説明

固相化担体および固相化担体の製造方法

【課題】標識分子が安定的に担体に固相化された固相化担体、および、かかる固相化担体の製造方法を提供すること。
【解決手段】固相化担体1は、分子複合体2を介して、標識分子10を担体100に固相化してなるものである。分子複合体2は、ゲスト分子構造31と、ゲスト分子構造31に結合された直鎖状構造32とを含む第1の分子3と、シクロデキストリン構造41を含み、シクロデキストリン構造41が有する空孔を第1の分子3の直鎖状構造32が貫通した状態で、直鎖状構造32の鎖長方向の途中に位置する第2の分子4と、空孔内にゲスト分子構造31を包接して、第2の分子4のシクロデキストリン構造41が第1の分子3の直鎖状構造32の一端部側から離脱するのを阻止するキュカービチュリル構造51を含む第3の分子5とを備え、第1の分子3の直鎖状構造32が担体100に結合され、第2の分子4のシクロデキストリン構造41が標識分子10に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相化担体および固相化担体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロデキストリンは、内部の疎水性空間(空孔)内に、ゲスト分子を包接することができる環状化合物であり、化学修飾も比較的容易であることから、有機合成分野、食品分野、医薬品分野、化粧品分野等の各種分野で利用されるに至っている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、シクロデキストリンとゲスト分子との相互作用(親和性)は、外部の阻害要因に影響を受け易く、ゲスト分子がシクロデキストリンから容易に離脱する場合がある。
【0004】
したがって、生化学分野のように、シクロデキストリン(シクロデキストリン構造)とゲスト分子(ゲスト分子構造)との間に、比較的強力な相互作用が要求される分野においては、その利用が制限されるという問題がある。
【0005】
例えば、標識分子を結合させたシクロデキストリン構造で、担体に結合させたゲスト分子構造を包摂し、標識分子を担体に固相化した場合には、標識分子が担体から容易に離脱して、担体が使用に適さなくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−319280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、標識分子が安定的に担体に固相化された固相化担体、および、かかる固相化担体を容易かつ低コストで製造し得る固相化担体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(9)に記載の本発明により達成される。
(1) 分子複合体を介して、標識分子を担体に固相化してなる固相化担体であって、
前記分子複合体は、ゲスト分子構造と、該ゲスト分子構造に一端部が結合された直鎖状構造とを含む第1の分子と、
シクロデキストリン構造を含み、該シクロデキストリン構造が有する空孔を前記第1の分子の前記直鎖状構造が貫通した状態で、該直鎖状構造の鎖長方向の途中に位置する少なくとも1つの第2の分子と、
空孔内に前記ゲスト分子構造を包接して、前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造が前記第1の分子から離脱するのを阻止するキュカービチュリル構造を含む第3の分子とを備え、
前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部および前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造のいずれか一方が前記担体に結合され、他方が前記標識分子に結合されていることを特徴とする固相化担体。
【0009】
(2) 前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部が前記担体に結合され、かつ、前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造が前記標識分子に結合された状態となっている上記(1)に記載の固相化担体。
【0010】
(3) 前記第1の分子の前記直鎖状構造が、複数の前記第2の分子の各前記シクロデキストリン構造の空孔を貫通している上記(2)に記載の固相化担体。
【0011】
(4) 前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造が前記担体に結合され、かつ、前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部が前記標識分子に結合され、
前記第2の分子は、さらに、前記シクロデキストリン構造と前記担体とを接続する接続構造を含む上記(1)に記載の固相化担体。
【0012】
(5) 前記第1の分子の前記ゲスト分子構造は、前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造に対する親和性より、前記第3の分子の前記キュカービチュリル構造に対する親和性の方が高い上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の固相化担体。
【0013】
(6) 前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造を構成するグルコース単位の数をAとし、前記第3の分子の前記キュカービチュリル構造を構成するグライコウリル単位の数をBとしたとき、B/Aが0.7〜1.3なる関係を満足する上記(5)に記載の固相化担体。
【0014】
(7) 前記第3の分子の前記キュカービチュリル構造は、これを構成するグライコウリル単位の数が7である上記(5)または(6)に記載の固相化担体。
【0015】
(8) 前記第1の分子の前記ゲスト分子構造は、アダマンチル構造である上記(7)に記載の固相化担体。
【0016】
(9) 上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の固相化担体の製造方法であって、
前記第1の分子および前記第2の分子のいずれか一方が結合された前記担体と、他方が結合された前記標識分子とを用意する工程と、
前記第1の分子と前記第2の分子とを接触させることにより、前記シクロデキストリン構造で前記ゲスト分子構造を包接した包接状態を形成する工程と、
該包接状態の前記第1および第2の分子に、前記第3の分子を接近させることにより、前記シクロデキストリン構造と前記キュカービチュリル構造との前記ゲスト分子構造に対する親和性の差を利用して、前記キュカービチュリル構造で前記シクロデキストリン構造を前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部側に押しやるとともに、前記ゲスト分子構造を包接することにより前記分子複合体を形成し、前記固相化担体を得る工程とを有することを特徴とする固相化担体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固相化担体の構成とすることで、標識分子が安定的に担体に固相化された固相化担体とすることができる。
【0018】
また、本発明の固相化担体の製造方法によれば、標識分子を容易かつ安定的に担体に固相化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の固相化担体の第1実施形態の構成を示す概念図である。
【図2】図1に示す固相化担体の製造方法を説明するための概念図である。
【図3】本発明の固相化担体の第2実施形態の構成を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の固相化担体および固相化担体の製造方法を添付図面に示す好適な実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0021】
<第1実施形態>
図1は、本発明の固相化担体の第1実施形態の構成を示す概念図、図2は、図1に示す固相化担体の製造方法を説明するための概念図である。
【0022】
図1に示す固相化担体1は、分子複合体2を介して、標識分子10を担体100に固相化してなるものである。
【0023】
標識分子10としては、例えば、DNA、RNAのような核酸、抗原、抗体、酵素のようなタンパク質およびペプチド、アミノ酸等の生理活性物質や、その他、グルコース、セルロースのような糖、Cy3、Cy5のような蛍光色素等が挙げられる。
【0024】
一方、担体100としては、例えば、カラムの充填剤として用いる粒子、マイクロプレート、基板上に設けられた電極、樹脂基板、スライドガラス、遠沈管、マイクロチューブ等の容器表面、金属およびポリマーマトリックス等が挙げられる。
【0025】
具体的には、このような固相化担体1は、例えば、基板上に設けられた電極にDNAを固相化したものは、DNAチップとして、マイクロプレートのウェル内に抗体を固相化したものは、放射免疫測定法(RIA)や酵素結合免疫吸着法(ELISA)用の試験器具として用いることができる。
【0026】
分子複合体2は、標識分子10を担体100に固定するためのものであり、本発明では、担体100に結合された第1の分子3と、標識分子10が結合された第2の分子4と、第2の分子4が第1の分子3から離脱するのを阻止する第3の分子5とで構成されている。
【0027】
第1の分子3は、ゲスト分子構造31と、このゲスト分子構造31に一端部が結合された直鎖状構造32とを含んでおり、直鎖状構造32の他端部が担体100に結合されている。
【0028】
ゲスト分子構造31は、後述する第2の分子4のシクロデキストリン(Cyclodextrin)構造41および第3の分子5のキュカービチュリル(Cucurbituril)構造51によって包摂され得る化学構造である。
【0029】
このゲスト分子構造31としては、シクロデキストリン構造41およびキュカービチュリル構造51の双方に包摂可能な構造であれば、特に限定されず、図1に示したアダマンチル構造の他、例えば、J.Am.Chem.Soc.2005、127(45)、15959−15967に記載されているような糖構造、芳香族構造、芳香族多環構造および縮合環化構造等が挙げられる。これらの中でも、ゲスト分子構造31としては、アダマンチル構造が好ましい。アダマンチル構造は、シクロデキストリン構造41およびキュカービチュリル構造51の双方に認識され易く、かつ、シクロデキストリン構造41に対する親和性(相互作用)より、キュカービチュリル構造51に対する親和性の方が高いことから、本発明に好適に用いることができる。
【0030】
また、一端部がゲスト分子構造31に結合された直鎖状構造32は、図1に示すように、その他端部が担体100の表面に結合されている。
【0031】
図1に示す構成の第1の分子3は、例えば、ハロゲン基を導入したゲスト分子構造31と、一端部にアミノ基を導入した直鎖状構造32とを反応させることにより得ることができる。具体的には、特開2010−31284号公報等に開示された方法を利用することができる。
【0032】
一方、直鎖状構造32の他端部には、カルボキシル基を導入しておき、これにより、表面にアミノ基を有する担体100との間でアミド結合を形成することで、第1の分子3を担体100に結合させている。なお、例えば、担体100が金電極である場合、直鎖状構造32の他端部にチオール基を導入しておけば、第1の分子3は、金電極との間に強固な金チオール結合を形成する。
【0033】
直鎖状構造32としては、図1に示すエチレングリコール単位を有する構造の他、例えば、飽和炭化水素構造、不飽和炭化水素構造等が挙げられる。また、炭化水素構造および不飽和炭化水素構造は、その鎖の途中に、例えば、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよく、また、一部の水素原子が置換基によって置換されていてもよい。
【0034】
ただし、図1に示すような、直鎖状構造32がエチレングリコール単位を有する構造の場合、第1の分子3全体として水への親和性が高くなる。また、後述するように、第2の分子4および第3の分子5も水への親和性が高いため、固相化担体1の製造を、水系溶媒を用いて行うことができるようになり、その製造が容易となるとともに、コストの削減にも寄与する。
【0035】
また、直鎖状構造32の鎖長は、直鎖状(直線状)に結合された原子の数で表すことができ、かかる原子の数は、特に限定されないが、5〜40程度であるのが好ましく、10〜20程度であるのがより好ましい。かかる範囲とすることにより、図1に示すように、シクロデキストリン構造41を直鎖状構造32の鎖長方向の途中に確実に位置させることができる。また、この場合、固相化担体1の製造過程において、直鎖状構造32が途中で屈曲または湾曲して、ゲスト分子構造31が担体100の表面に付着(例えば、吸着、結合等)するのを防止することができ、結果として、固相化担体1を確実に得ることができる。
【0036】
また、直鎖状構造32の鎖長を長くすれば、直鎖状構造32の鎖長方向の途中に、複数のシクロデキストリン構造41(第2の分子4)を位置させることができるようになる。この場合、担体100に固相化する標識分子10の数を増大させることができるので、固相化担体1を用いたより精度(感度)の高い試験を行うことができる。なお、直鎖状構造32が図1に示すように、エチレングリコール単位を有する構成の場合、エチレングリコール単位の数を設定することにより、直鎖状構造32の鎖長の設定が可能である。
【0037】
以上のような構成の第1の分子3の直鎖状構造32の鎖長方向の途中には、図1に示すように、第2の分子4が位置している。
【0038】
この第2の分子4は、本実施形態では、シクロデキストリン構造41を含み、このシクロデキストリン構造41に標識分子10が結合されている。
【0039】
シクロデキストリン構造41(シクロデキストリン)は、複数のグルコース単位が環状に結合してなる化合物である。図1では、シクロデキストリン構造41を、円錐台形状をなす図形で表してある。このシクロデキストリン構造41は、その内側の疎水性の空孔内に、ゲスト分子構造31を包摂することができる。
【0040】
本実施形態では、図1に示すように、シクロデキストリン構造41の空孔を第1の分子3の直鎖状構造32が貫通した状態となっている。
【0041】
シクロデキストリン構造41を構成するグルコース単位の数は、ゲスト分子構造31のサイズに応じて選択されるものであり、特に限定されないが、6〜10であるのが好ましい。これにより、シクロデキストリン構造41がゲスト分子構造31を包摂する機能を有しつつ、この空孔にゲスト分子構造31を貫通させて、直鎖状構造32が貫通した状態とさせることができる。
【0042】
なお、ゲスト分子構造31がアダマンチル構造である場合、グルコース単位の数は、7(β−シクロデキストリン構造)または8(γ−シクロデキストリン構造)であるのが好ましい。かかるシクロデキストリン構造41は、アダマンチル構造に対する適度な結合定数(相互作用)を有するためである。
【0043】
このシクロデキストリン構造41に、図1に示す構成では、標識分子10としてCy3(蛍光色素)が結合されている。
【0044】
なお、図1に示す構成の第2の分子4は、アミノ基を導入したシクロデキストリンと、Cy3とを反応させることにより得ることができる。具体的には、特開2010−31284号公報等に開示された方法を利用することができる。
【0045】
第1の分子3のゲスト分子構造31は、第3の分子5により包摂(キャップ)されている。このため、第3の分子5が障害となって、第2の分子4のシクロデキストリン構造41が、第1の分子3の直鎖状構造32の担体100と反対側(一端部側)への移動が規制さる。その結果、第2の分子4が第1の分子3から離脱するのが阻止されている。これにより、第2の分子4に結合された標識分子10を担体100に確実に固相化(固定化)することができる。
【0046】
本実施形態において、この第3の分子5は、キュカービチュリル構造51で構成されている。
【0047】
キュカービチュリル構造51(キュカービチュリル)は、複数のグライコウリル単位が環状に結合してなる化合物である。図1では、キュカービチュリル構造51を、樽状をなす図形で表してある。このキュカービチュリル構造51は、その内側の疎水性の空洞(空孔)内に、ゲスト分子構造31を包摂することができる。
【0048】
キュカービチュリル構造51のゲスト分子構造31に対する選択性および親和性(結合定数)は、シクロデキストリン構造41のゲスト分子構造31に対する選択性および親和性より高いため、シクロデキストリン構造41がゲスト分子構造31を包摂していても、このシクロデキストリン構造41を押し退け、キュカービチュリル構造51が優先的にゲスト分子構造31を包摂することができる。
【0049】
このような関係は、シクロデキストリン構造41とキュカービチュリル構造51との構造の違いのみならず、それらのサイズの違いにも依存すると推察される。このため、シクロデキストリン構造41を構成するグルコース単位の数をAとし、キュカービチュリル構造51を構成するグライコウリル単位の数をBとしたとき、B/Aが0.7〜1.3なる関係を満足するのが好ましい。かかる関係を満足することにより、キュカービチュリル構造51がさらに優先的にゲスト分子構造31を包摂することができるようになる。具体的なグライコウリル単位の数は、5〜10が好ましい。
【0050】
なお、ゲスト分子構造31がアダマンチル構造である場合、前記B/Aは、1.0〜1.2なる関係を満足するのが好ましく、具体的なグライコウリル単位の数は、7であるのが好ましい。かかるキュカービチュリル構造51は、アダマンチル構造に対して特に優れた結合定数(相互作用)を有するものとなる。
【0051】
このような固相化担体1は、例えば、次のようにして製造することができる。
[1] まず、図2(a)に示すように、第1の分子3が結合された担体100と、標識分子10が結合された第2の分子4とを用意する。
【0052】
[2] 次に、第1の分子3と第2の分子4とを接触させる。これにより、図2(b)に示すように、第2の分子4のシクロデキストリン構造41で、第1の分子3のゲスト分子構造31を包摂し、包摂状態(第1の包摂化合物)を形成する。
【0053】
本工程[2]は、例えば、担体100が粒子の場合、第2の分子4を溶解した溶液に担体100を浸漬する方法、担体100がマイクロプレートである場合、前記溶液をウェル内に供給する方法等を用いて行うことができる。
【0054】
なお、第2の分子4は、複数の水酸基が露出するシクロデキストリン構造41を有するため、水への溶解性が高く、図1に示す第1の分子3も、直鎖状構造32にエチレングリコール単位を有するため、水への溶解性が高い。
【0055】
したがって、第2の分子4を溶解する溶媒としては、水系溶媒を用いることができ、具体的には、例えば、蒸留水、イオン交換水、RO水のような水、メタノール、エタノールのような低級アルコール、アセトンのような極性溶媒等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。また、かかる水系溶媒には、電解質が含まてていてもよい。
【0056】
また、本工程[2]では、インキュベーションを行うようにしてもよい。この際の加熱条件は、例えば、温度10〜80℃×時間0.5〜3時間程度とすることができる。
【0057】
さらに、次工程[3]に先立って、担体100を、例えば、前述のような水系溶媒を用いて、洗浄するようにしてもよい。
【0058】
[3] 次に、包摂状態の第1および第2の分子3、4に、第3の分子5を接近させる。前述したように、キュカービチュリル構造51のゲスト分子構造31に対する相互作用は、シクロデキストリン構造41のゲスト分子構造31に対する相互作用よりも強い。このため、図2(c)に示すように、キュカービチュリル構造51は、シクロデキストリン構造41を第1の分子3の直鎖状構造32側へ押しやり、自身がゲスト分子構造31を包摂する。これにより、分子複合体2が形成される。
【0059】
本工程[3]も、例えば、担体100が粒子の場合、第3の分子5を溶解した溶液に担体100を浸漬する方法、担体100がマイクロプレートである場合、前記溶液をウェル内に供給する方法等を用いて行うことができる。
【0060】
第3の分子5のキュカービチュリル構造51も、非共有電子対を持つ酸素原子および窒素原子を多く含むため、水への溶解性が高い。したがって、第3の分子5を溶解する溶媒としても、前述したような水系溶媒を用いることができる。
【0061】
また、本工程[3]でも、インキュベーションを行うようにしてもよい。この際の加熱条件は、例えば、温度10〜80℃×時間0.5〜3時間程度とすることができる。
【0062】
以上のようにして、固相化担体1が得られる。得られた固相化担体1は、例えば、前述のような水系溶媒を用いて、洗浄するようにしてもよい。
【0063】
ところで、固相化担体1を、このような構成とするのは、次のような理由による。
すなわち、シクロデキストリン構造41(シクロデキストリン)は、化学修飾が比較的容易である。このため、標識分子10を、直接シクロデキストリン構造41に導入(化学修飾)した分子を作成(合成)し、かかる分子で担体100に結合させた第1の分子3のゲスト分子構造31を包摂することにより、固相化担体とすることも考えられる。
【0064】
しかしながら、シクロデキストリン構造41とゲスト分子構造31との相互作用(親和性)は、外部の阻害要因に影響を受け易いため、シクロデキストリン構造41がゲスト分子構造31から容易に離脱することがある。すなわち、標識分子10を担体100に安定的に固相化することが困難である。
【0065】
一方で、キュカービチュリル構造51(キュカービチュリル)は、シクロデキストリン構造41(シクロデキストリン)と比較して、ゲスト分子構造31に対する選択性および相互作用(親和性)が高い。このため、標識分子10を、直接キュカービチュリル構造51に導入(化学修飾)した分子を作成(合成)し、かかる分子で担体100に結合させた第1の分子3のゲスト分子構造31を包摂することにより、固相化担体とすることも考えられる。
【0066】
しなしながら、標識分子10を、直接キュカービチュリル構造51に導入(化学修飾)するのは、シクロデキストリン構造41と比較して容易ではなく、また、複雑な工程を経る必要があるという問題がある。すなわち、固相化担体の製造コストが高くつく。
【0067】
これに対して、本願発明では、シクロデキストリン構造41に標識分子10を導入し、このシクロデキストリン構造41を第1の分子3で串刺の状態(貫通させた状態)として、その開放端を第3の分子5(無修飾のキュカービチュリル構造51)でキャップする。
【0068】
これにより、標識分子10を担体100に対して確実かつ安定的に固相化することができる。また、製造にコストを要する標識分子10を導入したキュカービチュリル構造51を製造(合成)する必要がないので、固相化担体1を容易かつ低コストで製造することができる。
【0069】
<第2実施形態>
図3は、本発明の固相化担体の第2実施形態の構成を示す概念図である。
【0070】
以下、本発明の第2実施形態について説明するが、前記第1実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0071】
図3に示すように、第2実施形態の固相化担体1は、分子複合体2の構成が異なり、それ以外は、第1実施形態の固相化担体1と同様である。
【0072】
すなわち、第2実施形態では、第1の分子3の直鎖状構造32の他端部に、標識分子10が結合され、第2の分子4のシクロデキストリン構造41が接続構造42を介して担体100に結合されている。
【0073】
第2の分子4の接続構造42としては、前記第1実施形態で挙げた第1の分子3の直鎖状構造32と同様とすることができる。かかる第2の分子4も、特開2010−31284号公報等に開示された方法を利用して合成することができる。
【0074】
第2実施形態では、担体100に結合されたシクロデキストリン構造41の空孔を、第1の分子3の直鎖状構造32が貫通した状態となっており、この直鎖状構造32の一端部に結合されたゲスト分子構造31が第3の分子5で包摂(キャップ)され、他端部には標識分子10が結合(キャップ)されている。
【0075】
これにより、第1の分子3の直鎖状構造32は、いずれの方向からもシクロデキストリン構造41を通過することが阻止される。すなわち、第1の分子3が第2の分子4から離脱するのが防止される。これにより、標識分子10が確実に担体100に固相化される。
【0076】
このような第2実施形態の固相化担体1においても、前記第1実施形態と同様の作用、効果が得られる。
なお、かかる固相化担体1も、前記第1実施形態と同様にして製造することができる。
【0077】
以上、本発明の固相化担体および固相化担体の製造方法を図示の実施形態について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、固相化担体を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成が付加されていてもよい。
また、固相化担体の製造方法には、任意の工程が追加されてもよい。
【実施例】
【0078】
次に、本発明の具体的な実施例について説明する。
1.固相化基板(固相化担体)の製造
アダマンタン誘導体(第1の分子)の基板(担体)への固定化
まず、3mg/mLのアダマンタン誘導体水溶液1mLと、0.2Mの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)水溶液1mLとを混合し、リン酸緩衝液(pH9.0)1mLを添加した。
【0079】
次に、この溶液を、表面にアミノ基を有する樹脂製基板にスポットし、80℃で1時間インキュベートした。その後、PBST溶液で3回洗浄した後、乾燥させた。
【0080】
β−シクロデキストリンの蛍光標識化
まず、3A−アミノ−3A−デオキシ−(2AS,3AS)−β−シクロデキストリン水和物300mgをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、この溶液に、シアン 3 単官能ヘキサン酸色素 サクシニミジルエステルを溶解したDMFを添加し、室温で24時間攪拌した。
【0081】
次に、減圧下に、得られた反応液から溶媒を除去し、真空乾燥した後、蒸留水に溶解し、カラム精製を行った。溶出液から溶媒を除去し、真空乾燥することにより、蛍光標識化されたβ−シクロデキストリン(CD−Cy3:第2の分子)を得た。
【0082】
(実施例)
アダマンタン誘導体が固定された基板を、5.7mMのCD−Cy3水溶液100μLに浸漬し、室温で1時間インキュベートした後、10mMのキュカービット[7]ウリル(Cucurbit[7]uril:CB[7]:第3の分子)水溶液100μLを添加し、さらに室温で1時間インキュベートした。その後、基板を超純水で洗浄した後、乾燥した。
これにより、実施例の固相化基板を得た。
【0083】
(比較例)
アダマンタン誘導体が固定された基板を、5.7mMのCD−Cy3水溶液100μLに浸漬し、室温で2時間インキュベートした。その後、基板を超純水で洗浄した後、乾燥した。
これにより、比較例の固相化基板を得た。
【0084】
2.固相化基板の評価
マイクロアレイ用スキャナ(Packard BioChip Technologies社製マイクロアレイスキャナー「ScanArray」)を用いて、実施例および比較例で得られた固相化基板のスポットの蛍光を検出した。
【0085】
その結果、比較例の固相化基板では、蛍光強度が1000程度と、蛍光がほとんど観察されなかった。これは、CD−Cy3と基板に固定化されたアダマンタン誘導体との相互作用がほとんどなく、CD−Cy3がアダマンタン誘導体から離脱してしまったことが要因であると考えられる。
【0086】
一方、実施例の固相化基板では、蛍光強度が10000程度と、蛍光が観察された。これは、CB[7]がアダマンタン誘導体と相互作用することにより、CD−Cy3のアダマンタン誘導体からの離脱を阻止しているものと考えられる。
【0087】
なお、前記実施例および比較例と同様にして、図3に示すような構成の固相化基板を製造したが、前記と同様の結果が得られた。
【符号の説明】
【0088】
1 固相化担体
2 分子複合体
3 第1の分子
31 ゲスト分子構造
32 直鎖状構造
4 第2の分子
41 シクロデキストリン構造
42 接続構造
5 第3の分子
51 キュカービチュリル構造
10 標識分子
100 担体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子複合体を介して、標識分子を担体に固相化してなる固相化担体であって、
前記分子複合体は、ゲスト分子構造と、該ゲスト分子構造に一端部が結合された直鎖状構造とを含む第1の分子と、
シクロデキストリン構造を含み、該シクロデキストリン構造が有する空孔を前記第1の分子の前記直鎖状構造が貫通した状態で、該直鎖状構造の鎖長方向の途中に位置する少なくとも1つの第2の分子と、
空孔内に前記ゲスト分子構造を包接して、前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造が前記第1の分子から離脱するのを阻止するキュカービチュリル構造を含む第3の分子とを備え、
前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部および前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造のいずれか一方が前記担体に結合され、他方が前記標識分子に結合されていることを特徴とする固相化担体。
【請求項2】
前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部が前記担体に結合され、かつ、前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造が前記標識分子に結合された状態となっている請求項1に記載の固相化担体。
【請求項3】
前記第1の分子の前記直鎖状構造が、複数の前記第2の分子の各前記シクロデキストリン構造の空孔を貫通している請求項2に記載の固相化担体。
【請求項4】
前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造が前記担体に結合され、かつ、前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部が前記標識分子に結合され、
前記第2の分子は、さらに、前記シクロデキストリン構造と前記担体とを接続する接続構造を含む請求項1に記載の固相化担体。
【請求項5】
前記第1の分子の前記ゲスト分子構造は、前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造に対する親和性より、前記第3の分子の前記キュカービチュリル構造に対する親和性の方が高い請求項1ないし4のいずれかに記載の固相化担体。
【請求項6】
前記第2の分子の前記シクロデキストリン構造を構成するグルコース単位の数をAとし、前記第3の分子の前記キュカービチュリル構造を構成するグライコウリル単位の数をBとしたとき、B/Aが0.7〜1.3なる関係を満足する請求項5に記載の固相化担体。
【請求項7】
前記第3の分子の前記キュカービチュリル構造は、これを構成するグライコウリル単位の数が7である請求項5または6に記載の固相化担体。
【請求項8】
前記第1の分子の前記ゲスト分子構造は、アダマンチル構造である請求項7に記載の固相化担体。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれかに記載の固相化担体の製造方法であって、
前記第1の分子および前記第2の分子のいずれか一方が結合された前記担体と、他方が結合された前記標識分子とを用意する工程と、
前記第1の分子と前記第2の分子とを接触させることにより、前記シクロデキストリン構造で前記ゲスト分子構造を包接した包接状態を形成する工程と、
該包接状態の前記第1および第2の分子に、前記第3の分子を接近させることにより、前記シクロデキストリン構造と前記キュカービチュリル構造との前記ゲスト分子構造に対する親和性の差を利用して、前記キュカービチュリル構造で前記シクロデキストリン構造を前記第1の分子の前記直鎖状構造の他端部側に押しやるとともに、前記ゲスト分子構造を包接することにより前記分子複合体を形成し、前記固相化担体を得る工程とを有することを特徴とする固相化担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−247267(P2012−247267A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118316(P2011−118316)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】