説明

固相基板表面上の官能基の定量方法

【課題】 簡便な操作で、バイオチップを作製するための固相基板等の表面上の塩基性又は酸性官能基を正確に定量する方法を提供すること。
【解決手段】 固相基板表面上の官能基の定量方法は、バイオチップ用固相基板の表面上の塩基性又は酸性官能基を、中和滴定により定量する。
【効果】 この方法によれば、簡便な操作で、バイオチップを作製するための固相基板等の表面上の塩基性又は酸性官能基を正確に定量できるので、このような固相基板の品質管理を簡便、確実に行うことができる。また、基板上の官能基が簡便に正確に定量できるので、バイオチップ作製時に、高価な生体関連物質を、不必要に過剰な量用いる必要がなくなり、コスト面でも大きな利益をもたらす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドチップや核酸チップのようなバイオチップを作製するためのバイオチップ用固相基板の表面に導入された官能基の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質や核酸等の生体関連物質を基板上に固定したデバイスであるマイクロアレイの使用が一般化しつつある中、安定した品質のマイクロアレイ用基板が求められている。マイクロアレイ用基板はガラスもしくはプラスチック製であることが多いが、通常これらの材料表面に生体関連物質を固定化するためには表面修飾を施す必要がある。表面修飾法としては、アミノ基 、カルボキシル基などの官能基を導入する場合が多い。特にアミノ基を導入した基板 は、マレイミド基、臭素基への変換が容易で固定化に用いる生体物質に含まれるチオール基との間に共有結合を形成し、強固な固定化が可能であることから有用である。
【0003】
アミノ基 を導入する方法として、アミノアルキルシランによる処理、窒素雰囲気下でのプラズマ処理、アミノ基含有高分子物質のコーティングなどが挙げられるが、処理の簡便性、均一性の観点から、アミノアルキルシランによる処理が一般的である。この方法では、浸漬、洗浄、熱処理という比較的簡便な工程で表面に官能基を導入することが可能であることから多用されている(特許文献1)。
【0004】
カルボキシル基を導入する方法としてはアミノ化した後、適当な酸クロリドあるいは酸無水物を用いてカルボキシル化する方法が知られている(特許文献2)。
【0005】
基板表面の官能基を定量することは、マイクロアレイ用基板製造の品質管理の観点から重要である。特に、ペプチド(タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド)は高価なものが多く、固定化に過剰量のペプチドを用いるのは不経済である。このため、基板上の官能基を定量することは、コスト面からも重要である。
【0006】
表面の官能基は、X線光電子分析法による表面分析により定量可能であるが、X線光電子分析法による表面分析は、装置自体が高価であり、また操作が煩雑であり、また、基板内部にもX線がおよぶため、基板自体の元素も分析されてしまい、異なる材質間での比較が困難である。また、官能基との結合性を有する試薬等を使用して官能基を定量する方法(特許文献2)も知られているが、煩雑な作業を必要とするのみならず、官能基と試薬との反応性が100%ではないため、定量結果の信頼性も満足できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開昭60-015560
【特許文献2】特開2001-139532
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、簡便な操作で、バイオチップを作製するための固相基板等の表面上の塩基性又は酸性官能基を正確に定量する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討したが、なかなか目的を達成できなかった。塩基性又は酸性官能基を定量するために中和滴定ということも考えられたが、バイオチップを作製するための固相基板に導入される官能基の量は微量であるため、中和滴定の感度ではとても定量できないと考えられた。しかし、驚くべきことに、固相基板上の官能基を塩にした後、対イオンを遊離させ、遊離した対イオンを測定することにより、バイオチップを作製するための固相基板に導入される微量の官能基を定量できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、バイオチップ用固相基板の表面上の塩基性又は酸性官能基を、過剰の酸又は塩基で処理し、洗浄後に酸性又は塩基性水溶液に接触させ遊離する対イオン量を測定することにより定量する、固相基板表面上の官能基の定量方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、簡便な操作で、バイオチップを作製するための固相基板等の表面上の塩基性又は酸性官能基を正確に定量する方法が初めて提供された。本発明の方法によれば、簡便な操作で、バイオチップを作製するための固相基板等の表面上の塩基性又は酸性官能基を正確に定量できるので、このような固相基板の品質管理を簡便、確実に行うことができる。また、基板上の官能基が簡便に正確に定量できるので、バイオチップ作製時に、高価な生体関連物質を、不必要に過剰な量用いる必要がなくなり、コスト面でも大きな利益をもたらす。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法に供される固相基板は、バイオチップを作製するためのバイオチップ用固相基板である。定量される官能基は、バイオチップ上に生体関連物質を固定化するために導入された官能基であることが好ましい。バイオチップは、チップ上に生体関連物質が固定化され、被検試料中の特定の物質と生体関連物質との相互作用に基づき被検試料中の特定の物質の検出や定量に用いられるものである。バイオチップとしては、ペプチド(タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド)を固定化するペプチドチップや、DNAやRNAを固定化する核酸チップが好ましく、特に、固定化する物質が高価なペプチドチップに適用するのが有利である。バイオチップ上に固定化される生体関連物質は、ペプチドチップの場合には、タンパク質、ポリペプチド又はオリゴペプチドであり、核酸チップの場合にはDNAやRNAである。
【0013】
また、基板の材質は何ら限定されるものではなく、バイオチップに広く用いられているガラス、プラスチック、金属等でよい。本発明の方法は、対イオン測定を利用しているので、材質の種類によらず適用可能である。
【0014】
定量される官能基は塩基性又は酸性官能基であり、好ましくは、生体関連物質の固定化に多用されるアミノ基又はカルボキシル基であり、好ましくはアミノ基である。
【0015】
官能基の導入方法は何ら限定されるものではなく、いかなる方法により導入された官能基であってもよい。例えば、アミノ基の導入手段としては、アミノアルキルシランによる処理、窒素雰囲気下でのプラズマ処理、アミノ基含有高分子物質のコーティングなどが挙げられるが、処理の簡便性、均一性の観点から、アミノアルキルシランによる処理が一般的である。
【0016】
官能基の対イオン量の測定方法は特に限定されないが、既知濃度の酸性又は塩基性水溶液に基板を浸漬して水溶液中に残存するイオンの測定から対イオン量を求める方法や、あらかじめ基板を過剰の酸又は塩基で処理し、洗浄後に酸性又は塩基性水溶液に接触させ遊離する対イオン量を測定する方法が好ましい。
【0017】
官能基の対イオン量の測定を、既知濃度の酸性又は塩基性水溶液に基板を浸漬して水溶液中に残存するイオンの測定から対イオン量を求める場合、市販の基板上に導入された塩基性又は酸性官能基はしばしば塩となっているので、過剰の塩基性又は酸性水溶液で処理しておくことが好ましい。この時用いる塩基性又は酸性水溶液の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.001〜2規定、より好ましくは0.005〜1規定、最も好ましくは0.01〜0.5規定である。このように基板を過剰の塩基性又は酸性水溶液で処理し、よく洗浄した後、既知濃度の酸性又は塩基性水溶液に基板を浸漬することが好ましい。
【0018】
基板上の遊離の塩基性又は酸性官能基は容易に酸又は塩基と中和反応し基板上の官能基と同じ数だけの対イオンと塩を形成するが、基板上の官能基よりも強い塩基又は酸の存在下では対イオンを水溶液中に放出する。したがって水溶液中に放出された対イオンを測定することにより、基板上の塩基性又は酸性官能基の定量が可能となる。
【0019】
市販の基板上に導入された塩基性又は酸性官能基はしばしば塩となっているが、すべての官能基が対イオンを持つようにするために、対イオンを遊離させる前に過剰の塩基又は酸で処理しておくことが好ましい。なお、ここで、「過剰」とは、定量すべき塩基性官能基の化学量論量よりも多いことを意味し、好ましくは、化学量論量の2倍〜500倍程度である。通常、バイオチップ作製のための基板に導入される塩基性官能基の量は、0.01nmol〜10nmol/cm2程度、特に0.1nmol〜1nmol/cm2程度であるので、通常、これよりも過剰な塩基又は酸で処理する。処理後は過剰分を取り除くために基板を純水で洗浄することが好ましい。
【0020】
対イオンを遊離させるための酸性又は塩基性水溶液の種類は特に限定されないが、基板上に導入された官能基よりも強酸性又は強塩基性の水溶液に接触させて行うのが好ましく、塩酸又は水酸化ナトリウム水溶液を用いるのが最も好ましい。この時用いる強酸性又は強塩基性水溶液の濃度は特に限定されないが、好ましくは0.0001〜1規定、より好ましくは0.0005〜0.5規定、最も好ましくは0.001〜0.1規定である。
【0021】
水溶液中の対イオン量の測定方法は特に限定されないが、感度や簡便性から市販のイオンクロマトグラフィーを用いて行なうことが好ましい。
【0022】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0023】
参考例1
塩素イオン濃度測定用検量線の作成
市販の0.01mol/lの塩酸水溶液を希釈して濃度が2.00μmol/l、10.0μmol/l、100μmol/l の塩酸水溶液を調製した。島津製パーソナルイオンアナライザPIA-1000を用いて塩素イオンの分析を行い検量線を作成した。結果を下記表1と図1に示した。
【表1】

【0024】
参考例2
ナトリウムイオン濃度測定用検量線の作成
市販の0.01mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を希釈して濃度が2.00μmol/l、10.0μmol/l、100μmol/l の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。島津製パーソナルイオンアナライザPIA-1000を用いてナトリウムイオンの分析を行い検量線を作成した。結果を下記表2と図2に示した。
【表2】

【実施例1】
【0025】
基板上のアミノ基の定量
表面にアミノ基の導入されたTeleChem製Super Amine Substrate 1枚を50mlのサンプルチューブに入った0.5mol/l塩酸のシオキサン溶液50mlに2時間浸漬し、純水で洗浄し窒素ガスで乾燥させた。ガラス製シャーレ中で0.001mol/lの水酸化ナトリウム水溶液1mlに基板の裏と表を接触させた。溶液の200μlを島津製パーソナルイオンアナライザPIA-1000を用いて塩素イオンの分析をおこなった。塩素イオン濃度は参考例1の検量線より求めた。アミノ基量は下式により求めた。結果は下記表3に示した。
アミノ基量[nmol/1枚]= 塩素イオン濃度/1000000/1000×1000000000
【表3】

【実施例2】
【0026】
基板上のカルボキシル基の定量
表面にアミノ基の導入されたTeleChem製Super Amine Substrate 1枚を酸クロリドを用いてクロロホルム中で還流してカルボキシル化した。50mlのサンプルチューブに入った0.5mol/l水酸化ナトリウム水溶液50mlに2時間浸漬し、純水で洗浄し窒素ガスで乾燥させた。ガラス製シャーレ中で0.001mol/lの塩酸水溶液1mlに基板の裏と表を接触させた。溶液の200μlを島津製パーソナルイオンアナライザPIA-1000を用いてナトリウムイオンの分析をおこなった。ナトリウムイオン濃度は参考例2の検量線より求めた。カルボキシル基量は下式により求めた。結果は下記表4に示した。
カルボキシル基量[nmol/1枚]= ナトリウムイオン濃度/1000000/1000×1000000000
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】塩素イオン濃度測定用検量線
【図2】ナトリウムイオン濃度測定用検量線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオチップ用固相基板の表面上の塩基性又は酸性官能基を、官能基の対イオン量を測定することにより定量する、バイオチップ用固相基板表面上の官能基の定量方法。
【請求項2】
前記固相基板を先ず過剰の酸又は塩基で処理し、洗浄後に酸性又は塩基性水溶液に接触させ遊離する対イオン量を測定することにより行なう請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記過剰の酸又は塩基が無機酸又は無機塩基で、遊離する対イオン量の測定をイオンクロマトを用いて行なう請求項2項に記載の方法。
【請求項4】
前記官能基がアミノ基又はカルボキシル基である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記対イオンが塩素イオン又はナトリウムイオンである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−258420(P2006−258420A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69554(P2005−69554)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(502249851)株式会社ハイペップ研究所 (11)
【Fターム(参考)】