説明

固形腫瘍を処置するための組成物およびその利用

【課題】腫瘍細胞に対する高い選択性を有しかつ副作用が小さい抗癌剤を実現する。
【解決手段】極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を含む医薬組成物を用いて固形腫瘍を処置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学療法に用いる抗癌剤に関するものであり、より詳細には、植物に含まれる物質を主成分とする抗癌剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、腫瘍に対する治療法としては、腫瘍の外科的な摘出;放射線により生物学的損傷を与える治療法;抗癌剤を用いた化学療法;抗腫瘍効果を発揮する物質などを発現するDNAを組み込んだベクターを用いる遺伝子治療;弱毒化および/または改変したウイルスを接種し、選択的に腫瘍細胞を傷害する方法、などが知られている。
【0003】
腫瘍に対する実際の治療では、これらを組み合わせて行われることが一般的であり、例えば、外科的摘出後に抗癌剤を用いるケース、放射線治療後に抗癌剤を用いるケースなどが挙げられる。
【0004】
従来の化学合成により開発された抗癌剤は、「抗腫瘍効果が高い場合は副作用が大きくなり、副作用が小さい場合は抗腫瘍効果が低くなる」というものが一般的である。このように、化学合成された抗癌剤は副作用が大きいという欠点を有している。このため、このような欠点を有さない、腫瘍に対する治療薬の開発が望まれている。
【0005】
近年、高い抗癌作用を有しかつ深刻な副作用を引き起こさない物質として、植物由来の天然成分が注目されている。例えば、ブドウ由来のResveratrolが、癌の発生、促進および進行をインビトロで阻害し、さらにマウスの乳房において腫瘍発生の前段階における病変の拡大と関与する細胞内でのプロセスを阻害することが報告されている(非特許文献2を参照のこと)。
【0006】
ヤナギ(Salix属safsaf種)は、種々の作用(例えば、抗菌活性、抗真菌活性、抗ウイルス活性、および抗寄生虫活性)を有する生理活性物質を含んでいる。近年、ヤナギの葉から水で抽出して得られた抽出物が、インビトロで白血病細胞を殺傷するという報告がなされている(非特許文献2を参照のこと)。特許文献2によれば、上記抽出物に含まれるサリシンが、白血病細胞を殺傷する効果の主成分である。
【非特許文献1】Science 275: 218−220 (1997)
【非特許文献2】Journal of Biochemistry and Molecular Biology 36 (4): 387−389 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献2に開示されていることは、白血病細胞という特定の細胞に対するサリシンの効果をインビトロで確認したにすぎない。高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい抗癌剤、特に固形腫瘍に対して効果を奏する抗癌剤の開発は進んでいない。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、固形腫瘍に対して高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい抗癌剤を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る医薬組成物は、固形腫瘍を処置するために、極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を含有することを特徴としている。
【0010】
本発明に係る医薬組成物において、上記極性溶媒は水であることが好ましい。
【0011】
本発明に係る医薬組成物において、上記固形腫瘍は膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌、肺癌、消化管腫瘍、神経膠腫または中皮腫であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る医薬組成物は、経口投与形態であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る固形腫瘍を処置する方法は、極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を被験体に投与する工程を包含することを特徴としている。
【0014】
本発明に係る固形腫瘍を処置する方法において、上記投与する工程は経口投与によることが好ましい。
【0015】
本発明に係る固形腫瘍を処置するための医薬を製造する方法は、極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を得る工程を包含することを特徴としている。
【0016】
本発明に係る食品組成物は、極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明を用いれば、副作用を生じさせることなく患者の固形腫瘍を処置することができる。また、本発明を用いれば、固形腫瘍に対して高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい医薬を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述したように、非特許文献2には、白血病細胞という特定の細胞に対するサリシンの効果をインビトロで確認したことが開示されている。しかし、本発明者らは、このような開示からは容易に予想し得なかった事項、すなわち、ヤナギの葉から水で抽出して得られた抽出物が、白血病細胞とは全く関連性のない固形腫瘍に対してインビボで実際に抗腫瘍作用を奏することを見出して、本発明を完成するに至った。なお、植物由来の天然成分を用いた抗癌剤は、これまでに開発されていない。
【0019】
本発明は、ヤナギ葉水抽出物を含有する医薬組成物を提供する。本発明に係る医薬組成物は、固形腫瘍を処置するために有効である。
【0020】
本発明において使用されるヤナギとしては、Salicaceae科に属する植物であれば特に限定されないが、Salix属に属する植物が好ましく、safsaf種に属する植物が最も好ましい。ヤナギは、野生種のものであってもよいが、人工的に培養されたものが使用されてもよい。
【0021】
本明細書中で使用される場合、用語「ヤナギ葉水抽出物」は「ヤナギの葉から極性溶媒を用いて抽出された抽出物」であることが意図され、「極性溶媒を用いて抽出してヤナギの葉から得られた抽出物」または「極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物」と交換可能に使用される。極性溶媒としては、例えば、水、アルコール水溶液(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなど)が好ましく、ヤナギ葉水抽出物が医薬品、食品などに使用される観点から、熱水が最も好ましい。必要に応じて、超音波、攪拌機などを用いて抽出液を攪拌してもよい。
【0022】
「腫瘍」は新生物(neoplasm)としても知られ、新生物細胞を含む新生物(new growth)である。また「新生物細胞」は増殖疾患を有する細胞としても知られており、異常に高速に増殖する細胞が意図される。新生物は異常な組織成長物であり、概して別個の集団を形成し、それらは正常な組織成長物よりもより急速な細胞増殖により成長する。新生物は部分的または全体的に、正常組織との構造的な組織化、および/または機能的協調の欠陥を呈する。
【0023】
腫瘍は良性(良性腫瘍)または悪性(悪性腫瘍または癌)であり得る。悪性腫瘍は、大きく3つの主要タイプに分類され得る。上皮構造から発生した悪性腫瘍は、癌腫と呼ばれる。筋肉、軟骨組織、脂肪、または骨のような結合組織由来の悪性腫瘍は肉腫と呼ばれ、免疫系成分を含む造血構造(血液細胞形成に関連する構造)に影響する悪性腫瘍は白血病またはリンパ腫と呼ばれる。他の新生物として、神経線維腫が挙げられるが、これに限定されない。
【0024】
癌(腫瘍)には、白血病のように造血組織またはリンパ組織であっても、悪性化したあとは常時血液中を移動しながら増殖して、全身の造血組織およびその他の臓器に広がるもの、ならびに、白血病以外の多くの腫瘍のように特定の組織臓器に腫瘍塊として存在しているものとが存在する。本明細書中で使用される場合、用語「固形腫瘍」は、白血病以外の腫瘍が意図されるが、本発明に係る医薬組成物が適用され得る固形腫瘍としては、膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌(例えば、扁平上皮細胞頭頚部癌)、肺癌(例えば、非小細胞肺癌(NSCLC))、消化管腫瘍(例えば、食道腫瘍、胃癌、小腸腫瘍、および大腸腫瘍(例えば、結腸および縁部のポリープならびに肛門直腸癌))、神経膠腫、および中皮腫などが特に意図される。
【0025】
「固形腫瘍を処置する」とは、固形腫瘍の成長(増殖)を抑制または阻止することが意図される。固形腫瘍を処理する方法を適用することにより、固形腫瘍が、この方法により処理されていない同一の腫瘍と比較して、低重量化または小型化することが意図される。腫瘍の成長(増殖)は、腫瘍の重量または大きさにおける正味の減少が生じる程度まで抑制されることが好ましい。
【0026】
本発明に係る医薬組成物は、ヤナギ葉水抽出物以外に薬学的に受容可能な担体を含んでもよい。医薬組成物中に使用される薬学的に受容可能な担体は、医薬組成物の投与形態および剤型に応じて選択され得る。
【0027】
本明細書中で使用される場合、薬理学的に受容可能な担体としては、製剤素材として使用可能な各種有機または無機の担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、または崩壊剤、あるいは、液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁剤、等張化剤、緩衝剤、または無痛化剤などとして配合される。
【0028】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースなどが挙げられ、滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
【0029】
結合剤としては、例えば、α化デンプン、メチルセルロース、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0030】
崩壊剤としては、例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウムなどが挙げられる。
【0031】
溶剤としては、例えば、注射用水、アルコール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、トリカプリリンなどが挙げられる。
【0032】
溶解補助剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0033】
懸濁剤としては、例えば、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、あるいは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子が挙げられる。
【0034】
等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトールなどが挙げられる。
【0035】
緩衝剤としては、例えば、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
【0036】
無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0037】
防腐剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
【0038】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸塩、アスコルビン酸などが挙げられる。
【0039】
本発明に係る医薬組成物は、製薬分野における公知の方法により製造され得る。本発明に係る医薬組成物におけるヤナギ葉水抽出物の含有量は、投与形態、投与方法などを考慮し、当該医薬組成物を用いて後述の投与量範囲でヤナギ葉水抽出物を投与し得るような量であれば特に限定されない。
【0040】
本実施形態に係る医薬組成物の形態は、血中にて高濃度をもたらし得る形態、すなわち、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、および関節内の注射に適切な「注入可能な形態」であることが好ましいがこれらに限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含むが、徐放性であることが好ましい)、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口剤、あるいは、注射剤、坐剤、ペレット、点滴剤などの非経口剤であってもよい。本発明に係る医薬組成物は、毒性が低いので経口的または非経口的に投与され得る。用語「非経口」は、本明細書中で使用される場合、静脈内、筋肉内、腹腔内、胸骨内、皮下、および関節内の注射および注入を含む投与の様式をいう。
【0041】
本発明に係る医薬組成物が経口剤である場合、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などが医薬用担体として利用される。また経口剤を調製する際、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤滑剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合してもよい。
【0042】
非経口剤である場合、本発明に係る医薬組成物は、当該分野において公知の方法に従って、本発明の有効成分を希釈剤としての注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、ラッカセイ油、ダイズ油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどに溶解ないし懸濁させ、所望により殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより調製され得る。
【0043】
本発明に係る医薬組成物は、製剤形態に応じた適当な投与経路で投与され得る。投与方法も特に限定はなく、内用、外用および注射によることができる。注射剤は、例えば静脈内、筋肉内、皮下、皮内などに投与され得る。よって、本発明に係る医薬組成物は、流体であっても固体であってもよく、エアロゾルの形態で適用されてもよい。
【0044】
本発明に係る医薬組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、使用目的および当該医薬の投与対象である患者の年齢、体重、症状によって適宜設定され一定ではない。一般には、製剤中に含有される有効成分の投与量で、好ましくは成人1日当り0.1〜2000mg/kgである。もちろん投与量は、種々の条件によって変動するので、上記投与量より少ない量で十分な場合もあるし、あるいは範囲を超えて必要な場合もある。投与は、所望の投与量範囲内において、1日内において単回で、または数回に分けて行ってもよい。また、本発明に係る医薬組成物はそのまま経口投与するほか、任意の飲食品に添加して日常的に摂取させることもできる。
【0045】
一実施形態において、本発明に係る医薬組成物に使用され得る薬学的に受容可能な賦形剤は、一般に、組成物の重量の5%〜99.9%、好ましくは25%〜80%を構成し、そして、他の補助剤の不存在においては、組成物の残余部分を構成する。好ましくは、賦形剤の重量の少なくとも80重量%が水である。好ましくは、水が、新規組成物の少なくとも50重量%、最も好ましくは60〜80重量%を構成する。
【0046】
このように、本発明に係る医薬組成物がヤナギ葉水抽出物を含んでいればよく、経口投与に好ましい形態をしていればより好ましいといえることを、当業者は容易に理解する。
【0047】
なお、被験体に投与する工程を包含する固形腫瘍を処置する方法、および、極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を得る工程を包含する、固形腫瘍を処置するための医薬を製造する方法もまた、本発明の範囲内であることを、本明細書を読んだ当業者は容易に理解する。これらの方法におけるヤナギの葉から抽出された抽出物については、医薬組成物に関するものと同様である。
【0048】
(2−2)食用組成物
本発明は、ヤナギ葉水抽出物を含有、添加および/または希釈してなる食用組成物(すなわち、食品、飲料または飼料)を提供する。本発明に係る食用組成物は、ヤナギ葉水抽出物の有する生理作用に起因して極めて有用である。
【0049】
本発明において、「含有」とは、食用組成物(すなわち、食品、飲料、または飼料)中にヤナギ葉水抽出物が含まれるという態様を、「添加」とは、食用組成物の原料に、ヤナギ葉水抽出物を添加するという態様を、「希釈」とはヤナギ葉水抽出物を、食用組成物の原料で希釈するという態様をいう。
【0050】
本発明に係る食用組成物の製造法は特に限定されるものではなく、調理、加工および一般に用いられている食品または飲料の製造法による製造を挙げることができ、製造された食品または飲料に本発明に係るヤナギ葉水抽出物が含有、添加および/または希釈されていればよい。
【0051】
本発明に係る食用組成物としては特に限定はないが、菓子類(例えば、チューインガム、キャンディー、ゼリー、ビスケット、チョコレート、米菓)、乳製品(例えば、ヨーグルト)、健康食品(例えば、カプセル、タブレット、粉末)、飲料(例えば、清涼飲料、乳飲料、野菜・果汁飲料、茶)、ドリンク剤などが挙げられるがこれらに限定されない。菓子類は、携行利便性の観点から好ましく、乳製品は、菓子類と比較すると1回当たりの摂取量が多く、毎日摂取しやすいという観点からより好ましい。
【0052】
本発明に係る食用組成物(食品、飲料または飼料)としては、ヤナギ葉水抽出物が含有、添加および/または希釈されており、その生理作用を発現させるための有効量が含有されていれば特にその形状に限定はなく、タブレット状、顆粒状、カプセル状などの経口的に摂取可能な形状物も包含する。
【0053】
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
【実施例】
【0054】
〔実施例1:ヤナギ葉水抽出物の抗腫瘍作用〕
エジプトのギザにあるカイロ大学農学部のヤナギの農場(the Salix farm of the Faculty of Agriculture, Cairo University, Giza, Egypt)で収穫した若いヤナギの葉を実験に供した。以下に従って熱水抽出を行った:ヤナギの葉10gを100mlの蒸留水に浸潤し、20分間煮沸して成分を抽出した;抽出液を滅菌したMiraclothに通し、濾液を15000rpmで15分間遠心分離した。
【0055】
カイロ大学国立がん研究所(National Cancer Institute, Cairo University)に承認された白血病患者(18〜65歳)、およびEACC(Ehrlich Asites Carcinoma Cells:エーリッヒ腹水癌細胞)を移植された動物に対して、本研究を行った。抗癌剤の種々の実験モデルに適応され得るマウスEACCは、急速に成長する優れた腫瘍モデルとしてよく用いられている。
【0056】
健常ボランティア(6サンプル)、ならびにALL(acute lymphoblastic leukemia)(7サンプル)、およびAML(acute myeloid leukemia, immature monocytes)(15サンプル)を、必要に応じて、末梢血および骨髄の検査、細胞化学、ならびに免疫学的マーカーにより診断した。
【0057】
健常ボランティアおよび患者からのサンプルを、Ficoll hypaque density gradient (Pharmacia, Uppsala, Sweden)に従って行う単核細胞分離に供した。次いで、これらの細胞をPBSで3回洗浄し、細胞数を10細胞/0.1mlに調整した(成熟細胞および未成熟細胞の両方)。培養培地を、1.2g/lの炭酸ナトリウムとL−グルタミン(Gibco, Grand island, USA)、10%非働化ウシ胎仔血清(Gibco)、ペニシリン/ストレプトマイシンを添加したmodified Earles−saltを用いて調製した。次いで、この培地を0.22μm孔のミリポアフィルターを通して濾過し、その1mlを1.8mlのスクリューキャップ式滅菌済プラスティックチューブに移した。次に、10個の細胞が含まれている細胞懸濁液0.1mlを5つのチューブに加えた。これらのチューブの内の3つに対して、ヤナギ抽出物0.1mlを加え、一方、他の2本のチューブを陰性コントロールおよび陽性コントロールとして用いた。陰性コントロールのために、ヤナギ抽出物の代わりに培養培地を用いた。陽性コントロールとして、健常ボランティアからの細胞にヤナギ抽出物を加えた。これらのチューブを、5%CO存在下にて37℃で24時間インキュベートした。trypan Blue exclusion test (Bennett et al., 1976)を用いて、これらの細胞の生存率について試験した。200個の細胞を計数し、次いで、生存細胞の百分率を見積もった。EACCの生存率に対しても上記プロトコルを行った。
【0058】
種々の細胞の生存率および死亡率を調べた結果を図1〜3に示す。縦軸は生存および死亡率を示し、横軸は検体の番号を示している。図中に用いられている記号は右端の枠内の記述に順ずる。
【0059】
図1に示すように、ALL細胞を、24時間培養したときの生存率の平均は92.9%であるのに対し、ALL細胞とヤナギ葉水抽出物を混合し、24時間培養したときの生存率の平均は22.9%であった。よって、ヤナギ葉水抽出物を加えた場合、ALL細胞の生存率は有為に低下することが明らかになった。
【0060】
図2に示すように、AML細胞を、24時間培養したときの生存率の平均は96.1%であるのに対し、AML細胞とヤナギ葉水抽出物物を混合し、24時間培養したときの生存率の平均は26.2%であった。よって、ヤナギ葉水抽出物を加えた場合、AML細胞の生存率は有為に低下することが明らかになった。
【0061】
図3に示すように、24時間培養したときの生存率の平均は98.0%であるのに対し、EACC細胞とヤナギ葉水抽出物を混合し、24時間培養したときの生存率の平均は22.0%であった。よって、ヤナギ葉水抽出物を加えた場合、EACCの生存率は有為に低下することが明らかになった。なお、図には示していないが、正常細胞を、24時間培養したときの生存率の平均は92.2%および93.3%であるのに対し、正常細胞とヤナギ葉水抽出物を混合し、24時間培養したときの生存率の平均は96.9%であった。ヤナギ葉水抽出物を加えた場合であっても正常細胞の生存率は、有為な差はなかった。
【0062】
これらの結果より、ヤナギ葉水抽出物は、殺腫瘍効果を有しており、かつ癌細胞に対する選択性を有していることがわかった。
【0063】
〔実施例2:種々の抽出物の抗腫瘍作用〕
実施例1に記載した若いヤナギの葉を用いて以下に従って溶媒抽出を行った:40〜60℃の石油エーテル、ジエチルエーテル、クロロフォルム、アセトン、最後に70%エタノールを連続的に用いて、ヤナギの葉80gの葉を、室温で抽出した;各抽出物中の溶媒を、低温での蒸留により除去し、各クラスの植物粗抽出物を分離した。
【0064】
一連の溶媒抽出による種々の葉抽出物(Salix safsaf)を、AML細胞およびALLに対する抗白血病効果について調べた。各粗抽出物の画分を、溶媒の除去後に生理食塩水中に溶解した。次いで、各画分を白血病細胞と培養した。その結果、無極性溶媒(石油エーテル、エーテル、およびクロロフォルム)ではそれぞれ90、83および80という高い生存率を示し、これらを用いて抽出したヤナギ葉の画分は、腫瘍細胞に対する破壊効果が非常に低いことを示した。各抽出物の破壊は各抽出物のうちの1.5〜2.9%の範囲であった。しかし、極性溶媒(水および70%エタノール)の画分において、AML細胞、ALL細胞、およびEACCに対して大きな破壊効果が得られた。
【0065】
ヤナギ葉の水抽出物とインキュベートした後の腫瘍細胞(EACC)の生存率は、未処理の細胞(2%の細胞死)と比較して非常に影響を受けた(80%の細胞死)。この観察から、ヤナギ葉の抗腫瘍活性は、水および/またはエタノールに可溶性の化合物に起因するものがほとんどであったということ、ならびに、これらの活性成分は容易に熱水に溶解したので、天然の抗癌剤として用いることができるということがわかった。
【0066】
〔実施例3:固形腫瘍に対するヤナギ葉水抽出物の抗腫瘍作用〕
正常な雄のSwiss albinoマウス36匹(体重20〜25g)を以下のように用いた:通常の食餌を与えた第1グループを、コントロール(陰性)として使用した;通常の食餌を与えた第2グループでは、2×10cells(0.2ml)の濃度でEACCを各マウスの腹腔内に移植した(陽性コントロール);通常の食餌を与えかつEACCを接種された第3グループでは、各マウスに、ヤナギの水抽出物0.2ml(7%)を胃管によって毎日経口投与した;第4グループでは、ヤナギの抽出物0.6mlを毎日与えた。ヤナギの水抽出物を給餌しながら毒性実験を行い、そして被験体正常コントロールおよび移植された動物の血液サンプル中のglutamic oxaloacetic transaminase (GOT)、gluamic pyruvic transaminase (GPT)、blood glucose (BG)、およびalkaline phosphatase (AP)を試験した。
【0067】
結果を図4に示す。縦軸は、マウスの生存個体数を示しており、1週間ごとに色分けされている。色分けの詳細は、図の左上に示した通りである。横軸は、マウスに対して行った処置の種類を示す。
【0068】
EACCを移植されていないNormal control群(第1グループ)は、5週間後まですべてが生存した。EACCを移植し、通常の食餌を与えたEACC control群(第2グループ)では、2週間後まで3匹が生存し、3週間後まで生存していたマウスはいなかった。EACCを移植し、通常の食餌を与え、毎日0.2mlのヤナギ葉水抽出物を経口摂取させた群(第3グループ)は、EACC control群と比較して、生存日数が延長しており、4匹が5週間後まで生存していた。EACCを移植し、通常の食餌を与え、毎日0.6mlのヤナギ葉水抽出物を経口摂取させた群(第4グループ)は、6匹が5週間後まで生存しており、さらに生存個体数が増加していた。すなわち、2週間以内に死んでしまう未処置の腫瘍移植マウスと比較して、ヤナギの葉の水抽出物は腫瘍を移植されたマウスの死を遅らせ、腫瘍の成長を阻害した。
【0069】
ヤナギ葉水抽出物を経口摂取させたとき、マウスの正常な細胞が損傷を受けるのかどうかについて調べた(結果は示さず)。ヤナギ葉水抽出物を経口投与しても、マウスの正常な細胞は損傷を受けていなかった。特に、血中のグルコース、GOT、GPT、およびアルカリヌクレアーゼ活性は変化が見られなかった。よって、ヤナギ葉水抽出物は、家庭薬として実用的であることがわかった。
【0070】
これらの結果から、ヤナギ葉水抽出物は、正常な細胞に対する有害性を有することなく、癌細胞を移植した個体の生存日数を延長させる効果を有することが示された。
【0071】
〔実施例4:ヤナギ葉水抽出物が有する白血病細胞傷害効果の機序〕
DNAを、ヤナギ抽出物の処置前および後の成熟白血球(正常細胞)および未成熟白血球(白血病細胞)から抽出し、1%のアガロースゲル電気泳動で分離してDNA断片化を測定した。
【0072】
細胞から抽出したDNAをアガロースゲル電気泳動で分離した結果を図5に示す。図5に示すように、ヤナギ葉水抽出物と混合培養していない白血病細胞のDNAは1本のバンドとして検出されているが、ヤナギ葉水抽出物と混合培養した白血病細胞のDNAは、帯状に検出された。左図は、白血病細胞のDNAが、ヤナギ葉水抽出物との混合培養により変化するか否かを示したものである。ヤナギ葉水抽出物により白血病細胞のDNAが損傷を受け、断片化していることが示された。右図は、正常細胞でも白血病細胞で見られた、DNAの断片化が起こっているのかを見たものである。正常細胞はヤナギ葉水抽出物と混合培養しても、DNAが損傷を受けないことが明らかになった。
【0073】
このように、ヤナギ葉水抽出物と培養した白血病細胞では、DNAが大きく損傷を受けていたが、ヤナギ葉水抽出物と培養した正常細胞の場合、DNAは影響を受けていなかった。これらの結果より、ヤナギ葉水抽出物は選択的な殺腫瘍効果を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明を用いれば、固形腫瘍に対して高い抗癌作用を有しかつ副作用が小さい医薬を提供することができるので、医薬分野の発展に大いに寄与することができる。また、本発明を用いれば、副作用を生じさせることなく患者の固形腫瘍を処置することができるので、医学の発展に大いに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】図1は、ALL細胞の生存率に関するヤナギ若葉抽出物の効果を示すグラフである。
【図2】図2は、AML細胞の生存率に関するヤナギ若葉抽出物の効果を示すグラフである。
【図3】図3は、EACCの生存率に関するヤナギ若葉抽出物の効果を示すグラフである。
【図4】図4は、EACC移植動物の生存に関するヤナギ水抽出物の効果を示すグラフである。
【図5】図5は、白血病患者における未成熟白血球のDNAに関するヤナギ水抽出物の効果を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を含有することを特徴とする固形腫瘍を処置するための医薬組成物。
【請求項2】
前記極性溶媒が水であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記固形腫瘍が膀胱癌、腎癌、皮膚扁平上皮癌、頭頚部癌、肺癌、消化管腫瘍、神経膠腫または中皮腫であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
経口投与形態であることを特徴とする請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を被験体に投与する工程を包含する固形腫瘍を処置する方法。
【請求項6】
前記投与する工程が経口投与によることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を得る工程を包含する、固形腫瘍を処置するための医薬を製造する方法。
【請求項8】
極性溶媒を用いてヤナギの葉から抽出された抽出物を含有することを特徴とする食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−44905(P2008−44905A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−223498(P2006−223498)
【出願日】平成18年8月18日(2006.8.18)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】