説明

固形状化粧料

【課題】
化粧品組成物に配合する油脂成分に植物油、特に長年の食品等での使用実績のある米糠油を使用することが切望されていたが、その使用感と経時的に酸化し易い成分を含有することによる臭気や褐変を始めとする物性変化の防止と使用感の確保の両立が課題となっていた。
【解決手段】
水素添加の度合いを加減することによって特定の融点範囲に調整した水添米糠油を使用することにより耐酸化安定性だけでなく、同時にその使用感も向上することが出来ること、さらに当該水添米糠油を配合した薬剤について特定の形状に成形することにより、使用感が向上することを見出し発明を完成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水添米糠油を含有する化粧品組成物に関し、さらに詳しくは、当該水添米糠油の融点範囲が22℃から58℃、望ましくは32℃から48℃の範囲に収まるように水添度合いを調節した水添米糠油を含有する化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、部分的に水素添加されたホホバ油を化粧品原料に使用するに際して、特定のヨウ素価の数値幅が開示されているが、水素添加の度合い及びその融点範囲との関係、並びにその他の添加物との関係については開示も示唆もされていない。
【0003】
特許文献2には、水素添加したオリーブ油と植物油を組み合わせることによる皮膚のハリ・弾力を回復し、皮膚の老化防止に効果的な化粧料が開示されているが、水素添加の度合い及びその融点範囲とその効果との関係、並びにその他の添加物との関係については開示も示唆もされていない。
【0004】
特許文献3には、米硬化油を含有する毛髪処理剤において、毛髪ダメージを修復する効果を奏する旨の記載があるが、水素添加の度合い及びその融点範囲とその効果との関係、並びにその他の添加物との関係については開示も示唆もされていない。
【0005】
特許文献4には、米糠油を水素添加して得られる水添米糠油を含有することを特徴とする米糠油由来化粧品原料組成物が開示されているが、含有成分である高級脂肪酸のリノール酸とオレイン酸のそれぞれの含有量を調整する方法として、水素添加の度合いを調整する技術についての記載があるが、特定の範囲の融点を有する水添米糠油についての記載、及び、その他の添加物との関係は記載されていない。
【0006】
非特許文献1の公知処方例には、水添ヒマシ油を始め各種植物油の水素添加処理したものの処方事例が掲載されているが、処方根拠などの詳細な技術情報の開示はされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−71257
【特許文献2】特開2004−51541
【特許文献3】特開2003−12473
【特許文献4】特開2005−171219
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】化粧品分野における公知技術集2010年版(日本化粧品工業連合会 特許委員会編)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
米に由来する成分特に米糠油を化粧品組成物に使用するには、主にその経時変化に起因する変質、すなわち呈色、臭気の発生などの化学的変質や粘度や硬度などの物理的変質が技術的課題であり、過去にもさまざまな対策が試みられていたが結局のところ解決策としては酸化防止剤を配合するしかなかった。
【0010】
また、これらの対策については、基本的には化粧品組成物の経時変化を抑制または防止を目的としたものに過ぎず、化粧品組成物の機能の向上にまで及ぶことを目的とするものではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
製造時の水素添加の度合いによって融点範囲を22℃から58℃の範囲に調整した水添米糠油を含有することにより、本課題を解決することが出来ることを見出し本発明を完成した。
【発明の効果】
【0012】
本発明による化粧品組成物は、経時変化による変質がおき難く、要求される成形性などの物理的性質、薬剤の安定性などの化学的性質が確保されていると同時に、塗布部での剤ののび、硬さ、つけ心地のよさ、しっとり感の持続時間などの使用者の使用感の向上を実現している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
水添米糠油としては、任意の不飽和脂肪酸成分が還元される非選択水素添加によって、あるいは、高度不飽和脂肪酸成分のリノレン酸及びリノール酸がオレイン酸と比較してより選択的に還元される選択水素添加によって得られるもののいずれであってもよく、任意の公知の方法を取ることができる。
【0014】
後者の選択水添米糠油は、例えば、ニッケル触媒の存在下に米糠油を還元する公知の方法により製造される。ニッケル触媒としては、珪藻土担体に炭酸ニッケルを沈殿させ、熱分解して酸化ニッケルとした後、水素気流中で高温で還元した還元ニッケルが代表的である。その他、蟻酸ニッケルやラネーニッケル等が用いられる。米糠油の水添は、バッチ式でも連続式でもよく、米糠油に水素ガスを吹き込みながら、一般に、純ニッケル分0.02〜0.5%の存在下に、圧力0〜8kg/cm2・G、温度120〜200℃で行われる。
特に、0.1〜0.4%Ni、圧力0.5〜50kg/cm2・G、温度130〜170℃の条件下が好ましい。また、前者の非選択水添米糠油は、例えば、上記触媒とは異なった還元触媒を用いるか、圧力及び温度の少なくとも一方を上記選択水添反応より高くした反応条件下に、水素添加することにより製造される。
いずれの場合であっても、反応条件(特に圧力と温度)を調節することによって水添の度合いを任意に設定することが出来る。
なお、本発明において百分率は、別途断りのない限り重量百分率を意味するものとする。
【0015】
同時に配合することができる成分については、一般的に化粧品に使用されるものであれば特に制限はないが、本発明の効果を減衰・阻害しないもの、本発明の効果を増強するものや、新たな効果をさらに与えるものが好ましい。また、米に由来する成分であることがさらに望ましく、米由来成分としては、脱脂米糠、コメヌカロウ、γ−オリザノール、コメ胚芽末、コメ胚芽油、イネ脂、植物性スクワラン(
米スクワラン)、米糠スフィンゴ糖脂質、フィトステロール( 米由来植物ステロール)、フェルラ酸、フィチン酸、コメアミノ酸、コメ粉、イネ種皮、コメデンプン、イノシトール、トコトリエノール、トコフェロール(
ビタミンE )等が挙げられる。中でも、γ−オリザノール及びフェルラ酸が好ましいものとして挙げられるがこれに限られない。
【0016】
本発明の水添米糠油を配合した化粧品組成物の形状は特に問わない。その投与方法に応じて如何なる形状も選択することができる。例えば、液状、ゲル状、クリーム状、顆粒状、固体、エアロゾルのような気体などの形態で使用することができる。また水添米糠油は、化粧水、クリーム、軟膏、乳液、美容液、パック、洗顔料、クレンジング剤、ヘアケア剤、石鹸、浴用剤、シャンプー、リンス、リップスティック、口紅、ファンデーション,紫外線ケア用化粧品等の化粧品に配合することができる。
【0017】
本発明において、水添米糠油は水素添加の度合いによって融点範囲を22℃から58℃、望ましくは32℃から48℃の範囲に調整することが適当である。
【0018】
また、水添米糠油の配合量は化粧品組成物に含まれるその他の成分によって異なり特定することができないが、化粧品組成物全体に対して配合量は80重量%以上100重量%未満の範囲で含有するのが適当である。
【0019】
本発明の化粧品組成物を配合した化粧品は、油脂類、ロウ類、炭化水素類、シリコーン類、脂肪酸類、アルコール類、エステル類、界面活性剤、増粘剤、粉末等の化粧品基材の他、医薬品、および、医薬部外品の有効成分、pH調整剤、防腐剤、色素、香料、酸化防止剤、天然由来エキス等の必要に応じた配合を妨げることはない。
【0020】
さらに、本発明において、調製した薬剤をスティック状に成形することにより、使用感を向上することが出来る。形状は、直径5mmから30mm、長さが10mmから100mmの範囲の略円筒状または略直方体が望ましく、特に直径10mmから25mm、長さ15mmから50mmの範囲であることが望ましい。必要に応じて薬剤に紋様等を施すことも出来る。
【0021】
スティック状に成形する際に使用する容器は、市場で一般的に販売されているプラスティック容器を使用することができる。例えば、株式会社吉野工業所製「無地リップクリーム容器」、株式会社立積プラスチック製「R53A」、株式会社カツシカ製「M83/O83」、株式会社ヒダン製「ヒダンオリジナルBタイプ」などが入手し易い。
【0022】
以下に、本発明の水添米糠油の実施例について説明する。
【0023】
室温25℃・1気圧で計測した融点が、25℃プラスマイナス3℃のもの(以下、「水添米糠油A」という。)、同様に35℃プラスマイナス3℃のもの(以下、「水添米糠油B」という。)、45℃プラスマイナス3℃のもの(以下、「水添米糠油C」という。)を使用し、化粧品組成物を調製した。
【0024】
また、限界まで水素添加した水添米糠油(以下、「極度水添米糠油」という。)を使用し、同様に化粧品組成物を調製した。
【0025】
なお、水添しない米糠油として、市販のコメサラダ油(築野食品工業株式会社製)を用意し、これを使用した化粧品組成物を調製した。(表1)
【実施例1】
【0026】
1.水添米糠油Aを99.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%を原料とし、90プラスマイナス10℃ですべてを溶解させる。(溶解しない原料は必要に応じてローラーミル分散する。)
2.80プラスマイナス10℃にて成型する。(直接保存容器に流し込む、または一旦金型容器へ流し込む。)
【実施例2】
【0027】
水添米糠油Bを99.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例3】
【0028】
水添米糠油Cを99.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例4】
【0029】
極度水添米糠油を99.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例5】
【0030】
水添米糠油Aを79.5%、コメヌカロウを20.0%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例6】
【0031】
水添米糠油Bを79.5%、コメヌカロウを20.0%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例7】
【0032】
水添米糠油Cを79.5%、コメヌカロウを20.0%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例8】
【0033】
水添米糠油Aを95.5%、コメヌカロウを4.0%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例9】
【0034】
水添米糠油Bを95.5%、コメヌカロウを4.0%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例10】
【0035】
水添米糠油Cを95.5%、コメヌカロウを4.0%、γ−オリザノールを0.5%、これらを実施例1と同じ手順で調製した。
【実施例11】
【0036】
水添米糠油Aを98.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%、フェルラ酸を1.0%、これらを実施例1の手順で調製した。
【比較例1】
【0037】
水素添加処理のされていない米糠油(コメサラダ油)を99.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%、実施例1の手順で調製した。
【比較例2】
【0038】
水素添加処理のされていない米糠油(コメサラダ油)を98.4%、コメヌカロウを0.1%、γ−オリザノールを0.5%、フェルラ酸を1.0%、実施例1の手順で調製した。
【0039】
【表1】

調製した各実施例及び比較例について、社内モニター12名による評価を実施した。
評価は、モニターが各評価項目についてそれぞれ0、1、2、3点の4段階で採点し、最高得点及び最低得点の2例を除外した上で、残りのモニター10名の得点合計が10点未満を×、10点以上15点未満を△、15点以上25点未満を○、25点以上を◎とした。
【0040】
[安定性効果確認]
経時変化に起因する変質、すなわち呈色、臭気の発生などの化学的変質や粘度や硬度などの物理的変質の防止効果を検証するべく、調製直後のものと調製後40℃6ヶ月保管したものとを比較評価した。
[外観評価]
調製した各実施例及び比較例について、調製直後のものとガラス製サンプル瓶に40℃で6ヶ月保管したものとを比較し、色合いの変化の度合いを評価した。
[性状評価]
調製した各実施例及び比較例について、調製直後のものとガラス製サンプル瓶に40℃で6ヶ月保管したものとを比較し、薬剤の分離の度合いを評価した。
[におい評価]
調製した各実施例及び比較例について、調製直後のものとガラス製サンプル瓶に40℃で6ヶ月保管したものとを比較し、薬剤の臭気の変質の度合いを評価した。
[安定性総合評価]
外観評価、性状評価、及びにおい評価を合計したものを安定性総合評価とした。
【0041】
【表2】

以上の結果から、各実施例について、経時変化による薬剤の変質を抑制・防止する効果があることがわかる。
【0042】
[使用感効果確認]
使用感(のび・つけ心地・硬さ・しっとり感の継続時間)の向上を検証すべく、各実施例及び比較例について、各評価項目の比較評価を実施した。
評価には、市販のプラスティック製繰り出しタイプ(口紅タイプ)容器に充填しスティック状(直径15mm長さ47mmの略円筒形)に成形した薬剤を用いた。
[使用感(のび)評価]
調製した各実施例及び比較例について、適量を塗布する際の塗布部での剤ののびによる塗布のし易さを比較評価した。
[使用感(つけ心地)評価]
調製した各実施例及び比較例について、適量を塗布した後のつけ心地のよさを比較評価した。
[使用感(硬さ)評価]
調製した各実施例及び比較例について、適量を塗布する際の剤の硬さについて塗布のし易さを比較評価した。
[使用感(水分蒸発抑制)評価]
調製した各実施例及び比較例について、適量を塗布した後の塗布部のしっとり感の継続時間を比較評価した。
[使用感総合評価]
調製した各実施例及び比較例について、薬剤を塗布した場合の使用感、すなわち薬剤の「のび・つけ心地・硬さ・しっとり感の継続時間」を総合的に勘案したものを比較評価した。
【0043】
【表3】

これらの結果を総合的に勘案すると、全ての実施例において比較例より良好な結果を奏しているが、特に水添米糠油Bが好適であることがわかる。
【0044】
薬剤をスティック形状に成形した場合に、一般的なサイズである直径15mm長さ47mmを標準品とした相対比較で使用感の差異の有無と程度について検証した。評価には実施例9の薬剤を使用した。
【0045】
【表4】

標準品と比較して、直径10mm〜25mm、長さ15mm〜50mmについては、効果に有意の差異が見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の化粧品組成物は、外用化粧品としてメーキャップ化粧品やスキンケア化粧品(機能性化粧品)のベース基剤としてだけでなく、水分蒸発抑制機能による保湿効果をもつ機能性化粧品としても利用できる。また、薬事上の各種基準・要件を備えることによって、医薬部外品及び医薬品にも利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造時の水素添加の度合いによって融点範囲を22℃から58℃の範囲に調整した水添米糠油を含有することを特徴とする固形化粧品組成物

【請求項2】
前記水添米糠油を80重量%以上100重量%未満の範囲で含有する請求項1に記載の固形化粧品組成物

【請求項3】
同時に配合される他の成分のすべてがコメ由来成分であって、実質的にコメ由来成分のみからなる請求項1又は2に記載の固形化粧品組成物

【請求項4】
スティック形状に成形したことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の固形化粧品組成物

【公開番号】特開2012−121866(P2012−121866A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275657(P2010−275657)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(593084649)日本コルマー株式会社 (12)
【Fターム(参考)】