説明

固相マイクロ抽出法における採取方法

【課題】固相マイクロ抽出法を用いて試料成分の分析を行う際、試料成分を採取するのに要する時間を短縮でき、かつ、検出感度を高くできる方法の提供。
【解決手段】試料成分を含む気体にファイバ状の試料採取部を接触させて採取し、採取した試料成分を分析する固相マイクロ抽出法における採取方法において、相対速度0.2〜7m/sで相対移動させて前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させることを特徴とする、固相マイクロ抽出法における採取方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相マイクロ抽出法における採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道施設には、地下空間、トンネル等の様々な閉鎖空間が存在している。鉄道施設は公共性が高いことから、この閉鎖空間内の衛生環境を評価・把握してそれを向上させることは、より安心で快適な鉄道を提供する上で非常に有用である。一方、鉄道利用者側においても、駅の快適性を考える上での重要な要因として「臭い」や「空気のきれいさ」といった空気環境に関する項目が挙げられており、駅構内の衛生環境の向上が望まれている。
【0003】
駅構内の衛生環境を向上するための具体策としては、たとえば、駅構内の空気中に存在する微量成分又はその濃度分布を評価・把握して、臭いの原因物質又はその発生源を特定する方法が考えられる。
この空気中に存在する微量成分を分析する方法としては、固相マイクロ抽出(SPME)法が挙げられる(たとえば、特許文献1〜2参照)。
固相マイクロ抽出法においては、小型の採取器具を、空気中に定置して空気に曝すのみで、空気中から微量成分(試料成分)を容易に抽出することができる。この小型の採取器具としては、たとえば、SPMEホルダと、ファイバアセンブリとから構成されるサンプリングユニット等が用いられている。ファイバアセンブリは、ニードル(外筒部)に結合し、表面がコーティングされた直径0.5mm程度のファイバ(試料採取部)を備えている。空気中に存在する試料成分は、空気とファイバとの接触により、ファイバに吸着される。
固相マイクロ抽出法は、試料成分を採取した後、試料成分を吸着したファイバをクロマトグラフィ分析装置等に挿し込むことにより、ファイバに吸着された試料成分を分析装置内に直接に導入できることから、分析に要する時間を短縮でき、コスト面でも有利な方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−315219号公報
【特許文献2】特開2002−236124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜2には、ガラス容器又は試験管などの狭い空間にある気体中にファイバを定置して試料成分を採取する例が開示されている。
しかし、特許文献1〜2に記載された、固相マイクロ抽出法における採取方法においては、駅構内などの広い空間の空気中に存在する試料成分を採取する際、空気と接触するファイバの表面積が小さいため、一定の時間内に採取できる試料成分の採取量が少なく、充分な検出感度が得られない問題がある。ある程度の検出感度を得るには、採取時間として少なくとも3時間の長時間を費やす必要があり、しかも、採取に長い時間を費やしても、充分な検出感度が得られない場合がある。
また、駅構内の空気環境を評価する場合、特に終電〜始発までの限られた時間内に評価を行わなければならないこともあるため、従来よりも採取時間を短縮できることが求められる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、固相マイクロ抽出法を用いて試料成分の分析を行う際、試料成分を採取するのに要する時間を短縮でき、かつ、検出感度を高くできる方法を提供すること、を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記の課題を解決するために、以下の手段を提供する。
【0008】
すなわち、本発明は、試料成分を含む気体にファイバ状の試料採取部を接触させて採取し、採取した試料成分を分析する固相マイクロ抽出法における採取方法において、相対速度0.2〜7m/sで相対移動させて前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させることを特徴とする、固相マイクロ抽出法における採取方法である。
【0009】
本発明の固相マイクロ抽出法における採取方法においては、前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させる際に、前記試料採取部を円形状に移動させることが好ましい。
また、本発明の固相マイクロ抽出法における採取方法においては、前記試料採取部に、前記試料成分を含む気体を吹き付けることで、前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固相マイクロ抽出法における採取方法によれば、試料成分を採取するのに要する時間を短縮でき、かつ、検出感度を高くできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」の一実施形態例を模式的に示した正面図である。
【図2】採取器具の一例を示した正面図である。
【図3】本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」の他の実施形態例を模式的に示した正面図である。
【図4】本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」の他の実施形態例を模式的に示した側面図である。
【図5】試料成分の試料採取部への吸着挙動を模式的に示した側面図であり、図5(a)は従来の採取方法の場合における吸着挙動を示す図であり、図5(b)は本発明の採取方法の場合における吸着挙動を示す図である。
【図6】実施例1および比較例1における採取方法を模式的に示した正面図である。
【図7】各実験条件において検出された試料成分の数(検出ピーク数)を示すグラフである。
【図8】採取器具を回転することによる検出強度の増加率を示すグラフである。
【図9】実施例2および比較例2における採取方法を模式的に示した正面図である。
【図10】ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)の結果を示すクロマトグラムであり、図10(a)は比較例2、図10(b)は実施例2の結果を示すクロマトグラムである。
【図11】GC/MSの結果を示すクロマトグラムであり、図11(a)は比較例2、図11(b)は実施例2の結果を示すクロマトグラムである。
【図12】比較例2の採取方法により試料成分の採取を3時間行った際の検出強度を100としたときの、各試料成分における比検出強度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、試料成分を含む気体にファイバ状の試料採取部を接触させて採取し、採取した試料成分を分析する固相マイクロ抽出法における採取方法であり、相対速度0.2〜7m/sで相対移動させて前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させる方法である。
【0013】
以下、本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」の一実施形態例として、図1に示す模式図を用いて、気体中に存在する試料成分を採取する方法について説明する。
【0014】
図1は、本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」の一実施形態例を模式的に示した正面図である。
採取装置1は、回転速度を任意に設定できる撹拌機10を利用したものである。
撹拌機10は、撹拌モータ11と、撹拌モータ11に取り付けられた円柱状の回転軸12と、回転軸12の撹拌モータ11と反対側の一端に取り付けられた円板状の撹拌翼13とから構成されており、支持部材15a、15b、15cによって固定されている。
図1に示す採取装置1の撹拌翼13には、2つの採取器具50が取り付けられている。2つの採取器具50は、それぞれ、試料採取部を撹拌モータ11側に向けて回転軸12の長手方向と略平行に配置され、互いに回転軸12を介して対向するように、回転軸12から4cm離れた位置で撹拌翼13に取り付けられている。
【0015】
図2は、採取器具の一例を示した正面図である。
図2に示す採取器具50は、外筒部52にファイバ状の試料採取部51が結合したファイバアセンブリ53と、SPMEホルダ54とから構成されている。
試料採取部51の表面にはコーティング層が形成されており、このコーティング層に試料成分が吸着されることにより、気体中から試料成分が抽出される。
コーティング層を形成する材料としては、たとえばポリジメチルシロキサン、ポリアクリレート、ポリエチレングリコール、ジビニルベンゼン分散ポリジメチルシロキサン、Carboxen分散ポリジメチルシロキサンが挙げられ、分析対象とする試料成分に応じて適宜選択すればよい。
【0016】
本実施形態の「固相マイクロ抽出法における採取方法」(以下「回転条件による採取方法」という。)は、撹拌モータ11を稼働して撹拌翼13を回転させることにより、試料採取部51を円形状に移動させることで、試料成分を含む気体と試料採取部51とを接触させて試料成分を採取する方法である。
図1において、撹拌機10は、撹拌速度200rpmで回転している。
【0017】
本発明においては、相対速度0.2〜7m/sで相対移動させて前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させることにより、気体中から試料成分が採取される。
当該相対速度0.2m/s以上で相対移動させることにより、試料成分を採取するのに要する時間を短縮でき、かつ、検出感度を高くできる。
当該相対速度7m/s以下で相対移動させることにより、たとえば高速で回転すること又は風を吹き付けることによる採取器具の脱落や破損が防止され、かつ、検出感度を高くできる。
試料成分を含む気体と試料採取部51とは、採取効率がより高まることから、相対速度0.2〜0.9m/sで相対移動させて接触させることが好ましく、相対速度0.4〜0.7m/sで相対移動させて接触させることがより好ましい。
【0018】
本発明において「試料成分を含む気体と試料採取部との相対速度」は、試料採取部の、試料成分を含む気体に対する相対速度でもよく;試料成分を含む気体の、試料採取部に対する相対速度でもよい。試料成分を含む気体と試料採取部は、同じ向きに移動してもよく、異なる向きに移動してもよく、一方が固定されていてもよい。
本実施形態の「回転条件による採取方法」は、試料採取部51の方を積極的に移動させる方法の一例である。本実施形態においては、試料採取部51を、採取装置1が置かれた床面方向に円形状に移動させる例であるが、これに限定されず、高さ方向に円形状に移動させてもよく、円形状に限らず、線状に移動させてもよい。
【0019】
図1に示す採取装置1を用いた場合、試料成分を含む気体と試料採取部51との相対速度を0.2〜7m/sの範囲に制御するには、撹拌機10の回転速度(回転/分)を50〜1750rpmとすることが好ましく、50〜200rpmとすることがより好ましく、100〜150rpmとすることがより好ましい。
【0020】
本実施形態の「回転条件による採取方法」によれば、試料成分を採取するのに要する時間を短縮できる。また、試料成分の採取量が増加して検出感度を高くできる。加えて、従来の採取方法(空気中に採取器具を定置して空気に曝すのみの方法)に比べて、多くの種類の成分を検出することができる。また、「回転条件による採取方法」によれば、複数の地点を狭い間隔で測定しても、互いに与える影響がほとんどないため、多くの地点における試料成分の採取を、狭い間隔で同時に行うことができる。したがって、臭気の発生源を特定する場合、又は濃度分布を把握するために多点測定する場合、この方法を用いることによって、より正確な測定が可能となり、それぞれの場合に有用である。
【0021】
本実施形態の「回転条件による採取方法」においては、図3に示すように、図1に示す採取装置1の撹拌翼13に取り付けられた採取器具50を囲うように、フード14が設けられた採取装置を用いることもできる。
屋外で試料成分の採取を行う場合、これまで風の影響によって分析結果が大きく異なる問題があり、風は、固相マイクロ抽出法における試料成分の採取において妨害要因となっていた。これに対し、採取器具をフード等で囲い風が当たらないようにしても、分析データは安定するものの、検出感度が低下するため、採取時間を長く費やさなければならなかった。
これに対して、図3に示すように、フード14が設けられた採取装置を用いた実施形態によれば、屋外の不均一な風の影響を低く抑え、かつ、フード14内で採取器具50を一定速度で回転させることにより、試料成分の採取効率の低下が抑えられるとともに、安定した分析データが得られやすくなる。
【0022】
本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」は、上述した方法に限定されず、たとえば図4に示す採取装置を用いて、気体中に存在する試料成分を採取する方法であってもよい。
図4は、本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」の他の実施形態例を模式的に示した側面図である。
採取装置2は、吸気口21と、排気方向に向かってテーパー状に広がる排気口22とを、同一の面に有する略直方体状のエアポンプ20からなる。
図4において、採取器具50は、試料採取部51が排気口22とほぼ同じ高さに配置されて排気口22から排気される風が当たるように、エアポンプ20の近傍に配置されている。図4中にある矢印は、風の向きを示す。
【0023】
図4に示す実施形態の「固相マイクロ抽出法における採取方法」(以下「吹き付けによる採取方法」という。)は、エアポンプ20を稼働して一定の風量で空気を吹き付けることにより、試料採取部51に、試料成分を含む気体を吹き付けることで、試料成分を含む気体と試料採取部51とを接触させて試料成分を採取する方法である。かかる方法においては、上述したように、試料成分を含む気体と試料採取部51との相対速度、すなわち、エアポンプ20から吹き付ける風の風速を0.2〜7m/s、好ましくは0.2〜0.9m/s、より好ましくは0.4〜0.7m/s、の範囲に制御して両者を接触させることにより試料成分を採取する。
図4に示す実施形態は、一方向から気体を吹き付ける例であるが、これに限定されず、気体を多方向から試料採取部51に向けて吹き付けてもよく、風速を適宜変化させながら試料採取部51に向けて吹き付けてもよく、気体を吹き付けながら試料採取部51を移動させてもよい。
本実施形態の「吹き付けによる採取方法」は、試料成分を含む気体の方を積極的に移動させる方法の一例である。
【0024】
本実施形態の「吹き付けによる採取方法」によれば、試料成分を採取するのに要する時間を短縮できる。また、試料成分の採取量が増加し、検出感度を高くできる。加えて、従来の採取方法(空気中に採取器具を定置して空気に曝すのみの方法)に比べて、多くの種類の成分を検出することができる。
【0025】
以上説明した、本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」は、試料成分を含む気体と試料採取部との相対速度を所定の範囲に制御して両者を接触させる方法である。
図5は、試料成分の試料採取部への吸着挙動を模式的に示した側面図であり、図5(a)は従来の採取方法の場合における吸着挙動を示す図であり、図5(b)は本発明の採取方法の場合における吸着挙動を示す図である。
図5(a)に示すように、風の自然な流れによる試料成分5と試料採取部51との接触であった従来の採取方法に比べて、本発明の採取方法は、試料採取部51と試料成分5を含む気体の少なくとも一方を積極的に移動させることにより、図5(b)に示すように、試料成分5と試料採取部51との接触頻度が増加するため、また、試料成分5を含む気体が連続的に供給されるため、試料採取部51への試料成分5の吸着効率が高まる。したがって、本発明の効果が得られると考えられる。
本発明の「固相マイクロ抽出法における採取方法」は、駅構内などの広い空間の空気中に存在する試料成分を採取するのに好適な方法である。
【0026】
本発明において、試料成分を含む気体としては、空気に限らず、試料成分の採取が可能であれば空気以外の気体であってもよい。
【0027】
本発明の採取方法を用いた固相マイクロ抽出法による分析方法においては、気体中から試料成分を採取した後、試料成分を吸着した試料採取部を、たとえばガスクロマトグラフィー法、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法を用いた分析装置に挿し込むことにより、当該試料成分が分析装置内に直接に導入されて定性分析、定量分析等が行われる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0029】
(実施例1、比較例1)
図6は、実施例1および比較例1における採取方法を模式的に示した正面図である。
風のない室内(閉鎖空間;ユニットバス脱衣所、幅112cm×奥行118cm×高さ229cm)に、図6に示すように、図1で示した採取装置1と同じ形態の装置に採取器具50aが取り付けられたものと、採取装置に取り付けられた採取器具50aの回転範囲から約30cm離れた位置に支持部材15d、15e、15fによって固定された採取器具50bとを設置した。
採取器具50aと採取器具50bは、いずれも、試料採取部を撹拌モータ11側に向けて回転軸12の長手方向と略平行に配置されている。
【0030】
[実験条件]
下記の実施例1と比較例1の採取方法により採取された試料成分について、それぞれガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法による分析を行った。
かかる分析は、一般に空気の「臭気」に関係するとされている成分を分析対象として行った。
【0031】
実施例1:回転条件による採取方法
撹拌機10の回転速度(回転/分)を50,100,150,200rpmと変えて、それぞれの回転速度で各1時間と各3時間、採取器具50aを円形状に移動させることで試料成分の採取を行った。なお、比較として回転速度(回転/分)25rpmについて試料成分の採取を同様にして行った。
【0032】
比較例1:採取器具を定置する方法
図6に示した位置に採取器具50bを固定した状態で、実施例1の採取方法を行うのと同時に試料成分の採取を行った。
【0033】
[ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)の条件]
測定機器(GC):アジレント6890N(製品名)
測定機器(MS):アジレント5975B(製品名)
カラム:HP−INNOWAX(商品名)、30m
昇温条件:45〜250℃
キャリアガス:ヘリウム
カラム流量:1.4mL/分
スプリット比:スプリットレス
【0034】
GC/MS法による分析の結果を図7〜8に示した。
図7は、各実験条件において検出された試料成分の数(検出ピーク数,本)を示すグラフである。
図8は、採取器具を回転することによる検出強度の増加率を示すグラフである。
「検出強度の増加率」は、ある成分について、実施例1の採取方法における検出強度を、比較例1の方法における検出強度で除した値(回転採取/定置採取)を示す。
【0035】
図7の結果から、いずれの回転速度においても、実施例1の採取方法の方が、比較例1の方法に比べて、検出ピーク数が多いことから、実施例1の採取方法によれば、多くの種類の成分を検出できることが確認できた。
また、回転採取/定置採取の観点から、回転速度25rpmの場合よりも、回転速度50,100,150,200rpmの場合の方が、検出ピーク数の増加率が高いことが確認できる。このことから、相対速度0.2m/s以上とすることにより、多くの種類の成分を検出できる効果がより高くなることが分かる。
【0036】
図8の結果から、実施例1の採取方法の方が、比較例1の方法に比べて、検出強度が大きいことから、実施例1の採取方法によれば、検出感度を高くできることが確認できた。また、回転速度25rpmの場合よりも、回転速度50,100,150,200rpmの場合の方が、検出強度の増加率が高いことが確認できる。このことから、相対速度0.2m/s以上とすることにより、検出感度を高くできる効果がより高くなることが分かる。
【0037】
また、実施例1と比較例1の評価より、回転速度200rpmの条件下であっても、採取器具50aの回転範囲から30cm離れていれば、採取器具50bへの試料成分の採取に影響を与えないという結果が認められた。
かかる結果から、本発明に係る「回転条件による採取方法」においては、採取装置周囲の気体(空気)を動かさずに試料成分を採取できることが分かる。このことより、「回転条件による採取方法」によれば、たとえば、臭気の発生源を特定する場合、又は濃度分布を把握するために多点測定する場合、試料成分の採取を、狭い間隔で同時に行うことができ、より正確な測定が可能となる、といえる。
【0038】
(実施例2、比較例2)
図9は、実施例2および比較例2における採取方法を模式的に示した正面図である。
風のない室内(閉鎖空間;幅112cm×奥行118cm×高さ229cm)に、図9で示したように、エアポンプ20と、その近傍に採取器具50cとを配置し、これらの隣に、エアポンプ20の排気口22から排気される風が当たらないように、ついたて23を設けて、ついたて23の採取器具50c側の反対側に採取器具50dを配置した。
採取器具50cは、試料採取部51cが排気口22とほぼ同じ高さに配置されて排気口22から排気される風が当たるように、エアポンプ20の近傍に配置した。図9中にある矢印は、風の向きを示す。
【0039】
[実験条件]
下記の実施例2と比較例2の採取方法により採取された試料成分について、それぞれ、ガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)法による分析を行った。GC/MSの条件は、上記と同じ条件で行った。
【0040】
実施例2:吹き付けによる採取方法
エアポンプ20から排気される風の風速を7m/sに設定して1時間と3時間、それぞれ試料採取部51cに風を吹き付けることで試料成分の採取を行った。
【0041】
比較例2:採取器具を定置する方法
図9に示した位置に採取器具50dを固定した状態で、実施例2の採取方法を行うのと同時に試料成分の採取を行った。採取器具50dを固定した場所の風速は0.15m/sであった。
【0042】
図10、図11は、GC/MSの結果を示すクロマトグラムであり、図10は試料成分の採取を1時間行った際の結果、図11は試料成分の採取を3時間行った際の結果をそれぞれ示す。
比較例2におけるGC/MSの結果を図10(a)、図11(a)に示した。
実施例2におけるGC/MSの結果を図10(b)、図11(b)に示した。
図10、図11に示すクロマトグラム中、横軸は検出時間(分)、縦軸は検出感度をそれぞれ示す。
【0043】
図10、図11に示す結果から、試料成分の採取を1時間および3時間行ったいずれの場合においても、実施例2の採取方法の方が、比較例2の方法に比べて、検出強度が大きいことから、実施例2の採取方法によれば、検出感度を高くできることが確認できた。
また、実施例2の採取方法の方が、比較例2の方法に比べて、検出ピーク数が多いことから、実施例2の採取方法によれば、多くの種類の成分を検出できることも確認できた。
【0044】
さらに、代表的な試料成分について、実施例2と比較例2との検出強度の比較を行った。
図12は、比較例2の採取方法により試料成分の採取を3時間行った際の検出強度を100としたときの、各試料成分における比検出強度を示すグラフである。
グラフ中、当該比検出強度を「エアポンプなし3hを100とした比強度」と表記する。また、グラフ中、実施例2における採取時間が1時間、3時間をそれぞれ「エアポンプあり1h」、「エアポンプあり3h」と表記し;比較例2における採取時間が1時間、3時間をそれぞれ「エアポンプなし1h」、「エアポンプなし3h」と表記する。
【0045】
図12に示す結果から、従来の採取方法(エアポンプなし3h)と同等の又はそれに近い検出強度が、実施例2の採取方法により試料成分の採取を1時間程度行うことにより得られていることが分かる。このから、採取時間を短縮できることが見込まれる。
また、試料成分の採取をこれまでどおり3時間行った場合でも、実施例2の採取方法によれば、さらに検出強度が増加し、検出される成分の数も増えていることから、より高精度な衛生環境の評価が可能となる、といえる。
【符号の説明】
【0046】
1 採取装置 2 採取装置 5 試料成分 10 撹拌機 11 撹拌モータ 12 回転軸 13 撹拌翼 14 フード 20 エアポンプ 21 吸気口 22 排気口 50 採取器具 51 試料採取部 52 外筒部 53 ファイバアセンブリ 54 SPMEホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料成分を含む気体にファイバ状の試料採取部を接触させて採取し、採取した試料成分を分析する固相マイクロ抽出法における採取方法において、
相対速度0.2〜7m/sで相対移動させて前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させることを特徴とする、固相マイクロ抽出法における採取方法。
【請求項2】
前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させる際に、前記試料採取部を円形状に移動させることを特徴とする、請求項1記載の固相マイクロ抽出法における採取方法。
【請求項3】
前記試料採取部に、前記試料成分を含む気体を吹き付けることで、前記試料成分を含む気体と前記試料採取部とを接触させることを特徴とする、請求項1記載の固相マイクロ抽出法における採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−236963(P2010−236963A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83969(P2009−83969)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】