説明

土からなる斜面の構造及び水分飽和度判定方法

【課題】 土からなる斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを、容易、かつ、客観的に判定可能とする。
【解決手段】 水分飽和度を計測するための計測層3を設ける。これにより、計測層3を構成する計測用土についてのキャリブレーションのみを事前に確認しておけば十分であるので、判定時に、その判定対象となる土壌についてのキャリブレーションと計測電圧とを照らし合わせて判定する必要がなく、少ない労力にて誤判定を誘発することなく、客観的な判定をすることができる。したがって、作業者の経験値によらず、迅速かつ正確に、降雨時盛土健全度を判定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土からなる斜面の構造、及び当該斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを判定するための水分飽和度判定方法に関するものである。
ここで、「土からなる斜面」とは、盛土や切土における水平面に対して、垂直以外の角度をもって設定された平滑な表面のことをいう。因みに、盛土(築堤)とは、低い地盤や斜面に土砂を盛り上げて高くし、周囲より高くする区間をいい、切土(切取)とは、高い地盤・斜面を切り取って低くし、周囲より低くする区間をいう。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に記載の発明では、土壌水分計にて水分飽和度を計測する位置を3箇所とし、それらの深度を20cm、40cm及び80cmとし、かつ、間隙水圧計の設置深度を1mとする旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−183340公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の発明は、土壌水分計の計測地点を標準化しているのみであるので、土からなる斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを適切に判定することが難しい。
【0005】
すなわち、例えば、誘電率から水分を求める方式の土壌水分計は、土に含まれる水分に応じて発生する電圧を計測することにより水分飽和度を検出するものであるが、計測電圧と水分飽和度との関係(キャリブレーション)は、計測対象となる土質によって異なる関係となるので、土壌水分計の計測電圧のみに基づいて、斜面の表層が予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを判定することはできない。
【0006】
このため、計測対象となる土毎に予めキャリブレーションを調査した上で、計測対象となる土毎のキャリブレーションと計測電圧とから水分飽和度を確定した後、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを判定する必要がある。
【0007】
しかし、計測対象となる全ての土について予めキャリブレーションを調査することは、非常に多くの労力を要し、かつ、判定時に、その判定対象となる土壌についてのキャリブレーションと計測電圧とを照らし合わせて判定する必要があるので、誤判定を誘発するおそれが高い。
【0008】
なお、土からなる斜面の表層が、水分が多くなることにより耐力が弱まっていく過程の中で、健全であるか否かの判定は、多くの場合、作業員が外観を目視にて確認することで行われるため、健全度を客観的に判定することが困難である。さらに、健全度を判定する者の経験値にも大きく依存する、という問題もあった。
【0009】
本発明は、上記点に鑑み、土からなる斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを、容易、かつ、客観的に判定可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明では、土からなる斜面の構造であって、表面から所定深さの部位には、土壌水分計にて水分飽和度を計測するための計測用土からなる計測層が設けられていることを特徴とする。
【0011】
これにより、請求項1に記載の発明では、計測層を構成する計測用土についてのキャリブレーションのみを事前に確認しておけば十分であるので、客観的な判定を容易にすることができる。
【0012】
なお、計測用土は、請求項2に記載の発明のごとく、砂質土(例えば、土の粒度試験(JIS A 1204)によって得られた細粒分含有率が50%未満である土)とすることが望ましい。
【0013】
請求項3に記載の発明では、土からなる斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを判定するための水分飽和度判定方法であって、斜面の表面から所定深さの部位に、水分飽和度を計測する前に予め、土壌水分計にて水分飽和度を計測するための計測用土からなる計測層を設け、さらに、土壌水分計を用いて計測層の水分飽和度を計測したときに、土壌水分計による水分飽和度が予め設定された所定水分飽和度以上である場合に、斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったと判定することを特徴とする。
【0014】
これにより、請求項3に記載の発明も請求項1に記載の発明と同様に、計測層を構成する計測用土についてのキャリブレーションのみを事前に確認しておけば十分であるので、客観的な判定を容易にすることができる。
【0015】
なお、計測用土は、請求項4に記載の発明のごとく、砂質土とすることが望ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る斜面(本実施形態では盛土2)の断面図である。
【図2】土壌水分計5を用いた計測時の状態を示す図である。
【図3】計測電圧と水分飽和度との関係を示すグラフである。
【図4】計測用土が砂質土、周囲が粘性土である場合の、それぞれの飽和度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明に係る斜面の構造及び水分飽和度判定方法の実施形態を図面と共に説明する。
1.斜面の構造
例えば鉄道車両用のレール1が敷設された斜面(本実施形態では盛土2)は、通常、図1に示すように、レール1の長手方向と直交する鉛直方向断面形状が略台形状に構成されており、この盛土2は、例えば砂質地盤の上に砂質盛土を設けた構造となっている。
【0018】
そして、盛土2ののり面(傾斜した部位の面)2Aから所定深さの部位には、土壌水分計にて水分飽和度を計測するための計測用土からなる計測層3が設けられている。
なお、本実施形態では、計測層3は、のり面2Aから計測層3の上面までの深さHが約1m、計測層3の上面から下面までの厚みhが約30cm、かつ、計測用土の締固め度(突固めによる締固め試験(JIS A 1210)で得られる最大乾燥密度に対する現場の乾燥密度の割合)が約90%となるように設けられている。
【0019】
また、パイプ4は、のり面2Aから計測層3に至る縦穴4Aを構成するものであり、この縦穴4Aは、図2に示すように、計測層3の水分飽和度を計測する際に、土壌水分計5の電極部5Aを計測層3に差し込むために用いる。なお、水分飽和度の計測を行わないときには、パイプ4の上端側開口部は、キャップ(図示せず。)により閉塞されている。
【0020】
そして、パイプ4の外周面と砂質盛土との隙間から計測層3に直接的に雨水が浸入することを防止すべく、当該隙間には計測用土が充填されているとともに、その上端側は、砂質盛土にて整形された後、モルタル(コンクリート)にて固められている。
【0021】
2.水分飽和度判定方法
以下、土壌水分計5として、誘電率から水分を求める方式の土壌水分計を用いた場合を例に、盛土2の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを判定する方法を説明する。因みに、本実施形態では、予め規定されている水分飽和度として「80%」を想定している(例えば「国土交通省鉄道局監修、鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 土構造物,2007.1.」に示された「安全性の照査に用いる盛土の水分飽和度」等参照)。
【0022】
ところで、誘電率から水分を求める方式の土壌水分計5(以下、単に土壌水分計5という。)は、上述したように、計測電圧と水分飽和度との関係(キャリブレーション)は、図3に示すように、計測対象となる土の種類によって異なる関係となる。
【0023】
そこで、本実施形態では、計測層3を土壌水分計5で計測した際に、計測層3(硅砂6号)の水分飽和度が80%(計測電圧で0.5V)以上であるとき、水分飽和度の判定対象となる範囲の盛土の水分飽和度が80%以上となったとみなし、降雨時の土からなる斜面の必要な安全対策を検討する。
【0024】
つまり、本実施形態では、水分飽和度の判定対象となる範囲の盛土の水分飽和度を直接計測するのではなく、計測層3についての水分飽和度の計測値を、水分飽和度の判定対象となる範囲の盛土の代表水分飽和度とすることにより、水分飽和度の判定対象となる範囲の盛土の水分飽和度を間接的に計測するものである。
【0025】
3.本実施形態の特徴等
本実施形態では、水分飽和度を計測するための計測層3を設けているので、計測層3を構成する計測用土についてのキャリブレーションのみを事前に確認しておけば十分であるので、判定時に、その判定対象となる土についてのキャリブレーションと計測電圧とを照らし合わせて判定する必要がない。
【0026】
したがって、少ない労力にて誤判定を誘発することなく、客観的な判定をすることができるので、作業者の経験値によらず、迅速かつ正確に、降雨時斜面健全度を判定することができ得る。
【0027】
なお、判定対象となる範囲は上端部がモルタルで固められているため、判定対象範囲はのり面表面(上)からの水分の浸透はなく、その周囲(横)から水分が浸透していくこととなる。このため、判定対象範囲の飽和度とその周囲の飽和度とは基本的には同等であると言えるので、計測用土の土質は、原則として不問である。
【0028】
ところで、図4は、土からなる斜面の土質を粘性土とし、かつ、計測用土を砂質土とした場合において、土からなる斜面に水分を浸透させたときの計測用土及び周囲の土の経過時間と飽和度との関係を示す実験結果(グラフ)である。
【0029】
そして、図4から明らかなように、計測用土及び周囲の飽和度の経時変化は略同等であるものの、計測用土の方が周囲よりも飽和度の上昇が少し早いため、計測用土で飽和度を測定すれば、周囲の土で飽和を測定するよりも早く飽和を察知でき、安全である。
【0030】
また、仮に、周囲の土も計測用土も同種の砂質土の場合には、両者の飽和度の経時変化は、等しくなるので、周知の土が飽和した後に計測用土にて飽和を検出するといったことは発生せず、飽和の検出が遅れてしまうことはない。
【0031】
したがって、計測用土を砂質土とすれば、計測層3の周囲の飽和を、計測層3の周囲と同一のタイミング又はこれより早期のタイミングで検出することができる。以上のことから、周囲の土が何であろうと、計測用土は粘性土よりも砂質土の方が望ましいので、図3でキャリブレーションカーブが既知である硅砂6号を用いることが望ましい。
【0032】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、パイプ4にてのり面2Aと計測層3と縦穴4Aで連通させたが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば、計測層3に土壌水分計5の電極部5A差し込んだまま計測層3を土にて覆い、電極部5Aが盛土2に埋設された状態としてもよい。そして、レール1の長手方向または同一断面ののり面2Aの多数箇所に埋設された電極部5Aから出力信号を1箇所又は複数箇所にて集中的に監視してもよい。
【0033】
また、上述の実施形態では、土壌水分計5として、誘電率から水分を求める方式の土壌水分計を用いたが、本発明に係る土壌水分計5はこれに限定されるものではない。
また、上述の実施形態では、計測用土として硅砂6号を用いたが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
また、計測層3を設ける深度及び計測用土の締固め度等は、上述の実施形態に限定されるものではなく、計測対象となる盛土の状態等に応じて適宜設定すればよい。
上述の実施形態では、土砂を盛った盛土(傾斜面=勾配面=のり面)を対象にしたが、山を削った切り取り区間の傾斜面においても本発明を適用することが可能である。つまり、斜面の安定性(雨が降って、水分が溜まって、斜面が崩壊しないかどうか)の判定にも本発明を適用することができる。
【0035】
また、本発明は、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に合致するものであればよく、上述の実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
1…レール、2…盛土、2A…のり面、3…計測層、4…パイプ、4A…縦穴、
5…土壌水分計、5A…電極部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
土からなる斜面の構造であって、
表面から所定深さの部位には、土壌水分計にて水分飽和度を計測するための計測用土からなる計測層が設けられていることを特徴とする斜面の構造。
【請求項2】
前記計測用土は、砂質土であることを特徴とする請求項1に記載の斜面の構造。
【請求項3】
土からなる斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったか否かを判定するための水分飽和度判定方法であって、
前記道床の表面から所定深さの部位に、水分飽和度を計測する前に予め、土壌水分計にて水分飽和度を計測するための計測用土からなる計測層を設け、
さらに、前記土壌水分計を用いて前記計測層の水分飽和度を計測したときに、前記土壌水分計による水分飽和度が予め設定された所定水分飽和度以上である場合に、前記斜面の表層が、予め規定されている水分飽和度以上となったと判定することを特徴とする水分飽和度判定方法。
【請求項4】
前記計測用土は、砂質土であることを特徴とする請求項3に記載の水分飽和度判定方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−158953(P2012−158953A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20774(P2011−20774)
【出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(390021577)東海旅客鉄道株式会社 (413)
【Fターム(参考)】