説明

固形燃料中の塩素含有量測定方法

【課題】測定結果が迅速に得られるようにしながらも、信頼性の高い測定精度が得られるようにした固形燃料中の塩素含有量測定方法を提供する。
【解決手段】固形燃料を酸素ボンブ燃焼容器内で燃焼させ、燃焼により発生する塩化水素及び塩素を燃焼容器内に収容したアルカリ水溶液に吸収させ、その吸収液中の塩素量を蛍光X線で測定する。固形燃料は、廃プラスチック類、廃繊維類、及び古紙のうち、少なくともいずれか1つの物質から製造された燃料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RPF(Refused paper & Plastic Fuel の略)などの固形燃料(固体燃料と同義)中の塩素(Cl)含有量を迅速、かつ精度良く測定するための測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、廃プラスチック類、廃繊維類、及び古紙(紙くず)の処理方法として、資源有効利用の面から、それらを混合しブリケット状に一体成形して固形燃料化(RPF、RDF)することが提案されている。しかし、廃プラスチック類などに含まれるポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)など塩素含有ポリマー由来の塩素分は、固形燃料の使用時に塩化水素化して焼却炉ボイラー配管を腐食するほか、排ガス中に塩化水素濃度の増加をもたらすなどの難点がある。
【0003】
そこで、上記固形燃料の成形に際してはポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)など塩素含有ポリマーを極力排除する選別が行なわれている。そして、このようにして成形された固形燃料については、出荷に際し、特に塩素含有量の製品検査が行なわれており、この製品検査として、固形燃料試料をそのままの形で蛍光X線法により測定する方法が一般的に行われている(下記特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−279564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記従来の技術の測定方法では、その測定が迅速にできるものの、下記の理由により、その測定方法による測定値にばらつきが発生し、精度上に問題がある。
【0006】
即ち、固形燃料の製造では、通常、廃プラスチック類、廃繊維類、及び古紙を含む原料を成形機内で機械的に混合し、発生する熱量で廃プラスチックの主成分であるポリオレフィン類を溶融させる。この場合、融点の高いポリエステル、ナイロンや不溶融の紙類はそのままの形で溶融ポリオレフィン相に取り込まれ、ノズルから押し出されてブリケットに成形される。そのため、成形されたブリケットの表面には凸凹が見られる。また、このブリケットの断面は円形であって、その表層から内部に亘る断面の各部分では各成分の相分離による組成斑や空隙が発生して、断面の各部分の密度にばらつきが生じがちとなる。
【0007】
ここで、前記蛍光X線分析により精度の良い測定を得ようとするためには、その試料として、表面の平坦性、及び各部密度の均一性が要求される。具体的には、蛍光X線分析の原理に鑑み、測定試料の平坦性(均一性)は試料に入射する励起X線量を一定にし、試料密度の均一性は励起X線量の入射深さ、蛍光X線量の発生量を一定にする。これにより、測定精度が保証される。また、これを換言すれば、試料毎に平坦性や密度にばらつきがあると、そのばらつきの変動が測定値のばらつきとして現れる。
【0008】
このため、前記したように、表面に凸凹を有し、密度にばらつきが生じがちな固形燃料では、そのままの形で蛍光X線分析を行なうと、測定結果を得る上で、迅速性は得られるが、試料測定面の平坦性、及び密度の均一性が低い分、測定値にばらつきが発生し、信頼性が低いものとなる。
【0009】
一方、自動試料燃焼装置とイオンクロマトグラフィーを組み合わせて塩素含有量を測定する方法もある。しかし、この方法による分析に際しては標準試料をも測定する必要があり、かつ、塩素イオン濃度を電気伝導度で検出するために、機器は恒温室に設置しなければならないという制約がある。よって、上記した塩素含有量の測定方法は煩雑になりがちである。また、この方法において、試料を高圧の酸素雰囲気で燃焼させる場合には、一部塩素の形で生成し、アルカリ吸収液に次亜塩素酸イオンの形になるため、イオンクロマトグラフィーによる測定に際しては誤差の原因になるなどの問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、測定結果が迅速に得られるようにしながらも、信頼性の高い測定精度が得られるようにした固形燃料中の塩素含有量測定方法を提供することにある。
【0011】
請求項1の発明は、固形燃料を酸素ボンブ燃焼容器内で燃焼させ、この燃焼により発生する塩化水素及び塩素を上記燃焼容器内に収容したアルカリ水溶液に吸収させ、その吸収液中の塩素量を蛍光X線で測定することを特徴とする固形燃料中の塩素含有量測定方法である。
【0012】
請求項2の発明は、上記固形燃料が廃プラスチック類、廃繊維類、及び古紙のうち、少なくともいずれか1つの物質から製造された燃料であることを特徴とする請求項1に記載の固形燃料中の塩素含有量測定方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明による効果は、次の如くである。
【0014】
本発明の固形燃料中の塩素含有量測定方法によれば、固形燃料中の塩素含有量の測定につき、迅速性を確保しながら信頼性の高い測定精度が得られ、当該方法は固形燃料の品質管理の手段に使用できて有益である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】蛍光X線による標準試料溶液の検量線を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の固形燃料中の塩素含有量測定方法に関し、測定結果が迅速に得られるようにしながらも、信頼性の高い測定精度が得られるようにした固形燃料中の塩素含有量測定方法を提供する、という目的を実現するため、本発明を実施するための形態は、次の如くである。
【0017】
固形燃料は、廃プラスチック類、廃繊維類、及び古紙から製造されたRPFである。なお、この固形燃料は、上記3つの物質のうち、少なくともいずれか1つ、もしくは2つの物質から製造されたものであってもよく、RPFに限定されるものではない。上記固形燃料のブリケットを1ロットから5〜6個採取し、粉砕あるいは削り取られたサンプルを混合、縮分し、0.5g〜1gを石英製坩堝に秤量する。アルカリ水溶液を収容した酸素ボンブ燃焼容器に石英坩堝をセットして、高圧の酸素雰囲気下(3MPa)で燃焼させる。燃焼により発生した塩化水素、塩素ガスはアルカリ水溶液に吸収される。
【0018】
燃焼容器を水冷した後、開封し上記アルカリ吸収液を濾過・洗浄して濾液を得、この濾液の蛍光X線分析により塩素濃度を定量する。蛍光X線法では塩素の形を識別しないので全塩素量として測定ができる。
【0019】
一方、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンフィルムで底面が形成された試料カップを準備し、この試料カップに上記濾液を入れる。そして、上記ポリオレフィンフィルム面にその下方から入射X線を照射する。測定試料としての上記濾液は溶液であるため均質で密度は一定であり、この測定試料の下端部の表面もポリオレフィンフィルムとの接触により平坦性が得られる。このため、上記ポリオレフィンフィルムを通しての上記測定試料に対する入射X線量、及び、この照射により発生する蛍光X線が試料内部から脱出する深さについては、各測定試料間でのばらつきが最小限に抑えられ、精度の高い測定結果が得られる。蛍光X線分析では、入射X線を測定試料の表面に照射して蛍光X線を発生するため、装置内は真空もしくはヘリウムの雰囲気に保つことが好ましい。しかし、上記したように、測定試料を収める試料カップの底面を容器の底面に薄いポリプロピレンフィルムで形成する場合、装置内を真空にしたとすると、上記フィルムが破損するおそれがある。そこで、上記したX線の照射は、ヘリウムもしくは空気の雰囲気で行なうことがより好ましい。
【0020】
塩素濃度の定量は、あらかじめ塩素濃度が既知の塩化物水溶液の蛍光X線強度から検量線を作成しておき、実サンプル燃焼アルカリ吸収液のX線強度との比較から迅速、かつ精度良く行なうことができる。
【0021】
なお、燃焼容器は耐圧性のもので20MPaの圧力に耐えるものが望ましい。容器の内容積は100〜1000mL、好ましくは200〜500mLのものが操作性の面から好ましい。本発明では燃焼に供される固形燃料の試料量は0.1g〜5gの範囲であるが、望ましくは0.5〜1.0gの範囲である。0.1g以下ではサンプルの代表性が得られず、測定値にばらつきが見られる。5gを超えると、試料を完全燃焼させるために燃焼容器が大掛かりになり実用的でなくなる。
【0022】
燃焼は、塩素成分を完全にガス化させるために完全燃焼させる必要がある。そのため燃焼容器の内容積が200〜500mL、試料量0.5〜1.0gの条件では1〜5MPaの酸素を容器に圧入して燃焼するのが望ましい。
【0023】
燃焼は石英製容器に入れた試料表面に点火用のニクロム線に繋いだ木綿糸を這わせ電気的着火させ固形燃料試料を完全燃焼させる。燃焼容器には、発生した塩化水素、塩素などの気体成分を吸収するためにアルカリ水溶液が収容されている。アルカリ水溶液としては、たとえば1モル/L濃度の水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどのアルカリ水溶液10mLを吸収液とする。
【0024】
燃焼後、燃焼後容器を冷却水に漬け常温まで冷却し、開蓋する。アルカリ吸収液を篩目0.45μmの濾紙で吸引濾過する。また、容器内壁、蓋、燃焼用治具などをイオン交換水で洗浄し、洗浄液を吸引濾過する。洗浄・濾過の操作を3回繰り返し、アルカリ吸収液の濾過水と併せ容量100mLに調整し、蛍光X線分析用の試料とする。
【0025】
調整した蛍光X線分析試料100mLから5mLを採取し、底面を厚さ数μmの薄いポリエチレン、あるいはポリプロピレンフィルムを張った蛍光X線測定用試料容器に入れる。次に、この試料容器につき、封をして蛍光X線装置にセットする。蛍光X線による塩素の測定は、例えばCr管から励起された一次X線をパラジウムターゲットに照射させて発生した二次X線を試料容器の底に張った薄いポリエチレンフィルムを介して照射し、蛍光X線を発生させる。塩素由来の蛍光X線のエネルギー2.62KeVを半導体検出器で測定することにより塩素を定量するのである。
【実施例】
【0026】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0027】
(I) 塩素Kα蛍光X線強度−塩素濃度検量線の作成
塩素Kα蛍光X線強度と塩素濃度の検量線を下記の手順で作成した。
(1) 塩化ナトリウムを0.1モル/L水酸化ナトリウム水溶液に溶解し100mLとした塩素濃度が0mg/L、10mg/L、50mg/L、100mg/L、1000mg/Lの標準試料
溶液を調製する。
(2) 標準試料溶液について、後述する(II)の蛍光X線測定と同様にして塩素の蛍光X線強度を測定する。
(3) 標準試料の塩素濃度と蛍光X線強度から検量線を作成する。
【0028】
上記手順によって得られた蛍光X線分析による測定結果を下記表1に示す。この表1は標準試料の塩素濃度と蛍光X線(塩素Kα:2.62KeV)強度との関係を示すものである。
【0029】
【表1】

【0030】
Cl(塩素濃度)=3.5218X−15.183
X:塩素Kα蛍光X線(2.62KeV)強度(cps)
上記表1に基づけば、図1に示すように、R2=0.9998と相関係数の高い良好な検量線が得られた。
【0031】
(II) 蛍光X線測定用試料調製手順
(1) 固形燃料ブリケットを破砕し、0.5gを精秤する。
(2) IKA社分解システムAOD1の酸素ボンブ(内容積200mL)に1モル/Lの水酸化ナトリウム水溶液10mLを収容する。
(3) 石英製試料ホルダーに精秤した試料0.5gを充填し、試料支持台にセットする。
(4) 着火用の糸(塩素フリー)を着火用ワイヤーに掛けその端末を試料表面に接触させる。
(5) 酸素ボンブの蓋をした後、容器内圧力が3MPaになるよう酸素を充填する。
(6) 着火用ワイヤーに通電し、試料の燃焼を行なう。
(燃焼で発生した塩化水素、塩素はアルカリ水溶液に吸収される。)
(7) 容器を冷水で冷却後、開蓋し、アルカリ吸収液をビーカーに移す。容器内壁、蓋、及び治具をイオン交換水で洗浄液する。洗浄操作を3回繰り返し、洗浄液をアルカリ吸収液に併せる。
(8) 5Cの濾紙でアルカリ吸収液と洗浄液の合液を吸引濾過し、メスフラスコに濾液を採取、イオン交換水を加えて100mLに調整する。
【0032】
(III) 蛍光X線測定手順
蛍光X線装置はSPECTRO社のエネルギー分散型蛍光X線装置XEPOSを用いた。
(1) 調製試料液5gを底面にポリエチレンフィルムを張った試料キャップに入れ蓋をする。
(2) 試料容器を底面が2次X線の照射面になるようにセットする。
(3) 試料にX線(パラジウム励起X線)を照射して試料溶液中の塩素から発する蛍光X線を検出器(図示省略)によって検出し分析する。
【0033】
5個の固形燃料を破砕し山を作り、そこから0.5gずつ5個のサンプルを採取する。
【0034】
以下それぞれ(II)の蛍光X線測定用試料調製手順に従い蛍光X線測定用試料を作成する。
【0035】
各試料について(III)の蛍光X線測定手順に従って塩素の蛍光X線(Kα)強度を測定し、塩素濃度を検量線から求める。
【0036】
塩素濃度から固形燃料の塩素含有量(mg/kg)は次式に従い計算する。
【0037】
固形燃料中の塩素含有量(mg/kg)=200×Cl(アルカリ吸収液の塩素濃度mg/L)
固形燃料を破砕して得られた5個のサンプルの測定結果を下記表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、本発明による分析法で固形燃料の破砕物0.5g採取して測定しても、変動係数7.6%と精度の高い塩素含有量の測定値が得られることが判った。
【0040】
本発明による固形燃料中の塩素含有量の測定に掛かる時間は30分/試料であり、検量線も1度作成すれば、1ヶ月以上の長期間繰り返し、使用が可能である。
【比較例】
【0041】
固形燃料を破砕して5個を採取し、元素分析法で塩素含有量を求め蛍光X線分析の標準試料とした。底面に厚さ4μmのプロレンフィルムを張った蛍光X線測定用容器に標準試料を充填し、蛍光X線で塩素量を測定し、検量線を作成したがR2=0.68と相関係数の小さいものが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形燃料を酸素ボンブ燃焼容器内で燃焼させ、この燃焼により発生する塩化水素及び塩素を上記燃焼容器内に収容したアルカリ水溶液に吸収させ、その吸収液中の塩素量を蛍光X線で測定することを特徴とする固形燃料中の塩素含有量測定方法。
【請求項2】
上記固形燃料が廃プラスチック類、廃繊維類、及び古紙のうち、少なくともいずれか1つの物質から製造された燃料であることを特徴とする請求項1に記載の固形燃料中の塩素含有量測定方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−21797(P2012−21797A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157779(P2010−157779)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(501089601)三重中央開発株式会社 (7)
【Fターム(参考)】