダーで加熱混練をした後押出成形をし、外径8mmで長さ40mmの固形描画材を得た。この固形描画材をマイクロスコープ(250倍)にて観察したところ、マイクロカプセルの破壊が見られ、製造例3でマイクロカプセルに内包した香料の香りがしており、固形描画材中にマイクロカプセルの一部が破壊された状態で分散されていることが確認できた。
【0049】
(固形描画材を用いた描画方法2)
比較例1〜3で得た固形描画材を用い、上質紙に手書きによる描画を行った。その際、該固形描画材は、賦形材のゲル強度とマイクロカプセル強度を制御したものではなかったため、固形描画材がチクソトロピック現象を発現せず、描画圧が高くなり、描画時にマイクロカプセルが破壊されてしまった。
すなわち、固形描画材が実質的にチクソトロピック現象を発現しないので、前記マイクロカプセルが破壊を起こさずに描画可能となるような、賦形材のゲル強度とマイクロカプセル強度の関係を制御することができず、好適な固形描画材を用いた描画方法を達成することができなかった。
【0050】
実施例1〜4及び、比較例1〜3の固形描画材について、その製造した時のマイクロカプセル状態と描画した転写物中のマイクロカプセルの状態、描画性、初期性能評価、経時性能評価を表2に示した。
【0051】
【表2】

【0052】
評価方法:固形描画材中のマイクロカプセルの状態および描画後の描画物中のマイクロカプセルの状態については、マイクロスコープ(250倍)にて観察をし、評価した。描画性、初期性能評価、経時性能評価は、固形描画材により上質紙に描画し、以下記載の評価基準により、評価をした。
【0053】
描画性:固形描画材で、上質紙に手書きにより描画し,描画する際の書き味、描画性を官能評価した。
○:固形描画材がチクソトロピック現象を発現しており、書き味が滑らかであり、描画に強い力を必要としない。上質紙への描画性は良好。
×:固形描画材がチクソトロピック現象を発現しておらず、書き味が硬く、描画に強い力を必要とする。上質紙への描画性は悪く、かすれる。
【0054】
初期性能評価1:破壊により機能を発現するマイクロカプセルを用いた描画物を指で擦過し、香料の香りがするか、直接臭いをかぐ官能試験で評価した。
初期性能評価2:徐放性により機能を発現し持続するマイクロカプセルを用いた描画物から、香料の香りがするか、直接臭いをかぐ官能試験で評価した。
【0055】
経時評価1:描画から1週間経時した後に、初期性能評価1または初期性能評価2と同じ評価を行った。
○:初期同等に香る。
△:初期に比べ、香りが弱い。
×:香らない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、示温剤、感光剤、接着剤、粘着剤、香り付け、インジゲータ等の機能を有する固形描画材等、また、徐放性を有する農薬、薬品、忌避剤等の機能を付与したい媒体への描画等に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともマイクロカプセルとゲル形成剤と溶媒からなる固形描画材であって、少なくとも該ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、前記マイクロカプセルが、前記賦形材中に分散され、かつ描画時の描画圧により破壊されることのない強度を有することを特徴とする固形描画材。
【請求項2】
前記マイクロカプセルが、描画後、描画する際の描画圧より高い任意の圧力により破壊可能であることを特徴とする、請求項1に記載の固形描画材。
【請求項3】
ゲル形成剤が水性ゲル形成剤であり、溶媒が水であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の固形描画材。
【請求項4】
マイクロカプセルとゲル形成剤と溶媒を含む固形描画材を用いた描画方法であって、少なくとも該ゲル形成剤と溶媒とでゲル状態の賦形材を形成し、該賦形材中にマイクロカプセルを分散した固形描画材を用いて描画する際に、固形描画材がチクソトロピック現象を発現することにより、前記マイクロカプセルが破壊を起こさずに描画可能となるよう、賦形材のゲル強度とマイクロカプセル強度を制御することを特徴とする、固形描画材を用いた描画方法。

【公開番号】特開2010−248305(P2010−248305A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96683(P2009−96683)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】