説明

固形腫瘍の予後のための薬理ゲノミクス的マーカー

本発明は、固形腫瘍の予後のためまたは治療の評価のための方法、システム、および機器を提供する。固形腫瘍の予後のための遺伝子マーカーは、本発明により同定することができる。各遺伝子マーカーは、抗癌治療の開始後、固形腫瘍患者のPBMCにおいて変化した発現パターンを有し、それら変化の大きさは、それら患者の臨床転帰と関連する。1つの実施態様では、Cox比例ハザードモデルを用いてRCC患者の臨床転帰とそれら患者のPBMCにおけるCCI−779治療中の遺伝子発現の変化との関連性を判定する。Coxモデルにより同定される遺伝子の非限定的な例は、表4A、表4B、表5Aおよび表5Bに示している。それら遺伝子は、RCCの予後のための代用マーカーとして用いることができる。また、CCI−779または他の抗癌剤の有効性についての薬理ゲノミクス指標としてもそれらを用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の引用)
本出願は、米国仮特許出願第60/654,082号(2005年2月18日出願)の優先権を主張する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、遺伝子マーカー、およびそれを固形腫瘍の予後のために用いる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
一次組織における発現プロファイリング研究では、正常組織と悪性組織の間に転写の相違が存在することが示されている。例えば、非特許文献1および非特許文献2を参照されたい。近年の臨床解析でも、臨床転帰の特定の尺度と大きく関連すると思われる腫瘍から発現プロフィールが特定されている。1つの研究では、一次腫瘍生検の発現プロフィールにより、現在認められている癌患者におけるリスクの標準的な尺度に匹敵、またはそれを凌ぎさえし得る予後の「サイン」が得られることが示されている。非特許文献3を参照されたい。
【0004】
一次腫瘍組織における転写または他の生化学的変化は、予後的な証拠を特定する絶好の機会を示し得るが、多くの腫瘍学的シナリオでは、一次腫瘍は、化学療法の開始前に切除される。これらの状況では、それゆえ、他の「代用的な」組織における反応によって患者転帰を示すことが可能か否かを判定することが望ましい。
【非特許文献1】Suら,CANCER RES.,2001年,第61巻,p.7388−7393
【非特許文献2】Ramaswamyら,PROC.NATL.ACAD.SCI.U.S.A.,2001年,第98巻,p.15149−15151
【非特許文献3】van de Vijverら,N ENGL J MED,2002年,第347巻,p.1999−2009
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0005】
(発明の要旨)
本発明は、固形腫瘍患者の最終的な臨床転帰の手掛りを与え得る末梢血単核細胞(PBMC)内の遺伝子マーカーを特徴とする。各遺伝子マーカーは、抗癌治療の開始後、固形腫瘍患者のPBMCにおいて変化を加えた発現パターンを有し、この変化の大きさは、固形腫瘍患者の臨床転帰と統計的に有意に関連する。多くの実施態様では、PBMCにおける遺伝子発現の変化と患者転帰の関連性は、Cox比例ハザードモデル、Spearmanの相関法、またはクラスベースの関連性測定基準により判定される。本発明の遺伝子マーカーは、固形腫瘍の予後のための代用マーカーとして用いることができる。これらはまた、抗癌剤の有効性に関する薬理ゲノミクス的な指標としても用いることもできる。
【0006】
1つの局面では、本発明は、着目する患者の固形腫瘍の予後のためまたは治療の有効性の評価のための方法を提供する。これらの方法は、着目する患者の末梢血細胞中の少なくとも1つの遺伝子の発現レベルの変化を抗癌治療中に検出する工程と、検出した変化と基準変化とを比較する工程を含む。着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける患者のPBMCにおける遺伝子の発現レベルの変化は、それら患者の臨床転帰と関連づけられる。それゆえ、着目する患者における発現レベルの変化の大きさは、当該患者の予後または治療の有効性を示す。多くの実施態様では、基準変化は、経験によってまたは実験によって決定された値を有する。着目する患者における発現レベルの変化が基準変化より大きいまたは小さい場合、着目する患者は、良好なまたは不良な予後を有すると見なされる。他の多くの実施態様では、基準変化は、着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける基準患者の末梢血細胞中の遺伝子の発現レベルの変化である。他の尺度または基準を用いても基準変化を算出することができる。
【0007】
種々の血液サンプルを用いて着目する患者における遺伝子発現の変化を判定することができる。それら血液サンプルの例としては、全血サンプル、または濃縮もしくは純化PBMCを含むサンプルが挙げられるがこれらに限定されない。他の種類の血液サンプルも用いることができる。それらサンプル中での遺伝子発現レベルの変化は、適切な相関関係モデルにより患者転帰と統計学的に有意に関連づけられる。
【0008】
本発明による固形腫瘍は、腎臓細胞癌(RCC)、前立腺癌、または頭部/頸部癌を含むがこれらに限定されない。本発明に従って評価可能な抗癌治療は、薬物療法、化学療法、ホルモン療法、放射線療法、免疫療法、外科手術、遺伝子療法、抗血管新生療法、緩和療法、または他の従来的もしくは実験的な療法、あるいはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない。任意の時間に関連する臨床指標を用いて着目する患者の予後または治療の有効性を判定することができる。それら臨床指標の非限定的な例としては、無憎悪生存期間(TTP)または生存期間(TTD)が挙げられる。
【0009】
各種の相関関係または統計学的方法を用いて抗癌治療中の末梢血遺伝子発現の変化と患者転帰関連性を評価することができる。これらの方法は、Cox比例ハザードモデル、最近傍解析、マイクロアレイの有意性解析(SAM)法、サポートベクターマシン、人工神経回路網、または他の順位検定、生存解析または関連性測定基準を含むがこれらに限定されない。
【0010】
1つの実施態様では、単変量Cox比例ハザードモデルを用いてCCI−779治療開始後のRCC患者のPBMCにおける遺伝子発現レベルの変化とそれら患者の臨床転帰の時間的尺度(例えば、TTPまたはTTD)の関連性を判定する。Cox比例ハザードモデルにより同定される予後遺伝子の非限定的な例は、表4A、表4B、表5Aおよび表5Bに記載している。それら予後遺伝子を用いて着目するRCC患者の臨床転帰を予測したり、抗癌治療の有効性を判定することができる。
【0011】
1つの実施態様では、本発明で採用する予後遺伝子の推測ハザード比は1未満である。結果として、着目する患者の末梢血細胞中の遺伝子の発現レベルの変化がより大きな値を有する場合、当該患者の予後がより良好であることを示唆する。反対に、着目する患者の変化がより小さな値を有する場合は、より不良な予後を示す。
【0012】
他の実施態様では、本発明で採用する予後遺伝子のハザード比は1より大きい。結果として、着目する患者の末梢血細胞中の遺伝子の発現レベルの変化がより大きな値を有する場合、当該患者の予後がより不良であることを示し、着目する患者の変化がより小さな値を有する場合は、より良好な予後を示唆する。
【0013】
着目する患者における発現レベルの変化は、任意の基準点から測定することができる。このように測定された発現レベルの変化は、適切な相関関係モデルにより患者転帰と統計学的に有意に関連づけられる。多くの場合、予後遺伝子の発現レベルの変化は、抗癌治療開始後の所定の時点での遺伝子の末梢血発現レベルと当該遺伝子のベースライン末梢血発現レベルとの間の変化を測定することにより判定される。1つの非限定的な例では、所定の時点は治療開始後約16週である。16週よりも短いまたは長い所定の時点(例えば、治療開始後4、8、12、20、24、または28週)も用いることができる。
【0014】
本発明はまた、固形腫瘍の予後のための2つ以上の遺伝子マーカーまたは多変量Coxモデルの使用も特徴とする。また、本発明は、RCCまたは他の固形腫瘍の予後に有用なキットを特徴とする。各キットは、本発明の予後遺伝子用のプローブを少なくとも1つ含むかまたは本質的にそれらで構成される。
【0015】
他の局面では、本発明は、ロジスティック回帰、ANOVA(分散解析)、ANCOVA(共分散解析)、MANOVA(多変量分散解析)、または他の相関関係もしくは統計学的方法を用いて着目する患者における固形腫瘍の予後または治療の有効性の判定を行なう方法を特徴とする。それらの方法は、抗癌治療開始後の特定の時点における着目する患者の末梢血細胞中の少なくとも1つの固形腫瘍予後遺伝子の発現レベルを検出する工程と、当該発現レベルを相関関係または統計学的モデルに入力して着目する患者の予後または治療の有効性を判定する工程とを含む。相関関係または統計学的モデルは、着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける患者のPBMC中の固形腫瘍予後遺伝子の発現レベルとそれら患者の臨床転帰との統計学的に有意な関連性を示す。多くの例では、相関関係または統計学的モデルは、着目する患者の臨床転帰の定性的予測(例えば、良好なまたは不良な予後)を行なうことができる。この目的に適した統計学的モデルまたは解析は、ロジスティック回帰またはクラスベースの関連性測定基準を含むがこれらに限定されない。他の多くの例では、相関関係または統計学的モデルは、着目する患者の臨床転帰の定量的予測(例えば、推測TTDまたはTTP)を行なうことができる。この目的に適した統計学的モデルまたは解析は、種々の回帰、ANOVAまたはANCOVAモデルを含むがこれらに限定されない。
【0016】
着目する患者の予後に用いられる発現レベルは、ベースラインまたは抗癌治療開始後の他の基準時点から測定された相対的な発現レベルとすることができる。絶対的発現レベルを用いても着目する患者の予後を行なうことができる。後者の場合、ベースラインまたは他の特定の基準時点での発現レベルを予測モデルの共変量として用いることができる。
【0017】
本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の詳細な説明において明白である。しかしながら、本発明の実施態様を示す詳細な説明は、例示のみを目的とするものであって限定するためのものではないことは言うまでもない。発明の範囲内での各種変更および修正は詳細な説明により当業者には明らかとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(詳細な説明)
本発明は、RCCまたは他の固形腫瘍の予後のための方法およびシステムを提供する。固形腫瘍予後遺伝子は、本発明により同定することができる。各予後遺伝子は、抗癌治療の開始後、固形腫瘍患者のPBMCにおいて変化を加えた発現パターンを有し、それら変化の大きさは、それら患者の臨床転帰と関連する。多くの実施態様では、発現プロフィールの変化は、ベースラインから測定され、発現プロフィールの変化と患者転帰の関連性は、Cox比例ハザードモデルにより評価される。
【0019】
本発明の予後遺伝子は、着目する固形腫瘍患者の予後のためまたは治療の有効性をモニタリングするための代用マーカーとして用いることができる。異なる患者は、疾患の分子構造個々の不均一性により、治療に対する臨床反応が異なる場合がある。患者の反応と関連する遺伝子発現パターンの特定により、臨床医は、予測される患者の反応に基づいて治療を選択し、それによって副作用を回避することができる。これにより、臨床試験の安全性が改善され、薬剤および他の抗癌治療に関するリスクに対する利点の比率が上昇する。末梢血は、定期的に患者から低侵襲的に得ることができる組織である。患者転帰と末梢血中の遺伝子発現の変化の関連性を判定することにより、本発明は、臨床薬理ゲノミクスおよび固形腫瘍治療における飛躍的な進歩を示す。
【0020】
以下のサブセクションにおいて発明の各種局面をさらに詳細に説明する。サブセクションの使用は、発明を限定するためのものではない。各サブセクションは、発明のいずれの局面に適用してもよい。本願では、文脈により明確に記載されない限り、単数形が複数のものを指す場合も含み、特に明記しない限り、「または」は、「および/または」を意味する。
I. 固形腫瘍予後遺伝子を同定する一般的な方法
本発明は、末梢血遺伝子発現プロフィールにおける変化と固形腫瘍患者の臨床転帰の統計学的に有意な関連性を特定する。そのような関連性を有する遺伝子は、同定することが可能である。それら遺伝子は固形腫瘍予後遺伝子であり、固形腫瘍の予後のためまたは治療の有効性を推測するための代用マーカーとして用いることができる。
【0021】
本発明に適した相関解析は、Cox比例ハザードモデル(Cox,JOURNAL OF THE ROYAL STATISTICAL SOCIETY,SERIES B 34:187(1972))、Spearmanの順位相関関係(SnedecorおよびCochran,STATISTICAL METHODS(8th edition,Iowa State University Press,Ames,Iowa,503 pp,1989))、最近傍解析(Golubら,SCIENCE,286:531−537(1999);ならびにSlonimら,PROCS.OF THE FOURTH ANNUAL INTERNATIONAL CONFERENCE ON COMPUTATIONAL MOLECULAR BIOLOGY,Tokyo,Japan,April 8−11,p263−272(2000))、マイクロアレイの有意性解析(SAM)法(Tusherら,PROC.NATL.ACAD.SCI.U.S.A.,98:5116−5121(2001))、サポートベクターマシン、および人工神経回路網を含むがこれらに限定されない。他の順位検定、生存解析、関連性測定基準、または統計学的方法を用いることもできる。
【0022】
Cox比例ハザードモデルは、打ち切られた生存データに対して最も一般的に用いられる回帰モデルである。例えば、Tibshirani,CLINICAL&INVESTIGATIVE MEDICINE,5:63−68(1982);Allison,SURVIVAL ANALYSIS USING THE SAS SYSTEM:A PRACTICAL GUIDE(Gary NC:SAS Institute,1995);ならびにTherneauおよびGrambsch,MODELING SURVIVAL DATA:EXTENDING THE COX MODEL (New York:Springer,2000)を参照されたい。Coxモデルでは、生存と1つ以上の共変量または予測量の関係を調べる。本明細書中において用いられる「生存」という用語は、実際の死または生存に限定されない。その代わりとして、この用語は、あらゆる時間に関連するイベントを包含するように広く解釈されるものである。Cox比例ハザードモデルは、基本的な生存分布の性質または形状に関するあらゆる仮定に基づくことがないという点で、他の多くの回帰モデルよりも一般的であると見なされる場合が多い。Coxモデルでは、基本的なハザード率が独立した共変量または予測量の関数であると仮定し、そのハザード関数の性質または形状に関して仮定をすることはない。
【0023】
Cox比例ハザードモデルの非限定的な例を以下の式を用いて説明する:
【0024】
【数1】

ここで、iは、被験体のサブスクリプトであり、H(t)は、時間tにおけるハザードであって、当該被験体が時間tまで生存したと仮定し、時間tにおけるエンドポイント(例えば、死、疾患の進行、または他の時間に関連したイベント)の確率を表す。Xは、予測量または共変量を示し、これは、連続変数、二分変数、または他の順序カテゴリー変数とすることができる。Cox比例回帰モデルでは、予測量の影響が時間の経過に対して一定であると仮定する。多くの実施態様では、Xは、抗癌治療開始後の固形腫瘍患者の末梢血細胞(例えば、PBMC)における遺伝子jの発現レベルの変化を表す。Xが高度な傾斜分布を有する場合、対数変換を行なって極値の影響を低減することができる。H(t)は、時間tにおけるベースラインハザードであり、独立した共変量の全てが0に等しい場合、個体各々のハザードを示す。Coxモデルでは、ベースラインハザード関数は特定されない。特定のベースラインハザード関数が無くても、例えば、部分尤度法により、Coxモデルを推測することができる。
【0025】
式(1)により示されるCoxモデルはセミパラメトリックであるが、これは、ベースラインハザードが任意の形態をとることができる一方、共変量の係数は推測されるためである。それぞれのx値が異なり、対応する線形予測量が、
【0026】
【数2】

である2つの観察結果iおよびi’について考察する。H(t)とHi’(t)の比、
【0027】
【数3】

は、時間tとは独立している。それゆえ、式(1)のCoxモデルは、比例ハザードモデルである。
【0028】
式(5)は、単一の予測量のみがCox回帰により評価される単変量Coxモデル:
【0029】
【数4】

を示す。ハザード比(RR)をexp(β)と定義し、予測量における一単位の変化に対するイベント(例えば、死または疾患の進行)の相対的なリスクを表す。多くの用途では、PBMC発現値は、底が2の対数として表され、一単位の変化は発現の倍増に相当する。ハザード比の自然対数は、係数βを生じる。S−PlusまたはRパッケージを用いる場合、ハザード比RRは、パッケージ内の「coxph( )」関数を用いて生成することができる。
【0030】
単変量Cox解析では、1未満のハザード比は負の係数βを示す。結果として、予測量の値の増加により、イベント(例えば、死または疾患の進行)の瞬間的なリスクが低減される。反対に、予測量の値の減少により、イベントの瞬間的なリスクが大きくなる。同様に、1より大きなハザード比は、正の係数βを示唆する。それゆえ、予測量の値の増加(または減少)により、イベントの瞬間的なリスクが大きく(または小さく)なる。
【0031】
非限定的な例として、係数βが負の場合、予測量xi’と比較して予測量xが増加することで、PIが小さくなり、それゆえ、Hi’(t)と比較してH(t)が小さくなる。k=1である場合の式(2)、(3)および(4)を参照されたい。反対に、xの減少により、Hi’(t)と比較してH(t)が大きくなる。係数βが正の場合、xの増加(または減少)により、Hi’(t)と比較してH(t)が大きく(または小さく)なる。従って、Cox比例ハザードモデルを用いて、異なる個体間での時間に関連するイベントの相対的なリスクを推測することができる。
【0032】
一旦Coxモデルをフィッティングさせると、仮説の検定を少なくとも3つ用いて共変量の統計学的有意性を評価することができる。これらの検定は、尤度比検定、ワルド検定、およびスコア検定である。多くの実施態様では、これらの検定のうちの1つ以上により、ベースラインからの遺伝子発現の変化と患者転帰の関連性について決定されるp−値は、0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0001以下にすぎない。本発明の予後遺伝子のハザード比は、わずか0.5、0.33、0.25、0.2、0.1以下等、1未満とすることができる。遺伝子のハザード比はまた、少なくとも2、3、4、5、10以上等、1より大きくすることもできる。1未満のハザード比の場合、固形腫瘍患者の末梢血細胞における遺伝子の発現レベルの増加が患者の良好な予後を示唆することを示すが、1より大きなハザード比の場合、患者の末梢血細胞における遺伝子の発現レベルの増加が患者の不良な予後を示すことを示唆する。
【0033】
本発明はまた、多変量Coxモデルを使用して、末梢血遺伝子発現の変化と固形腫瘍患者の臨床転帰とを関連させることも企図する。各多変量Coxモデルは、2つ以上の共変量または予測量を含み、各共変量は、抗癌治療中の固形腫瘍患者の末梢血細胞(例えば、PBMC)における予測量遺伝子の発現レベルの変化を表す。多くの実施態様では、発現レベルの変化は、ベースラインから測定される。異なる共変量間の相互作用もモデルに導入することができる。
【0034】
単変量解析において有意な予測量(例えば、わずか0.05、0.01、0.005、0.001以下のp−値を有するもの)は、多変量モデルで検定することができる。一例として、順方向ステップワイズ選択を用いて多変量解析のための予測量を選択する。例えば、まず、単変量解析において最も有意な予測量1つを多変量モデルに入力した後、次に最も有意な予測量の入力等を行なうようにすることができる。次元縮小法(主成分解析または層別逆回帰等)を用いて、多変量モデルにおける予測量の数をモデルの予測性能を潜在的に損なうことなく低減する場合もある。
【0035】
Cox回帰解析の実施には各種コンピュータプログラムが利用可能である。それらのプログラムの例としては、S−Plus、SAS、またはSPSSパッケージが挙げられるがこれらに限定されない。例えば、Allison,SURVIVAL ANALYSIS USING THE SAS SYSTEM:A PRACTICAL GUIDE (Cary NC:SAS Institute,1995);およびTherneau,A PACKAGE FOR SURVIVAL ANALYSIS IN S(Technical Report,www.mayo.edu/hsr/people/therneau/survival.ps,Mayo Foundation,1999)を参照されたい。
【0036】
変化を加えたCoxモデルを用いることも可能である。例えば、層化因子をCoxモデルに導入して、非比例ハザードを変数レベル間に存在させることが可能である。残差を用いて予測量の正確な関数形式を見つけたり、モデルによる予測が不十分な被験体を特定したり、または比例ハザードの仮定を評価することもできる。また、時間変化共変量、時間依存性係数、複数の/相関的な観察結果、または複数の時間的尺度を、変化を加えたCoxモデルにより解析することができる。罰則化Coxモデルまたはフレイルティモデルを用いることもできる。
【0037】
本発明はまた、末梢血遺伝子発現の変化と患者転帰の関連性の特定のための他の相関法または統計学的方法の使用も特徴とする。これらの方法は、加重投票(Golubら,SCIENCE,286:531−537(1999))、サポートベクターマシン(Suら,CANCER RESEARCH,61:7388−93(2001))、K−最近傍法(Ramaswamyら,PROCEEDINGS OF THE NATIONAL ACADEMY OF SCIENCES OF THE USA,98:15149−15154(2001))、相関係数(van’t Veerら,NATURE,415:530−536(2002))、または他の適切なパターン認識プログラムを含むがこれらに限定されない。
【0038】
本発明に従って推測可能な固形腫瘍治療の例としては、薬物療法(例えば、CCI−779療法)、化学療法、ホルモン療法、放射線療法、免疫療法、外科手術、遺伝子療法、抗血管新生療法、緩和療法、または他の従来的もしくは非従来的な療法、あるいはそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。本発明による固形腫瘍は、RCC、前立腺癌、頭部/頸部癌、卵巣癌、精巣癌、脳腫瘍、乳癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、皮膚癌、子宮頸癌、子宮癌、肝臓癌、または血液もしくはリンパ細胞中にその起源を有さない他の腫瘍を含むがこれらに限定されない。固形腫瘍の状態または進行は、直接的または間接的な視覚化手順を用いて推測することができる。適切な視覚化法は、スキャン(X線、コンピュータ断層写真(CT)、磁気共鳴映像(MRI)、陽電子放出断層撮影(PET)、または超音波検査(U/S)等)、生検、触診、内視鏡検査、腹腔鏡検査、または当業者が認める他の適切な手段を含むがこれらに限定されない。
【0039】
固形腫瘍の臨床転帰は、多数の基準を用いて評価することができる。多くの実施態様では、臨床転帰は、治療上の処置に対する患者の反応に基づいて測定される。時間に関連する臨床転帰尺度の例としては、無憎悪生存期間(TTP)、生存期間(TTDまたは生存率)、完全奏効期間、部分奏効期間、微弱奏効期間、疾患安定期間、またはそれらの組み合わせが挙げられるがこれらに限定されない。
【0040】
TTPは、治療の開始日から進行性疾患測定の初日までの期間を指す。TTDは、治療の開始日から死亡時までの期間を指す。完全奏効、部分奏効、微弱奏効、安定疾患、または進行性疾患は、WHO Publication,No.48(World Health Organization,Geneva,Switzerland,1979)に記載されるようなWHO Reporting Criteriaを用いて判定することができるがこれに限定されない。各評価では、この基準に基づいて1次元または2次元的に測定可能な病変が測定される。いずれかの臓器に複数の病変が存在する場合には、可能であれば、最大で6つの代表的な病変を選択することができる。
【0041】
多くの場合において、「完全奏効」(CR)は、全ての測定可能および判定可能な疾患の完全な消失と定義されており、これは、少なくとも4週間隔てた2回の観察により判断される。新たな病変および疾患に関連する症状は存在しない。2次元的に測定可能な疾患についての「部分奏効」(PR)とは、少なくとも4週間隔てた2回の観察により判断される全ての測定可能な病変の最大垂直半径の積の合計が少なくとも約50%減少していることを意味する。1次元的に測定可能な疾患についての「部分奏効」とは、少なくとも4週間隔てた2回の観察により判断される全ての病変の最大半径の合計が少なくとも約50%減少していることを意味する。部分奏効に該当するためには、必ずしも全ての病変が消退している必要はないが、病変が進行することなく、新たな病変が生じていない必要がある。評価は客観的でなければならない。2次元的に測定可能な疾患についての「微弱奏効」とは、全ての測定可能な病変の最大垂直半径の積の合計が約25%以上〜約50%未満の範囲で減少していることを意味する。1次元的に測定可能な疾患についての「微弱奏効」とは、全ての病変の最大半径の積の合計が約25%〜約50%未満の範囲で減少していることを意味する。
【0042】
2次元的に測定可能な疾患についての「安定疾患」(SD)とは、全ての測定可能な病変の最大垂直半径の積の合計が約25未満減少していることまたは約50%未満増加していることを意味する。1次元的に測定可能な疾患についての「安定疾患」とは、全ての病変の半径の合計が約25未満減少していることまたは約25%未満増加していることを意味する。新たな病変は生じていない。「進行性疾患」(PD)とは、1次元的(最大垂直半径の積)または2次元的に測定可能な少なくとも1つの病変の大きさが約25%以上増加していること、または新たな病変が生じていることを指す。胸水または腹水の発生も、実証的な細胞診により裏付けられた場合には進行性疾患と見なされる。病理学的骨折または骨の崩壊は必ずしも疾患進行の証拠とはならない。
【0043】
1つの非限定的な例として、1次元的および2次元的に測定可能な疾患についての総合被験体腫瘍反応を表1に従って判定する。
【0044】
【表1】

測定不可能な疾患についての総合被験体腫瘍反応は、例えば、以下の状況において評価することができる:
a)全体的完全奏効:測定不可能な疾患がある場合には、完全に消失する必要がある。消失しない場合には、被験体を「全体的完全奏効者」とみなすことができない。
【0045】
b)全体的進行:測定不可能な疾患の大きさが著しく増加した場合、または新たな病変が現れた場合には、全体的な奏効は進行とされる。
【0046】
上記関連性の研究のために、固形腫瘍患者をそれぞれの臨床転帰に基づいて分類することができる。伝統的な臨床リスク評価法を用いてそれらを分類することも可能である。それらリスク評価法は、固形腫瘍患者を異なる予後またはリスク群に分ける多数の予後因子を採用する場合が多い。それら方法の一例としては、Motzerら,J CLIN ONCOL,17:2530−2540(1999)に記載のRCC5に関するMotzerのリスク評価法が挙げられる。異なるリスク群の患者は、療法に対する反応が異なる場合がある。
【0047】
末梢血遺伝子発現の変化と患者転帰の関連性の特定には種々の末梢血サンプルを用いることができる。この目的に適した末梢血サンプルは、全血サンプル、または濃縮PBMCを有するサンプルを含むがこれらに限定されない。「濃縮」とは、サンプル中のPBMCのパーセンテージが全血中においてよりも高いことを意味する。濃縮サンプル中のPBMCのパーセンテージは、全血中においてよりも少なくとも1、2、3、4、5倍以上高い場合が多い。他の場合には、濃縮サンプル中のPBMCのパーセンテージは、少なくとも90%、95%、98%、99%、99.5%以上であることが多い。濃縮PBMCを含有する血液サンプルは、Ficoll勾配遠心分離またはCPT(細胞純化管)等の当該分野で公知の任意の方法を用いて調製することができる。
【0048】
本発明で採用した末梢血サンプルは、抗癌治療前後または抗癌治療中の任意のタイミングで単離することができる。例えば、末梢血サンプルは、治療上の処置の前に単離することができる。本明細書中では、それらサンプルを「ベースライン」または「治療前」サンプルと呼ぶ。本明細書中では、それらサンプル中の遺伝子発現プロフィールを「ベースライン」または「治療前」プロフィールと呼ぶ。他の例としては、末梢血サンプルは、抗癌治療の開始後1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、または16週で固形腫瘍患者から単離することができる。他の時間間隔も血液サンプルの調製に用いることができる。
【0049】
多くの実施態様では、抗癌治療の開始後の特定の時点における遺伝子発現プロフィールとベースライン発現プロフィールとの間の変化を測定することにより遺伝子発現の変化が判断される。ベースライン以外の基準時点も用いることができる。
【0050】
末梢血遺伝子発現の変化は、包括的遺伝子発現解析を用いて判定することができる。この目的に適した方法は、核酸アレイ(cDNAまたはオリゴヌクレオチドアレイ等)、タンパク質アレイ、2次元SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動/質量解析、および他の高性能ヌクレオチドまたはポリペプチド検出技術を含むがこれらに限定されない。
【0051】
核酸アレイは、一度に多数の遺伝子の発現レベルを定量的に検出することを可能にする。核酸アレイの例としては、Affymetrix社(Santa Clara,CA)のGenechip(登録商標)マイクロアレイ、Agilent Technologies社(Palo Alto,CA)のcDNAマイクロアレイ、ならびに米国特許第6,288,220号および同第6,391,562号に記載のビーズアレイが挙げられるがこれらに限定されない。
【0052】
核酸アレイにハイブリダイズすべきポリヌクレオチドに1つ以上の標識部分を用いて標識することにより、ハイブリダイズしたポリヌクレオチド複合体の検出を可能にすることができる。それら標識部分は、分光学的、光化学的、生化学的、生体電子工学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段により検出可能な組成物を含むようにすることができる。例示的な標識部分としては、放射線同位体、化学発光化合物、標識結合タンパク質、重金属原子、蛍光マーカーおよび染料等の分光学マーカー、磁気標識、結合酵素、質量解析タグ、スピン標識、電子移動ドナーおよびアクセプタ等が挙げられる。非標識ポリヌクレオチドを用いることも可能である。上記ポリヌクレオチドは、DNA、RNA、またはそれらの変形態様とすることができる。
【0053】
ハイブリダイゼーション反応は、絶対的または差次的ハイブリダイゼーション形式で行なうことができる。絶対的ハイブリダイゼーション形式では、抗癌治療中の特定の時点において固形腫瘍患者から単離された末梢血サンプル等、1つのサンプルから調製されたポリヌクレオチドが核酸アレイにハイブリダイズする。ハイブリダイゼーション複合体の形成後に検出された信号は、サンプル中のポリヌクレオチドレベルを示す。差次的ハイブリダイゼーション形式では、着目する患者からの生体サンプルと基準患者からの別の生体サンプル等、2つの生体サンプルから調製されたポリヌクレオチドを異なる標識部分で標識する。それら異なる標識をしたポリヌクレオチドの混合物は、核酸アレイに添加される。この核酸アレイは、次いで、異なる標識からの放出物が個別に検出可能な条件下で検査される。1つの実施態様では、蛍光物質Cy3およびCy5(Amersham Pharmacia Biotech,Piscataway N.J.)を差次的ハイブリダイゼーション形式の標識部分として用いる。
【0054】
核酸アレイから集められた信号は、Affymetrix社またはAgilent Technologies社により提供されるソフトウェア等、市販のソフトウェアを用いて解析することができる。スキャン感受性、プローブ標識およびcDNA/cRNA定量等のための対照物をハイブリダイゼーション実験に含めることができる。多くの実施態様では、上記核酸アレイ発現信号を、さらなる解析にかける前にスケーリングまたは正規化する。例えば、1つより多くのアレイを同様の検定条件下で用いる場合、各遺伝子の発現信号を正規化して、ハイブリダイゼーション強度のばらつきを考慮することができる。個々のポリヌクレオチド複合体ハイブリダイゼーションについての信号も各アレイに含まれる内部正規化対照物から得られる強度を用いて正規化することができる。また、サンプル間で発現レベルが相対的に一定した遺伝子を用いて他の遺伝子の発現レベルを正規化することができる。1つの実施態様では、遺伝子の発現レベルは、平均値が0で、標準偏差が1となるようにサンプル全体に渡って正規化される。他の実施態様では、核酸アレイにより検出された発現データは、全サンプルにおいて差異が最小であるかまたはごくわずかな遺伝子を除外する差異フィルタにかけられる。
II. RCC予後遺伝子の同定
RCCは、腎臓癌の全ての症例の大半を含み、先進工業諸国において最も一般的な10種類の癌のうちの1つである。進行したRCCの5年生存率は5パーセント未満である。RCCは、通常、画像検査法により検出され、明らかに非転移性である患者の30パーセントが、外科手術後に再発を経験し、最終的には死に至る。近年の発現プロファイリング研究では、原発性悪性腫瘍の転写プロフィールは、対応する正常組織の転写プロフィールから根本的に変化することが示されている(参考として、Slonim,PHARMACOGENOMICS,2:123−136(2001)を参照されたい)。RCC腫瘍転写プロフィールを詳細に検査する特定のマイクロアレイ研究(Youngら,AM.J.PATHOL.,158:1639−1651(2001))は、正常腎臓組織と一次RCC腫瘍間で変化した遺伝子のクラスを多く同定している。
【0055】
いくつかの重要な指標の多変量評価に代表される、RCCと診断された患者用の予後因子およびスコアリング指数がいくつか開発されている。一例としては、Motzerリスク評価スコアがあり、これには、Motzerら,J CLIN ONCOL,17:2530−2540(1999)により提案された5つの予後因子、すなわち、Karnofskyの一般状態、血清乳酸脱水素酵素、ヘモグロビン、血清カルシウム、およびそれまでの腎摘出の有無が採用されている。RCC患者は、予後に関して、それぞれのMotzerリスク評価スコアに基づいて好ましい、普通または不良に分類することができる。
【0056】
本発明は、RCCの予後のための代用遺伝子マーカーを特徴とする。RCC患者の末梢血細胞におけるそれら遺伝子の発現レベルは、CCI−779療法中に変化し、それらのベースライン発現レベルからの変化の大きさは、継続して測定されるTTPまたはTTD等の臨床転帰と関連する。
【0057】
CCI−779は、腫瘍学の分野における各種の徴候および多発性硬化症の徴候において細胞増殖抑制剤として現在鑑定されているmTOR経路の小分子阻害剤である。CCI−779は、免疫抑制剤ラパマイシンのエステル類似体であり、ラパマイシンの哺乳類標的の強力な選択的阻害剤である。ラパマイシンの哺乳類標的(mTOR)は、p70s6キナーゼのリン酸化反応を含む複数の信号経路の活性化を行ない、結果的に、翻訳および細胞周期のG1段階への移行に関与するタンパク質をコードする5’TOP mRNAの翻訳が増加する。mTORおよび細胞周期制御に対するその阻害効果により、CCI−779は、細胞増殖抑制剤および免疫抑制剤として機能する。
【0058】
進行性RCC患者111人(女性34人および男性77人)に、疾患進行が認められるまで、25、75、または250mgのCCI−779静脈内(IV)注射を週に1回行なって治療を施した。一部の患者45人(女性18人および男性27人)の遺伝子発現結果をさらに解析した。これら45人の患者のRCC腫瘍は、臨床部位において、従来型の(明細胞)癌(24)、顆粒細胞癌(1)、乳頭癌(3)、または混合サブタイプ(7)と分類した。10個の腫瘍は不明と分類した。RCC患者は、主に白色系人種であり(白色人種44人、アフリカ系アメリカ人1人)、平均年齢は58歳(40〜78歳の範囲)であった。対象基準には、組織学的に進行が確認された腎臓癌患者であって、それまでに進行性疾患の治療を受けていたか、またはそれまでに進行性疾患の治療を受けていないが、高用量のIL−2療法を受けるには適切でない患者を含めた。他の対象基準には、(1)2次元的に測定可能な疾患が認められる患者;(2)研究の開始前に疾患の進行が認められる患者;(3)年齢が18歳以上の患者;(4)ANC>1500/μL、血小板>100,000/μL、ヘモグロビン>8.5g/dLの患者;(5)血清クレアチニン<1.5×正常値の上限により裏付けられた適切な腎機能を有する患者;(6)ビリルビン<1.5×正常値の上限およびAST<3×正常値の上限(または肝臓転移がある場合には、AST<5×正常値の上限)により裏付けられた適切な肝機能を有する患者;(7)血清コレステロール<350mg/dL、トリグリセリド<300mg/dLの患者;(8)ECOG一般状態0−1の患者;および(9)推定余命が少なくとも12週間の患者を含めた。除外基準には、(1)公知のCNS転移が存在する患者;(2)投薬開始3週間以内に外科手術または放射線療法を受けた患者;(3)投薬開始4週間以内にRCCの対する化学療法または生物学的療法を受けた患者;(4)投薬開始4週間以内に事前治験薬で治療を受けた;(5)HIV陽性であることが分かっているか、またはコルチコステロイドを含む免疫抑制剤の同時使用している者を含む免疫障害状態の患者;(6)活動性感染症を有する患者;(7)抗けいれん療法で必要な治療を受けている患者;(8)6ヶ月以内に不安定狭心症/心筋梗塞症を起こしたかまたは現在継続して生命を脅かす不整脈の治療を受けている患者;(9)それまで過去3年以内に悪性腫瘍の経歴がある患者;(10)マクロライド系抗生物質に対して過敏である患者;および(11)妊娠しているか、または研究への参加によるリスクが大きく増加する他の病気を有する患者を含めた。選択されたRCC患者には、試験期間中、週に1回、CCI−779を3つの投与量(25mg、75mg、または250mg)のうちの1つの投与量で30分のIV注射を行なって治療を施した。
【0059】
臨床病期、および残留する疾患、再発した疾患または転移した疾患の大きさを、治療前およびCCI−779療法の開始後8週間ごとに記録した。腫瘍の大きさは、センチメートルで測定し、最大半径とその垂直半径の積を報告した。測定可能な疾患は、CTスキャン、X線、または触診において両方の半径が>1.0cmである2次元的に測定可能なあらゆる病変と定義した。測定可能な全病変の積の合計により腫瘍反応を決定した。臨床反応の振り分けのためのカテゴリーを臨床試験計画書による定義(すなわち、進行性疾患、安定疾患、微弱奏効、部分奏効、および完全奏効)を用いて行なった。Motzerリスク評価(好ましい、普通、不良)による予後の振り分けのためのカテゴリーも用いた。RCC患者45人のうち、6人はリスク評価が好ましく、17人の患者は普通のリスクスコアを有し、22人の患者は予後不良に分類された。カテゴリーによる分類の他に、全体的生存率および無憎悪生存期間も臨床エンドポイントとして監視した。
【0060】
CCI−779療法前、および治療開始後8週間ごとに、RCC患者の末梢血からPBMCを単離した。単離したPBMCから核酸サンプルを調製し、製造者のガイドラインに従ってHG−U95A遺伝子チップ(Affymetrix,Santa Clara,CA)にハイブリダイズさせた。その全てを本明細書中において参考として援用するGeneChip(登録商標)Expression Analysis−Technical Manual(Part No.701021 Rev.1,Affymetrix,Inc.1999−2001)を参照されたい。MAS4アルゴリズムによりプローブ強度から信号を算出し、実施例に記載のスケール度数正規化法を用いて信号強度を度数に変換した。
【0061】
患者転帰と関連するPBMC中の転写レベルの特異的変化を特定するために、臨床転帰指標の打ち切り効果の原因となるCox比例ハザード回帰を採用し、log変換した発現レベル(ppm単位)の関数として転帰をモデル化した。初期のフィルタリング基準(データセット全体に「存在する」の判定が少なくとも1つあり、>10ppmの度数の転写が少なくとも1回ある;実施例3参照)を満たした5,469個の限定子の各々に対して、2つの臨床転帰指標(TTPおよびTTD)についてCox回帰解析を行なった。Cox比例ハザード解析では、各転写に関連するハザード比により、好ましいまたは好ましくないという転帰の可能性を示すが、1未満のハザード比は、共変量のレベルを上昇させるリスクが少ないことを示し、1より大きなハザード比は、リスクがより高いことを示す。
【0062】
転写および転帰指標の各々について、ハザード比を算出し、ハザード比が1に等しい(すなわち、リスクがない)という仮説に対するWaldのp−値を算出した。各転帰指標ごとに実施する5,469回の検定のうち、名目上有意な検定の数を5つのタイプI(すなわち、偽陽性)エラーレベルについて算出した。次いで、5,469回の検定が独立したものでないという事実に合わせるために、置換に基づくアプローチを採用して、観察した有意な検定数が見つかる頻度をリスクがないという帰無仮説の下で判定した。
【0063】
Cox比例ハザード回帰モデルをフィッティングしてHG−U95A Affymetrixマイクロアレイにより測定した遺伝子発現レベルと臨床転帰の関連性を評価した。ベースライン、8週、および16週のサンプルにおける初期のフィルタリング基準(サンプル全体に「存在する」の判定が少なくとも1つあり、>10ppmの度数の転写が少なくとも1回ある)を満たした5,469個の限定子の各々の発現レベルを用いてモデルをフィッティングさせた。ベースラインスケール度数からの変化との関連性について2つの臨床指標(TTDおよびTTP)を検定した。ベースラインからの変化を、log変換したスケール度数の値に基づいて算出し、ベースラインから8週後および16週後について計算した。
【0064】
臨床転帰とベースライン発現レベルからの変化との比較結果に関しては、表2Aおよび表2Bに8週での変化についてまとめており、表3Aおよび表3Bに16週での変化についてまとめている。臨床転帰とベースライン遺伝子発現からの変化の関連性の証拠は、16週の転帰変数両方について明確である。
【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

表4Aおよび表4Bには、TTPについて、それぞれローリスク(ハザード比<1.0)、またはハイリスク(ハザード比>1.0)とそれぞれ関連する16週での転写レベルの変化を有するPBMC中の20個の例示的な遺伝子が示されている。表5Aおよび表5Bには、TTDについて、それぞれローリスク(ハザード比<1.0)、またはハイリスク(ハザード比>1.0)とそれぞれ関連する16週での転写レベルの変化を有するPBMC中の20個の例示的な遺伝子が示されている。表6は、それら遺伝子のアノテーションを示している。
【0067】
【表4A】

【0068】
【表4B】

【0069】
【表5A】

【0070】
【表5B】

【0071】
【表6−1】

【0072】
【表6−2】

【0073】
【表6−3】

【0074】
【表6−4】

表4A、表4B、表5Aおよび表5Bの各限定子は、HG−U95A遺伝子チップ上のオリゴヌクレオチドプローブセットを表す。限定子によって同定された遺伝子のRNA転写産物は、核酸アレイハイブリダイゼーション条件下で、当該限定子の少なくとも1つのオリゴヌクレオチドプローブ(PM、すなわち、完全一致プローブ)にハイブリダイズすることができる。好ましくは、この遺伝子のRNA転写産物は、核酸アレイハイブリダイゼーション条件ではPMプローブの不一致プローブ(MM)とはハイブリダイズしない。MMプローブは、不一致プローブの中央またはその近傍の単一の同価同義置換を除いて対応するPMプローブと同一である。25−merのPMプローブに対しては、MMプローブは、13位に同価同義の塩基変化を有する。
【0075】
多くの場合、限定子により同定された遺伝子のRNA転写産物は、核酸アレイハイブリダイゼーション条件下で、当該限定子のPMプローブの少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または100%とハイブリダイズすることができるが、それらの対応するMMプローブとはハイブリダイズしない。他の多くの場合には、全体的なハイブリダイゼーション強度(すなわち、PM+MM)に対する対応プローブペアのハイブリダイゼーション強度の差(すなわち、PM−MM)の比で測定されるこれらPMプローブ各々の弁別スコア(R)は、少なくとも0.015、0.02、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5以上である。さらに他の場合には、限定子により同定された遺伝子のRNA転写産物は、遺伝子チップの初期設定、例えば、閾値τが0.015で、有意性水準αが0.4で「存在」判定となることが多い。その内容の全てを本明細書中において参考として援用するGeneChip(登録商標)Expression Analysis−Data Analysis Fundamentals(Part No.701190 Rev.2,Affymetrix,Inc.,2002)を参照されたい。
【0076】
HG−U95A遺伝子チップ上の各PMプローブの配列、およびPMプローブが由来する対応標的配列は、Affymetrix社の配列データベースから入手することができる。例えば、www.affymetrix.com/support/technical/byproduct.affx?product=hgul33を参照されたい。これらPMプローブ配列およびそれらの対応標的配列の全てを本明細書中において参考として援用する。
【0077】
表4A、表4B、表5Aおよび表5Bに示す各遺伝子、および対応するUniGene IDおよびEntrezアクセッション番号は、HG−U95A遺伝子チップのアノテーションによって特定した。UniGeneは、遺伝子志向クラスターの非冗長的な集合から構成される。各UniGeneクラスターは、固有の遺伝子を表す配列を含むものと考えられる。表4A、表4B、表5Aおよび表5Bに示す遺伝子に関する付加情報は、それらの対応UniGene IDまたはEntrezアクセッション番号に基づいて、National Center for Biotechnology Information(NCBI)(Bethesda,MD)のEntrezデータベースから入手することができる。
【0078】
HG−U95A限定子により同定される遺伝子はまた、当該限定子の標的配列についてヒトゲノム配列データベースを検索するBLASTにより判定することもできる。この目的に適したヒトゲノム配列データベースは、NCBIヒトゲノムデータベースを含むがこれに限定されない。NCBIは、その配列データベースを検索する「blastn」等のBLASTプログラムを提供する。1つの実施態様では、NCBIヒトゲノムデータベースのBLAST検索を限定子の標的配列の明確なセグメント(例えば、最も長い明確なセグメント)を用いて行なう。当該限定子により表される遺伝子は、当該明確なセグメントに対する配列同一性が有意なものとして同定される。多くの場合、この同定された遺伝子は、当該明確なセグメントに対して少なくとも95%、96%、97%、98%、99%以上の配列同一性を有する。
【0079】
本明細書中において用いる表4A、表4B、表5Aおよび表5Bの限定子により表される遺伝子は、明確に記載しているものだけでなく、それら表には示していないがそれら表の限定子のPMプローブとハイブリダイズ可能なものも含む。それら遺伝子の全てをRCCまたは他の固形腫瘍の予後のための生物学的マーカーとして用いることができる。
【0080】
上記の解析ではCox比例ハザード回帰を用いて、臨床転帰の連続的尺度TTPおよびTTDと関連する8または16週でのRCC患者のPBMC中の転写レベルの(ベースラインレベルからの)変化を特定した。置換解析では、16週での変化とTTPおよびTTDの臨床転帰とが有意に関連し、8週でのPBMC転写変化とそれら臨床転帰には有意な関連性が少なかったことが示された。
【0081】
PBMC中の転写変化がCCI−779への曝露から「遅れる」ようであるとの知見は非常に興味深いが、その理由は、CCI−779療法後のPBMC中の転写変化が血中のCCI−779による直接的な転写変化ではなく腫瘍の変化に対する末梢血の循環細胞の反応を反映するという理論を裏付けるからである。この理論により、16週でのPBMC転写レベルの変化が臨床転帰とより有意に関連するという観察結果が説明できるが、これは、血中のCCI−779の定常状態レベルの達成と、腫瘍の変化に対するPBMCの反応との時間的なずれが存在し得るためである。よって、本発明により同定される転写産物を薬効に関する初期の薬理ゲノミクス指標として用いることができる。転写産物の大部分では、16週での臨床転帰との有意な関連性の方向は、8週と同一であったが有意性は少なく、8週でのPBMC中の転写パターンが同様の傾向を示すものの、着目する臨床転帰との有意な関連性は16週のものほどではなかったことを示唆していることに留意されたい。
【0082】
疾患進行と大きくマイナスに関連する上昇を示した転写産物(すなわち、16週でのさらなる発現の上昇がRCC患者のTTPがさらに短くなることと関連するPBMC転写産物)のうち、興味深い観察結果がいくつかあった。ジャンピング転座切断点がコードされた転写産物と相同な2つの個別の配列は、TTPが短い患者からのPBMCでは上昇した。また、疾患進行(表4B)とマイナスに関連する20個の例示的な転写産物のうちの3つが、真核生物翻訳開始および伸張に関与する因子をコードしていた。これら真核生物翻訳に関連する因子の同定は興味深いが、それは、mTOR経路の阻害によりCCI−779が哺乳動物翻訳を最終的に抑制するからである。
【0083】
ジャンピング転座切断点タンパク質JTBは、進行速度が早い患者からのPBMCプロフィールにおいて16週で大きく上昇した。正常なタンパク質は、保存性が高い膜トランスポータータンパク質をコードするが、これは、ジャンピング転座現象において、膜貫通ドメインが欠失した短縮タンパク質を生じる(Hatakeyamaら,ONCOGENE,18:2085−2090(1999))。この転写産物に対応する2つの個別の限定子(表4Bの41833_atおよび41834_g_at)は、16週での上昇が早期の疾患進行と有意に関連する20個の転写産物中で同定された。この知見により、これらの患者における全体的なゲノムの不安定性がPBMCの代用組織に存在し得ることが示唆されるが、これは、RCC患者のPBMCにおいて測定された発現レベルが血中で循環する転移性腎臓癌細胞から由来するあらゆる転写産物を反映する可能性が低いためである(Twineら,CANCER RES.,63:6069−6075(2003))。
【0084】
生存率に関しては、リボソームタンパク質をコードする多数の転写産物が生存期間が短い患者において上昇した。、リボソームタンパク質をコードする転写産物の発現レベルがリンパ球含有率と大きく関連することがいくつかの研究で分かった(データの明示なし)。リンパ球は、TTPが短い患者とTTPが長い患者とでは分布の仕方が異なるため(データの明示なし)、療法の約4ヶ月後の循環リンパ球での転写活性化ではRCC患者の全体的生存率を上手く予告できないことが分かる。よって、循環リンパ球反応を用いてRCC患者における不良予後を示すことができる。
【0085】
他の時間に関連する臨床イベントの前兆となる遺伝子も、プローブアレイとCox比例ハザードモデルを組み合わせて用いることにより同定することができる。抗癌治療中の固形腫瘍患者の末梢血細胞中におけるそれら遺伝子の発現レベルの変化は、患者転帰と統計学的に有意に関連する。
III. RCCまたは他の固形腫瘍の予後
本発明は、PBMC中の発現プロフィールの変化が固形腫瘍患者の臨床転帰と関連する予後遺伝子を特徴とする。これらの予後遺伝子は、RCCまたは他の固形腫瘍の予後のための代用マーカーとして用いることができる。CCI−779または他の抗癌剤の有効性の薬理ゲノミクス指標としても用いることができる。
【0086】
本発明により評価可能な臨床エンドポイントの例としては、死、疾患進行、または他の時間に関連するイベントが挙げられるがこれらに限定されない。これら臨床エンドポイントに関する適切な尺度は、TTP、TTD、または他の時間依存的な臨床的尺度を含む。任意の固形腫瘍または抗癌治療を本発明に従って評価することができる。
【0087】
1つの局面では、着目する患者の予後は、以下の行程を伴う:
当該患者の末梢血細胞(例えば、PBMC)中の1つ以上の予後遺伝子の発現レベルの変化を抗癌治療の開始後に検出すること;および
当該検出された変化を基準変化と比較すること。
予後遺伝子の各々は、抗癌治療の開始後には変化を加えた発現レベルを有し、着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける患者のPBMC中におけるこの変化の大きさが、それら患者の臨床転帰と関連づけられる。結果として、着目する患者において検出された変化は、当該患者の臨床転帰を予測する。
【0088】
着目する患者における遺伝子発現の変化を任意の基準点から測定することができ、同じ固形腫瘍を有する患者において当該時点から測定した発現レベルの変化は、適切な相関関係モデル(例えば、Coxモデル、または最近傍解析等のクラスベースの相関関係測定基準)によりそれら患者の臨床転帰と関連づけられる。多くの実施態様では、着目する患者における予後遺伝子の発現レベルの変化は、抗癌治療の開始後の所定の時点における着目する患者の末梢血中の遺伝子の発現レベルと予後遺伝子のベースライン発現レベルとの間の変化を測定することにより判定される。
【0089】
着目する患者における遺伝子発現の変化の判定に用いられる所定の時点は、その時点で測定された変化と置換解析による患者転帰との間に有意な関連性が存在するように選択することができる。置換解析では、観察された有意な検定の数がリスクがないという帰無仮説の下でどの程度の頻度で見つかるかを判定する。一例としては、所定の時点は、所定の信頼水準α(例えば、0.05、0.01、0.005以下)において、名目上有意な関連項目の数が観察された数と等しいかまたはそれを超える置換のパーセンテージが10%、5%、1%、0.5%以下となるように選択される。非限定的な例としては、所定の時点は、抗癌治療の開始後少なくとも16週である。抗癌治療の開始後約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15週等、16週未満の時点も用いることができる。
【0090】
多くの実施態様では、着目する患者の予後のために用いられる基準変化は、基準患者における遺伝子発現の変化である。基準患者は、当該着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ抗癌治療を受ける。基準患者は、Cox比例ハザードモデルまたは他の相関関係モデルで利用される「仮想」患者とすることもできる。着目する患者と同じまたは類似の手法を用いて基準変化を判定することができる。着目する患者における変化と基準変化との差は、基準患者に対する着目する患者の相対的な予後を示唆する。基準変化および着目する患者における変化は、同時または連続して判定することができる。
【0091】
1つの実施態様では、着目する患者および基準患者はともにRCCを有し、両者は同じ抗癌治療(例えば、CCI−779療法)を受ける。着目する患者および基準患者における遺伝子発現の変化は、治療開始後の所定の時点(例えば、16週)におけるそれぞれの患者の末梢血細胞中の1つ以上の予後遺伝子の発現レベルと予後遺伝子のベースライン発現レベルとの間の変化を測定することにより判定される。同じ抗癌治療を受けるRCC患者のPBMC中におけるこれら変化の大きさは、Cox比例ハザードモデルによりそれら患者の臨床転帰と関連づけられる。
【0092】
予後遺伝子が1より大きなハザード比を有する場合、基準患者と比較して着目する患者の末梢血細胞中の遺伝子の発現レベルの変化がより大きな場合、基準患者と比較して着目する患者の予後がより不良であることを示す。反対に、着目する患者における変化がより小さい場合には、基準患者と比較して着目する患者の予後がより良好なことを示す。
【0093】
予後遺伝子が1未満のハザード比を有する場合、基準患者と比較して着目する患者の末梢血細胞中の遺伝子の発現レベルの変化がより大きな場合、着目する患者の予後がより良好であることを示す。着目する患者における変化がより小さい場合には、着目する患者の予後がより不良であることを示す。
【0094】
この目的に適した予後遺伝子は、表4A、表4B、表5Aおよび表5Bに示すものを含むがこれらに限定されない。表4Aおよび表4Bから選択した遺伝子を用いた場合、着目する患者の相対的なTTPを評価することができる一方、表5Aおよび表5Bから選択した遺伝子を用いた場合には、着目する患者の相対的なTTDを評価することができる。
【0095】
他の予後遺伝子も用いることができる。多くの実施態様では、本発明において採用する各予後遺伝子は、抗癌治療(例えば、CCI−779療法)開始後におけるRCC患者のPBMC中の発現レベルの変化とそれら患者の臨床転帰の統計学的に有意な関連性を示す。多くの場合、この関連性のp−値は、わずか0.05、0.01、0.005、0.001、0.0005、0.0001以下である。予後遺伝子のハザード比は、わずか0.5、0.33、0.25、0.2、0.1以下とすることができる。このハザード比はまた、少なくとも2、3、4、5、10以上とすることもできる。
【0096】
他の多くの実施態様では、着目する患者の予後に用いる基準変化は、経験によってまたは実験によって決定された値を有する。着目する患者は、当該着目する患者における発現レベルの変化が経験によってまたは実験によって決定された値を上回るまたは下回る場合、予後が不良または良好であると見なされる。例えば、予後遺伝子が1未満の(または1よりも大きい)ハザード比を有する場合、着目する患者の末梢血細胞中の遺伝子の発現レベルのベースラインからの変化が経験によって決定された値を上回るという観察結果は、当該着目する患者の予後が良好(または不良)であることを予測する。
【0097】
1つの実施態様では、上記経験によってまたは実験によって決定された値は、抗癌治療開始後の所定の時点における基準患者の末梢血細胞(例えば、PBMC)中の予後遺伝子の発現レベルとベースライン発現レベルの間の平均的な変化を表す。この目的に適した平均化法は、演算手段、調和手段、絶対値の平均化、対数変換値の平均化、または加重平均を含むがこれらに限定されない。基準患者は、着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける。多くの場合、基準患者は、同様の予後(例えば、良好、普通、または不良の予後)を有する患者から構成される。
【0098】
本発明は、着目する患者の予後のために単変量または多変量Coxモデルの使用することを特徴とする。単変量Cox解析(例えば、式(5))は、1回の予測量における1単位の変化について、時間に関連するイベント(例えば、死または疾患進行)の相対的なリスクを提供する。多くの実施態様では、上記予測量は、抗癌治療開始後の固形腫瘍患者の末梢血細胞中の予後遺伝子の発現レベルの変化を表す。上述したように、発現レベルの変化が閾値を上回る患者がより大きなリスクを有し、発現レベルの変化が閾値を下回る患者はよりリスクが少ない場合、またはその反対の場合、遺伝子が不良(RR>1)または良好(RR<1)な予後の指標であるかに応じて、着目する患者を閾値により異なる予後群に区分する選択を行なうことができる。また、モデルフィッティングにより、ベースラインハザードH(t)または係数βを推測することにより、着目する患者の臨床転帰をより定量的に評価することができる。単変量Cox解析により同定される予後遺伝子は、着目する患者の予後のために単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0099】
多変量Coxモデル(例えば、式(1))では、線形予測量PIを着目する患者の予後のためのリスクインデックスとして用いることができる。多くの場合、多変量Coxモデルは、段階的に個々の遺伝子各々をモデルに入力して構築することができ、最初に入力された遺伝子は、有意な単変量p−値を有する遺伝子から予め選択され、その後の各行程で上記モデルへの入力のために選択された遺伝子は、データへのモデルフィッティングを最適に改良する遺伝子である。
【0100】
リスクインデックス値の分布は、リスクの高低を区別する適切な切点を判定するトレーニングセットで算出することができる。連続する切点を調べることが可能である。このリスクインデックス機能およびトレーニングセットで推測した高/低リスク切点を用いて、検定症例ごとのリスクインデックス値を計算し、それを用いて着目する患者をハイまたはローリスク群に割り振ることができる。
【0101】
多くの実施態様では、着目する患者の臨床転帰予測精度(すなわち、正確なおよび不正確な判定の総数に対する正確な判定の比)は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%以上である。臨床転帰予測の有効性は、感受性および特異性によって測定することもできる。多くの実施態様では、本発明で採用する予後遺伝子の感受性および特異性は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、95%以上である。さらに、末梢血に基づく予後を他の臨床証拠と組み合わせて最終的な臨床転帰予測の精度を改善することができる。
【0102】
種々の血液サンプルを用いて着目する患者または基準患者における遺伝子発現の変化を判定することができる。この目的に適した血液サンプルとしては、全血サンプルまたは濃縮PBMCを含むサンプルが挙げられるがこれらに限定されない。他の血液サンプルも用いることができ、患者転帰とそれら血液サンプル中の遺伝子発現の変化の間には統計学的に有意な関連性が存在する。
【0103】
着目する血液サンプル中の遺伝子発現レベルを検出するために多数の方法が利用可能である。例えば、遺伝子の発現レベルを当該遺伝子のRNA転写産物のレベルを測定することにより判定することができる。この目的に適した方法は、定量RT−PCT、ノーザンブロット、インサイチューハイブリダイゼーション、スロットブロティング、ヌクレアーゼ保護アッセイ、または核酸アレイ(ビーズアレイを含む)を含むがこれらに限定されない。遺伝子の発現レベルは、当該遺伝子によりコードされたポリペプチドのレベルを測定することによっても判定することができる。この目的に適した方法は、免疫アッセイ(ELISA、RIA、FACS、またはウエスタンブロット等)、2次元ゲル電気泳動、質量解析、またはタンパク質アレイを含むがこれらに限定されない。
【0104】
1つの局面では、予後遺伝子の発現レベルは、末梢血サンプル中の当該遺伝子のRNA転写レベルを測定することにより判定される。RNAは、種々の方法を用いて末梢血サンプルから単離することができる。例示的な方法は、グアニジンイソチオシアネート/酸性フェノール法、TRIZOL(登録商標)Reagent(Invitrogen)、またはMicro−FastTrack(登録商標)2.0もしくはFastTrack(登録商標)2.0mRNA Isolation Kits(Invitrogen)を含む。単離したRNAは、全RNAまたはmRNAのいずれかとすることができる。単離したRNAは、その後の検出または定量前にcDNAまたはcRNAに増幅することができる。この増幅は、特異的または非特異的なものとすることができる。適切な増幅方法は、逆転写酵素PCR(RT−PCR)、等温増幅、リガーゼ連鎖反応、およびQβレプリカーゼを含むがこれらに限定されない。
【0105】
1つの実施態様では、増幅プロトコルは逆転写酵素を用いる。単離したmRNAは、逆転写酵素、ならびにオリゴd(T)およびファージT7プロモーターをコードする配列からなるプライマーを用いてcDNAに逆転写することができる。このようにして作られたcDNAは一本鎖である。このcDNAの2番めの鎖は、DNAポリメラーゼとRNA分解酵素を組み合わせてDNA/RNAハイブリッドを分裂して合成される。二本鎖cDNAの合成後、T7RNAポリメラーゼを添加し、次いで、cRNAを二本鎖cDNAの2番目の鎖から転写する。増幅したcDNAまたはcRNAは、標識プローブへのハイブリダイゼーションにより検出または定量化することができる。cDNAまたはcRNAはまた、増幅処理中に標識した後に検出または定量化することもできる。
【0106】
他の実施態様では、着目する予後遺伝子のRNA転写レベルの検出または比較のために定量RT−PCR(TaqMan、ABI等)を用いる。定量RT−PCRは、cDNAへのRNAの逆転写(RT)の後に相対的な定量PCR(RT−PCR)を伴う。
【0107】
PCRでは、増幅した標的DNAの分子数が、ある試薬が限界に達するまで、その反応の周期毎に2に近似する因子分だけ増加する。その後、増幅率は、周期間に増幅した標的が増加しなくなるまで次第に減少する。周期数がX軸上にあり、増幅した標的DNAの濃度の対数がY軸上にあるグラフを描いた場合、描いた点をつなげることにより特徴的な形状をした曲線を形成することができる。第1の周期から始めた場合、線の勾配は正であり、一定している。これは、上記曲線の直線部と言われる。ある試薬が限界に達した後、上記線の勾配は低下し始め、最終的には0になる。この時、増幅した標的DNAの濃度は、ある固定値に次第に近づいていく。これは、上記曲線のプラトー部と言われる。
【0108】
PCRの直線部における標的DNAの濃度は、PCRが始まる前の標的の開始濃度に比例する。同数の周期を終え、直線範囲にあるPCR反応における標的DNAのPCR産物の濃度を判定することにより、元のDNA混合物における特異的標的配列の相対濃度を判定することができる。DNA混合物が異なる組織または細胞から単離されたRNAから合成されたcDNAである場合、標的配列が由来する特異的mRNAの相対存在量をそれぞれの組織または細胞について判定してもよい。PCR反応の直線範囲部分では、PCR産物の濃度と相対的なmRNA存在量とは正比例する傾向にある。
【0109】
上記曲線のプラトー部での標的DNAの最終濃度は、反応混合における試薬の効果により判定され、標的DNAの元の濃度とは無関係である。それゆえ、1つの実施態様では、増幅したPCR産物のサンプリングおよび数値化は、PCR反応がそれらの曲線の直線部にあるときに行なう。また、増幅可能なcDNAの相対濃度は、独立した基準に正規化することができるが、これは、内在するRNA種または外部から導入されたRNA種のいずれに基づいてもよい。特定のmRNA種の存在量はまた、サンプル中の全てのmRNA種の平均存在量と比較して判定してもよい。
【0110】
1つの実施態様では、PCR増幅は、標的とほぼ同量の内部PCR基準を用いる。この戦略は、PCR増幅産物が直線段階にある時にサンプリングする場合に効果的である。反応がプラトー段階に近づいているときにそれら産物をサンプリングする場合には、より少量の産物を比較的に過剰発現するようにしてもよい。差次的発現についてRNAサンプルを調べる場合のように、多くの異なるRNAサンプルについての相対存在量の比較は、RNAの相対存在量が実際よりも少なくなるように誤差を設けるように歪曲させてもよい。これは、内部基準が標的よりもはるかに多量である場合に改良することができる。内部基準が標的よりもはるかに多量であるときには、RNAサンプル間の直接的な直線比較を行なってもよい。
【0111】
臨床サンプルに固有の問題は、それらの量または質が多様であることである。この問題は、RT−PCRを、標的cDNAフラグメントより大きな増幅可能なcDNAフラグメントである内部基準であって、その内部基準をコードするmRNAの存在量が標的をコードするmRNAよりも概ね5〜100倍高い内部基準を用いた相対的な定量RT−PCRとして行なう場合に克服できる。このアッセイでは、それぞれのmRNA種の絶対的存在量ではなく、相対的存在量を測定する。
【0112】
他の実施態様では、相対的な定量RT−PCRにおいて、外部基準プロトコルを用いる。このプロトコルにより、PCR産物をそれらの増幅曲線の直線部においてサンプリングする。サンプリングに最適なPCR周期の数は、標的cDNAフラグメント毎に経験によって決定することができる。また、各種サンプルから単離された各RNA集団の逆転写酵素産物は、等濃度の増幅可能なcDNAについて正規化することができる。増幅曲線の直線範囲の経験的決定およびcDNA調合液の正規化は、単調で時間がかかる処理である一方、結果得られるRT−PCRアッセイは、特定の場合、内部基準を用いた相対的な定量RT−PCRで得られるものよりも優れている場合がある。
【0113】
さらに他の実施態様では、着目する予後遺伝子の発現プロフィールの検出および比較に核酸アレイ(ビーズアレイを含む)を用いる。核酸アレイは、市販のオリゴヌクレオチドまたはcDNAアレイとすることができる。それらは、本発明の予後遺伝子用の高濃度プローブを含む特殊なアレイとすることもできる。多くの例では、本発明の特殊アレイ上の全プローブの少なくとも15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%以上は、RCCまたは他の固形腫瘍予後遺伝子用のプローブである。これらのプローブは、ストリンジェンシーまたは核酸アレイハイブリダイゼーション条件下で対応する予後遺伝子のRNA転写産物またはそれらの補体とハイブリダイズすることが可能である。
【0114】
本明細書中において用いる「ストリンジェンシー条件」は、例えば、表6に示す条件G−Lと少なくとも同程度に厳しい。「高ストリンジェンシー条件」は、表6に示す条件A−Fと少なくとも同程度に厳しい。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション条件(ハイブリダイゼーション温度および緩衝液)下で約4時間行なった後、対応する洗浄条件(洗浄温度、および緩衝液)下で20分の洗浄を2回行なう。
【0115】
【表6−5】

:ハイブリッド長は、ハイブリダイズしているポリヌクレオチドのハイブリダイズした領域について予想されたものである。ポリヌクレオチドを配列が未知の標的ポリヌクレオチドとハイブリダイズさせる場合、ハイブリッド長は、ハイブリダイズしているポリヌクレオチドのものと仮定する。配列が既知のポリヌクレオチドをハイブリダイズさせる場合、ハイブリッド長は、当該ポリヌクレオチドの配列を整列させ、その1つまたは複数の最適な配列補体領域を同定することによって判定することができる。
【0116】
:SSPE(1xSSPEは、0.15MのNaCl、10mMのNaHPO、および1.25mMのEDTA、pH7.4である)は、ハイブリダイゼーションおよび洗浄緩衝液においてSSC(1xSSCは、0.15MのNaCl、15mMのクエン酸ナトリウム)の代わりに用いることができる。
【0117】
−T:長さが50塩基ペアと予想されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融解温度(T)よりも5〜10℃低い(ここで、Tは、下記の式に従って判定される)。長さが18塩基ペア未満のハイブリッドについては、T(℃)=2(Aの#+T塩基)+4(Gの#+C塩基)。長さが18〜49塩基ペアのハイブリッドについては、T℃=81.5+16.6(log10[Na])+0.41(%G+C)−(600/N)(ここで、Nは、ハイブリッド内の塩基数であり、[Na]は、ハイブリダイゼーション緩衝液(1xSSCについての[Na]=0.165M)中のナトリウムイオンのモル濃度である)。
【0118】
一例としては、本発明の核酸アレイは、少なくとも2、5、10以上の異なるプローブを含む。これらプローブの各々は、ストリンジェンシー条件または核酸アレイハイブリダイゼーション条件下で本発明のそれぞれ異なる予後遺伝子(例えば、表4A、表4B、表5Aおよび表5Bから選択された遺伝子)とハイブリダイゼーションが可能である。同じ予後遺伝子について複数のプローブを用いることができる。核酸アレイ上のプローブ密度は任意の範囲とすることができる。
【0119】
本発明の予後遺伝子のためのプローブは、DNA、RNA、PNA、またはそれらの変形態様とすることができる。各プローブのヌクレオチド残基は、天然残基(デオキシアデ二ル酸、デオキシシチジル酸、デオキシグアニル酸、デオキシチミジル酸、アデニル酸、シチジル酸、グアニル酸、およびウリジル酸)、または所望の塩基ペアの関係を形成可能な合成により作られた類似物のいずれかとすることができる。それら類似物の例としては、アザおよびデアザピリミジン類似物、アザおよびデアザプリン類似物、および他の複素環塩基類似物であって、上記プリンおよびピリミジン環の炭素および窒素原子の1つ以上が酸素、硫黄、セレン、およびリン等のヘテロ原子により置換されたものが挙げられるがこれらに限定されない。同様に、プローブのポリヌクレオチド骨格は、(5’〜3’結合等による)天然のもの、または修飾されたものとすることができる。例えば、ヌクレオチド単位は、結合によりハイブリダイゼーションが干渉されない限り、5’〜2’結合等、非典型的な結合を介して接続することができる。他の場合には、リン酸ジエステル結合ではなく構成塩基がペプチド結合により繋がれるペプチド核酸を用いることができる。
【0120】
予後遺伝子のためのプローブは、核酸アレイ上の不連続部位に安定装着することができる。「安定装着」とは、ハイブリダイゼーションおよび信号検出時に、プローブが、装着した不連続部位に対する位置を維持することを意味する。核酸アレイ上の各不連続部位の位置は、既知であるか、または判定可能とすることができる。当該分野で公知の任意の方法を用いて本発明の核酸アレイを作ることができる。
【0121】
他の実施態様では、ヌクレアーゼ保護アッセイを用いて末梢血サンプル中のRNA転写レベルを定量化する。異なるタイプのヌクレアーゼ保護アッセイが多く存在する。それらヌクレアーゼ保護アッセイに共通する特徴は、定量化すべきRNAを有するアンチセンス核酸のハイブリダイゼーションを伴うことである。次いで、結果得られる合成二本鎖分子が、二本鎖分子よりも一本鎖核酸をより効率的に消化するヌクレアーゼにより消化される。消化されなかったアンチセンス核酸の量は、定量化すべき標的RNA種の量の尺度である。適切なヌクレアーゼ保護アッセイの例としては、Ambion,Inc.(Austin,Texas)により提供されるRNアーゼ保護アッセイが挙げられる。
【0122】
本発明の予後遺伝子用のハイブリダイゼーションプローブまたは増幅プライマーは、当該分野で公知の任意の方法を用いて調製することができる。遺伝子位置がまだ判定されていない、または同一性がESTまたはmRNAデータのみに基づく予後遺伝子については、それら遺伝子用のプローブ/プライマーを対応する限定子の標的配列、または対応するESTまたはmRNA配列から得ることができる。
【0123】
1つの実施態様では、予後遺伝子用のプローブ/プライマーは、他の予後遺伝子の配列から大きく逸脱している。これは、NCBIのEntrezデータベース等のヒトゲノム配列データベースで潜在的なプローブ/プライマー配列を確認することにより行なうことができる。この目的に適したアルゴリズムの1つは、BLASTアルゴリズムである。このアルゴリズムは、まず、データベース配列中の同じ長さの語と並べた際に、所与の正の閾値スコアTと一致するかまたはそれを満足する問い合わせ配列中の長さが短い語Wを同定することにより高スコア配列ペア(HSP)を特定することを伴う。Tを近接する語のスコア閾値と呼ぶ。最初の近接する語のヒットは、検索を開始して、それらを含むより長いHSPを見つけるための種子として作用する。次いで、語のヒットを、各配列に沿った両方向に伸張し、累積配列スコアを増加させる。累積スコアは、ヌクレオチド配列については、パラメータM(一致する残基ペアに対する報酬スコア;常に>0)およびN(一致しない残基に対するペナルティスコア;常に<0)を用いて算出される。BLASTアルゴリズムパラメータW、T、およびXにより、配列の感受性および速度が判定される。当業者には理解されるように、これらのパラメータは、異なる目的に応じて調節することができる。
【0124】
他の局面では、本発明の予後遺伝子の発現レベルは、予後遺伝子によりコードされるポリペプチドのレベルを測定することにより判定される。この目的に適した方法は、ELISA、RIA、FACS、ドットブロット、ウエスタンブロット、免疫組織化学、および抗体に基づく放射性イメージング等の免疫アッセイを含むがこれらに限定されない。また、高性能タンパク質配列決定、2次元SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、質量解析、またはタンパク質アレイを用いることができる。
【0125】
1つの実施態様では、標的タンパク質のレベルを検出するためにELISAを用いる。例示的なELISAでは、標的タンパク質に結合可能な抗体を、ポリスチレンまたはポリ塩化ビニルマイクロタイタープレート中の井戸等、タンパク質親和性を示す選択された表面に固定する。次いで、検定すべきサンプルをそれら井戸に添加する。結合および洗浄により非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原を検出することができる。検出は、標的タンパク質に特異的であり、検出可能な標識と結合した第2の抗体を添加することにより行なうことができる。また、第2の抗体を添加した後、第2の抗体に対する性合親和性を有する第3の抗体を検出可能な標識に結合させた状態で添加することによっても検出を行なうことができる。マイクロタイタープレートに添加する前に、サンプル中の細胞を溶解または抽出し、標的タンパク質を干渉する可能性がある物質から分けることができる。
【0126】
他の例示的なELISAでは、標的タンパク質を含有する疑いのあるサンプルを井戸表面に固定し、抗体と接触させる。性合および洗浄により非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原を検出する。最初の抗体が検出可能な標識と結合する場合、免疫複合体は直接検出可能である。免疫複合体はまた、第1の抗体に対する性合親和性を有する第2の抗体を、検出可能な標識に結合した状態で用いて検出することもできる。
【0127】
他の例示的なELISAでは、検出において抗体競合の使用を伴う。このELISAでは、標的タンパク質を井戸表面に固定する。標識抗体を井戸に添加して、標的タンパク質との結合を可能にし、それらの標識により検出する。次いで、未知のサンプル中の標的タンパク質の量を、被覆した井戸でインキュベートする前またはその途中にサンプルと標識抗体を混合することにより判定する。未知のサンプル中の標的タンパク質の存在により、井戸との性合に利用可能な抗体の量を低減させることによって最終信号を低減させる。
【0128】
異なるELISAフォーマットには、コーティング、インキュベーションもしくは結合、洗浄による非特異的に結合した種の除去、および結合した免疫複合体の検出等、共通する特徴がある。例えば、プレートを抗原または抗体のいずれかでコーティングする際、プレートの井戸を上記抗原または抗体の溶液で一晩または所定の時間インキュベートすることができる。次いで、プレートの井戸を洗浄し、吸着が不完全な材料を除去する。次いで、井戸表面の利用可能な残りの部分を、検定サンプルと抗原的に中性の非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらの非特異的タンパク質の例としては、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、および粉乳溶液が挙げられる。コーティングにより、固定化表面上の非特異的吸着部位の遮断を可能にすることで、抗血清の表面への非特異的性合により生じるバックグラウンドを低減する。
【0129】
ELISAでは、二次または三次検出手段を用いることができる。タンパク質または抗体の井戸に対する性合、非反応性物質でのコーティングによるバックグラウンドの低減、洗浄による非結合物質の除去の後、固定化表面を免疫複合体(抗原/抗体)形成に効果的な条件下で検定する調節または臨床または生体サンプルと接触させる。これらの条件は、例えば、抗原および抗体をBSA、ウシガンマグロブリン(BGG)およびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tween等の溶液で希釈すること、および抗体および抗原を室温で約1〜4時間または4℃で一晩インキュベートすることを含む。免疫複合体の検出は、標識二次結合リガンドもしくは抗体、または標識三次抗体もしくは第3の結合リガンドとともに二次結合リガンドまたは抗体を用いることによって容易になる。
【0130】
ELISAにおける全てのインキュベーション工程の後、非複合体物質を除去するように、接触した表面を洗浄することができる。例えば、上記表面は、PB/Tween、またはホウ酸塩緩衝液等の溶液で洗浄してもよい。検定サンプルと元々結合していた物質の特異的免疫複合体の形成、およびそれに続く洗浄の後、上記免疫複合体の量の存在を判定することができる。
【0131】
検出手段を準備するために、第2のまたは第3の抗体に検出を可能にする関連標識を持たせることができる。1つの実施態様では、標識は、適切な発色性基質を用いたインキュベーション時に着色を生じる酵素である。よって、例えば、第1のまたは第2の免疫複合体をウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリ性フォスファターゼまたは過酸化水素ペルオキシダーゼ共役抗体と接触させ、所与の時間、さらなる免疫複合体形成の発達を助長する条件下で(例えば、PBS−Tween等のPBS含有溶液中において2時間、室温でインキュベーションを行なう)インキュベートさせてもよい。
【0132】
標識抗体を用いたインキュベーション、およびその後の洗浄による非結合物質の除去の後、例えば、酵素標識がペルオキシダーゼの場合、尿素およびブロモクレゾールパープルまたは2、2’−アジド−ジ−(3−エチル)−ベンツチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS)およびH等の発色性基質を用いたインキュベーションにより標識の量を定量化することができる。例えば、分光光度計を用いて発色の程度を測定することにより、定量を行なうことができる。
【0133】
ポリペプチドレベルの検出に適した他の方法は、RIA(放射線免疫アッセイ)である。例示的なRIAは、限られた量の抗体との結合に関する放射線標識ポリペプチドと非標識ポリペプチド間の競合に基づく。適切な放射線標識は、I125を含むがこれに限定されない。1つの実施態様では、固定濃度のI125標識ポリペプチドを、当該ポリペプチドに特異的な抗体を連続して希釈してインキュベートする。非標識ポリペプチドをその系に添加すると、抗体に結合するI125−ポリペプチドの量が減少する。それゆえ、抗体結合I125−ポリペプチドの量を非標識ポリペプチドの濃度の関数として表す基準曲線を構築することができる。この基準曲線から、未知のサンプル中のポリペプチドの濃度を判定することができる。RIA行なうためのプロトコルは当該分野では周知である。
【0134】
本発明に適切な抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、Fab発現ライブラリーにより作られた1つまたは複数のFabフラグメントを含むがこれらに限定されない。中和抗体(すなわち、二量体形成を阻害するもの)も用いることができる。これらの抗体を調製する方法は当該分野では周知である。1つの実施態様では、本発明の抗体を、少なくとも10−1、10−1、10−1、10−1以上の結合親和性を有する対応予後遺伝子産物または他の所望の抗原と結合させることができる。
【0135】
本発明の抗体は、1つ以上の検出可能な部位を用いて標識し、抗体−抗原複合体の検出を可能にすることができる。検出可能な部位は、分光学的手段、酵素的手段、光化学的手段、生化学的手段、生体電子工学的手段、免疫化学的手段、電気的手段、光学的手段または化学的手段によって検出可能な組成物を含むようにすることができる。上記検出可能な部位は、放射線同位体、化学発光化合物、標識結合タンパク質、重金属原子、蛍光マーカーおよび染料等の分光学マーカー、磁気標識、結合酵素、質量解析タグ、スピン標識、電子移動ドナーおよびアクセプタ等を含むがこれらに限定されない。
【0136】
本発明の抗体をプローブとして用いて、予後遺伝子の発現プロフィールの検出のためのタンパク質アレイを構築することができる。タンパク質アレイまたはバイオチップを作るための方法は、当該分野で周知である。多くの実施態様では、本発明のタンパク質アレイ上のプローブの要部は、予後遺伝子産物に特異的な抗体である。例えば、タンパク質アレイ上の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%以上のプローブを予後遺伝子産物に特異的な抗体とすることができる。
【0137】
さらに他の局面では、予後遺伝子の発現レベルは、それら遺伝子の生物学的機能または活性を測定することにより判定される。予後遺伝子の生物学的機能または活性が既知の場合、適切なインビトロまたはインビボアッセイを発達させてこの機能または活性を評価することができる。これらのアッセイは、予後遺伝子の発現レベルを評価するために次に用いることができる
本発明で用いる遺伝子発現レベルは、絶対的レベル、正規化レベル、または相対的レベルとすることができる。適切な正規化手順は、通常の核酸アレイ解析で用いられるもの、またはHillら,GENOME BIOL,2:research0055.1−0055.13(2001)に記載のものを含むがこれらに限定されない。一例としては、上記発現レベルは、平均値が0で、標準偏差が1となるように正規化される。他の例では、上記発現レベルは、内部または外部対照群に基づいて正規化される。さらに他の例では、上記発現レベルは、血液サンプル中の存在量が既知の1つ以上の対照転写産物に対して正規化される。多くの実施態様では、着目する患者および基準患者における遺伝子発現の変化の評価に用いられる上記発現レベルは、同じまたは類似の手法を用いて判定される。
【0138】
本発明は、のRCCまたは他の固形腫瘍予後に有用な電子システムも特徴とする。それらのシステムは、着目する固形腫瘍患者の遺伝子発現の変化および基準発現変化を受信または計算する入力またはコンピュータデバイスを含む。基準発現変化はまた、データベースまたは他の媒体に格納することもでき、本発明の電子システムにより取り出すこともできる。着目する患者における遺伝子発現の変化と基準発現変化との比較を、例えば、プロセッサまたはコンピュータにより電子的に行なうことができる。多くの実施態様では、上記システムは、他のソース(例えば、インターネットサーバー)から、Coxモデル、k−最近傍解析、または加重投票アルゴリズム等、1つ以上のプログラムをダウンロードすることも含むかまたは行なうことができる。それらのプログラムを用いて着目する患者における遺伝子発現の変化と基準変化とを比較するか、または固形腫瘍患者における遺伝子発現の変化とそれら患者の臨床転帰を関連づけることができる。一例としては、本発明の電子システムは、核酸アレイに接続して、アレイから生成された発現データを受信または処理する。
【0139】
さらに他の局面では、本発明は、RCCまたは他の固形腫瘍の予後に有用なキットを提供する。各キットは、RCCまたは固形腫瘍予後遺伝子(例えば、表4A、表4B、表5Aまたは表5Bから選択された遺伝子)用の少なくとも1つのプローブを含むかまたは本質的にそれらから構成される。キットの使用を容易にする試薬または緩衝液も含むことができる。本発明では、ハイブリダイゼーションプローブ、増幅プライマー、抗体、または他の高親和性結合剤等、任意のタイプのプローブを用いることができる。
【0140】
1つの実施態様では、本発明のキットは、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10以上のポリヌクレオチドプローブまたはプライマーを含むかまたは本質的にそれらから構成される。各プローブ/プライマーは、ストリンジェンシーまたは核酸アレイハイブリダイゼーション条件下で、表4A、表4B、表5Aまたは表5Bから選択されたもの等、異なる固形腫瘍予後遺伝子とハイブリダイズすることができる。本明細書中において用いるポリヌクレオチドは、所与の遺伝子のRNA転写産物、またはその補体とハイブリダイズすることができる場合、当該遺伝子とハイブリダイズすることができる。
【0141】
他の実施態様では、本発明のキットは、各々が表4A、表4B、表5Aまたは表5Bから選択されるような異なる固形腫瘍予後遺伝子によりコードされたポリペプチドと結合可能な1つ以上の抗体を含むかまたは本質的にそれらから構成される。
【0142】
本発明において用いるプローブは、標識していても標識していなくてもよい。標識プローブは、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、生体電子工学的手段、免疫化学的手段、電気的手段、光学的手段、化学的手段、または他の適切な手段により検出可能とすることができる。例示的なプローブの標識部位は、放射線同位体、化学発光化合物、標識結合タンパク質、重金属原子、蛍光マーカーおよび染料等の分光学マーカー、磁気標識、結合酵素、質量解析タグ、スピン標識、電子移動ドナーおよびアクセプタ等を含む。
【0143】
本発明のキットはまた、緩衝液を含む容器またはレポーター手段を有するようにすることもできる。また、上記キットは、正または負の調節を行なうための試薬を含むようにすることができる。1つの実施態様では、本発明において用いるプローブは、1つ以上の基質支持部に安定装着することができる。核酸ハイブリダイゼーションまたは免疫アッセイを当該基質支持部上において直接行なうことができる。この目的に適切な基質支持部は、ガラス、シリカ、セラミック、ナイロン、石英ウェーハ、ゲル、金属、紙、ビーズ、チューブ、ファイバー、フィルム、膜、カラムマトリックス、またはマイクロタイタープレート井戸を含むがこれらに限定されない。多くの実施態様では、本発明のキット中の全プローブの少なくとも5%、10%、20%、30%、40%、50%以上は、固形腫瘍予後遺伝子用のプローブである。
【0144】
他の局面では、本発明は、ロジスティック回帰、ANOVA(分散解析)、ANCOVA(共分散解析)、MANOVA(多変量分散解析)、または他の相関関係もしくは統計学的方法を用いて着目する患者における固形腫瘍の予後または治療の有効性の判定を行なう方法を特徴とする。これらの方法は、
抗癌治療開始後の特定の時点における着目する患者の末梢血細胞中の少なくとも1つの固形腫瘍予後遺伝子の発現レベルを検出する工程と、
当該発現レベルを相関関係または統計学的モデルに入力して着目する患者の予後または治療の有効性を判定する工程と、を含む。
相関関係または統計学的モデルは、着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける患者のPBMC中の固形腫瘍予後遺伝子の発現レベルとそれら患者の臨床転帰との統計学的に有意な関連性を規定する。多くの例では、相関関係または統計学的モデルは、着目する患者の臨床転帰の定性的予測(例えば、良好なまたは不良な予後)を行なうことができる。この目的に適した統計学的モデルまたは解析は、ロジスティック回帰またはクラスベースの関連性測定基準を含むがこれらに限定されない。他の多くの例では、相関関係または統計学的モデルは、着目する患者の臨床転帰の定量的予測(例えば、推測TTDまたはTTP)を行なうことができる。この目的に適した統計学的モデルまたは解析は、種々の回帰、ANOVAまたはANCOVAモデルを含むがこれらに限定されない。
【0145】
上記相関関係/統計学的モデルを構築するためまたは着目する患者の予後を行なうために用いられる発現レベルは、ベースラインまたは対応する患者の治療の開始後の他の特定の基準時点から測定された相対的な発現レベルとすることができる。絶対的発現レベルも相関関係/統計学的モデルの構築または着目する患者の予後に用いることができる。後者の場合、ベースラインまたは他の特定の基準時点の発現レベルを予測モデルにおいて共変量として用いることができる。
IV. 抗癌治療の有効性の評価
本発明は、RCCまたは他の固形腫瘍の個別治療を可能にする。抗癌治療中に着目する患者の予後を行なうことができる。良好な予後は、治療を継続可能なことを示し、不良な予後は、治療を中止して、異なるアプローチを用いて患者を治療すべきことを示唆する。この解析は、患者が不要な副作用を回避する手助けとなる。また、安全性を改良し、治療に関するリスクに対する利点の比率を増大することもできる。
【0146】
1つの実施態様では、CCI−779療法中に着目するRCC患者の予後を行なう。この目的に適した予後遺伝子、表4A、表4B、表5Aおよび表5Bに示したものを含むがこれらに限定されない。これら着目する患者の末梢血細胞中の予後遺伝子の発現レベルの変化は、RT−PCR、ELISA、核酸アレイ、タンパク質アレイ、タンパク質機能アッセイまたは他の適切な手段用いることによって判定することができる。これらの変化は、基準変化と比較して着目する患者の予後を判定する。良好な予後は、着目するRCC患者のCCI−779治療の適性を示す。
【0147】
本発明によってあらゆるタイプの抗癌治療を評価することができる。1つの非限定的な例では、抗癌治療は薬物療法である。抗癌剤の例としては、インターフェロンまたはインターロイキン2等のサイトカイン、およびCCI−779、AN−238、ビンブラスチン、フロクスウリジン、5−フルオロウラシル、またはタモキシフェン等の化学療法薬剤が挙げられるがこれらに限定されない。AN238は、ソマトスタチン(SST)キャリアーオクタペプチドに結合した2−ピロールイノドキソルブシン(2−pyrrolinodoxorubicin)を有する細胞毒性薬である。AN238は、RCC腫瘍細胞表面上のSSTレセプターを標的とすることができる。化学療法薬剤は、個別または他の薬剤、サイトカイン、または療法と組み合わせて用いることができる。また、モノクローナル抗体、抗血管新生薬、または抗成長因子薬剤を用いてRCCまたは他の固形腫瘍を処置することもできる。
【0148】
抗癌治療は、外科手術とすることもできる。RCCに対する適切な外科手術の選択は、根治的腎摘出術、腎部分切除術、転移の除去、動脈塞栓術、腹腔鏡腎摘出術、冷凍アブレーション、および腎保存手術を含むがこれらに限定されない。さらに、放射線療法、遺伝子療法、免疫療法、養子免疫療法、または他の従来的または実験的療法を用いて固形腫瘍を処置することができる。
【0149】
上述した実施態様および以下の実施例は例示目的であり限定するためのものではないことを理解されたい。本発明の範囲内での各種変更および修正は、本記載内容より当業者には明らかとなるであろう。
【実施例】
【0150】
V. 実施例
実施例1. PBMCおよびRNAの純化
CCI−779療法の開始前、および療法の8または16週にRCC患者から全血を集めた。血液サンプルをCPT Cell Preparation Vacutainer Tubes(Becton Dickinson)内に取り込んだ。各サンプルについて、標的体積は8mlであった。製造者のプロトコル(Becton Dickinson)に従ってFicollグラディエント法によりPBMCを単離した。サンプルがRNA処理されるまでPBMCペレットを−80℃で保存した。
【0151】
QIAシュレッダーおよびQiagen Rneasy(登録商標)ミニキットを用いてRNA純化を行なった。0.1%β−メルカプトエタノールを含有するRLT溶解緩衝液(Qiagen,Valencia,CA,USA)中でサンプルを採取し、RNeasyミニキット(Qiagen,Valencia,CA,USA)を用いて全RNA単離処理をした。96井戸プレートUVリーダーを用いてA260/280をモニタリングし、溶離したRNAを定量化した。2%アガロースゲル中でのアガロースゲル電気泳動によりRNA特性(18Sおよび28Sに対するバンド)を確認した。Affymetrix遺伝子チップハイブリダイゼーション処理まで、残りのRNAを−80℃で保存した。
実施例2. RNA増幅およびGeneChipハイブリダイゼーションプローブの生成
Lockhartら,NATURE BIOTECHNOLOGY,14:1675−1680(1996)に記載の手順を改変して、オリゴヌクレオチドアレイの標識標的を調製した。5’末端にT7DNAポリメラーゼプロモーターを含有するオリゴ−d(T)24プライマーを用いて、2マイクログラムの全RNAをcDNAに変換した。T7DNAポリメラーゼキット(Ambion,Woodland,TX,USA)ならびにビオチン化CTPおよびUTP(Enzo,Farmingdale,NY,USA)を用いてcDNAをインビトロ転写用テンプレートとして用いた。最終体積40mL中の40MMのTris−acetate pH8.0、100MMのKOAc、30MMのMgOAcにおいて、35分間、94℃で標識cRNAをフラグメント化した。100mg/mLのニシン精子DNAおよび50mg/mLのアセチル化BSAを含むIX MES緩衝液において、10マイクログラムの標識標的を希釈した。アレイを相互に正規化し、オリゴヌクレオチドアレイの感受性を評価するために、Hillら,GENOME BIOL.,2:research0055.1−0055.13(2001)に記載の各ハイブリダイゼーション反応に11個のバクテリア遺伝子のインビトロ合成された転写産物を含めた。それら転写産物の存在量は、総転写産物中の対照転写産物数に関しては、1:300000(3ppm)〜1:1000(1000ppm)の範囲であった。これら対照転写産物からの信号反応によって判定すると、アレイの検出感受性は、100万個につき2.33〜4.5コピーであった。
【0152】
標識配列を99℃で5分間、次いで45℃で5分間変性させ、多数のヒト遺伝子(HG−U95AまたはHG−U133A、Affymetrix,Santa Clara,CA,USA)からなるオリゴヌクレオチドアレイにハイブリダイズさせた。アレイを16時間、45℃で60rpmの回転速度でハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションの後、ハイブリダイゼーション混合物を除去、保存し、アレイを洗浄してから、製造者の指示に従ってGeneChip Fluidics Station 400を用いてStreptavidin R−phycoerythrin(Molecular Probes)で染色し、Hewlett Packard GeneArray Scannerでスキャンした。これらのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件は、「核酸アレイハイブリダイゼーション条件」と総称する。
実施例3. 遺伝子発現度数の判定および発現データの処理
Affymetrix MicroArray Suiteソフトウェア(MAS)を用いてアレイ画像を処理し、アレイスキャナーにより作成された未加工のアレイ画像データ(.dat)ファイルをMASのデスクトップバージョンを用いてプローブに設定されたレベル強度のサマリー(.celファイル)にまで圧縮した。遺伝子発現データシステム(GEDS)をグラフィカルユーザインターフェースとして用いることで、ユーザは、サンプルの説明をExpression Profiling Information and Knowledge System(EPIKS)Oracleデータベースに加え、正確な.celファイルとその説明とを関連づける。次いで、上記データベース処理によりMASソフトウェアを呼び出してプローブセットサマリー値を作成する;各プローブセットごとにAffymetrix Average DifferenceアルゴリズムおよびAffymetrix Absolute Detection測定(不在、存在、または不十分)を用いてプローブ強度を各メッセージごとに集計する。MASはまた、トリム平均を100の値にスケーリングすることによって第1パス正規化にも用いられる。上記データベース処理はまた、一連のチップ特性調節測定基準を計算し、全ての未加工データおよび特性調節計算をデータベースに保存する。
【0153】
MASソフトウェア(Affymetrix)を用いて未加工の蛍光強度値に関するデータ解析および不在/存在の判定を行なった。MASソフトウェアを用いてバックグラウンドに対する遺伝子の信号強度に基づいてサンプル中で転写産物が検出されたか否かを評価して「存在」判定を計算した。各ハイブリダイゼーション溶液に入れられた既知の存在量の11の対照群のcRNAについての平均差を用いて包括的較正曲線を生成する調整した度数正規化方法(Hillら,GENOME BIOL,2:research0055.1−0055.13(2001))を用いて、各転写産物に対する「平均差」値を「度数」値に正規化した。次いで、この較正を用いて全ての転写の平均差値を、1:300,000(〜100万分の3(ppm))〜1:1000(1000ppm)の範囲の100万分の1の単位で示す度数予想値に変換した。正規化により、各チップに関する平均差値を、各ハイブリダイゼーション溶液に入れられた既知の存在量の11個の対照転写産物の平均差値で較正される較正曲線上に示す。多くの場合、正規化方法は、トリム平均正規化を利用し、「度数」値およびチップ別感受性予想値を算出するために用いる全てのチップの統合基準曲線をフィッティングする。結果得られる測定を調整度数と呼び、全アレイ間で正常化を行なう。
【0154】
関連する情報を有さなかった遺伝子は、データ比較から除外された。疾患がないPBMCとRCCPBMCを比較すると、これは、2つのデータ整理フィルタを用いて行なった:1)全遺伝子チップ状にないと判定された遺伝子(MASでのAffymetrix Absolute Detection測定による判定)をデータセットから除去した;2)全遺伝子チップ上で<10ppmの正規化度数で発現された遺伝子をデータセットから除去し、解析セットに残された遺伝子が少なくとも10ppmの度数で少なくとも1回は確実に検出されるようにした。これらのフィルタリング工程後の解析のプローブセットの総数は、5,469個であった。多変量予測解析については、低レベルのまたはほとんど検出されない転写産物が同定される可能性を低減させるために、より厳しいデータ整理フィルタを用いた(25%のP、平均度数>5ppm)。
実施例4. ピアソンに基づく異常値サンプルの評価
異常値サンプルを同定するために、Splus(バージョン5.1)を用いてサンプルの全ペアのうちペアワイズのピアソン相関係数(r2)の二乗を計算した。特に、この計算は、発現値のG×S行列から開始したが、Gは、プローブセットの総数であり、Sはサンプルの総数である。この行列におけるサンプル間のr2の値を計算した。その結果、r2の値の対称S×S行列となった。この行列では、当該解析における各サンプルと他の全てのサンプルとの類似性を測定する。これらサンプルの全てが共通するプロトコルに従って採取したヒトPBMCに由来するものであるため、相関係数が一般に高度の類似性を示す(すなわち、転写配列の大部分の発現レベルが解析された全サンプルにおけるものと同様である)ことが予想される。サンプルの類似性を要約するために、研究する各サンプルおよび他のサンプルの全MAS信号のr2値の平均を計算し、ヒートマップにし、迅速な可視化を容易にした。平均r2の値が1に近づくほど、サンプルは解析内の他のサンプルとより類似する。低平均r2値は、サンプルの遺伝子発現プロフィールが、全体的遺伝子発現パターンに関して「異常値」であることを示す。異常値の状態は、サンプルが解析内の他のサンプルから有意に逸脱している遺伝子発現プロフィールを有するか、またはサンプルの技術的品質が劣っていることを示し得る。
実施例5. 臨床研究プロトコルサマリー
フェーズIIの研究に参加する疾患を有さないボランティア20人(女性12人および男性8人)および腎臓細胞癌患者45人(女性18人および男性27人)の末梢血からPBMCを単離した。臨床研究の薬理ゲノミクス部分に対する同意を受領し、プロジェクトは、酸化する臨床部の地域のInstitutional Review Boardsにより承認された。各部位でRCC腫瘍を通常(明細胞)癌(24)、顆粒細胞癌(1)、乳頭癌(3)、または混合サブタイプ(7)に分類した。10個の腫瘍については特定の分類はなされなかった。ベースラインPBMC発現プロフィールの薬理ゲノミクス解析についてのインフォームドコンセントにサインした患者45人にもMotzerの多変量評価方法によりスコアが付けられた。この研究に登録した同意患者のうち、6人はリスク評価が好ましく、17人の患者は普通のリスクスコアを有し、22人の患者は、この研究における不良予後に分類された。
【0155】
試験期間中週に1回、3つの投与量(25mg、75mg、250mg)のうちの1つの投与量でCCI−779を30分のIV注射により投与し、進行性RCCの患者を治療した。臨床病期、および残留する疾患、再発した疾患または転移した疾患の大きさを、治療前およびCCI−779療法の開始後8週間ごとに記録した。腫瘍の大きさをセンチメートルで測定し、最大半径とその垂直半径との積を報告した。測定可能な疾患は、CTスキャン、X線、または触診において両方の半径が>1.0cmである2次元的に測定可能なあらゆる病変と定義した。腫瘍反応(完全奏効、部分奏効、微弱奏効、安定疾患または進行性疾患)を測定可能な全病変の垂直半径の積の合計により判定した。当該薬理ゲノミクス研究で利用した2つの主要な臨床転帰尺度は、無憎悪生存期間(TTP)および生存率または生存期間(TTD)であった。TTPは、最初のCCI−779治療の日付から進行性疾患測定の初日までの期間と定義するか、または最終日を進行無しと知られるように打ち切りした。生存率またはTTDは、最初のCCI−779治療の日付から死亡時までの期間と定義するか、または生存が確認された最後の日で打ち切りにした。
実施例6. 統計学的解析
Eisenら,PROC NATL ACAD SCI U.S.A.,95:14863−14868(1998)の手順を用いて、管理されていない遺伝子および/またはアレイの階層クラスタリングをそれらの発現プロフィールの類似性に基づいて行なった。これらの解析では、非ストリンジェンシーデータ整理フィルタを満たす転写産物のみを用いた(少なくとも1つの存在判定、10ppm以上の少なくとも1つのデータセット間の度数)。発現データを対数変換し、平均値0および分散1を有するように標準化し、階層クラスター結果を、正規化していない相関類似性測定基準(uncentered correlation similarity metric)を用いて平均結合クラスタリングで生成した。
【0156】
全期間CCI−779の治療を受けた全患者(n=21)において、時間とともに変化する転写産物を同定するために、標準的なANOVAを用いて各種時点(ベースライン、8週、16週)における平均的な倍数変化を計算した。
【0157】
臨床転帰と関連する変化を示す転写産物を同定するために、Spearmanの順位相関関係を用いて、臨床転帰(TTPおよびTTD)の連続的尺度と遺伝子発現におけるベースラインから8または16週までの変化の関連性を各転写産物毎に算出した。Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、ベースラインから8または16週までの遺伝子発現データの変化も臨床転帰(TTP、TTD)の打ち切り尺度を用いて評価した。
【0158】
Kaplan Meier解析を用いて各種患者群の生存率データを評価し、WilCoxon検定を用いて有意性を確立した。
【0159】
上記説明において本発明の例示および説明を行なったが、包括的なものではなく本発明を開示内容のみに限定するものではない。上記の教示に沿った修正および変更が可能であるか、または本発明を実施することによりそれらに想到することができる。よって、本発明の範囲は、請求の範囲およびその等価物によって規定されることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着目する患者の固形腫瘍の予後のためまたは治療の有効性の評価のための方法であって、該方法は、
前記着目する患者の末梢血細胞中の少なくとも1つの遺伝子の発現レベルの変化を、該患者の治療中に検出する工程であって、該着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける患者における該変化は、相関関係モデルにより該患者の臨床転帰と関連づけられる、工程と、
前記着目する患者の前記変化と基準変化とを比較する工程であって、該着目する患者の該変化と該基準変化との差は、該着目する患者の前記固形腫瘍の予後または前記治療の有効性を示す、工程と、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記相関関係モデルはCox比例ハザードモデルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固形腫瘍はRCCであり、前記治療はCCI−779療法を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記着目する患者における前記変化は、該着目する患者の末梢血細胞中の前記少なくとも1つの遺伝子の該患者の治療開始後の所定の時点での発現レベルと、該着目する患者の末梢血細胞中の該少なくとも1つの遺伝子のベースライン発現レベルとの間の変化であり、前記基準変化は、基準患者の末梢血細胞中の該少なくとも1つの遺伝子の該基準患者の治療開始後の所定の時点での発現レベルと、該基準患者の末梢血細胞中の該少なくとも1つの遺伝子のベースライン発現レベルとの間の変化であり、該基準患者は前記固形腫瘍を有する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の時点は、前記治療の開始後約16週である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記末梢血細胞は全血細胞を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記末梢血細胞は濃縮PBMCを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの遺伝子は1未満のハザード比を有し、前記着目する患者における前記基準変化と比較してより大きな値の変化は、該着目する患者が前記基準患者よりも良好な予後を有することを示唆し、該着目する患者における該基準変化と比較してより小さな値の変化は、該着目する患者が該基準患者よりも不良な予後を有することを示唆する、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つの遺伝子は1より大きなハザード比を有し、前記着目する患者における前記基準変化と比較してより大きな値の変化は、該着目する患者が前記基準患者よりも不良な予後を有することを示唆し、該着目する患者における該基準変化と比較してより小さな値の変化は、該着目する患者が該基準患者よりも良好な予後を有することを示唆する、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つの遺伝子の各々は表4A、表4B、表5Aまたは表5Bから選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項11】
前記基準変化は、経験によってまたは実験によって決定された値を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記固形腫瘍はRCCであり、前記治療はCCI−779療法を含み、前記着目する患者における変化は、該着目する患者の末梢血細胞中の前記少なくとも1つの遺伝子の該患者の治療開始後の所定の時点での発現レベルと、該患者の末梢血細胞中の該少なくとも1つの遺伝子のベースライン発現レベルとの間の変化である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記所定の時点は、前記治療の開始後約16週である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの遺伝子の各々は表4A、表4B、表5Aまたは表5Bから選択され、前記末梢血細胞は全血細胞または濃縮PBMCを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの遺伝子は1未満のハザード比を有し、前記着目する患者における前記基準変化と比較してより大きな値の変化は、該着目する患者の良好な予後を示唆し、該着目する患者における該基準変化と比較してより小さな値の変化は、該着目する患者の不良な予後を示唆する、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの遺伝子は1より大きなハザード比を有し、前記着目する患者における前記基準変化と比較してより大きな値の変化は、該着目する患者の不良な予後を示唆し、該着目する患者における該基準変化と比較してより小さな値の変化は、該着目する患者の良好な予後を示唆する、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
前記基準変化は、基準患者の末梢血細胞中の前記少なくとも1つの遺伝子の該基準患者の前記治療開始後の前記所定の時点での発現レベルと、該基準患者の末梢血細胞中の該少なくとも1つの遺伝子の対応するベースライン発現レベルとの間の平均的な変化であり、該基準患者の各々は前記固形腫瘍を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項18】
着目する患者における固形腫瘍の予後のためまたは治療の有効性の評価のための方法であって、該方法は、
前記着目する患者の末梢血細胞中の2つ以上の遺伝子の発現プロフィールの変化を該患者の治療中に検出する工程であって、該着目する患者と同じ固形腫瘍を有し、同じ治療を受ける患者における該変化は、相関関係モデルにより該患者の臨床転帰と関連づけられる、工程と、
前記着目する患者の前記変化と基準変化とを比較する工程であって、該着目する患者の該変化と該基準変化との差は、該着目する患者の前記固形腫瘍の前記予後または前記治療の有効性を示す、工程と、
を包含する、方法。
【請求項19】
着目する患者における固形腫瘍の予後のためまたは治療の有効性の評価のためのキットであって、該キットは、表4A、表4B、表5Aまたは表5Bから選択された遺伝子の発現産物用の1つ以上のプローブを含む、キット。
【請求項20】
固形腫瘍の予後のためのマーカーを同定する方法であって、該方法は、
患者の末梢血細胞中の遺伝子発現プロフィールの変化を該患者の抗癌治療中に検出する工程であって、該患者の各々は前記固形腫瘍を有する、工程と、
前記患者における変化と該患者の臨床転帰とが相関関係モデルにより関連づけられる遺伝子を同定する工程と、
を包含する、方法。

【公表番号】特表2008−529554(P2008−529554A)
【公表日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−556346(P2007−556346)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【国際出願番号】PCT/US2006/005772
【国際公開番号】WO2006/089185
【国際公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【出願人】(502161704)ワイス (51)
【Fターム(参考)】