説明

固形腫瘍の治療に貢献するための方法、組成物及び製品

【課題】固形のがん性腫瘍の治療に貢献するための方法、組成物及び製品を提供する。該方法、組成物及び製品は、ヒトを含む哺乳動物の固形腫瘍への化学療法薬の送達を増強するためにエンドセリンB(ET)受容体アゴニストを利用できる。
【解決手段】固形腫瘍の治療に貢献する方法を含み、該方法は、その必要ある哺乳動物にET受容体アゴニストと化学療法薬を静脈内投与することを含む。前記ET受容体アゴニストは固形腫瘍への血液供給を選択的に増大することによって固形腫瘍への化学療法薬の送達を増大する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドセリンアゴニストと化学療法薬の投与を通じて哺乳動物における乳房腫瘍のような固形腫瘍の治療に貢献するための方法、組成物及び製品に関する。
【背景技術】
【0002】
乳がんの発生率はこの10年間実質的に増加し、米国における40〜49歳の女性の死
因の単独首位となっている。乳がんを含む固形腫瘍の成功的治療は、腫瘍細胞の分子生物学の理解が進み、可能性ある多数の治療薬を利用できるようになったにもかかわらず、医学的目標を未だ満たしていない。
【0003】
がん治療における一つの問題は、可能性ある多様な化学療法薬の有効量が、これらの薬剤の正常組織に及ぼす非選択的高毒性の作用のために制限されていることである。その結果、多くの患者は治療の利益を得ることなく化学療法の副作用に苦しむことになる。例えば、化学療法薬のパクリタキセルは、細胞増殖を阻害し、腫瘍細胞のアポトーシスを誘導する。しかしながら、パクリタキセルの臨床的有用性は、過敏、好中球減少及び末梢神経障害といったその用量制限毒性によって妨害されている。従って、より特異的で低毒性のがん療法の開発が求められている。
【0004】
化学療法薬を腫瘍に標的化送達できれば、化学療法薬の利益を増強しつつ全身毒性は最小限化するという利益をもたらすはずである。そのような標的化送達は、化学療法薬の必要量を低減し、ひいてはこれらの薬剤の許容しがたい有害作用を潜在的に削減するのにも役立つと思われる。化学療法薬の標的化送達を達成するための一つの可能な方法は、腫瘍の血管系に特有の特徴を利用することである。
【0005】
大きさ数ミリメートル以上の腫瘍は一定の栄養補給を必要とするので、それら自身の血管床及び血流を発達させる。Folkman,Cancer Res.,46:467 (1986)。これらの発達中の血管からの常時栄養補給がなければ、腫瘍は低酸素状態になり、その後死滅する。既存の血管から新規血管系を動員することを“血管新生”と呼ぶ。
【0006】
血管新生の間、腫瘍の血管は正常の血管系とは実質的に異なる発達をし、異なる性質を有する。単層の上皮細胞がまず急造される腫瘍血管である。これらの新規形成された腫瘍血管は平滑筋層又は神経分布を持たない。腫瘍は、あらゆる自己調節機能を備えた成熟血管も取り込む。Mattssonら,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.129(1979);Reinhold,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.115(1979);Warren,Tumor Blood
Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.26(1979)。
血管緊張(血管が拡張又は収縮する程度)は、H、K、Ca2+、pO、pCO及び一酸化窒素(NO)を含む多くの内因性因子、並びにエンドセリン(ET−1)のようなその他の調節物質によって支配されている。Luscherら,The endothelium:modulator of cardiovascular function,CRC Press,Boca Raton,pg.61(1990)。ET−1は血管緊張の調節に著しく寄与しており(Yanagisawaら,Nature,
332:411(1988))、研究者らは乳がんを含む固形腫瘍にET−1及びET受容体の発現が増加していることを示している。Alanenら,Histopathology,36:161(2000);Nelsonら,Cancer Res,56:663(1996);Karら,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995);Pagottoら,J Clin Invest,96:2017(1995);Yamashitaら,Cancer Res,52:4046(1992);Yamashitaら,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991)。さらに、ET受容体の刺激は、腫瘍血管の血管拡張を通じて腫瘍への血液供給の増大を起こす。本発明は、この事実を利用することによってET受容体アゴニストを用いて腫瘍への血流を選択的に増やし、化学療法薬の標的化送達を増強する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Folkman,Cancer Res.,46:467 (1986)
【非特許文献2】Mattssonら,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.129(1979)
【非特許文献3】Reinhold,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.115(1979)
【非特許文献4】Warren,Tumor Blood Circulation,CRC Press,Boca Raton,pg.26(1979)
【非特許文献5】Luscherら,The endothelium:modulator of cardiovascular function,CRC Press,Boca Raton,pg.61(1990)
【非特許文献6】Yanagisawaら,Nature,332:411(1988)
【非特許文献7】Alanenら,Histopathology,36:161(2000)
【非特許文献8】Nelsonら,Cancer Res,56:663(1996)
【非特許文献9】Karら,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995)
【非特許文献10】Pagottoら,J Clin Invest,96:2017(1995)
【非特許文献11】Yamashitaら,Cancer Res,52:4046(1992)
【非特許文献12】Yamashitaら,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991)
【発明の概要】
【0008】
本発明は、固形腫瘍の治療に貢献するために、その必要ある個人へのエンドセリンアゴニストと化学療法薬の投与に向けられている。特に、腫瘍は、ET受容体(結合されると血管拡張を起こす)の数の増加を含む独特の血管系を有している。ET受容体は血管拡張因子なので、化学療法薬と組み合わせたET受容体アゴニストは、乳がんに見られるような固形腫瘍の治療に有用である。ET受容体アゴニストは化学療法薬をより効果的に腫瘍に送達できるので、治療の増強をもたらす。
【0009】
具体的には、本発明の一態様は、固形腫瘍の治療に貢献する方法を含み、該方法は、その必要ある哺乳動物にETアゴニストと化学療法薬を静脈内投与することを含む。前記ETアゴニストは固形腫瘍への血液供給を選択的に増大することによって固形腫瘍への化学療法薬の送達を増大する。
【0010】
本発明の方法の別の態様において、化学療法薬の薬物動態はET受容体アゴニストによって影響されない。
本発明の方法の別の態様において、ET受容体アゴニストは化学療法薬の効能を増強する。
【0011】
本発明の方法の別の態様において、ETアゴニストは、ET−1、ET−2、ET−3、BQ3020、IRL1620(N−suc−[Glu,Ala11,15]ET−1(8−21))、サラホトキシン56c、[Ala1,3,11,15]ET−1、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。本発明の方法の別の態様において、ETアゴニストはIRL1620である。
【0012】
本発明の方法の別の態様において、化学療法薬は、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。本発明の方法の別の態様において化学療法薬はパクリタキセルである。
【0013】
本発明の方法の別の態様において、固形腫瘍は、卵巣腫瘍、結腸腫瘍、カポジ肉腫、乳房腫瘍、黒色腫、前立腺腫瘍、髄膜腫、肝腫瘍、及び乳房葉状腫瘍からなる群から選ばれる。本発明の方法の別の態様において、固形腫瘍は乳房腫瘍である。
【0014】
本発明の方法の別の態様において、ETアゴニストと化学療法薬は、ETアゴニストと化学療法薬を単一組成物として投与する;ETアゴニストと化学療法薬を別の組成物として投与する;ETアゴニストと化学療法薬を順に投与し、ETアゴニストを化学療法薬より先に投与する;そしてETアゴニストと化学療法薬を順に投与し、化学療
法薬をETアゴニストより先に投与する;からなる群から選ばれる戦略に従って投与される。
【0015】
本発明の方法の別の態様において、哺乳動物はヒトである。
本発明は製品も含む。一態様において、製品は、(a)ETアゴニストを含む包装組成物;及び(b)哺乳動物における固形腫瘍の治療に貢献するためのETアゴニストの静脈内投与についての取扱説明を提供する添付文書;及び(c)(a)ETアゴニストと(b)添付文書のための容器を含む。
【0016】
本発明の製品の別の態様において、製品は、(d)化学療法薬をさらに含み、取扱説明はETアゴニストと化学療法薬の投与について規定し、容器(c)は(a)ETアゴニスト、(b)添付文書及び(d)化学療法薬のためのものである。
【0017】
本発明の製品の別の態様において、取扱説明に従った場合、ETアゴニストは固形腫瘍への血液供給を選択的に増大し、ひいては固形腫瘍への化学療法薬の送達が増大する。
本発明の製品の別の態様において、化学療法薬の薬物動態はET受容体アゴニストによって影響されない。
【0018】
本発明の製品の別の態様において、ET受容体アゴニストは化学療法薬の効能を増強する。
本発明の製品の別の態様において、ETアゴニストは、ET−1、ET−2、ET−3、BQ3020、IRL1620(N−suc−[Glu,Ala11,15]ET−1(8−21))、サラホトキシン56c、[Ala1,3,11,15]ET−1、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。本発明の製品の別の態様においてETアゴニストはIRL1620である。
本発明の製品の別の態様において、化学療法薬は、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、及びそれらの混合物からなる群から選ばれる。本発明の製品の別の態様において化学療法薬はパクリタキセルである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】パクリタキセルが誘導する腫瘍潅流における変化に及ぼすIRL1620の影響を示す図である。
【図2】図2Aは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの全身血行動態に及ぼすET−1の影響を示す図である。図2Bは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの全身血行動態に及ぼすET−1の影響を示す図である。図2Cは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの全身血行動態に及ぼすET−1の影響を示す図である。図2Dは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの全身血行動態に及ぼすET−1の影響を示す図である。図2Eは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの全身血行動態に及ぼすET−1の影響を示す図である。
【図3】図3Aは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における血流と局所血管抵抗に及ぼすET−1の影響を示す図である。図3Bは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における血流と局所血管抵抗に及ぼすET−1の影響を示す図である。
【図4】図4Aは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における潅流、移動血球の濃度(CMBC)、及び血球速度に及ぼすET−1の影響を示す図である。図4Bは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における潅流、移動血球の濃度(CMBC)、及び血球速度に及ぼすET−1の影響を示す図である。図4Cは、無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における潅流、移動血球の濃度(CMBC)、及び血球速度に及ぼすET−1の影響を示す図である。
【図5】図5Aは、ET−1が誘導する無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における血液潅流、CMBC、及び血球速度の変化に及ぼすBQ788の影響を示す図である。図5Bは、ET−1が誘導する無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における血液潅流、CMBC、及び血球速度の変化に及ぼすBQ788の影響を示す図である。図5Cは、ET−1が誘導する無がんラット及び乳房腫瘍ラットの乳房組織における血液潅流、CMBC、及び血球速度の変化に及ぼすBQ788の影響を示す図である。
【図6】乳房腫瘍ラットの腫瘍及び他の主要器官におけるパクリタキセル蓄積に及ぼすIRL1620の影響を示す図である。
【図7】HPLCで測定した正常及び腫瘍ラットにおけるパクリタキセルの血漿中薬物動態分析に及ぼすビヒクル又はIRL1620の影響を示す図である。
【図8】液体シンチレーション計数で測定した[H]パクリタキセルの血漿中薬物動態に及ぼすビヒクル又はIRL1620の影響を示す図である。
【図9】液体シンチレーション計数で測定した[H]パクリタキセルの血漿中薬物動態に及ぼすビヒクル又はIRL1620の影響を示す図である。
【図10】図10Aは、レーザードップラー流量計で測定した乳房腫瘍潅流に及ぼすIRL1620の影響を示す図である。図10Bは、レーザードップラー流量計で測定した乳房腫瘍潅流に及ぼすIRL1620の影響を示す図である。
【図11】乳房腫瘍ラットの腫瘍及び主要器官における[H]パクリタキセル濃度に及ぼすIRL1620投与の時間依存性効果を示す図である。
【図12】処置開始時と比較した乳房腫瘍ラットの体重における相違率を示す図である。
【図13】乳房腫瘍ラットの腫瘍体積に及ぼすIRL1620投与の影響を示す図である。そして
【図14】腫瘍の進行、停滞及び退行に及ぼすIRL1620投与の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
詳細な説明
1.定義
本明細書中で使用される一部の用語は以下のように説明される。
“治療”又は“〜の治療に貢献する”という用語は、固形腫瘍の予防、進行又は成長の遅延、縮小、又は排除を含む。従って、これらの用語は、必要に応じて、医学療法的及び/又は予防的投与の両方を含む。
【0021】
“容器”という用語は、医薬品の保管、輸送、投薬、及び/又は取扱に適切な任意の入れ物(レセプタクル)及び閉包(クロージャー)を意味する。
“添付文書”という用語は、医薬品に添付された情報を意味し、該情報は、製品の投与法の説明と共に、医師、薬剤師、及び患者が製品の使用に関して詳細な情報を得た上での決断を可能にするのに必要な安全性及び効能データを提供する。包装品の添付文書は一般に医薬品の“ラベル”とみなされている。添付文書は紙面又はCDロムなど(これらに限定されない)の多くの形態を取ることができる。
【0022】
“プロドラッグ”という用語は、インビボで例えば加水分解によって本発明に有用な化合物に迅速に変換する化合物を意味する。プロドラッグに関する詳細な解説は、Higuchiら,Prodrugs as Novel Delivery Systems,
Vol.14,of the A.C.S.D.Symposium Series,and in Roche(ed.),Bioreversible Carriers in Drug Design,American Pharmaceutical Association and Pergamon Press,1987に提供されている。
【0023】
ほとんどの化学療法薬はがん細胞を破壊するために標的化される細胞毒性を有しているが、その過程で体の正常の生理系にもかなりの損傷を与える。従って、化学療法薬を固形腫瘍に選択的に送達するのは大きな利点があり、がん治療におけるこれらの悪影響を回避するのに役立つ。
【0024】
腫瘍血管の血管構造は正常血管のそれと異なる。Carmeliet & Jain,Nature,407:249(2000)。従って、腫瘍の血管反応性も正常組織のそれと異なる。例えば、一酸化窒素供与体、ニコチンアミド及びブラジキニンアゴニストの投与は腫瘍への血流を変調する。Jordanら,Int J Radiat Oncol Biol Phys,48:565(2000);Fukumuraら,Am J Pathol,150:713(1997);Hirstら,Br J Radiol,67:795(1994)。
【0025】
エンドセリンは血流を変調する血管作用物質で、正常乳房組織と比べて乳がん組織中に高濃度に存在する(具体的には、エンドセリンは正常乳房組織中に約0.12pg/mgであるのに対して乳がん組織中には約12pg/mgの量で存在しうる)。Kojimaら,Surg Oncol,4(6):309(1995);Kurbelら,Med Hypotheses,52(4):329(1999);Patelら,Mol Cell Endocrinol,126(2):143(1997);Yamashitaら,Cancer Res,52(14):4046(1992);Yamashitaら,Res Commun Chem Pathol Pharmacol,74(3):363(1991)。エンドセリンは21個のアミノ酸を有する環状ペプチドのファミリーで、哺乳動物ではET−1、ET−2及びET−3の3個のアイソフォームを含む。Inoueら,Proc Natl Acad Sci USA 86:2863(1989);Yanagisawaら,Nature,332:411(1988)。エンドセリンは、二つの異なる細胞表面受容体ET及びETに結合することによって作用する。ET受容体は3個のペプチドアイソタイプと同じ親和性で結合する。これに対し、ET受容体は、他のアイソフォームよりもET−1に高親和性で結合する。どちらの受容体もGタンパク質共役型受容体系に属し、増殖因子、血管作用性ポリペプチド、神経伝達物質及びホルモンなどの様々な刺激からの生物学的応答を媒介する。Masaki,J
Cardiovasc Pharmacol,35:S3(2000);Gulati,Preface.Adv Drug Deliv Rev,40:129(2000);Gulatiら,Am J Physiol,273:H827(1997);Levin,N Engl J Med,333:356(1995)。本発明の焦点であるET受容体は、内皮細胞(EC)及び血管平滑筋細胞(VSMC)の両方に存在し、正常乳房組織と比較した場合に乳がん組織(ヒトの浸潤性乳がん組織中でも腺管及び小葉乳がん組織中でも)で増加している。Wulfingら,Oncol Rep,11:791(2004);Wulfingら,Clin Cancer Res,9:4125(2003);Alanenら,Histopathology,36(2):161(2000)。エンドセリンはET受容体に作用して血管拡張を起こし、乳房腫瘍組織への血流を増大する。EC上に多く見られるET受容体は、プロスタサイクリン及び一酸化窒素のような因子の放出によって血管拡張を起こす。de Nucciら,Proc Natl Acad Sci USA,85:9797(1988)。ET−1はET受容体を刺激することによって腫瘍への血流増加を起こすので、ET受容体アゴニストを使
えば腫瘍への血液供給を選択的に増加させることができる。こうして化学療法薬の標的化送達とその結果の効能が増大する。
【0026】
ET受容体は、例えば、卵巣がん、筋線維芽細胞、カポジ肉腫と腫瘍内血管、乳がん及び黒色腫(これらに限定されない)中に示されている。Bagnatoら,Am J Pathol,158:841(2001);Alanenら,Histopathology,36(2):161(2000);Bagnatoら,Cancer Res,59:720(1999);Kikuchiら,Biochem Biophys Res Comm,219:734(1996)。従って、化学療法薬と組み合わせたET受容体アゴニストの投与は、卵巣がん、結腸がん、カポジ肉腫、乳がん、及び黒色腫(これらに限定されない)を含む固形腫瘍の治療に貢献するのに使用できる。
【0027】
本発明に従って有用なETアゴニストは、ET−1、ET−2、ET−3、BQ3020、IRL1620(N−suc−[Glu,Ala11,15]ET−1(8−21))、サラホトキシン56c、[Ala1,3,11,15]ET−1、及びそれらの混合物などであるが、これらに限定されない。[Ala1,3,11,15]ET−1はET−1の線形類似体で、Cys残基がAlaで置換されることによってジスルフィドブリッジが除去されている。Saekiら,Biochem Biophys Res Commun,179:286(1991)。BQ3020及びIRL1620は、ET−1の切断(トランケート)線形合成類似体で、最も広く使用されている選択的合成アゴニストである。IRL1620は線形ET−類似体で、その構造はET−1のカルボキシ末端を基にしており、ET受容体に対して120,000倍の選択性を有する。Okada & Nishikibe,Cardiovasc Drug Rev,20:53(2002);Douglasら, Br J Pharmacol,114:1529(1995)。IRL1620は高選択的及び強力なETアゴニストで、ETB2サブタイプよりもETB1受容体サブタイプに対する選択性の証拠が報告されている。Brooksら,J Cardiovasc Pharmacol,26 Suppl 3:S322(1995)。
【0028】
本発明に従って有用な化学療法薬は、例えば、アルキル化薬、代謝拮抗物質、ホルモン及びそのアンタゴニスト、放射性同位体、抗体、並びに天然産物、そしてそれらの混合物などであるが、これらに限定されない。例えば、ETアゴニストは、ドキソルビシン及びその他のアントラサイクリン類似体のような抗生物質、シクロホスファミド(これに限定されない)のようなナイトロジェンマスタード、5−フルオロウラシル(これに限定されない)のようなピリミジン類似体、シスプラチン、ヒドロキシウレア、並びにその天然及び合成誘導体などと共に投与することができる。別の例として、腫瘍がゴナドトロピン依存性及びゴナドトロピン非依存性細胞を含む乳腺腺がんのような混合腫瘍の場合、ETアゴニストはロイプロリド又はゴセレリン(LH−RHの合成ペプチド類似体)(これらに限定されない)と組み合わせて投与できる。本発明と共に使用できる追加の非制限的化学療法薬の例は、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、インターフェロン(アルファ、ベータ及び/又はガンマ)、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、並びにそれらの治療上有効な類似体及び誘導体などである。
【0029】
本発明の一態様において、エンドセリンアゴニストは化学療法薬と組み合わせて固形腫瘍の治療に貢献するために使用される。本方法において、エンドセリンアゴニスト、とりわけETアゴニストは、ET受容体に富む腫瘍への血流を増大する。従って、ETアゴニストは、化学療法薬のためにより選択的な標的を提供し、薬剤の化学療法的効果を改良する。
【0030】
エンドセリンアゴニストはET受容体を刺激して腫瘍血管を拡張し、それによって腫瘍への血流とその結果の化学療法薬の送達の増加をもたらすことは理論化されているが、ここではそれに頼らない。エンドセリンアゴニストによって起こる腫瘍の血液潅流の増加は組織の酸素化も増大させる。酸素化の改良は化学療法薬の治療作用を増強できる。エンドセリンは分裂誘発性も有しうる。エンドセリンの分裂促進作用は、一緒に投与された場合、化学療法薬の作用を増大するのにも役立ちうる。エンドセリンアゴニストの分裂促進作用は、化学療法薬の分裂細胞への取込みを改良することによって化学療法薬の作用を高めることができる。従って化学療法薬の効能が高まる。
【0031】
がんの治療において化学療法は手術の補助として指示されることが多い。補助療法としての化学療法の目標は、原発腫瘍がコントロールされている場合の再発リスクの削減及び無病生存率の増大である。化学療法はがんの補助治療として、該疾患が転移性の場合に利用されることが多い。従って、ETアゴニストは、固形腫瘍の治療において手術の前又は後に化学療法と組み合わせると特に有用である。
【実施例】
【0032】
実施例1.乳房腫瘍潅流に及ぼすIRL1620とパクリタキセルの影響
方法
正常及び乳房腫瘍ラットにおけるET−1の全身血行動態及び局所循環効果を調べるために以下の試験を実施した。
【0033】
一つの広く研究されている乳房腫瘍モデルは、化学誘導されたラット乳がん発生モデルである。van Zwieten,The rat as animal model in breast cancer research.Martinus Nijhoff Publishers,Boston,pg.206(1984);Daoら,J
Natl Cancer Inst,71:201(1983);Russoら,J Natl Cancer Inst,61:1439(1978).Hugginsら,Science,137(1962);Hugginsら,Proc Natl Acad Sci USA,45:1294(1959)。ラットに化学誘導された乳房腫瘍発生はヒトのがんを最も良く近似するモデルである。Russoら,Lab Invest,62:244(1990)。組織構造に関してラットの乳腺はヒト女性のそれに似ている。それは乳腺管及び乳腺胞を覆う上皮と、この器官の骨格となる結合組織である間質によって形成されている。これら二つのコンパートメントは胎児発育期及び成熟期を通して連続的に相互作用している。従って、この自発性実験モデルが、ヒトがんを最もよく近似するので本試験のモデルとして選ばれた。同上。
【0034】
化学誘導されたラットの乳がん発生は典型的には、7,12−ジメチルベンゼン(a)アントラセン(DMBA)又はN−メチルニトロソウレア(MNU)の投与によって達成される。Rogersら,Chemically induced mammary gland tumors in rats:modulation by dietary fat.Alan R. Liss,Inc.,New York 255(1996)。DMBA又はMNUによって誘導された腫瘍は異なる形態学的特徴を有している。特に、MNUによって誘導された腫瘍は乳房により限局し転移しにくい。Macejovaら,Endocr Regul,35:53(2001)。従って、MNUがラットに乳房腫瘍を特異的に誘導するための化学薬剤として選ばれることが多い。これらの乳房腫瘍は、線維腺腫及び乳頭腫で良性のことも、悪性のこともある。van Zwieten,The rat as animal model in breast cancer research.Martinus Nijhoff Publishers,Boston,pg.206(1984)。ラットは6対の乳腺を有し、1対は頸部、2対は胸部、1対は腹部、そして2対は鼠径部にある。同上;Astwoodら,Am J Anat,61(1937)。MNUで処置したバージンラットは腹部よりも胸部に多く
の腫瘍を発生する。Russoら,Lab Invest,57:112(1987)。
【0035】
方法
180〜200グラム(g)の雌のSprague Dawleyラット(Harlan Co.,ウィスコンシン州マジソン)を使用した。温度管理室(23±1℃)、湿度(50±10%)、人工光(06:00〜18:00)下で全動物を一つのケージに3匹ずつ収容した。動物には餌と水を自由に与えた。実験は動物を少なくとも4日間環境に慣らした後で実施した。
【0036】
N−メチルニトロソウレア(MNU)はAsh Stevens Inc.(ミシガン州デトロイト)から購入した。IRL1620とエンドセリン−1(ET−1)はAmerican Peptide Company Inc.(カリフォルニア州サニーベール)から入手した。ET−1を0.1%アルブミンに溶解した。
【0037】
MNU(50mg/kg)又は生理食塩水(1ml/kg)を雌のSprague Dawleyラットに腹腔内(i.p.)投与した。腫瘍が直径2〜4cmに達した後、血流実験を実施した。
【0038】
ラットをウレタン(1.5g/kg、i.p.)(Sigma Chemicals,ミズーリ州セントルイス)で麻酔し、薬物投与のため左大腿静脈にカニューレを挿入した(PE 50管、Clay Adams,ニュージャージー州パーシパニー)。
【0039】
動物を以下の群に分けた。
(i)正常ラットに生理食塩水注射、15分後にパクリタキセル(3mg/kg)(N=4);
(ii)正常ラットにIRL1620(3nmol/kg)注射、15分後にパクリタキセル(3mg/kg)(N=4);
(iii)腫瘍ラットに生理食塩水注射、15分後にパクリタキセル(3mg/kg)(
N=4);及び
(iv)腫瘍ラットにIRL1620(3nmol/kg)注射、15分後にパクリタキセル(3mg/kg)(N=4)。
【0040】
ラットの乳腺への血液潅流はレーザードップラー流量計を用いて測定した。Songら,Int J Radiat Oncol Biol Phys,18:903(1990);Songら,Int J Radiat Oncol Biol Phys,17:1041(1989)参照。この過程で動物の乳頭周辺を剃毛し、乳腺周辺の皮膚を切開した。標準モデルの光ファイバープローブを乳腺動脈に固定し、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed KB,スウェーデン、ストックホルム)に接続した。時定数を1.5秒にセットし、帯域幅を4KHzにセットした。データは分散分析(ANOVA)、次いでダンカン検定を用いて分析した。p<0.05の水準を有意とみなした。
【0041】
結果
正常ラットの乳房組織への血流に、生理食塩水又はIRL1620及びパクリタキセルの投与後、変化は観察されなかった。腫瘍組織中の血流はIRL1620注射後(36.3%、p<0.05)及びパクリタキセル投与後(51.9%、p<0.0−5)、ベースラインとの間に有意の差が観察された(図1参照)。
【0042】
実施例2.正常及び腫瘍ラットの全身血行動態及び乳房組織への血流に及ぼすET−1注入の影響
方法
MNU及び生理食塩水処置は腹腔内注射として試験の3ヶ月前に実施した。ラットは処置の4週間後から定期的に触診し始めた。腫瘍の直径が4〜8mmに達したら実験を開始した。
【0043】
ラットをウレタン(1.5g/kg、i.p.)(Sigma Chemicals,ミズーリ州セントルイス)で麻酔した。すべての術域を剃毛し、アルコール消毒綿で清拭した。薬物投与のため左大腿静脈にカニューレを挿入した(PE 50管、Clay Adams,ニュージャージー州パーシパニー)。左大腿動脈にもカニューレを挿入し(PE 50管)、回収ポンプ(Model 22,Harvard Apparatus,マサチューセッツ州サウスナティック)を用いて微小球試験の参照血液サンプルの回収に使用した。右大腿動脈にカニューレを挿入し(PE 50管)、Grass P7D ポリグラフ(Grass Instrument Co.,マサチューセッツ州クインシー,USA)上で血圧を記録するため、7PI前置増幅器を通してGould P23 ID圧力トランスデューサに接続した。心拍数(HR)は血圧信号で始動する7P4B Grassタコグラフ(Grass Instrument Co.,マサチューセッツ州クインシー)を通じて記録した。右頸動脈を露出し、PE 50管を総頸動脈から左心室に導入した。左心室内にカニューレがあるかどうかは、Statham P23 DC圧力トランスデューサ(Grass Instrument Co.,マサチューセッツ州クインシー)を用いてGrassポリグラフ上に血圧を記録することによって確認した。カニューレが左心室に到達している場合、拡張期血圧はゼロに降下する。血中pO、pCO、及びpHを一定に維持するため、そして血圧及びHRに対する呼吸の影響を回避するため、動物は齧歯類用人工呼吸器(Model 683,Harvard Apparatus Inc.,マサチューセッツ州サウスナティック)に接続された気管内カニューレの挿入によって定速人工呼吸の状態にした。
【0044】
ラットを最初に2群に分け、それぞれ以下の処置の一つを受けさせた。
(i)生理食塩水で処置されたラットに30分間ET−1(50ng/kg/分)注入(N=6);及び
(ii)MNU(50mg/kg、i.p.)で処置されたラットに30分間ET−1(50ng/kg/分)注入(N=6)。
【0045】
次に、ET−1注入によって誘導される、正常ラット及び乳房腫瘍ラットの全身血行動態及び乳房組織への血流における変化に対するET受容体の役割を評価するために以下の群について試験した。
【0046】
(i)生理食塩水処置ラットに、BQ788((N−シス2,6−ジメチルピペリジノカルボニル−L−ガンマ−メチル−ロイシル−D−1−メトキシカルボニルトリプトファニル−D−Nle);American Peptide Company Inc.(カリフォルニア州サニーベール)から入手、生理食塩水に0.5pmol/kgで溶解))を20分間注入、次いでET−1(50ng/kg/分)を30分間注入(N=5);
(ii)MNU(50mg/kg、i.p.)処置ラットに、BQ788(0.5pmol/kg)を20分間注入、次いでET−1(50ng/kg/分)を30分間注入(N=5)。
【0047】
全身血行動態と局所循環パラメータは、ベースライン、ET−1(50ng/kg/分)注入開始後30、60、及び120分の時点で測定した。ET−1の注入は30分間行われるので、30分のデータはET−1の効果を示し、60及び120分のデータはET−1効果の持続時間を示す。
【0048】
全身血行動態と局所血液循環は文献に記載の手順を用いて測定した。Gulatiら,J Lab Clin Med,126:559(1995);Gulatiら,Life Sci.,55:827(1994);Sharmaら,Artif Cells Blood Substit Immobil Biotechnol,22:593(1994)参照。各測定で、46Sc(スカンジウム)、113Sn(スズ)、141Ce(セリウム)、又は95Nb(ニオブ)で標識した約100,000個の微小球(直径15±1μm)(New England Nuclear Corporation,マサチューセッツ州ボストン,USA)の0.2ml生理食塩水中完全混合懸濁液を左心室に注射し、15秒間かけて0.3mlの生理食塩水で洗い流した。血流を計算するために、動脈血を右大腿動脈から0.5ml/分の速度で回収した。血液の回収は、微小球注射の約5〜10秒前に開始し、90秒間実施した。実験終了時、ペントバルビタールナトリウムを過剰投与して動物を犠死させた。全組織及び器官を切離し、重量測定し、バイアルに入れた。標準、血液サンプル、及び組織サンプル中の放射能を、同位体エネルギーを区別するプリセットウィンドウ付きPackard Minaxi Auto−Gamma 5000シリーズのガンマカウンター(Packard Instruments Co.,イリノイ州ダウナーズグローブ)でカウントした。下記のパラメータを計算した。(1)心拍出量(CO)((注射した放射能×動脈血の回収速度)/採取した動脈血中の放射能)、(2)1回拍出量(SV)(CO/HR)、(3)全末梢血管抵抗(TPR)(平均動脈圧(MAP)/CO)、(4)局所血流量((組織中の放射能×動脈血の回収速度)/採取した動脈血中の放射能)、及び(5)局所血管抵抗(MAP/局所血流量)。データは文献に記載のコンピュータプログラムを用いて計算した。Saxenaら,Comput Programs Biomed,12:63(1980)。
【0049】
ラットの乳腺への血液潅流はレーザードップラー流量計を用いて測定した。Songら,Int J Radiat Oncol Biol Phys,18:903(1990);Songら,Int J Radiat Oncol Biol Phys,17:1041(1989)参照。動物の乳頭周辺を剃毛した。乳腺周辺の皮膚を幅約6cm及び長さ約4cmの断片(lambeau)として切離した。標準モデルの光ファイバープローブ
を断片表面に当て、両面接着テープで組織に固定した。断片を金属ホルダーに入れ、動きを防止するためにテープで貼り付けた後、Periflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed KB,スウェーデン、ストックホルム)に接続した。時定数を1.5秒にセットし、帯域幅を4KHzにセットした。データは分散分析、次いでダンカン検定を用いて分析した。p<0.05の水準を有意とみなした。
【0050】
結果
正常(生理食塩水処置)ラットにおけるベースラインの全身血行動態のパラメータは、MAP:111.1±4.8mmHg;CO:268.6±17.6ml/分;SV:0.87±0.06ml;TPR:419.6±.24.37mmHg.分/ml;及びHR:312.5±20.2拍/分。正常ラットでは、MAPの有意の増加がET−1注入後30分時点(14.5%;p<0.05)、及び減少が120分時点(17.8%;p<0.05)で観察された。TPRは120分時点で増加した(49.2%;p<0.05)。COはET−1注入後60及び120分時点で減少した(それぞれ22.9%及び42.5%;p<0.05)。SVは60及び120分時点で減少した(それぞれ20.9%及び36%;p<0.05)。HRには有意の変化は観察されなかった(図2A〜2E)。
【0051】
腫瘍(MNU処置)ラットにおけるベースラインの全身血行動態のパラメータは正常ラットのそれと類似していた。腫瘍ラットでは、MAPの有意の増加がET−1注入後30分時点(19.1%;p<0.05)及び60分時点(15.3%;p<0.05)で観
察された。TRFはET−1の投与後30分時点(73.9%;p<0.05)、60分時点(39.7%;p<0.05)、及び120分時点(71.4%;p<0.05)で増加した。COは30、60及び120分時点で減少した(それぞれ29.4%、16.7%及び36.1%;p<0.05)。SVは30、60及び120分時点で有意に減少した(それぞれ31.1%、17.9%及び32.1%;p<0.05)。HRには変化は観察されなかった(図2A〜2E)。
【0052】
ET−1投与後、正常の生理食塩水処置ラットの乳房組織への血流に変化は観察されなかった。正常ラットの乳房組織では、60分時点で血管抵抗に有意の減少(18.61%;p<0.05)が観察された。これはET−1注入後30分のことである(図3A〜3B)。
【0053】
腫瘍(MNU処置)ラット及び正常(生理食塩水処置)ラットの乳房組織における血流及び局所血管抵抗の間に有意の差が観察された。正常ラットと比べた場合に腫瘍ラットの乳房組織への血流に有意の増加(153%;p<0.05)がET−1投与後60分時点で観察された。腫瘍ラットの血管抵抗は、正常ラットと比べて、ベースライン(102%;p<0.05)及びET−1投与後60分時点(147%;p<0.05)で有意に異なっていた(図3A〜3B)。
【0054】
図4A〜4Cは、腫瘍及び正常ラットの乳房組織における潅流、移動血球の濃度(CMBC)、及び赤血球(RBC)の速度の変化を示す。ET−1投与後正常ラットの乳房組織中の血液潅流は変化しなかった。ET−1投与後30分時点における腫瘍ラットの乳房組織中の潅流は、正常ラットと比べて有意に増加した(176%;p<0.05)。腫瘍ラットにおけるこの潅流の増加はET−1投与後60及び120分時点でベースラインに戻った。
【0055】
腫瘍ラットのCMBCは、ET−1投与後60分時点で正常ラットと比べて有意に増加した(54%;p<0.05)。CMBCはET−1投与後120分時点でベースラインに戻った。RBCの速度はET−1投与後30分時点で正常ラットと比べて有意に増加した(252%;p<0.05)。ET−1投与2時間(120分)後に腫瘍ラットのRBCの速度はベースラインに戻った(図4A〜4C)。
【0056】
図5A〜5Cは、それぞれ腫瘍及び正常ラットの血液潅流、CMBC、及びRBCの速度における、ET−1が誘導する変化に及ぼすBQ788の影響を示す。正常ラットの乳房組織中の血液潅流はBQ788投与又はET−1注入後も有意に変化しなかった。しかしながら、腫瘍ラットの乳房腫瘍組織中の潅流は、BQ788前処置ラットでET−1注入後30分時点(25.25.±.5.7%;p<0.05)及び60分時点(25.17.±.5.7%;p<0.05)で有意に減少した。BQ788による前処置は、腫瘍ラットでET−1によって誘導される潅流の増加を減弱した。BQ788前処置ラットではET−1投与後、腫瘍ラットと正常ラットの乳房組織中の潅流の間に差は観察されなかった。
【0057】
腫瘍ラットのベースラインCMBCは正常ラットの乳房組織のベースラインCMBCより有意に高かった(42.2%;p<0.05)。しかしながらBQ788注入後は腫瘍及び正常ラットのCMBC間に差は観察されなかった。さらにこの2群間にはRBCの速度の差も観察されなかった(図5A〜5C)。
【0058】
上記試験は、生理食塩水処置及びMNU処置腫瘍ラットの全身血行動態及び乳房組織への血流に及ぼすET−1の影響を示している。ET−1はVEGFの産生を促進することによって血管新生を刺激することが知られている。ET−1は多くのがん組織で増加して
いることが研究によって示されている。例えば、乳がん(Yamashitaら,Res
Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991))、乳房葉状腫瘍(Yamashitaら,Cancer Res,52:4046(1992))、前立腺がん(Nelsonら,Cancer Res,56:663(1996))、肝がん(Karら,Biochem Biophys Res Commun 216:514(1995))、及び一部の髄膜腫(Pagottoら,J Clin Invest,96:2017(1995))などのがん組織である。上記試験は、乳房腫瘍でET−1が誘導する血管応答の変化を示している。これらの試験で使用された方法は、全身血行動態及び局所血液循環を調べるためのよく確立された放射性微小球技術であった。Gulatiら,Am J Physiol,273:H827(1997);Gulatiら,Crit Care Med,24:137(1996);Gulatiら,J Lab Clin Med,126:559(1995);Gulatiら,Life Sci,55:827(1994)。
【0059】
腫瘍ラットの乳房腫瘍組織へのベースライン血流は正常動物の血流より高かった。これは以前の研究で観察され、腫瘍における新規血管の動員によるものであると理論化されている(それに頼らない)。Vaupel,Blood flow,oxygenation,tissue pH distribution,and bioenergetic status of tumors.Ernst Schering,Research Foundation Lecture 23,Berlin(1994)。ET−1投与後の乳房腫瘍への血流は、正常ラットの乳房組織で観察されるものと比べて有意に増加した。乳房腫瘍への血液潅流の増加を示すレーザードップラー流量測定から、ET−1投与後乳房腫瘍組織で観察された血流増加が確認された。血液潅流の増加は、RBCの速度又はCMBCのいずれか、又はその両方の増加によるものであると理論化されている(それに頼らない)。ET−1注入の終了時、RBCの速度の増加が観察されたが、CMBCの増加はET−1注入の30分後に観察された。
【0060】
さらに、ET−1に応答して観察された血流の増加は、ETが媒介する血管拡張によるものであると理論化されている(それに頼らない)。研究によれば、ET−1及びET受容体の発現は乳がん組織で増大していることが示されている。Alanenら,Histopathology,36:161(2000);Yamashitaら,Res
Commun Chem Pathol Pharmacol,74:363(1991)。本発明よれば、BQ788の投与はET−1が誘導する腫瘍組織への血流の増加を阻止することがわかった。BQ788(すなわち、N−シス−2,6−ジメチルピペリジノカルボニル−L−ガンマ−メチル−ロイシル−D−1−メトキシカルボニルトリプトファニル−D−Nle)は、特異的なET受容体アンタゴニストである。BQ788はET受容体への結合を1.2nMのIC50値で阻害する。
【0061】
BQ788は、乳房腫瘍でET−1が誘導する血管拡張におけるET受容体の役割を決定するのに使用された。この結果から、ET−1が誘導する血管拡張応答はET受容体を通して媒介されることが示唆される。ET受容体の発現は、平滑筋細胞よりも内皮細胞で高く、様々な増殖因子及びサイトカインによって調節されている。Smithら,J Cardiovasc Pharmacol,31:S158(1998)。正常乳房組織はET受容体よりもET受容体を高濃度に有しており(Alanenら,Histopathology,36:161(2000))、乳がん時にはET受容体が過剰発現して腫瘍組織への血流維持に貢献していると理論化されている(それに頼らない)。
【0062】
まとめると、記載した実験は、ET−1の注入は乳房腫瘍組織における血流の増加と血管抵抗の減少を起こし、そしてこの血流の増加はET受容体アンタゴニストによって阻
止できることを示している。
【0063】
実施例3.腫瘍の血液潅流及び化学療法薬送達に及ぼすIRL1620の影響
前の実験で、乳房腫瘍ラットへのET−1投与は、ET受容体の刺激によって腫瘍組織への血流を選択的に増大することが示された。この実施例で記載する実験は、ET受容体アゴニストのIRL1620が乳房腫瘍及び黒色腫の潅流に及ぼす影響と腫瘍及びその他の主要器官におけるパクリタキセル蓄積に及ぼす影響を調べるために実施する。
【0064】
方法
N−メチルニトロソウレア(MNU;50mg/kg、i.p.)によってバージン雌Sprague Dawleyラット(48日齢)に乳房腫瘍を誘導する。腫瘍体積が300〜500mmのラットを前述のようにウレタンで麻酔し(1.5g/kg、i.p.)、生理食塩水(0.3ml/kg、i.v.)又はIRL1620(3nmol/kg、i.v.)で処置した。腫瘍の潅流は前述のようにPeriflux PF2b 4000レーザードップラー流量計を用いて10時間測定する。第二の試験で、ヌードマウスに100万個のヒト黒色腫細胞(UISO−MEL−2)を皮下接種する。腫瘍体積が300〜500mmのマウスを前述のように生理食塩水又はIRL1620で処置し、潅流を前述のように3時間測定する。実験は、高められた潅流が腫瘍組織におけるパクリタキセルの蓄積を増加するかどうかを調べるためにも実施する。[H]−パクリタキセル(10μCi/マウス)を黒色腫マウスに、IRL1620又は生理食塩水の15分後に投与する。動物は[H]−パクリタキセル投与3時間後に犠死させる。腫瘍及び主要器官を切離、秤量、そして組織溶解剤に溶解し、放射能を当業者に周知の技術によって測定する。具体的には、血漿サンプル中の[H]−パクリタキセルの濃度をBeckman Coulter液体シンチレーションカウンター(モデルLS 6500)を用いて測定する。血漿は解凍して20mLの液体シンチレーションカクテルと混合する。サンプルをカウントする。カウントは次式を用いて“dpm”の単位から“fmol/mL”に換算する。
【0065】
fmol/mL=dpm値×崩壊因子×2.2×10−12/10−12×サンプル体積mL
【0066】
結果
IRL1620は、乳房腫瘍ラット及び黒色腫マウスの腫瘍潅流を有意に増加する。IRL1620の投与は、乳房腫瘍及び黒色腫動物の腫瘍潅流にそれぞれ150%及び318%の増加をもたらす。IRL1620で処置したマウスでは生理食塩水処置マウスと比べて腫瘍中のパクリタキセル濃度に730%の増加が見られる。しかしながら、IRL1620は他の主要器官中のパクリタキセル濃度を有意に増大しない。結果を図6に示す。
【0067】
実施例4.パクリタキセルの薬物動態に及ぼすIRL1620の影響
体内の血流動態の変更は治療薬の薬物動態に著しく影響を及ぼすことができる。パクリタキセルは複雑な薬物動態性を持つことが知られている。例えば、Sparreboomら,Cancer Res 56:2112(1996a);Gianniら,J Natl Cancer Inst 87:1169(1995b);Sonnichsen
& Relling,Clin Pharmacokinet 27:256(1994);Huizingら,J Clin Oncol 11:2127(1993);Brownら,J Clin Oncol 9: 1261(1991);Longneckerら,Cancer Treat Rep 71:53(1987);Wiemikら,Cancer Res 47:2486(1987b)参照。そこで、パクリタキセルの血漿中薬物動態に及ぼすIRL1620の影響を理解することが重要となる。従って、本試験は、選択的ET受容体アゴニストのIRL1620が乳房腫瘍ラットでパクリタ
キセルの薬物動態を変更するかどうかを調べるために実施した。
【0068】
方法
IRL1620はSigma−Aldrich(ミズーリ州セントルイス)から購入した。パクリタキセル(6 mg/mL溶液)はBen Venue Laboratories Inc.(オハイオ州ベッドフォード)から購入した。ケタミン及びキシラジンはPhoenix Scientific,Inc.(ミズーリ州セントジョーゼフ)から購入した。[H]−パクリタキセル(lmCi,6.4Ci/mmol,比活性)はMoravek Biochemicals(Moravek Biochemicals,カリフォルニア州)から購入した。ウレタンはSigma Aldrich(Sigma Chemicals,ミズーリ州セントルイス)から購入した。
【0069】
バージン雌Sprague Dawleyラット(Harlan Co.,ウィスコンシン州マジソン)、48日齢(120〜140g)をこの試験に使用した。到着後、管理された温度(23±1℃)、湿度(50±10%)及び人工光(06:00〜18:00)の部屋で全ラットを一つのケージに3匹ずつ収容した。ラットには餌と水を自由に与えた。実験はラットを少なくとも4日間環境に慣らした上でのみ実施した。
【0070】
N−メチル−n−ニトロソウレア(MNU)を50mg/kgの用量でi.p.投与し、週2回ラットを触診した。腫瘍が75〜100mmに達したら薬物動態試験を実施した。
【0071】
HPLC−UV試験.ウレタン(1.5mg/kg)(Sigma Chemicals,ミズーリ州セントルイス)の1回i.p.注射でラットを麻酔した。右大腿部を剃毛し、外科用消毒薬及びアルコールで清拭した。右大腿動脈及び静脈を露出し、無菌PE−50管を挿入した。頸部を剃毛し、外科用消毒薬及びアルコールで清拭した。頸部付近を正中切開し、気管挿管して齧歯類用人工呼吸器(Model 683,Harvard Apparatus Inc.,マサチューセッツ州サウスナティック)につないだ。全手術とも無菌状態で実施した。感染防止のためにネオスポリン抗生物質クリーム(Pfizer,ニュージャージー州モリスプレーンズ)を傷に塗布した。薬物投与の前に45分間の回復時間を与えた。
【0072】
正常及び腫瘍ラットを使用した。IRL1620(3nmol/kg)又はビヒクル(生理食塩水、3mL/kg)投与15分後にパクリタキセルをi.v.投与した(3mg/kg)。IRL1620投与前に採血してベースライン値を得た。ラットから0.5mLの血液をヘパリン処理シリンジに、ベースライン、パクリタキセル投与後5、30分、そして2、6、及び10時間の時点で採取した。サンプルを遠心分離し、血漿を回収して分析まで−80℃で保存した。
【0073】
血漿サンプルをHPLCシステムを用いてパクリタキセルについて分析した。手短に述べると、血漿を解凍し、50μLの内部標準N−シクロヘキシルベンズアミド(低標準曲線3mM、高標準曲線30mM)及び3mLのエチルエーテル(Fisher Scientific,イリノイ州シカゴ)と13×100のガラス培養管で混合した。混合物を往復式振盪器を用いて5分間振盪し、次いで3,000rpm、4℃で5分間遠心分離した。得られた上清を13×100のホウケイ酸ガラス培養管に移し、窒素流下、加熱水浴(37℃)中で蒸発させた。残渣を200μLの移動相A(50%脱イオン水、50%アセトニトリル)で再構成した(もどした)。再構成材料の100μL分(低標準曲線、IV投与後に回収したサンプル)を4mm NovaPak 150×3.9mm C18カラム(Waters Associates,マサチューセッツ州ミルフォード)に注入した。その手前には4mm NovaPak 20×3.9mm C18プレカラムが
ある。装置は、227nmにセットしたWaters 2487吸光度検出器に接続したWaters 2695セパレーションモジュールを用いた。100%の移動相Aを流速1mL/分で送液して直線勾配(リニアグラジエント)を開始した。次いで移動相Aを10〜11分に70%に下げ、移動相Aを11〜16分の間70%に維持してカラムからゆっくり溶出する物質を次の注入の前に除去した。その後、移動相Aを16〜17分に100%に上げ、100%移動相Aを3分間維持して、合計の運転時間を20分とした。パクリタキセルの血漿中濃度は、パクリタキセルピーク面積のN−シクロヘキシルベンズアミドピーク面積に対する比率から、線形最小二乗回帰を用い、1/×で重み付けして計算した。変動係数によって測定した日内及び日間変動は<10%であった。正常及び腫瘍ラットの血漿中濃度のプロファイルを比較した。
【0074】
液体シンチレーション計数試験.ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)の併用1回i.p.注射でラットを麻酔した。頸部を剃毛し、外科用消毒薬及びアルコールで清拭した。右頸動脈を露出し、無菌PE−50管を挿入した。頸部付近を正中切開し、血液採取のため左頸動脈にPE50管を挿入した。カテーテルは皮下に潜らせて頸部の基部で体外に出し、その後切開部分を外科用ステープルで閉じた。Buehlerら,Free Radic Biol Med 37:124(2004)。開いている管は釣り糸で栓をした。全手術とも無菌状態で実施した。感染防止のためにネオスポリン抗生物質クリーム(Pfizer,ニュージャージー州モリスプレーンズ)を傷に塗布した。薬物投与の前に45分間の回復時間を与えた。
【0075】
IRL1620を腫瘍動物に3nmol/kgの用量でi.v.投与した。[H]−パクリタキセル(160μCi/kg)を非標識パクリタキセルと混合した。パクリタキセルは、ビヒクル又はIRL1620の投与15分後にi.v.投与した。
【0076】
ビヒクル又はIRL1620投与前に血漿を採取してベースライン値を得た。約0.2mLの血液をラットからヘパリン処理シリンジに、ベースライン、1、5、15、30分、1、2、4、6、8、12及び24時間の時点で採取した。サンプルを遠心分離し、血漿を分離して分析まで−80℃で保存した。
【0077】
血漿サンプル中の[H]−パクリタキセルの濃度をBeckman Coulter液体シンチレーションカウンター(モデルLS 6500)を用いて測定した。手短に言うと、血漿を解凍して20mLの液体シンチレーションカクテルと混合した。サンプルをカウントし、カウントは次式を用いて“dpm”の単位から“fmol/mL”に換算した。
【0078】
fmol/mL=dpm値×崩壊因子×2.2×10−12/10−12×サンプル体積mL
fmol/mLへの換算後、全パクリタキセルの薬物動態を、[H]−パクリタキセルの非標識パクリタキセルに対する比率を用いて計算した。血漿中パクリタキセルの薬物動態の見積は、ノンコンパートメント及びコンパートメント解析の両方を用いて決定した(WinNonlin Pro 4.l(Pharsight Corp,カリフォルニア州マウンテンビュー)で実行)。
【0079】
ノンコンパートメント解析では、曲線下面積(AUC0−∞)を、最終測定可能濃度(Clast)まで台形法を用い、Clastを対数直線の血漿中濃度vs時間曲線の終末部分の傾き(λ)(負の数)で割ることによって無限大まで外挿して推定した。以下のパラメータも算出した。平均滞留時間(MRTiv)は全身クリアランスの逆数として計算し、全身クリアランス(CL)はAUC0−∞に対する用量の比率として計算し、見かけの容積分布はCL及びλの比率として計算した。血漿中半減期は0.693(2の自然対数
)とMRTivの積として計算した。
【0080】
コンパートメント解析では、一連の非線形コンパートメントモデルを血漿中濃度vs時間曲線データに当てはめた。具体的には、1コンパートメント、2コンパートメント及び3コンパートメントモデルを比較した。統一及び予測データに基づく重み付けを試験した。最終のモデル選択は、診断的プロット(観測値vs予測値及び残差プロット)、Akaike Information Criteria(AIC)及びSchwartz Criteria(SC)に基づいた。低いAIC及びSC基準を有するモデルを最終モデルとみなした。
【0081】
データは、HPLC−UVについては一元ANOVAに続いてダンカン検定によって、液体シンチレーション試験についてはt検定によって分析した。p<0.05を有意とみなした。これらの薬理反応試験で測定された主な結果は、血漿中のパクリタキセル濃度の違いであった。
【0082】
結果
パクリタキセルの薬物動態プロファイルは、正常及び腫瘍ラットともIRL1620の投与に影響されなかった(図7及び8)。血漿中薬物動態プロファイルのHPLC分析は、より広範な放射性パクリタキセルの動態のプロファイルと類似している。図8は、ビヒクル処置及びIRL1620処置腫瘍ラットにおけるパクリタキセルの放射能の薬物動態プロファイルを描いている。薬物動態プロファイルはノンコンパートメント及びコンパートメント法によって解析した。
【0083】
ノンコンパートメント解析では、ビヒクル+パクリタキセル群について計算されたAUCは9433.53±1465.00ngh/mLで、IRL1620処置腫瘍ラットのそれと類似していた(p>0.05)。消失半減期は0.14 ±0.08時間と計算
された。用量/AUCとして計算されたクリアランスは0.56 ±0.07L/h/k
gと推定された。クリアランス/Kelとして計算された分布容積は10.11 ±4.
17L/kgであることがわかった。概して、以下の表からもわかるように、IRL1620はパクリタキセルの薬物動態プロファイルに影響を与えていなかった。
【0084】
【表1】

【0085】
パクリタキセルの血漿中濃度は血漿サンプルのdpmカウントから計算された。3コンパートメントモデルがパクリタキセルの薬物動態を最もよく説明していた。図9は、ビヒクル処置及びIRL1620処置ラット両方の観測vs予測される薬物動態のプロットを描いている。ビヒクル処置ラットにおけるパクリタキセルのAUCは9.42±3.18μg−h/mLであった。定常状態の分布容積(Vss)は10.31±4.54L/Kgであった。クリアランスは0.69±0.17L/h/Kgと推定された。α t1/2、
β t1/2、γ t1/2は、それぞれ0.03±0.01h、1.0±0.32h、及び25.87+17.81hであった。平均滞留時間は27.92±19.84hであった。以下の表からわかるように、IRL1620処置群で推定されたこれらのパラメータはビヒクル処置群のものと顕著な違いはなかった。
【0086】
【表2】

【0087】
この試験では3コンパートメントモデルがパクリタキセルの血漿中薬物動態を最もよく説明していた。このモデルは、器官における血液潅流が高くても、中程度でも又は低くても、パクリタキセルは様々な器官に分布することを示唆している。IRL1620の投与でパクリタキセルの分布は変化しなかった。3コンパートメントモデルによって得られた血漿中薬物動態のパラメータは、ビヒクル及びIRL1620処置群について同程度のクリアランス、分布及び吸収の容積、分布及び消失半減期を示した。しかしながら、IRL1620は腫瘍の血液潅流及び腫瘍のパクリタキセル濃度を増大する。Raiら,American Association of Pharmaceutical Scientists,Pharmaceutics and Drug Delivery Conference.Philadelphia,PA(2004);Rai & Gulati,Cancer Chemother Pharmacol,51:21(2003)。従って、IRL1620は、パクリタキセルの薬物動態プロファイルを著しく変えることなく腫瘍の潅流を選択的に増大する。
【0088】
IRL1620を使用してもパクリタキセルの薬物動態に影響はなかった。薬物動態は化合物の安全性の代理とみなせることが多い。従って、これらの結果は、パクリタキセルの安全性がIRL1620の投与によって変化しないことも示唆している。結果として、IRL1620はパクリタキセルの効能を改良し、その重篤な毒性を最小限にするための適当な用量漸増を可能にするために使用できるはずである。これらの結果は、正常ラットにおけるパクリタキセルの薬物動態プロファイルが腫瘍ラットと類似していることを示しており、パクリタキセルの動態は腫瘍モデル系によって変化しないことを示している。
【0089】
実施例5.IRL1620の用量反応効果、主要器官及び腫瘍組織における[H]パクリタキセルの生体内分布に及ぼすIRL1620の影響、及び腫瘍状態に対するパクリタキセルの効能に及ぼすIRL1620の影響
本実施例に記載の実験は、(a)ET受容体アゴニストIRL1620が正常及び腫瘍ラットの乳房潅流に及ぼす用量反応効果、(b)主要器官及び腫瘍組織における[H]パクリタキセルの生体内分布に及ぼすIRL1620の影響、及び(3)MNU誘導性乳房腫瘍ラットにおける腫瘍状態に対するパクリタキセルの効能に及ぼすIRL1620の影響を調べるために設計された。
【0090】
方法
IRL1620はSigma Chemical Co.(ミズーリ州セントルイス)から入手した。[H]−パクリタキセルはMoravek Biochemicals(カリフォルニア州ブレア)から購入した。パクリタキセル(6 mg/ml溶液)はBen Venue Laboratories Inc.(オハイオ州ベッドフォード)から購入した。ケタミン及びキシラジンはPhoenix Scientific,Inc.(ミズーリ州セントジョーゼフ)から購入した。組織溶解剤(TS−2)はRPI Corp.(イリノイ州シカゴ)から購入した。
【0091】
バージン雌Sprague Dawleyラット(Harlan Company,ウィスコンシン州マジソン)を40日齢で購入し、23±1℃に温度管理された部屋で2匹ずつケージに入れ、12時間明/12時間暗のスケジュール下で維持した。ラットには水と標準の齧歯類用餌を自由に与えた。48日齢で各動物にN−メチルニトロソウレア(MNU,Ash Stevens,ミシガン州デトロイト)を50mg/kgの用量で1回注射した。MNUは3%酢酸に溶解し、そして0.9%NaCl中に希釈し(最終濃度12.5mg/ml)、これを調製30分以内にi.p.注射によって投与した。この処置によってほぼ100%の発生率で乳房腺がんが発がん処置約100日後に誘発される。Mehta Eur J Cancer,36:1275(2000)。腫瘍の外観と位置は手による乳腺の触診でモニターし、腫瘍表面はデジタルキャリパーで測定した。腫瘍体積500〜800mmのラットを選んで試験した。
【0092】
潅流試験.ラットの乳房組織及び腫瘍への潅流は、前述のようにPeriflux PF2b 4000レーザードップラー流量計(Perimed,スウェーデン、ストックホルム)を用いて測定した。手短に言うと、ケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)を併用1回i.p.注射してラットを麻酔した。乳頭付近を剃毛し、体温の変動を最小限にするために加熱パッド(37℃)に動物を置いた。乳腺周囲の皮膚を幅約6mm、長さ約4mm切開した。標準モデルの光ファイバープローブ(MP3 フロープローブ,Moors Instruments,英国、デボン)を露出組織の表面に当てた。それをPeriflux PF2b 4000レーザードップラー流量計に接続した。時定数を1.5秒にセットし、帯域幅を4KHzにセットした。この方法はレーザー光線(フラックス)におけるドップラーシフトを測定する。これは赤血球の数及び速度によって決まり、所定体積の組織内の全血流に比例する。フラックス値はPolyviewソフトウェアを用いて獲得した。15分間の安定な記録のベースラインを得てから生理食塩水又はIRL1620を投与した。動物には1、3又は9nmol/kgのIRL1620を投与し、潅流を3時間記録した。各用量は少なくとも4匹の動物に投与した。
【0093】
生体内分布試験.ラットをケタミン(100mg/kg)とキシラジン(2mg/kg)の併用1回i.p.注射で麻酔した。ラットの体重、腫瘍位置及び腫瘍体積を記録した。動物を無作為にグループ分けし、生理食塩水又はIRL1620(3nmol/kg)を尾静脈から最終体積0.2ml投与した。各群のラットに[H]パクリタキセル(50:50のCremophor ELとエタノール中40μCi/ラット)を、IRL1620の投与後15、120及び240分時点で最終体積1.0ml投与した。各時点で6匹のラットを試験したので、合計36匹のラットを使用した。動物は[H]パクリタキセル投与3時間後に犠死させた。腫瘍組織、腎臓、肝臓、肺及び脾臓中の[H]パクリタキセル濃度を測定した。腫瘍及び器官は小片にスライスした。約500mgの組織又は腫瘍を組織溶解剤(6ml)入りの別のバイアルに入れ、50℃の水浴中でインキュベートした。組織又は腫瘍が溶解したら水浴からバイアルを取り出し、1.2mlの10%
氷酢酸を加えた。バイアルの中身を3個のバイアルに等分し、15mlの液体シンチレーションカクテル(Safety Solve,RPI Corp,イリノイ州シカゴ)を各バイアルに加え、平衡化のために一晩維持した。液体シンチレーションカウンター(Beckman Coulter,LS 6500)を用いて管の放射能をカウントした。
【0094】
効能試験.腫瘍ラットを無作為に7つの群に分けた(12ラット/群)。I群−生理食塩水;II群−IRL1620(3nmol/kg);III群−Cremophor EL
:エタノール;IV群−ビヒクル(生理食塩水)+パクリタキセル(1mg/kg);V群−ビヒクル(生理食塩水)+パクリタキセル(5mg/kg);VI群−IRL1620(3nmol/kg)+パクリタキセル(1mg/kg);及びVII群−IRL1620(
3nmol/kg)+パクリタキセル(5mg/kg)。投与スケジュールは3日に1回、計5回であった。体重、腫瘍の大きさ及び位置は3日目ごとに最終投与後計30日間モニターした。評価には以下のカテゴリーを使用した。進行:処置の開始と比べて腫瘍が面積で40%を超えて成長している;停滞:処置の過程を通して腫瘍がその初期面積から40%を超えて変動しなかった;部分退行:腫瘍がその初期面積から40%を超えて退行した;完全寛解:腫瘍がもはや触診及び測定できない場合。処置中及び30日間の観察期間中、腫瘍の多重度(新規腫瘍の出現)も記録した。動物は最後(5回目)の投与30日後に犠死させた。データは分散分析、次いでダンカン検定を用いて分析した。p<0.05の水準を有意とみなした。
【0095】
結果
IRL1620の乳房潅流における用量反応.腫瘍潅流に及ぼすIRL1620投与の影響は一過性で用量依存性であることがわかった(図10A)。腫瘍潅流におけるベースラインからの最大増加244.0%(p<0.001)は3nmol/kgのIRL1620投与15分後に観察された。潅流の増加は、ベースライン並びに生理食塩水処置ラットと比べて15、30及び60分時点で有意であることがわかった(図10B)。1及び9nmol/kgのIRL1620の投与は、ベースライン潅流及び生理食塩水処置ラットと比べて乳房腫瘍潅流に微増しかもたらしていない。潅流の最大増加(60.9及び63.3%)は、それぞれ1及び9nmol/kgのIRL1620後90及び30分時点で記録された。しかしながら、9nmol/kgのIRL1620で処置された動物における潅流の増加は、生理食塩水処置ラットと比べて15、30及び60分時点で有意であることがわかった(図10A)。腫瘍ラットへの生理食塩水の投与はベースラインと比べて血液潅流に何ら有意の変化を起こさなかった(図10A)。生理食塩水、1、3又は9nmol/kgのIRL1620の投与は正常雌ラットでは乳房潅流に何ら有意の変化を起こさなかった(データ示さず)。
【0096】
生体内分布試験.腫瘍中の[H]パクリタキセルの濃度は、生理食塩水処置ラットと比べてIRL1620(3nmol/kg)処置ラットで有意に増加した。最大効果は、パクリタキセルをIRL1620の15分後に投与された動物群に認められた。腫瘍中のパクリタキセル濃度に277.1、151.9及び34.7%の増加が、パクリタキセルをIRL1620投与のそれぞれ15、120及び240分後に投与した場合に観察された(図11)。IRL1620を投与しても、肝臓、肺、腎臓及び脾臓におけるパクリタキセルの蓄積は対照動物と比べて変化ないことがわかった(図11)。
【0097】
効能試験:体重.ベースライン(処置開始前)から最終投与後30日までの体重の相違率を図12に示す。生理食塩水処置対照ラットで実験終了時にモニタした体重の増加率は、ベースラインの体重と比べて7.2±1.7%であった(図12)。ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)、ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)、IRL1620+パクリタキセル1mg/kg及びIRL1620+パクリタキセル5mg/kgで処置した動物群では体重にそれぞれ5.1±3.6、9.4±2.4、14.3±3.1及び13.1±1.8%の増加があった(図12)。Cremophor EL:エタノール及びIRL1620を投与した動物の体重の、ベースラインと比較した増加率は<10%であることがわかった(データ示さず)。
【0098】
効能試験:腫瘍体積.処置開始時には様々な群の腫瘍サイズは同程度で互いに有意の差はなかった(図13)。対照ラットの腫瘍体積は迅速かつ変動する速度で増加した。腫瘍成長における大きな変動性は、自発性成長腫瘍のランダム成長パターンによるものであろう。30日間の観察期間終了時、対照腫瘍は2693.4±790.9mmの腫瘍体積を有していた。IRL1620処置ラットも同様の発達パターンを有し、最終腫瘍体積は2560.5±844.4mmであった。Cremophor EL:エタノール処置も同様の成長パターンで、最終腫瘍体積は2338±1329mmとなった。このように、IRL1620及びcremophor El:エタノールは、MNU誘導乳房腫瘍の成長に顕著な影響は及ぼさなかった。対照ラットと比較した場合、ビヒクル+パクリタキセル1 mg/kg処置ラットはわずかに低減された腫瘍サイズの成長を示したが(1960.8±611.9mm)、ビヒクル+パクリタキセル5mg/kg群ではそれがより顕著であった(1682.7±497.3mm)。IRL1620+パクリタキセル1mg/kg処置ラットは削減された腫瘍サイズを示した(1707.2±621.1mm)。しかしながら、最低平均腫瘍サイズ(730.1±219.4mm)はIRL1620+パクリタキセル5mg/kgで処置された動物群で観察された(図13)。IRL1620に続きパクリタキセル5mg/kgを3日目ごとに計5回投与することは、生理食塩水+パクリタキセル(5mg/kg)投与ラットと比べて有意に(p<0.05)腫瘍体積を削減した(図13)。腫瘍体積は、IRL1620又はcremophor EL:エタノールのいずれかで処置されたラットと比べてもIRL1620+パクリタキセル5mg/kg群で低いことがわかった(データ示さず)。
【0099】
効能試験:腫瘍の多重度.全処置群の動物とも30日間の観察期間終了時までに追加の腫瘍を発症していた。生理食塩水、cremophor EL:エタノール及びIRL1620で処置した動物では、追加の腫瘍出現にそれぞれ58.4、57.1及び60.8%の増加がみられた。ビヒクル+パクリタキセル1及び5mg/kgを投与した動物では新規腫瘍の発生はそれぞれ78.3%及び41%であることがわかった。しかしながら、IRL1620+パクリタキセル1及び5mg/kgでは、追加の腫瘍のパーセントはそれぞれ69.2及び44.8%であることがわかった。
【0100】
効能試験:腫瘍の進行.進行、停滞、退行又は消失した腫瘍のパーセントは前述のように計算した。生理食塩水処置群では73.5%の腫瘍が初期腫瘍サイズの40%を超えて進行した。IRL1620(82.7%)及びcremophor EL:エタノール(80.4%)処置群も初期腫瘍サイズの40%を超える同様の腫瘍進行パーセントを示した。腫瘍の進行が低パーセントだったのは、ビヒクル+パクリタキセル(5mg/kg)群(71.4%)、ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)群(61.1%)及びIRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)群(69%)であった。しかし最低のパーセント(40%)はIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)群で見られた(図14)。
【0101】
効能試験:腫瘍の停滞.生理食塩水処置ラットの16.9%の腫瘍は停滞していた。すなわち30日間の終了時点までに40%の範囲を超えて成長しなかった。IRL1620(13.7%)、cremophor EL:エタノール(15.2%)、ビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)(22.2%)及びビヒクル +パクリタキセル(5mg/kg)(19.5%)処置ラットは停滞状態の腫瘍のパーセントは低かった。IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)(23.8%)処置ラット及びIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)処置ラットは停滞状態の腫瘍のパーセントが大きかった(26.6%)(図14)。
【0102】
効能試験:腫瘍の退行.パクリタキセル5mg/kg処置の前にIRL1620を投与すると、対照動物と比べて腫瘍の進行が有意に低下した。生理食塩水処置ラットは初期の腫瘍体積から9.2%の腫瘍が退行を示した。Cremophor EL:エタノール(4.3%)、IRL1620(3.4%)及びビヒクル +パクリタキセル(5mg/kg)(9.5%)処置ラットは、サイズの退行した腫瘍のパーセントに対照群との有意の差はなかった。5回目の投与終了時点で、腫瘍は、IRL1620+パクリタキセル5mg/kg処置ラット及びビヒクル+パクリタキセル5mg/kg処置ラットで対照ラットと比べてそれぞれ76.1±10.5及び45.9±11.5%退行していた。IRL1620+パクリタキセル5mg/kg及びビヒクル+パクリタキセル5mg/kgで処置された群の動物に80.2±6.9%(p<0.05)及び33.8±19.4%の退行があった(図14)。IRL1620+パクリタキセル1mg/kg及びビヒクル+パクリタキセル(1mg/kg)群における腫瘍退行率は、それぞれ47.1±15.4及び37.7±16.2%であることがわかった。IRL1620の15分後のパクリタキセル(5mg/kg)投与は、生理食塩水の15分後のパクリタキセル(5mg/kg)投与と比べて有意に大きい腫瘍退行をもたらした。cremophor El:エタノールとIRL1620処置群は、どの時点でも対照ラットと比べて腫瘍の退行に有意の差はなかった(データ示さず)。
【0103】
効能試験:腫瘍の寛解.腫瘍が完全に消失する完全寛解は2つの群でしか観察されなかった。IRL1620+パクリタキセル(1mg/kg)(2.3%)及びIRL1620+パクリタキセル(5mg/kg)(15%)処置ラットである(図14)。
本試験で得られた結果は、3nmol/kg用量のIRL1620の投与は、ベースライン及びビヒクル処置ラットと比べて腫瘍潅流に有意の増加をもたらすことを示している。1、3及び9nmol/kgのIRL1620も腫瘍潅流を増大するが、3nmol/kgの用量のIRL1620が最大効果をもたらした。高用量(9nmol/kg)は血管収縮に関与するET受容体を刺激することも可能である。Brooksら,J Cardiovasc Pharmacol,26 Suppl 3:S322(1995)。
【0104】
従って、高用量でのET受容体刺激による血管収縮と混合した血管拡張は、削減された血管拡張効果をもたらす。低用量(1nmol/kg)だと最大の血管拡張をもたらすのに不十分なのであろう。従って、次の試験には3nmol/kg用量のIRL1620を選択した。
【0105】
腫瘍組織中のパクリタキセル濃度に及ぼすIRL1620の効果は時間依存性であることがわかった。[H]パクリタキセルをIRL1620投与の15分、2時間及び4時間後に投与した場合、ビヒクル処置ラットと比べて、腫瘍中の[H]パクリタキセル濃度にそれぞれ277.1、151.9及び34.7%の差があった。IRL1620の投与は、肝臓、肺、腎臓及び脾臓中のパクリタキセル蓄積に有意の増加をもたらさないことが研究から示された。効能試験の結果は、IRL1620の投与は、パクリタキセルが誘導する腫瘍体積の削減を、パクリタキセルを投与された生理食塩水処置ラットと比べて有意に増大したことを示している。5mg/kgの用量のパクリタキセルで見られた治療利益の増強は最終投与の30日後まで維持された。これは、腫瘍体積にぶり返しがなく、パクリタキセルの効能増強におけるIRL1620の効果が試験終了まで不変であったことを意味する。しかしながら、生理食塩水処置後のパクリタキセル(1及び5mg/kg)は腫瘍成長にそのような有意の変化をもたらさなかった。さらに、腫瘍の多重度は、IRL1620の後パクリタキセル5mg/kgで処置されたラットの群で減少した。従って、パクリタキセル5mg/kgの前にIRL1620を投与することは、パクリタキセルの効能に著しい効果を有する。これは、腫瘍負荷の減少、腫瘍退行のパーセント、影響を
受けない体重及び多重度によって示される。さらに、IRL1620の後パクリタキセル1及び5mg/kgで処置した動物群では、他のすべての群と比べて、それぞれ2.3及び15%の初期腫瘍完全寛解があった。
【0106】
この実施例で述べた実験は、ET受容体アゴニストであるIRL1620が腫瘍の血流を有意に増大しうることを明らかに示している。IRL1620の投与は腫瘍血流の増大を起こしたが、対照の健常組織における潅流は変化させなかった。腫瘍潅流の増加は3時間持続した。潅流が増大している期間中に[H]パクリタキセルを投与すると、他の器官ではなく腫瘍組織だけで[H]パクリタキセルの濃度が有意に増加した。さらに、本実施例で述べた実験の結果は、IRL1620の投与はパクリタキセルの抗腫瘍効果を刺激するという証拠を提供している。パクリタキセル5mg/kgを3日目ごとに計5回処置されたラットの腫瘍体積は、対照ラットと比べて60.0%の削減があった。しかしながら、IRL1620投与15分後のパクリタキセル投与は、最終パクリタキセル投与の1ヶ月後に記録した場合、対照ラットと比べて腫瘍体積を268.9%まで削減した。IRL1620投与ラットでは、パクリタキセルだけの処置ラットと比べて、腫瘍体積に130.4%の削減があった。腫瘍潅流の増大は、腫瘍成長を促進する栄養素の供給を増大しうる可能性もある。我々の結果は、生理食塩水処置ラットと比べてIRL1620処置ラットの腫瘍体積及び腫瘍多重度に有意の増加はなかったことを示しており、IRL1620単独では腫瘍体積及び多重度に何の影響も生じなかったことを示唆している。結論として、IRL1620は腫瘍選択的血管拡張薬として使用でき、化学療法の効能を選択的に増大するために使用できる。本試験は、この治療戦略を採用することによって、腫瘍組織中に何倍も高い薬物濃度が達成できることを明らかに実証している。最後に、ET受容体アンタゴニストも腫瘍血流の改良のために提唱されており(Sonveauxら,Cancer Res,64:3209(2004))、本発明に従って腫瘍への抗がん剤の送達を増強するのに使用できる。
【0107】
活性成分を含有する医薬組成物は、ヒト又は他の哺乳動物への投与に適している。典型的には、医薬組成物は無菌性であり、投与された場合に有害反応を起こすような毒性、発がん性、又は変異原性化合物を含有しない。医薬組成物の投与は、固形腫瘍成長の開始の前、中又は後に実施できる。
【0108】
本発明の方法は、前述の活性成分を用いて、又はその生理学的に許容しうる塩、誘導体、プロドラッグ又は溶媒和物として達成できる。活性成分は、そのままの化合物として、又はいずれかもしくは両方の実体を含有する医薬組成物として投与できる。
【0109】
医薬組成物は、活性成分がそれらの意図する目的を達成するために有効な量で投与されるようなものを含む。更に詳しくは、“治療上有効量”とは、固形腫瘍の発生を防止、その除去、その進行を遅延、又はそのサイズを削減するのに有効な量を意味する。治療上有効な量の決定は、特に本明細書中に提供されている詳細な開示に照らせば、十分当業者の能力の範囲内である。
【0110】
“治療上有効な用量”とは、所望の効果を達成する活性成分の量のことである。そのような活性成分の毒性及び治療効能は、細胞培養又は実験動物における標準の製薬手順によって決定できる。例えばLD50(集団の50%に対して致死的な用量)及びED50(集団の50%に治療上有効な用量)を決定する。毒性及び治療効果間の用量比は治療指数であり、LD50とED50間の比率として表される。高い治療指数が好適である。得られたデータはヒトに使用するための用量範囲を設計するのに使用できる。活性成分の用量は、ED50を含み毒性が殆どないし全くない循環濃度の範囲内にあるのが好ましい。用量は、この範囲内で、使用される剤形、及び利用される投与経路に応じて変動しうる。
【0111】
正確な処方及び用量は、患者の状態を考慮して医師が決定する。投与量及び間隔は、治療又は予防効果を維持するに足る活性成分の濃度を提供するために個別に調整できる。
投与される医薬組成物の量は、治療される患者、患者の体重、疾患の重症度、投与様式、及び処方医の判断に依存しうる。
【0112】
活性成分は、単独で、又は意図する投与経路及び標準の製薬学的実施基準に関して選ばれる製薬学的担体と混合して投与できる。そこで、本発明に従って使用される医薬組成物は、活性成分を薬学的に使用できる製剤に加工するのを容易にする賦形剤及び補助剤を含む一つ又は複数の生理学的に許容しうる担体を用いて、従来様式で製剤化できる。
【0113】
治療上有効量の活性成分が投与される場合、組成物は、発熱物質を除去された、非経口的に許容しうる水溶液の形態であってよい。pH、等張性、安定性などを十分顧慮したそのような非経口的に許容しうる溶液の調製は当該技術分野における技能の範囲内である。静脈内注射のための好適な組成物は、典型的には等張性ビヒクルを含有するが、この特徴は必要とされない。
【0114】
獣医学的使用の場合、活性成分は、通常の獣医学的実施基準に従って適切に許容されうる製剤として投与される。獣医は、特定の動物に最も適当な投与計画を容易に決定することができる。
【0115】
本発明の範囲及び精神から離れることなく態様の様々な適応及び変更を行い、そして使用することができる。本発明は本明細書中で具体的に記載した以外にも実施することができる。上記記載は説明を目的としたもので制限を意図していない。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ決定される。
【0116】
本明細書中で使用してきた用語及び表現は、制限ではなく説明のための用語として使用されている。そのような用語及び表現の使用にあたって、示し説明した特徴の等価物又はその一部を除外する意図はない。特許請求された本発明の範囲内で多様な変形が可能であることは認識されている。さらに、本発明のいずれかの態様のいずれか一つ又は複数の特徴は、本発明の範囲を離れることなく本発明のいずれかその他の態様のいずれか一つ又は複数の特徴と組み合わせることができる。
【0117】
特に明記されない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用されている、分子量、反応条件などのような成分、性質の量を表すすべての数字は、すべての例で“約”という用語によって変更されると理解されるべきである。従って、反対に指示されない限り、以下の明細書及び添付の特許請求の範囲に示されている数値パラメータは、本発明によって得ようと求めている所望の性質に応じて変動しうる概数である。最低限でも、そして特許請求の範囲に等価の教義の適用を制限しようとしてではなく、それぞれの数値パラメータは少なくとも、報告された有効数字の数の点から、及び通常の丸め技術を適用することによって解釈されるべきである。本発明の広い範囲を示す数値範囲及びパラメータは概数であるにもかかわらず、特定の実施例に示された数値はできるだけ正確に報告されている。しかしながら、いずれの数値も、各試験測定法に見られる標準偏差に必然的に由来するある誤差を本質的に内包している。
【0118】
本発明を説明する文脈(特に以下の特許請求の範囲の文脈)で使用されている“一つの(a、an)”及び“その(the)”という用語並びに類似の指示は、本明細書中で特に明記されない限り又は文脈によって明らかにそれに反しない限り、単数及び複数の両方をカバーすると解釈されるべきである。本明細書中で値の範囲を挙げることは、その範囲に入るそれぞれの別の数字を個別に言及することの省略法として代用しているに過ぎない。本明細書中で特に明記されない限り、それぞれの個別の数値は、本明細書中であたかも
個別に挙げられたかの如く、本明細書中に組み込まれる。本明細書中に記載のすべての方法は、本明細書中で別途記載のない限り又は文脈によって明らかにそれに反しない限り、任意の適切な順序で実施できる。本明細書中に提供されているいずれか及びすべての例、又は例示言語(例えば“〜のような”)の使用は、単に本発明をより良く照らし出すためのものであって、別に特許請求されている本発明の範囲を制限するためのものではない。本明細書中のどの言語も、本発明の実施に不可欠の何らかの非請求要素を指していると解釈されるべきでない。
【0119】
本明細書中に開示されている本発明の代替の要素又は態様のグループ分けは制限と解釈されるべきでない。各グループのメンバーは、個別に又は該グループの他のメンバー又は本明細書中に見出される他の要素との何らかの組合せで言及及び特許請求されうる。グループの一つ又は複数のメンバーは、便宜上及び/又は特許性のためにグループに包含されるか、又はグループから削除されうることは予想される。何らかのそのような包含又は削除が発生する場合、明細書はここでは変更されたグループを含有するとみなされ、従って添付の特許請求の範囲で使用されているすべてのマーカッシュグループの記載を満たしている。
【0120】
本発明を実施するために発明者らが知る最良の様式を含む本発明の好適な態様が本明細書中に記載されている。当然のことながら、それらの好適な態様の変形は、上記記載を読めば当業者には明白であろう。発明者らは専門家がそのような変形を必要に応じて使用することを期待し、また発明者らは本発明が本明細書中に明記した以外に実施されることを意図している。従って、本発明は、適用法によって許されているように、添付の特許請求の範囲に掲げられている主題のすべての変形及び等価物を含む。さらに、そのすべての可能な変形における上記要素の何らかの組合せも、本明細書中に別途記載がない限り又は文脈によって明らかにそれに反しない限り、本発明に包含される。
【0121】
さらに、本明細書全体を通じて特許及び刊行物を多数参照してきた。上で引用した参考文献及び刊行物のそれぞれは、引用によってそれらの全文を個々に本明細書に援用する。
最後に、本明細書中に開示した本発明の態様は、本発明の原理を説明するためのものであると理解されるべきである。使用できる他の変形も本発明の範囲に含まれる。従って、例えば(制限ではない)、本発明の代替の構成も本明細書中の教示に従って利用できる。従って、本発明は、提示及び記載された通りのものに正確に限定されることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳房腫瘍の治療のための医薬の製造におけるET受容体アゴニストを含む組成物の使用であって、当該医薬は化学療法薬と共に使用されるものであり、前記ET受容体アゴニストはIRL1620であり、前記組成物は前記治療の必要ある哺乳動物に静脈内投与されるものであり、前記ET受容体アゴニストは前記乳房腫瘍への血液供給を選択的に増大し、ひいては前記乳房腫瘍への前記化学療法薬の送達を増大させ、そして前記ET受容体アゴニストは前記化学療法薬の効果を増強する、前記使用。
【請求項2】
前記化学療法薬の薬物動態が前記ET受容体アゴニストによって影響されない、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬が、
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬を単一組成物として投与する;
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬を別の組成物として投与する;
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬を順に投与し、前記ET受容体アゴニストを前記化学療法薬より先に投与する;又は
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬を順に投与し、前記化学療法薬を前記ET受容体アゴニストより先に投与する;
ことにより投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
治療の必要のある哺乳動物における乳房腫瘍の治療のための、治療上有効な量のET受容体アゴニスト及び治療上有効な量の化学療法薬の使用であって、前記ET受容体アゴニストがIRL1620である、前記使用。
【請求項7】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、又はそれらの混合物である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬が同時に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬が単一組成物として投与される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬が別の組成物として投与される、請求項9に記載の使用。
【請求項12】
前記ET受容体アゴニストと前記化学療法薬が順に投与される、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
前記ET受容体アゴニストが前記化学療法薬より先に投与される、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
(a)IRL1620であるET受容体アゴニストを含む包装組成物;
(b)哺乳動物における乳房腫瘍の治療に貢献するための(a)の静脈内投与についての取扱説明を提供する添付文書であって、取扱説明に従った場合、前記ET受容体アゴニストは前記乳房腫瘍への血液供給を選択的に増大し、ひいては前記乳房腫瘍への化学療法薬の送達を増大し、そして前記ET受容体アゴニストは前記化学療法薬の効果を増強する、前記添付文書;及び
(c)(a)と(b)のための容器
を含む製品。
【請求項15】
前記製品が、(d)化学療法薬をさらに含み、前記取扱説明が(a)と(d)の投与について規定し、前記容器(c)が(a)、(b)及び(d)のためのものであって、取扱説明に従った場合、前記ET受容体アゴニストは前記乳房腫瘍への血液供給を選択的に増大し、ひいては前記乳房腫瘍への前記化学療法薬の送達を増大し、そして前記ET受容体アゴニストは前記化学療法薬の効果を増強する、請求項14に記載の製品。
【請求項16】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、又はそれらの混合物である、請求項15に記載の製品。
【請求項17】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項14に記載の製品。
【請求項18】
(a)IRL1620であるET受容体アゴニストを含む包装組成物;
(b)哺乳動物における乳房腫瘍を治療するために化学療法薬と共に(a)を投与する取扱説明を提供する添付文書;及び
(c)(a)と(b)のための容器
を含む乳房腫瘍を治療することができる製品。
【請求項19】
(a)IRL1620であるET受容体アゴニストを含む包装組成物;
(b)化学療法薬を含む包装組成物;
(c)哺乳動物における乳房腫瘍を治療するために化学療法薬と共に(a)及び(b)を同時に若しくは連続的に投与する取扱説明を提供する添付文書;及び
(d)(a),(b)と(c)のための容器
を含む乳房腫瘍を治療することができる製品。
【請求項20】
(a)IRL1620であるET受容体アゴニスト及び化学療法薬を含む包装組成物;
(b)哺乳動物における乳房腫瘍を治療するために化学療法薬と共に(a)を投与する取扱説明を提供する添付文書;及び
(c)(a)と(b)のための容器
を含む乳房腫瘍を治療することができる製品。
【請求項21】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、又はそれらの混合物である、請求項18、19又は20に記載の製品。
【請求項22】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項18、19又は20に記載の製品。
【請求項23】
ET受容体アゴニストを含む乳房腫瘍の治療のための医薬組成物であって、当該組成物は化学療法薬と共に使用されるものであり、前記ET受容体アゴニストはIRL1620であり、前記組成物は前記治療の必要ある哺乳動物に静脈内投与されるものであり、前記ET受容体アゴニストは前記乳房腫瘍への血液供給を選択的に増大し、ひいては前記乳房腫瘍への前記化学療法薬の送達を増大させ、そして前記ET受容体アゴニストは前記化学療法薬の効果を増強する、前記医薬組成物。
【請求項24】
前記化学療法薬の薬物動態が前記ET受容体アゴニストによって影響されない、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記化学療法薬が、アドリアマイシン、カンプトテシン、カルボプラチン、シスプラチン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、アルファインターフェロン、ベータインターフェロン、ガンマインターフェロン、インターロイキン2、イリノテカン、ドセタキセル、パクリタキセル、トポテカン、又はそれらの混合物である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記化学療法薬がパクリタキセルである、請求項25に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−214519(P2012−214519A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−179596(P2012−179596)
【出願日】平成24年8月13日(2012.8.13)
【分割の表示】特願2007−557176(P2007−557176)の分割
【原出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(503063593)ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ イリノイ (12)
【Fターム(参考)】