説明

固相分光用反応容器

【課題】 固相分光法において、密閉系での簡単な撹拌方法と、イオン交換樹脂等の固相の光学測定用セルへの移動を容易にする方法を提供する。
【解決手段】 反応容器の蓋に光学測定用セルを取り付け、開閉可能とするとともに、磁気回転子を内部に含み、側壁に磁石を取り付けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、固相分光用反応容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固相分光法は、本発明者の一人である吉村和久によって開発された微量分析法である。その概要は、被測定物質あるいはその化合物をイオン交換樹脂等の固相に吸着させ、吸光度あるいは蛍光強度を測定して濃度を求めるものである。詳細は、文献1及び文献2を参照されたい。
この方法の有効性は、多数の分析例で追認されており、欧米の学会等でも研究がなされている。しかし、その普及は遅れており、実用的な応用までには到達していない。この要因としては、イオン交換樹脂等の固相の吸光度を直接測定するという難しさと、測定手技の煩雑さが挙げられる。このイオン交換樹脂等の固相の直接測定は、開発当時のブレークスルーと考えられるが、その後の測定機器の進歩により、困難さの程度は減少してきている。一方、イオン交換樹脂等の固相の取扱方法は、未だに多少の熟練を要すると言わざるを得ない。また、光学測定用セルは、市販のものを一部改造せざるを得ず、それが普及を阻害する要因の大きな部分をなすと考えられる。
固相分光法においては、流れ方式も研究されており、上記の煩雑さが少なくなっている。しかし、流れ方式では、樹脂への濃縮に時間がかかること、および、現場分析が難しいという問題がある。それに対して、バッチ式の固相分光法では、濃縮時間が短縮でき、ポンプ等が不要で現場分析にも応用できる可能性が高いと言える。本発明は、バッチ式の固相分光法についてのものである。
【0003】
測定手技の煩雑さのひとつは、イオン交換樹脂等の固相の移動である。すなわち、イオン交換樹脂等の固相を反応系に導入し、反応途中あるいは反応完了後に目的物質を吸着させ、光学系に移動させて測定するわけであるが、反応系から光学系に移動させる過程が煩雑さの第一の関門である。つぎに、光学系の最適位置に効率よく、イオン交換樹脂等の固相を集積させる過程が第二の関門となる。
第一の関門については、デカンテーションを注意深くおこなうか、あるいは、フィルター付きの吸引器具で吸引する等の方法で、ある程度クリアすることが可能である。しかし、煩雑さが残存し、普及の障害となっている。
第二の関門は、フィルター付きマイクロフローセルを使用することによりクリアできる。しかし、測定のたびにマイクロフローセルに接続して吸引排出を繰り返す操作は、煩雑であると言わざるを得ない。
【0004】
【文献1】
K.Yoshimura,H.Waki,S.Ohashi:Talanta,23,449(1976)
【文献2】
松岡史郎、吉村和久:分析化学(Bunseki Kagaku)、54,1137(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、(1)反応を促進させるとともに樹脂への吸着を促進させるための溶液撹拌が簡単におこなえること、(2)イオン交換樹脂等の固相を簡単に光学測定用セルに充填し、排出させること、(3)微量分析であるので密閉系に近づけること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、反応部と光学測定用セルを一体化し、その結合部を開閉可能なものにした。更に容器側壁に磁石を取り付けた。図1に概略図を示す。以下、図1及び図2に沿って発明内容を説明する。
まず、容器1にマグネティックスターラー(図示せず)の磁気回転子5を入れておき、試料、試薬とイオン交換樹脂等の固相(図示せず)を入れる。そして、光学測定用セル3付きの蓋2を閉め、マグネティックスターラーを動作させて撹拌する。反応が完了したら、側壁の磁石4が下方になるようにして180度転倒させる。磁気回転子5は、磁石4に保持されるが、溶液およびイオン交換樹脂等の固相は、下方すなわち光学測定用セル3に移動する。時間の経過とともに、イオン交換樹脂等の固相は光学測定用セル3の底面に堆積してゆき、イオン交換樹脂等の固相の光学測定が可能になる。適当な時期に光学測定機器(図示せず)にセットし、測定をおこなう。
測定が完了すると、光学測定機器から取り出し、180度転倒させて元通りにして、イオン交換樹脂等の固相および溶液を光学測定用セル3から取り除く。そして、蓋2をあけて溶液とイオン交換樹脂等の固相を排出する。
このような使い方から読み取れるように、この発明では、上述の課題が解決されることが分かる。すなわち、マグネティックスターラーにより、通常の化学的操作と同様に撹拌することができるし、イオン交換樹脂等の固相の移動は、容器を転倒するだけで可能となる。また、試料と試薬を注入したあとは、密閉系が構成できるので、微量分析に適したものとなっている。
更に、光学測定用セル底部付近の断面形状を長方形にしておくと、光路長が2種類選択できるので、感度の調整が容易となり、定量可能範囲を拡大することが可能となる。また、光学測定用セルの内側側壁に傾斜をつけておくと、転倒した時に、空気と溶液の置換が容易となる。
なお、容器の形状は、図示したもの以外に、任意の形状が可能である。また、光学測定用セルの形状も円筒形等任意のものが可能である。更に、撹拌はマグネティックスターラーに限定されるものではなく、振り混ぜ等も可能である。振り混ぜの場合、内部の磁気回転子は、撹拌効率を向上させる役割を果たすことになる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、マグネティックスターラーで撹拌することが可能であるため、プロペラ方式などの機構部が不要であるし、そこからの汚染を低減することができる。また、マグネティックスターラーは、化学実験室の一般的な備品であり何ら熟練操作を要するものではない。
イオン交換樹脂等の固相の移動については、容器を転倒するだけであり、更に光学測定用セルへの充填は、転倒したまま放置すればよい。ここにおいても煩雑な操作は不要になったと言える。また、蓋の部分をホッパー形状にすれば、イオン交換樹脂等の固相の堆積は更に容易となる。
そのうえ、蓋を閉めたあとは密閉系が実現できるし、測定終了後は、排出と洗浄が簡単におこなえる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
容量100mL程度の円筒形容器の蓋に、10mm×3mmの長方形底面で、高さ40mmの光学測定用セルを取り付ける。蓋は開閉可能で、閉めた時に水洩れがないようになっている。磁気回転子としては、長さ20mm程度のフッ素樹脂コーティングのものを用いる。つぎに、測定対象に適した分析法を決定し、試料と試薬を注入する。適当なタイミングでイオン交換樹脂等の固相を約100μL添加して、測定対象物質を吸着させる。吸着が完了してから撹拌を停止し、側壁の磁石を下にして180度転倒させる。回転子は磁石に保持されて、溶液とイオン交換樹脂等の固相が光学測定用セル内部に入ってゆく。しばらく放置または軽く振動させて、イオン交換樹脂等の固相が規定量堆積したところで、光学測定(吸光度測定など)を実施する。その後、反応容器を取り出し、蓋をあけて、内部の液とイオン交換樹脂等の固相を排出する。そして、つぎの測定に備えて、洗浄を実施する。
【実施例】
【0009】
上記のように構成された反応容器に100μLのイオン交換樹脂と、50mLの純水を投入し、数分間撹拌し、側壁磁石を下にして転倒させたところ、約3分で十分な堆積結果が得られた。
この実験において、実験者がおこなった操作は、通常の化学実験操作と反応容器の転倒だけであった。これにより、煩雑さの解消という課題が解決されたことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の斜視図である。
【図2】本発明の断面図である。
【符号の説明】
【0011】
1 容器
2 蓋
3 光学測定用セル
4 磁石
5 磁気回転子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器に光学測定用セルを開閉可能なように取り付けたことを特徴とする反応容器。
【請求項2】
容器内に磁気回転子を含むことを特徴とする請求項1の反応容器。
【請求項3】
側壁に磁石を取り付けたことを特徴とする請求項2の反応容器。
【請求項4】
光学測定用セルの内側面の一部に傾斜を持たせたことを特徴とする請求項1の反応容器。
【請求項5】
光学測定用セル取り付け部に傾斜をつけたことを特徴とする請求項1の反応容器。
【請求項6】
光学測定用セルの底部断面形状を長方形としたことを特徴とする請求項1の反応容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−137775(P2011−137775A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−299594(P2009−299594)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(508372412)サトダサイエンス合同会社 (9)
【Fターム(参考)】