説明

固形粉末化粧料の製造方法

【課題】耐衝撃性と成形収率との両立が図られた固形粉末化粧料を容易に製造できる方法を提供すること。
【解決手段】成形用凹部34内に原料粉末10’を充填し上杵32によって該原料粉末10’をプレスするか、又は、上杵32と下杵33との間に、原料粉末10’を成形用凹部34内に充填した状態で配置し、両杵間で該原料粉末10’をプレスして固形粉末化粧料10を製造する方法である。成形用凹部34は、平面視での内壁34aの輪郭34’が、3本以上の直線状の辺部22と、隣り合う2本の辺部22間に位置するコーナー部23とを備えた多角形の形状である。上杵32と原料粉末10’とが当接している状態において、コーナー部23での上杵32と成形用凹部34の内壁34aとの隙間をt1とし、辺部22での上杵32と成形用凹部34の内壁34aとの隙間をt2としたとき、t2>t1となる条件下にプレス成形を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形粉末化粧料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウ等の固形粉末化粧料は、例えば粉体と結合剤を含む混合物を加圧成形して固形状態とし、皿状の薄底容器に充填することにより製造される。混合物を加圧成形するための装置としては、上面側を開口面として形成された成形用凹部とこれに対して上方から挿入される上杵を有し、必要に応じて成形用凹部内に皿状の薄底容器を取り付けてからこの成形用凹部に混合物を供給し、しかる後に上杵と成形用凹部との間に供給された混合物を加圧圧縮するものが用いられる。
【0003】
このような加圧装置では、混合物を例えば上杵と成形用凹部の下方に設けられた下杵によって加圧してプレス品を製造する。しかし、矩形の平面視形状を有する扁平なプレス品を製造する場合、プレス品の耐衝撃性と成形収率の両立が難しい。詳細には、矩形の平面視形状を有する扁平なプレス品の耐衝撃性を向上させるためには、圧力を高くしてプレス品のコーナー部の強度を高める必要がある。一方、プレス品の成形収率を向上させるためには、圧力を低くしてプレス品のエッジ部の変形を小さくする必要がある。ところが一般に、矩形の平面視形状を有する扁平なプレス品のコーナー部には圧力が加わりにくく、逆にエッジ部には圧力が加わりやすい。
【0004】
そこで、プレス品の耐衝撃性を向上させるために、上杵と成形用凹部との隙間を小さくしてコーナー部の圧力を高くすることが考えられる。しかし、その場合にはエッジ部の圧力も大きくなるので欠けが生じやすくなり、成形収率が低下してしまう。一方、成形収率を向上させるために、上杵と成形用凹部との隙間を大きくしてエッジ部の圧力を小さくすると、コーナー部の圧力が小さくなるので耐衝撃性が低下してしまう。
【0005】
ところで、固形粉末化粧料の製造方法に関して、特許文献1には、上杵として用いられる押圧杵に、焼結金属からなる多孔質材料を用いることで、プレス品であるケークに混入する空気を排出することが記載されている。また、特許文献2には、容器内に充填された粉体の上に通気性膜体を配し、その上から押圧杵を用いて押圧を行うことが記載されている。押圧杵はその下面に多数の小径の通孔が穿設されるとともに網体が積層されているものである。その結果、押圧時には粉体内に混入している空気が、通気性膜体及び押圧杵を通じて外部へ排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭48−33995号公報
【特許文献2】特開昭57−48903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び2に記載の技術は、プレス品の中央部の盛り上がりやひび割れを防止するためのものであり、プレス品の耐衝撃性と成形収率との両立を図ることはできない。
【0008】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る固形粉末化粧料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、成形用凹部内に原料粉末を充填し上杵によって該原料粉末をプレスするか、又は、上杵と下杵との間に、原料粉末を成形用凹部内に充填した状態で配置し、両杵間で該原料粉末をプレスして固形粉末化粧料を製造する方法において、
成形用凹部は、平面視での内壁の輪郭が、3本以上の直線状の辺部と、隣り合う2本の該辺部間に位置するコーナー部とを備えた多角形の形状であり、
上杵と原料粉末とが当接している状態において、前記コーナー部での上杵と成形用凹部の内壁との隙間をt1とし、前記辺部での上杵と成形用凹部の内壁との隙間をt2としたとき、t2>t1となる条件下にプレス成形を行う固形粉末化粧料の製造方法を提供することで前記の課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐衝撃性と成形収率との両立が図られた固形粉末化粧料を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の方法に従い製造される固形粉末化粧料の一例を示す斜視図である。
【図2】図2(a)ないし(c)は、本発明の製造方法の各工程を示す模式図である。
【図3】図3は、成形用凹部内に充填された原料粉末を上杵がプレスしている状態を示す平面図である。
【図4】図4は、図3に示す状態において、隙間t1及びt2の定義を説明する図である。
【図5】図5(a)ないし(c)は、平面視での輪郭が種々の形状を有する上杵を用いて、成形用凹部内に充填された原料粉末をプレスしている状態を示す平面図であり、いずれも図4に相当する図である。
【図6】図6は、本発明の別の実施形態における隙間t1及びt2の定義を説明する図であり、図4に相当する図である。
【図7】図7は、実施例及び比較例で用いた製造装置における成形用凹部及び上杵の形状及び寸法を示す図である。
【図8】図8は、比較例で用いた製造装置における成形用凹部及び上杵の形状及び寸法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1には、本発明の方法に従い製造される固形粉末化粧料の一例が示されている。同図に示す固形粉末化粧料10は、一般に中皿等と呼ばれる合成樹脂製又は金属製の浅底の皿状の形状を有する容器20内に収容されている。固形粉末化粧料10は、その上面からの平面視で、隅部が丸みを帯びた略矩形の輪郭を有している。また、固形粉末化粧料10は、その表面(上面)が略平坦になっている。図示していないが、固形粉末化粧料10の底面も略平坦になっているので、該化粧料10は、その厚みが略一定になっている。容器20は、平坦な底部(図示せず)及び該底部の周縁から鉛直上方へ起立した壁部21を有している。容器20は、壁部21の上端において開口している。容器20の開口の形状は、平面視での固形粉末化粧料10の輪郭と一致している。
【0013】
図2(a)ないし(c)には、図1に示す固形粉末化粧料10を製造するために用いられる好ましい装置の模式図が示されている。装置30は、貫通孔31aを有する臼体31を備えている。貫通孔31aの上下の位置には上杵32及び下杵33がそれぞれ配されている。上杵32は、駆動手段(図示せず)によって昇降可能になっており、かつ貫通孔31a内に挿入可能になっている。下杵33についても同様である。図2(a)に示す製造の開始の段階では、下杵33が貫通孔31a内に挿入されている。上杵32は貫通孔31aの上方の位置に待避しており、貫通孔31a内に挿入されていない。
【0014】
図2(a)に示す状態においては、貫通孔31aの内壁と下杵33の上面とで画成される凹陥部が臼体31に形成されている。この凹陥部内には、図2(b)に示すように、容器20が載置される。容器20は、その開口部を上方に向けた状態で凹陥部内に載置される。容器20の外形は、凹陥部と相補形状をなしている。この状態の装置30においては、図2(b)に示すように、容器20の凹部から構成される成形用凹部34が該装置に形成される。
【0015】
図2(b)に示す成形用凹部34内には、図2(c)に示すように、固形粉末化粧料10の原料となる原料粉末10’を所定量充填する。充填が完了したら、粉末原料10’の上を布35で覆う。そして、上方に待機させてあった上杵32を降下させた後に下杵33を上昇させて、布35を介して原料粉末10’をプレス圧縮する。このプレス圧縮によって固形粉末化粧料10が得られる。原料粉末10’のプレス圧は、目的とする固形粉末化粧料10の具体的な用途にもよるが、2〜20MPa、特に5〜15MPaとすることが好ましい。
【0016】
本製造方法は、プレス圧縮を行うときの条件に特徴の一つを有するものである。具体的には、成形用凹部34と上杵32とのクリアランスが特定の条件となるようにプレス圧縮を行うことに特徴の一つを有する。以下、このことについて詳述する。
【0017】
図1に示す固形粉末化粧料10を製造する場合、同図に示すように固形粉末化粧料10は、平面視での輪郭が、対向する2本の直線状辺部が2組とも平行になっている略矩形になっている。したがって、該固形粉末化粧料10が成形される成形用凹部34の平面視での内壁の輪郭も、該固形粉末化粧料10の平面視での形状と同様であり、図3に示すように、対向する2本の直線状辺部22が2組とも平行になっている略矩形になっている。そして隣り合う2本の直線状辺部22間に位置するコーナー部23は、4箇所とも外方に向けて凸の曲線状になっている。なお、図3において原料粉末の図示は省略してある。
【0018】
本製造方法においては、上杵32と原料粉末10’とが当接してプレスしている状態、すなわち図2(c)に示す状態において、コーナー部23での上杵32と成形用凹部34の内壁34aとの隙間をt1とし、辺部22での上杵32と成形用凹部34の内壁34aとの隙間をt2としたとき、t2>t1となる条件下にプレス成形を行う。このように、本製造方法においては、コーナー部23と辺部22とで、上杵32と成形用凹部34の内壁34aとの隙間を異ならせている。かかる条件下にプレス圧縮を行うことで、コーナー部23において原料粉末10’に加わる圧力が相対的に高くなるとともに、辺部22において原料粉末10’に加わる圧力が相対的に低くなる。その結果、固形粉末化粧料10のうち、コーナー部23に対応する部位の強度が高まり、該固形粉末化粧料10の耐衝撃性が向上する。これとともに、固形粉末化粧料10のうち、辺部22に対応する部位での変形が小さくなり、該固形粉末化粧料10の成形収率が向上する。このように、本製造方法によれば、矩形の平面視形状を有する扁平な固形粉末化粧料を製造するときに、これまで両立が困難であるとされてきた耐衝撃性と成形収率とを首尾良く両立させることができる。
【0019】
図3から明らかなように、コーナー部23は4箇所あることから、隙間t1は各コーナー部23においてそれぞれの値をとる。4つの隙間t1は同一の値をとってもよく、あるいは異なる値をとってもよい。いずれの場合であっても、4つの隙間t1は、t2に対して前記の関係を満たすことが必要である。
【0020】
また図3から明らかなように、辺部22も4箇所あることから、隙間t2は各辺部22においてそれぞれの値をとる。4つの隙間t2は同一の値をとってもよく、あるいは異なる値をとってもよい。いずれの場合であっても、4つの隙間t2は、t1に対して前記の関係を満たすことが必要である。
【0021】
特に本製造方法においては、t2/t1の値が、好ましくは1.2<t2/t1<5.0、更に好ましくは2.0<t2/t1<4.5の範囲となる条件下にプレス成形を行うことがよい。この条件下にプレス成形を行うことで、得られる固形粉末化粧料10の耐衝撃性と成形収率とを一層首尾良く両立させることができる。t2/t1の値に関する前記の範囲は、4つのt1と4つのt2とのすべての組み合わせにおいて成り立つことが最も好ましいが、少なくとも、4つのt1のうちの最大のt1と4つのt2のうち最小のt2との間で成り立つと同時に、4つのt1のうちの最小のt1と4つのt2のうち最大のt2との間で成り立てばよい。
【0022】
2/t1の値は上述のとおりであるところ、t1それ自体の値は、目的とする固形粉末化粧料10のサイズや原料粉末の組成等にもよるが、好ましくは0.1mm以上0.3mm未満、更に好ましくは0.15mm以上0.25mm未満の範囲となる条件下にプレス成形を行うことがよい。t2に関しては、好ましくは0.15mm以上0.80mm未満、更に好ましくは0.20mm以上0.60mm未満の範囲となる条件下にプレス成形を行うことがよい。t1及びt2それ自体の範囲は、4つのt1及び4つのt2のすべてが前記の範囲を満たすことが最も好ましいが、4つのt1のうちの一つ及び4つのt2のうちの一つが少なくとも前記の範囲を満たせばよい。
【0023】
前記の隙間t1及びt2は、次のように定義される。すなわち図4に示すように、上杵32と原料粉末(図示せず)とが当接して、該原料粉末がプレスされている状態において、上杵32の平面視での輪郭32’に外接する円C1を考える。この円C1と、上杵32の輪郭32’との接点をp1とする。これとは別に、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’に外接する円C2を考える。この円C2と、成形用凹部34の内壁34aの輪郭34’との接点をq1とする。こうした場合、隙間t1は点p1と点q1とを結ぶ線分の長さと定義される。
【0024】
2に関しては、図4に示すように、上杵32が原料粉末10’をプレスしている状態において、成形用凹部34の辺部22と、上杵の平面視での輪郭32’との双方に内接する円のうち、最大の直径を有する円C3を考える。この円C3の直径がt2と定義される。
【0025】
2>t1となる条件下にプレス成形を行うためには、図3に示すように、上杵32として、辺部22に対向する部位32aが、内側に向けてくびれた形状のものを用いることが好適である。部位32aは、図3に示すように、内側に向けて緩やかな曲線を描くような湾曲形状をしていてもよく、あるいは以下に述べる図5(a)に示すように、直線状になっていてもよい。
【0026】
図5(a)ないし(c)には、平面視での輪郭32’が種々の形状を有する上杵32を用いて、成形用凹部34内に充填された原料粉末(図示せず)をプレスしている状態が平面視で示されている。図5(a)示す実施形態では、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’が矩形になっている。すなわち、対向する2本の直線状辺部22が2組とも平行になっており、かつ隣り合う2本の直線状辺部22に位置するコーナー部23が直角になっている。上杵32は、平面視での輪郭32’のうち、辺部22に対向する部位32aが、内側に向けてくびれた形状になっている。該部位32aは直線状である。本実施形態によれば、コーナー部23において原料粉末10’に加わる圧力が相対的に高くなるとともに、辺部22において原料粉末10’に加わる圧力が相対的に低くなる。その結果、固形粉末化粧料10のうち、コーナー部23に対応する部位の強度が高まり、該固形粉末化粧料10の耐衝撃性が向上する。これとともに、固形粉末化粧料10のうち、辺部22に対応する部位での変形が小さくなり、該固形粉末化粧料10の成形収率が向上するという有利な効果が奏される。
【0027】
図5(b)に示す実施形態は、先に説明した図3及び図4に示す実施形態を一部改変した例である。本実施形態においては、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’は、図3及び図4に示す実施形態と同様である。しかし、上杵32の平面視での輪郭32’が、図3及び図4に示す実施形態と相違している。具体的には、上杵32は、平面視での輪郭32’のうち、成形用凹部34の各辺部22に対向する部位32aが、内側に向けて緩やかな曲線を描くように湾曲しているとともに、該部位32aのうち、辺部22の中央域に対向する部位32bが、内側に向けて先細になっているくさび形状になっている。部位32bは、4つの部位32bの各所に形成されている。本実施形態によれば、前記の図5(a)の実施形態と同様に、固形粉末化粧料10の耐衝撃性が向上し、かつその成形収率が向上するという有利な効果が奏される。
【0028】
図5(c)に示す実施形態では、上杵32は、平面視での輪郭32’のうち、成形用凹部34の各辺部22に対向する2本の直線状部位32aが2組とも平行になっている略矩形になっている。また、上杵32は、平面視での輪郭32’のうち、成形用凹部34のコーナー部23に対向する部位32cが、該コーナー部23に沿った曲線形状をしている。また成形用凹部34の各辺部22が2組とも外方にむけて凸の曲線状になっている。本実施形態によっても、前記の図5(a)の実施形態と同様に、固形粉末化粧料10の耐衝撃性が向上し、かつその成形収率が向上するという有利な効果が奏される。
【0029】
以上の説明は、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’が、対向する2本の辺部22が2組とも平行な場合、すなわち該輪郭34’が矩形又は略矩形である場合のものであるが、本製造方法は、該輪郭34’が、3本以上の直線状の辺部22と、隣り合う2本の該辺部22間に位置するコーナー部23とを備えた形状であれば、矩形又は略矩形以外の多角形の形状にも適用可能である。例えば成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’が、図6に示す六角形の形状の場合にも適用可能である。このような場合の隙間t1及びt2は次のように定義される。
【0030】
まず、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭形状34’における重心Gの位置から各コーナー部23に直線Lを引く。この直線Lと上杵32の平面視での輪郭32’との交点をp2とする。また、直線Lと成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’との交点をq2とする。こうした場合、隙間t1は点p2と点q2とを結ぶ線分の長さと定義される。
【0031】
一方、t2の定義は、これまで説明してきた実施形態と同様である。すなわちt2は、上杵32が原料粉末10’をプレスしている状態において、成形用凹部34の辺部22a,22bと、上杵32の平面視での輪郭32’との双方に内接する円のうち、最大の直径を有する円C3の該直径と定義される。図6に示す形状は六角形なので、円C3は、各辺部22a,22bに対応して6個描かれるところ、各円C3の直径は同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。各円C3の直径が異なる場合、各直径、すなわち各隙間t2が、6つの隙間t1との間で、先に述べた関係となるようにプレス成形を行う。
【0032】
なお、図6に示す実施形態においては、直線Lが、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’における頂点の位置と、上杵32の平面視での輪郭32’における頂点の位置との双方を通っているが、本製造方法はこれに限られず、直線Lが、上杵32の平面視での輪郭32’における頂点の位置を通っていなくてもよい。
【0033】
また、成形用凹部34の平面視での内壁34aの輪郭34’におけるコーナー部23に明確な頂点が存在しない場合、例えば該コーナー部23が曲線である場合には、重心Gの位置からコーナー部23に向けて引いた直線のうち、重心Gと点q2との間の距離が最も大きくなる直線を、前記の直線Lとして採用する。
【0034】
以上のt1及びt2の定義は、図6に示すように、対向する2本の辺部22aの一組のみが平行になっており、残りの2本の辺部22bの二組が非平行になっている形状の場合に適用されるだけでなく、対向する2本の辺部22が三組とも非平行になっている形状の場合にも適用される。
【0035】
以上の各実施形態に従い製造された固形粉末化粧料10は、例えばファンデーションやチーク、アイシャドウ等として用いられる。
【0036】
本発明の製造方法で用いられる原料粉末10’は、目的とする固形粉末化粧料10の具体的な用途に応じて適切なものが選択される。固形粉末化粧料10が例えばファンデーションやチークである場合には、粉末成分が好ましくは75〜95質量%、更に好ましくは85〜90質量%含有される。この粉末成分は、例えばタルク、マイカ、セリサイト、カオリン等の体質顔料、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄等の着色顔料、パール顔料などの光輝顔料を包含する。粉末成分に加え、固形粉末化粧料は、油剤、界面活性剤、防腐剤、酸化防止剤、香料、紫外線吸収剤、保湿剤、殺菌剤などを適宜含有することができる。
【0037】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、成形用凹部34の内壁の平面視での輪郭は、対向する2本の直線状辺部22を有する矩形状であったが、これに代えて、3本以上の直線状辺部を備えた多角形の形状、例えば三角形、五角形、六角形であってもよい。
【0038】
また前記の実施形態においては、成形用凹部34内に原料粉末10’を充填した後、上杵32を降下させ、次いで下杵33を上昇させて該原料粉末10’をプレス圧縮したが、これに代えて、下杵33は上昇させず、上杵32の降下のみでプレス圧縮を行ってもよい。また、下杵を用いずに、臼体31のみで形成される凹陥部内に容器20を載置し、該容器20の凹部から構成される成形用凹部内に原料粉末10’を充填し、該原料粉末10’を上杵の降下によってプレスしてもよい。
【0039】
更に、前記実施形態においては、プレス成形の対象となる原料粉末10’が充填される成形用凹部34として、容器20の凹部を用いたが、成形用凹部34はこれに限定されない。例えば容器20を用いず、図2(a)に示す装置30において、貫通孔31aの内壁と下杵33の上面とで画成される凹陥部を成形用凹部として用い、そこに原料粉末10’を直接充填してもよい。この場合に得られる固形粉末化粧料は、容器20に収容されたものではない。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0041】
〔実施例1〕
本実施例では、固形粉末化粧料として、ファンデーションを製造した。この原料粉末として以下の表1に示す原料粉末Aを用いた。プレス成形の装置として図2(a)ないし(c)に示す装置を用いた。また、図2(b)及び(c)に示す形状の合成樹脂製の容器を用いた。容器は、平面視において内壁の寸法が49mm(長辺A1)×41mm(短辺B1)であり、各隅部が丸みを帯びた略矩形ものであった。深さは5mmであった。この容器内に、原料粉末Aを10g充填した。プレス圧力として表2に示す条件を採用した。また上杵として図7に示す形状のものを用いた。同図に示す上杵の寸法A2,A3,B2及びB3は、表2に示すとおりとした。このようにして目的とする固形粉末化粧料を得た。なおt1及びt2は、4箇所とも同じ値となるようにした。
【0042】
〔実施例2〜8〕
表2に示す条件を採用する以外は実施例1と同様にしてプレス成形を行い、目的とする固形粉末化粧料を得た。
【0043】
〔比較例1及び2〕
上杵として図8に示す形状のものを用いた。同図に示す上杵の寸法A2及びB2は、表2に示すとおりとした。また、表2に示す条件を採用した。これら以外は実施例1と同様にしてプレス成形を行い、目的とする固形粉末化粧料を得た。
【0044】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた固形粉末化粧料について、以下の方法で耐衝撃性の評価としての落下回数を測定した。また、以下の方法で成形収率を測定した。それらの結果も表2に示す。
【0045】
〔落下回数の測定(耐衝撃性)〕
実施例及び比較例で得られた固形粉末化粧料をコンパクトケースに装填し、これを40cmの高さから厚み10mmの樹脂板上に繰り返し落下させ、かけや割れなどの異常が生じるまでの回数を測定した。各実施例及び各比較例につき、それぞれ5つのサンプル用意した。5つのサンプルについてそれぞれ測定を行い、それらの測定値の平均値を求め、その平均値を落下回数とした。
【0046】
〔成形収率〕
実施例及び比較例で得られた固形粉末化粧料を平面視で目視評価した。各実施例及び各比較例につき、それぞれ50個のサンプルを目視し、輪郭部分に欠損が生じていない固形粉末化粧料の個数Nを数え、成形収率を次の式から求めた。
成形収率(%)=N/50×100
【0047】
【表1】

【0048】
【表2】

【0049】
表2に示す結果から明らかなように、本発明の製造方法で得られた固形粉末化粧料は、耐衝撃性と成形収率との両立が達成されていることが判る。これに対して、比較例1の製造方法で得られた固形粉末化粧料は、耐衝撃性は高いものの、成形収率に劣ることが判る。逆に、比較例2の製造方法で得られた固形粉末化粧料は、成形収率は高いものの、耐衝撃性に劣ることが判る。
【符号の説明】
【0050】
10 固形粉末化粧料
10’ 原料粉末
20 浅底の容器(中皿)
21 壁部
22 直線状辺部
23 コーナー部
30 製造装置
31 貫通孔
32 上杵
32’平面視での上杵の輪郭
32a 直線状辺部に対向する部位
32b 直線状辺部の中央域に対向する部位
32c 成形用凹部のコーナー部に対向する部位
33 下杵
34 成形用凹部
34’平面視での成形用凹部の内壁の輪郭
34a 成形用凹部の内壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用凹部内に原料粉末を充填し上杵によって該原料粉末をプレスするか、又は、上杵と下杵との間に、原料粉末を成形用凹部内に充填した状態で配置し、両杵間で該原料粉末をプレスして固形粉末化粧料を製造する方法において、
成形用凹部は、平面視での内壁の輪郭が、3本以上の直線状の辺部と、隣り合う2本の該辺部間に位置するコーナー部とを備えた多角形の形状であり、
上杵と原料粉末とが当接している状態において、前記コーナー部での上杵と成形用凹部の内壁との隙間をt1とし、前記辺部での上杵と成形用凹部の内壁との隙間をt2としたとき、t2>t1となる条件下にプレス成形を行う固形粉末化粧料の製造方法。
【請求項2】
成形用凹部は、平面視での内壁の輪郭が、4本の直線状の辺部と、隣り合う2本の該辺部間に位置するコーナー部とを備えた形状である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
2/t1の値が、1.2<t2/t1<5.0の範囲となる条件下にプレス成形を行う請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
1が0.1mm以上0.3mm未満の範囲となる条件下にプレス成形を行う請求項1ないし3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
上杵として、成形用凹部の前記辺部に対向する部位が、内側に向けてくびれた形状のものを用いる請求項1ないし4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
成形用凹部は、平面視での内壁の輪郭が、対向する2本の前記辺部が2組とも平行になっている略矩形の形状を有しており、
上杵が原料粉末をプレスしている状態において、上杵の平面視での輪郭に外接する円C1と、上杵の該輪郭との接点をp1とし、
成形用凹部の平面視での内壁の輪郭に外接する円C2と、成形用凹部の該輪郭との接点をq1としたとき、
1は、点p1と点q1とを結ぶ線分の長さと定義され、
2は、上杵が原料粉末をプレスしている状態において、成形用凹部の前記辺部と、上杵の平面視での輪郭との双方に内接する円のうち、最大の直径を有する円C3の該直径と定義される請求項2ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
成形用凹部は、平面視での内壁の輪郭が、対向する2本の前記辺部が2組とも非平行になっているか、又は1組のみが平行になっている形状を有しており、
成形用凹部の平面視での内壁の輪郭における重心の位置から前記コーナー部に直線を引いたときに、該直線と上杵の平面視での輪郭との交点をp2とし、該直線と成形用凹部の該輪郭との交点をq2としたとき、
1は、点p2と点q2とを結ぶ線分の長さと定義され、
2は、上杵が原料粉末をプレスしている状態において、成形用凹部の前記辺部と、上杵の平面視での輪郭との双方に内接する円のうち、最大の直径を有する円C3の該直径と定義される請求項2ないし5のいずれか一項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−229171(P2012−229171A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97686(P2011−97686)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】