説明

固相抽出カートリッジ用アダプタ

【課題】 固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を調整可能とした安価な固相抽出カートリッジ用アダプタを提供する。
【解決手段】 固相抽出カートリッジ10のノズル10cに装着される固相抽出カートリッジ用アダプタ1であって、固相抽出カートリッジ10のノズル10cが差し込まれるノズル差込み部2と、このノズル差込み部2から引き延ばされたノズル部3とが樹脂によって形成されると共に、ノズル部3の少なくとも先端における内径が固相抽出カートリッジ10のノズル10cの先端における内径よりも小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相抽出カートリッジのノズルに装着される固相抽出カートリッジ用アダプタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液中からの特定物質(分析の対象とする物質)の抽出には、液−液抽出法が多く用いられてきたが、作業が繁雑で時間と経験を要すること、溶媒を多量に使用することなどの問題があった。このため、現在では、作業が簡単で溶媒の使用量も少なく、自動化により大量の試料を処理することができる固相抽出法が用いられるようになっている(例えば、特許文献1,2を参照。)。
【0003】
この固相抽出法では、吸着材が充填された固相抽出カートリッジが用いられ、この固相抽出カートリッジに大気ガスや水道水などの分析対象となる試料を流し、試料中の特定物質を吸着材に吸着させた後に、固相抽出カートリッジに溶媒を流して、吸着材から溶媒に特定物質を溶出(脱着)させた溶出液を回収(抽出)する。
【0004】
ところで、一般的な固相抽出方法では、固相抽出カートリッジに試料を流す際に、試料が速やかに流れるものがよく、一方、固相抽出カートリッジに溶媒を流し、特定物質を回収する際には、溶媒による特定物質の抽出を確実なものとするために、溶媒が緩やかに流れるものが望まれる。
【0005】
しかしながら、試料の通気(液)性が良い固相抽出カートリッジを用いた場合、この固相抽出カートリッジのノズルから流出する溶媒(溶出液)の流出速度も速くなるため、吸着材から溶媒に特定物質を溶出させる時間が不充分となり、溶出液への特定物質の安定した回収を行うことが困難となる。
【0006】
一方、固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を調整するため、定量ポンプを用いることもあるが、費用がかかるため、より安価で手軽な方法が望まれる。
【0007】
また、固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を緩やかなものとするために、固相抽出カートリッジのノズルに(使い捨ての)注射針を装着することも考えられるが、注射針を使用する場合、その取り扱いに注意が必要である。
【特許文献1】実開平6−82567号公報
【特許文献2】実開昭60−134163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、固相抽出カートリッジのノズルに装着することによって、固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を調整可能とした安価な固相抽出カートリッジ用アダプタ、並びにこのアダプタが装着された固相抽出カートリッジを用いて固相抽出カートリッジからの溶媒による特定物質の抽出を安定して行うことを可能とした固相抽出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の手段を提供する。
(1) 吸着材が充填された固相抽出カートリッジに分析対象となる試料を流し、この試料中の特定物質を前記吸着材に吸着させた後に、前記固相抽出カートリッジに溶媒を流して、前記吸着材から前記溶媒に前記特定物質を溶出させた溶出液を回収する際に、前記固相抽出カートリッジのノズルに装着される固相抽出カートリッジ用アダプタであって、前記固相抽出カートリッジのノズルが差し込まれるノズル差込み部と、前記ノズル差し込み部から引き延ばされたノズル部とが樹脂によって形成されると共に、前記ノズル部の少なくとも先端における内径が前記固相抽出カートリッジのノズル先端における内径よりも小さいことを特徴とする固相抽出カートリッジ用アダプタ。
(2) 前記ノズル部は、基端部から先端部に向かって内径が小さくなる形状を有すると共に、この基端部と先端部との間で切断可能とされていることを特徴とする前項(1)に記載の固相抽出カートリッジ用アダプタ。
(3) 前記ノズル部にチューブが差し込まれていることを特徴とする前項(1)又は(2)に記載の固相抽出カートリッジ用アダプタ。
(4) 吸着材が充填された固相抽出カートリッジに分析対象となる試料を流し、この試料中の特定物質を前記吸着材に吸着させた後に、前記固相抽出カートリッジのノズルに前項(1)乃至(3)の何れか一項に記載の固相抽出カートリッジ用アダプタを装着した状態で該固相抽出カートリッジに溶媒を流し、前記吸着材から前記溶媒に前記特定物質を溶出させた溶出液を回収することを特徴とする固相抽出方法。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、固相抽出カートリッジのノズルに固相抽出カートリッジ用アダプタを装着することによって、固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を調整することができる。
【0011】
したがって、本発明に係る固相抽出方法では、固相抽出カートリッジに分析対象となる試料を速やかに流しつつ、固相抽出カートリッジに溶媒を流す際には、この固相抽出カートリッジに固相抽出カートリッジ用アダプタを装着することによって、固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を緩やかなものとすることができ、吸着材から溶媒への特定物質の安定した回収を行うことができる。
【0012】
また、本発明に係る固相抽出カートリッジ用アダプタは、樹脂により形成されたものであるため、注射針を用いる場合よりも安全な操作が可能である。さらに、本発明に係る固相抽出カートリッジ用アダプタは、固相抽出カートリッジのノズルに簡単に装着することができ、しかも簡便な構造を有することから非常に安価である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を適用した固相抽出カートリッジ用アダプタ及び固相抽出法について、図面を参照して詳細に説明する。
例えば、大気ガスや水道水などの分析対象となる試料中の特定物質を固相抽出法により精製したり、濃縮したりするための前処理装置としては、図1及び図2に示すような分析対象試料中の特定物質を吸着させた後に溶媒Sを流すことによって溶媒Sに特定物質を溶出させる固相抽出カートリッジ10と、この固相抽出カートリッジ10から流出した溶出液S’を回収する容器となる試験管20と、固相抽出カートリッジに流す溶媒を収容するシリンダ30とが用いられる。
【0014】
固相抽出カートリッジ10は、吸着材11が充填された略円筒状のカートリッジ本体10aを備えており、このカートリッジ本体10aの長手方向の両端部には、それぞれノズル10b,10cが設けられている。このうち、図2中に示す上部側のメス型ノズル10bには、シリンダ30のノズル30aが差し込まれ、図2中に示す下部側のオス型ノズル10cは、後述する固相抽出カートリッジ用アダプタ1のノズル差込み部2に差し込まれることになる。
【0015】
吸着材11としては、例えば官能基を導入したシリカゲル粒子や、スチレン−ジビニルベンゼン共重合架橋体などのポリマー粒子、活性炭やカーボングラファイトのような炭素粒子などがあり、用途に応じて適宜選択して使用することができる。また、特定物質を含んだ溶出液の精製や濃縮に用いられる溶媒についても、その抽出する特定物質に合わせて任意のものを使用することができる。
【0016】
以上のような前処理装置を用いて固相抽出法により特定物質を含んだ溶出液を抽出する際には、先ず、固相抽出カートリッジ10のノズル10c側(或いはノズル10b側)から分析対象となる気体又は液体の試料を流することによって、この試料中の特定物質を吸着材11に吸着させる。その後に、スポイト40を用いて溶媒Sをシリンダ30に定量的に注入し、固相抽出カートリッジ10のノズル10b側からシリンダ30に収容された溶媒Sを流すことによって、吸着材11から溶媒Sに特定物質を溶出(脱着)させる。この特定物質を含む溶出液S’は、固相抽出カートリッジ10のノズル10c側から流出されて、その下にある試験管20へと回収される。
【0017】
ところで、上記前処理装置では、固相抽出カートリッジ10から流出される溶媒(溶出液S’)の流出速度を緩やかなものとするために、本発明を適用した固相抽出カートリッジ用アダプタ(以下、アダプタという。)1が固相抽出カートリッジ10のノズル10cに装着されている。
【0018】
具体的に、このアダプタ1は、樹脂により略円筒状に形成されたアダプタ本体1aを備え、このアダプタ本体1aには、固相抽出カートリッジ10のノズル10cが差し込まれるノズル差込み部2と、このノズル差込み部2から引き延ばされたノズル部3とが設けられている。なお、このアダプタ1の樹脂としては、例えばポリプロピレンや、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、シリコーン樹脂、或いはタイゴン(登録商標)チューブ等を用いることができる。
【0019】
ノズル差込み部2は、ノズル部3と連続したアダプタ本体1aを貫通する孔部であり、固相抽出カートリッジ10のノズル10cの外径に対応した内径を有している。
【0020】
ノズル部3は、少なくとも先端における内径が上記固相抽出カートリッジ10のノズル10cの先端における内径よりも小さい細孔構造を有している。例えば図1に示すノズル部3は、ノズル差し込み部2から引き延ばされた細管(キャピラリー)であり、基端部から先端部に向かって内径がほぼ一定となる形状を有している。本例では、10ml程度の溶媒Sをシリンダ30に入れて自然滴下させたときに、例えば0.1〜5ml/分程度の流出速度となるように、ノズル部3の内径が設定されている。また、好ましい流出速度は、0.5〜2ml/分である。なお、ノズル部3は、ノズル差込み部2と一体に形成されていることが好ましいが、ノズル差込み部2とは別体に形成することもできる。
【0021】
アダプタ1は、このアダプタ1を固相抽出カートリッジ10のノズル10cに装着し易くする、また、このアダプタ1をノズル10cから取り外し易くするための摘み部4を設けた構成とすることもできる。具体的に、図1に示すアダプタ本体1aの外周部には、ノズル差込み部2側の一部が外側に向かって突出された摘み部4が設けられている。アダプタ1は、このような摘み部4を設けることによって、分析に問題となるような汚染もなく、安全な操作が可能となる。
【0022】
アダプタ1が装着された固相抽出カートリッジ10では、この固相抽出カートリッジ10から流出される溶媒Sの流出速度を調整することができる。具体的に、このアダプタ1が装着された固相抽出カートリッジ10を用いた固相抽出方法では、固相抽出カートリッジ10に分析対象となる試料を速やかに流しつつ、固相抽出カートリッジ10に溶媒Sを流す際には、固相抽出カートリッジ10にアダプタ1を装着することによって、この相抽出カートリッジ10から流出される溶媒(溶出液S’)の流出速度を緩やかなものとすることができる。したがって、操作時間の短縮を図りつつ、吸着材11から溶媒Sに特定物質をほぼ完全に回収することができる。
【0023】
また、このアダプタ1は、樹脂により形成されたものであるため、上述した注射針を用いる場合よりも安全な操作が可能である。さらに、このアダプタ1は、固相抽出カートリッジ10のノズル10cに簡単に装着することができ、しかも簡便な構造を有することから非常に安価である。
【0024】
また、このアダプタ1は、例えば図3に示すような上記シリンダ30に吸着材11が充填された固相抽出カートリッジのノズル30aにも装着することができる。
【0025】
本発明では、上述した図1に示すアダプタ1の形状に必ずしも限定されるものではない。すなわち、本発明を適用した固相抽出カートリッジ用アダプタ1では、ノズル部3の内径や長さ等の違いによって、固相抽出カートリッジ10から流出される溶媒Sの流出速度を任意に調整することができる。
【0026】
例えば図4に示すアダプタ1のように、ノズル部3の形状が基端部から先端部に向かって内径が連続的に小さくなるものであってもよい。この場合、樹脂からなるノズル部3は、基端部と先端部との間で切断可能なため、この基端部と先端部との間の切断される位置(図4中の2点鎖線で示す。)によって、ノズル部3の内径及び長さを変えることができる。これにより、上述した固相抽出カートリッジ10に溶媒Sを流す際のノズル部3から流出される溶媒Sの流出速度を容易に調整することができる。
【0027】
また、本発明を適用した固相抽出カートリッジ用アダプタ1は、例えば図5に示すように、ノズル部3にチューブ5が差し込まれた構成であってもよい。この場合も、内径の異なるチューブ5を用いることによって、流出される溶媒Sの流出速度を任意に調整することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明の効果を明らかなものとする。
本実施例では、吸着材として活性炭が充填された固相抽出カートリッジを用い、この固相抽出カートリッジの上部に連結したシリンダに、アセトン(20℃のとき、粘度0.322mPa・s)、酢酸エチル(同0.449mPa・s)、メタノール(同0.62mPa・s)の各溶媒を10〜11ml程度入れて自然滴下させたときに、本発明のアダプタを固相抽出カートリッジに装着した場合と装着しなかった場合との各溶媒の流出速度を測定した。すなわち、本測定では、各溶媒が目盛り付き試験管に10ml溜まるまでの時間を測定した。なお、各溶媒の測定値は、本測定を2回行った平均値であり、本発明のアダプタには、ノズル部の内径が0.5mm、長さが25mmのものを用いた。
【0029】
その結果、本発明のアダプタを固相抽出カートリッジに装着した場合の各溶媒の測定値は、アセトンが8分50秒、酢酸エチルが10分35秒、メタノールが16分10秒であった。これに対して、本発明のアダプタを固相抽出カートリッジに装着しなかった場合の各溶媒の測定値は、アセトンが50秒、酢酸エチルが1分5秒、メタノールが1分35秒であった。
【0030】
このように、本発明のアダプタを固相抽出カートリッジに装着することによって、試料の通気(液)性が良い固相抽出カートリッジを用いた場合でも、この固相抽出カートリッジから流出される溶媒の流出速度を緩やかなものとし、溶媒により固相抽出カートリッジから抽出される特定物質の抽出率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】図1は、固相抽出法を用いた前処理装置の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図2は、図1に示す前処理装置を用いた固相抽出法による前処理操作を説明するための斜視図である。
【図3】図3は、別の固相抽出カートリッジに固相抽出カートリッジ用アダプタが装着された状態を示す斜視図である。
【図4】図4は、本発明を適用した固相抽出カートリッジ用アダプタの別のノズル形状を示す斜視図である。
【図5】図5は、本発明を適用した固相抽出カートリッジ用アダプタのノズルにチューブが差し込まれた状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1…固相カートリッジ用アダプタ 2…ノズル差込み部 3…ノズル部 4…摘み部 5…チューブ 10…固相抽出カートリッジ 10a…カートリッジ本体 10b,10c…ノズル 11…吸着材 20…試験管(容器) 30…シリンダ 40…スポイト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸着材が充填された固相抽出カートリッジに分析対象となる試料を流し、この試料中の特定物質を前記吸着材に吸着させた後に、前記固相抽出カートリッジに溶媒を流して、前記吸着材から前記溶媒に前記特定物質を溶出させた溶出液を回収する際に、前記固相抽出カートリッジのノズルに装着される固相抽出カートリッジ用アダプタであって、
前記固相抽出カートリッジのノズルが差し込まれるノズル差込み部と、前記ノズル差し込み部から引き延ばされたノズル部とが樹脂によって形成されると共に、前記ノズル部の少なくとも先端における内径が前記固相抽出カートリッジのノズル先端における内径よりも小さいことを特徴とする固相抽出カートリッジ用アダプタ。
【請求項2】
前記ノズル部は、基端部から先端部に向かって内径が小さくなる形状を有すると共に、この基端部と先端部との間で切断可能とされていることを特徴とする請求項1に記載の固相抽出カートリッジ用アダプタ。
【請求項3】
前記ノズル部にチューブが差し込まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の固相抽出カートリッジ用アダプタ。
【請求項4】
吸着材が充填された固相抽出カートリッジに分析対象となる試料を流し、この試料中の特定物質を前記吸着材に吸着させた後に、前記固相抽出カートリッジのノズルに前記請求項1乃至3の何れか一項に記載の固相抽出カートリッジ用アダプタを装着した状態で該固相抽出カートリッジに溶媒を流し、前記吸着材から前記溶媒に前記特定物質を溶出させた溶出液を回収することを特徴とする固相抽出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−349375(P2006−349375A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172600(P2005−172600)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】