説明

固結が抑制されたラクトスクロース結晶高含有粉末とその製造方法並びに用途、及びラクトスクロース結晶の固結抑制方法

【課題】 本発明は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れたラクトスクロース結晶高含有粉末とその製造方法及び用途、並びにラクトスクロース結晶の固結抑制方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
本発明は、ラクトスクロース結晶に対し、ラクトース結晶を所定の割合で共存させて得られる、固結が抑制されたラクトスクロース結晶高含有粉末とその製造方法及び用途、並びにラクトスクロース結晶の固結抑制方法を提供することにより前記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固結が抑制された新規なラクトスクロース結晶高含有粉末とその製造方法並びに用途、及びラクトスクロース結晶の固結抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクトスクロースは、ガラクトース、グルコース及びフラクトースからなる三糖類であって、その化学構造は、O−β−Gal−(1→4)−O−α−D−Glc−(1←2)−β−D−Fuc(但し、「Gal」はガラクトース残基、「Glc」はグルコース残基、「Fuc」はフラクトース残基を表す。)で表される。
【0003】
ラクトスクロースは、まろやかな甘味を有する糖質であり、甘味剤、賦形剤、安定剤、増粘剤、保湿剤、照り付与剤などとして、更には、ビフィズス菌選択糖源として、各種飲食品、化粧品、医薬品などの分野において広範に用いられている有用な糖質である。
【0004】
ラクトスクロースの形態としては、液状、粉末状、固状のものが知られており、これらラクトスクロースの製造方法としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載された、スクロースとラクトースとを含有する水溶液に、フラクトース転移酵素やガラクトース転移酵素などの糖転移酵素を作用させてラクトスクロースを生成させる方法、特許文献3に記載された、スクロースとラクトースとを含有する水溶液に、β−フラクトフラノシダーゼとスクロース非資化性酵母とを作用させてラクトスクロースを生成させる方法、及び特許文献4に記載された、ラクトスクロースの過飽和溶液に種晶を加えて、ラクトスクロースの晶出を促してマスキットを得、これに、分蜜方法、噴霧乾燥方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法などを適用してラクトスクロース5含水結晶またはそれを含有する含蜜結晶を製造する方法などが知られている。
【0005】
特許文献1乃至3に記載されたラクトスクロース製品は、ラクトスクロース含有量が高い特徴を有しているものの、保存・流通段階において、比較的高温度、高湿度の条件下では、時間の経過と共に雰囲気中の水分を吸湿して固結し易く、流動性、取扱性、及び保存安定性を損なってしまうという欠点があった。この不都合を改善する目的で、特許文献4には、ラクトスクロース5含水結晶またはそれを含有する含蜜結晶が提案されている。しかしながら、斯かるラクトスクロース5含水結晶またはそれを含有する含蜜結晶は、特許文献1乃至3に記載されたラクトスクロース製品と比べ、固結性の改善がある程度認められるものの、比較的高温度、高湿度の条件下においては、如何せん、時間の経過と共に雰囲気中の水分を吸湿して固結し、流動性、取扱性、及び保存安定性が低下することが判明した。そこで、斯界に於いては、そのような苛酷な条件下においても、固結し難く、流動性、取扱性、及び保存安定性に優れたラクトスクロース高含有粉末が鶴首されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−290197号公報
【特許文献2】特開平4−281795号公報
【特許文献3】国際公開第WO2005/103276号パンフレット
【特許文献4】国際公開第WO2006/011301号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても、固結し難く、流動性、取扱性、及び保存安定性に優れたラクトスクロース結晶高含有粉末とその製造方法並びに用途、及びラクトスクロース結晶の固結抑制方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意研究した結果、ラクトスクロース5含水結晶(本願明細書においては、単に「ラクトスクロース結晶」と言う場合がある。)に対し、ラクトース1含水結晶(本願明細書においては、単に「ラクトース結晶」と言う場合がある。)を所定の割合で含み、ラクトスクロース及びラクトース以外の他の糖質含有量が所定の範囲にあり、かつ、特定の水分含量及び結晶化度を有するラクトスクロース結晶高含有粉末は、前記課題を解決することを新規に見出したとともに、その製造方法並びに用途、及びラクトスクロース結晶の固結抑制方法を確立して本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても、固結し難く、流動性、取扱性、及び保存安定性に優れた産業上、極めて有用なラクトスクロース結晶高含有粉末である。
【0010】
したがって、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、従来公知のラクトスクロース5含水結晶粉末をはじめとする各種ラクトスクロース高含有粉末がその固結性のために適用することができないか、適用しても不都合を生じていた、飲食品、化粧品、医薬品、飼料、餌料などの種々の分野において好適に用いることができる。とりわけ、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、粉末状混合甘味料、粉末状難消化性甘味料、粉末状低う蝕性甘味料、チョコレート、チューインガム、即席ジュース、即席スープ、プレミックス粉、乾燥剤、澱粉老化防止剤、整腸剤、ミネラル吸収促進剤、顆粒・錠剤用固着抑制剤、賦形剤、増量剤、粉末基剤などの用途に極めて有利に用いることができる。また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、ラクトスクロースが本来有する難消化性、ビフィズス菌増殖促進性、難う蝕性、保湿性などの優れた機能を発揮することから、これらの機能を活用する各種用途へも好適に用いることができる。
【0011】
更に、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、常法にしたがって、水溶性高分子、例えば、プルラン、水溶性プルランエーテル、水溶性プルランエステル、ゼラチン、アラビアガム、カルボキシメチルセルロース、海藻多糖類などを結合剤として造粒することにより、流動性に優れ、取扱性の良好な粒状品とすることができる利点を有している。
【0012】
また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、比較的高温度、高湿度の過酷な環境下においても、比較的長期間に亘って、粘着、固着、固結などの不都合を生じ難く、取り扱いが良好であることから、包装、輸送、貯蔵などの管理に要する物的、人的経費を大幅に削減できる利点をも有している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、固形物当たり、ラクトスクロース約90質量%及びラクトース約10質量%含む混合溶液から晶出したラクトスクロース結晶含有粉末の粉末X線回折図形である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を製造するに際し、原料として用いるラクトスクロースとしては、液状又は固状のラクトスクロース含有物、ラクトスクロース5含水結晶、及び非晶質ラクトスクロース(以下、特に断りがない限り、「液状又は固状のラクトスクロース含有物、ラクトスクロース5含水結晶、及び非晶質ラクトスクロース」を纏めて「ラクトスクロース」と言う。)のいずれも用いることができ、その由来、性状は問わず、市販のラクトスクロースはもとより、例えば、特許文献1乃至4に記載された製造方法により得られるラクトスクロースのいずれも好適に用いることができる。本発明において用いるラクトスクロースの純度は、通常、75質量%以上、好適には、80質量%以上、より好適には、90質量%以上、更に好適には、95質量%以上のものが望ましい。したがって、原料として用いるラクトスクロースの純度が上記範囲を逸脱する場合、或いは、上記所望の範囲内の特定の範囲に調整する必要がある場合には、ラクトスクロース以外の他の夾雑糖質などを除去できる方法、例えば、アルカリ金属型もしくはアルカリ土類金属型カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーによる公知の分画法を用いることにより、所望の純度にまで高めて用いるのが望ましい。
【0015】
また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を製造するに際し、原料として用いるラクトースとしては、液状又は固状のラクトース含有物、ラクトース1含水結晶、及び非晶質ラクトース(以下、特に断りがない限り、「液状又は固状のラクトース含有物、ラクトース1含水結晶、及び非晶質ラクトース」を纏めて「ラクトース」と言う場合がある。)のいずれも用いることができ、その由来、性状は問わず、市販品も好適に用いることができる。また、本発明で用いるラクトースの純度としては、通常、90質量%以上、好適には、95質量%以上、より好適には、98質量%以上のものが望ましい。したがって、原料として用いるラクトースの純度が上記範囲を逸脱する場合、或いは、上記所望の範囲内の特定の範囲に調整するに際しては、ラクトース以外の他の夾雑糖質などを除去できる方法、例えば、アルカリ金属型もしくはアルカリ土類金属型カチオン交換樹脂を用いるカラムクロマトグラフィーによる公知の分画法を用いることにより、所望の純度にまで高めるのが望ましい。
【0016】
本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を製造するに際し、原料として、上記した種々のラクトスクロース及びラクトースを用いることができるけれども、通常、これらの糖質は調製方法に起因して、グルコース、スクロース、マルトースなどのラクトスクロース及びラクトース以外の他の糖質を相当量含んでいる。これら他の糖質は、後述するとおり、ラクトース1含水結晶によるラクトスクロース5含水結晶の固結抑制作用を阻害したり、逆に、ラクトスクロース5含水結晶の固結を促進する場合があることから、本発明で原料として用いるラクトスクロース及びラクトースとしては、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質含有量が、無水物換算で、合計で5質量%未満であるものが好適に用いられる。殊に、上記不純物としての糖質含量のより少ない高純度のラクトスクロース及びラクトース、とりわけ、ラクトスクロース5含水結晶、ラクトスクロース5含水結晶高含有物、ラクトース1含水結晶、及びラクトース1含水結晶高含有物が好適に用いられる。しかしながら、本発明の目的を逸脱しない範囲であれば、ラクトスクロース及びラクトース以外の他の糖質を含むラクトスクロース及びラクトースであっても本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を製造するための原料として用いることができる。
【0017】
次に、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末の製造方法について述べる。本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末の第一の製造方法としては、原料として、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質含有量が、無水物換算で、合計で5質量%未満である、既述のラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶をそれぞれ準備し、必要に応じて、公知の方法により粉砕して適宜粒度の粉末とした後、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対して、ラクトースを、通常、5乃至20質量部、より好適には、10乃至20質量部の割合で均一に混合し、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質含有量が、無水物換算で、合計で5質量%以下であるラクトスクロース結晶高含有粉末を得、必要に応じて、ラクトスクロース及びラクトースが融解しない温度で、例えば、加熱乾燥方法、減圧乾燥方法、脱水剤などを用いる公知の一種又は二種以上の乾燥方法を適宜組み合わせて、乾燥し、必要に応じて、公知の加湿方法により加湿し、ラクトスクロース結晶高含有粉末の結晶化度が約60%以上、好適には、約60乃至約70%の範囲、及び水分含量が16質量%以下、好適には、13乃至16質量%の範囲となるように調整する。混合するに際しては、混合、混和、混捏、振盪など公知の一種又は二種以上の方法を適宜組み合わせて用いることができる。混合時の温度は、ラクトスクロース及びラクトースが融解しない温度であればよく、通常、室温環境下で行うか、必要に応じて、冷却下で行う。なお、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末中に含まれるラクトスクロース及びラクトースは、それらが均一に分散され、流動性を有しておればよく、これら糖質の粒度に特段の制限はない。斯くして、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、79質量%以上、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、5質量%以下含み、水分含量が16質量%以下、及び結晶化度が約60%以上であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対し、ラクトース5乃至20質量部である固結が抑制された本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を得ることができる。
【0018】
また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末の第二の製造方法としては、
原料として、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質含有量が、無水物換算で、合計で5質量%未満である、ラクトスクロースとラクトースを準備し、これら糖質を水などの適宜溶媒に溶解した溶液から、ラクトスクロースとともにラクトースを結晶化させてラクトスクロース結晶高含有粉末を製造する方法を例示できる。前記溶液としては、ラクトスクロースとともにラクトースを含むラクトスクロース含有溶液であって、当該溶液からラクトスクロース及びラクトースの結晶が析出する溶液であればよく、その調製方法は問わない。斯かる溶液としては、例えば、ラクトスクロース及びラクトースを水に溶解して、通常、固形分当たり、ラクトスクロースを80質量%以上、好適には、85質量%以上、より好適には、90質量%以上含有し、ラクトースを20質量%以下、好適には、5乃至20質量%、より好適には、10乃至20質量%、ラクトスクロース及びラクトース以外の他の糖質含有量が合計で5質量%以下のものを例示でき、水溶液の水分含量は、通常、約5質量%以上、好ましくは、約15乃至約40質量%とする。次いで、当該水溶液が凍結せず、上記糖質の結晶の融点を下回る温度であって、それら糖質の褐変、分解が実質的に起こらない温度、例えば、約4乃至約100℃、好適には、約10乃至約80℃、より好適には、約20乃至約60℃、更に好適には、約20乃至約30℃の温度範囲で、通常、ラクトスクロース及びラクトースの種晶の存在下、ゆっくり攪拌しつつ、徐冷して、ラクトスクロース結晶とともにラクトース結晶の晶出を促進させてマスキットとする。晶出させるに際しては、水溶液の過飽和度、粘度などを調整するために、例えば、メタノール、エタノール、及びアセトンなどの溶媒から選ばれる1種又は2種以上を共存させることも随意である。このマスキットに、公知の分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法、加熱乾燥方法、減圧乾燥方法、脱水剤を用いる乾燥方法、更には、必要に応じて公知の加湿方法の1種又は2種以上を適宜組み合わせて適用し、得られるラクトスクロース結晶高含有粉末の結晶化度が約60%以上、好適には、約60乃至約70%、水分含量が16質量%以下、好適には、約13乃至16質量%の範囲となるように調整する。斯くして、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、79質量%以上、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、5質量%以下含み、水分含量が16質量%以下、及び結晶化度が約60%以上であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対し、ラクトース5乃至20質量部である固結が抑制された本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を得ることができる。
【0019】
マスキットからラクトスクロース結晶高含有粉末を得る上記方法の内、分蜜方法は、通常、マスキットをバスケット型遠心分離機にかけ、ラクトスクロースとともにラクトースの結晶と蜜とを分離する方法であって、必要により、これら糖質の純度を高めるために、前記結晶に少量の冷水をスプレーして洗浄することも随意である。
【0020】
噴霧乾燥方法は、通常、晶出率約20乃至50%のマスキットを高圧ポンプでノズルから噴霧し、ラクトスクロース結晶高含有粉末が溶融しない温度、例えば、約40乃至約65℃の温風で乾燥し、次いで、温風で乾燥熟成して、この発明のラクトスクロース結晶高含有粉末粉末を得る方法である。
【0021】
ブロック粉砕法は、通常、晶出率約10乃至約60%のマスキットを約0.5乃至約5日間静置して全体をブロック状に晶出固化させ、これを粉砕又は切削などの方法によって破砕し、乾燥熟成して、この発明のラクトスクロース結晶高含有粉末粉末を得る方法である。
【0022】
斯くして得られる本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、ラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶、又はラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶とともに、非晶質ラクトスクロース及び/又は非晶質ラクトースを均一ないしは略均一に含んでいる粉末であって、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、79質量%以上、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、5質量%以下含み、水分含量が16質量%以下、及び結晶化度が約60%以上であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対し、ラクトース5乃至20質量部である固結が抑制されたラクトスクロース結晶高含有粉末である。ラクトスクロースに対するラクトースの配合量が前記比率を上回るものは、ラクトスクロース結晶高含有粉末におけるラクトスクロース含有比率が低下することから好ましくなく、一方、ラクトスクロースに対するラクトースの配合量が前記比率を下回るものは、ラクトースによるラクトスクロース結晶高含有粉末の固結抑制作用が充分に発揮されないことから好ましくない。また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末において、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、5質量%以下と規定する理由は、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質、例えば、グルコース、スクロース、マルトースなどの糖質が共存すると、ラクトスクロース結晶高含有粉末、殊に、ラクトスクロース5含水結晶の吸湿が促進され、固結を招来し、その結果、流動性、取扱性、及び保存安定性が低下ないしは著しく損なわれる場合があるからである。
【0023】
本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末に含まれるラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質の含有量は、既述したとおり、通常、無水物換算で、合計で、5質量%以下であるものが望ましく、本発明において原料として用いるラクトスクロース及びラクトースとしては、ラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶からなるものが本発明の所期の目的を達成する上で最適である。また、前記ラクトスクロース5含水結晶及び/又はラクトース1含水結晶は、本発明の所期の目的を逸脱しない範囲であれば、非晶質のラクトスクロース及び/又はラクトースを含むものもであってもよい。
【0024】
本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末の結晶化度に関し、その結晶化度が約60%を下回るものは、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末が奏する所期の作用効果が十分に発揮されないことから好ましくない。また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末の結晶化度は高いものほど望ましいけれども、当該ラクトスクロース結晶高含有粉末の製造のし易さ、製造コストなどの観点から、その結晶化度は、通常、約60%以上、好適には、約60乃至約70%の範囲とするのが望ましい。結晶化度の測定は、公知のX線回折装置を用いて測定すればよく、例えば、X線回折装置『ガイガーフレックスRDA−IIB(Cu、Kα線使用)』(理化学電気(株)製)を用いて、粉末X線回折図形に基づくルーランド(Ruland)の方法(『アクタ クリスタログラフィカ』(Acta Crystallographica)、第14巻、1180頁、1961年)により求めることができる。また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末の水分含量に関し、その水分含量が16質量%を上回ると、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末が奏する所期の作用効果が不十分となることから好ましくない。一方、水分含量は低いものほど好ましいけれども、当該ラクトスクロース結晶高含有粉末の製造のし易さ、製造コストなどの観点から、通常、約13乃至16質量%の範囲とするのが望ましい。
【0025】
以下、実験及び実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。
【0026】
<実験1>
<ラクトスクロース結晶に対する固結防止作用を有する糖質のスクリーニング>
ラクトスクロース結晶に対する固結防止作用を有する糖質をスクリーニングする目的で以下の試験を行った。即ち、表1に示す配合組成となるように、後述する実施例1で得たラクトスクロース5含水結晶(純度98.8質量%、水分含量15.1質量%、結晶化度66.5%)を、無水物換算で、ラクトスクロース8.0g相当量を秤量し、容器にとり、これにラクトース1含水結晶(純度99.9質量%、水分含量5.4質量%、結晶化度80.5%、和光純薬工業株式会社販売)、α,α−トレハロース2含水結晶(純度99.1質量%、水分含量9.9質量%、結晶化度77.5%、株式会社林原商事販売)、スクロース無水結晶(純度99.9質量%、水分含量0.1質量%未満、結晶化度84.0%、大日本明治製糖株式会社製)、マルチトール無水結晶(純度99.6質量%、水分含量0.1質量%、結晶化度83.0%、東和化成工業株式会社製)、グルコース1含水結晶(純度99.9質量%、水分含量0.1質量%、結晶化度84.0%、和光純薬工業株式会社販売)、又はβ−マルトース1含水結晶(純度99.5質量%、水分含量5.4質量%、結晶化度78.5%、株式会社林原生物化学研究所製)を、無水物換算で、各糖質2.0g相当量を添加し、均一に混合し、各被験試料をそれぞれチャック付きポリエチレン製袋(商品名『セイニチグリップス ユニパック A−4』、70×50×0.04mm、株式会社生産日本社製)に入れ、チャックを閉じて、40℃、相対湿度75%の恒温恒湿器(商品名『クライマティックシリーズ CSH−210』、タバイエスペック株式会社製)内に12時間静置し、その後、各被験試料を恒温恒湿器から取り出して室温に戻して固結の有無と各被験試料の流動性の程度を肉眼観察するとともに、各被験試料の取扱性・保存安定性を下記A乃至Cの方法により評価した。
【0027】
A.固結の有無は、各被験試料を収容したポリエチレン製袋のチャックを開け、その開口部から内容物をガラス製シャーレに移し取るとき、肉眼観察により、一部又は全体が固結しているものを固結「有り」と評価し、試料中に固結が認められないものを固結「無し」と評価した。
B.流動性は、各被験試料を収容したポリエチレン製袋のチャックを開け、ポリエチレン製袋を傾斜させ、チャック開口部から内容物をガラス製シャーレに移し取るとき、粉体としての内容物の流れ易さの程度に基づいて、「極めて良好」、「ほぼ消失」、及び「消失」とする3段階で評価した。
C.取扱性・保存安定性は、各被験試料を収容したポリエチレン製袋のチャックを開け、ポリエチレン製袋を傾斜させて内容物をガラス製シャーレへ移し取るとき、粉体としての内容物の取り出し易さ、及び取り出した内容物を薬匙を用いて分取する際の取り扱い易さの程度、及び各被験試料の固結の有無、流動性についての評価結果を総合的に評価し、内容物が取り出し易く、取り出した内容物の分取がし易く、固結が無く、流動性が極めて良好であるものを「極めて良好」;内容物が比較的取り出し易く、取り出した内容物が比較的分取し易く、固結が無く、流動性が比較的良好であるものを「良好」;及び内容物が取り出し難く、取り出した内容物の分取がし難く、固結があり、流動性が不良であるものを「不良」とする3段階で評価した。
【0028】
なお、対照としては、後述する実施例1で得たラクトスクロース5含水結晶(純度98.8質量%、水分含量15.1質量%、結晶化度66.5%)だけを、無水物換算で、ラクトスクロース8.0g相当量を用いた以外は、上記被験試料と同様にして行った。
【0029】
【表1】

【0030】
その結果、ラクトスクロース5含水結晶のみからなる対照のラクトスクロース結晶は、固結が認められなかったものの、流動性は消失し、取扱性・保存安定性も不良であり、粉末としての特性はもはや損なわれていた。これに対し、ラクトース1含水結晶又はα,α−トレハロース2含水結晶を共存させたラクトスクロース結晶は、固結が認められず、対照のラクトスクロース結晶と比べ、流動性、取扱性・保存安定性のいずれの点においても顕著に優れていた。なお、これらの作用効果の程度は、ラクトース1含水結晶を共存させた場合の方が、α,α−トレハロース2含水結晶を共存させた場合と比べ有意に優れていた。これに対し、スクロース無水結晶、β−マルトース1含水結晶、マルチトール無水結晶又はグルコース1含水結晶を共存させた被験試料においては、ラクトスクロース結晶に対する固結防止作用が認めらず、逆に固結が促進される傾向が認められたとともに、流動性、取扱性・保存安定性のいずれも対照と比べ明らかに劣っていた。
【0031】
これらの結果から、各種糖質の内、ラクトース1含水結晶を共存させると、比較的高温度、高湿度の苛酷な環境下で比較的長時間保存した場合でも、ラクトスクロース結晶の固結が顕著に抑制され、しかも、流動性、取扱性・保存安定性のいずれもが安定に保持されることが判明した。また、ラクトース1含水結晶には及ばないものの、α,α−トレハロース2含水結晶にもラクトスクロース結晶に対する固結抑制作用があることが判明した。
【0032】
<実験2>
<保存安定性試験>
実験1において、ラクトスクロース結晶に対する固結抑制作用、及びラクトスクロース結晶の流動性、取扱性・保存安定性を保持する作用を認めたラクトース1含水結晶及びα,α−トレハロース2含水結晶につき、これら糖質結晶によるラクトスクロース結晶に対する固結抑制作用、及び流動性、取扱性・保存安定性に及ぼす影響についてより詳細に調べた。
【0033】
即ち、表2に示す配合組成となるように、後述する実施例1で得たラクトスクロース5含水結晶(純度98.8質量%、水分含量15.1質量%、結晶化度66.5%)を、無水物換算で、ラクトスクロース9.9g、9.8g、9.5g、9.0g又は8.0g相当量を秤量し容器にとり、これにα,α−トレハロース2含水結晶(純度99.1質量%、水分含量9.9質量%、結晶化度77.5%
株式会社林原商事販売)又はラクトース1含水結晶(純度99.9質量%、水分含量5.4質量%、結晶化度80.5%、和光純薬工業株式会社販売)を、無水物換算で、各糖質0.1g、0.2g、0.5g、1.0g又は2.0g相当量をそれぞれ秤量し、添加して全量を10.0gとし、均一に混合して被験試料を調製した。これら各被験試料の一部を採取し、それぞれ、常法にしたがって、無水物換算でのラクトスクロースとラクトースの合計含量、水分含量、及び結晶化度を測定したところ、それらの測定項目の数値は、それぞれ、80質量%以上、16質量%以下、及び約60%以上であった。なお、各被験試料におけるラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質の総含有量は、無水物換算で、5質量%未満であった。次いで、各被験試料をそれぞれ、チャック付きポリエチレン製袋(商品名『セイニチグリップス ユニパック A−4』、70×50×0.04mm、株式会社生産日本社製)に入れ、チャックを閉じて、40℃、相対湿度75%の恒温恒湿器(商品名『クライマティックシリーズ CSH−210』、タバイエスペック株式会社製)内に静置し、69日間に亙る放置試験に供した。放置試験中、試験を開始してから1日後、6日後及び69日後に、内容物の固結の有無を調べるために、ポリエチレン製袋内に収容された各被験試料を肉眼観察するとともに、これら試料の流動性、取扱性・保存安定性について評価した。表2中、「固結性」、「流動性」、及び「取扱性・保存安定性」の評価は、下記A乃至Cの方法により評価した。
【0034】
A.固結の有無は、各被験試料を収容したポリエチレン製袋のチャックを開け、その開口部から内容物をガラス製シャーレに移し取るとき、肉眼観察により、固結が認められないものを「良好:○」、一部固結しているものを「ほぼ良好:△」、及び全体が固結しているものを「不良:×」とする3段階で評価した。
B.流動性は、各被験試料を収容したポリエチレン製袋のチャックを開け、ポリエチレン製袋を傾斜させて内容物をガラス製シャーレに移し取るとき、粉体としての内容物の流れ易さの程度に基づいて、「極めて良好:○」、「ほぼ消失:△」、及び「消失:×」とする3段階で評価した。
C.取扱性・保存安定性は、各被験試料を収容したポリエチレン製袋のチャックを開け、ポリエチレン製袋を傾斜させて内容物をガラス製シャーレへ移し取るとき、粉体としての内容物の取り出し易さ、及び取り出した内容物を薬匙を用いて分取する際の取り扱い易さの程度、及び各被験試料の固結の有無、流動性についての評価結果を総合的に評価し、内容物が取り出し易く、取り出した内容物の分取がし易く、固結が無く、流動性が極めて良好であるものを「極めて良好:○」;内容物が比較的取り出し易く、取り出した内容物の分取が比較的し易く、固結が無く、流動性が比較的良好であるものを「良好:△」;及び内容物が取り出し難く、取り出した内容物の分取がし難く、固結があり、流動性が不良であるものを「不良:×」とする3段階で評価した。
【0035】
なお、対照としては、ラクトスクロース5含水結晶(純度98.8質量%、水分含量15.1質量%、結晶化度66.5%)のみを、無水物換算で、ラクトスクロース10.0g相当量を用いた以外は、前記各被験試料と同様にして放置試験を行った。
【0036】
【表2】

【0037】
その結果、ラクトース1含水結晶及びα,α−トレハロース2含水結晶のいずれも含まない対照の試料No.1においては、放置試験を開始してから1日後に既に固結が始まり、6日後には全体が固結したのに対し、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至99質量部に対し、ラクトース1乃至20質量部含む試料No.2乃至6、及び、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至90質量部に対し、α,α−トレハロース10乃至20質量部含む試料No.9、10においては、ラクトスクロースに対するラクトース又はα,α−トレハロースの配合比率が高まるにつれ、ラクトスクロース結晶の固結が顕著に抑制され、流動性、取扱性・保存安定性のいずれも極めて良好に保持されていた。
【0038】
より詳細には、放置試験を開始してから6日後において、対照の試料No.1及び試料No.2、3、7及び8においては、固結が著しく進行し、試料全体が湿り気を帯び、流動性は失われ、ラクトスクロース結晶高含有粉末品としての品質が著しく損なわれていた。これに対し、試料No.4においては、全体的に若干、湿り気を帯びていたものの固結は認められず、流動性、取扱性・保存安定性のいずれもほぼ良好に保持されていた。また、試料No.5、6においては、固結は全く認められず、流動性、取扱性・保存安定性のいずれも極めて良好に保持されていた。一方、放置試験を開始してから6日後において、試料No.7、8においては、固結が進行し、流動性を失い、失っていたが、試料No.10においては、固結は認められず、流動性、取扱性・保存安定性のいずれも極めて良好に保持されていた。
【0039】
更に、放置試験を開始してから69日後においては、試料No.1乃至3及び試料No.7乃至10は全て液状化していた。一方、試料No.4においては、若干、吸湿して流動性の低下を認め、一部固結していたものの、ラクトスクロース結晶高含有粉粉末としての特性は、ほぼ良好に保持されていた。試料No.5、6においては、固結は全く認められず、流動性、取扱性・保存安定性のいずれも極めて良好に保持されていた。
【0040】
このように、試料No.4乃至6においては、高温度、高湿度の苛酷な条件下においても、固結が効果的に抑制され、流動性、取扱性・保存安定性が良好に保持されていた。なお、具体的なデータは示さないが、実験2で用いたと同じラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶とともに、非晶質ラクトスクロース、非晶質ラクトース、及びラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質として、スクロース無水結晶及び/又はグルコース1含水結晶を各種配合割合で混合し、適宜乾燥及び/又は加湿して、各種ラクトスクロース結晶高含有粉末を調製し、実験2と同様にして放置試験に供したところ、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、79質量%以上、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、合計5質量%以下含み、水分含量が16質量%以下、及び結晶化度が約60%以上であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対し、ラクトース5乃至20質量部であるラクトスクロース結晶高含有粉末は、実験2における試料No.4乃至6と同様、高温度、高湿度の苛酷な条件下においても、固結が効果的に抑制され、流動性、取扱性・保存安定性が良好なラクトスクロース結晶高含有粉末であった。
【0041】
このように、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、79質量%以上、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、合計5質量%以下含み、水分含量が16質量%以下、及び結晶化度が約60%以上であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対し、ラクトース5乃至20質量部である固結が抑制されたラクトスクロース結晶高含有粉末は、高温度、高湿度の苛酷な条件下においても、固結が効果的に抑制され、流動性、取扱性、保存安定性が良好に保持されるラクトスクロース高含有粉末であることが判明した。
【0042】
以下、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末とその製造方法を実施例に基づいて詳細に説明する。しかしながら、本発明は、これら実施例に何等限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
<ラクトスクロース結晶高含有粉末>
ラクトスクロース含有粉末[商品名『乳果オリゴ90P』(「乳果オリゴ」は、登録商標)、ラクトスクロース純度88.0〜93.0質量%、株式会社林原商事販売〕を固形分濃度72.5質量%となるように、攪拌しつつ、水に約70℃で加熱溶解し、助晶缶にとり、種晶としてのラクトスクロース5含水結晶を0.1質量%添加し、ゆっくり攪拌しつつ24時間かけて約20℃まで徐冷し、マスキットを得、これをバスケット型遠心分離機で分蜜し、ラクトスクロース5含水結晶を収率約45%で得た。次いで、これを少量の冷水で水洗し、結晶を回収し、乾燥して、純度98.8質量%、水分含量15.1質量%、結晶化度66.5%のラクトスクロース5含水結晶を得た。本品に含まれるラクトース、スクロース、グルコースなどのラクトスクロース以外の他の糖質の総含有量は、無水物換算で、1質量%未満であった。
【0044】
前記ラクトスクロース5含水結晶を、無水物換算で、ラクトスクロース85質量部相当量と、ラクトース1含水結晶(純度99.9質量%、水分含量5.4質量%、結晶化度80.5%、和光純薬工業株式会社販売)を、無水物換算で、ラクトース15質量部相当量を混合機にとり、室温で均一に攪拌混合して、固形分含量が86.2質量%、水分含量が13.8質量%、結晶化度が67.7%であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースを無水物換算で84質量%、ラクトースを無水物換算で15質量%、及びスクロース、グルコース、マルトースなどのラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、合計1質量%含む本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を得た。
【0045】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れたラクトスクロース結晶高含有粉末である。
【実施例2】
【0046】
<ラクトスクロース結晶高含有粉末>
実施例1で得たラクトスクロース5含水結晶を、無水物換算で、ラクトスクロースを90質量部相当量と、ラクトース1含水結晶(純度99.9質量%、水分含量5.4質量%、結晶化度80.5%、和光純薬工業株式会社販売)を、無水物換算で、ラクトース9質量部相当量とを混合機にとり、室温で均一に攪拌混合して、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、98質量%、スクロース、グルコース、マルトースなどのラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、合計1質量%含み、水分含量が14.3質量%、結晶化度が68.2%であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース89.1質量部に対し、ラクトース8.99質量部である本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を得た。
【0047】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れたラクトスクロース結晶高含有粉末である。
【実施例3】
【0048】
<ラクトスクロース結晶高含有粉末>
実施例1で得たラクトスクロース結晶高含有粉末2質量部と実施例2で得たラクトスクロース結晶高含有粉末1質量部とを均一に攪拌混合して、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末を得た。
【0049】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れたラクトスクロース含有粉末である。
【実施例4】
【0050】
<ラクトスクロース結晶高含有粉末>
実施例1で得たラクトスクロース5含水結晶を、無水物換算で、ラクトスクロース90質量部相当量と、ラクトース1含水結晶(純度99.9質量%、水分含量5.4%、結晶化度80.5%、和光純薬工業株式会社販売)を、無水物換算で、ラクトース10質量部相当量とを適量の精製水と混合し、固形分濃度約78%とし、約70℃で加熱溶解し、助晶缶にとり、種晶としてのラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶をそれぞれ0.1質量%添加し、ゆっくり攪拌しつつ24時間かけて約20℃まで徐冷し、マスキットを得、これをバスケット型遠心分離機で分蜜し、得られた結晶を少量の冷水で水洗し、回収し、乾燥させて、ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、85.0質量%、スクロース、グルコース、マルトースなどのラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、合計0.1質量%含み、水分含量が15.0質量%、結晶化度が63%であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース86.1質重部に対し、ラクトース13.5質量部である本発明のラクトスクロース結晶高含有糖質を得た。
【0051】
なお、前記ラクトスクロース結晶含有糖質をサンプリングし、X線回折装置『ガイガーフレックスRDA−IIB(Cu、Kα線使用)』(理化学電気(株)製)を用いて、粉末X線回折図形に基づくルーランド(Ruland)の方法(『アクタ クリスタログラフィカ』(Acta Crystallographica)、第14巻、1180頁、1961年)により粉末X線回折により分析したところ、図1に示すとおり、固形物当たり、ラクトスクロース約90質量%及びラクトース約10質量%含む混合溶液から晶出したラクトスクロース結晶含有粉末においては、ラクトスクロース5含水結晶及びラクトース1含水結晶固有の粉末X線回折図形がそれぞれ観察された。
【0052】
この結果から、本品は、ラクトスクロース5含水結晶とラクトース1含水結晶との混合結晶であることが確認された。
【実施例5】
【0053】
<甘味料>
実施例1の方法で得たラクトスクロース結晶高含有粉末1質量部に、α−グルコシルステビオシド(商品名『αG−スイート』、東洋精糖株式会社販売)0.05質量部を均一に混合し、顆粒成形機にかけて、顆粒状甘味料を得た。
【0054】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れた顆粒状甘味料である。また、本品は、甘味の質が優れ、砂糖の約2倍の甘味を有し、甘味度当たりのカロリーは、砂糖の約1/2である。本甘味料は、低カロリー甘味料として、カロリー摂取を制限している肥満者、糖尿病者などのための低カロリー飲食物などに対する甘味付けに好適である。また、本甘味料は、虫歯誘発菌による酸の生成が少なく、不溶性グルカンの生成も少ないことより、虫歯を抑制する飲食物などに対する甘味付けに好適である。さらに、本甘味料は腸内の菌叢を整える整腸剤としても好適で
ある。
【実施例6】
【0055】
<成形甘味料>
実施例2の方法で得たラクトスクロース結晶高含有粉末5質量部とα,α−トレハロース2含水結晶(純度99.1質量%、水分含量9.9質量%、結晶化度77.5%、株式会社林原商事販売)0.5質量部とを均一に混合し、甘味料を得た。本品は腸内の菌叢を整える整腸機能を有する成形甘味料として、コーヒー、紅茶などへの甘味付けに有効に利用できる。
【0056】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れた成形甘味料である。
【実施例7】
【0057】
<チョコレート>
カカオペースト40質量部、カカオバター10質量部、実施例1の方法で得たラクトスクロース結晶高含有粉末50質量部を混合してレファイナーに通して粒度を下げた後、コンチェに入れて50℃で2昼夜練り上げた。この間に、レシチン0.5質量部を加え充分に混和分散させた。次いで、温度調節機で31℃に調節し、バターの固まる直前に型に流し込み、振動機でアワ抜きを行い、10℃の冷却トンネルを20分間くぐらせて固化させた。これを型抜きして包装し製品を得た。
【0058】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても実質的に吸湿性がなく、安定であり、色、光沢共によく、内部組織も良好で、口中でなめらかに溶け、上品な甘味とまろやかな風味を有する。また、本品は整腸作用を有するチョコレートとしても好適である。
【実施例8】
【0059】
<チューインガム>
ガムベース3質量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに実施例3の方法で得たラクトスクロース結晶高含有粉末8質量部を加え、さらに適量の香料と着色料とを混合し、常法に従って、ロールにより練り合わせ、成形、包装して製品を得た。
【0060】
本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても実質的に吸湿性がなく安定であり、テクスチャー、風味とも良好なチューインガムである。また、本品は、整腸作用を有するチューインガムとしても好適である。
【実施例9】
【0061】
<飲料>
ヨーグルト100質量部、実施例1の方法で得たラクトスクロース結晶高含有粉末50質量部、ヨーグルトフレーバー0.25質量部及びレモンエッセンス0.1質量部に水を加えて全体を1,000質量部とし、常法に従って、ヨーグルト飲料を製造した。
【0062】
本品は、風味が豊かで、腸内の菌叢を整える整腸機能を有している。
【実施例10】
【0063】
<経管栄養剤>
実施例1で得たラクトスクロース結晶高含有粉末20質量部、グリシン1.1質量部、グルタミン酸ナトリウム1質量部、乳酸カルシウム0.4質量部、炭酸マグネシウム0.1質量部、チアミン0.01質量部及びリボフラビン0.01質量部からなる配合物を調製した。この配合物24gずつをラミネートアルミ製小包に充填し、ヒートシールして経管栄養剤を得た。
【0064】
本品は、1袋分を約33乃至500mlの水に溶解して栄養補給液とし、経管方法により、鼻腔、胃腸などへ投与して使用する。本品は腸内菌叢を整える整腸作用を有しており、ヒトのみならず、家畜などへの非経口的栄養補給液としても有利に利用できる。また、本品は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても実質的に吸湿性がなく安定である。
【実施例11】
【0065】
<糖衣錠>
質量150mgの素錠を芯剤とし、これに実施例2で得たラクトスクロース結晶高含有粉末45質量部、プルラン(平均分子量約20万)2質量部、水30質量部、タルク25質量部及び酸化チタン3質量部からなる下掛け液を用いて錠剤質量が約230mgになるまで糖衣し、次いで、実施例1で得たラクトスクロース結晶高含有粉末65質量部、プルラン1質量部、及び水34質量部からなる上掛け液を用いて糖衣し、さらに、ロウ液で艶出しして光沢のある外観の優れた糖衣錠を得た。
【0066】
本品は、糖衣掛け時の作業性が優れているだけでなく、耐衝撃性にも優れており、腸内の菌叢を整える整腸機能を有している。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上述べたとおり、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、比較的高温度、高湿度の条件下で比較的長期間保存しても固結し難く、流動性、取扱性、保存安定性に優れたラクトスクロース結晶高含有粉末であることから、従来、ラクトスクロース含有粉末、殊に、ラクトスクロース結晶高含有粉末がその固結性のために適用することができないか、適用しても不都合を生じていた各種飲食品、化粧品、医薬品、飼料、餌料などの分野に好適に用いることができる。
【0068】
また、本発明のラクトスクロース結晶高含有粉末は、ラクトスクロースが本来有する難消化性、ビフィズス菌増殖促進性、難う蝕性、保湿性などの優れた機能を発揮するものであることから、従来、ラクトスクロースが用いられていた各種用途にも好適に用いることができる。
【0069】
本発明は、斯くも顕著な作用効果を奏する発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトスクロースとラクトースとを、無水物換算で、79質量%以上、ラクトスクロースとラクトース以外の他の糖質を、無水物換算で、合計5質量%以下含み、水分含量が16質量%以下、及び結晶化度が約60%以上であるラクトスクロース結晶高含有粉末であって、ラクトスクロースとラクトースの配合割合が、無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部に対し、ラクトース5乃至20質量部であることを特徴とする固結が抑制されたラクトスクロース結晶高含有粉末。
【請求項2】
水分含量が13乃至16質量%であることを特徴とする請求項1に記載のラクトスクロース結晶高含有粉末。
【請求項3】
無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部相当量のラクトスクロース5含水結晶と、無水物換算で、ラクトース5乃至20質量部相当量のラクトース1含水結晶とを均一に混合する工程を経由することを特徴とする、請求項1又は2に記載のラクトスクロース結晶高含有粉末の製造方法。
【請求項4】
ラクトスクロース及びラクトースを含んでなる溶液に、ラクトスクロース及びラクトースの種晶を添加し、ラクトスクロースとともにラクトースを晶出させる工程を経由することを特徴とする、請求項1又は2に記載のラクトスクロース結晶高含有粉末の製造方法。
【請求項5】
無水物換算で、ラクトスクロース80乃至95質量部相当量のラクトスクロース5含水結晶と、無水物換算で、ラクトース5乃至20質量部相当量のラクトース1含水結晶とを共存させることを特徴とするラクトスクロース5含水結晶の固結抑制方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載のラクトスクロース結晶高含有粉末を含んでなる飲食物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のラクトスクロース結晶高含有粉末を含んでなる化粧品。
【請求項8】
請求項1又は2に記載のラクトスクロース結晶高含有粉末を含んでなる医薬品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−260807(P2010−260807A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111900(P2009−111900)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】