説明

固形有機物分解型液肥供給装置、および固形有機物分解型液肥供給方法

【課題】栄養塩を効率良く供給することができ、しかも固形有機物による環境悪化を回避することができる固形有機物分解型液肥供給装置を提供する。
【解決手段】フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽3と、内部に入れた塊状浄化材20により汚濁水の固形有機物を分解して栄養塩液肥を調整する第2溶出用水槽4と、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給装置とを設置し、溶出成分含有水を海中に供給する固形有機物分解型液肥供給装置であって、第2溶出用水槽は、酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域と該好気性領域から外れた嫌気性領域とが流れの途中に交互に出現するように配置し、浄化域には塊状浄化材を充填し、浄化域を通過する途中で汚濁水を塊状浄化材に接触させながら好気性領域と嫌気性領域とを交互に通過させて汚泥水中の固形有機物を分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンブなどの海藻が繁殖し易く、成長を促進するために、特に、腐植酸鉄等や窒素とリン等を含有した栄養塩を海中に供給する固形有機物分解型液肥供給装置、および固形有機物分解型液肥供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、沿岸部などでは、海藻が減少して石灰藻で覆われる磯焼けが進行し、昆布、ウニ、アワビ等の沿岸水産資源の減少が顕著になっている。これは、従前であれば、森林の腐植土壌中で生成する水溶性のフルボ酸鉄(フルボ酸と二価の鉄がキレート化したもの)が河川から流れ込んでいたが、近年、森林の荒廃などによってフルボ酸鉄の供給が減少していることに起因しているといわれている。すなわち、水生植物が活発に光合成を行うために必要とされる海水中の有機態鉄(二価鉄イオン)が不足し、これにより昆布などの水生植物の繁殖、生育が悪化し、その結果としてウニやアワビ等の沿岸水産資源の減少を招いていると考えられている。
【0003】
このような問題を解決するために、例えば、石炭溶融灰、製鋼スラグなどの二価鉄含有物を嫌気性発酵させた腐植物質と共にココナッツ繊維袋に詰め、これを沿岸部に埋設したり、あるいは海中に沈め、ここから二価鉄を徐々に海中に放出し、これにより海藻や珪藻等の水生植物の繁茂に必要な鉄分を供給し、効率よく水生植物を繁茂させようとする磯焼け修復方法や水域環境保全材料などの技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−34140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記した二価鉄含有物の海中への放出は、確かに海藻の繁茂に効果が認められたが、本願発明者の研究によると、二価鉄含有物だけを単に海中に放出するだけではなく、海藻の生育を促進させる窒素やリンに代表される栄養塩の補給が効果的であることが判明した。
しかしながら、窒素やリン等の栄養塩を単に海中に放出しようとすると、栄養塩が短期間に溶出してしまい、溶出した割りに海藻の生育促進に寄与せず、効率が極めて低かった。
【0006】
また、水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスを含む混合液をそのまま海中に放出すると、海水中の固形有機物含有量が過多となりかえって環境汚染を引き起こしてしまう。
【0007】
本発明は、これらの事情に鑑みて提案されたものであり、栄養塩を効率良く供給することができ、しかも固形有機物による環境悪化を回避することができる固形有機物分解型液肥供給装置、および固形有機物分解型液肥供給方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した目的を達成するためになされたもので、請求項1記載のものは、フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽と、
水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスと水との混合物である汚濁水を供給し、内部に入れた塊状浄化材により前記汚濁水の固形有機物を分解して窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶かした栄養塩液肥を調整する第2溶出用水槽と、
第1溶出用水槽と第2溶出用水槽とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して供給可能な溶出成分含有水供給装置と、
を設置し、
海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給装置により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を液肥として供給する固形有機物分解型液肥供給装置であって、
前記第2溶出用水槽は、処理する汚濁水が入れられる上流側から栄養塩液肥を取り出す下流側の流出口の間に浄化域を設定し、該浄化域の底部に酸素含有気体供給ノズルを所定の間隔を開けて複数備えることにより、酸素含有気体供給ノズルから供給された酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域と該好気性領域から外れた嫌気性領域とが前記上流側から流出口へ向かう流れの途中に交互に出現するように配置し、前記浄化域には表面に複数の開口を有して各開口から内部に通じる隙間が形成された塊状浄化材を複数充填し、前記浄化域を通過する途中で汚濁水を塊状浄化材に接触させながら好気性領域と嫌気性領域とを交互に通過させて汚泥水中の固形有機物を分解することを特徴とする固形有機物分解型液肥供給装置である。
【0009】
請求項2に記載のものは、海藻の生活史の一部であって芽胞体発生後の光合成による成長期には、前記第1溶出用水槽と第2溶出用水槽との両溶出用水槽から溶出成分含有水を海中に供給し、成長期以外の時期は第2溶出用水槽から溶出成分含有水の供給を停止することを特徴とする請求項1に記載の固形有機物分解型液肥供給装置である。
【0010】
請求項3に記載のものは、前記塊状浄化材は、複数の砕石をバインダーにより結合して表面に複数の凹凸を形成して構成され、砕石同士の隙間が表面に開口し、且つ内部で互いに連通する複数の連絡路となっていることを特徴とする浄化材を使用する請求項1または2に記載の固形有機物分解型液肥供給装置である。
【0011】
請求項4に記載のものは、前記した第1溶出用水槽および第2溶出用水槽内の水が淡水であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の固形有機物分解型液肥供給装置である。
【0012】
請求項5に記載のものは、第2溶出水槽の下流側から上流側に水を循環させる循環路を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の固形有機物分解型液肥供給装置である。
【0013】
請求項6に記載のものは、水槽内で、フルボ酸鉄を水に溶出してフルボ酸鉄溶出水を調整し、このフルボ酸鉄溶出水を藻場となる海域に移動して海水中に供給するフルボ酸鉄溶出水供給工程と、
水槽内で、水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスと水との混合物である汚濁水を供給し、当該水槽の底部の酸素含有気体供給ノズルから供給された酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域と該好気性領域から外れた嫌気性領域とを流れの途中で交互に通過させ、好気性領域と嫌気性領域には、表面に複数の開口を有して各開口から内部に通じる隙間が形成された塊状浄化材を複数充填し、流れの途中で汚濁水を塊状浄化材に接触させながら汚泥水中の固形有機物を分解して窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶かした栄養塩液肥を調整し、この窒素及びリン栄養塩溶出水を藻場の海藻の生活史に対応させて、海藻の芽胞体が発生した後の光合成による成長期に前記海域に移動して海水中に供給する窒素及びリン栄養塩溶出水供給工程と、
を含んでいることを特徴とする固形有機物分解型液肥供給方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給装置により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を海中に供給するので、海藻の生育時期に適合した効率の良い栄養塩供給を行うことができ、窒素とリンを主成分とする栄養塩を溶出させた溶出成分含有水を海藻の生育タイミングに適合させて供給することができ、効率の向上を図ることができ、フルボ酸鉄の供給による繁殖、生育の促進との相乗効果が期待できる。
特に、海藻の生活史の一部であり光合成が行われる成長期に、第1溶出用水槽と第2溶出用水槽との両溶出水槽から溶出成分含有水を海中に供給し、成長期以外の時期は第2溶出用水槽から溶出成分含有水の供給を停止すると、効率向上が従来に比べて顕著である。
また、従来方式の設置は玉石や岩盤部に限定されているが、本技術は、海底や海岸に大規模な工事を行うことが不要となるので、自然環境への変化を最小限に留めておくことができ、かつ、海岸、沿岸地帯でなく内陸部に設置して液肥を製造し、沿岸部まで運搬し、液肥を散布しても良く、どこでもシステムを設置できる。
そして、海藻の繁殖、成長が促進されると、磯焼けした海域であっても効率良く回復することができ、藻場に海藻が繁茂すると、盛んに行われる光合成により二酸化炭素の固定が促進され、自然環境の回復に寄与する。
さらにまた、窒素とリンを主成分とする栄養塩を調整する場合に、水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスと水との混合物である汚濁水を水槽に供給し、当該水槽の底部の酸素含有気体供給ノズルから供給された酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域と該好気性領域から外れた嫌気性領域とを流れの途中で交互に通過させ、好気性領域と嫌気性領域には、表面に複数の開口を有して各開口から内部に通じる隙間が形成された塊状浄化材を複数充填し、流れの途中で汚濁水を塊状浄化材に接触させながら汚泥水中の固形有機物を分解して窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶かした栄養塩液肥を調整するので、バイオマスを使用しても、固形有機物(SS)や生化学的酸素供給量(BOD)が著しく増大するなどの海域の環境悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】藻場となる海岸汀線近傍から陸上までの領域を示す藻場周辺の断面図である。
【図2】固形有機物分解型液肥供給装置の第2溶出用水槽の概略構成を示す説明図であり、(a)は一部欠截断面図、(b)は平面図、(c)は第2溶出用水槽内における好気性領域と嫌気性領域と固形有機物(SS)および生化学的酸素供給量(BOD)の減少を示す説明図、(d)は第2溶出用水槽内に充填する塊状浄化材の斜視図である。
【図3】コンブの生活史の説明図である。
【図4】製鋼スラグ、クリンカアッシュ等の成分分析表である。
【図5】ダム堆積土の腐植酸鉄含有量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
図1は藻場となる海域から海岸までの領域、及び海岸に設置した固形有機物分解型液肥供給装置の一実施形態の構成を示す概略説明図であり、図2は第2溶出用水槽の概略構成を示す説明図である。
この固形有機物分解型液肥供給装置1は、藻場2となる浅瀬の海の近くの海岸(海岸汀線よりも陸側)に、フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽3と、窒素やリン等の栄養塩を水に溶出可能な状態で調整する第2溶出用水槽4と、前記第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4に水を供給する水タンク5と、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給装置と、を設置して構成され、海底に生育するコンブ等の海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給装置により選択して前記水槽内の溶出成分含有水を液肥として直接海中にタイミング良く供給するものである。
本実施形態のように、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とを縦方向に重ねて設置すると、装置全体の設置面積が小さくて済み、スペース効率が良好である。
【0017】
第1溶出用水槽3は、主としてフルボ酸鉄を水に溶出させる水槽であり、底面を僅かに海側に下り傾斜させた状態で設置され、内部にフルボ酸鉄溶出ユニット6を複数入れてあり、このフルボ酸鉄溶出ユニット6を供給された水に浸漬させるとフルボ酸鉄を溶出させることができる。
【0018】
第1溶出用水槽3に入れるフルボ酸鉄溶出ユニット6は、イオン溶出性収容体(図示せず)内に、ダム湖底に堆積した腐植物等の堆積物を採取して固形化した固形有機態と、鉄含有物質とを収納したものである。
【0019】
まず、イオン溶出性収容体について説明する。
このイオン溶出性収容体は、内部に収納した腐植物が溶けて二価鉄イオンやフルボ酸鉄が溶出可能な袋体、箱体、かご体などである。具体的には、ポリ塩化ビニール、ポリエチレン等の無機化学材料繊維、ココナッツヤシや麻などの植物繊維を使用して形成した袋体、多孔質材料を使用して形成した箱体、金属線材などを籠状体に成形したかごがある。例えば、環境適応性と耐久性とを兼ね備えたココナッツヤシ繊維(ヤシノミ繊維)を厚さ10〜15ミリのマット状に重ねてから袋にした中袋と、この中袋の外側を覆うヤシネットとの二重構造の袋体であり、中袋の中に前記した固形有機態と鉄含有物質を所定量投入し、開口部を縫合するなどして封止する。
【0020】
次に、固形有機態について説明する。
この固形有機態は、例えば、ダム湖底に堆積した腐植物等の堆積物を採取して固形化したものでよい。
ダム湖の底には、河川から流れ込んだ土砂や落ち葉などの有機物が堆積している。そして、土砂などの鉱物は、ダム湖に流れ込んで流速が緩やかになると比重が大きいので比較的早く沈殿し、また、粒径の大きなものの方が早く沈む。したがって、これらはダム湖の河川流れ込み領域などダム堤体から遠い地点に堆積しがちである。一方、落ち葉や小枝などは比重が小さいのでダム湖に流れ込んだ後も沈み難いためにダム湖中を漂ってからダム堤体近くに沈殿する。このため、使用する腐植物は、ダム堤体近くの湖底から採取することが望ましい。そして、ダム湖の底、特にダム堤体近くの湖底では山野で育った落ち葉や小枝などの有機物が水中で空気に触れない状態で堆積して腐植するので、腐植物を始めとする堆積物中では嫌気性発酵が行われることとなり、フルボ酸やフミン酸などの腐植酸が蓄積されている。なお、この蓄積された堆積物(沈殿物)は、有機酸鉄をも含んでいるので固形化すれば固形化有機態となり、これはフルボ酸鉄に相当するものであって、フルボ酸鉄溶出ユニット6の素材として好適である。しかも、ダム湖の堆積物を採取して、新たな用途の素材として使用するので、工業廃棄物とは異なり自然の無害な資源として使用できる第1のメリットがある一方で、ダム湖貯水量の増大と水質浄化ができるという第2のメリットがある。
【0021】
腐植物と細かい土砂を含んだ堆積物(泥土)を採取するには、クレーン船から湖底に吊り降ろした泥水用サンドポンプを使用し、この泥水用サンドポンプにより腐植土混じりの泥土を台船に汲み上げ、陸上の脱水処理施設に搬送する。そして、脱水処理施設の沈殿槽で沈殿させ、次に、沈殿物を脱水装置で脱水して脱水ケーキを固化処理装置にベルトコンベアで搬送し、この固化処理装置で粒状の固形有機態に固化する。そして、この様にして固形化した固形有機態は、包装装置に搬送して包装する。
【0022】
廃木材チップを条件的嫌気性発酵により生成した腐植物質中に含まれるフルボ酸とフミン酸は1%のオーダーであるが、ダム湖底に沈積した堆積物中に含まれるフルボ酸とフミン酸は数十%オーダーである。さらに、これらのフルボ酸とフミン酸に結合している鉄の形態分析から、カルボキシル基などの酸素を含む官能基とキレート結合している二価鉄であることも確認されている。
【0023】
また、本発明に使用するフルボ酸鉄溶出ユニット6は、ダム湖の底から採取して脱水処理を施した固形有機態だけであってもキレート結合している二価鉄を含んでいるのでこれのみでも十分に機能するが、鉄含有物質として、火力発電所からでるクリンカや石炭ガス化スラグ、あるいは製鋼スラグ等の二価鉄含有物質を添加してもよい。
【0024】
この様なフルボ酸鉄溶出ユニット6を第1溶出用水槽3内に設置して海水に浸漬すると、固形有機態に含まれたフルボ酸鉄がイオン溶出性収容体の内部から水に溶出するとともに、鉄含有物質の二価の鉄イオンがキレート剤(錯体)として固形有機態のフルボ酸と結合してフルボ酸鉄となり、この新たに結合したフルボ酸鉄がイオン溶出性収容体の内部から海水に溶出する。フルボ酸鉄溶出ユニット6内では、クリンカ等の鉄含有物質とキレート結合してフルボ酸鉄となる。そして、本実施形態では、フルボ酸鉄溶出ユニット6内のアルカリ調整済み鉄含有物質が、二価鉄イオンの溶出を遅らせる抑制剤として機能する。前記したクリンカや石炭ガス化スラグ等の二価の鉄イオンがキレート剤(錯体)として固形有機態のフルボ酸と結合してフルボ酸鉄となる速度は、単に鉄含有物質と腐植物とを混ぜただけの従来の水域環境保全材料よりも遥かに緩やかなものである。したがって、このフルボ酸鉄の結合は従来のものと比較して長期間に亘って継続することとなると考えていたが、アルカリ調整された製鋼スラグはPHが9.5であり、アルカリ度が強く弱酸性のダム堆積物を中和してしまい、ダム堆積物の高濃度の腐植酸鉄溶出を極度に抑えてしまう可能性が高い。例えば、図5に示すように、仁田ダムの腐植物質含有量28ppmが製鋼スラグを混合することで3ppmに減少してしまうことを確認した。従って、ダム堆積土を利用する場合にはアルカリ度の低い電力副産物のクリンカアッシュやIGCC石炭ガス化スラグを混合した方が有効であることが判明した。そして、本実施形態に示すフルボ酸鉄溶出ユニット6のイオン溶出性収容体はココナツ繊維(ヤシノミ繊維)製なので、退化速度が遅く、10年以上の長期間に亘って内容物を保持し、二価鉄イオンやフルボ酸鉄を溶出し続ける。また発酵物質のダム堆積物に含有するバクテリアに対しても、ヤシノミ繊維は塩分が多く対抗性が植物繊維の中で強靭である。
【0025】
前記した実施形態において、電力副産物であるクリンカ(PH8.1 密度2.019グラム/立方センチ)、IGCC石炭ガス化スラグ(PH8.1 密度2.928グラム/立方センチ)を使用すると、これらは製鋼スラグ(PH9.5 密度3.402グラム/立方センチ)よりもPHが中性に近いため、高濃度の腐植酸鉄を含有するダム堆積物の二価鉄イオンの溶出を抑制する遅延材(リターダー)としての役割を期待して使用する場合に好適であるとともに、マンガン(MnO)は、図4に示すように、製鋼スラグが多く、白濁の原因となり、また、リンイオン(P)は電力副産物が多く、藻場の栄養塩になる。ケイ素イオン(SiO)は電力副産物が圧倒的に多く、浮遊性プランクトンに有用であり、カキ養殖にも適する。カルシウムイオン(CaO)は製鋼スラグが圧倒的に多く、アルカリ度を高める。これらの点で製鋼スラグより電力スラグの方がより有効であることを確認した。
【0026】
次に、第2溶出用水槽4について説明する。この第2溶出用水槽4は、前述した第1溶出用水槽3よりも容量が大きくて陸の奥側に位置する水槽の陸側端部から海側端部に向けて底部が下り傾斜した長尺な水槽であり、図1および図2に示すものは第1溶出用水槽3の下に配置したものであり、水槽の陸側端部に、バイオマスの下処理設備である粉砕機7とミキサー8に接続する流入口9を上部に設け、海側の端部の下部に流出口10を設け、前記した陸側の流入口9から海側の流出口10に向かって内部の水が流れ、処理する汚濁水が入れられる上流側から栄養塩液肥を取り出す下流側の流出口10の間が浄化域11として設定され、この浄化域11を流れる途中で有機物を分解できるように構成されている。このため、この第2溶出用水槽の浄化域11の底部には、内部の流れ方向(陸側から海側)に直交する方向に送気管12を配置するとともに該送気管12に複数個の酸素含有気体供給ノズル13を所定の間隔をあけて設け、この送気管12を前記流れ方向に沿って複数本所定の間隔をあけて平行に並べて設け、これにより酸素含有気体供給ノズル(以下、ノズル)13から供給された酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域(散気領域あるいは好気領域ともいう)11aと該好気性領域11aから外れた嫌気性領域(嫌気領域ともいう)11bとが前記上流側から流出口へ向かう流れの途中に交互に出現するように構成されている。そして、この第2溶出用水槽4の内部には、塊状浄化材20を複数充填し、これら塊状浄化材20によりバイオマスが水に溶けた汚濁水を浄化する。
【0027】
塊状浄化材20は、表面に複数の凹凸を有するもので、例えば、相当径約数センチメートルの骨材21を集合し、各骨材21の接点をセメントやエポキシ系接着剤等のバインダーで接合して相当径約7〜15センチメートルのほぼ球形状に形成したものである。なお、相当径は、塊り状体の体積とほぼ等しい体積を有する球形体の直径をいう。
この様な塊状浄化材20は、骨材21をほぼ球形状に集合して接合したので、実際の表面積は無数の凹凸が存在して大きくなり、この表面積の増大で生物膜形成面積が増大する。また、凹凸は乱流を形成し易く、後述するように、散気(曝気)される酸素ガス(例えば、空気)と汚濁水との接触が増加し好気処理が迅速にできる。また、この塊状浄化材20は、骨材21をセンチメートルオーダーのものを選択した場合に骨材同士の間の隙間が約1〜3cmとなり、この隙間が凹部となったり当該塊状浄化材20の表面に開口する開口部22となり、隙間の奥の部分が連絡路(図示せず)となって他の隙間(連絡路)と連通する。なお、隙間の開口部22が大きすぎると連絡路内部を貫通する流れが発生し易く嫌気性微生物の育成環境として好ましくないので、骨材21の大きさを適宜選択することにより約1〜5cmの開口部22が形成されるようにすることが望ましい。
【0028】
次に、前記した構成からなる塊状浄化材20を第2溶出用水槽4の浄化域11に充填した状態での浄化作用について説明する。
塊状浄化材20は、表面での好気処理用の生物膜の形成体として機能し、また、表面の開口の方向に固形有機物(SS)を移動させ汚濁水からその開口部22に流離捕捉するための流速差(速度勾配)を形成するための抵抗体として機能し、さらに、開口部22で捕捉したSSをその内部の隙間に滞留させ嫌気処理するための嫌気処理域として機能することから、汚濁水中に浮遊する無機質及び有機質の微細固形物、溶解汚濁物等に有効に作用して汚濁水を浄化することができる。即ち、塊状浄化材20は、その表面には生物膜が形成される一方、水槽の底部から酸素含有ガス(以下、単に酸素ガスという)が汚濁水流れに直交する方向に散気されて上昇するため、浄化域11を流れる汚濁水と酸素ガスとは十分に接触混合すると同時に汚濁水流には乱流域が形成される。したがって、浄化域11における底部から酸素ガスが散気される好気性領域11aに充填配置された塊状浄化材20の周辺では、境膜等境界層の生成が抑制され、迅速に且つ効率良く好気処理が進行し、汚濁水中に溶解している溶解性汚濁物(BOD)が容易に好気処理され除去低減される。そして、処理された溶解性汚濁物(BOD)は、その大部分を占める有機物であれば炭酸ガスと水に分解され、それ以外の成分であるリンや窒素は水中に残存する。
【0029】
また、塊状浄化材20は、汚濁水流通域の抵抗体であり、その側近の流速を低下させ、浄化材周辺に汚濁水流中に流速差(速度勾配)を生じさせると同時に層流域が形成される。上記したように酸素ガスが散気される好気性領域11a(散気区域)では乱流域となり易いのに対して、好気性領域11aから外れた嫌気性領域(嫌気性領域あるいは無散気区域)11bでは層流域が形成される。このため、嫌気性領域11bにおいては、汚濁水中に浮遊する微細固形物(SS)(多くは有機物)は、生じた流速差により回転エネルギーを付与されて移動し、流速の遅い塊状浄化材20周辺の層流域に到達する。また、上記した好気性領域11aにおいて、SSは、その一部が塊状浄化材20の表面の生物膜に吸着して好気的に処理されるが、大部分は乱流域のランダムな流れにより隣接する嫌気性領域11bの方向に送出され、最終的に嫌気性領域11bにおいて塊状浄化材20周辺の層流域に流離到達する。
さらに、塊状浄化材20周辺の層流域に流離到達したSSは、その表面の開口部22に捕捉され、開口部22から内部の連絡路内に集積される。
【0030】
塊状浄化材20の連絡路内部は流れが殆どない停滞域であるため、SSはそのまま連絡路内に滞留して嫌気処理されて液状可溶化する。この液状可溶化された後は、その自重により連絡路内を下方に流れて開口部22から流通汚濁水中に流出して溶解し、前記したと同様に好気性領域11aにおける塊状浄化材20の表面で好気処理されて炭酸ガスと水に浄化除去される。そして、これらの処理が繰り返し行われることにより、図2(c)に示すように、溶解BODと浮遊SSが暫時減少し、最終的には、いずれも殆ど分解されてなくなる。
【0031】
この様に、第2溶出用水槽4中における浄化処理は、汚濁水中の溶解BODと浮遊SSとを同一浄化域11において、それぞれ異なる浄化に好適な処理域を提供して処理するために効率良く浄化が行われる。すなわち、溶解性BODに対しては、塊状浄化材20の表面で酸素ガスを供給して好気処理が迅速に行われるようにし、一方、SSに対しては塊状浄化材20の開口部22で捕捉してその内部の連絡路内に滞留させて嫌気処理する。このSSの嫌気処理は、浄化域11を流通する汚濁水の浄化処理滞留時間とほぼ無関係に行うことができるため、浄化域11での汚濁水の滞留時間は短縮される。そして、好気処理した好気性バクテリアは嫌気性領域11bで、嫌気処理した嫌気性バクテリアは好気性領域11aでの環境変化により死滅し、環境変化により死滅しないバクテリアは塊状浄化材20の連絡路内に長時間滞留して液状化し、第2溶出用水槽4における処理が終了した段階では種々のバクテリアが死滅し、最終的には死骸も分解されて炭酸ガスと水に戻る。したがって、第2溶出用水槽4で処理された後の水には汚濁水中に含まれていたリンや窒素の成分が残存し、窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶かした栄養塩液肥となるのである。
【0032】
前記した第2溶出用水槽4には水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスと水との混合物である汚濁水を供給するが、このために本実施形態では第2溶出用水槽4の陸側端部上に粉砕機7とミキサー8を設けてある。そして、例えば、魚カスなどのバイオマスを粉砕機により細かく粉砕し、この粉砕物をミキサー8に移して水を混合して撹拌して水に溶かして汚濁水にした後、この汚濁水を第2溶出用水槽4の陸側端部の流入口9から注入する。なお、粉砕したバイオマスをミキサー8で撹拌する段階で水を混ぜて所定のバイオマス濃度に調整してもよいが、ミキサー8である程度の水を加えて濃い汚濁水とし、この濃い汚濁水を第2溶出用水槽4に注入した後にさらに水を加えて所定濃度に希釈してもよい。
【0033】
なお、バイオマスは、水産加工残渣や食品加工残渣に限定されるものではなく、窒素とリンと有機物とを含むものであれば使用でき、例えば、漁村環境にて排出される生活残渣や汚泥発酵物質でもよい。この汚泥発酵物質は、一般的には汚泥発酵肥料として使用されているもので、その主要な成分として、窒素全量5.15%、リン全量6.26%、加里全量0.39%を含んでいるが、海水中で期待するN:Pは7:1である。
前記した様にすると、漁村に発生する生ごみ・加工残渣を混合して処理でき、これにより漁村環境を改善し、水域環境の保全に寄与できる。
【0034】
次に、前記した第1溶出水槽3、第2溶出用水槽4に水を供給する水供給系について説明する。本発明において使用する水は淡水であることが望ましく、本実施形態では、第1溶出水槽3の上に水タンク5を設置し、この水タンク5内に、例えば、近くの河川から汲み上げた水や地下から汲み上げた地下水、生活排水などを貯留しておく。そして、この水タンク5に接続した給水管30を介して前記したミキサー8、第1溶出水槽3、第2溶出用水槽4などに必要に応じて給水できるように構成されている。なお、給水管30の途中には弁(図示せず)を設け、この弁の開閉により給水先を適宜選択するとともに給水量を調整することができる。
【0035】
次に、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して海に供給可能な溶出成分含有水供給装置について説明する。第1溶出用水槽3の最高水位の少し下に第1溶出水出口31を開設し、第2溶出用水槽4の海側端部の流出口10に連通する第2溶出水出口32を開設し、これら溶出水出口31、32に溶出成分含有水流出系として接続した管を途中の滅菌装置33で合流させ、滅菌装置33の出口に調整タンク34の入口側を接続し、調整タンク34の出口に溶出成分含有水供給管35の入口を接続し、この溶出成分含有水供給管35を海中に延ばし、その出口36と海岸線との間から前記溶出成分含有水を分散させて藻場2となる海域に流出する。また、前記した第1溶出水出口31、第2溶出水出口32から合流する滅菌装置33までの間に第1、第2流出弁(図示せず)をそれぞれ設け、また、調整タンク34と水タンク5との間を接続する水供給管の途中に注水弁を設けてある。したがって、これらの第1、第2流出弁を操作することにより、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4とのいずれか一方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を調整タンク34に適宜選択し、また量を調整し、さらには水タンク5からの水を注入して適当な濃度に希釈した状態で供給したり、あるいは両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を海に供給したり、供給源を選択して海に供給できる。なお、両方の流出弁を同時に閉じると、第1溶出用水槽3、第2溶出用水槽4のいずれからの供給も停止することができる。そして、前記した流出弁は、手動で操作してもよいが、後述する制御装置により電気的に操作できる電磁弁などの電動式弁を用いることが望ましい。なお、前記した溶出成分含有水供給管35は、先端の出口36のみならず、その手前の部分に複数の孔を開設し、これらの孔から広い範囲に給水できるように構成することが望ましい。
【0036】
また、第1、第2溶出用水槽3,4内の溶出成分含有水を選択して海に供給するためには、前記した第1、第2流出弁を設けることなく、前記した水タンク5から第1、第2溶出用水槽3,4に水を注入する第1、第2給水弁という2つの給水弁で制御してもよい。例えば、第1、第2給水弁の両方を開くと第1、第2溶出用水槽3,4に水を供給できるので、第1、第2溶出用水槽3,4の第1溶出水出口、第2溶出水出口から流出した溶出成分含有水を溶出成分含有水供給管35を介して海に供給することができ、第1給水弁を開いて第2給水弁を閉じると、第1溶出用水槽3にだけ水が供給されるので、この第1溶出用水槽3から流出する溶出成分含有水を溶出成分含有水供給管35を介して海に供給することができる(フルボ酸鉄溶出水供給工程)。そして、第2給水弁を開くと、第2溶出用水槽4に海水が供給されるので、この第2溶出用水槽4から流出する溶出成分含有水を溶出成分含有水供給管35を介して海に供給することができる(窒素及びリン栄養塩溶出水供給工程)。なお、第1、第2給水弁を設けるとともに、第1、第2流出弁を設けてもよい。
また、図2中に点線で示すように、第2溶出用水槽4の流出口10から水槽の流入口9側に水を戻す循環路50とポンプ51を設け、処理する水を循環させてもよい。この様にして水を循環させて複数回繰り返し流すと、第2溶出用水槽4の流れ方向の長さを短縮化することができ、コンパクト化を図ることができる。
【0037】
前記した様に、フルボ酸鉄溶出ユニット6から溶出した二価の鉄イオンがフルボ酸鉄となり、このフルボ酸鉄が海域2に補充されて、この海域2ではコンブ40などの海藻の生育に好適な環境に改善される。具体的には、コンブ40等の海藻の養分となり、当該海藻の生育を促進することができ、特に、繁殖を大きく促進し、これにより磯焼けの回復を短縮化でき、また、コンブ40の生活史に対応させて、前記した溶出成分含有水供給装置により海水に補給する溶出成分含有水を選択して供給することで効率を向上させ、ひいては溶出ユニットの長期使用を可能とする。
【0038】
以下、コンブ40を例に挙げて海藻の生活史を説明すると共に、溶出成分含有水との関係を説明する。
図3はコンブ40の生活史を示す概略図である。
コンブ40は、
A)藻体表面の細胞が発達して胞子嚢になり、胞子嚢が夏から秋にかけて成熟し、
B)一般に海水温度が10℃以下になる秋〜初冬にかけて減数分裂が起こり、1本当り1億から十数億の遊走子(胞子)が子嚢班から放出され、海中を泳ぎながら岩盤などに着生する。
C)着生した後、繊毛を落として発芽し生長を始め、雌性配偶体と雄性配偶体に発達し真冬から春先にかけて新しい葉体(幼体)となる。
D)雌性配偶体は成熟すると卵子を形成し、雄性配偶体は成熟すると精子(精虫)を形成し、精子は遊走子と同様に泳ぐことができる。
E)精子が卵子へたどり着くと受精が行われ、受精卵は直ちに細胞分裂して芽胞体が発生し、4〜5月頃まで次第に大きく胞子体に成長してゆく(晩冬から早春)。芽胞体が発生した後の成長期においては光合成が活発に行われる。
F)この胞子体は晩春から初夏頃までさらに成長して1年目のコンブ40となる。
G)コンブ40は夏から秋にかけて成熟し、子嚢班を有する胞子体に成長して1年目を終了し、秋を迎えて(A)に戻る。
そして、この配偶体が成熟する秋から冬の時期(特に冬)においては、キレート化された二価鉄成分の濃度の増加に伴い、雌雄配偶体の成熟度が高まる。具体的には、0.01mg/L以上の場合に雌雄配偶体への発達が促進されることが確認できている。
また、配偶体の成熟期に限らず、遊走子の放出から配偶体発達〜受精〜胞子体着生に至る冬季にはクリンカや石炭ガス化スラグと人工腐植物質を組み合わせてを施した場合に大きな施肥効果が見られ、キレート化させた二価鉄の効果が大きいことが確認できている。
さらに、胞子体が成長する夏季には、クリンカやスラグのみの場合よりも、クリンカや石炭ガス化スラグと人工腐植物質とを組み合わせた施肥の効果が大きいことが確認されている。
【0039】
そして、受精した芽胞体が発生し細胞分裂が盛んになって胞子体に成長する晩冬から早春の時期、例えば、2月〜5月頃までの間に、光合成が活発に行われるので、この成長期に窒素とリンを主要な成分とする栄養塩を補給すると、成長が一層促進されて効率良く成長することが確認されている。
【0040】
したがって、前記した固形有機物分解型液肥供給装置1の運転については、例えば、コンブ40の生活史に対応させて栄養塩を供給する場合には、第1溶出用水槽3内で溶出させたフルボ酸鉄含有水を年間を通して海中に供給し、第2溶出用水槽4内で溶出させた窒素とリン等の栄養塩含有水は、光合成による成長が活発な2〜5月の間だけ供給すれば足りる。
この様にして、窒素とリン等の栄養塩含有水の補給期間をコンブ40の成長時期に限定すると、窒素とリン等の栄養塩ユニット7の溶出速度が速くて使用可能期間(ライフサイクル)が短いという特性があっても、施肥時期を特定して過不足のない施肥を施すことで、施肥量と成長促進とのバランスをとった効果を高めることができ、無駄を省いた栄養塩の供給を可能とすることができる。
【0041】
これに対して、フルボ酸鉄溶出ユニット6については、窒素やリン等の栄養塩に比較して溶出速度が遅くて使用可能期間(ライフサイクル)が長いことと、コンブ40の生活史の全期間においてフルボ酸鉄の施肥効果が期待でき、また、比較的安価であることから、年間継続供給が望ましい。
【0042】
窒素及びリン栄養塩溶出水を2〜5月という限られた期間だけ補給する場合、第2溶出用水槽4の第2給水弁や第2流出弁などの弁を作用員が手動により操作してもよいが、制御装置のタイマーに時期的条件として予め設置し、タイマーがこの時期的条件を満たした時に前記した第2溶出用水槽4の弁を自動的に開閉操作するように構成してもよい。
なお、制御装置は、CPU、ROM、RAM等からなる公知のマイクロコンピューター構成であり、時計回路を備えたタイマーを有し、操作部を操作することにより、所望する時期に弁を開いたり閉じたりする時期的条件を設定することができる。
【0043】
また、前記した時期的条件を設定することと併せて温度条件を予め設定しておき、この温度条件が充足され、且つ時期的制限が充足された場合に、第2溶出用水槽4の弁を開けて窒素とリン等の栄養塩溶出水を補給するように構成してもよい。例えば、海水の温度を検知する温度センサー(図示せず)を設けておき、該温度センサーからの信号により制御装置が海水温度を監視しておき、予め設定した温度になって、且つ時期的条件が充足した時点で第2溶出用水槽4の前記弁を開閉操作するように構成してもよい。
【0044】
なお、第1、第2溶出用水槽3,4に供給する水は、前記した淡水が望ましいがこれに限定されるものではなく、二価鉄や窒素やリン等の栄養塩が溶出可能であって、海水中に流し込んでも環境汚染のおそれがない水であればよい。例えば、海岸近くの河川の水でもよいし、池や湖の水でも良いし、また、効率は低下するが海水でもよい。また、第1溶出用水槽3と第2溶出用水槽4は、前記した実施形態では別個にしたが、1つの大きな水槽の内部を仕切り壁により仕切ることで2つの水槽として機能させてもよい。また、前記した実施形態では、第1、第2溶出用水槽3,4内で調整した液肥を溶出成分含有水供給管35によって直接海中に流出させたが、本発明は直接海中に流出するものに限らない。例えば、固形有機物分解型液肥供給装置1を海岸、沿岸地帯でなく内陸部に設置して液肥を製造し、この液肥を運搬手段を介して、例えばタンクに入れて沿岸部まで運搬してから海に散布してもよい。
【0045】
また、前記した実施形態においては、コンブ40の生活史に対応して施肥を施す例を挙げたが、本発明の対象となる海藻はコンブ40に限定されるものではない。例えば、同様の生活史を繰り返す海藻として、アラメ、カジメ(コンブ40目)、アカモク(ホンダワラ目)、イトグサ(テングサ目)、海苔などがあり、これらの海藻を対象としてもよい。
【0046】
アラメ、カジメ等は、秋に成熟し、放出された遊走子が着底すると雌雄の配偶体に生長する。雄性配偶体からの精子が雌性配偶体の卵と受精し、受精卵が着底して胞子体(幼体)となり、春に大きく生長する。したがって、アラメ、カジメ等を対象とする場合には、フルボ酸鉄溶出水は一年を通して供給し、窒素及びリン栄養塩溶出水は、成長期である2〜6月を目安に供給する。
【0047】
アカモクは、成熟した胞子体から放出された遊走子が雌雄の配偶体となり生殖器床上の卵と受精が起こる。受精卵が岩盤等に着底すると発芽し、幼体に生長し幼い胞子体になる。12月頃から水温が低下し始めると伸張し、春から初夏にかけて大きく生長し、成熟して遊走子が放出され、これを毎年繰り返す。したがって、アカモクを対象とする場合には、フルボ酸鉄溶出水は一年を通して供給し、窒素及びリン栄養塩溶出水は、成長期である1〜4月を目安に供給する。
【0048】
イトグサは、海域や水深によって成長度合や寿命が異なるが、多くの地域では5〜10月にかけて約半年が主要受精期で、成長期は12月〜5月である。したがって、イトグサなどのテングサ類を対象とする場合には、フルボ酸鉄溶出水は一年を通して供給し、窒素及びリン栄養塩溶出水は、成長期である12〜5月を目安に供給する。
【符号の説明】
【0049】
1 固形有機物分解型液肥供給装置、2 藻場、3 第1溶出用水槽、4 第2溶出用水槽、5 水タンク、6 フルボ酸鉄溶出ユニット、7 粉砕機、8 ミキサー、9 流入口、10 流出口、11 浄化域、11a 好気性領域 、11b 嫌気性領域11b、12 送気管、13 酸素含有気体供給ノズル、20 塊状浄化材、21 骨材、22 開口部、30 給水管、31 第1溶出水出口、32 第2溶出水出口、33 滅菌装置、34 調整タンク、35 溶出成分含有水供給管、36 溶出成分含有水供給管の出口、40 コンブ、50 循環路、51 循環用のポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルボ酸鉄を水に溶出可能な第1溶出用水槽と、
水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスと水との混合物である汚濁水を供給し、内部に入れた塊状浄化材により前記汚濁水の固形有機物を分解して窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶かした栄養塩液肥を調整する第2溶出用水槽と、
第1溶出用水槽と第2溶出用水槽とのいずれか一方または両方の溶出用水槽内の溶出成分含有水を選択して供給可能な溶出成分含有水供給装置と、
を設置し、
海底に生育する海藻の生活史に対応させて前記溶出成分含有水供給装置により選択して前記溶出用水槽の溶出成分含有水を液肥として供給する固形有機物分解型液肥供給装置であって、
前記第2溶出用水槽は、処理する汚濁水が入れられる上流側から栄養塩液肥を取り出す下流側の流出口の間に浄化域を設定し、該浄化域の底部に酸素含有気体供給ノズルを所定の間隔を開けて複数備えることにより、酸素含有気体供給ノズルから供給された酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域と該好気性領域から外れた嫌気性領域とが前記上流側から流出口へ向かう流れの途中に交互に出現するように配置し、前記浄化域には表面に複数の開口を有して各開口から内部に通じる隙間が形成された塊状浄化材を複数充填し、前記浄化域を通過する途中で汚濁水を塊状浄化材に接触させながら好気性領域と嫌気性領域とを交互に通過させて汚泥水中の固形有機物を分解することを特徴とする固形有機物分解型液肥供給装置。
【請求項2】
海藻の生活史の一部であって芽胞体発生後の光合成による成長期には、前記第1溶出用水槽と第2溶出用水槽との両溶出用水槽から溶出成分含有水を海中に供給し、成長期以外の時期は第2溶出用水槽から溶出成分含有水の供給を停止することを特徴とする請求項1に記載の固形有機物分解型液肥供給装置。
【請求項3】
前記塊状浄化材は、複数の砕石をバインダーにより結合して表面に複数の凹凸を形成して構成され、砕石同士の隙間が表面に開口し、且つ内部で互いに連通する複数の連絡路となっていることを特徴とする浄化材を使用する請求項1または2に記載の固形有機物分解型液肥供給装置。
【請求項4】
前記した第1溶出用水槽および第2溶出用水槽内の水が淡水であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の固形有機物分解型液肥供給装置。
【請求項5】
第2溶出水槽の下流側から上流側に水を循環させる循環路を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の固形有機物分解型液肥供給装置。
【請求項6】
水槽内で、フルボ酸鉄を水に溶出してフルボ酸鉄溶出水を調整し、このフルボ酸鉄溶出水を藻場となる海域に移動して海水中に供給するフルボ酸鉄溶出水供給工程と、
水槽内で、水産加工残渣や食品加工残渣などのバイオマスと水との混合物である汚濁水を供給し、当該水槽の底部の酸素含有気体供給ノズルから供給された酸素含有気泡が水中を上昇する好気性領域と該好気性領域から外れた嫌気性領域とを流れの途中で交互に通過させ、好気性領域と嫌気性領域には、表面に複数の開口を有して各開口から内部に通じる隙間が形成された塊状浄化材を複数充填し、流れの途中で汚濁水を塊状浄化材に接触させながら汚泥水中の固形有機物を分解して窒素とリンを主成分とする栄養塩を水に溶かした栄養塩液肥を調整し、この窒素及びリン栄養塩溶出水を藻場の海藻の生活史に対応させて、海藻の芽胞体が発生した後の光合成による成長期に前記海域に移動して海水中に供給する窒素及びリン栄養塩溶出水供給工程と、
を含んでいることを特徴とする固形有機物分解型液肥供給方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−217410(P2012−217410A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88089(P2011−88089)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(509140630)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(511091922)やまこう建設株式会社 (1)
【出願人】(509141501)株式会社タケマン (1)
【出願人】(591058091)アクアテック株式会社 (3)
【出願人】(592106384)
【出願人】(599064801)株式会社エコ・グリーン (7)
【出願人】(511092033)山▲崎▼建設株式会社 (1)
【出願人】(511091933)株式会社宮本組 (1)
【Fターム(参考)】