説明

固形石鹸及びその製造方法

【課題】枠練り法によって製造された石鹸と同程度の強度を有する固形石鹸を提供すること。
【解決手段】パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子及びセルロース繊維を型内に充填して圧縮成形することで得られた固形石鹸である。前記パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子として、その粒径が20〜500μmのものを用いた。また前記セルロース繊維として、そのアスペクト比が1超49以下であり、その長さが15〜1000μmであり、かつその太さが10〜30μmのものを用いた。また、前記セルロース繊維を21〜90質量%含むことも好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形石鹸及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に固形石鹸は、石鹸成分に水や熱を加えて混練、溶解、流動させて、金型(枠)内に流し込み、固化させて製造する、いわゆる枠練り法によって製造される。枠練り法は、固化工程が必要となるため多大な時間を要すという欠点や、熱に弱い成分を配合しづらいという欠点を有する。
【0003】
枠練り法に対して、石鹸成分単体又は石鹸成分と該石鹸成分以外の副成分の1種又は2種以上とを含む混合物を加圧成形することによって固形石鹸を製造する方法が知られている(例えば特許文献1及び2参照)。この方法によれば、固化工程が必要ないため生産を向上させることが可能である。また、熱に弱い成分であっても配合することができ、更に石鹸成分以外の副成分を多量に配合することも容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−265698号公報
【特許文献2】特開2004−256768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記の各文献に記載されている方法で製造された石鹸は、枠練り法によって製造された石鹸に比較して、十分な強度を有するものとすることは難しい。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し、使用に十分な強度を有する固形石鹸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子及びセルロース繊維を型内に充填して圧縮成形することで得られた固形石鹸であって、
前記パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子として、その粒径が20〜500μmのものを用い、
前記セルロース繊維として、そのアスペクト比が1超49以下であり、その長さが15〜1000μmであり、かつその太さが10〜30μmのものを用いた固形石鹸を提供するものである。
【0008】
また本発明は、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子及びセルロース繊維を型内に充填し、5〜100MPaの加圧力で圧縮成形する工程を有する固形石鹸の製造方法であって、
前記パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子として、その粒径が20〜500μmのものを用い、
前記セルロース繊維として、そのアスペクト比が1超49以下であり、その長さが15〜1000μmであり、かつその太さが10〜30μmのものを用いた固形石鹸の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、枠練り法によって製造された石鹸と同程度の強度を有する固形石鹸が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1(a)及び(b)は、本発明の固形石鹸を製造する方法を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例及び比較例で得られた固形石鹸の強度を測定する状態を示す模式図である。
【図3】図3は、実施例1で得られた固形石鹸の強度とセルロース繊維長との関係を示すグラフである。
【図4】図4は、実施例1で得られた固形石鹸の強度とアスペクト比との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例1及び2並びに比較例1で得られた固形石鹸の強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の固形石鹸は、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子を型内に充填して圧縮成形することで得られたものである。この粒子は、パーム核脂肪酸ナトリウム塩のみを含むものであってもよく、あるいはパーム核脂肪酸ナトリウム塩に加えて他の副成分を含むものであってもよい。本発明の固形石鹸は、その成分として、セルロース繊維を更に含んでいることを特徴の一つとしている。本発明者らの検討の結果、圧縮成形で固形石鹸を製造するときに、セルロース繊維を配合することで、得られる固形石鹸の強度が高まることが判明した。つまり、本発明の固形石鹸は、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子をセルロース繊維とともに型内に充填して圧縮成形することで得られたものである。
【0012】
固形石鹸の技術分野において、石鹸に繊維を配合することは従来行われていた。しかし従来は、枠練り法によって製造された固形石鹸中に繊維を配合しており、本発明と同様の圧縮成形で固形石鹸を製造する技術においてセルロース繊維を配合した例は本発明者の知るところ見あたらない。また、枠練り法によって製造された固形石鹸中に繊維を配合する理由は、専ら洗浄性やスクラブ性を向上させることにあり、石鹸の強度を高めることは目的としていない。
【0013】
前記のセルロース繊維としては、そのアスペクト比が1超49以下のものを用いると、得られる石鹸の強度向上に有効であることが、本発明者らの検討の結果判明した。アスペクト比が49を超えるセルロース繊維を用いると、繊維が長くなる傾向にあり、そのことに起因してパーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子との均一な混合を十分に行えなくなる。その結果、得られる固形石鹸の強度を十分に高めることが容易でなくなる。繊維のアスペクト比とは、繊維の長さを繊維の太さで除した値である。
【0014】
また、本発明に用いられるセルロース繊維は、先に述べたアスペクト比を満たし、かつその長さが15〜1000μmという非常に短いものである。長さがこの範囲外のセルロース繊維を用いると、本発明の固形石鹸の強度を十分に高めることができない。固形石鹸の強度を一層高める点から、セルロース繊維はその長さが18〜900μmであることが好ましい。セルロース繊維の長さは、例えばデジタルマイクロスコープ(製品名:VHX−500、KEYENCE社製)を用い、1サンプルに関して100本の繊維の長さを測定した値の算術平均値を算出して定めることができる。なお、石鹸5gを90℃に加熱した水250gに溶解させ、その不溶分を分離、回収し乾燥させることなどにより、石鹸からセルロース繊維を抜き出すことができる。石鹸成分のうち不溶分が数種類存在する場合には、デジタルマイクロスコープ(製品名:VHX−500、KEYENCE社製)など
を用いてセルロース繊維のみ抜き出せばよい。
【0015】
更に、本発明に用いられるセルロース繊維は、先に述べたアスペクト比を満たし、かつその太さが10〜30μmである。太さがこの範囲外のセルロース繊維を用いると、本発明の固形石鹸の強度を十分に高めることができない。固形石鹸の強度を一層高める点から、セルロース繊維はその太さが15〜20μmであることが好ましい。セルロース繊維の太さは、例えばデジタルマイクロスコープ(製品名:VHX−500、KEYENCE社
製)を用い、1サンプルに関して100本の繊維の径を測定した値の算術平均値を算出して定めることができる。石鹸中からのセルロース繊維の抜き出しは、上述の方法で行うことができる。石鹸成分のうち不溶分が数種類存在する場合には、デジタルマイクロスコープ(製品名:VHX−500、KEYENCE社製)などを用いてセルロース繊維のみ抜
き出せばよい。
【0016】
本発明の固形石鹸に占めるセルロース繊維の割合は、21〜90質量%とすることが好ましく、更に好ましくは25〜85質量%、一層好ましくは30〜80質量%である。固形石鹸に占めるセルロース繊維の割合をこの範囲内に設定することで、セルロース繊維を配合したことによる強度向上の効果が十分に発揮される。
【0017】
本発明の固形石鹸においてセルロース繊維を用いる理由は、生分解性を有し、柔軟性が高く、吸湿性、放湿性に優れる点からである。
【0018】
本発明の固形石鹸において、パーム核脂肪酸ナトリウム塩としては、パーム核油を加水分解して得られる脂肪酸を水酸化ナトリウム水溶液で中和するか、あるいは加水分解する前のパーム核油を直接けん化することにより得られるものを、特に制限なく用いることができる。本発明の固形石鹸におけるパーム核脂肪酸ナトリウム塩の占める割合は、10〜79質量%、特に15〜75質量%であることが、気泡性、洗浄性を保つ点から好ましい。
【0019】
本発明に用いられる脂肪酸としては、炭素原子数8〜24の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐鎖のものが用いられる。単一鎖長の脂肪酸を用いた場合、反応中、液の粘度が上昇し、撹拌が困難になることがあるが、混合鎖長脂肪酸を用いればこれを抑えることができる。混合鎖長の脂肪酸を得るには、パーム核油脂肪酸に加え必要に応じてヤシ油脂を用いてもよい。あるいは複数種の単一鎖長の脂肪酸を混合して用いることも可能である。
【0020】
本発明の固形石鹸においては、前記のパーム核脂肪酸ナトリウム塩及びセルロース繊維に加えて副成分を配合してもよい。そのような副成分としては、例えば石鹸以外の界面活性剤、香料、保湿剤、着色剤、殺菌剤、抗菌剤、酸化防止剤、防腐剤、脱臭剤等が挙げられる。これらの副成分が本発明の固形石鹸に占める割合は、それらの合計量で表して0.01〜69質量%、特に0.01〜65質量%であることが好ましい。
【0021】
前記の副成分は、パーム核脂肪酸ナトリウム塩が含まれる粒子中に該パーム核脂肪酸ナトリウム塩とともに含有されていてもよく、あるいはパーム核脂肪酸ナトリウム塩が含まれる粒子とは別の粒子中に含有されていてもよい。
【0022】
本発明の固形石鹸を製造する場合には、例えば図1(a)及び(b)に示す加圧成形装置10を用いることができる。同図に示す装置10は、杵11及び臼12を備えている。臼12内には、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子及びセルロース繊維の混合物13が充填されている。この混合物13は、必要に応じて副成分を含有する粒子を含むこともできる。混合物13は、従来公知の混合装置を用いて調製することができる。
【0023】
パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子は、特定の粒径を有していることが、得られる固形石鹸の強度を高める点から重要であることが、本発明者らの検討の結果判明した。具体的には、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子は、その粒径が20〜500μmのものを用いることが重要である。粒径が20μmに満たない粒子を用いると、圧縮成形性が低下するため、必要な強度を得るためには大きな加圧力が必要となってしまう。一方、粒径が500μm超の粒子を用いると、充填密度が下がると共に、粒子同士の接触面積の合計が小さくなることで結合力が減少してしまう。得られる固形石鹸の強度を一層高める点から、パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子はその粒径が20〜425μmであることが好ましく、20〜200μmであることが更に好ましい。
【0024】
パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子の粒径は、JIS K 0069に規定される化学製品のふるい分け試験法、顕微鏡などを用いて寸法を測る方法、沈降速度から求める方法、慣性力から求める方法、媒体に分散させて回折光や散乱光を利用して測定する方法などによって測定される。
【0025】
上述の範囲の粒径を有する粒子は、例えばJIS K 0069に規定される化学製品のふるい分け試験法に基づき、粒子の大きさを分け、所望の大きさのふるい上に残った粒子を回収することにより調製することができる。
【0026】
パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子の粒径は上述のとおりであるところ、粒子の形状に関しては特に制限はなく、様々な形状のものを用いることができる。本発明で使用するパーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子の形状は一般に完全な球体や立方体などにはならず不定形である。
【0027】
図1(a)に示すように混合物13を臼12内に充填したら、杵11を降下させて図1(b)に示すように臼12内に挿入する。これによって臼12内の混合物13を圧縮する。混合物13への加圧力は5〜100MPa、特に10〜60MPaとすることが好ましい。この範囲の加圧力で圧縮成形することで、得られる固形石鹸の十分な強度を付与できる。その結果、固形石鹸の使用時にそれが崩壊したり、逆に溶解しづらかったりすることを効果的に防止できる。また、この範囲の加圧力とすれば、製造設備が大型化することもない。
【0028】
圧縮成形時の加圧時間は、加圧力が上述した範囲であることを条件として、0.01〜30秒、特に0.1〜10秒とすることが好ましい。加圧時間をこの範囲内に設定することで、圧力が混合物13の内部まで十分に伝播して、必要かつ十分な強度を有する固形石鹸を得ることができる。
【0029】
このようにして目的とする固形石鹸14を得ることができる。この固形石鹸14は、先に述べたとおり、枠練り法によって製造された石鹸と同程度の強度を有する。またセルロース繊維が含まれていることに起因して、使用時にタオルで擦ったような感覚が得られる。更に、パーム核脂肪酸ナトリウム塩以外の副成分を多量に含有することができるので、石鹸に種々の付加価値を与えることが容易になる。
【実施例】
【0030】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0031】
〔実施例1〕
パーム核脂肪酸ナトリウム塩(C8(カプリル酸):2.2%、C10(カプリン酸):2.8%、C12(ラウリン酸):49.1%、C14(ミリスチン酸):15.1%、C16(パルミチン酸):8.0%、C18(ステアリン酸):2.4%、C18f1(オレイン酸):18.4%、C18f2(リノール酸):2.0%)のチップをハンマークラッシャー(三庄インダストリー株式会社製 NH−34)によって粉砕して、JIS K 0069に規定される化学製品のふるい分け試験法に基づき、粒径20〜200μmの粒子となした。
【0032】
これとは別に、J.RETTENMAIER & SOHNE社製のセルロース繊維ARBOCEL(R)を6種類用意した(セルロース繊維A〜F)。これらのセルロース繊維の繊維長、繊維径及びアスペクト比は、以下の表1に示すとおりである。なおアスペクト比はカタログ値の繊維長、繊維径から算出したものである。
【0033】
【表1】

【0034】
前記のパーム核脂肪酸ナトリウム塩粒子と、前記のセルロース繊維A〜FとをV型混合機(株式会社セイワ技研 VM−40)を用いて混合して混合物を得た。この混合物に占めるパーム核脂肪酸ナトリウム塩の割合は70%、セルロース繊維の割合は30%であった。
【0035】
図1(a)及び(b)に示す装置10を用い、前記の混合物を圧縮成形して目的とする固形石鹸を製造した。この装置10における臼12の直径は69mmであった。また圧縮成形の条件は、加圧力22MPa、加圧時間10秒とした。
【0036】
このようにして得られた固形石鹸について、その強度を測定した。強度の測定は、テンシロン万能試験機(株式会社オリエンテック製 RTA−500)を用いて行った。試験機の各チャックに、図2に示すように、2枚の平板Pを、互いに平行になるように取り付け、2枚の平板P間に、固形石鹸14を、その成形時の圧縮方向が平板Pの互いに対向する平面と平行になるように設置した。そして、5mm/minの速度で固形石鹸14を圧縮し、そのときのピーク強度を測定し、その値を石鹸の強度とした。測定結果を図3及び図4に示す。
【0037】
〔実施例2及び比較例1〕
セルロース繊維として、前記の表1におけるセルロース繊維Cを用いた。そして前記のパーム核脂肪酸ナトリウム塩粒子20%とセルロース繊維80%を用いた以外は実施例1と同様にして固形石鹸を得た。また、セルロース繊維を全く用いずに製造した固形石鹸を比較例1とした。これらの石鹸について、実施例1と同様の測定を行った。その結果を図5に示す。なお図5には、セルロース繊維Cを用いて製造された実施例1の固形石鹸の結果も併せて記載されている。
【0038】
図3〜図5に示す結果から明らかなように、各実施例で得られた固形石鹸は、比較例1で得られた固形石鹸に比べて、高い強度を有していることが判る。
【符号の説明】
【0039】
10 製造装置
11 杵
12 臼
13 混合物
14 固形石鹸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子及びセルロース繊維を型内に充填して圧縮成形することで得られた固形石鹸であって、
前記パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子として、その粒径が20〜500μmのものを用い、
前記セルロース繊維として、そのアスペクト比が1超49以下であり、その長さが15〜1000μmであり、かつその太さが10〜30μmのものを用いた固形石鹸。
【請求項2】
前記セルロース繊維を21〜90質量%含む請求項1に記載の固形石鹸。
【請求項3】
パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子及びセルロース繊維を型内に充填し、5〜100MPaの加圧力で圧縮成形する工程を有する固形石鹸の製造方法であって、
前記パーム核脂肪酸ナトリウム塩を含有する粒子として、その粒径が20〜500μmのものを用い、
前記セルロース繊維として、そのアスペクト比が1超49以下であり、その長さが15〜1000μmであり、かつその太さが10〜30μmのものを用いた固形石鹸の製造方法。
【請求項4】
0.01〜30秒間圧縮成形する請求項3に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−219108(P2012−219108A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82686(P2011−82686)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】