説明

固形薬剤供給装置および固形薬剤供給方法

【課題】簡便な構成で、固形分の析出等による被処理液系の配管の閉塞等が抑制され、被処理液中の薬剤濃度を微調整することができる固形薬剤供給装置を提供する。
【解決手段】固形薬剤を内部に充填した少なくとも1つの薬剤充填容器12と、薬剤充填容器12内の固形薬剤を溶解するために、薬剤充填容器12内に溶媒を供給する溶媒供給手段と、固形薬剤が溶解された溶解液が流入する溶解液貯槽14と、溶解液を希釈するために、希釈用溶媒を溶解液貯槽14へ供給する希釈用溶媒供給手段と、溶解液貯槽14内の溶解液の希釈溶液を被処理液系に供給するための希釈溶液供給手段と、を備える固形薬剤供給装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形薬剤供給装置および固形薬剤供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水処理等の分野では、各種固形薬剤(殺菌剤、分散剤、防食剤等)が用いられている。従来の固形薬剤の溶解・供給システムとしては、例えば、高分子凝集剤の自動溶解機等が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような装置では、固形薬剤の補充等の際に、固形薬剤およびその溶解液が作業者に接触する可能性がある。また、自動給粉機や撹拌機等が必要であり、装置が大掛かりになるという問題がある。
【0004】
その他の固形薬剤の溶解・供給システムとしては、固形薬剤を充填した薬剤充填容器を直接被処理水系の配管(バイパス配管等)に組み込み、そこに被処理水、または被処理水の一部を供給することにより固形薬剤を溶解させ、その(過)飽和溶解液を直接被処理水系へ供給するシステムが知られている(例えば、特許文献1の図1参照)。
【0005】
しかし、これらのシステムでは、被処理水の温度低下等の温度変動等があった場合、被処理水系の中で薬剤が過飽和となって析出し、被処理水系の配管(主配管、バイパス配管等)が閉塞する可能性があるという問題がある。また、被処理水中の薬剤濃度を調整することが困難である。
【0006】
また、特許文献2には、液体浸漬時に溶解して溶液を形成する固形化学薬品を各々収容する2以上の供給ボウルを備え、片方のボウルが空になった時に、一方の供給ボウルから他方のボウルへの固形化学薬品の溶解した溶液の切換を自動的に行う機能が組み込まれた複式固形化学薬品供給システムが記載されている。
【0007】
しかし、このようなシステムでは、固形薬剤を定量して溶媒に投入するなどして溶解度を調整しているため、注入濃度の調整が容易ではなかったり、装置が大掛かりになったりする。また、固形薬剤を飽和溶液まで溶解する場合は溶液濃度が一定であるために注入濃度の調整は比較的簡便になるが、飽和溶液であるために固形薬剤の析出等による注入不良のリスクが伴う。
【0008】
特許文献1に記載のような従来の固形薬剤供給システムにおいて、薬剤充填容器の固形薬剤の残量把握は、「のぞき窓」等による目視が一般的であるが、耐圧性等の容器の設計上、目視確認が困難な場合があり、その場合は固形薬剤の残量把握に問題がある。
【0009】
また、特許文献1に記載のような従来の固形薬剤供給システムにおいて、薬剤充填容器を複数配列した場合、各薬剤充填容器内の固形薬剤の消費量にばらつきがあるため、各薬剤充填容器内の固形薬剤を無駄なく使い切ることが困難である。
【0010】
さらに、特許文献1に記載のような従来の固形薬剤供給システムにおいて、被処理液系と固形薬剤注入システムが配管等で密閉して接続されている場合、溶解液の逆流等のリスクがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−235368号公報
【特許文献2】特許第4130588号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】「水処理薬品ハンドブック」、藤田賢二著、技報堂出版、4.2(3)「固形薬品の溶解設備」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、簡便な構成で、固形分の析出等による被処理液系の配管の閉塞が抑制され、被処理液中の薬剤濃度を微調整することができる固形薬剤供給装置および固形薬剤供給方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、固形薬剤を内部に充填した少なくとも1つの薬剤充填容器と、前記薬剤充填容器内の固形薬剤を溶解するために、前記薬剤充填容器内に溶媒を供給する溶媒供給手段と、前記固形薬剤が溶解された溶解液が流入する溶解液貯槽と、前記溶解液を希釈するために、希釈用溶媒を前記溶解液貯槽へ供給する希釈用溶媒供給手段と、前記溶解液貯槽内の前記溶解液の希釈溶液を被処理液系に供給するための希釈溶液供給手段と、を備える固形薬剤供給装置である。
【0015】
また、前記固形薬剤供給装置において、前記薬剤充填容器の容器が光を透過する材質で構成されていることが好ましい。
【0016】
また、前記固形薬剤供給装置において、前記薬剤充填容器が複数直列に配置され、直列に配置された前記薬剤充填容器群において、運転中に通液方向を逆転させる通液方向逆転手段を備えることが好ましい。
【0017】
また、前記固形薬剤供給装置において、前記薬剤充填容器から流出する前記溶解液の濃度を測定する濃度測定手段を備えることが好ましい。
【0018】
また、前記固形薬剤供給装置において、前記溶解液の温度を測定する温度測定手段と、前記測定した温度に基づいて前記希釈用溶媒供給手段による希釈倍率を制御する制御手段と、を備えることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、固形薬剤を内部に充填した少なくとも1つの薬剤充填容器内の固形薬剤を溶解するために、前記薬剤充填容器内に溶媒を供給する溶媒供給工程と、前記固形薬剤が溶解された溶解液が流入する溶解液貯槽へ、前記溶解液を希釈するために希釈用溶媒を供給する希釈用溶媒供給工程と、前記溶解液貯槽内の前記溶解液の希釈溶液を被処理液系に供給する希釈溶液供給工程と、を含む固形薬剤供給方法である。
【0020】
また、前記固形薬剤供給方法において、前記薬剤充填容器の容器が光を透過する材質で構成されていることが好ましい。
【0021】
また、前記固形薬剤供給方法において、前記薬剤充填容器が複数直列に配置され、直列に配置された前記薬剤充填容器群において、運転中に通液方向を逆転させる通液方向逆転工程を含むことが好ましい。
【0022】
また、前記固形薬剤供給方法において、前記薬剤充填容器から流出する前記溶解液の濃度を測定する濃度測定工程を含むことが好ましい。
【0023】
また、前記固形薬剤供給方法において、前記溶解液の温度を測定し、前記測定した温度に基づいて前記溶解液貯槽内の前記溶解液の希釈倍率を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明では、簡便な構成で、固形分の析出等による被処理液系の配管の閉塞が抑制され、被処理液中の薬剤濃度を微調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る固形薬剤供給装置および固形薬剤供給方法の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る固形薬剤供給方法の一例を示す概略構成図である。
【図3】本発明の実施形態に係る固形薬剤供給方法の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0027】
本発明の実施形態に係る固形薬剤供給装置の一例の概略構成を図1に示し、その構成について説明する。固形薬剤供給装置1は、溶媒貯槽10と、少なくとも1つの薬剤充填容器12と、大気開放された溶解液貯槽14とを備える。図1の例では、薬剤充填容器12は、4つの薬剤充填容器12a,12b,12c,12dを備える。
【0028】
固形薬剤供給装置1において、溶媒貯槽10の入口には、溶媒ライン16が接続され、溶媒貯槽10の出口と薬剤充填容器12aの入口とは、ポンプ32を介して溶媒供給ライン18により接続されている。薬剤充填容器12aの出口と薬剤充填容器12bの入口、薬剤充填容器12bの出口と薬剤充填容器12cの入口、薬剤充填容器12cの出口と薬剤充填容器12dの入口、薬剤充填容器12dの出口と溶解液貯槽14の入口は、それぞれ溶解液ライン20a,20b,20c,20dにより接続されている。溶媒貯槽10の出口と溶解液貯槽14の入口は、ポンプ34を介して希釈用溶媒ライン22により接続されている。溶解液貯槽14の出口には、ポンプ36を介して希釈溶液供給ライン24が接続されている。溶解液ライン20における濃度測定点26には、濃度測定手段としての濃度測定装置28が設置されている。溶解液貯槽14には、温度測定手段として、温度測定装置30が設置されている。図1の例では、溶媒貯槽10、ポンプ32および溶媒供給ライン18が溶媒供給手段として機能し、溶媒貯槽10、ポンプ34および希釈用溶媒ライン22が希釈用溶媒供給手段として機能し、溶解液貯槽14、ポンプ36および希釈溶液供給ライン24が希釈溶液供給手段として機能する。
【0029】
本実施形態に係る固形薬剤供給方法および固形薬剤供給装置1の動作について説明する。まず、溶媒の供給元より、溶媒ライン16を通して溶媒を溶媒貯槽10に溜める。溶媒貯槽10からポンプ32により溶媒供給ライン18を通して、直列に配置された薬剤充填容器12a,12b,12c,12dに溶媒を順次供給、通液する(溶媒供給工程)。末端の薬剤充填容器12dから流出してきた溶解液は、溶解液貯槽14に溜められる。溶媒貯槽10からポンプ34により希釈用溶媒ライン22を通して、溶解液貯槽14に希釈用溶媒を所定量供給し、溶解液を所定の濃度まで希釈する(希釈用溶媒供給工程)。溶解液貯槽14からポンプ36により希釈溶液供給ライン24を通して、所定の濃度に希釈された希釈溶液を被処理液系に供給する(希釈溶液供給工程)。なお、溶媒貯槽10とは別に希釈用溶媒を貯留する希釈用溶媒貯槽を設け、希釈用溶媒貯槽から希釈用溶媒ラインを通して、溶解液貯槽14に希釈用溶媒を所定量供給してもよい。
【0030】
固形薬剤を容器に充填し、その薬剤充填容器に溶媒を通液することで、または、複数の薬剤充填容器を直列に配置し、配置された薬剤充填容器12の群に溶媒を通液することで、撹拌等の操作を行わなくても、薬剤充填容器12の群の末端の容器出口から薬剤が溶媒に十分溶解した溶解液が得られる。得られた溶解液を溶解液貯槽14に溜め、希釈用溶媒により所定の濃度に希釈し、所定の濃度に希釈された希釈溶液を、溶解液貯槽14からポンプ36を用い、被処理液系に添加する。これにより、被処理液系の注入系統内での溶解液の過飽和による析出リスクを低減し、被処理液系への注入不良を抑制することができる。
【0031】
本実施形態に係る固形薬剤供給方法および固形薬剤供給装置によれば、撹拌機や給粉機等を用いなくてもよく、簡便な構成の装置で運用することができる。また、被処理液系の配管(主配管、バイパス配管等)とは別の独立した配管系に薬剤充填容器を組み込み、さらに希釈溶液を用いるため、固形分の析出等による被処理液系の配管の閉塞等が抑制されて運用することができる。また、飽和溶液ではなく希釈溶液を用いるため、被処理液中の薬剤濃度を微調整することができる。さらに、固形薬剤の補充等のメンテナンス等の際に、固形薬剤およびその溶解液等の作業者への接触を抑制することができる。
【0032】
薬剤充填容器12に通液する溶媒としては、用いる固形薬剤を溶解することができるものであればよく、特に制限はない。溶媒は、例えば、水、有機溶媒等である。希釈用溶媒は、通常は薬剤充填容器12に通液する溶媒と同じものが用いられるが、異なっていてもよい。
【0033】
溶媒は、例えば、現場で得られる工業用水や場合によっては被処理液(被処理水)系の被処理液(被処理水)等であり、溶媒の供給元(工業用水水道、被処理液系等)と本実施形態に係る固形薬剤供給装置とを接続する必要があるが、この場合、「被処理液系と薬剤充填容器群」の間に、大気開放された溶解液貯槽14という大気開放区間を設けることで、これらを“縁切り”し、「被処理液系→薬剤充填容器群」という逆流を抑制することができる。さらに、「溶媒供給元と薬剤充填容器群」の間に、大気開放された溶媒貯槽10という大気開放区間を設ければ、これらを“縁切り”し、「薬剤充填容器群→溶媒供給元」という逆流を抑制することができる。
【0034】
固形薬剤を充填する容器としては、密閉系の容器であればよく、特に制限はない。例えば、カートリッジ型容器、ボンベ型容器等が挙げられる。固形薬剤を充填する容器をカートリッジ型容器とすることで、メンテナンス等の際に作業者が薬剤自体に直接触れるリスクを大幅に低減することができる。カートリッジ型容器としては、例えば、円筒状等の筒状の容器と、容器を密閉する蓋部と、容器または蓋部に設けられた流入口と、ストレーナ等のろ過装置に接続された流出管と、流出管に接続され、容器または蓋部に設けられた流出口とを備えるカートリッジ等を用いることができる。
【0035】
薬剤充填容器の数は1つ以上であればよく、特に制限はないが、後述するように“薬剤枯渇”を見過ごすリスクを低減するために、2つ以上であることが好ましい。
【0036】
また、固形薬剤を充填する容器が光を透過する材質で構成されていることが好ましい。これにより、薬剤充填容器12内の固形薬剤の残量を容易に把握することができる。例えば、薬剤充填容器12の外部から光を照射することにより、容器内部を透けさせ、目視により薬剤充填容器12内の薬剤の残量を把握すればよい。光を透過する材質としては、例えば、PE(ポリエチレン)、FRP(繊維強化プラスチック)等の樹脂等が挙げられる。
【0037】
「固形薬剤」とは、粉体、粒状、タブレット型等を含め、形状に特に制限はなく、固体である薬剤全てを指し、例えば、殺菌剤、分散剤、防食剤等が挙げられる。固形薬剤としては、例えば、DBNPA(2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド)等の殺菌剤やヘキサメタリン酸等の分散剤等が挙げられる。カートリッジ型容器にDBNPA等を充填したものを商品形態として運用すれば、作業者に殺菌剤等の薬剤が直接触れるリスクを大幅に低減することができる。
【0038】
容器への薬剤の充填量としては、特に制限はないが、例えば、人力で運搬することができる総重量30kg以内程度であればよい。
【0039】
溶解液貯槽14における溶解液の希釈倍率としては、用いる固形薬剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に制限はないが、析出リスク等を考慮すると、例えば、固形薬剤の溶媒に対する飽和濃度の1/10〜1/2程度とすればよい。
【0040】
溶解液貯槽14には、希釈溶液中の溶け残りの薬剤等を除去するために、ストレーナ等のろ過手段を設置してもよい。
【0041】
本実施形態において、温度測定装置30により溶解液貯槽14における溶解液の温度を測定し、この測定した温度に基づいて、図示しない制御手段により溶解液貯槽14内の溶解液の希釈倍率を制御することが好ましい。溶解液の希釈倍率の制御は、例えば、溶媒貯槽10等からの希釈用溶媒ライン22に設けたポンプ34を制御し、希釈用溶媒の流量を調整して行えばよい。
【0042】
薬剤充填容器12から流出する溶解液は「飽和状態」であると考えると、予め溶質である固形薬剤の溶媒に対する飽和溶解度曲線を把握しておけば、溶解液の温度から溶解液中の薬剤の濃度を予想することができる。つまり溶解液の温度によって溶解液濃度が把握できるため、溶解液の温度に基づいて溶解液の希釈倍率を制御すれば、濃度の変動の少ない「希釈溶液」を得ることができる。希釈溶液の濃度の変動が少なければ、被処理液系への希釈溶液の添加濃度の調整も容易となる。
【0043】
本実施形態において、薬剤充填容器12から流出する溶解液の濃度を測定する(濃度測定工程)ことが好ましい。濃度測定装置28により薬剤充填容器12から流出する溶解液の濃度を測定することにより、その薬剤充填容器の上流側の容器内の薬剤の有無を確認することができ、薬剤の残量を把握することができる。
【0044】
濃度測定装置28としては、溶解液の濃度を測定することができるものであればよく、特に制限はないが、例えば、溶解液の導電率を測定する導電率測定装置、TOC(全有機炭素)測定装置、pH測定装置、ORP(酸化還元電位)測定装置等が挙げられる。これらのうち、運用上の測定精度等の点から、導電率を測定することが好ましい。
【0045】
濃度測定装置28による濃度測定点26の位置は、溶解液ライン20における少なくとも1点であればよい。
【0046】
また、本実施形態において、薬剤充填容器12が複数直列に配置され、直列に配置された薬剤充填容器12の群において、運転中に通液方向を逆転させる(通液方向逆転工程)ことが好ましい。
【0047】
薬剤充填容器12の群の途中の溶解液ライン20における少なくとも1点に設置された濃度測定点26において、濃度測定装置28により薬剤の残量を把握し、ある濃度測定点26において、薬剤の「残量なし」と判断された場合は、その濃度測定点26の上流側の薬剤充填容器12内の薬剤はほぼ消費されたと判断し、新品の薬剤充填容器と交換すればよい。また、新品の薬剤充填容器と交換した後、溶媒の通液方向を逆転し、運転を再開してもよい。これにより、充填した薬剤を無駄なく使用することができ、かつ薬剤の消費を認知しやすい。
【0048】
例えば、図2に示すように、直列に配列された薬剤充填容器12の群(図2の例では、薬剤充填容器12a,12b,12c,12d)に溶媒を通液する場合、基本的に上流側の薬剤充填容器内の薬剤から溶解し、消費されていく。このため、薬剤充填容器12の群の途中の溶解液ライン20における濃度測定点26(図2の例では、薬剤充填容器12bと薬剤充填容器12cとの間の溶解液ライン20bに設置されている)において、薬剤の残量有無を調べて「残量なし」ということが分かれば、濃度測定点26より上流側の薬剤充填容器12内(図2の例では、薬剤充填容器12a,12b)は全て「残量なし」と判断することができる。また、濃度測定点26より下流側の薬剤充填容器12(図2の例では、薬剤充填容器12c,12d)が「残量なし」となるにはさらに時間的猶予があるため、固形薬剤供給装置全体として、“薬剤枯渇”を見過ごすリスクが低減される。例えば、図3に示すように、「残量なし」と判断された薬剤充填容器12(図2、図3の例では、薬剤充填容器12a,12b)を全て新しいものに交換し、交換後、溶媒の通液方向を逆転(図3の例では、薬剤充填容器12d→12c→12b→12a)させれば、新しい薬剤充填容器(図3の例では、薬剤充填容器12a,12b)が濃度測定点26よりも下流側に配置されることになるため、薬剤の残量が「濃度測定点26より上流側<濃度測定点26より下流側」という状態が保たれ、“薬剤枯渇”を見過ごすリスクが低い状態が保たれる。しかし、新しい薬剤充填容器に交換後に通液方向を逆転させなければ、薬剤の残量が「濃度測定点26より上流側>濃度測定点26より下流側」となり、濃度測定点26において薬剤の「残量なし」となった時点で、すでに固形薬剤供給装置全体としても薬剤が枯渇してしまう場合が考えられ、固形薬剤供給装置全体として、“薬剤枯渇”を見過ごすリスクが増加する。
【0049】
濃度測定点26は、薬剤充填容器12の群の途中の溶解液ライン20のいずれかの場所に設置すればよく、特に制限はないが、運用上の利便性等の点から、薬剤充填容器12の群の中間の溶解液ライン20(図1〜図3の例では、4つの薬剤充填容器12a,12b,12c,12dの中間の溶解液ライン20b)に設置することが好ましい。
【0050】
通液方向逆転手段としては、ラインの切替バルブ等が挙げられる。
【0051】
図1〜図3の例では、4つの薬剤充填容器12a,12b,12c,12dが直列に接続されているが、複数の薬剤充填容器を円周上等に配置し、流路を切り替え、あたかもメリーゴーランドのように各薬剤充填容器の通水順序を順繰りに切り替え制御するメリーゴーランド方式であってもよい。
【0052】
本実施形態に係る固形薬剤供給方法および固形薬剤供給装置を適用可能な被処理液系としては、固形薬剤を用いる系であればよく、特に制限はないが、例えば、冷却水処理系、排水処理系、工業用水処理系、純水処理系等の各種水処理系全般に適用することができる。また、例えば、系内の圧力条件が比較的高いRO膜(例えば、0.75MPa程度)等の膜処理を含む各種水処理系の場合、系内に固形薬剤供給装置を組み込むのは困難であるため、大気開放区間を設けた本実施形態に係る固形薬剤供給方法および固形薬剤供給装置を好適に適用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
図1の固形薬剤供給装置を用い、固形のDBNPAの希釈溶液を調製し、被処理液系としてRO膜系に適用した。具体的には、以下の方法で行った。
(1)固形のDBNPAを10kg充填した円筒型の薬剤充填容器(材質:FRP)を4本直列に配列し、その薬剤充填容器内に溶媒として水を通水する。
(2)末端の薬剤充填容器の出口から流出したDBNPA溶解液をDBNPA溶解液貯槽に貯留する。
(3)希釈用溶媒としての水をDBNPA溶解液貯槽に供給し、2倍希釈する。
(4)2倍希釈されたDBNPA溶解液を、RO膜へ被処理液を供給する配管に薬注ポンプで薬注する。
その結果、簡便な構成で、固形分の析出による被処理液系の配管の閉塞が抑制され、被処理液中の薬剤濃度を微調整することができた。
【0055】
<比較例1>
RO膜へ被処理液を供給する配管にバイパス配管を設け、そこに直接、薬剤充填容器を組み込み、希釈溶液を調製した。具体的には、実施例1同様、固形のDBNPA10kgを充填した円筒型の薬剤充填容器を組み込んだ。その結果、固形分の析出による被処理液系の配管の閉塞、具体的にはストレーナ部分の閉塞が発生した。また、被処理液中の薬剤濃度を微調整することができなかった。
【符号の説明】
【0056】
1 固形薬剤供給装置、10 溶媒貯槽、12,12a,12b,12c,12d 薬剤充填容器、14 溶解液貯槽、16 溶媒ライン、18 溶媒供給ライン、20,20a,20b,20c,20d 溶解液ライン、22 希釈用溶媒ライン、24 希釈溶液供給ライン、26 濃度測定点、28 濃度測定装置、30 温度測定装置、32,34,36 ポンプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形薬剤を内部に充填した少なくとも1つの薬剤充填容器と、
前記薬剤充填容器内の固形薬剤を溶解するために、前記薬剤充填容器内に溶媒を供給する溶媒供給手段と、
前記固形薬剤が溶解された溶解液が流入する溶解液貯槽と、
前記溶解液を希釈するために、希釈用溶媒を前記溶解液貯槽へ供給する希釈用溶媒供給手段と、
前記溶解液貯槽内の前記溶解液の希釈溶液を被処理液系に供給するための希釈溶液供給手段と、
を備えることを特徴とする固形薬剤供給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の固形薬剤供給装置であって、
前記薬剤充填容器の容器が光を透過する材質で構成されていることを特徴とする固形薬剤供給装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固形薬剤供給装置であって、
前記薬剤充填容器が複数直列に配置され、直列に配置された前記薬剤充填容器群において、運転中に通液方向を逆転させる通液方向逆転手段を備えることを特徴とする固形薬剤供給装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の固形薬剤供給装置であって、
前記薬剤充填容器から流出する前記溶解液の濃度を測定する濃度測定手段を備えることを特徴とする固形薬剤供給装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の固形薬剤供給装置であって、
前記溶解液の温度を測定する温度測定手段と、
前記測定した温度に基づいて前記希釈用溶媒供給手段による希釈倍率を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする固形薬剤供給装置。
【請求項6】
固形薬剤を内部に充填した少なくとも1つの薬剤充填容器内の固形薬剤を溶解するために、前記薬剤充填容器内に溶媒を供給する溶媒供給工程と、
前記固形薬剤が溶解された溶解液が流入する溶解液貯槽へ、前記溶解液を希釈するために希釈用溶媒を供給する希釈用溶媒供給工程と、
前記溶解液貯槽内の前記溶解液の希釈溶液を被処理液系に供給する希釈溶液供給工程と、
を含むことを特徴とする固形薬剤供給方法。
【請求項7】
請求項6に記載の固形薬剤供給方法であって、
前記薬剤充填容器の容器が光を透過する材質で構成されていることを特徴とする固形薬剤供給方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の固形薬剤供給方法であって、
前記薬剤充填容器が複数直列に配置され、直列に配置された前記薬剤充填容器群において、運転中に通液方向を逆転させる通液方向逆転工程を含むことを特徴とする固形薬剤供給方法。
【請求項9】
請求項6〜8のいずれか1項に記載の固形薬剤供給方法であって、
前記薬剤充填容器から流出する前記溶解液の濃度を測定する濃度測定工程を含むことを特徴とする固形薬剤供給方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれか1項に記載の固形薬剤供給方法であって、
前記溶解液の温度を測定し、前記測定した温度に基づいて前記溶解液貯槽内の前記溶解液の希釈倍率を制御することを特徴とする固形薬剤供給方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−86045(P2013−86045A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−230453(P2011−230453)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】