説明

固有変形データ計算システム及び計算プログラム並びに溶接変形予測システム及び溶接変形予測プログラム

【課題】既存の固有変形データを利用して、溶接条件が異なる場合や異種材料を溶接する場合にも比較的簡素な計算で固有変形データを算出する。
【解決手段】固有変形データの計算システムは、同種材料を対象とする溶接の条件情報と固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段と、溶接される第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、新規条件情報を入力する新規条件情報入力手段と、該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択する参照レコード選択手段と、該選択手段で選択された参照レコードに記録されている条件情報及び固有変形データと前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の板状部材を溶接してなる構造体の各溶接線についての固有変形データの計算システム及び計算プログラム、並びに、その固有変形データを用いて前記構造体の溶接変形を有限要素法を用いた解析(以下「FEM解析」という)によって予測する溶接変形予測システム及び溶接変形予測プログラムに関し、コンピュータを用いた計算、予測技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
複数の板状部材を溶接して構造体を製造する場合、溶接時の熱により該構造体が全体としてどのように変形するかを予め予測しておくことが重要であり、これをコンピュータを用いて行おうとする試みがなされている。例えば特許文献1には、溶接構造体を基本的な溶接継手の集合体とみなし、各継手における溶接線の固有変形を溶接順序に従って構造体に与えることにより、構造体全体としての溶接変形を予測する方法が開示されている。この方法では、予め各溶接線についての固有変形データを用意する必要があり、このデータは測定或いは計算により求めるとされている。
【0003】
また、特許文献2には、溶接部近傍に仮想的に設けた基準図形について、所定溶接条件下で溶接前後の実測座標に基づいて固有変形の理論値を算出し、この理論値に基づいて算出した理論変形と前記実測座標を用いて算出した実測変形との差が所定範囲内のときに、前記固有変形の理論値を前記溶接条件での固有変形データとする方法が開示されている。
【0004】
また、簡単な溶接継手に対して、被溶接部材の熱膨張係数や比熱、密度等の物性値と溶接熱量とを用いたパラメータと、実験で測定した継手の溶接変形との関係を近似して整理するものが提案されており、さらに、日本溶接協会から溶接継手タイプや被溶接部材の材料分類等に応じた固有変形データを収録したデータベースが公開されている。
【0005】
そして、これらの方法によって得られた構造体の各溶接線についての各固有変形データを用い、既存のプログラムを用いてFEM解析を行えば、構造体全体としての溶接変形が予測されることになる。
【0006】
ここで、固有変形について溶接タイプが突合せ溶接である場合を例に説明する。
複数の板状部材を溶接する際には溶接時の熱で溶接線近傍の所定の領域に固有ひずみが生じることとなるが、固有変形とは、この固有ひずみを固有ひずみが生じる領域で積分したものであり、縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げの4つの基本変形によって規定することができる。
【0007】
図1は、突合せ溶接時の固有変形を説明するための説明図であり、図1では、板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12とを突合せ溶接によって接合した状態を示している。なお、図1では、溶接線方向をX方向とし、溶接線方向と直交する幅方向をY方向とし、板厚方向をZ方向として表している。
【0008】
図1に示すように、第1部材M11と第2部材M12の端面どうしを突き合わせて接合する突合せ溶接では、第1部材M11と第2部材M12の間に溶接線L11が形成されるとともに溶接線L11及び溶接線L11近傍の所定の領域(固有ひずみ領域)に固有ひずみが生じ、この固有ひずみにおいては、溶接線方向の固有ひずみ成分εxと溶接線方向と直交する幅方向の固有ひずみ成分εyとが支配的である。
【0009】
固有ひずみ成分εxの溶接線方向と直交する断面(yz断面)における分布をεx(y,z)と表し、固有ひずみ成分εyの溶接線方向と直交する断面(yz断面)における分布をεy(y,z)と表すと、固有ひずみ領域では、εx(y,z)とεy(y,z)はそれぞれ、図1に示すような幅方向及び板厚方向のひずみ分布を有している。
【0010】
一般には、固有ひずみ成分の分布εx(y,z)とεy(y,z)は、幅方向において第1部材M11と第2部材M12の溶接線L11で大きく溶接線L11から離れるにつれて小さくなるような分布を示すとともに、板厚方向において溶接時の熱が入力される側(図1では上側)で大きく反対側(図1では下側)に向かうにつれて小さくなるような分布を示す。
【0011】
固有ひずみを固有ひずみ領域で積分した固有変形は、縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げの4つの基本変形によって規定することができ、第1部材M11の固有縦収縮量Dx、固有横収縮量Dy、固有縦曲げ量Rx、固有横曲げ量Ryはそれぞれ以下の数1から数4で示す式で定義され、第2部材M12の固有縦収縮量Dx、固有横収縮量Dy、固有縦曲げ量Rx、固有横曲げ量Ryはそれぞれ以下の数5から数8で示す式で定義される。
【0012】
【数1】

【0013】
【数2】

【0014】
【数3】

【0015】
【数4】

【0016】
【数5】

【0017】
【数6】

【0018】
【数7】

【0019】
【数8】

【0020】
なお、固有ひずみ領域は、溶接線L11の中心をゼロとして第1部材M11側にb1の大きさを有するとともに第2部材M12側にb2の大きさを有するものとし、第1部材M11の固有ひずみ成分の分布をεx(y,z)、εy(y,z)とし、第2部材M12の固有ひずみ成分の分布をεx(y,z)、εy(y,z)として表している。
【0021】
図2は、突合せ溶接時の固有変形を模式的に示した図であり、図2では、固有変形ひずみ領域の溶接線方向に単位長さを有する部分を部分的に取り出して示している。第1部材M11と第2部材M12を溶接線L11で突合せ溶接によって接合する場合、図2(a)に定性的に示すように、固有ひずみ領域において溶接線方向に収縮されることとなるが、縦収縮とは、この溶接線方向の収縮を表すものであり、第1部材M11の固有縦収縮量Dxは前記数1で示す式によって定義され、第2部材M12の固有縦収縮量Dxは前記数5で示す式によって定義される。
【0022】
また、第1部材M11と第2部材M12の突合せ溶接時には、図2(b)に示すように、固有ひずみ領域において溶接線方向と直交する幅方向に収縮されることとなるが、横収縮とは、この溶接線方向と直交する幅方向の収縮をいうものであり、第1部材M11の固有横収縮量Dyは前記数2で示す式によって定義され、第2部材M12の固有横収縮量Dyは前記数6で示す式によって定義される。
【0023】
さらに、第1部材M11と第2部材M12の突合せ溶接時には、図2(c)に定性的に示すように、固有ひずみ領域において溶接線方向に湾曲して変形されることとなるが、縦曲げとは、この溶接線方向の曲げを表すものであり、第1部材M11の固有縦曲げ量Rxは前記数3で示す式によって定義され、第2部材M12の固有縦曲げ量Rxは前記数7で示す式によって定義される。
【0024】
また、第1部材M11と第2部材M12の突合せ溶接時には、図2(d)に示すように、固有ひずみ領域において溶接線方向と直交する方向に湾曲して変形されることとなるが、横曲げとは、この溶接線方向と直交する方向の曲げをいうものであり、第1部材M11の固有横曲げ量Ryは前記数4で示す式によって定義され、第2部材M12の固有横曲げ量Ryは前記数8で示す式によって定義される。なお、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接及び重ね隅肉溶接の他の溶接タイプにおける固有変形の詳細については後に説明する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】特開平06−180271号公報
【特許文献2】特開2005−201677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
しかし、前記データベースに収録された既存の固有変形データは、特定の条件におけるもので、今回、溶接変形を予測しようとする構造体の各溶接線についてそのまま適用できる場合は少ない。また、同種材料の部材を溶接するものに限られており、異種材料の部材が溶接される溶接線には適用することができない。
【0027】
また、前記特許文献2に記載された方法のように、実測に基づいて溶接線ごとに固有変形データを求めるのは、設備と多大の工数とを必要とし、採算上の問題がある。さらに、固有変形をコンピュータを用いた熱弾塑性FEM解析によって計算することも可能であるが、この解析に必要な被溶接部材の物性値には熱依存性を考慮する必要があるものも存在するので計算量が膨大となり、長時間を要するという問題がある。
【0028】
そこで、本発明は、既存の固有変形データを利用しながら異種材料の部材を溶接する場合にも適用でき、しかも、実験を要することなく、比較的簡素な計算で固有変形データを算出することができる計算システム及び計算プログラム、並びに、その固有変形データを用いて構造体全体の溶接変形をFEM解析によって予測する溶接変形予測システム及び溶接変形予測プログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0029】
前記課題を解決するため、本発明は、次のように構成したことを特徴とする。
【0030】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形を予測するためのFEM解析で用いる固有変形データの計算システムであって、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段と、互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段と、該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段と、該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段とを有することを特徴とする。ここで、前記板状部材には、平面状のものの他、曲面状、球面状等のものも含まれる。
【0031】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1の発明において、前記参照レコード選択手段は、前記固有変形データ記憶手段から、前記新規条件情報入力手段で入力された溶接タイプと、溶接条件に含まれる溶接方法と、材料物性に含まれる材料分類とが一致するレコードを抽出し、これらのレコードのいずれかを参照レコードとして選択することを特徴とする。
【0032】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、前記参照レコード選択手段は、前記固有変形データ記憶手段から参照レコードを1つ選択し、前記固有変形データ算出手段は、前記選択手段で選択された1つの参照レコードに記録されている条件情報及び固有変形データと、前記新規条件情報入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、第1、第2部材の固有変形データとして、縦収縮量Dx(mm)、横収縮量Dy(mm)、縦曲げ量Rx(rad)、横曲げ量Ry(rad)を、下記の関係式に従い、第1、第2部材について、それぞれ算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固有変形データ計算システム。
Dx=(ξ/ξiref)・Dxiref
Dy=(ξ/ξiref)・Dyiref
Rx=(χ/χiref・exp[−(m/χc)(χ−χiref)]・Rxiref
Ry=(χ/χiref・exp[−(m/χc)(χ−χiref)]・Ryiref
ここで、添え字i(=1、2)は第1、第2部材のいずれかを示し、irefは参照レコードに記録されている情報に基づいて算出した値であることを示し、ξ、χは収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータであり、m、χcは溶接タイプに応じて値が決められる係数であり、前記収縮変形パラメータξ及び曲げ変形パラメータχは、αを熱膨張係数、cを比熱、ρを密度、tを板厚、Qを溶接熱量として、次のように定義されている。
ξiref=[αiref/(ciref・ρiref・tiref)]・Qiref
χiref=[αiref/(ciref・ρiref・tiref)]・Qiref
ξ=[α/(c・ρ・t)]・Q
χ=[α/(c・ρ・t)]・Q
【0033】
また、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記参照レコード選択手段が抽出したレコードを表示装置に選択可能に表示する抽出レコード表示手段を有し、該表示手段は、レコードを表示装置に表示するときに、レコードごとに、そこに含まれる条件情報を用いて算出した参照パラメータの値を表示すると共に、前記新規条件情報入力手段で入力された新規条件情報を用いて算出した第1、第2部材についての平均的なパラメータである新規パラメータの値を表示し、前記参照レコード選択手段は、前記表示装置上で選択されたレコードを参照レコードとして選択することを特徴とする。
【0034】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の発明において、前記抽出レコード表示手段は、レコードを表示装置に表示するときに、参照パラメータが新規パラメータに最も近いレコードに印をつけて表示することを特徴とする。
【0035】
また、請求項6に記載の発明は、前記請求項1または請求項2に記載の発明において、前記参照レコード選択手段は、前記固有変形データ記憶手段から参照レコードを複数選択し、前記固有変形データ算出手段は、前記選択手段で選択された複数の参照レコードにそれぞれ記録されている条件情報及び固有変形データに基づいて固有変形特性を求めると共に、この固有変形特性と、前記新規条件情報入力手段で入力された新規条件情報とに基づいて、第1、第2部材の固有変形データを算出することを特徴とする。
【0036】
さらに、請求項7に記載の発明は、複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する溶接変形予測システムであって、前記構造体における各溶接線について、その固有変形を取得する手段として、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段と、互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段と、該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段と、該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段とを有すると共に、前記固有変形データ算出手段で算出された各溶接線についての固有変形データを記録する固有変形データ算出結果記録手段と、前記構造体を有限要素分割して作成した解析モデルに前記固有変形データ算出結果記録手段に記録されている各溶接線の固有変形データを適用し、弾性FEM解析によって該構造体の溶接変形を算出するFEM解析手段とを有することを特徴とする。
【0037】
また、請求項8に記載の発明は、複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形を予測するためのFEM解析で用いる固有変形データの計算プログラムであって、コンピュータを、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段、互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段、該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段、及び、該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段として機能させることを特徴とする。
【0038】
また、請求項9に記載の発明は、複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する溶接変形予測プログラムであって、コンピュータを、前記構造体における各溶接線について、その固有変形を取得する手段として、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段、互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段、該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段、及び、該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段として機能させると共に、該コンピュータを、さらに、前記固有変形データ算出手段で算出された各溶接線についての固有変形データを記録する固有変形データ算出結果記録手段、及び、前記構造体を有限要素分割して作成した解析モデルに前記固有変形データ算出結果記録手段に記録されている各溶接線の固有変形データを適用し、弾性FEM解析によって該構造体の溶接変形を算出するFEM解析手段として機能させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
以上の構成により、本願各請求項の発明によれば、次の効果が得られる。
【0040】
まず、本願の請求項1に記載の発明によれば、構造体の溶接変形をFEM解析で予測する際に用いられる固有変形データが、固有変形データ記憶手段から選択された参照レコードに記録されている既存の固有変形データを用い、そのデータを基礎として算出されることになる。したがって、固有変形データを一から算出するFEM解析による場合に比べて計算量が著しく少なく、短時間で計算結果が得られることになる。
【0041】
そして、固有変形データを算出する際に、その算出対象の溶接線を構成する第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接条件が新規条件情報として入力され、これらの情報を用いて両部材の固有変形データが算出されるので、既存の固有変形データと条件が異なる場合や、両部材が異種の材料である場合にも、それぞれの部材についての固有変形データを求めることができ、したがって、溶接条件が異なり或いは被溶接部材の材料が異なる種々の溶接線を含む構造体に対しても、そのFEM解析に必要な溶接線ごとの固有変形データを取り揃えることができ、構造体の溶接変形の予測が効率よく行われることになる。
【0042】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記固有変形データ記憶手段から参照レコードを選択するときに、今回算出しようとする溶接線と溶接タイプ、溶接方法、及び材料分類が一致するレコードを抽出し、これらのレコードのいずれかを参照レコードとして選択するので、前記溶接タイプ等が異なるレコードのデータを用いた場合に比べて、固有変形データの計算結果が実際の固有変形に精度よく対応することになる。
【0043】
また、請求項3に記載の発明によれば、固有変形データの算出に用いる参照レコードは
1つだけなので、既存のデータの数が少ない場合にも、所定の式に基づき、種々の条件の溶接線について固有変形を算出することが可能となる。
【0044】
また、請求項4に記載の発明によれば、前記固有変形データ記憶手段から抽出されたレコードから参照レコードを選択するときに、抽出されたレコードが表示装置に選択可能に表示されるので、当該システムのユーザーが参照レコードを選択することが可能となる。
その場合に、表示されるレコードには、それぞれの条件情報を用いて算出された参照パラメータが表示されると共に、今回の固有変形データ算出対象の溶接線を構成する第1、第2部材についての平均的なパラメータが新規パラメータとして表示されるので、ユーザーがこれらのパラメータの値を参考にして参照レコードを選択することができ、これにより精度のよい算出が可能となる。
【0045】
そして、請求項5に記載の発明によれば、抽出されたレコードが表示装置に表示されるときに、前記参照パラメータが新規パラメータに最も近いレコードに印が付されて表示されるので、ユーザーによる参照レコードの選択がより適切に行われることになる。
【0046】
さらに、請求項6に記載の発明によれば、前記固有変形データ記憶手段から参照レコードを選択するときに複数のレコードが選択され、これらのレコードにそれぞれ記録されている条件情報及び固有変形データに基づいて固有変形特性が求められ、この特性に基づいて第1、第2部材の固有変形データが算出されるので、固有変形データ記憶手段に記憶されている既存の固有変形データが比較的多数存在する場合に、これらのデータが有効に利用されて、一層精度よく固有変形データが算出されることになる。
【0047】
一方、請求項7に記載の発明によれば、前記請求項1に記載の固有変形データ記憶手段、新規条件情報入力手段、参照レコード選択手段及び固有変形データ算出手段と同様の手段によって算出された構造体における複数の溶接線についての固有変形データを用いて、その構造体全体の溶接変形がFEM解析によって算出されることになり、構造体の溶接変形を、短時間で精度よく予測することが可能となる。
【0048】
そして、請求項8、9に記載のプログラムに関する発明によれば、これをコンピュータで実行することにより、システムに関する前記請求項1、7に記載の発明と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】突合せ溶接時の固有変形を説明するための説明図である。
【図2】固有ひずみ領域のみを切出した突合せ溶接時の固有変形を模式的に示した図である。
【図3】複数の板状部材が溶接されてなる構造体モデルを示す図である。
【図4】溶接タイプを説明するための説明図である。
【図5】片側隅肉溶接時の固有変形を説明するための説明図である。
【図6】固有ひずみ領域のみを切出した片側隅肉溶接時の固有変形を模式的に示した図である。
【図7】突合せ溶接時の固有変形の算出について説明するための説明図である。
【図8】片側隅肉溶接時の第1部材の固有変形の算出について説明するための説明図である。
【図9】片側隅肉溶接時の第2部材の固有変形の算出について説明するための説明図である。
【図10】本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。
【図11】図10に示す記憶装置の構成を示す図である。
【図12】固有変形データベースに記録されたデータを示す図である。
【図13】溶接条件・物性値ファイルに記録されたデータを示す図である。
【図14】固有変形計算結果ファイルに記録されたデータを示す図である。
【図15】構造体の溶接変形を予測する動作を示すフローチャートである。
【図16】固有変形データ登録画面を示す図である。
【図17】固有変形データ登録画面の別の画面を示す図である。
【図18】固有変形計算のためのデータ入力画面を示す図である。
【図19】固有変形計算のための参照データ選択画面を示す図である。
【図20】固有変形計算のための参照データを選択する動作を示すフローチャートである。
【図21】固有変形の計算結果画面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
図3は、複数の板状部材が溶接されてなる構造体モデルを示す図である。図3に示す構造体モデル1は、第1部材M1と第2部材M2を溶接線L1で溶接し、第1部材M1と第3部材M3を溶接線L2で溶接し、第1部材M1と第4部材M4を溶接線L3で溶接するなど、複数の板状部材を溶接して製造するように設計されている。
【0051】
本発明は、図3に示すような複数の板状部材を溶接してなる構造体の各溶接線についての固有変形データを計算するようにしたものであり、また、その固有変形データを用いて構造体の溶接変形をFEM解析によって予測するようにしたものである。特に、同種材料の部材を溶接する場合に限定されるものでなく、異種材料の部材を溶接する場合にも適用できるようにするものである。ここで、前記板状部材には、平面状のものの他、曲面状、球面状等のものも含まれる。
【0052】
図4は、溶接タイプを説明するための説明図である。本実施形態では、同種材料または異種材料の2つの部材を溶接する溶接タイプとして、前述した突合せ溶接に加えて、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接及び重ね隅肉溶接の4つのタイプについて計算できるように構成されている。なお、図4では、板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12を4つの溶接タイプで接合した状態が示されている。
【0053】
前述したように、突合せ溶接は、図4(a)に示すように、第1部材M11と第2部材M12の端面どうしを突き合わせて、第1部材M11と第2部材M12とが略同一面内で溶接されるものであり、第1部材M11と第2部材M12との間に溶接線L11が形成されるものである。
【0054】
また、片側隅肉溶接は、図4(b)に示すように、第1部材M11の表面に第2部材M12の端面を略垂直に配置して第1部材M11と第2部材M12とによって形成される三角形部分の片側が溶接されるものであり、第1部材M11の表面と第2部材M12の表面との間に溶接線L12が形成されるものである。
【0055】
一方、両側隅肉溶接は、図4(c)に示すように、第1部材M11の表面に第2部材M12の端面を略垂直に配置して第1部材M11と第2部材M12とによって形成される三角形部分の両側が同時に溶接されるものであり、第1部材M11の表面と第2部材M12の両側の表面との間にそれぞれ溶接線L13が形成されるものである。
【0056】
また、重ね隅肉溶接は、図4(d)に示すように、第1部材M11と第2部材M12とを重ね合わせ、第1部材M11の表面と第2部材M12の端面とによって形成される三角形部分が溶接されるものであり、第1部材M11の表面と第2部材M12の端面との間に溶接線L14が形成されるものである。
【0057】
このようにして2つの部材M11、M12を溶接する場合、溶接時の熱で溶接線及び溶接線近傍の所定の領域(固有ひずみ領域)に固有ひずみが生じ、この固有ひずみを固有ひずみ領域で積分した固有変形は、縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げの4つの変形によって規定することができる。以下に、溶接継手タイプごとに、固有変形としての縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げについて説明する。
【0058】
第1部材M11と第2部材M12を溶接線L11で突合せ溶接によって接合する場合は、前述したように、第1部材M11及び第2部材M12には固有変形としての縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げが生じ、第1部材M11の縦収縮量Dx、横収縮量Dy、縦曲げ量Rx及び横曲げ量Ryはそれぞれ前記数1から数4で示す式で定義され、第2部材M12の縦収縮量Dx、横収縮量Dy、縦曲げ量Rx及び横曲げ量Ryはそれぞれ前記数5から数8で示す式で定義される。
【0059】
片側隅肉溶接時の固有変形についても同様に、縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げの4つの変形によって規定することができる。
図5は、片側隅肉溶接時の固有変形を説明するための説明図であり、図5では、板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12とを片側隅肉溶接によって接合した状態を示している。なお、図5(a)に第1部材M11の固有ひずみ領域を示し、図5(b)に第2部材M12の固有ひずみ領域を示し、図5(a)、図5(b)では、溶接線方向をX方向とし、溶接線方向と直交する第1部材、第2部材の幅方向をY方向とし、第1部材、第2部材の板厚方向をZ方向として表している。
【0060】
図5に示すように、第1部材M11の表面に第2部材M12の端面を略垂直に配置して接合する片側隅肉溶接では、第1部材M11及び第2部材M12にそれぞれ、溶接線L12近傍の所定の領域に固有ひずみが生じ、固有ひずみは、溶接線方向の固有ひずみ成分εxと溶接線方向と直交する幅方向の固有ひずみ成分εyとを有している。
【0061】
第1部材M11の固有ひずみ成分εxの溶接線方向と直交する断面(yz断面)における分布をεx(y,z)と表し、第1部材M11の固有ひずみ成分εyの溶接線方向と直交する断面(yz断面)における分布をεy(y,z)と表すと、第1部材M11の固有縦収縮量Dx、固有横収縮量Dy、固有縦曲げ量Rx、固有横曲げ量Ryはそれぞれ以下の数9から数12で示す式で定義される。なお、第1部材M11の固有ひずみ領域は、図5(a)に示すように、第2部材M12の板厚の中心をゼロとして溶接線L12側にb11の大きさを有するとともに溶接線L12の反対側にb12の大きさを有するものとして表している。
【0062】
【数9】

【0063】
【数10】

【0064】
【数11】

【0065】
【数12】

【0066】
また、第2部材M12の固有ひずみ成分εxの溶接線方向と直交する断面(yz断面)における分布をεx(y,z)と表し、第2部材M12の固有ひずみ成分εyの溶接線方向と直交する断面(yz断面)における分布をεy(y,z)と表すと、第2部材M12の固有縦収縮量Dx、固有横収縮量Dy、固有縦曲げ量Rx、固有横曲げ量Ryはそれぞれ以下の数13から数16で示す式で定義される。なお、第2部材M12の固有ひずみ領域は、図5(b)に示すように、第1部材M11側の端面をゼロとして幅方向にb2の大きさを有するものとして表している。
【0067】
【数13】

【0068】
【数14】

【0069】
【数15】

【0070】
【数16】

【0071】
図6は、片側隅肉溶接時の固有変形を模式的に示した図であり、図6では、固有変形ひずみ領域の溶接線方向に単位長さを有する部分を部分的に取り出して示している。第1部材M11と第2部材M12を溶接線L12で片側隅肉溶接によって接合する場合においても、図6(a)に示すように、固有ひずみ領域において第1部材M11と第2部材M12が溶接線方向に収縮されることとなるが、縦収縮とは、この第1部材M11と第2部材M12の溶接線方向の収縮をいうものであり、第1部材M11の固有縦収縮量Dxは前記数9で示す式によって定義され、第2部材M12の固有縦収縮量Dxは前記数13で示す式によって定義される。
【0072】
また、第1部材M11と第2部材M12の片側隅肉溶接時には、図6(b)に示すように、固有ひずみ領域において第1部材M11と第2部材M12がそれぞれ溶接線方向と直交する幅方向に収縮されることとなるが、横収縮とは、この第1部材M11と第2部材M12の溶接線方向と直交する幅方向の収縮をいうものであり、第1部材M11の固有横収縮量Dyは前記数10で示す式によって定義され、第2部材M12の固有横収縮量Dyは前記数14で示す式によって定義される。
【0073】
さらに、第1部材M11と第2部材M12の片側隅肉溶接時には、図6(c)に示すように、固有ひずみ領域において第1部材M11と第2部材M12がそれぞれ溶接線方向に湾曲して変形されることとなるが、縦曲げとは、この第1部材M11と第2部材M12の溶接線方向の曲げをいうものであり、第1部材M11の固有縦曲げ量Rxは前記数11で示す式によって定義され、第2部材M12の固有縦曲げ量Rxは前記数15で示す式によって定義される。
【0074】
また、第1部材M11と第2部材M12の片側隅肉溶接時には、図6(d)に示すように、固有ひずみ領域において第1部材M11と第2部材M12が溶接線方向と直交する方向に湾曲して変形されることとなるが、横曲げとは、この第1部材M11と第2部材M12の溶接線方向と直交する方向の曲げをいうものであり、第1部材M11の固有横曲げ量Ryは前記数12で示す式によって定義され、第2部材M12の固有横曲げ量Ryは前記数16で示す式によって定義される。
【0075】
なお、両側隅肉溶接時の固有変形については、図6に示す片側隅肉溶接時の固有変形と同様に、縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げが規定され、重ね隅肉溶接時の固有変形については、図2に示す突合せ溶接時の固有変形と同様に、縦収縮、横収縮、縦曲げ、横曲げが規定される。
【0076】
また、2つの部材M11、M12を溶接する場合、第1部材M11と第2部材M12に溶接熱量Qが入力されることとなるが、本実施形態では、互いに溶接される第1部材M11と第2部材M12の固有変形データを作成するために、溶接タイプごとに、溶接熱量Qが第1部材M11と第2部材M12の板厚に応じて第1部材M11に入力される溶接熱量Qと第2部材M12に入力される溶接熱量Qに分配されるものとして計算を行う。
【0077】
具体的には、突合せ溶接では、図4(a)に示すように板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12を接合する際に入力される溶接熱量Qは、第1部材M11と第2部材M12に分配されるものし、第1部材M11に入力される溶接熱量Qと第2部材M12に入力される溶接熱量Qはそれぞれ以下の数17、数18で示す式を用いて計算される。
【0078】
【数17】

【0079】
【数18】

【0080】
また、片側隅肉溶接においても、図4(b)に示すように板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12を接合する際に入力される溶接熱量Qは、第1部材M11と第2部材M12に分配されるものとし、片側隅肉溶接では、第1部材M11に入力される溶接熱量Qと第2部材M12に入力される溶接熱量Qはそれぞれ以下の数19、数20で示す式を用いて計算される。
【0081】
【数19】

【0082】
【数20】

【0083】
両側隅肉溶接においても、図4(c)に示すように板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12を溶接する際に入力される溶接熱量Qは、第1部材M11と第2部材M12に分配されるものとし、両側隅肉溶接では、第1部材M11に入力される溶接熱量Qと第2部材M12に入力される溶接熱量Qはそれぞれ以下の数21、数22で示す式を用いて計算される。
【0084】
【数21】

【0085】
【数22】

【0086】
また、重ね隅肉溶接においても、図4(d)に示すように板厚t1の第1部材M11と板厚t2の第2部材M12を溶接する際の溶接熱量Qは、第1部材M11と第2部材M12に分配されるものとし、重ね隅肉溶接では、第1部材M11の溶接熱量Qと第2部材M12の溶接熱量Qはそれぞれ以下の数23、数24で示す式を用いて計算される。
【0087】
【数23】

【0088】
【数24】

【0089】
本実施形態では、このように互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを計算するために、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを用いる。このレコードは、実験や測定、あるいは既存の固有変形データベース等から得ることができる。
【0090】
本願発明者等は、種々の研究を重ねた結果、突合せ溶接、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接及び重ね隅肉溶接の何れの溶接タイプにおいても、互いに溶接される第1部材と第2部材の固有変形データ、具体的には縦収縮量Dx(mm)、横収縮量Dy(mm)、縦曲げ量Rx(rad)、横曲げ量Ry(rad)がそれぞれ、以下の数25、数26、数27、数28で示す式で近似できることを見出した。なお、添え字(=1、2)は第1、第2部材のいずれかを示している。
【0091】
【数25】

【0092】
【数26】

【0093】
【数27】

【0094】
【数28】

【0095】
ここで、A及びBは比例係数、Rximaxは縦曲げ量の最大値、Ryimaxは横曲げ量の最大値であり、これらは、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いる場合に値が決められる係数である。また、ξ、χは収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータであり、熱膨張係数α、比熱c、密度ρ、板厚t、溶接熱量Qを用いて、以下の数29、数30で示す式で定義される。なお、溶接熱量Qとしては、第1部材と第2部材とを溶接する際の溶接熱量を、第1部材及び第2部材の板厚と溶接タイプとに応じて計算された第1部材及び第2部材のそれぞれに入力される溶接熱量を用いる。
【0096】
【数29】

【0097】
【数30】

【0098】
また、m及びχcは、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いる場合に、溶接タイプに応じて値が決められる係数であり、実験等から得られる値を用いることができる。本実施形態では、突合せ溶接ではm=2、χc=0.033を用い、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接及び重ね隅肉溶接ではm=1、χc=0.042を用いる。
【0099】
既存の一つのレコードを参照レコードとして用いる場合、参照レコードに記録されている固有変形データとしての第1部材と第2部材の縦収縮量Dxiref、横収縮量Dyiref、縦曲げ量Rxiref及び横曲げ量Ryiref、並びに、溶接の条件情報から算出される収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefを用いて、前記数25、数26、数27、数28で示す式はそれぞれ、以下の数31、数32、数33、数34で示す式で表される。
【0100】
【数31】

【0101】
【数32】

【0102】
【数33】

【0103】
【数34】

【0104】
なお、収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefは、参照レコードに記録されている溶接の条件情報としての第1部材と第2部材の熱膨張係数αiref、比熱ciref、密度ρiref、板厚tiref及び溶接熱量から算出される溶接熱量Qirefを用いて、以下の数35、数36で示す式に従って算出される。
【0105】
【数35】

【0106】
【数36】

【0107】
既存の一つのレコードを参照レコードとして用いる場合、収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefの計算では、溶接熱量Qirefとしては、第1部材と第2部材とを溶接する際の溶接熱量を、第1部材及び第2部材の板厚と溶接タイプとに応じて計算された第1部材及び第2部材のそれぞれに入力される溶接熱量を用いる。
【0108】
突合せ溶接では、第1部材と第2部材の溶接熱量Qirefはそれぞれ、第1部材と第2部材とを溶接したときの溶接熱量を前記数17、数18で示す式で分配した溶接熱量が用いられ、片側隅肉溶接では、第1部材と第2部材の溶接熱量Qirefはそれぞれ、前記数19、数20で示す式で分配された溶接熱量が用いられる。
【0109】
また、両側隅肉溶接では、第1部材と第2部材の溶接熱量Qirefはそれぞれ、第1部材と第2部材とを溶接したときの前記数21、数22で示す式で分配された溶接熱量が用いられ、重ね隅肉溶接では、第1部材と第2部材の溶接熱量Qirefはそれぞれ、前記数23、数24で示す式で分配された溶接熱量が用いられる。
【0110】
また、既存の一つのレコードは、同種材料からなる2つの部材を接合したものであるので、第1部材と第2部材の熱膨張係数αiref、比熱ciref及び密度ρirefは同一であるが、第1部材及び第2部材の板厚tiref並びに第1部材と第2部材に分配される溶接熱量Qirefの少なくとも何れかが異なる場合には、第1部材と第2部材とで収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefが異なることとなる。
【0111】
既存のレコードにおいて、第1部材及び第2部材の板厚tiref並びに第1部材と第2部材に分配される溶接熱量Qirefの少なくとも何れかが異なる場合、第1部材と第2部材の固有変形データも異なることから、第1部材と第2部材のそれぞれの固有変形データが登録され、第1部材と第2部材の収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefはそれぞれ、前記数35、数36で示す式に従って算出される。
【0112】
このように、本実施形態では、既存の一つのレコードを参照レコードとして用い、前記数31、数32、数33、数34で示す式に基づいて、第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から両部材の固有変形データをそれぞれ算出する。
【0113】
図7は、突合せ溶接時の固有変形の算出について説明するための説明図であり、図7(a)及び図7(b)はそれぞれ、既存の一つのレコードとして用いる参照レコードに基づく第1部材と第2部材の収縮変形パラメータと縦収縮量及び横収縮量との関係を示し、図7(c)及び図7(d)はそれぞれ、既存の一つのレコードとして用いる参照レコードに基づく第1部材と第2部材の曲げ変形パラメータと縦曲げ量及び横曲げ量との関係を示している。
【0114】
図7に示す既存の一つのレコードとして用いる参照レコードは、板厚が同一である同種材料からなる第1部材と第2部材とを突合せ溶接によって接合したものであるので、参照レコードに記録されている第1部材と第2部材の固有変形、すなわち縦収縮量Dxiref、横収縮量Dyiref、縦曲げ量Rxiref及び横曲げ量Ryirefが同一であるとともに、第1部材と第2部材の収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefが同一である。
【0115】
このように、板厚が同一である同種材料からなる第1部材と第2部材とを突合せ溶接によって接合したものを参照レコードとして用いる場合に、溶接タイプが同一である算出対象の溶接線を構成する第1部材叉は第2部材についての前記数31、数32、数33、数34で示す関係式がそれぞれ図7(a)、図7(b)、図7(c)、図7(d)において実線で示されている。なお、図7では、第1部材と第2部材の縦収縮量Dxiref、横収縮量Dyiref、縦曲げ量Rxiref、横曲げ量Ryiref、収縮変形パラメータξiref、曲げ変形パラメータχirefをそれぞれDxref、Dyref、Rxref、Ryref、ξref及びχrefとして表している。
【0116】
前述したように、突合せ溶接時には、第1部材及び第2部材の縦収縮量Dxはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数31で示す関係式で表され、収縮変形パラメータξについては、互いに溶接される第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から、第1部材の収縮変形パラメータξと第2部材の収縮変形パラメータξが、前記数29で示す式で算出される。第1部材の収縮変形パラメータξと第2部材の収縮変形パラメータξが算出されると、前記数31で示す関係式に従って、図7(a)に示すように、第1部材の縦収縮量Dxと第2部材の縦収縮量Dxが算出される。
【0117】
横収縮量についても同様に、第1部材及び第2部材の横収縮量Dyはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数32で示す関係式で表され、算出された第1部材の収縮変形パラメータξと第2部材の収縮変形パラメータξを用いて、前記数32で示す関係式に従って、図7(b)に示すように、第1部材の横収縮量Dyと第2部材の横収縮量Dyが算出される。
【0118】
また、突合せ溶接時には、第1部材及び第2部材の縦曲げ量Rxはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数33で示す関係式で表され、曲げ変形パラメータχについては、互いに溶接される第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から、第1部材の曲げ変形パラメータχと第2部材の曲げ変形パラメータχが、前記数30で示す式で算出される。第1部材の曲げ変形パラメータχと第2部材の曲げ変形パラメータχが算出されると、前記数33で示す関係式に従って、図7(c)に示すように、第1部材の縦曲げ量Rxと第2部材の縦曲げ量Rxが算出される。
【0119】
横曲げ量についても同様に、第1部材及び第2部材の横曲げ量Ryはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数34で示す関係式で表され、算出された第1部材の曲げ変形パラメータχと第2部材の曲げ変形パラメータχを用いて、前記数34で示す関係式に従って、図7(d)に示すように、第1部材の横曲げ量Ryと第2部材の横曲げ量Ryが算出される。
【0120】
次に、片側隅肉溶接時の固有変形の算出について説明する。
図8は、片側隅肉溶接時の第1部材の固有変形の算出について説明するための説明図であり、図8(a)及び図8(b)はそれぞれ、既存の一つのレコードとして用いる参照レコードに基づく第1部材の収縮変形パラメータと縦収縮量及び横収縮量との関係を示し、図8(c)及び図8(d)はそれぞれ、既存の一つのレコードとして用いる参照レコードに基づく第1部材の曲げ変形パラメータと縦曲げ量及び横曲げ量との関係を示している。なお、片側隅肉溶接時の第1部材は、該第1部材の表面に第2部材が接合される部材とし、片側隅肉溶接時の第2部材は、第1部材の表面に該第2部材の端面が接合される部材とする。
【0121】
また、図9は、片側隅肉溶接時の第2部材の固有変形の算出について説明するための説明図であり、図9(a)及び図9(b)はそれぞれ、参照レコードに基づいて第2部材の収縮変形パラメータと縦収縮量及び横収縮量との関係を示し、図9(c)及び図9(d)はそれぞれ、参照レコードに基づいて第2部材の曲げ変形パラメータと縦曲げ量及び横曲げ量との関係を示している。
【0122】
図8及び図9に示す既存の一つのレコードとして用いる参照レコードは、板厚が異なる同種材料からなる第1部材と第2部材とを片側隅肉溶接によって接合したものであるので、参照レコードに記録されている第1部材と第2部材の固有変形、すなわち縦収縮量Dxiref、横収縮量Dyiref、縦曲げ量Rxiref、横曲げ量Ryiref、収縮変形パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefが異なることとなる。
【0123】
このように、板厚が異なる同種材料からなる第1部材と第2部材とを片側隅肉溶接によって接合したものを参照レコードとして用いる場合に、溶接タイプが同一である算出対象の溶接線を構成する第1部材の前記数31、数32、数33、数34で示す関係式がそれぞれ図8(a)、図8(b)、図8(c)、図8(d)において実線で示され、溶接タイプが同一である算出対象の溶接線を構成する第2部材の前記数31、数32、数33、数34で示す関係式がそれぞれ図9(a)、図9(b)、図9(c)、図9(d)において実線で示されている。
【0124】
前述したように、片側隅肉溶接時においても、第1部材及び第2部材の縦収縮量Dxはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数31で示す関係式で表され、収縮変形パラメータξについては、互いに溶接される第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から、第1部材の収縮変形パラメータξと第2部材の収縮変形パラメータξが、前記数29で示す式で算出される。
【0125】
第1部材の収縮変形パラメータξと第2部材の収縮変形パラメータξが算出されると、第1部材の収縮変形パラメータξから前記数31で示す関係式に従って、図8(a)に示すように第1部材の縦収縮量Dxが算出され、第2部材の収縮変形パラメータξから前記数31で示す関係式に従って、図9(a)に示すように第2部材の縦収縮量Dxが算出される。
【0126】
横収縮量についても同様に、第1部材及び第2部材の横収縮量Dyはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数32で示す関係式で表され、算出された第1部材の収縮変形パラメータξを用いて、前記数32で示す関係式に従って、図8(b)に示すように第1部材の横収縮量Dyが算出され、算出された第2部材の収縮変形パラメータξを用いて、前記数32で示す関係式に従って、図9(b)に示すように第2部材の横収縮量Dyが算出される。
【0127】
また、片側隅肉溶接時には、第1部材及び第2部材の縦曲げ量Rxはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数33で示す関係式で表され、曲げ変形パラメータχについては、互いに溶接される第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から、第1部材の曲げ変形パラメータχと第2部材の曲げ変形パラメータχが、前記数30で示す式で算出される。
【0128】
第1部材の曲げ変形パラメータχと第2部材の曲げ変形パラメータχが算出されると、第1部材の曲げ変形パラメータχから前記数33で示す関係式に従って、図8(c)に示すように第1部材の縦曲げ量Rxが算出され、第2部材の曲げ変形パラメータχから前記数33で示す関係式に従って、図9(c)に示すように第2部材の縦曲げ量Rxが算出される。
【0129】
横曲げ量についても同様に、第1部材及び第2部材の横曲げ量Ryはそれぞれ、既存の一つのレコードを参照レコードとして用いた場合に前記数34で示す関係式で表され、算出された第1部材の曲げ変形パラメータχを用いて、前記数34で示す関係式に従って、図8(d)に示すように第1部材の横曲げ量Ryが算出され、算出された第2部材の曲げ変形パラメータχを用いて、前記数34で示す関係式に従って、図9(d)に示すように第2部材の横曲げ量Ryが算出される。
【0130】
このように、既存の一つのレコードである参照レコードに記録されている第1部材と第2部材の固有変形データと条件情報から前記数31、数32、数33、数34に示す関係式に従って、算出対象の溶接線を構成する第1、第2部材の固有変形データが算出される。また、前記関係式の収縮パラメータξ及び曲げ変形パラメータχは、新規条件から前記数29、数30に示す関係式によって算出され、前記関係式の収縮パラメータξiref及び曲げ変形パラメータχirefは、参照レコードに記録されている条件情報から前記数35、数36に示す関係式によって算出される。
【0131】
また、本実施形態では、参照レコードに記録されている第1部材と第2部材の固有変形データと条件情報から算出される第1部材と第2部材の収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータが同じである場合には、前述した突合せ溶接の場合と同様にして固有変形データを計算し、参照レコードに記録されている第1部材と第2部材の固有変形データと条件情報から算出される第1部材と第2部材の収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータの少なくとも何れかが異なる場合には、前述した片側隅肉溶接の場合と同様にして固有変形データを計算する。
【0132】
このようにして、本実施形態では、既存の参照レコードに記録されている溶接の条件情報や固有変形データと、互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から、第1部材と第2部材の固有変形データを算出する。
【0133】
次に、本発明の実施形態に係る固有変形データ計算システム及び溶接変形予測システムについて説明する。
【0134】
図10は、本発明の実施形態に係るシステムの全体構成を示す図である。図10に示すように、本発明の実施形態に係るシステムは、コンピュータ10を中心として構成され、コンピュータ10は、中央演算装置11と、固有変形データの計算や溶接変形の計算に必要なデータなどを入力するためのキーボートなどの入力装置12と、固有変形データの計算結果や溶接変形の計算結果などを表示するためのディスプレイなどの表示装置13と、固有変形データを計算するためのプログラムや溶接変形を計算するためのプログラムなどを記憶するメモリなどの記憶装置14と、溶接変形の計算結果などを出力するプリンタなどの出力装置15を有している。
【0135】
中央演算装置11は、入力装置12、表示装置13及び出力装置15を制御するとともに、記憶装置14にアクセス可能に構成され、入力装置12を介して入力された情報と記憶装置14に記録されているプログラムやデータを用いて、固有変形データの計算や溶接変形の計算をすることができるように構成されている。
【0136】
図11は、図10に示す記憶装置の構成を示す図である。図11に示すように、記憶装置14は、プログラム記憶部とデータ記憶部を有しており、プログラム記憶部には、固有変形を計算するための固有変形計算プログラムと、複数の板状部材が溶接されてなる構造体の溶接変形を有限要素解析によって計算するための溶接変形計算プログラムとが記憶されている。
【0137】
固有変形計算プログラムは、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを登録するための固有変形データ登録プログラムと、構造体における各溶接線について、互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、第1、第2部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力プログラムと、構造体における各溶接線について、互いに溶接される第1部材と第2部材の固有変形データを計算するための計算プログラムとを有している。
【0138】
また、溶接変形計算プログラムは、構造体の図形データから構造体を有限要素分割して解析モデルを作成する既知の解析モデル作成プログラムと、構造体の各溶接線における固有変形データを適用し、弾性FEM解析によって該構造体の溶接変形を算出する既知の有限要素解析プログラムとを有している。
【0139】
一方、データ記憶部には、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードが複数記録される固有変形データベースが備えられるとともに、複数の板状部材を溶接してなる構造体の図形データが記録される構造体形状データファイルと、構造体における各溶接線について、溶接タイプ、互いに溶接される第1、第2部材の材料物性、及び溶接条件が記録される溶接条件・物性値ファイルと、構造体の各溶接線について、互いに溶接される第1部材と第2部材の固有変形の計算結果が記録される固有変形計算結果ファイルと、構造体の溶接変形の計算結果が記録される溶接変形計算結果ファイルとが設けられている。
【0140】
図12は、固有変形データベースに記録されたデータを示す図である。図12に示すように、固有変形データベースには、既存の固有変形データが溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件などの溶接の条件情報とともに予め登録される。具体的には、突合せ溶接、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接又は重ね隅肉溶接などの溶接タイプ、材料物性として鉄、ステンレス又はアルミニウムなどの材料分類、板厚、密度、比熱及び熱膨張係数、溶接条件としてアーク溶接又はレーザ溶接などの溶接方法、電流、電圧、速度及び熱効率、並びに固有変形データとして縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量及び横曲げ量が記録される。
【0141】
また、図12では、番号4に登録された溶接タイプが片側隅肉溶接であるデータにおいて、板厚の欄と固有変形、すなわち縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量、横曲げ量の欄が上下二段に分けられ、上段に第1部材のデータが記録され、下段に第2部材のデータが記録されている。このように、固有変形データベースには、第1部材と第2部材のデータが異なる場合、上段に第1部材のデータが記録され、下段に第2部材のデータが記録される。なお、第1部材と第2部材は、図4に示す第1部材と第2部材に対応するものとする。
【0142】
図13は、溶接条件・物性値ファイルに記録されたデータを示す図である。構造体の各溶接線について、溶接タイプ、第1、第2部材の材料物性、及び溶接条件の新規条件情報が入力装置12を介して入力され、図13に示すように、溶接条件・物性値ファイルに、構造体の各溶接線について新規条件情報が記録される。具体的には、データ名、溶接線番号、溶接方法、溶接タイプ、溶接条件として電流、電圧、速度及び熱効率、並びに第1部材及び第2部材の材料物性として材料分類、板厚、密度、比熱及び熱膨張係数が記録される。
【0143】
また、図14は、固有変形計算結果ファイルに記録されたデータを示す図である。前述したように、本実施形態では、既存の参照レコードに記録されている溶接の条件情報や固有変形データと、互いに溶接される第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接タイプ、溶接条件から第1部材と第2部材の固有変形が計算され、図14に示すように、固有変形計算結果ファイルに、固有変形の計算結果が記録される。具体的には、構造体の各溶接線について、データ名、溶接線番号、第1部材及び第2部材の固有変形として縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量及び横曲げ量が記録される。
【0144】
また、コンピュータ10は、後述するように、互いに溶接される第1部材と第2部材の新規条件情報に基づいて、固有変形データベースから少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択することができるようになっているとともに、参照レコードの選択が、新規条件情報の溶接タイプ、溶接条件に含まれる溶接方法、及び材料物性に含まれる材料分類が一致するレコードを抽出し、これらのレコードを参照レコードとして選択することができるようになっている。さらにまた、コンピュータ10は、抽出したレコードを表示装置13に選択可能に表示することができるようになっている。
【0145】
次に、複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する動作について具体的に説明する。
図15は、構造体の溶接変形を予測する動作を示すフローチャートである。構造体の溶接変形を予測する前に、コンピュータ10には、先ず、入力装置12を介して同種材料を対象とする溶接の条件情報と固有変形データとを一組とする既存のレコードがユーザーによって予め登録される。
【0146】
図16は、固有変形データ登録画面を示す図である。図16に示すように、既存のレコードを登録する際には、表示装置13に固有変形データ登録画面20が表示され、該登録画面20には、番号入力部21、溶接条件入力部22、材料物性入力部23、固有変形入力部24が設けられるとともに、登録ボタン25が設けられている。
【0147】
番号入力部21には、データ番号をテキストボックスに入力することができ、溶接方法をアーク溶接及びレーザ溶接からなるプルダウンリストから選択することができ、溶接タイプを突合せ溶接、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接及び重ね隅肉溶接からなるプルダウンリストから選択することができるようになっている。
【0148】
また、溶接条件入力部22には、電流、電圧、速度及び熱効率をテキストボックスに入力することができ、材料物性入力部23には、材料分類を鉄、ステンレスまたはアルミニウムからなるプルダウンリストから選択することができるとともに板厚、密度、比熱、熱膨張係数をテキストボックスに入力することができ、固有変形入力部24には縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量、横曲げ量をテキストボックスに入力することができるようになっている。
【0149】
そして、これらの既存のレコードを入力した後にユーザーによって登録ボタン25が押されると、固有変形データベースに一組の既存のレコードが記録される。同様にして、予め既存のレコードが複数記録される。なお、既存のレコードは、既存の固有変形データベース等から得ることができる。
【0150】
図17は、固有変形データ登録画面の別の画面を示す図である。固有変形データ登録画面20において、溶接タイプとしてプルダウンリストから片側隅肉溶接を選択した場合には、図17に示すように、材料物性入力部23において第1部材と第2部材の板厚をテキストボックスに入力することができるとともに、固有変形入力部24において第1部材と第2部材の縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量、横曲げ量をテキストボックスに入力することができる画面が表示されるようになっている。図17に示す画面においても、これらの既存のレコードを入力した後にユーザーによって登録ボタン25が押されると、固有変形データベースに一組の既存のレコードが記録される。なお、両側隅肉溶接、重ね隅肉溶接が選択される場合にも同様の画面が表示される。
【0151】
このようにして既存のレコードが登録された状態で、図15に示すようにして、構造体の溶接変形の予測が行われる。先ず、コンピュータ10に、構造体の図形データが取り込まれ(ステップS1)、構造体の溶接線がユーザーによって抽出される(ステップS2)。なお、構造体の図形データに溶接線を予め記録しておくことで、自動的に溶接線を抽出することも可能である。
【0152】
次に、構造体の溶接変形を予測するためのFEM解析で用いる構造体の各溶接線についての固有変形データが計算される(ステップS3)。構造体の各溶接線についての固有変形データの計算については後に詳細に説明する。構造体の各溶接線について固有変形データが算出されると、各溶接線についての固有変形データが固有変形計算結果ファイルに記録される。
【0153】
そして、構造体の図形データから構造体が有限要素分割されて解析モデルが作成され、該解析モデルに、固有変形計算結果ファイルに記録されている構造体の各溶接線における固有変形データが適用され、弾性FEM解析によって構造体の溶接変形が算出される(ステップS4)。構造体の溶接変形が算出されると、解析結果である構造体の溶接変形が溶接変形計算結果ファイルに記録されるとともに出力装置15に出力される(ステップS5)。
【0154】
次に、構造体の各溶接線についての固有変形データの計算について説明する。
固有変形データを計算する際には、先ず、構造体の各溶接線について、溶接タイプと、互いに溶接される2つの部材の材料物性と、溶接条件とが新規条件情報としてユーザーによって入力される。
【0155】
図18は、固有変形計算のためのデータ入力画面を示す図である。図18に示すように、構造体の各溶接線について新規条件情報を入力する際には、表示装置13に固有変形計算のためのデータ入力画面30が表示され、該入力画面30には、データ名入力部31、溶接条件入力部32、互いに溶接される第1部材及び第2部材の材料物性入力部33、34が設けられるとともに、参照データ選択ボタン35が設けられている。
【0156】
データ名入力部31には、データ名及び溶接線番号をテキストボックスに入力することができ、溶接方法をアーク溶接及びレーザ溶接からなるプルダウンリストから選択することができ、溶接タイプを突合せ溶接、片側隅肉溶接、両側隅肉溶接及び重ね隅肉溶接からなるプルダウンリストから選択することができるようになっている。
【0157】
また、溶接条件入力部32には、電流、電圧、速度及び熱効率をテキストボックスに入力することができ、第1部材及び第2部材の材料物性入力部33、34にはそれぞれ、材料分類を鉄、ステンレスまたはアルミニウムからなるプルダウンリストから選択することができるとともに板厚、密度、比熱、熱膨張係数をテキストボックスに入力することができるようになっている。
【0158】
そして、構造体の溶接線について新規条件情報を入力した後にユーザーによって参照データ選択ボタン35が押されると、コンピュータ10では、構造体の溶接線についての新規条件情報に基づいて、固有変形データベースに記録されている複数のレコードから、溶接タイプと、溶接方法と、材料分類とが一致するレコードを抽出し、これらのレコードのいずれかを参照レコードとして選択することができるように、表示装置13に固有変形計算のための参照データ選択画面が表示される。
【0159】
図19は、固有変形計算のための参照データ選択画面を示す図である。図19に示すように、参照データ選択画面40には、抽出条件表示部41、新規パラメータ表示部42、抽出レコード表示部43が設けられるとともに、OKボタン44が設けられている。
【0160】
抽出条件表示部41には、新規条件情報の溶接方法、溶接タイプが表示されるようになっている。また、新規パラメータ表示部42には、新規条件情報を用いて算出された新規パラメータ、具体的には収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータの値が表示されるようになっている。
【0161】
レコード抽出時の新規パラメータ、具体的には収縮変形パラメータξ及び曲げ変形パラメータχは、新規条件として入力した第1部材と第2部材についての平均的なパラメータであり、第1部材と第2部材の平均の熱膨張係数αAVE、比熱cAVE、密度ρAVE、板厚tAVEと溶接条件から以下の数37で示す式で算出される溶接熱量Qを用いて、以下の数38、数39で示す式から算出される。なお、Iは電流、Vは電圧、ηは熱効率、vは速度を示している。
【0162】
【数37】

【0163】
【数38】

【0164】
【数39】

【0165】
そして、抽出レコード表示部43には、新規条件情報に基づいて、固有変形データベースに記録されている複数のレコードから、溶接タイプと、溶接方法と、材料分類とが一致するレコードが抽出されて表示され、抽出したレコードごとに、レコードの番号と、材料分類と、そこに含まれる条件情報を用いて算出された参照パラメータ、具体的には収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータの値が表示されるようになっている。
【0166】
参照パラメータについても、レコードに記録されている条件情報から算出される第1部材と第2部材についての平均的なパラメータであり、第1部材と第2部材の平均の熱膨張係数αAVE、比熱cAVE、密度ρAVE、板厚tAVEと溶接条件から前記数37で示す式で算出した溶接熱量を用いて、前記数38、数39で示す式から算出される。なお、レコードには、同一材料を対象とする溶接の条件情報が記録されているので、第1部材と第2部材の平均の熱膨張係数αAVE、比熱cAVE、密度ρAVEは、第1部材及び第2部材の熱膨張係数、比熱、密度である。
【0167】
また、レコード抽出時には、材料分類について、新規条件情報の材料分類が第1部材と第2部材とで同一である場合は、その材料分類と一致するレコードが抽出されて表示され、新規条件情報の材料分類が第1部材と第2部材とで異なる場合は、第1部材の材料分類と一致するレコードと第2部材の材料分類と一致するレコードとがともに抽出されて表示される。
【0168】
抽出レコード表示部43では、抽出したレコードは、参照パラメータが新規パラメータに近い順に上方から表示され、コンピュータ10が推奨するものとして参照パラメータが新規パラメータに最も近いレコードに印(黒丸)をつけて表示されるようになっている。具体的には、抽出したレコードは、参照パラメータの曲げ変形パラメータが新規パラメータの曲げ変形パラメータに近い順に上方から表示され、参照パラメータの曲げ変形パラメータが新規パラメータの曲げ変形パラメータに最も近いレコードに印をつけて表示されるようになっている。
【0169】
図20は、固有変形計算のための参照データを選択する動作を示すフローチャートである。参照データ選択ボタン35がユーザーによって押されると、コンピュータ10では、図20に示すように、固有変形データベースから溶接タイプ、溶接方法及び材料分類が一致するレコードが抽出され(ステップS11)、抽出したレコードの参照パラメータ、具体的には収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータが計算される(ステップS12)。
【0170】
次に、新規条件情報の第1部材と第2部材の材料物性及び溶接条件から新規パラメータ、具体的には収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータが計算される(ステップS13)。なお、参照パラメータと新規パラメータはともに、前述したように、第1部材と第2部材についての平均的なパラメータである。
【0171】
そして、参照パラメータの曲げ変形パラメータが新規パラメータの曲げ変形パラメータに最も近いレコードが選択され(ステップS14)、抽出したレコードの参照パラメータと新規パラメータがそれぞれ抽出レコード表示部43と新規パラメータ表示部42に表示され(ステップS15)、ステップS14において選択されたレコードに印が付されて表示される(ステップS16)。
【0172】
なお、抽出したレコードについて、参照パラメータの収縮変形パラメータが新規パラメータの収縮変形パラメータに近い順に上方から表示し、収縮変形パラメータが最も近いレコードに印をつけて表示するようにしてもよい。
【0173】
また、抽出レコード表示部43には、抽出したレコードのいずれかを参照レコードとして選択するためのチェックボックス45が設けられており、ユーザーは抽出したレコードから1つのレコードを選択することができるようになっている。ユーザーは、推奨されるレコード、あるいはそれ以外のレコードを選択することができるようになっている。なお、コンピュータ10において推奨されるレコードを自動的に選択するようにすることも可能である。
【0174】
このように、表示されるレコードには、それぞれの条件情報を用いて算出された参照パラメータが表示されると共に、今回の固有変形データ算出対象の溶接線を構成する第1、第2部材についての平均的なパラメータが新規パラメータとして表示されるので、ユーザーがこれらのパラメータの値を参考にして参照レコードを選択することができ、これにより精度のよい算出が可能となる。また、固有変形データの算出に用いる参照レコードは1つだけなので、既存のデータの数が少ない場合にも、所定の式に基づき、種々の条件の溶接線について固有変形を算出することが可能となる。
【0175】
さらに、参照レコードを選択するときに、今回算出しようとする溶接線と溶接タイプ、溶接方法、及び材料分類が一致するレコードを抽出し、これらのレコードのいずれかを参照レコードとして選択するので、溶接タイプ等が異なるレコードのデータを用いた場合に比べて、固有変形データの計算結果が実際の固有変形に精度よく対応することになる。また、抽出されたレコードが表示装置に表示されるときに、参照パラメータが新規パラメータに最も近いレコードに印が付されて表示されるので、ユーザーによる参照レコードの選択がより適切に行われることになる。
【0176】
そして、レコードを選択した後にOKボタン44が押されると、コンピュータ10では、選択された1つの参照レコードに記録されている条件情報及び固有変形データと、新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1部材と第2部材の固有変形データが算出される。
【0177】
前述したように、互いに溶接される第1部材と第2部材の固有変形データ、具体的には縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量、横曲げ量は、前記数31、数32、数33、数34の関係式に従って算出される。なお、有限要素解析によって構造体の溶接変形を解析する際には、縦曲げ量のデータを使用することなく算出することができるので、本実施形態では、固有変形の計算結果をゼロとしている。
【0178】
構造体の溶接線について固有変形データが算出されると、コンピュータ10では、算出された固有変形データが固有変形計算結果ファイルに記録されるとともに、ユーザーが固有変形計算の計算結果を確認することができるように表示装置13に固有変形の計算結果画面が表示される。
【0179】
図21は、固有変形の計算結果画面を示す図である。図21に示すように、固有変形の計算結果画面50には、データ名表示部51、固有変形表示部52が設けられ、データ名表示部51には、データ名及び溶接線番号が表示されるようになっており、固有変形表示部52には、互いに溶接される第1部材と第2部材の固有変形データとして縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量及び横曲げ量が表示されるようになっている。
【0180】
また、固有変形の計算結果画面50には、次の溶接線ボタン53及び終了ボタン54が設けられ、次の溶接線ボタン53が押されると、次の溶接線の固有変形の計算結果が表示されるようになっており、終了ボタン54が押されると、固有変形の計算結果画面50が閉じられるようになっている。
【0181】
なお、図21では、図12に示される固有変形データベースに記録されたデータの番号1を参照レコードとして選択し、図13に示される溶接条件・物性値ファイルに記録された新規条件情報の下で計算された固有変形データが示されている。
【0182】
このようにして、構造体の各溶接線についても同様に、溶接線ごとに、同種材料あるいは異種材料の互いに溶接される第1部材と第2部材の固有変形データが算出され、算出された固有変形データが固有変形計算結果ファイルに記録されるようになっている。
【0183】
構造体の各溶接線について固有変形データが算出されると、前述したように、構造体の図形データから構造体が有限要素分割されて解析モデルが作成され、該解析モデルに、固有変形計算結果ファイルに記録されている構造体の各溶接線における固有変形データが適用され、弾性FEM解析によって構造体の溶接変形が算出される。
【0184】
このように、本実施形態によれば、構造体の溶接変形をFEM解析で予測する際に用いられる固有変形データが、固有変形データベースから選択された参照レコードに記録されている既存の固有変形データを用い、そのデータを基礎として算出されることになる。したがって、固有変形データを一から算出するFEM解析による場合に比べて計算量が著しく少なく、短時間で計算結果が得られることになる。
【0185】
そして、固有変形データを算出する際に、その算出対象の溶接線を構成する第1部材と第2部材のそれぞれについての材料物性や溶接条件が新規条件情報として入力され、これらの情報を用いて両部材の固有変形データが算出されるので、既存の固有変形データと条件が異なる場合や、両部材が異種の材料である場合にも、それぞれの部材についての固有変形データを求めることができ、したがって、溶接条件が異なり或いは被溶接部材の材料が異なる種々の溶接線を含む構造体に対しても、そのFEM解析に必要な溶接線ごとの固有変形データを取り揃えることができ、構造体の溶接変形の予測が効率よく行われることになる。
【0186】
また、本実施形態によれば、算出された構造体における複数の溶接線についての固有変形データを用いて、その構造体全体の溶接変形がFEM解析によって算出されることになり、構造体の溶接変形を、短時間で精度よく予測することが可能となる。
【0187】
前述した実施形態では、固有変形データベースから溶接タイプ、溶接方法、材料分類が一致するレコードを抽出し、これらのレコードのいずれかを参照レコードとして選択しているが、これらのレコードから複数のレコードを参照レコードとして選択するようにすることも可能である。
【0188】
この場合、選択された複数の参照レコードに記録されている条件情報及び固有変形データに基づいて固有変形特性が求められると共に、この固有変形特性と、互いに溶接される第1部材と第2部材の新規条件情報とに基づいて、第1部材と第2部材の固有変形データが算出される。
【0189】
コンピュータ10では、例えば、2つ以上のレコードを参照レコードとして選択するようにする場合、2つ以上の参照レコードの収縮変形パラメータと縦収縮量とから最小自乗法によって前記数25で示す式の比例係数Aが計算されるとともに、2つ以上の参照レコードの収縮変形パラメータと横収縮量とから最小自乗法によって前記数26で示す式の比例係数Bが計算され、固有変形特性としての縦収縮量Dx及び横収縮量Dyを示す式が求められる。そして、この縦収縮量Dx及び横収縮量Dyの式と、第1部材と第2部材の新規条件情報とに基づいて、第1部材と第2部材の縦収縮量及び横収縮量が算出される。
【0190】
一方、固有変形の縦曲げ量及び横曲げ量については、例えば、2つのレコードを参照レコードとして選択するようにする場合、突合せ溶接ではm=2、片側隅肉溶接、両側同時隅肉溶接及び重ね隅肉溶接ではm=1を用いると共に、2つの参照レコードの曲げ変形パラメータと縦曲げ量とから前記数27で示す式のRxmax及びχcが計算されるとともに、2つの参照レコードの曲げ変形パラメータと横曲げ量とから前記数28で示す式のRymax及びχcが計算され、固有変形特性としての縦曲げ量Rx及び横曲げ量Ryを示す式が求められる。そして、この縦曲げ量Dx及び横曲げ量Ryの式と、第1部材と第2部材の新規条件情報とに基づいて、第1部材と第2部材の縦曲げ量及び横曲げ量が算出される。
【0191】
また、例えば、3つのレコードを参照レコードとして選択するようにする場合は、3つの参照レコードの曲げ変形パラメータと縦曲げ量とから前記数27で示す式のRximax、m及びχcが計算されるとともに、3つの参照レコードの曲げ変形パラメータと横曲げ量とから前記数28で示す式のRyimax、m及びχcが計算され、固有変形特性としての縦曲げ量Rx及び横曲げ量Ryを示す式が求められる。
【0192】
一方、4つ以上のレコードを参照レコードとして選択するようにする場合は、4つ以上の参照レコードの曲げ変形パラメータと縦曲げ量とから最小自乗法によって前記数27で示す式のRximax、m及びχcが計算され、4つ以上の参照レコードの曲げ変形パラメータと横曲げ量とから最小自乗法によって前記数28で示す式のRyimax、m及びχcが計算され、固有変形特性としての縦曲げ量Rx及び横曲げ量Ryを示す式が求められる。
【0193】
なお、参照レコードとして複数のレコードを選択する場合に、参照レコードの収縮変形パラメータや曲げ変形パラメータが同じであるレコードが複数存在するときは、それら複数の参照レコードの固有変形データ、すなわち縦収縮量、横収縮量、縦曲げ量、横曲げ量の平均値を一つのレコードとして用いることが好ましい。
【0194】
このように、本実施形態によれば、参照レコードを選択するときに複数のレコードが選択され、これらのレコードにそれぞれ記録されている条件情報及び固有変形データに基づいて固有変形特性が求められ、この特性に基づいて第1、第2部材の固有変形データが算出されるので、固有変形データベースに記憶されている既存の固有変形データが比較的多数存在する場合に、これらのデータが有効に利用されて、一層精度よく固有変形データが算出されることになる。
【0195】
本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0196】
以上のように、本発明によれば、既存の固有変形データを利用して、異種材料の部材を溶接する場合にも比較的簡素な計算で固有変形データを算出することができ、複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形を予測する場合に、好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0197】
10 コンピュータ
11 中央演算装置
12 入力装置
13 表示装置
14 記憶装置
15 出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形を予測するためのFEM解析で用いる固有変形データの計算システムであって、
同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段と、
互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段と、
該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段と、
該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段とを有することを特徴とする固有変形データ計算システム。
【請求項2】
前記参照レコード選択手段は、前記固有変形データ記憶手段から、前記新規条件情報入力手段で入力された溶接タイプと、溶接条件に含まれる溶接方法と、材料物性に含まれる材料分類とが一致するレコードを抽出し、これらのレコードのいずれかを参照レコードとして選択することを特徴とする請求項1に記載の固有変形データ計算システム。
【請求項3】
前記参照レコード選択手段は、前記固有変形データ記憶手段から参照レコードを1つ選択し、
前記固有変形データ算出手段は、前記選択手段で選択された1つの参照レコードに記録されている条件情報及び固有変形データと、前記新規条件情報入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、第1、第2部材の固有変形データとして、縦収縮量Dx(mm)、横収縮量Dy(mm)、縦曲げ量Rx(rad)、横曲げ量Ry(rad)を、下記の関係式に従い、第1、第2部材について、それぞれ算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固有変形データ計算システム。
Dx=(ξ/ξiref)・Dxiref
Dy=(ξ/ξiref)・Dyiref
Rx=(χ/χiref・exp[−(m/χc)(χ−χiref)]・Rxiref
Ry=(χ/χiref・exp[−(m/χc)(χ−χiref)]・Ryiref
ここで、添え字i(=1、2)は第1、第2部材のいずれかを示し、irefは参照レコードに記録されている情報に基づいて算出した値であることを示し、ξ、χは収縮変形パラメータ及び曲げ変形パラメータであり、m、χcは溶接タイプに応じて値が決められる係数であり、前記収縮変形パラメータξ及び曲げ変形パラメータχは、αを熱膨張係数、cを比熱、ρを密度、tを板厚、Qを溶接熱量として、次のように定義されている。
ξiref=[αiref/(ciref・ρiref・tiref)]・Qiref
χiref=[αiref/(ciref・ρiref・tiref)]・Qiref
ξ=[α/(c・ρ・t)]・Q
χ=[α/(c・ρ・t)]・Q
【請求項4】
前記参照レコード選択手段が抽出したレコードを表示装置に選択可能に表示する抽出レコード表示手段を有し、
該表示手段は、レコードを表示装置に表示するときに、レコードごとに、そこに含まれる条件情報を用いて算出した参照パラメータの値を表示すると共に、前記新規条件情報入力手段で入力された新規条件情報を用いて算出した第1、第2部材についての平均的なパラメータである新規パラメータの値を表示し、
前記参照レコード選択手段は、前記表示装置上で選択されたレコードを参照レコードとして選択することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固有変形データ計算システム。
【請求項5】
前記抽出レコード表示手段は、レコードを表示装置に表示するときに、参照パラメータが新規パラメータに最も近いレコードに印をつけて表示することを特徴とする請求項4に記載の固有変形データ計算システム。
【請求項6】
前記参照レコード選択手段は、前記固有変形データ記憶手段から参照レコードを複数選択し、
前記固有変形データ算出手段は、前記選択手段で選択された複数の参照レコードにそれぞれ記録されている条件情報及び固有変形データに基づいて固有変形特性を求めると共に、この固有変形特性と、前記新規条件情報入力手段で入力された新規条件情報とに基づいて、第1、第2部材の固有変形データを算出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固有変形データ計算システム。
【請求項7】
複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する溶接変形予測システムであって、
前記構造体における各溶接線について、その固有変形を取得する手段として、
同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段と、
互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段と、
該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段と、
該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段とを有すると共に、
前記固有変形データ算出手段で算出された各溶接線についての固有変形データを記録する固有変形データ算出結果記録手段と、
前記構造体を有限要素分割して作成した解析モデルに前記固有変形データ算出結果記録手段に記録されている各溶接線の固有変形データを適用し、弾性FEM解析によって該構造体の溶接変形を算出するFEM解析手段とを有することを特徴とする溶接変形予測システム。
【請求項8】
複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形を予測するためのFEM解析で用いる固有変形データの計算プログラムであって、
コンピュータを、同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段、
互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段、
該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段、及び、
該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段として機能させることを特徴とする固有変形データ計算プログラム。
【請求項9】
複数の板状部材を溶接してなる構造体の溶接変形をFEM解析によって予測する溶接変形予測プログラムであって、
コンピュータを、前記構造体における各溶接線について、その固有変形を取得する手段として、
同種材料を対象とする溶接の条件情報としての溶接タイプ、材料物性、及び溶接条件と、これらの条件情報に基づいて得られた固有変形データとを一組とするレコードを複数記録した固有変形データ記憶手段、
互いに溶接される同種材料または異種材料の第1部材と第2部材の固有変形データを作成するために、溶接タイプ、前記両部材の材料物性、及び溶接条件を新規条件情報として入力するための新規条件情報入力手段、
該入力手段で入力された新規条件情報に基づいて、前記固有変形データ記憶手段から少なくとも一つのレコードを参照レコードとして選択するための参照レコード選択手段、及び、
該選択手段で選択された参照レコードに記録されている前記条件情報及び固有変形データと、前記入力手段で入力された新規条件情報とに基づき、新規条件情報の下での第1、第2部材の固有変形データを算出する固有変形データ算出手段として機能させると共に、
該コンピュータを、さらに、前記固有変形データ算出手段で算出された各溶接線についての固有変形データを記録する固有変形データ算出結果記録手段、及び、
前記構造体を有限要素分割して作成した解析モデルに前記固有変形データ算出結果記録手段に記録されている各溶接線の固有変形データを適用し、弾性FEM解析によって該構造体の溶接変形を算出するFEM解析手段として機能させることを特徴とする溶接変形予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2012−117927(P2012−117927A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268317(P2010−268317)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(507228172)株式会社JSOL (23)
【Fターム(参考)】