説明

固形状組成物

【課題】高濃度の小麦アルブミンを含みながらも、異味・異臭が低減され、風味の良好な固形状組成物の提供。
【解決手段】次の成分(A)及び(B):
(A)小麦アルブミン、
(B)アスパラギン酸又はその塩、
を含有し、固形状組成物中の0.19小麦アルブミンの含有量(a)と固形状組成物中のアスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)との質量比[(a):(b)]が1000:1〜10:1である固形状組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦アルブミン並びにアスパラギン酸又はその塩を含有する固形状組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食生活の変化等により、肥満やII型糖尿病(高血糖症)に代表される糖代謝異常疾患に罹患する患者が著しく増加している。
通常、食後、特に糖質を含む食事を摂取した後は、血糖値が上昇することにより膵臓のβ細胞からインスリンが分泌される。インスリンは筋肉、肝臓、脂肪組織等に作用し、細胞内への糖の取り込みを促進することで、食後の急激な血糖値上昇を抑制する。しかし、インスリン感受性の低下(インスリン抵抗性)により、食後の高血糖状態が続くと、膵臓はインスリンを多量に分泌して血糖の上昇を抑えようとする。そして、このような状態が長く続くと膵臓が疲弊し、膵β細胞からのインスリンの分泌が低下し、最終的にインスリン作用機構が正常に機能しなくなると、II型糖尿病等になることが知られている。
【0003】
インスリン抵抗性に伴う食後過血糖症状は、糖尿病でない健常人や糖尿病の境界型の方においても見られ、さらに、II型糖尿病以外にも肥満、高脂血症、動脈硬化等の原因や増悪因子となることが知られている。したがって、健康維持及びこれら諸症状・疾患の発症リスクの低下、予防の観点から、該食後過血糖症状を防止することは極めて重要である。
そこで近年、食後の急激な血糖上昇やインスリンの分泌を抑制できる物質の開発が多く行なわれている。その一つとして、アミラーゼ阻害物質があり、小麦由来のアミラーゼ阻害物質が糖尿病や肥満等の予防、治療に用いられている(非特許文献1)。
【0004】
小麦の胚乳部には約10〜15%のタンパク質が含まれ、タンパク質組成の約11%を占めるアルブミン(水可溶性タンパク質)は、α−アミラーゼ阻害活性を有し、食後血糖上昇抑制作用やインスリン抵抗性改善作用等の生理機能を有することが報告されている(非特許文献1、2)。なかでも、電気泳動の移動度が0.19の小麦アルブミンは、高いα−アミラーゼ阻害活性を有することから、多用な食品への応用が期待されている。
【0005】
小麦アルブミンの生理機能を発現させるには、前記電気泳動の移動度が0.19の小麦アルブミン(以下0.19小麦アルブミンともいう)を、一食あたり125mg以上を一度に摂取するのが有効であると考えられ(非特許文献2)、これまでに、有効量の0.19小麦アルブミンを配合した健康食品として、スープやハードカプセルが上市されている。また、特許文献1には、0.19小麦アルブミンを配合した錠剤についての開示がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−173962号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】抜井一貴ら、薬理と治療、36(8)、761−765(2008)
【非特許文献2】Kodama T et al.,Euro J. Clin. Nutr. 59,384−392(2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
小麦アルブミンを無理なく長期間継続して摂取するには1回当たり少量で、手軽に摂取可能な形態である固形状組成物とすることが有利である。
しかしながら、本発明者らが検討したところ、一度少量摂取するだけで有効量を満たせるほどに高い濃度で小麦アルブミンを固形状組成物中に配合することは困難であることが判明した。すなわち、小麦アルブミンを高濃度化すると、当該小麦アルブミンに由来する異味・異臭が感じられ、風味の点から摂食が困難であることが判明した。
【0009】
したがって、本発明の課題は、高濃度の小麦アルブミンを含みながらも、異味・異臭が低減され、風味の良好な固形状組成物を提供することにある。なお、前記特許文献1には、小麦アルブミンを含有する錠剤の異味等の改善について何ら記載はない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、特定のアミノ酸又はその塩を含有させることにより、小麦アルブミンを高濃度に含有するにもかかわらずその特有の異味・異臭が低減されて、良好な風味が感じられる固形状組成物とすることができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、次の成分(A)及び(B):
(A)小麦アルブミン、
(B)アスパラギン酸又はその塩、
を含有し、固形状組成物中の0.19小麦アルブミンの含有量(a)と固形状組成物中のアスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)との質量比[(a):(b)]が1000:1〜10:1である固形状組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小麦アルブミンを高濃度に含有しながらも、小麦アルブミンに由来する異味・異臭が低減された、風味の良好な固形状組成物を提供することができる。
本発明の固形状組成物は、一度少量摂取するだけで、小麦アルブミンの生理効果発現に必要な量を摂取できるので、該小麦アルブミンによる効果を長期に亘って十分に期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明で用いる(A)小麦アルブミンは、小麦の胚乳部に由来するアルブミンファミリーに属する水可溶性タンパク質である。小麦アルブミンは、高いα−アミラーゼ阻害活性を有する点から、電気泳動の移動度が0.19の小麦アルブミンを多く含有することが好ましい。なお、ここでの電気泳動の移動度とは、試料をDavisの方法(Annals of the NewYork Academy of Science,121,404−427,1964)に従って、ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた際の移動度をさす。
【0014】
上記の小麦アルブミンは、小麦の胚乳部から抽出により得ることができる。小麦アルブミンの小麦からの抽出法としては、例えば、特開平9−172999号公報に記載のアミラーゼ阻害物質の調整法を用いることができる。
また、小麦アルブミンNA−1(日清ファルマ株式会社)等の市販品を用いてもよい。
【0015】
本発明の固形状組成物中、(A)小麦アルブミンの含有量は、10〜70質量%(以下、単に「%」とする)、更に20〜70%、更に30〜60%、更に30〜55%、更に30〜50%であるのが、生理効果を有効に発現する摂取量の点、摂取形態として一度に少量の摂取で可能であるという点から好ましい。
(A)小麦アルブミン中の0.19小麦アルブミンの含有量は、10〜60%、更に15〜40%、更に20〜35%、更に25〜31%であるのが、生理効果を有効に発現する摂取量の点から好ましい。
本発明の固形状組成物中、0.19小麦アルブミンの含有量(a)は、2.5〜20%、更に3.5〜17.5%、更に8〜13%であるのが、生理効果を有効に発現する摂取量の点から好ましい。
本発明の固形状組成物中の0.19小麦アルブミン含有量(a)は、HPLCにより測定することがきる。例えば、特開平9−172999号公報に記載の0.19アミラーゼ阻害物質の含量の測定方法を用いることができる。
【0016】
本発明の固形状組成物には、(B)アスパラギン酸又はその塩が含有される。アスパラギン酸の塩としては、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、硝酸)、有機酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスコルビン酸)との酸付加塩;アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム)、アンモニウム等の無機塩基との塩;アミン(例えば、メチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン)、アルカノールアミン(例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン)等の有機塩基との塩が挙げられる。なかでも、アルカリ金属塩が好ましい。
【0017】
本発明の固形状組成物中、(B)アスパラギン酸又はその塩の含有量は、アスパラギン酸換算で、0.005〜1%、更に0.008〜0.8%、更に0.01〜0.5%、更に0.01〜0.1%、更に0.01〜0.05%、更に0.01〜0.02%であるのが小麦アルブミンの異味・異臭の低減、風味のバランスの点から好ましい。
本発明における(B)アスパラギン酸又はその塩の含有量には、配合されたアスパラギン酸又はその塩以外にも小麦アルブミン等の他の原料由来のものが含まれる。
【0018】
本発明の固形状組成物においては、固形状組成物中の0.19小麦アルブミンの含有量(a)と固形状組成物中のアスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)の質量比[(a):(b)]を、1000:1〜10:1の範囲とすることが重要である。アスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)1に対し、0.19小麦アルブミンの含有量(a)を1000以内とすることで、小麦アルブミン特有の異味・異臭を低減でき、他方、アスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)1に対し、0.19小麦アルブミンの含有量(a)を10以上とすることで、アスパラギン酸又はその塩の味を抑え、風味のバランスが良好となる。
0.19小麦アルブミンの含有量(a)とアスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)の質量比[(a):(b)]は、上記と同様の点から、910:1〜15:1、更に900:1〜50:1、更に850:1〜100:1、更に780:1〜200:1、更に750:1〜500:1が好ましい。
【0019】
本発明の固形状組成物には、上記成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲において、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、クロム、セレン、マンガン、モリブデン、銅、ヨウ素、リン、カリウム、ナトリウム等のミネラル;ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンE、葉酸及びそれらの塩、又はそれらのエステル等のビタミン;フルクトース、グルコース、ガラクトース、キシロース、タガトース等の単糖、ショ糖、乳糖、麦芽糖、トレハロース、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、大豆オリゴ糖、イソマルツロース、カップリングシュガー等の少糖、エリスリトール、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、ラクチトール、マンニトール等の糖アルコール、サッカリン、スクラロース、アセスルファムカリウム等の合成甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、コハク酸、アジピン酸、グルコノデルタラクトン、グルコン酸、酢酸、フマル酸等の酸味料;香料、着色料、保存料等が適宜配合されていてもよい。
【0020】
本発明の固形状組成物の形態としては、例えば、室温(15〜25℃)で固形状のものであれば特に限定されないが、例えば、カプセル剤、顆粒剤、散剤、錠剤、丸剤等が挙げられる。なかでも、1回あたり少量で摂取可能な点から、錠剤が好ましく、更に摂取が簡便な点から、チュアブル錠が好ましい。
このような剤型の組成物を調製するには、必要に応じて、乳糖、デンプン類、結晶セルロース、蔗糖、マンニトール、軽質無水ケイ酸、リン酸水素カルシウム等の賦形剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン、アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、プルランメチルセルロース、硬化油等の結合剤;カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、トウモロコシデンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ショ糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、二酸化ケイ素等の滑沢剤;ステビア、アスパルテーム等の嬌味剤;香料、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、被膜剤、希釈剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0021】
本発明の固形状組成物は、特に制限はなく常法に従い製造される。例えば、(A)小麦アルブミン、(B)アスパラギン酸又はその塩及び必要に応じて添加される添加剤の混合物を調製後、圧縮成形することによって製造することができる。
例えば、錠剤を製造する場合、原料粉末を直接圧縮して成形(直接粉末圧縮法)しても、乾式造粒法、湿式造粒法等を用いて造粒してから圧縮して成形(顆粒圧縮法)しても良い。なかでも、工程の簡便性の点から、直接粉末圧縮法を用いて錠剤とするのが好ましい。
直接圧縮して成形して錠剤を製造する場合、打錠成形機としてはロータリー式打錠機や単発式打錠機等通常使用されるものを用いることができる。
また、造粒法より造粒してから錠剤とする場合、円筒造粒機、球形整粒機、ペレッター等を使用する押し出し造粒法、スピードミル、パワーミル等を使用する破砕造粒法、転動造粒法、攪拌造粒法、流動層造粒法等により造粒物を製造し、乾燥・整粒した後、得られた造粒物を前記打錠成形機で圧縮して錠剤を形成できる。造粒物の粒子径は、45μm〜850μmとするのが好ましく、100μm〜500μmとするのが更に好ましい。
錠剤の形状としては、円形錠もしくは楕円形、長円形、四角形等の面形を有する各種異形錠であってもよい。
また、打錠時の圧縮成型圧は、成型物の硬度維持、崩壊性等の点から、100〜3000kg/cm2である。
【0022】
また、本発明の錠剤の1錠当りの重量は、0.1〜2g、好ましくは0.5〜1.8g、更に0.8〜1.5gとするのが簡便性及び有効性の点で好ましい。
【実施例】
【0023】
[アスパラギン酸の分析]
固形状組成物50mgを蒸留水1gに溶解し、遠心分離装置により3000rpm、25℃、10分間の条件で遠心分離した。その上清500μLに5%トリクロロ酢酸500μLを加えた後、遠心分離装置により10000r/min、5℃、10分間の条件で遠心分離した。その上清500μLを0.02N塩酸で2〜10倍に希釈したのち、0.2μmフィルターでろ過しサンプルとした。サンプルをアミノ酸分析計(日立L−8800)により測定した。
【0024】
[原料]
小麦アルブミン:小麦アルブミンNA−1、日清ファルマ株式会社製 (0.19小麦アルブミン含有量25%)
【0025】
〔チュアブル錠の調製〕
実施例1〜実施例8及び比較例1〜比較例5
表1に記載の配合組成で各原料成分を混合した。次に単発式打錠機(RIKEN社製)を用いて、穴径13mmのリング状杵で、錠剤重量1000mgで打錠し、チュアブル錠を得た。チュアブル錠中の0.19小麦アルブミン含有量(a)及びアスパラギン酸換算量(b)は表1のとおりであった。
【0026】
上記で得た本発明品と比較品について官能評価を行なった。評価は、専門パネル3名で、小麦アルブミン特有の風味(異味・異臭)と添加したアミノ酸に由来する味について、下記に示す判断基準に従って行い、その平均値をもって評点とした。結果を表1に示す。
〔小麦アルブミン特有の風味〕
5:異味・異臭を感じない
4:異味・異臭を殆ど感じない
3:異味・異臭を僅かに感じる
2:異味・異臭を強く感じる
1:異味・異臭を非常に強く感じる
〔添加アミノ酸に由来する味〕
5:添加アミノ酸の味を感じず、風味に違和感ない
4:添加アミノ酸の味を殆ど感じない
3:添加アミノ酸の味を僅かに感じる
2:添加アミノ酸の味を強く感じる
1:添加アミノ酸の味を非常に強く感じる
【0027】
【表1】

【0028】
表1から明らかなように、本発明品は、比較品と比べ、小麦アルブミン特有の風味(異味・異臭)の低減が確認され、添加アミノ酸に由来する味も感じられず、良好な風味であった。また、アスパラギン酸ナトリウムの代わりにグルタミン酸ナトリウムを特定量配合した比較例5では、グルタミン酸に由来するうま味が強く感じられ、風味のバランスが悪かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)小麦アルブミン、
(B)アスパラギン酸又はその塩、
を含有し、固形状組成物中の0.19小麦アルブミンの含有量(a)と固形状組成物中のアスパラギン酸又はその塩のアスパラギン酸換算量(b)との質量比[(a):(b)]が1000:1〜10:1である固形状組成物。
【請求項2】
(B)アスパラギン酸又はその塩の含有量が、アスパラギン酸換算で0.005〜1質量%である請求項1に記載の固形状組成物。
【請求項3】
固形状組成物中の0.19小麦アルブミンの含有量(a)が2.5〜20質量%である請求項1又は2記載の固形状組成物。
【請求項4】
チュアブル錠である請求項1〜3のいずれか1項記載の固形状組成物。