説明

固液分離装置

【課題】 濾過速度が高く、目詰まりがなく、かつ固形分の回収率が高い固液分離装置を提供する。
【解決手段】 本発明の固液分離装置は、濾布を使用する固液分離装置であって、濾布が、表面に親水化処理を施された樹脂であることを特徴とする。本発明の固液分離装置では、樹脂製濾布の表面を親水化処理で改質することにより、濾布の表面の毛細管作用により濾過速度を向上させる。更に、濾過面表面に薄い水膜が形成されるので、汚泥中のタンパク質が濾布表面に付着することも防止される。その結果、濾過速度が高く、目詰まりがなく、且つ固形分の回収率が高い固液分離装置が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水、産業用水、下水、し尿、産業排水等の各種処理において、固液分離操作を行うための濾過装置、汚泥濃縮装置、汚泥脱水装置に係る。
【背景技術】
【0002】
各種の水処理や汚泥処理において使用される固液分離装置として、従来から、濾過装置、汚泥濃縮装置、汚泥脱水装置などと呼ばれる各種のタイプがある。
【0003】
濾過装置とは、水中の微粒子を除去するものである。例えば、特開平8−155229に記載されている回転ドラム型連続濾過機では、濾過面に、より小さい粒子を補足するために、ベース層との捲縮を有する繊維束とのニ層構造となっている濾布が使用されている。
【0004】
汚泥濃縮装置とは、下水汚泥、浄水汚泥或いは産業排水汚泥から濾液を分離して濃縮効果を高めるものであり、重力沈降槽や遠心濃縮機のように凝集剤を添加しないものもあるが、汚泥の凝集効果を上げる目的で凝集剤を添加するものが一般的である。例えば、特開2006−26455に記載されているベルト式濃縮装置では、汚泥に凝集剤が添加された後、濾材にて濾液が分離される。この装置では、濾材として、目詰まりが少なく剥離性の良い金属濾材が使用されている。
【0005】
汚泥脱水装置とは、上記の汚泥濃縮機で濃縮された汚泥に凝集剤を添加し、遠心力やプレスなどの外圧をかけて汚泥を脱水するものである。例えば、特開平8−001390号に記載されている装置では、外筒に濾過面としてスクリーンを持つスクリュープレスが使用され、目詰まりしたスクリーンは洗浄により再生される。
【0006】
このように、固液分離装置に対しては、濾過面の開口を小さくして固形分の捕捉を確実にし、目詰まりが無く、且つ濾過速度が高いことが要求されるが、これらを同時に満足することは容易でない。
【0007】
濾過装置、汚泥濃縮装置、汚泥脱水装置では、固液分離操作を行うために樹脂製濾布が使用される場合が多い。しかし、樹脂製濾布は、疎水性の材料であり、そのままでは撥水性を有し、水の濾過速度が小さい。また、樹脂は、汚泥中のタンパク質と結合し目詰まりを起こし易い。特に、固形分の捕捉を確実にするために濾過面の開口を小さくすると、目詰まりの頻度が大となる。このように、目詰まりが無く、濾過速度が高く、且つ固形分の回収率が高いと言う要求を同時に満足させることは容易でない。
【特許文献1】特開平8−155229号公報
【特許文献2】特開2006−26455号公報
【特許文献3】特開平8−001390号号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような樹脂製濾布を用いる固液分離装置の問題点に鑑み成されたものであり、本発明の目的は、濾過速度が高く、目詰まりがなく、かつ固形分の回収率が高い固液分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の固液分離装置は、
濾布を使用して流体から固形物を分離する装置であって、
濾布が、表面に親水化処理を施された樹脂であることを特徴とする。
【0010】
本発明の固液分離装置では、樹脂製濾布の表面を親水化処理で改質することにより、濾布の表面の毛細管作用により濾過速度を向上させている。更に、濾過面表面に薄い水膜が形成されるので、汚泥中のタンパク質が濾布表面に付着することも防止される。その結果、濾過速度が高く、目詰まりがなく、且つ固形分の回収率が高い固液分離装置が実現される。
【0011】
本発明の固液分離装置は、処理される流体が、有機性汚泥を含む流体である場合に特に適している。
【0012】
好ましくは、前記濾布は、水との接触角が40°以下の親水性を有している。
【0013】
好ましくは、前記濾布は、樹脂製のモノフィランメントを平織り、綾織、斜文織またはシュス織りで織ったメッシュクロスである。
【0014】
ここで、親水化処理について更に説明する。
樹脂製濾布の表面に親水化処理を施すことにより、固体の微細孔隙に液が浸透して行く毛管現象を有利に利用することができる。この現象は、図5にあるように、親水性の固体であれば、毛管の中を液が重力に逆らいながらも表面張力で上昇して行く現象である。この際の毛細管の液柱高さhは、下記の式で求められる:
【0015】
【数1】

【0016】
a:毛細管半径、σ:液の表面張力、θ:液と毛細管内壁の接触角、ρ:液の比重、g:重力加速度。
【0017】
樹脂は、もともと疎水性であり、図5の右図のように液を濾過しにくいが、親水化処理が施された濾布では、左図のように毛細管作用により水を吸い出す作用があり、濾過速度が増大する。なお、(1)式によると、液と固体の接触角が小さく親水性が高いほど、また濾材の開口が小さいほど、濾過速度が増大することが分かる。水との接触角は、小さいほど良く、40°以下が良く、できるならば10°に近付けると濾過速度がより増大する。このように、樹脂性のメッシュクロスに親水化処理を施すことにより、濾過速度が増大するので、小さい濾過面積を用いて被処理物質を処理することができる。
【0018】
また、樹脂は高分子で構成されており、完全な結晶になりにくく、結晶部と非結晶部が混在した構造となり易い。このため、表面が傷付き易いと言う欠点をもっており、傷が付けばそこに汚泥が入り込むこととなる。図6に示すように、表面に付着した汚泥は、樹脂の高分子内部に染み込んでしまい、樹脂の表面で汚泥が樹脂と一体化するので、濾布の繊維に汚泥が付着し、濾過面の開口を潰し、目詰まりを起こし易くなる。
【0019】
下水汚泥の固形物は、図7に示すように、高分子量の多糖類およびタンパク質を多く含んでおり、高分子構造内にアミノ基やカルボキシル基、スルフォン酸基、水酸基などの解離性の親水性基を多量に持っている。これらの親水性基が安定な親水層を形成するので、下水汚泥の固形物は水膜で囲まれている。
【0020】
ここで、濾布に親水化処理を施すことにより、図8に示すように、濾布の樹脂繊維表面に薄い水膜が形成される。汚泥自体も薄い水膜で囲まれているので、樹脂繊維表面と直接接触することがなく、汚泥が樹脂機能に付着しにくい。このように、濾布の表面と汚泥との間に水膜が存在するにより、汚泥の成分が濾布の表面と結合することがなくなり、その表面が常に平滑化された状態に保たれ、目詰まりが発生しない。
【発明の効果】
【0021】
本発明の固液分離装置によれば、濾布の表面の親水化による濾過速度の向上作用と汚泥の付着防止作用により、濾過速度が高く、目詰まりがなく、且つ固形分の回収率が高い固液分離装置が実現される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明に基づく固液分離装置の幾つかの例について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
図1は、本発明に基づく回転ドラム式連続濾過機の例を示す概略側面図である。図中、10は濾布、11はドラム、12は原水、13は濾過水、14は濃縮水、16は逆洗スプレー、17は表洗スプレーである。この装置では、回転するドラム11の円周上に濾布10を取り付け、ドラム11の内側に導かれた原水12を外側に濾過する。ここで使用される濾布10に、親水化処理が施された樹脂製メッシュクロスが使用される。
【0024】
その他の形態のものとして、回転円盤式連続濾過機がある。この装置では、比較的厚みの薄いドラム(円盤と称される)の両側面に濾布を取り付け、この円盤の1個または複数個を円盤の中心軸上に並列に設置し、円盤の内側に導かれた原水を外側に濾過する。ここで使用される濾布にも、親水化処理が施された樹脂製メッシュクロスを使用することができる。
【0025】
図2は、本発明に基づくベルト型汚泥濃縮装置の例を示す概略側面図である。この装置では、汚泥に凝集剤を添加した後、汚泥23を樹脂製または金属製のメッシュ状の無終端ベルト20で搬送しながら重力ろ過を行う。濃縮汚泥は排出部24に排出され、濾過された濾液は集水パン21に集められて系外に排出される。ここで使用される濾布に、親水化処理が施された樹脂製メッシュクロスが使用される。
【0026】
図3は、本発明に基づくスクリュープレス型汚泥脱水装置の側面図である。この装置では、外筒30に濾過面が設けられている。汚泥31は、スクリュー33により搬送されるが、出口側のプレッサー36により内圧がかけられ、更に、スクリュー軸34がテーパーとなっており内容積が徐々に減少するので、外筒30の濾材で水のみが濾過されて系外に排出される。脱水された汚泥38は、脱水ケーキ出口35から排出される。
【0027】
濾材として、従来、金属製のパンチングメタルやスクリーンなどが使用されていたが、本発明に基づく固液分離装置によれば、この濾材に親水化処理が施された樹脂製のメッシュクロスがされる。
【0028】
次に、親水化処理が施された樹脂製のメッシュクロスの性能についての各種の試験結果について説明する。
【0029】
樹脂表面を親水化処理する方法としては、(a)樹脂表面に基板を接触させ加熱し基板に接触している樹脂部分を溶融した後基板を取り除くことによって樹脂表面の改善する溶融固化による方法;(b)紫外線照射、レーザ照射、プラズマ処理による表面改質方法;(c)モノマーにグラフト化反応で樹脂表面を改質する方法;(d)樹脂表面に無機粒子を含む薄膜を形成させる方法;などが挙げられる。
【0030】
(a)の溶融固化による方法では、表面エネルギーの高い材質のもの(例えば金属)を基板として用いた方が、樹脂表面の官能基の密度すなわち表面の結晶性の度合いが高まり、より親水性が増すため望ましい。(b)の親水化処理例としては、例えば、低圧水銀ランプを用いてポリプロピレン表面に紫外線を照射することにより親水基である水酸基を形成させる親水化例などが挙げられる。(c)のグラフト重合による親水化例としては、低密度ポリエチレンや配向ポリプロピレンの表面にモノマーとしてアクリルアミドを作用させてグラフト重合させたり、配向ポリプロピレンの表面にモノマーとしてN−ビニルピロリドン若しくはアクリル酸を作用させてグラフト重合させることにより、樹脂表面の親水性が顕著に向上することが知られている。(d)の親水性の薄膜を形成させる方法としては、酸化チタンとシリカ粒子を含む薄膜を形成させる方法(特許第2756474号公報)、アクリル系単量体と重合性シラン系カップリング剤とコロイダルシリカを含む薄膜を乳化重合により樹脂表面に形成させる方法(特開平07−233270号公報)、などが挙げられる。
【0031】
比較用供試体であるポリエステル製メッシュクロスと、レーザ処理(エキシマレーザ、発振波長248nm)によりポリエステル表面を親水化処理した本発明の親水性メッシュクロス供試体とを用いたろ過試験にて親水処理の効果を確認した。
【0032】
先ず、この方法により親水化処理が施されたポリエステル製のメッシュクロスと、比較用として親水化処理が施されていないポリエステル製のメッシュクロスとを使用して、濾過試験を行った。使用した濾過機は、φ500の連続ドラムスクリーンである。
【0033】
表1に、この試験の結果を示す。親水化処理が施されたメッシュクロスは、比較用のメッシュクロスと比べて、濾過速度が2.85倍(60m/H÷21m/H)であり、濾過速度が大幅に増大していることが分かる。
【0034】
また、1年連続運転経過後おける濾過速度は、比較用のメッシュクロスでは、71%(15m/H÷21m/H)に減少している。これは、ポリエステル繊維に汚泥が付着して開口が徐々に塞がれるためである。一方で、親水化処理が施されたメッシュクロスでは、87%(52m/H÷60m/H)の減少しているものの、比較用のメッシュクロスの5.8倍以上(87m/H÷15m/H)の濾過速度を有しており、親水化処理の効果が顕著である。
【0035】
【表1】

【0036】
次に、先に図2に示したベルト型汚泥濃縮装置を用いた汚泥濃縮試験の結果について説明する。
ろ布として、比較用供試体であるポリプロピレン製ろ布と、紫外線によりポリプロピレン表面を親水化処理した本発明の親水性メッシュクロス供試体とを用いた汚泥濃縮試験にて親水処理の効果を確認した。
【0037】
表2に、この試験の結果を示す。親水化処理が施されたメッシュクロスを使用した場合のろ布1m当たりの汚泥処理量は、比較用のメッシュクロスを使用した場合の1.23倍(24.5m/m・H÷20m/m・H)であり、処理量が向上している。また、固形物回収率も2ポイント向上している。
【0038】
【表2】

【0039】
次に、汚泥脱水試験の結果について説明する。試験方法は、下水試験法、日本下水道協会1997年版、第4章一般汚泥試験、第14節脱水試験、2.加圧濾過テストによる。
【0040】
図4に、この試験に使用された脱水試験装置の概略構成を示す。比較用供試体であるポリエステル製ろ布と、乳化重合によりポリエステル表面にコロダイルシリカを含む薄膜を形成させた本発明の親水性ろ布供試体とを用いた汚泥濃縮試験にて親水処理の効果を確認した。
【0041】
表3に、この試験の結果を示す。親水化処理が施されたメッシュクロスを使用した場合の脱水ケーキ含水率は78.5%であり、比較用のメッシュクロスを使用した場合と比べて2.5ポイントほど含水率が低く、脱水性が向上している。
【0042】
【表3】

【0043】
以上述べたように、本発明に基づく固液分離装置によれば、親水層が表面に形成されたた樹脂製濾布を使用することにより、下記のような有用な効果がもたらされる:
(a) 樹脂製濾布の表面にコーティングされた親水層の存在により、親水性となった繊維が水を吸うと言う毛細管作用により濾過速度が増大するので、小さい濾過面積での処理が可能になり、装置がコンパクトとなる。
(b) 樹脂製濾布の表面にコーティングされた親水層の存在により、濾布表面に薄い水膜が形成され、汚泥中のタンパク質と濾布繊維との結合が防止され、濾布の目詰まりが発生しない。このため、濾布の洗浄性がよく、濾過速度の確保ができる。また濾布の目詰まりによる交換インターバル時間が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に基づく回転ドラム式連続濾過機の一例を示す側面図。
【図2】本発明に基づくベルト型汚泥濃縮装置の一例を示す側面図。
【図3】本発明に基づくスクリュープレス型汚泥脱水装置の一例を示す側面図。
【図4】脱水試験装置の概略構成を示す図。
【図5】毛細管現象について説明する図。
【図6】樹脂表面の汚泥の付着状況について説明する図。
【図7】汚泥中の微生物構造モデルについて説明する図。
【図8】親水化された樹脂繊維表面の汚泥の付着状況について説明する図。
【符号の説明】
【0045】
10・・・濾布、11・・・(回転)ドラム、12・・・原水、13・・・濾過水、14・・・濃縮水、16・・・逆洗スプレー、17・・・表洗スプレー、20・・・無終端ベルト、21・・・集水パン、23・・・汚泥、24・・・排出部、30・・・外筒、31・・・汚泥、33・・・スクリュー、34・・・スクリュー軸、35・・・脱水ケーキ出口、36・・・プレッサー、38・・・(脱水)汚泥。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
濾布を使用して流体から固形物を分離する装置であって、
濾布が、表面に親水化処理を施された樹脂であることを特徴とする固液分離装置。
【請求項2】
処理される流体が、有機性汚泥を含む流体であることを特徴とする請求項1に記載の固液分離装置。
【請求項3】
前記濾布は、水との接触角が40°以下の親水性を有することを特徴とする請求項1に記載の固液分離装置。
【請求項4】
前記濾布は、樹脂製のモノフィランメントを平織り、綾織、斜文織またはシュス織りで織ったメッシュクロスであることを特徴とする請求項1に記載の固液分離装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−279339(P2008−279339A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124577(P2007−124577)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】