説明

固形描画材

【課題】通常の上質紙等の紙類や、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面にも滑らかに濃く描画でき、かつ容易に消去できる固形描画材を提供する。
【解決手段】樹脂成分として少なくともテルペン樹脂、テルペン樹脂変性物、石油樹脂、マレイン酸樹脂、マレイン酸樹脂誘導体、クマロン・インデン樹脂、クマロン・インデン樹脂誘導体、スチレン系樹脂及びイソプレン系樹脂から成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を0.5〜20重量%含有し、ワックス成分として融点45〜80℃のパラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックスのうちの少なくとも一方を10〜60重量%含有し、二酸化チタンを5重量%以上含有し、さらに顔料及び体質材をも含有するとともに、融点が40℃以下の成分の含有率が4.5重量%以下、かつ、融点が30℃以下の成分の含有率が2.5重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として通常の上質紙、画用紙、コピー用紙等の紙類はもちろん、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面にも滑らかに、濃く、細くかつ細かく描画することが可能な固形描画材に関する。さらに詳しくは、透明プラスチック、ガラス等透明な板面に濃く明確に描画可能で、かつ、これら非吸収面に描画した場合、布、ティッシュペーパー等紙類、ホワイトボード消去具等で容易に消去できる固形描画材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の固形描画材は、ワックス、顔料、体質材を主として含有する配合物に、必要に応じて鉱物油等のオイルや樹脂等を添加して、硬さを調整している。しかし、固形描画材を軟質化する目的で液体であるオイル量を増量すると、強度が低くなり折れやすくなる。その場合、細く成形したり、先端を尖らせて切削することができなくなるため、細かい描画に不向きである。またアート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合、表面で滑りやすくなる。よって、軟らかいわりに濃く描画することができない点が問題点となる。
一方、強度を強くするために樹脂量を増やすと、細く成形することはできる。しかし硬さも増すため、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画することができない点が問題点となる。
【0003】
ところで、近年、特定の樹脂と有機溶剤やゲル化剤とを混合して平滑面に対する着色性を改良する技術や、特定の樹脂と液体成分とを混合して平滑面に対する着色性を改良する技術として、下記特許文献に示すものが開示されている。しかし、これらの技術に係る描画材は成分として液体を含むため依然強度が不十分である。よって、細く成形したり、先端を尖らせて切削することができない。また、有機溶剤の沸点が低い場合には揮発防止の外層容器も必要となるため、使い勝手が悪くなる点も問題である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−62879号公報
【特許文献2】特開平3−221574号公報
【特許文献3】特開平6−313146号公報
【特許文献4】特開2006−206734号公報
【特許文献5】特開2007−119516号公報
【特許文献6】特開2008−19326号公報
【特許文献7】特許第2963545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、これを解消しようとするものである。具体的には、本発明は、滑らかな書き味を有し、特にアート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に対しても格段に濃く描画可能な固形描画材を提供することを課題とする。さらに詳しくは、透明プラスチック、ガラス等透明な描画面に濃く、細くかつ細かく明確に描画可能でありながら、優れた曲げ強度等の機械的強度を有し、折れにくい固形描画材を提供することを課題とする。また、上記の非吸収面に描画した場合、布、ティッシュペーパー等紙類、ホワイトボード消去具等で容易に消去できる固形描画材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)第1の発明
上記の課題に鑑み、本願の第1の発明は、少なくとも樹脂成分、ワックス成分、顔料、二酸化チタン及び体質材を含有する固形描画材10において、
前記樹脂成分として、テルペン樹脂、テルペン樹脂変性物、石油樹脂、マレイン酸樹脂、マレイン酸樹脂誘導体、クマロン・インデン樹脂、クマロン・インデン樹脂誘導体、スチレン系樹脂及びイソプレン系樹脂から成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を0.5重量%以上20重量%以下の範囲で含有し、
前記ワックス成分として、融点45℃以上、80℃以下のパラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックスのうちの少なくとも一方を10重量%以上60重量%以下の範囲で含有し、
前記二酸化チタンを5重量%以上の範囲で含有するとともに、
融点が40℃以下の成分の含有率が4.5重量%以下、かつ、融点が30℃以下の成分の含有率が2.5重量%以下とすることを特徴とする。
【0007】
本発明における「樹脂成分」とは、固形描画剤の構成成分のうち一般的に樹脂として分類されるものをいう。具体的には、以下のとおりである。
本発明における「樹脂成分」としての「テルペン樹脂」及び「テルペン樹脂変性物」は、一般的にテルペン樹脂及びテルペン樹脂変性物として分類されている樹脂であれば、特に限定されず、いずれも使用できる。ただ、軟化点が低い点で、α−ピネン樹脂が好ましい。また、軟化点が高いテルペンフェノール樹脂等は、その含有量が多いと得られる固形描画材10が硬くなるので、概ね15重量%以下が望ましい。
本発明における「樹脂成分」としての「石油樹脂」は、一般的に石油樹脂として分類されている樹脂であれば、脂肪族系石油樹脂(C5)、芳香族系石油樹脂(C9)、ジシクロペンタジエン系石油樹脂、及びこれらの共重合系石油樹脂、水添加石油樹脂等、特に限定されず、いずれも使用できる。ただ、軟化点の観点や、その他配合材との相溶性の観点から、軟化点が低い脂肪族系石油樹脂(C5)が好ましい。
【0008】
本発明における「樹脂成分」としての「マレイン酸樹脂」及び「マレイン酸樹脂誘導体」は、一般的にマレイン酸樹脂及びマレイン酸樹脂誘導体として分類されている樹脂であれば、特に限定されず、いずれも使用できる。
本発明における「樹脂成分」としての「クマロン・インデン樹脂」及び「クマロン・インデン樹脂誘導体」は、一般的にクマロン・インデン樹脂及びクマロン・インデン樹脂誘導体として分類されている樹脂であれば、特に限定されず、いずれも使用できる。
本発明における「樹脂成分」としての「スチレン系樹脂」は、スチレンの低分子量品、α−メチルスチレンとビニルトルエンの共重合系樹脂、スチレン、アクリロニトリル及びインデンの共重合系樹脂等が使用できる。
【0009】
本発明における「樹脂成分」としての「イソプレン系樹脂」は、一般的にイソプレン系樹脂として分類されている樹脂であれば、特に限定されず、いずれも使用できる。
これらは、化成品、天然物を区別することなく、単独、又は2種以上混合して用いることも可能であり、目的とする固形描画材10の着色性、硬さによって適宜選択される。
なお、上記以外の樹脂であっても、本発明の構成及び作用効果を損なわない限りにおいて、本発明における「樹脂成分」として固形描画剤に含まれることは差し支えない。
上記樹脂成分の含有率は0.5重量%以上20重量%以下の範囲にあることとなっている。この含有率が0.5重量%を下回ると、平滑面での定着性が劣り着色が不十分であり、また強度が弱く、実用的でない。一方、20重量%を上回ると硬く、やはり平滑面での定着性が劣り着色が不十分となる。
【0010】
本発明における「ワックス成分」とは、固形描画剤の構成成分のうち一般的にワックスとして分類されるものをいう。具体的には、以下のとおりである。
本発明における「ワックス成分」としての「パラフィンワックス」及び「マイクロクリスタリンワックス」は、融点45℃以上、80℃以下のものであれば、特に限定されず、いずれも使用できる。
上記ワックス成分の含有率は10重量%以上60重量%以下の範囲にあることとなっている。この含有率が10重量%を下回ると硬く、平滑面での定着性が劣り着色が不十分となる。一方、60重量%を上回ると強度が弱く、実用的でない。
【0011】
本発明における「顔料」としては、ジスアゾイエローAAA、ピラゾロンオレンジ等のアゾ系有機顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等のシアニン系有機顔料、キナクリドンレッド等の高級有機顔料、ファナルカラー等染付け顔料、蛍光顔料、カーボンブラック、鉄黒、弁柄、紺青等の無機顔料等をすべて用いることができる。
本発明における「二酸化チタン」としてはルチル、アタナーゼを問わず従来公知の二酸化チタンをすべて用いることができる。しかし、透明プラスチック、ガラス等透明な板面に濃く明確に描画することを目的とするには、触媒用二酸化チタンは粒子径が細かく、薄い描画面となるため、好ましくない。
なお、二酸化チタンの含有量としては、5重量%を下回ると、透明プラスチック、ガラス等透明な板面に濃く明確に描画することができず、薄い描画面となり、好ましくない。
本発明における「体質材」としては炭酸カルシウム、カオリン、タルク、沈降性硫酸バリウム、マイカ、窒化ホウ素、チタン酸カリウムウィスカー、塩基性硫酸マグネシウムウィスカーのウィスカー類等公知の体質材をすべて用いることができる。
【0012】
また、融点が45℃を下回るパラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックスや、ホホバ油等のワックス、スピンドル油、流動パラフィン、スクワラン、スクワレン、α−オレフィンオリゴマー、シリコーン油等の天然又は合成油、グリセリン脂肪酸エステル及びペンタエリスリトール脂肪酸エステルであっても、上記の各成分の好適な含有量に影響を及ぼさない範囲であれば使用することができる。特に融点が40℃以下の成分(たとえば、融点が40℃以下のワックスやオイル等の有機成分)でも、固形描画剤全体に占める含有量が4.5重量%以下、さらに融点が30℃以下のこのような成分でも、2.5重量%以下であれば使用することができる。しかし、固形描画剤を細く成形したい場合や、先端を尖らせたい場合には、強度の観点から、これらの低融点成分はなるべく含有しないことが望ましい。
【0013】
(2)第2の発明
また、本願の第2の発明は、前記第1の発明の特徴に加え、前記樹脂成分と前記ワックス成分との比率が2:1〜1:20の範囲にあることを特徴とする。
樹脂成分の含有量がワックス成分に対し1:20より少ないと、得られる固形描画材10が脆く、また平滑面での定着性が劣り着色が不十分となる。また、樹脂成分の含有量がワックス成分に対し2:1より多いと固形描画材10が硬くなってしまい、着色性も不十分である。
要するに、樹脂成分と、ワックス成分とが好適な比率(すなわち、2:1〜1:20の範囲内)で混合されれば、平滑面での定着性が良好で、着色が良い固形描画材10が得られることになる。
なお、樹脂成分とワックス成分との混合は、事前に溶融混合しておくことも可能であるし、また、固形描画材10の製造工程において、他の配合物とミキサー中等で混合することも可能であり、その製造方法については特に限定されない。
【0014】
(3)第3の発明
また、本願の第3の発明は、前記第1の発明の特徴に加え、前記樹脂成分以外の追加樹脂成分としてポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体から成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を20重量%以下の範囲で含有するとともに、
前記ワックス成分以外の追加ワックス成分としてオゾケライト、セレシン、フィッシャー・トロプシュワックス及びポリエチレンワックスから成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を30重量%以下の範囲で含有することを特徴とする。
【0015】
上記の追加樹脂成分として含有される混合物の含有量が20重量%を超えると、成形性や、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に対する着色力が劣り、薄い描線となるため、好ましくない。
また、上記の追加ワックス成分として含有されるワックスとしてのオゾケライト、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックスとしては、従来公知のものがすべて使用できる。その含有量はアート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性の観点から30重量%以下とすることが好ましい。
【0016】
(4)第4の発明
また、本願の第4の発明は、前記第3の発明の特徴に加え、前記ポリエチレンは低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び超低密度ポリエチレンから成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であり、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体は酢酸ビニル含有量が30重量%以下、かつ、メルトフローレートが2g/分以上であり、
前記エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体はそのメルトフローレートが2g/分以上であることを特徴とする。
【0017】
すなわち、本発明で用いるポリエチレンは、その他の配合材との混練性、成形性や、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性の点に鑑みれば、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレンのいずれか、又はこれらの混合物から選択することが好ましい。さらには、メルトフローレートが2g/分以上であるものから選択することが望ましい。
本発明で用いるエチレン−酢酸ビニル共重合体は、その他の配合材との混練性、成形性や、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性の点に鑑みれば、酢酸ビニル含有量が30重量%以下、メルトフローレートが2g/分以上であるものから選択することが好ましい。
【0018】
本発明で用いるエチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体は、その他の配合材との混練性、成形性や、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性の点に鑑みれば、メルトフローレートが2g/分以上であるものから選択することが好ましい。
なお、以上の場合、前記樹脂成分と、前記追加樹脂成分との合計含有量は、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度や定着性を考慮すると30重量%以下とすることが好ましい。
【0019】
(5)第5の発明
また、本願の第5の発明は、前記第3の発明又は第4の発明の特徴に加え、前記追加樹脂成分と、前記追加ワックス成分との比率が3:1〜1:20の範囲にあることを特徴とする。
ここで、追加樹脂成分の比率が追加ワックス成分に対して3:1より多い場合は固形描画材10が硬くなってしまい、着色性が不十分となる。また、追加樹脂成分の比率が追加ワックス成分に対して1:20より少ない場合は、得られる固形描画材10が脆くなってしまい、強度が不十分である。
また、前記ワックス成分と、追加ワックス成分との合計含有量は、概ね70重量%以下が好ましいが、強度の点で65重量%以下が望ましい。さらに、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性を考慮すると60重量%以下とすることが望ましい。
【0020】
(6)第6の発明
また、本願の第6の発明は、前記第1の発明又は第3の発明の特徴に加え、前記樹脂成分以外の補助樹脂成分としてとしてセルロース誘導体及びポリビニルアセタール樹脂のうちの少なくとも一方を20重量%以下の範囲で含有するとともに、
前記ワックス成分以外の補助ワックス成分としてカスターワックス、モクロウ、ウルシロウ、ヤマウルシロウ、モンタンワックス、融点45℃以上のグリセリン脂肪酸エステル及びペンタエリスリトール脂肪酸エステルマイクロクリスタリンワックスから成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を30重量%以下の範囲で含有することを特徴とする。
【0021】
ここで、セルロース誘導体としては、たとえば、エチルセルロースが挙げられる。また、ポリビニルアセタール樹脂としては、たとえば、ポリビニルブチラールが挙げられる。
すなわち、上記補助樹脂成分を、強度向上、硬さ、書き味調整等の目的で、前記樹脂成分(又は前記樹脂成分及び前記追加樹脂成分)と併用することができる。
なお、補助樹脂成分の含有量が20重量%を超えると、成形性や、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に対する着色力が劣り、描線も薄くなるため、好ましくない。
さらに、補助ワックス成分としてのカスターワックス、モクロウ(ハゼロウを含む)、ウルシロウ、ヤマウルシロウ、モンタンワックス、融点45℃以上のグリセリン脂肪酸エステル及びペンタエリスリトール脂肪酸エステルマイクロクリスタリンワックスとしては、従来公知のものがすべて使用できる。そしてその含有量はアート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性の点に鑑みれば30重量%以下とすることが好ましい。
【0022】
また、前記ワックス成分(又は前記ワックス成分及び前記追加ワックス成分)と上記補助ワックス成分との合計含有量は、概ね70重量%以下が好ましいが、強度の点で65重量%以下が望ましい。さらに、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性を考慮すると60重量%以下とすることが望ましい。
【0023】
(7)第7の発明
また、本願の第7の発明は、前記第6の発明の特徴に加え、前記補助樹脂成分と、前記補助ワックス成分との比率が3:1〜1:20の範囲にあることを特徴とする。
ここで、補助樹脂成分の比率が補助ワックス成分に対して3:1より多いと固形描画材10が硬く、着色性が不十分となってしまう。一方、補助樹脂成分の比率が補助ワックス成分に対して1:20より少ないと、得られる固形描画材10が脆く、強度が不十分である。
【0024】
(8)その他
また、上記各成分以外にも、従来公知のカルナバワックス、キャンデリラワックス、ライスワックス、ケトンワックス、ポリプロピレンワックス、各種脂肪酸アミドのワックス類、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸リチウム等の金属石鹸も適宜選択し、配合することとしてもよい。
この場合、これらの成分と、前記ワックス成分(又は前記ワックス成分と前記追加ワックス成分及び前記補助ワックス成分の一方又は両方の合計含有量)との合計含有量は、概ね70重量%以下が好ましい。なお、強度の点に鑑みれば65重量%以下が望ましく、さらにアート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に描画する場合の描線濃度、定着性を考慮すると60重量%以下とすることが望ましい。
【0025】
その他、本発明において、描線を水で溶解させたり、拭き取ったりする目的で、従来水溶性色鉛筆等で公知の界面活性剤、紫外線吸収剤等各種添加剤を、これまで述べてきた強度、平滑な非吸収面への描画、容易な消去性等の特徴を低下させない範囲で配合してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、滑らかな書き味を有し、特にアート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面に対しても格段に濃く描画可能な固形描画材が提供される。さらに詳しくは、透明プラスチック、ガラス等透明な描画面に濃く、細くかつ細かく明確に描画可能でありながら、優れた曲げ強度等の機械的強度を有し、折れにくい固形描画材が提供される。また、上記の非吸収面に描画した場合、布、ティッシュペーパー等紙類、ホワイトボード消去具等で容易に消去できる固形描画材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例に係る固形描画材のうち、四角柱状に成形されるもの(A)及び円柱状に成形されるもの(B)をそれぞれ斜視図で示す。
【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例により、本発明をさらに具体的に説明する。
(1)実施例及び比較例の組成及び製法
(1−1)実施例1
パラフィンワックス150F(日本精蝋):34重量%
マイクロクリスタリンワックス2045(融点67℃、日本精蝋):10重量%
YSレジンPX800(テルペン樹脂、ヤスハラケミカル):15重量%
タルク:17重量%
二酸化チタン:14重量%
群青:6重量%
フタロシアニンブルー:4重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練した後、加熱溶融させ、所定の型に流し込み、冷却、固化して、断面が一辺8.0mm×8.0mmの図1(A)に示すような青色の固形描画材10を得た。
【0029】
(1−2)実施例2
パラフィンワックス135F(日本精蝋):44重量%
マイクロクリスタリンワックス1045(融点74℃、日本精蝋):5重量%
マルカレッツR−100AS(石油樹脂、丸善石油化学):8重量%
タルク:18重量%
二酸化チタン:15重量%
ピラゾロンオレンジ:10重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物をプランジャー型押出機にて押出成形して、直径8.0mmの図1(B)に示すような橙色の固形描画材10を得た。
【0030】
(1−3)実施例3
パラフィンワックス135F(日本精蝋):31重量%
マルキード#2(マレイン酸樹脂、荒川化学工業):5重量%
フィッシャー・トロプシュワックス(融点110℃):21重量%
モンタンワックス:8重量%
カオリン:10重量%
二酸化チタン:15重量%
ジスアゾイエローAAA:2重量%
フタロシアニングリーン:8重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物をプランジャー型押出機にて押出成形し、直径8.0mmの図1(B)に示すような緑色の固形描画材10を得た。
【0031】
(1−4)実施例4
パラフィンワックス135F(日本精蝋):28重量%
クマロンG−90(日塗化学):8重量%
ウルシロウ(融点52℃):27重量%
エチルセルロース:9重量%
タルク:8重量%
二酸化チタン:10重量%
ジスアゾイエローAAA:10重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物を射出機にて射出成形し、直径8.0mmの図1(B)に示すような黄色の固形描画材10を得た。
【0032】
(1−5)実施例5
パラフィンワックス155F(日本精蝋):39重量%
YSレジンPX800(テルペン樹脂、ヤスハラケミカル):12重量%
ハゼロウ(融点52℃):10重量%
低密度ポリエチレン(住友化学):5重量%
エチルセルロース:3重量%
タルク:6重量%
二酸化チタン:15重量%
パーマネントレッド:10重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物を射出機にて射出成形し、直径8.0mmの図1(B)に示すような赤色の固形描画材10を得た。その結果を表1に示す。
【0033】
(1−6)比較例1
パラフィンワックス150F(日本精蝋):39重量%
マイクロクリスタリンワックス2045(融点67℃、日本精蝋):20重量%
タルク:17重量%
二酸化チタン:14重量%
群青:6重量%
フタロシアニンブルー:4重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練した後、加熱溶融させ、所定の型に流し込み、冷却、固化して、断面が一辺8.0mm×8.0mmの青色の固形描画材を得た。
【0034】
(1−7)比較例2
パラフィンワックス135F(日本精蝋):34重量%
マイクロクリスタリンワックス1045(融点74℃、日本精蝋):5重量%
マルカレッツR−100AS(石油樹脂、丸善石油化学):8重量%
流動パラフィン:10重量%
タルク:18重量%
二酸化チタン:15重量%
ピラゾロンオレンジ:10重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物をプランジャー型押出機にて押出成形し、直径8.0mmの黄色の固形描画材を得た。
【0035】
(1−8)比較例3
牛脂極度硬化油:22重量%
パラフィンワックス130F(日本精蝋):8重量%
白色ワセリン:10重量%
YSレジンPX800(テルペン樹脂、ヤスハラケミカル):9重量%
エチレン−酢酸ビニル共重合体:24重量%
(酢酸ビニル含有量;15重量%、メルトフローレート;12g/10分)
ステアリン酸亜鉛:6重量%
タルク:11重量%
ピラゾロンオレンジ:10重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物をプランジャー型押出機にて押出成形し、直径8.0mmの橙色の固形描画材を得た。
【0036】
(1−9)比較例4
パラフィンワックス155F(日本精蝋):8重量%
ハゼロウ(融点52℃):10重量%
低密度ポリエチレン(住友化学):7重量%
エチルセルロース:20重量%
タルク:25重量%
二酸化チタン:10重量%
パーマネントレッド:20重量%
上記配合組成物をニーダーで加熱混合、分散させた後に2本ロールで混練し、この混練物を射出機にて射出成形し、直径8.0mmの赤色の固形描画材を得た。
【0037】
(2)評価方法
上記実施例1〜5及び比較例1〜4の固形描画材について、強度並びに紙、PETフィルム、ガラス及びホワイトボードといった描画対象物に描画する際の着色性及び消去性について評価した。
(2−1)強度
各固形描画材について、23℃の温度下、支点間60mmで3点曲げ強度測定し、折損した際の荷重(単位:N)を求めた。
【0038】
(2−2)着色性
実施例1並びに比較例1及び2に係る固形描画材はカッターナイフで先端を切削して尖らせた。実施例2〜5並びに比較例3及び4に係る固形描画材は小型ミニシャープナーで先端を切削して尖らせた。これらのそれぞれを用いて、コピー用紙、PETフィルム、ガラス坂、ホワイトボード(WB)に描画し、その時の着色性をA〜Eの5段階で評価した。評価基準は以下のとおりとした。
A:描線が濃く、はっきりと見える。
B:描線は普通に見えるが、若干掠れがある。
C:描線は掠れが目立つが、見ることはできる。
D:描線はかなり掠れており、注意しないと見えない。
E:描線はほとんど見えない、もしくは描けない。
【0039】
(2−3)消去性
上記(2−2)でPETフィルム、ガラス坂、ホワイトボードに描いた描線をティッシュペーパーで擦り、その時の消去性をA〜Eの5段階で評価した。評価基準は下記のとおりとした。
A:良く消えて全く跡が残らない。
B:消えるが少し跡が残る。
C:描線の形が消えずに残る。
D:ほとんど消えない。
E:全く消えない(ただし、上記(2−2)の評価がD又はEであった場合はこの評価とした)。
【0040】
(2−4)評価結果
各実施例及び比較例を用いた上記各評価方法についての評価結果を、下記表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
上記のとおり、本発明の実施例1〜5に係る固形描画材はいずれも良好な結果を示した。すなわち、各実施例の強度は、比較例4以外の各比較例より高いという結果となった。また、いずれの描画対象物についても、着色性はA評価(描線は濃く明瞭)で、消去性もA評価(痕跡が全く残らない。)で、あった。ただし、ホワイトボードに描いた場合の消去性は、市販のホワイトボード専用マーカーの消去性よりやや劣るためB判定となった。
これに対し、本発明の範囲外である比較例1〜4の試験結果は、コピー紙への着色性の評価以外はいずれも評価が劣るという結果となった。
【0043】
まず、比較例1は樹脂成分が配合されていない。このため、描画時に先端が折れやすくなってしまった。また、軟らかいわりに平滑面に対して滑ってしまい、濃く描画できない結果となった。
比較例2は、流動パラフィン量が4.5重量%を上回っていたため、描画時に先端が折れやすくなってしまった。また、平滑面に描いた描線を擦って消す際、描線を引き伸ばして消えにくなっていた。
比較例3は、38℃くらいから溶け出す白色ワセリンの含有量が4.5重量%を上回っていたため、描画時に先端が折れやすくなってしまった。また、平滑面に描いた描線を擦って消す際、描線を引き伸ばして消えにくくなっていた。さらにまた、二酸化チタンを含有しないため、描線が薄かった。
比較例4は強度も強く、紙に描画する場合はほとんど問題はなかった。しかし、平滑面に描画する場合にはかえって堅すぎて、滑って描画できない、という結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、通常の上質紙、画用紙、コピー用紙等の紙類はもちろん、アート紙、コート紙、プラスチック、金属、ガラス、ホワイトボード等の平滑な非吸収面にも滑らかに、濃く描画し、かつこれを容易に消去可能な固形描画材として利用可能である。
【符号の説明】
【0045】
10 固形描画材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも樹脂成分、ワックス成分、顔料、二酸化チタン及び体質材を含有する固形描画材において、
前記樹脂成分として、テルペン樹脂、テルペン樹脂変性物、石油樹脂、マレイン酸樹脂、マレイン酸樹脂誘導体、クマロン・インデン樹脂、クマロン・インデン樹脂誘導体、スチレン系樹脂及びイソプレン系樹脂から成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を0.5重量%以上20重量%以下の範囲で含有し、
前記ワックス成分として、融点45℃以上、80℃以下のパラフィンワックス及びマイクロクリスタリンワックスのうちの少なくとも一方を10重量%以上60重量%以下の範囲で含有し、
前記二酸化チタンを5重量%以上の範囲で含有するとともに、
融点が40℃以下の成分の含有率が4.5重量%以下、かつ、融点が30℃以下の成分の含有率が2.5重量%以下とすることを特徴とする固形描画材。
【請求項2】
前記樹脂成分と前記ワックス成分との比率が2:1〜1:20の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の固形描画材。
【請求項3】
前記樹脂成分以外の追加樹脂成分としてポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体から成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を20重量%以下の範囲で含有するとともに、
前記ワックス成分以外の追加ワックス成分としてオゾケライト、セレシン、フィッシャー・トロプシュワックス及びポリエチレンワックスから成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を30重量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1記載の固形描画材。
【請求項4】
前記ポリエチレンは低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン及び超低密度ポリエチレンから成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物であり、
前記エチレン−酢酸ビニル共重合体は酢酸ビニル含有量が30重量%以下、かつ、メルトフローレートが2g/分以上であり、
前記エチレン−アクリル酸共重合体及びエチレン−アクリル酸エチル共重合体はそのメルトフローレートが2g/分以上であることを特徴とする請求項3記載の固形描画材。
【請求項5】
前記追加樹脂成分と、前記追加ワックス成分との比率が3:1〜1:20の範囲にあることを特徴とする請求項3又は4記載の固形描画材。
【請求項6】
前記樹脂成分以外の補助樹脂成分としてとしてセルロース誘導体及びポリビニルアセタール樹脂のうちの少なくとも一方を20重量%以下の範囲で含有するとともに、
前記ワックス成分以外の補助ワックス成分としてカスターワックス、モクロウ、ウルシロウ、ヤマウルシロウ、モンタンワックス、融点45℃以上のグリセリン脂肪酸エステル及びペンタエリスリトール脂肪酸エステルマイクロクリスタリンワックスから成る群から選ばれる1種又は2種以上の混合物を30重量%以下の範囲で含有することを特徴とする請求項1又は3記載の固形描画材。
【請求項7】
前記補助樹脂成分と、前記補助ワックス成分との比率が3:1〜1:20の範囲にあることを特徴とする請求項6記載の固形描画材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−35906(P2013−35906A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171441(P2011−171441)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000005957)三菱鉛筆株式会社 (692)
【Fターム(参考)】